説明

粘性材料の補給方法

【課題】吸引機構を用いて材料タンク内のゲル剤のエア抜きを行うゲル注入装置における前記材料タンクへの粘性材料の補給方法において、ゲル剤の脱泡作業を効率よく行う。
【解決手段】補給容器31,32の上部開口に取り付け自在な蓋体34と、この蓋体34に挿通保持されて一端を前記補給容器31,32内の粘性材料A,Bに到達させると共に他端を材料タンクに連結する吸引管36と、前記材料タンク内を減圧可能な吸引機構とを備え、前記吸引機構によって、前記補給容器31,32内の粘性材料A,Bを前記吸引管36を介して吸引して、前記材料タンク内に補給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル注入装置の材料タンクにシリコーンゲル等の粘性材料を補給するための補給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モーターや電気部品等の絶縁体としてシリコーンゲルが使用されるが、このシリコーンゲルを形成する粘性材料たるゲル剤をゲル注入装置の材料タンクに補給する場合、例えば所定のリフターに補給用のゲル剤が入った一斗缶等の補給容器を係止し、これを傾動させることでゲル剤を材料タンクに補給する。
しかし、このような補給方法では、ゲル剤の補給時にこれが材料タンク内のエアを巻き込んでしまい、このままでゲル剤を使用すると、前記巻き込んだエアによってシリコーンゲルの絶縁効果が薄れてしまう。
【0003】
そこで、材料タンク内に補給したゲル剤を長時間に渡って放置してある程度のエア抜き(自然状態での脱泡作業)を行うことが考えられる。これは、比較的粘度の高い(硬い)ゲル剤の場合、前記巻き込んだエアが気泡となってゲル剤内に滞留し易いため、自然状態では時間をかけないとエアを抜くことができないからである。
しかし、それでも最終的には、自然状態では完全にゲル剤内のエアを抜くことはできないため、例えば特許文献1に記載の技術のように、真空ポンプを利用して強制的にエアを吸引する吸引機構を用いて、材料タンク内で脱泡作業を行うことが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04−350483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の技術でも、材料タンク内での脱泡作業に長時間を要すると共に、脱泡時に発生する気泡が吸引機構内に取り込まれることで、装置のメンテナンス頻度を増加させるという課題がある。
【0006】
本発明は上記従来技術の課題を解消するためのものであり、吸引機構を用いて材料タンク内のゲル剤のエア抜きを行うゲル注入装置における前記材料タンクへの粘性材料の補給方法において、ゲル剤の脱泡作業を効率よく行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、
補給容器(例えば実施形態のペール缶31,32)内の粘性材料(例えば実施形態のゲル剤A,B)をゲル注入装置(例えば実施形態のゲル注入装置1)の材料タンク(例えば実施形態の材料タンク3,4)内へ補給するための粘性材料の補給方法であって、
前記補給容器の上部開口に取り付け自在な蓋体(例えば実施形態の蓋体34)と、この蓋体に挿通保持されて一端を前記補給容器内の粘性材料に到達させると共に他端を前記材料タンクに連結する吸引管(例えば実施形態の吸入管36)と、前記材料タンク内を減圧可能な吸引機構(例えば実施形態の吸引機構19)と、を備え、
前記吸引機構によって、前記補給容器内の粘性材料を前記吸引管を介して吸引して、前記材料タンク内に補給することを特徴とする。
請求項2に記載した発明は、
前記粘性材料の粘度は150mPa・s〜750mPa・sであり、
前記吸引機構による吸引力は大気圧に対して−10Pa〜−60Paであり、
前記吸引管の内径は10mm〜49mm、全長は2m〜24mであることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、
前記吸引管の下端開口を前記粘性材料に所定深さまで差し込み、
この状態で前記粘性材料を吸引した後、その上方の空間に前記下端開口が露出した際には、前記材料タンクに設けた圧力センサー(例えば実施形態の圧力センサー28b)がタンク内圧の変化を検出することで、前記吸引機構の吸引作動を停止させることを特徴とする。
請求項4に記載した発明は、
前記粘性材料はシリコーンゲルを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、材料タンク内でのエア抜き用の既存の吸引機構を用いて、一斗缶やペール缶等の補給容器からゲル剤を弱い吸引力で吸引することが可能となり、ゲル剤内に混在するエアを材料タンク内に補給する過程である程度脱泡できる。これにより、補給容器を長時間放置するような時間を不要にでき、かつ各材料タンク内での正規の脱泡作業時間も短縮できると共に、脱泡時に発生する気泡が吸引機構内に取り込まれることを抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施形態におけるゲル注入装置の概略図である。
【図2】上記ゲル注入装置に用いる粘性材料の補給容器の正面図である。
【図3】上記補給容器の吸引管の内径及び全長の適用範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、例えば電動車両のモータドライバに用いるパワーモジュールM内に、その回路を絶縁封止するシリコーンゲルを形成するために、前記パワーモジュールM内に二液加熱硬化型のゲル剤A,Bからなる混合ゲル剤を注入するゲル注入装置(シリコーンゲルポッティング装置)1の概略を示す。
【0011】
ゲル注入装置1は、粘性材料たる主剤及び硬化剤(ゲル剤A,B)をそれぞれ貯留する一対の材料タンク3,4と、各材料タンク3,4から各ゲル剤A,Bをそれぞれ計量しつつ抜き出す一対のプランジャポンプ5,6と、各プランジャポンプ5,6から圧送された各ゲル剤A,Bを混合するミキサー7と、ミキサー7が形成した混合ゲル剤を前記パワーモジュールM内に吐出、注入するための真空チャンバ8と、真空チャンバ8を減圧すると共に各材料タンク3,4内のゲル剤A,Bを真空脱泡するための真空ポンプ9と、ミキサー洗浄装置11と、を備える。
【0012】
なお、図中符号15,16は各材料タンク3,4とこれらに対応する各プランジャポンプ5,6とをそれぞれ接続する連通管を、符号15a,16a,15b,16bは各連通管15,16の両端にそれぞれ設けられる連通弁を、符号13,14,18は各材料タンク3,4及び真空チャンバ8から真空ポンプ9に向けて延びる真空管を、符号13a,14a,18aは各真空管13,14,18にそれぞれ設けられる真空弁をそれぞれ示す。
【0013】
また、図中符号21,22は各材料タンク3,4にそれぞれ接続される加圧管を、符号21a,22aは各加圧管21,22にそれぞれ設けられる加圧弁を、符号23,24は各材料タンク3,4にそれぞれ設けられる攪拌羽を、符号25,26は各プランジャポンプ5,6とミキサー7とをそれぞれ接続する圧送管を、符号25a,26a,25b,26bは各圧送管25,26の両端にそれぞれ設けられる圧送弁を、符号27はミキサー7と真空チャンバ8の吐出弁8aとを接続する吐出管をそれぞれ示す。
【0014】
さらに、図中符号28は大気連通管を、符号28aは大気連通管28に設けられる大気バルブをそれぞれ示す。
真空ポンプ9、各真空管13,14,18及び真空弁13a,14a,18aからなる真空機構19は、各材料タンク3,4内のゲル剤A,Bの脱気及び真空チャンバ8の減圧を行うと共に、各材料タンク3,4内に後述する補給容器内の各ゲル剤A,Bを吸引する。
【0015】
図2を併せて参照し、各ゲル剤A,Bは、それぞれペール缶(又は一斗缶)31,32に収納された状態でゲル注入工程に納入される。各ペール缶31,32は、ゲル注入工程にてオイルパン29上に載置され、それぞれ上蓋に代わり取り付けられたゲル吸引治具33を介して、各材料タンク3,4の内の対応するものにそれぞれ接続される。
【0016】
ゲル吸引治具33は、前記上蓋に代わる蓋体34と、この蓋体34上に立設された管高さ固定機構35と、一端が管高さ固定機構35及び蓋体34を貫通してペール缶31,32内に挿入されると共に他端が各材料タンク3,4の内の対応するものにそれぞれ接続される吸引管36とを備える。
【0017】
管高さ固定機構35は、下端が蓋体34に固定される挿通管35aと、この挿通管35aの上端に螺着されてOリング等のシール部材35cを保持するナット部材35bとを有する。
なお、図中符号37は大気に開放する吸気口を、符号38は吸気口37のフェール時に代用するボールバルブ等の手動弁をそれぞれ示す。
【0018】
吸引管36は、管高さ固定機構35内に上方から挿通される例えばステンレス製のストレート管36aと、ストレート管36aの上端に一端が接続されると共に他端が各材料タンク3,4の内の対応するものに接続される例えばステンレス製のフレキシブル管36bとを有する。ストレート管36aはシール部材35cの内周に摺動可能に密接し、もって管高さ固定機構35の内周とストレート管36aの外周との間がシールされると共に、ストレート管36aがペール缶31,32内に所定量挿入された状態で保持される。なお、ストレート管36aの上端には流量調整用のボールバルブ等の手動弁39が設けられる。
【0019】
そして、各ストレート管36aがペール缶31,32内に所定量挿入された状態で、吸引機構19の真空ポンプ9を作動させて各材料タンク3,4内を減圧にすると、これら各材料タンク3,4内と常圧の各ペール缶31,32内との差圧により、各ゲル剤A,Bが各吸引管36を介して各材料タンク3,4内にそれぞれ吸引、補給される。このとき、各材料タンク3,4に設けた圧力センサー28bを用いて真空ポンプ9の作動を制御することで、各材料タンク3,4の内圧が大気圧(常圧)に対して−10Pa〜−60Paの低圧状態に保たれる。
【0020】
ここで、ゲル剤Aは、その粘度が温度25℃の下で400mPa・s〜750mPa・sの範囲内にあり、ゲル剤Bは、その粘度が温度25℃の下で150mPa・s〜450mPa・sの範囲内にある。
一方、各吸引管36は、それぞれ全長が2m、内径(直径)が20mmの同一構成に設定される。
【0021】
通常、各ペール缶31,32内のゲル剤A,Bには微細なエアが混在しているため、これらを大気圧に対する差圧の大きい真空圧で吸引すると、前記微細なエアが集合し気泡となって各吸引管36を流動したり、各ゲル剤A,Bが各吸引管36から各材料タンク3,4内に流入するときに巻き込んだエアが気泡となってタンク内を浮遊することがある。
【0022】
これに対し、上記した条件下で吸引機構19を作動させて各ゲル剤A,Bを各材料タンク3,4内に同条件で吸引すると、各材料タンク3,4の大気圧に対する差圧が小さいことから、各ゲル剤A,Bに対する吸引力も弱く、気泡やゲル剤A,Bが浮遊して吸引機構19内に吸い込まれることがない。すなわち、各吸引管36から吸引した各ゲル剤A,Bが吸引機構19に吸い込まれることがなく、各ゲル剤A,Bを漏れなく各材料タンク3,4内に補給できる。また、各ゲル剤A,Bが各吸引管36から各材料タンク3,4内へ滴下する際に、各ゲル剤A,B内の気泡が破裂するため、適度な脱泡作用も期待できる。
【0023】
以上から、粘度が温度25℃下で150mPa・s〜750mPa・sの範囲内にあるゲル剤A,Bに対し、各材料タンク3,4内への吸引力が−10Pa〜−60Paの範囲内にあれば、真空ポンプ9が各ゲル剤A,Bの気泡を吸い込まないことがわかる。
また、上記の条件下において、各吸引管36は、全長が2m〜24m、内径が10mm〜49mmの範囲内にあれば、上述の各作用を得られることが実験的に求められた(図3の範囲G参照)。
【0024】
以上の条件下で各ゲル剤A,Bを各材料タンク3,4内に所定量補給した後、各吸引管36を不図示のバルブによって封止し、次いで各材料タンク3,4内の攪拌羽23,24を回転させて補給した各ゲル剤A,Bを攪拌すると共に、これと同時に真空ポンプ9を作動させて各材料タンク3,4内を約100Pa程まで減圧すると、各ゲル剤A,B内のエアが上方へ浮動し、もって各ゲル剤A,Bの脱泡処理がなされる。
【0025】
各ゲル剤A,Bの脱泡処理の完了後、各材料タンク3,4内に負活性ガスである窒素を充填・加圧し、その後に各プランジャポンプ5,6により各ゲル剤A,Bを一定量ずつミキサー7へと供給する。各プランジャポンプ5,6は例えば一体的に駆動する。ミキサー7において、各ゲル剤A,Bは例えば一対一の割合で混合され、この混合ゲル剤が吐出弁8aまで圧送されて、真空チャンバ8内の真空下でパワーモジュールMに吐出、注入される。
【0026】
上述のゲル注入工程において、前記混合ゲル剤を注入した後のパワーモジュールMは、不図示の加熱炉内に搬送され(ゲル硬化工程)、もって当該パワーモジュールMに前記シリコーンゲルが形成される。
【0027】
ゲル吸引治具33は、各ストレート管36aの各ペール缶31,32に対する挿入量を規定して保持することで、各ストレート管36aの下端高さに応じた分だけ各ペール缶31,32内のゲル剤A,Bを吸引可能とする。そして、各ペール缶31,32内のゲル剤A,Bが減少し、各ストレート管36aの下端開口(吸引口)がゲル剤A,B上方に露出すると、吸引負荷の減少によりタンク内圧が変化し、このタンク内圧が常圧になったことを圧力センサー28bが検出した時点で、真空ポンプ9が作動を停止して各ゲル剤A,Bの補給作業を終了させる。すなわち、各ゲル剤A,Bの補給量は、各ストレート管36aのペール缶31,32への挿通量により調整可能である。
【0028】
上記構成によれば、各ペール缶31,32内のゲル剤A,Bを弱い吸引力で吸引して各材料タンク3,4内に補給することで、各ゲル剤A,B内に混在するエアを各材料タンク3,4内に補給する過程である程度脱泡できるため、各ペール缶31,32を長時間放置して自然状態で脱泡処理する等の時間を不要にでき、かつ各材料タンク3,4内での正規の脱泡作業時間を短縮できる。すなわち、各ゲル剤A,Bの脱泡作業を効率よく行うことができる。
【0029】
また、各ペール缶31,32に各吸引管36をそれぞれ一定量ずつ挿入して各ゲル剤A,Bの吸引・補給を行うことで、各材料タンク3,4内での脱泡処理に負荷をかけず常に安定した脱泡作業を行うことができる。
【0030】
さらに、各ペール缶31,32からの各ゲル剤A,Bの吸引圧を、真空ポンプ9に気泡が吸引されない範囲内で設定すると共に、各ゲル剤A,Bの吸引と同時にその脱泡処理も行うため、吸引機構19における各材料タンク3,4内での脱泡作業に係る負荷を軽減することができる。
【0031】
ここで、一般的なシリコーンゲルポッティング装置は、ゲル剤の脱泡のために吸引機構を設置しているため、本実施形態の構成はゲル吸引治具33の追加のみの投資で具現化できる。
【0032】
すなわち、各ペール缶31,32から各ゲル剤A,Bを吸引して各材料タンク3,4内に補給する作業を、既存の吸引機構19を利用して行うことができるため、装置全体の構成が簡素化されると共に、投資負荷の軽減を図ることができる。
【0033】
なお、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0034】
1 ゲル注入装置
3,4 材料タンク
19 吸引機構
28b 圧力センサー
31,32 ペール缶(補給容器)
34 蓋体
36 吸引管
A,B ゲル剤(粘性材料)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
補給容器内の粘性材料をゲル注入装置の材料タンク内へ補給するための粘性材料の補給方法であって、
前記補給容器の上部開口に取り付け自在な蓋体と、この蓋体に挿通保持されて一端を前記補給容器内の粘性材料に到達させると共に他端を前記材料タンクに連結する吸引管と、前記材料タンク内を減圧可能な吸引機構と、を備え、
前記吸引機構によって、前記補給容器内の粘性材料を前記吸引管を介して吸引して、前記材料タンク内に補給することを特徴とする粘性材料の補給方法。
【請求項2】
前記粘性材料の粘度は150mPa・s〜750mPa・sであり、
前記吸引機構による吸引力は大気圧に対して−10Pa〜−60Paであり、
前記吸引管の内径は10mm〜49mm、全長は2m〜24mであることを特徴とする請求項1に記載の粘性材料の補給方法。
【請求項3】
前記吸引管の下端開口を前記粘性材料に所定深さまで差し込み、
この状態で前記粘性材料を吸引した後、その上方の空間に前記下端開口が露出した際には、前記材料タンクに設けた圧力センサーがタンク内圧の変化を検出することで、前記吸引機構の吸引作動を停止させることを特徴とする請求項1又は2に記載の粘性材料の補給方法。
【請求項4】
前記粘性材料はシリコーンゲルを形成することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の粘性材料の補給方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−158350(P2012−158350A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18264(P2011−18264)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】