説明

粒子線治療システム

【課題】
陽子や炭素イオン等の荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線治療システムにおいて、一つの照射ノズルで複数の照射法を実現することを課題とする。
【解決手段】
ビーム発生装置25と、治療室に配置され、荷電粒子ビームの照射野を形成する照射野形成装置18と、ビーム発生装置25から出射された荷電粒子ビームを照射野形成装置18に輸送するビーム輸送装置22とを備え、照射野形成装置18は、ガスチェンバーを有する第1照射部17aと、荷電粒子ビームの散乱量を調整する散乱体を有する第2照射部17bとを備え、照射野形成装置18内のビーム軸上に、第2照射部17b又は内部が不活性ガスで満たされたガスチェンバーを有する第1照射部17aのいずれかが配置されるように切り替え制御する制御装置19を備えることによって、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽子または炭素イオン等の荷電粒子ビーム(イオンビーム)を照射対象に出射する粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガン等の治療方法として、陽子または炭素イオン等の荷電粒子ビーム(以下、ビーム)を患者の患部に照射する方法が知られている。粒子線治療システムは、荷電粒子ビーム発生装置,ビーム輸送装置および照射野形成装置(以下、照射ノズル)を有する。荷電粒子ビーム発生装置は、周回軌道に沿って周回するビームを所望のエネルギーまで加速する。
目標のエネルギーまで加速されたビームが、ビーム輸送装置を経て照射装置に輸送され、照射装置から出射される。出射されたイオンが、治療室内の患者の患部に照射される。
【0003】
粒子線治療システムにおける荷電粒子ビームの照射方法として、スキャニング照射法や散乱体照射法がある。
【0004】
スキャニング照射法は、患者の体表面からの深さ方向(ビームの進行方向)に患部を複数の層に分割し、各層に分けてビームを照射する。スキャニング照射法の場合、細いビームを照射領域内でスキャニングするための一対の走査電磁石が、照射装置内に設けられる。ビームのエネルギーを変更することによって、ビームを照射する層(ビーム進行方向の照射位置)を変更し、走査電磁石の励磁量を変更することによって、ビームの進行方向と垂直な面の照射位置を変更する。このように、ビームを走査して、患者に必要な粒子線照射野をつくる。スキャニング照射法は、他の照射方法で必要となるボーラス等の機器を必要としないため、照射装置内のビーム経路上に配置すべき機器を少なくできるという利点を持つ。スキャニング照射法では、ビームの照射位置の精度を高めることが必要となる。
例えば、照射装置内に空気が存在する場合、ビームが空気によって散乱されるため、ビームが広がり、患部以外の正常組織に高線量が付与されてしまう。特許文献1では、空気によるビームの散乱を低減するために、Heガスといった粒子の散乱が小さいガスを充填したガスチェンバーを、照射ノズル内のビーム軸上に設置する。このような構成の場合、スキャニング照射法を行う照射ノズルの内部では、ビーム経路の大部分をガスチェンバーが占有していた。
【0005】
散乱体照射法の場合、照射装置内に散乱体,拡大ブラッグピーク形成フィルタ,コリメータ,ボーラスといった機器を設置する。これらの機器を用いてビームのエネルギー分布およびビーム形状を成形し、患部形状に適した粒子線照射野を形成する。散乱体照射法は、スキャニング照射法と比べて一般的に高い線量率を実現できる。また、散乱体照射法では、空気によるビームの散乱を抑制する必要がないため、スキャニング照射法のように照射装置内にガスチェンバーを搭載する必要がない。散乱体照射法には、ウォブラー照射法や2重散乱体照射法等が含まれる。
【0006】
以上のように、スキャニング照射法と散乱体照射法では、照射装置内の構成が異なるため、一つの粒子線照射システムで複数の照射方式を実現することは困難であった。特許文献2では、複数の治療室を設け、一部の治療室にスキャニング方式の照射装置を設置し、他の治療室に散乱体方式の照射装置を設定して複数の照射法を実現している。しかし、粒子線治療システムが大型化し、システム全体のコストが増大してしまう。
【0007】
【特許文献1】特開2007−229025号公報
【特許文献2】特開2007−268031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スキャニング照射法は、照射ノズル内に設置した電磁石を用いて細い径のビームを走査することにより、患部形状に合致した線量分布を形成できる。また、スキャニング照射法では、通常患者ごとに用意されるボーラスなどの機器を必要としない。しかしながら患部をなぞるように細い径のビームを走査するという特徴から、大きな患部に対しては照射時間が長くなってしまう。そこで、大きな患部に対しては、散乱体,拡大ブラッグピーク形成フィルタ,コリメータ,ボーラスなどの機器を用いてビームの照射野を形成する照射法等がより適当である。このように、患部の大きさによって効率的な照射法は異なる。よって、常に効率的にビームの照射を行うために、粒子線治療システムでは照射法が患者ごとに切り替えられる必要がある。前述のように、ある照射ノズルがスキャニング照射法を行う場合、その照射ノズル内部のビーム経路の大部分はガスチェンバーで占有される必要があるため、一つの照射ノズル内に追加で散乱体等の機器を搭載することは難しい。よって、一つの照射ノズルで異なる二つの照射法を共用し、かつ容易に切り替えることは難しかった。
【0009】
本発明の目的は、一つの照射ノズルで複数の照射法を実現できる粒子線治療システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、荷電粒子ビームを設定されたエネルギーまで加速するビーム発生装置と、治療室に配置され、荷電粒子ビームの照射野を形成する照射野形成装置と、ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを照射野形成装置に輸送するビーム輸送装置とを備え、照射野形成装置は、照射野形成装置に入射された荷電粒子ビームを走査する電磁石と、ガスチェンバーを有する第1照射部と、荷電粒子ビームの散乱量を調整する散乱体を有する第2照射部とを備え、照射野形成装置内のビーム軸上に、第2照射部又は内部が不活性ガスで満たされたガスチェンバーを有する第1照射部のいずれかが配置されるように切り替え制御する制御装置を備えることにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一つの照射ノズルで複数の照射法を実現できるため、粒子線治療システムを小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施例である粒子線治療装置を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
本実施例では、粒子線治療装置の1種である陽子線治療装置100を例に、図1を用いて説明する。陽子線治療装置100は、陽子ビーム(以下、ビーム)発生装置25,ビーム輸送装置22および回転式の照射装置20を有する。ビーム発生装置25は、イオン源(図示せず),前段加速器(例えば直線加速器)26及びシンクロトロン24を有する。
照射装置20は、回転ガントリー(図示せず)及び照射野形成装置(以下、照射ノズル)18を有する。照射ノズル18は、回転ガントリーに設置され、回転ガントリーの回転と共に回転する。また、照射ノズル18は、治療室に配置され、ビームの照射野を形成する。ビーム輸送装置22は、ビーム発生装置25で生成されたビームを照射装置20に輸送する。本実施例では陽子線治療装置を採用したが、炭素イオン等を用いる重粒子線治療装置を用いた場合にも同様の効果を得ることができる。
【0014】
イオン源で発生した陽子イオンは前段加速器26で加速される。前段加速器26から出射されたビームは、シンクロトロン24で所定のエネルギーまで加速された後、出射用デフレクタ23からビーム輸送装置22のビーム経路21に出射される。このビームは、ビーム経路21を経て回転式の照射装置20に導かれ、照射装置20から出射される。出射されたビームが、治療室のベッド16上に横たわっている患者15の患部(例えば、ガンや腫瘍)に照射される。ビーム経路21の一部は、回転ガントリーに取り付けられている。また、本実施例では、陽子イオンを加速する加速器としてシンクロトロンを採用したが、サイクロトロンを用いた場合にも同様の効果を得る事ができる。また、本実施例では、回転式の照射装置20を採用したが、固定式の照射装置であっても同様の効果を得ることができる。
【0015】
照射ノズル18の構成について説明する。照射ノズル18は、図2に示すように、走査電磁石2a,2b,第1ガスチェンバー1a,第1照射部17a,第2照射部17b,コリメータ5,ビームモニタ4a,4b,スノート6及び患者ボーラス7を有する。本実施例の照射ノズル18は、複数の照射部(第1照射部17aと第2照射部17b)を有する。本実施例によれば、一つの治療室に設置された照射装置20で、複数の照射法を実現することができる。第1照射部17aは不活性ガス(Heガス等)で満たされたガスチェンバーを必要とする照射法に用いられ、第2照射部17bはガスチェンバーを必要としない照射法に用いられる。ここで、第1照射部17aがスキャニング照射法に用いられる照射部、第2照射部17bが散乱体照射法に用いられる照射部を例に、説明する。
【0016】
真空ビームダクト8及び真空遮断窓9を通過したビームが、照射ノズル18に入射される。第1ガスチェンバー1aは、ビーム進行方向の上流側(ビーム入口側)の端にガスチェンバー遮蔽窓3aを有し、これにより、第1ガスチェンバー1a内部の気密を保つ。走査電磁石2a及び2bは、鉄心にコイルを巻きつけた構成を有し、第1ガスチェンバー1aを取り囲んで設置される。走査電磁石2aがビーム進行方向の上流側(以下、上流側)、走査電磁石2bがビーム進行方向の下流側(以下、下流側)に設置される。走査電磁石2aがビーム10をX方向に走査し、走査電磁石2bがビーム10をY方向に走査する。
つまり、一対の走査電磁石2a,2bが、ビームの進行方向と垂直な平面内(患部領域)でビームをスキャニングする。ここで、X方向とは、ビームの進行方向と直交する平面における1つの方向をいう。Y方向とは、その平面においてX方向と直交する方向をいう。
【0017】
第1照射部17aは、第2ガスチェンバー1bを有する。第1ガスチェンバー1aと第2ガスチェンバー1bは、対向するそれぞれのフランジをネジ止めして結合されている。
第2ガスチェンバー1bは、第1ガスチェンバー1aの下流側に設置される。第1ガスチェンバー1aと第2ガスチェンバー1bで構成されるガスチェンバー1の内部には、空間が形成されている。隔離窓3bが、第2ガスチェンバー1bの下流側(ビーム出口側)の端に取り付けられ、ガスチェンバー1内の空間と、その外側の領域を隔離している。第2ガスチェンバー1bは、ビーム進行方向に伸縮可能な構成(可動部材)であり、第1ガスチェンバー1aは固定された構成(非可動部材)である。第2ガスチェンバー1bがビーム経路に対して水平方向に伸縮することで、ガスチェンバー1の全長が変化する。すなわち、照射ノズル18のビーム経路に占めるガスチェンバー1の占有率を変化させることができる。
【0018】
第2照射部17bは、回転体11a,回転軸部11b,散乱体12,拡大ブラッグピーク形成フィルタ(SOBP(Spread Out Bragg Peak)フィルタ)13及びレンジシフタ14を有する。回転体11a,散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14が、上流側から順に配置され、それぞれが回転軸部11bに設置される。散乱体12は、ビームの散乱量をコントロールする。SOBPフィルタ13は、深さ方向の線量分布に関して単一エネルギーの粒子線がつくる鋭いブラッグピークを、患部の形状に合わせて拡大する機能をもつ。SOBPフィルタ13は、ビームが垂直に通過する表面に厚みが異なるように作られた階段構造を有する。ビームがSOBPフィルタ13の各段を適切な配分で通過することによって、SOBPフィルタ13を通過する以前には単一エネルギーだったビームに、適切な配分のエネルギー分布を与える。本実施例ではSOBPフィルタ13にリッジフィルタを採用するが、レンジモジュレーショホイールを用いた場合にも同様の効果を得る事ができる。コリメータ5は、患部形状にあわせて、ビーム進行方向に対して垂直な平面内のビームの照射範囲を制限する。ボーラス7は、ビーム進行方向(患部の深さ方向)の患部形状に合うように、ビームの到達深度を調整する。なお、図示していないが、第2照射部17bには、それぞれ複数の散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14が納められており、回転軸部11bに対してそれぞれ独立に回転することができる。第2照射部17bは、可動式の構造物固定治具である。第2照射部17bに納められる機器の配置及び種類は、採用する散乱体照射法によって変更可能である。
【0019】
ビームモニタ4aは、第1ガスチェンバー1aよりも上流側に配置される。ビームモニタ4bは、第2ガスチェンバー1bよりも下流側に配置される。これらモニタは、ビーム照射中に必要なビームの情報に応じて他の構造物に干渉しない程度に任意の数及び任意の位置に設置可能である。ビームモニタとしては、ビームの線量を測定するビーム線量モニタや通過するビームの位置を測定するビーム位置モニタ等がある。
【0020】
ガスチェンバー1内に不活性ガスであるHeガスを供給する充填ガス系統を、図3を用いて説明する。この充填ガス系統は、ガス供給管27,流量調節弁28,フラッシング配管29,ガス排出管30,オリフィス31を有する。ガス供給管27は、第1ガスチェンバー1aに接続される。ガス供給管27は、Heガスが充填されたガスボンベ(ガス貯蔵容器)32と第1ガスチェンバー1aの空間を連絡する。流量調節弁28がガス供給管27に接続される。フラッシング配管29は、流量調節弁28をバイパスして、両端がガス供給管27に設置される。開閉弁33がフラッシング配管29に設けられる。ガスボンベは照射ノズル18のケーシングの外側に取り付けられている。このため、ガス供給管27等もそのケーシングに取り付けられる。ガス排出管30は第2ガスチェンバー1bに接続され、第2ガスチェンバー1b内の空間に連絡される。ガス排出管30は、そのケーシングに取り付けられ、その一部は回転ガントリーにも取り付けられる。バリアブルリークバルブ(微小流量調節弁)及びオリフィス31がガス排出管30に設置される。
【0021】
充填ガス系は、隔離窓3a,3bを保護するための安全系として、圧力スイッチ35及びリリーフ弁36を有する。圧力スイッチ35はガス供給管27に設置される。リリーフ弁36はガス排出管30にも取り付けられる。バッファ領域37がバリアブルリーフバルブ34とオリフィス31の間でガス排出管30内に形成される。微小の差圧下での微小流量調製を容易にするために、バリアブルリークバルブ34およびオリフィス31が設けられ、バッファ領域37が形成されている。本実施例では、ガスチェンバー1内を不活性ガスで満たしたが、ガスチェンバー1の替わりに真空チェンバーを設置し、その内部を真空に保つ構成としても良い。この場合、真空とは、準真空も含む。このように、真空チェンバーの内部を真空に保つことで同様の効果を得る事ができる。その場合、ガス流路系の代わりに、真空ポンプ(図示せず)をガスチェンバー1に設置する。なお、本明細書でのガスチェンバーとは、その内部が不活性ガスで満たされたチェンバー又は内部が準真空に保たれたチェンバーを示す。
【0022】
次に、図4を用いて、本実施例におけるガスチェンバー1の可動機構及び駆動方法について説明する。第2ガスチェンバー1bは、図4(a)に示すように、円筒状の構造を持った節38に分かれており、下流側に行くにしたがって各節38の内径および外径が大きくなっている。第2ガスチェンバー1bが伸縮すると、図4(b)に示すように、節ごとに大きさの異なる円筒状の節38が互いに折り重なる。このように第2ガスチェンバー1bが伸縮することで、ガスチェンバー1の全長を変化させることができる。各節38の内部は、密封シール39および遮蔽窓3a,3bによって外部との気密性が保たれるようになっている。図4(a)は、第1照射部17aを用いてビームを照射するスキャニング照射時のガスチェンバー1の構成を示し、図4(b)は、第2照射部17bを用いてビームを照射する時のガスチェンバー1の構成を示す。なお、図4に示すガスチェンバー1の可動機構に替えて、図5のように、蛇腹構造40の第2ガスチェンバー1bを採用しても良い。第2ガスチェンバー1bが伸縮可動することで、ガスチェンバー1の全長を変更させることができる。また、図4に示すガスチェンバー1の可動機構に替えて、図6のように、伸縮可能で十分な強度を持ったバネ41に伸縮性と強度を備えた布状の素材42で覆った構造を第2ガスチェンバー1bに採用してもよい。これら2つの伸縮機構に関しては、柔軟な素材を用いているため第2ガスチェンバー1b本体にガス排出管を設置するのが難しい。よって、第2ガスチェンバー1bと第2ガスチェンバー1bの下流側の隔離窓3bとの間に、剛体リング43を接続し、この部分に対してガス排出管30を接続する。
【0023】
上記で示した可動する第2ガスチェンバー1bの駆動機構について説明する。駆動方法には、図7(a)に示したモーター駆動が採用できる。第1ガスチェンバー1aの外側に2つのレール44が対向するように固定される。各レール44の上には適切な長さを持った溝付の長軸45が、レール44上をビーム軸方向に移動できるようにそれぞれ固定されている。長軸45には溝があり、モーター46に取り付けたれたギア47aと溝がかみ合うことで、長軸45がビーム経路に沿って移動する。長軸45の下流側の先端部48は、第2ガスチェンバー1bの下流側に取り付けられた遮蔽窓3bまたは剛体リング43または第2ガスチェンバー1b自身に取り付けられている。剛体リング43は、第2ガスチェンバー1bと第2ガスチェンバー1bの下流側の隔離窓3bとの間に接続されている。ギア47aが、レール44上をビーム経路に沿ってビーム軸方向に移動することで、第2ガスチェンバー1b全体を伸縮稼動させる。レール44とモーター46は、走査電磁石2b及び2bと干渉しないように設置される。モーター46の駆動力を伝達させる手段としては、ギア47aの変わりに、図7(b)に示すように、スクリュー47bを用いる方法も有効である。この場合、軸が回転しながらビーム軸方向を上下することで第2ガスチェンバー1bを可動させる。
【0024】
次に、本実施例の照射ノズル18(第1照射部17a)によって実現されるスキャニング照射法の概略を以下に説明する。
【0025】
スキャニング照射法を用いる場合、制御装置19は、照射ノズル18内のビーム軸上に第1照射部17aが配置されているかを確認する。第2照射部17bがビーム軸上に配置されている場合、制御装置19は、ビーム軸外であって、照射ノズル18内のビームが通過する領域外に第2照射部17bを移動する。つまり、回転体11aが、回転軸部11bを中心にビーム軸に対して垂直方向に移動することによって、回転体11aに設置された散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14がビーム軸の外に移動する。第2照射部17bは、第2ガスチェンバー1bが伸縮するときに干渉しない位置まで移動する。制御装置19は、第2照射部17bが所定の位置まで移動したことを確認し、第2ガスチェンバー1bをビーム軸と平行な方向に伸ばす。第2ガスチェンバー1bは、その先端部がビームモニタ4bに達するまで伸ばされる。第2ガスチェンバー1bが所定位置に設置されると、制御装置19は、不活性ガスであるHeガスがガスチェンバー1内に充填されるように流量調節弁28を制御する。ボーラス7はビーム軸上から取り除かれ、コリメータ5は最大に開口される。
【0026】
患者15が横たわっているベッド16が移動され、患部がビーム軸の延長線上に位置するように位置決めされる。スキャニング照射法では、患部をビームの進行方向において複数の層に分割し、各層毎にビームを照射する。照射ノズル18に導かれたビーム10は、1対の走査電磁石2a,2bによって、X方向及びY方向に走査され、ガスチェンバー1内のHeガス雰囲気中を通過する。まず、ある層に対してX方向にビームを走査可能な走査電磁石を励磁し、ビームをX方向の既定位置まで走査する。次に、同様の手順でY方向のビーム走査を行い、治療計画で定めた既定の照射位置への2次元ビーム走査を完了する。移動が完了したらビームの照射を行い、既定の線量を照射し終えた時点でビームを停止させる。照射が完了したら、治療計画に従って走査電磁石の励磁量が変化し、次の既定照射位置に向って再度2次元ビーム走査が行われる。このように、1つの層内でビームを移動・停止させながらビーム照射が行われる。照射位置を離散的に変更して、ビーム照射を行う一連の照射方法をディスクリートスポット走査照射法という。本実施例では、スキャニング照射法のXY方向の照射方法としてディスクリートスポット走査照射法を採用するが、ラスター走査照射法を用いた場合にも同様の効果を得ることができる。ラスター走査照射法とは、走査電磁石の励磁量変更中、すなわちビームの照射位置変更中にもビームを照射し続けることで、連続的なビーム照射を行う方法をいう。
【0027】
スキャニング照射法において、1つの層内での照射が終了すると、シンクロトロン24から出射されるビームのエネルギーが変更される。シンクロトロン24から出射されるビームのエネルギーを低く設定すると、浅い位置にある層内でビーム走査が行われ、前述と同様の陽子線照射が行われる。このように、患部の深さに合わせてビームのエネルギーを調整し、患部形状に合わせて深さ方向のビーム照射を行う(エネルギースタッキング)。
本実施例では、シンクロトロン24で加速するビームのエネルギーを変更する方法を採用したが、任意の厚みを持ったレンジシフタをビーム軸上に挿入させてビームエネルギーを変更することでも、同様の効果を得ることができる。
【0028】
次に、本実施例の照射ノズル18(第2照射部17b)によって実現される散乱体照射法の概略を説明する。散乱体照射法の代表的例であるウォブラー照射法を例に、以下に説明する。
【0029】
ウォブラー照射法を用いる場合、制御装置19は、照射ノズル18内のビーム軸上に第2照射部17bが配置されているかを確認する。第1照射部17aの第2ガスチェンバー1bが伸ばされた状態で設置されている場合、制御装置19は、第2ガスチェンバー1bをビーム進行方向に縮ませる。第2ガスチェンバー1bは、ビーム進行方向に対して伸縮する機能によって、走査電磁石2b下流の所定の位置まで短縮される。このとき、制御装置19は、ガスチェンバー1内の不活性ガスを抜くように制御し、ガスチェンバー1内を空気雰囲気に充填する。制御装置19は、散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14をビーム軸上に配置する。具体的には、回転軸部11bを中心にして回転体11aを回転させ、回転体11a上に設置された散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14をビーム経路上に移動する。それぞれの回転体11aが回転軸部11bに対して独立に回転することで、ビーム照射を受ける患者に最も適した散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14が選択される。なお、コリメータ5は、患部形状に合った適切な形に可動される。ボーラス7は、患部形状に合わせて適切なものが選択され、ビーム軸上に設置される。
【0030】
患者15が横たわっているベッド16が移動され、患部がビーム軸の延長線上に位置するように位置決めされる。ウォブラー照射法では、走査電磁石2a,2bを使ってビームを円形に走査し、ビーム進行方向と垂直な方向に均一な線量分布を形成する。一対の走査電磁石2a,2bには、それぞれ走査電磁石電源(図示せず)が接続される。走査電磁石電源は、患部領域とビームの入射エネルギーに応じて、適切な時間変化量を持った電流を、走査電磁石2a,2bに供給する。具体的には、走査電磁石の電源は、ビームを円形に走査するために、周期的に正負が反転し、位相が90度ずれている最大電流値が等しい交流電流を、それぞれの走査電磁石2a,2bに供給する。このときの最大電流値が、ビームの走査範囲を決めている。走査電磁石2a,2bで走査されたビームは、散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14を通過する。患部の深さに応じてシンクロトロン24から出射するビームのエネルギーを変更し、ビームの到達深度を患部領域と一致させる。コリメータ5は、ビーム進行方向に対して垂直な方向の患部形状に合った適切な形状にビームを形成する。また、ボーラス7は、ビーム進行方向の患部形状に合うように、ビームの到達深度を調整する。この結果、設定された患部領域において照射線量が集中し、可能な限り均一な線量分布の照射野を形成する。
【0031】
本実施例によれば、以下に示す効果を得ることができる。
【0032】
(1)本実施例では、一つの照射ノズル18内に、拡大ブラッグピーク形成フィルタなどの機器を用いて粒子線照射野を形成する照射法とスキャニング照射法の異なる二つの照射法に必要な機器類を搭載できる。またそれら異なる二つの照射法に必要な機器を搭載した照射ノズルは、互いの照射法を容易に切り替えて粒子線照射できる。そのため粒子線治療システムは異なる二つの照射法に対応するために二つのビームライン,治療室、及び照射ノズルを設ける必要がなく、一つのビームライン,治療室、及び照射ノズルで患者の患部の大きさによらない効率のよい粒子線照射を行うことができる。よって従来に比較して粒子線治療システムのコストを低く抑えることができる。また、それに伴って、粒子線治療システムを備えた施設をコンパクトにできる。
【0033】
(2)本実施例では、散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14を回転体11a上に設置し、回転体11aを回転軸部11b中心に回転させることで、ビーム軸上に散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14を配置した。回転体11aには複数の散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14を設置できるため、患者毎に交換する必要はない。なお、散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14を回転して移動させる構成の場合、スライド式で移動させる場合に比べて、ビーム軸に垂直な方向に対する照射ノズル18を小型化できる。
【0034】
(3)本実施例では、第2チェンバーの伸縮部に剛体を用いており、高い強度を備える。従って、チェンバー内を高真空に保つ事ができる。ガスチェンバー内を高真空に保つと、よりビームの散乱が抑えられる。
【0035】
(4)本実施例の図5及び図6に示すガスチェンバーを採用した場合は、ビーム軸方向の各位置における第2ガスチェンバーの径を一定にできる。従って、第2照射部17bの回転軸11をビーム軸に近づける事ができ、コンパクトな照射ノズルを実現する。また、伸縮のための駆動機構もコンパクトに収められる。
【0036】
(5)伸縮機構を持つガスチェンバーを持たない場合、照射ノズルはスキャニング照射時においてビームの散乱を抑える事ができない。従って、本実施例は伸縮機構をもつガスチェンバーを有すため、ビームの広がりを抑えることができ、患部以外の正常組織に高線量が付与することを防止できる。
【実施例2】
【0037】
本実施例の陽子線治療装置100aは、実施例1の陽子線治療装置100において第2ガスチェンバー1bの駆動機構(図7に示すモーター駆動)を、図8に示す油圧駆動に替えた構成を有する。以下、実施例1と異なる構成について説明する。
【0038】
本実施例の第2ガスチェンバー1bは、図8に示すように、駆動方式として油圧シリンダーを利用する。油圧シリンダー49は、走査電磁石2a及び2bに干渉しないように、第1ガスチェンバー1aに取り付けられる。油圧シリンダー49の可動部先端50は、第2ガスチェンバー1bの下流部分に取り付けられた遮蔽窓3bまたは剛体リング43または第2ガスチェンバー1b自身に取り付けられる。剛体リング43は、第2ガスチェンバー1bと第2ガスチェンバー1bの下流側の隔離窓3bとの間に接続されている。油圧シリンダー49がビーム経路に沿ってビーム軸方向に移動することで、第2ガスチェンバー1b全体を伸縮稼動させる。次に、油圧シリンダー49の油圧系51について説明する。
油圧系51は、照射ノズル18のケーシングの外側に設置される。油圧系51は、油圧制御ユニット52,油圧ポンプ53,オイルタンク54,油圧計55,安全弁56を有する。油圧制御ユニット52が、油圧シリンダー49内部の圧力を調整することで、油圧シリンダー49を任意の適切な長さになるように制御する。油圧制御ユニット52が油圧ポンプ53に接続される。油圧ポンプ53は、油圧制御ユニット52の制御にしたがって、適切な量のオイルをオイルタンク54から油圧シリンダー49内に送る。また、油圧制御ユニット52が油圧計55及び安全弁56に接続される。油圧制御ユニット52は、油圧計55を用いて油圧シリンダー49の圧力を測定し、異常な圧力が検出された場合には安全弁56を用いてオイルタンク54にオイルを開放する仕組になっている。
【0039】
本実施例でも、実施例1の(1)〜(5)と同様の効果を得ることができる。さらに、以下の効果を得ることができる。
【0040】
(6)本実施例のように油圧駆動を採用すると、モーター駆動と比較してより安定に重量物を駆動できる。また、油圧駆動は、モーター駆動と同じ力をよりコンパクトな構成で実現できる。従って、安定した第2チェンバーの伸縮を実現する、コンパクトな照射ノズルを構成できる。
【実施例3】
【0041】
本実施例の陽子線治療装置100bは、実施例1の陽子線治療装置100において第2ガスチェンバー1bの駆動機構(図7に示すモーター駆動)を、図9に示す空気シリンダーに替えた構成を有する。以下、実施例1と異なる構成について説明する。
【0042】
本実施例の第2ガスチェンバー1bは、図9に示すように、空気圧シリンダーを利用する。空気圧シリンダー57は、走査電磁石2a及び2bに干渉しないように第1ガスチェンバー1aに取り付けられる。空気圧シリンダー57の可動部先端58は、第2ガスチェンバー1bの下流部遮蔽窓3bまたは剛体リング43または第2ガスチェンバー1b自身に取り付けられる。空気圧シリンダー57がビーム経路に沿ってビーム軸方向に移動することで、第2ガスチェンバー1b全体を伸縮稼動させる。次に、空気圧シリンダー57の空気圧系59について説明する。空気圧シリンダー57の空気圧系59は、照射ノズル18内に設置される。空気圧系59は、空気圧制御ユニット60,圧縮機61,空気圧計62,安全弁63を有する。空気圧制御ユニット60が圧縮機61,空気圧計62,安全弁63に接続される。空気圧制御ユニット60が、空気圧シリンダー57内部の圧力を調整することによって、空気圧シリンダー57を任意の適切な長さになるように制御する。圧縮機61は、空気圧制御ユニット60の制御にしたがって、適切な量の空気を空気圧シリンダー57内に送る。また、空気圧制御ユニット60は、空気圧計62を用いて空気圧シリンダー57の圧力を測定し、異常な圧力が検出された場合には安全弁63を用いて大気中に空気を開放する仕組になっている。なお、上記で述べた実施例1のモーター、実施例2の油圧シリンダー及び実施例3の空気圧シリンダーといった駆動機構以外にも、内部のガス圧を調製することで第2チェンバー1bを伸縮させる構成であってもよい。
【0043】
本実施例でも、実施例1の(1)〜(5)と同様の効果を得ることができる。さらに、以下の効果を得ることができる。
【0044】
(7)空圧駆動は、駆動に用いる流体が空気であるため、空気を供給するホース等を軽くできる。従って、本実施例のように空圧駆動を採用することによって、照射ノズルの重量増加を抑える事ができ、回転ガントリーへの負担を軽減する。また油圧駆動と比較すると、空圧駆動は衝撃に強く、さらにオイル漏れによる照射室の汚染を生じない。
【実施例4】
【0045】
本実施例の陽子線治療装置100cは、実施例1の陽子線治療装置100において第2ガスチェンバー1bの構成を、図10に示す第2ガスチェンバー1cに替えた構成を有する。以下、実施例1と異なる構成について説明する。
【0046】
本実施例では、一つの治療室(または照射装置20)で、複数の照射法(例えば、スキャニング照射法と散乱体照射法)を実現するために、第2ガスチェンバー1cを複数のチェンバー部1dに分割する。各チェンバー部1dは、可動式治具の各回転体11aに設置される。第2ガスチェンバー1cは、各回転体の回転を妨げない長さのチェンバー部1dに分割されている。各チェンバー部1dは、散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14と同様の方法で、回転軸部11bを中心に回転する。第2ガスチェンバー1cは、回転体11aを回転させることで、照射ノズル18内のビーム経路におけるガスチェンバー1の占有率を、実施例1の場合と同様に変化させることがきできる。各チェンバー部1dの両端(上流側と下流側の端)には遮蔽窓3cが設置され、各チェンバー部1cの内部の気密性を保っている。また実施例1では、第2ガスチェンバー1bと第1ガスチェンバー1aはお互いにフランジで接続されていたが、本実施例では第2ガスチェンバー1cと第1ガスチェンバー1aは分割されている。よって第1ガスチェンバー1aの気密性を保つために、第1ガスチェンバー1aの下流側には遮蔽窓(図示せず)が設置される。
【0047】
本実施例においてスキャニング照射法を行う場合、図10(a)のように、ビーム経路上に第2ガスチェンバー1cを配置する。つまり、ビーム軸上に各チェンバー部1dが配置されていない場合、制御装置19は、回転軸部11bを中心に回転体11aを回転させ、各チェンバー部1dをビーム軸に沿って1列に並べる。ビーム経路に沿ってチェンバー部1dが並べられているため、ビーム10は十分長くHeガス中を通過する事ができ、患者に照射されるビーム径の拡大を防ぐことできる。結果、ビーム径が細いビームを使ったスキャニング照射法を可能にする。
【0048】
本実施例において散乱体照射照射法を行う場合、図10(b)のように、回転体11a上のチェンバー部1dは、回転軸部11bを中心に回転することで、ビーム軸外であって照射ノズル18内でビームが通過する領域(ビーム経路)からはずされる。代わりに回転体11aに設置された散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14がビーム経路上に設置される。そのとき、それぞれの回転体11aが回転軸部11bに対して独立に回転することで、ビーム照射を受ける患者に最も適した散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14が選択される。
【0049】
本実施例では、各チェンバー部1dにあらかじめガスを封入して使用する。第2ガスチェンバー1cは散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14と同様に回転体11aから容易に取り外す事ができるため、封入されたガスが漏れて失われた場合、再充填して交換する事ができる。
【0050】
本実施例でも、実施例1の(1)〜(5)と同様の効果を得ることができる。
【0051】
(8)本実施例にように第2ガスチェンバーを分割し、ガスチェンバー1cのような構成にすることで、ガス流路系の必要がなくなる。また、ガスチェンバーやSOBPフィルタといった機器と一緒に第2照射部17bに設置される。従って、新たな可動機構を追加する必要もない。照射ノズルの機器数増加を、抑えることができる。さらに、ガスチェンバーの取り外し及び交換が容易であるため、メンテナンス性が向上する。
【実施例5】
【0052】
本実施例の陽子線治療装置100dは、実施例1の陽子線治療装置100において照射ノズル18を、図11に示す照射ノズル18aに替えた構成を有する。以下、実施例1と異なる構成について説明する。
【0053】
本実施例の照射ノズル18bは、第2ガスチェンバー1bの内部に第2照射部17bを配置する。本実施例の第2ガスチェンバー1bは、実施例1の第2ガスチェンバー1bよりも大きい。このような構成によっても、一つの治療室(または照射装置20)で、複数の照射法(例えば、スキャニング照射法と散乱体照射法)を実現することが可能になる。
【0054】
ガスチェンバー1の第2ガスチェンバー1bを、図11のようにビーム進行方向に対して垂直方向に拡大変形させる。第2ガスチェンバー1bの拡大変形部内には、散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14を設置した第2照射部17b(可動式治具)が納まるようになっている。ガスチェンバー1には、図3に示したようなガス流路系を通して、Heガスが充填される。
【0055】
本実施例において、スキャニング照射法を行う場合は、散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14を納めた可動式治具の回転体11aが回転軸部11bを中心に回転することで、散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14がビーム経路上からはずされる。
【0056】
本実施例において、散乱体照射法を行う場合、第2ガスチェンバー1bの拡大変形部内に設置してある回転体11aが回転軸部11bを中心に回転することで、散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14がビーム経路上に設置される。そのとき、それぞれの回転体11aが回転軸部11bに対して独立に回転することで、ビーム照射を受ける患者に最も適した散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14が選択される。
【0057】
本実施例でも、実施例1の(1)(2)と同様の効果を得ることができる。さらに、以下の効果を得ることができる。
【0058】
(9)本実施例によれば、第2ガスチェンバー1bの中に第2照射部17bを配置するため、照射法を切り替える際に必要な第2ガスチェンバーの可動機構を必要としない。従って、照射ノズルの機器数増加を抑えられる。
【0059】
実施例1乃至実施例5では、散乱体照射法におけるビーム進行方向と垂直な方向にできるだけ均一な線量分布を形成する手段としてウォブラー照射法を採用したが、ディスクリートスポット走査照射法やラスター走査照射法を採用してもよい。ディスクリートスポット走査照射法やラスター走査照射法を採用した場合も、装置構成は実施例1乃至実施例5と同様である。そのとき、ビーム走査距離及び時間の短縮、要求ビーム走査精度の緩和といった効果を得るために、ビーム経路上に散乱体を設置してビーム径を拡大させる手段を選択する事ができる。これらの散乱体照射法を用いる場合、第2照射部17bには、照射を受ける患者から見て順番(ビーム軸の下流側から順)に、レンジシフタ14,SOBPフィルタ13,散乱体12が設置される。レンジシフタ14,SOBPフィルタ13,散乱体12は、粒子線の照射を受ける患者15の患部形状,位置に合わせたものが選択される。さらに、ビームモニタで患者の各照射位置における照射線量を測定・記録する。測定した照射線量が、既定線量に達した照射位置に関してはビームの照射を終了し、既定線量に達していない照射位置に関しては既定線量に達するまで複数回のビーム走査と照射を繰り返し、最終的に均一な線量分布を得る照射法も、散乱体照射法においてビームの進行方向と垂直な方向に均一な線量分布を形成する手段として有効である。これらの散乱体照射法を用いる場合、第2照射部17bには、照射を受ける患者から見て順番に、レンジシフタ14,SOBPフィルタ13,散乱体12が設置される。レンジシフタ14,SOBPフィルタ13,散乱体12は、粒子線の照射を受ける患者15の患部形状,位置に合わせたものが選択される。
【0060】
実施例1乃至実施例5では、散乱体照射法においてビーム進行方向に均一な線量分布を形成するための手段として、SOBPフィルタ13を用いたが、SOBPフィルタ13のかわりに、エネルギースタッキングを用いることも有効である。エネルギースタッキングを行う場合、SOBPフィルタ13の代わりにミニSOBPフィルタをビーム径路上に設置することが選択できる。ミニSOBPフィルタは、患部形状を網羅した拡大ブラッグピークを作ることのできる通常のSOBPフィルタに比べて、ビームのブラッグピークをある程度広がりをもった分布、例えばガウス分布状に広げる。そのため、ミニSOBPフィルタを用いた場合、エネルギースタッキングに必要なエネルギー数を減らすことができる。
【0061】
実施例1乃至実施例5では、可動式治具11の可動方式として回転式を採用したが、スライドする台を用いることでも同様の効果を得る事ができる。スライドする台を用いた場合、散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14は、ビーム経路方向に対して垂直方向にスライドする台(図示せず)に設置される。ガスチェンバー1の可動部分1bが可動して照射ノズル18上流部に折りたたまれているときには、台がビーム経路上に対してスライドして迫り出してくることで、散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14をビーム経路上に設置する事ができる。逆に台がスライドしてビーム経路を避けることで、散乱体12,SOBPフィルタ13,レンジシフタ14をビーム経路上から取り外す事ができ、ガスチェンバー1の可動部分1bを可動させてガスチェンバー1を延長できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の好適な一実施例である陽子線治療システムの構成図である。
【図2】本発明の好適な一実施例である陽子線治療システムに備えられる照射野形成装置の構成図である。
【図3】照射野形成装置に備えられるガスチェンバーの充填ガス系統の構成図である。
【図4】照射野形成装置に備えられるガスチェンバーの可動方式を示す構成図である。
【図5】照射野形成装置に備えられるガスチェンバーの可動方式を示す他の構成図である。
【図6】照射野形成装置に備えられるガスチェンバーの可動方式を示す他の構成図である。
【図7】照射野形成装置に備えられる第2ガスチェンバーの駆動方法を示す構成図である。
【図8】照射野形成装置に備えられる第2ガスチェンバーの駆動方法を示す他の構成図である。
【図9】照射野形成装置に備えられる第2ガスチェンバーの駆動方式を示す他の構成図である。
【図10】本発明の好適な他の実施例である陽子線治療システムに備えられる照射野形成装置の構成図である。
【図11】本発明の好適な他の実施例である陽子線治療システムに備えられる照射野形成装置の一部の構成を示す構成図である。
【符号の説明】
【0063】
1 ガスチェンバー
1a 第1ガスチェンバー
1b,1c 第2ガスチェンバー
1d チェンバー部
2a,2b 走査電磁石
3a,3b,3c 遮蔽窓(隔離窓)
4a,4b ビームモニタ
5 コリメータ
6 スノート
7 ボーラス
8 真空ビームダクト
9 真空遮蔽窓
11a 回転体
11b 回転軸部
12 散乱体
13 SOPBフィルタ
14 レンジシフタ
15 患者
16 ベッド
18 照射野形成装置(照射ノズル)
20 照射装置
21 ビーム経路
22 ビーム輸送装置
23 出射用デフレクタ
24 シンクロトロン
25 ビーム発生装置
26 前段加速器
27 ガス供給管
28 流量調節弁
29 フラッシング配管
30 ガス排出管
31 オリフィス
32 ガスボンベ
33 開閉弁
34 バリアブルリークバルブ
35 圧力スイッチ
36 リリーフ弁
37 バッファ領域
38 節
39 気密シール
40 蛇腹構造
41 バネ
42 伸縮性の布状素材
43 剛体リング
44 レール
45 長軸
46 モーター
47a ギア
47b スクリュー
49 油圧シリンダー
51 油圧系
52 油圧制御ユニット
53 油圧ポンプ
54 オイルタンク
55 油圧計
56,63 安全弁
57 空気圧シリンダー
59 空気圧系
60 空気圧制御ユニット
61 圧縮機
62 空気圧計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを設定されたエネルギーまで加速するビーム発生装置と、
治療室に配置され、荷電粒子ビームの照射野を形成する照射野形成装置と、
前記ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを前記照射野形成装置に輸送するビーム輸送装置とを備え、
前記照射野形成装置は、
前記照射野形成装置に入射された前記荷電粒子ビームを走査する電磁石と、
ガスチェンバーを有する第1照射部と、
前記荷電粒子ビームの散乱量を調整する散乱体を有する第2照射部とを備え、
前記照射野形成装置内のビーム軸上に、前記第2照射部又は内部が不活性ガスで満たされた前記ガスチェンバーを有する第1照射部のいずれかが配置されるように切替え制御する制御装置を備えることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項2】
荷電粒子ビームを設定されたエネルギーまで加速するビーム発生装置と、
治療室に配置され、荷電粒子ビームの照射野を形成する照射野形成装置と、
前記ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを前記照射野形成装置に輸送するビーム輸送装置とを備え、
前記照射野形成装置は、
前記照射野形成装置に入射された前記荷電粒子ビームを走査する電磁石と、
真空チェンバーを有する第1照射部と、
前記荷電粒子ビームの散乱量を調整する散乱体を有する第2照射部とを備え、
前記照射野形成装置内のビーム軸上に、前記第2照射部又は内部が真空に保たれた前記真空チェンバーを有する第1照射部のいずれかが配置されるように切替え制御する制御装置を備えることを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記照射野形成装置内のビーム軸上又は前記荷電粒子ビームが通過する領域外に前記第2照射部を移動して切替え制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子線治療システム。
【請求項4】
前記ガスチェンバーは、前記照射野形成装置内のビーム軸と平行な方向に伸縮可能な構成であることを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療システム。
【請求項5】
前記散乱体を有する前記第2照射部は、前記ガスチェンバー内に配置され、
前記制御装置は、前記第2照射部が照射野形成装置内の前記荷電粒子ビームが通過する領域外に位置しているときに、前記ガスチェンバーの内部を不活性ガスで満たすように制御することを特徴とする請求項1又は4に記載の粒子線治療システム。
【請求項6】
前記真空チェンバーは、前記照射野形成装置内のビーム軸と平行な方向に伸縮可能な構成であることを特徴とする請求項2に記載の粒子線治療システム。
【請求項7】
前記第2照射部は、さらに拡大ブラッグピーク形成フィルタ及びレンジシフタを備え、 前記散乱体、前記拡大ブラックピーク形成フィルタ及びレンジシフタは、前記照射野形成装置内のビーム軸上又は前記荷電粒子ビームが通過する領域外に、それぞれ独立に移動可能な構成であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の粒子線治療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−17365(P2010−17365A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180865(P2008−180865)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】