説明

粒子基板の製造方法および粒子基板

【課題】1nm以下のナノ粒子、サブナノ粒子を規則的に広い面積で形成した粒子基板および粒子基板の製造方法を提供する。
【解決手段】粒子基板は金属を含む析出層2を表面に有する基板1を用意し、前記基板1表面からほぼ一定距離の絶縁層3を隔てて、ほぼ一様に金属粒子群を配列した粒子層4を形成し、前記粒子層4に対して、前記絶縁層3とは反対側から光を照射して、前記粒子層4の前記絶縁層3側の金属粒子端にプラズモンを発生させ、当該プラズモンに対応して、前記析出層2の金属もしくは当該金属の酸化物である粒子群をほぼ一様に析出させる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1nm以下の大きさのいわゆるナノ粒子、サブナノ粒子(以下、合わせてナノ粒子とする)の製造方法に関するもので、より具体的には様々な光デバイス等に利用可能な粒子基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プロセッサやメモリなどの電子デバイスの微細化が進み、その大きさは原子スケールに近づきつつある。そのような原子スケールの電子デバイスでは、量子効果が支配的になり、構成材料の半導体粒子や金属粒子においては粒径が1μmより小さくなるとその量子効果により、光学特性や電子的特性が変化することが知られている。例えば、バンドギャップが広がり、吸収波長が短波長にシフトしたり、エネルギーの緩和時間が長くなったり、クーロンブロッケード現象が起こるようになる。このようないわゆるナノテクノロジーによって新たな機能を持つ電子デバイス、材料を供給でき、特性向上が可能になる。
【0003】
半導体粒子や金属粒子を基体上に配列させるには種々の手法があり、固体表面上に金属微粒子を担持させたものを、誘電体媒質中に配置し固体表面に光を照射してプラズマ振動誘起(プラズモン励起)により、微粒子を線状に結合させて、100nm未満の粒径の金属微粒子を析出させる方法がある(例えば特許文献1)。これに対して、現在では更に微細構造、例えば1nm以下の微細構造の形成の要求があり、このような、ナノオーダーの粒子を規則的に広い面積で配列することは困難であった。
【特許文献1】特開2001−64794公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点を鑑みてなされたもので、1nm以下の粒子を規則的に広い面積で形成した粒子基板および粒子基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の粒子基板の製造方法は金属を含む析出層を表面に有する基板を用意し、基板表面からほぼ一定距離の絶縁層を隔てて、ほぼ一様に金属粒子群を配列した粒子層を形成し、粒子層に対して、絶縁層とは反対側から光を照射して、粒子層の絶縁層側の金属粒子端にプラズモンを発生させ、プラズモンに対応して、析出層の金属もしくは金属の酸化物である粒子群をほぼ一様に析出させることを特徴とする。
【0006】
また、粒子層の表面を有機物で被覆することにより、絶縁層を形成することもできる。なお、前記粒子群の析出後に粒子層を剥離してもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、1nm以下のナノ粒子を規則的に広い面積で形成した粒子基板および粒子基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明に係る実施形態を図面に従って説明する。
【0009】
[図1]は実施形態の一つである粒子基板の製造過程の全体の流れを示すフローチャートである。また[図2]は[図1]の工程を概念的に表した図である。ステップは[図1]と同様の数字を付してある。
【0010】
ステップ1(S1)として基板1の上に析出層2を形成する。ここで用いる基板とは表面が平坦性を有するものであって、ガラス基板、ガラスプリズム基板、シリコン基板、サファイア基板が用いられる。特に好適にはガラス基板、シリコン基板が用いられる。なお、nmサイズ程度のナノ粒子を屈折率変化による光学的手法で観測する際、散乱型近接場光学顕微鏡で観測する場合などはガラスプリズム基板がよい。析出層は変化層を保持できる光誘起相転移材料や光照射過熱を含む加熱相変化材料やゾルゲル析出法の原材料が用いられる。具体的に光誘起相転移材料とは光の照射によって、原子配列が変化し、それに伴って光学特性が大きく変化する材料で、ポリジアセチレン(S. Koshihara et. al. ,Phys. Rev. Lett. 68, 1148 (1992))、 (EDO-TTF)2PF6 やスピンクロスオーバー錯体等が挙げられる。また加熱相変化材料とは過熱や過熱後の冷却履歴で相が変化するものでGeSbTeやAgInSbTe、ZnInGaO、WO3、ZnGZOIZO、InGaO、ZGO、ZnInO、(以上組成比省略)等が挙げられる。なお、本発明の場合、GeSbTeやAgInSbTeが好適に用いられる。析出層の形成は空気中でもかまわないがチッ素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気環境下での加熱が好ましい。
【0011】
ステップ2(S2)としてS1で形成した析出層の上に絶縁層3を形成する(「ナノ光工学ハンドブック、朝倉書店、2002年初版、大津元一、河田聡、堀裕和 共編」P100におけるギャップに相当する)。絶縁層とは光照射によって発生したプラズモン励起による電場を析出層に伝える役割をもつ。絶縁層の材料としてはSiO、SiO、SiO、Al23、Ta25、HfO2、TiO2、ZrO2、CuO、Nb25、SiO2、In23、MgO、TiN、TaN、MoN、NbN、SiN、AlN、WN、W2NおよびBNなどの絶縁性誘電体材料が用いられ、特にSiOやSiOが好適に用いられる。形成方法としては主に蒸着や分子線エピタキシャルの工程で形成される。析出層が金属の場合はプラズモンと同一化することを避けるため、上記絶縁層が必要となる。絶縁層が厚い場合にはプラズモンによる電場増強が起こりにくいので、絶縁層の厚みは金属粒子層の粒径以下が好ましい。具体的には0.2nm〜5nmが好適である。
【0012】
ステップ3(S3)として、S2で形成した絶縁層の上に金属粒子層4を形成する。プラズモン励起の起こしやすさは金属の種類により異なり、Ag、Au、Cuなどはプラズマ励起を起こしやすい金属として挙げることができる。他にはHg、Liと8族遷移金属元素(Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)の金属、あるいはこれを含む無機材料を挙げることができる。好適にはAu、Ag、Cu粒子が用いられる。また、金属の粒径とプラズモン励起とは関連し、更に光学吸収の極大吸収波長域に関連する。材質にもよるが数10nm〜数nmであり、均一な粒子は市販されている。形成方法としては上記の大きさの粒子は溶液中で重力効果によって自然配列することが知られており、公知の方法で塗布をした後、加熱、乾燥し均一な膜を形成する。なお、絶縁層を形成せず、上記金属粒子の周囲にシェルとして有機物を表面修飾したものでもよい。この場合、有機物層が絶縁層の役割を果たし、有機物層と析出層の間にプラズモンを発生させることになる。有機物層としては−(CH2)n−SH、−PPh3、アルキル基等などの有機置換基を有する有機化合物が用いられる。プラズモンと粒子の析出について発明者は次のように考えている。すなわち、プラズモン励起は絶縁層と金属粒子層の金属の接点近傍の狭い領域に集中し、発熱過程を伴って緩和する。従って、絶縁層に接触している部分領域のみに熱を発生させることができ、この熱を用いて析出層に相変化過程を起こすことによって、nmやそれ以下のサイズの粒子を析出することが可能となる。
【0013】
ステップ4(S4)として、金属粒子層に光を照射し、金属粒子層と絶縁層の界面にプラズモンを発生させる。照射する光の波長は金属粒子の種類、粒径で好ましい波長領域が存在する。例えば、Auでは波長500nm〜1200nmの領域である。プラズモン励起は発光により基底状態に戻らず、発熱によって基底状態に戻る場合が多く、狭いナノ領域に加熱範囲を集中することもできる。
【0014】
ステップ5(S5)として、金属粒子層と絶縁層を析出層から物理的に剥離する。具体的には、パフで掻き取る、純水中で超音波洗浄を行う、純水に界面活性剤を添加し洗浄するなどの剥離方法が用いられる。
【0015】
<実施例1>
ガラスプリズム基板上に光ディスクの記録材料に用いられているゲルマニウム・アンチモン・テルル(アモルファス相)膜を厚さ50nmにて形成し、蒸着により厚さ2nmでSiO膜を作製した。その上に5nmの金の粒子を沈殿法によって配列させた。この状態で摂氏500℃に加熱し、アモルファス相を結晶相に転移させた。その後、金粒子の表面からモードロックチタンサファイアレーザー光の第二高調波、480nmの光を照射した。パルス時間幅は100fsec、繰り返しは1KHz、照射面積は約1cm、照射パルスエネルギーを1mJ、照射時間は約1秒とした。この後、金の微粒子を物理的に剥離し、散乱型近接場光学顕微鏡で観測したところ、約1nm径の微粒子が約5nmの間隔で作製されていることを観測した。ゲルマニウム・アンチモン・テルル膜の結晶相中の界面にアモルファス相のナノ粒子が存在することが判明した。なお、照射パルスエネルギーを0.3mJとしたところ、粒径は0.8nmとなった。
【0016】
<実施例2>
ガラスプリズム基板上にチタンのアルコキシドゾルをディップコートし、その上にSiOを膜厚約1nm蒸着した。その上に5nmの金の微粒子を配列させ、酸素雰囲気中でQ−スイッチYAGレーザーの第二高調波を照射した。パルス時間幅は約10nsec、繰り返し10Hz、1パルスあたりのエネルギー300mJ、照射時間は約10分間、照射面積は約1mmとした。この後乾燥させ、金の微粒子を剥離し、散乱型近接場光学顕微鏡で観察したところ、約1nm径のTiOナノ粒子が析出された。
【0017】
<実施例3>
ガラスプリズム基板上にアルミニウムを膜厚約50nmで蒸着し、その上にSiOを膜厚約1nm蒸着した。その上に5nmの金の微粒子を配列させ、酸素雰囲気中でQ−スイッチYAGレーザーの第二高調波を照射した。パルス時間幅は約10nsec、繰り返し10Hz、1パルスあたりのエネルギー300mJ、照射時間は約10分間、照射面積は約1mm2である。この後、金の微粒子を剥離し、散乱型近接場光学顕微鏡で観察したところ、アルミニウム膜中に約0.8nm径の酸化アルミニウムが析出された。
【0018】
<実施例4>
SiO膜を蒸着せずにコアシェルタイプの粒子径20nmのクエン酸タイプ金ナノ粒子を用いて、その他の条件は実施例3と同様の手法で実施したところ、約0.8nm径の酸化アルミニウムが析出された。
【0019】
<実施例5>
平板ガラス基板上にポリジアセチレン膜を膜厚0.2μmで作製し、絶縁層としてSiOを0.2nm蒸着した。その上に4nmの白金粒子を並べた。温度を室温から徐々に上げ摂氏110度に保ち、その上から膜全面に波長約440nm、パルス幅約5nsecの色素レーザーを1回照射した。この後、白金粒子を剥離し、チップエンハンストラマン分光で1500cm−1のピーク強度でマッピングした結果、約1nmの粒子ができていることが観測された。なお([Fe(2−pic)3]Cl2・EtOHや (EDO−TTF)2PF6でも同様の結果を得た。
【0020】
<比較例1>
SiO膜厚を10nmにし、その他の条件は実施例3と同様の手法で実施したところ、酸化アルミニウムは析出されなかった。
【0021】
<比較例2>
SiO膜を蒸着せずに、20nmの金単体のナノ粒子を用い、その他の条件は実施例3と同様の手法で実施したところ、酸化アルミニウムは析出されなかった。
【0022】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるのではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態にわたる全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、1nm以下のナノ粒子を規則的に広い面積で形成した粒子基板および粒子基板の製造方法を提供することができ、用途としては単一電子トランジスタや単一電子メモリ、波動関数制御を利用した量子コンピュータが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の製造過程を示す全体の流れを示すフローチャート
【図2】本発明の製造過程を概念的に表した図
【符号の説明】
【0025】
1・・・基板
2・・・析出層
3・・・絶縁層
4・・・金属粒子層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含む析出層を表面に有する基板を用意し、
前記基板表面からほぼ一定距離の絶縁層を隔てて、ほぼ一様に金属粒子群を配列した粒子層を形成し、
前記粒子層に対して、前記絶縁層とは反対側から光を照射して、前記粒子層の前記絶縁層側の金属粒子端にプラズモンを発生させ、
当該プラズモンに対応して、前記析出層の金属もしくは当該金属の酸化物である粒子群をほぼ一様に析出させることを特徴とした
粒子基板の製造方法。
【請求項2】
前記粒子層の表面を有機物で被覆することにより、前記絶縁層を形成することを特徴とした
請求項1に記載の粒子基板の製造方法。
【請求項3】
前記粒子群の析出後に、粒子層を剥離することを特徴とした
請求項1、2に記載の粒子基板の製造方法。
【請求項4】
照射する光は前記金属粒子の吸収波長の光であることを特徴とした
請求項1〜3に記載の粒子基板の製造方法。
【請求項5】
前記粒子層はAg、Au、Cuから選択されることを特徴とした
請求項1〜4記載の粒子基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の製造方法を用いて作製されたことを特徴とする粒子基板。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−223015(P2007−223015A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50403(P2006−50403)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】