説明

粒子線照射装置

【課題】1台の回転照射型の粒子線照射装置において、2つの照射を行うことができる粒子線照射装置を得る。
【解決手段】入射される粒子線を照射する照射装置が照射基準点を回転中心として回転自在に駆動される粒子線照射装置において、入射される粒子線を第1照射系統14と第2照射系統23に切り替える照射系統切り替え手段31と、前記第1照射系統14に配置された第1の照射装置15と、前記第2照射系統23に配置された第2の照射装置24とを備え、種々の照射形態を選択できるようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、研究用やがん治療用として、炭素イオン、陽子等の粒子線を照射する粒子線照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粒子線照射装置は、炭素イオン、陽子等の粒子線をあらゆる角度から照射可能とするために、いわゆる回転ガントリと呼ばれている回転照射型の粒子線照射装置が種々提案されている(例えば、特許文献1や特許文献2)。
【0003】
特許文献2を参考に回転照射型の粒子線照射装置の構成を簡単に説明する。図7は従来の回転照射型の粒子線照射装置を示す全体構成図、図8は図7のVIII−VIII線における矢視の回転軸方向から見た部分側面図である。
【0004】
これら各図において、1はトラス構造であり樽の形状をしている回転フレームであり、この回転フレーム1には回転の重心不釣合を補正するためカウンタバランス2が取り付けられている。回転フレーム1のビーム入射方向の上流側および下流側には回転リング3が設けられ、この回転リング3は回転フレーム1と固着されている。支持装置4は、回転リング3を介して粒子線照射装置全体(支持装置4自体を除く)の重量を支持および駆動する役割を果し、単一もしくは複数の駆動ローラー4Aおよび複数の支持ローラー4Bから構成され、各々の回転リング3の外周下面に配置されている。駆動ローラー4Aは、粒子線照射装置の重量を支持するとともに、支持面と回転リング3の外周面間の摩擦力によって回転リング3を介して粒子線照射装置全体に駆動力を与える。その個数は粒子線照射装置の重量や駆動源の容量等に依存する。支持ローラー4Bは、支持装置4自体を除く粒子線照射装置全体の重量を支持するものであり、回転リング3の回転に追従して自由回転する。
【0005】
前記支持装置4の支持面は回転リング3の外周面と接触しており、回転中心の精度の良し悪しは、支持装置4の支持面の回転対称性の精度と粒子線照射装置全体の位置の基準面となる回転リング3の外周面の回転対称性の精度によって大きく左右される。
【0006】
駆動装置(モーター等)5は、駆動ローラー4Aに連結され回転駆動又は回転制動を行う。真空ダクト6は、図示しない粒子加速器で加速された荷電粒子を患部に照射させるため導く通路であり、偏向電磁石7および8は前記粒子線を所定の角度に偏向させる役割を果す。これら真空ダクト6と偏向電磁石7および8からなる粒子線の照射パスが構成される。ビーム照射装置9は、真空ダクト6と偏向電磁石7および8からなる粒子線の照射パスを通して粒子線が供給され、前記粒子線の照射域を治療に適した照射野形状に整えたり、エネルギーを変えたりして患部に照射するものである。コーンフレーム10は、その内部で電磁石等を、外部でケーブル等を支持するためのものであり、真空ダクト6、偏向電磁石7及び8、ビーム照射装置9、コーンフレーム10は前記回転フレーム1と一体で回転するようになっており、あらゆる角度からの照射が可能となっている。なお、真空ダクト6は粒子加速器(図示せず)から射出された粒子線が通る粒子線照射装置外の真空ダクト(図示せず)と回転ジョイント等で接続されており、粒子線照射装置の回転軸回りに回転可能である。11は治療を受ける患者を横たえるためのベッド構造体であり、患者の患部が粒子線照射装置の回転中心軸上に位置するように配設される。12は外部から回転フレーム1の内部に挿入された梁であり、ベッド構造体11は梁12に固定されている。13は回転フレーム1内に確保された空間であり、この中で照射が行われる。
【0007】
次に、従来の回転照射型の粒子線照射装置の動作について説明する。いま、駆動装置5により駆動ローラー4Aを回動させると、駆動ローラー4Aと回転リング3の接触面間の摩擦力を介して駆動力が伝達され、回転フレーム1を含めた粒子線照射装置全体が照射に最適な角度まで回転する。このとき、真空ダクト6、偏向電磁石7及び8、ビーム照射装置9、コーンフレーム10も回転フレーム1と一体で回転する。そして装置の角度を固定した後、粒子加速器(図示せず)から射出された粒子線がビーム輸送機器(図示せず)を通して真空ダクト6に入射される。真空ダクト6に入射された粒子線は偏向電磁石7及び8を経て、最終的に入射方向に対して直角の方向に偏向させられ、ビーム照射装置9に入射され所望の照射野が成形されて、ベッド構造体11上の患者の患部に照射される。このように、駆動装置5によって駆動ローラー4Aを駆動すれば、回転リング3及び回転フレーム1が回転し、真空ダクト6と偏向電磁石7および8からなる粒子線の照射パスおよびビーム照射装置9も回転するのであらゆる角度からの照射が可能となる。
【0008】
また、真空ダクト6と偏向電磁石7および8からなる粒子線の照射パスの構成要素において、粒子線の移動方向を曲げるために構成されている偏向電磁石7、8などの磁石類は一般的に重い。そこで、回転フレーム1には粒子線が通る照射パスとは反対側に回転軸上に重心がくるようにカウンタバランス2が装着されている。カウンタバランス2は、重心を回転軸上に移動させる目的以外に特に機能を有してない。
【0009】
次に、ビーム照射装置9の構成と照射方式について述べる。照射方式には、例えば特許文献3に記載があるように、ブロードビーム方式やスポットスキャニング方式が提案されている。スポットスキャニング方式に関しては非特許文献1に詳細が記述されている。この他にもラスタスキャニング方式や積層原体を用いる方法がある。特許文献3の段落[0030]実施の形態15に記載されているように、ブロードビーム方式とは、錯乱体やワブラー電磁石を使ってビームを広げ、コリメータやボーラスを使って患部以外の場所への照射を減らす方法である。したがって、ブロードビーム方式を採用する場合、ビーム照射装置9には錯乱体、ワブラー電磁石、コリメータ及びボーラスが必要となってくる。一方、特許文献3の段落[0012]に記載されているように、スポットスキャニング方式では、ビーム照射装置はビームを適切な位置に照射するためのスキャナー電磁石や、線量モニタ、ビーム位置モニタ、ビームエネルギーを変えるレンジシフタなどから構成される。このように、照射方式によって、ビーム照射装置の構成は変わってくる。
【0010】
また、真空ダクト6と偏向電磁石7および8からなる粒子線の照射パスを構成する前記偏向電磁石や、前記ビーム照射装置を構成する様々な装置(ワブラー電磁石、コリメータ(マルチリーフコリメータの場合)、スキャナー電磁石、…等)にはそれぞれ動力と制御信号が必要である。360度回転する回転フレームの内外に設置されたこれらの装置に電力を供給し制御を行うには、それなりの工夫が必要となる。回転照射型の粒子線照射装置内に動力やユーティリティを供給するケーブルの巻き取り及び巻き出しはケーブルスプールが行う。例えば特許文献4においては、ケーブルスプール(特許文献4では「巻き取りドラム」と呼ぶ)はケーブルとともにこれを保護するケーブルベア(登録商標、ケーブルキャリア)をも巻き取るようになっており、ケーブルベア(登録商標)に設置した多段式ケーブルサポートにおいて自由に回転するローラーを配置する工夫が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3519248号公報
【特許文献2】特許第3599995号公報
【特許文献3】特開2005−332794号公報
【特許文献4】特開2008−67908号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】“Spot scanning system for proton radiotherapy”,Tatsuaki Kanai et a1.,Medical Physics,Vol.7,No.4,Jul./Aug.1980
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、粒子線照射装置を使用する際に、あるいは粒子線治療装置を使用する際に、照射形態の選択肢が増えることのメリットは大きいものとなる。
【0014】
しかしながら、上述した従来の粒子線照射装置においては、先行技術文献にみるように、1つの回転ガントリには1つの照射パスしか存在しない。また、搭載されているビーム照射装置も1つなので、照射方式も限られるものである。
【0015】
たしかに、上述したように、従来実施されている粒子線照射システム(施設)では、1台の粒子加速器で加速される粒子線を2台の回転ガントリへ供給パスを切り替えて導けるようになっているところがほとんどである。2台の回転ガントリのうち、1台の回転ガントリのビーム照射装置はブロードビーム方式、もう一方の回転ガントリのビーム照射装置はスポットスキャニング方式とすれば、2種類の照射方式は実施できることになる。
【0016】
しかし、粒子線を用いた治療現場においては、2台の回転ガントリの照射系を全く同じ構成にしていることが多い。その理由としては、治療計画は1つの照射方式を前提として計画されること、また、1台の回転ガントリが故障してももう一台がバックアップとしてすぐに同じ機能で使用でき、治療がストップしてしまうリスクを避けられることがあげられる。つまり、実際には1施設において1種類の照射方式しか実施できていない状態と言える。仮に回転ガントリごとに別々のビーム照射装置を搭載していたとしても、照射対象の位置や姿勢を変えずに2種類の照射を施すことは実際的にはできないものである。
【0017】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、1台の回転照射型の粒子線照射装置において、2つの照射を行うことができる粒子線照射装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明に係わる粒子線照射装置は、入射される粒子線を照射する照射装置が照射基準点を回転中心として回転自在に駆動される粒子線照射装置において、入射される粒子線を第1照射系統と第2照射系統に切り替える照射系統切り替え手段と、第1照射系統に配置された第1の照射装置と、第2照射系統に配置された第2の照射装置とを備えたものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明に係わる粒子線照射装置は、第1照射系統に配置された第1の照射装置と、第2照射系統に配置された第2の照射装置とを照射系統切り替え手段により、切り替えて選択して使用するようにしたので、照射形態の選択肢を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる粒子線照射装置を示す全体構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係わる粒子線照射装置を示す部分鳥瞰図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係わる粒子線照射装置における照射系統切り替え手段を示す模式図である。
【図4】この発明の実施の形態3に係わる粒子線照射装置を示す全体鳥瞰図である。
【図5】この発明の実施の形態3に係わる粒子線照射装置における各照射系統を示す鳥瞰図である。
【図6】この発明の実施の形態3に係わる粒子線照射装置における照射系統切り替え手段部を示す鳥瞰図である。
【図7】従来の粒子線照射装置を示す全体構成図である。
【図8】従来の粒子線照射装置を示すVIII−VIII線における矢視の回転軸方向から見た部分側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図1に基づいて説明する。図1において、1は回転フレーム、3は回転リング、4は支持装置、4Aは駆動ローラー、5は駆動装置、6は真空ダクト、10はコーンフレームであり、これらは上述した従来のものと同様の機能を有するものである。
【0022】
14は真空ダクト6から入射される粒子線の第1照射系統、15はこの第1照射系統14に配置された第1の照射装置であり、照射基準位置のアイソセンタ16に向かって照射する。第1照射系統14は、例えば図1において、入射される粒子線を上方向に偏向させる第1偏向電磁石17と、回転リング3を貫通してその回転リング3の内外に位置し、回転リング3内に位置する一方側は第1偏向電磁石17に接続された4極電磁石18と、回転リング3の外側に位置する4極電磁石18の他方側に接続され、4極電磁石18を上方向に通過した粒子線を水平方向に偏向させる第2偏向電磁石19と、回転リング3の中央部外周に支持体20により支持され、一方側が第2偏向電磁石19に接続された4極電磁石21と、4極電磁石21の他方側に接続され、4極電磁石21を水平方向に通過した粒子線を下方向に偏向させ第1の照射装置15に入射させる第3偏向電磁石22とから構成されている。
【0023】
23は真空ダクト6から入射される粒子線の第2照射系統、24はこの第2照射系統23に配置された第2の照射装置であり、アイソセンタ16に向かって照射する。第2照射系統23は、例えば図1において、入射される粒子線を下方向に偏向させる第4偏向電磁石25と、回転リング3を貫通してその回転リング3の内外に位置し、回転リング3内に位置する一方側は第4偏向電磁石25に接続された4極電磁石26と、回転リング3の外側に位置する4極電磁石26の他方側に接続され、4極電磁石26を下方向に通過した粒子線を水平方向に偏向させる第5偏向電磁石27と、回転リング3の中央部外周に支持体28により支持され、一方側が第5偏向電磁石27に接続された4極電磁石29と、4極電磁石29の他方側に接続され、4極電磁石29を水平方向に通過した粒子線を上方向に偏向させ第2の照射装置24に入射させる第6偏向電磁石30とから構成されている。
【0024】
31は真空ダクト6から入射される粒子線を第1照射系統14または第2照射系統23に切り替えて入射させる照射系統切り替え手段であり、例えばスイッチング電磁石で構成し、そのスイッチング電磁石のスィツチング動作の切り替えにより、第1照射系統14または第2照射系統23に切り替えて入射させるものであり、2つの系統に分岐するように構成されている。
【0025】
例えば、第1照射系統14を、上述した従来の回転照射型の粒子線照射装置における上方向の粒子線の照射パスに相当するとすれば、第2照射系統23はその反対側、すなわち上述した従来の回転照射型の粒子線照射装置におけるカウンタバランス2があった側に配置されたものである。
【0026】
各照射装置に関しては種々のものを選択することができるが、例えば、第1照射系統14の第1の照射装置15にはブロードビーム方式用の照射装置構成を選択し、第2照射系統23の照射装置24にはスポットスキャニング方式用の照射装置構成を選択することが考えられる。また、あえて同じ照射装置構成を装着し、上半分と下半分とで照射装置を切り分けて使用し、装置全体の回転量を極力小さくして動力費等の低減を図るようにしてもよい、更には、一方の照射系統をバックアップとして使用することも考えられる。
【0027】
また、この発明の実施の形態1における粒子線照射装置において、入射側(図1では左側)にケーブルを巻き取るためのケーブルスプール32が設けられている。ケーブルスプール32には複数の櫛状体32aが設けられており、それら櫛状体32a間にそれぞれ複数のケーブル33を収容できるようにし、一度に巻き取れるケーブル33の本数が多くなるよう工夫されている。
【0028】
次に動作について説明する。この発明の実施の形態1における粒子線照射装置を使用するに際し、あらかじめどちらの照射装置を使用するか、すなわち、第1照射系統14の第1の照射装置15を使用するか、あるいは第2照射系統23の第2の照射装置24を使用するかを決めておくとともに、またどの角度から照射したいかを決めておく。図は一例として、第1照射系統14の第1の照射装置15を使用し、鉛直線真上からアイソセンタ16に向かって照射したい場合について説明する(すなわち、図1に記載の角度)。
【0029】
そして、所望の角度から粒子線の照射ができるように、回転フレーム1を回転させるため、図示しない制御装置により駆動装置5を決められた量だけ回転し、駆動ローラー4Aにより回転リング3を回すことにより、回転フレーム1およびその回転フレーム1に固定された粒子線の照射パスを構成する各部材が回ることにより所望の角度位置の設定が実現される(図1に記載の角度)。次に、選択した照射系統、すなわち、第1照射系統14へ粒子線が通るように、照射系統切り替え手段31であるスイッチング電磁石を動作させて機能させておく。
【0030】
粒子線の照射は、図示しない粒子加速器によって加速された粒子線を回転照射型の粒子線照射装置へ入射することにより行われる。したがって、粒子加速器により加速された粒子線は、図1の左側(入射側と呼ぶ)から真空ダクト6を経由して照射系統切り替え手段31であるスイッチング電磁石へ導かれる。ここで、スイッチング電磁石により、粒子線は選択した第1照射系統14へと偏向される(ここの例では、上側)。
【0031】
第1照射系統14へと導かれた粒子線は、第1偏向電磁石17によって上方向に偏向され、4極電磁石18によってビーム調整される。4極電磁石18を上方向に通った粒子線は、第2偏向電磁石19によって水平方向に偏向され、4極電磁石21によってビーム調整される。そして、4極電磁石21を通った粒子線は、第3偏向電磁石22によって下方向に偏向され、第1の照射装置15へ入射される。第1の照射装置15に入射された粒子線は、上方からアイソセンタ16へ向かって照射される。
【0032】
また、第2照射系統23の第2の照射装置24を使用し、下からアイソセンタ16に向かって照射したい場合について説明する(すなわち、図1に記載の角度)。この場合には、第2照射系統23へ粒子線が通るように、照射系統切り替え手段31であるスイッチング電磁石を動作させて機能させておく。
【0033】
粒子加速器により加速された粒子線は、図1の左側(入射側と呼ぶ)から真空ダクト6を経由して照射系統切り替え手段31であるスイッチング電磁石へ導かれる。ここで、スイッチング電磁石により、粒子線は選択した第2照射系統23へと偏向される(ここの例では、下側)。
【0034】
第2照射系統23へと導かれた粒子線は、第4偏向電磁石25によって下方向に偏向され、4極電磁石26によってビーム調整される。4極電磁石26を下方向に通った粒子線は、第5偏向電磁石27によって水平方向に偏向され、4極電磁石29によってビーム調整される。そして、4極電磁石29を通った粒子線は、第6偏向電磁石30によって上方向に偏向され、第2の照射装置24へ入射される。第2の照射装置24に入射された粒子線は、下方からアイソセンタ16へ向かって照射される。
【0035】
以上のように、この発明による実施の形態1によれば、粒子線照射装置における回転フレーム1内に、第1照射系統14、第2照射系統23の2つの照射系を備えているので、例えば、第1照射系統14をブロードビーム方式用とし、第2照射系統23をスポットスキャニング方式用といった照射系を具備することができ、粒子線照射装置あるいは粒子線治療装置を使用するに際し、照射形態の選択肢を増やすことができる。また、1つの回転フレーム1内で2つの照射系が存在するので、照射対象、例えば患者の位置や姿勢を変えることなく、2種類の照射をすることができる。より具体的には、たとえば塗り絵のように照射対象の広い範囲はブロードビーム方式を洗濯して照射し、境界近傍や細かい部分はスポットスキャニング方式を選択して照射することが可能である。更に、第1照射系統14と第2照射系統23の両者を同じ照射方式で構成し、上半分と下半分とで照射装置を切り分けて使用することにより、装置全体の回転量を極力小さくして動力費等の低減を図ることができる。更には、一方の照射系統をバックアップとして使用することも考えられる。
【0036】
また、上方向に第1照射系統14を配置し、下方向に第2照射系統23を配置したことにより、装置重心が回転軸上にくるようになるので、上述した従来装置のようなカウンタバランス2を廃止することができるという効果を奏する。
【0037】
ところで、上述したように、粒子線照射装置における回転フレーム1内に照射パスを2系統設けるということは、実際に実現するためには種々工夫が必要となってくる。回転照射型の粒子線照射装置内に動力やユーティリティを供給するためのケーブル本数がほぼ2倍必要となってくるということである。(動力用のケーブルは共有できる場合があるが、制御信号用のケーブルは2系統分必要となる)そこで、ケーブルスプール14に複数の櫛状体14aを設け、それら櫛状体14a間に複数のケーブル33が入るようにし、一度に巻き取れるケーブル数を多くする。
【0038】
上述したとおり、回転フレーム1内には、第1偏向電磁石17、4極電磁石18の一方側及び第1の照射装置15、さらには第4偏向電磁石25、4極電磁石26の一方側及び第2の照射装置24、照射系統切り替え手段31であるスイッチング電磁石などがあり、それぞれに動力用、信号用や制御用のケーブルが必要になる。その他にも図示しない移動床やX線撮像装置など様々な機器が回転フレーム1内に存在し、やはりその動力用、信号用や制御用のケーブルが必要となり、その総数は1照射系統で数百本、2系統になれば千本近くになる。
【0039】
そこで、各ケーブルの取り扱いについて、以下のような工夫を施す。この発明の実施の形態1におけるケーブルの取り扱いの工夫について、図2に基づいて説明する。
【0040】
ケーブルスプール32には複数の櫛状体32aが設けられており、それら櫛状体32a間にそれぞれ複数のケーブル33を収容できるようにし、一度に巻き取れるケーブル33の本数が多くなるよう工夫している。回転フレーム1を回転させると、ケーブル33はケーブルスプール32によって巻き取り、巻き出しされる。
【0041】
そして、ケーブルスプール32には巻き取るケーブル33に対応して、外から中へケーブル33を取り入れるためのケーブル取り入れ部32bにケーブル用通し穴32cが施されている。これによって、回転フレーム1の内部に動力用、信号用及び制御用のケーブル33を繋ぐことができる。
【0042】
また、回転フレーム1の外に装着されている第2偏向電磁石19、4極電磁石18の他方側、4極電磁石21及び第3偏向電磁石22、さらには第5偏向電磁石27、4極電磁石26の他方側、4極電磁石29及び第6偏向電磁石30に対しては、ケーブルルート33aで示したように、一旦、ケーブルスプール32内に引いたケーブル33を、回転フレーム1に設けられた窓1aを通じて外へ出せばよい。
【0043】
一般に、ケーブルが可動する箇所はケーブルベア(登録商標)を利用し、これによってケーブルが擦れたり断線したりすることから保護をする(特許文献4)。反面、ケーブルベア(登録商標)は場所をとってしまう。したがって、ケーブルの保護と巻き取り本数のバランスを考えて、ケーブルベア(登録商標)を使用するかどうか判断すればよい。
【0044】
この実施の形態1における粒子線照射装置に必要なケーブル33の本数は、数百本以上となるため、ケーブル33の重さによる影響も考慮しなければならない。この発明の実施の形態1によれば、右巻きのケーブルグループと左巻きのケーブルグループを分けることにより、ケーブル33の重さによってケーブルスプール32へかかる回転モーメントを相殺するようにしている。図はわかりやすくするため、右巻きのケーブルグループと左巻きのケーブルグループを回転軸方向の前後で分けたが、右巻きと左巻きのグループを細かく設定したり、交互に並べたりしても同様の効果を奏する。ここでの本質は、ケーブル33によるケーブルスプール32の回転モーメントを相殺することにある。なお、ケーブルスプール32内に支柱32dを設けてケーブル33の重さによる影響を補強するようにしている。
【0045】
実施の形態2.
なお、上述したこの発明の実施の形態1においては、真空ダクト6を通して入射される粒子線を第1照射系統14または第2照射系統23に切り替える照射系統切り替え手段31としてスイッチング電磁石を用いる場合について述べたが、図3に示すように、真空ダクト6を通して入射される粒子線を第1照射系統14に偏向させる第1スイッチング用偏向電磁石34と、真空ダクト6を通して入射される粒子線を第2照射系統23に偏向させる第2スイッチング用偏向電磁石35と、真空ダクト6を通して入射される粒子線を第1スイッチング用偏向電磁石34を通して第2スイッチング用偏向電磁石35に入射させる直進入射体36とから照射系統切り替え手段31を構成してもよい。
【0046】
通常は、上方向からの粒子線の照射方式が選択されることが多いので、第2スイッチング用偏向電磁石35はOFFとし、第1スイッチング用偏向電磁石34をONとする。真空ダクト6を通して入射される粒子線は、第1スイッチング用偏向電磁石34により第1照射系統14に偏向される。したがって、第2スイッチング用偏向電磁石35はOFF状態であり第2照射系統23には粒子線が入射されない。また、第2照射系統23に粒子線を入射させたい場合には、第1スイッチング用偏向電磁石34はOFFとし、第2スイッチング用偏向電磁石35をONとする。真空ダクト6を通して入射される粒子線は、直進入射体36を通して第2スイッチング用偏向電磁石35により第2照射系統23に偏向される。したがって、第1スイッチング用偏向電磁石35はOFF状態であり第1照射系統14には粒子線が入射されない。以上のことから明らかなように、照射系統切り替え手段31を構成する第1スイッチング用偏向電磁石34と第2スイッチング用偏向電磁石35は上述した発明の実施の形態1における第1偏向電磁石17と第3偏向電磁石25の機能を有している。したがって、第1偏向電磁石17と第3偏向電磁石25を省略することができ、構造を簡素化できるとともにコスト低減を図ることができる。
【0047】
実施の形態3.
また、上述したこの発明の実施の形態1および2においては、第1照射系統14の第1の照射装置15または第2照射系統23の第2の照射装置24からアイソセンタ16に向かって照射された粒子線は、原則的にはアイソセンタ16に配置された図示しない照射対象の内部で消失するような使われ方が一般的である。しかしながら、第1の照射装置15と第2の照射装置24の照射方向が互いに向き合っていると、一方の照射装置から照射された粒子線が他方の照射装置を、特に中性子により被爆するかもしれないというリスクが生じる。
【0048】
そこで、第1の照射装置15と第2の照射装置24の照射方向が互いに向き合わないように配置したのがこの発明の実施の形態3である。この発明の実施の形態3を図4から図6に基づいて説明する。図4は全体鳥瞰図、図5は各照射系統を示す鳥瞰図、図6は照射系統切り替え手段部を示す鳥瞰図である。これら各図から明らかなように、第1照射系統14側の第1の照射装置15からアイソセンタ16に向かって照射された粒子線が、第2照射系統23側の第2の照射装置24に照射されないように、また、第2照射系統23側の第2の照射装置24からアイソセンタ16に向かって照射された粒子線が、第1照射系統14側の第1の照射装置15に照射されないように、各照射装置の照射方向が粒子線の同一軌道にならないようように配置している。すなわち、第1の照射装置15に対し第2の照射装置24を相対向する180度の位置ではなく、例えば回転フレーム1の側部から見て左側が180度より小さい角度となるように配置している。
【0049】
なお、この実施の形態3においては、上述した実施の形態2を主体として説明、すなわち、照射系統切り替え手段31が、第1スイッチング用偏向電磁石34と第2スイッチング用偏向電磁石35と直進入射体36とから構成された場合の粒子線照射装置を例として説明したが、これに限定されるものではなく、上述した実施の形態1のように照射系統切り替え手段31がスイッチング電磁石により構成された場合の粒子線照射装置にも適用することができ、同様の効果を奏する。
【0050】
以上のように、第1の照射装置15から照射された粒子線は第2の照射装置24に照射されることはなく、また逆に、第2の照射装置24から照射された粒子線は第1の照射装置15に照射されることはないので、一方の照射装置から照射された粒子線が他方の照射装置を、特に中性子により被爆するかもしれないというリスクが全く生じることがなく、高信頼性の粒子線照射装置を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明は、研究用やがん治療用として、炭素イオン、陽子等の粒子線を照射する粒子線照射装置の実現に好適である。
【符号の説明】
【0052】
14 第1照射系統 15 第1の照射装置
23 第2照射系統 24 第2の照射装置
31 照射系統切り替え手段 34 第1スイッチング用偏向電磁石
35 第2スイッチング用偏向電磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射される粒子線を照射する照射装置が照射基準点を回転中心として回転自在に駆動される粒子線照射装置において、
入射される粒子線を第1照射系統と第2照射系統に切り替える照射系統切り替え手段と、
前記第1照射系統に配置された第1の照射装置と、
前記第2照射系統に配置された第2の照射装置と
を備えたことを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項2】
前記第1の照射装置から照射される粒子線と前記第2の照射装置から照射される粒子線とはそれぞれ異なる照射方式により照射されることを特徴とする請求項1記載の粒子線照射装置。
【請求項3】
前記照射方式はブロードビーム方式とスポットスキャニング方式であることを特徴とする請求項2記載の粒子線照射装置。
【請求項4】
前記第1の照射装置の照射方向に位置しないように前記第2の照射装置を配置したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の粒子線照射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−158479(P2010−158479A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3959(P2009−3959)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】