説明

粘着剤塗工方法、該塗工方法を実施するホールカバー及びシールシステム

【課題】 組立ラインでの作業を単純化してオペレータの負荷を軽減し、品質の安定化を図る粘着剤の塗工方法、並びに当該方法を実施したホールカバーを提供する。
【解決手段】 流れ作業における筐体開口部16周囲への接着剤塗布に代え、筐体の開口部16の周囲の形状に倣って周回するリボン状の粘着剤23を予め剥離紙21上に塗布する。流れ作業現場において粘着剤23ごと剥離紙21を開口部16の周囲又はホールカバー18の縁部19のいずれか一方に押し付けて粘着剤23を剥離紙21から当該いずれか一方の部位側に移し替える。その後、開口部16の周囲にホールカバーの縁部19を押し付けて粘着剤23により両者を接合する。代替として、ホールカバーの縁部19に該縁部19を周回するリボン状の粘着剤23を予め塗布しておき、流れ作業現場において開口部16の周囲にホールカバーの縁部19を押し付けて粘着剤23により両者を接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流れ作業で連続して供給される筐体の一部に開口した開口部の周囲と、当該開口部を閉鎖するホールカバーの縁部との間を接合してシールするための粘着剤を、前記開口部の周囲とホールカバーの縁部との間に塗工する粘着剤塗工方法、並びに当該塗工方法を実施するホールカバー及びシールシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
図4(a)は、自動車用ドアボデーの概要を示している。自動車用ドアボデー(以下、単に「ドアボデー」という。)10は、室外側に位置するアウターパネル11と、室内側に位置するインナーパネル12とからなる筐体で構成されている。両パネル11、12の間に設けられる筺体の内部空洞には、図示しないガラス、ガラスガイド用のランチャンネル、ガラスの上下動を操作するウィンドレギュレータ、ドアをロックするためのロック機構などの内蔵機構が収容される。アウターパネル11とインナーパネル12とは一般に、ガラスの上下動を可能にする上方に開口したスリット開口部13を有し、当該スリット開口部13を除いてその他の周囲はヘミング加工部14などによってシール状に組み合わされている。
【0003】
ドアボデー10には、組立ラインにて上述した内蔵機構を取り付けたり、アウターパネル11の内側に防振材を貼り付けたりする作業を可能にするため、さらには完成後に内蔵機構を室内から操作可能にするよう内蔵機構の一部を通過させるため、単数又は複数の開口部であるアクセスホール16が開口している。アクセスホール16は一般にインナーパネル12側に設けられるが、例えばドアミラー17を取り付けるためにアウターパネル11側にも開口する場合がある。また、これらのアクセスホール16は、ドアボデー10全体を塗料槽内に浸ける浸漬塗装の後に余剰の塗料を排出するための排出口としても利用される。図示の例では、インナーパネル12に2つのアクセスホール16が開口しているが、その数、大きさ、形状などは要求仕様に応じて任意に選択することができる。
【0004】
組立ラインにおける流れ作業で上述した内蔵機構が取り付けられると、各アクセスホール16にはホールカバー18が被せられる。自動車が雨天などで走行する際、スリット開口部13から水がドアボデー10の内部に入り込み、さらにこれがアクセスホール16を通って室内に浸入することが起こり得る。これを防止するため、ホールカバー18はアクセスホール16にシール状態で接合されなければならない。このため、図4(b)に示すように、組立ラインではアクセスホール16の周囲となるインナーパネル12側に接着剤23を塗布し、その上にホールカバー18を押し付けてホールカバー18をシール状態にしてインナーパネル12に接合している。図4(b)は端面図としているが、接着剤23はアクセスホール16の全周を周回している。
【0005】
図5は、ホールカバー18の例を示している。図5(a)に示すホールカバー18aは、塩化ビニールなどの軟質樹脂材からなるほぼ平坦なフィルムからなり、組立てラインでオペレータはこれを両手で延ばしながらアクセスホール16の周囲に塗布された接着剤に貼り付ける。図5(b)に示すホールカバー18bは、ポリプロピレンなどの樹脂材を真空成形などで立体的に形成したもので、オペレータはこれを取ってアクセスホール16の形状に合わせて位置決めし、アクセスホール16の周囲に塗布された接着剤にホールカバー18bの縁部19を押し付けて接合する。真空成形などによる3次元形状によってある程度の剛性が保たれるため、オペレータがこれを片手で取り扱えるなどの作業性を向上させる利点があり、昨今ではこの形式のホールカバー18bが利用されるケースが多い。
【0006】
図4(a)において説明したように、ドアボデー10のアウターパネル11にはドアミラー17が取り付けられる場合があるが、この際にも取り付け面から浸水しないよう組立ラインにて取り付け面の一方の側に接着剤が塗布され、ドアミラー17をアウターパネル11に押し付けて両者間をシールしている。なお、ドアミラー17の場合、アウターパネル11への取付けそのものは他の固定手段を用いて取り付けられる場合が多い。本明細書でいう「アクセスホール」には、このような機能部品を取り付けるための穴をも包含するものとし、同じく「ホールカバー」には、このような機能部品自身で直接開口部を塞ぐ場合の当該機能部品をも包含するものとする。
【0007】
上述したホールカバー18a、18b、ドアミラー17の種類や形状、材質などは単なる例示であって、要求仕様に応じて各種変形が可能であり、また、その他の機能部品ともなり得ることは勿論である。なお、昨今では複数のアクセスホールをカバーする一体となったパネルを貼り付ける技術も見られる(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−168729
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
組立ラインなどの流れ作業において、アクセスホール16の周囲に接着剤を塗布する方法として主に以下の2つの手法が用いられる。1つは塗布ガンなどを利用してオペレータがアクセスホール16の周囲を巡って接着剤を塗布する方法であり、他の一つは、3mm内外の直径のリボン状(ひも状)に巻き取られた粘着性接着剤の帯をオペレータが引き出し、これをアクセスホール16の周囲に手で押し付けつつ周囲を周回させて両端部を突き合わせ、塗布する方法である。
【0009】
しかしながら、上述した従来の方法には改善の余地があった。まず第1の塗布ガンを用いる方法では、組立ラインサイドに接着剤を供給し、塗布ガン操作のための圧縮空気を供給するという設備上の手配や、そのためのスペース上の問題があった。さらに溶剤を含む接着剤が利用される場合には、塗布ガンによる噴霧によって周囲の作業環境悪化の問題があった。第2のリボン状の接着剤を貼り付ける方法では、組立ラインサイドに別途このリボン状の接着剤を供給する必要があり、また手などに付着しがちな粘着性のある接着剤の帯をオペレータが手で持って順次アクセスホール16の周囲に貼り付けるという煩雑な作業が避けられない、という問題があった。
【0010】
一般に組立ラインでは多くの部品が車輌側に流れ作業で取り付けられるため、組立ラインサイドには必要最小限のものを供給する体制を敷くことが好ましい。また、ラインスピードに合わせた流れ作業を効率的に行うには、作業をできるだけ単純化し、メンテナンスが必要とされる設備の利用は極力排除してオペレータの負荷低減、作業性の向上を図ることが生産性を高めるために必要となる。
【0011】
さらに、品質上の観点からいえば、塗布ガンによる塗布作業では狙ったアクセスホール16の周囲に十分な接着剤を安定して塗布できない恐れがある。またリボン状の接着剤を手で貼り付ける方法では、接着剤がアクセスホール16の周囲から外れて貼り付けられる恐れもある。このような場合、ホールカバー18の周囲を形成する縁部全体がインナーパネル12に密着しないこととなり、当該箇所から室内に水が浸入することが起こり得た。そして、これらの問題を回避するには、ある程度の熟練したオペレータの配置がどうしても必要となった。
【0012】
以上より、本発明はこれら従来技術にある問題点を解消し、組立ラインでの作業を単純化してオペレータの負荷を軽減し、品質の安定化を図ると共に、組立ラインサイドのスペースをより有効活用できるようにする粘着剤の塗工方法、並びに当該方法を実施したホールカバー、シールシステムを提供することを目的している。
【0013】
なお、本明細書でいう「アクセスホールの周囲」とは、アクセスホール16を形成する筺体側要素(上記例ではアウターパネル11又はインナーパネル12)の一部であるアクセスホール16の周囲近傍部位を意味し、一般にはアクセスホール16の開口面と面一となったアクセスホール16の周回部位をいう。また「ホールカバーの縁」とは、上述したアクセスホール16の周囲に対向するホールカバー18の一部であって、ホールカバー18自身の外周を形成する部位を言う。一般に当該縁部19は、図5(b)に示すようにフランジ状に形成されるが、図5(a)に示す平坦なホールカバー18aでは、それ自身の周囲部分がこれに該当する。
【0014】
また、本明細書でいう「塗布」とは、粘着剤(接着剤)を塗布ヘッドなどの利用によって被塗布面に塗る動作を意味し、「塗工」とは、当該塗布動作を含む行程あるいは技術を意味するものとして基本的に両者を区別して用いている。ただし、この区別は説明の理解を促進する目的のためだけであって、このいずれかの用語によって特有の技術的限定を加えるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、従来組立ラインにて行っていたドアインナーパネルへの接着剤の塗布に代え、剥離紙、またはホールカバー側に接着剤を予め塗布してこれを組立ラインサイドへ供給することによって上記の問題を解消するもので、具体的には以下の内容を含む。
【0016】
すなわち、本発明にかかる1つの態様は、流れ作業で連続して供給される筐体の表面に開口した開口部の周囲と当該開口部を閉鎖するホールカバーの縁部との間を接合してシールする粘着剤を、前記開口部の周囲とホールカバーの縁部との間に塗工する粘着剤塗工方法であって、前記開口部の周囲の形状に倣って周回するリボン状の粘着剤を予め剥離紙上に塗布し、流れ作業現場において前記粘着剤ごと剥離紙を前記開口部の周囲又は前記ホールカバーの縁部のいずれか一方に押し付けて粘着剤を剥離紙から当該いずれか一方の部位側に移し替え、前記開口部の周囲に前記ホールカバーの縁部を押し付けて前記粘着剤により両者を接合してシールする、各ステップからなることを特徴とする粘着剤塗工方法に関する。
【0017】
本発明にかかる他の態様は、同じく開口部の周囲とホールカバーの縁部との間に粘着剤を塗工する粘着剤塗工方法であって、前記ホールカバーの縁部に該縁部を周回するリボン状の粘着剤を予め塗布し、流れ作業現場において前記開口部の周囲に前記ホールカバーの縁部を押し付けて前記粘着剤により両者を接合してシールする、各ステップからなることを特徴とする粘着剤塗工方法に関する。
【0018】
前記粘着剤塗工方法は、筐体を自動車用ドアボデー、前記開口部をドアボデーのインナーパネル又はアウターパネルに開口したアクセスホールとすることによって、自動車用ドアボデーの防水シール方法として適用することができる。また、前記粘着剤はゴム系、アクリル系、またはオレフィン系のいずれかのホットメルト接着剤とすることができ、特には、ブチルゴム系ホットメルト接着剤を利用することができる。
【0019】
本発明にかかる他の態様は、流れ作業で連続して搬送される筐体に設けられた開口部を覆うように接合されて前記開口部をシールするホールカバーであって、前記開口部の周囲に対向するホールカバーの縁部に、前記開口部の周囲の形状に倣って周回するリボン状の粘着剤が塗布されていることを特徴とするホールカバーに関する。前記ホールカバーには、粘着剤を覆う剥離紙をさらに備えることができる。
【0020】
本発明にかかる更に他の態様は、自動車用ドアボデーのアクセスホールからの浸水を防止する防水シールシステムであって、アクセスホールを有するインナーパネル又はアウターパネルを含むドアボデーと、前記アクセスホールの周囲の形状に倣った形状に周回する粘着剤と、前記粘着剤の形状に応じて少なくともこれを覆う形状に裁断された剥離紙と、前記アクセスホールの周囲を覆う縁部を周囲に有する前記アクセスホールを閉鎖するホールカバーとから構成され、前記縁部のアクセスホールに対向する面、または前記剥離紙のいずれか一方の面、のいずれかに前記粘着剤が予め塗布されていることを特徴とする防水シールシステムに関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の実施により、流れ作業における筺体開口部のシール作業の作業性を向上し、品質を安定化させ、ラインサイドの環境を改善するという特有の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る粘着剤塗工方法、並びにホールカバーの実施の形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、従来技術の項で例示した自動車用ボデーに関連して説明するが、本願発明はこれに限定されるものではない。一般に、流れ作業により順次供給される筐体の開口部に対し、該開口部をシールする目的で被せられるカバーを前記筐体に貼り付ける際に広く適用することが可能である。
【0023】
図1は、本発明の実施に使用可能な粘着剤塗布装置を示している。本明細書でいう「粘着剤」とは、接着剤の内、特に常温にて粘着性を備え、揮発成分が僅かで経時変化が少なく、乾燥せずに長期間に亘って粘着性を維持する特徴を有しているものをいう。このような粘着剤として、ゴム系、アクリル系、オレフィン系等のホットメルト接着剤が使用可能である。より具体的に、ブチルゴム系ホットメルト接着剤であることが好ましい。但し、本発明の適用においては、以下に詳述する塗工方法、シールシステムに利用可能なものであるかぎり、粘着剤の種類は限定されない。
【0024】
図1において、粘着剤塗布装置20は、ワーク21を固定するベッド22と、ワーク21に粘着剤23を塗布する塗布ヘッド24と、塗布ヘッド24に固定された塗布ガン26と、塗布ヘッド24を図のX、Y、Z方向に移動するXYZロボット27と、図示しない制御装置を含む本体部28とから構成されている。塗布ガン26には、粘着剤供給ホース29が結合され、図示しない供給源から粘着剤が圧送されて供給される。図示の例ではワーク21側が固定されて塗布ガン26側が移動可能な形式としてあるが、逆に塗布ガン26側が固定され、ワーク21側が移動するよう構成されてもよい。また、図示の例ではベッド22が2つ用意されて交互に塗工可能とすることによって作業効率を高める形式としているが、このベッド22の数は任意である。
【0025】
本発明にかかる第1の実施の形態では、ワーク21は所定形状に裁断された剥離紙(以下、「剥離紙21」と呼ぶ。)である。剥離紙21は離型紙とも呼ばれるが、グラシン紙などの基材にシリコーン樹脂などの剥離剤をコーティングし、粘着剤、接着剤に対しても剥離性を備えるようにしたものである。剥離紙21の備える剥離性は相対的なものであって、粘着剤に対しても一定の粘着性は有している。剥離紙21は各種スペックのものが市場で得られるが、ここでいう剥離紙21は上述したような粘着剤23との間で一定の剥離性が得られ、後に詳述する本発明の実施を妨げる性格のものでない限り任意のものでよい。
【0026】
本実施の形態における剥離紙21は、対応するアクセスホール16の周囲をカバーするに十分な大きさの所定形状に予め裁断されている。図示の例では単純な略矩形状に裁断されているが、任意の形状が可能であり、例えば粘着剤23を保持する十分な幅があれば中央部が打ち抜かれたリング状になったものでもよい。
【0027】
以上のように構成された粘着剤塗布装置20は、以下のように動作する。所定形状に裁断された剥離紙21がベッド22上に配置され、固定される。固定方法は、ベッド22側から剥離紙21を真空吸引する方法が簡便であるが、剥離紙21を周囲からツメ状のもので押さえるなど機械的方法で固定することでもよい。剥離紙21がセットされると、ベッド22は塗布位置となる図のY方向奥側に搬送される。
【0028】
ベッド22が塗布位置に位置決めされると、塗布ヘッド24が上方から所定位置までZ方向に下降し、塗布ガン26からひも状となった粘着剤23を吐出する。同時に、塗布ヘッド24が、予め入力されたプログラムに応じたXYZロボット27の動作により3軸方向に移動し、剥離紙21の所定位置へ粘着剤23を塗布する。剥離紙21上に一周分の粘着剤23を周回させる塗布が完了すると、塗布ガン26は吐出動作を中止し、塗布ヘッド24と共にZ方向に退避する。この一連の動作は、本体部28内の図示しない制御装置によって制御される。
【0029】
次に、以上のようにして剥離紙21上に所定形状に塗布された粘着剤23を使用し、組立ラインにてアクセスホール16にホールカバー18をシール状態で接合する動作につき、図2を参照して説明する。図2(a)は、図1に示すようにして剥離紙21に塗布された粘着剤23が、剥離紙21を間に挟むような格好で順次積み上げられる状態を示している。これが出荷時の荷姿となり、組立ラインサイドに搬送、供給される。上述のように粘着剤23は経時変化がほとんどないため、粘着性(接着性)が劣化することはない。また、搬送状態では粘着剤23の間に必ず剥離紙21が介在しているため、粘着剤23同士が接触して分離困難な事態となることはない。
【0030】
図2(a)に示す荷姿で搬送され、流れ作業現場である組立ラインサイドに供給された粘着剤23は、オペレータによって剥離紙21と共に一枚ずつ取り出される。剥離紙21の剥離特性が表裏同じであれば、粘着剤23は重力の作用で下側にある方の剥離紙21の側に残り、上方から順次剥離紙21と共に所望形状に塗布された粘着剤23を取り出すことが可能である。但し、必要に応じて裏面側(粘着剤23が塗布された側とは反対側の面)の剥離度を、表面側(粘着剤23の塗布された側の面)の剥離度よりも高めることで一回分の粘着剤23を剥離紙21と共により容易に取り出せるようにすることもできる。
【0031】
オペレータにより取り出された粘着剤23が塗布された一枚の剥離紙21は、図2(b)に示すようにドアボデー10の所定のアクセスホール16に対向する位置まで運ばれ、アクセスホール16の周囲に位置合わせされて押し付けられる。その後に剥離紙21を剥がすことにより、図2(c)に示すように予め所定形状に塗布されていた粘着剤23は、剥離紙21とインナーパネル12の剥離性の差によってアクセスホール16の周囲に移し替えられ、その位置に塗布されたと同じ状態となる。その後、組立ラインサイドまで別途供給されるホールカバー18がアクセスホール16に合わせて嵌め込まれ、縁部19が粘着剤23に押しけられて接合される。剥ぎ取られた剥離紙21は廃棄されるか、あるいは回収後の再利用も可能である。
【0032】
本実施の形態にかかる粘着剤塗工方法の特徴は、従来、組立ラインで行われる粘着剤塗布、特にはリボン状の粘着剤を引っ張り出してオペレータが手により貼り付ける塗工作業を、予め所定形状でライン外において剥離紙21に対して塗布するよう改めることである。また、従来では粘着剤(接着剤)を覆って保護する目的でのみ使用されていた剥離紙が、塗工動作を媒介する有力な手段となり得るという新たな知見に基づき、これを積極的に粘着剤塗工方法に利用したことである。自動車組立ラインを例にとれば、一般に同一ラインには複数の車種が供給される。また同一車種であってもドアの枚数や型式(2ドア、4ドア、5ドア、セダン、クーペ等)によってドアの形状、アクセスホールの位置や形状が異なっており、しかも組立ラインでコンベアに運ばれる車輌は常時移動している。そのような状態での粘着剤塗布を自動化することは極めて困難であり、また自動化のための設備がただでさえ煩雑な組立ラインのスペースを取るものとなる。これらの要因が重なって、従来技術ではこのホールカバーのシール、取り付け作業は、接着剤塗布を含めて全てオペレータの手作業に頼る結果となっていた。この状況は、車輌側に取り付けられる前にドアボデーのみを単体で組立てる組立方式においても同様である。
【0033】
本実施の形態によれば、剥離紙上への任意の形状に倣った粘着剤23の塗布を組立ライン外で数値制御により行うことは極めて容易であり、この塗布された粘着剤23を剥離紙21からドアボデー10側に移し替えることも容易である。このため、本粘着剤塗工方法には熟練したオペレータは不要となり、作業性を改善し、シール性に対する品質を向上し、ラインサイドのスペース効率を高め、作業環境を改善させるという、多くの顕著な効果を奏するものとなる。なお、剥離紙21への粘着剤塗布は数値制御で行うことが品質安定化のために好ましくはあるが、他の制御方法によること、あるいは手作業で塗布することも勿論可能である。手作業で塗布する場合であっても、被塗布側が常時移動する組立ライン上で行う現状の塗布動作と比べてはるかに安定した作業が可能である。
【0034】
更なる利点として、以下が挙げられる。各種形式の車種が流れる流れ作業では、一般に言う「ラインバランス」、すなわち組立作業負荷の均一化を図ってオペレータの配置を効率化するため、通常は組立作業負荷の高い車種と低い車種とを混在させて組立ラインに供給する体制を敷く。この場合、上述のようにボデー形式の異なった各種車種が順次入れ替わり流れてくる組立ラインにおいて粘着剤塗布行程を自動化すると、車種の入れ替わりごとに(極端には一台ごとに)塗布位置、塗布形状などの制御の切り替え、初期設定などを要するものとなる。これに対し、組立てライン外で粘着剤塗布を行う本実施の形態によれば、同一車種に対応した塗布作業を一定時間連続して行うことが可能となり、段取り工数を極端に低減することができ、生産性を大幅に高めるものとなる。
【0035】
なお、上述した方法では、剥離紙21に塗布された粘着剤23をドアボデー10のアクセスホール16側へ移し替えるものとしているが、同じ方法を用いた他の態様では、剥離紙21からホールカバー18の側へ粘着剤23を移し替えることが可能である。つまり、粘着剤23をまずホールカバー18の側に移し替え、その粘着剤23を取り付けたホールカバー18をアクセスホール16に嵌めて押し付け、接合、シールすることが可能である。この場合の効果は、上述した先の態様と全く同様であるが、ドア周りでの組み付け作業が重複してドア側への粘着剤移し替えのためのアクセスが困難な場合の有力な代替方法となり得る。
【0036】
上記代替方法を用いる際、粘着剤23をインナーパネル12側に移し替える場合とホールカバー18側に移し替える場合とでは、同じ粘着剤23であってもその形状は表裏逆とならねばならない。この対応として、図2(a)に示す積み重ねられた荷姿のままで全体をひっくり返し、上から順に剥離紙21ごと粘着剤23を取り出せば、表裏逆となった粘着剤23を容易に得ることができる。
【0037】
次に、本発明の第2の実施の形態にかかる粘着剤塗布方法について、図面を参照して説明する。本実施の形態では、粘着剤塗布が組立ライン外で行われることは先の実施の形態と共通しているが、粘着剤塗布を剥離紙21上ではなく、アクセスホール18に直接塗布する点で相違している。先に説明した図1において、本実施の形態では、粘着剤塗布装置20のベッド22上には、ワークとしてホールカバー18(図1のカッコ内に表示)自身が真空吸引などによりセットされている。
【0038】
図1において、ホールカバー18を固定したベッド22は、塗布ガン26に対向する位置に位置決めされる。これに対し、塗布ヘッド24が下降して塗布ガン26から粘着剤23を吐出する。同時に、塗布ヘッド24がXYZロボット27によって移動し、ホールカバー18の縁部19(図5(b)参照)を周回するよう粘着剤23が吐出される。このときの吐出動作は、先の第1の実施の形態と全く同様である。剥離紙21の場合と異なってホールカバー18の縁部19では3次元の曲面の場合もあり得るが、XYZロボット27によるZ方向の移動制御も可能であるため、塗布動作には何らの障害もない。
【0039】
粘着剤23の塗布が完了するとホールカバー18はベッド22から取り出され、出荷される。図3(a)に示すように、取り出されたホールカバー18には、塗布された粘着剤23を覆うように剥離紙21が被せられ、順次積み上げられる。これが出荷の荷姿となって流れ作業現場である組立ラインサイドまで搬送、供給される。供給されたホールカバー18は、オペレータによって1つずつ順次取り外され、図3(b)に示すように剥離紙21が剥ぎ取られた後、図3(c)に示すようにドアボデー10の対応するアクセスホール16に押し付けられ、接合される。剥ぎ取られた剥離紙21は廃棄されるか、あるいは回収後に再利用されてもよい。
【0040】
従来の技術に対する本実施の形態にかかる粘着剤塗工方法の優位な点は、先の実施の形態と全く同様に、粘着剤塗布に熟練した技術は不要となり、作業性を改善し、組立ラインサイドのスペース効率を高め、品質を向上させ、作業環境を改善させることが含まれる。加えて、粘着剤23を剥離紙21に塗布する先の実施の形態の粘着剤塗工方法と比較した場合、粘着剤23をアクセスホール16の位置に位置あわせする手作業が無くなり、粘着剤23が予めホールカバー18の所定位置に正確に位置決めされて直接塗布されることから、粘着剤23とホールカバー18との間の位置ずれの発生をより確実に回避することが可能となる。
【0041】
特にホールカバー18が、図5(b)に示すホールカバー18bのような真空成形などによる三次元形状である場合には、先の実施の形態に示す柔軟な剥離紙21をインナーパネル12に押し付けることに比べて作業がはるかに容易となり、例えばオペレータが片手で取り上げて押し付け、接合することが可能になるなど、作業性を向上させることができる。但し、本実施の形態にかかる粘着剤塗工方法は、図5(a)に示すフィルム状のホールカバー18aに対しても勿論適用が可能である。
【0042】
上記いずれの実施の形態においても、数値制御による安定した粘着剤塗布を可能にすることが極めて有効なものとなる。すなわち、組立ライン上にて手作業で塗布ガンを操作して粘着剤を塗布する際は、狙いの位置に正確に塗布できるか否かの問題のほかに、塗布ガンの先端とドアパネル側との距離、及びドアパネルに対する塗布ガンの移動速度、塗布ガンからの粘着剤の塗布量など、手作業による場合にはばらつきは避けられない。
【0043】
これに対し、図1に示すような粘着剤塗布装置20を利用した塗布作業においては、塗布条件に関連したこれらの調整を最適に制御することができる。上記自動車用ドアボデーの実施の形態を例に採れば、塗布ガン26の先端とワーク21との間の間隙、ワーク21に対する塗布ガン26の移動スピード、粘着剤23の直径などの諸条件を適切に制御することにより、粘着剤の塗布量誤差を10%以内に収めることができる。このような高精度の制御を組立ラインにおいて手作業で実現することは実質上不可能である。
【0044】
以上、本発明に係る粘着剤塗工方法の各実施の形態について述べてきたが、本発明はこの他に該粘着剤塗工方法を適用したホールカバー18をも包含している。当該ホールカバー18は、筐体に開口する作業用のアクセスホール16などの開口部を塞ぐためのカバーであって、アクセスホール16の周囲に対向する側の縁部19に、当該縁部19を周回する粘着剤23が塗布されていることを特徴としている。粘着剤23には、当該粘着剤23を覆う剥離紙21をさらに被せてあることが好ましい。
【0045】
本発明はさらに、自動車用ドアボデーの防水シールシステムをも包含している。該防水シールシステムは、アクセスホール16を有するインナーパネル12を含むドアボデー10と、前記アクセスホール16の周囲の形状に倣った粘着剤23と、前記粘着剤23の形状に応じて少なくともこれを覆うような形状に裁断された剥離紙21と、前記アクセスホール16の周囲を覆う縁部19を有するホールカバー18とから構成され、前記粘着剤23が、前記ホールカバー18の縁部19のアクセスホール16側に対向した面、または前記剥離紙21のアクセスホール16側に対向した面のいずれかに予め塗布されていることを特徴としている。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る粘着剤塗工方法、及びホールカバー、防水シールシステムは、流れ作業にて筐体開口部を閉鎖してシールする工程を含む組立加工を行う産業分野、例えば自動車組立の産業分野において有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明にかかる実施の形態に使用する粘着剤塗布装置の概要を示す斜視図である。
【図2】本発明にかかる実施の形態の粘着剤塗工方法の概要を示す説明図である。
【図3】本発明にかかる他の実施の形態の粘着剤塗工方法の概要を示す説明図である。
【図4】自動車用ドアボデーと、該ドアボデーに開口したアクセスホールをシールするホールカバーとの概要を示す斜視図(a)及び端面図(b)である。
【図5】ホールカバーを例示する斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
10.ドアボデー、 11.アウターパネル、 12.インナーパネル、 13.スリット開口部、 16.アクセスホール、 17.ドアミラー、 18.ホールカバー、 19.縁部、 20.粘着剤塗布装置、 21.剥離紙(ワーク)、 23.粘着剤(接着剤)、 26.塗布ガン、 27.XYZロボット、 29.粘着剤供給ホース。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流れ作業で連続して供給される筐体の表面に開口した開口部の周囲と、当該開口部を閉鎖するホールカバーの縁部との間を接合してシールする粘着剤を、前記開口部の周囲とホールカバーの縁部との間に塗工する粘着剤塗工方法において、
前記開口部の周囲の形状に倣って周回するリボン状の粘着剤を予め剥離紙上に塗布し、
流れ作業現場において前記粘着剤ごと剥離紙を前記開口部の周囲又は前記ホールカバーの縁部のいずれか一方に押し付けて粘着剤を剥離紙から当該いずれか一方の部位側に移し替え、
前記開口部の周囲に前記ホールカバーの縁部を押し付けて前記粘着剤により両者を接合してシールする、各ステップからなることを特徴とする粘着剤塗工方法。
【請求項2】
流れ作業で連続して供給される筐体の表面に開口した開口部の周囲と、当該開口部を閉鎖するホールカバーの縁部との間を接合してシールする粘着剤を、前記開口部の周囲とホールカバーの縁部との間に塗工する粘着剤塗工方法において、
前記ホールカバーの縁部に、該縁部を周回するリボン状の粘着剤を予め塗布し、
流れ作業現場において前記開口部の周囲に前記ホールカバーの縁部を押し付けて前記粘着剤により両者を接合してシールする、各ステップからなることを特徴とする粘着剤塗工方法。
【請求項3】
前記筐体が自動車用ドアボデーであり、前記開口部がドアボデーのインナーパネル又はアウターパネルに開口したアクセスホールであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の粘着剤塗工方法。
【請求項4】
前記粘着剤がゴム系、アクリル系、またはオレフィン系のいずれかのホットメルト接着剤からなることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一に記載の粘着剤塗工方法。
【請求項5】
前記粘着剤が、ブチルゴム系ホットメルト接着剤であることを特徴とする、請求項4に記載の粘着剤塗工方法。
【請求項6】
流れ作業で連続して搬送される筐体に設けられた開口部を覆うように接合されて前記開口部をシールするホールカバーにおいて、前記開口部の周囲に対向するホールカバーの縁部に、前記開口部の周囲の形状に倣って周回するリボン状の粘着剤が塗布されていることを特徴とするホールカバー。
【請求項7】
前記粘着剤を覆う剥離紙をさらに備えていることを特徴とする、請求項6に記載のホールカバー。
【請求項8】
自動車用ドアボデーのアクセスホールからの浸水を防止する防水シールシステムにおいて、
アクセスホールを有するインナーパネル又はアウターパネルを含むドアボデーと、
前記アクセスホールの周囲の形状に倣って周回する粘着剤と、
前記粘着剤の形状に応じて少なくとも当該粘着剤を覆う形状に裁断された剥離紙と、
前記アクセスホールの周囲を覆う縁部を周囲に有する前記アクセスホールを閉鎖するホールカバーと、から構成され、
前記縁部のアクセスホールに対向する面、または前記剥離紙のいずれか一方の面、のいずれかに前記粘着剤が予め塗布されていることを特徴とする防水シールシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−195834(P2009−195834A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40788(P2008−40788)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(507131609)アスタック株式会社 (2)
【Fターム(参考)】