説明

粒子製剤

【課題】平均粒子径が小さい場合でも、薬物の溶出特性が有効に制御された粒子製剤を提供する。
【解決手段】薬物粒子と、上記薬物粒子を被覆する被覆層とを有する粒子製剤であって、上記被覆層は、水不溶性高分子2.4重量部に対して、脂質成分0.1〜0.8重量部を含有し、上記脂質成分は、C15以上の脂肪酸を含むことを特徴とする粒子製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒子製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬固形製剤においては、薬物の溶出特性等を制御するために、薬物原末を結合剤、賦形剤等を加えて造粒したり、薬物原末を水不溶性の被覆物質で被覆したりしている。
例えば、特許文献1には、薬物、高分子化合物(エチルセルロースとHPMCAS)、ステアリン酸及びエタノールを溶融混合した、徐放性細粒製剤について開示されている。特許文献1に、製剤粒子径についての記載はないが、常法により製造される細粒剤は通常、約90μm以上である。
また、例えば、特許文献2には、薬物を含む粒子(粒子径50〜250μm)を、脂質成分と高分子化合物とで被覆した粒子製剤が開示されており、実施例4に、メタクリル酸コポリマー(オイドラギットL)2%、ステアリン酸10%を含むメタノール溶液を噴霧して、薬物含有粒子をコーティングした被覆薬物粒子について開示されている。
【0003】
しかしながら、一般的に、薬物は、粒子径が小さくなるにつれて表面積が大きくなるため、薬物含有粒子を微細化しつつ、薬物の溶出を制御すること(特に溶出抑制、苦みマスキング)は非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−020663号公報
【特許文献2】特許第3247511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、平均粒子径が小さい場合でも、薬物の溶出特性が有効に制御された粒子製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、薬物粒子を被覆する被覆層を、所定の重量比の水不溶性高分子と脂質成分とを含むものとすることで、薬物の溶出制御を好適にできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、薬物粒子と、上記薬物粒子を被覆する被覆層とを有する粒子製剤であって、上記被覆層は、水不溶性高分子2.4重量部に対して、脂質成分0.1〜0.8重量部を含有し、上記脂質成分は、C15以上の脂肪酸を含むことを特徴とする粒子製剤である。
本発明の粒子製剤において、上記水不溶性高分子は、腸溶性高分子を含むことが好ましい。
また、上記脂質成分は、C15〜C21脂肪酸を含むことが好ましく、該C15〜C21脂肪酸は、ステアリン酸であることが好ましい。
また、上記被覆層は、更に、水不溶性高分子2.4重量部に対して、無機粒子0.5〜2.4重量部を含有することが好ましい。
また、上記無機粒子は、平均粒子径が1nm〜1000nmであることが好ましい。
また、上記無機粒子は、シリカ及び/又は二酸化チタンであることが好ましい。
また、上記無機粒子は、疎水性化処理されたものであることが好ましい。
また、本発明の粒子製剤は、上記被覆層は、2層構造であることが好ましい。
また、本発明の粒子製剤は、噴霧乾燥法により得られることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明は、薬物粒子と該薬物粒子を被覆する被覆層とを有する粒子製剤である。
このような構成の本発明の粒子製剤は、平均粒子径が小さい場合でも、薬物の溶出を有効に制御できるという特色を有する。
上記薬物粒子における薬物としては、生理学的又は薬理学的に活性な活性成分であれば特に制限されず、例えば、生理活性を有するポリペプチド及び核酸、解熱・鎮痛・抗炎症薬、痛風・高尿酸血症治療薬、催眠・鎮静薬、睡眠導入剤、抗不安薬、抗てんかん薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗パーキンソン剤、自律神経系作用薬、脳循環代謝改善薬、アレルギー治療薬、抗アレルギー薬、抗狭心症薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、強心薬、抗不整脈薬、利尿薬、降圧薬、血管収縮薬、血管拡張薬、高脂血症用薬、昇圧薬、気管支拡張薬・喘息治療薬、鎮咳薬、去痰薬、消化性潰瘍治療薬、健胃・消化薬、下剤、整腸薬、制酸薬、糖尿病薬、ホルモン製剤、ビタミン製剤、抗生物質、骨粗しょう症薬、抗菌薬、化学療法剤、抗ウィルス薬、抗腫瘍剤、筋弛緩剤、抗凝血剤、止血剤、抗結核剤、麻薬拮抗剤、骨吸収抑制剤、血管新生抑制剤、中枢神経系用薬、局所麻酔剤、鎮暈剤、循環器官用薬、呼吸促進剤、止しゃ剤、利胆剤、消化器官用薬、泌尿器官用剤、肝臓疾患用剤等が挙げられる。上記薬物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0009】
上記薬物粒子は、公知の粉砕技術(ハンマーミル、サンプルミル、ピンミル、ジェットミル、ビーズミル等)によって製造することができる。
また、上記薬物粒子として、例えば、流動層造粒装置、撹拌型流動層装置、転動流動層装置、遠心転動装置、噴霧乾燥装置を用いて、生理的又は薬理的に許容可能な製剤助剤と混和して形成した薬物含有粒子や、適当な材料の核粒子の表面に薬物を被覆して形成した薬物含有粒子を用いてもよい。
【0010】
本発明の粒子製剤において、上記薬物粒子は、平均粒子径が1〜200μmであることが好ましい。1μm未満であると、本発明の粒子製剤の表面積が大きくなり、薬物の溶出制御が困難になることがある。一方、200μmを超えると、本発明の粒子製剤を服用したときに口腔内でのザラツキ感や異物感を感じる可能性がある。上記薬物粒子の平均粒子径のより好ましい範囲は1〜15μmである。
なお、上記薬物粒子の平均粒子径は、後述する粒子製剤の平均粒子径と同じ意味である。
【0011】
本発明の粒子製剤は、上記薬物粒子が被覆層で被覆された構成を有する。
上記被覆層は、水不溶性高分子と脂質成分とを含有する。
なお、以下の説明において、上記薬物粒子とともに本発明の粒子製剤に用いられる成分を、まとめて製剤化成分ともいう。
上記水不溶性高分子としては、生理的又は薬理的に許容可能な種々の材料が使用できる。このような水不溶性高分子としては、具体的には、徐放性高分子、胃溶性高分子及び腸溶性高分子等が挙げられる。
【0012】
上記徐放性高分子としては、例えば、エチルセルロース等の水不溶性セルロース誘導体、アクリル酸エチル−メタクリル酸メチル−メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体(例えば、オイドラギットRS、オイドラギットRL、いずれもEvonik Industries社製)、アクリル酸エチル−メタクリル酸メチル共重合体(例えば、オイドラギットNE、Evonik Industries社製)等の水不溶性アクリル酸系共重合体等が挙げられる。
また、上記胃溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート等のポリビニル誘導体、メタクリル酸メチル−メタクリル酸ブチル−メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体(例えば、オイドラギットE、Evonik Industries社製)等の(メタ)アクリル酸系共重合体等が挙げられる。
また、上記腸溶性高分子としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシメチルエチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース等のセルロース誘導体、メタクリル酸コポリマーL(オイドラギットL、Evonik Industries社製)、メタクリル酸コポリマーLD(オイドラギットLD、Evonik Industries社製)、メタクリル酸コポリマーS(オイドラギットS、Evonik Industries社製)等の(メタ)アクリル酸系共重合体等が挙げられる。
これらの水不溶性高分子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましくは、水不溶性セルロース誘導体、水不溶性アクリル酸系共重合体、胃溶性高分子、腸溶性高分子等が挙げられ、これらは単独で又は二種以上組み合わせて用いられる。
なお、上記(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0013】
本発明の粒子製剤では、上記水不溶性高分子は、腸溶性高分子を含むことがより好ましい。上記被覆層が腸溶性高分子と後述する無機粒子とを含むことで、薬物をより効果的に腸特異的に溶出させることが可能となる。
なお、上記腸溶性高分子とは、pH5未満の水溶液では溶解せず、pH5〜7の範囲内のあるpH値以上の水溶液では溶解するポリマーを意味する。
上記腸溶性高分子としては、上述したものが挙げられるが、なかでも、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマーが好適に用いられる。これらの腸溶性高分子としては、例えば、HP55(商品名、信越化学工業社製)、オイドラギットS100(Evonik Industries社製)として商業的に入手可能である。
【0014】
上記被覆層を構成する脂質成分としては、生理的又は薬理的に許容可能な種々の材料が使用できる。
このような脂質成分としては、例えば、脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等)、高級アルコール(セチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等)、脂肪酸エステル(グリセリルモノステアレート、グリセリルモノパルミテート、グリセリルベヘネートなど)、硬化油(水素添加ヒマシ油など)、固形油脂類(カカオ脂等)、ワックス類(ミツロウ、サラシミツロウ、カルナウバワックス等)が挙げられる。これらの脂質成分は、単独で又は二種以上組み合わせて用いられる。
【0015】
本発明の粒子製剤では、上記脂質成分は、C15以上の脂肪酸を含むものである。上記脂質成分がC15未満の脂肪酸であると、薬物の溶出制御が充分にできなくなる。
なかでも、上記脂質成分は、C15〜C21脂肪酸を含むことが好ましい。上記脂質成分としてC15〜C21脂肪酸を含むことで、本発明の粒子製剤の粒子径が小さい場合においても効果的に薬物の溶出制御をすることができる。
なお、上記C15以上の脂肪酸とは、分子中に含まれる炭素数の合計が15以上の脂肪酸を意味する。
また、上記C15〜C21脂肪酸とは、分子中に含まれる炭素数の合計が15〜21である脂肪酸を意味し、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸等が好適に挙げられ、なかでも、ステアリン酸が特に好ましい。上記脂質成分としてステアリン酸を含むことで、高度に薬物の溶出制御を行うことができる。
【0016】
本発明の粒子製剤において、上述した水不溶性高分子に対する脂質成分の含有量は、薬物粒子の種類、所望する薬物の溶出制御の程度等に応じて、水不溶性高分子2.4重量部に対して、0.1〜0.8重量部の範囲内である。好ましくは、水不溶性高分子2.4重量部に対して、0.15〜0.75重量部であり、より好ましくは、0.2〜0.55重量部である。
上記水不溶性高分子に対する脂質成分の含有量が0.1重量部未満であると、本発明の粒子製剤が、腸溶性製剤の場合、中性領域で薬物が溶出され難くなり、腸溶性製剤としての特徴が充分に発揮されなくなる。一方、0.8重量部を超えると、効果的な被覆層の形成が難しくなり、薬物の溶出を制御できなくなる。
【0017】
上記被覆層は、更に無機粒子を含むことが好ましい。
上記被覆層が更に無機粒子を含むことで、より高い薬物の溶出制御が可能となる。
【0018】
上記無機粒子としては、生理的又は薬理的に許容可能な種々の材料が使用できる。
このような無機粒子としては、例えば、シリカ(含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸)、二酸化チタン、タルク、カオリン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、軽質酸化アルミニウム等が挙げられる。これらの無機粒子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの無機粒子は、公知の破砕・分散技術(ハンマーミル、サンプルミル、ピンミル、ジェットミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波破砕・分散など)によって製造してもよい。
【0019】
上記無機粒子は、疎水性化処理されたものであることが好ましい。上記無機粒子が疎水性化されていることで、更に高い薬物の溶出制御が可能となる。
ここにいう疎水性化処理されたとは、化学的に表面をアルキル化されることを意味する。
上記疎水性化処理の具体例としては、疎水性化処理された軽質無水ケイ酸の場合、軽質無水ケイ酸の表面をメチル基で覆って疎水性化したものが挙げられ、また、疎水性化処理された酸化チタンの場合、酸化チタンをオクチルシランで化学的に処理し疎水性化したものが挙げられる。
【0020】
上記無機粒子としては、なかでも、後述する範囲の平均粒子径を有する市販品の入手が容易であることから、シリカ及び/又は二酸化チタンであることが好ましい。特に、疎水処理された軽質無水ケイ酸(例えばAerosil−R972、日本アエロジル社製)、疎水処理された酸化チタン(例えば、Aeroxide−T805、日本アエロジル社製)が好ましい。
【0021】
上記無機粒子の平均粒子径は、1〜1000nmであることが好ましく、より好ましい下限は100nm、より好ましい上限は500nmである。1nm未満であると、作業中の取扱性が悪くなり、また、医薬品添加物として購入できるものがない等の可能性があり、一方、1000nmを超えると、本発明の粒子製剤に用いると、被覆層に均一かつ密に充填することが難しくなり、薬物の溶出を制御できなくなる可能性がある。
ここにいう無機粒子の平均粒子径とは、後述する粒子製剤の平均粒子径と同じ意味である。
【0022】
本発明の粒子製剤において、上述した水不溶性高分子に対する無機粒子の含有量は、薬物粒子の種類、所望する薬物の溶出制御の程度等に応じて、水不溶性高分子2.4重量部に対して、0.5〜2.4重量部の範囲で調整することが好ましく、より好ましくは、1.0〜2.0重量部である。上記水不溶性高分子に対する無機粒子の含有量が0.5重量部未満であると、薬物の溶出制御効果が得られなくなることがあり、一方、2.4重量部を超えると、被覆層の脆化の原因となることがある。
【0023】
また、上述した薬物粒子に対する上記無機粒子の含有量としては、薬物粒子の種類、所望する溶出制御の程度などに応じて適宜調整されるが、好ましくは、薬物粒子2.4重量部に対して、0.5〜2.4重量部であり、より好ましくは1.0〜2.0重量部である。薬物粒子に対する無機粒子の含有量が0.5重量部未満であると、充分な薬物の溶出制御効果が得られなくなることがあり、一方、2.4重量部を超えると、被覆層の脆化の原因となることがある。
【0024】
なお、上記被覆層は、必要により、医薬製剤に使用される公知の成分、例えば、水溶性高分子、結合剤、崩壊剤、ワックス類、可塑剤、糖類、酸味料、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、安定化剤等を添加剤として含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0025】
また、上記被覆層は、必要により、後述するコーティング液中での薬物粒子の分散性を向上させるために、界面活性剤を含んでいてもよい。これらの界面活性剤は、単独又は二種以上組み合わせて使用することができる。上記界面活性剤としては、例えば、モノイソステアリン酸グリセリル等が挙げられる。
【0026】
また、本発明の粒子製剤において、上記被覆層は、単層構造であってもよいが、2層構造であってもよい。上記被覆層が2層構造であることで、より高い薬物の溶出制御が可能となる。
なお、上記被覆層が2層構造であるとは、上記薬物粒子を被覆した被覆層(第1の被覆層)の上に更に別の被覆層(第2の被覆層)が形成された構造が挙げられ、この第1の被覆層及び第2の被覆層は、それぞれ同一の組成からなるものであってもよく、異なる組成からなるものであってもよい。
【0027】
上記被覆層は、例えば、コーティング液として、上述した水不溶性高分子、無機粒子及びその他の添加剤(製剤化成分)を含む溶液(有機溶媒溶液等)又は分散液(水分散液等)を使用して形成することができる。
上記コーティング液における溶媒としては、例えば、水、有機溶媒が挙げられ、上記有機溶媒としては、例えば、アルコール類(エタノール、プロパノール、イソプロパノール等)、炭化水素類(n−ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化アルカン類(ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル類(酢酸エチル等)、エーテル類、ニトリル類(アセトニトリル等)等が挙げられる。
これらの有機溶媒は、2種以上混合して用いてもよく、水混和性の有機溶媒は、水と混合溶媒として用いてもよい。
これら溶媒のうち、アルコール類、ケトン類、水が好ましい。
【0028】
上記コーティング液中の水不溶性高分子の濃度は、コーティング液の粘度、噴霧性等に応じて選択でき、例えば、0.1〜50重量%、好ましくは0.2〜40重量%、より好ましくは0.5〜25重量%程度、更に好ましくは1〜10重量%程度である。上記コーティング液には、上述した種々の添加剤を添加してもよい。
【0029】
上記被覆層は、例えば、撹拌型流動層装置、転動流動層装置、ワースター式流動層装置、噴霧乾燥装置を用いた、公知のコーティング技術により薬物粒子の表面に形成させることができる。なかでも、本発明の粒子製剤の製造には、噴霧乾燥装置を用いた噴霧乾燥法が適している。
【0030】
上記噴霧乾燥法では、まず、薬物粒子と被覆層を構成する各材料を混和若しくは懸濁させたコーティング液を調製し、ノズルを用いてスプレードライヤーの乾燥室内へ噴霧する。噴霧により形成された微粒子化液滴内の水又は有機溶媒が、極めて短時間に揮発することにより薬物粒子が被覆層で被覆された粒子製剤が製造される。
上記ノズルとしては、二流体ノズル型、多流体ノズル型、圧力ノズル型、回転ディスク型等が挙げられる。
上記ノズルの型、噴霧条件は、上記のように調製されたコーティング液が噴霧される条件であれば特に制限されない。かかる条件は、粒子製剤の組成や用いるスプレードライヤーに応じて適宜選択することができる。例えば、二流体ノズル型スプレードライヤーでは、吸気温度は、使用する溶媒により適宜調整されるが、通常、約30〜200℃であり、好ましくは約40〜150℃である。また、噴霧液量は、装置のスケールにより適宜調整されるが、例えば、実験室用スケール(チャンバー径15.5cm)レベルでは、通常約1〜30mL/minである。噴霧ガス流量は、製造しようとする粒子製剤の粒子径やノズル径にもよるが、通常約50〜900L/hrで調整される。
上記粒子製剤は、必要であれば減圧下で薬物粒子中の水分又は溶媒の除去を完全に行うこともできる。
なお、上述した2層構造の被覆層で被覆された粒子製剤は、例えば、上述した噴霧乾燥法等で薬物粒子を被覆する第1の被覆層を形成した後、同一又は異なる組成のコーティング液を用いて、上述した噴霧乾燥法等で形成した第1の被覆層上に第2の被覆層を形成することで得ることができる。
【0031】
本発明の粒子製剤の平均粒子径は、口腔内でのザラツキ感が軽減される範囲であれば特に制限されないが、好ましくは1〜200μm、より好ましくは1〜100μm、更に好ましくは1〜50μm、最も好ましくは1〜15μmである。上記平均粒子径が1μm未満であると、本発明の粒子製剤の表面積が大きくなり、薬物の溶出制御が困難になることがある。一方、上記平均粒子径が200μmを超えると、口腔内でのザラツキ感や異物感を感じる可能性がある。
なお、ここにいう「平均粒子径」とは、全粒子体積の50%に相当する粒子径を指し、「自動粒子画像分析装置」(粒子画像分析装置は、撮影した粒子の画像から、粒子径を測定する装置)や「レーザー回析式粒度分布測定装置」(又は「レーザー回折散乱式粒度分布測定装置」)を用いて測定することができる。
【0032】
本発明の粒子製剤は、そのまま細粒剤として生体に投与することができるが、種々の製剤に成型して投与することもでき、そのような製剤を製造する際の原料物質としても使用され得る。
上記製剤としては、例えば、注射剤、経口投与製剤(例、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、口腔内崩壊錠、ドライシロップ剤、懸濁剤・乳剤、フィルム剤)、経鼻投与製剤、坐剤(例、直腸坐剤、膣坐剤)等が挙げられる。
これらの製剤中、含有させる薬物粒子の量は、薬物の種類、投与剤型、対象とする疾患等により変化し得るが、通常は、1製剤当たり0.001mg〜5gであることが好ましく、より好ましくは約0.01mg〜2gである。
【0033】
上記製剤は、一般に用いられる公知の方法により製造することができる。
具体的には、例えば、本発明の粒子製剤は、分散剤(例、ツイーン(Tween)80(アトラスパウダー社製、米国)、HCO60(日光ケミカルズ社製)、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等)、保存剤(例、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジールアルコール、クロロブタノール等)、等張化剤(例、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖等)等と共に、水性懸濁剤に、或いは、オリーブ油、ゴマ油、ラッカセイ油、綿実油、コーン油等の植物油やプロピレングリコール等に分散させて油性懸濁剤に成形し、注射剤とすることができる。
【0034】
また、上記経口投与製剤は、公知の方法に従い、本発明の粒子製剤と慣用の製剤助剤とで構成できる。
上記製剤助剤としては、経口投与製剤に慣用の成分、例えば、水溶性高分子又は結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロース・カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、アラビアゴム末、ゼラチン、プルラン等)、賦形剤(結晶セルロース、コーンスターチ等のデンプン類、ショ糖、乳糖、粉糖、グラニュー糖、ブドウ糖、マンニトール等の糖類、軽質無水ケイ酸、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等)、崩壊剤(例えば、コーンスターチ等のデンプン類、カルメロースカルシウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等)、脂質(例えば、炭化水素、ワックス類、高級脂肪酸とその塩、高級アルコール、脂肪酸エステル、硬化ひまし油等の硬化油等)、可塑剤(トリアセチン、クエン酸トリエチル、セバシン酸ジブチル等)、矯味剤(例えば、甘味剤(ショ糖、乳糖、ブドウ糖、マルトース等の糖、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール、サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア等の人工甘味料);クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などの酸味料;レモン、レモンライム、オレンジ、メントール等の香料等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク等)、流動化剤(例えば、軽質無水ケイ酸等)、着色剤(例えば、食用色素、カラメル、ベンガラ、酸化チタン等)、界面活性剤(例えば、アルキル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、及び、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体等の非イオン系界面活性剤等)、湿潤剤(ポリエチレングリコール(マクロゴール)等)、充填剤、増量剤、吸着剤、防腐剤などの保存剤又は安定化剤、帯電防止剤、崩壊延長剤等を含んでいてもよい。
更に、上記経口投与製剤は、必要により、味のマスキング、溶性、腸溶性或いは持続性の目的のため公知の方法でコーティングしてもよい。
【0035】
また、例えば、経鼻投与製剤とするには、公知の方法に従い、本発明の粒子製剤を固状、半固状又は液状の経鼻投与剤とすることができる。例えば、上記固状のものとしては、本発明の粒子製剤をそのまま、或いは、賦形剤(例、グルコース、マンニトール、デンプン、微結晶セルロース等)、増粘剤(例、天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重合体等)等を添加、混合して粉状の組成物とする。
【0036】
液状の製剤としては、注射剤の場合とほとんど同様で、油性或いは水性懸濁剤とする。半固状の場合は、軟膏状のものがよい。また、これらはいずれも、pH調節剤(例、炭酸、リン酸、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウム等)、防腐剤(例、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム等)等を加えてもよい。
【0037】
また、例えば、坐剤とするには、公知の方法に従い、本発明の粒子製剤に油性基剤又は水性基剤を加えて、油性又は水性の固状、半固状或いは液状の坐剤とすることができる。
上記油性基剤としては、粒子製剤を溶解しないものであればよく、例えば、高級脂肪酸のグリセリド(例、カカオ脂、ウイテプゾル類等)、中級脂肪酸(例、ミグリオール類等)、植物油(例、ゴマ油、大豆油、綿実油等)等が挙げられる。また、上記水性基剤としては、例えば、ポリエチレングリコール類、プロピレングリコール等が挙げられる。また、上記坐剤とする際には、水性ゲル基剤として、例えば、天然ガム類、セルロース誘導体、ビニール重合体、アクリル酸重合体等を用いてもよい。
【0038】
また、上記経口投与製剤は、その剤型に応じて慣用の方法、例えば、本発明の粒子製剤を必要により造粒又は練合した後、製剤化することにより得ることができる。
本発明の粒子製剤の造粒には、慣用の造粒法、例えば、転動型造粒法、流動層型造粒法等が採用でき、造粒や練合は、通常、賦形剤や結合剤等の担体を用いて行われる。例えば、錠剤の場合、例えば、本発明の粒子製剤と、賦形剤や結合剤等の担体とを混合又は練合し、必要により造粒し、滑沢剤等の添加剤を加えて打錠することにより得ることができる。また、例えば、カプセル剤は、本発明の粒子製剤又はその造粒物を、カプセルに封入することにより得ることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の粒子製剤は、薬物粒子と、それを被覆する被覆層とを有する構成であり、上記被覆層が2.4重量部の水不溶性高分子に対して、0.1〜0.8重量部の脂質成分を含有することで、薬物粒子の径が小さい場合であっても該薬物粒子を上記被覆層により有効にコーティングでき、薬物の溶出を有効に抑制できる。
また、上記水不溶性高分子が腸溶性高分子を含む好ましい実施態様では、上記被覆層が脂質成分を含むことで、薬物を、より効果的に腸特異的に溶出させることが可能となる。さらに好ましくは、2.4重量部の水不溶性高分子に対して、0.5〜2.4重量部の無機粒子を含有することで効果を増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下の実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
以下の実施例及び比較例では、次の薬物と製剤化成分を用いた。
(薬物)
グアヤコールスルホン酸カリウム
タムスロシン塩酸塩
(製剤化成分)
エチルセルロース(Dow Chemical社製、Ethocel 10)
HPMCP;ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(信越化学工業社製、HP55)
オイドラギットS100(Evonik Industries社製、Eudragit−S100)
ミリスチン酸(和光純薬工業社製,試薬特級)
パルミチン酸(和光純薬工業社製,試薬特級)
ステアリン酸(和光純薬工業社製,試薬特級)
アラキジン酸(和光純薬工業社製,試薬特級)
ベヘン酸(和光純薬工業社製,化学用)
疎水性軽質無水ケイ酸(日本アエロジル社製、Aerosil−R972)
モノイソステアリン酸グリセリル(日光ケミカルズ社製、NIKKOL−MGIS)
【0042】
また、以下の実施例及び比較例では、次の方法により、粒子製剤を製造、評価した。
(グアヤコールスルホン酸カリウム薬物粒子の製造)
グアヤコールスルホン酸カリウム100gを水900gに加えて溶解させて溶液を得た。この溶液を、スプレードライヤー(Mini Spray Dryer B−290、BUCHI Labortechnik AG社製)にて、噴霧液量2mL/min、吸気温度120℃、噴霧空気流量190L/hrにて噴霧乾燥して、薬物粒子として、球状のグアヤコールスルホン酸カリウム粒子を得た。
(タムスロシン塩酸塩薬物粒子の製造)
タムスロシン塩酸塩をジェットミル(スパイラルジェットミル50AS、ホソカワミクロン社製)にて、物理粉砕することで、薬物粒子として、タムスロシン塩酸塩粒子を得た。
(被覆)
製剤化成分と薬物粒子とを、溶媒に加えて懸濁させた。得られた懸濁液をスプレードライヤー(Mini Spray Dryer B−290、BUCHI Labortechnik AG社製)にて噴霧乾燥して、粒子製剤を得た。各実施例、比較例で用いた製剤化成分の組成は、表中に示した。
【0043】
(平均粒子径の測定)
<粒子製剤の平均粒子径>
自動粒子画像分析装置(Malvern Instruments社製、Morphologi(登録商標)−G3)を用いて、粒子数2万個以上から平均粒子径を測定した。
<無機粒子の平均粒子径>
無機粒子の平均粒子径は、粒子製剤の製造に先だって、事前に測定した。
すなわち、無機粒子のエタノール懸濁液を調製し、超音波処理後、粒径測定システムELSZ−1(大塚電子社製、動的及び電気泳動光散乱法)で平均粒子径を測定した。実施例で用いた無機粒子の平均粒子径を以下に示した。
疎水性化処理された無機粒子としてのAerosil−R972(平均粒子径218.0nm)
【0044】
(溶出試験)
日本薬局方記載のフロースルーセル法に準じて、溶出試験第1液(pH1.2)、溶出試験第2液(pH6.8)、又は、pH7.2のリン酸水素二ナトリウム・クエン酸緩衝液(無水リン酸水素二ナトリウム7.1gを水に溶かし、1000mLとする。この液に、クエン酸一水和物5.3gを水に溶かして1000mLとした液を加えてpH7.2に調整する)のいずれかの試験液で試験を実施した。
ただし、セルには、Swinnexフィルターホルダー25mm(日本ミリポア社製)を用いた。粒子製剤が流出しないように、フィルターホルダーにサポートスクリーン(25mmステンレス、日本ミリポア社製)、デュラポアメンブレンフィルター(PVDF、Hydrophilic、0.45μm、25mm、日本ミリポア社製)、シリコンガスケット25mm(スウィネクス(Swinnex)フィルターホルダー用、日本ミリポア社製)を順に備え付けた。送液ポンプにMasterflex L/S(型式7524−50、Cole Parmer Instrument COMPANY社製)を用い、2.5mL/minで試験液を送液した。それ以外は、日本薬局方のフロースルーセル法に従った。試験開始60分後に溶出液を採取し、採取した溶出液中の薬物の溶出量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定し、初期薬物含有量に対する溶出率を算出した。
【0045】
(実施例1)
表1に示した組成で、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、疎水性軽質無水ケイ酸(Aerosil−R972)、モノイソステアリン酸グリセリル、ステアリン酸、グアヤコールスルホン酸カリウム薬物粒子をアセトンに懸濁させた。
調製した懸濁液を、スプレードライヤー(Mini Spray Dryer B−290,BUCHI Labortechnik AG社製)にて、噴霧液量5mL/min、吸気温度120℃、噴霧空気流量470L/hrの条件で噴霧乾燥させ、粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH7.2の試験液で溶出試験を行った。試験結果を表1にまとめた。
【0046】
(比較例1)
ステアリン酸を加えていない以外は、実施例1と同じ方法で粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH7.2の試験液で溶出試験を行った。組成及び試験結果を表1にまとめた。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示したように、水不溶性高分子としてのHPMCP(腸溶性高分子)と、脂質成分とを所定の重量比で含有する実施例1に係る粒子製剤は、平均粒子径が9.5μmと小さく、かつ、pH1.2条件下での薬物の溶出を効果的に制御(抑制)することができ、pH7.2条件下では薬物の溶出が促進され、pH7.2とpH1.2の溶出率比が大きくなり、腸溶性製剤としての特徴を示した。
一方、脂質成分を含まない比較例1に係る粒子製剤は、実施例1と比較して、pH7.2条件下では薬物の溶出を効果的に促進できなかった。
【0049】
(実施例2)
表2に示した組成で、エチルセルロース、オイドラギットS100、パルミチン酸、疎水性軽質無水ケイ酸(Aerosil−R972)、モノイソステアリン酸グリセリル、グアヤコールスルホン酸カリウム薬物粒子をエタノールに懸濁させた。調製した懸濁液を、スプレードライヤー(Mini Spray Dryer B−290,BUCHI Labortechnik AG社製)にて、噴霧液量5mL/min、吸気温度120℃、噴霧空気流量470L/hrの条件で噴霧乾燥し、粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH7.2の試験液で溶出試験を行った。試験結果を表2にまとめた。
【0050】
(実施例3)
パルミチン酸をステアリン酸に変更した以外は、実施例2と同じ方法で粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH7.2の試験液で溶出試験を行った。組成及び試験結果を表2にまとめた。
【0051】
(実施例4)
グアヤコールスルホン酸カリウム薬物粒子に代えて、実施例1で得られた粒子製剤を用いた以外は、実施例3と同じ方法で被覆層が2層構造の粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH7.2の試験液で溶出試験を行った。組成及び試験結果を表2にまとめた。
【0052】
(実施例5)
ステアリン酸の配合量を0.30gから0.60gに変更した以外は、実施例3と同じ方法で粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH7.2の試験液で溶出試験を行った。組成及び試験結果を表2にまとめた。
【0053】
(実施例6)
パルミチン酸をアラキジン酸に変更した以外は、実施例2と同じ方法で粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH7.2の試験液で溶出試験を行った。組成及び試験結果を表2にまとめた。
【0054】
(実施例7)
パルミチン酸をベヘン酸に変更した以外は、実施例2と同じ方法で粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH7.2の試験液で溶出試験を行った。組成及び試験結果を表2にまとめた。
【0055】
(比較例2)
ステアリン酸の配合量を0.30gから0.90gに変更した以外は、実施例3と同じ方法で粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH7.2の試験液で溶出試験を行った。組成及び試験結果を表2にまとめた。
【0056】
(比較例3)
パルミチン酸をミリスチン酸に変更した以外は、実施例2と同じ方法で粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH7.2の試験液で溶出試験を行った。組成及び試験結果を表2にまとめた。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示したように、水不溶性高分子として、オイドラギットS100(腸溶性高分子)及びエチルセルロース(徐放性高分子)と、脂質成分としてC15以上の脂肪酸とを、所定の重量比で含有する実施例2〜7に係る粒子製剤は、平均粒子径が9.0〜16.6μmと小さく、かつ、pH1.2条件下での薬物の溶出を効果的に制御(抑制)することができ、pH7.2条件下では薬物の溶出が促進され、pH7.2とpH1.2の溶出率比が大きくなり、腸溶性製剤としての特徴を示した。なお、脂質成分としてC22のベヘン酸を用いた実施例7に係る粒子製剤は、pH7.2条件下での薬物の溶出率が他の実施例と比較して若干劣るものであった。
一方、脂質成分としてのステアリン酸を0.90重量部含む比較例2の粒子製剤、及び、脂質成分としてミリスチン酸(C14)を用いた比較例3の粒子製剤は、pH1.2条件下での薬物の溶出制御(抑制)ができず、また、pH7.2とpH1.2の溶出率比も小さくなった。
【0059】
(実施例8)
表3に示した組成で、エチルセルロース、オイドラギットS100、モノイソステアリン酸グリセリル、ステアリン酸、タムスロシン塩酸塩薬物粒子をエタノールに懸濁させた。
調製した懸濁液を、スプレードライヤー(Mini Spray Dryer B−290,BUCHI Labortechnik AG社製)にて、噴霧液量5mL/min、吸気温度120℃、噴霧空気流量470L/hrの条件で噴霧乾燥させ、粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH6.8の試験液で溶出試験を行った。試験結果を表3にまとめた。
【0060】
(実施例9)
疎水性軽質無水ケイ酸(Aerosil−R972)をさらに添加した以外は、実施例8と同じ方法で粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH6.8の試験液で溶出試験を行った。組成及び試験結果を表3にまとめた。
【0061】
(比較例4)
ステアリン酸を配合しなかった以外は、実施例8と同じ方法で粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH6.8の試験液で溶出試験を行った。組成及び試験結果を表3にまとめた。
【0062】
(比較例5)
ステアリン酸を配合しなかった以外は、実施例9と同じ方法で粒子製剤を得た。この粒子製剤について、pH1.2、pH6.8の試験液で溶出試験を行った。組成及び試験結果を表3にまとめた。
【0063】
(比較例6)
ジェットミルで物理粉砕したタムスロシン塩酸塩薬物粒子について、pH1.2、pH6.8の試験液で溶出試験を行った。試験結果を表3にまとめた。
【0064】
【表3】

【0065】
表3に示したように、ジェットミルで物理粉砕した比較例6の薬物粒子では、pH1.2、pH6.8の条件下で高い薬物溶出率を示した。
水不溶性高分子として、オイドラギットS100(腸溶性高分子)及びエチルセルロース(徐放性高分子)と、脂質成分としてC18であるステアリン酸とを、所定の重量比で含有する実施例8に係る粒子製剤は、平均粒子径が10.6μmと小さく、かつ、pH1.2条件下での薬物の溶出を効果的に制御(抑制)することができ、pH6.8条件下では薬物の溶出が促進され、pH6.8とpH1.2の溶出率比が大きくなり、腸溶性製剤としての特徴を示した。一方、脂質成分を含まない比較例4に係る粒子製剤は、実施例8と比較して、pH6.8条件下では薬物の溶出を効果的に促進できず、pH6.8とpH1.2の溶出率比が小さくなった。
【0066】
タムスロシン塩酸塩の場合、グアヤコールスルホン酸カリウムの場合とは異なり、疎水性軽質無水ケイ酸を用いることなくpH6.8条件下での薬物の溶出を促進しつつ、pH1.2条件下での薬物の溶出を効果的に制御(抑制)することができた。また、グアヤコールスルホン酸カリウムのように2層被覆をすることなく、単層被覆でpH1.2条件下での薬物の溶出を効果的に制御(抑制)することができた。
【0067】
水不溶性高分子として、オイドラギットS100(腸溶性高分子)及びエチルセルロース(徐放性高分子)と、脂質成分としてC18であるステアリン酸と、疎水性軽質無水ケイ酸を、所定の重量比で含有する実施例9に係る粒子製剤は、平均粒子径が10.9μmと小さく、かつ、pH1.2条件下での薬物の溶出を効果的に制御(抑制)することができ、pH6.8条件下では薬物の溶出が促進され、pH6.8とpH1.2の溶出率比が大きくなり、腸溶性製剤としての特徴を示した。一方、脂質成分を含まない比較例5に係る粒子製剤は、実施例9と比較して、pH6.8条件下では薬物の溶出を効果的に促進できず、pH6.8とpH1.2の溶出率比が小さくなった。
【0068】
疎水性軽質無水ケイ酸を含まない実施例8に係る粒子製剤は、疎水性軽質無水ケイ酸を0.60重量部含む実施例9に係る粒子製剤と比較すると、pH1.2条件下での薬物の溶出を効果的に制御(抑制)したまま、pH6.8条件下での薬物の溶出を制御(抑制)することができた。このように、疎水性軽質無水ケイ酸の配合によりpH1.2条件下での薬物の溶出を効果的に制御(抑制)したまま、pH6.8条件下での薬物の溶出も制御することができた。
【0069】
溶解性などの薬物の物性に合わせて、被覆回数、水不溶性高分子の種類、配合量、疎水性軽質無水ケイ酸の配合量、脂質成分の配合量を変化させることにより、酸性条件、中性条件下での薬物の溶出を自在に制御することができた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明では、薬物粒子を水不溶性高分子と無機粒子を含む被覆層で被覆することにより、粒子径が小さい場合でも薬物粒子を有効にコーティングでき、薬物の溶出を有効に抑制できる。
そのため、細粒剤としてそのまま生体に投与できるだけでなく、種々の製剤に成型して投与することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物粒子と、前記薬物粒子を被覆する被覆層とを有する粒子製剤であって、
前記被覆層は、水不溶性高分子2.4重量部に対して、脂質成分0.1〜0.8重量部を含有し、
前記脂質成分は、C15以上の脂肪酸を含む
ことを特徴とする粒子製剤。
【請求項2】
水不溶性高分子は、腸溶性高分子を含む請求項1記載の粒子製剤。
【請求項3】
脂質成分は、C15〜C21脂肪酸を含む請求項1又は2記載の粒子製剤。
【請求項4】
C15〜C21脂肪酸は、ステアリン酸である請求項3記載の粒子製剤。
【請求項5】
被覆層は、更に、水不溶性高分子2.4重量部に対して、無機粒子0.5〜2.4重量部を含有する請求項1、2、3又は4記載の粒子製剤。
【請求項6】
無機粒子は、平均粒子径が1nm〜1000nmである請求項5記載の粒子製剤。
【請求項7】
無機粒子は、シリカ及び/又は二酸化チタンである請求項5又は6記載の粒子製剤。
【請求項8】
無機粒子は、疎水性化処理されたものである請求5、6又は7記載の粒子製剤。
【請求項9】
被覆層は、2層構造である請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の粒子製剤。
【請求項10】
噴霧乾燥法により得られる請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の粒子製剤。

【公開番号】特開2013−40161(P2013−40161A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−106978(P2012−106978)
【出願日】平成24年5月8日(2012.5.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】