説明

精製乳酸溶液の製造方法

本明細書の開示は、pHが0.8〜9.0の範囲である乳酸材料源が用いられる場合に好適に使用できる精製乳酸溶液の調整方法を提供するものである。上記方法は、乳酸カルシウムを含む乳酸材料源を供給する工程と、上記濃縮ブロスを硫酸で酸性化し、乳酸と硫酸カルシウムとを含む酸性化溶液を調製する工程と、上記酸性化溶液における上記硫酸カルシウムの量を低減する工程と、アミン抽出剤を用いて上記酸性化溶液の抽出を行い、乳酸含有溶媒を調製する工程と、水系溶媒を用いた上記乳酸含有溶媒の逆抽出により乳酸の精製溶液を得る工程とを有する。必要に応じ、上記乳酸材料源の濃縮を、上記酸性化工程の前に行ってもよい。あるいは、上記アミン抽出剤が硫酸塩陰イオンを含んでいてもよい。上記アミン抽出剤中の上記硫酸陰イオンは、上記酸性化工程で生じた残留硫酸であってもよい。あるいは、上記アミン抽出剤中の上記硫酸は、例えば上記抽出工程において、新たに添加した硫酸であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、乳酸の処理に関する。特に本発明は、中性または低pHの乳酸材料源(source of lactate material)から精製乳酸溶液を得る方法、ならびにこの結果得られる生成物に関する。
【0002】
[発明の背景]
例えば各種産業用ポリマーの製造に使用する汎用化学製品としての乳酸の可能性が知られている。汎用化学製品としての乳酸の使用は、ポリ乳酸や各種乳酸生成物が生分解性であるため、極めて有益である。さらに乳酸は、再生可能な炭素源を用い、発酵によって製造することができる。
【0003】
低pH発酵は、乳酸製造の商業的可能性を向上させるべく研究が進められている方法である。乳酸材料が主として乳酸塩として存在する中性のpH発酵(例えば、pH5.0以上8.0以下、より一般的にはpH5.0以上7.0以下)と比べ、低pH発酵(例えば、pH5.0未満、一般的には4.8未満、より一般的には4.3未満)を用いて生成した乳酸材料には、遊離酸形態がかなり多く含まれる。このため、pH5.0未満の水溶液から乳酸を単離すれば、5.0より大きいpHの水溶液から乳酸を単離する際に通常要する酸性化技術の必要性を低減しやすい。
【0004】
酸性化技術の多くは多額の資本経費または運転費を必要とし、酸性化剤を消費し、かつ/または試薬の消耗や副酸塩の生成を伴う。したがって、5.0以下のpH範囲で高い生産性を維持できる有機体の開発に関心が集まっている。
【0005】
低pHでの生産性が高い微生物を開発する努力に加え、発酵時における混合糖系(mixed sugar streams)の使用を増やす努力もなされている。炭素源としてデキストロースのような精製糖系を通常含む従来の発酵培地と異なり、混合糖系は、ヘキソース、ヘキスロース、例えばデキストロース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、キシロースといった各種ペントースを組み合わせたものを含んでいる。混合糖系は、例えばセルロースやヘミセルロースの酵素加水分解または酸加水分解によって得ることができる、比較的安価な炭素源である。米国特許第5,562,777号、第5,620,877号、および第4,350,766号は、混合糖系の製造方法を開示している。米国特許第5,798,237号および第5,789,210号は、これらの系を炭素源として発酵に使用することを記載している。これら5件の米国特許の開示内容は、引照をもって本明細書に組み込まれている。
【0006】
混合糖系により比較的安価な炭素源が得られるが、通常、混合糖系は、リグニン等の不純物を従来のデキストロース系に比べてより多く含んでいる。不純物は、これら不純物を許容しなければならない微生物への負荷を増すばかりでなく、発酵ブロスや乳酸材料から分離させる必要がある。したがって、混合糖系またはその他の炭水化物源の使用によってもたらされる不純物の低減が可能な分離方法も所望されている。
【0007】
[発明の概要]
本明細書の開示は、中性pH(例えば、pH5.0以上8.0以下、より一般的にはpH5.0以上7.0以下)あるいは低pH(例えば、pH5.0未満、一般的には4.8未満、より一般的には4.3未満)の乳酸材料源を用いる場合に好適に使用できる精製乳酸溶液の調整方法を提供するものである。
【0008】
本明細書に開示の好ましい一方法は、乳酸カルシウムを含む乳酸材料源を供給する工程と、上記乳酸材料源を濃縮して濃縮溶液を調製する工程と、上記濃縮溶液を硫酸で酸性化し、乳酸と硫酸カルシウムとを含む酸性化溶液を調製する工程と、上記酸性化溶液における上記硫酸カルシウムの量を低減する工程と、抽出剤を用いて上記酸性化溶液の抽出を行い、乳酸含有溶媒を調製する工程と、上記乳酸含有溶媒を、例えば非混和性水溶液を用いた逆抽出によってストリッピングし、乳酸の精製溶液を得る工程とを有する。上記方法工程は、記載の順序で行わなくともよい。例えば、上記濃縮工程を、上記酸性化工程の前および/または後に行うことも可能である。
【0009】
あるいは、上記方法は、乳酸カルシウムを含む乳酸材料源を供給する工程と、上記乳酸材料源を硫酸で酸性化し、乳酸と硫酸カルシウムとを含む酸性化溶液を調製する工程と、上記酸性化溶液における上記硫酸カルシウムの量を低減する工程と、上記酸性化溶液に抽出剤を混合し、硫酸を含む抽出溶液を調製する工程と、抽出剤を用いて上記酸性化溶液の抽出を行い、乳酸含有溶媒を調製する工程と、上記乳酸含有溶媒をストリッピングし、乳酸の精製溶液を得る工程とを有するようにして行っても。上記抽出溶液中の上記硫酸は、上記酸性化工程中に生じる残留硫酸であってもよい。あるいは、上記抽出工程の前または最中に、上記抽出溶液に硫酸を加えるようにしてもよい。
【0010】
必要に応じ、上記濃縮工程の前に、上記乳酸材料源における分子量約5,000Da以上の不純物の量を低減する工程を行うようにして上記方法を行ってもよい。上記乳酸材料源は、発酵ブロスを含むことが好ましく、上記乳酸カルシウムは、炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムをpH調整剤として用いることにより、発酵中に生成されることが好ましい。
【0011】
[図面の簡単な説明]
図1は、精製乳酸溶液の製造方法を示す工程系統図である。
図2は、精製乳酸溶液の製造方法の別の例を示す工程系統図である。
図3は、アミン抽出剤中への乳酸抽出に関するマッケーブ−シーレ線図を示す図表である。
図4は、抽出液中に硫酸塩が存在する場合と存在しない場合における、アミン抽出剤の平衡曲線を示した図表である。
【0012】
[発明の詳細な説明]
本発明は、中性または低pHの乳酸材料源より精製乳酸溶液を得る方法を提供する。通常、上記乳酸材料源には発酵ブロスが含まれる。本明細書中において、「発酵」とは、微生物の大量培養によって有益な生成物を生成するあらゆる代謝プロセスを指す。発酵プロセスには、例えば、細菌類、酵母、菌類といった種々の微生物が好適に使用される。本明細書で使用する「乳酸材料」という用語は、遊離酸または遊離塩のいずれかの形態の2−ヒドロキシプロピオネート、ならびに遊離酸および/または遊離塩形態の乳酸ラクトイル(lactoyl lactate)等の乳酸オリゴマーを指す。「乳酸」および「遊離乳酸」という用語は、本明細書において同義に用いられ、例えば2−ヒドロキシプロピオン酸のような酸形態(「非解離」形態とも呼ばれる)や、酸形態にある乳酸オリゴマーを指す。乳酸の塩形態すなわち「解離」形態とは、本明細書においては、「乳酸塩」、具体的には乳酸のナトリウム(またはカルシウム)塩または乳酸ナトリウム(または乳酸カルシウム)、ならびに乳酸オリゴマーの塩形態すなわち「解離」形態を特に意味する。「栄養培地」とは、発酵を促すため微生物に供給された当初の形態の培地を指し、通常、炭素源、窒素源、およびその他の栄養分を含んでいる。「発酵ブロス」という用語は、上記当初供給された栄養分の一部あるいは全てが消費され、かつ上記微生物が乳酸材料(例えば、遊離乳酸および乳酸塩)を含有する発酵産物を上記培地に排出した後に得られる、乳酸材料を含む混合物を指す。上記発酵ブロスは、本明細書に記載の方法を含む別の方法によって得られる再循環系を含んでいてもよい。また、上記発酵ブロスを、「乳酸材料源」とも称する。「清澄溶液(clarified solution)」とは、不純物が少なくとも一部除去された、乳酸材料源または発酵ブロスを指す。
【0013】
本明細書では、「ポリ乳酸」または「ポリ乳酸塩」という用語は、乳酸残基またはラクチド残基のポリマー単位を50重量%以上含有しているポリマーを指す。よって、これら2つの用語には、ポリラクチドも含まれる。上記「ポリ乳酸」または「ポリ乳酸塩」という用語は、例えば、重合された物質がラクチド(乳酸ダイマー)なのか、あるいは乳酸そのものであるのかどうかといったように、重合されたモノマーを特定しようとするものではない。
【0014】
慣習により、溶液中に含まれる発酵ブロス等の乳酸材料の量は、上記溶液中の乳酸材料が全て非解離形態すなわち酸形態であると仮定して算出した重量%で表されるか、あるいは上記溶液中の乳酸材料が全て解離形態すなわち塩形態であると仮定して算出した重量%で表される。本明細書中に示す溶液中の乳酸材料の量は、特に記載がない限り、上記溶液中の乳酸材料が全て非解離形態すなわち酸形態であると仮定して算出した重量%である。
【0015】
I.概要 本明細書に記載の方法は、乳酸材料源から精製乳酸溶液を得る方法を提供する。好適な乳酸材料の例として、発酵ブロス、ポリ乳酸の製造過程で得られる乳酸材料を含む再循環系、または乳酸材料を含有する溶液を調製するため加水分解した再循環ポリ乳酸(例えば、消費者より回収した廃棄物(post−consumer waste)または製造過程で生じた廃棄物)が挙げられる。ただし、好適な乳酸材料の例は、これらに限られない。上記乳酸材料源は、通常、発酵ブロスである。(発酵ブロスという用語は、本明細書に記載の方法または別の方法によって得た再循環系を含有する発酵ブロスに対して用いてもよい。)よって、本明細書においては、乳酸材料源としての発酵ブロスの使用に重点が置かれている。しかしながら、本明細書に記載の技術は、実用の際、これに限定されるものではない。
【0016】
通常、上記乳酸材料源には、不純物と呼ばれる乳酸以外の化合物が含まれる。例えば、発酵ブロスには、乳酸材料と総称される乳酸と乳酸塩の両方に加え、細胞片(cellular debris)、残留炭水化物、栄養分、その他の不純物が含まれる場合がある。一般に、商業的用途においては、不純物濃度が約1.0〜5.0g/L未満、より好ましくは約0.005〜1.0g/L未満の水系担体に乳酸が含まれる溶液を使用することが望ましい。しかしながら、許容可能な不純物濃度は、上記溶液の商業的用途や上記溶液中の乳酸の濃度によって異なる。このように、本明細書に記載の方法は、発酵ブロスのような乳酸材料源から精製乳酸溶液を得る方法を提供するものである。本明細書においては、「精製乳酸溶液」という用語は、乳酸を約5〜90重量%、より一般的には約10〜90重量%、最も一般的には約20〜50重量%と、水系担体と、タンパク質、炭水化物、細胞片等の不純物を約1.0〜5.0g/L以下、好ましくは0.005〜1.0g/L以下含有する溶液を指す。
【0017】
図1に好ましい方法の一例を示す。この方法においては、乳酸カルシウムを含む乳酸材料源(A)を濃縮(H)して濃縮溶液を調製する。得られた濃縮溶液を硫酸で酸性化(B)し、乳酸と硫酸カルシウムとを含む酸性化スラリーを調製する。上記酸性化スラリー中の硫酸カルシウムの量を低減(C)し、次に抽出剤を用いて上記酸性化溶液の抽出(D)を行い、乳酸含有溶媒を調製する。上記乳酸含有溶媒を、例えば、非混和性水溶液を用いた逆抽出によってストリッピング(E)し、乳酸の精製溶液(F)を調製する。
【0018】
あるいは、上記方法は、図2に示すように行ってもよい。すなわち、乳酸カルシウムを含む乳酸材料源を供給する工程(A)と、上記乳酸材料源を硫酸で酸性化し、乳酸と硫酸カルシウムとを含む酸性化溶液を調製する工程(B)と、上記酸性化溶液における上記硫酸カルシウムの量を低減する工程(C)と、上記酸性化溶液と抽出剤とを混合し、硫酸(G)を含む抽出溶液を調製する工程(D)と、上記抽出溶液を用いて上記酸性化溶液の抽出を行い、乳酸含有溶媒を調製する工程(D)と、上記乳酸含有溶媒をストリッピングし、乳酸の精製溶液(F)を得る工程(E)とを有するようにして行ってもよい。
【0019】
上記方法は、乳酸材料源(乳酸カルシウムを含む)を硫酸で酸性化し、乳酸と硫酸カルシウム(石膏)とを含む酸性化溶液を調製する工程と、石膏濾過工程、アミン抽出工程、例えば水系逆抽出(aqueous back extraction)による抽出物のストリッピング工程と併用することにより精製乳酸溶液を得る。上記方法の一形態(図1に図示)は、上記乳酸材料源を濃縮する工程(図1(H))を、酸性化の前に有している。上記方法の別の形態においては、上記アミン抽出剤に硫酸が含まれている(図2に参照)。上記方法は、pHが0.8以上9.0未満である発酵ブロス等の乳酸材料源の処理に適している。さらに、上記方法は、混合糖を炭素源として使用したために不純物をより多く含む発酵ブロスの処理にも適している。
【0020】
「清澄」処理を行って、乳酸材料源中に存在する懸濁細胞塊およびその他の高分子量化合物(例えば、分子量約5,000Da以上、好ましくは40,000Da以上の不純物)を低減してもよい(図1(G)参照)。上記清澄工程は、十字流濾過(cross-flow filtration)を含んでいることが好ましい。二段階十字流濾過(two-stage cross-flow filtration)技術を使用することがさらに好ましい。
【0021】
次に、得られた清澄溶液に、例えば硫酸のような強酸を、上記ブロスに含まれる上記乳酸材料の大部分(例えば、上記乳酸材料の約90重量%以上、より好ましくは約95重量%以上)を非解離の酸形態へと変換するのに十分な量だけ添加する(図1(B)および図2(B))。この酸性化処理により乳酸と硫酸カルシウム(石膏)とが生成されるよう、上記乳酸材料源は、乳酸カルシウムを含んでいることが好ましい。石膏はほとんど水に溶解しないため、公知の技術を用いて容易に除去できる(図1(C)および図2(C))。
【0022】
上記硫酸カルシウムを上記溶液から除去しても、低分子量の不純物(例えば、アミノ酸や炭水化物といった分子量約100〜500,000Da、より一般的には100〜300,000Daの不純物)が、依然として上記溶液中に懸濁または溶解していることがある。精製乳酸溶液は、非水溶性アミンを含有する抽出剤を用いて上記酸性化溶液の抽出を行い(図1(D)および図2(D))、次に、得られた抽出溶媒からの上記乳酸のストリッピングを、例えば、上記抽出溶媒と混和しない液相、好ましくは水相、へと上記乳酸を逆抽出することによって行い調製する(図1(E)および図2(E))。
【0023】
必要に応じ、濃縮工程(図1(H))を、上記清澄工程の後および/または後、上記酸性化工程の前および/または後に行ってもよい。好ましくは、上記乳酸材料源を昇温(高温)下で濃縮し、乳酸材料濃度が約12〜60重量%となった濃縮溶液を得る。図1(H)参照。
【0024】
あるいは、上記アミン抽出剤中に、増強剤として硫酸を含有させてもよい。上記硫酸は、上記酸性化工程で生じた残留硫酸として上記抽出剤中に存在しているか、上述のアミンによる抽出工程中に添加するか、あるいは上述のアミンによる抽出工程の前または最中に上記アミン抽出剤に添加してもよい。図2(G)参照。
【0025】
II. 本発明の方法の特に優れた特徴 本明細書に記載の方法は、pH0.8〜9.0の乳酸材料源から乳酸の精製溶液を得るのに適している。よって、上記方法は、始めに中性の発酵プロセスを用い、次にこれを低pHの発酵プロセスへと変換する場合や、あるいはその逆に場合にも、装置を変更することなく使用できる。中性pHでの発酵から低pHでの発酵へと変換する際、いくつかの処理段階において、例えば酸性化容量の超過や石膏濾過中の容量超過といった容量超過の問題が起こる可能性はあるが、起こり得る問題はその程度である。これに対し、既存の方法の多くは、pHが一様でない乳酸材料源に対しては有効でない。このため、多くの既存の方法においては、エンドユーザーが中性の発酵プロセスを低pHの発酵プロセスに変更した場合や、あるいはその逆に場合には、処理方法を完全に変更し、新たな装置を設置しなくてはならない。
【0026】
液液抽出の前に上記乳酸材料源を濃縮すると、希薄な乳酸材料源を抽出する場合に比べ、有機溶媒を用いた抽出時に回収される乳酸の収率を向上させやすい。上記乳酸材料源を濃縮すると、液液抽出時における有機相と水相との比率が変化する。上記抽出時の相比の変化により、高い乳酸回収率がもたらされると推測される。
【0027】
硫酸による酸性化工程と、アミン抽出工程とを併用すると、低乳酸濃度(例えば、約10重量%以下)の有機相中に含まれる乳酸の水相への分配を向上させやすい。これは、上記アミン抽出工程において、残留硫酸が増強剤として働くことによると推測される。さらに、上記アミン抽出における残留硫酸は、その後に行われる水系逆抽出の際、上記水相に分配されにくい。このため、最終製品が硫酸に汚染される可能性は低い。本発明の方法は、液液抽出を用いて乳酸を精製するので、混合糖系を用いた発酵によって得た乳酸の処理に適している。これに対し、水分解電気透析(water splitting electrodialysis)のような他の精製方法は、混合糖系を用いた発酵によって得られた乳酸に対しての使用に、本発明の方法ほどは適していない。なぜなら、混合糖系の使用によりもたらされた発酵ブロス中の不純物は、膜を詰まらせやすいからである。
【0028】
本発明の方法は、既存の商業的方法の多くに用いられているような比較的高価な装置を必要としない。例えば、CO2抽出(米国特許第5,510,526号)に用いられる装置は、二酸化炭素の圧力に耐え得るものであり、4つの相(気体、固体、および2つの液相)を混合、合体させることができ、かつ炭酸塩または炭酸水素塩を発酵容器に再循環させることが可能でなくてはならない。水分解電気透析で使用される膜および膜モジュールは高価であり、またその運転費(例えば、電気代)も高くなる場合がある。イオン交換法は、中性pHのブロスを用いて大規模な処理を行う場合には特に、多量の樹脂を備えた複数の吸着床(beds)を必要とする。陽イオン交換樹脂をプロトン化形態に再生するには過量の塩酸またはその他の強力な鉱酸が必要であり、しかもこれにより廃棄処分を要する水溶性の塩系が生成される。通常、水溶性の塩を埋立て処理するには、水を蒸発させて上記塩を結晶化させることが必要であり、よって廃棄費用が高くなる。また、通常、各再生工程の前後に上記樹脂の水洗が行われる。この洗浄水のため上記系における水量が増え、これにより水の蒸発にかかる負担が大きくなる。
【0029】
これに対し、本明細書に記載の好ましい技術を用いた方法は、例えば、比較的単純で安価な装置、例えば、水分解電気透析に必要なCO2容器または装置と比べ、より単純でより安価な酸性化容器および/または石膏結晶化容器を用いて実行できる。さらに、上記方法は、他の乳酸製造方法と容易に組み合わせることができる。例えば、米国特許第5,510,526号(引照をもって本明細書に組み込まれている)に記載の方法によって得た乳酸含有溶媒を、本発明の方法において抽出剤として使用することができる。さらに、本発明の方法は、公知の重合化法方法よって生じた汚染された副産物系(side streams)の精製にも使用可能である。
【0030】
III.その他の方法 既存の方法の多くは、広範なpH値を有する乳酸材料源への使用には適していない。例えば、水分解電気透析は、中性の発酵ブロスから得た乳酸の酸性化には効果的であるが、低pHの発酵ブロスから得た乳酸の酸性化には効果を発揮しにくい。水分解電気透析においては、乳酸塩の陰イオンおよび対応陽イオンを(電流を使用して)駆動し、陰イオン選択性膜および陽イオン選択性膜をそれぞれ通過させることにより、乳酸塩を遊離乳酸と対応塩基とに変換する。陰イオン選択性膜および陽イオン選択性膜を含む二極性膜は、水をプロトンとヒドロキシルイオンとに分解するために用いられる。上記プロトンは、上記乳酸塩陰イオンと結合して遊離乳酸を生成し、上記ヒドロキシルイオンは上記陽イオンと結合して陽イオン水酸化物塩を生成する。米国特許第5,776,439号には、乳酸酸性化に用いる水分解電気透析が記載されている。米国特許第5,198,086号および第4,7540,281号には、水分解電気透析に使用する装置が記載されている。これら特許の開示内容は、引照をもって本明細書に組み込まれている。もともと存在する遊離乳酸(低pH発酵ブロスに存在するもの)は、電界の影響を受けないため、上記陰イオン選択性膜を通過しない。したがって、上記発酵ブロスにもともと存在する遊離乳酸は、中性の不純物と共に上記ブロスに残留しやすい。このように、上記発酵ブロス中に最初から存在している上記遊離乳酸は、回収されない可能性がある。
【0031】
イオン交換法は、低pHブロスの酸性化には効果的だが、中性pHブロスの酸性化には効果を発揮しにくい。イオン交換法では、プロトン化した陽イオン交換樹脂に発酵ブロスを接触させる。上記樹脂のプロトンおよび上記塩の陽イオンが交換されて乳酸ができる。上記塩の上記陽イオンは、上記樹脂上に残留する。低pHブロスにおいては、乳酸材料のほとんど全てが遊離乳酸の形態で存在する。よって、上記樹脂は、再生を要するまでに大量のブロスを処理できる。しかしながら、上記発酵ブロスのpHが中性の場合には、再生を要するまでにわずかな量のブロスしか処理できない。このため、上記樹脂の再生を頻繁に行う必要があり、効率が低下する。
【0032】
二酸化炭素(CO2)を補助的に使用する液液抽出(carbon dioxide (CO2) assisted liquid-liquid extraction)は、中性発酵ブロスからの乳酸塩の回収を目的とした酸性化技術である(米国特許第5,510,526号)。CO2補助を伴う液液抽出においては、基本的に、乳酸塩をCO2の化学作用によって遊離乳酸へと変換した後、変換によって新たに得られた乳酸を上記ブロスから抽出する。CO2補助を伴う液液抽出においては、低pH発酵ブロスを使用した場合には、中性pH発酵ブロスを使用した場合ほどの効果を得にくい。低pHにおいては、有機相における遊離乳酸濃度が、上記CO2の化学作用によって達成し得る乳酸濃度を既に上回っていることがあるため、上記CO2の化学作用によって乳酸塩が遊離乳酸へと変換されない場合がある。
【0033】
抽出発酵(extractive fermentation)は、遊離乳酸を液液抽出または吸着によって発酵ブロスから回収し、上記乳酸塩を再循環させて発酵に使用して上記発酵のpH調節を助ける方法である。例えば、PCT99/19290および米国特許第5,786,185号を参照されたい。これらは引照をもって本明細書に組み込まれている。抽出発酵は、発酵ブロスに遊離乳酸と乳酸塩の両方が多量に含まれている場合(すなわち、低pH)に効果を発揮しやすい。しかしながら、上記乳酸材料が主として乳酸塩形態で存在する場合(すなわち、中性pH)には、抽出発酵の利点は少なくなる。再循環系における乳酸塩濃度が高いと、発酵槽における微生物の働きが阻害される可能性がある。1ガロンの発酵ブロスから1時間当たりに回収される遊離乳酸のポンドとして測定される処理の生産性は、1ガロン当たりの回収遊離乳酸量が少ないため、低下する傾向がある。よって、高容量プラントを実現するには、大量の発酵ブロスを処理する必要がある。一方、発酵ブロス中に遊離乳酸が主として存在する場合(すなわち、低pH)には、乳酸が消耗された系を上記発酵へと再循環させる誘因はほとんどない。上記再循環系により上記方法の複雑度や、系全体における不純物が増すが、遊離乳酸の濃度は既に高いのだから、上記再循環系がもたらす利益はほとんどない。
【0034】
IV.乳酸 本発明の方法について説明する前に、乳酸の性質をいくつか簡単に述べる。
【0035】
a.pHおよび乳酸組成 水溶液中において、乳酸(HLaおよび/またはLaHと省略される)は、プロトンと、H+と、乳酸塩陰イオンすなわちLa-(本明細書において、通常は緩衝塩である他の陽イオン源が存在する場合には、これを解離乳酸塩と呼ぶことがある)とに解離する。平衡状態での解離量は、上記水溶液のpHと乳酸のpKaとに関連する。下記式1は、pHと、pKaと、乳酸の解離度との間の一般的な関係を表したものである。式中、[La-]および[HLa]は、乳酸塩陰イオンおよび遊離乳酸の熱力学的活性をそれぞれ示している。
【0036】
【式1】


【0037】
式1に示すように、水溶液のpHと酸のpKaとが等しい場合には、乳酸材料の約半分が解離形態にある。pH値がpKaより大きい場合には、乳酸材料の大部分が解離形態(乳酸塩陰イオンまたは乳酸塩形態とも呼ばれる)にある。また、pH値がpKaより小さい場合には、極めて多量の乳酸材料が非解離形態(酸形態とも呼ばれる)にある。
【0038】
乳酸材料のpKaは変化する。例えば、乳酸のpKaは、25℃では3.86であり、5℃では約3.89である。さらに、乳酸のpKaは、溶液中での乳酸濃度が高くなるに従って低くなり、低くなるに従って高くなる傾向にあることがわかっている。しかしながら、乳酸のpKaは、通常、約3.4〜3.9の範囲内にある。
【0039】
上述したように、溶液中に存在する遊離乳酸の量は、上記溶液のpHと上記混合物中における乳酸材料の総合的な濃度(すなわち、乳酸プラス解離乳酸塩の濃度)の両方の関数である。このため、ある水溶液(例えば、発酵ブロス)に関するこれら2つのパラメータを特定することにより、遊離乳酸濃度を効果的に特定することができる。上記溶液のpHが低くなるに従い、遊離酸形態で存在する乳酸材料のパーセンテージが高くなる。重ねて述べるが、培地(溶液または混合物)のpHが乳酸のpKa(25℃では約3.8)と等しい場合、乳酸材料の50%が遊離酸形態で存在する。
【0040】
b.キラリティー 乳酸は、キラル中心を有し、D型とL型の両方で見出される。工業用途によっては、乳酸のキラル純度が重要となり得る。例えば、米国特許第5,142,023号、第5,338,822号、第5,484,881号、第5,536,807号を参照されたい。これらの特許は、引照をもって本明細書に組み込まれている。例えば、ラクトバシラス(Lactobacillus)属の細菌のように、D−乳酸またはL−乳酸のいずれかを産生する細菌が存在する。しかしながら、細菌株は、通常、一種の鏡像異性体を主に産生する。実際、高キラル純度(90%以上)の乳酸を有する発酵ブロスは容易に得ることができる。このキラリティーは、デキストロースやその他の炭水化物が、発酵時に微生物の細胞によって代謝されることによって得られる。例えばラクトバシラス ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricas)とラクトバシラス コリニホルミス(Lactobacillus coryniformis)は、通常、ほとんどD−乳酸鏡像異性体のみを産生する。また、ラクトバシラス カセイ(Lactobacillus casei)は、ほとんどL−乳酸だけを産生することがわかっている。
【0041】
乳酸のキラル純度は、ポリ乳酸ポリマーの特性に影響を及ぼす。例えば、上記ポリマーの結晶化能は、そのポリマーのキラル純度に影響される。例えば、米国特許第5,484,881号、第5,585,191号、第5,536,807号を参照されたい。(これら引用文献のそれぞれが、引照をもって本明細書に組み込まれている。)ある特定の工業用途においては、特定の結晶化度を有するポリマーが所望される。例えば、ポリマーの結晶化度は、そのポリマーの加熱ひずみ温度に影響を与え得る。さらにポリマーの結晶化度は、ポリ乳酸樹脂の貯蔵や輸送、ならびに繊維、不織布、フィルム、その他の最終製品への加工にも影響を与え得る。
【0042】
現在食品に使用されている乳酸は、キラル純度が95%より大きいことが必要であり、一般に「L」型の方が好まれる。また、出発物質が乳酸である薬品やその他の医療用品ような最終製品においては、乳酸のキラル純度は極めて重要である。本明細書において、「95%のキラル純度」という用語は、乳酸/乳酸塩成分の95%が、予想される二つの鏡像異性体のいずれか一方であることを意味する(したがって、その組成を、10%がラセミ体である、あるいは光学的純度が90%であると特徴づけることもできる)。その他の用途においては、乳酸の光学純度は50%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは90%以上であることが望ましい。
【0043】
V.発酵 本発明の方法は様々な乳酸材料源に対して好適に使用できるが、上記方法を、乳酸材料源として発酵ブロスを使用した場合に関して説明する。
【0044】
発酵は、細菌類、菌類、または酵母等、代謝によって乳酸を生成できる微生物を用いて行える。このような有機体を産生する乳酸材料は公知である。通常は、ラクトバシラス科の細菌が使用される。菌類に関しては、リゾープス(Rhizopus)科の菌類が使用される。好適な酵母としては、サッカロミセス属(Saccharomyces)の酵母およびクリュイベロミセス属(Kluveromyces)の酵母が挙げられ、例えば、サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)が挙げられる。
【0045】
発酵は、通常、使用する特定の有機体に適した温度で行われ、細菌発酵に関しては、通常、約30℃〜約60℃、酵母発酵に関しては、通常、約20℃〜約45℃の温度範囲で行われる。菌類発酵に関しては、その温度範囲は広範であるが、約25℃〜約50℃の範囲内であることが多い。
【0046】
栄養培地には、通常、炭素源が含まれる。上記炭素源には、一般に、炭水化物含有原料が含まれる。農業的処理による多くの副産物により、安価な炭素源が得られる。好適な炭素源の例としては、糖蜜;ショ糖またはテンサイ糖;トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、コメデンプン、および加水分解物;乳清(whey)および乳清浸透液が挙げられる。ブドウ糖やショ糖といった糖類を含有する好適な溶液を調製することも可能である。菌類発酵に関しては、大麦、カッサバ、トウモロコシ、オート麦、米といった原料を炭素源に用いてもよい。
【0047】
上記栄養培地には、通常、窒素源も含まれる。上記窒素源は、有機および無機窒素化合物を組み合わせたものを含有していることが好ましい。好適な窒素源の例としては、酵母エキス、コーンスティープリカー、ダイズ加水分解物(soy hydrolysate)、麦芽新芽(malt sprouts)、および硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0048】
インキュベート工程時の発酵ブロスのpHを、「平均インキュベートpH」または「最終インキュベートpH」という用語によって表せる。pHおよび/または乳酸濃度によりそれ以上の乳酸塩生成が阻害される時点まで発酵を行った場合、「平均インキュベートpH」は、上記限界乳酸塩濃度の90%の生成に必要な期間を通じて10回以上の等時間間隔で測定したpH値の平均に基づいて決定される。
【0049】
本明細書で使用する「限界乳酸塩濃度」という用語は、所定のインキュベート条件(栄養培地、温度、通気度)下において、発酵によって生じたpHおよび/または乳酸濃度によりそれ以上の乳酸塩生成が阻害される乳酸塩濃度(未解離および解離乳酸の濃度)である。本明細書で使用する「限界インキュベートpH」という用語は、所定のインキュベート条件(栄養培地、温度、通気度)下において、pHおよび/または乳酸濃度によりそれ以上の乳酸塩生成が阻害される発酵ブロスのpHを意味する。乳酸塩生成の阻害は、バッチ式の発酵で生成される乳酸塩の量が、同条件下でのインキュベートをさらに約12時間行っても約3%を超えて増加しなかった時点で起こったものと見なす。この定義は、乳酸塩の生成に必要な栄養素がまだ十分に発酵ブロス中に存在するとの仮定して成されたものであり、バッチ式および連続式操作の両方に適用される。
【0050】
あるいは、上記発酵プロセスを、限界乳酸塩濃度に達することがない連続方式によって行うことが可能である。一般に、連続方式で発酵を行う場合、上記発酵ブロスのpH、上記栄養分の濃度および乳酸濃度が変動する、初期における「始動期(startup phase)」が存在する。しかしながら、一定時間が経過すると、定常状態に達する。定常状態に達するための反応時間は、通常、滞留時間の少なくとも約3倍から約5倍であり、希釈率に左右される。「定常状態」での処理においては、pH、乳酸塩濃度、栄養分濃度等の変数が、時間が経過しても大きく変動しない。例えば、定常状態においては、一滞留時間中の上記発酵ブロスのpH変動が、一般に約0.5pH単位、より好ましくは約0.2pH単位を上回らない。本明細書で使用する「滞留時間」または「滞留期間」という用語は、分子が発酵タンク内に存在している平均時間を指す。滞留時間は、上記発酵槽に出入りするあらゆる系の流量に対する上記ブロスの体積の比を算出することによって決定できる。定常状態おいては、上記発酵槽に入るあらゆる系の流量は、上記発酵槽から出て行くあらゆる系の流量と等しい。例えば、体積が100,000ガロンで、1時間当たりの流量が12,500ガロンのタンクにおいては、一滞留時間は8時間である。一般に、商業規模の発酵においては、一滞留時間は約2〜10時間、より一般的には約5〜7時間である。定常状態においては、一滞留時間中の乳酸塩濃度の変動が、約2%、より好ましくは約1%以上となることはなく、栄養分濃度の変動が、約0.3%、より好ましくは約0.1%以上となることはない。したがって、連続方式においては、「平均インキュベートpH」は、定常状態が確立されてから、その発酵プロセスを通して10回以上の等時間間隔で測定したpH値の平均値に基づいて決定される。
【0051】
本明細書で使用する「最終インキュベートpH」は、微生物の増殖および/または乳酸材料生成が停止した時点における発酵ブロスのpHを指す。上記増殖および/または乳酸材料生成の停止は、反応温度の変化、発酵ブロスに含まれる一種以上の必要栄養分の消耗、意図的なpHの変更、または細菌細胞からの上記発酵ブロスの分離の結果であると考えられる。乳酸塩の生成を停止させるのに十分な量の酸または塩基を発酵ブロスに添加して発酵を意図的に停止させた場合、最終インキュベートpHは、酸または塩基を添加する直前の上記栄養培地のpHと定義される。あるいは、微生物の増殖および/または乳酸材料生成の停止は、一種以上の発酵産物の蓄積および/または発酵産物の生成に起因するブロスのpHの変化によって、すなわちその発酵反応が所定のインキュベート条件下において自己限界点に達することによっても起こり得る。乳酸等の有機酸を生成する細菌発酵においては、最終生成物による発酵の阻害はごく一般的である。
【0052】
a.中性pH発酵 乳酸材料源は、例えば、中性pH発酵で得られたブロスのように、中性のpHを有していてもよい。多くの微生物株が公知であり、中性pHでの乳酸の産生に使用されている。これら微生物の中で最も重要なものは、ラクトバシラス属、ストレプトコッカス(streptococcus)属、およびペジオコックス(pediococcus)属の同種発酵性乳酸菌である。通常、これらの微生物は、約5.0〜8.0のpH範囲、より一般的には約5.0〜7.0のpH範囲(「中性pH」)において、最適な生産性を発揮する。例えば、米国特許第5,510,526号を参照されたい。該特許は、引照をもって本明細書に組み込まれている。
【0053】
発酵ブロスは、通常、乳酸の生成に伴ってその酸性度を増すため、通常、水酸化アルカリまたは水酸化アルカリ土類(水酸化カルシウム)、炭酸カルシウム、石灰乳、アンモニア水、またはアンモニアガスを中和剤として上記発酵ブロスに添加して中性のpHを保つ。上記中和剤を上記発酵ブロスへ添加すると、上記中和剤の陽イオンが解離乳酸と結合し、乳酸塩が生成される。
【0054】
好ましくは、乳酸カルシウムが生成されるよう、炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムといったカルシウム塩基を中和剤として上記発酵ブロスに添加する。カルシウム塩基はその他の中和剤と比べ、多くの微生物に許容されやすい。さらに、カルシウム塩基はその他の中和剤と比べ、より安価である。しかしながら、既存の方法の多くは、カルシウム塩基を含有する溶液の処理にあまり適していない。例えば、電気透析水分解をベースとする方法においては、カルシウム塩基により、膜が詰まりやすい。CO2液液抽出は、乳酸カルシウム含有溶液と使用する場合には、十分な効果を発揮しにくい(Lightfoot et. al. Ind. Eng. Chem. Res. 1996, 35,1156)。陽イオン交換体をベースとする酸性化方法にカルシウム塩基を用いた場合、陽イオン樹脂の再生には、極めて過量の酸が必要となる。これに対し、本発明の方法は、カルシウム塩基を含有する溶液の処理に適している。実際、カルシウム塩基は好ましい中和剤である。
【0055】
中性pH発酵は、バッチプロセスまたは連続プロセスのいずれでも行える。バッチプロセスでは、適切な栄養培地を発酵容器に計量分配する。一般に、上記栄養培地は、種々のアミノ酸、ビタミン、ミネラル、およびその他の発育因子を供給するため、好適な炭水化物源と共に好適な複合窒素源を含んでいる。次に、上記栄養培地を所望の微生物でインキュベートする。上記発酵容器の温度とpHは、供給された炭水化物が消耗されるまで、最適範囲(微生物または株によって異なる)に維持する。好ましくは、中和剤の添加により、中性のpHを維持する。上記供給された炭水化物が消耗されてから、上記発酵ブロスより生成物(乳酸材料)を精製する。
【0056】
連続プロセスでは、栄養培地、微生物およびその他の添加剤(中和剤等)を上記発酵槽に加え、限界乳酸塩濃度に達しないよう上記発酵槽より発酵ブロスを除去する。通常、上記栄養培地、微生物、およびその他の添加剤は、特定量を一定速度または一定間隔で添加する。定常状態が得られるよう、これらの材料の添加を相殺するような割合で発酵ブロスを除去する。定常状態においては、上記発酵槽に添加された上記栄養培地、微生物およびその他の添加剤の流量と等しい割合で上記発酵ブロスを除去する。
【0057】
複数の発酵容器を用いる多段連続式発酵プロセス(multi-stage continuous fermentation process)を使用することが好ましい。調製したばかりの培地、微生物、その他を第1の容器に加える。次に、第1の容器の発酵ブロスを第2の容器に移し、第2の容器の発酵ブロスを第3の容器に移すといった作業を順次行う。通常、各段ごとに乳酸材料の濃度は上がり、上記炭素源の濃度は下がって、上記第1の容器においては炭素源濃度が最も高く、乳酸濃度が最も低くなり、最終の容器においては炭素源濃度が最も低く、乳酸濃度が最も高くなる。段数が約2〜8の多段プロセスが通常用いられる。
【0058】
上記乳酸カルシウム濃度がその溶解限度を超える場合があるため、場合によっては発酵時に上記乳酸カルシウムを結晶化させてもよい。あるいは、上記発酵ブロスを冷却し、乳酸カルシウムの結晶化を促してもよい。このように結晶化させた乳酸カルシウムを、上記発酵ブロスから分離し、乳酸材料源として用いてもよい。上記乳酸カルシウム分離によって得た母液(濾過液)を、上記発酵槽に再循環させてもよい。
【0059】
b.低pH発酵 本発明の方法は、低pHの乳酸材料源、例えば、低pH発酵ブロスからの乳酸の精製にも適している。中性pHでの発酵に比べ、低pH発酵で生成された乳酸材料(すなわち、pH5.0未満、好ましくは4.8未満、より好ましくは4.3未満の水溶液)は、遊離酸形態の乳酸材料を多量に含んでいる。よって、pH5.0未満の水溶液から乳酸を単離すれば、中性発酵プロセスが通常要する酸性化のようなフォローアップ処理(follow up processes)にかかる費用を大幅に削減しやすい。また、酸性化を行ったとしても、上記発酵で生成される乳酸材料一単位当たりが通常要するエネルギーおよび/または酸等の化学物質は実質的に少なくてすむ。したがって、低pHで高い生産性を維持できる有機体の開発に関心が集まっている。本明細書で使用する「低pH」とは、pHが約5.0以下、好ましくは4.8以下、より好ましくは4.3以下であり、通常約2.5〜4.2である水溶液を指す。微生物が低pHで高い生産性を維持できる場合でも、水酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムといった中和剤を発酵ブロスに加え、低pHの範囲内において所望のpHを維持してもよい。
【0060】
低pHで炭水化物を代謝して乳酸を生成できる有機体が公知である。例えば、低pH発酵は、耐酸性ホモ乳酸細菌のような耐酸性細菌を用いて実施できる。「耐酸性」という用語は、乳酸材料の大部分を遊離酸形態で提供するのに十分なpHにおいて乳酸材料を産生できる細菌を指す。このことは、例えば、PCT99/19503(原料より単離した耐酸性ラクトバシラスを使用し、約3.8の最終pHで約70〜80g/Lの乳酸濃度の乳酸が得られる炭水化物の発酵を開示)に記載されている。該特許は引照をもって本明細書に組み込まれている。あるいは、低pH発酵は、菌類や酵母を用いて実施できる。例えばPCT99/14335は、約2.8の最終pHで乳酸を得る炭水化物の発酵を開示しており、この発酵においては、少なくとも1つの乳酸脱水素酵素のコピーを用いて変換した酵母株を用い、ピルビン酸塩から乳酸を生成している。該特許は引照をもって本明細書に組み込まれている。
【0061】
先にも述べたように、低pH発酵はバッチプロセスまたは連続プロセスのいずれでも行える。
【0062】
V.溶液清澄 乳酸材料源は、通常、不純物を含んでおり、商業的に有用な精製乳酸溶液を得るために上記不純物の除去を必要とする場合がある。例えば、中性または低pH発酵のいずれかによって得た乳酸材料源は、通常、解離および非解離の乳酸材料(すなわち、遊離酸および塩の両方)、未変換の出発物質(炭素源)、重金属、代謝による副産物、細胞、細胞片、および無機塩を含んでいる。精製乳酸溶液を得るためには、通常、処理が必要となる。
【0063】
したがって、本発明の方法は、乳酸材料源における懸濁細胞塊および/またはその他の高分子量片を低減する「清澄」工程を含んでいてもよい。「高分子量片」という用語は、約10,000〜500,000Da、より好ましくは約40,000〜500,000Daの分子量を有する、肉眼で見える固体、非解離塩、DNA、脂質、多糖、タンパク質、炭水化物、およびこれらの断片といった不純物を指す。複数の清澄技術が公知であり、限外濾過、加圧濾過(filter pressing)または回転減圧濾過、遠心分離といった濾過がその例として挙げられる。ただし、清澄技術はこれらに限られるものではない。例えば、発酵および生化学工学ハンドブック:原理、プロセスデザインおよび装置、ボーゲルおよびトダロー編、ノイエス出版、ウェストウッド、ニュージャージー州、1997年、第6章(濾過)および第12章(遠心分離)(Fermentation and Biochemical Engineering Handbook: Principles, Process Design, & Equipment, ed. by Vogel and Todaro, Noyes Publications, Westwood, NJ, 1997, Chpt. 6 (filtration) and 12 (centrifugation))を参照されたい。
【0064】
十字流濾過は、ブロスを清澄する好ましい方法である。十字流濾過においては、乳酸材料源、本明細書ではスラリーとも述べる、を、ポンプを使用して接線方向(tangentially)に膜を通過させる。液体(およびその液体中に溶解している、乳酸材料を含む低分子量化合物)の膜通過を促進するため、膜全体に圧力勾配を設ける。本明細書においては、濾過された液体を、清澄液または浸透液とも称する。細胞、細胞断片、およびその他の高分量片は、上記膜を通過せず、濃縮されたスラリーすなわち濃縮水中に残留する。十字流濾過は、様々な粒径(微生物の大きさ等)の不純物および片が、効果的に上記溶液の上記残留物から分離されるという理由により好ましい。さらに、十字流濾過は、様々な濃度の溶液に対して効果的である。上記十字流濾過によって得た上記濃縮水は、上記発酵容器に再循環させることができる。
【0065】
一般に、約40℃〜100℃の温度、および2〜7のpH値に耐え得る膜が適している。上記膜の材料もまた、化学殺菌または熱殺菌に耐え得るものであることが好ましい。好適な膜材料の例としては、ポリマー材料(ポリエーテルスルホン、ポリスルフホン、ポリテトラフルオロエチレン、およびポリフッ化ビニリデン)と無機材料(アルミナ、ジルコニア、ステンレススチール等)の両方が挙げられる。この方法に適した膜装置を提供している会社として、マサチューセッツ州、ウィルミントンのコッホ・メンブレン・システム社(Koch Membrane Systems, Wilmington, MA)およびペンシルバニア州、ワレンデイルのユー・エス・フィルター社(U.S. Filter, Warrendale, PA)が挙げられる。
【0066】
十字流濾過は、一工程の処理として実施できる。上記単一工程処理においては、粒径が約0.1〜1.0ミクロン、すなわち分画分子量(MWCO)が約5,000〜500,000Da(これらの数値も含む)の膜を使用し、細胞および高分子量片を上記発酵ブロスより除去する。すなわち、MWCOが5,000Daの膜を使用しても、MWCOが500,000Daの膜を使用しても、あるいはMWCOが5,000〜500,000Daの範囲内にある膜を使用してもよい。膜汚れを防止するため、分画分子量が40,000〜500,000の膜を使用することがより好ましい。
【0067】
好ましくは、二工程十字流濾過プロセスを使用する。第1の工程においては、粒径が500,000MWCOよりも大きい膜を使用し、細胞等の大きな物質を除去する。第2の工程においては、MWCOが300〜500,000Da(これらの数値も含む)の膜を使用し、タンパク質および多糖のような高分子量片を上記ブロスより除去する。より一般的には、この第2工程においては、MWCOが2,000〜300,000Da(これらの数値も含む)の膜が使用される。
【0068】
上記二工程十字流濾過プロセスは、発酵ブロスの清澄に特に有利である。サイズの大きい細胞片は上記第1工程の濾過で取り除かれるため、上記第2工程で使用される膜が細胞片によって詰まる可能性は少なくなる。したがって、上記二工程十字流濾過プロセスにおいては、特に酵母のような大きな有機体を用いて発酵を行う場合に、膜寿命を長く、流束が大きくしやすい。上記膜モジュールは、通常、交換が可能であり、必要に応じて上記膜の粒径すなわちMWCOを変更することが可能である。
【0069】
十字流濾過は、様々な流形態で実施できる。例えば、十字流濾過プロセスは、連続式またはバッチ式のいずれでも実施できる。さらに、様々な構成が好適に使用できる。シェルや管熱変換器中の管のように、管内に複数の膜が縦方向に配置された管状の構成が好ましい。これにより、様々な粒径(微生物等)の不純物を含む溶液を加工できるためである。しかしながら、上記膜への汚損が低減されるような流形態(らせん状、偏平シート状等)を用いることが適切である。チェリアン エム、限外瀘過および精密濾過ハンドブック、テクノミック出版、ランカスター、ペンシルバニア州、1998年、第5章(Cheryan, M., Ultrafiltration & Microfiltration Handbook, Technomic Publishing Co., Inc., Lancaster, PA, 1998, Chpt. 5)を参照されたい。
【0070】
VI.濃縮I 濃縮工程は、酸性化の前および/または後に任意で行う。上記濃縮工程は、清澄工程の前および/または後に行うこともできる。上記乳酸材料源を濃縮することにより、抽出時に得られる乳酸の収率を増加しやすくなる。通常、発酵によって得られる乳酸材料源は、乳酸材料を約5〜15重量%、より一般的には8〜15重量%含んでいる、しかしながら、乳酸材料の濃度は、発酵ブロスのpHの低下、炭素源の変化、微生物の変化に伴って変化することがある。上記濃縮工程には、上記乳酸材料源を高温下に置き、溶液中に存在する乳酸材料の量を実質的に低減することなく上記溶液の体積を低減することが含まれる。通常、上記溶液の体積は、約10重量%、より好ましくは約25重量%、最も好ましくは約75重量%減少するが、この時、乳酸材料の量は、上記溶液と同程度には減少せず、わずかに10重量%、より好ましくは約5重量%、最も好ましくは約0.1重量%約1重量%だけ減少する。通常、濃縮工程により、乳酸材料濃度が約12〜60重量%、好ましくは約12〜30重量%、最も好ましくは約15〜25重量%の溶液が得られる。
【0071】
一般に、上記濃縮工程は、溶液中における乳酸材料の保持率を向上させるため、特に中性のpHで発酵を行う場合や、上記乳酸材料が主として塩形態で存在する場合には、高温下で実施される。通常、上記濃縮工程は、約60℃〜150℃、より好ましくは約70〜100℃の温度下で行われる。
【0072】
濃縮は、蒸発、浸透蒸発、逆浸透、または上記乳酸材料を選択的に分離できるその他のあらゆる方法によって行える。好ましい方法は、多段効果蒸発器(multiple effect evaporators)を使用することである。多段効果を連続的に用いることにより、1時間当たり数千ガロンから数十万ガロンの水を蒸発させることができる。多段効果蒸発器は、ある効果段(effect)で凝縮(condensation)によって発生した熱を利用し、他の効果段におけるリボイラー熱を提供する。ほとんどの多段効果装置において、ある段で生じた上向きの蒸気(overhead vapor)を、次の段の発熱体上で直接凝縮するようにしている。管状のものから、プレート状のもの、さらには機械攪拌薄膜装置(mechanically agitated thin−film devices)まで、様々な加熱装置形式を使用することができる。
【0073】
上記加熱装置は、ブロスの熱的履歴(すなわち、上記ブロスが受けた熱量を、時間と温度で表したもの)を低減することが好ましい。熱的履歴を低減することにより、不純物の熱劣化や乳酸のラセミ化を低減しやすくなる。不純物が熱劣化すると、通常、上記溶液の色調が濃くなり、上記乳酸の純度を上げるには、さらなる分離工程が必要になる場合がある。上述したように、上記乳酸のキラル純度は用途によっては重要であり、このため上記濃縮工程時にラセミ化が増加することにより、上記乳酸がある種の化学的用途には適さなくなる可能性がある。
【0074】
流下薄膜型蒸発器(falling film evaporator)または上昇薄膜型蒸発器(rising film evaporators)によれば、滞留時間が短縮でき、よって熱劣化やラセミ化が低減される。強制循環蒸発器(forced circulation evaporator)は、スラリー(上記スラリー中で、塩が析出している場合がある)および粘性流体を処理できるため望ましい。これに対し、流下薄膜型または上昇薄膜型蒸発器は、乳酸塩の析出が起こり得るスラリーへの使用には、あまり適さない。さらに、熱再圧縮型蒸発器(thermal recompression evaporator)または機械再圧縮型蒸発器(mechanical recompression evaporator)も、適切と考えられる。
【0075】
乳酸材料の濃度が高くなると、乳酸カルシウム(またはその他の乳酸塩)が最大溶解度に達し、溶液から乳酸塩が析出する。精製乳酸溶液の品質は、乳酸塩の析出のよっても通常は低下しないが、これら乳酸塩が溶液中に残留しているほうが好ましい。したがって、本発明の方法においては、上記溶液を、乳酸塩の溶解限度に達するまで、ただしこれを上回らないように、濃縮するのが好ましい。米国特許第5,766,439号(引照をもって本明細書に組み込まれている)は、様々な温度下における乳酸カルシウムの溶解度を報告している。
【0076】
テーブル1に、アラミン304(アリゾナ州、タスコンのコグニス社(Cognis, Tuscon, AZ))を54重量%と、イソパールK(エクソン社(Exxon))を46重量%含有した溶媒を使用し、4つの理論段による抽出を、様々な濃度の乳酸材料源に対して50℃の温度下で行った結果回収された乳酸のパーセンテージを示している。上記4段の理論抽出において、供給する有機相と水相(entering organic phase to entering aqueous phase)との重量比は2.5であった。テーブル1に示すように、回収された乳酸の量は、上記乳酸材料源中の乳酸濃度に大きく依存している。したがって、乳酸抽出を行う前に上記乳酸材料源を濃縮すれば、本発明の方法の効率が向上する。
【0077】
【表1】


【0078】
図3は、アラミン304を54重量%と、イソパールKを46重量%含有した有機溶媒を使用し、50℃の温度下で抽出された乳酸に関するマッケーブ−シーレ線図である。線Aは、水相と有機相間における乳酸分配を示す平衡線である。上記平衡線は、上記2つの相間における乳酸の分配を測定することにより、実験的に決定される。乳酸に関しては、上記平衡曲線の形状は独特である。上記曲線は、水相における乳酸濃度が低い([乳酸]<10重量%)場合には、比較的緩やかな傾斜を示す。この傾斜は、上記水相における乳酸濃度が中程度(10重量%<[乳酸]<21重量%)になると増加し、上記水相における乳酸濃度の測定値が最も高くなった時点(21重量%<[乳酸])で再度平坦になる。
【0079】
線BおよびDは操作線であり、初期乳酸濃度の異なる2つの乳酸源に関する段を示す。操作線とは、あらゆる抽出段での、有機相に対する水相の比率の尺度となるものである。操作線は、一般に、分配溶質(乳酸)が希薄であり、かつ有機相における水相の溶解度が低い場合およびその逆の場合には直線状になる。また、操作線は、一般に、上記溶質の濃縮度が増加した場合、さらに有機相における水相の溶解度が増加した場合やその逆の場合に、これらの増加にしたがってより曲線状になる。
【0080】
一般に、上記操作線は、上記乳酸源の濃縮に伴い、有機相に対する水相の重量比が急速に変化することにより曲線状になる。一般に、乳酸が上記水相から上記有機相へと抽出されるに従い、水相の量は減少し、有機相の量は増加する。これは、上記水相が上記乳酸と共に上記有機相へと共抽出されることに一部起因する。加えて、上記水相から上記有機相への乳酸の移動により、上記有機相の質量が増す一方、上記水相の質量が減少することにもよる。
【0081】
操作線BおよびDは、乳酸濃度が高いことと、上記有機相へ水が分配されていることから直線にはなっていない。線Bは、初期乳酸濃度が60重量%の乳酸源に関する操作線である。線Dは、初期乳酸濃度が30重量%の乳酸源に関する操作線である。初期乳酸濃度が低ければ低いほど(例えば、30重量%対60重量%)、操作線はより直線に近づく。
【0082】
線CおよびEは、線BおよびDが示す乳酸源の抽出に用いる多段抽出における段をそれぞれ示している。線CおよびEが示す各「段」は、4段の理論抽出のうちの一段を示している。
【0083】
図3に示すように、10重量%の水相乳酸濃度付近に、ピンチポイント(pinch point)が存在する。一般に、平衡曲線上にピンチポイントがあると、必要となる段数が多くなるため、乳酸回収率が低下しやすい。しかしながら、初期乳酸濃度が高い乳酸源に関する操作線(線B)は、良好な曲線を描いており、上記ピンチポイントの影響を低減していた。したがって、初期乳酸濃度が低い乳酸源(線D)の多段抽出においては、上記抽出段はより小さく、より頻繁になる(線E)。これに対し、初期乳酸濃度が高い乳酸源(線B)の多段抽出においては、上記抽出段は長いままであり、それほど頻繁ではない(線C)。
【0084】
本発明の方法は、平衡曲線上にピンチポイントが存在しない溶媒が用いられる場合にも好適に使用できる。例えばオクタノールまたはリン酸トリブチルのような増強剤を上記有機溶媒に加えると、上記平衡曲線がより直線的になりやすい。本発明の方法によれば、増強剤を含む溶媒に対しても乳酸の抽出を効果的に行える。
【0085】
抽出工程と併用した場合に上記濃縮工程がもたらす利点に加え、上記濃縮工程は、方法工程全体に対しても利益をもたらす。上記濃縮工程により、乳酸材料源の濃度に関わらず均一な濃度の溶液を生成することが可能になる。濃縮工程を行わない場合、予測され得る最も低い乳酸濃度を想定して後続の分離工程を設計しなければならない。上記濃縮工程を行えば、ほぼ一定の乳酸材料濃度を想定して残りの処理工程を設計することができる。このため、上記清澄工程と上記濃縮工程のみを、多様な乳酸材料濃度に対応できるよう設計すればよい。
【0086】
上記清澄工程および上記濃縮工程は、いずれも乳酸材料濃度が異なる乳酸材料源を処理できるよう容易に改変できる。大規模プラントにおいては平行配置した濾過ユニット(parallel filtration units)が使用されることが多く、平行列の追加は比較的安価であるため、ブロス清澄に用いる上記十字流濾過工程は、必要に応じて容易に拡張できる。膜内外圧(transmembrane pressure)、供給液速度、およびその他の操作パラメータを変更することも可能であり、これにより上記膜を通過する際の流束を向上させることができる。上記濃縮工程においては、操作パラメータの多くが変更可能であり、これにより蒸発させる水分量を増加または減少させることができる。例えば、加熱培地の温度が変更可能であり、かつ/または、熱交換器を通過する流体の速度が変更可能である。
【0087】
上記濃縮工程により、後続の工程で処理する物質の量も低減される。例えば、乳酸材料の濃度を10重量%から20重量%に上げた場合、処理を行う物質の量は半分に減少する。すなわち、200lbの溶液であって、水90%(水180lb)、乳酸10%(20lb)からなる濃縮前組成物を含む溶液を100lbまで濃縮し、水80%(80lb)、乳酸20%(20lb)を含む溶液とすることができる。処理を行う物質の体積が減少すれば、機器費が大幅に削減される。さらに、処理を行う物質の体積を低減することにより、後続の工程における加熱および冷却に要する費用も削減される。
【0088】
乳酸材料源の濃縮は、上記乳酸材料源中に存在する不純物量の低減にも役立つ。例えば、上記乳酸材料源中の不純物の一部が揮発性のカルボン酸(例えば、酢酸)である場合があるが、これら揮発性カルボン酸は、遊離酸形態にある場合には蒸発によって上記溶液より除去できる。その他の不純物も、水溶性が乏しい場合がある。例えば、汚染酸(contaminating acid)は、塩形態(特にカルシウム塩)にある場合には水に溶解しにくいことがある。その他の汚染酸は、遊離酸形態ある場合には水に溶解しにくいことがある。このような汚染酸不純物は、酸性化前または酸性化後に濃縮を行い、溶液から析出させてもよい。この結果、上記乳酸材料源中に存在する不純物量が減少する。
【0089】
抽出前に乳酸材料源を濃縮した場合、より効率的に溶媒を使用できる。例えば、溶媒中のアミン1モルにつき、約1モルの酸が通常抽出される。これに対し、本発明の方法によれば、アミン1モルにつき、約2モル以上の乳酸が抽出される。これにより溶媒の流量が減少し、よって機器費や溶媒の損失が低減される。酸に対するアミンの比率がモル比で1:1を超えると、多くの抽出方法において選択性の低下すが起こり得るが、本発明の方法を使用すれば、高い選択性と含有率(loading)を依然として保つことができる。
【0090】
上記乳酸材料源を濃縮すると、乳酸含有溶媒中における乳酸濃度を高めやすくなり、逆抽出によって得られる水溶液中の乳酸濃度も高めやすくなる。このため、最終濃縮工程を行う場合にも、これにかかる費用が通常削減される。また、特に上記溶媒中の増強剤の量が限られているか、あるいは増強剤が全く含まれていない場合には、乳酸濃度を高めることにより、逆抽出時に得られる乳酸の収率を向上させやすくなる。この結果、希薄溶媒(lean solvent)中における乳酸の損失が減少する。
【0091】
上述のように、乳酸材料源を濃縮することにより多くの利点が得られるが、濃縮により不純物濃度が高くなる可能性がある。しかしながら、本発明の方法によれば、たとえ不純物濃度が高くなったとしても、精製乳酸溶液を依然として高収率で得ることができる。
【0092】
VII.酸性化 乳酸材料源の酸性化は、上記乳酸材料源中の乳酸材料を、解離形態すなわち塩形態から非解離の酸形態へと変換するために行う。発酵ブロス中の乳酸塩を遊離乳酸へと変換する一方法は、硫酸等の強鉱酸を濃縮溶液へ添加することである。清澄したブロスに硫酸を加えると、硫酸塩と共に遊離乳酸が生成される。硫酸の添加により乳酸と硫酸カルシウム(石膏)とが生成されるよう、乳酸材料の濃縮溶液は乳酸カルシウムを含んでいることが好ましい。石膏はほとんど水に溶解しないため、例えば、結晶化させることによって容易に溶液から除去できる。
【0093】
酸性化は、大きな硫酸カルシウム結晶の形成に有利な処理条件下で行うことが好ましい。例えば、酸性化は、二次核発生(secondary nucleation)を防止するため、撹拌しながら実施することが好ましい。また、硫酸は、一次核発生(primary nucleation)を防止するため、局所的な高過飽和度を低減するようにして添加することが好ましい。大きな結晶を作成する技術は公知であり、例えば、米国特許第5,663,456号に記載されている。該特許は、引照をもって本明細書に組み込まれている。
【0094】
硫酸は、硫酸と乳酸塩とが、乳酸塩を乳酸へと変換するのに十分な化学量論比で存在するよう上記清澄発酵ブロスに添加する。通常、乳酸塩に対する硫酸の比率は0.90〜1.20、好ましくは0.95〜1.05、最も好ましくは0.99〜1.01の範囲である。不純物としてその他のカルボン酸、アミノ酸、またはカルボン酸官能基が存在する場合には、乳酸塩に対する硫酸の比率を高くし、上記乳酸に加えてこれら不純物も酸性化してもよい。
【0095】
上記乳酸材料源への硫酸の添加は、一工程で行われることが好ましい。しかしながら、硫酸は、二工程処理により添加されることが好ましい。第1の工程においては、硫酸を高い体積比、例えば、約80〜95体積%で上記ブロスに添加し、攪拌する。次に、酸性化された乳酸と硫酸カルシウムのスラリーを、別のタンクに移す。第2の工程においては、乳酸塩に対する硫酸の比率が所望の化学量論比となるよう、硫酸を正確に計量して上記系に加える。
【0096】
硫酸による酸性化は、0.8〜9.0の範囲のpHを有する乳酸材料源からの乳酸の精製に適している。しかしながら、低pHの乳酸材料源に関しては、硫酸の所要量は少なくてすむ。このため、酸性化に要する薬品費(chemical cost)が削減される。さらに、低pHの乳酸材料源においては、生成される石膏の量も少ないため、塩の廃棄に関する問題も少なくなる。
【0097】
VIII.石膏の除去 上述のように、上記清澄乳酸材料源中に存在する乳酸塩を、硫酸により酸性化して乳酸へと変換してもよい。上記清澄ブロスへの硫酸の添加により、硫酸塩もまた生成される。精製乳酸溶液を得るため、例えば硫酸カルシウムまたは石膏といった上記硫酸塩の少なくとも一部を上記清澄ブロスより除去する。上記乳酸材料源中に存在する乳酸塩の量を、少なくとも(上記硫酸塩重量の)約10重量%、好ましくは(上記硫酸塩重量の)約50重量%から約重量%、より好ましくは(上記硫酸塩重量の)約90重量%、最も好ましくは(上記硫酸塩重量の)約98重量%低減させることが好ましく、これにより、硫酸塩の含有量が(溶液重量の)約5重量%以下、好ましくは(溶液重量の)約1重量%以下となった溶液が得られる。
【0098】
石膏の濾過方法は公知である。例えば、回転ドラム式減圧フィルタ、ベルト式フィルタ、またはプレスフィルタ(press filter)を使用し、上記ブロス中に存在する石膏の量を低減することができる。遠心分離器またはデカンター(decanters)を使用することもできる。例えば、発酵および生化学工学ハンドブック:原理、プロセスデザインおよび装置、ボーゲルおよびトダロー編、ノイエス出版、ウェストウッド、ニュージャージー州、1997年、第6章(濾過)および第12章(遠心分離)を参照されたい。
【0099】
IX.残留硫酸カルシウム量の低減 溶液中の残留硫酸カルシウム(例えば、石膏を除去した後に残存している硫酸カルシウム)は、使用する装置内ではがれ(scaling)の原因となるため、濃縮工程を引き続き行う場合には特に、乳酸溶液中の残留硫酸カルシウムの量を低減することが望ましい。上記残留硫酸カルシウムの少なくとも一部を、補足的な処理によって除去することが好ましい。より好ましくは、上記溶液中に存在する硫酸カルシウムが(上記溶液の重量の)約1重量%以下、好ましくは(上記溶液の重量の)約0.5重量%以下、最も好ましくは(上記溶液の重量の)約0.1重量%以下となるよう、残留硫酸カルシウムの量を低減する。上記残留硫酸カルシウムは、イオン交換によって除去することができる。イオン交換法においては、上記乳酸溶液中のカルシウムイオンを、上記カルシウムイオンを水素イオン、ナトリウムイオン、またはカリウムイオンで置換するイオン交換樹脂と接触させることによって除去する。好適な陽イオン交換樹脂の例として、ペンシルバニア州、フィラデルフィアのローム・アンド・ハース(Rohm and Haas, Philadelphia, PA)社製のアンバーライト(Amberlite)イオン交換樹脂(例えば、アンバーライトIR120)、ミネソタ州、ミッドランドのダウケミカル(Dow Chemical Company, Midland)社製のドウェックスイオン交換樹脂(例えば、ドウェックスマラソンC(Dowex Marathon C))が挙げられる。上記硫酸塩は、陰イオン交換法によって除去できる。上記硫酸塩イオンは、上記硫酸塩をヒドロキシルイオンで置換する陰イオン交換樹脂と接触させることによって除去する。好適な陰イオン交換樹脂の例としては、先に述べたアンバーライトおよびドウェックスイオン交換樹脂が挙げられる。
【0100】
あるいは、残留硫酸塩の量を、硫酸塩の前抽出処理(pre-extraction process)によって低減してもよい。同一の有機溶媒を、乳酸抽出と硫酸塩前抽出の両方に使用することができる。例えば、本願において後述する第三級アミンは、硫酸を乳酸と区別し選択する能力が非常に高い。したがって、上記乳酸溶液からの硫酸塩の抽出は、長鎖第三級アミンを30〜80重量%、灯油(kerosene)を30〜70重量%、極性有機増強剤を0〜20重量%含有する有機相を上記溶液と接触させることによって行える。上記アミン溶液は、通常、硫酸塩イオンに対する第三級アミンのモル比が約1.0:1.5〜0.8:1.0になるよう、カルシウムイオンの除去後に上記乳酸溶液に添加する。また、共抽出された乳酸を回収するため、上記有機相を少量(例えば、約1重量%〜10重量%)の水溶液で洗浄してもよい。上記有機溶媒は、上記硫酸塩含有溶媒を塩基性水溶液に接触させることにより再生できる。このことについては、「XV.希薄溶媒洗浄」と題した項でさらに詳しく述べる。
【0101】
上記乳酸溶液中の残留硫酸塩は、硫酸塩に対する上記アミンの比率によって調節できる。上記乳酸溶液中の残留硫酸塩は、抽出時に増強剤として機能できるため、このことは特に有益である(第XII項参照)。
【0102】
通常、残留硫酸塩量を低減するには、接触段が一つあればよい。ミキサーセトラーおよび遠心分離抽出器は、段を一つ備えているため好ましい。しかしながら、複数のカラム、ミキサーセトラーの電池、または遠心分離抽出器を有する多段式または向流式プロセスを用いて残留硫酸塩の量を低減してもよい。
【0103】
さらに、残留硫酸の量を、逆抽出時に低減することも可能である。硫酸と乳酸の両方が、上記アミン抽出の際に共抽出されるが(第XI項参照)、上記水系逆抽出においては、上記アミン抽出剤の硫酸に対する高い選択性のため、乳酸のみが逆抽出される(第XIV項参照)。上記希薄溶媒中の残留硫酸の量は、希薄溶媒洗浄時に低減することができる(第XV項参照)。
【0104】
その他の分離工程も、上記乳酸溶液中の残留硫酸カルシウム量の低減に適している場合がある。例えば、精密濾過(nanofiltration)によれば、カルシウムや硫酸塩といった二価イオンから乳酸を選択的に分離できる可能性がある。さらに、精密濾過によれば、二糖およびオリゴ糖のような他の高分子量不純物または熱分解による生成物を除去しやすい。電気透析法も、上記カルシウムや硫酸塩の除去に使用できる。しかしながら、電気透析法が最も効果を発揮するのは、一価のイオンに対して用いた場合である。
【0105】
X.濃縮II 第2の濃縮工程は、例えば、上記第1の濃縮工程において、例えば、不溶性の乳酸カルシウム塩の存在により、十分な乳酸濃度が得られなかった場合に、酸性化の後に任意に行える。好都合なことに、酸性化後においては、上記溶液に含まれる乳酸材料のほとんどが酸(非解離)形態である。上記非解離酸形態の乳酸材料は溶解しやすいため、この濃縮工程は、上記乳酸塩の溶解性によって制限されることはない。通常、上記乳酸溶液は、乳酸濃度が約20〜70重量%、より一般的には約40〜60重量%になるまで濃縮される。好適な濃縮技術については既に述べた。
【0106】
XI.乳酸抽出 上記乳酸溶液中の硫酸塩量の低減後において、アミノ酸や炭水化物といった数種の不純物が残留している場合がある。精製乳酸溶液の調製は、上記乳酸溶液を非水溶性アミン系の溶媒で抽出することにより行うことが好ましい。上記非水溶性アミン系溶媒は、アミン溶媒、有機相、抽出剤、または抽出溶媒とも表現される。上記乳酸抽出は、上記抽出剤中における乳酸系物質(lactic)を分配し、乳酸含有抽出剤を調製する。上記乳酸含有抽出剤は、以降の記述において、乳酸含有溶媒または乳酸含有有機相とも表現される。
【0107】
上記抽出溶媒の選択は、分離処理全体の効率ならびにその経済性にとって重要である。抽出効率の尺度となるのが分配係数である。分配係数は、水相における乳酸の平衡濃度を、上記水相における遊離乳酸の平衡濃度で割ったものと定義される。上記分配係数は、(平衡後に)上記有機相(抽出剤)の乳酸濃度(重量ベース)を上記水相(抽出が起こる相)の乳酸濃度で割ることにより算出できる。一般に、分配係数が0.1よりも大きいことが望ましい。一般に、0.5より大きい分配係数がより望ましく、1.0より大きい分配係数がさらに望ましい。分配計数は、溶媒の選択に影響される。商業規模での使用においては、抽出効率は、上記系が、高収率、少量の抽出剤、および濃縮された生成物という条件を同時に達成する能力に関連する。
【0108】
抽出は、非水溶性アミンを用いて行うことが好ましい。アミン溶媒は優れた乳酸の分配能と選択性を有しているため、これを使用することが好ましい。上記アミンは、水と混和せず、かつ炭素原子を18個以上有していることが好ましい。第三級アミンを用いて抽出を行うことが最も好ましい。例えば、米国特許第4,771,001号、第5,132,456号、第5,510,526号、シミズらの発酵と生物工学ジャーナル(1996年)、第81巻、240〜246頁)(Shimizu et al, J. of Fermentation and Bioengineering (1996), Vol. 81 pp. 240-246)、ヤバンナバールおよびウォンのバイオテクノロジー生物工学、(1991年)、第37巻、1095〜1100頁(Yabannavar and Wang, Biotech Bioeng., (1991) Vol. 37, p. 1095-1100)、ならびにチェンおよびリーの応用生物化学生物工学(1997年)、第63〜65巻、435〜447頁(Chen and Lee, Appl. Biochem. Biotech, (1997), Vol. 63-65, pp. 435-447)を参照されたい。これら6件の引用文献は、引照をもって本明細書に組み込まれている。
【0109】
好適なアミンの例としては、トリエチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、メチルジドデシルアミンが挙げられ、さらにLA−1(各アルキル鎖が12個の炭素原子を有するジアルキルアミン混合物、ペンシルバニア州、フィラデルフィアのローム・アンド・ハース社より入手可能)、アラミン304(トリドデシルアミン、前身はヘンケル社(Henkel Corp.)であるアリゾナ州、タスコンのコグニス社より入手可能)、アラミン308(各鎖に計8個の炭素原子を有する分岐鎖のトリアルキル混合物、アリゾナ州、タスコンのコグニス社より入手可能)、およびアラミン336(トリオクチルアミン、トリデシルアミン、ジオクチルデシルアミン、およびジデシルオクチルアミンの混合物、アリゾナ州、タスコンのコグニス社より入手可能)等といった工業用調製剤が挙げられる。
【0110】
抽出を実施する温度は、抽出効率や、粘度や、抽出剤の冷却費用に温度が及ぼす影響を含む、多数のパラメータに基いて変更できる。通常は、約20℃〜70℃、より好ましくは約30℃〜60℃の温度範囲で抽出が行われる。
【0111】
2つの液相を接触させるのに適した装置としては、充填カラム(packed columns)、機械攪拌カラム(mechanically−agitated columns)、多孔板カラム(perforated plate columns)、パルスカラム(pulsed columns)、ミキサーセトラー(mixer/settlers)、および遠心接触器(centrifugal contactors)が挙げられる。装置の選択は、上記2つの液相の組合せ流量、エマルション形成傾向(tendency for emulsion formation)、および温度や圧力といったその他の操作パラメータに基づいて行える。
【0112】
上記抽出溶媒は、上記系の粘度、相合体性(phase coalescence)、およびその他の物理的性質(physical properties)の調製が行えるよう、炭化水素画分を含有していることが好ましい。好適な炭化水素の一例は、灯油である。例えば、エクソン社製のイソパール系の商品は、好適な灯油製品である。中でもイソパールKが特に好ましい。上記炭化水素(使用されているのであれば)は、通常、上記抽出溶媒に、約1〜70重量%含有されている。好適な溶媒系は、アラミン304を30〜70重量%、オクタノールまたはリン酸トリブチルのような極性有機増強剤を0〜20重量%、灯油(kerosene)を30〜70重量%含有する。増強剤濃度が低い溶媒組成においては、乳酸抽出時に第2の有機相が形成される場合がある。一般に、上記第2の有機相は、乳酸を高濃度で含んでいる。しかしながら、第2の有機相が存在すると、操作上の困難が生じることがある。
【0113】
乳酸抽出に用いる溶媒は、他の乳酸製造プロセス(lactic acid process)において得られたものであってもよく、よって乳酸を含んでいてもよい。例えば、CO2駆動方法(先に記載)を使用することができる。上記溶媒は、乳酸を低濃度(例えば、約1〜5重量%)で含有していることが好ましい。上記溶媒に乳酸が多少含有されていたとしても、通常、上記溶媒は余分な抽出容量を備えており、したがって酸性化し濃縮した溶液からの乳酸の抽出に使用できる。上記溶液中に乳酸が残留したとしても、残留硫酸は希薄溶媒を使用して抽出できる。あるいは、上記残留硫酸を含む上記溶液を、以下に述べるように再循環させることもできる。
【0114】
本発明の方法と、他の乳酸製造方法とを統合することにより、溶媒流量を減少させ、水系逆抽出(以下に述べる)で得た溶液中における乳酸濃度を高めることができる。流量を減少させることにより、例えば、乳酸抽出、逆抽出、蒸発に要する機器費や、例えば、エネルギーといった運転費を削減することができる。このような統合は、既存の乳酸製造施設にとっては、その容量を比較的安価に向上させることができるため特に魅力的である。
【0115】
必要に応じ、上記乳酸抽出を、上記酸性化し濃縮した溶液中に存在する乳酸の一部のみ、好ましくは約70〜95重量%のみを抽出するよう設計してもよい。このようにすれば、上記残留乳酸を含有する抽残分を、上流側、好ましくは濃縮工程の前、へと再循環させ、他の乳酸材料源と組み合わせることができる。上記酸性化し濃縮した溶液中に存在する乳酸の一部のみを抽出するようにした場合、必要とされる抽出段階が少なくてすむという傾向が見られる。さらに、溶媒流量や資本経費も削減しやすくなる。
【0116】
一般に、上記抽残分を再循環する場合、種々の方法により上記中の不純物を低減することができる。例えば、上記抽残分の画分は、一掃するか、または廃物系として分岐させることができる。あるいは、上記溶液に石灰を添加することにより、上記抽残分中の乳酸塩を乳酸カルシウムとして析出させることができる。上記乳酸カルシウムは、上記水溶液から分離した後、好ましくは第VII項に記載した酸性化方法によって酸性化することができる。
【0117】
XII.増強剤 上記抽出溶媒は、乳酸の分配係数を高めるため、増強剤を含んでいてもよい。増強剤は、水相における遊離乳酸濃度が低いと場合、すなわち、15重量%未満である場合に特に有用である。一般に、乳酸は、増強剤の存在下ではより強力に有機相に分配され、増強剤が不在の場合にはより強力に水相に分配される。上記増強剤は、通常、その増強作用の強さ、揮発性、反応性、あるいは抽出効率または操作容易性を得る上で必要となるその他の特性に基づいて選択される。典型的な増強剤は、アルコール、ケトン、エステル、およびその他の極性有機液を含む極性有機化合物である。揮発性の増強剤が、水系逆抽出の前に上記乳酸含有溶媒より蒸留できるという理由により好ましい。
【0118】
硫酸は、増強剤としても機能し、低乳酸濃度の有機溶媒、特にアミン系溶媒、さらに具体的には第三級アミン系溶媒への乳酸の分配を増加させる傾向があることがわかっている。このような硫酸含有アミン系溶媒は、硫酸または硫酸塩含有溶媒、あるいは硫酸または硫酸塩増強溶媒とも表現される。図4は、水と、アラミン304を54重量%と、イソパールKを46重量%含有した有機溶媒に関し、50℃の温度下で測定した乳酸の平衡濃度を、硫酸を使用した場合と使用していない場合とに分けて示している。硫酸を使用しなかった場合、平衡曲線は「S」字状である(図4の線「A」)。この結果、上記水相より高収率で乳酸を得るためには、多数の段と大きな溶媒体積とが必要となる。この多数の段と多量の溶媒によって上記乳酸含有溶媒中の乳酸濃度が低下し、上記水系逆抽出における低乳酸濃度と低収率の原因となる。これに対し、上記有機抽出剤に硫酸を添加した場合には、低乳酸濃度においてより多くの乳酸が上記溶媒層に分配されている(図4の線「B」および「C」)。線「B」および「C」は、上記抽出剤に硫酸を0.1mol/kgおよび0.5mol/kg添加した場合における平衡曲線をそれぞれ示している。このように、より効果的な抽出が可能である(より少ない段数、より高い収率、より少量の溶媒)。
【0119】
テーブル2は、0.1mol/kgの硫酸を用いた場合と、硫酸を全く使用しなかった場合において、アラミン304を54重量%と、イソパールKを46重量%含有した溶媒を使用し、4つの理論段による抽出を50℃の温度下で行った結果回収された乳酸のパーセンテージを示している。供給する有機相と水相との比との重量比は、2.5であった。テーブル2は、増強剤として硫酸を使用することにより、抽出効率が格段に向上したことを示している。
【0120】
【表2】


【0121】
さらに、硫酸陰イオンは、60℃を上回る温度下においても、水系に逆抽出されないことがわかっている。実施例2fおよび2gに示すように、高温での逆抽出によって得た乳酸生成物系において、硫酸陰イオンは検出不可能なレベルであった。
【0122】
増強剤としての硫酸は、他の増強剤に比べ、数多くの利点を有している。増強剤のほとんどが、水溶液中である程度の揮発性と溶解性を示す極性有機液であり、乳酸溶液を汚染する可能性がある。このため、上記溶媒より上記汚染を除去するためには余分な費用が必要となる。さらに、増強剤のほとんどが、高温下で劣化するか、または反応性を有するようになる。これに対し、硫酸は優れた熱安定性と反応安定性を有している。
【0123】
上記硫酸増強溶媒は、硫酸を約0.01〜1.0モル/kg、より好ましくは約0.05〜0.5モル/kg含有していることが好ましい。極性有機増強剤は、上記硫酸増強溶媒中における極性有機物質量が約5重量%未満となるよう上記硫酸増強溶媒に添加することが最も好ましく、1重量%未満となるよう添加することがなお好ましい。
【0124】
硫酸含有溶媒は、様々な方法で得ることができる。例えば、上記硫酸含有溶媒は、抽出工程の前あるいは最中に、硫酸を上記アミン系溶媒に直接添加することによって得ることができる(例えば、ここで使用する硫酸は、先行の処理工程で生じた残留硫酸ではない)。あるいは、上記アミン系溶媒中の上記硫酸は、特に酸性化工程において過量の硫酸を添加した場合、上記酸性化工程で生じた残留硫酸であってもよい。
【0125】
あるいは、上記アミン系溶媒中の上記硫酸は、陽イオン交換樹脂の再生時に生じた残留硫酸であってもよい。上記硫酸含有溶媒は、逆抽出工程で生成することができる(第IX項参照)。乳酸および硫酸は、基本的には上記有機溶媒抽出時に共抽出される。しかしながら、硫酸は、上記水系逆抽出時には上記有機抽出剤に残留しやすい。これは、上記有機抽出剤は硫酸に対する選択性が高く、一方、乳酸は上記水系逆抽出時に逆抽出されやすいためである。上記硫酸含有溶媒は、後続の抽出工程に、そのままで、あるいは処理を施して使用してもよい。必要であれば、上記有機溶媒中の硫酸の量を、陰イオン交換カラム周辺に設けた小型バイパスによって調節してもよいし、あるいは溶媒洗浄(後で述べる)の際に除去する硫酸塩の量を調節することによって調節してもよい。
【0126】
XIII.乳酸含有溶媒からの不純物の除去 上記乳酸溶液の抽出をアミン溶媒によって行った後、乳酸を含む上記アミン溶媒を、「乳酸含有」溶媒と表現することができる。上記乳酸含有アミン溶媒を微量の水溶液と接触させ、上記溶媒中の不純物の量を低減することができる。不純物は、例えば、乳酸と共に上記溶媒中に共抽出されるか、あるいは飛沫同伴によって導入されることがある。このような不純物の例として、塩、糖、またはアミノ酸が挙げられる。好適な水溶液の例として、水、または乳酸と水とを含有する希薄溶液が挙げられる。乳酸を少量(例えば、約1〜10重量%)含有する水溶液を使用すれば、上記水溶液に逆抽出される乳酸の量を低減しやすい。複数の接触段を使用し、飛沫同伴された不純物や、抽出された不純物を全く含まない有機相を得てもよい。
【0127】
上記乳酸含有溶媒の抽出においては、水溶液と上記乳酸含有溶媒とを混合し、得られた混合物を撹拌してもよい。これにより、有機相から水相が分離して除去される。この液液接触工程での使用に適した装置は公知である。上記水相の飛沫同伴を低減するため、遠心分離抽出器を使用することが好ましい。
【0128】
上記乳酸含有溶媒抽出に用いる水溶液の量を決定する際、通常、純度の増加が、上記有機相から逆抽出される乳酸量と釣り合っている。水溶液に対する有機相の比率は、所要の精製程度を達成するために変更することが可能であり、発酵ブロス中の不純物量および/または精製乳酸溶液の最終用途に応じて変更してもよい。上記乳酸含有溶媒に対する抽出を行った後、上記水溶液は、廃水として処分してもよいし、あるいは、より好ましくは、上記プロセス内で再循環させてもよい。上記水溶液は、上記乳酸抽出工程へと供給される上記酸性化、清澄溶液中へと再循環させることがより好ましい。
【0129】
XIV.ストリッピング 精製乳酸溶液を得るため、上記乳酸含有有機アミン系溶媒より上記乳酸を「ストリッピング」する。上記乳酸含有溶媒より乳酸をストリッピングした後は、上記溶媒を「希薄」溶媒と表現することができる。上記溶媒からの上記乳酸のストリッピングは、例えば、逆抽出、分相、膜による分離、上記溶媒の蒸留、上記乳酸生成物の蒸留、上記乳酸生成物の結晶化、および水系抽出といった種々の公知の方法によって行うことができる。これらのストリッピング方法は、WO99/19290に詳細に記載されている。該特許は、引照をもって本明細書に組み込まれている。
【0130】
上記有機相から水相への上記乳酸の抽出により、精製乳酸溶液を得ることが好ましい。比較的安価な非混和性の液相に上記乳酸を移動させることにより、比較的安価な上記アミン溶媒の再循環が可能になる。
【0131】
上記逆抽出は、上記有機相への乳酸抽出時の温度よりも高い温度で行うことが好ましい。これは、上記アミン系有機相と水との間における乳酸の平衡分配が、より水に有利に行われるようにするためである。例えば、米国特許第4,275,234号(引照をもって本明細書に組み込まれている)を参照されたい。逆抽出時の温度を上昇させると、上記水溶液中の抽出酸の濃度が高くなりやすい。しかしながら、逆抽出時の温度を上昇させると、上記溶媒の成分および/または乳酸が劣化してしまう場合がある。上記乳酸材料源は抽出前に濃縮されているため、上記溶媒中の上記極性有機増強剤の含有率が低い場合(例えば、約5重量%未満、より好ましくは1重量%未満)は特に、高温(例えば、120℃を超える温度)での逆抽出は一般には必要ない。
【0132】
一般に、上記逆抽出は、上記乳酸抽出の際の温度よりも約20℃〜160℃、より一般的には、約40℃〜100℃高い温度で行われる。例えば、上記乳酸抽出が、気圧下にて約15℃〜60℃で行われた場合には、後続の水系逆抽出は、一般に約70℃以上、より一般的には約100℃以上で行われる。上記温度を100℃より高くする場合には、上記水系逆抽出は、通常圧力下で、通常窒素を用いて行われる。
【0133】
上記水系逆抽出により上記乳酸を抽出する前に、上記抽出溶媒中における極性有機増強剤の量を、例えば蒸留によって低減することが好ましい。一般に、増強剤を除去すれば、乳酸が水相へとより有利に分配される。
【0134】
上記水系逆抽出に使用する水は、上記水相への乳酸の分配を増加させるため、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、または水酸化カルシウムといった塩基性化合物を含んでいてもよい。米国特許第第4,771,001号(引照をもって本明細書に組み込まれている)は、有機溶媒を水相(アンモニアのような、比較的強塩基を有する)へと逆抽出させる際に、トリアルキル第三級アミンを使用することを開示している。
【0135】
あるいは、二工程からなる逆抽出を行ってもよい。第1の工程において、有機相より抽出された酸を水で抽出し、乳酸濃度が30重量%を上回る溶液を得る。上記第1の工程においては、約1〜3段のみを使用し、水相に対する有機相の比率を2より大きくすることが好ましい。上記第1の工程では、一般に、約60〜90重量%の乳酸が上記有機相より回収される。第2の工程においては、上記有機相を、水酸化ナトリウムのような塩基性溶液と接触させ、乳酸ナトリウムのような乳酸塩を得ることにより、残留している乳酸を上記有機相より回収する。二工程逆抽出は、若干の乳酸塩生成が所望される場合や、塩分離能を有する製造施設において好まれる。さらに、二工程逆抽出によれば、資本経費(接触段が少なくてすむ)や運転費(生成物濃縮にかかる費用が低くてすむ)を削減しやすい。
【0136】
先に列挙した上記正抽出に適した装置は、上記逆抽出にも適している。
【0137】
XV.希薄溶媒洗浄 上記乳酸が上記水相に分配された後、上記希薄有機溶媒(例えば、上記乳酸の少なくとも一部が抽出された上記有機溶媒)を洗浄して不純物の量を減少させ、再循環させることが好ましい。希薄溶媒洗浄を行わなかった場合、通常、上記溶媒は最終的に乳化してしまい、使用できなくなる。上記希薄溶媒洗浄においては、上記溶媒を、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、または水酸化カリウムのような塩基を含有する溶液と混合する。上記希薄溶媒洗浄は、例えば、5%の水酸化ナトリウムを使用して行う苛性(水酸化ナトリウム)洗浄であることが好ましい。硫酸塩および塩素といった不純物は、アミン分解生成物と共に上記塩基性溶液へと分配される。次に、上記塩基性相を除去し、水系として処分する。上記溶媒中の不純物の量、相合体特性(phase coalescence characteristics)、および溶媒分解速度に応じ、上記有機相の全て、あるいは一部のみを上記希薄溶媒洗浄すればよい。
【0138】
上記抽出工程で増強剤として硫酸塩を使用している場合、上記苛性洗浄は、上記溶媒から硫酸塩を除去する仕組みを提供する。
【0139】
XVI.精製乳酸溶液 本発明の方法は、発酵ブロスのような乳酸材料源から精製乳酸溶液を得る経済的な方法を提供するものである。発酵ブロスは、通常、相当量の不純物を含んでいるが、精製乳酸溶液には微量の不純物しか含まれていない。例えば、発酵ブロスには、通常、無傷細胞(intact cells)、細胞片、炭素および窒素源を有する栄養培地、重金属、代謝による副産物、無機塩といった不純物が約5〜40g/L含まれている。これに対し、上記精製乳酸溶液には、通常、細胞または細胞片は含まれておらず、不純物の量も少量である。一般に、上記精製乳酸溶液における窒素の総量は、約1.0g/L以下、より好ましくは約0.5g/L以下であり、炭水化物の総量は約1g/L以下、より好ましくは約0.5g/L以下である。しかしながら、上記精製乳酸溶液の所望用途に応じ、上記溶液における不純物の所望分布を変更してもよい。上記精製乳酸溶液は、乳酸を約5〜90重量%、より一般的には約10〜90重量%、最も一般的には約20〜50重量%と、水系担体と、タンパク質、炭水化物、細胞片等といった不純物を約1.0〜5.0g/L、より好ましくは約0.005〜1.0g/L含有していることが好ましい。
【0140】
上記精製乳酸溶液の純度は、加熱比色試験(実施例1参照)を用いて評価できる。上記加熱比色試験においては、溶液の色を、上記溶液の黄色度指数を測定することにより処理前に決定する。黄色度指数は、溶液の相対純度を反映する。所定の乳酸材料試料および上記試料より得た精製乳酸溶液における黄色度指数の実測値は、上記乳酸材料源の組成や、上記精製処理における操作パラメータによって異なる場合がある。例えば、細菌発酵の多くは複合栄養源を必要とするが、この複合栄養源のため、細菌発酵における黄色度指数は、複合栄養源を必要としない酵母または菌発酵の黄色度指数と比べて高くなっている。
【0141】
一般に、未加工の発酵ブロス試料のような、不純物を有する試料においては、黄色度指数は約30〜150、より一般的には約40〜90である。これに対し、精製乳酸溶液試料の黄色度指数は、一般的に約5〜30、より一般的には約10〜25である。黄色度指数の測定後、上記試料を、約140℃〜180℃、より好ましくは約140℃〜160℃の温度で、約60〜180分、約100〜120分加熱する。上記加熱処理後においては、未加工の発酵ブロス試料のような、不純物を有する溶液においては、黄色度指数は約60〜300、より一般的には約70〜200である。これに対し、加熱処理後の精製乳酸溶液試料の黄色度指数は、一般的には約10〜150、より一般的には約10〜100である。
【0142】
加熱処理前後における上記発酵ブロスと上記精製乳酸溶液の上記黄色度指数を比較することができる。一般に、上記精製乳酸溶液試料の黄色度指数に対する上記発酵ブロス試料の黄色度指数の比率は、約1.2〜20.0、より一般的には1.5〜8.0である。
【0143】
XVII.精製乳酸溶液の使用 精製乳酸溶液は、様々な最終用途に適した水溶液である。例えば、上記精製乳酸溶液は、濃縮して88%水溶液とすることができる。あるいは、上記精製乳酸溶液を使用して乳酸エチルまたは乳酸ステアロイルといった乳酸エステルを生成することができる。さらに上記精製乳酸溶液を使用し、1,2−プロパンジオールまたはアクリル酸を生成することができる。また不純物を低減するため、上記精製乳酸溶液を、例えば、陽イオン交換、陰イオン交換、イオン排除クロマトグラフィー、蒸発、蒸留、限外濾過、精密濾過、炭素処理、電気透析法、吸着、抽出、および/またはこれらの方法の併用によってさらに加工してもよい。
【0144】
[実施例]
以下の実施例を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。これら実施例は、本明細書に記載の発明の範囲を説明するものであって、これを限定するものではない。本発明の構想の範囲内での変更は、当業者には明白である。
【0145】
(実施例1) 比色試験 乳酸カルシウムを8.4重量%含有する1600gの発酵ブロス(pH=6.0)を、回転式蒸発器を使用し、乳酸カルシウムが21.0重量%となるまで減圧下で濃縮した。乳酸カルシウムを21.0重量%含有する上記ブロスを、95.5重量%の硫酸を使用し、硫酸と乳酸カルシウムとのモル比が1.02:1.0になるように酸性化した。酸性化した上記ブロスより、生成された硫酸カルシウムを濾過した。次に、上記酸性化ブロスを、乳酸濃度が35.6重量%となるまで濃縮した。この濃酸を、アラミン304−1を54重量%と、イソパールKを46重量%含有する有機抽出剤を使用し、22℃の温度下で、2つの逆流段(two crosscurrent stages)を用いて抽出した。水相に対する有機相の総合比(overall ratio)(O/A)は、体積比で0.96であった。抽出剤相の乳酸含有率は13.2重量%であり、抽残分の乳酸含有率は27.7%であった。上記乳酸含有抽出剤を、100℃の脱イオン水を用いて逆抽出した。この操作の際、相比O/Aは体積比で0.78であった。得られた水系生成物の乳酸含有率は5.0重量%であり、減損した有機系における乳酸含有率は5.7重量%であった。
【0146】
色の測定を、先の段落で述べたプロセス全体にわたって行った。上記色測定は、発酵ブロスと水系逆抽出生成物について行った。上記色測定は、ハンター式比色計(Hunter Colorimeter)を使用して行い、測定結果を黄色度指数単位によって表した。上記色測定は、上述の試料を「そのまま」の状態に対してと、一定時間の加熱処理後の状態に対して行った。結果を以下に示す。
【0147】
【表3】


【0148】
上記加熱比色試験は、以下の手順で行う。
1.油浴の電源を入れ、温度コントローラを140℃に設定する。
2.100mLの丸底フラスコに、乳酸またはブロスを70g加える。
3.上記丸底フラスコに、ガラスビーズを7.0g加える。
4.上記100mLフラスコに、450mmのジャケット付きコンデンサを接触させる。
5.上記油浴の温度が140℃に達してから、上記100mLフラスコを上記油浴に配置する。
6.上記温度コントローラを160℃に設定する7.上記フラスコを、上記油浴の温度が160℃に達した時点から2時間加熱する。
8.2時間後、上記油浴から上記100mLフラスコを取り出し、室温下で冷却する。
9.黄色度指数スケールを使用し、色値を決定する。
【0149】
上記黄色度指数の決定方法を以下に述べる。この方法は、20mmのセルを搭載したハンター式カラークエストII球状比色計(Hunter ColorQuest II Sphere colorimeter)を使用して黄色度指数を測定するものである。まず、黒のカードと白色タイルを用いて中立軸の頂部と底部を設定し、上記計器を標準化する。上記黒色カードは全吸収のシミュレイトに、上記白色タイルは全透過(total transmitance)のシミュレイトに使用する。次に、上記試料を有する上記20mmの試料セルを、試料ホルダに配置する。上記比色計は、紫外線スペクトルの可視領域をスキャンし、三刺激値(X,Y,Z)に基づいて上記黄色度指数を算出する。上記黄色度指数は、上記試料の紫外線透過スペクトルの可視領域を積分し、その結果を光源の紫外線透過スペクトルの可視領域と比較することにより決定される。
【0150】
I.検定標準(standard check)の調製(APHA25)
A.500白金コバルト標準(500 Platinum Cobalt standard)を、100mLのメスフラスコに加える。
B.上記測標を、DI水を用いて希釈する。
【0151】
ハンター式カラークエストII球状比色計の標準化 A.標準化ボタンをクリックする。
B.上記黒色タイルをレンズの前に配置し、OKボタンをクリックする。
C.DI水を充填した上記20mmセルを、上記試料ホルダに配置する。
D.反射口(reflectance port)の前に上記白色タイルを配置し、OKボタンを押す。
【0152】
II.試料の調製 A.20mmセルをDI水で洗浄する。
B.上記試料を、濾紙、または45μmフィルターが端部に取り付けられた注射筒を用いて濾過する。
C.上記20mmセルに上記試料を充填する。
D.試料測定ボタンをクリックする。
E.試料名を入力し、OKボタンをクリックする。
F.上記試料の上記黄色度指数を記録帳に入力する。
【0153】
III.計器条件A.照明(illuminate):CB.オブザーバー: 2°C.指数: YI 1925(2/C)
【0154】
IV.
V.キャリブレーションおよびQC A.方法の精度を測定するため、試料に対する試験を行う前に、上記APHA25標準のAPHA指数を測定する。
【0155】
VI.算出 A.YI指数=100[1−(0.847*Z/Y)]
【0156】
(実施例2)硫酸塩による増強実施例2a 乳酸抽出:硫酸塩による増強なし 第三級アミン(アラミン304、ヘンケル社製)を[?]低芳香族灯油(イソパールK、エクソン社製)中に含む抽出剤を調整した。上記抽出剤の溶液3.00gを、20.00gの0.75mol/kg乳酸水溶液と50℃の温度下で平衡させた。これらの相を安定させ、両相の乳酸濃度を測定した。この結果、乳酸分配係数は0.28であった。
【0157】
実施例2b 乳酸抽出:硫酸塩による増強あり 上記実施例2aに記載のように調製した抽出剤溶液3.051gを、H2SO4を2.95mol/kg含有する水溶液0.112gと接触させた。上記抽出剤溶液との接触後、上記水相のH2SO4濃度は検出レベルを下回っていた。次に、上記H2SO4含有抽出剤を、20.00gの0.75mol/kg乳酸水溶液と50℃の温度下で平衡させ、これらの相を安定させた。上記水相と上記有機相の総プロトン濃度を、0.1NのNaOHの滴定によって測定した。また乳酸濃度をHPLC(OAKCカラム)によって測定した。この結果、乳酸分配係数は0.55であり、上記有機相のH2SO4濃度は0.1mol/kgであり、上記水相のH2SO4濃度は検出レベルを下回っていた。
【0158】
実施例2c 乳酸抽出:硫酸塩による増強あり 「実施例2b」に記載の手順を、上記抽出剤および上記乳酸溶液の量をそれぞれ3.01gと20.02gに変更して繰り返した。上記H2SO4溶液の量を、0.311gに増やした。この結果、乳酸分配係数は0.70であり、上記有機相のH2SO4濃度は0.3mol/kgであった。ここでも、上記水相のH2SO4濃度は検出レベルを下回っていた。
【0159】
実施例2d: 「実施例2b」に記載の手順を、上記抽出剤および上記乳酸溶液の量をそれぞれ3.02gと20.01gに変更して繰り返した。上記H2SO4溶液の量を、0.514gに増加した。この結果、乳酸分配係数は0.68であり、上記有機相のH2SO4濃度は0.5mol/kgであった。ここでも、上記水相のH2SO4濃度は検出レベルを下回っていた。
【0160】
結論: 実施例2の実験より、上記溶媒中に硫酸が存在する場合の方が、硫酸が存在しない場合に比べ、上記有機相への乳酸の分配係数が増大することがわかる。
【0161】
(実施例3) 水系逆抽出実施例3a 水系逆抽出:硫酸塩による増強なし 第三級アミン(アラミン304、ヘンケル社製)を低芳香族灯油(イソパールK、エクソン社製)中に含む抽出剤を調整した。上記抽出剤を、乳酸濃度の異なる複数の水溶液と140℃の温度下で接触させた。水相に対する上記有機相の比率は、28:50w/wであった。これらの相を平衡させた後、安定させ、両相の乳酸濃度を測定した。両相の乳酸濃度と、算出した分配係数Kdを、テーブル3に示す。
【0162】
【表4】


【0163】
実施例3b 水系逆抽出:硫酸塩による増強あり 実施例2eに記載のように調製した抽出剤28gを、H2SO4を0.8mol/kg含有する水溶液1.6gと接触させた。平衡状態において、上記水相のH2SO4濃度は検出レベルを下回っていた。次に上記H2SO4含有抽出剤の試料複数を、乳酸濃度が異なる44〜58gの乳酸水溶液と140℃の温度下で平衡させた。次に、これらの相を安定させ、分析を行った。いずれの場合においても、上記水相のH2SO4濃度は検出レベルを下回っていた。また、有機相のH2SO4濃度は、いずれの場合においても0.045mol/kgであった。両相の乳酸濃度と、算出した分配係数Kdを、テーブル4に示す。
【0164】
【表5】


【0165】
実施例3c 水系逆抽出:硫酸塩による増強あり 実施例2eに記載のように調製した抽出溶液28.0gと28.2gとを、H2SO4を0.8mol/kg含有する水溶液0.84gと0.70gとにより、それぞれ平衡させた。各水相のH2SO4濃度は検出レベルを下回っていた。次に、上記H2SO4含有抽出剤の試料を、乳酸を2.1mol/kgと1.5mol/kgそれぞれ含有する56gと44gの乳酸水溶液のそれぞれと140℃の温度下で平衡させ、相を安定させた。各有機相のH2SO4濃度は、約0.02mol/kgであり、ここでも各水相のH2SO4濃度は検出レベルを下回っていた。両相の乳酸濃度と、算出した分配係数Kdを、テーブル5に示す。
【0166】
【表6】


【0167】
結論: 実施例3より、上記水系逆抽出工程時において、硫酸は上記水相に強力に分配されないことがわかる。対照的に、乳酸は、上記水相へ効率的に逆抽出される。
【0168】
実施例4 中性pHの乳酸材料源の精製 ラクトバシラス属の有機体を、デキストロースを炭素源として有する発酵槽へ添加する。上記発酵槽のpHを、水酸化カルシウムを中和剤として添加することにより、6.0に保つ。上記ラクトバシラス属の有機体によるデキストロースの連続式中性発酵により、毎時250,000ポンドの発酵ブロスが得られる。
【0169】
慣例により、発酵ブロスのような溶液中の乳酸材料の量は、上記溶液中の乳酸材料が全て非解離形態すなわち酸形態であると仮定して算出した重量%で表されるか、あるいは上記溶液中の乳酸材料が全て解離形態すなわち塩形態であると仮定して算出した重量%で表される。したがって、乳酸材料の量を乳酸として測定した場合、乳酸は10重量%存在すると算出された。あるいは、乳酸材料の量を乳酸塩(中和剤として水酸化カルシウムを使用しているため、乳酸カルシウム)として測定した場合、乳酸カルシウムは12.1重量%存在すると算出された。
【0170】
上記発酵ブロスを、40,000MWCOの管状のポリエーテルスルホン膜を用い、十字流濾過によって清澄する。次に、上記ブロスをダイアフィルトレーション(diafiltration)によって濾過し、上記乳酸カルシウムの97%を回収する。ダイアフィルトレーションにより、上記生成物系に対し、毎時20,000ポンドの純添加量(net addition)で水が添加される。上記清澄ブロスの濃縮を、機械再圧縮型蒸発器を用い、90℃より低い内部温度で、真空下で行う。上記蒸発工程により、毎時120,000ポンドの水が除去される。このように、乳酸材料(乳酸として測定)を16.3重量%含む濃縮清澄ブロスが、毎時149,091ポンドという速さで得られる。
【0171】
第1の結晶化タンクにおいて、16.3重量%の乳酸材料溶液に、98%の硫酸溶液を毎時12,720ポンド加える。上記スラリー(結晶化された硫酸カルシウム二水塩を含む)を、第2結晶化タンクへと連続的にポンプで輸送する。第2の結晶化タンクにおいて、上記スラリーに98%の硫酸溶液を毎時752ポンドさらに加え、硫酸カルシウム二水塩をさらに結晶化させる。次に、上記スラリーをベルトフィルタに送る。上記ベルトフィルタには、毎時24,000ポンドの水が送られ、上記ケークを洗浄する。上記乳酸材料の99%が回収される。上記濾過により、毎時約32,150ポンドの60%固形石膏ケークが得られる。
【0172】
乳酸15.5重量%と残留硫酸カルシウム2000ppmとを含む、酸性化された乳酸系を、毎時154,406ポンド、陰イオンおよび陽イオン交換プロセスへ送る。上記イオン交換操作により、上記残留硫酸カルシウムが5ppmまで減少する。98重量%の乳酸が回収される。上記イオン交換操作で得た上記生成物系に、毎時20,000ポンドの水をさらに添加する。
【0173】
上記イオン交換操作により毎時173,618ポンドの速さで得た乳酸を13.6重量%含む生成物系を濃縮する。この濃縮工程で、毎時126,563ポンドの水が上記生成物系から除去され、50重量%の乳酸溶液が毎時47,055ポンドという速さで得られる。
【0174】
上記50重量%溶液を、毎時140,000ポンドの有機溶媒と接触させる。上記有機溶媒は、乳酸を0.67重量%、水を0.07重量%、アラミン304を53.6重量%、イソパールKを45.7重量%含んでいる。接触による4つの理論抽出段を、機械撹拌抽出カラム(mechanically−agitated extraction column)内で行った。上記接触工程の後、乳酸を14.1重量%含有する有機相を、毎時164,389ポンドの速さで上記水系乳酸溶液より分離した。この抽出工程では、94.6%の乳酸回収率が得られた。乳酸含有溶媒洗浄は行わなかった。
【0175】
上記乳酸含有有機相を、加圧機械撹拌抽出カラムにおいて、140℃の温度下で24,000ポンドの水と接触させた。4つの理論段による抽出を行い、乳酸を45.3重量%含有する水系生成物を、毎時47,840ポンドの速さで得た。上記溶媒系の約10%を、水相に対する有機相の相比(質量比)が30:1になるよう、5重量%水酸化ナトリウム溶液に接触させた。
【0176】
上記45.3重量%精製乳酸溶液製品が、使用目的に応じ、必要であればさらに処理すればよいだけの状態となった。
【0177】
実施例5: 低pHの乳酸材料源の精製 低pHで乳酸を産生するよう遺伝子操作した酵母菌類の有機体を、混合糖系のバッチ式発酵に使用する。発酵完了後(例えば、上記混合糖系が消耗された後)、上記ブロスを保持タンクに加える。毎時250,000ポンドの発酵ブロスを、下流側の処理工程に連続的に輸送する。上記発酵ブロスは、乳酸を8重量%と乳酸カルシウムを2重量%含んでいる。上記発酵ブロスを、孔径0.1ミクロンのセラミック膜を使用して清澄する。次に、10,000MWCOのらせん形状のポリエーテルスルホン膜を使用し、上記ブロスからタンパク質を除去する。両限外濾過処理のダイアフィルトレーションにより、上記生成物系に、毎時25,000ポンドの水をさらに添加する。多段効果蒸発器を使用し、得られた清澄ブロスを真空下で濃縮する。全ての段における操作を、95℃よりも低い温度で行う。上記蒸発工程により、毎時155,000ポンドの水が除去される。除去された水は、再循環または再利用に適している。乳酸材料を16.2重量%含有する濃縮ブロスが、毎時139,031ポンドの速さで得られる。
【0178】
上記濃縮ブロスに、毎時1822ポンドの98重量%硫酸を添加する。上記酸性化ブロスより硫酸カルシウム二水塩を結晶化させ、回転ドラム式真空フィルタによって濾過する。上記石膏ケークを毎時2,400ポンドの水で洗浄することにより、99%の乳酸回収率を達成できる。上記フィルタより、固形分60重量%の石膏ケークが毎時3986ポンド得られる。乳酸16.0重量%と残留硫酸カルシウム2000ppmとを含む酸性化された乳酸系が、毎時139,304ポンド得られる。上記酸性化乳酸系は、カルシウムをプロトンで置換する陽イオン交換処理へと送られる。上記イオン交換操作により、上記酸性化乳酸系中の上記残留硫酸カルシウムが5ppmまで減少し、乳酸回収率が99%となる。上記陽イオン交換処理により、毎時10,000ポンドの水が、上記生成物系にさらに添加される。
【0179】
上記陽イオン交換操作により、乳酸を14.8重量%含有する生成物系が、毎時148,998ポンド得られる。この生成物系を、濃縮工程へと輸送する。上記濃縮工程において、毎時93,805ポンドの水が上記生成物系より除去され、40重量%の乳酸溶液が毎時55,194ポンドの速さで得られる。
【0180】
上記40重量%溶液を、毎時140,000ポンドの有機溶媒と接触させ、乳酸を0.6重量%、水を0.06重量%、アラミン304を53.6重量%、イソパールKを45.7重量%含有する溶液を得る。4つの理論抽出段を、機械撹拌抽出カラム内で行う。上記接触後、乳酸を13.5重量%含む有機相が、上記水系乳酸溶液より、毎時163,356ポンド分離される。上記抽出工程において、96.3%の乳酸回収率が得られる。乳酸含有溶媒は行わない。
【0181】
上記乳酸含有有機相を、加圧機械撹拌抽出カラムにおいて、140℃の温度下で24,000ポンドの水と接触させる。4つの理論段による分離を行い、乳酸を44.7重量%含有する水系生成物を、毎時47,174ポンドの速度で得た。上記溶媒系の約10%を、水相に対する有機相の(質量)相比が30:1になるよう、5重量%水酸化ナトリウム溶液に接触させる。
【0182】
上記44.7重量%精製乳酸溶液製品が、使用目的に応じ、必要であればさらに処理すればよいだけの状態となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、精製乳酸溶液の製造方法を示す工程系統図である。
【図2】
図2は、精製乳酸溶液の製造方法の別の例を示す工程系統図である。
【図3】
図3は、アミン抽出剤中への乳酸抽出に関するマッケーブ−シーレ線図を示す図表である。
【図4】
図4は、抽出液中に硫酸塩が存在する場合と存在しない場合における、アミン抽出剤の平衡曲線を示した図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 精製乳酸溶液の製造方法であって、(a)乳酸、または乳酸カルシウムを含む乳酸塩のいずれか一方、あるいは両方を含む乳酸材料源(source of lactate material)を供給する工程と、(b)上記乳酸材料源の体積の少なくとも約10%を、乳酸材料の体積を同様に減少させることなく除去することによって上記乳酸材料源を濃縮し、濃縮溶液を調製する工程と、(c)上記乳酸材料源を硫酸で酸性化し、乳酸と硫酸カルシウムとを含有する酸性化スラリーを調製する工程と、(d)上記酸性化スラリーより、硫酸カルシウムを少なくとも一部除去する工程と、(e)アミン抽出剤を用いて上記酸性化溶液の抽出を行い、乳酸含有溶媒を調製する工程と、(f)上記乳酸含有溶媒をストリッピングし、乳酸の精製溶液を得る工程とを有する方法。
【請求項2】 上記ストリッピング工程に、水系溶媒を用いて上記乳酸含有溶媒を逆抽出する工程が含まれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】 上記抽出工程の前に、上記アミン抽出剤に硫酸を混合する請求項1に記載の方法。
【請求項4】 上記抽出工程の最中に、上記アミン抽出剤へ硫酸を添加する工程をさらに有する請求項1に記載の方法。
【請求項5】 上記乳酸塩材料源に含まれる、分子量が約5,000〜500,000Daの不純物の量を低減する工程をさらに有する請求項1に記載の方法。
【請求項6】 乳酸材料源を供給する上記工程に、pHが約5.0〜9.0である乳酸材料源を供給することが含まれる請求項1に記載の方法。
【請求項7】 上記乳酸材料源のpHが、約5.0よりも小さい請求項1に記載の方法。
【請求項8】 上記乳酸材料源が発酵ブロスである請求項1に記載の方法。
【請求項9】 上記発酵ブロスに、炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムが含まれる請求項8に記載の方法。
【請求項10】 上記発酵ブロスに、炭素源として混合糖が含まれる請求項1に記載の方法。
【請求項11】 上記アミン抽出剤が、第三級アミンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】 上記アミン抽出剤が、極性有機増強剤を5重量%未満含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】 上記アミン抽出剤が、約0.01モル/kg〜1.0モル/kgの範囲で硫酸塩を含む請求項1に記載の方法。
【請求項14】 上記アミン抽出剤が、アラミン304(Alamine 304)およびイソパールK(Isopar K)を含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】 上記抽出工程の前に、上記酸性化溶液を濃縮する第2の濃縮工程をさらに有する請求項1に記載の方法。
【請求項16】 上記酸性化溶液を濃縮する上記第2の濃縮工程の前に、残留硫酸カルシウムの量を低減する工程をさらに有する請求項15に記載の方法。
【請求項17】 上記逆抽出工程の前に、微量の水溶液を用いて上記乳酸含有溶媒の抽出を行う工程をさらに有する請求項1に記載の方法。
【請求項18】 上記濃縮工程が、上記酸性化工程の前に行われる請求項1に記載の方法。
【請求項19】 上記酸性化工程が、上記濃縮工程の前に行われる請求項1に記載の方法。
【請求項20】 上記精製乳酸を、乳酸エステルまたはラクチドへと変換する工程をさらに有する請求項1に記載の方法。
【請求項21】 精製乳酸溶液の製造方法であって、(a)乳酸カルシウム塩を含む乳酸材料源を供給する工程と、(b)上記乳酸材料源を硫酸で酸性化し、乳酸と硫酸カルシウムとを含有する酸性化スラリーを調製する工程と、(c)上記酸性化スラリーより、硫酸カルシウムを少なくとも一部除去する工程と、(d)上記酸性化溶液にアミン抽出剤を混合し、硫酸を含む抽出溶液を調製する工程と、(e)上記アミン抽出剤を用いて上記酸性化溶液より上記乳酸を抽出し、乳酸含有溶媒を調製する工程と、(f)水系溶媒を用いた上記乳酸含有溶媒の逆抽出により乳酸の精製溶液を得る工程とを有する方法。
【請求項22】 上記抽出溶液中の上記硫酸が、石膏濾過後の上記乳酸溶液に存在する上記残留硫酸塩に由来する請求項21に記載の方法。
【請求項23】 上記抽出溶液に硫酸を添加する工程をさらに有する請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2003−511360(P2003−511360A)
【公表日】平成15年3月25日(2003.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−528130(P2001−528130)
【出願日】平成12年10月3日(2000.10.3)
【国際出願番号】PCT/US00/27200
【国際公開番号】WO01/025180
【国際公開日】平成13年4月12日(2001.4.12)
【出願人】
【氏名又は名称】カーギル ダウ エルエルシー
【代理人】
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
【Fターム(参考)】