説明

糖エステルを含む吸入可能医薬製剤

本発明は、活性成分物質が担体と相互作用しやすい固体医薬製剤における該活性成分物質と該担体との間の化学的相互作用を抑制するまたは減らすための糖エステルである第3の物質の使用に関する。(a)ラクトースと化学的相互作用しやすい活性成分物質、(b)担体、および(c)糖エステルである第3の物質を含む吸入可能固体医薬製剤も、その使用ならびにそれについての方法とともに提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性成分である医薬物質、担体、および該担体の存在下における該活性成分物質の化学反応または分解を抑制するまたは減らす第3の物質すなわち糖エステルを含む固体医薬製剤に関する。本発明はまた、担体の存在下において活性成分である医薬物質を安定化させるための、該活性成分物質の化学反応または分解を抑制するまたは減らす糖エステルの使用にも関する。本発明は特に活性成分物質の化学反応または分解を抑制するまたは減らすための、また、担体の存在下における活性成分医薬物質の安定化のための、セロビオースオクタアセテートの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬製剤の重要な必要要件は、ある範囲の異なる条件で貯蔵した場合安定でなければならないことである。活性成分物質は熱や光あるいは水分に対して不安定性を示すことがあることが知られており、またそのような物質を調合・貯蔵する際に、その医薬製品が妥当な貯蔵寿命をもつようにそれらが合理的な期間に亘って使用するために許容される状態にあり続けることを確実なものとするための様々な予防措置を講じなければならないことが知られている。医薬物質の不安定性はまた、製剤中に存在している1種または複数種の他の成分、例えば賦形剤として存在している成分との接触から生じることがある。
【0003】
担体、希釈剤、充填剤、増量剤、結合剤などとして必要とされ得る賦形剤として知られる物質とともに活性成分物質を製剤化することは製薬の技術分野では通常行われることである。そのような賦形剤は多くの場合、活性成分物質が非常に少量存在している場合、その医薬製剤の量を増やすために用いられる。そのような物質は一般に化学的に不活性である。しかしながら、貯蔵期間が長期に亘ると、あるいは過度の熱または湿度条件下では、他の物質の存在下において、そのような不活性物質は化学分解反応を受けるあるいはそれに関わることがある。
【0004】
固体医薬製剤で広く用いられている担体物質としては還元糖例えばラクトース(乳糖)、マルトース(麦芽糖)、グルコース(ブドウ糖)が挙げられる。ラクトースは特に広く用いられている。ラクトースは一般に不活性賦形剤と考えられている。
【0005】
しかしながら、ある種の活性成分物質はラクトースおよび他の還元糖の存在下で化学反応を受けることが認められている。例えば、塩酸フルオキセチン(商品名Prozac(登録商標)で販売されている)は、固体錠剤中でラクトース賦形剤と一緒に存在する場合、分解することがWirth et al.(J. Pharm. Sci., 1998, 87, 31-39)により報告されている。この分解はメイラード反応により付加物が生成することにより起ると仮説されており、多数の初期メイラード反応中間体が明らかにされている。この著者は、第二級または第一級アミンである医薬物質が、医薬的に適切な条件下でラクトースとメイラード反応をすると結論付けている。
【0006】
本発明者らは、加速安定性評価条件下で、ある種の吸入可能活性成分物質もまたラクトースの存在下で、おそらくここでもメイラード反応により、分解することを見出した。
【0007】
例えばWO 00/28979(SkyePharma AG)に報告されているように、ある種の吸入可能乾燥粉末医薬品は、水分の影響を受けやすい。水分が存在すると、担体と医薬物質との間の物理的相互作用、従って薬剤送達の効率が妨げられることが分かっている。このような担体と医薬物質との間の物理的相互作用の妨害は、分解から生じる化学的不安定性とは区別される。
【0008】
WO00/28979(SkyePharma AG)には、水分に対する耐性を改善するため、また、吸入された製剤の細粒分(fine particle fraction, FPF)に対する浸透水分の影響を低下させるため、吸入用乾燥粉末製剤中にステアリン酸マグネシウムを用いることが記載されている。
【0009】
WO/96/23485(Coordinated Drug Development Ltd)、WO01/78694およびWO01/78695(Vectura Limited)には、活性成分粒子および担体粒子を含む、乾燥粉末吸入器で使用するための粉末がそれぞれ記載されており、この場合この担体には、担体粒子からの活性粒子の離脱を促進することができる添加剤が含まれている。考えられ得る添加剤物質としては、アミノ酸、リン脂質、およびとりわけ糖エステルを含む界面活性剤が挙げられている。
【発明の開示】
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、活性成分物質と担体の化学的相互作用を、糖エステルである第3の物質を存在させることにより抑制するまたは減らすことができることを見出した。
【0011】
したがって第1の態様で、本発明は、活性成分物質が担体と化学的相互作用しやすい固体医薬製剤において、該活性成分物質と該担体との間の化学的相互作用を抑制するまたは減らすための第3の物質すなわち糖エステルの使用を提供する。
【0012】
本発明はまた、活性成分物質および担体を含み、該活性成分物質が担体と化学的相互作用しやすい固体医薬製剤において、該活性成分物質の化学分解を抑制するまたは減らすための第3の物質すなわち糖エステルの使用を提供する。これによって、長期間貯蔵の際の製剤中の活性物質の化学安定性が改善される。
【0013】
第2の態様で本発明は、(a)担体と化学的相互作用しやすい活性成分物質、(b)担体、および(c)第3の物質である糖エステルを含む固体医薬製剤を提供する。
【0014】
第3の態様で本発明は、化学的相互作用しやすい活性成分物質と担体との間の化学的相互作用を減らすまたは抑制する方法であって、該活性成分物質および該担体と第3の物質すなわち糖エステルとを混合することを含む方法を提供する。本発明はまた、担体および活性成分物質を含む製剤中の活性成分物質の化学分解を抑制する方法であって、該活性成分物質および該担体と第3の物質すなわち糖エステルとを混合することを含む方法を提供する。
【0015】
本発明で用いることができる糖エステルの例はセロビオースオクタアセテートである。
【0016】
本発明に従って調製された医薬製剤は、対応する糖エステルなしの製剤よりも高い化学安定性をもつ。
【0017】
本発明では、糖エステルを第3の物質と呼ぶ。「第3の物質」は、活性成分である医薬物質(1種または複数種)(「第1の」物質)およびバルク担体材料(1種または複数種)(「第2の」物質)に加えて製剤に用いられる化合物を意味するのに本明細書では使用される。一部では、2つ以上の第3の物質が用いられることもある。場合によっては、おそらく「第4の物質」と呼ばれるさらなる物質が、例えば潤滑剤として存在していてもよい。任意の特定の第3または第4の物質は2つ以上の効果をもつことがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、担体が還元糖例えばラクトース、マルトースまたはグルコース(例えば一水和グルコースあるいは無水グルコース)である製剤における特定の用途を見出すものである。好ましい実施形態では、担体はラクトースである。別の担体としては、マルトデキストリンが挙げられる。
【0019】
特定の組成物中に存在する第3の物質の最適な量は、第3の物質である糖エステルの正体、存在する活性成分である医薬物質の正体、粒子の大きさ、ならびに他の諸々の因子によって変わるものである。一般に、糖エステルは、組成物の全重量を基準にして0.1〜20重量/重量%(%w/w)の量で好ましくは存在する。より好ましくは、糖エステルは、組成物の全重量を基準にして0.2〜10重量/重量%の量で存在する。第3の物質としてセロビオースオクタアセテートが使用される場合、2〜15重量/重量%の量、例えば4〜10重量/重量%の量で好ましくは存在する。
【0020】
活性成分物質は典型的には組成物の全重量を基準にして0.01〜50重量/重量%の量で存在する。好ましくは、活性成分物質は、0.02〜10重量/重量%の量で、より好ましくは0.03〜5重量/重量%の量で、例えば0.05〜1重量/重量%の量で、例えば0.1重量/重量%の量で存在する。
【0021】
好ましくは、活性成分である医薬物質は、第一級または第二級アミン基を含むものである。つまり、例えば、医薬物質は、基Ar-CH(OH)-CH2-NH-Rを含むことができる。
【0022】
基Arは、例えば、式(a)、(b)、(c)および(d)の群から選択される:
【化1】


【0023】
上記式中、
R12は、水素、ハロゲン、-(CH2)qOR16、-NR16C(O)R17、-NR16SO2R17、-SO2NR16R17、-NR16R17、-OC(O)R18またはOC(O)NR16R17を表わし、R13は、水素、ハロゲンまたはC1〜4アルキルを表わし、または
R12は-NHR19を表わし、R13と-NHR19は一緒に5または6員ヘテロ環式環を形成し;
R14は、水素、ハロゲン、-OR16または-NR16R17を表わし;
R15は、水素、ハロゲン、ハロC1〜4アルキル、-OR16、-NR16R17、-OC(O)R18、またはOC(O)NR16R17を表わし;
R16およびR17はそれぞれ独立に水素またはC1〜4アルキルを表わすか、または、基-NR16R17、-SO2NR16R17、および-OC(O)NR16R17中でR16およびR17は独立に水素またはC1〜4アルキルを表わすか、あるいは、それらが結合している窒素と一緒に5、6、または7員含窒素環を形成しており;
R18は、不置換であってもよいしあるいはハロゲン、C1〜4アルキル、ヒドロキシ、C1〜4アルコキシ、またはハロC1〜4アルキルから選択される1個または複数個の置換基で置換されていてもよいアリール(例えばフェニルまたはナフチル)基を表わし;
qは、ゼロまたは1〜4の整数である。
【0024】
特定の実施形態では、基Arは、R12が水素ではない以外は上記で定義したとおりである。
【0025】
上記(a)および(b)の定義内において、好ましい基は、以下の基(i)〜(xxi)から選択することができる:
【化2】


【0026】
上記式中の(xvi)および(xix)にある点線は場合によっては存在する二重結合を表わす。
【0027】
好ましい実施形態ではArは上記で定義した基(i)を表わす。
【0028】
もう1つの実施形態ではArは上記で定義した基(iii)を表わす。
【0029】
基Rは好ましくは次の式で表わされる部分構造を表わす:
-A-B-C-D
上記式中、
Aは(CH2)m[式中mは1〜10の整数である]を表わすことができ;
Bはヘテロ原子(例えば酸素)または結合を表わすことができ;
Cは(CH2)n[式中nは1〜10の整数である]を表わすことができ;
Dはアリール基(例えば置換されていてもよいフェニルまたはピリジル基)を表わすことができる。
【0030】
本発明に従って製剤化することができる医薬物質としては、国際特許出願WO 02/066422、WO 02/070490、WO 02/076933、WO 03/024439、WO 03/072539、WO 03/091204、WO 04/016578、WO2004/022547、WO 2004/037807、WO 2004/037773、WO 2004/037768、WO 2004/039762、およびWO 2004/039766に記載されているものが挙げられる。
【0031】
本発明に従って調合することができる具体的な医薬物質としては次のものが挙げられる:
3-(4-{[6-({(2R)-2-ヒドロキシ-2-[4-ヒドロキシ-3-(ヒドロキシメチル)フェニル]エチル}アミノ)ヘキシル]オキシ}ブチル)ベンゼンスルホンアミド(例えばその桂皮酸塩として);
3-(3-{[7-({(2R)-2-ヒドロキシ-2-[4-ヒドロキシ-3-ヒドロキシメチル)フェニル]エチル}-アミノ)ヘプチル]オキシ}プロピル)ベンゼンスルホンアミド;
4-{(1R)-2-[(6-{2-[(2,6-ジクロロベンジル)オキシ]エトキシ}ヘキシル)アミノ]-1-ヒドロキシエチル}-2-(ヒドロキシメチル)フェノール;
4-{(1R)-2-[(6-{4-[3-(シクロペンチルスルホニル)フェニル]ブトキシ}ヘキシル)アミノ]-1-ヒドロキシエチル}-2-(ヒドロキシメチル)フェノール;
ならびにこれらの塩、溶媒和物、およびその他の生理学的に機能性の誘導体。
【0032】
本発明に従って製剤化することができるその他の医薬物質としては、サルメテロール、(R)-サルメテロール、サルブタモール、(R)-サルブタモール、ホルモテロール、(R,R)-ホルモテロール、フェノテロール、エタンテロール、ナミンテロール、クレンブテロール、ピルブテロール、フレロブテロール、レプロテロール、バンブテロール、テルブタリン、ならびにこれらの塩、溶媒和物、およびその他の生理学的に機能性の誘導体が挙げられる。
【0033】
活性成分である医薬物質は遊離の酸または塩基の形態にあってもよいし、あるいは、塩、溶媒和物、または他の生理学的に許容される誘導体として存在していてもよい。薬剤で使用するのに適した塩および溶媒和物は、その対イオンまたは会合溶媒が医薬的に許容されるものである。
【0034】
本発明で使用するのに適した塩としては有機の酸または塩基および無機の酸または塩基で形成されたものが挙げられる。医薬的に許容される酸付加塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、クエン酸、酒石酸、リン酸、乳酸、ピルビン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフェニル酢酸、フェニル酢酸、置換フェニル酢酸例えばメトキシフェニル酢酸、スルファミン酸、スルファニル酸、コハク酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、オキサロ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アリールスルホン酸(例えばp-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸またはナフタレンジスルホン酸)、サリチル酸、グルタル酸、グルコン酸、トリカルバリル酸、マンデル酸、桂皮酸、置換桂皮酸(例えば、メチル、メトキシ、ハロ、またはフェニル置換桂皮酸、例えば4-メチルおよび4-メトキシ桂皮酸およびα-フェニル桂皮酸(EもしくはZ異性体またはこの2つの混合物))、アスコルビン酸、オレイン酸、ナフトエ酸、ヒドロキシナフトエ酸(例えば1-または3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸)、ナフタレンアクリル酸(例えばナフタレン-2-アクリル酸)、安息香酸、4-メトキシ安息香酸、2-または4-ヒドロキシ安息香酸、4-クロロ安息香酸、4-フェニル安息香酸、ベンゼンアクリル酸(例えば1,4-ベンゼンジアクリル酸)、およびイセチオン酸から形成されるものが挙げられる。医薬的に許容される塩基塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩やカリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、およびジシクロヘキシルアミンやN-メチル-D-グルカミンのような有機塩基との塩が挙げられる。
【0035】
本発明では、医薬物質の生理学的に機能性の誘導体も用いることができる。用語「生理学的に機能性の誘導体」とは、例えば、体内で遊離化合物に変換可能であることにより、遊離化合物と同じ生理的機能をもつ、化合物の化学誘導体を意味する。本発明によれば、生理学的に機能性の誘導体の例としてはエステル、例えば、ヒドロキシル基がC1〜6アルキル、アリール、アリールC1〜6アルキル、またはアミノ酸エステルに変換された化合物が挙げられる。
【0036】
活性成分である医薬物質は最も好ましくは長期作用性選択的β2アドレナリン受容体アゴニストである。そのような化合物は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(例えば慢性気管支炎および喘鳴性気管支炎、気腫)、呼吸器感染症、および上気道疾患(例えば鼻炎(季節性鼻炎およびアレルギー性鼻炎を含む))のような可逆性気道閉塞が関連する疾患を含めた各種の臨床病態の予防と治療に用途がある。
【0037】
治療することができるその他の病態としては、早産、鬱病、鬱血性心不全、皮膚疾患(例えば炎症性皮膚疾患、アレルギー性皮膚疾患、乾癬性皮膚疾患、および増殖性皮膚疾患)、消化液の酸性度(peptic acidity)の低下が望ましい病態(例えば消化性潰瘍や胃潰瘍)、および筋肉疲労疾患が挙げられる。
【0038】
本発明を適用することができる製剤としては、経口投与、非経口(例えば皮下、皮内、筋内、静脈内、および関節内)投与、吸入(例えば各種タイプの定量加圧式エアロゾル、ネブライザー、またはインサフレーター(insufflator)により発生させることができる微粒子ダストまたはミスト)投与、直腸投与、および局所(例えば皮膚、頬、舌下、および眼内)投与(ただし、最も適した投与経路は、例えばレシピエントの状態および障害により様々であり得る)に適した製剤が挙げられる。製剤は、好都合なことに、単位用量形態で提供することができ、製薬の技術分野で周知のどの方法によっても調製することができる。全ての方法には、活性成分を、担体および第3の物質ならびにその他の補助成分と合わせる工程が含まれる。一般に製剤は、活性成分、担体例えばラクトース、第3の物質、およびその他の補助成分を均一且つ緊密に合わせることで調製され、そのあと、必要な場合は、その調製品を所望の製剤に成形する。
【0039】
経口投与に適した本発明の製剤は、粉剤または粒剤として、所定量の活性成分がそれぞれ入っているカプセル剤、カシェ(cachet)剤、または錠剤などの個別単位で提供することができる。活性成分である医薬物質は、巨丸剤(bolus)、舐剤またはペースト剤として提供することもできる。
【0040】
錠剤は、場合によっては1種以上の補助成分を加えて、圧縮成形または型成形により製造することができる。圧縮成形錠剤は、粉末または顆粒などの自由流動形態にある活性成分を、場合によっては結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑性界面活性剤または分散剤と混合して、適当な機械で圧縮成形することにより調製することができる。型成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物混合物を適当な機械で型成形することにより製造することができる。錠剤は場合によってはコーティングまたは刻み目をつける(scored)ことができ、内部の活性成分の遅延放出または制御放出を行うよう製剤化することもできる。
【0041】
非経口投与用製剤としては、投与直前に溶解させることを意図した滅菌の粉剤、粒剤、および錠剤が挙げられる。この製剤は、単位用量容器または複数用量容器、例えば密封アンプルやバイアルで提供することができ、使用直前に滅菌液体担体例えば生理食塩水や注射用水の添加のみを必要とする凍結乾燥された状態で貯蔵しておくことができる。
【0042】
口における局所投与、例えば口腔投与または舌下投与用の製剤としては、活性成分をスクロースやアカシアまたはトラガカントなどの風味基剤中に含むロゼンジ剤(口内錠)や、活性成分をゼラチンやグリセリンあるいはスクロースやアカシアなどの基剤中に含むトローチ剤(pastille)が挙げられる。
【0043】
本発明は、乾燥粉末組成物、特に肺に吸入により局所送達するための乾燥粉末組成物に特定の用途を見出すものである。
【0044】
肺に吸入により局所送達される乾燥粉末組成物は、例えば、インヘラー(inhaler)やインサフレーターで使用される、例えばゼラチンでできたカプセルやカートリッジに入れて、あるいは、例えば積層アルミニウム・フォイルでできたブリスターに入れて提供することができる。この製剤包装は、単位用量送達や複数用量送達に適していると考えられる。複数用量送達の場合、この製剤は、事前定量することができ(例えばDiskusにおけるように(GB 2242134を参照されたい)あるいはDiskhalerにおけるように(GB 2178965、2129691、および2169265を参照されたい))、あるいは使用中に定量することができる(例えばTurbuhalerにおけるように[EP 69715またはEP0237507を参照されたい])。単位用量装置の例はRotahalerである(GB 2064336を参照されたい)。上記Diskus吸入装置は、長さ方向に間隔を置いて配置された複数の凹部を有している底シートと、該底シートに密閉してだが剥離可能にシール(密封)されて複数の容器(各容器には活性化合物含有吸入可能製剤が入っている)を画定する蓋シートとから形成される細長いストリップを含んでいる。好ましくは、ストリップは、十分柔軟でロール状に巻けるものである。
【0045】
吸入により投与するための薬剤は望ましくは制御された粒子径をもつ。気管支系への吸入に最適な粒子径は、マス平均径[mass mean diameter](MMD)で表わした場合、通常1〜10μm、好ましくは2〜5μmである。径が20μmより大きい粒子は一般に大きすぎて、吸入された場合小気道に届かない。これらの粒子径を達成するには、生成された活性成分物質の粒子は、在来の方法例えばマイクロナイゼーション(微粉砕化)により、径を小さくすることができる。所望の分画は、空気分級や空気篩により分離して取り出すことができる。好ましくは、粒子は結晶体からなる。一般に、担体(例えばラクトース)の粒子径は、本発明内では、医薬物質よりもずっと大きいものである。活性医薬物質以外の他の物質が、活性医薬物質よりも大きい粒子径を有しているのも望ましい。担体がラクトースである場合は、典型的には粉砕ラクトースとして存在し、例えばマス平均径(MMD)が60〜90μmであり、15μmより小さい粒子直径が15%以下である。
【0046】
糖エステルは典型的には1〜50μm、より好ましくは1〜20μm、例えば1〜10μmの粒子径(マス平均径)をもつ。本発明による組成物を調製するのに使用される糖エステル(例えばセロビオースオクタアセテート)の粒径は、在来の方法により小さくして、1〜10μm、例えば1〜5μmのマス平均径(MMD)の粒子を得ることができる。糖エステルは典型的には微粉砕化されるが、当業者にはよく知られている制御沈降、超臨界流体法およびスプレー乾燥法により調製することもできる。
【0047】
好ましい単位用量製剤は、活性成分の上記で述べた有効用量またはその適切な割合を含有しているものである。
【0048】
上記で詳細に述べた成分以外に、本発明の製剤は、当該の製剤のタイプに関係する当技術分野で慣用のその他の物質を含み得ることは理解されるべきで、例えば経口投与に適した製剤は風味剤を含み得る。
【0049】
本発明による化合物および医薬製剤は1種または複数種の他の治療薬との組み合せで用いることができ、つまり、それらを含むことができ、例えばβ-アゴニストは、抗炎症薬(例えばコルチコステロイドまたはNSAID)、抗コリン薬(特にM1、M2、M1/M2、またはM3受容体アンタゴニスト)、その他のβ2-アドレナリン受容体アゴニスト、抗感染症薬(例えば抗生物質、抗ウイルス薬)、または抗ヒスタミン薬から選択される1種または複数種の他の治療薬との組み合せで用いることができる。
【0050】
好適なコルチコステロイドとしては、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、フルチカゾンプロピオネート、6α,9α-ジフルオロ-17α-[(2-フルニルカルボニル)オキシ]-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-3-オキソ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-フルオロメチルエステル、6α,9α-ジフルオロ-11β-ヒドロキシ-16α-メチル-3-オキソ-17α-プロピオニルオキシ-アンドロスタ-1,4-ジエン-17β-カルボチオ酸S-(2-オキソ-テトラヒドロ-フラン-3S-イル)エステル、ベクロメタゾンエステル(例えば17-プロピオネートエステルまたは17,21-ジプロピオネートエステル)、ブデゾニド、フルニソリド、モメタゾンエステル(例えばフロ酸エステル)、トリアムシノロンアセトニド、ロフレポニド、シクレソニド、ブチキソコルトプロピオネート、RPR-106541、およびST-126が挙げられる。
【0051】
好適なNSAIDとしては、クロモグリク酸クロモグリク酸ナトリウム、ネドクロミルナトリウム、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬(例えばテオフィリン、PDE4 阻害薬または混合PDE3/PDE4 阻害薬)、ロイコトリエンアンタゴニスト、ロイコトリエン合成阻害薬、iNOS 阻害薬、トリプターゼおよびエラスターゼ阻害薬、β-2インテグリンアンタゴニストおよびアデノシン受容体アゴニストまたはアンタゴニスト(例えばアデノシン2aアゴニスト)、サイトカインアンタゴニスト(例えばケモカインアンタゴニスト)、またはサイトカイン合成阻害薬が挙げられる。
【0052】
好適な抗コリン薬は、ムスカリン性受容体にアンタゴニストとして作用する化合物、特にM1およびM2受容体のアンタゴニストである化合物である。例示的な化合物としては、アトロピン、スコポラミン、ホマトロピン、ヒヨスチアミンの類似体により例示されるベラドンナ・プラントのアルカロイドが挙げられる。これらの化合物は、第三級アミンであるので、通常塩として投与される。
【0053】
好ましい抗コリン薬としては、商品名Atroventで販売されているイプラトロピウム(例えば臭化物として)、オキシトロピウム(例えば臭化物として)、およびチオトロピウム(例えば臭化物として)[CAS-139404-48-1]が挙げられる。
【0054】
好適な抗ヒスタミン薬(H1-受容体アンタゴニストとも呼ばれる)としては、H1-受容体を阻害し且つヒトが使用しても安全である多数の公知アンタゴニストの1種または複数種が挙げられる。これら全ては、ヒスタミンとH1-受容体との相互作用の可逆性、競合性阻害薬である。好ましい抗ヒスタミン薬の例としては、メタピリレンおよびロラタジンが挙げられる。
【0055】
本発明はさらに、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(例えば、慢性および喘鳴性気管支炎、気腫)、呼吸器感染症、および上気道疾患(例えば鼻炎(季節性鼻炎およびアレルギー性鼻炎を含む))などの可逆性気道閉塞が関連する疾患の治療用薬剤を製造するための本発明による吸入可能固体医薬製剤の使用を提供する。本発明はまた、投与を必要とする患者に本発明による吸入可能固体医薬製剤を投与することを含む、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性または喘鳴性気管支炎、気腫、呼吸器感染症、上気道疾患、または鼻炎(季節性鼻炎およびアレルギー性鼻炎を含む)の治療法を提供する。
【0056】
さらなる態様で、本発明は、(a)担体と相互作用しやすい活性成分物質、(b)担体、および(c)セロビオースオクタアセテートを1つまたは複数の工程で合わせることを含む、固体医薬製剤の調製方法を提供する。
【実施例】
【0057】
試験化合物
以下の実施例では、医薬化合物「化合物 X」は、3-(4-{[6-({(2R)-2-ヒドロキシ-2-[4-ヒドロキシ-3-(ヒドロキシメチル)フェニル]エチル}アミノ)ヘキシル]オキシ}-ブチル)ベンゼン-スルホンアミドの桂皮酸塩である。化合物 Xの合成は、WO 02/066422の実施例45および46に記載されている。
【0058】
方法
ブレンドの調製
ラクトース一水和物を、Borculo Domo Ingredientsから、BP/USNFの形で入手した。使用に先立ち、このラクトース一水和物を、粗いスクリーン(メッシュサイズ500ミクロン)により篩にかけて解凝集させた。化合物 Xは使用に先立ちAPTM微粉砕機で微粉砕してMMD(平均マス直径)2〜5ミクロンを得た。
【0059】
セロビオースオクタアセテートはFerro Pfanstiehlから入手し、納入された状態(実施例1、2、3および4)または微粉砕した状態(実施例3および4)で使用した。
【0060】
このセロビオースオクタアセテートをラクトース一水和物と合わせ、高剪断ミキサー(QMM、PMA、またはTRVシリーズのミキサー)か低剪断タンブリングブレンダー(Turbulaミキサー)によりブレンドしてセロビオースオクタアセテート/医薬プレミックスを得た。これを以降ブレンド Aと呼ぶ。
【0061】
最終ブレンド Bは、先ず適切な量のブレンド Aと化合物 Xを予備混合し、次に(このブレンド A/化合物 X)プレミックスをさらなるブレンド Aと、以下の表 1ならびに表 2および3に示されている必要量でセロビオースオクタアセテートを含有する最終ブレンド Bを得るのに適切な重量比でブレンドすることにより得た。表 2および3のセロビオースオクタアセテートの量は、存在しているセロビオースオクタアセテートの重量を、全組成物に対するパーセントで表わしたものである。ブレンド中の化合物 Xの最終濃度は、0.1重量/重量%(存在している遊離塩基薬物の重量を基準にして計算)であった。
【0062】
実施例 2で使用するため、このブレンド組成物を、ブリスター・ストリップつまり吸入用乾燥粉末を供給するのに一般に用いられるタイプのものの中に移し、このブリスター・ストリップを慣用の方法でシールした。
【0063】
各ブレンドで用いた諸々の材料の量を表 1に示す。
【表1】

【0064】
桂皮酸塩の形態にある化合物 X 0.14gを使用して化合物 Xの遊離塩基0.1gを得た。
【0065】
同様にして、微粉砕化セロビオースオクタアセテートおよび非微粉砕化セロビオースオクタアセテートを使用して、実施例 3および4のブレンドを調製した。ブレンドは、次の成分標的重量により調製した:
セロビオースオクタアセテート:200g
化合物 X:5.528g
ラクトース:3794.47g。
【0066】
実施例 3で使用するため、このブレンド組成物を、吸入用乾燥粉末を供給するのに一般に用いられるタイプのブリスター・ストリップの中に移し、このブリスター・ストリップを慣用の方法でシールした。
【0067】
分解条件
上記のようにして調製したブレンドを、雰囲気制御安定キャビネットの分解加速条件に置いた。以下の表では、ブレンドが置かれた条件は、温度と相対湿度%で示されており、例えば30/60は、30℃で相対湿度(RH)60%を表わす。表に示す期間の後、サンプルを分解生成物について分析した。
【0068】
分解条件に置いた後のブレンド純度分析
LC分析をSupelcosil ABZ+PLUSカラム(150×4.6mm ID)[3ミクロン]で行い、トリフルオロ酢酸0.05%含有の水(溶媒 A)およびトリフルオロ酢酸0.05体積/体積%(%v/v)含有のアセトニトリル(溶媒 B)で溶離し、採用した溶出勾配は以下のとおりであった:時間 0 = 溶媒 A 90%、溶媒 B 10%;40 分 = 溶媒 A 10%、溶媒 B 90%;41〜45分 溶媒 A 90%、溶媒 B 10%。流量速度は1 mL/分であり、カラム温度は40℃であった。検出は220nmのUVによりHP1100シリーズ・ディテクター・モデルG1314A-VWDで行った。全不純物についてのLC痕跡曲線下側面積を、LC痕跡曲線下側全面積と比較して表 2および3に示す(面積/面積)%を得た。
【0069】
結果
実施例 1:セロビオースオクタアセテート 7%を含む化合物 X/ラクトースブレンドと対照との比較
【表2】

【0070】
実施例 2:Diskus(商標名)ストリップに充填された1.0%、4.0%および7.0%のセロビオースオクタアセテートを含む化合物 X/ラクトースのブレンドと対照との比較
【表3】

【0071】
実施例 3
Diskus(商標名)ストリップ中における化学安定性:微粉砕化セロビオースオクタアセテートおよびラクトースを含む製剤中の化合物 Xと、非微粉砕化セロビオースオクタアセテートおよびラクトースを含む製剤中の化合物 Xとの比較
【表4】

【0072】
実施例 4:ブレンドの化学安定性:微粉砕化セロビオースオクタアセテートおよびラクトースを含む製剤中の化合物 Xと、非微粉砕化セロビオースオクタアセテートおよびラクトースを含む製剤中の化合物 Xとの比較
表 5
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分物質が担体と化学的相互作用しやすい固体医薬製剤において、該活性成分物質と該担体との間の化学的相互作用を抑制するまたは減らすための糖エステルの使用。
【請求項2】
活性成分物質および担体を含み、該活性成分物質が担体と化学的相互作用しやすい固体医薬製剤において、該活性成分物質の化学分解を抑制するまたは減らすための糖エステルの使用。
【請求項3】
前記糖エステルがセロビオースオクタアセテートである、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記担体が還元糖である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記担体がラクトースである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
第3の物質が組成物の全重量を基準にして0.1〜20重量/重量%の量で存在している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記活性成分物質が組成物の全重量を基準にして0.01〜50重量/重量%の量で存在している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記医薬物質が基Ar-CH(OH)-CH2-NH-Rを含むものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記医薬物質が:
3-(4-{[6-({(2R)-2-ヒドロキシ-2-[4-ヒドロキシ-3-(ヒドロキシメチル)フェニル]エチル}アミノ)ヘキシル]オキシ}ブチル)ベンゼンスルホンアミド;
3-(3-{[7-({(2R)-2-ヒドロキシ-2-[4-ヒドロキシ-3-ヒドロキシメチル)フェニル]エチル}-アミノ)ヘプチル]オキシ}プロピル)ベンゼンスルホンアミド;
4-{(1R)-2-[(6-{2-[(2,6-ジクロロベンジル)オキシ]エトキシ}ヘキシル)アミノ]-1-ヒドロキシエチル}-2-(ヒドロキシメチル)フェノール;
4-{(1R)-2-[(6-{4-[3-(シクロペンチルスルホニル)フェニル]ブトキシ}ヘキシル)アミノ]-1-ヒドロキシエチル}-2-(ヒドロキシメチル)フェノール;
またはこれらの塩、溶媒和物もしくは生理学的に許容される誘導体
から選択される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記固体医薬製剤が吸入により投与するためのものである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記固体医薬製剤が2種以上の活性医薬物質を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
(a)ラクトースと化学的相互作用しやすい活性成分物質、(b)担体、および(c)糖エステルである第3の物質を含む吸入可能固体医薬製剤。
【請求項13】
糖エステルがセロビオースオクタアセテートである、請求項12に記載の吸入可能固体医薬製剤。
【請求項14】
さらに請求項4〜11に記載されている特徴の1つ以上を含む、請求項12または13に記載の吸入可能固体医薬製剤。
【請求項15】
化学的相互作用しやすい活性成分物質と担体との間の化学的相互作用を減らすまたは抑制する方法であって、該活性成分物質および該担体と糖エステルである第3の物質とを混合することを含む方法。
【請求項16】
担体および活性成分物質を含む製剤中の活性成分物質の化学分解を減らすまたは抑制する方法であって、該活性成分物質および該担体と糖エステルである第3の物質とを混合することを含む方法。
【請求項17】
第3の物質がセロビオースオクタアセテートである、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
さらに請求項4〜11に記載されている特徴の1つ以上を含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項19】
喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性もしくは喘鳴性気管支炎、気腫、呼吸器感染症、上気道疾患または鼻炎(季節性鼻炎およびアレルギー性鼻炎を含む)の治療用医薬を製造するための、請求項12〜14のいずれか一項に記載の吸入可能固体医薬製剤の使用。
【請求項20】
喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性もしくは喘鳴性気管支炎、気腫、呼吸器感染症、上気道疾患、または鼻炎を治療する方法であって、かかる治療を必要とする患者に、請求項12〜14のいずれか一項に記載の吸入可能固体医薬製剤を投与することを含む方法。
【請求項21】
(a)担体と相互作用しやすい活性成分物質、(b)担体、および(c)糖エステルである第3の物質を1つまたは複数の工程で混合することを含む、固体医薬製剤の調製方法。

【公表番号】特表2009−513531(P2009−513531A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518171(P2006−518171)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007668
【国際公開番号】WO2005/004846
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【Fターム(参考)】