説明

粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シート

【課題】高速液体クロマトグラフィーによる検査、分析に一般的に使用されるマイクロプレートのシールに好適な粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートの提供。
【解決手段】アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールに対する溶解度が3%以下であり、かつ、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートに対する粘着力が0℃〜40℃の範囲で3N/10mm以上の粘着剤組成物を用いて粘着シートを製造する。このような粘着シートによれば、溶媒に溶けることなくマイクロプレートを良好にシールできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析、検査用のマイクロプレートのシールに好適な粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
係るマイクロプレートは、例えば以下の特許文献1や非特許文献1、2などに示すように多くのくぼみのついたプラスチック製の箱型の成形品で、分析、検査時の試料保管用に使用される。
【0003】
くぼみの数が96穴以上で、1つの穴の容量が数mlのマイクロプレートは、主に高速液体クロマトグラフィーの自動分析用の試料保管用に用いられ、マイクロプレート中の試料は、オートサンプラーによって液体クロマトグラフィーへ搬送される。分析、検査試料は、その試料毎に様々な溶媒に希釈され、マイクロプレートの穴へ入れられ保管されるが、分析、検査までの間、外部物質による汚染防止のためにシール材により穴を塞いで保管する。
【0004】
高速液体クロマトグラフィーの場合、マイクロプレートからのサンプリングはシリンジ針によるものが多く、この場合のシール材料には、シリンジ針により容易に穴が開くよう厚さ数十μmのポリエステルフィルムやオレフィン系のフィルム、又はこれらプラスチックフィルムとアルミ箔との複合体が使用される。
【0005】
シール材となるフィルムとマイクロプレートの接着には、加熱溶融タイプの接着剤を用いる方法と、感圧により接着する粘着剤を用いる方法があり、これらの接着剤は予めシール材のフィルムに塗布され、一体となっている。特に感圧性の粘着タイプのものは、マイクロプレートへのシールの固定に加熱設備を必要とせず、加熱するによる試料の変性も起こらないことから、シール材として適用範囲の広いものとなっている。
【0006】
マイクロプレートシール用として販売される感圧タイプの粘着シートは、前述のシール材料を支持体として、シリコーン系の粘着剤やアクリル系の粘着剤が塗工されているものが一般的である。
【0007】
また、試料を溶解、希釈するための溶媒は各種あるが、一般的にはアセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールが使用される。
【0008】
シリコーン系粘着剤の上記の各溶媒に対する溶解度は、アセトニトリルで 5.5%、ジメチルスルフォキシドで10%となり、また、メタノールに対する溶解度は26.5%と高い数値となる。
【0009】
また、アクリル系の粘着剤は、メタノールに対する溶解度は3%と低いが、アセトニトリルやジメチルスルフォキシドに対する溶解度は95%以上と高く、溶解してしまう。
【0010】
従って、シール後のマイクロプレートの搬送等により溶媒と粘着剤が触れた時や、分析時、粘着層を貫通したシリンジ針に粘着剤の付着が起こった場合、溶媒中に粘着剤成分が溶け出し、分析精度を落とすこととなる。このため、溶媒によってシール材を使い分けたり、測定数の数増しをするなど、煩雑な作業を余儀なくされている。
【0011】
また、粘着シートの二次加工によりシリンジ注入部の粘着剤を取り除いたタイプのシール材も販売されているが、これは加工工程が追加されるために高価になるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−217060号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】株式会社バイオクロマトホームページ、タイタースティックHC(HC-Pタイプ)、[online]、[平成21年9月28日検索]、インターネット〈 URL:http://www.bicr.co.jp/origin/p.html〉
【非特許文献2】株式会社スカイサイエンスホームページ、[online]、[平成21年9月28日検索]、インターネット〈 URL:http://www.sky-go.com/lab_staff/lab048.htm〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上述べたように、従来のマイクロプレートのシールに使用されているシリコーン系およびアクリル系粘着剤は、高速液体クロマトグラフィーによる検査、分析に一般的に使用される一部の溶媒に溶解するため、その溶媒と粘着剤が触れた時や、分析時、粘着層を貫通したシリンジ針に粘着剤の付着が起こった場合、溶媒中に粘着剤成分が溶け出し、分析精度を落とすこととなる。そのため、従来では溶媒によってシール材を使い分けたり、測定数の数増しをするなど、煩雑な作業を余儀なくされていた。あるいは、シリンジ注入部の粘着剤を取り除いたタイプのシール材を使用しなくてはならず、高価なシール材を使用しなければならなかった。
【0015】
本発明は、上記従来技術の有していた課題を解決するためになされたもので、高速液体クロマトグラフィーによる検査、分析に一般的に使用される溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールに溶解せず、かつ粘着特性に優れ、粘着層を除去する等の作業を必要としない、マイクロプレートのシールに好適な粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的を達成するために、本発明の特許請求の範囲に記載のような構成とするものである。
【0017】
すなわち、本発明の粘着剤組成物は、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールに対する溶解度を3%以下、かつ、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートに対する粘着力を0℃〜40℃の範囲で3N/10mm以上とする。
【0018】
この場合、本発明の粘着剤組成物は、ブチルゴム100重量部に対して、軟化点85〜140℃の脂環族飽和炭化水素樹脂を5〜30重量部配合する。
【0019】
また、本発明の粘着シートは、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールに対する溶解度を3%以下、かつ、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートに対する粘着力を0℃〜40℃の範囲で3N/10mm以上とする。
【0020】
この場合、本発明の粘着シートは、上記粘着剤組成物を基材上に塗工する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の粘着剤組成物は、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールに対する溶解度を3%以下、かつ、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートに対する粘着力を0℃〜40℃の範囲で3N/10mm以上であるから、これをポリエステルフィルム等の基材に塗工した粘着シートは、粘着剤と溶媒の接触があったり、試料のサンプリング時に粘着剤層を通過するシリンジに粘着剤が付着し溶媒中に浸入したとしても、粘着剤が溶媒に溶け出すことがないため、より精度の高い分析を行うことができ、かつマイクロプレートのシールの固定に十分な粘着力を有するため、分析試料への外部物質による汚染を防止することができる。
また、本発明の粘着シートは、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールに対する溶解度を3%以下、かつ、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートに対する粘着力を0℃〜40℃の範囲で3N/10mm以上であるから、これをポリエステルフィルム等の基材に塗工した粘着シートは、粘着剤と溶媒の接触があったり、試料のサンプリング時に粘着剤層を通過するシリンジに粘着剤が付着し溶媒中に浸入したとしても、粘着剤が溶媒に溶け出すことがないため、より精度の高い分析を行うことができ、かつマイクロプレートのシールの固定に十分な粘着力を有するため、分析試料への外部物質による汚染を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係わる粘着シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、エラストマーとしてブチルゴム、粘着付与剤として脂環飽和族炭化水素樹脂を配合することにより、高速液体クロマトグラフィーによる検査、分析に一般的に使用される溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールに溶解せず、かつ、粘着特性に優れたマイクロプレートのシールに好適な粘着剤組成物を見出し、それを用いた粘着シートを開発することができた。
【0024】
図1は本発明に係る粘着シート1の実施の一形態を示す拡大断面図である。
【0025】
図示するようにこの粘着シート1は、ポリエステルフィルムなどからなる基材2上に、粘着剤組成物からなる粘着剤層3を備えた構造となっている。
【0026】
この粘着剤層3を構成する粘着剤組成物は、具体的には、ブチルゴム100重量部に対して、軟化点85℃〜140℃の脂環族飽和炭化水素樹脂を5〜30重量部配合したもので、これをトルエンに溶解し、基材2のポリエステルフィルム上に塗布、乾燥することにより粘着剤層3を作製することができる。
【0027】
上記ブチルゴムには、レギュラーゴムのほかハロゲン化ブチルゴムを使用できる。これらはムーニー粘度によるレギュラーゴムのグレードやハロゲン化ブチルゴムのような官能基を付与した特殊グレードによらず、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールのいずれの溶媒にも溶解度が3%以下となる。
【0028】
また、粘着付与樹脂には、軟化点85〜140℃の脂環族飽和炭化水素樹脂を使用できる。これらは軟化点の差等によるグレードによらずアセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールのいずれの溶媒にも溶解度が3%以下となる。
【0029】
また、上記ブチルゴム100重量部に対して、上記脂環族飽和炭化水素樹脂5〜30重量部を配合した粘着剤組成物も、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールのいずれの溶媒にも溶解度が3%以下となる。
【0030】
また、上記粘着剤組成物をトルエンに溶解し、ポリエステルフィルムに塗布、乾燥することにより作製した本発明に係る粘着シート1は、マイクロプレートの成形に使用されるポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートに対し十分に固定し得る3N/10mm以上の粘着力を発揮することができる。
【0031】
上記脂環族飽和炭化水素樹脂の添加量は、5〜30重量部が望ましい。上記脂環族飽和炭化水素樹脂の添加量が30重量部を超えると、0℃において粘着力が低下し、十分に固定できる3N/10mmを下回る。また、添加量が5重量部未満の場合も粘着力が低下するからである。
【0032】
また、本発明の粘着シート1の基材2としては、ポリエステルフィルムでは10〜50μmの厚さ、ポリオレフィンフィルムでは20〜150μmの厚さ、および、それらプラスチックフィルムと5〜50μmの厚さのアルミ箔の複合体が好適であるが、マイクロプレートへの貼り付けを行う際に、極端に伸びたり、破れが発生することがなく、かつ、検査、分析時にシリンジ針が速やかに貫通し、針の折れ曲がり等が発生しない強度であることが必要な事項であり、この事項を満足できれば基材2の厚さは上記の範囲に限定されるものではない。
【0033】
また、粘着剤層3はこれら基材2への密着力を十分に示すものであり、実用上支障をきたすことはないが、粘着シート1の製造時の都合や使用方法に合わせて密着力の改善が必要な場合は、基材2と粘着剤層3との間に、基材2の種類に合わせたアンカー剤層を設けたり、コロナ処理等の表面処理を行うことで密着力を改善することができる。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
エクソン社製のレギュラーブチルゴム#065 100gと、荒川化学社製の脂環族飽和炭化水素樹脂P−85(軟化点85℃)5gを、420gのトルエン中でミキサーにより溶解した。
【0035】
その溶液を厚さ25μmのポリエステルフィルム上に、乾燥後の粘着剤層の厚さが40μmとなるように塗布し、100℃で5分間の加熱により乾燥し、粘着シートを作製した。この際、ポリエステルフィルムと粘着剤層の密着力を得るため、ポリエステルにはコロナ処理を施した。
[実施例2]
エクソン社製のレギュラーブチルゴム#065 100gと、荒川化学社製の脂環族飽和炭化水素樹脂P−140(軟化点140℃)5gを、420gのトルエン中でミキサーにより溶解した。
【0036】
その溶液を厚さ25μmのポリエステルフィルム上に、乾燥後の粘着剤層の厚さが40μmとなるように塗布し、100℃で5分間の加熱により乾燥し、粘着シートを作製した。この際、ポリエステルフィルムと粘着剤層の密着力を得るため、ポリエステルにはコロナ処理を施した。
[実施例3]
エクソン社製のレギュラーブチルゴム#065 100gと、荒川化学社製の脂環族飽和炭化水素樹脂P−85(軟化点85℃)30gを、520gのトルエン中でミキサーにより溶解した。
【0037】
その溶液を厚さ25μmのポリエステルフィルム上に、乾燥後の粘着剤層の厚さが40μmとなるように塗布し、100℃で5分間の加熱により乾燥し、粘着シートを作製した。この際、ポリエステルフィルムと粘着剤層の密着力を得るため、ポリエステルにはコロナ処理を施した。
[実施例4]
エクソン社製のレギュラーブチルゴム#065 100gと、荒川化学社製の脂環族飽和炭化水素樹脂P−140(軟化点140℃)30gを、520gのトルエン中でミキサーにより溶解した。
【0038】
その溶液を厚さ25μmのポリエステルフィルム上に、乾燥後の粘着剤層の厚さが40μmとなるように塗布し、100℃で5分間の加熱により乾燥し、粘着シートを作製した。この際、ポリエステルフィルムと粘着剤層の密着力を得るため、ポリエステルにはコロナ処理を施した。
【0039】
溶解度の測定は、予め基材の重量(a)の分かっている粘着シートを、20mm×50mmの寸法に切り出し、その重量(b)を測定し、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールの各溶媒50mlへ24時間浸積し、120℃で2時間乾燥の後、室内で異物の付着がないように24時間風乾したものの重量(c)を測定した。
【0040】
測定した重量より、次式により溶解度を求め、溶解度が3%以下となるものを溶解しないと判断した。
【0041】
溶解度(%)=(c−b)/(b−a)×100
粘着力はJIS Z 0237に準じて測定を行った。
【0042】
以下の表1に溶解度の測定結果およびシリコーン系粘着剤を使用した市販品との比較を、表2に溶解度の測定結果およびシリコーン系粘着剤を使用した市販品との比較を示す。
これら表1および表2からも分かるように市販品の溶解度は、最も少ないアセトニトリルでも5.5%であり、メタノールに至っては26.5%という大きな値を示した。
【0043】
これに対し、本発明に係る実施例は、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールのいずれの溶媒にも溶解度が3%以下であった。また、本発明に係る実施例はいずれも0℃から40℃の範囲で、ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリカーボネートに対し3N/10mm以上の高い粘着力が得られた。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【符号の説明】
【0046】
1…粘着シート
2…基材
3…粘着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールに対する溶解度が3%以下であり、かつ、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートに対する粘着力が0℃〜40℃の範囲で3N/10mm以上であることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
ブチルゴム100重量部に対して、軟化点80℃〜140℃の脂環族飽和炭化水素樹脂を5〜30重量部配合したことを特徴とする請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、メタノールに対する溶解度が3%以下であり、かつ、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネートに対する粘着力が0℃〜40℃の範囲で3N/10mm以上であることを特徴とする粘着シート。
【請求項4】
請求項2に記載の粘着剤組成物を基材上に塗工してなることを特徴とする請求項3記載の粘着シート。

【図1】
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【公開番号】特開2011−74191(P2011−74191A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226480(P2009−226480)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000194332)株式会社スリオンテック (46)
【Fターム(参考)】