説明

粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法

【課題】還元溶融炉で製造された粒状金属鉄を製鋼用電弧炉に連続装入し溶解して溶鋼を製造するに際し、より効率的に溶解しうる溶鋼製造方法を提供する。
【解決手段】炭素質還元材と酸化鉄含有物質を含む原料を還元溶融炉としての回転炉床炉1内で加熱し、この原料中の酸化鉄を固体還元した後、生成する金属鉄をさらに加熱して溶融させるとともに、スラグ成分Bと分離させながら凝集させて製造した粒状金属鉄Aと、他の鉄原料であるスクラップDとからなる全装入鉄原料を電弧炉2で溶解して溶鋼Gを製造する方法であって、粒状金属鉄A中の炭素の含有量を1.0〜4.5質量%とし酸素吹錬と併用することにより前記粒状金属鉄A中の炭素を燃焼させるとともに、前記全装入鉄原料に対する粒状金属鉄Aの使用割合を40〜80質量%とし、スクラップDを電弧炉2に初期装入して溶鉄Fを作った後、この溶鉄F中に粒状金属鉄Aを連続的に装入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転炉床炉などの還元溶融炉で製造された粒状金属鉄を電弧炉で溶解して溶鋼を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鋼用電弧炉では、従来はスクラップ、銑鉄(冷銑)、還元鉄などの鉄原料を炉上からスクラップバケットで炉内にバッチ装入し、溶解後、炉蓋を開放して前記鉄原料をバッチで追加装入し、溶解する方法を取っていた。このために、炉蓋開放および鉄原料装入の間に、熱ロスおよび時間ロス、ならびに多量の粉塵が炉外に飛散するという作業環境悪化の問題が生じていた。
【0003】
この対応として、成分とサイズ゛が比較的均一な還元鉄の連続投入は行われて来た(例えば、特許文献1〜3参照)が、還元鉄は脈石分や未還元の酸化鉄を含むため、スクラップや銑鉄(冷銑)より溶解エネルギーを多く必要とする問題がある。
【0004】
一方、銑鉄(冷銑)については、製造上の問題からサイズを小さくできない制約があり、連続投入による多量投入、溶解は実現できていない。
【0005】
また、製鋼用電弧炉の生産性向上を目的に、酸素付加操業が定着し、酸素使用量も増加しており、投入酸素量に見合う炭素源の使用量も増加している。
【0006】
この炭素源として、溶銑や冷銑中の炭素分、塊状コークス、粉コークスなどが使用されている。
【0007】
しかしながら、溶銑を使用する場合は、製鋼用電弧炉の上流側に溶銑の専用製造設備と電弧炉への専用装入設備が必要となる問題がある。
【0008】
一方、冷銑を使用する場合は、上述したように、そのサイズが大きいため、バッチでの装入に限られ、また溶解に時間がかかることから使用量が制約される問題がある。
【0009】
また、塊状コークス、粉コークスを使用する場合は、全硫黄分および灰分組成によっては使用量が制約される、電弧炉への装入時にスラグに捕捉されたり、排ガスとともに炉外に排出されたりするため添加歩留が低下する、などの問題があった。
【0010】
ここで、炭素質還元材と酸化鉄含有物質を含む原料を回転炉床炉などの還元溶融炉内で加熱し、この原料中の酸化鉄を固体還元した後、生成する金属鉄をさらに加熱して溶融させるとともに、スラグ成分と分離させながら凝集させることにより、高純度の粒状金属鉄を製造する方法が開発されている(例えば、特許文献4、5参照)。
【0011】
この粒状金属鉄は、還元鉄と比較すると、スラグ成分があらかじめ除去されているとともに、炭素含有量を高くできるので、還元鉄の替わりに電弧炉に連続装入することで、酸素吹錬と併用して電弧炉での溶解エネルギーを大幅に低減するとともに、溶鋼の生産性を大幅に向上できると期待されている。
【0012】
しかしながら、製鋼用電弧炉において、このような粒状金属鉄を連続装入してより効率的に溶解する技術についてはいまだ確立していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭50−64111号公報
【特許文献2】特開昭51−65007号公報
【特許文献3】特開昭58−141314号公報
【特許文献4】特開2002−339009号公報
【特許文献5】特開2003−73722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、回転炉床炉などの還元溶融炉で製造された粒状金属鉄を製鋼用電弧炉に連続装入し溶解して溶鋼を製造するに際し、より効率的に溶解しうる溶鋼製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明は、炭素質還元材と酸化鉄含有物質を含む原料を還元溶融炉内で加熱し、この原料中の酸化鉄を固体還元した後、生成する金属鉄をさらに加熱して溶融させるとともに、スラグ成分と分離させながら凝集させて製造した粒状金属鉄と、他の鉄原料とからなる全装入鉄原料を電弧炉で溶解して溶鋼を製造する方法であって、前記粒状金属鉄中の炭素の含有量を1.0〜4.5質量%とし酸素吹錬と併用することにより前記粒状金属鉄中の炭素を燃焼させるとともに、前記全装入鉄原料に対する前記粒状金属鉄の使用割合を40〜80質量%とし、前記他の鉄原料を前記電弧炉に初期装入して溶鉄を作った後、この溶鉄中に前記粒状金属鉄を連続的に装入することを特徴とする、粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法である。
【0016】
請求項2に記載の発明は、投入電力1MW当たりの前記粒状鉄の装入速度を40〜100kg/min/MWとする、請求項1に記載の粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法である。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記粒状金属鉄の溶鉄表面における装入位置を電極ピッチサークル内とする、請求項1または2に記載の粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法である。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記粒状金属鉄の平均粒径を1〜50mmとする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法である。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記溶鉄上に形成された溶融スラグ層をフォーミングさせて電極の下端を常に被覆しつつ、前記溶鉄中に前記粒状金属鉄を連続的に装入する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法である。
【0020】
請求項6に記載の発明は、前記還元溶融炉で製造した粒状金属鉄を、常温まで冷却することなく、400〜700℃で前記電弧炉の溶鉄中に連続的に装入する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、還元溶融炉で製造した、炭素含有量1.0〜4.5質量%の粒状金属鉄を酸素吹錬と併用することにより前記粒状金属鉄中の炭素を燃焼させるとともに、全装入鉄原料に対して40〜80質量%使用し、これを、他の鉄原料を電弧炉に初期装入して作った溶鉄中に連続的に装入するようにしたことで、溶解エネルギーを大幅に低減して電弧炉のエネルギー効率を上昇させるとともに、溶鋼の生産性を大幅に向上させることが実現できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る溶鋼製造設備の概略構成を示すフロー図である。
【図2】電弧炉における、全装入鉄原料に対する粒状金属鉄の使用割合と溶解エネルギーとの関係を示すグラフ図である。
【図3】電弧炉における、全装入鉄原料に対する粒状金属鉄の使用割合と溶鋼生産速度との関係を示すグラフ図である。
【図4】溶解試験装置の概略構成を示す部分縦断面図である。
【図5】溶解試験装置における、粒状金属鉄および還元鉄の装入速度と投入電力との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
[実施形態1]
図1に、本発明の一実施形態に係る溶鋼製造設備の概略構成を示す。本実施形態に係る設備は、還元溶融炉としての回転炉床炉1と電弧炉2とが近接して設置されている場合の例である。
【0025】
そして、本発明で用いられる粒状金属鉄Mは、例えば以下のようにして製造される。
【0026】
まず、石炭などの炭素質還元材と鉄鉱石などの酸化鉄含有物質を含む原料をペレットまたはブリケットに塊成化する。そして、この塊成化物を、炭材Cを床敷した図示しない炉床上に載置し、回転炉床炉1内で、例えば1350〜1400℃程度に加熱し、原料中の酸化鉄を固体還元した後、生成する金属鉄をさらに1400〜1550℃程度に加熱して溶融させるとともに、スラグ成分と分離させながら凝集させる。その後、炉内のチル部で1000〜1100℃程度まで冷却することで、固化した粒状金属鉄AとスラグBの混合物が得られる。そして、この混合物を床敷炭材Cとともに回転炉床炉1から排出した後、スクリーン3と磁選機4を用いてスラグBと床敷炭材Cを分離除去することで、粒状金属鉄Aが得られる(例えば、上記特許文献1〜3参照)。
【0027】
この粒状金属鉄A中の炭素含有量は1.0〜4.5質量%とする。炭素含有量の下限を1.0質量%としたのは、製造する鋼の種類に応じた必要C量を確保し、鉄原料としての汎用性を高めるためである。一方、炭素含有量の上限を4.5質量%としたのは、脱炭処理などの付加的処理の負荷を加重することなく使用するためである。粒状金属鉄A中の炭素含有量の好ましい範囲は1.5〜3.5質量%である。粒状金属鉄A中の炭素含有量は、上記塊成化物中の炭素質還元材の配合量や回転炉床炉1内の雰囲気を調節することで、容易に調整できる。
【0028】
ここで、回転炉床炉1内において粒状金属鉄Aが溶融状態にあるときには、該粒状金属鉄A中の炭素は、該粒状金属鉄Aの表面近傍に集まりやすいため、固化後の粒状金属鉄Aも、その表面近傍ほど炭素濃度が高くなっている。このため、電弧炉2の溶鉄F中に装入された粒状金属鉄Aは炭素濃度の高い低融点の表面近傍から容易に溶解され始める。この溶解した高炭素濃度溶鉄中の炭素は、酸素吹錬と併用することにより、すなわち、電弧炉2内に酸素を吹き込むことにより、その酸素で燃焼され、その燃焼熱で粒状金属鉄A内部の炭素濃度の低い高融点の部分も容易に溶解されることとなる。
【0029】
この粒状金属鉄Aと、他の鉄原料としてのスクラップDとを合わせて全装入鉄原料とし、この全装入鉄原料に対する粒状金属鉄Aの使用割合を40〜80質量%とする。
【0030】
そして、まず、スクラップDを電弧炉2に初期装入(バッチ装入)して電極7にてアーク加熱して溶解し溶鉄Fを作る。
【0031】
その後、アーク加熱を継続しながら、酸素を吹き込みつつ(必要によりさらに粉炭を吹き込みつつ)、この溶鉄F中に粒状金属鉄Aを連続的に装入して溶解することで、電弧炉2のエネルギー効率を上昇させつつ溶鋼Gの生産性を向上させることができ、より効率良く溶鋼Gが得られる。
【0032】
ここで、全装入鉄原料に対する粒状金属鉄Aの使用割合を40〜80質量%としたのは、以下の理由によるものである。
【0033】
すなわち、実稼動の電弧炉(内容量:90t、トランス容量:74MVA)を例に採り、粒状金属鉄の使用割合、装入方法の相違による、全装入鉄原料を溶解するのに要する溶解エネルギー、および、溶鋼の生産速度に及ぼす影響を試算した。
【0034】
ここに、粒状金属鉄の炭素含有量は2.5質量%とした。また、粒状金属鉄を「バッチ装入」および「連続装入」する際における粒状金属鉄の温度は常温(25℃)とし、「高温連続装入」する際の粒状金属鉄の温度は400℃とした。また、粒状金属鉄を「バッチ装入」から「連続装入」に変更することで、炉のヒートロスは、追加装入1回当たり870Mcal(ここに、1Mcal=4.18605MJである。以下同じ。)減少し、止電時間は2min、ボーリング期の時間も2min、それぞれ短縮されるとした。
【0035】
試算の結果を図2および図3に示す。図2は、粒状金属鉄の使用割合、装入方法の相違による、全装入鉄原料を溶解するのに要する溶解エネルギーの変化を示したものである。また、図3は、粒状金属鉄の使用割合、装入方法の相違による、溶鋼生産速度の変化を示したものである。
【0036】
粒状金属鉄Aの使用割合が40質量%未満、つまり、他の鉄原料であるスクラップDの使用割合が60質量%を超えると、バッチ装入のための図示しないスクラップバケットの容量制約から、スクラップDの初期装入を2回に分けて行う必要が生じてしまい、図3に示すように、粒状金属鉄Aを連続装入したとしても溶鋼生産速度が大幅に低下してしまう。
【0037】
一方、粒状金属鉄Aの使用割合が80質量%を超えると、粒状金属鉄Aを「高温連続装入」した場合には、脱炭時間が、電弧炉2の投入電力容量で決定される溶解時間よりも長くなり、この脱炭時間が溶鋼の生産性を律速するようになるので、図3に示すように、溶鋼生産速度の上昇は頭打ちになる。
【0038】
以上の結果より、全装入鉄原料に対する粒状金属鉄Aの使用割合は40〜80質量%とした。
【0039】
また、投入電力1MW当たりの粒状金属鉄Aの装入速度は、以下の理由により、40〜100kg/min/MWとするのが好ましい。
【0040】
すなわち、連続装入の際における粒状金属鉄の溶解特性を把握するため、溶解鉄原料として下記表1に示す物理・化学性状を有する粒状金属鉄および比較材としての還元鉄を用いて溶解試験を実施した。
【0041】
【表1】

【0042】
溶解試験装置としては、図4に概略構成を示すように、500kg高周波誘導炉(定格:350kW、1000Hz)と、原料供給装置(ホッパー容量:200kg、原料投入速度:0〜15kg/min)と、溶解状況を観察するためのモニター用カメラと、溶湯温度および原料投入速度を記録するためのデータ収録装置とで構成されたものを用いた。
【0043】
溶解条件としては、C:0.2〜0.3質量%、Si<0.03質量%、Mn:0.05質量%、温度:1550℃の初期溶湯250kgを作製し、溶湯温度を1550〜1600℃に維持しつつ原料投入速度を順次変更し、連続装入された鉄原料が順調に溶解するのをモニター用カメラで確認しながら投入電力を調整するようにした。
【0044】
溶解試験の結果を図5および下記表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
これらの図表に示すように、粒状金属鉄は還元鉄に比べて、投入電力1MW当たりの最大溶解速度が2.5〜3.0倍になった。
【0047】
なお、このように粒状金属鉄の最大溶解速度が還元鉄の最大溶解速度の2.5〜3.0倍になったことは、還元鉄中に含まれるスラグ成分の量が粒状金属鉄に比べて多いことだけでは説明がつかず、溶解試験の加熱源としてアーク加熱ではなく、高周波誘導加熱を用いたことが原因と考えられる。
【0048】
すなわち、粒状金属鉄は溶鉄と見掛け密度がほぼ同等のため溶鉄中に浮遊した状態で溶解し、溶鉄は高周波誘導加熱により十分に加熱されるため粒状金属鉄の溶解速度は十分大きくなる。一方、還元鉄は溶融スラグと見掛け密度がほぼ同等のため溶融スラグ中に浮遊した状態で溶解し、溶融スラグはアーク加熱とは異なり、高周波誘導加熱では十分に加熱できない。このことに起因して、還元鉄の溶解速度が粒状金属鉄に比べて大幅に低下したためと考えられる。
【0049】
ここで、本溶解試験装置は500kgと小型であることから、実稼動の90t電弧炉に比べて著しくヒートロスが大きいため、本溶解試験で得られた、粒状金属鉄の投入電力1MW当たりの最大溶解速度は、実稼動の電弧炉に使用した場合には、さらに大きくなると想定される。そこで、以下のようにして、実稼動の90t電弧炉に粒状金属鉄を連続装入した場合における、粒状金属鉄の投入電力1MW当たりの溶解速度の推定を行った。
【0050】
下記表3に示すように、本溶解試験装置における粒状金属鉄の溶解電力原単位を求めると、装入速度が4kg/minの場合は714kWh/t、装入速度が7kg/minの場合は584kWh/tが得られた。一方、上記実稼動の90t電弧炉においては、還元鉄を連続装入した場合における溶解電力原単位の実績値が存在するので、この還元鉄の溶解電力原単位の実績値に、還元鉄と粒状鉄との成分の相違を考慮して粒状金属鉄の溶解電力原単位を試算すると、366kWhが得られた。したがって、上記実稼動の90t電弧炉に対する本溶解試験装置の投入電力効率は、同表に示すように、投入速度が4kg/minの場合は366/714=51.3%となり、投入速度が7kg/minの場合は366/584=62.7%となった。
【0051】
【表3】

【0052】
そこで、上記表2に示す本溶解試験装置における、粒状金属鉄の投入電力1MW当たりの最大溶解速度[R]を上記投入電力効率[C]/100で割ることによって補正し、上記実稼動の90t電弧炉における、粒状金属鉄の投入電力1MW当たりの最大溶解速度を推定した(上記表2の「補正後の最大溶解速度」の欄参照)。
【0053】
上記推定結果を集約して下記表4の「連続装入」の欄に示す。また、同表には、粒状金属鉄の炭素含有量を2.5質量%として、この含有炭素を酸素吹込みにより燃焼してエネルギー付与した場合、さらに、粒状金属鉄を600℃で高温装入した場合のそれぞれについて上記実稼動の90t電弧炉における電力原単位を試算し、粒状金属鉄の投入電力1MW当たりの最大溶解速度を推定した結果を併記した。
【0054】
【表4】

【0055】
上記 表4に示す推定結果より、粒状金属鉄の投入電力1MW当たりの最大溶解速度は、該粒状金属鉄の炭素含有量や装入温度により変動するものの、40〜100kg/min/MWの範囲にあることがわかる。よって、投入電力1MW当たりの粒状金属鉄Aの装入速度は、40〜100kg/min/MWとするのが推奨される。
【0056】
また、粒状金属鉄Aの溶鉄F面における装入位置は電極ピッチサークル内とするのが好ましい。
【0057】
すなわち、従来の還元鉄は、上述したように、その見掛け密度が溶融スラグとほぼ同等であるので、電弧炉の溶湯中に投入された還元鉄は、溶融スラグ層中に比較的長い時間滞留し、溶融スラグ層を介してアーク加熱により溶解が進行する。このため、還元鉄の装入位置には特に制約はなかった。
【0058】
これに対して、本発明に係る粒状金属鉄Aは、その見掛け密度が溶鉄Fとほぼ同等であるので、電弧炉2の溶湯中に投入された粒状金属鉄Aは、溶融スラグ層Eを突き抜けて溶鉄層F中に潜り込み、溶融スラグ層Eと溶鉄層Fを介してアーク加熱により溶解が進行する。このため、粒状金属鉄Aを電極7から離れた位置に装入すると、粒状金属鉄Aへの伝熱が不足して、溶鉄層F中に粒状金属鉄Aの溶け残りが蓄積されるおそれが生じる。したがって、粒状金属鉄Aの溶鉄F面における装入位置は、電極ピッチサークル内とすることが特に推奨され、これによってアーク熱がより直接的、効率的に粒状金属鉄Aに伝えられ、溶け残りが防止されて、溶鋼Gの生産性がさらに向上する。
【0059】
また、粒状金属鉄Aの平均粒径は1〜50mmとするのが好ましい。
【0060】
粒状金属鉄Aの粒度が小さすぎると、回転炉床炉1から排出された後の分別回収時に微細なスラグ成分が混入しやすくなって鉄分純度が低下したり、電弧炉2への装入時に飛散しやすくなって添加歩留が低下する。一方、粒状金属鉄Aの粒度が大きすぎると、回転炉床炉1での製造時に上記塊成化物の内部まで伝熱するのに時間がかかって生産性が低下したり、炉上ホッパー6内や同ホッパー6からの切り出し部での詰まりが発生したり、あるいは電弧炉2での溶解時に溶解速度が低下したりするためである。粒状金属鉄Aのより好ましい平均粒径は2〜25mmである。
【0061】
本発明において、平均粒径とは、篩い分け法で分級後、各篩目間の代表径とその篩目間の質量から算出される質量平均粒径である。例えば、篩目がD、D・・・、D、Dn+1(D<D<・・・<D<Dn+1)の篩を用いて分級したとき、篩目DとDk+1間の質量がWである場合、質量平均粒径dは、d=Σk=1,n(W×d)/Σk=1,n(W)で定義される。ここに、dは篩目DとDk+1間の代表径であり、d=(D+Dk+1)/2である。
【0062】
また、電弧炉2の溶鉄F中に粒状金属鉄Aを連続的に装入するに際して、溶鉄層F上に形成された溶融スラグ層Eをフォーミングさせて電極7の下端を常に被覆しつつ溶解を行うことが好ましい。これにより、アークの熱を上部空間に逃がすことなく、より効率的に溶鉄層Fに伝えることができ、粒状金属鉄Aの溶解速度がさらに向上する。溶融スラグ層Eのフォーミングの高さは、例えば溶鉄層F中に酸素を吹き込み、溶鉄層F中の炭素の脱炭反応によってCOガスを生成させることで調整できる。
【0063】
また、回転炉床炉1で製造された粒状金属鉄Aを、常温まで冷却することなく、400〜700℃の高温状態で電弧炉2の溶鉄F中に連続的に装入するのが好ましい。
【0064】
これにより、粒状金属鉄Aの顕熱を有効に利用して、さらに、電弧炉2における溶解エネルギー原単位を低減するとともに、溶鋼Gの生産性(溶鋼生産速度)を向上させることができる(後述の実施例参照)。
【0065】
粒状金属鉄Aの装入温度の好適範囲を400〜700℃としたのは、以下の理由による。すなわち、粒状金属鉄Aの顕熱の有効利用の観点からある程度の温度が必要なことから下限温度を400℃とし、磁選により粒状金属鉄Aとスラグ成分Bおよび床敷炭材Cとを分離するに際して、粒状金属鉄Aを磁化する必要があるため、上限温度を、鉄のキュリー温度(770℃)より低い700℃とした。
【0066】
粒状金属鉄Aを高温状態で電弧炉2に装入するため、回転炉床炉1から排出した1000〜1100℃程度の粒状金属鉄AとスラグBおよび床敷炭材Cの混合物を、後段のスクリーン3、磁選機4、コンベヤ5などの設備保護のため少し冷却した後、ともに高温仕様のスクリーン3と磁選機4で粒状金属鉄Aを分離回収し、この粒状金属鉄Aを、高温仕様のコンベア5によって、電弧炉2の炉上ホッパー6まで搬送していったん貯蔵し、この炉上ホッパー6から切り出すときの温度が400〜700℃になるようにすればよい。なお、回転炉床炉1から上記混合物を排出するための排出ダクトから電弧炉2の炉上ホッパー6までは、粒状金属鉄Aが大気と直接接触して再酸化することを防止するため、Nなどを吹き込んで不活性ガス雰囲気としておくのがよい。
【0067】
(変形例)
上記実施形態では、還元溶融炉の炉形式として回転炉床炉を例示したが、直線炉を用いてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、炭素質還元材と酸化鉄含有物質を含む原料として、炭素質還元材と酸化鉄含有物質を塊成化してなる塊成化物を例示したが、塊成化せずに、これらを粉状のまま用いてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、高温状態の粒状金属鉄の搬送装置として高温仕様のコンベアを例示したが、保温された容器を、搬送台車およびクレーンなど用いて移送するようにしてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、回転炉床炉と電弧炉が近接して設置されている場合を例示したが、回転炉床炉と電弧炉が離れて設置されている場合には、回転炉床炉で製造された粒状金属鉄を常温まで冷却すれば、粒状金属鉄はいったん溶融した後固化しているので、還元鉄に比べて緻密化していることから、特別な再酸化防止手段を講じることなく、通常の輸送手段を用いて電弧炉まで輸送することができる。
【0071】
また、上記実施形態では、電弧炉へ初期装入する他の鉄原料として、スクラップを例示したが、還元鉄あるいは粒状金属鉄を用いてもよいし、これらの2種以上を併用してもよい。
【0072】
なお、電弧炉へ初期装入する他の鉄原料の全部または一部として粒状金属鉄を用いる場合でも、この初期装入された他の鉄原料で作った溶鉄中に連続的に装入する粒状金属鉄の、全装入鉄原料に対する使用割合は40〜80質量%にする必要がある。換言すれば、電弧炉へ初期装入する他の鉄原料の全部または一部として粒状金属鉄を用いる場合には、全装入鉄原料に対する全粒状金属鉄の使用割合は、初期装入分と連続装入分とを合計した割合となるので、40〜80質量%より高い使用割合になる。
【符号の説明】
【0073】
1…溶融還元炉(回転炉床炉)
2…電弧炉
3…スクリーン
4…磁選機
5…コンベア
6…炉上ホッパー
7…電極
A…粒状金属鉄
B…スラグ
C…床敷炭材
D…他の鉄原料(スクラップ)
E…溶融スラグ、溶融スラグ層
F…溶鉄、溶鉄層
G…溶鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質還元材と酸化鉄含有物質を含む原料を還元溶融炉内で加熱し、この原料中の酸化鉄を固体還元した後、生成する金属鉄をさらに加熱して溶融させるとともに、スラグ成分と分離させながら凝集させて製造した粒状金属鉄と、他の鉄原料とからなる全装入鉄原料を電弧炉で溶解して溶鋼を製造する方法であって、
前記粒状金属鉄中の炭素の含有量を1.0〜4.5質量%とし酸素吹錬と併用することにより前記粒状金属鉄中の炭素を燃焼させるとともに、
前記全装入鉄原料に対する前記粒状金属鉄の使用割合を40〜80質量%とし、
前記他の鉄原料を前記電弧炉に初期装入して溶鉄を作った後、この溶鉄中に前記粒状金属鉄を連続的に装入することを特徴とする、粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法。
【請求項2】
投入電力1MW当たりの前記粒状金属鉄の装入速度を40〜100kg/min/MWとする、請求項1に記載の粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法。
【請求項3】
前記粒状金属鉄の溶鉄表面における装入位置を電極ピッチサークル内とする、請求項1または2に記載の粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法。
【請求項4】
前記粒状金属鉄の平均粒径を1〜50mmとする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法。
【請求項5】
前記溶鉄上に形成された溶融スラグ層をフォーミングさせて電極の下端を常に被覆しつつ、前記溶鉄中に前記粒状金属鉄を連続的に装入する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法。
【請求項6】
前記還元溶融炉で製造した粒状金属鉄を、常温まで冷却することなく、400〜700℃で前記電弧炉の溶鉄中に連続的に装入する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の粒状金属鉄を用いた溶鋼製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−7225(P2012−7225A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146114(P2010−146114)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】