説明

粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体及び粘着剤組成物

【課題】ポリオレフィン被着体に対する高い接着力を有し、タック、耐熱性、曲面接着性に優れ、かつシート状基材との良好な基材密着性を有する水性粘着剤を与える、樹脂組成物水性分散体を提供すること。
【解決手段】アルキル基の炭素数1〜14である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)70〜99.8重量%、アルキル鎖の炭素数1〜8である(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル(b)0.1〜15重量%、及び(a)、(b)以外の共重合可能なモノマー(c)0.1〜15重量%を含有するモノマーの合計100重量部に対し、85℃を超える軟化点を有する固形樹脂(d)0.5〜50重量部を含む混合物を、界面活性剤(e)を必須成分とする水性媒体中で重合してなる粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に関するものである。詳しくはポリオレフィン被着体に対する高い粘着力を有し、タック、高温下における保持力及び曲面接着性に優れ、かつウレタンフォーム等の発泡体基材との良好な基材密着性を有する粘着剤組成物を形成し得る粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に関する。
【0002】
さらに、本発明は、上記粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を必須成分として含有し、さらに塗工適性を付与するための粘度調整剤、レベリング剤、消泡性を付与するための消泡剤、保存性を付与するための防腐剤、凝集力を付与するための架橋剤、接着力を付与するための粘着付与剤などの各種機能を有する材料を必要に応じて含有せしめてなる、特に発泡体基材に好ましく適用することができる水性粘着剤組成物及び該粘着剤組成物を用いてなる粘着シートに関する。
【背景技術】
【0003】
近年、安全衛生及び環境問題に対する配慮から脱溶剤化が進行し、粘着剤においても溶剤型から水性型への移行が進行しつつある。
しかし水性粘着剤においては、塗工後の乾燥工程においてエマルジョン粒子が融着して乾燥皮膜を形成するため、溶剤型粘着剤に比べて塗膜の緻密さに欠け、特に発泡体基材に対する基材密着性や、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン被着体に対する接着力が劣るという欠点を有していた。
【0004】
基材密着性が不十分である時の弊害としては、例えば粘着シートを曲面状の被着体に貼り付けた場合、基材自身の復元力により平坦状に戻ろうとする応力が働くため、塗工物が剥がれる方向に作用する。この時、基材と粘着剤層との間で剥離が生じ、粘着剤は被着体上に残った状態で、基材が被着体から剥離してしまう。なお、基材密着性が十分であったとしても、被着体に対する粘着剤層の接着力が不足していれば、被着体と粘着剤層との間で剥離が生じ、同じく塗工物は剥離してしまう。
【0005】
この基材に対する密着性及びポリオレフィン被着体に対する接着力の低さを補うための検討が従来から行われているが、基材密着性とタック、軟化点、曲面接着性などの粘着物性バランスに優れた水性粘着剤組成物は得られていない。
【0006】
また、特許文献1には、アクリル系共重合体と、石油樹脂系粘着付与剤樹脂と、エラストマーとを含有する発泡体用水性エマルジョン型粘着剤が開示されている(特開平7−179835号公報参照)。
しかしながら特許文献1に開示されているエマルジョン型粘着剤では、石油系粘着付与樹脂およびエラストマーが多量に配合されるため、高温下における曲面接着性が不十分である。
【0007】
また、特許文献2には、アクリル系共重合体と、軟化温度が100℃以上のロジン系粘着付与樹脂とを含有する発泡体用水性エマルジョン型粘着剤が開示されている(特開平11−131034号公報参照)。
しかしながら、特許文献2に開示される粘着剤は、ロジン系粘着付与樹脂が多量に配合されるため、高温下における十分な保持力が得られない。
【0008】
また、特許文献3には、エポキシ変性アクリル系エマルションに粘着付与樹脂を含有する自動車内装用水性エマルション粘着剤が開示されている(特開平6−158012号公報参照)。
しかしながら、特許文献3に開示の組成物では、エポキシ基とカルボキシル基とによる架橋が進行するため、高温化における曲面接着性および基材への密着性が不十分である。また、粘着付与樹脂が多量に配合されるため、高温下における十分な保持力が得られない。
【特許文献1】特開平7−179835号公報
【特許文献2】特開平11−131034号公報
【特許文献3】特開平6−158012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、良好な接着力を有すると共にタック、高軟化点、曲面接着性などの粘着物性バランスに優れ、かつウレタンフォーム等のシート状基材に対する基材密着性に優れる粘着剤組成物を形成し得る粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記現状に鑑みて鋭意検討をおこなった結果、本発明に至ったものである。
すなわち、本発明は、アルキル鎖の炭素数1〜14である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)70〜99.8重量%、アルキル鎖の炭素数1〜8である(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル(b)0.1〜15重量%及び(a)、(b)以外の共重合可能なモノマー(c)0.1〜15重量%を含有するモノマーの合計100重量部に対し、85℃を超える軟化点を有する固形樹脂(d)0.5〜50重量部を含む混合物を界面活性剤(e)を必須成分とする水性媒体中で重合してなる粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に関する。
【0011】
また、本発明は、85℃を超える軟化点を有する固形樹脂(d)がロジン系樹脂、テルペン系樹脂及び石油系炭化水素樹脂からなる群より選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする上記発明の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に関する。
【0012】
また、本発明は、界面活性剤(e)が共重合可能なエチレン性不飽和基を有する反応性界面活性剤であることを特徴とする上記いずれかの発明の粘着剤用複合樹脂組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、上記いずれかの発明の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を含有することを特徴とする水性粘着剤組成物に関する。
【0014】
さらに、本発明は、シート状基材の少なくとも一方の面に、上記発明の水性粘着剤組成物から形成される粘着剤層が設けられてなることを特徴とする粘着シートに関する。
【0015】
さらにまた、本発明は、シート状基材が発泡体基材であることを特徴とする上記発明の粘着シートに関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体は、良好な接着力及び高温での曲面接着性を有し、かつ発泡体基材に対する基材密着性に優れる粘着剤層を形成し得る粘着剤組成物を提供できる。また、本発明の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を含有する粘着剤組成物から形成される粘着加工品は、被着体に貼り付けされた状態で高温下に暴露された場合でも良好な保持力を示し、耐熱性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に用いられるアルキル基の炭素数が1〜14である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)としては、メチル(メタ)アクリレート、[メチルアクリレートとメチルメタクリレートとを併せてメチル(メタ)アクリレートと表記する。以下同様。]、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの直鎖または分岐脂肪族アルコールのアクリル酸エステル及び対応するメタクリル酸エステルなどが挙げられる。なかでも、アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく用いられる。
これらは、全モノマー成分100重量%中、70〜99.8重量%含有され、単独であるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0018】
アルキル鎖の炭素数1〜8である(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル(b)としては、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシルブチル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール(メタ)アクリレートなどが例示できる。好ましくは、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、さらに好ましくは、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートが挙げられる。2−ヒドロキシエチルメタクリレート及び/又は4−ヒドロキシブチルアクリレートを使用すると、基材密着性と粘着物性のバランスに特に優れる。
これらは全モノマー成分100重量%中、0.1〜15重量%含有され、単独であるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%である。0.1重量%未満では、粘着力、保持力及び高温下での曲面接着性のバランスが損なわれ、15重量%を超えると基材密着性が損なわれる。
【0019】
また、(a)、(b)以外の共重合可能なモノマー(c)としては、例えばアミド基、カルボキシル基、エポキシ基、カルボニル基などの反応性官能基を有するモノマー等が挙げられる。
アミド基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
カルボキシル基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
エポキシ基を有するモノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
カルボニル基を有するモノマーとしては、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、好ましくは4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトンなど)、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−(メタ)アクリレート−アセチルアセテートなどが挙げられる。
なお、カルボニル基を有するモノマーを使用する場合に、粘着剤組成物を得る際に配合し得る架橋剤としては、アミン類、ヒドラジド化合物などが挙げられる。
【0020】
また、モノマー(c)として、上記のような反応性官能基を有さないモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート化合物や、
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、モノ−(2−ヒドロキシルエチル−α−クロロ(メタ)アクリレート)アシッドホスフェート、ビニルブロックトイソシアネート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−トリブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、ビニルエステル、ビニルピリジン、(メタ)アクリロニトリル、ブタジエン、クロロプレンなどが挙げられる。
さらには、モノマー(c)として、(a)以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、(b)以外の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルを使用してもよい。
これらのモノマー(c)は、全モノマー成分中0.1〜15重量%含有され、単独であるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明に用いられる、85℃を超える軟化点を有する固形樹脂(d)としては、ロジンエステル、重合ロジン、水添ロジン、不均化ロジン、マレイン酸変性ロジン、フマル酸変性ロジン、ロジンフェノール樹脂などのロジン系樹脂、
α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、ジペンテン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、酸変性テルペン樹脂、スチレン化テルペン樹脂などのテルペン系樹脂、
C5脂肪族炭化水素樹脂、C9芳香族炭化水素樹脂、水添C9炭化水素樹脂、C5−C9共重合樹脂、ジシクロペンタジエン炭化水素樹脂などの石油系炭化水素樹脂、
さらにはクマロン−インデン樹脂、スチレン系樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂などを例示することができる。
これらの内高い接着力を得やすいという点から、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油系炭化水素樹脂の少なくともいずれかを使用することが重要である。
【0022】
85℃を超える軟化点を有する固形樹脂(d)の使用量は、前記モノマー(a)、(b)及び(c)の合計100重量部に対し0.5〜50重量部であることが重要であり、好ましくは1〜30重量部、さらに好ましくは3〜20重量部である。
これらは必要に応じて単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用しても良い。
使用量が0.5重量部未満であると粘着力及び曲面接着性のバランスが損なわれ、50重量部を超えると高温下での保持力及び基材密着性が損なわれる。
【0023】
また軟化点が85℃以下である固形あるいは液状の樹脂は、接着力向上及び耐熱性向上の効果が十分に得られないため、それらを単独で使用することは好ましくはないが、上記の85℃を超える軟化点を有する固形樹脂(d)と併用するのであれば使用してもかまわない。
【0024】
本発明の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を得る際に用いる界面活性剤(e)としては、反応性界面活性剤、非反応性界面活性剤などを、単独であるいは2種類以上組み合わせて用いることができるが、耐熱性などを考慮すれば、反応性界面活性剤を用いる方が好ましいのであるが、これに限定されるものではない。
【0025】
反応性界面活性剤としては以下の化合物を挙げることができる。
アニオン系界面活性剤としてはノニルフェニル骨格の旭電化工業株式会社製「アデカリアソープSE−10N」、第一工業製薬株式会社製「アクアロンHS−10、HS−20」など、長鎖アルキル骨格の第一工業製薬株式会社製「アクアロンKH−05、KH−10」、花王株式会社製「ラテムルPD−104」、旭電化工業株式会社製「アデカリアソープSR−10N」など、燐酸エステル骨格の日本化薬株式会社製「KAYARAD」などが例示できる。
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタン高級脂肪酸エステル類、グリセリン高級脂肪酸エステル類などの分子末端あるいは中間部に不飽和二重結合を有し、モノマーと共重合するものが挙げられ、それらの市販品としては、旭電化工業株式会社製「アデカリアソープNE−10、ER−10」、花王株式会社製「ラテムルPD−420、PD−430、PD−450」、第一工業製薬株式会社製「アクアロンRN−10、RN−20、RN−50」、日本乳化剤株式会社製「アントックスNA−16」などが挙げられる。
【0026】
また非反応性界面活性剤としては、以下の化合物を例示することができる。
アニオン系界面活性剤としてはステアリン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類などが例示できる。
【0027】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタンモノステアレートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル類、オレイン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル類などが例示できる。
【0028】
本発明の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を得る際に用いる重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩またはアゾビス系カチオン塩もしくは水酸基付加物質などの水溶性の熱分解型重合触媒、あるいはレドックス系重合触媒を用いることができる。レドックス系重合触媒としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物とロンガリット、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤との組み合わせ、または過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムとロンガリット、チオ硫酸ナトリウムなどとの組み合わせ、過酸化水素水とアスコルビン酸との組み合わせなどが挙げられる。
【0029】
本発明の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体は、重合する際に、分子量や分子量分布を制御するための連鎖移動剤として、メルカプタン系、チオグリコール系、β−メルカプトプロピオン酸などのチオール系化合物及びメタノール、エタノールなどのアルコールなどを用いることができる。添加量は、全モノマー100重量部に対して0.01〜10.0重量部であることが好ましく、0.02〜5重量部であることがより好ましい。
また、必要に応じてキレート化剤、電解質、pH調整剤などを適量用いることができる。
【0030】
重合の方法及び条件は特に制限されず、従来公知の方法及び条件を採用することができる。すなわち、モノマー(a)〜(c)の混合物中に固形樹脂(d)を溶解ないしは分散させた後重合させればよいのであるが、該溶解液あるいは分散液に界面活性剤(e)の一部あるいは全部と水とを加えて攪拌し乳化させ、乳化物の態様として重合に供することが好ましい。重合の手順としては、
たとえば、乳化物を全量反応容器に仕込んで重合を開始しても良く、一部を反応容器に仕込んで重合を開始した後にさらに数回に分けて分割添加しても良く、一部を反応容器に仕込んで重合を開始した後に残りを滴下しても良く、あるいはあらかじめ水及び必要に応じて界面活性剤の一部を反応容器に仕込んでおき、全量を滴下しても良い。重合条件は、一般に50〜90℃、好ましくは60〜80℃の重合温度で、通常、2〜18時間重合される。
【0031】
重合開始剤の添加方法としては、あらかじめ全量を反応容器に仕込んでおいても良く、昇温後に全量を添加しても良く、一部を反応容器に仕込んでおき重合を開始した後にさらに数回に分けて分割添加しても良く、一部を反応容器に仕込んでおき重合を開始した後に残りを滴下しても良く、あるいは全量を滴下しても良い。重合開始剤を分割添加又は滴下する場合には、単独で反応容器内に分割添加又は滴下しても良く、上記乳化物と混合された状態にて分割添加または滴下されても良い。なおこれらの手法により重合開始剤を添加した後、反応率を高める目的で1回又は2回以上重合開始剤を追加添加しても良い。
【0032】
次に、本発明の粘着剤組成物について説明する。
本発明の粘着剤組成物は、上記粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を主たる成分とするものであり、この粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に必要に応じて架橋剤、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、充填剤、中和剤、着色剤、シランカップリング剤、防腐剤、粘着付与樹脂などを添加することにより得ることができる。粘着剤組成物の粘度は、B型粘度計を用いローターNo.4、12min-1、液温25℃で測定したとき、4000mPa・s〜25000mPa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは6000mPa・s〜20000mPa・s、さらに好ましくは8000mPa・s〜18000mPa・sである。粘度が4000mPa・s未満であると剥離紙に塗工したときにはじきなどの塗工欠陥を生じやすく、一方、粘度が25000mPa・sを超えると塗工斑およびかすれなどの塗工欠陥を生じやすいため、好ましくない。
【0033】
上記の水性粘着剤組成物より得られる粘着剤層をシート状基材上に設けることにより、本発明の粘着シートを得ることができる。粘着シートは粘着剤層をシート基材の片面に設けても両面に設けてもよい。なお、両面に粘着剤層を設けた粘着シートの一方の面を、さらに別のシート状基材に貼り付けることによって、積層された粘着シートを得ることもできる。
シート状基材上に粘着剤層を設ける方法としては従来公知の方法によることができるが、2通りの方法に大別することができる。
(1):シート状基材上に粘着剤組成物を塗工、乾燥させることにより直接粘着剤層を設ける方法。
(2):シリコーン等により表面が剥離処理された剥離紙上に粘着剤組成物を塗工、乾燥させて、剥離紙上に粘着剤層を形成した後、該粘着剤層をシート状基材上に転写させる方法。
上記方法のうち、粘着剤組成物の塗工の容易さという観点から、(2)の方法によることが好ましい。なお、得られた粘着シートを被着体に施工する時点までは、粘着剤層保護のため、剥離紙は剥がさずにおくことが好ましい。
【0034】
本発明の水性粘着剤組成物より形成される粘着剤層は、各種シート状基材に対する密着性に優れている。そのため、本発明においてはシート状基材として、従来、密着性確保が困難とされていた発泡体基材を好ましく使用することができる。
【0035】
粘着剤組成物を塗工する方法としては周知の塗工方法によればよく、例えばアプリケーター、コンマコーター、リバースコーター、スロットダイコーター、リップコーター、グラビアチャンバーコーター、カーテンコーター等の各種塗工装置を使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中にある部とは重量部を、%とは重量%をそれぞれ示す。
【0037】
(実施例1)
2−エチルヘキシルアクリレート69.7部、メチルメタクリレート7部、メチルアクリレート20部、アクリル酸2部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1部、ジアセトンアクリルアミド0.3部の混合物中にロジン系樹脂として荒川化学工業(株)製「パインクリスタルKE−100」(軟化点100℃のロジンエステル)15部を加えて攪拌し、溶解した。これにさらに反応性アンモニア中和型アニオン性界面活性剤である第一工業製薬(株)製「アクアロンKH−10」1.8部を脱イオン水38.4部に溶解したものを加え、攪拌して乳化物を得、これを滴下ロートに入れた。
撹拌機、冷却管、温度計及び上記滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、脱イオン水を20.0部仕込み、フラスコ内部を窒素ガスで置換し、撹拌しながら内温を80℃まで昇温し、5%過硫酸アンモニウム水溶液を固形分として0.15部添加した。5分後、上記滴下ロートから上記乳化物の滴下を開始し、これと並行して5%過硫酸アンモニウム水溶液を固形分として0.45部を別の滴下口から3時間かけて滴下した。
内温を80℃に保ったまま、上記乳化物及び5%過硫酸アンモニウム水溶液滴下終了30分後に、5%過硫酸アンモニウム水溶液を固形分として0.1部を2回に分けて30分おきに添加した。
さらに撹拌しながら80℃にて2時間熟成した後冷却し、アンモニア水にて中和し、固形分61.5%の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を得た。
得られた粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に、消泡剤、レベリング剤、防腐剤を加え、さらにアンモニア水でpH=7.5〜8に調整し、架橋剤として10%アジピン酸ジヒドラジド水溶液を固形分として0.1部加え、さらに粘度調整剤で粘度を8000mPa・s(BL型粘度計、No.4ローター使用、12min-1にて25℃で測定)に調整し、水性粘着剤組成物を得た。これをアプリケーターで剥離紙上に乾燥塗膜量が60g/m2になるように塗工し、100℃の乾燥オーブンで180秒間乾燥後、シート状基材としての厚さ6mmのポリエーテル系ウレタンフォーム上に圧着して粘着剤層を転写し、粘着シートを得た。
【0038】
(実施例2)
2−エチルヘキシルアクリレート20.0部、ブチルアクリレート69.8部、メチルメタクリレート8部、アクリル酸1部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1部、ジアセトンアクリルアミド0.2部の混合物中にテルペン系樹脂としてヤスハラケミカル(株)製「YSレジンPX−1250」(軟化点125℃のテルペン重合体)15部を加えて攪拌し溶解した。これにさらに非反応性アンモニア中和型アニオン性界面活性剤である第一工業製薬(株)製「ハイテノールLA−12」1.8部を脱イオン水38.4部に溶解したものを加え、攪拌して乳化物を得、これを滴下ロートに入れた。
以下、実施例1と同様にして水性粘着剤組成物及び粘着シートを得た。
【0039】
(実施例3)
2−エチルヘキシルアクリレート29.8部、ブチルアクリレート50部、メチルアクリレート13部、メチルメタクリレート5部、アクリル酸1部、4−ヒドロキシブチルアクリレート1部、ジアセトンアクリルアミド0.2部の混合物中にロジン系樹脂として荒川化学工業(株)製「パインクリスタルKE−100」(軟化点100℃のロジンエステル)5部、及びヤスハラケミカル(株)製「クリアロンK4090」(軟化点90℃の水添テルペン樹脂)10部を加えて攪拌し、溶解した。
以下、実施例1と同様にして水性粘着剤組成物及び粘着シートを得た。
【0040】
(実施例4)
2−エチルヘキシルアクリレート29.8部、ブチルアクリレート50部、エチルアクリレート14部、メチルメタクリレート4部、アクリル酸1部、4−ヒドロキシブチルアクリレート1部、ジアセトンアクリルアミド0.2部の混合物中にロジン系樹脂として荒川化学工業(株)製「パインクリスタルKE−100」(軟化点100℃のロジンエステル)3部、テルペン系樹脂としてヤスハラケミカル(株)製「クリアロンK4090」(軟化点90℃の水添テルペン樹脂)10部、及び石油系樹脂としてイーストマンケミカル社製「ピコラスチックA5」(軟化点5℃のスチレンオリゴマー)2部を加えて攪拌し、溶解した。
以下、実施例1と同様にして水性粘着剤組成物及び粘着シートを得た。
【0041】
(実施例5)
2−エチルヘキシルアクリレート30部、ブチルアクリレート50部、エチルアクリレート15部、メチルメタクリレート3部、アクリル酸1部、4−ヒドロキシブチルアクリレート1部の混合物中にロジン系樹脂として荒川化学(株)製「ペンセルD−125」(軟化点125℃の重合ロジンエステル)3部を加えて攪拌し溶解した。これにさらに非反応性アンモニア中和型アニオン性界面活性剤である第一工業製薬(株)製「ハイテノールLA−12」0.8部を脱イオン水26.2部に溶解したもの、及び連鎖移動剤としてラウリルメルカプタン0.03部を加え、攪拌して乳化物を得、これを滴下ロートに入れた。
以下、実施例1と同様にして固形分63%の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を得た。
得られた粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に、消泡剤、レベリング剤、防腐剤を加え、さらにアンモニア水でpH=7.5〜8に調整し、ロジン系粘着付与樹脂として荒川化学(株)製「スーパーエステルE−650」(軟化点が160℃であるロジンエステルの水性分散体。固形分50%)を固形分として12部加えた。さらに粘度調整剤で粘度を8000mPa・s(BL型粘度計、No.4ローター使用、12min-1にて25℃で測定)に調整し、水性粘着剤組成物を得た。これをアプリケーターで剥離紙上に乾燥塗膜量が60g/m2になるように塗工し、100℃の乾燥オーブンで180秒間乾燥後、基材としての厚さ6mmのポリエステル系ウレタンフォーム上に圧着して粘着剤層を転写し、粘着シートを得た。
【0042】
(比較例1)
2−エチルヘキシルアクリレート69.8部、メチルメタクリレート8部、メチルアクリレート20部、アクリル酸2部、ジアセトンアクリルアミド0.2部の混合物中に「パインクリスタルKE−100」15部を加えて攪拌し、溶解した。
以下、実施例1と同様にして水性粘着剤組成物及び粘着シートを得た。
【0043】
(比較例2)
実施例1において用いた「パインクリスタルKE−100」の代わりにイーストマンケミカル製「ステベライトE」(軟化点80℃の水添ロジン)を5部用いたこと以外は実施例1と同様にして水性粘着剤組成物及び粘着シートを得た。
【0044】
(比較例3)
実施例2において用いた「YSレジンPX−1250」の代わりにヤスハラケミカル(株)製「YSレジンPX−800」(軟化点80℃のテルペン重合体)を15部用いたこと以外は実施例2と同様にして水性粘着剤組成物及び粘着シートを得た。
【0045】
(比較例4)
実施例1において「パインクリスタルKE−100」を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得た。
得られた粘着剤用樹脂組成物水性分散体に、消泡剤、レベリング剤、防腐剤を加え、さらにアンモニア水でpH=7.5〜8に調整し、架橋剤として10%アジピン酸ジヒドラジド水溶液を固形分として0.1部加え、ロジン系粘着付与樹脂として荒川化学(株)製「スーパーエステルE−650」(軟化点が160℃であるロジンエステルのエマルジョン。固形分50%)を固形分として15部加えた。さらに粘度調整剤で粘度を8000mPa・s(BL型粘度計、No.4ローター使用、12min-1にて25℃で測定)に調整し、水性粘着剤組成物を得た。これをアプリケーターで剥離紙上に乾燥塗膜量が60g/m2になるように塗工し、100℃の乾燥オーブンで180秒間乾燥後、基材としての厚さ6mmのポリエーテル系ウレタンフォーム上に圧着して粘着剤層を転写し、粘着シートを得た。
【0046】
[試験方法]
1)接着力(90°剥離)
粘着シートを幅25mmの短冊状にカットし剥離紙を剥がして、厚さ2mmのポリプロピレン板(以下、「PP板」と略す。)に貼り付け、2kgロールで1往復した後、23℃−50RH%雰囲気下にて20分間放置した。所定時間経過後、上記雰囲気下で、300mm/分の速さで90゜方向に剥離した際の接着強度を測定した。
【0047】
2)40℃保持力
粘着シートを幅25mmの短冊状にカットし剥離紙を剥がして、23℃-50RH%雰囲気下で厚さ2mmのPP板の端部に、貼り付け面積25×25mmで貼り付け、5Kgロールで1往復圧着した。貼着試料を40℃雰囲気下に20分間放置後、粘着シートに500gの荷重を掛け、24時間放置した後のずれ幅を測定した。(粘着シートが落下したときは、落下するまでの時間を測定した。)
【0048】
3)軟化点(昇温保持力)
粘着シートを幅25mmの短冊状にカットし剥離紙を剥がして、23℃-50RH%雰囲気下で厚さ2mmのPP板の端部に貼り付け面積25×25mmで貼り付け、5Kgロールで1往復圧着した。貼着試料を上記雰囲気下に24時間放置後、38℃雰囲気中で粘着シートに310gの荷重を掛け、15分放置してから5分間で3℃ずつ昇温させていき、粘着シートが落下したときの温度を測定した。
【0049】
4)曲面接着性
粘着シートを幅25mm、長さ180mmにカットし、剥離紙を剥がして80mmφの円筒状PP樹脂の曲面に貼り付け、23℃雰囲気下で24時間放置した。その後さらに80℃雰囲気下で24時間放置後、貼り付けられた塗工物の末端部分の剥がれ状態を目視で観察し、下記基準で評価した。
◎;末端部分に剥がれが認められない。
○;末端部分に試料長さ5mm以下の剥がれが認められる。
△;末端部分に試料長さ5mmを超え10mm以下の剥がれが認められる。
×;末端部分に試料長さ10mmを超える剥がれが認められる。
【0050】
5)基材密着性
粘着シートの粘着面を指でこすり、基材からの剥がれ状態を目視で観察し、下記基準で評価した。
◎;5回こすっても剥がれが認められない。
○;5回こすると剥がれが認められる。
△;3回こすると剥がれが認められる。
×;1回こするだけで剥がれが認められる。
【0051】
表1に接着性能の評価結果を示した。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル鎖の炭素数1〜14である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)70〜99.8重量%、アルキル鎖の炭素数1〜8である(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル(b)0.1〜15重量%及び(a)、(b)以外の共重合可能なモノマー(c)0.1〜15重量%を含有するモノマーの合計100重量部に対し、85℃を超える軟化点を有する固形樹脂(d)0.5〜50重量部を含む混合物を、界面活性剤(e)を必須成分とする水性媒体中で重合してなる粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体。
【請求項2】
85℃を超える軟化点を有する固形樹脂(d)がロジン系樹脂、テルペン系樹脂及び石油系炭化水素樹脂からなる群より選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1記載の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体。
【請求項3】
界面活性剤(e)が共重合可能なエチレン性不飽和基を有する反応性界面活性剤であることを特徴とする請求項1または2記載の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を含有することを特徴とする水性粘着剤組成物。
【請求項5】
シート状基材の少なくとも一方の面に、請求項4記載の水性粘着剤組成物から形成される粘着剤層が設けられてなることを特徴とする粘着シート。
【請求項6】
シート状基材が発泡体基材であることを特徴とする請求項5記載の粘着シート。

【公開番号】特開2008−81691(P2008−81691A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266320(P2006−266320)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】