説明

粗製エステルの後処理法

金属含有エステル化触媒で促進されるエステル化反応の粗製エステルは、a)粗製エステルに、100℃を上廻る温度Tで、温度Tで水の蒸気圧と等しいかまたは水の蒸気圧よりも高い圧力pの下で水性塩基を添加し、b)エステル−塩基混合物を、減圧させ、水を、蒸発させ、c)得られた液相に、油中水型乳濁液の形成下に水を添加し、d)この乳濁液から水を留去し、およびe)エステルを濾過することにより、後処理される。この方法は、低い酸価を有するエステルを生じ、固体の触媒残留物の場合には、良好に濾別可能な形で生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有エステル化触媒で促進されるエステル化反応の粗製エステルの後処理法に関する。
【0002】
フタル酸、セバシン酸またはマレイン酸のエステルは、塗料の成分として、殊にプラスチック用可塑剤として塗料用樹脂中に幅広く使用されている。
【0003】
カルボン酸エスエルをカルボン酸とアルコールとの反応によって製造することは、公知である。この反応は、自動触媒的または触媒的に、例えばブレンステッド酸またはルイス酸によって実施されてよい。しばしば、金属化合物、例えばチタン、ジルコニウム、錫、亜鉛およびアルミニウムのアルコラート、カルボキシレートおよびキレート化合物は、触媒として使用される。
【0004】
前記の金属含有触媒の触媒特性が満足のいくものであるとしても、エステル化生成物からの触媒残留物の除去は、困難をもたらす。精製のために、粗製エステルには、一般に最初に反応されていないかまたは不完全に反応された酸(部分エステル)の中和のためにアルカリ金属水酸化物が添加され、遊離アルコールは、水蒸気蒸留によって除去される。更に、生成物の乾燥のために短い真空蒸留後に、触媒残留物は、濾過によって除去される。この触媒残留物は、一般に粘液状のゲル状の稠度を有するので、濾過は、多くの場合に濾過助剤、例えば活性炭、木粉または珪藻土を用いてのみ可能である。それにも拘わらず、この種の濾過は、なお影響の甚大な欠点と関連している。フィルターケーク中には、大量の生成物が保持されているので、長い濾過時間が必要とされ、エステルの収量は、減少される。
【0005】
ドイツ連邦共和国特許第1945359号明細書の記載から、粗製可塑剤を後処理する方法が明らかとなり、この場合この方法は、次の連続した工程を有する:(i)粗製可塑剤中の残りの酸は、アルカリ性物質(例えば、25%の苛性ソーダ液)で中和され;(ii)粗製可塑剤中の遊離アルコールは、水蒸気蒸留によって除去され;(iii)生成物は、それぞれの圧力で水の沸点未満である温度に冷却され;(iv)後処理すべき生成物に対して水少なくとも0.5質量%が添加され;(v)水と後処理すべき生成物との混合物は、それぞれの圧力で水の沸点未満である温度で少なくとも15分間、強力に攪拌され;(vi)添加された水は、真空蒸留によって除去され;(vii)可塑剤は、濾過される。
【0006】
記載された条件下で苛性ソーダ液を添加する場合には、水性アルカリ液と一緒に供給される水の本質的な部分は、直ちに蒸発され、したがって、固体の水酸化ナトリウムが沈殿する。固体の水酸化ナトリウムは、本質的に溶解されたNaOHよりも遅速に反応する。更に、沈殿は、しばしば清浄化を必要とする、管路および容器での沈積物をまねく。
【0007】
ドイツ連邦共和国特許第2330435号明細書には、粗製エステルを後処理するための方法が記載されており、この場合140〜250℃の熱い粗製エステルは、減圧下で同時にアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物の水溶液で中和され、水を添加することによって減圧下で水蒸気蒸留に掛けられ、引続き乾燥され、形成された固体成分は、濾別される。水を添加する際の圧力および速度は、添加される水が急速に蒸発するように制御されるべきである。
【0008】
添加される水が直ちに蒸発するような処理条件下で、固体のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物は、沈殿することができ、このことは、前記した欠点をまねく。固体の水酸化物は、本質的に遅速に反応するので、完全な中和のために、時折、塩基の高い過剰量が必要とされる。
【0009】
欧州特許第1300388号明細書には、カルボン酸エスエルを製造する方法が開示されており、この場合過剰量のアルコールは、エステル化反応後に除去され、こうして得られた粗製エステルは、塩基の添加によって中和され、引続き濾過される。アルコールは、少なくとも1回の水蒸気蒸留によって分離され、塩基の添加は、水蒸気蒸留中に行なわれる。アルカリ液は、底部で反応混合物中に噴霧される。高い温度の結果、水は蒸発する。アルカリ液の低い供給速度によって、副反応、例えばエステルの鹸化は、僅かになるように維持される。しかし、これは、中和時間が長いかまたは処理量が僅かであるという欠点を有する。
【0010】
米国特許第5434294号明細書には、可塑剤エステルをチタン酸塩触媒により製造するための方法が記載されている。生成物は、水性塩基で処理され、さらに濾過助剤、例えば漂白土、ハイドロタルサイトまたは珪酸マグネシウムを用いて濾過される。
【0011】
WO 97/11048には、混合されたフタル酸エステルの製造が開示されている。フタル酸エステルとポリエチレングリコールモノメチルエーテルとの反応は、テトライソプロピルチタンで促進される。反応の終結後、滴下法で重炭酸ナトリウム溶液は、添加される。冷却後、水2%が添加され、揮発性化合物、例えば水および溶剤が真空中で留去され、および濾過される。
【0012】
ドイツ連邦共和国特許第19721347号明細書には、エステル可塑剤を製造するための方法が開示されており、この場合酸または酸無水物とアルコールとの混合物は、最初に100〜160℃で場合によっては形成された水の除去下に互いに反応させることができ、この反応は、触媒の添加下に温度を250℃にまで上昇させることによって終結され、この反応混合物は、アルカリ金属水酸化物水溶液またはアルカリ土類金属水酸化物水溶液と反応され、その上、過剰のアルコールが分離され、残留する粗製エステルは、乾燥され、および濾過される。アルカリ処理は、好ましくは、エステル化工程に続いて直ちに反応混合物の早期の冷却なしに行なわれる。
【0013】
本発明は、高い処理量で良好に再現可能な形式で低い酸価を有するエステルを生じ、固体の触媒残留物を良好に濾別可能な形で生じる、粗製エステル混合物を後処理するための方法を記載するという課題に基づくものである。
【0014】
この課題は、金属含有エステル化触媒で促進される、エステル化反応の粗製エステルを後処理するための方法によって解決され、この場合
a)粗製エステルには、100℃を上廻る温度Tで、温度Tで水の蒸気圧と等しいかまたは水の蒸気圧よりも高い圧力pの下で水性塩基が添加され、
b)エステル−塩基混合物は、減圧され、水は、蒸発され、
c)得られた液相には、油中水型乳濁液の形成下に水が添加され、
d)この乳濁液から水が留去され、および
e)エステルが濾過される。
【0015】
本発明による方法は、数工程を含む:圧力下での中和、および引続く減圧(工程a)およびb));再湿潤凝集(工程c)およびd))および濾過(工程e))。
【0016】
この方法は、連続的に実施されてよく、この場合個々の工程は、順次に接続された、連続的に運転される装置中で実施される。他の選択可能な方法によれば、この方法は、非連続的に実施されてよく、この場合個々の工程は、順次に唯一の装置中、例えば攪拌容器中で実施される。
【0017】
最初に、エステル化触媒は、水性塩基の添加によって不活性化され、および沈殿される。同時に、エステル化反応の際に反応されていない酸または酸の部分エステルは、塩に変換される。水性塩基が100℃を上廻る温度Tで、温度Tで水の蒸気圧と等しいかまたは水の蒸気圧よりも高い圧力pで添加される、十分に迅速で完全な中和が達成されることが確認された。エステル化反応後または過剰のアルコールの分離後に存在する粗製エステルは、一般に高められた温度を有する。この粗製エステルは、場合によっては冷却されてよいが、しかし、粗製エステルの温度がなお100℃を上廻る場合に限る。水性塩基は、水が自発的に蒸発しないような圧力条件下で添加される。従って、塩基は、完全に溶解された液状の形で中和反応に使用される。これは、反応を促進し、完全な変換を可能にする。水性塩基が僅かな圧力下で添加された場合には、水は、蒸発され、溶解された塩基は、固体として沈殿する。固体の塩基は、有効であったとしても、明らかに僅かな反応速度でのみ中和に有効であろう。本発明による方法において、塩基の使用される量は、減少させることができ、それによって、廃棄すべき固体の量も減少される。容器壁または管路上での沈積物の形成、または管路の閉塞は、回避される。
【0018】
一般に、粗製エステルは、120〜185℃の温度Tを有する。水の相応する蒸気圧pvapは、下記の表から確認することができるか、または当業者に公知の参考文献から確認することができる。溶剤の蒸気圧が溶解された物質または混合現象によって影響を及ぼされることは、当業者に公知である。この影響は、本明細書中では無視することができる。本発明の目的のためには、純粋の蒸気圧が強調される。
【0019】
【表1】

【0020】
一般に、工程a)が実施される圧力pは、温度Tでの蒸気圧pvapよりも高い。特に、圧力pは、少なくともpvapの1.1倍、殊に少なくともpvapの1.25倍である。25バールを上廻る圧力は、工業的に費用を掛けてのみ実現することができ、したがって、好ましくない。
【0021】
水性塩基の添加は、任意の適当な方法で行なうことができる。この水性塩基の添加は、好ましくは粗製エステルの液体表面の下方で行なわれる。この目的に適した例は、容器底面または容器壁上に備えられたランスまたはノズルである。更に、混合物は、例えば攪拌機または循環ポンプにより強力に混合される。
【0022】
連続的な実施の場合には、水性塩基を粗製エステルの流れに噴入することにより、工程a)は、有利に実施される。水性塩基を均一に混入するために、混合された流れが少なくとも1つの混合装置に導通される。この場合には、動的混合装置または静的混合装置、またはこれらの組合せがこれに該当する。静的混合装置は、好ましい。静的混合装置は、流れ機構に関連して、乱流(turbulent)混合装置および層流(laminar)混合装置に分けることができる。乱流混合装置の場合には、自由乱流を発生させる混合系ならびに取付け物を備えたかかる混合系が有用である。適当な静的混合装置は、マルチフラックスミキサー、ヘリカルミキサー、渦流ミキサー、ゲートミキサー、ズルツァー(Sulzer)SMXミキサー、ズルツァー(Sulzer)SMVミキサーおよびケニクス(Kenics)ミキサーを含む。1つの適当な実施態様において、静的混合装置は、断面が狭まるダイヤフラムを備えた管である。ダイヤフラムの後方での圧力の急増は、乱流を発生させ、この乱流は、十分な混合を生じる。
【0023】
水性塩基の添加された量は、この量が粗製エステルの酸性成分の完全な中和に十分であるように算定されている。実地においては、多少とも過剰量の塩基が使用される。粗製エステルの酸性成分の全体量は、好ましくは酸価(mg KOH/gで)によって検出される。好ましくは、水性塩基を用いる場合には、粗製エステルの酸価に対して100〜300%、殊に130〜220%の中和当量が導入される。この場合、中和当量は、KOH 1mgと同数のプロトンを結合することができる塩基量を意味する。換言すれば、200%まで、特に30〜120%の塩基過剰量が使用される。
【0024】
水性塩基としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩の溶液がこれに該当する。アルカリ金属水酸化物水溶液は、一般的に好ましい。水酸化ナトリウム水溶液は、直ちに利用可能であるために特に好ましい。
【0025】
水性塩基の濃度それ自体は、重要ではないが、しかし、濃縮されたアルカリ金属溶液を使用する場合には、塩基の導入位置でエステルを加水分解することができる。他面、水性塩基の濃度は、低すぎるべきではない。それというのも、水性塩基と共に導入される水は、次の工程で再び除去されなければならないからである。従って、中程度から僅かな濃度の水性塩基、例えば0.5〜25質量%、殊に1〜10質量%の濃度の水性塩基が好ましい。1〜5質量%の濃度を有する水酸化ナトリウム水溶液は、特に好ましい。
【0026】
エステル−塩基混合物は、圧力pで保持時間、例えば15秒〜10分間、特に30秒〜5分間の間、保持される。連続的な方法の実施の場合には、前記混合物は、保持時間中、例えば混合区間を通過する。
【0027】
次の工程で、エステル−塩基混合物は、例えば800ミリバール未満、殊に250ミリバール未満、例えば50〜150ミリバールの圧力に減圧される。こうして、水性塩基と一緒に導入される水は、粗製エステルが過度に熱応力を受けることなしに、除去されることができる。減圧により、この混合物は、液相と蒸気相とに分離される。取り出される蒸気相と共に、水性塩基と一緒に導入される水は、再び除去される。水性塩基と一緒に導入される水と共に、この処理の場合には、一般に残留アルコールの一部分も蒸発する。水およびアルコールを含有する蒸気は、捕集および凝縮され、および廃棄されることができるか、または再使用に供給されることができる。
【0028】
液相は、減圧後に一般に130〜200℃の温度を有する。このために、必要な場合には、液相を加熱することができる。
【0029】
減圧容器の種類は、重要ではない。例えば、前記混合物は、攪拌釜中で減圧することができ、この攪拌釜中でさらに液相の処理が行なわれる。
【0030】
水の蒸発を完結させるために、減圧の際に得られた液相を、例えば5分〜1時間、殊に10〜40分間の滞留時間中に減圧下で機械的に可動させることは、このましいは、この目的のために適した攪拌機は、種々の構造様式を有し、例えば横ビーム攪拌機である。
【0031】
工程b)後、本質的に触媒分解生成物および反応されていない酸の塩、または多塩基性酸の部分エステルからなる沈殿した固体は、濾過するのが困難な微粒状の形で存在する。従って、本発明による方法には、微細な粒子を簡単に分離可能な大きな粒子に凝集する手段が設けられている。
【0032】
この目的のために、液相は、水と混合され、油中水型乳濁液が形成される。水は、分散相として微細な小液滴の形で液状の有機相中に分布される。微細な固体粒子は、水の小液滴と包囲する有機相との境界面に移動する。水の次の蒸発の際に、微細な粒子は、凝集し、粗大な、良好に分離可能な粒子を形成する。
【0033】
固有の水相が形成されるようにするために、供給される水量は、有機相中の水の溶解度に相当するよりも多くなければならない。有機相中の水溶性は、なかんずく反応されていないアルコールの含量に依存する。それというのも、アルコールは、溶解助剤として作用するからである。アルコール含量が高くなればなるほど、工程c)において、ますます大量の水が添加されなければならない。1〜3質量%の通常の残留アルコール含量の場合には、一般に粗製エステル1kgに対して、水10〜60g、特に20〜40gの量が適している。
【0034】
水相は、適当な攪拌機またはホモジナイザーで微細な小液滴に分配される。得られた水の小液滴は、特に1000μm未満の平均粒度を有する。高い特殊な攪拌効率を有する攪拌機としては、例えばディスク型攪拌機が適している。他の選択可能な方法によれば、特に連続的な方法の実施の場合には、分散弁により水を直接に粗製エステル流中に供給するような混合ノズルが使用されてよい。
【0035】
工程c)は、好ましくは、例えば常圧で行なわれる。
【0036】
こうして得られた乳濁液から、直ぐ次の工程で水は、再び留去される。好ましくは、核沸騰は、回避される。この目的のために、乳濁液は、蒸発器、例えば落下型薄膜蒸発器に導通させることができる。他の選択可能な方法によれば、乳濁液は、減圧下で機械的に可動、例えば攪拌することができる。攪拌は、好ましくは、比較的低い条件下で行なわれる。剪断エネルギーの過剰の入力は、固体の触媒残留物のなお不安定な凝集塊を再び望ましくない微粒状の粒子に分配することができた。好ましくは、水は、60℃〜100℃未満の温度および500ミリバール未満の圧力で留去される。望ましくは、水は、数工程で連続的な攪拌容器中で留去することもでき、この場合には、第2の工程または他の工程で先行する工程よりも低い圧力および/または高い温度が使用されてよい。攪拌容器から顆粒の攪拌容器への移送は、好ましくは、比較的低い剪断条件下で、例えば自由な溢流によって行なわれ、ポンプ輸送では行なわれない。この処理の場合には、乳濁液の水と共に、一般的に残留アルコールの一部分も留去される。水およびアルコールを含有する蒸気は、捕集および凝縮され、および廃棄されることができるか、または再使用に供給されることができる。
【0037】
固体は、この処理後に良好に濾過可能な形で存在し;濾過によって微細分は、全く得られない。濾過補助手段の使用は、不要であり;濾過補助手段の使用は、好ましくない。エステルの濾過のためには、全ての適当な濾過装置、例えばチャンバーフィルタープレス、バンドフィルター、カートリッジフィルターまたはパンフィルターが適している。連続的な方法の実施のためには、特に、フィルターケークの遠心分離廃棄部を備えたパンフィルターが好適である。分離された固体は、廃棄される。
【0038】
濾過後、エステルは、種々の後処理、例えば蒸発ストリッピング等に掛けることができる。
【0039】
本発明による方法に使用される、粗製エステルは、通常のエステル化法に由来する。この種の方法は、当業者に公知であり、数多くの特許刊行物中に記載されている。この場合、少なくとも1つのカルボン酸および/またはカルボン酸無水物は、アルコールまたはアルコール混合物と反応される。しばしば、アルコールは、同時に反応の際に生じる反応水のための連行剤として使用され、したがって、過剰で使用される。好ましくは、工程a)前に粗製エステルから、この場合になお含有されている、反応されていないアルコールの主要量が除去される。工程a)で使用された粗製エステルのアルコール含量は、一般に5質量%未満、例えば1〜3質量%である。
【0040】
エステル化法において、酸成分として、カルボン酸および/またはカルボン酸無水物が使用される。多塩基性カルボン酸の場合には、部分的に無水物化された化合物が使用されてもよい。同様に、カルボン酸と無水物との混合物を使用することも可能である。酸は、炭素環式を含めて脂肪族、複素環式、飽和または不飽和、ならびにヘテロ芳香族を含めて芳香族であってよい。
【0041】
適当なカルボン酸には、少なくとも5個の炭素原子、殊に5〜20個の炭素原子を有する脂肪族モノカルボン酸、例えばn−ペンタン酸、2−メチル酪酸、3−メチル酪酸、2−メチルペンタン酸、2−エチル酪酸、n−ヘプタン酸、イソヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、シクロヘキサンカルボン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、n−ノナン酸、2−メチルオクタン酸、イソノナン酸、n−デカン酸、イソデカン酸、2−メチル−ウンデカン酸、イソウンデカン酸、トリシクロデカンカルボン酸およびイソトリデカン酸が含まれる。
【0042】
更に、脂肪族C4〜C10ジカルボン酸またはその無水物、例えばマレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、琥珀酸、無水琥珀酸、アジピン酸、コルク酸、トリメチルアジピン酸、アゼライン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸が適している。炭素環式化合物の例は、次の通りである:ヘキサヒドロフタル酸無水物(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物)、ヘキサヒドロフタル酸(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸)、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、シクロヘキセ−4−エン−1,2−ジカルボン酸、シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−メチルシクロヘキセ−4−エン−1,2−ジカルボン酸、4−メチルシクロヘキセ−4−エン−1,2−ジカルボン酸無水物。
【0043】
適当な芳香族ジカルボン酸またはその無水物の例は、次の通りである:フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、またはナフタリンジカルボン酸およびその無水物。
【0044】
適当な芳香族トリカルボン酸またはその無水物の例は、トリメリット酸、無水トリメリット酸またはトリメシン酸であり;適当な芳香族テトラカルボン酸またはその無水物の例は、ピロメリット酸および無水ピロメリット酸である。
【0045】
特に好ましくは、無水フタル酸またはアジピン酸は、カルボン酸成分として使用される。
【0046】
好ましくは、4〜13個のC原子を有する分枝鎖状または直鎖状の脂肪族アルコールが使用される。アルコールは、1価であり、第1級または第2級であってよい。
【0047】
使用されるアルコールは、種々の源に由来することができる。適当な原料は、例えば脂肪アルコール、アルフォル(Alfol)プロセスからのアルコール、または飽和または不飽和アルデヒドを水素化することによって取得されたアルコールまたはアルコール混合物、殊にその合成がヒドロホルミル化工程を含むアルコールである。
【0048】
エステル化法において使用されるアルコールは、例えばヒドロホルミル化またはアルドール縮合、引続く水素化によって製造された、n−ブタノール、イソブタノール、n−オクタノール(1)、n−オクタノール(2)、2−エチルヘキサノール、ノナノール、デシルアルコールまたはトリデカノールである。アルコールは、純粋な化合物として、異性体化合物の混合物として、または異なるC数を有する化合物の混合物として使用されることができる。例えば、C9/C11アルコール混合物が使用されてよい。
【0049】
好ましい出発アルコールは、異性体のオクタノール、ノナノールまたはトリデカノールの混合物であり、この場合最後のトリデカノールは、相応するブテンオリゴマー、殊に直鎖状のブテンのオリゴマーから、ヒドロホルミル化および引続く水素化によって取得されることができる。ブテンオリゴマーの製造は、原理的に3つの方法により実施されてよい。工業的にゼオライトまたは担体上の燐酸が使用されるような酸触媒によるオリゴマー化は、最も枝分かれされたオリゴマーを提供する。直鎖状ブテンを使用する場合には、例えば本質的にジメチルヘキセンからなるC8画分が生じる(WO 92/13818)。同様に世界的に実施されている方法は、DIMERSOL法(B.Cornils,W.A.Herrmann,Applied Homogenous Catalysis with Organometallic Compounds,第261〜263頁,Verlag Chemie 1996)として公知の可溶性Ni錯体を用いるオリゴマー化である。更に、ニッケル固定床触媒上でのオリゴマー化、例えばOCTOLプロセスが実施される(Hydrocarbon Process.,Int.Ed.(1986)65(2.Sect.1),第31〜33頁)。
【0050】
本発明によるエステル化のための殊に好ましい原料は、オクトール(Octol)プロセスによる、C8オレフィンおよびC12オレフィンへの直鎖状ブテンのオリゴマー化および引続くヒドロホルミル化および水素化によって製造される、異性体ノナノールの混合物または異性体トリデカノールの混合物である。
【0051】
更に、アルキレングリコールモノエーテル、殊にエチレングリコールモノエーテル、例えばエチレングリコールモノ−C1〜C18アルキルエーテル、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(2−ブトキシ−エタノール)およびこれらの混合物;およびポリアルキレングリコールモノエーテル、殊にポリエチレングリコールモノエーテル、例えばポリエチレングリコールモノメチルエーテルが適している。
【0052】
特に好ましいアルコールは、2−エチルヘキサノール、2−プロピレンヘプタノール、イソノナノール異性体混合物、デカノール異性体混合物およびC9/C11アルコール混合物ならびにエチレングリコールモノブチルエーテルである。
【0053】
エステル化触媒は、適当にチタン、ジルコニウム、錫、アルミニウムおよび錫のアルコラート、カルボキシレートおよびキレート化合物から選択される。適当なエステル化触媒は、テトラアルキルチタネート、例えばテトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−イソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−イソブチルチタネート、テトラ−第二ブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、テトラ−(2−エチルヘキシル)−チタネート;ジアルキルチタネート((RO)2TiO2、この場合Rは、例えばイソプロピル、n−ブチル、イソブチルを表わす)、例えばイソプロピル−n−ブチルチタネート、チタンアセチルアセトネート−キレート、例えばジ−イソプロポキシ−ビス(アセチルアセトネート)チタネート、ジ−イソプロポキシ−ビス(エチルアセチルアセトネート)チタネート、ジ−n−ブチル−ビス(アセチルアセトネート)チタネート、ジ−n−ブチル−ビス(エチルアセトアセテート)チタネート、トリ−イソプロポキシド−ビス(アセチルアセトネート)チタネート;ジルコン−テトラアルキラート、例えばジルコンテトラエチラート、ジルコンテトラブチラート、ジルコンテトラブチレート、ジルコンテトラプロピラート、ジルコンカルボキシラート、例えばジルコンジアセテート;ジルコンアセチルアセトネート−キレート、例えばジルコンテトラ(アセチルアセトネート)、トリブトキシジルコンアセチルアセトネート、ジブトキシジルコン(ビス−アセチルアセトネート);アルミニウムトリスアルキラート、例えばアルミニウムトリイソプロピラート、アルミニウムトリイソブチラート;アルミニウム−アセチルアセトネート−キレート、例えばアルミニウムトリス(アセチルアセトネート)およびアルミニウムトリス(エチルアセチルアセトネート)が適している。殊に、イソプロピル−n−ブチルチタネート、テトラ(イソプロピル)オルトチタネートまたはテトラ(ブチル)オルトチタネートが使用される。
【0054】
触媒濃度は、一般に反応混合物に対して0.005〜1.0質量%、殊に0.01〜0.3質量%である。
【0055】
連行剤と使用される反応すべきアルコールは、化学量論的過剰量で使用されることができ、好ましくは、化学量論的に必要とされる量の30〜200%、特に有利に50〜100%が使用されることができる。
【0056】
こうして製造された、多塩基性カルボン酸、例えばフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸とアルコールとからのエステルは、塗料の成分として、殊にプラスチック用可塑剤として塗料用樹脂中に幅広く使用されている。本発明による方法により後処理されることができる、特殊なエステルは、PVC用可塑剤、例えばジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレートおよびジプロピルヘプチルフタレート;例えばポリビニルブチラール中で使用するための可塑剤、例えばジブチルグリコールアジペート、ジオクチルアゼレート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバケートおよびジオクチルセバケート、ならびにジブチルグリコールフタレートである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明による方法の実施に適した装置を示す略図。
【0058】
本発明は、添付した図面および以下の実施例によってよりいっそう詳細に説明される。
【0059】
図1は、本発明による方法の実施に適した装置を示す。導管1は、例えば約150℃の温度および10バールの圧力を有する粗製エステル混合物を導入するために使用される。導管2は、水性塩基、例えば水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液を前記エステル流中に計量供給するために使用される。この混合物は、静的混合装置(図示されていない)を通過し、水性塩基は、均一に粗製エステル流中に混入される。水の蒸発を阻止するために、存在する温度で水の蒸気圧を上廻る圧力が管路内で維持される。弁3の前方の混合区間内での滞留時間は、例えば1〜2分間である。更に、粗製エステル流は、弁3を介して攪拌釜4中に減圧される。攪拌釜4中で生じる蒸気は、導管5を介して導出され、凝縮および捕集されることができる。
【0060】
粗製エステル混合物は、ポンプ6および熱交換器7を介して攪拌釜8中に移送される。導管9を介して、水は供給される。釜8中での圧力条件および温度条件(例えば、80℃、常圧)の下、添加された水は、直ちには蒸発せず、攪拌によって分散相としてエステル混合物中に小さな小液滴の形で分配される。攪拌機は、高い特殊な攪拌効率を有し、例えばディスク型攪拌機である。
【0061】
乳濁液は、導管10を介して攪拌釜11中に到達し、および導管12を介して攪拌釜13中に到達する。攪拌釜11および13中で存在する圧力条件および温度条件(例えば、釜11中で80℃および100ミリバール;釜13中で80℃および50ミリバール)の下で、水および場合によっては遊離アルコールは、留去され、排出口14または15を介して導出される。釜13の出口で、触媒残留物は、良好に濾過可能な固体の形でエステル中に存在する。エステルは、ポンプ16を介して濾過ユニット(図示されていない)に供給されてよく、この濾過ユニット中で固体は、濾別される。
【実施例】
【0062】
実施例1
0.2mg KOH/gの酸価および2.4質量%のアルコール含量を有する粗製ジイソノニルフタレート6500g/時の流れを、連続的に後処理する。
【0063】
約145℃の温度を有するDINP流に、6バールの圧力下で1%の水酸化ナトリウム水溶液174g/時(粗製エステルの酸価に対して90%の過剰量に相当する)を添加した。混合された流れは、混合区間を通過し;混合区間中での滞留時間は、約1分間であった。
【0064】
次に、この流れを第1の攪拌容器中で約100ミリバールに減圧した。第1の攪拌容器中での滞留時間は、約0.5時間であり、その間にこの混合物を3段の横ビーム攪拌機を用いて160℃で攪拌した。
【0065】
この混合物を第2の攪拌容器中にポンプ輸送し、その際に約80℃に冷却した。第2の攪拌容器中の圧力は、周囲圧力であった。水130g/時(粗製エステル流に対して2質量%に相当する)を添加した。第2の攪拌容器中での滞留時間は、約0.5時間であり、その間にこの混合物をディスク型攪拌機(比入力:3W/l)で強力に混合した。
【0066】
乳濁液を80℃の温度で第3の攪拌容器中に移送した。第3の攪拌容器中の圧力は、約100ミリバールであった。第3の攪拌容器中での滞留時間は、約1時間であり、その間にこの混合物を僅かな攪拌効率(0.1W/l未満)を有する3段の横ビーム攪拌機で攪拌した。水およびアルコールを含有する蒸気を取り出した。
【0067】
生成物を捕集し、貯蔵容器を介して圧力型吸込フィルターに供給し、そこで10μmの細孔幅を有するテフロン織物を介して濾過した。
【0068】
0.01mg KOH/gの酸価、1.3質量%のアルコール含量および0.04質量%の含水量を有する、触媒残分を全く有しない澄明な生成物が得られた。水蒸気でストリッピングすることによって、アルコール含量を0.01質量%未満に減少させることができた。
【0069】
比較例
上記の実施例を繰り返すが、しかし、粗製エステルを直接に第1の攪拌容器中に導入し、水酸化ナトリウム水溶液を同様に第1の攪拌容器中に計量供給した。
【0070】
0.08mg KOH/gの酸価を有する生成物が得られた。この生成物は、実施例1と比較してよりいっそう高いフィルター耐性を有する。
【符号の説明】
【0071】
1、2、5、9、10、12 導管、 3 弁、 4、8、11、13 攪拌釜、 6、16 ポンプ、 7 熱交換器、 14、15 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有エステル化触媒で促進される、エステル化反応の粗製エステルを後処理するための方法において、
a)粗製エステルに、100℃を上廻る温度Tで、温度Tで水の蒸気圧と等しいかまたは水の蒸気圧よりも高い圧力pの下で水性塩基を添加し、
b)エステル−塩基混合物を、減圧させ、水を、蒸発させ、
c)得られた液相に、油中水型乳濁液の形成下に水を添加し、
d)この乳濁液から水を留去し、および
e)エステルを濾過することを特徴とする、エステル化反応の粗製エステルを後処理するための方法。
【請求項2】
水性塩基を粗製エステルの流れに噴入し、および混合された流れを静的混合装置に導通させることにより、工程a)を連続的に実施する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
エステル−塩基混合物は、圧力pで15秒〜10分間の保持時間を保持する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
水性塩基を用いる場合には、粗製エステルの酸価に対して100〜300%の中和当量を導入する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
水性塩基がアルカリ金属水酸化物水溶液である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
水性塩基の濃度は、0.5〜25質量%である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
エステル−塩基混合物を工程b)で800ミリバール未満の圧力に減圧する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)で得られた液相を、5分〜1時間の滞留時間中に機械的に可動させる、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
液相に工程c)で粗製エステル1kgに対して水10〜60gを添加する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程d)で水を60℃〜100℃未満の温度および500ミリバールの圧力で留去する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程e)で濾過助剤を使用しない、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程a)前に粗製エステルから、反応されていないアルコールの主要量を除去する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
金属含有エステル化触媒は、チタン、ジルコニウム、錫、アルミニウムおよび錫のアルコラート、カルボキシレートおよびキレート化合物から選択される、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
エステル化反応は、少なくとも5個の炭素原子を有する脂肪族モノカルボン酸、脂肪族C4〜C10ジカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族トリカルボン酸、芳香族テトラカルボン酸から選択されたカルボン酸および/またはその無水物の変換を含む、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
エステル化反応は、C4〜C13アルコール、アルキレングリコールモノエーテル、ポリアルキレングリコールモノエーテルおよびその混合物から選択されたアルコールの変換を含む、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−512230(P2012−512230A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541390(P2011−541390)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067178
【国際公開番号】WO2010/076193
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】