説明

粉流調整治具及びそれを設けた粉末用ホッパ

【課題】ホッパから供給する粉末のホッパ内での架橋現象を簡単かつ安価な方法で防止できるようにして粉末成形工程での粉末の供給不足、それによる粉末成形装置の稼動停止、不良成形の発生などを防止できるようにする。
【解決手段】ホッパ10の内部を仕切る仕切り板2,3を備えて構成される粉流調整治具1と、この粉流調整治具1を、筒口部よりも上側部分の内部に設置して内部を平面視で複数の収納部に仕切った粉末用ホッパを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホッパ内に収納された粉末(粉体)の流出性を向上させる粉流調整治具とその治具を内部に設けて収納粉末の架橋現象を防止した粉末用ホッパに関する。
【背景技術】
【0002】
粉末の小分け供給は、粉末をホッパに貯留し、そのホッパの排出口を開閉して所望量を取り出す方法で行われることが多い。ところが、この方法では、ホッパ内の粉末に架橋現象(ブリッジ現象)が生じることがあり、その架橋現象が起こるとホッパからの粉末の流出が円滑になされない。その架橋現象に起因した流出不良の問題は、粉末が焼結部品の製造で原料として用いる金属粉末である場合には特に発生し易い。
【0003】
焼結部品の製造において、ホッパから粉末成形装置(プレス機)に供給される原料粉末の流れが架橋現象によって悪化すると粉末の供給不足が起こり、粉末成形装置がその供給不足を検知して稼動を停止する。その稼動停止は、一時的なものであり(いわゆるチョコ停)、ホッパに軽い衝撃を加えるなどの処置で回復することが多いが、一時的な停止であっても発生頻度が高まると焼結部品の生産性や成形の信頼性に悪影響がでる。
【0004】
このような問題に対処するために、ホッパの周壁内面やホッパ内の紛体に振動を加えて粉末の架橋現象を防止する方法が数多く提案されている。その例としては、下記特許文献1,2に開示された技術がある。
【0005】
特許文献1の技術では、一端がホッパの周壁内面に固定される振動伝達部材をホッパの
内部に設け、その振動伝達部材を振動発生装置で振動させて粉末の流動性を高める。特許文献2の技術も特許文献1と類似したものであって、ホッパの内部に振動体を支持体で支持して設けている。
このほかに、ホッパ内粉末に超音波で振動を加える方法や、振動フィーダ、スクリューフィーダなどを付属させて粉末の流動性の悪さを補う方法なども提案されている。
【特許文献1】特開2002−80001号公報
【特許文献2】特開2003−63590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来行なわれている粉末の架橋現象防止策は、振動発生装置、超音波発生装置、振動フィーダ、スクリューフィーダなどの装置を用いて振動や強制排出力を加えるので、コストが高くつく。
【0007】
また、構造が複雑になるのに加えて、振動発生装置などを電源に接続する必要があり、それが原因で使用の自由度も低くなる。例えば、同一工場内で複数台の粉末成形装置を使用する場合、各粉末成形装置に付属させる子ホッパを可動式にしてその子ホッパが空になったら親ホッパが設置されている位置まで移動させ、そこで親ホッパから子ホッパに粉末を供給し、粉末供給後の子ホッパを元の位置に戻して各粉末成形装置に粉末を供給する方法が採られることがあるが、このときに、子ホッパが複雑な構造になっていたり、電源につながれていたりすると、その子ホッパを移動式とすることが難しくなって上記の供給方法を採用できない。
【0008】
この発明は、上記の不具合を発生させないようにするために、ホッパ内粉末の架橋現象を簡単かつ安価な方法で防止できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、ホッパの内部を平面視で複数の収納部に仕切る仕切り板を備えて構成される粉流調整治具を提供する。
【0010】
この粉流調整治具は、複数の仕切り板が平面視においてホッパ中央で交差するものが仕切り板により区画された収納部の大きさを平均化できて好ましい。また、この粉流調整治具は、両端がホッパの隣り合う周壁の内面に当接する位置決め部材を設けておくことができる。
【0011】
この発明は、上記の粉流調整治具を、少なくとも筒口部(内面が傾斜している円錐又は角錐状部)よりも上側部分の内部に設置して構成される粉末用ホッパも提供する。
【0012】
そのホッパは、前記筒口部よりも上側部分の内部にのみ粉流調整治具を設置すると、筒口部の内部が仕切り板による仕切りがなされていない状態になるが、これでも所期の目的は達成される。
【0013】
この発明のホッパの前記筒口部よりも上側部分は、円筒状であっても構わないが、平面視で角筒形状にして筒の中心と各コーナ部との間に粉流調整治具の仕切り板を配置したものが好ましく、平面視四角形の筒にしてその筒の対角線上に粉流調整治具の仕切り板を配置したものはより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
粉流調整治具でホッパの内部を複数の収納部に仕切ると、1収納部当たりの粉末収納量が仕切りの無い場合に比べて少なくなって収納粉末に加わる圧力が軽減される。また、粉末の圧力分布も平均化されて粉末の一部分に荷重が集中することがなくなり、これによりホッパ内粉末の架橋現象が抑制され、粉末の良好な流動性が確保されて流出不良による供給量不足の問題が解消される。そのために、粉末成形では成形装置の一時停止回数が減少し、さらに、成形装置が一時停止後に復帰して成形が安定するまでの成形回数(この間の成形品は不良発生率が高い)も減少して不良成形の発生個数も少なくなる。
【0015】
また、この発明の粉流調整治具は、駆動源を有しておらず、ホッパ内に単に収納するだけでよいので、コストアップの問題が起こらない。また、駆動源が無いので電源に接続する必要がなく、ホッパの構造が複雑化することもない。従って、ホッパを可動式にしてそのホッパの使用の自由度を高めることもできる。
【0016】
なお、仕切り板の上縁と下縁に位置決め部材を設けた粉流調整治具は、位置決め部材がホッパの周壁内面に当接するので、ホッパ内での確実な位置決めがなされる。
【0017】
また、この発明のホッパで、筒口部よりも上側部分を角筒形状にして筒の中心と各コーナ部との間に粉流調整治具の仕切り板を配置したものは、固定具を設けなくてもホッパ内での粉流調整治具の回転が防止され、さらに、ホッパ内の均一な仕切りが簡単にできる利点がある。
【0018】
このほか、筒口部よりも上側部分を平面視四角形の筒にしてその筒の対角線上に粉流調整治具の仕切り板を配置するものは、既存のホッパを使用でき、さらに、2枚の仕切り板を平面視十文字状に組み合わせて粉流調整治具を作れる利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図1〜図3に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。図1は、この発明の
粉流調整治具の一例を表している。この粉流調整治具1は、図2、図3に示す形状のホッパ10に設置するものであって、起立配置の2枚の仕切り板2、3を、各々の幅方向中心でクロスさせて組み合わせ、両仕切り板2、3を平面視十文字形状が保たれるように一体化して作られている。
【0020】
片方の仕切り板2は、ホッパ10の平面視四角形をなす角筒部11の対角コーナ部間に適合して納まる寸法にしているが、もう一方の仕切り板3は、ホッパに対する粉流調整治具1の挿入を容易にするためにその幅wを仕切り板2の幅w1よりも小さくして両端とホッパの対角コーナ部との間に融通を生じるようにしてあり、従って、そのままでは仕切り板3の両端が自由状態になって動くことが予想される。そこで、仕切り板3の上縁3aと下縁3bの両端に板厚方向に延びだす位置決め部材4をそれぞれ取り付け、その位置決め部材4をホッパ10の隣り合う周壁12の内面に当接させて仕切り板3の両端を位置決め点に保持するようにしている。
【0021】
なお、位置決め部材4は、取っ手としても利用できる好ましい要素であるが、仕切り板3を、その両端がホッパの角筒部11の対角コーナ部に届く寸法にすれば省略することができる。
【0022】
このように構成した例示の粉流調整治具1を、図2、図3に示すように、ホッパ10の内部に設置する。ホッパ10は、図2、図3に示すように、平面視形状が四角形をなす角筒部11の下部に内面が傾斜した角錐状の筒口部13を連設し、さらに、その筒口部13の下部に排出口14と、その排出口14を開閉するバルブ15を設けて構成されている。図示のバルブ15はボールバルブであるが、これに限定されるものではない。このホッパ10の角筒部11の上端には、観音開きの扉16が設けられており、その扉16を開いて上部開口(粉末投入口)から内部に粉末が収納される。
【0023】
例示の粉流調整治具1は、ホッパの角筒部11(筒口部13よりもホッパの上側部分)
の対角線上に2枚の仕切り板2,3を配置して角筒部11の内部に設置される。仕切り板2の両端は角筒部11の対角コーナ部に係合し、仕切り板3の上縁3aと下縁3bに設けた位置決め部材4の両端は、角筒部11の隣り合う周壁12、12の内面に当接して仕切り板3を位置決めする。仕切り板2,3は、平面視においてホッパ中央で交差し、角筒部11の内部が均一に仕切られる。
【0024】
その粉流調整治具1は、例示のホッパにおいては角筒部11の部分にのみ挿入され、筒口部13の内部は仕切りがなされていない状態になる。仕切り板2,3は、筒口部13の内部にまで入り込ませてもよいが、筒口部13の内部を仕切り板で仕切ると、ホッパ内粉末の残量が少なくなったときに粉末に働く流出力が弱くなりすぎることが懸念される。また、仕切り板2,3の下端の縁を筒口部13の内面の傾斜角に合わせることになって粉流調整治具1の形状も複雑になる。粉流調整治具1を図のように角筒部11の部分にのみ挿入すれば、その不具合が回避できる。
【0025】
なお、ホッパ10は、角筒部11の部分が円筒状に、筒口部13の部分が円錐状に形成されたものであってもよいし、コーナ数が3、或いは5以上の正多角形の平面視形状を有するものであってもよい。
【0026】
−実施例−
発明の効果を確認するために行なった評価試験の結果を以下に示す。評価試験は、図1に示す構造の粉流調整治具1を内部に設置した下記仕様のホッパ(発明品)と、粉流調整治具を設置していない同一仕様のホッパ(比較品)を使用して行なった。粉流調整治具1
は、仕切り板2の幅w1が約1000mm、仕切り板3の幅wが約800mm、高さhが
500mmのサイズのものを用いた。
・ホッパの寸法諸元(図2、図3参照)
角筒部11:幅W=800mm、奥行きD=800mm、高さH=640mm
筒口部13:高さH1=430mm、内面の傾斜角α=50°
排出口14:外径60.5mm
【0027】
上述した2つのホッパに鉄系合金の粉末を収納し、その粉末を200tプレスの成形機に供給して単重259gの焼結部品用成形体(圧粉体)をそれぞれ成形し、成形機の粉末不足に起因した一時停止回数(成形機が粉末不足を検出して自動停止した回数)を調べて比較した。また、一時停止の復帰に伴う復帰直後の成形での重量不足成形品の発生個数(成形が安定するまでに発生する不良品の数)も調べた。
【0028】
その結果、従来のホッパを使用した成形では、成形機の一時停止が1日当たり(プレス速度7.5個/min、実質稼働時間8時間)に15回発生し、一時停止復帰直後の成形での不良品の発生個数は60個であった。
これに対し、粉流調整治具1を用いたこの発明のホッパを使用した成形ではその一時停止の発生回数がゼロであり、従って、不良品の発生個数もゼロであった。
【0029】
評価試験は、温度、湿度などが粉末に及ぼす影響の差を極力小さく抑えるために、同一室内で同日に実施した。それでも上記の結果の差が現われた。これは粉流調整治具1がホッパ内粉末の流動性を向上させたからにほかならない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の粉流調整治具の一実施形態を示す斜視図
【図2】図1の粉流調整治具を採用したホッパの実施形態を示す断面図
【図3】図2のX−X線に沿った断面図
【符号の説明】
【0031】
1 粉流調整治具
2、3 仕切り板
3a 上縁
3b 下縁
4 位置決め部材
10 ホッパ
11 角筒部
12 周壁
13 筒口部
14 排出口
15 バルブ
16 扉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホッパに設置する治具であって、ホッパ(10)の内部を平面視で複数の収納部に仕切る仕切り板(2,3)を備えて構成される粉流調整治具。
【請求項2】
前記仕切り板(2,3)が、平面視においてホッパ中央で交差することを特徴とする請求項1に記載の粉流調整治具。
【請求項3】
両端がホッパ(10)の隣り合う周壁(12)の内面に当接する位置決め部材(4)を前記仕切り板(3)の上縁(3a)と下縁(3b)に設けた請求項1に記載の粉流調整治具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の粉流調整治具(1)を、筒口部(13)よりも上側部分(11)の内部に設置した粉末用ホッパ。
【請求項5】
前記筒口部(13)の内部を、仕切り板(2,3)による仕切りがなされていない状態にした請求項4に記載の粉末用ホッパ。
【請求項6】
前記筒口部(13)よりも上側部分(11)を、平面視で角筒形状にして筒の中心と各コーナ部との間に粉流調整治具(1)の仕切り板(2,3)を配置した請求項4又は5に記載の粉末用ホッパ。
【請求項7】
前記筒口部(13)よりも上側部分(11)を、平面視で4角形の筒にしてその筒の対角線上に、粉流調整治具(1)の仕切り板(2,3)を配置した請求項6に記載の粉末用ホッパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−166844(P2009−166844A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3428(P2008−3428)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】