説明

粒子測定装置および粒子測定方法

【課題】
試料中の粒子から血小板凝集塊を区別して計数することができる粒子測定装置。
【解決手段】
全血試料と蛍光試薬を混合して全血試料中の粒子が蛍光染色された試料液を調製する試料液調製手段と、蛍光染色された試料液中の各粒子から蛍光強度、散乱光信号強度および散乱光パルス幅を含む特徴パラメータを抽出する特徴パラメータ抽出手段と、各粒子から抽出された蛍光強度と散乱光信号強度に基づいて血小板および血小板凝集塊を含む粒子集団と赤血球とを弁別し、赤血球が弁別された粒子集団の各粒子の散乱光信号強度と散乱光パルス幅に基づいて血小板および血小板凝集塊を弁別し、弁別された血小板凝集塊を計数する解析手段と、を備える粒子測定装置。
【選択図】図

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の粒子から血小板凝集塊を区別して判別することができる粒子測定装置および粒子測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、赤血球、白血球、血小板等の粒子の計数や解析は、フローサイトメータを用いて電気的又は光学的な特徴パラメータを求めることによって行なわれている。一方、血小板の機能低下や機能亢進を調べるために、血小板機能検査が行なわれている。血小板機能検査には、血小板粘着能や血小板放出能など種々の検査があるが、血小板の凝集を調べる血小板凝集能検査がよく実施されている。
【0003】
血小板凝集能検査では、多血小板血漿PRP(Platelet Rich Plasma)中の血小板の凝集の程度を吸光度の変化として測定する吸光度法(日本内科学会雑誌第80巻 第6号:平成3年6月10日)が従来から用いられている。この吸光度法は、一定量のPRPに凝集惹起物質を加え、血小板凝集塊による遮光の度合(吸光度)を測定するものであり、比較的大きな凝集塊(単一血小板が数百個程度凝集したもの)を検出するのに用いられている。
【0004】
一方、突発性血小板減少症等において血小板数が数万/μl以下になる場合がある。また、化学療法や骨髄移植の際には血小板が計数できないレベルにまで減少する。血小板が減少すると血小板輸血や造血剤投与が必要となるが、その際の判断基準として血小板数が用いられている。このように正確な血小板数を得ることは重要なことである(特に血小板低値の場合)。血小板数の測定精度を低下させる要因として、ゴミや細菌や気泡などの粒子成分や電気的ノイズなどの出現が考えられる(以下、ブランクと総称することにする)。例えば、シース液交換直後にシース液中に粒子成分が混入することがある。これらが血小板の信号と類似した信号を発して誤計数されると血小板が偽高値を示すことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血小板凝集能検査に関して、臨床の現場では、成人病の一つである動脈硬化症,高脂血症,糖尿病,高血圧症などの血栓性の疾患において、血小板の機能が亢進することが知られており、血栓となる前のいわゆる血栓準備状態を早期発見することが望まれている。
【0006】
この血栓準備状態では、初期段階として血小板の微弱な凝集(数個程度の凝集)が現れるため、微弱な凝集を検出できる測定方法が必要となる。抗血小板剤の開発や薬剤開発時の安全性試験においても、微弱凝集の検出が望まれている。また、血小板の凝集は、抗凝固剤使用時にも検体により生じることがある。血小板凝集が発生すると、血小板の計数が正確にできず、血小板数の偽低値や網血小板の偽高値が生じていた。
【0007】
そこで、この発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであり、血小板凝集塊を他の粒子から判別して計数することができる粒子測定装置および粒子測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、全血試料と蛍光試薬を混合して全血試料中の粒子が蛍光染色された試料液を調製する試料液調製手段と、蛍光染色された試料液中の各粒子から蛍光強度、散乱光信号強度および散乱光パルス幅を含む特徴パラメータを抽出する特徴パラメータ抽出手段と、各粒子から抽出された蛍光強度と散乱光信号強度に基づいて血小板および血小板凝集塊を含む粒子集団と赤血球とを弁別し、赤血球が弁別された粒子集団の各粒子の散乱光信号強度と散乱光パルス幅に基づいて血小板および血小板凝集塊を弁別し、弁別された血小板凝集塊を計数する解析手段とを備える粒子測定装置を提供するものである
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特徴パラメータをもとに作成された分布図上に分布する粒子の分布集団から、血小板凝集塊を精度よく判別して計数することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳述する。なお、これによってこの発明が限定されるものではない。この発明が対象とする粒子は、血液や尿に含まれる血球や細胞を主としているが、酵母菌や乳酸菌等の微生物等を測定対象としてもよい。特に、この発明では、血液中に含まれる血小板の凝集塊や血小板を測定対象とする。
【0011】
血球や細胞の種類を分類するために、細胞内の顆粒や核酸等を特異的な蛍光試薬と反応させ、その蛍光強度を計測することがある。ここで、特に血小板を赤血球や白血球から弁別するために使用可能な蛍光試薬としては、オーラミンO、アクリジンオレンジ、プロピディウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、ヘキスト33342、ピロニンY、ローダミン123などがある。このような蛍光試薬を用いれば、血液中に含まれる血小板の凝集塊の蛍光強度の測定を好適に行うことができる。
【0012】
特徴パラメータ抽出手段は、前記した粒子の特徴パラメータを電気的あるいは光学的に抽出する手段である。たとえば、粒子を含む試料液をシース液で包んで流すシースフローセル、細流化された試料液に光を照射する光照射手段、粒子によって散乱された光を検出して電気信号を出力する検出手段からなる。
【0013】
シースフローセルは、粒子を含む試料液をシース液で包んで流すことにより流体力学的効果によって細い試料液の流れを形成させることのできる器具であり、これには、従来から公知のものを用いることができる。
【0014】
光照射手段は、レーザ、ハロゲンランプ又はタングステンランプのような連続的に光を照射する連続光源を用いることができる。検出手段としては、電気的検出によるもの、光学的検出によるものなどを用いることができる。例えば、光照射手段によって照明された粒子を光学的に検出し粒子の散乱光や蛍光などの光の強度を示す電気信号を出力する光検出手段(例えば、フォトダイオード,フォトトランジスタまたはフォトマルチプライヤチューブ)を用いることができる。
【0015】
検出手段から出力された電気信号は、後の計数処理などのために、A/D変換されて、RAM等の記憶手段に粒子の特徴パラメータとして記憶される。
【0016】
また、必要に応じて、粒子の画像を撮影する撮影手段を備えてもよい。撮影手段は、2次元画像を撮影するビデオカメラが通常使用されるが、微弱な蛍光像を増幅するイメージインテンシファイアを使用してもよい。さらに、そのイメージインテンシファイアにはシャッター手段を備えてもよい。
【0017】
また、粒子撮影のために試料流に光を照射する光源を備えるのが好ましいが、これには、レーザ,ハロゲンランプ又はタングステンランプのような連続的に光を照射する連続光源、又はパルスレーザ(例えば、Spectra-Physics 社製、7000シリーズ)やマルチストロボ(例えば、(株)菅原研究所製、DSXシリーズ)のような断続的に光を照射する断続光源を用いることができる。
【0018】
粒子撮影のために連続光源を用いる場合には、通常、光シャッターを組合わせて断続光源として用いることが好ましい。そして、光シャッターとしては、公知の音響光学効果素子(acounsto-optic modulator)又は電気光学効果素子(electro-optic modulator)などを用いることができる。この光源と撮影手段とは、シースフローセルを挟んで配置され、試料流に対して直交するように光源から光が照射され、その光軸上に撮影手段が配置されることが好ましい。
【0019】
また、この発明の解析手段は、CPU,ROM,RAM,タイマー,I/Oインタフェース等からなるマイクロコンピュータによって構成でき、各手段の機能は、CPUがRAM等に記憶されたプログラムの手順に従って動作することによって実行される。
【0020】
分布図作成手段は、2つの特徴パラメータに基づく分布図を作成するものであるが、この分布図を通常2次元スキャッタグラムと呼ぶ。たとえば、2次元スキャッタグラムは、縦軸に前方散乱光信号強度(FSC)をとり、横軸に蛍光強度(FL)をとって各粒子の点をプロットして作成される。
【0021】
また、縦軸に前方散乱光信号強度(FSC)をとり、横軸に前方散乱光パルス幅(FSW)をとって作成することもできる。一般に、前方散乱光信号強度(FSC)は粒子の大きさ、前方散乱光パルス幅(FSW)は粒子の長さ,蛍光強度(FL)は粒子のRNA含有量を表わすものである。
【0022】
分布図が作成されると、一般的に粒子の種類ごとに分布集団が形成されるが、統計学的手法により、その分布図をそれぞれの粒子の分布集団の領域ごとに分画することができる。特開平1−308964号公報に記載された「二次元分布分画方法」を用いることができる。
【0023】
また、分画手段によって分画された粒子の分布集団は、特定の形状を有する分布を示す場合があり、たとえば特定の直線上あるいは曲線上にほぼ整列して分布する場合がある。ある粒子の分布集団が分布図上の特定の曲線上にほぼ整列して分布する場合に、この曲線を、推定曲線あるいは判別曲線と呼ぶ。たとえば、後述するように、前方散乱光信号強度(FSC)と前方散乱光パルス幅(FSW)によって示される血小板の分布集団は、sin2xの関数として表わされる推定曲線上に整列する。
【0024】
判別手段は、この推定曲線上に整列する分布集団から所定の距離だけ離れた領域に存在する粒子をある場合には着目する特異な粒子と判別することができ、また別の場合には着目しない特異な粒子と判別することができる。
【0025】
たとえば、判別手段が推定曲線を中心として分布する血小板の粒子集団の度数分布を求め、計数手段が、推定曲線からこの度数分布の平均値+2×標準偏差の距離以上離れた領域(これを第2領域と呼ぶ)に存在する粒子を計数する。 後述するように、血小板の分布集団について計数された上記第2領域に存在する粒子は、信号のパルス高さの割にパルス幅が長く、推定曲線上に乗らない集団であり血小板の凝集塊となる。これは、撮影手段による粒子の画像撮影により確認されている。
【0026】
この発明の粒子測定装置の一実施例における光学系の部分を図1に示す。この実施例では、散乱光や蛍光を検出するための連続発生レーザ光源21と、粒子画像を撮像するためのパルス光源8との2つの光源を設けている。この2つの光源21,8からの光L1,L2は、シースフローセル5(図1では紙面に直角方向に試料流が流れる)に対して互いに直交するように90°交差させて照射している。
【0027】
また、この実施例では、粒子画像を撮像するためのパルス光は、図2に示すようにシースフローセル5内の試料流に対して、連続発生レーザ光源21の照射位置より(例えば0.5mm程度)下流側に照射するようにしている。このような照射位置をずらすことによって、細胞による散乱光や蛍光に影響されない明瞭な粒子画像を撮像することができる。
【0028】
連続発生レーザ光は、コンデンサレンズ24によって細く絞られてシースフローセル5に導かれた試料流に照射される。この照射領域に粒子が流れてくると、その粒子による散乱光や蛍光が集光レンズ25によって集められ、散乱光はダイクロイックミラー26によって反射され、フォトダイオード27で受光される。緑色,赤色の蛍光は、それぞれダイクロイックミラー28,ミラー29によって反射され、光電子増倍管30,31で受光,増倍される。
【0029】
フォトダイオード27,光電子増倍管30,31によって検出された散乱光強度信号S1および蛍光強度信号S2,S3は、図示していない信号処理装置に渡され、各検出信号パルスの高さ,面積,幅等の情報がA/D変換されたデータとして得られる。たとえば、信号処理装置により、散乱光強度a,信号パルス幅b,緑蛍光強度c,赤蛍光強度dの4つの特徴パラメータが得られる。そして、それらのパラメータを用いて各粒子の種類を実時間で同定する。
【0030】
ビデオカメラによる粒子画像の撮影は、あらかじめ撮影対象として指定された種類の粒子(たとえば血小板)だけを選別して行うようにすることもできる。すなわち、ある粒子の特徴パラメータが、撮影対象としている種類の粒子の特徴パラメータに合致しているかどうかを実時間で比較し、その結果撮影対象としている粒子であると判定されれば、その粒子を撮像するための発光トリガ信号をパルス光源8に対して供給する。
【0031】
パルス光源8は、発光トリガ信号Tsによって一瞬だけ(数十ナノ秒程度)発光するタイプの光源であり、試料流の流速が数m/秒と高速であっても、流れる粒子をブレ無く撮像することができる。パルス光は図2に示すように、光ファイバー22でシースフローセル5へ導かれ、コンデンサレンズ23によって細く絞られて試料流に照射される。光ファイバー22を介して照射することにより、パルス光のコヒーレンシーが落ち、回折縞の少ない粒子画像を撮像することができる。試料流を透過したパルス光は、投影レンズ24によってビデオカメラ10の受光面に結像され、細胞の透過光像が撮像される。ビデオカメラ10からのビデオ信号Vsは画像処理装置11に渡され、ディジタル画像として記憶,保存される。
【0032】
また、画像処理装置11では、記憶された粒子画像を解析し、粒子像のエッジ抽出,面積,円相当径,円形度などの画像パラメータが算出される。なお、この発明では、パルス光源8,ビデオカメラ10,画像処理装置11は、粒子の画像を撮影して、測定された粒子が血小板,分裂赤血球,あるいは分裂白血球であるかどうか、さらにはゴミなどの不要粒子であるかを確認するために用いられる付随的な装置であり、2次元スキャッタグラムの作成や各粒子領域の分画処理には直接寄与していない。
【0033】
散乱光強度や蛍光強度等の特徴パラメータa〜dのパラメータが組合せられ、2次元スキャッタグラムの作成,表示が行われ、さらに所定の粒子の分画,粒子数の算出が行われる。以上が、この発明の粒子測定装置の構成の概要である。
【0034】
次に、この発明の粒子測定装置を、血小板を含む血液試料に適用し、血小板の凝集塊の検出,計数をする実施例について説明する。この場合、着目粒子は血小板凝集塊であり、非着目粒子は例えば未凝集の血小板(網血小板も含む)である。図3に、この発明の血小板凝集の検出フローチャートを示す。主として、次のS1からS4までの4つの処理からなる。
【0035】
前処理S1:全血試料200μLが、この発明の測定装置内に吸引され、そのうちの10μLがこの測定に使用される。測定に使用される試料は、直ちに40μLの2.6%オーラミンO試薬溶液(95.9% エチレングリコール)と、1950μLの希釈液(バッファ)と混合される。この混合によって、血小板は非常に短い時間内に蛍光染色される。
【0036】
検出処理S2:前処理S1にて混合され蛍光染色された試料液2.8μLは、シースフローセルにおいて、488nmのアルゴンイオンレーザ光線が照射される。試料液中の各粒子で散乱されたレーザ光は、フォトダイオードとフォトマルチプライヤにおいて光電変換され、前方散乱光強度(FSC)と蛍光強度(FL)とが測定される。光電変換された電気信号は、ピーク値においてサンプルホールドされ、さらにA/D変換されて、特徴パラメータとして信号処理装置に与えられる。そして、前方散乱光パルス幅FSWは、前記FSCの時間的情報を解析することによって求められる。
【0037】
解析処理S3:蛍光強度FLをX軸に、前方散乱光強度FSCをY軸にとった第1のスキャッタグラムAと、前方散乱光パルス幅FSWをX軸に、前方散乱光強度FSCをY軸にとった第2のスキャッタグラムBを作成し、これらのスキャッタグラム上において各粒子集団を分画し、分画した領域内のドット数をカウントすることによって凝集率等を算出する。この解析処理については後述する。
【0038】
出力処理S4:解析処理S3で算出された凝集率等の結果やスキャッタグラムを、表示あるいは印刷装置に出力する。以上が、この発明のフローチャートであるが、4つの処理(S1からS4)が、各検体ごとに繰り返され、各検体ごとに血小板の凝集率等が求められる。これらの4つの処理は、信号処理装置内のマイクロコンピュータによって実現できる。
【0039】
図4に、解析処理S3のフローチャートを示す。信号処理装置において、蛍光強度FLをX軸、前方散乱光強度FSCをY軸とした第1のスキャッタグラムAをRAM上に展開して作成する(ステップS5)。図5に、第1のスキャッタグラムAの一実施例を示す。ステップS6において、第1のスキャッタグラムAを赤血球領域と血小板領域の2つに分画する。ここで、分画する方法としては、特願平1−308964号公報に記載された「二次元分布分画方法」を用いることができる。この方法によれば、第1のスキャッタグラムAの左上に存在する赤血球領域と下方部分に存在する血小板領域を分画する分画線を引くことができる。着目粒子である血小板凝集塊は下部の領域に存在している。
【0040】
ステップS7において、第1のスキャッタグラムAの下方部分に存在する血小板領域内の粒子について、前方散乱光パルス幅FSWをX軸,前方散乱光強度FSCをY軸とした第2のスキャッタグラムBをRAM上に展開して作成する。
【0041】
図6に、図5に示した血小板領域内の粒子の分布を示した第2のスキャッタグラムBの一実施例を示す。この図によると、血小板領域内のほとんどの粒子(ここでは未凝集血小板)の分布は、ほぼ一つの曲線上に整列していることがわかる。この曲線を推定曲線と呼ぶ。ステップS8において、この推定曲線を近似的に求める。すなわち、最小二乗法を用いて粒子の分布形状に対応する曲線の関数を求める。ここでは、推定曲線はサイン二乗関数として近似することにする。一般に、フローセルを粒子が通過した時に検出される電気信号はパルス波形として取り出されるが、この波形はサイン二乗関数に近似できることが知られているからである。
【0042】
パルス波形の高さをY,幅をXとすると、パルス高とパルス幅の関係は次式で表わされる。
Y=αsin2X………… (1)
ここで、αは定数であり、パルス高のピーク値(Height)を示す。あるX軸上の一点X1(0<X1<π/2)において、パルスの幅Widthは、次式で表わされる。
Width=π−2X1…………(2)
【0043】
このとき、X1におけるディスクリ位置(Thresh)では、
Thresh=αsin2X1…………(3)
が成立しているので、次式が導かれる。
【0044】
【数1】

【0045】
したがって、パルス高のピーク値Heightは、次式で表わされる。
【0046】
【数2】

【0047】
一方、第2のスキャッタグラムBにおいて、Y軸の前方散乱光強度FSCはパルス高Heightに対応し、X軸の前方散乱光パルス幅FSWはパルス幅Widthに対応している。図6に示した推定曲線は、(5)式をもとに描いたものである。図6によれば、血小板領域の粒子分布は、ほぼこの推定曲線付近に沿っているが、前方散乱光パルス幅FSWが大きくなればなるほど、粒子分布はこの推定曲線から離れていることがわかる。
【0048】
これは、凝集のない血小板は通常円形に近い対称形状であるため、検出される電気信号は左右対称のパルス波形となり、この推定曲線に沿うことを示している。一方、凝集塊は、そのサイズは大きく非対称形状であるため、電気信号のパルス幅が大きくなる。したがって、図6に示すように、パルス幅が大きくなるほど粒子分布は推定曲線の右方にずれる傾向を示し、凝集塊はこの曲線からずれた領域に存在する。このように、パルス幅の大きな粒子の中に凝集塊が存在することは、検出処理S2と連動した粒子の画像撮影によっても確かめられている。
【0049】
次に、ステップS9において、推定曲線付近に分布する血小板の分布集団の度数分布を計算する。すなわち、スキャッタグラムBの推定曲線上の分布集団のドットを累積し、横軸に推定曲線からの距離,縦軸にドット数をプロットした度数分布を作成する。この度数分布から、この分布集団の平均値(AV)と標準偏差(SD)が求められる。
【0050】
ステップS10において、凝集塊判定用の閾値を決定する。閾値は、利用者が入力してもよく、または、RAM等に予め設定しておいてもよい。ここでは、度数分布より、平均値+標準偏差×2(AV+2SD)の地点を閾値とし、これを超える領域に凝集塊が含まれると考えることにする。
【0051】
ステップS11において、AV+2SDを超える領域に存在するドットを計数する。ここで計数されたドット数を凝集塊の個数$Aggと定義する。ステップS12において、血小板の凝集率Agg%及び凝集濃度Agg#等を計算する。
【0052】
スキャッタグラムAで求められた血小板領域内の総ドット数を$PLTとすると、凝集率Agg%は次式で求められる。
Agg%=$Agg/$PLT×100…………(6)
全血における血小板数PLT#(個数/μL)は、次式より求められる。
PLT#=$PLT÷分析試料容積÷希釈倍率…………(7)
さらに、凝集濃度Agg#は次式より求められる。
Agg#=PLT#×Agg%÷100…………(8)
【0053】
図6に示したスキャッタグラムBにおいては、各数値は次のように求められる。
$Agg=18
$PLT=1059
Agg%=1.7(%)
すなわち、血小板の凝集塊は全血小板数の約1.7%で、PLT#=250×103(個数/μL)であったとすると、4250(個/μL)程度存在していることがわかる。
【0054】
図6のスキャッタグラムでは、X軸の右方向にいくほど凝集塊は大きいことが知られている。図6に示すように、凝集塊領域を3等分するように、2つの閾値曲線を設定し、それぞれの領域を大凝集塊L−Agg,中凝集塊M−Agg,小凝集塊S−Aggと定義する。また、この3つの領域の凝集率を、それぞれL−Agg%,M−Agg%,S−Agg%とする。
【0055】
凝集塊領域に含まれる粒子数(Agg#)に対する各領域の粒子数の比率を求めることによって、図6の検体においては、L−Agg%=0.0%,M−Agg%=0.7%,S−Agg%=99.3%となる。小凝集塊S−Aggの領域は、画像撮影によれば2〜4個程度の凝集塊が存在する領域であり、いわゆる微弱凝集の領域と定義できる。したがって、各検体について、前記したのと同様の手順によって小凝集塊S−Aggの領域の粒子数及び凝集率を求めることによって、血小板の微弱凝集の検出が可能である。
【0056】
次に、この発明の粒子測定装置を、血小板を含む血液試料に適用し、血小板を正しく検出、計数する実施例について説明する。この場合、着目粒子は血小板(網血小板を含む)であり、着目粒子の検出を阻害する非着目粒子は例えばブランクである。
【0057】
フローサイトメータにおけるレーザビーム強度はガウシャン分布を呈しており、フローセルの中心において短径(流れ方向の径)が例えば8μm、長径(流れと直交する方向)が例えば200μmの楕円形状に集光されている。これは試料流中の粒子の位置によってレーザビームの照射強度が変わることのないようにするためである。ところでレーザビームは試料流の外側のシース液流にも照射されている。もし、シース液中にゴミや気泡が混入していると、それら粒子により発生した光信号を光検出器で検出してしまう。フローセルを流れるシース液量は試料液量よりも圧倒的に多いのでわずかな粒子成分が混入しているだけでも問題となる。フィルタを使ってシース液中の粒子成分を除去することも考えられるが流体系が複雑になる。そこで信号処理の面からこの問題を解決する。
【0058】
シース液及び試料液はフローセル内で層流を形成しており、フローセル内壁付近を通過する粒子は中心流速の約半分の速度になる。すなわちシース液流中の粒子の流速は試料流中の粒子の流速より遅い。このことから、シース液中に混在する粒子は試料液中の粒子に比べてパルス高さの割にパルス幅が大きい信号となり、両者を識別することは可能となる。ショットノイズは、装置内の電気素子や電気回路、或いは外部からのノイズによって生じるものである。これらのノイズ信号は高周波成分を含んでいるため、粒子信号と比べるとパルス高の割にはパルス幅は小さい。よって両者を識別することは可能となる。
【0059】
以下、解析処理について説明する。図7に、この実施例における解析処理のフローチャートを示す。まず、第1のスキャッタグラムCを作成する(ステップS5)。図8(a)に、この第1のスキャッタグラムCの一実施例を示す。このスキャッタグラムCは、意図的にシース液中に微小粒子成分を混入させて血液を測定して得られたものである。血小板領域からブランクが出現する可能性のあるブランク領域を細分画する(ステップS13)。ここではブランク領域を血小板領域において原点に近い領域とした。
【0060】
次に、ブランク領域の粒子について第2のスキャッタグラムDを作成する(ステップS7)。図8(b)に、第2のスキャッグラムDの一実施例を示す。推定曲線から離れた領域の粒子をブランクと判別し、集団と区別する。血小板はフローセル中央を高速に流れ対称形状であり推定曲線に沿う。一方、シース液中の粒子はフローセルを低速に流れるので推定曲線の右方に分布する。パルス幅の狭いノイズ信号が存在していれば推定曲線の左方に分布する。ブランクと判別された粒子数を計数し、第1のスキャッタグラムCの血小板領域の粒子数から減算し血小板数を得る(ステップS14)。血小板数は、上記ブランク判別を行わない場合には19.0〔×104/μl〕であったが、ブランク判別した場合には16.1〔×104/μl〕であった。
【0061】
この実施例に、撮影用のパルスレーザ及びビデオカメラからなる撮像部、その撮像部を動作させるための撮像制御部及び得られた画像を画像処理する画像処理部を搭載し、光検出手段で得られた粒子信号から特徴パラメータを抽出しその特徴パラメータの値に基づいて試料流領域を撮影してもよい。当該粒子が試料流中に存在していた場合には画像中にその粒子が写っているが、当該粒子がシース液中に存在していた場合には粒子像が写っていない画像となる。そこで画像処理部において撮像画像中に粒子があるかないかを判別基準として粒子の種類を判別する。
【0062】
この粒子撮像、画像判定機能を搭載することにより、一層精度よく粒子を判別することができる。具体的には、粒子から得られた3つの特徴パラメータが、スキャッタグラムCの上記ブランク領域でかつスキャッタグラムDの推定曲線から離れた上記領域に該当するものである場合に、その検知情報に基づき撮像装置を動作させ試料流領域の静止画像を得る。画像処理部によって、もしその画像中に粒子像が存在していなければシース液中のブランクであると判定し、粒子像が存在していれば血小板(例えば歪んだ形状の血小板)と判定することができる。今仮に、上記スキャッタグラムDの推定曲線から離れた領域内に存在するN個の粒子に対してG個撮像しそのうちg個が血小板であったと判定されれば、上記領域内にはN・g/G個の血小板が存在すると換算できる。そこでその値を血小板数として加算すれば、より一層高精度に血小板数を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明の測定装置における光学系の部分の構成図である。
【図2】この発明の測定装置におけるフローセル部分の構成図である。
【図3】この発明の血小板凝集の検出のフローチャートである。
【図4】この発明の解析処理S3のフローチャートである。
【図5】この発明に関するスキャッタグラムの一実施例である。
【図6】図5における血小板領域についてのスキャッタグラムである。
【図7】この発明の実施例における解析処理のフローチャートである。
【図8】この発明の実施例におけるスキャッタグラムC及びDである。
【符号の説明】
【0064】
5 シースフローセル
8 パルス光源
9 投影レンズ
10 ビデオカメラ
11 画像処理装置
21 連続発光レーザ
22 光ファイバー
23 コンデンサレンズ
24 コンデンサレンズ
25 集光レンズ
26 ダイクロイックミラー
27 フォトダイオード
28 ダイクロイックミラー
29 ミラー
30 光電子増倍管
31 光電子増倍管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全血試料と蛍光試薬を混合して全血試料中の粒子が蛍光染色された試料液を調製する試料液調製手段と、
蛍光染色された試料液中の各粒子から蛍光強度、散乱光信号強度および散乱光パルス幅を含む特徴パラメータを抽出する特徴パラメータ抽出手段と、
各粒子から抽出された蛍光強度と散乱光信号強度に基づいて血小板および血小板凝集塊を含む粒子集団と赤血球とを弁別し、赤血球が弁別された粒子集団の各粒子の散乱光信号強度と散乱光パルス幅に基づいて血小板と血小板凝集塊とを弁別し、弁別された血小板凝集塊を計数する解析手段と、を備える粒子測定装置。
【請求項2】
前記特徴パラメータ抽出手段が、前記試料液をシース液で包んで試料液の流れを形成するシースフローセル、前記試料液の流れに光を照射する光照射手段、前記試料液流中の粒子から蛍光を検出する第1光検出手段および試料液流中の粒子から散乱光を検出する第2光検出手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の粒子測定装置。
【請求項3】
前記解析手段が、前記蛍光強度および前記散乱光信号強度に基づいて赤血球領域と血小板領域が設定された第1の分布図を作成し、前記赤血球領域に赤血球が分画され、前記血小板領域に血小板および血小板凝集塊が分画される請求項1または2に記載の粒子測定装置。
【請求項4】
前記解析手段が、前記散乱光信号強度および前記散乱光パルス幅に基づいて少なくとも血小板凝集塊領域が設定された第2の分布図を作成し、前記血小板凝集塊領域に血小板凝集塊が分画される請求項1〜3の何れか1項に記載の粒子測定装置。
【請求項5】
前記第1の分布図および/または第2の分布図を出力する出力手段を備えたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の粒子測定装置。
【請求項6】
前記解析手段が血小板数を計数することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の粒子測定装置。
【請求項7】
全血試料と蛍光試薬を混合して全血試料中の粒子が蛍光染色された試料液を調製し、
蛍光染色された試料液中の各粒子から蛍光強度、散乱光信号強度および散乱光パルス幅を含む特徴パラメータを抽出し、
各粒子から抽出された蛍光強度と散乱光信号強度に基づいて血小板および血小板凝集塊を含む粒子集団と赤血球とを弁別し、赤血球が弁別された粒子集団の各粒子の散乱光信号強度と散乱光パルス幅に基づいて血小板と血小板凝集塊とを弁別し、弁別された血小板凝集塊を計数することを特徴とする粒子測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−169916(P2011−169916A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102802(P2011−102802)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【分割の表示】特願2008−222625(P2008−222625)の分割
【原出願日】平成10年4月24日(1998.4.24)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】