説明

粘着付与樹脂エマルジョンおよび粘着付与樹脂エマルジョンを含有する水系粘・接着剤組成物

【課題】高温時の保持力(耐熱保持力)、粗面接着力などの接着性能が良好で、フォギング現象の発生が低減された粘着付与樹脂エマルジョンを提供する
【解決手段】軟化点が165〜185℃であって、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が1.0〜3.0の重合ロジンエステル樹脂(A)を乳化して得られる粘着付与樹脂エマルジョン。;重合ロジンエステル樹脂(A)中に含まれる分子量260以下の成分が1.5重量%以下である、前記記載の粘着付与樹脂エマルジョン。;前記粘着付与樹脂エマルジョンを含有する水系粘・接着剤組成物、に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着付与樹脂エマルジョン、および粘着付与樹脂エマルジョンを含有する水系粘・接着剤組成物に関し、より詳しくは、高温下における接着性(耐熱保持力)や粗面接着力などの接着性能に優れ、かつ、揮発成分が少なく、例えばフォギング現象が発生することのない粘着付与樹脂エマルジョンを含有する水系粘・接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する配慮から揮発性有機溶剤等の含有量の少ない環境負荷が低減された粘・接着剤が求められ、水系粘・接着剤が広く使用されるようになってきている。特に自動車用途や建材用途においては、夏の直射日光を浴びるような高温環境下(50〜70℃)に長期間使用しても、強い接着性が持続し、発泡体の様な粗面被着体に対しても良好な接着性が必要とされる。
【0003】
しかしながら、一般にエマルジョン型粘着剤は溶剤型粘着剤と比較して、耐熱性や接着性等の性能をバランス良く向上させることが困難であり、溶剤型の粘着剤と比較して性能が劣るのが現状であった。これらの性能を改善するために、一般に粘着付与樹脂エマルジョンが添加されているが、要求される性能をバランス良く発揮できる粘着付与樹脂エマルジョンを得る事は難しかった。
【0004】
また、添加される粘着付与樹脂は、自動車の内装材等の固定に用いられた場合、長期間高温下に曝されることで、粘着剤中の揮発成分が車内のガラス等に付着し、曇りを生じさせるフォギング現象の一因となっており、問題となっていた。
【0005】
以上の様に、自動車用途や建材用途においては、高温接着力・粗面接着力に優れ、且つ、フォギング性が良好な粘着付与樹脂エマルジョンが強く要求されているが、現状では性能は不十分である。
【0006】
例えば、重合ロジンをアクリル酸もしくはフマル酸で変性し、多価アルコールでエステル化し、軟化点135〜180℃の高軟化点樹脂をエマルジョン化する提案がなされている(特許文献1参照)が、樹脂の高軟化点化に従って、耐熱性が向上するものの、それに伴い、分子量が急激に増加し、ベースポリマーとの相溶性が著しく低下するため、バランスの良い粘着性能を得るには不十分であった。
【0007】
また、アクリル系粘着剤または水分散型粘着付与剤の分子量300以下の成分の割合を4.2重量%以下とする提案が成されている(特許文献2参照)が、重合ロジンエステル樹脂において分子量300付近はその構造より比較的揮発性が低いものであり、より低分子量で揮発性の高い成分を更に低いレベルで制限しなければ、フォギング性の改善は確実とは言えない。また、本提案では耐熱保持力の考慮が不十分であることから、自動車用途や建材用途では性能が十分とは言い難い。
【0008】
なお、本出願人は樹脂酸ダイマーを60%以上含有してなる樹脂酸および多価アルコールを反応させて得られる高軟化点樹脂の粘着付与樹脂エマルジョンを提案している(特許文献3参照)。本発明によれば、高軟化点にも拘らず、シャープな分子量分布と適度な軟化点(SP値)を有しているため、様々なアクリル系重合体のエマルジョンをベース樹脂として選択可能であり、一定の性能を有する幅広い種類の水性エマルジョン型の粘着剤組成物を得ることができるものとなった。しかしながら、工業的には樹脂酸ダイマーの含有率を上げるには限界があり、また、本手法によれば、高軟化点とすることで、分子量の増加が伴うため、相溶性の低下を招き、耐熱保持力や粗面接着性をバランス良く自動車用途や建材用途で満足されるレベルまで向上させることは困難であるし、フォギング性については何ら考慮されたものではなかった。
【特許文献1】特開2004−143248号公報
【特許文献2】特開2006−152128号公報
【特許文献3】特許第2720712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高温時の保持力(耐熱保持力)、粗面接着力などの接着性能が良好で、フォギング現象の発生を抑制出来る粘着付与樹脂エマルジョンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、軟化点と、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)をそれぞれ所定の範囲に調整した重合ロジンエステル樹脂(A)を用いて乳化した粘着付与樹脂エマルジョンとし、これを用いて得られる水系粘・接着剤組成物が上記課題を解決しうることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、
軟化点が165〜185℃であって、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が1.0〜3.0である重合ロジンエステル樹脂(A)を乳化して得られる粘着付与樹脂エマルジョン。;重合ロジンエステル樹脂(A)中に含まれる重量平均分子量(Mw)260以下の成分が1.5重量%以下である、前記記載の粘着付与樹脂エマルジョン。;前記粘着付与樹脂エマルジョンを含有する水系粘・接着剤組成物、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは、粘・接着剤のベース樹脂エマルジョンに含有させることにより高温時の保持力(耐熱保持力)が良好で、かつ相溶性に優れるため、接着性のバランスが良好なものが得られ、粗面接着力など実用性能にも優れるものとなり、更に、低分子成分の含有量が低減されているので、特に、長期間高温に曝されたり、フォギング現象が問題となっている自動車内装用や建材用として好適なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは、粘着付与樹脂として、重合ロジンにアルコール類を加えてエステル化反応させて得られるものであって、その軟化点が165〜185℃、その重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が1.0〜3.0である重合ロジンエステル樹脂(A)を使用し、これを乳化して得られるものである。
【0014】
重合ロジンエステル樹脂(A)の製造に用いる重合ロジンとは、二量化された樹脂酸を含むロジン誘導体である。重合ロジンを製造する方法としては、公知の方法を採用することができる。具体的には、例えば、原料として、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジンといった原料ロジン類の樹脂酸モノマーを硫酸、フッ化水素、塩化アルミニウム、四塩化チタン等の触媒を含むトルエン、キシレン等の溶媒中、温度40〜160℃程度で、1〜5時間程度反応させる方法等があげられる。得られる反応生成物中に占める樹脂酸ダイマーの割合は反応温度、反応時間等により異なるが、得られる粘着付与剤の軟化点を165℃以上とするために、前記反応生成物中における、樹脂酸ダイマーの含有率は50重量%以上とすることが好ましい。
【0015】
重合ロジンの具体例としてはトール油系重合ロジン(例えば、商品名「シルバタック140」、アリゾナケミカル社製)、ウッド系重合ロジン(例えば、商品名「ダイマレックス」、ハーキュレス社製)、ガム系重合ロジン(例えば、商品名「重合ロジンB−140」、新洲(武平)林化有限公司製)等があげられる。
【0016】
重合ロジンにアルコール類を加えてエステル化反応させる製造方法としては、重合ロジンおよびアルコール類を溶媒の存在下または不存在下に、必要によりエステル化触媒を加え、250〜280℃程度で、1〜8時間程度加熱脱水反応させる方法によればよい。使用する溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒が好ましい。
【0017】
使用するアルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価のアルコール類、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの3価のアルコール類、ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどの4価のアルコール類、ジペンタエリスリトールなどの6価のアルコール類等が挙げられる。
【0018】
また、重合ロジンおよびアルコール類の仕込み比率は特に制限されず、得られる重合ロジンエステルの水酸基価が5〜100程度の範囲となるように調整すればよい。通常は重合ロジンのカルボキシル基当量に対し、0.2〜2倍当量程度の水酸基を有する量の多価アルコール類(2価以上のアルコール類をいう。以下同じ。)を使用するのがよい。
【0019】
なお、重合反応とエステル化反応の順番は、上記に限定されず、エステル化反応の後に、重合反応を行ってもよい。
【0020】
本発明の粘着付与樹脂として使用する重合ロジンエステル樹脂(A)は、以上のようにして得られる重合ロジンエステル樹脂の軟化点を165〜185℃の範囲に、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)を1.0〜3.0に調整したものである。
【0021】
重合ロジンエステル樹脂(A)の軟化点は、環球法(JIS K 5902)により測定される温度であり、重合ロジンエステル樹脂(A)の軟化点が165℃未満の場合には、これを配合して得られる粘・接着剤の高温時の接着力や保持力の向上効果が十分でなく、185℃を超えると粘・接着剤に用いられるベースポリマーとの相溶性が著しく低下し、得られる粘・接着剤の低温から常温領域での接着力が低下するものしか得ることができない。上記観点から、重合ロジンエステル樹脂(A)の軟化点は、165〜185の範囲にあることが必要である。
【0022】
重合ロジンエステル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)(以下、(Mw)/(Mn)比という。)の値は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、標準ポリスチレンの検量線に基づき算出することができる。重合ロジンエステル樹脂(A)の(Mw)/(Mn)比が3.0以上の場合には、粘・接着剤ベースポリマーとの相溶性が著しく低下しタック、接着力、保持力などのバランスの良い接着性能が得られなくなる。通常、重合ロジンエステル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)は、1.5〜2.8であることが好ましい。
【0023】
軟化点を165℃〜185℃の範囲としつつ、(Mw)/(Mn)比を1.0〜3.0の重合ロジンエステル樹脂(A)を調製する方法としては、重合ロジンエステル中の低分子量成分を除去したり、ダイマー成分比率が高い重合ロジン(例えば70重量%以上のダイマー成分比率の重合ロジン)を用いたりする方法が挙げられ、より好ましくはその両方によって重合ロジンエステルを調製する方法などが挙げられる。
【0024】
さらに、本発明に使用する重合ロジンエステル樹脂(A)は、重合ロジンエステル樹脂(A)中に含まれる重量平均分子量(Mw)260以下の成分の含有量が1.5重量%以下であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)260以下の低分子成分の含有量を1.5重量%以下に低減することによって、重合ロジンエステル樹脂(A)から揮発する成分の量が少なく抑えられ、自動車の内装用途など使用される粘・接着剤に配合し使用され、高温下に長期間おかれた場合であっても、フロンドガラス等に発生するフォギング現象(曇り)の発生を効果的に抑止される。
【0025】
重合ロジンエステル樹脂(A)中の分子量260以下の成分を除去する方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。具体的には、例えば、加熱・減圧する減圧蒸留法や、さらに蒸発効率に優れた分子蒸留法、加熱・常圧または減圧下で加熱した水蒸気を系内に吹き込む水蒸気蒸留法、分子量260以下の低分子成分のみを溶解する溶媒にて抽出する方法等があげられる。
【0026】
加熱・減圧により分子量260以下の成分を除去する際には、通常、温度を220〜300℃程度、圧力を0.01〜3kPa程度の条件で、分子量260以下の成分の含有量が1.5重量%以下となるまで、継続的に処理すればよい。
【0027】
水蒸気蒸留により分子量260以下の低分子成分を除去する際には、通常、常圧下、温度を220〜300℃程度にて0.1〜1MPaに加熱・加圧した水蒸気を吹き込み、水蒸気蒸留を実施する。時間は温度・水蒸気吹き込み条件により異なるが、分子量260以下の成分の含有量が1.5重量%以下となるまで、継続的に処理すればよい。
【0028】
溶媒にて抽出する場合には、例えば、前記重合ロジンエステル樹脂を粉砕し、分子量260以下の成分のみを溶解する溶媒にて抽出する方法があげられる。使用する溶媒としては、例えば、ヘキサンやヘプタン等の脂肪族炭化水素、メタノールやエタノール等のアルコールなどがあげられる。
【0029】
こうして得られる重合ロジンエステル樹脂(A)は、その種類により、酸価、水酸基価等は異なるものであるが、通常、酸価は、1〜50程度、水酸基価は、1〜70程度のものであり、特に粘・接着性が良好な点で、酸価は、1〜30、水酸基価は1〜50程度のものが好ましい。
【0030】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは、上記により得られた重合ロジンエステル樹脂(A)を乳化して得られるものである。重合ロジンエステル樹脂(A)をエマルジョン化するのに使用する乳化剤としてはα−オレフィンスルホン化物、アルキルサルフェート、アルキルフェニルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアラルキルフェニルエーテルのスルホコハク酸のハーフエステル塩、ロジン石鹸等のアニオン系乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン系乳化剤を例示できる。また、乳化剤量は特に限定されないが通常、該粘着付与樹脂100重量部に対し、固形分換算で1〜10重量部程度、好ましくは1〜5重量部である。10重量部を越える場合には得られる粘着剤の耐水性が低下する。1重量部に満たない場合には乳化時の樹脂エマルジョンの安定性が悪くなる。
【0031】
重合ロジンエステル樹脂(A)をエマルジョン化する方法としては、ベンゼン、トルエン等の溶剤に溶解したのち前記乳化剤と軟水を添加し、高圧乳化機を用いてエマルジョン化したのち減圧下に溶剤を除去する方法、または、樹脂の軟化点が約90℃以下となるよう少量のベンゼン、トルエン等の溶剤を混合し、つづいて乳化剤を練り込み、さらに熱水を徐々に添加してゆき転相乳化させてエマルジョンを得たのち溶剤を減圧下に除去またはそのまま使用する方法、あるいはオートクレーブ中にて樹脂の軟化点以上に昇温して乳化剤を練り込み熱水を徐々に添加してゆき転相乳化させてエマルジョン化する方法等をあげることができ、いずれの方法によってもよい。
【0032】
こうして得られた本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは、平均粒子径は、通常0.2〜2μm程度であり、大部分は0.6μm以下の粒子として均一に分散している。また、該エマルジョンは白色乃至乳白色の外観を呈するものとなる。
【0033】
本発明の粘着付与樹脂エマルジョンは、ベース樹脂エマルジョンに配合されて、従来の水系粘・接着剤に不足していた耐熱保持力や、粗面接着性などの粘・接着性能を向上させるとともに、揮発成分の発生がほとんどなく、フォギング現象を低減することができる水系粘・接着剤組成物とすることができる。
【0034】
本発明の水系粘・接着剤組成物に使用するベース樹脂エマルジョンとしては、各種の水系粘・接着剤に使用される重合体であれば特に限定されないが、
例えば、アクリル系重合体エマルジョンや粘着剤用ゴムラテックスなどが挙げられる。本発明における粘着付与樹脂エマルジョンとの相溶性及び粘・接着性能の観点から、アクリル系重合体エマルジョンが好ましい。
【0035】
アクリル系重合体エマルジョンとしては、一般に各種のアクリル系粘着剤に用いられているものを使用でき、(メタ)アクリル酸エステルを一括で仕込み重合する法、モノマー逐次添加重合法、乳化モノマー逐次添加重合法、シード重合法等の公知の乳化重合法により容易に製造することができる。
【0036】
アクリル系重合体エマルジョンに使用される(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等をあげることができ、これらを単独でもしくは二種以上を混合して用いる。また、得られるエマルジョンに貯蔵安定性を付与するため前記(メタ)アクリル酸エステルに換えて(メタ)アクリル酸を少量使用してもよい。さらに所望により(メタ)アクリル酸エステル重合体の接着特性を損なわない程度において、たとえば、酢酸ビニル、スチレン等の共重合可能なモノマーを併用できる。これら(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする重合体のガラス転移温度は通常−70〜0℃程度、好ましくは−60〜−10℃である。0℃を越える場合にはタックが著しく低下し好ましくない。なお、アクリル系重合体エマルジョンに用いられる乳化剤にはアニオン系乳化剤、部分ケン化ポリビニルアルコール等を使用でき、その使用量は重合体100重量部に対して0.1〜10重量部程度、好ましく0.5〜5重量部である。
【0037】
アクリル系重合体エマルジョンと粘着付与樹脂エマルジョンの使用割合は、アクリル系重合体エマルジョン100重量部(固形分換算)に対して、粘着付与樹脂エマルジョンを通常3〜30重量部程度(固形分換算)とするのがよい。粘着付与樹脂エマルジョンが3重量部に満たない場合には、粘着付与樹脂を添加することによる改質がほとんど認められず、また30重量部を越える場合にはタックの低下や粘・接着性のバランスが大きく崩れる場合がありいずれの場合も適当ではない。
【0038】
また、粘着剤用ラテックスとしては、天然ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、クロロプレンラテックス等があげられる。天然ゴムラテックスとは、水性粘着剤組成物に用いられる公知のものを使用でき、解重合したもの、解重合しないもののいずれでもよい。スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、クロロプレンラテックスも通常、粘着剤用として市販されているものを使用できる。またスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、クロロプレンラテックスはカルボキシ変性されたものでもよい。
【0039】
粘着剤用ラテックスと粘着付与樹脂エマルジョンの使用割合は、粘着剤用ラテックス100重量部(固形分換算)に対して、粘着付与樹脂エマルジョンを通常5〜150重量部程度(固形分換算)とするのがよい。粘着付与樹脂エマルジョンが5重量部に満たない場合は、粘着付与樹脂を添加することによる改質がほとんど認められず、また150重量部を越える場合には粘・接着性能のバランスが悪くなる傾向にありいずれの場合も適当ではない。
【0040】
本発明の水性粘着剤組成物は、さらに必要に応じて消泡剤、増粘剤、充填剤、酸化防止剤、耐水化剤、造膜助剤等を併用することもできる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお以下「部」及び「%」は、特記しない限りいずれも重量基準である。
【0042】
製造例1 [ベースポリマーエマルジョンの製造]
攪拌装置、温度計、還流冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応容器に、窒素ガス気流下、水43.4部およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム塩(アニオン性乳化剤:商品名「ハイテノール073」:第一工業製薬(株)製)0.92部からなる水溶液を仕込み、70℃に昇温した。
次いで、アクリル酸ブチル90部、アクリル酸2−エチルヘキシル7部およびアクリル酸3部からなる混合物と、過硫酸カリウム(重合開始剤)0.24部、pH調整剤(重曹)0.11部および水8.83部からなる開始剤水溶液の1/10量を反応容器に添加し、窒素ガス気流下にて70℃、30分間予備重合応を行った。次いで、前記混合物と前記開始剤水溶液の残りの9/10量を2時間にわたり反応容器に添加して乳化重合を行い、その後70℃で1時間保持して重合反応を完結させた。こうして得られたアクリル系重合体エマルジョンを室温まで冷却した後100メッシュ金網を用いてろ過し、固形分47.8%のアクリル系重合体エマルジョンを得た。
【0043】
製造例2[重合ロジンエステル1の製造]
攪拌装置、コンデンサー、温度計および窒素導入管・水蒸気導入管を備えた反応容器に、重合ロジン100部(樹脂酸ダイマー65%、酸価140、軟化点140℃)、ペンタエリスリトール14部を仕込んだ後、窒素ガス気流下に250℃で2時間反応させた後、さらに280℃まで昇温し同温度で12時間反応させ、エステル化を完了させた。その後、0.1MPaの水蒸気を3時間吹き込み、減圧下に水分等を除去し、酸価7.3、水酸基価37.0の重合ロジンエステル1を得た。得られた重合ロジンエステル1の特性(軟化点、Mw/Mn比、Mw260以下の成分量)を下記の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0044】
(軟化点)
JIS K 2531の環球法により測定した。
【0045】
(Mw/Mn)
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、(Mw)/(Mn)比はゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により、標準ポリスチレンの検量線から求めた、ポリスチレン換算値として算出した。なお、GPC法は以下の条件で測定した。
分析装置:HLC−8120(東ソー(株)製)
カラム:TSKgelSuperHM-Lx3本
溶離液:テトラヒドロフラン
注入試料濃度:5mg/mL
流量:0.6mL/min
注入量:100μL
カラム温度:40℃
検出器:RI
【0046】
(分子量260以下の成分の含有量)
重量平均分子量基準で、ポリスチレン換算値を基に上記と同様にGPC法により、算出した。
【0047】
製造例3[重合ロジンエステル2の製造]
製造例2と同様にエステル化を完了させた後、0.1MPaの水蒸気を6時間吹き込み、減圧下に水分等を除去し、酸価4.9、水酸基価35.7の重合ロジンエステル2を得た。得られた重合ロジンエステル2の特性を製造例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0048】
製造例4[重合ロジンエステル3の製造]
製造例2と同様にエステル化を完了させた後、0.1MPaの水蒸気を2時間吹き込み、減圧下に水分等を除去し、酸価8.9、水酸基価38.1の重合ロジンエステル3を得た。得られた重合ロジンエステル3の特性を製造例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0049】
製造例5[重合ロジンエステル4の製造]
製造例2と同様の反応容器に、重合ロジン(製造例2と同一のもの)80部、ガムロジン20部、ペンタエリスリトール14部を仕込んだ他は同様に製造を実施し、酸価10.1、水酸基価35.4の重合ロジンエステル4を得た。得られた重合ロジンエステル4の特性を製造例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0050】
製造例6[重合ロジンエステル5の製造]
製造例2と同様の反応容器に、重合ロジン(製造例2と同一のもの)100部を仕込み、190℃まで昇温した。フマル酸を1.5部仕込んだ後、210℃まで昇温し2時間反応させた。その後、ペンタエリスリトールを14部仕込み、250℃で2時間反応させた後、280℃に昇温し12時間反応させ、エステル化を完了させた。次いで、0.1MPaの水蒸気を3時間吹き込み、酸価8.8、水酸基価35.4の重合ロジンエステル5を得た。得られた重合ロジンエステル5の特性を製造例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0051】
製造例7[重合ロジンエステル6の製造]
製造例2と同様の反応容器に、重合ロジン(製造例2と同一のもの)100部、ペンタエリスリトール9.5部を仕込み、250℃で2時間反応させた後、280℃に昇温し、20時間反応させ、エステル化を完了させた。次いで、0.1MPaの水蒸気を1時間吹き込み、酸価4.6、水酸基価26.5の重合ロジンエステル6を得た。得られた重合ロジンエステル6の特性を製造例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0052】
製造例8[比較用重合ロジンエステル7の製造]
製造例2と同様の反応容器に、重合ロジン(製造例2と同一のもの)70部、ガムロジン(製造例30部、ペンタエリスリトール16部を仕込み、250℃で2時間反応させた後、280℃に昇温し8時間反応させ、エステル化を完了させた。次いで、0.1MPaの水蒸気を3時間吹き込み、酸価6.7、水酸基価48.8の比較用重合ロジンエステル7を得た。得られた重合ロジンエステル7の特性を製造例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0053】
製造例9[比較用重合ロジンエステル8の製造]
製造例2と同様の反応容器に、重合ロジン(製造例2と同一のもの)75部、ガムロジン25部を仕込み、190℃まで昇温した。フマル酸を2.5部仕込んだ後、210℃まで昇温し2時間反応させた。その後、ペンタエリスリトールを14部仕込み、250℃で2時間反応させた後、280℃に昇温し10時間反応させ、エステル化を完了させた。次いで、0.1MPaの水蒸気を3時間吹き込み、酸価8.9、水酸基価36.7の重合ロジンエステル8を得た。得られた重合ロジンエステル8の特性を製造例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0054】
製造例10[比較用重合ロジンエステル9の製造]
製造例2と同様の反応容器に、重合ロジン(製造例2と同一のもの)100部、ペンタエリスリトールを14部仕込み、250℃で2時間反応させた後、280℃に昇温し12時間反応させ、エステル化を完了させた。次いで、0.1MPaの水蒸気を30分間吹き込み、酸価10.7、水酸基価37.6の重合ロジンエステル9を得た。得られた重合ロジンエステル9の特性を製造例1と同様の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0055】
実施例1 [粘着付与樹脂エマルジョンの調製]
製造例2で得た、重合ロジンエステル1 100重量部をトルエン70部に80℃にて3時間かけて溶解させた後、80℃まで冷却してアニオン性乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を固形分換算で3部および水140部を添加し、1時間攪拌した。次いで、高圧乳化機(マントンガウリン社製)により3000kg/cm2の圧力で高圧乳化して乳化物を得た。次いで、70℃、2.93×10−2MPaの条件下に6時間減圧蒸留を行い、固形分50%の粘着付与樹脂エマルジョン1を得た。得られた粘着樹脂エマルジョンの特性を以下の方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0056】
実施例2〜6
実施例1において、重合ロジンエステル1を重合ロジンエステル2〜6(製造例3〜7)に代えた他は実施例1と全く同様に行い、粘着付与樹脂エマルジョン2〜6(実施例2〜6)を得た。その特性値を実施例1と同様の方法により測定した。得られた結果を表1に示す。
【0057】
比較例1〜3
実施例1において、重合ロジンエステル1を比較用重合ロジンエステル7〜9(製造例8〜10)に代えた他は実施例1と全く同様に行い、粘着付与樹脂エマルジョン7〜9を得た。その特性値を実施例1と同様の方法により測定した。得られた結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
このようにして得られた粘着付与樹脂エマルジョン2〜6(実施例1〜6)および粘着付与樹脂エマルジョン7〜9(比較例1〜3) 15部と製造例1で得られたアクリル系重合体のエマルジョン90部(固形分換算)を混合し、増粘剤プライマルASE−60(ロームアンドハース社製)0.5部を添加し、アンモニア水を適量加え、増粘させて水系粘着剤組成物1を得た。得られた水系粘・接着剤組成物1について、以下の評価方法により接着性能およびフォギング防止性を評価した。
【0060】
(試験サンプルの作成)
上記水系粘着剤組成物を厚さ38μmのポリエステルフィルム(商品名「S−100」、三菱化学ポリエステルフィルム(株)製)にサイコロ型アプリケーター(大佑機材(株)製)にて乾燥膜厚が95μm程度となるように塗布し、次いで105℃の循風乾燥機中で5分間乾燥させて試料テープ用フィルムを作成した。以下の試験方法により粘着特性を評価した。評価結果は表2に示す。
【0061】
(耐熱保持力)
前記試料テープ用フィルムをステンレス板に巾25mm×長さ25mmで貼り付け、80℃で1kgの荷重をかけ、12時間経過後のズレ距離(mm)もしくは12時間経過前に落下した場合にはその落下までに要した時間を測定した。
【0062】
(粗面接着性)
前記試料テープ用フィルムをECS系ウレタンフォーム(巾25mm×長さ100mm)に2kgロールを1往復して張り合わせ、30分後、テープ端に100gの荷重をかけ、90°剥離となるようにウレタンフォームを固定し、40℃雰囲気下、1時間あたりの剥離距離を測定した。
【0063】
(フォギング防止性)
内容量140mLのガラス瓶中に約20gの粘着テープを入れ、ガラス板で蓋をし、105℃で24時間加熱し、ガラス板の変化を目視により評価した。なお、評価の判断基準は以下の通りである。
○:変化なし
△:微量の曇りがある
×:はっきりと確認出来る曇りがある
【0064】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点が165〜185℃であって、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が1.0〜3.0である重合ロジンエステル樹脂(A)を乳化して得られる粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項2】
重合ロジンエステル樹脂(A)中に含まれる重量平均分子量(Mw)260以下の成分が1.5重量%以下である、請求項1に記載の粘着付与樹脂エマルジョン。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粘着付与樹脂エマルジョンを含有する水系粘・接着剤組成物。