説明

粘着付与剤、医療用貼付剤用粘着付与剤、粘着剤または接着剤組成物、医療用貼付剤用粘着剤、粘着または接着テープおよび医療用貼付剤

【目的】化学物質に過敏に反応するような人々に対し、従来用いられている粘着付与剤よりも、より高い安全性を有する粘着付与剤を提供すること。
【解決手段】デヒドロアビエチン酸の含有量が、40〜85重量%である精製ロジン類(A)およびアルコール類(B)を反応させて得られた、セスキテルペン類を含有しない反応生成物(C)を含有することを特徴とする粘着付与剤;当該粘着付与剤を用いた粘着剤または接着剤組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着付与剤、医療用貼付剤用粘着付与剤、粘着剤または接着剤組成物、医療用貼付剤用粘着剤、粘着または接着テープおよび医療用貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ロジン誘導体は、優れた粘着性能を付与できるから、粘着剤や接着剤用の粘着付与剤として広く用いられている。粘着剤、接着剤はテープ類の他、身体に貼り付ける医療用貼布剤としても用いられることがある。(例えば、特許文献1および2参照)
【0003】
医療用貼布剤は、身体に貼り付けられるために安全性が重視されており、現在のところ、大きな問題は生じていないと考えられる。しかし、近年、アレルギー性疾患を患う人が増えており、今後、現在使用されている粘着剤に対してアレルギーを有する人が出現または増加することも考えられるため、アレルゲンを含有しない粘着付与剤が求められると考えられる。なお、これまでにも皮膚への刺激性を低減する方法が提案されているが(特許文献1および特許文献3〜6参照)、さらなる改良が望まれている。
【0004】
ところで、ロジン誘導体は、ロジン類を加工することにより得られるが、原料となるロジン類は天然物であるため主成分であるアビエチン酸の他、テルペン類等の様々な化合物が含まれている。テルペン類はそのままではアレルゲンではないものの、セスキテルペン類が酸化されて生じるセスキテルペン酸化物の中にはアレルゲンとなるものがあるとの報告がある(非特許文献1など参照)。また、セスキテルペン炭化水素には弱いながら抗原性が認められるとの報告もある(非特許文献2参照)。このような中、医療用貼付剤に使用される粘着付与剤からのアプローチがなされていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−339114号公報
【特許文献2】特開平8−133966号公報
【特許文献3】特開2006−45091号公報
【特許文献4】特開2007−45738号公報
【特許文献5】特開2007−99759号公報
【特許文献6】特開2007−176880号公報
【非特許文献1】香料薬品であるβ−カリオレフィンの空気酸化と皮膚感作性、Maria Skoeldら、Food and Chemical Toxicology (2006), 44(4), 538−545
【非特許文献2】イランイラン油成分の反応性について II、渡辺進ら、日本香粧品科学会誌、Vol.9, No.2, Page.92−100 (1985.08)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、化学物質に過敏に反応するような人々に対し、従来用いられている粘着付与剤よりも、より高い安全性を有する粘着付与剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく、鋭意検討し、アレルゲンの可能性があるセスキテルペンを除去することにより前記課題を解決することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、精製ロジン類とアルコール類を反応させて得られる、デヒドロアビエチン酸の含有量が、40〜85重量%である精製ロジン類およびアルコール類を反応させて得られた、セスキテルペン類を含有しない反応生成物を含有することを特徴とする粘着付与剤;前記粘着付与剤を含有する医療用貼付剤用粘着付与剤;前記粘着付与剤を含有する粘着剤または接着剤組成物;前記医療用貼付剤用粘着付与剤を含有する医療用貼付剤用粘着剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アレルゲンのおそれがあるセスキテルペン類を含有しないロジン類を含有しないため、より安全な粘着付与剤を提供することができる。当該粘略付与剤は、セスキテルペン類を低減したものであり、皮膚に直接接触する医療用貼付剤に用いられる粘着剤用の粘着付与剤として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の粘着付与剤は、デヒドロアビエチン酸の含有量が、40〜85重量%である精製ロジン類(A)(以下、(A)成分という。)およびアルコール類(B)(以下、(B)成分という。)を反応させて得られた、セスキテルペン類を含有しない反応生成物(C)(以下、(C)成分という。)を含有することを特徴とする。なお、本発明で、セスキテルペン類を含有しないとは、ガスクロマトグラフィー質量分析計によって検出されないということを意味する。
【0011】
具体的には、ロジン誘導体をガスクロマトグラフィー質量分析計により分析し、ロンギフォレンを用い絶対検量線法にて、ロンギフォレン換算値として決定する。
【0012】
本発明の(C)成分を得るために用いられる(A)成分とは、未精製のロジン類(a)(以下、(a)成分という)を公知の方法で精製し、セスキテルペン類を除去することにより得られる。
【0013】
(a)成分としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンおよびこれらの、水素化物、不均化物などが挙げられる。一般に、(a)成分には、アビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸等の樹脂酸が含まれている。
【0014】
(a)成分の精製方法としては、蒸留、再結晶、抽出等の操作が挙げられる。工業的には蒸留による精製が好ましい。蒸留は、通常、200〜300℃程度、100〜1500Pa程度の範囲から蒸留時間を考慮して適宜選択される。再結晶は、例えば、(a)成分を良溶媒に溶解し、ついで溶媒を留去して濃厚な溶液となし、この溶液に貧溶媒を添加することにより行なう。良溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、クロロホルムなどの塩素化炭化水素溶媒、低級アルコール、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどの酢酸エステル類等が挙げられ、貧溶媒としてはn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、イソオクタン等が挙げられる。抽出の場合は、アルカリ水を用いて(a)成分をアルカリ水溶液とし、これに含まれる不溶性の不ケン化物を、有機溶媒を用いて抽出したのち、水層を中和することで(A)成分を得ることができる。
【0015】
(A)成分中に含まれるデヒドロアビエチン酸の含有量は、40〜85重量%程度とする必要がある。デヒドロアビエチン酸量を40重量%以上とすることにより、芳香族を有する成分が増加するために各種ポリマーとの相溶性が良好となる。一方、85重量%以下とすることにより、本発明の粘着付与剤の結晶性を抑制でき、その取り扱い性が良好となる。なお、デヒドロアビエチン酸の含有量は55〜70重量%程度とすることが特に好ましい。また、(A)成分中に含まれるアビエチン酸の含有量は0.1重量%程度以下とし、テトラヒドロアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸およびジヒドロアビエチン酸の含有量の合計は90重量%程度以上とすることが、安定性が良好となるため好ましく、98重量%以上とすることが特に好ましい。
【0016】
(A)成分の組成を、前記組成にするためには、例えば、蒸留したロジン類に不均化、水素化等の各操作を単独でまたは組み合わせておこなってもよく、また、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸等を調製し、これらを混合してもよい。なお、テトラヒドロアビエチン酸は、例えば、J. Org. Chem. 31, 4128(1966) 、J. Org. Chem. 34, 1550(1969)に記載の方法で、ジヒドロアビエチン酸は、例えば、特開昭51−149256に記載の方法で、デヒドロアビエチン酸は、例えば、USP3,737,453、J. Org. Chem. 31, 4246−4248 (1966)に記載の方法で得ることができる。
【0017】
本発明に用いられる(B)成分としては、公知のアルコール類を用いることができる。具体的には、例えば、n−オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール等の1価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の4価アルコールなどが挙げられ、これらのうちいずれか一種を単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
【0018】
これらの中では、3価のアルコールを用いることが、得られる(C)成分の軟化点を所望の温度とすることができるため好ましい。なお、(A)成分および(B)成分の使用量は特に限定されないが、通常、(A)成分中のカルボン酸基と(B)成分中のヒドロキシ基のモル比(OH/COOH)を0.8〜2程度とすることが好ましい。
【0019】
(A)成分と(B)成分の反応は、公知のエステル化方法で行なうことができる。具体的には、150〜300℃程度の高温条件において、生成する水を系外に除去しながら行われる。また、エステル化反応中に空気が混入すると得られる(C)成分が着色するおそれがあるため、反応は窒素やヘリウム、アルゴン等の不活性ガス下で行なうことが好ましい。なお、反応に際しては、必ずしもエステル化触媒を必要としないが、反応時間の短縮のために酢酸、パラトルエンスルホン酸等の酸触媒、水酸化カルシウム等のアルカリ金属の水酸化物、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物等を使用することもできる。
【0020】
このようにして得られた(C)成分は(A)成分のカルボキシル基と(B)成分のヒドロキシ基が脱水縮合したエステルからなり、軟化点(環球法)は、50〜120℃程度とすることが好ましい。軟化点を50℃以上とすることで、粘着付与剤の取り扱いが容易になるため好ましい。なお、軟化点を120℃以上とするにはロジン類を、例えば、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸などの不飽和酸で変性等する必要があるが、これらの酸を用いて変性をすると分子量分布が広くなり、粘着剤等にする際に用いるベース樹脂との相溶性が悪化する場合がある。また、得られる(C)成分は、成分(A)のトリエステル体の含有量を70〜95重量%程度とすることが好ましい。トリエステル体の量が70重量%以上とすることで、(C)成分の軟化点を高く維持することができる。また、95重量%を超えるまでエステル化反応を進行させるには長時間必要となるため、工業的に好ましくない。また、(C)成分の色調は、通常、150ハーゼン(JIS K 0071−1)程度以下の無色透明である。
【0021】
本発明の粘着付与剤は、(C)成分からなるものであるが、(C)成分以外に、酸化防止剤など公知の添加剤を含有してもよい。
【0022】
本発明の粘着剤または接着剤は、前述の粘着付与剤を用いて得ることができる。粘着剤または接着剤としては、例えば、アクリル系感圧接着剤組成物、スチレン−共役ジエン系ブロック共重合体粘着剤組成物などが挙げられる。
【0023】
アクリル系感圧接着剤は、ベースポリマーであるアクリル系重合体に粘着付与剤を配合することによって得られる。
【0024】
アクリル系重合体は、特に制限はなく、アクリル系感圧接着剤として使用されている各種公知の単独重合体もしくは共重合体をそのまま使用することができる。アクリル系重合体に使用される単量体としては、各種(メタ)アクリル酸エステル(なお、(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルをいい、以下(メタ)とは同様の意味である)を使用できる。かかる(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等を例示でき、これらを単独もしくは組合せて使用できる。また、得られるアクリル系重合体に極性を付与するために前記(メタ)アクリル酸エステルの一部に代えて(メタ)アクリル酸を少量使用することもできる。さらに、架橋性単量体として(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等も併用しうる。更に所望により、(メタ)アクリル酸エステル重合体の粘着特性を損なわない程度において他の共重合可能な単量体、たとえば酢酸ビニル、スチレン等を併用しうる。
【0025】
これら(メタ)アクリル酸エステルを主成分とするアクリル系重合体のガラス転移温度は特に制限はされないが通常は−90〜0℃程度、好ましくは−80〜−10℃の範囲とするのがよい。ガラス転移温度が0℃よりもあまりにも高い場合にはタックが低下し、−90℃よりもあまりにも低い場合には接着力が低下する傾向がある。また、分子量は特に限定されないが、通常、重量平均分子量が20万〜100万程度であり、30万〜90万程度であることが好ましい。分子量をこの範囲とすることにより、粘・接着性能が良好となる。
【0026】
なお、該アクリル系重合体の製造方法は、各種公知の方法を採用すればよく、例えば、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法等のラジカル重合法を適宜選択できる。ラジカル重合開始剤としては、アゾ系、過酸化物系の各種公知のものを使用でき、反応温度は通常50〜85℃程度、反応時間は1〜8時間程度とされる。また、アクリル系重合体の溶媒としては一般に酢酸エチル、トルエン等の極性溶剤が用いられ、溶液濃度は通常40〜60重量%程度とされる。
【0027】
本発明のアクリル系感圧接着剤組成物の組成比は、アクリル系重合体100重量部に対して、前記粘着付与樹脂1〜40重量部程度、好ましくは5〜30重量部を配合して使用する。粘着付与樹脂の添加量が1重量部に満たない場合には十分な粘着特性を付与することが困難となり、40重量部を超える場合には相溶性の低下のみならず接着剤組成物が固くなり接着力及びタックも低下するため好ましくない。
【0028】
なお、本発明のアクリル系感圧接着剤組成物は、前記アクリル系重合体および粘着付与樹脂に、ポリイソシアネート化合物、ポリアミン化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂等の架橋剤を加えることにより、凝集力、耐熱性を更に向上させることもできる。これら架橋剤のなかでも、特にポリイソシアネート化合物を使用するのが好ましく、その具体例としては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート等の各種公知のものがあげられる。さらに本発明のアクリル系感圧接着剤組成物は必要に応じて充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を適宜使用しうる。また、本発明のアクリル系感圧接着剤組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で各種公知の粘着付与樹脂を併用することもできる。
【0029】
本発明のスチレン−共役ジエン系ブロック共重合体粘着剤組成物は、前記粘着付与剤、スチレン−共役ジエン系ブロック共重合体およびオイルを配合したものである。
【0030】
スチレン−共役ジエン系ブロック共重合体とは、スチレン、メチルスチレン等のスチレン類と、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類を、使用目的に応じて適宜に選択して共重合したブロック共重合体である。通常、スチレン類/共役ジエン類の重量比は、10/90〜50/50程度である。このようなブロック共重合体の好ましい具体例としては、たとえばスチレン類(S)/ブダジエン(B)の重量比が、10/90〜50/50の範囲にあるSBS型ブロック共重合体、スチレン類(S)/イソプレン(I)の重量比が、10/90〜30/70の範囲にあるSIS型ブロック共重合体等があげられる。また、本発明のスチレン−共役ジエン系ブロック共重合体には、前記ブロック共重合体の共役ジエン成分を水素化したものも含まれる。水素化したものの具体例としては、いわゆるSEBS型ブロック共重合体、SEPS型ブロック共重合体などがあげられる。
【0031】
また、オイルとしては、ナフテン系オイル、パラフィン系オイルや、芳香族系オイル等の可塑化オイルがあげられる。凝集力の低下が少ない点からすれば、ナフテン系オイル、パラフィン系オイルが好ましい。具体的には、ナフテン系プロセス油、パラフィン系プロセス油、液状ポリブテン等があげられる。
【0032】
各成分の使用量としては、特に限定されないが、粘着付与剤15〜210重量部程度、スチレン−共役ジエン系ブロック共重合体4〜200重量部程度およびオイル4〜200重量部程度を含有してなるものである。
【0033】
スチレン−共役ジエン系ブロック共重合体が4重量部未満の場合には、保持力が不十分であり、200重量部を超える場合には得られる粘着剤組成物の溶融粘度が高くなりいずれも好ましくない。また、オイルが4重量部未満の場合には、粘着剤組成物の溶融粘度が高くなり、200重量部を超える場合には保持力が不十分になる場合がある。なお、本発明のスチレン−共役ジエン系ブロック共重合体粘着剤組成物には、さらに、必要に応じて、充填剤、酸化防止剤等の添加剤を加えることができる。
【0034】
このようにして得られた粘着剤または接着剤組成物を、各種プラスチックフィルム、紙テープ等の基材上に塗布後、乾燥させることにより、粘着テープを得ることができる。
【0035】
本発明の粘着付与剤は、医療用用途に使用される各種のベースポリマー、例えば、ゴム、アクリルポリマーに好適に相溶し、また色調も150H(ハーゼン)以下で無色〜淡色と優れ、酸化反応性を有するオレフィン性二重結合を実質的に有さない、すなわち安定性と皮膚感作性に優れた粘着付与剤であり、該粘着付与剤は経皮吸収型製剤の各種用途に利用できる。
【0036】
例えば、鎮痛消炎を目的とする貼布剤やプラスターに代表される局所性製剤、毛細血管中に薬物を吸収させ、作用部位に送達させる全身性製剤などがあげられる。具体的には、全身性製剤としては、心臓病用剤、ホルモン補充用剤、喘息用剤、禁煙補助用剤、癌性疼痛用剤、非がん性疼痛製剤などがあげられる。また、局所製剤としては、貼付用局所麻酔剤、経皮鎮痛消炎剤、鎮痛・抗炎症剤、気管支拡張剤などがあげられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例をあげて本発明を更に詳しく説明するが、本発明がこれらに限定されないことはもとよりである。なお、実施例中%は重量%を示す。なお、精製ロジンの樹脂酸組成の同定と定量は下記の方法による。
【0038】
実施例、比較例内に示す樹脂酸の組成と定量は、ガスクロマトグラフィーで実施した。測定は、樹脂酸0.1gをn−ヘキサノール2.0gに溶解し、この溶液0.1gとオンカラムメチル化剤(フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキサイド(PTHA)0.2モルメタノール溶液、ジーエルサイエンス(株))0.4gを均一混合し、1μlをガスクロマトグラフィーに打ち込むことにより、組成分析と定量をおこなった。
ガスクロマトグラフィー:GC−14A、(株)島津製作所製
カラム:Advance−DS、信和化工(株)製
【0039】
実施例、比較例に示すロジン誘導体中のセスキテルペン類の分析は、ガスクロマトグラフィー質量分析計で実施した。ロジン誘導体50mgをテトラヒドロフラン2mlに溶解し、この溶液1μlをガスクロマトグラフィー質量分析計にて分析した。
ガスクロマトグラフィー:アジレント6890(アジレント社製)
質量分析計:アジレント5973(アジレント社製)
カラム:Ultra Alloy−5(Frontier Lab.製)
【0040】
製造例1(デヒドロアビエチン酸の製造)
不均化ロジン(酸価167、軟化点77℃、荒川化学工業(株)製)をアルゴン気流中でメルト後、1.3kPaの減圧下で加熱し、195〜200℃/0.47kPa(0.35mmHg)の留分を得た。この精製不均化ロジンは酸価180、軟化点93℃であった。この精製不均化ロジン200gをエタノール480gに加熱溶解し、これにモノエタノールアミン40gを加えて1時間還流下で反応させた後、水500gを加えた。得られたデヒドロアビエチン酸モノエタノールアミン塩をイソオクタン200mlで2回抽出し、不けん化物およびジヒドロアビエチン酸塩を除いた。一晩放置後、結晶をろ過し、さらにエタノール250gで3回再結晶をおこない、十分デヒドロアビエチン酸の純度を高めてから塩酸でアミン塩を分解しろ過した。この結晶をエーテルに溶解し十分に水洗したのちに完固、再度エタノール中で再結晶した。得られたデヒドロアビエチン酸の酸価は186、融点178℃、ガスクロマトグラフィー純度は96%であった。
【0041】
製造例2(テトラヒドロアビエチン酸の製造)
市販のアビエチン酸300g(関東化学 融点172〜175℃)およびシクロヘキサン500g、触媒としてニッケルけいそう土触媒N−113(日揮化学(株))15gをオートクレーブに仕込み、水素置換後10MPaまで昇圧し250℃で5時間反応させた。反応終了後冷却し水素をブローした後に、ろ過により触媒を除去した。得られたクルードなテトラヒドロアビエチン酸を濃縮し、アセトン中で2回再結晶をおこない減圧下で乾燥した。得られたテトラヒドロアビエチン酸の酸価は194、融点170℃、ガスクロマトグラフィー純度は97%であった。
【0042】
製造例3(ジヒドロアビエチン酸の製造)
オートクレーブに未精製中国産ガムロジン100gとミネラルターペン100g、水素化触媒としてラネーニッケル触媒5gを仕込み、水素置換後10MPaまで昇圧し110℃で5時間反応させた。触媒は窒素雰囲気下でろ過し、半水添ロジンのミネラルターペン溶液を得た。この溶液100gにパラトルエンスルホン酸0.2gを加え、反応温度150℃で2時間異性化させたのち、引き続き減圧蒸留にてミネラルターペン、パラトルエンスルホン酸を留去し、粗結晶化した。この粗結晶をアセトン中で4回再結晶をおこなうことにより、目的のジヒドロアビエチン酸を得た。得られたテトラヒドロアビエチン酸の酸価は194、融点182℃、ガスクロマトグラフィー純度は98%であった。
【0043】
製造例4(溶剤型アクリル系重合体の製造)
撹拌装置、冷却管、2基の滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に酢酸エチル50部、トルエン30部を仕込んだ後、窒素気流下に系内温度が約75℃となるまで昇温した。次いで、あらかじめアクリル酸ブチル48.5部、アクリル酸2−エチルヘキシル48.5部、アクリル酸3部を混合して仕込んだ滴下ロートと、アゾビスイソブチロニトリル0.1部および酢酸エチル10部を仕込んだ滴下ロートから約3時間を要して系内に滴下し、更に5時間同温度に保って重合反応を完結させた。酢酸エチルを追加して固形分を約50%に調整し、アクリル系重合体を含有する組成物を得た。
【0044】
実施例1
製造例1で得たデヒドロアビエチン酸40g、製造例2で得たテトラヒドロアビエチン酸30g、製造例3で得たジヒドロアビエチン酸30gを4つ口フラスコにとり、アルゴンシール下で180℃に昇温し、溶融攪拌下200℃でグリセリン12gを加えた。その後、280℃で12時間反応させた。エステル化により発生した水は分縮器を介して、系外に排出し、エステル化を進行させ、軟化点93℃、酸価4、色調100H(ハーゼン)のロジンエステル樹脂を103g得た。
【0045】
実施例2
実施例1において、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸の使用量を、デヒドロアビエチン酸45g、テトラヒドロアビエチン酸30g、ジヒドロアビエチン酸25gに変えた他は、実施例1と同様にして粘着付与剤を102g得た。結果を表1に示す。
【0046】
実施例3
実施例1において、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸の使用量を、デヒドロアビエチン酸57g、テトラヒドロアビエチン酸25g、ジヒドロアビエチン酸18gに変えた他は、実施例1と同様にして粘着付与剤を101g得た。結果を表1に示す。
【0047】
実施例4
実施例1において、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸の使用量を、デヒドロアビエチン酸61g、テトラヒドロアビエチン酸20g、ジヒドロアビエチン酸19gに変えた他は、実施例1と同様にして粘着付与剤を102g得た。結果を表1に示す。
【0048】
実施例5
実施例1において、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸の使用量を、デヒドロアビエチン酸69g、テトラヒドロアビエチン酸11g、ジヒドロアビエチン酸20gに変えた他は、実施例1と同様にして粘着付与剤を103g得た。結果を表1に示す。
【0049】
実施例6
実施例1において、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸の使用量を、デヒドロアビエチン酸75g、テトラヒドロアビエチン酸13g、ジヒドロアビエチン酸12gに変えた他は、実施例1と同様にして粘着付与剤を103g得た。
【0050】
実施例7
実施例1において、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸の使用量を、デヒドロアビエチン酸79g、テトラヒドロアビエチン酸11g、ジヒドロアビエチン酸10gに変えた他は、実施例1と同様にして粘着付与剤を102g得た。結果を表1に示す。
【0051】
比較例1
実施例1において、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸の使用量を、デヒドロアビエチン酸35g、テトラヒドロアビエチン酸60g、ジヒドロアビエチン酸5gに変えた他は、実施例1と同様にして粘着付与剤を102g得た。
【0052】
比較例2
実施例1において、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸の使用量を、デヒドロアビエチン酸90g、テトラヒドロアビエチン酸10gに変えた他は、実施例1と同様にして粘着付与剤を102g得た。
【0053】
比較例3
不均化ロジン(酸価167、軟化点77℃、荒川化学工業(株)製)を窒素シール下に3.9kPaの減圧下で蒸留し、酸価174、軟化点82℃、色調ガードナー250Hの精製不均化ロジンを得た。精製不均化ロジンとグリセリンを実施例1と同様の方法でエステル化し、軟化点96℃、酸価6、色調250Hの粘着付与剤を103g得た。樹脂酸組成は、得られた粘着付与剤(ロジンエステル)を定法に従って加水分解(n−ヘキサノール中KOHを加えて、2時間還流反応させた後に、塩酸で中性とし、得られた樹脂酸を分析に提供する。)した後に、ガスクロマトグラフィーで決定した。
【0054】
比較例4
比較例3で得られた樹脂を、200℃に溶融し、水蒸気を吹き込み水蒸気蒸留を実施し、軟化点98℃、酸価6、色調300Hの粘着付与剤を得た。樹脂酸組成は、得られた粘着付与剤(ロジンエステル)を定法に従って加水分解(n−ヘキサノール中KOHを加えて、2時間還流反応させた後に、塩酸で中性とし、得られた樹脂酸を分析に提供する。)した後に、ガスクロマトグラフィーで決定した。
【0055】
比較例5
中国製ガムロジン(酸価170、軟化点77℃)を窒素シール下に3.9kPaの減圧下で蒸留し、酸価175、軟化点79℃、色調ガードナー250Hの精製ロジンを得た。精製ロジン100gとペンタエリスリトール12gを実施例1と同様の方法でエステル化し、軟化点100℃、酸価20、色調400Hのロジンエステル樹脂を103g得た。このロジンエステル樹脂100gをシクロヘキサン100gに溶解し、触媒として5%Pd−カーボン触媒(エヌ・イーケムキャット(株) 50%含水品)3.0gをオートクレーブに仕込み、水素置換後15MPaまで昇圧し290℃で4時間反応させた。反応終了後冷却し水素をブローした後に、ろ過により触媒を除去した。シクロヘキサンは減圧蒸留により留去して粘着付与剤96gを得た。樹脂酸組成は、得られた粘着付与剤(ロジンエステル)を定法に従って加水分解(n−ヘキサノール中KOHを加えて、2時間還流反応させた後に、塩酸で中性とし、得られた樹脂酸を分析に提供する。)した後に、ガスクロマトグラフィーで決定した。
【0056】
(アクリルポリマー相溶性)
製造例4で得たアクリル重合体組成物(50%酢酸エチル溶液)4.2gと、粘着付与樹脂の50%トルエン溶液1.8gを混合する。この混合液をガラス板上に塗布し、風乾ののち105℃循風乾燥機中で5分間乾燥後、取り出し室温まで冷却する。相溶性を目視評価した。結果を表1に示す。
○ 透明 △うすく白濁(透明性あり) ×白濁(透明性なし)
【0057】
(SIS系ゴム相溶性)
ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン系ブロックゴム(クインタック3421、日本ゼオン)の25%トルエン溶液4.0gと、粘着付与樹脂の50%トルエン溶液2.0gを混合する。この混合液をガラス板上に塗布し、風乾ののち105℃循風乾燥機中で5分間乾燥後、取り出し室温まで冷却する。相溶性を目視評価した。結果を表1に示す。
○ 透明 △うすく白濁(透明性あり) ×白濁(透明性なし)
【0058】
(溶剤型アクリル系粘着剤組成物の調製)
製造例4で得られた溶剤型アクリル系重合体ワニス100部に、実施例1〜7および比較例1〜5で得られた樹脂の50%トルエンワニスを20部添加した後、架橋剤としてポリイソシアネート系化合物(日本ポリウレタン(株)製、商品名「コロネートL」)1.6部を添加し、溶剤型アクリル系粘接着剤組成物を得た。得られた溶剤型アクリル系粘接着剤組成物を厚さ38μmのポリエステルフィルムにサイコロ型アプリケーターにて乾燥膜厚が30μm程度となるように塗布(塗工幅25mm)し、次いで該粘接着剤組成物ワニス中の溶剤を風乾の後105℃循風乾燥機中で5分間乾燥して試料テープを作成し、後述の性能評価方法にて各種試験を行った。
【0059】
(接着力)
JIS Z 0237法に従い、上記試料テープを、2kgのゴムローラーを用いて、被着体であるポリエチレン板基材に接着面積25mm×125mmで圧着後、20℃で24時間放置した。その後テンシロン引張り試験機で20℃にて剥離速度300mm/分で180°剥離試験を行い幅25mmあたりの接着力(N/25mm)を測定した。結果を表2に示す。
【0060】
(タック)
PSTC−6法に従い、30度の角度を有する斜面から、No.14の鋼球を転がし、水平面に置いた粘着面(試料テープ)上で鋼球が転がる距離(cm)を測定した。距離(cm)が短いほどタックに優れる。測定雰囲気温度は、20℃である。結果を表2に示す。
【0061】
(保持力)
PSTC−7法に従い、試料テープとステンレス鋼板を2kgのゴムローラーを用いて、接着面積25mm×25mmで圧着した後、20℃で24時間放置した。その後クリープテスターで40℃、1kg、1時間の条件で荷重をかけたときの試料テープ(ポリエステルフィルム)とステンレス鋼板とのズレ(mm)を測定した。ズレ(mm)が短いほど保持力に優れる。結果を表2に示す。
【0062】
(SIS系ブロックゴム粘着剤組成物の調製)
SIS型ブロック共重合体(商品名「クインタック3421」、日本ゼオン(株)製)50g、およびパラフィン系オイル(商品名「DIプロセスPW90」、出光興産(株)製)15g、実施例1〜7、比較例1〜5で得られた樹脂50gを、115gのトルエンに溶解し、粘着剤組成物の50%ワニスを調製した。得られた粘着剤組成物ワニスを厚さ38μmのポリエステルフィルムにサイコロ型アプリケーターにて乾燥膜厚が30μm程度となるように塗布(塗工幅25mm)し、次いで該粘接着剤組成物ワニス中の溶剤を風乾の後105℃循風乾燥機中で5分間乾燥して試料テープを作成し、後述の性能評価方法にて各種試験を行った。
【0063】
(接着力)
JIS Z 0237法に従い、上記試料テープを、2kgのゴムローラーを用いて、被着体であるポリエチレン板基材に接着面積25mm×125mmで圧着後、20℃で24時間放置した。その後テンシロン引張り試験機で20℃にて剥離速度300mm/分で180°剥離試験を行い幅25mmあたりの接着力(N/25mm)を測定した。結果を表3に示す。
【0064】
(タック)
PSTC−6法に従い、30度の角度を有する斜面から、No.14の鋼球を転がし、水平面に置いた粘着面(試料テープ)上で鋼球が転がる距離(cm)を測定した。距離(cm)が短いほどタックに優れる。測定雰囲気温度は、20℃である。結果を表3に示す。
【0065】
(保持力)
PSTC−7法に従い、試料テープとステンレス鋼板を2kgのゴムローラーを用いて、接着面積25mm×25mmで圧着した後、20℃で24時間放置した。その後クリープテスターで40℃、1kg、3時間の条件で荷重をかけたときの試料テープ(ポリエステルフィルム)とステンレス鋼板とのズレ(mm)を測定した。ズレ(mm)が短いほど保持力に優れる。結果を表3に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表中、DEAはデヒドロアビエチン酸、THAはテトラヒドロアビエチン酸、DHAはジヒドロアビエチン酸を表す。また、ロジン誘導体のセスキテルペン類を分析し、検出されなかったもの:無、検出されたもの:有とセスキテルペンの項に表記した。
【0068】
【表2】

【0069】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
デヒドロアビエチン酸の含有量が、40〜85重量%である精製ロジン類(A)およびアルコール類(B)を反応させて得られた、セスキテルペン類を含有しない反応生成物(C)を含有することを特徴とする粘着付与剤。
【請求項2】
精製ロジン類(A)中に含まれるデヒドロアビエチン酸の含有量が、55〜70重量%である請求項1に記載の粘着付与剤。
【請求項3】
精製ロジン類(A)中に含まれるアビエチン酸の含有量が0.1重量%以下であり、テトラヒドロアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸およびジヒドロアビエチン酸の含有量の合計が90重量%以上である請求項1または2に記載の粘着付与剤。
【請求項4】
反応生成物(C)が、精製ロジン類(A)のトリエステル体を70〜95重量%含有する請求項1〜3のいずれかに記載の粘着付与剤。
【請求項5】
アルコール類(B)が3価アルコールである請求項1〜4のいずれかに記載の粘着付与剤。
【請求項6】
色調が150ハーゼン以下である請求項1〜5のいずれかに記載の粘着付与剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の粘着付与剤を含有する医療用貼付剤用粘着付与剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の粘着付与剤を含有する粘着剤または接着剤組成物。
【請求項9】
請求項7に記載の医療用貼付剤用粘着付与剤を含有する医療用貼付剤用粘着剤。
【請求項10】
請求項8に記載の粘着剤または接着剤組成物を用いて得られる粘着または接着テープ。
【請求項11】
請求項9に記載の医療用貼付剤用粘着剤を用いて得られる医療用貼付剤。


【公開番号】特開2009−209178(P2009−209178A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50670(P2008−50670)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】