説明

粉末状組成物および錠剤、ならびにγ−アミノ酪酸の褐変防止方法および褐変防止剤

【課題】γ−アミノ酪酸の保存中に起こる褐変を抑制した粉末状組成物を提供する。
【解決手段】γ−アミノ酪酸と、ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する、平均粒子径5〜500μmである粉末状組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状組成物およびこれを含有する錠剤、ならびにγ−アミノ酪酸の褐変防止方法および褐変防止剤に関する。より詳細には、γ−アミノ酪酸の褐変を防止し、長期の保存安定性に優れた粉末状組成物およびこれを含有する錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
γ−アミノ酪酸(GABA)は、非タンパク質構成アミノ酸の一種であり、自然界に広く存在している。生体内においてはグルタミン酸から生合成され、ヒトの脳内で神経伝達物質として働くことが知られている。また、γ−アミノ酪酸の経口摂取により、脳機能改善作用、血圧低下作用、リラックス作用等の生理作用を発揮することから、食品や医薬品に使用されている。
【0003】
一方、粉末化したγ−アミノ酪酸は、吸湿性が高い性質を有しており、保存安定性を向上するために、通常、賦形剤を添加している。上記のγ−アミノ酪酸の吸湿性を抑制するために添加される賦形剤としては、乳糖やデキストリン類が広く用いられている。しかしながら、これらを賦形剤として使用した場合、保存条件によっては、γ-アミノ酪酸のアミノ基と糖のカルボニル基がメイラード反応を起こし、粉末が褐変する場合があった。
【0004】
そこで、γ−アミノ酪酸含有粉末の褐変を防ぐための技術として、賦形剤として環状デキストリンおよび/または重合度3以上の糖を70%以上含有する還元澱粉分解物を賦形剤として使用することが知られている(特許文献1)。特許文献1には、上記賦形剤を使用することにより、保存安定性に優れ、高温下で保存した場合にも褐変が抑えられた、粉末状のγ−アミノ酪酸を高含有する組成物を提供できると記載されている。
【0005】
特許文献1の賦形剤を使用することにより、確かにγ−アミノ酪酸含有粉末の褐変を防止することができるが、賦形剤ではなく生理活性物質に同様の褐変防止効果があれば、γ−アミノ酪酸含有粉末を経口摂取した際に生理機能を高めたり、相乗効果が得られることが期待される。
【0006】
一方、ヒアルロン酸は、生体、特に皮下組織に存在するムコ多糖類であり、その高い保湿機能によりヒアルロン酸またはその塩として、化粧料の原料に広く利用されてきた。また、ヒアルロン酸またはその塩を経口摂取することによって、肌の保湿、弾力性、および柔軟性を改善する効果や(特許文献2)、便秘改善効果(特許文献3)、自己免疫疾患の緩和効果(特許文献4)等の生理効果を有することが知られている。しかしながら、γ−アミノ酪酸の褐変を防止する効果については一切知られていなかった。
【特許文献1】特開2008−150350号公報
【特許文献2】特開2002−356432号公報
【特許文献3】特開2000−060487号公報
【特許文献4】特開2008−266171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、γ−アミノ酪酸を含有する粉末状組成物の保存安定性が向上し、保存中に褐変し難い粉末状組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、γ−アミノ酪酸を含有する粉末状組成物の褐変防止について鋭意研究を重ねた結果、γ−アミノ酪酸とヒアルロン酸および/またはその塩を混合させるならば、意外にも、γ−アミノ酪酸を含有する粉末状組成物の褐変が防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)γ−アミノ酪酸を含有する粉末状組成物であって、ヒアルロン酸および/またはその塩を含有し、かつ、平均粒子径が5〜500μmである、粉末状組成物、
(2)ヒアルロン酸および/またはその塩の分子量が1〜200万である、(1)の粉末状組成物、
(3)(1)または(2)の粉末状組成物を含有する錠剤、
(4)(1)または(2)の粉末状組成物を含有するカプセル剤、
(5)γ−アミノ酪酸と、ヒアルロン酸および/またはその塩とを含有せしめ、粉末状組成物を作成することを特徴とする、γ−アミノ酪酸を含有する粉末状組成物の褐変防止方法、
(6)ヒアルロン酸および/またはその塩を含有することを特徴とする、γ−アミノ酪酸の褐変防止剤、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粉末状組成物は、ヒアルロン酸および/またはその塩を混合することで、γ−アミノ酪酸の褐変が防止できることから、γ−アミノ酪酸の品位を長期間良好に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
本発明の粉末状組成物は、γ−アミノ酪酸を含有することを特徴とする。
【0012】
γ−アミノ酪酸は、一般的にGABA(ギャバ)とも呼ばれ、自然界に広く分布している非タンパク質アミノ酸の1種を指す。食品の成分としても、茶、野菜類、穀類などに含まれている。
【0013】
本実施形態に係る粉末状組成物に用いられるγ−アミノ酪酸は、特に限定されるものではないが、野菜、果物、穀物などから抽出されたγ−アミノ酪酸、発酵法により生産されたγ−アミノ酪酸、有機合成から生産されたγ−アミノ酪酸を使用することができる。中でも、大量且つ安価にγ−アミノ酪酸を得ることができることから、乳酸菌による発酵法が好ましい。前記発酵法による製造方法としては、以下の方法が挙げられる。例えば、グルタミン酸ソ−ダ、ブドウ糖、パン酵母エキス等を含む培養液に、乳酸菌(ラクトバチルス ブレビス(IFO12005)、ラクトバチルス
ヒルガルディーK−3株(FERM P−18422)等の前培養液を添加し、20〜30℃で、1〜3日間培養し、この培養液を、加熱殺菌後、濾過して濾液を得る。上記濾過工程においては、ケイソウ土やセルロース、活性炭などの濾過助剤を用いても良い。なお、乳酸菌としてラクトバチルス ヒルガルディー
K−3株(FERM P−18422)を用いた場合、培養液に5%以上のグルタミン酸ソーダを含有せしめることにより、γ−アミノ酪酸の濃度を特に効果的に高めることができ、上記培養液中のγ−アミノ酪酸含量は約5質量%、固形分当りに換算するとγ−アミノ酪酸は約50%を占める。また、上記培養液のpHを4.5〜5.5とすることにより、乳酸菌の増殖が特に効果的に促進され、培養液中のγ−アミノ酪酸の含量を高めることができる。上記の濾液は、適宜減圧濃縮、真空濃縮等により濃縮し、またはそのまま、あるいは更に噴霧乾燥、凍結乾燥等により乾燥して、本発明の粉末状組成物に用いることができる。さらに、γ−アミノ酪酸の含有量をより高めるために、液体クロマトグラフィー等による精製を行うこともできる。
【0014】
本実施形態に係る粉末状組成物中または錠剤中のγ−アミノ酪酸の検出方法は特に限定されるものではないが、例えば、イオン交換カラムを用いて高速クロマトグラフィー(HPLC)で分離し、オルトフタルアルデヒド(OPA)によるポストカラムでの誘導体化後、蛍光検出器で検出定量する方法や、前記の高速クロマトグラフィーによる分離後、ニンヒドリンによるポストカラムでの誘導体化後、紫外可視検出器で検出定量する方法などが挙げられる。
【0015】
また、本発明の粉末状組成物は、ヒアルロン酸および/またはその塩を含有することを特徴とする。
【0016】
本発明における「ヒアルロン酸」とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。また、「ヒアルロン酸の塩」としては、特に限定されないが、食品または薬学上許容しうる塩であることが好ましく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0017】
本発明の粉末状組成物で使用するヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量は、好ましくは1〜200万、より好ましくは5〜160万、さらに好ましくは10〜120万である。ヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量が1万未満の場合、本発明の効果が得られ難く、好ましくない。一方、ヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量が200万超の場合は、食品に加工し難い場合がある。
【0018】
また、本発明で使用する精製ヒアルロン酸の平均分子量は下記の方法に求めた値として定義される。
【0019】
約0.05gの精製ヒアルロン酸を精密に量り、0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液に溶かし、正確に100mLとした溶液およびこの溶液8mL、12mL並びに16mLを正確に量り、それぞれに0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液を加えて正確に20mLとした溶液を試料溶液とする。この試料溶液および0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液につき、日本薬局方(第十四改正)一般試験法の粘度測定法(第1法 毛細管粘度測定法)により30.0±0.1℃で比粘度を測定し(式(1))、各濃度における還元粘度を算出する(式(2))。還元粘度を縦軸に、本品の換算した乾燥物に対する濃度(g/100mL)を横軸にとってグラフを描き、各点を結ぶ直線と縦軸との交点から極限粘度を求める。ここで求められた極限粘度をLaurentの式(式(3))に代入し、平均分子量を算出する(T.C.
Laurent, M. Ryan, A. Pietruszkiewicz,:B.B.A., 42, 476-485(1960))。

【0020】
ヒアルロン酸および/またはその塩は、動物等の天然物(例えば鶏冠、さい帯、皮膚、関節液などの生体組織など)から抽出されたものでもよく、または、微生物もしくは動物細胞を培養して得られたもの(例えばストレプトコッカス属の細菌等を用いた発酵法)、化学的もしくは酵素的に合成されたものなどいずれも使用することができる。
【0021】
本実施形態に係る粉末状組成物で使用するヒアルロン酸および/またはその塩は、市販品を使用することができるが、例えば、以下の製造法1および2に従って製造することもできる。
【0022】
1.1.製造法1(鶏冠からの抽出) 鶏冠に加熱処理を施す。加熱処理方法、加熱温度、時間は、鶏冠中の蛋白質が変性したり、酵素が失活したりする範囲内であれば、特に制限がなく、熱水による加熱法を採用する場合は、60〜100℃の熱水中に原料を浸漬するとよい。
【0023】
次に、加熱処理した鶏冠をペースト化し、塩酸、硫酸等の酸剤、または水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ剤を添加し酸処理またはアルカリ処理してヒアルロン酸を低分子化し、処理後のヒアルロン酸の平均分子量を調整する。調整方法としては、酸剤あるいはアルカリ剤の濃度、添加量および処理時間等を適宜組み合わせて、処理後のヒアルロン酸が所望の分子量となるようにすればよいが、アルカリ処理による方法がヒアルロン酸の分子量をコントロールし易く好ましい。
【0024】
次に、分子量を調整した原料に蛋白分解酵素を添加して、プロテアーゼ処理する。使用する蛋白分解酵素は、市販しているものであれば種類を問わず使用することができ、例えば、ペプシン、トリプシン、パパイン、プロメリン等が挙げられる。
【0025】
最後に、得られたプロテアーゼ処理物からヒアルロン酸を分取して、粗製のヒアルロン酸を得た後、このヒアルロン酸を精製することにより純度90%以上のヒアルロン酸が得られる。
【0026】
ここで、ヒアルロン酸の分取・精製は、常法に従って行うことができる。例えば、まず、プロテアーゼ処理した原料を濾過して固形物を除去して、粗製のヒアルロン酸を含有した濾液を得る。なお、濾過に先立ち、脱臭・脱色や一部の蛋白分解物を除去する目的で、プロテアーゼ処理物に活性炭を添加し処理してもよい。そして得られた濾液に食塩を溶解させた後、エタノールを添加してヒアルロン酸を沈殿させ、沈殿物を分取する。その後、この沈殿物にエタノール濃度約80〜95容量%の含水エタノールを添加し、ホモゲナイザーで洗浄し、沈殿物を分取する。この含水エタノールによる洗浄を2〜10回程度繰り返し、分取した沈殿物を乾燥することで、製造例1のヒアルロン酸を得ることができる。
【0027】
1.2.製造法2(微生物発酵法)
ヒアルロン酸産出ストレプトコッカス属の微生物(Streptococcus Zoopidemicus)の培養液に活性炭を添加して脱臭・脱色処理を行った後、濾過処理する。得られた濾液に食塩を溶解させた後、エタノールを添加してヒアルロン酸を沈殿させ、沈殿物を分取する。その後、この沈殿物にエタノール濃度約80〜95容量%の含水エタノールを添加し、ホモゲナイザーで洗浄し、沈殿物を分取する。この含水エタノールによる洗浄を2〜10回程度繰り返し、分取した沈殿物を乾燥することで、製造例2のヒアルロン酸を得ることができる。
【0028】
なお、本発明において使用するヒアルロン酸の純度は、食品で使用できるレベルであればよく、好ましくは90%以上であればよく、より好ましくは95%以上であればよい。この純度は乾物換算で100%よりヒアルロン酸以外の不純物を除いた値として定義される。ここで、不純物としては、蛋白分解物、脂肪分(粗脂肪)、コンドロイチン硫酸等が挙げられる。具体的に鶏冠を原料とするヒアルロン酸の純度は、以下式(4)で求めることができる。

【0029】
式4中、蛋白分解物(%)はLowry法により求めた値であり、粗脂肪(%)は新・食品分析法(光琳(株)発行)「第1章一般成分および関連成分、1−4脂質、1−4−2エーテル抽出法」により求めた値であり、また、コンドロイチン硫酸(%)は、以下に説明する方法により得た値である。
【0030】
まず、ヒアルロン酸を乾燥し、その50mgを精密に量り、精製水を加えて溶かし、正確に100mLとして試験溶液とし、その試験溶液4mLを試験管にとり、0.5mol/L濃度の硫酸1mLを加えて混和し、水浴中で10分間加熱し、その後冷却して得られた溶液に0.04mol/L濃度の臭化セチルトリメチルアンモニウムを0.2mL加えて混和し、室温で1時間放置し、層長10mm、波長660nmにおける吸光度を測定する。
【0031】
次に、得られた吸光度データをコンドロイチン硫酸の検量線に適用して精製ヒアルロン酸中のコンドロイチン硫酸量(%)を求める。ここで、その検量線は、クジラ軟骨由来のコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩(SG(Special Grade)、生化学工業株式会社製)を乾燥(減圧、五酸化リン、60℃、5時間)させたものを精密に量り、精製水を加えて溶かし、1mL中に10μg、20μg、30μg、40μgのコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含む溶液をそれぞれ調製し、それぞれの溶液4mlについて、0.5ml/L濃度の硫酸1mLを加えて混和した後、0.04mol/L濃度の臭化セチルトリメチルアンモニウムを0.2mL加えて混和し、室温で1時間放置した後、同様に吸光度を測定し、その吸光度を縦軸に、対応するコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩溶液(μg/mL)を横軸にプロットすることによって作成したものである。
【0032】
本発明の粉末状組成物の平均粒子径は、好ましくは5〜500μmである。粉末状組成物の平均粒子径が上記範囲以下の場合は、粉末状組成物に含まれるγ−アミノ酪酸が保存中に非常に褐変し易く、ヒアルロン酸および/またはその塩を添加することによる褐変防止効果が十分に働かない場合がある。また、粉末状組成物の平均粒子径が上記範囲以上に大きい場合は、粉末状組成物に含まれるγ−アミノ酪酸由来の褐変を起こし難いため、本発明の効果を利用する必要がない場合がある。なお、平均粒子径の測定方法は、一般的に知られたレーザー回折式測定法や、動的光散乱式測定法等を挙げることができる。
【0033】
本発明の粉末状組成物中において、γ−アミノ酪酸1部に対するヒアルロン酸および/またはその塩の含有割合は、0.01部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1部以上である。粉末状組成物の中にγ−アミノ酪酸と、ヒアルロン酸またはその塩とを上記比率で含むことにより、γ−アミノ酪酸の褐変を防ぐことができる。なお、γ−アミノ酪酸1部に対するヒアルロン酸および/またはその塩の含有割合が10部超の場合には、それ以上ヒアルロン酸および/またはその塩の含有量を増やしても、γ−アミノ酪酸の褐変防止効果に大きな影響がないため、経済的でない。
【0034】
本実施形態に係る錠剤とは、粉末状組成物である、γ−アミノ酪酸と、ヒアルロン酸および/またはその塩とを含有する、タブレット状の食品または医薬品をいう。本発明の粉末状組成物を使用することにより、保存中に褐変の起こり難い錠剤が得られる。
【0035】
本実施形態に係るカプセル剤とは、粉末状組成物である、γ−アミノ酪酸と、ヒアルロン酸および/またはその塩とを含有する、カプセル状の食品または医薬品をいう。本発明の粉末状組成物を使用することにより、保存中に褐変の起こり難いカプセル剤が得られる。
【0036】
本発明の粉末状組成物の製造方法は、γ−アミノ酪酸と、ヒアルロン酸および/またはその塩とを含む平均粒子径5〜500μmの粉末状組成物を得ることができる方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、γ−アミノ酪酸を含有する溶液と、ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する溶液とを混合し、噴霧乾燥、凍結乾燥等により乾燥処理を施した後、必要に応じて粉砕を行う方法や、γ−アミノ酪酸を含有する粉末と、ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する粉末とを粉体混合し、平均粒子径を5〜500μmの粉末状組成物を得る方法等が挙げられる。
【0037】
次に、本発明を実施例、比較例および試験例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
[調製例1]
グルタミン酸ソーダ100g/L、ブドウ糖2g/L、酵母エキス5g/L、グリセリン脂肪酸エステル0.5g/Lの各成分を含有する発酵原料(pH5.0)50Lを、90℃で10分間加熱殺菌した後、キムチ由来の乳酸菌(ラクトバチルス ヒルガルディーK−3株(FERM P−18422))培養液50mLを接種し、30℃で3日間培養した。この発酵液を90℃で10分間加熱殺菌した後、濾過助剤を加えてろ過し、ダイヤイオンSK1B(H型)(三菱化学株式会社製)のカラムに通し、γ−アミノ酪酸を吸着させ、水洗後0.5規定のアンモニア水で溶出して、γ−アミノ酪酸各分を集めた。集めた画分を濃縮し、pH6.2に調整後エタノールを加えて冷却下で保存することにより、純度98%以上のγ−アミノ酪酸結晶を得た。この結晶をパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社製)にて粉砕し、平均粒子径を130μmに調整した。なお、以降において、粉末の平均粒子径は、該粉末をエタノールに分散し、SALD−2000A(株式会社島津製作所製)を使用して測定した。
【0039】
[試験例1]
本試験例では、γ−アミノ酪酸とヒアルロン酸および/またはその塩とを含有する、本発明の粉末状組成物の褐変防止効果について、ヒアルロン酸および/またはその塩の有無による違いを調査した。なお、含有させたヒアルロン酸および/またはその塩、ならびにデキストリンは、平均粒子径が100〜200μmのものを用いた。
【0040】
表1に示す成分(粉末状組成物)を用意し、表1の割合(質量部)で粉体混合を行った。各配合例の粉末状組成物1.0gを取って秤量瓶に入れ、40℃、湿度75%の恒温恒湿器(東京理化器械株式会社製)に保存した。恒温恒湿器に入れる前と入れた後20分後、40分後、60分後の色調の変化を目視で確認した。その結果を表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
色調を目視で確認した結果、配合例4のデキストリンにおいては、褐変防止効果はほとんどみられなかった。これに対し、ヒアルロン酸および/またはその塩を含有した、配合例1〜3の粉末状組成物においては、褐変防止効果が確認された。以上より、ヒアルロン酸および/またはその塩には、γ−アミノ酪酸を含有する粉末状組成物の褐変防止効果に優れていることがわかる。
【0044】
[配合例5]
調製例1と同様の方法にて発酵を行い、イオン交換樹脂カラムに通液してγ−アミノ酪酸画分液を集めた。これに平均分子量20万のヒアルロン酸(製造法2により調製したもの)を2kg溶解した後、噴霧乾燥を行い、配合例5の粉末状組成物を得た。この粉末状組成物の平均粒子径は35μmであり、γ−アミノ酪酸に対するヒアルロン酸の含有量は0.8であった。
【0045】
[配合例6]
調製例1と同様の方法にて発酵を行い、イオン交換樹脂カラムに通液してγ−アミノ酪酸画分液を集めた。これに平均分子量8千のヒアルロン酸(製造法2により調製したもの)を2kg溶解した後、噴霧乾燥を行い、配合例6の粉末状組成物を得た。この粉末状組成物の平均粒子径は28μmであり、γ−アミノ酪酸に対するヒアルロン酸の含有量は0.8であった。
【0046】
[試験例2]
本試験例では、本発明のγ−アミノ酪酸とヒアルロン酸および/またはその塩とを含有する粉末状組成物の褐変防止効果について、ヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量による違いを調べるため、色差計による評価を行った。
【0047】
[配合例5]、[配合例6]の混合物0.7gを秤量瓶に入れ、40℃、湿度75%の恒温恒湿器(東京理化器械株式会社製)に保存した。恒温恒湿器に入れる前と入れた後60分後の色調の変化を色差計(測色色差計ZE2000、日本電色工業株式会社製)で確認した。色調を色差計で測定した結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
表3の結果より、色差計による測定の結果、配合例5では保存前後の色調の変化がほとんどみられていないことがわかる。一方、配合例6においては、保存前後の色調の変化が確認された。したがって、ヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量が1万以上のほうが、γ−アミノ酪酸の褐変防止効果により優れていることがわかる。
【0050】
[調製例2]
調製例1と同様の方法にて発酵を行い、純度98%以上のγ−アミノ酪酸結晶を得た。この結晶をパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社製)にて粒子径の調整を行いながら粉砕し、平均粒子径3μm、19μm、367μm、649μmの粉末状γ−アミノ酪酸を得た。
【0051】
[試験例3]
本試験例では、本発明のγ−アミノ酪酸とヒアルロン酸および/またはその塩とを含有する粉末状組成物の褐変防止効果について、粉末状組成物の平均粒子径による違いを調査した。なお、含有させたヒアルロン酸(平均分子量20万)は、平均粒子径が4〜707μmのものを用いた。
【0052】
表4に示す成分(粉末状組成物)を用意し、表4の割合で粉体混合を行った。各配合例の粉末状組成物1.0gを取って秤量瓶に入れ、40℃、湿度75%の恒温恒湿器(東京理化器械株式会社製)に保存した。恒温恒湿器に入れる前と入れた後20分後、40分後、60分後の色調の変化を目視で確認した。その結果を表6に示す。また、表5に示すように、参考例2〜5として、γ−アミノ酪酸粉末単独での保存を行い、同様に色調の変化を目視で確認した。その結果を表7に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
【表7】

【0057】
表6および表7の結果から、粉末状組成物の平均粒子径が5μm未満である配合例7および参考例2の場合、γ−アミノ酪酸の褐変度合いが非常に大きいため、ヒアルロン酸および/またはその塩の添加によっても、褐変の防止効果が不十分であることが分かる。一方、粉末状組成物の平均粒子径が5〜500μmである配合例8、9および参考例3、4においては、ヒアルロン酸および/またはその塩の添加によって効果的に保存中の褐変が防止されている。また、粉末状組成物の平均粒子径が500μm超である配合例10および参考例5の場合、保存中のγ−アミノ酪酸の褐変が起こりにくいことがわかる。
【0058】
[試験例4]
本試験例では、γ−アミノ酪酸とヒアルロン酸および/またはその塩とを含有する、本発明の粉末状組成物の褐変防止効果について、ヒアルロン酸および/またはその塩の含有量による違いを調査した。
【0059】
表8に示す成分(粉末状組成物)を用意し、表8の割合(質量部)で粉体混合を行った。各配合例の粉末状組成物1.0gを取って秤量瓶に入れ、40℃、湿度75%の恒温恒湿器(東京理化器械株式会社製)に保存した。恒温恒湿器に入れる前と入れた後20分後、40分後、60分後の色調の変化を目視で確認した。その結果を表9に示す。なお、含有させたヒアルロン酸ナトリウム(平均分子量3万)は、平均粒子径が182μmのものを用いた。
【0060】
【表8】

【0061】
【表9】

【0062】
表9の結果から、粉末状組成物中のγ−アミノ酪酸1部に対するヒアルロン酸および/またはその塩の含有量は、0.01部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1部以上であることがわかる。一方、γ−アミノ酪酸1部に対するヒアルロン酸の含有量が10部以上(配合例13、14)の場合、十分に褐変防止効果に優れており、含有量を増やしてもその効果に大きな変化がないことがわかる。
【0063】
[配合例15]
配合例5の粉末状組成物を使用して、以下の配合にて、一錠が250mgとなるように錠剤を製した。この錠剤を蓋付きガラス瓶に充填し、25℃(湿度60%)で保存したところ、1年間の保存中にも褐変はみられず、良好な品位を保っていた。
【0064】
<配合割合>
配合例5の粉末状組成物 15%
乳糖 50%
結晶セルロース 20%
コーンスターチ 10%
グリセリン脂肪酸エステル 5%
――――――――――――――――――――――――――
計 100%
【0065】
[配合例16]
配合例2の粉末状組成物を使用して、以下の配合にて、一錠が300mgとなるように、ゼラチンを被包剤として、ソフトカプセル充填機によりソフトカプセルを製した。このカプセル剤を蓋付きガラス瓶に充填し、25℃(湿度60%)で保存したところ、1年間の保存中にも褐変はみられず、良好な品位を保っていた。
【0066】
<配合割合>
配合例2の粉末状組成物 10%
ビタミンE 15%
大豆レシチン 7%
サフラワー油 55%
ビタミンC 8%
グリセリン脂肪酸エステル 2%
ミツロウ 3%
――――――――――――――――――――――――――
計 100%
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の粉末状組成物は、γ−アミノ酪酸の保存中の褐変が防止されることから、流通中や保存後にも品位の良好なγ−アミノ酪酸含有粉末状組成物を提供できる。また、本発明の粉末状組成物を、食品や医薬品に配合して使用することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−アミノ酪酸を含有する粉末状組成物であって、ヒアルロン酸および/またはその塩を含有し、かつ、平均粒子径が5〜500μmである、粉末状組成物。
【請求項2】
ヒアルロン酸および/またはその塩の分子量が1〜200万である、請求項1記載の粉末状組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の粉末状組成物を含有する錠剤。
【請求項4】
請求項1または2記載の粉末状組成物を含有するカプセル剤。
【請求項5】
γ−アミノ酪酸と、ヒアルロン酸および/またはその塩とを含有せしめ、粉末状組成物を調製することを特徴とする、γ−アミノ酪酸を含有する粉末状組成物の褐変防止方法。
【請求項6】
ヒアルロン酸および/またはその塩を含有することを特徴とする、γ−アミノ酪酸の褐変防止剤。

【公開番号】特開2010−189333(P2010−189333A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36446(P2009−36446)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】