説明

粗圧延におけるスリップ防止方法

【課題】加熱されたスラブ(被圧延材)を粗圧延するに際して、粗圧延機と被圧延材との間のスリップを的確に防止することができる粗圧延におけるスリップ防止方法を提供する。
【解決手段】粗圧延機1の入側直近で粗バー7の表面をスプレー水ノズル8によって強制冷却することによって、粗バー7表面の二次スケールをFeO(ウスタイト)からFe4(マグネタイト)に変態させることで、粗圧延機1のワークロール3と粗バー7との間の摩擦係数が増大し、スリップを的確に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の熱間圧延方法に関わり、特に加熱されたスラブを粗圧延する際に発生するスリップを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
薄鋼板の熱間圧延ラインでは、スラブは加熱炉から一本づつ抽出され、粗圧延機(粗圧延機列)で所定の厚さまで圧延され、更に連続的に配置された複数の仕上圧延機(仕上圧延機列)で逐次圧延された後、巻取機に巻取られてホットコイルとなる。粗圧延機では、仕上圧延機にシートバーを供給するためにスラブ厚さ(200〜300mm程度)からシートバー厚さ(20〜60mm程度)まで、4〜9パスの圧延で減厚される。
【0003】
ここで、圧延前の鋼材(被圧延材)をスラブ、粗圧延機を通過した鋼材(被圧延材)をシートバーと呼ぶ。また、粗圧延過程にある鋼材(被圧延材)を粗バーと一般的には呼ばれているが、基本的には、板厚が異なるだけである。
【0004】
周知のように、薄鋼板の熱間圧延ラインにおける粗圧延機列は、通常3〜6の粗圧延機を備えている。この粗圧延機列の初段の粗圧延機をR1、それに続く粗圧延機を順次R2、R3・・・と一般には呼ばれている。生産量や、被圧延材の硬さ(変形抵抗)により、リバース圧延を実施したり、一方向に圧延される場合がある。R1粗圧延機は上下のワークロールから構成される2段圧延機(2Hi圧延機)であることが多いが、下流スタンドになるにしたがい、ワークロールの撓みを低減するバックアップロールを備えた4段圧延機(4Hi圧延機)である場合が多い。
【0005】
そして、粗圧延機では、圧延が進行するにしたがい、ワークロールの表面に一般的には黒皮が生成される。黒皮の組成はFe4(マグネタイト)であることが知られており、高温での硬度が高いために、ロール摩耗を低減し、ロール面を保護する効果がある。
【0006】
ただし、ワークロール表面の黒皮は上述のようにロール面を保護する効果があるが、その厚さが10μm以上になると、ロール面の粗さを低減し、ワークロールと被圧延材の摩擦係数が低下するために、圧延中に被圧延材が進行しないスリップ現象が発生することがある。軽度のスリップの場合には、噛み込み後、圧延中にワークロール速度が被圧延材速度よりも速くなり、被圧延材表面にスリップマークを発生しながら圧延が進行する場合や、圧延中に被圧延材が進行せず圧延中止になることがある。重度のスリップの場合には、ワークロールに被圧延材が噛み込まなくなり、圧延が中止になる場合もある。
【0007】
このように、粗圧延機においてスリップ現象が発生すると、圧延不能になるため、被圧延材はスクラップ処理され、圧延能率の低下を余儀なくされる問題があった。したがって、スリップを防止するためには、ワークロール表面に生成する黒皮の状態を把握するとともに、摩擦係数が低下した状態で如何に圧延するかが課題となる。
【0008】
このような課題を解決するための直接的な技術は開示されていないが、特許文献1には、鋼板表面に噛み込みスケール疵を発生させる原因となる圧延ロールの肌荒れ状態であるロールバンディングの発生を防止する方法として、圧延時における回転中の圧延ロールの表面像をストロボ照明光源の点灯に同期して撮像し、得られたその圧延ロール表面静止画像について、それを2値化処理して圧延ロール表面における黒皮の剥離の度合いを検出し、その検出したロール表面黒皮剥離度合いに基づいて、圧延ロールに供給するロール冷却水の供給量や圧力などのロール冷却水供給パラメータと、圧延鋼板に供給する鋼板冷却水の供給量や圧力などの鋼板冷却水供給パラメータと、圧延ロールによる圧下量と、圧延ロールに供給する圧延油の供給量や圧力などの圧延油供給パラメータとを制御することにより、圧延ロールのロールバンディングの発生を防止するようにした、圧延ロールのロールバンディング防止方法が記載されている。
【0009】
一方、粗圧延機でのスリップ防止方法としては、特許文献2に記載のように、粗圧延機出側に設置した板速度計を用いて圧延中の被圧延材速度を測定し、これと圧延機のロール周速度から連続的に先進率を演算し、得られた実測先進率を安定圧延状態での基準先進率と比較して、先進偏差に対応して圧延速度を減少させ、更に先進率偏差が続く場合には圧下率を減少させる方法が提案されている。この方法によればスリップ危険域に達した場合でも大幅な圧延速度ダウンすることなく、操業が可能で、生産性と安定操業が可能であると記載されている。
【0010】
また、特許文献3には、線材の圧延において、加熱後のデスケーリング水の圧力を調整することにより、二次スケール(加熱−デスケーリングを経た後、熱間圧延中に生成するスケール)生成に起因する圧延中のスリップを防止することが記載されている。この技術は線材のなかでも特殊なS、Pbを多く含有する快削鋼線材の熱間圧延に関する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平06−287713号公報
【特許文献2】特開平07−051716号公報
【特許文献3】特開昭60−061114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1に記載の技術は、シートバーをさらに薄く圧延する仕上圧延機でのロール表面に生成する黒皮を制御するものである。仕上圧延機で圧延される被圧延材の厚さは粗圧延機で圧延される被圧延材の板厚よりも薄いので、仕上圧延機での摩擦係数が低くなってもスリップの可能性は少ない。この技術はロールバンディングの発生を検知し、ロール冷却水量を制御し、健全なロール表面を維持する技術であり、黒皮制御についての技術であるが、ロールバンディングの発生は低減できても、粗圧延機でのスリップは防止できない。
【0013】
一方、特許文献2に記載の技術では以下の問題点がある。粗圧延でのロール当たりの圧延処理量が2万トンを越えたところで、ワークロール表面の黒皮が10μm程度に生成するために、ワークロールの粗さが低減し、被圧延材とワークロール間の摩擦係数が低下し、スリップが発生しやすくなる。そこで、スリップを防止する目的で粗圧延での圧下率を低減すると、シートバー厚が厚くなり、仕上圧延機のF1スタンドでスリップが発生するという新たな問題が生じる。また、粗圧延での圧下率を低減すると、被圧延材の表面での変形が優先的に発生し、反りが発生することがある。
【0014】
また、特許文献3に記載の技術思想をスリップ防止に適用した場合、デスケーリング後の二次スケール厚さを制御することができても、粗圧延でのスリップは防止できない。粗圧延でのデスケーリングは圧延前に実施され、デスケーリング直後には被圧延材表裏面は復熱するので、その表面には二次スケールが生成する。この二次スケールはFeO(ウスタイト)であり、ロールバイト内での摩擦係数を低減する作用があるために、スリップを防止できない。
【0015】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、加熱されたスラブ(被圧延材)を粗圧延するに際して、粗圧延機と被圧延材との間のスリップを的確に防止することができる粗圧延におけるスリップ防止方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、粗圧延機の入側直近で粗バー(被圧延材)の表面を強制冷却することによって、粗バー表面の二次スケールをFeO(ウスタイト)からFe4(マグネタイト)に変態させることで、粗圧延機と粗バーとの間の摩擦係数が増大し、スリップを的確に防止することができることを見出した。
【0017】
本発明は、上記の知見に基づいて、以下のような特徴を有している。
【0018】
[1]加熱されたスラブを粗圧延機によりシートバーに圧延するに際して、被圧延材に圧延前のデスケーリングを施した後、被圧延材が粗圧延機に噛み込む直前に、被圧延材の表面を強制冷却することを特徴とする粗圧延におけるスリップ防止方法。
【0019】
[2]被圧延材の表面の温度が少なくとも550℃以下になるように強制冷却することを特徴とする前記[1]に記載の粗圧延におけるスリップ防止方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、粗圧延機で発生するスリップを的確に防止することができ、安定した圧延が可能になり、飛躍的な生産性の向上が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における強制冷却方法を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態が適用される熱間圧延ラインを示す図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるスリップ防止メカニズムを示す図である。
【図5】本発明の一実施形態におけるスリップ防止メカニズムに関する実験方法と実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
前述したように、本発明は、粗圧延機の入側直近で粗バーの表面を強制冷却することによって、粗バー表面の二次スケールをFeO(ウスタイト)からFe4(マグネタイト)に変態させることで、粗圧延機と粗バーとの間の摩擦係数が増大し、スリップを的確に防止することができるという知見に基づいている。
【0023】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は本発明の一実施形態を示す図であり、図1(a)は任意の粗圧延機1の側面状況を示し、図1(b)はその粗圧延機1の入側状況を模式的に示す。
【0025】
図1に示すように、粗圧延機1は、バックアップロール2(上バックアップロール2a、下バックアップロール2b)と、ワークロール3(上ワークロール3a、下ワークロール3b)と、ワークロール冷却ノズル4(上ワークロール冷却ノズル4a、下ワークロール冷却ノズル4b)と、ワークロール出側・入側ワーパー5(上ワークロール出側・入側ワーパー5a、下ワークロール出側・入側ワーパー5b)を備えている。そして、粗圧延機1のロール群は、図示していないが、チョックによって固定され、ハウジングポストに挿入されて、スピンドルと減速機、モータなどが連結されている。
【0026】
その上で、この実施形態においては、粗圧延機1の入側に、粗バー7の表面を所定の温度に強制冷却するためのスプレー水ノズル8(上スプレー水ノズル8a、下スプレー水ノズル8b)と、粗バー7の表面温度を測定するための温度計6(上温度計6a、下温度計6b)が設置されている。
【0027】
これにより、圧延前のデスケーリングを粗バー7に施した後、粗バー7が粗圧延機1に噛み込む直前に、スプレー水ノズル8によって粗バー7の表面を所定の温度に強制冷却できるとともに、粗バー7の表面温度を温度計6によって測定できるようになっている。
【0028】
ここで、粗圧延機1の入側に設置された冷却水ノズル8は、ロールバイト入口点を起点として、少なくとも、圧延進行方向と逆側の粗バー7上下面をスプレー冷却することが肝要である。ロールバイト入口点から離れると復熱により、所定の温度に冷却できないことがある。
【0029】
また、温度計6は、短波長(1μm程度の波長)のSi素子温度計が望ましい。波長が短いと蒸気の影響を受けにくく、正確な温度が測定できる。上温度計6aと下温度計6bの両方を設置することが好ましいが、上温度計6aもしくは下温度計6bのいずれかで代表することもできる。粗バー7の測温部分は、エアーパージにより水切りを行ってから温度を測定する。
【0030】
次に、この実施形態における冷却制御方法について、図2を用いて説明する。温度計6により赤外線の強度が検出され、温度変換機10により粗バー表面の温度が算出される。その信号は水量制御装置11に送られ、目標温度になっていない場合には、水量調整装置12を制御し、目標温度になるように、ポンプPからスプレー水ノズル8(8a、8b)に供給されるスプレー水量をPI制御により調整する。
【0031】
次に、この実施形態が適用される熱間圧延ラインの一例を図3に示す。
【0032】
図3に示すように、この熱間圧延ライン100は、粗圧延機群101(R1〜R3)と、仕上圧延機群102(F1〜F7)が設置されているとともに、図示していないが、スラブを所定の温度まで加熱する加熱炉と、幅サイジングを行う幅プレス装置と、加熱炉から抽出されたスラブ表面のスケールを除去するデスケーリング装置と、シートバーの先尾端クロップをカットする切断機と、仕上圧延機群出側に設置されたランアウトテーブルおよび巻取機等が設置されており、これによって、スラブからホットコイル(熱延鋼帯)が製造される。
【0033】
そして、熱間圧延ライン100にこの実施形態を適用する際には、粗圧延機群101(R1〜R3)でスリップの発生が懸念される粗圧延機に、図1、2に示した粗圧延機1を用いる。
【0034】
次に、この実施形態において、粗圧延でのスリップが防止されるメカニズム(スリップ防止メカニズム)について、図4に基づいて説明する。
【0035】
粗圧延時には、図4(a)に示すように、被圧延材7(一次スケールを除去した後のスラブおよび粗バー)の表面に二次スケール(FeO(ウスタイト))が生成する。熱間でのFeO(ウスタイト)は鋼材(被圧延材)よりも軟質であり、粗圧延中に変形して、潤滑効果があり、ロールバイト内でワークロール3と被圧延材7の金属接触を防止する。一方で、十分に酸素が存在する状態では、被圧延材7表面の二次スケールはワークロール3へ移着し、FeO(ウスタイト)からFe34(マグネタイト)に変態(3FeO+1/2O2→Fe34)することにより、ロール面の黒皮となることが知られている。変態する温度は560℃程度である。前述のようにFe34(マグネタイト)は高温でも硬度が高いのでロール面を保護する。
【0036】
そこで、本発明者らは、上記のような二次スケールの挙動に着目して、鋭意検討した結果、図4(a)に示すように、デスケーリング後の被圧延材の表面のFeOを圧延前に冷却水ノズル8により冷却して、強制的に変態させることにより、ロールバイト入口で被圧延材7表面にFe34を形成させてから粗圧延することによって、硬質のFe34がロールバイト内で粉砕され、粉砕されたFe34が固体的挙動を示し、粗圧延中の摩擦係数(ワークロール3と被圧延材7との間の摩擦係数)が増大することを見出した。したがって、このような摩擦係数の増大により、スリップの発生が的確に防止される。
【0037】
さらに、被圧延材7の表面がFe34になっているために、ワークロール3への移着が制限され、ワークロール3表面の黒皮生成が低減する効果も付加的に発現することを見出した。これによって、黒皮厚さの増加によるワークロールの摩擦係数低下が抑制される。
【0038】
上記のスリップ防止メカニズム(被圧延材7表面の冷却による摩擦係数の増大)を確認するために以下のラボ実験を実施した。
【0039】
図5(a)に、ラボ実験方法を模式的に示す。ラボ圧延機のワークロール3a、3bのロールバイト入側にスプレー水ノズル8a、8bと温度計6aを設置し、加熱した被圧延材7をスプレー水ノズル8a、8bで水冷してから圧延を行った。そして、その際に、水冷後の被圧延材7の表面温度を温度計6aで測定するとともに、圧延荷重を測定し、Orowanの圧延荷重式(例えば、鉄鋼協会編 圧延理論と実際)から摩擦係数を逆算した。
【0040】
実験条件は以下の通りである。
【0041】
被圧延材:低炭素鋼板 板厚20mm
加熱温度:1000℃
ラボ圧延機:ロール直径300mm、ロール速度50m/分
圧下率:30%
スプレー水量:10〜50L/m2/分
【0042】
ラボ実験結果を図5(b)に示す。水冷後の被圧延材7の表面温度が550℃以下では上述の理由により摩擦係数が大きくなることが分かる。好適な温度範囲としては550℃以下であるが、450℃以下まで冷却すると、シートバーの温度が低下し過ぎて、仕上圧延機での圧延荷重が大きくなる問題があるので、表面温度を500〜550℃にするのが好ましい。
【実施例1】
【0043】
本発明を熱延鋼板の製造ラインに適用して、本発明の効果を確認した。
【0044】
本発明を適用した熱間圧延ラインは図3に示した熱間圧延ライン100であり、以下の条件で圧延を行った。
【0045】
(粗圧延条件)
粗圧延機列:R1〜R3(R1は2Hi圧延機、R2とR3は4Hi圧延機)
R3粗圧延機:ロール直径1000mm、バレル長2100mm
スラブ:低炭素鋼(C:0.02〜0.05wt%)
厚さ260mm、幅1040〜1300mm、長さ5〜11m、
重量13〜30トン
加熱温度:1100〜1200℃(加熱時間2〜4時間)
R1パス条件:3パスリバース圧延
R2パス条件:3パスリバース圧延
R3パス条件:1パス一方向圧延
粗圧延合計パス数:7パス
R3入側の粗バー板厚:40〜80mm
R3出側の粗バー板厚:30〜40mm
R3圧下率:20〜50%/1パス
(仕上圧延条件)
仕上圧延機列:F1〜F7スタンド(4Hi圧延機)
F1〜F4スタンド:ワークロール直径800mm
F5〜F7スタンド:ワークロール直径680mm
仕上厚:1.2〜5mm
【0046】
そして、スリップ現象はほぼR3粗圧延機で発生するので、ここでは、R3粗圧延機を対象にして、下記の本発明例、比較例、従来例を行って比較した。
【0047】
その際、スリップは、ロール黒皮が生成し、かつロール摩耗が進行した圧延処理量2万トン程度以上で発生しやすいので、R3粗圧延機の処理量が2万トン(スラブ本数約600本)を越え、3万トンに至るまでの間で、スリップの発生を評価した。また、前述したように、スリップを低減しようとして粗圧延での圧下率を低減すると、反りやF1スタンドでのスリップが生じる可能性があるので、その反り発生やF1スタンドでのスリップ発生についても評価した。
【0048】
すなわち、
(1)粗圧延機R3におけるスリップの発生率(R3スリップ発生率)
(2)粗圧延機R3の出側における反りの発生率(R3反り発生率)
(3)仕上圧延機F1でのスリップの発生率(F1スリップ発生率)
について評価を実施した。
【0049】
ここで、(1)のR3スリップ発生率は軽度のスリップも含み、圧延中に粗バーの進行が遅れた場合もカウントしている。また、(2)のR3反り発生率は、粗圧延機R3での反り発生により仕上圧延が不能になった場合である。
【0050】
なお、R3粗圧延機での圧延前には、水圧15MPaのデスケーリングにより、粗バーの二次スケールを除去した。
【0051】
(本発明例1)
本発明例1では、図1、図2に示した本発明の一実施形態をR3粗圧延機に適用した。R3粗圧延機入側での冷却水量は、粗バーの表面温度を測定して、圧延前の粗バー表面温度が550℃以下になるように、500L/m2/分〜2000L/m2/分の間で制御された。
【0052】
(本発明例2)
本発明例2では、本発明例1と同様であるが、R3粗圧延機入側での冷却水量は、圧延前の粗バー表面温度が560〜800℃になるように、500L/m2/分〜2000L/m2/分の間で制御された。
【0053】
(比較例)
比較例では、R3粗圧延機入側での冷却は行わず、表面温度の測定のみ実施した。
【0054】
(従来例1)
従来例1では、前記特許文献3の技術思想を基に、R3粗圧延機入側のデスケーリングの水圧を前述の15MPaから30MPaに増加して、二次スケールの除去量を多くした。
【0055】
(従来例2)
従来例2では、前記特許文献2に記載の方法をR3粗圧延機に適用した。すなわち、R3粗圧延機の出側に板速度計を設置し、先進率fsを求め、スリップが発生しないようにロール速度、圧下率を制御した。
【0056】
上記の本発明例、比較例および従来例について、表面温度、R3スリップ発生率、R3反り発生率、F1スリップ発生率を比較した結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
まず、本発明例1では、R3粗圧延機でのスリップは完全に防止されたとともに、粗圧延機R3での反り、F1仕上圧延機でのスリップも防止でき、高能率の圧延ができた。
【0059】
また、本発明例2では、R3粗圧延機でのスリップは比較例に比べ低減できた。ただし、完全にはR3粗圧延機でのスリップを防止することはできなかった。なお、この場合のスリップは粗バーの進行が圧延中に遅滞する軽度のスリップであった。
【0060】
これに対して、比較例では、R3粗圧延機でのスリップが多数発生し、R3粗圧延機で粗バーの進行状態が不能になる場合や、噛み込み不良を発生した重度の不良であった。
【0061】
また、従来例1では、R3スリップ発生率が比較例とほとんど変化なく、スリップ防止には効果がなかった。
【0062】
また、従来例2では、R3粗圧延機での圧下率を低減したために、粗バーの板厚方向に均一な歪が付加されず反りが発生し、仕上圧延機にシートバーを供することができない場合が発生した。さらに、R3粗圧延機での圧下率を低減したために、シートバーの板厚が厚くなり、F1仕上圧延機でのスリップ発生し、圧延能率が大幅に低下した。
【0063】
上記の結果から、本発明の有効性が確認された。
【符号の説明】
【0064】
1 粗圧延機
2 バックアップロール
2a 上バックアップロール
2b 下バックアップロール
3 ワークロール
3a 上ワークロール
3b 下ワークロール
4 ロール冷却ノズル
4a 上ロール冷却ノズル
4b 下ロール冷却ノズル
5 ロールワイパー
5a 上ロールワイパー
5b 下ロールワイパー
6 温度計
6a 上温度計
6b 下温度計
7 粗バー
8 冷却ノズル(スプレー水ノズル)
8a 上冷却ノズル(上スプレー水ノズル)
8b 下冷却ノズル(下スプレー水ノズル)
10 温度変換器
11 水量制御装置
12 水量調整装置
100 熱間圧延ライン
101 粗圧延機列
102 仕上圧延機列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱されたスラブを粗圧延機によりシートバーに圧延するに際して、被圧延材に圧延前のデスケーリングを施した後、被圧延材が粗圧延機に噛み込む直前に、被圧延材の表面を強制冷却することを特徴とする粗圧延におけるスリップ防止方法。
【請求項2】
被圧延材の表面の温度が少なくとも550℃以下になるように強制冷却することを特徴とする請求項1に記載の粗圧延におけるスリップ防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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