説明

粘膜の疾患による組織の崩壊、傷害又は損傷を治療又は予防する方法

粘膜疾患を治療するのに、免疫調節化合物を利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘膜疾患治療の分野に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2007年2月13日に提出した米国仮特許出願第60/900977号明細書の利点を主張する。
【背景技術】
【0003】
口腔潰瘍性粘膜炎は、一般的に疼痛を伴い、癌用の薬剤及び放射線療法の用量を制限する毒性がある。この障害は、潰瘍性病変の形成を引き起こす口腔粘膜の破壊を特徴とする。顆粒球減少患者において、粘膜炎に伴って起こる潰瘍形成が、しばしば敗血症又は菌血症を引き起こす固有の口腔細菌の侵入路となることが多い。抗新生物剤療法を受ける患者の3分の1超で或る程度、粘膜炎が起こる。白血病のために導入療法、又は骨髄移植のために移植前治療(conditioning regimens)の多くで治療される患者では、その頻度及び重症度が有意に大きくなる。これらの個体のうち、中度から重度の粘膜炎患者が4分の3を超えることは珍しいことではない。頭頸部の腫瘍のために放射線療法を受ける実質的に全ての患者で、中度から重度の粘膜炎が起こり、典型的に15Gyの累積暴露で発症した後、総線量が60Gy以上になると悪化する。
【0004】
臨床的に、粘膜炎は3つの段階にわたって進行する:
1.有痛性の粘膜紅斑に伴って起こる炎症、これは局部麻酔薬に影響され得る。
2.偽膜形成を伴う有痛性の潰瘍形成、及び骨髄抑制治療の場合、抗菌療法が要求される命を脅かす危険性がある敗血症。非経口の麻薬性鎮痛薬が要求されるような強度の疼痛があることが多い。
3.抗新生物療法の中止の約2週〜3週後で起こる自然治癒。
【0005】
粘膜炎に標準的な療法は、大部分が苦痛緩和性であり、リドカイン等の局所鎮痛薬の適用及び/又は麻酔薬及び抗生物質の全身投与を含む。現在、口腔粘膜炎用の認可された唯一の治療、ケピバンス(パリフェルミン)が存在し、これは唯一、血液悪性腫瘍の治療のための造血幹細胞移植の前に移植前治療を受ける患者における口腔粘膜炎の治療に認可されている。
【0006】
生物学的プロセスとしての粘膜炎の複雑性は、近年になってようやく認識されてきている。この状態は、口腔粘膜細胞及び組織と、活性酸素種と、炎症誘発性サイトカインと、アポトーシスの媒介因子と、唾液及び口腔微生物叢等の局所因子との連続的な相互作用を示すことが示唆されている。上皮の変性及び破壊が最終的に粘膜潰瘍形成を引き起こすが、放射線によって誘導された粘膜毒性に関連する早期変化は、内皮、及び粘膜下層の結合組織中で起こると考えられる。放射線照射の1週間以内の粘膜の電子顕微鏡評価によって、上皮ではなく、内皮及び結合組織の両方で損傷が示されている。このような傷害は、フリーラジカル形成によって媒介される可能性がある。粘膜炎発症の全体的な機構は、放射線及び化学療法の両方の場合で類似していると考えられる。
【0007】
粘膜疾患を治療又は予防する方法における改善に対する必要性が、依然として当該技術分野に残っている。
【発明の概要】
【0008】
一態様によれば、被験体において、粘膜の疾患による組織の崩壊、傷害又は損傷を治療、予防、阻害又は低減するため、又は該疾患によって悪影響を受けた組織を再生するための治療方法は、該標的被験体に、有効量の式Aの免疫調節化合物を投与することを含む。
【0009】
【化1】

【0010】
式Aにおいて、nが1又は2であり、Rが水素、アシル、アルキル又はペプチド断片であり、Xが芳香族アミノ酸若しくは複素環アミノ酸、又はそれらの誘導体であり、前記少なくとも1つのインターフェロンを前記標的被験体に投与することなく、前記免疫調節化合物を該標的被験体に投与する。好ましくは、XがL−トリプトファン又はD−トリプトファンである。本発明は、粘膜疾患の治療用の薬物の調製における式Aの化合物の使用にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、粘膜疾患又はその疾患徴候に適用可能である。好ましい実施形態では、粘膜疾患は、被験体、好ましくはヒト患者における放射線及び/又は化学療法によって引き起こされる。放射線は、急性であっても又は分割されていてもよい。粘膜疾患は、放射線と化学療法との組合せによって引き起こされ得る。或る特定の実施形態では、疾患(例えば粘膜炎及び/又は潰瘍性病変)は、口腔及び/又は食道の粘膜で起こる。
【0012】
一実施形態によれば、本発明は、免疫調節化合物を哺乳動物被験体、好ましくはヒト患者に投与することによる粘膜炎の治療に関する。
【0013】
或る特定の実施形態において、患者に放射線及び/又は化学療法剤を投与する前、投与中、及び/又は投与した後、本発明の免疫調節化合物を投与する。放射線は多くの場合、複数の線量で投与するが、頭頸部の腫瘍のために放射線療法を受ける実質的に全ての患者で粘膜疾患が起こり、これは典型的に、15Gyの放射線の累積暴露で発症した後、放射線の総累積線量が60Gy以上になると悪化する。好ましい実施形態では、患者に7Gy〜8Gy(例えば7.5Gy)の放射線、又は患者に15Gy、40Gy、60Gy以上の放射線を投与する前、投与中、及び/又は投与した後、本発明による免疫調節化合物を投与する。
【0014】
シスプラチン等の化学療法剤の投与、例えば約0.1mg/kg〜50mg/kgの範囲内、例えば約5mg/kgの用量での投与によって引き起こされる粘膜疾患の治療又は予防のために、本発明の免疫調節化合物を投与することもできる。
【0015】
本発明に従って使用する免疫調節化合物は、式A:
【0016】
【化2】

【0017】
の免疫調節剤を含む。
【0018】
式Aにおいて、nは1又は2であり、Rは水素、アシル、アルキル、又はペプチド断片であり、Xは芳香族アミノ酸若しくは複素環アミノ酸、又はこれらの誘導体である。好ましくは、XはL−トリプトファン又はD−トリプトファンである。「X」に対する芳香族アミノ酸又は複素環アミノ酸の適切な誘導体は、アミド、モノ−又はジ−(C1〜C6)アルキル置換アミド、アリールアミド、及び(C1〜C6)アルキルエステル又はアリールエステルである。「R」に適切なアシル部又はアルキル部は、炭素数1〜約6の分岐アルキル基又は非分岐アルキル基、炭素数2〜約10のアシル基、及びカルボベンジルオキシ及びt−ブチルオキシカルボニル等の保護基である。nが2の時、式Aに示されるCH基の炭素は、Xの立体配置と異なる立体配置を有していることが好ましい。
【0019】
好ましい実施形態では、γ−D−グルタミル−L−トリプトファン、γ−L−グルタミル−L−トリプトファン、γ−L−グルタミル−Nin−ホルミル−L−トリプトファン、N−メチル−γ−L−グルタミル−L−トリプトファン、N−アセチル−γ−L−グルタミル−L−トリプトファン、γ−L−グルタミル−D−トリプトファン、β−L−アスパルチル−L−トリプトファン、及びβ−D−アスパルチル−L−トリプトファン等の化合物が利用される。特に好ましい実施形態では、γ−D−グルタミル−L−トリプトファン(SCV−07と称することもある)が利用される。これらの化合物、これらの化合物の調製方法、これらの化合物の薬学的に許容可能な塩、及びこれらの製剤処方は、米国特許第5,916,878号明細書に開示され、参照により本明細書中に援用される。
【0020】
γ−D−グルタミル−L−トリプトファンであるSCV−07は、γ−グルタミル部又はβ−アスパルチル部を有する免疫調節剤群の成員であり、これはロシアの科学者によって発見され、SciClone Pharmaceuticals, Inc.により米国で幾つかの症状に対する有効性が試験されている。SCV−07は、in vivo及びin vitroで多くの免疫調節活性を有している。SCV−07はCon−Aにより誘導される胸腺細胞及びリンパ細胞の増殖を高め、Con−Aにより誘導されるインターロイキン−2(IL−2)の生成及び脾臓リンパ細胞によるIL−2受容体の発現を高めて、骨髄細胞におけるThy−1.2の発現を刺激する。in vivoでは、SCV−07は、5−FU免疫抑制動物及びヒツジの赤血球による免疫付与モデルにおける免疫刺激性の効果が強い。
【0021】
約0.001mg〜2000mg、より好ましくは約0.01mg〜100mgの範囲の調剤として、式Aの化合物を投与することができる。1日に1回又は複数回の調剤の投与で、1週間に1回又は複数回、好ましくは毎日、調剤を投与してもよい。経口、鼻孔、経皮、舌下、注射による、定期的な注入、連続注入等を含む任意の好適な方法で、投与することができる。この調剤は、筋肉内注射で投与することができるが、他の形態の注射及び注入を利用することができ、経口吸入、鼻孔吸入、又は経口摂取等の他の投与形態を用いることができる。
【0022】
投薬量はまた、1kg当たりのμgで測定することができ、その調剤は約0.1ug/kg〜10000ug/kgの範囲内、より好ましくは約1.0ug/kg〜1000μg/kgの範囲内である。
【0023】
置換部(substituted)、欠失部、伸長部、置き換え部(replaced)、又はそうでなければSCV−07と実質的に同等の生物活性のある修飾部を有する生物学的に活性な類似体、例えばSCV−07と実質的に同等の活性を伴って、実質的に同じ方法で機能するような、SCV−07と十分に相同性であるSCV−07由来ペプチドが含まれる。
【0024】
幾つかの実施形態において、式Aの化合物は、注射用水、生理的濃度若しくは同等濃度の生理食塩水等の薬学的に許容可能な液体担体中、又は好適な乾燥担体(複数可)及び賦形剤(複数可)を有する錠剤形態中に存在する。
【0025】
式Aの化合物の有効量は、日常的な用量漸増実験によって確定することができる。
【実施例】
【0026】
実施例1
ハムスターにおける急性放射線によって誘導された口腔粘膜炎の治療におけるSCV−07の初期試験
1. 目的
この試験の目的は、急性放射線によって誘導されたハムスターの疾患モデルを使用する、口腔粘膜炎の治療におけるSCV−07の有効性の予備評価を行うことであった。放射線照射の1日前から始まり、放射線照射の16日後まで続く18日間、1日1回皮下注射で、1ug/kg、10ug/kg又は100ug/kgの用量でSCV−07を与えた。処理群のいずれでも致死は観察されず、成長速度の統計的に有意な変化はなく、このことはSCV−07がこれらの用量で十分に耐容性であったことを示唆している。−1日〜16日に10ug/kgのSCV−07で処理した動物は、22日での粘膜炎スコアにおいて統計的に有意な低減を示した(P=0.024)。−1日〜16日に100ug/kgのSCV−07で処理した動物は、スコアが3以上の日があった動物の数の統計的に有意な低減(P=0.029)に加えて、14日での粘膜炎スコアにおいて統計的に有意な低減を示した(P=0.025)。これらのデータによって、SCV−07が、放射線によって誘導された粘膜炎の重症度及び経過に対する用量依存的な利点を示したことが示唆される。
【0027】
急性放射線モデル
ハムスターにおける急性放射線モデルは、抗粘膜炎化合物の予備評価を与えるのに、正確で、効率的且つ費用効果がある技法であることが分かっている。このモデルでの粘膜炎の経過は十分に規定され、放射線照射のおよそ14日〜16日後でスコアがピークに達する。急性モデルには全身毒性がほとんどなく、少しのハムスターが死に至るだけであり、これにより初期有効性試験においてより小さい群(N=7〜8)の使用が可能になる。粘膜炎の発病における特定の機構因子を研究するのにも急性モデルは使用されている。急性放射線モデルで有効性を示す分子は、分割化された放射線、化学療法、又は併用療法のより複雑なモデルでさらに評価してもよい。
【0028】
この研究では、0日目で40Gyの急性放射線量を投与した。12日目〜28日目にかけて、臨床的に有意な粘膜炎が観察された。
【0029】
2. 研究目的及び要約
研究目的
この研究の目的は、急性放射線によって誘導された口腔粘膜炎の頻度、重症度及び期間に対する、放射線照射の1日前と放射線照射の16日後との間の様々なスケジュールで皮下注射で投与したSCV−07の効果を評価することであった。
【0030】
研究の要約
32匹のシリアンゴールデンハムスターに、0日目に左側の頬袋に向けて40Gyの急性放射線量を与えた。1日1回、皮下注射によって試験材料を与えた。投与は、放射線照射の1日前から始め(−1日目)、16日目まで続けた。6日目から始め、28日目まで隔日で続けて粘膜炎を臨床的に評価した。
【0031】
3. 評価
粘膜炎評価
6日目から始め、その後2日毎に28日まで(28日目を含む)粘膜炎の悪性度をスコア付けした。プラシーボと比較した、各薬剤処理の粘膜炎に対する効果を以下のパラメータに従って評価した:
【0032】
各群におけるハムスターが潰瘍性(スコア≧3)粘膜炎になる日数の差
各評価日で、各薬剤処理群において盲検粘膜炎スコアが3以上の動物の数を対照群と比較した。累積ベースで差を比較し、カイ二乗解析によって、統計的有意性を求めた。この解析において、対照群と比較した場合の、動物群が潰瘍形成した(スコア≧3)日数の有意な低減によって有効性を定義する。
【0033】
1日粘膜炎スコアの順位和の差
各評価日に対して、ノンパラメトリック順位和解析を用いて、対照群のスコアを処理群のスコアと比較した。処理の成功は、6日〜28日の2日以上での処理群におけるスコアの統計的に有意な減少と見なした。
【0034】
体重及び生存率
粘膜炎重症度及び/又は処理によって起こり得る毒性に対する指標として、処理群間での動物の体重の起こり得る差を評価するために、毎日全ての動物を秤量し、それらの生存率を記録した。
【0035】
4. 研究設計
32匹のシリアンゴールデンハムスターを各8匹の4つの動物群に分けた。全ての動物は、0日目に左側の頬袋に向けて40Gyの単一線量の急性放射線を受けた。動物を麻酔し、左側の頬袋をめくり、動物の残りの部分を鉛遮蔽物で保護することで、これを達成した。表1で詳述するように、1日1回の皮下注射で試験材料を与えた。6日目から始め28日目まで隔日で続けて、粘膜炎を臨床的に評価した。
【0036】
【表1】

【0037】
5. 材料及び方法
研究の実施場所
Cambridge MAにあるBiomodels AAALAC公認施設で研究を行った。Biomodels IACUCから、この研究に対する認可を得た。
【0038】
動物
研究の開始時の平均体重が85.3gであった5〜6週齢の雄のLVGシリアンゴールデンハムスター(Charles River Laboratories)を使用した。耳パンチを使用して動物に個々に番号を付け、1つのケージ当たり8匹の小さい動物群で収容した。研究開始前に動物を順応させた。この5日の期間の間、状態不良を示す動物を排除するために、動物を毎日観察した。
【0039】
ハウジング
70華氏度±5華氏度の温度及び50%±20%相対湿度の濾過空気を与えた動物室で研究を行った。動物室は、1時間当たり最低12回〜15回の換気を維持するように設定した。動物室は、薄明のない12時間の明期と12時間の暗期との明/暗サイクルで自動タイマーにおいた。Bed−O−Cobs(登録商標)敷料を使用した。敷料は、最低1週間に1回変えた。ケージ、上蓋(tops)、ボトル(bottles)等を市販の洗剤で洗い、空気乾燥させた。フード(hood)に導入される表面及び材料を消毒するのに、市販の消毒剤を使用した。フロアを毎日清掃し、市販の洗剤で最低1週間に2回モップ掛けした。壁及びケージラックを希釈漂白溶液で最低1ヶ月に1回スポンジ掛けした。研究、用量、動物番号及び処理群を識別するのに必要である適切な情報を備えるケージカード又はラベルで全てのケージを印付けした。温度及び相対湿度を研究中に記録し、その記録は残した。
【0040】
食餌
動物に、Purina Labdiet(登録商標)5061齧歯類用の食餌を与え、水を自由に与えた。
【0041】
動物の無作為化及び配分
放射線照射前に動物を無作為に予め4つの処理群に分けた。個々の番号に対応して、耳パンチで各動物を識別した。タグは研究中に外れる可能性があるので、より一貫した識別のために、タグ付けではなく耳パンチによるナンバリングを使用した。各ケージを識別するのにケージカードを使用するか、又はラベルに研究番号(SCI−01)、処理群番号及び動物番号を印付けした。
【0042】
皮下投与及び薬剤適用
試験化合物SCV−07を粉末で準備し、投与直前に滅菌PBS中に溶解した。3つの希釈液を調製した:100μg/mL、10μg/mL及び1μg/mL。薬剤は、27Gニードルを備えたツベルクリンシリンジを使用して、各群にSCV−07の適切な希釈率で体重100g当たり0.1mLの容量で与えた。背側又は腹側に皮下注射した。
【0043】
粘膜炎誘導
標準化した急性放射線プロトコルを使用して、粘膜炎を誘導した。0日目に、単一線量の放射線(40Gy/投与)を全ての動物に投与した。0.35mm径のCu濾過システムで硬化させた、焦点距離30cmの電位160kV(15−ma)の電源で放射線を発生させた。照射は、3.2Gy/分の速度で左側の頬袋の粘膜を標的とした。照射前に、ケタミン(160mg/kg)及びキシラジン(8mg/kg)の腹腔内注射によって動物を麻酔した。左側の頬袋をめくり、固定して、ハムスターの身体の他の部位を全て保護するのに鉛遮蔽物を使用して隔離した。
【0044】
粘膜炎スコア付け
上記の研究を通して、粘膜炎スコア、体重変化及び生存率を測定した。粘膜炎の評価のために、吸入麻酔薬によって動物を麻酔し、左側の頬袋をめくった。有効写真尺度との比較によって、粘膜炎を視覚的にスコア付けした。スコアは正常の0から、重度の潰瘍形成の5までの範囲であった(臨床的なスコア付け)。記述用語において、この尺度は以下のように定義する:
【0045】
【表2】

【0046】
1〜2のスコアは、軽度の段階の疾患を表すと考えられるが、3〜5のスコアは、中度から重度の粘膜炎を示すと考えられる。視覚的なスコア付けの後、標準化技法を用いて、各動物の粘膜を撮影した。実験の結果、全てのフィルムを現像し、無作為に写真に番号を付けた。少なくとも2つの独立した熟練の(trained)観察者等が、上記の尺度(盲検スコア付け)を用いて盲検様式で写真を格付けした。
【0047】
6. 結果及び考察
6.1 生存率
この研究中に、致死は観察されなかった。
【0048】
6.2 体重変化
1日平均の体重変化率のデータを評価した。生理食塩水(PBS)処理した対照ハムスターは、研究中、平均して出発体重の70.4%増加した。−1日〜16日に1ug/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の68.4%増加した。−1日〜16日に10ug/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の70.3%増加した。−1日〜16日に100ug/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の82.0%増加した。各動物の体重増加に対する曲線下面積(AUC)を算出した後、一方向ANOVA検定を用いて異なる処理群を比較することによって、これらの有意差を評価した。この解析の結果は、異なる処理群間で有意差がなかったことを示していた(P=0.191)。
【0049】
6.3 粘膜炎(表3及び表4)
各群に対する1日平均の粘膜炎スコアを算出した。生理食塩水処理した対照群では、粘膜炎のピークレベルは20日目に見られ、平均スコアが3.8に達した。−1日〜16日に1ug/kgでSCV−07を受けた群では、16日目で3.8のピーク平均粘膜炎スコアであった。−1日〜16日に10ug/kgでSCV−07を受けた群では、16日目で3.7のピーク平均粘膜炎スコアであった。−1日〜16日に100ug/kgでSCV−07を受けた群では、18日目で3.4のピーク平均粘膜炎スコアであった。各群に対してスコアが3以上であった日数を算出し、カイ二乗検定を用いてこれらの日数を比較することによって、異なる処理群間で見られた有意差を評価した。この解析の結果を表2に示す。生理食塩水処理した対照群におけるハムスターは、評価した日数(animal days)の46.9%でスコアが3以上であった。−1日〜16日に1ug/kgでSCV−07を受けた群でも、評価した日数の46.9%で3以上の粘膜炎スコアが観察された。−1日〜16日に10ug/kgのSCV−07で処理した群におけるハムスターは、それぞれ日数の37.5%でスコアが3以上であったが、これは対照とは統計的に有意な差はなかった(P=0.079)。−1日〜16日に、100ug/kgのSCV−07で処理した群は、日数の35.4%でスコアが3以上であり、これは対照と有意な差があった(P=0.029)。
【0050】
マンホイットニー順位和解析を用いて粘膜炎スコアのさらなる解析を行い、それぞれの日のそれぞれの群に対するスコアを比較した。この解析の結果を表4に示す。この解析では、粘膜炎の顕著な低減と見なす前に、一般的に2日の粘膜炎スコアの有意な低減を必要とする。−1日〜16日に1ug/kgのSCV−07で処理した群は、生理食塩水対照と比較して、研究のいずれの日でも全く統計的に有意な改善を示さなかった。−1日〜16日に10ug/kgのSCV−07で処理した群は、22日目で対照と比較して有意な改善を示した(P=0.024)。−1日〜16日に100ug/kgのSCV−07で処理した群は、対照と比較して14日目で有意な改善を示した(P=0.025)。
【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
結論
1.致死率及び体重増加の観察に基づく、この研究におけるSCV−07による毒性の痕跡は全く存在しなかった。
2.−1日〜16日に10ug/kgのSCV−07で処理した動物は、22日目に粘膜炎スコアの統計的に有意な低減を示し(P=0.024)、これは用量に依存していた。
3.−1日〜16日に100ug/kgのSCV−07で処理した動物は、スコアが3以上の日数の統計的に有意な低減に加えて(P=0.029)、14日目に粘膜炎スコアの統計的に有意な低減を示した(P=0.025)。
4.粘膜炎の重症度及び経過に対するSCV−07の有益な用量依存的効果が見られた。投与頻度の増大又は1日用量の倍増によって、上記の効果が高まり得る。
【0054】
別表
別表1−動物の体重
【表5】

【0055】
別表2−粘膜炎スコア
【表6】

【0056】
実施例2
ハムスターにおける急性放射線によって誘導された口腔粘膜炎の治療におけるSCV−07の二次研究
この研究の目的は、急性放射線によって誘導されたハムスター疾患モデルを使用して、口腔粘膜炎の治療におけるSCV−07の有効性の予備評価を行うことであった。放射線照射の1日前から始まり放射線照射の20日後まで続く22日間、皮下注射によって1日1回又は2回、1mg/kg又は100μg/kgの用量でSCV−07を与えた。いずれの処理群でも致死は観察されず、成長速度に統計的に有意な増大があり、このことはSCV−07がこれらの用量で十分に耐容性であり、粘膜炎に関連する体重減少を実質的に低減し得ることを示唆している。対照のハムスターは、この研究で評価した日数の28.1%で粘膜炎スコアが3以上であった。−1日〜20日に1日1回100μg/kgのSCV−07で処理した動物は、スコアが3以上の日数の6.3%への統計的に有意な低減(P<0.001)、並びに14日目(P=0.011)、16日目(P=0.002)及び18日目(P=0.001)での個々の1日スコアの統計的に有意な低減を示した。−1日〜20日に1日2回100μg/kgのSCV−07で処理した動物は、スコアが3以上の日数の8.9%への統計的に有意な低減(P<0.001)、並びに18日目(P<0.001)及び20日目(P=0.003)での個々の1日スコアの統計的に有意な低減を示した。−1日〜20日に1日2回1mg/kgのSCV−07で処理した動物は、スコアが3以上の日数の12.5%への統計的に有意な低減(P<0.001)、並びに16日目(P=0.043)、18日目(P=0.009)及び20日目(P=0.007)での個々の1日スコアの統計的に有意な低減を示した。−1日〜20日に1日2回1mg/kgのSCV−07で処理した動物は、粘膜炎スコアの有意な低減を全く示さなかった。1日1回100μg/kgのSCV−07で処理した群と、1日2回1mg/kgのSCV−07で処理した群との間に、スコアが3以上の日数において統計的に有意な差は存在しなかった(P=0.054)。個々の1日スコアをこれらの2つの群間で比較した場合、1日の有意差が14日目で観察された(P=0.005)。これらの観察は、1日1回の100μg/kgのSCV−07での処理が、1日2回の1mg/kgのSCV−07での処理より有意に良好であるということに非常に近いことを示唆している。この観察は、1日1回100μg/kgが、この研究及び前の研究SCI−01で調べた最適投与用量に最も近い用量であることを示唆している。
【0057】
導入
1.1 背景
口腔潰瘍性粘膜炎は、一般的に疼痛を伴い、癌用の薬剤及び放射線療法の用量を制限する毒性がある。この障害は、潰瘍性病変の形成を引き起こす口腔粘膜の破壊を特徴とする。顆粒球減少患者において、粘膜炎に伴って起こる潰瘍形成が、しばしば敗血症又は菌血症を引き起こす固有の口腔細菌の侵入路となることが多い。抗新生物剤療法を受ける患者の3分の1超で或る程度、粘膜炎が起こる。白血病のために導入療法、又は骨髄移植のために移植前治療の多くで治療される患者では、その頻度及び重症度が有意に大きくなる。これらの個体のうち、中度から重度の粘膜炎患者が4分の3を超えることは珍しいことではない。頭頸部の腫瘍のために放射線療法を受ける実質的に全ての患者で、中度から重度の粘膜炎が起こり、典型的に15Gyの累積暴露で発症した後、総線量が60Gy以上になると悪化する。
【0058】
臨床的に、粘膜炎は3つの段階にわたって進行する:
1.有痛性の粘膜紅斑に伴って起こる炎症、これは局部麻酔薬に影響され得る。
2.偽膜形成を伴う有痛性の潰瘍形成、及び骨髄抑制治療の場合、抗菌療法が要求される命を脅かす危険性がある敗血症。非経口の麻薬性鎮痛薬が要求されるような強度の疼痛があることが多い。
3.抗新生物療法の中止の約2週〜3週後で起こる自然治癒。
【0059】
粘膜炎に標準的な療法は、大部分が苦痛緩和性であり、リドカイン等の局所鎮痛薬の適用及び/又は麻酔薬及び抗生物質の全身投与を含む。現在、口腔粘膜炎用の認可された唯一の治療、ケピバンス(パリフェルミン)が存在し、これは唯一、血液悪性腫瘍の治療のための造血幹細胞移植の前に移植前治療を受ける患者における口腔粘膜炎の治療に認可されている。
【0060】
生物学的プロセスとしての粘膜炎の複雑性は、近年になってようやく認識されてきている。この状態は、口腔粘膜細胞及び組織と、活性酸素種と、炎症誘発性サイトカインと、アポトーシスの媒介因子と、唾液及び口腔微生物叢等の局所因子との連続的な相互作用を示すことが示唆されている。上皮の変性及び破壊が最終的に粘膜潰瘍形成を引き起こすが、放射線によって誘導された粘膜毒性に関連する早期変化は、内皮、及び粘膜下層の結合組織中で起こると考えられる。放射線照射の1週間以内の粘膜の電子顕微鏡評価によって、上皮ではなく、内皮及び結合組織の両方で損傷が示されている。このような傷害は、フリーラジカル形成によって媒介される可能性がある。粘膜炎発症の全体的な機構は、放射線及び化学療法の両方の場合で類似していると考えられる。
【0061】
1.2 急性放射線モデル
研究責任者によって開発されたハムスターにおける急性放射線モデルは、抗粘膜炎化合物の予備評価を与えるのに、正確で、効率的且つ費用効果がある技法であることが分かっている。このモデルでの粘膜炎の経過は十分に規定され、放射線照射のおよそ14日〜16日後でスコアがピークに達する。急性モデルには全身毒性がほとんどなく、少しのハムスターが死に至るだけであり、これにより初期有効性試験においてより小さい群(N=7〜8)の使用が可能になる。粘膜炎の発病における特定の機構因子を研究するのにも急性モデルは使用されている。急性放射線モデルで有効性を示す分子は、分割化された放射線、化学療法、又は併用療法のより複雑なモデルでさらに評価してもよい。
【0062】
この研究では、0日目で40Gyの急性放射線量を投与した。12日目〜28日目にかけて、臨床的に有意な粘膜炎が観察された。
【0063】
2. 研究目的及び要約
2.1 研究目的
この研究の目的は、急性放射線によって誘導された口腔粘膜炎の頻度、重症度及び期間に対する、放射線照射の1日前と放射線照射の20日後との間の様々なスケジュールで皮下注射で投与したSCV−07の効果を評価することであった。SCV−07によるこれまでの研究(研究SCI−01、実施例1)は、−1日〜16日に1日1回100μg/kgの用量で、粘膜炎に対して幾らかの活性を示した。この研究では、これまでの研究で見られた部分効果を拡大することができるかどうかを見るために、−1日〜20日に1日1回又は2回、100μg/kg及び1mg/kgでSCV−07を投与した。
【0064】
2.2 研究の要約
40匹のシリアンゴールデンハムスターに、0日目に左側の頬袋に向けて40Gyの急性放射線量を与えた。1日1回又は2回、100μg/kg又は1mg/kgで皮下注射によって試験材料SCV−07を与えた。投与は、放射線照射の1日前から始め(−1日目)、20日目まで続けた。6日目から始め、28日目まで隔日で続けて粘膜炎を臨床的に評価した。
【0065】
3. 評価
3.1 粘膜炎評価
6日目から始め、その後2日毎28日まで(28日目を含む)粘膜炎の悪性度をスコア付けした。プラシーボと比較した、各薬剤処理の粘膜炎に対する効果を以下のパラメータに従って評価した:
【0066】
3.1.1 各群におけるハムスターが潰瘍性粘膜炎になる(スコア≧3)日数の差
各評価日で、各薬剤処理群において盲検粘膜炎スコアが3以上の動物の数を対照群と比較した。累積ベースで差を比較し、カイ二乗解析によって、統計的有意性を求めた。この解析において、対照群と比較した場合に動物群が潰瘍形成した(スコア≧3)日数の有意な低減によって有効性を定義する。様々な薬剤処理群間の差を評価するのにも、これと同じ検定を使用した。
【0067】
3.1.2 1日粘膜炎スコアの順位和の差
各評価日に対して、ノンパラメトリック順位和解析を用いて、対照群のスコアを処理群のスコアと比較した。処理の成功は、6日〜28日の2日以上での処理群におけるスコアの統計的に有意な減少と見なした。
【0068】
3.2 体重及び生存率
粘膜炎重症度及び/又は処理によって起こり得る毒性に対する指標として、処理群間での動物の体重の起こり得る差を評価するために、毎日全ての動物を秤量し、それらの生存率を記録した。
【0069】
4. 研究設計
40匹のシリアンゴールデンハムスターを各8匹の5つの動物群に分けた。全ての動物は、0日目に左側の頬袋に向けて40Gyの単一線量の急性放射線を受けた。動物を麻酔し、左側の頬袋をめくり、動物の残りの部分を鉛遮蔽物で保護することで、これを達成した。表5で詳述するように、1日1回の皮下注射で試験材料を与えた。6日目に始め28日まで隔日で続けて、粘膜炎を臨床的に評価した。
【0070】
【表7】

【0071】
5. 材料及び方法
5.1 研究の実施場所
Watertown MAにあるBiomodels AAALAC公認施設で研究を行った。Biomodels IACUCから、この研究に対する認可を得た。
【0072】
5.2 動物
研究の開始時の平均体重が81.9gであった5〜6週齢の雄のLVGシリアンゴールデンハムスター(Charles River Laboratories)を使用した。耳パンチを使用して動物に個々に番号を付け、1つのケージ当たり8匹の小さい動物群に収容した。研究開始前に動物を順応させた。この5日の期間の間、状態不良を示す動物を排除するために、動物を毎日観察した。
【0073】
5.3 ハウジング
70華氏度±5華氏度の温度及び50%±20%相対湿度の濾過空気を与えた動物室で研究を行った。動物室は、1時間当たり最低12回〜15回の換気を維持するように設定した。動物室は、薄明のない12時間の明期と12時間の暗期との明/暗サイクルで自動タイマーにおいた。Bed−O−Cobs(登録商標)敷料を使用した。敷料は、最低1週間に1回変えた。ケージ、上蓋、ボトル等を市販の洗剤で洗い、空気乾燥させた。フードに導入される表面及び材料を消毒するのに、市販の消毒剤を使用した。フロアを毎日清掃し、市販の洗剤で最低1週間に2回モップ掛けした。壁及びケージラックを希釈漂白溶液で最低1ヶ月に1回スポンジ掛けした。研究、用量、動物番号及び処理群を識別するのに必要である適切な情報を備えるケージカード又はラベルで全てのケージを印付けした。温度及び相対湿度を研究中に記録し、その記録は残した。
【0074】
5.4 食餌
動物に、Purina Labdiet(登録商標)5061齧歯類用の食餌を与え、水を自由に与えた。
【0075】
5.5 動物の無作為化及び配分
放射線照射前に動物を無作為に予め5つの処理群に分けた。個々の番号に対応して、耳パンチで各動物を識別した。タグは研究中に外れる可能性があるので、より一貫した識別のために、タグ付けではなく耳パンチによるナンバリングを使用した。各ケージを識別するのにケージカードを使用するか、又はラベルに研究番号(SCI−02)、処理群番号及び動物番号を印付けした。
【0076】
5.6 皮下投与及び薬剤適用
試験化合物SCV−07を粉末で準備し、投与直前に滅菌PBS中に溶解した。3つの希釈液を調製した:100μg/mL、10μg/mL及び1μg/mL。薬剤は、27Gニードルを備えたツベルクリンシリンジを使用して、各群にSCV−07の適切な希釈率で体重100g当たり0.1mLの容量で与えた。背側又は腹側に皮下注射した。
【0077】
5.7 粘膜炎誘導
標準化した急性放射線プロトコルを使用して、粘膜炎を誘導した。0日目に、単一線量の放射線(40Gy/投与)を全ての動物に投与した。0.35mm径のCu濾過システムで硬化させた、焦点距離30cmの電位160kV(15−ma)の電源で放射線を発生させた。照射は、3.2Gy/分の速度で左側の頬袋の粘膜を標的とした。照射前に、ケタミン(160mg/kg)及びキシラジン(8mg/kg)の腹腔内注射によって動物を麻酔した。左側の頬袋をめくり、固定して、鉛遮蔽物を使用してハムスターの身体の他の部位を全て保護して隔離した。
【0078】
5.8 粘膜炎スコア付け
上記の研究を通して、粘膜炎スコア、体重変化及び生存率を測定した。粘膜炎の評価のために、吸入麻酔薬によって動物を麻酔し、左側の頬袋をめくった。有効写真尺度との比較によって、粘膜炎を視覚的にスコア付けした。スコアは正常の0から、重度の潰瘍形成の5までの範囲であった(臨床的なスコア付け)。記述用語において、この尺度は以下のように定義する:
【0079】
【表8】

【0080】
1〜2のスコアは、中度の段階の疾患を表すと考えられるが、3〜5のスコアは、中度から重度の粘膜炎を示すと考えられる。視覚的なスコア付けの後、標準化技法を用いて、各動物の粘膜を撮影した。実験の結果、全てのフィルムを現像し、無作為に写真に番号を付けた。少なくとも2人の独立した熟練の観察者等が、上記の尺度(盲検スコア付け)を用いて盲検様式で写真を格付けした。
【0081】
6. 結果及び考察
6.1 生存率
この研究中に、致死は観察されなかった。
【0082】
6.2 体重変化
1日平均の体重変化データを評価した。生理食塩水処理した対照ハムスターは、研究中、平均して出発体重の44.1%増加した。−1日〜20日に1日1回100μg/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の49.9%増加した。−1日〜20日に1日2回100μg/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の61.3%増加した。−1日〜20日に1日1回、1mg/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の63.4%増加した。−1日〜20日に1日2回、1mg/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の69.1%増加した。各動物の体重増加に対する曲線下面積(AUC)を算出した後、一方向ANOVA検定を用いて異なる処理群を比較することによって、これらの有意差を評価した。この解析の結果は、SCV−07処理群と対照群との間に有意差があったことを示していた(P=0.012)。1日2回の100μg/kg、1日1回及び2回の1mg/1kgのSCV−07で処理した群は全て、生理食塩水対照よりも有意に大きく体重が増加した(それぞれ、P=0.014、P=0.009及びP=0.004)。
【0083】
6.3 粘膜炎(表7及び表8)
各群に対する1日平均の粘膜炎スコアを求めた。生理食塩水処理した対照群では、粘膜炎のピークレベルは18日目に見られ、平均スコアが3.0に達した。−1日〜20日に1日1回100μg/kgでSCV−07を受けた群では、16日目で2.2のピーク平均粘膜炎スコアであった。−1日〜20日に1日2回100μg/kgでSCV−07を受けた群では、ピーク平均粘膜炎スコアが2.5であり、これは14日目及び16日目で起こった。−1日〜20日に1日1回、1mg/kgでSCV−07を受けた群では、14日目で2.9のピーク平均粘膜炎スコアであった。−1日〜20日に1日2回、1mg/kgでSCV−07を受けた群では、14日目で2.6のピーク平均粘膜炎スコアであった。各群に対してスコアが3以上であった日数を算出し、カイ二乗(χ2)検定を用いてこれらの日数を比較することによって、異なる処理群間で見られた有意差を評価した。この解析の結果を表7に示す。生理食塩水処理した対照群におけるハムスターは、評価した日数の28.1%でスコアが3以上であった。−1日〜20日に1日1回100μg/kgでSCV−07を受けた群では、評価した日数の6.3%で3以上の粘膜炎スコアが見られ、これは対照とは統計的に有意に異なっていた(P<0.001)。−1日〜20日に1日2回100μg/kgのSCV−07で処理した群では、日数の8.9%で3以上のスコアであり、これは対照とは統計的に有意に異なっていた(P<0.001)。−1日〜20日に1日1回、1mg/kgのSCV−07で処理した群では、日数の28.1%で3以上のスコアであり、これは対照とは有意に異なっていなかった(P=1.000)。−1日〜20日に1日2回1mg/kgのSCV−07で処理した群では、日数の12.5%で3以上のスコアであり、これは対照とは有意に異なっていた(P<0.001)。1日1回100μg/kgのSCV−07で処理した群と、1日2回1mg/kgのSCV−07で処理した群との間で、スコアが3以上の日数において統計的に有意な差はなかった(P=0.054)。
【0084】
マンホイットニー順位和解析を用いて粘膜炎スコアのさらなる解析を行い、それぞれの日のそれぞれの群に対するスコアを比較した。この解析の結果を表8に示す。この解析では、粘膜炎の顕著な低減と見なす前に、一般的に2日間の粘膜炎スコアの有意な低減を必要とする。−1日〜20日に1日1回100μg/kgのSCV−07で処理した群は、生理食塩水対照と比較して、研究の14日目(P=0.011)、16日目(P=0.002)及び18日目(P=0.001)で統計的に有意な改善を示した。−1日〜20日に1日2回100μg/kgのSCV−07で処理した群は、対照と比較して18日目(P<0.001)及び20日目(P=0.003)で有意な改善を示した。−1日〜20日に、1日1回1mg/kgのSCV−07で処理した群は、対照と比較して、研究のいずれの日でも粘膜炎において全く有意な改善を示さなかった。−1日〜20日に1日2回、1mg/kgのSCV−07で処理した群は、対照と比較して、16日目(P=0.043)、18日目(P=0.009)及び20日目(P=0.007)で有意な改善を示した。1日1回100μg/kgのSCV−07で処理した群と、1日2回1mg/kgのSCV−07で処理した群との間での比較は、14日目での1日の統計的に有意な差を示した(P=0.005)。
【0085】
【表9】

【0086】
【表10】

【0087】
7. 結論
1.致死率及び体重増加の観察に基づく、この研究におけるSCV−07による毒性の痕跡は全く存在しなかった。
2.1日2回100μg/mlのSCV−07又は1日1回若しくは2回1mg/mlのSCV−07で処理した群は、生理食塩水対照と比較して、体重増加において有意な増大を示した(それぞれ、P=0.014、P=0.009及びP=0.004)。
3.−1日〜20日に1日1回100μg/kgのSCV−07で処理した動物は、スコアが3以上の日数の統計的に有意な低減(P<0.001)、並びに14日目(P=0.011)、16日目(P=0.002)及び18日目(P=0.001)での個々の1日スコアの統計的に有意な低減を示した。
4.−1日〜20日に1日2回100μg/kgのSCV−07で処理した動物は、スコアが3以上の日数の統計的に有意な低減(P<0.001)、並びに18日目(P<0.001)及び20日目(P=0.003)での個々の1日スコアの統計的に有意な低減を示した。
5.−1日〜20日に1日2回1mg/kgのSCV−07で処理した動物は、スコアが3以上の日数の統計的に有意な低減(P<0.001)、並びに16日目(P=0.043)、18日目(P=0.009)及び20日目(P=0.007)での個々の1日スコアの統計的に有意な低減を示した。
6.−1日〜20日に1日2回1mg/kgのSCV−07で処理した動物は、粘膜炎スコアの有意な低減を全く示さなかった。
7.1日1回100μg/kgのSCV−07で処理した群と、1日2回1mg/kgのSCV−07で処理した群との間で、スコアが3以上の日数において統計的に有意な差はなかった(P=0.054)。個々の1日スコアをこれらの2つの群間で比較した場合、1日の有意差が14日目で観察された(P=0.005)。これらの観察は、1日1回の100μg/kgのSCV−07での処理が、1日2回の1mg/kgのSCV−07での処理より有意に良好であるということに非常に近いことを示唆している。
【0088】
9. 別表
9.1 別表3−動物の体重
【表11】

【0089】
9.2 別表4−粘膜炎スコア
【表12−1】

【表12−2】

【0090】
実施例3
ハムスターにおける分割放射線によって誘導された口腔粘膜炎の治療におけるSCV−07の効果の有効性試験
1.導入
1.1 背景
KGF−1及び他のFGFファミリー成員が、BDF−1において口腔粘膜表面及び食道粘膜表面の上皮肥厚化を誘導することが示されている。SCV−07及び誘導SCV−07ペプチドは、KGF−1と重複し得る機構を有すると考えられ、他の粘膜傷害モデルにおいて保護的であることが分かっている。
【0091】
口腔潰瘍性粘膜炎は、一般的に疼痛を伴い、癌用の薬剤及び放射線療法の用量を制限する毒性がある。この障害は、潰瘍性病変の形成を引き起こす口腔粘膜の破壊を特徴とする。顆粒球減少患者において、粘膜炎に伴って起こる潰瘍が、しばしば敗血症又は菌血症を引き起こす固有の口腔細菌の侵入路となることが多い。抗新生物剤療法を受ける患者の3分の1超で或る程度、粘膜炎が起こる。白血病のために導入療法、又は骨髄移植のために移植前治療の多くで治療される患者では、その頻度及び重症度が有意に大きくなる。これらの個体のうち、中度から重度の粘膜炎患者が4分の3を超えることは珍しいことではない。頭頸部の腫瘍のために放射線療法を受ける実質的に全ての患者で、中度から重度の粘膜炎が起こり、典型的に15Gyの累積暴露で発症した後、総線量が60Gy以上になると悪化する。
【0092】
臨床的に、粘膜炎は3つの段階にわたって進行する:
1.一般的に局部麻酔薬又は非麻酔性鎮痛薬によって管理することができる有痛性の紅斑。
2.偽膜形成を伴うことが多い有痛性の潰瘍形成。同時に骨髄抑制が起こる場合、口腔由来の菌血症及び敗血症も珍しいことではない。頻繁に非経口の麻酔性鎮痛薬が要求されるような強度の疼痛があることが多い。
3.抗新生物療法の中止の約2週〜3週後で起こる自然治癒。
【0093】
現在、唯一認可された生物製剤、又は粘膜炎の予防及び/又は治療用の薬剤は、ケピバンス(パリフェルミン)である。ケピバンスの使用は、血液悪性腫瘍のために幹細胞移植を受けた患者における粘膜炎に限定される。結果として粘膜炎に標準的な療法は、生理食塩水等の苦痛緩和剤リンス、重炭酸溶液、うがい薬、リドカイン等の局所鎮痛薬及び/又は麻酔薬の全身投与から成る。
【0094】
生物学的プロセスとしての粘膜炎の複雑性は、近年になってようやく認識されてきている。この状態は、口腔粘膜細胞及び組織と、活性酸素種と、炎症誘発性サイトカインと、アポトーシスの媒介因子と、或る範囲のシグナル伝達経路と、唾液及び口腔微生物叢等の局所因子との連続的な相互作用を示すことが示唆されている。上皮の変性及び破壊が最終的に粘膜潰瘍形成を引き起こすが、放射線によって誘導された粘膜毒性に関連する早期変化は、内皮、及び粘膜下層の結合組織中で起こると考えられる。粘膜炎発症の全体的な機構は、放射線及び化学療法の両方の場合で類似していると考えられる。
【0095】
1.2 分割放射線モデル
研究責任者によって開発されたハムスターにおける分割放射線モデルは、抗粘膜炎化合物の予備評価を与えるのに、正確で、効率的且つ費用効果がある技法であることが分かっている。このモデルでは、ハムスターは、急性放射線試験で使用する0日目での40Gyの単一線量ではなく、0日目、1日目、2日目、3日目、7日目、8日目、9日目及び10日目に左側の頬袋への7.5Gyの線量を8回受ける。放射線照射にこのスケジュールを使用する根拠は、これが癌患者に与える放射療法の臨床経過により酷似していることにある。このモデルでの粘膜炎の経過は十分に規定され、放射線照射のおよそ14日〜16日後で粘膜炎スコアがピークに達する。分割放射線モデルにおける致死率(一般的に麻酔薬の副作用による)は、急性放射線モデルで見られるものよりもわずかに高く、これを考慮して、群の大きさを増大させる(1群当たり10匹まで)。
【0096】
2. 研究目的及び要約
2.1 研究目的
この研究の目的は、分割放射線プロトコルによって誘導された口腔粘膜炎の頻度、重症度及び期間に対する、皮下注射で投与したSCV−07の効果を評価することであった。
【0097】
2.2 研究の要約
40匹の雄のシリアンゴールデンハムスターに、0日目、1日目、2日目、3日目、6日目、7日目、8日目及び9日目にそれぞれ左側の頬袋に向けて8回、7.5Gyの線量の放射線を与えた。動物を麻酔し、左側の頬袋をめくり、動物の身体の残りを鉛遮蔽物で保護することで、これを達成した。表9で詳述するように、1日1回の皮下注射で試験材料を与えた。7日目に始め35日目まで隔日で続けて、粘膜炎を臨床的に評価した。表9で概説するように試験物質を与え、群1及び群2は、−1日〜29日に投与し、群3は放射線照射した日のみに投与し、群4は、−15日〜29日の間で放射線を与えない日(−1日、4日、5日及び10日〜29日)に投与した。
【0098】
3. 評価
3.1 粘膜炎評価
6日目から始め、その後2日毎34日まで(34日を含む)粘膜炎の悪性度をスコア付けした。プラシーボと比較した、各薬剤処理の粘膜炎に対する効果を以下のパラメータに従って評価した:
【0099】
3.1.1 各群におけるハムスターが潰瘍性粘膜炎になる(スコア≧3)日数の差
各評価日で、各薬剤処理群において盲検粘膜炎スコアが3以上の動物の数を対照群と比較した。累積ベースと比べて差を比較し、カイ二乗解析によって、統計的有意性を求めた。この解析において、対照群と比較した場合に動物群が潰瘍形成した(スコア≧3)日数の有意な低減によって有効性を定義する。
【0100】
3.1.2 1日粘膜炎スコアの順位和の差
各評価日に対して、ノンパラメトリック順位和解析を用いて、対照群のスコアを処理群のスコアと比較した。処理の成功は、6日〜28日の2日以上での処理群におけるスコアの統計的に有意な減少と見なした。
【0101】
3.2 体重及び生存率
粘膜炎重症度及び/又は処理によって起こり得る毒性に対する指標として、処理群間での動物の体重の起こり得る差を評価するために、毎日全ての動物を秤量し、それらの生存率を記録した。
【0102】
4. 研究設計
40匹の雄のシリアンゴールデンハムスターに、0日目、1日目、2日目、3日目、6日目、7日目、8日目及び9日目にそれぞれ左側の頬袋に向けて8回、7.5Gyの線量の放射線を与えた。動物を麻酔し、左側の頬袋をめくり、動物の身体の残りを鉛遮蔽物で保護することで、これを達成した。表9で詳述するように、午前8時に1日1回の皮下注射で試験材料を与えた。6日目に始め34日まで隔日で続けて、粘膜炎を臨床的に評価した。表9で概説するように試験物質を与え、群1及び群2は、−1日〜29日に投与し、群3は放射線照射した日(0日〜3日及び6日〜10日)のみに投与し、群4は、−1日〜29日の間で放射線を与えない日(−1日、4日、5日及び10日〜29日)に投与した。
【0103】
【表13】

【0104】
5. 材料及び方法
5.1 研究の実施場所
Watertown, MAにあるBiomodels AAALAC公認施設で研究を行った。
【0105】
5.2 動物
研究の開始時の平均体重が81.0gであった5〜6週齢の雄のLVGシリアンゴールデンハムスター(Charles River Laboratories)を使用した。耳パンチを使用して動物に個々に番号を付け、1つのケージ当たりおよそ10匹の小さい動物群に収容した。研究開始前の5日間、動物を順応させ、この期間の間、状態不良を示す動物を排除するために、動物を毎日観察した。
【0106】
5.3 ハウジング
70華氏度±5華氏度の温度及び50%±20%相対湿度の濾過空気を与えた動物室で研究を行った。動物室は、1時間当たり最低12回〜15回の換気を維持するように設定した。動物室は、薄明のない12時間の明期と12時間の暗期との明/暗サイクルで自動タイマーにおいた。Bed−O−Cobs(登録商標)敷料を使用した。敷料は、最低1週間に1回変えた。ケージ、上蓋、ボトル等を市販の洗剤で洗い、空気乾燥させた。フードに導入される表面及び材料を消毒するのに、市販の消毒剤を使用した。フロアを毎日清掃し、市販の洗剤で最低1週間に2回モップ掛けした。壁及びケージラックを希釈漂白溶液で最低1ヶ月に1回スポンジ掛けした。研究、用量、動物番号及び処理群を識別するのに必要である適切な情報を備えるケージカード又はラベルで全てのケージを印付けした。温度及び相対湿度を研究中に記録し、その記録は残した。
【0107】
5.4 食餌
動物に、Purina Labdiet(登録商標)5061齧歯類用の食餌を与え、水を自由に与えた。
【0108】
5.5 動物の無作為化及び配分
放射線照射前に動物を無作為に予め4つの処理群に分けた。個々の番号に対応して、耳パンチで各動物を識別した。タグは研究中に外れる可能性があるので、より一貫した識別のために、タグ付けではなく耳パンチによるナンバリングを使用した。各ケージを識別するのにケージカードを使用するか、又はラベルに研究番号(SCI−03)、処理群番号及び動物番号を印付けした。
【0109】
5.6 皮下投与及び薬剤適用
試験化合物であるヒトSCV−07ペプチドを粉末で準備し、投与直前に滅菌PBS中に溶解した。薬剤は、27Gニードルを備えたツベルクリンシリンジを使用して、0.1の容量で与えた。背側又は腹側に皮下注射した。
【0110】
5.7 粘膜炎誘導
3.0mm径の硬化Al濾過システムによって、Philips製の焦点距離30cmの電位160kVp(キロボルト電位)(18.75−ma)のX線電源で放射線を発生させた。照射は、3.32Gy/分の速度で左側の頬袋の粘膜を標的とした。Victoreenモデル530線量計によるこの電源の較正は、線量率が28.57nC/分であることを示した。この較正を用いて、各放射線量で各動物が受けたエネルギーが、各時点でおよそ64.5nC(ナノクーロン)であった。照射前に、ケタミン(160mg/kg)及びキシラジン(8mg/kg)の腹腔内注射によって動物を麻酔した。左側の頬袋をめくり、固定して、鉛遮蔽物を使用して隔離した。
【0111】
5.8 粘膜炎スコア付け
上記の研究を通して、粘膜炎スコア、体重変化及び生存率を測定した。粘膜炎の評価のために、吸入麻酔薬によって動物を麻酔し、左側の頬袋をめくった。有効写真尺度との比較によって、粘膜炎を視覚的にスコア付けした。スコアは正常の0から、重度の潰瘍形成の5までの範囲であった(臨床的なスコア付け)。記述用語において、この尺度は以下のように定義する:
【0112】
【表14】

【0113】
1〜2のスコアは、中度の段階の疾患を表すと考えられるが、3〜5のスコアは、中度から重度の粘膜炎を示すと考えられる。視覚的なスコア付けの後、標準化技法を用いて、各動物の粘膜を撮影した。実験の結果、全てのフィルムを現像し、無作為に写真に番号を付けた。少なくとも2人の独立した熟練の観察者等が、上記の尺度(盲検スコア付け)を用いて盲検様式で写真を格付けした。
【0114】
6. 結果
6.1 生存率
放射線照射のための麻酔の結果として、この研究中、対照群で8日目に1匹の致死が起こった。
【0115】
6.2 体重変化
研究群間で体重変化の有意な差はなかった。1日平均の体重変化データを評価した。生理食塩水処理した対照ハムスターは、研究中、平均して出発体重の76.3%増加した。−1日〜29日に100μg/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の80.7%増加した。放射線照射した日のみに100μg/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の66.3%増加した。−1日、4日、5日及び10〜29日に100μg/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の69.7%増加した。各動物の体重増加に対する曲線下面積(AUC)を算出した後、一方向ANOVA検定を用いて異なる処理群を比較することによって、これらの有意差を評価した。この解析の結果は、これらの処理群の間に有意差がなかったことを示していた(P=0.490)。
【0116】
6.3 粘膜炎(表11及び表12)
対照動物間の粘膜炎進行の速度及び重症度は、予測されたものと一致していた。
【0117】
各群に対する1日平均の粘膜炎スコアを評価した。生理食塩水処理した対照群では、ピーク平均粘膜炎スコアが3.2であり、これは19日目に起こった。−1日〜29日にSCV−07を受けた群では、ピーク平均粘膜炎スコアが3.3であり、これは19日目に起こった。放射線照射日(0日〜3日及び6日〜9日)にSCV−07を受けた群では、ピーク平均粘膜炎スコアが3.0であり、これは17日目に起こった。1日、4日、5日及び10〜29日にSCV−07を受けた群では、ピーク平均粘膜炎スコアが2.9であり、これは17日目、19日目及び23日目に起こった。各群に対してスコアが3以上であった日数を算出し、カイ二乗(χ2)検定を用いてこれらの日数を比較することによって、異なる処理群間で見られた有意差を評価した。この解析の結果を表11に示す。生理食塩水処理した対照群におけるハムスターは、評価した日数の36%でスコアが3以上であった。−1日〜29日にSCV−07を受けた群では、評価した日数の32.7%で3以上の粘膜炎スコアが見られ、これは対照とは統計的に有意に異なっていなかった(P=0.448)。0日〜3日及び6日〜9日にSCV−07を受けた群では、評価した日数の24%で3以上の粘膜炎スコアが見られ、これは対照とは統計的に有意に異なっていた(P=0.002)。−1日、4日、5日及び10日〜29日にSCV−07を受けた群では、評価した日数の30.7%で3以上の粘膜炎スコアが見られ、これは対照とは統計的に有意に異なっていなかった(P=0.204)。マンホイットニー順位和解析を用いて粘膜炎スコアのさらなる解析を行い、それぞれの日のそれぞれの群に対するスコアを比較した。この解析の結果を表12に示す。この解析では、低減が顕著であると見なす前に、一般的に2日間の粘膜炎スコアの有意な低減を必要とする。−1日〜29日にSCV−07で処理した群は、生理食塩水対照と比較して、29日目(P=0.004)、31日目(P=0.017)及び33日目(P=0.002)で有意な改善を示した。0日〜3日及び6日〜9日にSCV−07で処理した群は、生理食塩水対照と比較して、21日目(P=0.047)、23日目(P<0.001)、25日目(P=0.009)、29日目(P<0.001)、31日目(P=0.015)及び33日目(P<0.001)で有意な改善を示した。−1日、4日、5日及び10日〜29日にSCV−07で処理した群は、生理食塩水対照と比較して、29日目(P<0.001)、31日目(P=0.004)及び33日目(P<0.001)で有意な改善を示した。
【0118】
【表15】

【0119】
【表16】

【0120】
7. 結論
1.致死率及び体重増加の観察に基づく、この研究におけるSCV−07による毒性の痕跡は全く存在しなかった。
2.放射線を投与した日(0日〜3日及び6日〜9日)に100μg/kgのヒトSCV−07で処理した動物は、粘膜炎スコアが3以上の日数における統計的に有意な低減(P=0.002)、並びに21日目(P=0.047)、23日目(P<0.001)、25日目(P=0.009)、29日目(P<0.001)、31日目(P=0.015)及び33日目(P<0.001)での粘膜炎スコアにおける有意な低減を示した。この結果は、SCV−07が、粘膜炎の全体的な重症度を低減するのに効果的であり得ることを示唆し、結果として粘膜傷害の回復を高めることになる。
3.−1日〜29日又は放射線を投与しなかった日(−1日、4日、5日、10日〜29日)にSCV−07で処理したハムスターは、スコアが3以上の日数において有意な低減を示さなかったが、29日目、31日目及び33日目で粘膜炎スコアにおいて有意な低減を示した。
4.放射線投与スケジュールに基づくSCV−07の効果における対比は、その作用機構に対する幾つかの見識を与え得るが、さらなる評価を必要とする。非放射線照射日に薬剤を投与したSCV−07スケジュールが効果的ではなかったという事実は、特に連日処理した動物にとって興味深い。さらに、SCV−07で処理した全ての動物が、研究の後期に同じように反応するという観察は、全体的な発病に対するSCV−07の複合的な効果及び放射線によって誘導された粘膜炎の回復を示唆し得る。
【0121】
9. 別表
9.1 別表5−動物の体重
【表17】

【0122】
9.2 別表6−粘膜炎スコア
【表18−1】

【表18−2】

【0123】
実施例4
ハムスターにおけるシスプラチンと急性放射線との組合せによって誘導された口腔粘膜炎の治療でのSCV−07の研究
導入
SCV−07によるこれまでの研究によって、SCV−07は、急性放射線及び分割放射線の両方によって誘導されたハムスターの疾患モデルにおいて口腔粘膜炎を治療するのに効果的であることが示されている。この研究では、化学療法と放射線との組合せ、具体的にシスプラチンと放射線との組合せによって誘導されたハムスターの口腔粘膜炎モデルにおいて、SCV−07の有効性を評価した。
【0124】
方法
40匹のシリアンゴールデンハムスターを無作為に予め4つの等しい大きさの処理群に分けた。−1日目に与えた5mg/kgでのシスプラチンの単一用量、及び0日目に35Gyの線量で投与した放射線の単一線量によって、シリアンゴールデンハムスターの左側の頬袋で粘膜炎を誘導した。−1日目から始め、20日目まで1日1回続けて、容量100μL中、10μg/kg、100μg/kg又は1mg/kgの用量の皮下注射によってSCV−07を与えた。動物の活性及び体重を毎日評価した。6日から始め、研究期間中、隔日で続けて、標準スコアリング6点尺度(standard scoring six point scale)を用いて、口腔粘膜炎を評価した。研究を通じてスコアが3以上のカイ二乗検定を用いて、潰瘍性粘膜炎を評価し、個々の1日群スコアを順位和検定によって評価した。
【0125】
結果
粘膜炎は、全ての試験群におけるSCV−07で処理した動物で有益且つ一貫して影響を受けた。重度の粘膜炎は、ビヒクル対照で評価した日数の50%からSCV−07処理動物でのおよそ30%まで低減した。粘膜炎のピーク後、疾患プロセスの後期に最も有意な影響が見られた。体重の変化に対して、群間では有意差が観察されなかった。実験経過中には動物は致死しなかった。
【0126】
結論
1.致死率及び体重増加の観察に基づく、この研究におけるSCV−07による毒性の痕跡は全く存在しなかった。
2.−1日〜20日に10μg/kgのSCV−07で処理した動物は、粘膜炎スコアが3以上の日数の統計的に有意な低減(P<0.001)、並びに22日目(P=0.010)、24日目(P=0.022)、26日目(P=0.015)及び28日目(P<0.001)に粘膜炎スコアの統計的に有意な低減を示した。
3.−1日〜20日に100μg/kgのSCV−07で処理した動物は、スコアが3以上の日数の統計的に有意な低減(P<0.001)、並びに6日目(P=0.015)、22日目(P=0.003)、24日目(P=0.005)、26日目(P<0.001)及び28日目(P<0.001)に粘膜炎スコアの統計的に有意な低減を示した。
4.−1日〜20日に1mg/kgのSCV−07で処理した動物は、スコアが3以上の日数の統計的に有意な低減(P<0.001)、並びに6日目(P=0.015)、20日目(P=0.029)、22日目(P=0.012)、24日目(P=0.001)、26日目(P=0.003)及び28日目(P<0.001)に粘膜炎スコアの統計的に有意な低減を示した。
【0127】
1.1 背景
KGF−1及び他のFGFファミリー成員が、BDF−1において口腔粘膜表面及び食道粘膜表面の上皮肥厚化を誘導することが示されている。SCV−07及び誘導SCV−07ペプチドは、KGF−1と重複し得る機構を有すると考えられ、他の粘膜傷害モデルにおいて保護的であることが分かっている。
【0128】
口腔潰瘍性粘膜炎は、一般的に疼痛を伴い、癌用の薬剤及び放射線療法の用量を制限する毒性がある。この障害は、潰瘍性病変の形成を引き起こす口腔粘膜の破壊を特徴とする。顆粒球減少患者において、粘膜炎に伴って起こる潰瘍が、しばしば敗血症又は菌血症を引き起こす固有の口腔細菌の侵入路となることが多い。抗新生物剤療法を受ける患者の3分の1超で或る程度、粘膜炎が起こる。白血病のために導入療法、又は骨髄移植のために移植前治療の多くで治療される患者では、その頻度及び重症度が有意に大きくなる。これらの個体のうち、中度から重度の粘膜炎患者が4分の3を超えることは珍しいことではない。頭頸部の腫瘍のために放射線療法を受ける実質的に全ての患者で、中度から重度の粘膜炎が起こり、典型的に15Gyの累積暴露で発症した後、総線量が60Gy以上になると悪化する。
【0129】
臨床的に、粘膜炎は3つの段階にわたって進行する:
1.一般的に局部麻酔薬又は非麻酔性鎮痛薬によって管理することができる有痛性の紅斑。
2.偽膜形成を伴うことが多い有痛性の潰瘍形成。同時に骨髄抑制が起こる場合、口腔由来の菌血症及び敗血症も珍しいことではない。頻繁に非経口の麻酔性鎮痛薬が要求されるような強度の疼痛があることが多い。
3.抗新生物療法の中止の約2週〜3週後で起こる自然治癒。
【0130】
現在、唯一認可された生物製剤、又は粘膜炎の予防及び/又は治療用の薬剤は、ケピバンス(パリフェルミン)である。ケピバンスの使用は、血液悪性腫瘍のために幹細胞移植を受けた患者における粘膜炎に限定される。結果として粘膜炎に標準的な療法は、生理食塩水等の苦痛緩和剤リンス、重炭酸溶液、うがい薬、リドカイン等の局所鎮痛薬及び/又は麻酔薬の全身投与から成る。
【0131】
生物学的プロセスとしての粘膜炎の複雑性は、近年になってようやく認識されてきている。この状態は、口腔粘膜細胞及び組織と、活性酸素種と、炎症誘発性サイトカインと、アポトーシスの媒介因子と、或る範囲のシグナル伝達経路と、唾液及び口腔微生物叢等の局所因子との連続的な相互作用を示すことが示唆されている。上皮の変性及び破壊が最終的に粘膜潰瘍形成を引き起こすが、放射線によって誘導された粘膜毒性に関連する早期変化は、内皮、及び粘膜下層の結合組織中で起こると考えられる。粘膜炎発症の全体的な機構は、放射線及び化学療法の両方の場合で類似していると考えられる。
【0132】
1.2 シスプラチンによる口腔粘膜炎の化学放射線モデル
研究責任者によって開発されたハムスターにおける化学放射線モデルは、抗粘膜炎化合物の予備評価を与えるのに、正確で、効率的且つ費用効果がある技法であることが分かっている。このモデルでは、ハムスターは、急性放射線試験で利用する0日目での40Gyの単一線量ではなく、−1日目に5mg/kgの単一用量のシスプラチン、その後0日目に左側の頬袋への35Gyの単一線量の放射線を受けた。このモデルにおける粘膜炎経過は、急性放射線モデルに酷似しており、放射線照射のおよそ16日〜18日後で粘膜炎スコアがピークに達する。
【0133】
2. 研究目的及び要約
2.1 研究目的
この研究の目的は、分割放射線プロトコルによって誘導された口腔粘膜炎の頻度、重症度及び期間に対する、皮下注射で投与したSCV−07の効果を評価することであった。
【0134】
2.2 研究の要約
ハムスターは、腹膜内注射によって−1日目に5mg/kgの単一用量のシスプラチン、その後0日目に左側の頬袋への35Gyの単一線量の放射線を受けた。動物を麻酔し、左側の頬袋をめくり、動物の身体の残りを鉛遮蔽物で保護することで、これを達成した。表13で詳述するように、1日1回の皮下注射で試験材料を与えた。6日目に始め28日目まで隔日で続けて、粘膜炎を臨床的に評価した。−1日〜20日までと同様に試験物質を与えた。
【0135】
3. 評価
3.1 粘膜炎評価
6日目から始め、その後2日毎28日まで(28日目を含む)粘膜炎の悪性度をスコア付けした。プラシーボと比較した、各薬剤処理の粘膜炎に対する効果を以下のパラメータに従って評価した:
【0136】
3.1.1 各群におけるハムスターが潰瘍性粘膜炎になる(スコア≧3)日数の差
各評価日で、各薬剤処理群において盲検粘膜炎スコアが3以上の動物の数を対照群と比較した。累積ベースと比べて差を比較し、カイ二乗解析によって、統計的有意性を求めた。この解析において、対照群と比較した場合に動物群が潰瘍形成した(スコア≧3)日数の有意な低減によって有効性を定義する。
【0137】
3.1.2 1日粘膜炎スコアの順位和の差
各評価日に対して、ノンパラメトリック順位和解析を用いて、対照群のスコアを処理群のスコアと比較した。処理の成功は、6日〜28日の2日以上での処理群におけるスコアの統計的に有意な減少と見なした。
【0138】
3.2 体重及び生存率
粘膜炎重症度及び/又は処理によって起こり得る毒性に対する指標として、処理群間での動物の体重の起こり得る差を評価するために、毎日全ての動物を秤量し、それらの生存率を記録した。
【0139】
4. 研究設計
40匹の雄のシリアンゴールデンハムスターに、−1日目に5mg/kgのシスプラチンの腹膜内注射を与えた。0日目に、全ての動物に左側の頬袋に向けて35Gyの急性放射線量を与えた。動物を麻酔し、左側の頬袋をめくり、動物の残りの部分を鉛遮蔽物で保護することで、これを達成した。表13で詳述するように、1日1回の皮下注射で試験材料を与えた。6日目に始め28日まで隔日で続けて、粘膜炎を臨床的に評価した。
【0140】
【表19】

【0141】
5.材料及び方法
5.1 研究の実施場所
Watertown, MAにあるBiomodels AAALAC公認施設で研究を行った。Biomodels IACUCから、この研究に対するIACUC認可番号07−0620−01を得た。
【0142】
5.2 動物
研究の開始時の平均体重が90gであった5〜6週齢の雄のLVGシリアンゴールデンハムスター(Charles River Laboratories)を使用した。耳パンチを使用して動物に個々に番号を付け、1つのケージ当たり10匹の小さい動物群に収容した。研究開始前の5日間、動物を順応させ、この期間の間、状態不良を示す動物を排除するために、動物を毎日観察した。
【0143】
5.3 ハウジング
70華氏度±5華氏度の温度及び50%±20%相対湿度の濾過空気を与えた動物室で研究を行った。動物室は、1時間当たり最低12回〜15回の換気を維持するように設定した。動物室は、薄明のない12時間の明期と12時間の暗期との明/暗サイクルで自動タイマーにおいた。Bed−O−Cobs(登録商標)敷料を使用した。敷料は、最低1週間に1回変えた。ケージ、上蓋、ボトル等を市販の洗剤で洗い、空気乾燥させた。フードに導入される表面及び材料を消毒するのに、市販の消毒剤を使用した。フロアを毎日清掃し、市販の洗剤で最低1週間に2回モップ掛けした。壁及びケージラックを希釈漂白溶液で最低1ヶ月に1回スポンジ掛けした。研究、用量、動物番号及び処理群を識別するのに必要である適切な情報を備えるケージカード又はラベルで全てのケージを印付けした。温度及び相対湿度を研究中に記録し、その記録は残した。
【0144】
5.4 食餌
動物に、Purina Labdiet(登録商標)5061齧歯類用の食餌を与え、水を自由に与えた。
【0145】
5.5 動物の無作為化及び配分
放射線照射前に動物を無作為に予め4つの処理群に分けた。個々の番号に対応して、耳パンチで各動物を識別した。タグは研究中に外れる可能性があるので、より一貫した識別のために、タグ付けではなく耳パンチによるナンバリングを使用した。各ケージを識別するのにケージカードを使用するか、又はラベルに研究番号(SCI−04)、処理群番号及び動物番号を印付けした。
【0146】
5.6 皮下投与及び薬剤適用
試験化合物であるヒトSCV−07ペプチドを粉末で準備し、投与直前に滅菌PBS中に溶解した。薬剤は、27Gニードルを備えたツベルクリンシリンジを使用して、0.1mLの容量で与えた。背側又は腹側に皮下注射した。
【0147】
5.7 粘膜炎誘導
この研究では、シスプラチンと放射線との組合せによって粘膜炎を誘導した。−1日目に、5mg/kgの単一注射(腹腔内)としてシスプラチンを与えた。0日目に、35Gyの単一病巣線量の放射線として放射線を与えた。3.0mm径の硬化Al濾過システムによって、焦点距離30cmのPhilips製の電位160kVp(キロボルト電位)(18.75−ma)X線電源で放射線を発生させた。照射は、3.32Gy/分の速度で左側の頬袋の粘膜を標的とした。Victoreenモデル530線量計によるこの電源の較正は、線量率が28.57nC/分であることを示した。この較正を用いて、各放射線量で各動物が受けたエネルギーは、およそ688.6nC(ナノクーロン)であった。照射前に、ケタミン(160mg/kg)及びキシラジン(8mg/kg)の腹腔内注射によって動物を麻酔した。左側の頬袋をめくり、固定して、鉛遮蔽物を使用して隔離した。
【0148】
5.8 粘膜炎スコア付け
上記の研究を通して、粘膜炎スコア、体重変化及び生存率を測定した。粘膜炎の評価のために、吸入麻酔薬によって動物を麻酔し、左側の頬袋をめくった。有効写真尺度との比較によって、粘膜炎を視覚的にスコア付けした。スコアは正常の0から、重度の潰瘍形成の5までの範囲であった(臨床的なスコア付け)。記述用語において、この尺度は以下のように定義する:
【0149】
【表20】

【0150】
1〜2のスコアは、中度の段階の疾患を表すと考えられるが、3〜5のスコアは、中度から重度の粘膜炎を示すと考えられる。視覚的なスコア付けの後、標準化技法を用いて、各動物の粘膜を撮影した。実験の結果、全てのフィルムを現像し、無作為に写真に番号を付けた。少なくとも2人の独立した熟練の観察者等が、上記の尺度(盲検スコア付け)を用いて盲検様式で写真を格付けした。
【0151】
6. 結果及び考察
6.1 生存率
この研究中に、致死は観察されなかった。
【0152】
6.2 体重変化
研究群間で体重変化の有意な差はなかった。1日平均の体重変化データを評価した。生理食塩水処理した対照ハムスターは、研究中、平均して出発体重の46.5%増加した。−1日〜20日に10μg/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の51.3%増加した。−1日〜20日に100μg/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の46.7%増加した。−1日〜20日に1mg/kgでSCV−07を受けた群におけるハムスターは、研究中、平均して出発体重の48.8%増加した。各動物の体重増加に対する曲線下面積(AUC)を算出した後、一方向ANOVA検定を用いて異なる処理群を比較することによって、これらの有意差を評価した。この解析の結果は、これらの処理群の間に有意差がなかったことを示していた(P=0.663)。
【0153】
6.3 粘膜炎(表15及び表16)
対照動物間の粘膜炎進行の速度及び重症度は、予測されたものと一致していた。
【0154】
各群に対する1日平均の粘膜炎スコアを評価した。生理食塩水処理した対照群では、ピーク平均粘膜炎スコアが3.1であり、これは18日目に起こった。−1日〜20日に10μg/kgのSCV−07を受けた群では、ピーク平均粘膜炎スコアが2.9であり、これは16日目に起こった。−1日〜20日に100μg/kgのSCV−07を受けた群では、ピーク平均粘膜炎スコアが2.8であり、これは14日目及び16日目に起こった。−1日〜20日に1mg/kgのSCV−07を受けた群では、ピーク平均粘膜炎スコアが3.2であり、これは16日目に起こった。各群に対してスコアが3以上であった日数を算出し、カイ二乗(χ2)検定を用いてこれらの日数を比較することによって、異なる処理群間で見られた有意差を評価した。この解析の結果を表15に示す。生理食塩水処理した対照群におけるハムスターは、評価した日数の50%でスコアが3以上であった。−1日〜20日に10μg/kgのSCV−07を受けた群では、評価した日数の34.2%で3以上の粘膜炎スコアが見られ、これは対照とは統計的に有意に異なっていなかった(P<0.001)。−1日〜20日に100μg/kgのSCV−07を受けた群では、評価した日数の29.2%で3以上の粘膜炎スコアが見られ、これは対照とは統計的に有意に異なっていた(P<0.001)。−1日〜20日に100μg/kgのSCV−07を受けた群では、評価した日数の30.8%で3以上の粘膜炎スコアが見られ、これは対照とは統計的に有意に異なっていなかった(P<0.001)。マンホイットニー順位和解析を用いて粘膜炎のさらなる解析を行い、それぞれの日のそれぞれの群に対するスコアを比較した。この解析の結果を表16に示す。この解析では、低減が顕著であると見なす前に、一般的に2日間の粘膜炎スコアの有意な低減を必要とする。−1日〜20日に10μg/kgのSCV−07で処理した群は、生理食塩水対照と比較して、22日目(P=0.010)、24日目(P=0.022)、26日目(P=0.015)及び28日目(P<0.001)で有意に粘膜炎が低減した。−1日〜20日に100μg/kgのSCV−07で処理した群は、生理食塩水対照と比較して、6日目(P=0.015)、22日目(P=0.003)、24日目(P=0.005)、26日目(P<0.001)及び28日目(P<0.001)で有意に粘膜炎が低減した。−1日〜20日に1mg/kgのSCV−07で処理した群は、生理食塩水対照と比較して、6日目(P=0.015)、20日目(P=0.029)、22日目(P=0.012)、24日目(P=0.001)、26日目(P=0.003)、及び28日目(P<0.001)で有意に粘膜炎が低減した。
【0155】
【表21】

【0156】
【表22】

【0157】
7. 結論
1.致死率及び体重増加の観察に基づく、この研究におけるSCV−07による毒性の痕跡は全く存在しなかった。
2.−1日〜20日に10μg/kgのSCV−07で処理した動物は、粘膜炎スコアが3以上の日数の統計的に有意な低減(P<0.001)、並びに22日目(P=0.010)、24日目(P=0.022)、26日目(P=0.015)及び28日目(P<0.001)に粘膜炎スコアの有意な低減を示した。
3.−1日〜20日に100μg/kgのSCV−07で処理した動物は、粘膜炎スコアが3以上の日数の統計的に有意な低減(P<0.001)、並びに6日目(P=0.015)、22日目(P=0.003)、24日目(P=0.005)、26日目(P<0.001)及び28日目(P<0.001)に粘膜炎スコアの有意な低減を示した。
4.−1日〜20日に1mg/kgのSCV−07で処理した動物は、粘膜炎スコアが3以上の日数の統計的に有意な低減(P<0.001)、並びに6日目(P=0.015)、20日目(P=0.029)、22日目(P=0.012)、24日目(P=0.001)、26日目(P=0.003)及び28日目(P<0.001)に粘膜炎スコアの有意な低減を示した。
【0158】
9. 別表
9.1 別表7−動物の体重
【表23】

【0159】
9.2 別表8−粘膜炎スコア
【表24】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において、粘膜の疾患による組織の崩壊、傷害又は損傷を治療、予防、阻害又は低減するため、又は該疾患によって悪影響を受けた組織を再生するための治療方法であって、該被験体に、有効量の式A
【化1】

(式中、nが1又は2であり、Rが水素、アシル、アルキル又はペプチド断片であり、Xが芳香族アミノ酸若しくは複素環アミノ酸、又はそれらの誘導体である)の免疫調節化合物を投与することを含む、治療方法。
【請求項2】
XがL−トリプトファン又はD−トリプトファンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物がSCV−07である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物を約0.001mg〜2000mgの範囲内の用量で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物を約0.01mg〜100mgの範囲内の用量で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物を約0.1ug/kg(被験体の体重)〜10,000ug/kg(被験体の体重)の範囲内の用量で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物を約1ug/kg(被験体の体重)〜1,000ug/kg(被験体の体重)の範囲内の用量で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記疾患が、被験体への放射線又は化学療法の少なくとも1つによって生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記粘膜が口腔又は食道の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記疾患が粘膜炎又は潰瘍性病変の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記放射線を少なくとも約15Gyの累積線量で投与する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記放射線を少なくとも約40Gyの累積線量で投与する、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記放射線を少なくとも約60Gyの累積線量で投与する、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記化学療法がシスプラチンを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記シスプラチンを0.1mg/kg〜50mg/kgの範囲内の用量で投与する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記シスプラチンを約5mg/kgの用量で投与する、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2010−518160(P2010−518160A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549595(P2009−549595)
【出願日】平成20年2月11日(2008.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/001768
【国際公開番号】WO2008/100458
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(593199563)サイクローン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】SciClone Pharmaceuticals,Inc.
【住所又は居所原語表記】950 Tower Lane, Suite 900, Foster City, California 94404, United States of America
【Fターム(参考)】