説明

粘着シート及び粘着シート巻取体

【課題】高い平滑性と保管安定性、及び加工性に優れた粘着シート及び粘着シート巻取体を提供する。
【解決手段】粘着シート1は、剥離処理した剥離処理面2aを備えた剥離フィルム2と、該剥離処理面2aに形成した粘着層3とを少なくとも備え、以下の(1)及び(2)の物性を備える。(1)剥離フィルムの剥離処理面2aの表面粗さ(Ra)が100nm以下(2)剥離フィルムの剥離処理面2aの粘着層3からの180°剥離強度が、剥離速度5mm/分及び500mm/分において、10.0gf/25mm幅以上50.0gf/25mm幅以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクの保護膜などを積層するのに用いる粘着シート、及びその粘着シートを巻き取りしてなる粘着シート巻取体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイやブルーレイディスクなどの光ディスク保護膜用途等の粘着シートは、光学的に高い平滑性が求められ、被着体となる光学部材の特性に影響を与えないように光学的な欠陥の極めて少ないものが求められている。
粘着シートを上記のような用途に用いる際、一般的に、工程用の剥離フィルムを介して巻取体とした粘着シートを所望の形状に裁断、被着体に貼合して使用する。
【0003】
この際、巻取保管時に発生する巻圧やカール等の歪み、裁断等取回し時の衝撃、さらには工程用剥離フィルムの粘着層からの剥離といった、粘着層と工程用剥離フィルムとの間に応力がかかることにより、粘着層が変形し、被着体となる光学部材の性能を損ねるといった不具合が生じていた。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、剥離力の軽い剥離シート、粘着剤層、剥離力の重い剥離シートを順次積層してなる基材レス両面粘着シートが開示されており、これは、両剥離シートの剥離力に差を設け、かつ、所定の剥離力としたことにより、軽剥離シートを剥がすときに粘着剤層が追従してめくり上がるなどの問題を抑制できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−041736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載のように、粘着剤層のめくり上がりの問題を抑制することが提案されているが、このような基材レス両面粘着シートであっても、粘着剤層の高い平滑性や、巻取保管時の保管安定性、及び加工性の点からは必ずしも満足できるものではなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高い平滑性と保管安定性、及び加工性に優れた粘着シートを提供し、さらには、その粘着シートを巻き回した粘着シート巻取体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、これらの課題を解決するために鋭意検討した結果、粘着シートを構成する剥離フィルムについて、剥離フィルムの剥離強度の速度依存性を所定の範囲に収め、且つ該剥離フィルムの剥離処理面の表面粗さ(Ra)を所定の範囲に収めることで、高い平滑性と保管安定性、及び優れた加工性を有する粘着シートを得られることを見出した。
また、粘着シートに用いられる剥離フィルムの長尺方向の両端部に保護部を設け、該粘着層にかかる巻圧を緩和させることにより、高い平滑性と保管安定性、及び加工性により優れた粘着シートを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、剥離処理した剥離処理面を備えた剥離フィルムと、該剥離処理面上に形成した粘着層とを少なくとも備えた粘着シートであって、以下の(1)及び(2)の物性を備えた粘着シート。
(1)剥離フィルムの剥離処理面の表面粗さ(Ra)が100nm以下。
(2)剥離フィルムの剥離処理面の粘着層からの180°剥離強度が、剥離速度5mm/分及び500mm/分において、10.0gf/25mm幅以上50.0gf/25mm幅以下。
【0010】
本発明の粘着シートは、高い平滑性と保管安定性、及び加工性に優れるという利点があるため、ディスプレイやブルーレイディスクなどの光ディスク保護膜用途等、粘着シートに対して光学的に高い平滑性が求められる用途に好適に用いることができる。
また、巻取体としても、巻圧等により歪みなどが発生しにくいものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の粘着シートを模式的に表した断面図である。
【図2】本発明の一例(改良1〜3)及び従来品の一例の粘着シートの剥離速度と剥離強度の関係を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態の粘着シートに対し保護部を設けた一例を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態の粘着シート1は、図1に示すように、剥離処理した剥離処理面2aを備えた剥離フィルム2と、該剥離処理面2a上に形成した粘着層3とを少なくとも備え、以下の(1)及び(2)の物性を備えたことを特徴とする。
(1)剥離フィルム2の剥離処理面2aの表面粗さ(Ra)が100nm以下
(2)剥離フィルム2の剥離処理面2aの粘着層3からの180°剥離強度が、剥離速度5mm/分及び500mm/分において、10.0gf/25mm幅以上50.0gf/25mm幅以下
【0013】
上記粘着シート1は、剥離フィルム2の剥離処理面2aの表面粗さ(Ra)及び剥離強度の速度依存性を所定の範囲に収めることによって、高い平滑性と保管安定性、及び優れた加工性を両立させることが可能となる。
【0014】
(表面粗さ(Ra))
剥離フィルム2は、剥離処理面2aの表面粗さ(Ra)を、100nm以下、好ましくは70nm以下、特に好ましくは50nm以下にし、かつ、好ましくは25μm以上、特に好ましくは50μm以上にする。表面粗さ(Ra)が100nmを超える剥離フィルムを用いると、粘着層表面に剥離フィルムの非平滑面が転写されることにより粘着層の平滑性が損なわれ好ましくない。
【0015】
剥離フィルム2の表面粗さ(Ra)は、例えば、剥離処理面2aに塗布されるシリコーン化合物等の離型剤の成分を適宜調整することにより行うことができる。
離型剤は、他にアルキド樹脂組成物等、離型性を付与できるものであれば限定せず用いることができ、これらを剥離フィルム2の少なくとも一面に塗布して剥離処理面2aを形成することができる。塗工方式としては、グラビアコーティング、ロールコーティング、ロッドコーティング、ナイフコーティング、ブレードコーティング、スクリーンコーティング、ダイコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング等既知の方式を特に制限なく用いる事ができる。
表面粗さ(Ra)は、表面粗さ測定器(小阪研究所製サーフコーダET4000AK)を用いて測定するとともに、二次元表面粗さ形状解析ソフトI−STARを用いて解析を行い、JIS B 0601−1994に準じて値を求めた。
【0016】
(剥離フィルム2の材質)
剥離フィルム2の材質としては、いかなる材質のものも使用でき、ポリエステル系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系のキャストフィルムや延伸フィルムにシリコーン離型処理したものや、離型紙から選択でき、特に制限されるものではない。
剥離フィルム2の厚みとしては、10μm〜250μm、特に38μm〜100μmとすることが好ましい。
【0017】
(剥離強度)
粘着シート1は、剥離フィルム2の剥離処理面2aの粘着層3からの180°剥離強度を、剥離速度5mm/分及び500mm/分において、10.0gf/25mm幅以上及び50.0gf/25mm幅以下(特に好ましくは30.0gf/25mm幅以下)にするものである。
剥離強度が前記剥離速度域において10.0gf/25mm幅未満では、裁断、打抜等の2次加工工程において、粘着層と剥離フィルム界面が浮きやすく、また粘着シートにカール等曲げ歪みがかかった際に微小剥離が徐々に起こり、剥離に起因した粘着層の変形が発生して粘着層の平滑性が損なわれ好ましくない。
また、剥離強度が上記剥離速度域において50.0g/25mm幅より大きいと、剥離強度が強すぎて粘着層から剥離フィルムを剥離する際にひっかかりが起こりやすく、さらには剥離した剥離フィルム側に粘着層が一部とられる、いわゆる泣き別れ現象等が発生し、粘着シートの外観が損なわれるため好ましくない。
【0018】
図2は、本発明(改良1〜3)の一例及び従来品の一例の粘着シートの剥離速度と剥離強度(剥離力)との依存性を示した図である。
改良1は、剥離フィルムとして(ニッパ製PET75−A3)を用い、粘着層としてアクリル酸ブチル80質量部、メタクリル酸メチル18質量部及びアクリル酸2質量部の共重合体からなる粘着組成物を用いた(下記に示す実施例1に相当)。改良2は、離型PETにニッパ製PET75−HSPX)(下記に示す実施例2に相当)、改良3は、(パナック製NP−75A)(下記に示す実施例3に相当)、従来品は(三菱樹脂製MRF75)(下記に示す比較例1に相当)を用いた。
図2に示すように、一般的に、剥離フィルムは、剥離速度が大きくなると剥離強度は重くなる。つまり、従来の粘着シートにおいては、設定された剥離強度は、剥離速度を大きくした場合には、より重い側になってしまう。
しかしながら、本発明者らは、図2に示すように、剥離速度の強弱に対して、剥離強度ができるだけ依存されにくい設計とすることによって、高い平滑性と保管安定性、及び優れた加工性を実現できることを見出した。
【0019】
なお、ここでいう剥離強度とは、粘着シートを、MD方向を長手にとった幅25mmの短冊状の試験片とした上で、該粘着シートの剥離フィルムを有する面とは反対側の面を両面テープ(日東電工No.5000)にてソーダライムガラス板に固定し、剥離フィルムを180°の角度で引き剥がしたときにかかる応力を示す。
【0020】
(剥離強度の調整)
粘着層3と剥離フィルム2との剥離強度は、一般的に、剥離界面となる粘着層及び剥離フィルムの変形応力と、剥離時にかかる圧着応力に分類される。
【0021】
変形応力は、剥離力の速度依存性へ主に影響を与える因子であり、剥がす速度が遅い場合は粘着層のずり変形の影響が大きく、高速になる程引っ張りの影響が大きくなる。引っ張り応力によって粘着層が引き伸ばされて変形が起こると、かかる力の一部が吸収される為、剥離にかかる力が大きくなり、この為高速で剥離する程剥離強度が大きくなる。
従って、(感圧接着剤としての十分なタックや、所望の被着体に対する接着性能が維持される範囲において)粘着層の架橋度及び高凝集成分添加量を調整し、見かけ上粘着層を硬く、変形しにくくすることにより、剥離強度の速度依存性は小さくなる傾向となる。
粘着層の変形のしやすさに対して剥離フィルム側は一般的に十分硬い為影響は小さいものの、剥離フィルムの離型層にも同様の傾向が見られる。
【0022】
また、圧着応力は任意の剥離速度において剥離強度に影響を与える因子であり、粘着層から剥離フィルムを引き剥がす際、剥離フィルムは折り曲がる為、粘着層と剥離フィルムとが完全に分離する点において、この原理により圧着応力が発生する。これは剥離角度(剥がし方)の影響もあるものの、工程用剥離フィルムの厚みやコシによっても調整可能であり、すなわち剥離フィルムを薄く、軟質にする程小さくなる傾向となる。
【0023】
さらに、剥離フィルムの組成も当然剥離強度に大きく影響を与える。一般的に言われる剥離フィルムの軽剥離〜重剥離は主に離型層中の離型剤の構造及び添加量による所が大きいが、前述したように剥離速度依存性を小さくする為には、十分な剥離性をもつだけの離型剤の配合量を維持した範囲において、架橋剤や高硬度成分の添加量を増やして硬くし、変形しにくくすることが好ましい。
【0024】
(粘着層3の組成)
粘着層3を構成する主剤としては、アクリル系、シリコーン系、ポリウレタン系、スチレン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、エポキシ系などのポリマーを挙げることができ、その性状(形態)は、液状体、高粘性体、エラストマー状体などの各種性状のものを用いればよい。このようなベースポリマー(主剤)を適宜選択し、粘着層3を形成することができる。
【0025】
(ベースポリマー)
上記主剤の中でも、アクリル系、特に(メタ)アクリル酸エステル重合体(共重合体を含む)をベースポリマー(主剤)として用い、これを架橋して粘着層3を形成するのが好ましい。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステル重合体を合成するために用いられるアクリルモノマーやメタクリルモノマーとしては、例えば2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリート、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート等が挙げられる。これら主モノマーに、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、イタコン酸、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メチロールアクリルアミド、無水マレイン酸等の架橋性モノマーや、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、アクリルアミド、アクリルニトリル、メタクリルニトリル、酢酸ビニル、スチレン、フッ素アクリレート、シリコーンアクリレートなどの高凝集モノマーや官能基含有モノマーを適宜添加することができる。
【0027】
これらのモノマーを用いた重合処理としては、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合などの公知の重合方法が採用可能であり、その際に重合方法に応じて熱重合開始剤や光重合開始剤などの重合開始剤を用いることによりアクリル酸エステル共重合体を得ることができる。
【0028】
(架橋剤)
架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤等を挙げることができ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
イソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、クロルフェニレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添されたジフェニルメタンジイソシアネートなどのイソシアネートモノマー及びこれらイソシアネートモノマーをトリメチロールプロパンなどと付加したイソシアネート化合物やイソシアヌレート化物、ビュレット型化合物、さらには公知のポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールなど付加反応させたウレタンプレポリマー型のイソシアネートなどを挙げることができる。
【0029】
エポキシ系架橋剤としては、エチレングリコールグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリジル−m−キシリレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラグリジルアミノフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート、m−N,N−ジグリシジルアミノフェニルグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N−ジグリシジルアニリンなどを挙げることができる。アジリジン系架橋剤の例としては、ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカーボキサミド)、トリメチロールプロパントリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタントリ−β−アジリジニルプロピオネート、トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカーボキサミド)、トリエチレンメラミン、ビスイソフタロイル−1−(2−メチルアジリジン)、トリス−1−(2−メチルアジリジン)フォスフィン、トリメチロールプロパントリ−β−(2メチルアジリジン)プロピオネートなどを挙げることができる。
【0030】
これら架橋剤の含有量は、引張貯蔵弾性率が下記に示した範囲内に入るよう適宜調整すればよいが、ベースポリマーの架橋性基導入量に対して、0.5〜2等量の範囲であることが好ましい。
架橋剤が0.5等量以上であれば、粘着層の凝集力が不十分となったり、変形が起こり易く保管安定性に劣ったりすることがなく、裁断等2次加工時に時端面に粘着層のはみ出しが起こりにくく好ましい。また2.0等量以内であれば、粘着剤が硬くなりすぎて接着力が低下したり、応力緩和性が損なわれて積層シートにカールが発生したり、相溶性の低下による白化等の不具合が起こったりするなどの問題がなく好ましい。
【0031】
(架橋モノマー)
上記架橋剤の代わりに架橋モノマーを使用することもでき、架橋モノマーとしては、アクリル系架橋モノマーを用いるのが好ましく、中でも、単官能(メタ)アクリレートよりは、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、4官能(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート、若しくは、単官能〜4官能(メタ)アクリレートの2種以上が混合してなる混合物が好ましい。
【0032】
単官能(メタ)アクリレートとしては、アクリル酸、メタタクリル酸及びクロトン酸等の(メタ)アクリル酸類、ラウリルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプオピルアクリレート、テトラヒドロフルフリールアクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノアクリレートおよびジシクロペンタンジエンアクリレート等を挙げることができる。
【0033】
2官能(メタ)アクリレートとしては、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール400ジアクリレートおよびトリプロピレングリコールジアクリレート等を挙げることができる。
【0034】
3官能(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート等のトリアクリレートや、それらのトリメタクリレートなどを挙げることができる。
【0035】
4官能(メタ)アクリレートとしては、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等を挙げることができる。
【0036】
なお、架橋モノマーは、以上例示した(メタ)アクリレートに限定されるものではなく、例えば有機官能基を含有した(メタ)アクリレートモノマー等も好適に用いることが可能である。
【0037】
架橋モノマーの含有量は、下記引張貯蔵弾性率を所定範囲内に入るように調整すればよいが、ベースポリマー100質量部に対して、0.5〜25質量部の範囲で、ベースポリマーの分子量が低ければ多く、高ければ少なくなるように適宜調整すれば良い。
【0038】
(架橋開始剤)
上記架橋モノマーを使用した場合において、各種架橋開始剤として、光開始剤あるいは熱重合開始剤を用いることが可能であり、特に光開始剤が好ましい。光開始剤としては、開裂型の光開始剤及び水素引抜型の光開始剤のいずれを用いることもでき、中でも水素引抜型光開始剤が好ましい。水素引抜型光開始剤としては、例えばベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ジベンゾスベロン、2−エチルアントラキノン、イソブチルチオキサンソンやなどのいずれかもしくはその誘導体、或いはこれらの二種類以上の組み合わせからなる混合成分を用いることができる。但し、水素引抜型の光開始剤として前記に挙げた物質に限定するものではない。また、水素引抜型と開裂型とを種々の割合で併用してもよい。
【0039】
光開始剤の添加量は、特に制限されるものではなく、一般的にはベースポリマー100質量部に対し0.1〜5質量部の割合の範囲内で調整するのがよい。但し、他の要素とのバランスでこの範囲を超えてもよい。
【0040】
(他の添加剤)
上記成分のほか、必要に応じて、近赤外線吸収特性を有する顔料や染料などの色素、粘着付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、吸湿剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、天然物や合成物の樹脂類、ガラス繊維やガラスビーズなどの各種の添加剤を適宜配合することもできる。
【0041】
(粘着層3の物性)
粘着層3の物性は、必ずしも制限されるものではないが、上述した粘着層3を構成する主剤と架橋剤を適宜選択し、これらを含有する粘着剤組成物を周波数1Hzにおける引張貯蔵弾性率の温度分散挙動を測定した時に、25℃〜100℃の温度範囲におけるいずれにおいても50000Pa以上、好ましくは100000Pa以上、及び100万Pa以下、好ましくは700000Pa以下となるように架橋度を調整することが好ましい。このような引張貯蔵弾性率を備えるように設計することで、高温下等での環境変化にさらされた場合に粘着剤3の変形が起こりにくく、また保管や取回し時に押痕等変形が発生した場合、変形が回復されやすいという性質を付与させることができ、加えて、剥離フィルムの剥離処理面の粘着層からの剥離強度を所定の範囲内に効果的に調整することが可能となる。
引張貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定器(アイティー計測制御社製、DVA225)を用いて、4mm幅×40mm長さ(チャック間距離)の試料片を用いて、引っ張り式により、測定周波数1Hz、測定温度0℃〜125℃にて求めた。
【0042】
(積層構成)
本発明の粘着シートは、剥離フィルムと粘着層以外にも、その他の層を備えることができる。例えば、剥離フィルム上に粘着層を介して基材フィルムを積層させたり、さらにこの基材フィルム上に剥離フィルム等を積層させたりすることもできる。この際の基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリイミド、(ウレタンアクリレートを主成分とする)UV硬化樹脂組成物や熱硬化性樹脂組成物など硬化性樹脂の硬化物からなる樹脂フィルム又はこれらの積層体を挙げることができる。なお、前記基材フィルムには、さらにハードコート層を積層させたりすることもできる。
【0043】
(製造方法)
本発明の粘着シートの製造法としては、例えば、重合方法に応じて熱重合開始剤や光重合開始剤などの重合開始剤を用いて、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合などの重合方法により、各種(メタ)アクリル酸エステル重合体を得て、該重合体を架橋・製膜することで製造する方法を挙げることができる。これらの中でも溶液重合により、各種(メタ)アクリル酸エステル共重合体を得て、該重合体を含有する上記粘着剤組成物を、剥離フィルム上に目的の厚さになるように製膜し、溶剤を乾燥させて架橋することで製造する方法が好ましい。
【0044】
(保護部)
本発明の粘着シートは、さらに、剥離フィルムの表面又は裏面の幅方向両端部側に保護部を形成することが好ましい。
例えば、図3に示すように、保護部8とは、剥離フィルム5、粘着層6、樹脂フィルム7を順に積層した粘着シート4とした場合、粘着層及び樹脂フィルムの厚みよりも高く形成するものであり、保護部を形成することにより、粘着層にかかる巻圧を緩和させることができ、痕や傷などが付くのを効果的に防止でき、高い平滑性と保管安定性を付与させることができ、巻取体として用いることも可能となる。
【0045】
保護部は、他の樹脂フィルムを積層したり、剥離フィルムを折り返したり、ハーフカットしたりなどして形成することができる。
また、賦型加工により保護部を形成することもでき、経済的に有利であり、かつ別材料を使用することもないので、再利用の観点から極めて有利となる。
【0046】
賦型加工する方法としては、プレス装置や超音波溶着装置などで賦型加工する方法を挙げることができる。中でも、超音波溶着装置を用いるのが好ましく、これにより、剥離フィルム上に適宜高さの賦型(凹凸の連続する凹凸構造)を容易に施すことができる。なお、超音波溶着装置とは、剥離フィルムに超音波を発して溶融させ、ローラーにより賦型加工できるものであり、別名超音波ミシンとも呼ばれているものである。適宜ローラーを選択することにより、様々な形状の賦型加工することができる。具体的には、株式会社プロコ製PUS−2150などがある。
【0047】
保護部の高さは、適宜調整することができるが、上述した超音波溶着装置によれば、剥離フィルムの表面から100μm〜200μm、特に120μm〜150μmの高さに形成することが可能となる。また、保護部の幅は、8mm〜4mm、特に約6mmとするのが好ましい。
【0048】
(粘着シート巻取体)
本発明の粘着シートは、巻芯などに巻き回して粘着シート巻取体とすることができる。
粘着シート巻取体としては、上述した粘着シートを環状体に巻き取ってなるものであれば、特に制限されるものではない。このようにすることにより、粘着シートが環状体に連続して巻き取られるため、シート状の積層体に比較して製造装置の小型化が可能になるとともに、保管スペースも小さくできる。
【0049】
(用途)
本発明の粘着シートは、ディスプレイや光ディスクなどの光学部材等に保護膜などを貼付するのに好適に用いることができ、特に、高い平滑性の求められるブルーレイディスクにおいて、保護膜を積層するために用いるのが好適である。
【0050】
(用語の説明)
一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格JISK6900)。例えば、厚さに関して言えば、狭義では100μm未満のものをフィルムと称することがある。しかし、シートとフィルムの境界は定かではなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0051】
本発明では、「モノマー」と記載した場合でも「オリゴマー」を包含するものとする。「オリゴマー」とは、JIS−K6900による定義では「1種又はそれ以上の種類の原子または原子団(構成単位)の少数が互いに繰り返し連結されたものを含む分子からなる物質」とされ、また、高分子大辞典によれば「この定義は、必ずしも絶対的な重合度や分子量でポリマーとオリゴマーを区別するものではない」とされている。一般的にモノマーとオリゴマーの区別は不明確であり、分子中に構成単位の繰り返しがあってもモノマーと呼称する場合もあるから、本発明では、モノマーとオリゴマーとは区別せず、モノマーにオリゴマーを包含するものとする。
【0052】
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものとする。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り、「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り、「好ましくはYより小さい」の意を包含するものとする。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
アクリル酸ブチル80質量部、メタクリル酸メチル18質量部及びアクリル酸2質量部の共重合体に、酢酸エチルを固形分30%となるよう加え粘着主剤溶液を調整した。前記粘着主剤溶液1kgに対しに架橋剤としてエポキシ樹脂化合物(綜研化学社製E−AX)を3.1g加え粘着層溶液とした。続いて基材フィルムとしてのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡コスモシャインA4300 厚み75μm)に前記粘着層溶液を、塗工幅150mm乾燥後の厚みが25μmとなるよう塗布、乾燥させた後、粘着層上に、シリコーンを塗布して剥離処理したポリエチレンテレフタレートからなる剥離フィルム(ニッパ製PET75−A3:厚み75μm、Ra47nm)の剥離処理面を積層して粘着シートを形成し、この積層体を直径6インチのプラスチック製巻芯に巻取り、粘着シート巻取体を作成した。
粘着層と剥離フィルムとの剥離強度は剥離速度5mm/分において13.0gf/25mm幅、500mm/分において22.0gf/25mm幅であった。
また、架橋後の粘着層の25℃、50℃、75℃、100℃における引張貯蔵弾性率はそれぞれ、51万Pa、30万Pa、21万Pa、16万Paであった。
【0055】
(実施例2)
剥離フィルムを、シリコーンを塗布して剥離処理したポリエチレンテレフタレートからなる剥離フィルム(ニッパ製PET50−HSPX:厚み50μm、Ra42nm)に変更した以外は実施例1と同様に粘着シート巻取体を作成した。
粘着層と剥離フィルムとの剥離強度は剥離速度5mm/分において10.8gf/25mm幅、500mm/分において20.5gf/25mm幅であった。
【0056】
(実施例3)
剥離フィルムを、シリコーンを塗布して剥離処理したポリエチレンテレフタレートからなる剥離フィルム(パナック製NP−A:厚み75μm、Ra52nm)に変更した以外は実施例1と同様に粘着シート巻取体を作成した。
粘着層と剥離フィルムとの剥離強度は剥離速度5mm/分において11.5gf/25mm幅、500mm/分において21.0gf/25mm幅であった。
【0057】
(実施例4)
架橋剤をポリイソシアネート化合物(旭化成 デュラネートTPA−100)0.1gに変更し、剥離フィルムを、シリコーンを塗布して剥離処理したポリエチレンテレフタレートからなる剥離フィルム(三菱樹脂製ダイヤホイルMRF−100:厚み100μm、Ra45nm)にした以外は実施例1と同様に粘着シート巻取体を作成した。
粘着層と剥離フィルムとの剥離強度は剥離速度5mm/分において10.0gf/25mm幅、500mm/分において22.8gf/25mm幅であった。
また、架橋後の粘着層の25℃、50℃、75℃、100℃における引張貯蔵弾性率はそれぞれ、54万Pa、29万Pa、16万Pa、11万Paであった。
【0058】
(比較例1)
剥離フィルムを、シリコーンを塗布して剥離処理したポリエチレンテレフタレートからなる剥離フィルム(三菱樹脂製ダイヤホイルMRF−75:厚み75μm、Ra44nm)に変更した以外は実施例1と同様にして粘着シート巻取体を作成した。
粘着層と剥離フィルムとの剥離強度は剥離速度5mm/分において9.20gf/25mm幅、500mm/分において27.3gf/25mm幅であった。
【0059】
(比較例2)
実施例4で用いた粘着剤組成物を用い、剥離フィルムを、シリコーンを塗布して剥離処理したポリエチレンテレフタレートからなる剥離フィルム(ニッパ製PET38−A3:厚み38μm、Ra57nm)にした以外は実施例1と同様にして粘着シート巻取体を作成した。
粘着層と剥離フィルムとの剥離強度は剥離速度5mm/分において8.40gf/25mm幅、500mm/分において15.3gf/25mm幅であった。
【0060】
(比較例3)
剥離フィルムを、シリコーンを塗布して剥離処理したポリエチレンテレフタレートからなる剥離フィルム(ニッパ製PET75−V0:厚み75μ、Ra45nm))にした以外は実施例1と同様にして粘着シート巻取体を作成した。
粘着層と剥離フィルムとの剥離強度は剥離速度5mm/分において20.0gf/25mm幅、500mm/分において70.0gf/25mm幅であった。
【0061】
(比較例4)
汎用PET(ダイヤホイルS−100−50、厚み50μm)に付加反応型のシリコーン樹脂(信越化学工業(株)製;KS−778)を塗布、乾燥させたもの(表面粗さRa:120nm)を剥離フィルムに用いた以外は実施例1と同様に粘着シート巻取体を作成した。
粘着層と剥離フィルムとの剥離強度は剥離速度5mm/分において12.0gf/25mm幅、500mm/分において30.0gf/25mm幅であった。
【0062】
[評価]
(保管安定性)
実施例及び比較例で得られた粘着シート巻取体について、フジノン製レーザー干渉計F601を用いて単波長レーザー(波長632.8nm)を、該粘着シートに透過させて干渉縞を観察し、該粘着シートの作成直後と、巻取体の状態で23℃60%湿度条件下1週間養生後との面状態変化の有無を確認し、変化が見られなかったものを○、柚子肌状の面状態悪化がみられたものを×、と判定した。
【0063】
(加工性)
・打抜安定性
実施例及び比較例で作成した粘着シート巻取体を、連続打抜き装置(富士商工マシナリー株式会社製:UDP−3000)を用いて、剥離フィルムを貫通しないように、基材及び粘着層のみを100mm×100mm□にカットし、同装置により100mm×100mm□の部分の製品部として残し、残りの不要部を剥離・除去した。
次に、不要部を除去した剥離フィルム上に、図3に示す如く、工具ホーン回転式超音波溶着装置(別名:超音波ミシン、株式会社プロコ製:PUS−2150)にて、連続して送りながら専用加工ローラーにより、一定間隔をおいて幅方向両端部に連続凹凸賦型を行い、賦型加工したシートを直径6インチのプラスチック製巻芯に巻取り、ロール巻取体とした。
上記ロール巻取体を1週間保管の後、製品部の外観を観察し、製品部端部に剥離フィルムと粘着層との剥離痕による欠陥が観察されたものを×、剥離が発生しないものを○と判定した。
【0064】
・剥離加工性
該ロール巻取体の製品部を剥離フィルムから剥離速度2m/分にて剥離し、剥離後の製品部の外観を確認し、面状態に変化のないものを○、剥離痕が残ったものを×と判定した。
【0065】
【表1】

【0066】
(結果)
実施例は、いずれの評価でも結果は良好であった。比較例は、保管安定性、打抜安定性、剥離加工性のいずれかにおいて不適な結果となった。
表面粗さ(Ra)が、粗くなると、比較例4に示すように剥離フィルムの非平滑面が転写されることにより粘着層の平滑性が損なわれてくるため、本発明の粘着シートにおいては、剥離処理面の表面粗さ(Ra)が100nm以下の剥離フィルムを用いるのが好ましいと思われる。
剥離強度が、弱いと、比較例1,2に示すように、打抜等の加工工程において、粘着シートと剥離フィルム界面が浮きやすくなるため好ましくない。また、剥離強度が、強いと、比較例3に示すように、剥離強度が強すぎて粘着層から剥離フィルムを剥離する際にひっかかりが起こりやすくなるため好ましくない。
よって、本発明の粘着シートにおいては、剥離強度は、10.0gf/25mm幅以上、50.0g/25mm幅以下が好ましいと思われる。
【符号の説明】
【0067】
1粘着シート 2剥離フィルム 2a剥離処理面 3粘着層 4粘着シート 5剥離フィルム 6粘着層 7樹脂フィルム 8保護部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離処理した剥離処理面を備えた剥離フィルムと、該剥離処理面上に形成した粘着層とを少なくとも備えた粘着シートであって、以下の(1)及び(2)の物性を備えた粘着シート。
(1)剥離フィルムの剥離処理面の表面粗さ(Ra)が100nm以下
(2)剥離フィルムの剥離処理面の粘着層からの180°剥離強度が、剥離速度5mm/分及び500mm/分において、10.0gf/25mm幅以上50.0gf/25mm幅以下
【請求項2】
前記粘着層は、架橋後において、周波数1Hzにおける引張貯蔵弾性率の温度分散挙動を測定した時に、25℃〜100℃の温度範囲におけるいずれにおいても、引張貯蔵弾性率が5万Pa以上100万Pa以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記粘着層は、少なくとも(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含むベースポリマーと、架橋剤とを含有する粘着剤組成物からなる請求項1又は2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記剥離フィルムの表面又は裏面の幅方向両端部側に、保護部を形成した請求項1〜3のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項5】
前記保護部は、超音波溶着装置により形成した請求項4に記載の粘着シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の粘着シートを巻き取りしてなる粘着シート巻取体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−185038(P2010−185038A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31389(P2009−31389)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】