説明

粒子およびその製造方法、ならびにゲル

【課題】構造安定性が高く、粒子径のばらつきが少なく、例えば疎水性活性物質の活性を維持した状態で該疎水性活性物質を安定して内部に包含させることができ、かつ、該疎水性活性物質を徐放させることができる粒子およびその製造方法、ならびにゲルを提供する。
【解決手段】粒子は、疎水性ポリマーを含むコアと、親水性ポリマーブロックおよび疎水性ポリマーブロックを含む両親媒性ブロックコポリマーを含むシェルと、を含み、親水性ポリマーブロックが少なくとも表面に存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば生体組織との接着用ゲルに使用可能な粒子およびその製造方法、ならびにゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
合成反応を素反応に分解して組み合わせることによって、同時に多様な化合物を合成する「コンビナトリアルケミストリー技術」、その技術によって得られた多様な化合物の中から高活性の物質を効率的に見いだす様々な「ハイスループットスクリーニング技術」、そして、病気に関連する遺伝子を特定してその遺伝子をコントロールする薬を開発する「ゲノム創薬技術」が近年発展している。これらの技術の発展に伴い、次世代医薬品の候補となる数多くの化合物が開発されている。この化合物には、難溶性、難吸収性、易分解性、低活性の物質も含まれており、このような物質を最終的に製剤化するためには、新しい物性改善方法の開発が強く望まれている。
【0003】
薬物の物性を改善する方法として注目されているのが、(特にナノ)微粒子化技術である。薬物を微粒子に内包することによって、薬物の溶解特性(溶解度や溶解速度)を大きく変化させることができるうえ、内部に含まれる薬物の放出の制御や安定性の向上を実現することが可能となるなど、薬物の物性を大幅に改善することができる。
【0004】
現在までに、様々な微粒子化技術が提案されている。代表的な微粒子としては、リポソーム、高分子ミセル、高分子粒子を挙げることができる。
【0005】
リポソームは、生体膜の構成成分であるリン脂質によって形成される小胞であり、その小胞内に様々な親水性薬物を封入することができる。さらに、リポソームの荷電、粒子径、脂質成分を変えたり、リポソーム表面に抗原、抗体、糖などの物質を結合させたりすることで、細胞または組織に特異性を付与ことが出来ることから、リポソームの様々な物質の薬物保持担体としての可能性が検討されている。
【0006】
高分子ミセルは、親水性ポリマーブロックおよび疎水性ポリマーブロックからなる両親媒性ブロックコポリマーが、水中で自己凝集することにより形成される会合体である。その内部は、疎水性の内核(コア)と親水性の外殻(シェル)とが明確な二重構造を形成する。内核は非水的なミクロ環境を形成しており、疎水性物質のリザーバーとして用いることができる。一方、外殻は、高分子ミセルの水中への溶解性を高める役割を有し、内核に内包した疎水性物質をあたかも親水性物質のように扱うことができる。以上の特性から、高分子ミセルは、疎水性薬物を血中に投与するための薬物保持担体として用いることができる(特開2007−023023号公報)。しかしながら、リポソームおよび高分子ミセルともに、構造安定性が一般に低いのが問題点である。
【特許文献1】特開2007−023023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、構造安定性が高く、粒子径のばらつきが少なく、例えば疎水性活性物質の活性を維持した状態で該疎水性活性物質を安定して内部に包含させることができ、かつ、該疎水性活性物質を徐放させることができる粒子およびその製造方法、ならびにゲルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る粒子は、
疎水性ポリマーを含むコアと、
親水性ポリマーブロックおよび疎水性ポリマーブロックを含む両親媒性ブロックコポリマーを含むシェルと、
を含み、
前記親水性ポリマーブロックが少なくとも表面に存在する。
【0009】
上記粒子において、前記疎水性ポリマーと前記両親媒性ブロックコポリマーとの質量比が1:0.01〜1:10であることができる。
【0010】
上記粒子において、前記コアは疎水性活性物質をさらに含むことができる。
【0011】
上記粒子は、前記両親媒性ブロックコポリマーの重量平均分子量が1,000〜20,000であることができる。
【0012】
上記粒子は、前記親水性ポリマーブロックは反応性官能基を有することができる。
【0013】
本発明の別の一態様に係るゲルは、上記粒子と、親水性高分子とを含む。
【0014】
上記ゲルは生体組織との接着に用いることができる。
【0015】
本発明の他の一態様に係る粒子の製造方法は、
疎水性ポリマーと、親水性ポリマーブロックおよび疎水性ポリマーブロックを含む両親媒性ブロックコポリマーと、有機溶媒とを含む水分散体を乳化して、o/wエマルジョンを調製する工程、および
前記o/wエマルジョンを攪拌して前記有機溶媒を蒸発させることにより、前記親水性ポリマーブロックが少なくとも表面に存在する粒子を得る工程
を含む。
【0016】
上記粒子の製造方法において、前記粒子を得る工程は、前記疎水性ポリマーを含むコアと、前記親水性ポリマーブロックおよび疎水性ポリマーブロックを含む両親媒性ブロックコポリマーを含むシェルとを含む粒子を得る工程であることができる。
【0017】
この場合、前記水分散体は疎水性活性物質をさらに含み、前記コアは、前記疎水性活性物質を含むことができる。
【0018】
上記粒子の製造方法において、前記乳化は、前記水分散体の温度を30℃以下に保持して行なうことができる。
【発明の効果】
【0019】
上記粒子によれば、疎水性ポリマーを含むコアと、親水性ポリマーブロックおよび疎水性ポリマーブロックを含む両親媒性ブロックコポリマーを含むシェルと、を含み、前記親水性ポリマーブロックが少なくとも表面に存在することにより、構造安定性が高く、粒子径のばらつきが少なく、例えば疎水性活性物質の活性を維持した状態で該疎水性活性物質を安定して内部に包含させることができ、かつ、該疎水性活性物質を徐放させることができる
上記粒子の製造方法によれば、構造安定性が高く、粒子径のばらつきが少ない粒子を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る粒子およびその製造方法ならびにゲルについて具体的に説明する。
【0021】
1.粒子およびその製造方法
図1は、本発明の一実施形態に係る粒子および該粒子を含むゲル、ならびにこれらの製造方法を模式的に説明する図である。
【0022】
1.1.粒子の構成
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る粒子10は、疎水性ポリマー16を含むコアと、親水性ポリマーブロックおよび疎水性ポリマーブロックを含む両親媒性ブロックコポリマー12を含むシェルと、を含み、両親媒性ブロックコポリマー12の親水性ポリマーブロックが少なくとも表面に存在する。
【0023】
また、粒子10は、後述する製造方法により得ることができる。なお、図1において、両親媒性ブロックコポリマー12については、疎水性ポリマーブロックが実線で、親水性ポリマーブロックが網掛け線でそれぞれ示されている。
【0024】
すなわち、粒子10においては、疎水性ポリマー16が主にコアを構成し、両親媒性ブロックコポリマー12が主にシェルを構成し、両親媒性ブロックコポリマー12の親水性ポリマーブロックが粒子10の表面14に存在する。
【0025】
なお、両親媒性ブロックコポリマー12の親水性ポリマーブロックが粒子10の表面14に存在することは、例えば後述する実施例に示されるように、粒子10表面のゼータ電位の測定により確認することができる。両親媒性ブロックコポリマー12の親水性ポリマーブロックが少なくとも粒子10の表面14に存在することにより、例えば粒子10を生体組織接着用のゲル100の成分として使用する場合、粒子10の表面14に存在する親水性ポリマーブロックが生体組織と結合するため、生体組織への接着性に優れている。
【0026】
粒子10の平均粒子径は通常数十nm〜数μmであり、50nm〜1μmであるのが好ましい。
【0027】
また、粒子10は、疎水性活性物質13をさらに含むことができる。この場合、疎水性活性物質13は疎水性ポリマー16とともに粒子のコアを構成することができ、例えば、粒子10のコアが、主に疎水性ポリマー16から構成されるポリマーネットワーク(図示せず)を構成する場合、疎水性活性物質13はこのポリマーネットワーク内に存在することができる。これにより、この粒子10から疎水性活性物質13を徐放させることができる。
【0028】
粒子10において、疎水性ポリマー16と両親媒性ブロックコポリマー12との質量比(疎水性ポリマー16:両親媒性ブロックコポリマー12)は1:0.01〜1:10であることが好ましく、1:0.1〜1:5であることがより好ましく、1:1〜1:3であることがさらに好ましい。ここで、両親媒性ブロックコポリマー12/疎水性ポリマー16(質量比)が1/100未満であると、粒子表面に十分に親水性ポリマーブロックが配向しない場合があり、一方、両親媒性ブロックコポリマー12/疎水性ポリマー16(質量比)が10を超えると、両親媒性ブロックポリマーの相互作用力が低下し、その結果、粒子表面に十分に親水性ポリマーブロックが配向しない場合がある。
【0029】
本実施形態に係る粒子10は構造安定性が高く、粒子径のばらつきが少なく、例えば疎水性活性物質13を含む場合、疎水性活性物質13の活性を維持した状態で疎水性活性物質13を安定して内部に包含させることができ、かつ、疎水性活性物質13を徐放させることができる。このような粒子10は、従来の技術では得ることができなかったものである。
【0030】
1.1.1.疎水性ポリマー
「疎水性ポリマー」とは、水に溶解しないポリマーであり、具体的には、水と1−オクタノールが形成する水/有機溶媒二相系に溶解した場合に、1−オクタノール相により多く分配するポリマーをいう。疎水性ポリマーとしては、例えば、不飽和ビニル系(共)重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート等が挙げられる。なお、粒子10を生体に投与する場合等に、生体への負担を少なくできる点で、生分解性の疎水性ポリマー(例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体(PLGA))がより好ましい。
【0031】
疎水性ポリマー16の好ましい重量平均分子量は1,000〜100,000であり、より好ましくは5,000〜50,000である。疎水性ポリマー16の重量平均分子量が1,000未満である場合、粒子10の形成が困難になる場合があるうえに、粒子10が疎水性活性物質13を含む場合、疎水性活性物質13の徐放の制御が困難になる場合がある。一方、疎水性ポリマー16の重量平均分子量が100,000を超えると、疎水性ポリマー16が凝集しやすくなるため、粒子10の形成が困難になる場合があるうえに、粒子10が疎水性活性物質13を含む場合、疎水性活性物質13の徐放速度が極度に低下する場合がある。
【0032】
1.1.2.両親媒性ブロックコポリマー
両親媒性ブロックコポリマー12は、疎水性ポリマーブロックおよび親水性ポリマーブロックを有する両親媒性ブロックコポリマーであれば特に限定されないが、例えば、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物であることが好ましい。
<H.philic A>-L1-<H.phobic B> ・・・(1)
<H.philic A>-L2-<H.phobic B>-L3-<H.philic C> ・・・(2)
(式中、<H.philic A>及び<H.philic C>は、親水性ポリマーブロックを表し、<H.phobic B>は、疎水性ポリマーブロックを表し、L1・L2・L3は、親水性ポリマーブロックと疎水性ポリマーブロックとを連結する単結合または連結基を表す。)
ここで、上記一般式(1)における<H.philic A>のL1側の末端と異なる他方の末端、上記一般式(2)における<H.philic A>のL2側の末端と異なる他方の末端、または上記一般式(2)における<H.philic C>のL3側の末端と異なる他方の末端に、少なくとも1個のアルデヒド基(若しくはホルミル基)又は活性エステル基のような官能基を有していてもよい。一方、上記一般式(1)における<H.phobic B>のL1側の末端と異なる他方の末端には、架橋結合を形成しうるエチレン系不飽和集合性基のような官能基を有していてもよい。親水性ポリマーブロックのL1とは反対側の末端にアルデヒド基を導入する場合は、両親媒性ブロックコポリマー12を製造する際のイニシエーターとして、例えばアセタール化ホルミル(換言すれば、保護されたアルデヒド基ともいえる。)化合物(例えば、アルコールを用いる(例えば、WO96/33233号または対応する米国特許第5,925,720号明細書参照。)か、また、適当な糖類を当該末端に導入するか、またはもともと糖残基を有するブロックコポリマー(例えば、WO96/32434号または対応する米国特許第5,973,069号明細書参照。)、例えば、マラプラード酸化(Malaprade oxidation)によって、糖残基をアルデヒド基に転化することにより、少なくとも1個のアルデヒド基を有する親水性ポリマーブロックを得ることができる。また、このような糖類を適当に選択することにより、2個以上のアルデヒド基を有する末端を提供することができる。
【0033】
アルデヒド基を末端に有する親水性ポリマーブロックを構成するポリマー鎖としては、例えば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、親水性ポリアクリル酸エステル、親水性ポリメタクリル酸エステル、親水性ポリアクリル酸アミド、親水性ポリメタクリル酸アミド、ポリリンゴ酸、デキストラン、プルラン、デキストラン硫酸、ポリサッカライド、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸および親水性ポリアミノ酸に由来するポリマー鎖が挙げられる。
【0034】
また、疎水性ポリマ−ブロック(上記一般式(1)の<H.phobic B>に相当する)を構成するポリマー鎖としては、例えば、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(D,L−乳酸−CO−グリコール酸)、ポリ(L−乳酸−CO−グリコール酸)、ポリ(D,L−乳酸−CO−グリコール酸)−CO−ε−カプロラクトン)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)、ポリ(γ−ブチロラクトン)、疎水性ポリエステル、ポリ(β−ベンジル L−アスパルテート)、ポリ(β−置換アスパルテート)、ポリ(γ−ベンジル L−グルタメート)、ポリ(γ−置換グルタメート)、ポリ(フェニルアラニン)、ポリ(ロイシン)、ポリ(イソロイシン)、疎水性ポリアミノ酸、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(テトラエチレンオキシド)、疎水性ポリエーテル、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(イソブチレン)、ポリ(ブタジエン)、ポリ(スチレン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、疎水性ポリ(メタクリレート)、疎水性ポリ(アクリレート)および疎水性ポリ(アクリルアミド)および疎水性ポリ(メタクリルアミド)に由来するポリマー鎖が挙げられる。
【0035】
疎水性ポリマ−ブロックは、ポリマー主鎖中のいずれかの部位(好ましくは<H.philic A>と結合する側と異なる他方の末端)に、側鎖として少なくとも1個の架橋結合を形成しうる官能基を有することができる。これらの官能基は、2つの官能基が架橋結合を形成しうるものであればいかなる基であってもよいが、例えば、エチレン系不飽和重合性基、メルカプト基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基が好ましい。なお、疎水性ポリマ−ブロックとしては、生分解性を有するエステル結合を有するものが好ましい。
【0036】
両親媒性ブロックコポリマー12は、公知の方法によって製造することができ、より好ましくは、上記一般式(1)または上記一般式(2)における<H.philic A>、あるいは上記一般式(2)における<H.philic C>にポリ(エチレンオキシド)のポリマー鎖を含み、かつ、上記一般式(1)または上記一般式(2)における<H.phobic B>に、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(D,L−乳酸−CO−グリコール酸)、ポリ(L−乳酸−CO−グリコール酸)、ポリ(蛛|カプロラクトン)、ポリ(艨|バレロラクトン)およびポリ(縺|ブチロラクトン)からなる群より選ばれるポリマー鎖を含み、Lが単結合;直鎖もしくは分岐のC1−12アルキレン基;−NH−、−O−、−CONH−、−NHCO−、−COO−、−OCO−、−NHCOO−、−OCO−NH−および−NHCO−NH−からなる群より選ばれる1つの基がいずれか片方のもしくは両末端に存在するか、または該基によって中断されている直鎖もしくは分岐のC1−12アルキレン基である。
【0037】
さらに、両親媒性ブロックコポリマー12は、特に好ましくは、下記一般式(I−A)で表される。
【0038】
【化1】

(式中、XはOHC−または
【0039】
【化2】

を表し、
Yは式
【0040】
【化3】

または−(CH−を表し、かつ、ここでRおよびRは独立して水素原子またはメチル基を表し、sは3〜5の整数を表し、mおよびnは独立して、10〜10,000の整数を表し、qおよびrは0または1〜12の整数を表し、tは0または1の整数を表し、Zは、rが0であるとき、水素原子、アセチル、アクリロイル、メタクリロイル、シンナモイル、アリルまたはビニルベンジルを表し、rが1〜20の整数であるとき、C1−6アルコキシカルボニルを表す。)
さらに好ましい両親媒性ブロックコポリマー12は、例えば、上述のWO91/33233号またはWO96/32434号に記載されているか、あるいは記載されている方法によって得ることができる。
【0041】
例えば、粒子10を生体に投与する場合、生体への負担を少なくできる点で、両親媒性ブロックコポリマー12は、ポリエチレングリコール−ポリ乳酸ブロック共重合体が好ましい。また、粒子10を親水性高分子20とともに用いてゲルを調製する場合には、親水性高分子20との反応性を高めることができる点で、親水性ポリマーブロックの末端に反応性官能基A(例えばアルデヒド基、アミノ基、マレイミド基、チオール基、およびN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基から選ばれる少なくとも1種の官能基)を有することがより好ましい。
【0042】
両親媒性ブロックコポリマー12は、単独でまたは2種以上の混合物として用いることができ、また、アルデヒド基を有する両親媒性ブロックコポリマー12を少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも5重量含む。
【0043】
両親媒性ブロックコポリマー12の重量平均分子量は1,000〜20,000であることが好ましく、3,000〜10,000であることがより好ましい。ここで、重量平均分子量が1,000未満である場合、ポリマー鎖が短いため、粒子10の表面14に親水性ポリマーブロックを配置させることが困難になる場合があり、一方、20,000を超える場合、両親媒性ブロックコポリマー12が凝集しやすくなるため、粒子10の表面14に親水性ポリマーブロックを配置させることが困難になる場合がある。
【0044】
また、両親媒性ブロックコポリマー12における疎水性ポリマーブロックの数平均分子量に対する親水性ポリマーブロックの数平均分子量の比は1:0.01〜1:10であることが好ましい。上記比が1:0.01〜1:10の範囲外にある場合、粒子表面に十分に親水性ポリマーブロックが配向しない場合がある。
【0045】
さらに、両親媒性ブロックコポリマー12の親水性ポリマーブロックは、反応性官能基を有することが好ましい。図1に示されるように、反応性官能基Aを有する親水性ポリマーブロックを含む両親媒性ブロックコポリマー12を用いた粒子10と、反応性官能基Bを有する親水性高分子20とを含むゲル100に使用する場合、両親媒性ブロックコポリマー12の親水性ポリマーブロックの反応性官能基Aが、親水性高分子20中の反応性官能基Bと反応してもよい。この場合、親水性ポリマーブロックと親水性高分子20との間に結合が形成されて、ゲルの強度が増加する。
【0046】
なお、反応性官能基AおよびBの種類は特に限定されないが、ゲルが生体組織への接着に使用される場合、反応性官能基AおよびBは例えばアルデヒド基、エポキシ基などが挙げられる。
【0047】
1.1.3.疎水性活性物質
本実施形態に係る粒子10は疎水性活性物質13を含んでいてもよい。本実施形態に係る粒子は、後述する製造方法によって得られるため、疎水性活性物質13の活性を維持した状態で疎水性活性物質13を粒子10に内包させることができる。また、粒子10内で、疎水性活性物質13は、主に疎水性ポリマー16から構成される網目状のポリマーネットワーク内に保持されている。これにより、所望の活性を有する疎水性活性物質13を粒子10から確実にかつ安定して徐放させることができる。
【0048】
疎水性活性物質13としては、例えば、疎水性のタンパク質、表面が疎水化された親水性タンパク質、遺伝子、および低分子化合物が挙げられる。
【0049】
1.2.粒子の製造方法
本発明の一実施形態に係る粒子10の製造方法は、図1に示すように、疎水性ポリマー16と、親水性ポリマーブロックおよび疎水性ポリマーブロックを含む両親媒性ブロックコポリマー12と、有機溶媒18とを含む水分散体を乳化して、o/wエマルジョン11を調製する工程、およびo/wエマルジョン11を攪拌して有機溶媒18を蒸発させることにより、親水性ポリマーブロックが少なくとも表面14に存在する粒子10を得る工程を含む。
【0050】
以下、各工程について詳述する。
【0051】
1.2.1.o/wエマルジョン11の調製
まず、疎水性ポリマー16と、両親媒性ブロックコポリマー12と、有機溶媒18とを含む水分散体を乳化することにより、内部に有機溶媒18が包含されたo/wエマルジョン11を調製する。
【0052】
得られるo/wエマルジョン11内の有機溶媒18には疎水性ポリマー16が含有される。また、o/wエマルジョン11内の有機溶媒18を取り囲むように両親媒性ブロックコポリマー12が配置される。ここで、両親媒性ブロックコポリマー12は、疎水性ポリマーブロックが内側に位置し、親水性ポリマーブロックが外側に位置するように配置される。
【0053】
有機溶媒18としては、水と混和するあるいは混和しない全ての有機溶媒を用いることができるが、水と混和しない性質を示す有機溶媒の方が好ましい。ここで水と混和しない性質とは、同体積の水と有機溶媒を混合した時に二相に分離するものをいう。また、後述する攪拌工程において有機溶媒18を効率的に除去できる点で、有機溶媒18は水よりも沸点が低いものが好ましい。
【0054】
有機溶媒18としては、疎水性ポリマー16および両親媒性ブロックコポリマー12(さらに疎水性活性物質13を使用する場合は疎水性活性物質13)を溶解させることができれば特に限定されないが、例えば、n−ヘキサン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系炭化水素系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒が挙げられる。ここで、有機溶媒18は、微量の水液滴を含む混合有機溶媒(すなわち、w/oエマルション)でも良く、有機溶媒18中に占める有機溶媒の体積比が1/2以上であれば、有機溶媒18中に含まれる物質・液体等の種類は問わない。
【0055】
水分散体の乳化において、水19の使用量に対する有機溶媒18の使用量は1/10〜1/2であるのが好ましく、有機溶媒18の使用量に対する疎水性ポリマー16の使用量は0.005g/ml〜0.02g/mlであるのが好ましく、有機溶媒18の使用量に対する両親媒性ブロックコポリマー12の使用量は0.005g/ml〜0.06g/mlであるのが好ましい。また、疎水性ポリマー16の使用量に対する両親媒性ブロックコポリマー12の使用量は1:1〜1:3であるのが好ましい。
【0056】
乳化手段は例えば、高速撹拌、超音波照射、膜乳化などの一般的な乳化手段を用いることができる。また、水分散体に、適当な分散安定剤(例えばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなど)を添加して乳化してもよい。
【0057】
また、乳化は、水分散体の温度を30℃以下に保持して行なうのが好ましく、例えば10〜20℃がより好ましい。水分散体の温度が30℃を超えた状態で乳化を行なうと、有機溶媒18の蒸発速度が速くなりすぎるため、得られる粒子10の変形が発生しやすくなるうえに、疎水性ポリマー16および両親媒性ブロックコポリマー12の運動性が高まる結果、粒子10同士の凝集が発生しやすい場合がある。
【0058】
なお、疎水性活性物質13を含む粒子10を得るためには、疎水性活性物質13をさらに含有する水分散体を乳化する。これにより、図1の上中央図に示すように、o/wエマルジョン11の有機溶媒18に、疎水性ポリマー16とともに疎水性活性物質13を含有させることができる。
【0059】
1.2.2.o/wエマルジョン11の攪拌
o/wエマルジョン11を攪拌して有機溶媒18を蒸発させることにより、図1に示されるように、親水性ポリマーブロックが少なくとも表面14に存在する粒子10を得ることができる。すなわち、o/wエマルジョン11の攪拌によって有機溶媒18が蒸発することにより得られた粒子10の内部(コア)は、主に疎水性ポリマー16から構成され、粒子10の外郭(シェル)は、主に両親媒性ブロックコポリマー12から構成され、粒子10の表面14に両親媒性ブロックコポリマー12の親水性ポリマーブロックが配置されている。また、疎水性活性物質13を含む水分散体を使用した場合、粒子10の内部に疎水性活性物質13をさらに含む徐放性粒子10を得ることができる。
【0060】
なお、o/wエマルジョン11の攪拌時の速度を制御することにより、得られる粒子10の粒子径を制御することができる。すなわち、本実施形態に係る製造方法によれば、例えば後述する実施例6(図2)に示すように、粒子径および形状が揃った粒子10を簡便な方法にて得ることができる。
【0061】
1.3.用途
本実施形態に係る粒子10は例えば、治療薬・診断薬・治療デバイス・測定デバイス等の様々な医療ツールとしての利用が期待できる。例えば、親水性ポリマーブロックとして表面にPEGが導入された粒子10は、血小板や白血球などの血球成分の吸着を抑制することができ、抗血栓性材料として用いることができる。
【0062】
また、本実施形態に係る粒子10を、例えば薬物保持担体、機能性造影剤、留置型薬物徐放材料等として用いることができる。
【0063】
さらに、本実施形態に係る粒子10に、疎水性活性物質13として蛍光物質を内包させることによって、医療分野のみならず、生化学分野におけるバイオイメージング試薬としても用いることができる。
【0064】
このように、本実施形態に係る粒子10は、医学、薬学、および生化学分野を中心に幅広い利用可能性を有する。
【0065】
2.ゲル
本発明の一実施形態に係るゲル100は図1に示されるように、粒子10と、親水性高分子20とを含むことができる。
【0066】
粒子10と親水性高分子20との結合様式は特に限定されず、例えば物理吸着または化学結合のいずれであってもよいが、十分なゲル強度が得られ、かつ、生体組織への結合能を高めるためには、化学結合が好ましい。
【0067】
ゲル100において、図1に示すように、粒子10は反応性官能基Aを有し、親水性高分子20が反応性官能基Bを有することができる。
【0068】
例えば、反応性官能基AまたはBが、生体組織表面に豊富に存在するアミノ基と結合する官能基である場合、強固な組織接着性を有するゲル100が得られる。
【0069】
ゲル100は例えば、生体組織との接着に好適に用いることができる。より具体的には、ゲル100はハイドロゲルとして用いることができる。ゲル100はハイドロゲルとして、例えば、ソフトコンタクトレンズ、人工筋肉、人工乳房、人工皮膚、創傷治癒材、ドラッグデリバリーシステムにおける薬物封入担体など、幅広い医療用途に使用することができる。
【0070】
また、近年の手術は、高度な技術や迅速な作業が求められており、手術の進行を小刻みに止めてしまう止血作業に要する手間は、出来るだけ簡便であるほど都合が良いことから、性能が良い止血材料の開発が急務とされている。このため、例えば、疎水性活性物質13として止血作用を有する物質を内包させた粒子10を用いたゲル100を止血材料として利用することができる。
【0071】
さらに、ゲル100が組織に接着する性質を利用して、卵巣などの手術後の腹膜内の癒着防止材や血管内手術用の塞栓材としてゲル100を利用することができる。
【0072】
本実施形態に係るゲル100では、ゲル100に含まれる粒子10によって疎水性活性物質13の徐放が制御される。具体的には、粒子10を構成する疎水性ポリマー16および両親媒性ポリマーブロック12の分子量を調整することにより、疎水性ポリマー16および両親媒性ポリマーブロック12から主に構成されるポリマーネットワークの密度を制御することができるため、疎水性活性物質13の徐放速度を精密に制御することができる。
【0073】
また、本実施形態に係るゲル100によれば、生物由来材料を使用していないため、感染のおそれがなく、また、毒性が強い副生成物が生成するおそれがないため、安全性が高い。
【0074】
3.実施例
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「%」および「部」は特記しない限り、それぞれ質量%および質量部であることを示している。
【0075】
3.1.実施例1(カリウムナフタレンの調製)
約300mlの無水テトラヒドロフランにナフタレンを溶解させた。秤量したカリウム(45 mmol)を細かくきざみ、ナフタレン溶液に添加し、氷冷下で一晩攪拌した。その後、冷蔵庫中で一晩静置した。生成した上澄み溶液を採取し、冷蔵保存した。塩酸および水酸化ナトリウム水溶液を用いた滴定によって算出したカリウムナフタレンの濃度は、155mMであった。
【0076】
3.2.実施例2(両親媒性ブロックコポリマーの調製)
3,3’−ジエトキシプロパノール(1 mmol)を溶解した無水テトラヒドロフラン(50 mL)にカリウムナフタレン(1 mmol)を添加し、末端メタル化反応(1 時間)を行った。その後、エチレンオキサイドを添加し48時間攪拌した後、DLラクチドを溶解した無水テトラヒドロフラン(50 mL)を添加することによって、末端をアセタール化したポリエチレングリコール−ポリ乳酸ブロックコポリマー(Acetal-PEG-PLA)(両親媒性ブロックコポリマー)を合成した。得られた両親媒性ブロックコポリマーは、2−プロパノール中で再沈殿を行った後、ベンゼンによって凍結乾燥した。ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)および1H-NMR測定によって、両親媒性ブロックコポリマーの分子量を算出した結果を以下に示す。
【0077】
GPC(測定装置:日本分光製高速液体クロマトグラフィー8020、溶媒:クロロホルム)
1H-NMR(400MHZ、測定装置:バリアン製400-MR、溶媒:重クロロホルム)
全ての条件下において、PEGとPLAの数平均分子量の比(PEG/PLA)が2程度である、分子量分布が狭い両親媒性ブロックコポリマーが得られた。これらの両親媒性ブロックコポリマーの末端アセタール化率は100%であった。
【0078】
【表1】

3.3.実施例3(o/wエマルションの安定性評価)
0、0.5、1.0、1.5、2.0 w/v%のPVA(ポリビニルアルコール)(けん化度:86〜90 mol%、重合度500)水溶液を調製し、そこに密度を変化させた有機溶媒を混合し、超音波照射によって乳化して得られたo/wエマルションの安定性の経過変化を目視評価した。有機溶媒としてはジクロロメタン(分子量:84.93 g/mol、密度1.3255 g/cm3)、クロロホルム(分子量:119.38 g/mol、密度1.48 g/cm3)、n-ヘキサン(分子量:86.18 g/mol、密度0.6591 g/cm3)、トルエン(分子量:92.14 g/mol、密度0.8669 g/cm3)を用いた。PVA水溶液と混合有機溶媒との体積比は、10:4(総体積14 ml)、12.5:1.5(総体積14 ml)、40:1.6(総体積41.6 ml)であり、超音波照射時間は、溶液に超音波照射機の先端(超音波プローブ)を浸けて有機溶媒が分散し始めた時間からカウントした。超音波の周波数は20 ± 3 kHz、出力は50 Wとした。
【0079】
静置観察の結果、分散相である混合有機溶媒の密度がo/wエマルションの安定性に影響を及ぼしていることが分かった。この中でも、密度が1 g/cm3の混合有機溶媒を用いた際に、長い時間o/wエマルションが形成されており、安定性がより高いことが確認できた。これは、熱力学的に非平衡な系である水と有機溶媒の混合は、密度を近くする事によって、平衡状態へ近づける事が出来るため、相分離が防げられるからであると考えられる。
【0080】
また、分散安定剤であるPVAの濃度が高くなるにつれて、o/wエマルションの安定性もより高くなる傾向があることもわかった。水相の体積が有機溶媒相の体積と比べて大きくなったとき(水相:有機溶媒相=40:1.6)、超音波照射時間が長くなるとo/wエマルションの安定性も高くなることが分かった。ただし、その他の2種類の体積比の場合は、照射時間を2分まで長くしても、o/wエマルションの安定性は高くならなかった。
【0081】
超音波照射時間とo/wエマルション安定性との関係をさらに詳しく検討するために、水相と有機溶媒相の比率が12.5:1.5の系において、照射時間を5分および10分に設定して静置観察を行ったところ、o/wエマルションの安定性に差は生じなかった。また、超音波照射中にo/wエマルションの温度が上昇するため、o/wエマルションを10℃に保持することによって、液滴径が小さいまま凝集しない安定なo/wエマルションを形成できることがわかった。
【0082】
3.4.実施例4(粒子の調製)
重量平均分子量10000のPLGA(疎水性ポリマー)(0.5 g)およびAcetal-PEG-PLA(両親媒性ブロックコポリマー)(0.5 g)を溶解した有機溶媒(10 ml)を分散相として、水(100 ml)中で膜乳化(膜細孔径:300nm)することによって、o/wエマルションを調製した。疎水性ポリマーとして用いた。有機溶媒としては、ジクロロメタン単独あるいはジクロロメタンとトルエンの混合溶媒(密度:1.00 g/cm3)を用いた。連続相としては2 w/v%のPVA水溶液を用いた。o/wエマルションの形成は、凝集を抑制するために反応液を10℃に保持することによって行った。昇温・減圧操作を行なうことなく穏和な条件下で有機溶媒を徐々に蒸発させることによって、Acetal-PEG-PLA(両親媒性ブロックコポリマー)のPEG(親水性ポリマーブロック)が表面に導入された単分散PLGA/Acetal-PEG-PLA粒子(平均粒径:720 nm)(0.76 g)が得られた。
【0083】
3.5.実施例5(粒子表面のゼータ電位の測定)
粒子の希薄分散液(0.001 g/ml)を調製し、光散乱測定装置によって粒子の粒径および粒子表面のゼータ電位を測定した。その結果、PLGAのみから調製したPLGA粒子のゼータ電位は-50mVであり、Acetal-PEG-PLAおよびPLGAから調製された実施例4のPLGA/Acetal-PEG-PLA粒子のゼータ電位は-41mVであった。また、前者の粒径は500nmであり、後者の粒径は720nmであった。この結果から、両親媒性ブロックコポリマー(Acetal-PEG-PLA)の親水性ポリマーブロック(PEG)が粒子表面に存在することによって、粒子表面の負電荷の絶対値は小さくなり、PEG鎖の分だけ粒子径が大きくなることが推察される。これにより、実施例4のPLGA粒子の表面にはPEG鎖が存在することがわかった。なお、実施例4のPLGA粒子1粒子あたりの表面修飾分子量は5760であった。
【0084】
3.6.実施例6(実施例4のPLGA/Acetal-PEG-PLA粒子の電子顕微鏡観察)
実施例4のPLGA/Acetal-PEG-PLA粒子を走査型電子顕微鏡によって観察した(図2)。その結果、実施例4のPLGA/Acetal-PEG-PLA粒子は単分散性が高いことがわかった。
【0085】
3.7.実施例7(末端アルデヒド基含有PLGA/PLA粒子の調製)
実施例4のPLGA/Acetal-PEG-PLA粒子(0.76 g)を0.02Mの塩酸水溶液100 mlで処理することによって、末端のアセタール基がアルデヒド基に変換された末端アルデヒド基含有PLGA/Aldehyde-PEG-PLA粒子(平均粒径700 nm)(0.74 g)を調製した。
【0086】
3.8.実施例8(ゲルの調製)
実施例7のPLGA/Aldehyde-PEG-PLA粒子の水分散体(20w/w%、pH 3.0)およびポリエチレンイミン水溶液(分子量:60,000、20 w/w%、pH9)を混合し、粘弾性測定器を用いてゲル形成特性を評価した。その結果、ゲル強度は100〜2000Paを示した。
【0087】
3.9.実施例9(マウスへのゲルの塗布)
6倍に希釈したペントバルビタールナトリウムをマウスの腹腔内に注射した後、麻酔下で開腹した。実施例7のPLGA/Aldehyde-PEG-PLA粒子の水分散体(20w/w%、pH 3.0)およびポリエチレンイミン水溶液(分子量:60,000、20 w/w%、pH 9)をマウスの肝臓、腹膜、および腸管の上に滴下した。その結果、得られたゲルがマウスの肝臓、腹膜、および腸管に接着することがわかった。
【0088】
3.10.実施例10(疎水性活性物質含有粒子の調製およびゲルの徐放特性評価)
安定性が高いタンパク質加水分解酵素であるthermolysin(0.01 g)を界面活性剤Span80(0.001 g)と混合し、凍結乾燥することによって、表面を疎水化したthermolysin複合体を調製した。この複合体存在下で、実施例4および実施例7と同様の処理を行なうことにより、表面が疎水化された親水性タンパク質であるthermolysinを内包するPLGA/Aldehyde-PEG-PLA粒子(平均粒径740 nm)(0.09 mg)を調製した(含有量:11w/w%)。得られた粒子の水分散体(20w/w%、pH 3.0)およびポリエチレンイミン水溶液(分子量:60,000、20 w/w%、pH 9)を混合して、ゲルを調製した。次に、得られたゲルを透析膜(材質:再生セルロース膜)に入れ、水に対して透析することによって、thermolysinの徐放特性を評価した。その結果、50w/w%のthermolysinの徐放に50時間要した。すなわち、従来のゲルでは不可能であった疎水性活性物質の徐放に成功した。
【0089】
本実施形態に係る説明は以上である。本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらなる種々の変形が可能である。また本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および結果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る粒子および該粒子を含むゲル、ならびにこれらの製造方法を模式的に説明する図である。
【図2】図2は、本発明の実施例4で得られた粒子の電子顕微鏡写真(実施例6)である。
【符号の説明】
【0091】
10…粒子、11…o/wエマルジョン、12…両親媒性ブロックコポリマー、13…疎水性活性物質、14…粒子の表面、16…疎水性ポリマー、18…有機溶媒、19…水、20…親水性高分子、30…組織、100…ゲル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性ポリマーを含むコアと、
親水性ポリマーブロックおよび疎水性ポリマーブロックを含む両親媒性ブロックコポリマーを含むシェルと、
を含み、
前記親水性ポリマーブロックが少なくとも表面に存在する、粒子。
【請求項2】
前記疎水性ポリマーと前記両親媒性ブロックコポリマーとの質量比が1:0.01〜1:10である、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記コアは疎水性活性物質をさらに含む、請求項1または2に記載の粒子。
【請求項4】
前記両親媒性ブロックコポリマーの重量平均分子量が1,000〜20,000である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項5】
前記親水性ポリマーブロックは反応性官能基を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の粒子と、親水性高分子とを含む、ゲル。
【請求項7】
生体組織との接着に用いられる、請求項6に記載のゲル。
【請求項8】
疎水性ポリマーと、親水性ポリマーブロックおよび疎水性ポリマーブロックを含む両親媒性ブロックコポリマーと、有機溶媒とを含む水分散体を乳化して、o/wエマルジョンを調製する工程、および
前記o/wエマルジョンを攪拌して前記有機溶媒を蒸発させることにより、前記親水性ポリマーブロックが少なくとも表面に存在する粒子を得る工程
を含む、粒子の製造方法。
【請求項9】
前記粒子を得る工程は、前記疎水性ポリマーを含むコアと、前記親水性ポリマーブロックおよび疎水性ポリマーブロックを含む両親媒性ブロックコポリマーを含むシェルとを含む粒子を得る工程である、請求項8に記載の粒子の製造方法。
【請求項10】
前記水分散体は疎水性活性物質をさらに含み、
前記コアは、前記疎水性活性物質を含む、請求項9に記載の粒子の製造方法。
【請求項11】
前記乳化は、前記水分散体の温度を30℃以下に保持して行なわれる、請求項8〜10のいずれか1項に記載の粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−65067(P2010−65067A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229699(P2008−229699)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、「若手研究者の自立的研究環境整備促進 若手人材育成拠点の設置と人事制度改革」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】