説明

粘度を調節した眼科用組成物

【課題】眼の乾燥およびコンタクトレンズの使用に伴う様々なトラブルを軽減または解消するために、コンタクトレンズ装用中にも、レンズを装着したままで点眼できる点眼剤として、さらには、コンタクトレンズ装着液として、特に有用な眼科用組成物を提供する。
【解決手段】角膜表面または固体表面における濡れ性を改善する特徴を有し、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールまたはポリオキシエチレンポリオキシプロピレン置換エチレンジアミンと製剤的に許容される粘稠化剤とを含有し、20℃での粘度が1cps以上8cps以下であることを特徴とする粘度を調節した眼科用組成物であり、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ用点眼薬、洗浄液、保存液等に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用の組成物に関し、さらに詳しくは、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールまたはポリオキシエチレンポリオキシプロピレン置換エチレンジアミンと粘稠化剤とを含有し、粘度を一定範囲に調節した組成物に関するものである。本発明の組成物は、眼の乾燥およびコンタクトレンズの使用に伴う様々なトラブルを軽減または解消するために、コンタクトレンズ装用中にも、レンズを装着したままで点眼できる点眼剤として、さらには、コンタクトレンズ装着液として、特に有用である。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズとして最初に開発されたのはハードコンタクトレンズであるが、この種のレンズは素材が堅く装用感が悪い上、酸素を透しにくいという欠点があった。そこで、酸素透過性ハードコンタクトレンズが開発され、製品によっては1週間の連続装用も可能とされているが、この種のレンズも装用感等に問題があった。一方、装用感の改善等を目的として柔軟性のあるフィット感に優れたソフトコンタクトレンズが開発され、今日、広く普及している。しかし、どのタイプのコンタクトレンズも、異物を目に挿入することから生じる問題点を抱えており、そのような問題は装着時および装用中に色々な形で起こりうる。
コンタクトレンズを目に装着する際、常に涙液で湿っている角膜上に的確かつ安全にのせるには、コンタクトレンズの素材が親水性で表面が濡れ易い性質であることが望ましい。しかしながら、ハードコンタクトレンズおよび酸素透過性ハードコンタクトレンズは、それぞれ、疎水性のポリメチルメタクリレートおよびポリシロキサニルメタクリレートを基本素材としているために、本質的に濡れ難い。そこで、これら疎水性素材のコンタクトレンズの表面に親水性の被膜を形成させて水濡れ性を改善するためのコンタクトレンズ装着液が提供されている。しかし、既存のコンタクトレンズ装着液には、装着を容易に行うために多量の粘稠化剤が配合されており、その粘度は、普通50cps[センチポアズ;10−3Pa・s(Pa・s=kgm−1−1)]以上にも達することから、不快なねばつき感を伴う上、角膜とコンタクトレンズの間に高粘度の溶液が存在することに起因して様々な問題が起こりうる。例えば、角膜とコンタクトレンズとの涙液交換が損なわれて酸素不足を起こし、角膜浮腫、角膜上皮びらん、角膜内皮細胞障害等の眼障害を誘発したり、像のゆがみやぼやけ等が起こる場合がある。
一方、ソフトコンタクトレンズの場合には、含水率が高く親水性の素材を用いているために装着液は必要とされていなかった。一般に、コンタクトレンズには涙液中のタンパク質や脂質等が吸着しやすいが、特にソフトコンタクトレンズの場合にはその傾向が著しく、これらの物質が付着し蓄積するにつれてレンズ表面の水濡れが悪化することが明らかになった。従って、ソフトコンタクトレンズの場合も、有用で安全な装着液の開発が必要である。
また、コンタクトレンズの素材の改良とともに連続装用が可能となり、長期装用に伴って装用中の不快感や、眼組織およびレンズの障害等の問題が増加している。そのような問題は、主として涙液によってレンズ表面を十分に濡らすことができない状態が続くことに起因している。コンタクトレンズは空気に触れるとすぐに表面が乾燥するという性質を有する。ところが、レンズの厚みは標準的なものでも約100μmあるのに対し、涙液の水液層の厚みは通常7μm程度に過ぎないので、コンタクトレンズを涙液で濡らした状態に保つのは容易でない。その上、コンタクトレンズ表面には涙液中に含まれる脂質や疎水性タンパク質等の老廃物が吸着し易く、それらが蓄積すると極端に水をはじくので、薄い涙液膜中におかれたコンタクトレンズの表面を涙液で安定に被うことは、一層困難になる。
何らかの原因で表面が濡れにくいコンタクトレンズを装用していると、涙膜を表面に引き延ばすことが出来ないので、コンタクトレンズの表面が乾燥し、機械的な摩擦等で結膜や角膜を傷つける恐れがある。また、コンタクトレンズ自体の透明性が低下したり屈折矯正力が悪化する恐れもある。さらに、涙液中の、または外界からの汚染物質が付着し易くなり、異物感やコンタクトレンズの曇り、フィッティングの低下が引き起こされうる。従来、ハードコンタクトレンズ装用時にこのような症状が現れた場合には、人工涙液の点眼で対処しているが、コンタクトレンズ自身の疎水性が強いために、水濡れ効果は満足のいくものではなかった。一方ソフトコンタクトレンズに関しては、レンズ自身が親水性であるために、ソフトコンタクトレンズ装用時のレンズ表面の水濡れを改善するための点眼剤は未だ提供されていなかった。しかし、実際には、既述のごとく、ソフトコンタクトレンズには涙液中や外界からの汚染物質が極めて吸着し易く、蓄積物の影響等で水濡れ効果が著しく低下することから、他のタイプのコンタクトレンズと同様に、適当な点眼剤が必要であると考えられている。更に、眼乾燥症状であるドライアイ等が、最近増加傾向にあることからも明らかなように、乾燥が原因となる不快感や、疾患が問題となっている。そのため、眼表面の水濡れをよくする効果に優れ、かつコンタクトレンズの有無に関係なく点眼できるのであればより便利であることはいうまでもない。
上記のごとく、どのようなタイプのコンタクトレンズにも、素材の性質や付着物に起因してレンズ表面の水濡れが悪化し、装着時および装用中の眼組織の障害やレンズ自身の機能の低下を招くという課題がある。この課題を解決するには、レンズの素材にかかわらず十分な水濡れ効果を有し、かつ生体に安全な装着液および点眼剤を用いることが望ましい。通常、そのような組成物は、保湿効果を有する粘稠化剤と、吸着防止効果、溶解補助効果を有する界面活性剤、および保存剤等の様々な成分を含有するが、コンタクトレンズには、それらの成分が吸着し蓄積しやすく、特にソフトコンタクトレンズではその傾向が著しいので、点眼剤の製剤化に際しては含有成分のレンズへの吸着を避けるために界面活性剤を増量する必要がある。しかし、これは、レンズへの影響や生体への安全性の面から、好ましい対応ではない。従って、コンタクトレンズへの吸着蓄積が無く、安全性が高い組成物であって、眼組織、ハードまたはソフトコンタクトレンズにおいて持続的な水濡れ効果を有する装着液または点眼剤として有用な組成物の開発が強く求められている。
既に、蓄積等の悪影響が無く眼科的に安全な界面活性剤として、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールおよびポリオキシエチレンポリオキシプロピレン置換エチレンジアミンが知られており、その洗浄および湿潤効果を利用したコンタクトレンズ洗浄剤が開示されている[特開昭49-87346(米国特許3882036、3954644に対応)、特開平4-313721(米国特許5209865、欧州特許出願公開439429に対応)、特公昭63-63885(米国特許4440662に対応)]。また、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールと粘稠化剤とを含有する、コンタクトレンズを眼に装入したまま洗浄するための洗浄液が開示されている(特公昭53-28922)。しかし、これらはいずれもコンタクトレンズ表面に付着した汚染物質を除去するための洗浄剤に関するものであり、コンタクトレンズの装着の際、および装用中持続的に水濡れ効果を示す組成物は開示も示唆もされていない。既述のごとく、コンタクトレンズ装着液および点眼剤には粘稠化剤と界面活性剤が同時に配合されることは公知であるが、従来の製品には粘度が高すぎることによる弊害があった。また、粘稠化剤は滞留による保湿効果には優れているがそれだけではその効果の持続が不十分であり、かつ速やかに濡れるという効果をもつものではない。従って、装着液および点眼剤として有用な組成物を得るには、適切な界面活性剤と粘稠化剤を適切な割合で配合する必要があるが、そのための情報は、従来技術ではまったく提供されていなかった。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明者らは、安全性が高い成分を含有し、眼の乾燥による不快感を改善し、また、コンタクトレンズ装用時にも、あらゆるコンタクトレンズに対して適切な水濡れ効果を有し、しかも、その効果が装用中、十分な期間持続しうる眼科用組成物を提供することを目的として研究を重ねた結果、コンタクトレンズへの蓄積等の悪影響が無く、また、それ自身の安全性が十分確認されているポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールまたはポリオキシエチレンポリオキシプロピレン置換エチレンジアミンと、製剤的に許容される粘稠化剤とを適当に配合すれば、上記の目的に適う組成物が得られることを見出した。
即ち、本発明は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールまたはポリオキシエチレンポリオキシプロピレン置換エチレンジアミンと製剤的に許容される粘稠化剤とを含有し、20℃での粘度が1cps以上8cps以下であることを特徴とする粘度を調節した眼科用組成物を提供するものである。
本明細書中、本発明の眼科用組成物に関して、「粘度」は、原則として、後述の円すい−平板形回転粘度計を用いる方法で、20℃おいて測定した値を指す。
本発明の組成物は、眼科の医療分野で様々な用途を有する。例えば、粘稠化剤の持つ滞留による保湿効果とポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールまたはポリオキシエチレンポリオキシプロピレン置換エチレンジアミンの湿潤効果が増強されており、固体の表面を濡れ易くする効果に優れているので、コンタクトレンズ装着液として有用であり、しかもその水濡れ効果が持続するので、コンタクトレンズ装用中にレンズを装着したままで点眼できるコンタクトレンズ用点眼剤としても有用である。また、本発明の組成物はコンタクトレンズへの吸着や蓄積の影響が無い成分を含有しているので、従来存在しなかったソフトコンタクトレンズ用の装着液および点眼剤としても有用である。さらに、本発明の組成物は、固体表面の水濡れ効果により、角膜表面の水濡れをも促進すると考えられるので、当然、コンタクトレンズ非装用者および装用者におけるドライアイ等の治療のための点眼剤等としての用途をも有する。その他、コンタクトレンズ洗浄液、保存液等としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
本発明の眼科用組成物に用いるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールは、プロピレンオキシドを付加重合させて得られるポリプロピレングリコールにエチレンオキシドを付加重合したもので、下記の式で示される。
【化1】

上記の式で示される化合物(以下、ポロクサマー類と称する)には、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの平均重合度によって、種々の化合物が存在する。その中でも、ポロクサマー124(プルロニックL−44、平均分子量2200)、ポロクサマー188(プルロニックF−68、平均分子量8350)、ポロクサマー235(プルロニックP−85、平均分子量4600)およびポロクサマー407(プルロニックF−127、平均分子量11500)が本発明には好ましく、ポロクサマー188、ポロクサマー235およびポロクサマー407が特に好ましい。
また、ポロクサミン型のポリオキシエチレンポリオキシプロピレン置換エチレンジアミンは、下記の式で示される。
【化2】



上記の式で示される化合物(以下、ポロクサミン類と称する)には、プロピレンオキシドとエチレンオキシドの平均重合度によって、種々の化合物が存在する。その中でも、テトロニック707(平均分子量12000)、テトロニック908(平均分子量22500)、テトロニック1107(平均分子量14500)、テトロニック1307(平均分子量18600)、テトロニック1508(平均分子量26600)が好ましく、テトロニック1107が特に好ましい。
ポロクサマー類およびポロクサミン類の化合物は、BASF Wyandotte Corporation等から市販品を入手できる。
また、本発明の眼科用組成物に用いられる粘稠化剤として、アラビアゴム末、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ソルビトール、デキストラン70、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルビキシビニルポリマー、トリイソプロパノールアミン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、マクロゴール4000が挙げられる。
これらのうち、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンは低濃度でも適切な粘度の溶液が得られる点で優れている。更に、コンタクトレンズへの影響が無く、安全性の高いヒドロキシエチルセルロースまたはポリビニルピロリドンが好ましいが、これに限定されるわけではない。
本発明の組成物は、粘度が1〜8cpsの範囲であることを条件として、上記のポロクサマー類またはポロクサミン類から選択される1またはそれ以上の界面活性剤と粘稠化剤を、製剤的に許容される他の添加物と共に含有しており、通常の点眼薬の製造に用いる方法に従って製造される。
通常、組成物の粘度が高くなりすぎるとかえって水濡れが悪くなり、低すぎると十分な保湿効果が期待できない。本発明は、従来の装着液等に比較してかなり低粘度に調節するために粘稠化剤の濃度を下げても、ポロクサマー類またはポロクサミン類の化合物を共存させると、それぞれの効果が増強されて表面の水濡れ性が増強されるという知見に基づいている。従って、本発明の組成物によれば、十分な水濡れ効果を有しながら、装用時の不快なねばつき感、レンズの曇り、像のゆがみ等の、高粘度組成物に関連する様々な弊害の発生を防止することが出来る。さらには、低粘度であるために角膜とコンタクトレンズの間の涙液交換が阻害されないので、角膜の酸素不足に起因する角膜浮腫、角膜上皮びらん、角膜内皮細胞障害等の障害が防止される。これらの症状はレンズの径が大きく角膜をすっぽりと覆い、かつ柔軟性があるため角膜に密着しやすいソフトコンタクトレンズでは特に重篤であり、その場合に、粘度が8cpsを超えると水濡れが悪くなり極めて取扱いにくくなるが、本発明組成物によればそのような問題も回避できる。
本発明の組成物は、粘度が1〜3cpsであることがより好ましい。粘度が3cps以下になると、水濡れの効果は向上し、使用に際して通常の点眼薬と同様なさらっとした感触で使用感はさらに良くなる。なお、コンタクトレンズ装着液および点眼剤は溶媒に蒸留水を用いるが、蒸留水の20℃での粘度は1cpsであるため、調製された装着液および点眼剤の粘度は20℃で測定する限り、1cps以下になることはない。
組成物の粘度は、ポロクサマー類またはポロクサミン類の化合物と粘稠化剤との組合わせ、および添加物の種類等に応じて、個々の場合に、上記の範囲になるよう調節する必要があるが、そのための方法は当該技術分野で既知である。
本発明の眼科用組成物には、種々のコンタクトレンズに対して影響がなく、製剤的に許容される様々な物質を添加することができる。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸カリウム、ホウ酸、ホウ砂、クエン酸、クエン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム、イプシロン−アミノカプロン酸、アミノエチルスルホン酸、グルタミン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウム、酢酸、グリセリン、ブドウ糖、マンニトール等をpH調製剤、緩衝剤、等張化剤として用いることができ、また、安定化剤としてエデト酸、エデト酸塩(エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム)、防腐剤としてソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロロブタノール、さらに、溶解補助剤として、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、尿素、プロピレングリコール、マクロゴール4000、モノエタノールアミン、ポリオキシエチレンオキシステアリン酸トリグリセライドが使用出来る。
本発明の眼科用組成物の用法・用量は、点眼剤として用いる場合、通常、1日3〜6回、1回1〜3滴、好ましくは1日5〜6回、1回1〜2滴が点眼され、装着液として用いる場合は、通常、コンタクトレンズ装着時に、コンタクトレンズに1〜2滴を滴下して使用される。
以下に、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の眼科用組成物の粘度は以下の方法又はそれと同等の結果を与える方法により測定される。
粘度測定法
粘度は、円すい−平板形回転粘度計を用いる方法で測定する。この方法は、NEW FOOD INDUSTRY Vol. 22, No. 4-6, 1980 (川崎種一)及び第十三改正日本薬局法に記載の、一般試験法、36.粘度測定法、第2法 回転粘度計法、(3)円すい−平板形回転粘度計の項に記載の方法と同様である。
(1)円すい−平板形回転粘度計による粘度測定について
第1図の簡略化した円すい−平板形回転粘度計により、一般的な手法を説明する。まず、円すい1と平円板2との間の角度αの隙間に試料を入れ、円すい1又は平円板2を一定の角速度ω若しくはトルクTで回転させ、定常状態に達したときの平円板2又は円すい1が受けるトルク若しくは角速度を測定し、試料の粘度ηを次式により算出する。
η=100×(3α/2πR)・(T/ω)
η:試料の粘度(mPa・s) (Pa・s=10cps)
α:平円板と円すいがなす角度(rad)
π:円周率
R:円すいの半径(cm)
T:平円板又は円すい面に作用するトルク(10−N・m)
ω:角速度(rad/s)
(2) 眼科用組成物の粘度測定
本発明組成物の粘度は、市販の円すい−平板形回転粘度計と適宜選択されたロータとを用いて測定することができ、そのような粘度計の例には、E型粘度計[トキメック(TOKIMEC)製、東機産業(日本)から販売]、シンクローレクトリックPC型(ブルックフィールド、米)、フェランティシャーリー(フェランティ、英)、ロートビスコ(ハーケ、独)、IGKハイシャーレオメーター(石田技研、日本)、島津レオメーター(島津製作所、日本)、ワイセンベルグレオゴニオメーター(サンガモ、英)、メカニカルスペクトロメーター(レオメトリックス、米)等がある。実施例で示す本発明組成物の粘度は、これらの内、E型粘度計の1つであるDVM−E型粘度計を用い、業者の指示に従って測定した値であることから、以下に、該装置を用いる方法を説明する。
DVM−E型粘度計は、第2図に示す構造を有し、粘度計本体側に、第3図に記載のコーンロータ1(上記円すい1に相当)が、アダプタ・スリーブ3側にプレート又はサンプルカップ2(上記平円板2に相当)が、それぞれ取り付けられている。アジャスタ・リング4はアダプタ・スリーブ3とネジでかみ合っており、その回転に応じて、コーンロータ1とプレート2とが接近又は離れるよう構成されている。第3図に示すように、コーンロータ1の中心には微小突起があり、該突起と円錐の仮想頂点からの距離をdとする。コーンロータ1は、スプリングを介して定速で回るシンクロナス・モータ(いずれも図示せず)で回転される。そのとき、ロータ1に液体の粘性抵抗トルクが働くと、スプリングがそのトルクと釣り合うところまで捩れ、その捩れ角に基づいて、液体の粘度が自動的に計算されて計器に表示される仕組みになっている。
測定条件
測定に際しては、コーン角度1゜34'、コーン半径2.4cmのDVM−E型粘度計に付属の標準コーンロータをフルスケール・トルク67.4×10−6Nmのスプリングを介してモータで回転させた。微小突起の円錐の仮想頂点からの距離dは12.7μmである。
粘度計を回転軸が水平面に対して垂直になるように設置し、被検試料1mlをサンプルカップ2に入れ、該サンプルカップ2を、コーンロータ1を取り付けた本体に装着し、温度が20℃になるまで放置した。次いで、装置を50rpmで回転させ、表示された粘度を読み取った。なお、高精度の測定結果を得るために、被検試料測定前に、JIS Z 8809により規定されている石油系の炭化水素油(ニュートン流体)を校正用標準液として用い、測定値が標準液の粘度に一致するように調整した。この標準液は、20℃、30℃、40℃における粘度が±0.1%の精度で保証されている。
なお、DVM−E型粘度計以外の市販の機種を用い、上記と同様にコーンロータを選択して実施し、適宜校正することにより、同等の結果を得ることができることは、当業者ならば容易に理解しうることである。
実施例1 点眼剤
100ml中
ポロクサマー407 0.1 g
ヒドロキシエチルセルロース 0.1 g
ホウ酸 0.73g
ホウ砂 0.05g
塩化ナトリウム 0.5 g
ソルビン酸カリウム 0.2 g
滅菌精製水 適量
全量 100ml
以上を無菌的に調合充填し、点眼剤(pH約7.2、浸透圧比約1.1、粘度3cps)とする。
実施例2 コンタクトレンズ装着液
100ml中
ポロクサマー188 0.9 g
ヒドロキシエチルセルロース 0.2 g
ホウ酸 0.73g
ホウ砂 0.05g
塩化カリウム 0.07g
塩化ナトリウム 0.43g
アルキルポリアミノエチルグリシン 0.15g
滅菌精製水 適量
全量 100ml
以上を無菌的に調合充填し、コンタクトレンズ装着液(pH約7.2、浸透圧比約1.0、粘度5cps)とする。
実施例3 点眼剤
100ml中
ポロクサマー407 0.1g
ポリビニルアルコール 0.2g
ポリビニルピロリドン 1.8g
塩化カリウム 0.1g
塩化ナトリウム 0.8g
ソルビン酸カリウム 0.2g
滅菌精製水 適量
全量 100ml
以上を無菌的に調合充填し、点眼剤(pH約6.7、浸透圧比約1.1、粘度8cps)とする。
実施例4 コンタクトレンズ装着液
100ml中
テトロニック1107 0.15g
メチルセルロース 0.5 g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 0.1 g
ホウ酸 0.73g
ホウ砂 0.05g
塩化ナトリウム 0.5 g
ソルビン酸カリウム 0.2 g
滅菌精製水 適量
全量 100ml
以上を無菌的に調合充填し、コンタクトレンズ装着液(pH約7.2、浸透圧比約1.1、粘度3cps)とする。
本発明の組成物のコンタクトレンズ表面の水濡れ効果を下記の実験系を用いて評価した。即ち、固体平面に点眼薬の液滴を一滴のせたときに、その固体材質と液滴および空気層の組み合わせによって、液滴が固体平面上半球状になる。そのとき液滴の表面が固体面と交差する点で、水面に引いた切線と平面のなす角度(液滴を含む角)を測定する。その角度をシータ(θと略称する)で表すと、θが小さいほど、液滴の固体表面への親和性が大きく、液滴を構成する液体(例、点眼薬)が固体に対して、いわゆる濡れやすい溶液であることを意味する。以下の実験例では、本発明の目的に沿ってこの評価法をさらに発展させた実験系を用いる。具体的には、コンタクトレンズを水平に静置させてそのフロントカーブ(角膜と接触しない側)上に点眼薬の液滴を一滴のせ、そのθを測定することにより水濡れ効果を評価する。なお、コンタクトレンズ自体が一定の曲率を有する球の一部であるので、コンタクトレンズに由来する角度を予め測定しておき(θaとする)、後にコンタクトレンズ上で測定した液滴の角度(θbとする)から差し引いて補正する必要がある。(θ=θb−θa)
θの測定は、コンタクトレンズ上にのせた液滴を側面から写真撮影する方法やビデオカメラを用いる画像処理装置を用いる方法で、容易に行うことができる。酸素透過性ハードコンタクトレンズはそのままの状態で測定に用い、ソフトコンタクトレンズは、一旦レンズを生理食塩液中から空気中に出し、表面が乾いたことを確認してから測定に用いた。
実験例1
種々の濃度のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとヒドロキシエチルセルロースまたはポリビニルピロリドンを蒸留水に溶解した試験液を調製し、上記の評価法に従い、酸素透過性ハードコンタクトレンズに対するθを測定した。レンズの酸素透過係数Dk値[ml(O)cm/(cm・sec・mmHg),35℃〕;60。粘度は20℃における絶対粘度を示し、その単位cps(センチポアズ)は10−3Pa・s(Pa・s=kgm−1−1)である。粘度は回転粘度計によって測定した。結果を以下に示す。
【表1】


実験例2
種々のポロクサマー類(ポロクサマーA,B,Cと称する)及びポロクサミンの0.1%にヒドロキシエチルセルロースを0.1%濃度で添加した水溶液とそれぞれに調製し、上記評価法を用いて、実験例1と同じ酸素透過性ハードコンタクトレンズでθを測定した。結果を以下に示す。
【表2】

実験例3
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとヒドロキシエチルセルロースを生理食塩水に溶解し試験液を調製し、上記評価法を用いて、含水率37.5%のソフトコンタクトレンズに対するθを同様にして測定した。結果を以下に示す。
【表3】


表から、蒸留水または生理食塩水では、いずれのコンタクトレンズでもθ値は高いが、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを配合した溶液では著しくθが低下し、該溶液がコンタクトレンズに対して濡れ易い性質を有していることが分かる。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール溶液に粘稠化剤を配合すると、さらにθは低下する。以上から、溶液の粘度は低い方が濡れ易く、粘度が高くなりすぎると逆に濡れ難くなるという結果が得られた。
実験例4
本発明組成物のコンタクトレンズ表面上の水濡れの持続性を以下の実験系により評価した。
種々の濃度のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとヒドロキシエチルセルロースの溶液を調製し試験液とする。ビーカーに試験液を入れ、コンタクトレンズを完全に浸漬する。次に液中からコンタクトレンズを取り出し、同軸落射照明装置付きの実体顕微鏡を用い、倍率10倍で、コンタクトレンズ表面(フロントカーブ側)の水濡れを観察する。コンタクトレンズを液中から取り出してから、コンタクトレンズ表面に乾燥部分が現れるまでの時間(t)を測定し、濡れの持続時間とした。結果を以下に示す。
【表4】


上記の結果は、ヒドロキシエチルセルロース単独の水溶液では、コンタクトレンズを一旦、浸漬して完全に濡らしても、空気中に出すと表面の濡れは持続せず、すぐに乾燥部分が生じるが、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール単独の水溶液では、コンタクトレンズ表面の水濡れが持続することを示している。更にポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールに粘稠化剤であるヒドロキシエチルセルロースを加えると、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール単独よりも、より長く水濡れが持続することが分かる。しかし、さらに粘度を増大しても、水濡れの持続は一定となり、逆に、実験例1の結果から明らかなように水濡れが悪くなる。
実験例1〜4の結果は、ねばつき感の解消、コンタクトレンズ装用時の涙液交換を良くすること、および持続的な水濡れ効果を考慮して、主として装着液および点眼薬として用いる本発明の組成物は、20℃での絶対粘度が1cpsから8cpsの範囲であることが好ましく、1cpsから3cpsの範囲であることがより好ましいことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】第1図は、粘度測定のための円すい−平板形回転粘度計の一例を示す略図である。
【図2】第2図は、1つの円すい−平板形回転粘度計の縦断側面図である。
【図3】第3図は、第2図の粘度計の要部を示す正面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン置換エチレンジアミンと(2)少なくとも一つの粘稠化剤とを含有し、20℃での粘度が1cps以上8cps以下であることを特徴とする、粘度を調節した眼科用組成物。
【請求項2】
粘稠化剤が、アラビアゴム末、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ソルビトール、デキストラン70、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、トリイソプロパノールアミン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびマクロゴール4000から選択される、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項3】
粘稠化剤が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンから選択される、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項4】
粘度が、円すい−平板形回転粘度計を用いる方法で、20℃において測定した値である、請求項1〜3のいずれかに記載の眼科用組成物。
【請求項5】
点眼剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ洗浄液またはコンタクトレンズ保存液である、請求項1〜4のいずれかに記載の眼科用組成物。
【請求項6】
角膜表面または固体表面の乾燥による不快感を改善するためのものである、請求項1〜5のいずれかに記載の眼科用組成物。
【請求項7】
眼科用組成物の角膜表面または固体表面における濡れ性を改善する方法であって、該組成物に(1)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン置換エチレンジアミンと(2)少なくとも一つの粘稠化剤とを共存させると共に、20℃での粘度を1cps以上8cps以下に調節することを特徴とする方法。
【請求項8】
眼科用組成物中に、(1)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン置換エチレンジアミンと(2)粘稠化剤とを共存させると共に、20℃での粘度を1cps以上8cps以下に調節することを特徴とする、該組成物中での上記(1)または(2)に記載の成分の角膜または固体表面への濡れ効果を増強する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−195720(P2008−195720A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35481(P2008−35481)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【分割の表示】特願平9−528373の分割
【原出願日】平成9年2月4日(1997.2.4)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】