説明

精密加工用研磨布

【課題】磁気ディスクの高精密加工用研磨布、特に、垂直磁気記録方式ハードディスク製造工程において充分な研削量が得られ、スクラッチを与えず、研磨精度の優れる精密加工用研磨布を提供すること。
【解決手段】支持体の上に多孔質樹脂が積層された精密加工用研磨布であって、該多孔質樹脂の表面開孔率が5%以上40%以下、空隙率が65%以上85%以下、かつ、厚みが0.50mm以上であり、そして該研磨布全体の圧縮エネルギーが2.5gf・cm/cm以上5.5gf・cm/cm以下であることを特徴とする精密加工用研磨布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精密加工用研磨布、特にハードディスク製造工程で使用される研磨布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ、デジタルカメラ、携帯電話、映像音楽記録再生機器等のデジタル家電の記憶装置としてハードディスク装置が用いられている。それに搭載する磁気記録媒体の高密度記録を可能とする技術として、従来の長手磁気記録方式ハードディスクに代わって、垂直磁気記録方式ハードディスクが注目されている。これらハードディスクの基板としては、ガラス基板やNi−Pメッキを施したアルミニウム基板が広く用いられている。
長手磁気記録方式ハードディスクの一般的な製法においては、基板に対して水平に磁極を配向させる必要がある。そのため磁性薄膜をコーティングする前に基板に所望の微細な凹凸パターン、すなわちテクスチャーを加工形成している。一方、垂直磁気記録方式ハードディスクでは、基板に対して垂直に磁極を配向させるため、テクスチャー加工は不要である。しかしながら、基板表面上には微細な傷、突起物、パーティクルが存在するため、それらを除去し表面を平滑化する必要がある。
【0003】
垂直磁気記録方式ハードディスクで使用する基板には、高密度記録化に伴い、その表面平滑性を確保するため、粗さを低減する要求が強まっている。基板表面の平滑性は製造工程において、主に研磨工程で使用する研磨布、研磨砥粒の種類や粒子径を選定する必要がある。近年加速度的に開発が進むハードディスクの情報記録密度向上のためには、表面平均粗さの低減が必要であり、そのためには、研磨工程の際充分な研削量が得られ、かつ、深い傷(以下、スクラッチともいう)を与えないような研磨精度の向上が極めて重要である。
これらハードディスク基板の精密加工用研磨布としては、従来から不織布を用いたものが多用されている。不織布タイプの研磨布は、基板との接触性が良く、研磨砥粒の保持性にも優れ、充分な研削量が得られる。しかしながら、不織布タイプの研磨布は、繊維の配向に起因するテクスチャー痕が基板表面に形成されるため、所望の基板表面の平滑性は必ずしも得られない。
【0004】
近年、テクスチャー痕の形成を抑制することを目的として、多孔質樹脂を用いた研磨布が使用されるようになった。また、多孔質樹脂タイプの研磨布では、スクラッチの原因である過剰砥粒や研磨屑が気泡セルで捕集されるので、不織布タイプに比べスクラッチを生じ難いとされている(例えば、以下の特許文献1を参照のこと)。しかしながら、研磨砥粒濃度(以下、スラリー濃度ともいう)を高くするとスクラッチが著しく増加してしまい、不織布タイプの研磨布に比較して、低スラリー濃度条件でしか研磨を実施できず、充分な研削量が得られないという問題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−151651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、磁気ディスクの高精密加工用研磨布、特に、垂直磁気記録方式ハードディスク製造工程において充分な研削量が得られ、スクラッチを与えず、研磨精度の優れる精密加工用研磨布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、垂直磁気記録方式ハードディスクを精密加工するために用いられる研磨布について鋭意検討を進めた結果、下記の2点を満たす精密加工用研磨布が、従来の多孔質樹脂タイプの研磨布より大きな研削量が得られ、かつ、スクラッチの発生が少ないことを見出し、本発明の完成に至った:
(i)スクラッチの原因となる過剰砥粒や研磨屑を研磨界面から排除する、すなわち研磨層が過剰砥粒や研磨屑を内部に取り込み易く、かつ、外部に排出し難い構造である必要がある。
(ii)研磨工程で行われる加圧加工の際、充分な研削量とスクラッチ発生の防止を満足するためには研削量を得るために必要な圧力を均一に被研磨物に伝える、すなわち研磨布全体が適度な圧縮特性を示す必要がある。
【0008】
すなわち、本発明は下記の[1]〜[5]に記載の通りである:
[1]支持体の上に多孔質樹脂が積層された精密加工用研磨布であって、該多孔質樹脂の表面開孔率が5%以上40%以下、空隙率が65%以上85%以下、かつ、厚みが0.50mm以上であり、そして該研磨布全体の圧縮エネルギーが2.5gf・cm/cm以上5.5gf・cm/cm以下であることを特徴とする精密加工用研磨布。
【0009】
[2]前記多孔質樹脂が、多孔質ポリウレタンである、前記[1]に記載の精密加工用研磨布。
【0010】
[3]前記多孔質樹脂の平均開孔径が5μm以上40μm以下である、前記[1]又は[2]に記載の精密加工用研磨布。
【0011】
[4]前記支持体が、不織布である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の精密加工用研磨布。
【0012】
[5]前記不織布が、織編物の片面又は両面に繊維層を積層させた不織布である、前記[4]に記載の精密加工用研磨布。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、磁気ディスクの高精密加工に適した研磨布に関する発明であり、支持体の上に多孔質樹脂が積層された精密加工用研磨布であって、研磨層である多孔質樹脂の、表面開孔率、空隙率、厚みを特定範囲し、研磨布全体に、適度な圧縮特性をもたせることで、充分な研削量が得られ、かつ、スクラッチの発生を抑制することができるといった研磨精度の優れる精密加工用研磨布を提供することができる。
本発明における研磨層は、上記の構造を有することで、スクラッチの原因と考えられる過剰砥粒や研磨屑を内部に取り込み易く、かつ、外部に排出し難いという効果を有し、基板と研磨層が接触する研磨界面からそれらを排除することが可能である。また、研磨布全体として、適度な圧縮特性をもつことで研削量を得るために必要な圧力を均一に被研磨物に伝えることができ、充分な研削量を得ることができる。また研磨層は柔らか過ぎないため、研磨加工時に基板に押し付けられる際にもその厚み、孔容積を維持することができ、その結果、多量の過剰砥粒と研磨屑を捕集し、スクラッチの発生を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る精密加工用研磨布は、多孔質樹脂と支持体を積層した多層構造シートからなり、多孔質樹脂層を研磨層として用いる。研磨層は、特定の表面開孔状態、孔容積で規定される三次元構造を有する多孔質樹脂であり、かつ、研磨布全体が特定範囲の圧縮特性を示すことにより得られる。
【0015】
本発明において、多孔質樹脂の表面開孔率は5%以上40%以下、好ましくは、10%以上30%以下である。多孔質樹脂の表面開孔率が5%未満の場合、過剰砥粒や研磨屑を気泡セル内に確保することが困難となる。そのため、気泡セル内に取り込めなかった過剰砥粒や研磨屑を引きずったまま研磨加工を続けてしまい、スクラッチが生じる。また、表面開孔率が5%未満の場合、研磨スラリーの吸液性と拡散性が低下することで、研磨布表面で研磨スラリーが均一に分散しないため、スクラッチや研磨加工斑が生じる。一方、表面開孔率が40%を超える場合、孔間の幅が狭くなるため樹脂部の強度は低下し、研磨加工時に樹脂の脱落が発生する。その結果、この脱落した樹脂に砥粒が凝集し、均一な加工が困難となる。
【0016】
また、本発明において、多孔質樹脂の表面の平均開孔径は、5μm以上40μm以下であるのが好ましい。平均開孔径が5μm未満の場合、研磨スラリーを吸液することが困難であり、研磨布表面で研磨スラリーが均一に分散しないため、スクラッチや研磨加工斑が発生する。平均開孔径が40μmを超える場合、一度捕集された過剰砥粒や研磨屑が排出され易く、排出された過剰砥粒や研磨屑が基板を傷付けるため、スクラッチを抑制することが困難である。
【0017】
また、本発明において、多孔質樹脂の孔はスクラッチの原因となる過剰砥粒や研磨屑を捕集し、基板と研磨層が接触する研磨界面からそれらを排除する役割を担っている。そして、その捕集能力は孔容積の大きさ(多孔質樹脂層の空隙率と厚み)に比例する。捕集能力が小さい場合、すなわち、孔容積が小さい場合には、研磨界面から過剰砥粒や研磨屑を排除することができず、結果としてスクラッチを抑制することが困難となる。多孔質樹脂の空隙率が65%以上、好ましくは67%以上、更に好ましくは70%以上、厚みは0.50mm以上、好ましくは、0.55mm以上であれば、充分に大きな捕集能力を有する孔容積となるため、スクラッチを抑制することが可能である。一方、空隙率が大きすぎる場合、研磨加工時に基板に押し当てられる際に、多孔質樹脂の孔の構造や空隙を維持することが困難である。研磨加工時の正味の捕集能力は充分に高くなく、結果としてスクラッチが抑制することが困難となる。この理由から、空隙率の上限は85%以下であり、より好ましくは80%以下である。多孔質樹脂の厚みに関しては特に上限はないが、厚過ぎると巻き取った際の外径が大きくなり過ぎてしまい研磨設備にセットし難くなることや多孔質樹脂層の製造加工精度を考えると、1.00mmが一般的な上限として考えられる。
【0018】
多孔質樹脂の孔の形状は、多孔質樹脂の製造方法により下記2種類に大別される:
(イ)湿式凝固法による三角錐型
(ロ)乾式凝固法によるダンベル型。
より多くの過剰砥粒や研磨屑を内部に取り込むためには、孔は連通しておかなければならず、孔の深部まで直線的になっている三角錐型の孔はその点で好ましい。更に、孔径が表面から内部に向けて傾斜的に大きくなっており、過剰砥粒や研磨屑を保持し易いという点でも好ましい。一方、乾式凝固法で製造される孔は、球型の無数の微小セルが、セルよりも細い管を介してセル同士が連通しているダンベルのような構造をしている。ダンベル型の孔は三角錐型の孔よりも複雑に連通しており、一度捕集した過剰砥粒や研磨屑を外部により排出し難い。三角錐型、ダンベル型のどちらの形状でも本発明における研磨層を製造することが可能であるが、一度捕集した過剰砥粒や研磨屑を外部により排出し難く、スクラッチの発生をより抑制できるという点で孔の形状(製造方法)としては、ダンベル型(乾式凝固法)の方がより好ましい。
【0019】
しかしながら、表面開孔状態と孔容積で規定された多孔質樹脂の三次元構造を有したのみでは、研磨加工の際の充分な研削量、かつ、スクラッチ低減を両立することが困難である。これらを両立するためには、以下に記述するように、研磨布全体が適度な圧縮特性を示すことが必要である。
【0020】
本発明に係る精密加工用研磨布全体の圧縮エネルギーは、2.5gf・cm/cm以上5.5gf・cm/cm以下であり、好ましくは3.0gf・cm/cm以上4.5gf・cm/cm以下である。圧縮エネルギーは被評価物の圧縮過程での仕事量であり、硬さを示す指標である。すなわち、圧縮エネルギーの値が大きいほど柔らかいことを意味する。圧縮エネルギーが2.5gf・cm/cm未満の場合、すなわち、研磨布が硬過ぎる場合には、研磨加工時の基板に研磨布を押し付ける際にゴムロールを介して与える圧力が大きい為、研削量は多いが多くのスクラッチが発生し易い。研磨布が適度な硬さを有していればゴムロールを介して基板に研磨布を押し付けた際、基板、研磨布、ゴムロール間の密着性が良く、圧力が均一に分散して伝達されるため精度の高い研磨加工ができる。一方、圧縮エネルギーが5.5gf・cm/cmを超える場合、すなわち、研磨布が柔らか過ぎる場合、基板、研磨布、ゴムロール間の密着性が悪く、研磨加工時のゴムロールを介して与える圧力は伝達されにくく、不均一となるため、研削量の不足と研磨加工斑が生じ易くなり加工精度が悪くなる。また、研磨加工時の基板に押し当てられる際に発生する荷重により、多孔質樹脂が柔らかすぎる場合には、その厚みが薄くなり正味の孔容積は小さくなる。孔容積が小さくなることは、過剰砥粒や研磨屑の捕集能力が低下することを意味し、結果としてスクラッチが発生し易くなる。また、多孔質樹脂が柔らか過ぎると基板と研磨布の接触面積が大きくなるため、両者間での摩擦力が増大し、スクラッチの発生や研磨加工斑の発生などを引き起こす可能性がある。さらには、多孔質樹脂の変形により樹脂由来の屑が発生しやすくなり、スクラッチの発生を引き起こす可能性がある。従ってスクラッチの発生の抑制、精度の高い研磨加工をするためには、多孔質樹脂は適度な硬さを有する必要がある。本発明における多孔質樹脂の圧縮エネルギーは、5.0gf・cm/cm以下であることが好ましい。
【0021】
以上のような三次元構造を有する多孔質樹脂と圧縮エネルギーを有する研磨布であれば、多孔質樹脂を用いた従来の研磨布ではスクラッチが発生してしまう高スラリー濃度条件での加工においても、スクラッチの発生が抑制でき、すなわち、充分な研削量を得ることができる。
なお、表面開孔率、空隙率、厚み、平均開孔径、圧縮エネルギーは後記の方法により測定することができる。
【0022】
本発明において、支持体は短繊維不織布、長繊維不織布などの不織布である方が好ましい。一般的な支持体である織編物やフィルムに比べ、不織布は、繊度や素材、嵩密度を変えることで圧縮特性を容易に調整できる。また、ハードディスク製造工程での研磨加工では、研磨布は支持体側からゴムロールなどで基板に押し当てられる。支持体として不織布を用いた場合、不織布は適度な摩擦抵抗を有するため、ゴムロールと研磨布が研磨軌道から外れることなく安定した研磨加工が可能となる。以上の点から、支持体としては、適度な圧縮特性を示し、かつ、研磨布全体の圧縮エネルギーを容易に調整でき、適度な摩擦抵抗を有する不織布が好ましい。
【0023】
支持体として用いる不織布の製造方法としては、例えばカーディングした後、クロスレイヤー、エアーレイヤー等でシート化して、針布により交絡させるニードルパンチ法、柱状水流により交絡させる乾式スパンレース法、繊維を水分散させて抄造法でシート化した後、柱状水流で交絡させる湿式スパンレース法、通常のスパンボンド法等が挙げられるがいずれでも構わない。得られる不織布の目付斑及び厚み斑が小さく、物性の等方性に優れる点で、湿式スパンレース法を使用することが好ましい。
【0024】
本発明において、支持体は、織編物の片面又は両面に繊維層を積層させた不織布であることが好ましい。不織布状物の内部層域または裏面層域に織編物を配置し、織編物と不織シートが絡み合って容易にはがれない程度に一体に埋め込まれていることは、優れた寸法安定性が実現でき、本発明の好ましい態様といえる。さらには、目付斑、厚み斑がより小さいという点で不織布に用いる繊維の単繊維繊度は0.67デシテックス以下が好ましく、より好ましくは0.11デシテックス以下である。
【0025】
本発明において、研磨層である多孔質樹脂としては、例えばポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、オレフィン系樹脂、ハロゲン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。なかでも、耐磨耗性に優れ、本発明の好ましい圧縮特性を示しやすいという点でポリウレタン樹脂を用いるのが望ましい。
【0026】
本発明において多孔質樹脂を形成する製造方法は、一般的に知られるような湿式凝固法又は乾式凝固法のいずれでもよいが、先述した孔形状の違いが起因する内部に取り込んだ過剰砥粒や研磨屑の排出のし難さ、後述する表面平滑性、環境への負荷という観点から、乾式凝固法が好ましい。
【0027】
湿式凝固法は支持体上に、水混和性有機溶媒に溶解させた多孔質樹脂を塗布し、次いで水を主成分とする凝固溶液との混合液中に浸漬して凝固再生させる方法である。形成された多孔質樹脂の内部には、凝固再生に伴う多数の気泡が形成されており、表層部に近づくほど、平均孔径の小さな多孔質層が緻密に形成された多孔質表面層(スキン層)が形成されている。一般的な開孔法としてはバフィング処理が挙げられるが、バフィング処理では表面開孔率を40%以下にすることが困難であるため、本発明における開孔法としては、エッチング処理が好ましい。更に、エッチング処理の方が、スクラッチの原因の一つとなるバフィング屑を発生しないという点でも好ましい。
【0028】
乾式凝固法は支持体上に、多孔質樹脂エマルジョンを攪拌発泡したものを塗布し乾燥させて形成する。多孔質樹脂エマルジョンに加える添加剤、乾燥時間により平均孔径や表面開孔率を規定することが可能である。乾式凝固法ではスキン層の形成を抑制することが可能であるため、開孔を目的とした後工程は必要がなく、湿式凝固法に比べると工程が簡便であり大きなコストメリットがある。また、バフィング処理やエッチング処理を行うことで発生する多孔質樹脂表面の凹凸を抑制することができ、基板と研磨布が均一に接触し、研磨加工の高精度化が図れる。更に、有機溶媒を使用しないため環境への負荷が小さいという特長を乾式凝固法は有している。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。なお、測定方法、評価方法等は下記のとおりである。
(1)多孔質樹脂の表面開孔率(%)
研磨布試料表面を走査型電子顕微鏡(JSM−5610:日本電子株式会社製)で観察し、加速電圧15kVで倍率100倍の画像を撮影し、任意の箇所の気泡開孔部面積の総和を、全体の面積で割り100を乗じたものを多孔質樹脂の表面開孔率とした。
【0030】
(2)多孔質樹脂の空隙率(%)
積層体全体の目付から支持体の目付を差し引いたものを多孔質樹脂の厚みで割ることにより、多孔質樹脂の嵩比重(g/cm)を求めた。目付(g/m)は、JIS L 1096−1999に準拠して測定した。次いで、下式:
空隙率={1−(多孔質樹脂の嵩比重/樹脂の真比重)}×100
により多孔質樹脂の空隙率を求めた。
【0031】
(3)多孔質樹脂の厚み(mm)
研磨布試料を、ウルトラミクロトーム(ULTRACUT−N:REICHERT製)を使用して断面方向にカットし、これを走査型電子顕微鏡(JSM−5610:日本電子株式会社)で観察し、加速電圧15kVで倍率100倍の画像を撮影した。任意の10点の多孔質樹脂の厚みを測定し、それらの算術平均値を多孔質樹脂の厚みとした。
【0032】
(4)多孔質樹脂の平均開孔径(μm)
研磨布試料表面を走査型電子顕微鏡(JSM−5610:日本電子株式会社)で観察し、加速電圧15kVで倍率100倍の画像を撮影した。任意の50点の多孔質樹脂の開孔径を測定し、それらの算術平均値を多孔質樹脂の平均開孔径とした。
【0033】
(5)圧縮エネルギー(gf・cm/cm
測定機器は、KES−G5(カトーテック株式会社製)を用いた。測定条件は、以下の通りである:
・SENS(記録感度):10
・力計の種類:1kg
・SPEED RANGE:0.02cm/秒
・加圧面積:2cm
・STROKE SET:5.0
・取り込み間隔:0.5
・上限荷重:250gf・cm/cm
【0034】
上記の測定条件下で圧縮し、圧力と変形量の相関図から圧縮エネルギーを得た。圧縮エネルギーが大きい程、圧縮されやすい、すなわち、柔らかいことを意味する。圧縮エネルギーが小さい程硬いことを意味する。
【0035】
なお、研磨加工後のスクラッチ数の評価は後記の方法により測定した。
以下の実施例、比較例で作製された研磨布を38mm幅にスリットして用い、充分な研削量が得られる以下の研磨加工条件で、アルミニウム板にNi−Pメッキ後ポリッシュ加工した10枚の基板を研磨加工した。
(研磨加工条件)
・砥粒:ダイヤモンド遊離砥粒(平均粒径:0.1μm)
・スラリー供給速度:20cc/3分
・スラリー濃度:10cc/5L
・基板回転数:150rpm
・研磨布供給速度:3cm/分
・研磨加工時間:30秒/枚
・トラバース条件:振幅1mm、83回/分
・接圧:0.5kgf
【0036】
(スクラッチ数の評価)
研磨加工後の基板表面状態の評価は、Candela6100(カンデラ・インスツルメンツ製)を用いて10枚の基板のスクラッチ数を測定し、それらの算術平均値を求めることにより行った。
【0037】
[実施例1]
直接紡糸法によって0.11デシテックスのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を製造し、長さ5.0mmに切断した短繊維を水中に分散せしめ抄造用スラリーとした。このスラリーを抄造し、表層目付60g/mの抄造シート(A)、及び、裏層目付25g/mの抄造シート(B)を製造した。
165デシテックス/48フィラメントのPET繊維仮撚り加工糸からなる目付量81g/mの平織物(経糸密度46本/2.54cm、緯糸密度54本/2.54cm、有撚)の両面に抄造シート(A)及び(B)を積層して、積層構造繊維シートとして、次いで高圧水流の噴射により三次元交絡不織布(C)を得た。高圧水流は、3.0mmピッチで一列に配列された直径0.2mmのノズルより、1.5MPaの圧力で連続的に噴射させ、ノズルから30mmの位置でシートに高圧水流を衝突させた後、80℃で乾燥した。
【0038】
次いで、ベースレジンを含有するエマルジョンに整泡剤、発泡助剤、増粘剤、弾性付与剤、架橋剤を添加し、分散不良とならないように攪拌して安定な含浸液とした。
この含浸液を高速攪拌装置により攪拌して発泡させ、空気をできる限り小さい気泡として含ませ、上記のように発泡させた発泡コンパウンド液を、三次元交絡不織布(C)にドクターナイフコーターを用いて厚さが0.58mmになるように連続的に塗布し、基布上の発泡コンパウンド液を乾燥する乾式凝固法により多孔質ポリウレタンを形成し、精密加工用研磨布を得た。
得られた多孔質ポリウレタンの表面開孔率は15%、空隙率は80%、平均開孔径は9μm、積層体全体の圧縮エネルギーは3.8gf・cm/cmであった。
【0039】
[実施例2]
支持体の作製は実施例1と同様に行い、多孔質ポリウレタンの形成は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)の溶剤の中で重合したポリウレタンのDMF溶液を三次元交絡不織布(C)に塗付させ、これを水に浸漬してDMFを除去する湿式凝固法により作製した。また、この過程において、孔容積が大きくなるように水との置換速度を速める反応促進剤を加えた。次いで、スキン層を除去するためエッチング処理を施し、精密加工用研磨布を得た。得られた多孔質ポリウレタンの表面開孔率は9%、空隙率は75%、厚みは0.65mm、平均開孔径は13μm、積層体全体の圧縮エネルギーは4.5gf・cm/cmであった。
【0040】
[比較例1]
多孔質ポリウレタンの形成において、多孔質ポリウレタンの厚みが0.40mmとなるように乾式凝固法により形成した以外は、実施例1と同様に行った。得られた多孔質ポリウレタンの表面開孔率は21%、空隙率は73%、平均開孔径は9μm、積層体全体の圧縮エネルギーは2.1gf・cm/cmであった。
【0041】
[比較例2]
支持体の作製、多孔質ポリウレタンの形成は、反応促進剤を添加していない以外は実施例2と同様に行った。次いで、スキン層を50μm除去するため、#150のバフィングペーパー(ノリタケコーテッドアブレーシブ製)を用い、ペーパー速度1001m/分で、研磨層である多孔質ポリウレタンをバフィング処理して、精密加工用研磨布を得た。得られた多孔質ポリウレタンの表面開孔率は74%、空隙率は50%、厚みは0.23mm、平均開孔径は23μm、積層体全体の圧縮エネルギーは2.3gf・cm/cmであった。
【0042】
[比較例3]
多孔質ポリウレタンの厚みが0.60mm、支持体として厚さ400μmのPETフィルムを用いた以外は、比較例2と同様に作製した。得られた多孔質ポリウレタンの表面開孔率は60%、空隙率は60%、平均開孔径は18μm、積層体全体の圧縮エネルギーは1.3gf・cm/cmであった。
【0043】
以上の実施例、比較例で作製された研磨布の構造及び物性を、以下の表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
実施例1及び2では、比較例1〜3に比較して、スクラッチの数を抑制できており、垂直磁気記録方式ハードディスクの使用には実用可能な範囲に抑えられていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の上に多孔質樹脂が積層された精密加工用研磨布であって、該多孔質樹脂の表面開孔率が5%以上40%以下、空隙率が65%以上85%以下、かつ、厚みが0.50mm以上であり、そして該研磨布全体の圧縮エネルギーが2.5gf・cm/cm以上5.5gf・cm/cm以下であることを特徴とする精密加工用研磨布。
【請求項2】
前記多孔質樹脂が多孔質ポリウレタンである、請求項1に記載の精密加工用研磨布。
【請求項3】
前記多孔質樹脂の平均開孔径が5μm以上40μm以下である、請求項1又は2に記載の精密加工用研磨布。
【請求項4】
前記支持体が不織布である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の精密加工用研磨布。
【請求項5】
前記不織布が、織編物の片面又は両面に繊維層を積層させた不織布である、請求項4に記載の精密加工用研磨布。

【公開番号】特開2010−155334(P2010−155334A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−446(P2009−446)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】