説明

糖尿病の眼科合併症の予防及び治療

糖尿病の合併症である有害な眼状態の予防及び治療の方法及び製剤を提供する。1つの態様において、本発明は、糖尿病、インスリン抵抗性、又は糖尿病への危険因子を有する人へ、金属キレーターと輸送エンハンサーを含んでなる製剤を投与することを含む。最も好ましくは、金属キレーターは、EDTA又はEDTAの塩であり、輸送エンハンサーは、メチルスルホニルメタン(MSM)である。本製剤は、眼そのものへの適用に適した形態、例えば、点眼剤の形態であってよい。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、眼障害、眼疾患、及び他の有害な眼状態の治療に主に関連する。より具体的には、本発明は、糖尿病の眼科合併症の治療のための眼科製剤に関する。
【0002】
背景技術
大多数の人々において、血糖はかなり厳格な生理学的制御下にある。食事の消化より生じるグルコースは、速やかに取り込まれて、筋肉、脂肪、及び肝臓の細胞に蓄えられるので、食事の消化より生じるグルコースの血液への放出は、血中グルコース濃度が不当に上昇するわけではない。ホルモンのインスリンは、筋肉、脂肪、及び肝臓の細胞がグルコースを吸収することを引き起こす化学メッセンジャーである。
【0003】
ある種の個体では、血糖の生理学的制御が破綻する。ある人々でそれが破綻するのは、インスリンを産生する膵臓のβ細胞がそれを正常な量で産生することができないからである。他の人々では、インスリンに対する細胞の応答性が進行的に弱くなり、そして最終的には、身体の減衰した応答性を補おうとして膵臓が多量のインスリンを産生しても、グルコースの取込みは、グルコースの血液レベルを調節するのに不十分になる。これらの状態の第一のものは、1型糖尿病と呼ばれ、第二のものは、2型糖尿病と呼ばれる。糖尿病の生理学に関する一般情報としては、例えば、Arthur C. Guyton & John E. Hall,「医科生理学の教科書(Textbook of Medical Physiology)」(第10版、2000)の第78章が参考になるだろう。
【0004】
過剰のグルコースは、人体の細胞に対していくつかの有害な結果をもたらす。糖尿病性合併症は、血管、神経系細胞、及び他の領域において発露される。眼では、2つの合併症が注目される。糖尿病性網膜症は、網膜の脈管構造の変性をもたらし、網膜を傷害又は破壊する場合がある。それは、失明の主因であり、西洋社会の失明症例数の25%の理由であるといわれている。白内障は、実質的に、非糖尿病患者より糖尿病患者でより起こりやすい。それは、糖尿病の最も初期の続発性合併症の1つとして記載されてきた。糖尿病の他の眼科効果には、眼の神経支配に影響を及ぼすニューロパシーが含まれる。糖尿病は、緑内障の危険因子であると広く示唆されてきた。
【0005】
白内障は、眼の水晶体の混濁化である。水晶体は、例えば、そのタンパク質が非常に長生きで、めったに再生されないので、体内にある独自の構造である。療法の現状において、白内障の治療は、眼鏡、コンタクトレンズ、又は嚢外白内障摘出術後の眼内レンズの水晶体包への挿入のような外科手術を使用する視力の矯正に依存している。手術の費用のために、そしてヒト水晶体に比較した人工水晶体のさほど望まれない特徴のために、薬理学的治療の開発には、多大な関心がもたれてきた。糖尿病性白内障の形成を防ぐか又は遅らせる可能性がある薬物の開発にも、多大な関心がある。さらなる情報については、Z. Kyselova et al.「糖尿病白内障の薬理学的予防(Pharmacological prevention of diabetic cataract)」Journal of Diabetes and its Complications, 18, 129-140 (2004) を参照されたい。
【0006】
白内障が影響を及ぼす水晶体は、主にタンパク質である。それは、その核と他の内部器官を失った多くの細胞を含有する。一般に、水晶体の外側細胞は、増殖して内側へ遊走し、他の細胞を水晶体の中心へ圧迫する。迅速に代謝回転する身体の他の多くのタンパク質とは異なり、水晶体中のタンパク質は、長い期間にわたり、数十年のオーダーで存続する。このために、これらのタンパク質の変性を引き起こす可能性がある状態からは、水晶体に対して害を招く有意な可能性があるが、それは、タンパク質の代謝回転がより高い他の組織に存在し得る害からの回復と同じ可能性ではない。白内障の水晶体は、光を散乱して透明性を抑制するタンパク質集合体を特徴とする。
【0007】
糖尿病性網膜症は、主に血管において発露される。この網膜症のより初期の段階では、脈管構造の微小動脈瘤及び遮断部分を見ることが普通である。より後期の段階では、網膜の血管の増殖がある。この増殖は、初期に起こった遮断により引き起こされる血流の不足に対する眼の反応より生じると考えられる。網膜の小血管に対する過剰に高いグルコースレベルの効果は、体内の他所の血管に対するその効果に関連している可能性がある。糖尿病は、より大きな血管におけるアテローム性硬化症の可能性を増加させることも知られている要因である。
【0008】
眼や他所における糖尿病合併症の酸化ストレスとの関連性が広く研究されてきた。身体の代謝の正常な作用からは、多様な反応性酸素種(ROS)が産生される。反応性酸素種には、例えば、ヒドロキシルイオン(OH)と過酸化水素(H)が含まれる。身体は、これらの分子種を除去するいくつかの機序を含有して、それらが身体の構成成分を傷害しないように、それらの作用を体内で制限する。酸化ストレスが起こるのは、過剰量のROSが産生されるときであるか、又はROSを除去する機序が過負荷になって、身体の正常な機能に必要とされるようにそれらを除去することができないときである。
【0009】
一般に、酸化ストレスは、糖尿病性合併症が起こる機序であると考えられている。酸化ストレスが起きて作用する正確な生化学的機序及び分子機序についてはかなりの研究が行われている。糖尿病の合併症をビタミンC及びEのような抗酸化薬で治療することが提唱されてきた。
【0010】
上で示唆したように、加齢に関連した眼の問題が含まれる、多くの眼の障害及び疾患に対処するための現行の療法上の試みは、しばしば外科的介入を伴う。外科的手技は、当然ながら侵襲性であり、さらに、望ましい治療目標に到達しないことが多い。追加的に言えば、外科手術はきわめて高額であり、重大な望まれない後遺症をもたらす場合がある。例えば、続発性白内障は、白内障手術の後で発症する場合があり、感染症が起こる場合もある。白内障手術の後では、内眼球炎も観察されてきた。さらに、先進的な外科手術は、十分に開発された医療的インフラを必要とするので、常に利用可能なわけではない。故に、手術の必要性を回避する直接的で有効な薬物療法を提供することは、きわめて有利であろう。
【0011】
故に、糖尿病の眼科合併症の薬理学的な予防及び/又は治療を可能にする製剤を提供することが本発明の目的である。
発明の開示
本発明の態様において、糖尿病の眼の合併症の予防及び治療の方法を提供する。本方法は、糖尿病と診断された人へ、又はインスリン抵抗性を顕現する人へ、又は糖尿病の危険因子を有する人へ適用することができる。本方法は、生体適合性金属錯体形成剤の有効量を輸送エンハンサーと組み合わせて医薬的に許容される担体において含んでなる医薬製剤の投与を含む。
【0012】
本発明の別の態様では、その有効成分が生体適合性金属錯体形成剤と輸送エンハンサーである無菌の眼科製剤を提供する。本製剤は、任意選択の追加輸送エンハンサーを含有してよい。本製剤は、医薬的に許容される担体も含有してよく、他の任意選択の賦形剤を含有してよい。
【0013】
本眼科製剤は、眼への薬物投与に適したどの形態でも、例えば、溶液剤、懸濁液剤、軟膏剤、ゲル剤、リポソーム分散剤、コロイド状微粒子懸濁液剤、等として、又は眼挿入物において、例えば、任意選択的に生物分解性の制御放出ポリマーマトリックスにおいて投与してよい。
【0014】
本発明はまた、上記に述べた生体適合性金属錯体形成剤の制御放出用の眼挿入物に関する。本挿入物は、膨潤可能なヒドロゲル形成ポリマーを水性の液体製剤へ取り込むことによって作製し得るような、徐々にではあるが完全に溶けるインプラントであってよい。挿入物は、不溶性であってもよく、この場合、薬剤は、拡散又は浸透を介して内部リザバーから外膜を通過して放出される。
【0015】
図面の簡単な説明
図1は、そのいくつかを本発明の方法で処置した、実施例1において試験したラットからの水晶体を図示する。
【0016】
図2は、そのいくつかを本発明の製剤へ処した、実施例2において試験したラットからの水晶体を図示する。
図3は、異なる処置に対する実施例2の水晶体を通過する光の透過度(%)を図示する。
【0017】
図4は、実施例3において考察した、グルコース誘発毒性へ処したヒト水晶体上皮細胞に対するMSMとMSM/EDTAの効果を図示する。
発明の詳細な説明
特記しない限り、本発明は、特定の製剤種、製剤成分、投与方式等に限定されず、様々である。また、本明細書に使用する用語法は、具体的な態様について記載する目的ためだけのものであり、限定することを企図しないことを理解されたい。
【0018】
本明細書と添付の特許請求の範囲において使用するように、単数形の冠詞「a」、「an」、及び「the」には、文脈が明らかに他のやり方で示さなければ、複数の指示物が含まれる。従って、例えば、「金属錯体形成剤」への言及には、単数のそのような錯体形成剤だけでなく、2以上の異なる金属錯体形成剤の組合せ又は混合物も含まれ、「輸送エンハンサー」への言及には、単数の輸送エンハンサーだけでなく、2以上の異なる輸送エンハンサーの組合せ又は混合物が含まれ、「医薬的に許容される眼科担体」への言及には、単一の担体だけでなく、2以上のそのような担体が含まれる、等である。
【0019】
本明細書と以下に続く特許請求の範囲において、いくつかの用語について言及するが、それらは以下の意味を有すると定義されよう:
製剤成分へ言及する場合、使用する用語、例えば、「薬剤」には、特定の分子実体だけでなく、その医薬的に許容される類似体も含まれ、それには、限定されないが、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、コンジュゲート、活性代謝産物、及び他のそのような誘導体、類似体、及び関連化合物が含まれる。
【0020】
本明細書に使用する用語「治療すること」及び「治療」は、有害な状態、障害、又は疾患に罹患した臨床症状のある個体へ、症状の重症度及び/又は頻度の低下をもたらす、症状及び/又はその根底にある原因を消失させる、及び/又は傷害の改善又は治癒を促進するように、薬剤又は製剤を投与することに関連する。用語「予防すること」及び「予防」は、ある有害な状態、障害、又は疾患に罹りやすい臨床的には無症状の個体へ薬剤又は組成物を投与することに関連するので、症状及び/又はその根底にある原因の発生の予防に関する。本明細書において他に示さなければ、明確に、又は含みにより、用語「治療」(又は「治療すること」)を可能な予防へ言及せずに使用するならば、予防も同様に含まれると企図されるので、「糖尿病性白内障の治療の方法」には、「糖尿病性白内障の予防の方法」が含まれると解釈されるはずである。
【0021】
製剤又は製剤成分の「有効量」及び「治療有効量」という用語は、望まれる効果を提供するのに、無毒であるが十分な量の製剤又は成分を意味する。
用語「制御放出」は、薬剤の放出が即座ではない、薬剤含有製剤又はその分画に関連し、即ち、「制御放出」製剤を用いると、投与は、薬剤の吸収プールへの即時放出を生じない。この用語は、「レミントン:調剤の科学と実践(Remington: The Science and Practice of Pharmacy)」第19版(ペンシルヴェニア州イーストン、Mack Publishing Company, 1995)において定義されるように、「非即時放出」と相互交換可能的に使用される。一般に、本明細書に使用する用語「制御放出」は、「遅延放出」製剤よりむしろ「持続放出」製剤に関連する。用語「持続放出」(「延長放出」と同義)は、慣用の意味において、薬剤の延長された時間の期間にわたる漸次放出をもたらす製剤を意味するために使用される。
【0022】
「医薬的に許容される」成分は、生物学的にも、他のやり方でも望まれないものではない成分を意味し、即ち、該成分は、望まれない生物学的効果を引き起こすことも、それが含まれる製剤組成物の他の成分のいずれとも有害なやり方で相互反応することもなく、本発明の眼科製剤へ取り込んで、患者の眼へ局所的に投与することができる。用語「医薬的に許容される」を薬理活性のある薬剤以外の成分に関連して使用するとき、該成分は、考慮しているタイプの医薬調製物の調製における賦形剤としての使用に適しているものであることが含意される。例えば、不活性成分は、一般に、それが米国食品及び医薬品管理局により作成された「不活性成分ガイド(Inactive Ingredient Guide)」に含まれるならば、「医薬的に許容される」とみなされよう。
【0023】
句「式を有する」又は「構造を有する」は、限定的であることを企図せず、用語「含んでなる」が通常使用されるのと同じやり方で使用される。
本明細書に使用する用語「アルキル」は、1〜6の炭素原子を含有する、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、等のような直鎖、分岐鎖、又は環式の飽和炭化水素基を意味する。他に示さなければ、用語「アルキル」には、未置換及び置換のアルキルが含まれ、ここで置換基は、例えば、ハロ、ヒドロキシル、スルフヒドリル、アルコキシ、アシル、等であってよい。
【0024】
本明細書に使用する用語「アルコキシ」には、単一の末端エーテル連結を介して結合したアルキル基が企図される;即ち、「アルコキシ」基は、−O−アルキルと表してよく、ここでアルキルは、上記に定義される通りである。
【0025】
本明細書に使用されて、他に特定されなければ、用語「アリール」は、単一の芳香族環又は、一緒に縮合、直接的に連結、又は間接的に連結(異なる芳香族環がメチレン又はエチレン部分のような共通の基へ結合しているように)している多数の芳香族環を含有する芳香族の置換基を意味する。好ましいアリール基は、5〜14の炭素原子を含有する。例示のアリール基は、1つの芳香族環又は2つの縮合若しくは連結した芳香族環を含有し、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルアミン、ベンゾフェノン、等である。他に示さなければ、用語「アリール」には、未置換及び置換のアリールが含まれ、ここで置換基は、任意選択的に置換される「アルキル」基に関して上記に述べた通りである。
【0026】
用語「アラルキル」は、アリール置換基のあるアルキル基を意味し、ここで「アリール」と「アルキル」は、上記に定義される通りである。好ましいアラルキル基は、6〜14の炭素原子を含有して、特に好ましいアラルキル基は、6〜8の炭素原子を含有する。アラルキル基の例には、制限なしに、ベンジル、2−フェニル−エチル、3−フェニル−プロピル、4−フェニル−ブチル、5−フェニル−ペンチル、4−フェニルシクロヘキシル、4−ベンジルシクロヘキシル、4−フェニルシクロヘキシルメチル、4−ベンジルシクロヘキシルメチル、等が含まれる。
【0027】
用語「アシル」は、式:−(CO)−アルキル、−(CO)−アリール、又は−(CO)−アラルキルを有する置換基を意味し、ここで「アルキル」、「アリール」、及び「アラルキル」は、上記に定義される通りである。
【0028】
用語「ヘテロアルキル」及び「ヘテロアラルキル」は、ヘテロ原子を含有するアルキル及びアラルキル基、即ち、1以上の炭素原子が炭素以外の原子(例えば、窒素、酸素、イオウ、リン、又はケイ素、典型的には、窒素、酸素、又はイオウ)で置き換わっているアルキル及びアラルキル基をそれぞれ意味するために使用される。
【0029】
本発明の態様において、糖尿病の眼の合併症の予防及び治療の方法を提供する。本方法は、糖尿病と診断された人へ、又はインスリン抵抗性を顕現する人へ、又は糖尿病の危険因子を有する人へ適用することができる。本方法は、生体適合性金属錯体形成剤の有効量を輸送エンハンサーと組み合わせて医薬的に許容される担体において含んでなる医薬製剤の投与を含む。
【0030】
糖尿病の危険因子についてはかなりの研究がある。例えば、肥満は、2型糖尿病と強く関連している。糖尿病には、有意な遺伝要因があると考えられている。従って、糖尿病の家族歴も危険因子である。特別な民族集団が糖尿病のより高い発症率を有するものとして確認されている。高血圧、異常な血液脂質、及び運動不足も、糖尿病の危険因子と見られている。米国では、ある範囲の血糖濃度が「プレ糖尿病」と公式に定義されている。
【0031】
本発明の製剤において、金属錯体形成剤と輸送エンハンサーは、好ましくは、眼へ局所的に投与してよい。その場合、これらの成分は、眼への薬物投与に適したどの形態でも、例えば、点眼剤又は眼洗液としての投与用の溶液剤又は懸濁液剤として、軟膏剤として、又は結膜、強膜、眼の毛様体扁平部、前房、又は後房に移植することができる眼挿入物における眼への薬物投与に適したどの形態でも眼へ適用してよい。インプラントは、本製剤の眼表面への制御放出、典型的には、延長した時間に及ぶ持続放出を提供する。
【0032】
金属錯体形成剤は、2つの一般的なカテゴリー:キレーターと錯体形成リガンドへ分類することができる。用語「キレーター」は、「(かぎ)爪(claw)」又は「はさみ(pincer)」を意味するギリシャ語の「chele」に由来する。この名辞が示唆するように、キレーターと錯体形成する金属は、1以上の分子からなる爪のような構造を形成する。この金属キレート構造は環状であり、構造的及び化学的に安定している5若しくは6員環を概して含有する。
【0033】
キレーターは、2つの異なる方法により分類することができる。1つの方法は、それらの使用による:それらは、抽出タイプと色形成タイプとして分類してよい。キレーターでの抽出は、製造目的又は分析目的であり得る。一般に、キレート形成抽出反応は、金属含有溶液又は材料へキレーターを加えて、目的の金属(複数)を選択的に抽出することからなる。ピリジルアゾナフトール(PAN)、ピリジルアゾレゾルシノール(PAR)、チオアゾイルアゾレゾルシノール(TAR)、そしてその他多くが含まれる、色形成タイプのキレーターは、分析化学において長い間使用されてきた。この化学は抽出タイプのそれに類似しているが、但し、色形成キレーターは、標的とされる金属の存在又は非存在下で識別可能な色を形成するものである。一般に、キレート錯体を形成する官能基のタイプは類似しているが、色形成キレーターは、キレート形成する分子へ極性又はイオン性の官能基(スルホン酸基のような)を付加することにより、水溶性になる。
【0034】
キレーターを分類する別の方法は、金属キレート錯体の形成が電荷中和を生じるかどうかによるものである。一般に、キレーターは、電荷中和を生じるヒドロニウムイオン(カルボン酸又はヒドロキシ官能基に由来する)、例えば、8−ヒドロキシキノリンを含有する。しかし、それらはまた、非イオン性であり、金属の電荷を保存する金属へ単に加えてもよい(例、エチレンジアミン又は1,10−フェナントロリン)。キレーターは、通常、環構造につき1つの酸基と1つの塩基性基を有する。典型的な酸基は、カルボン酸、ヒドロキシル、フェノール性又はエノール性、チオールヒドロキシアミン、及びアルソン酸である。典型的な塩基性基には、ケトンと一級、二級、及び三級アミン基が含まれる。ほとんどすべての有機官能基がキレーターへ取り込まれてきた。
【0035】
錯体形成リガンドは、環構造を形成しないが、それでも、リガンド及び金属の強い錯体を形成することができる。錯体形成リガンドの例は、Fe3+及びCu2+のようなある種の金属と強い錯体を形成し得るシアン化物である。遊離シアン化物を使用して、金の金属と錯体を形成して、それを鉱石から抽出する。このリガンドの1以上は、リガンドとリガンド濃度に依存して、金属と錯体を形成することができる。銀は、シアン化物の濃度に依存して、1つの銀分子の2、3、又は4のシアン化物分子への3つの異なる錯体を形成するが、金は、1つの金分子と2つのシアン化物分子の唯一のシアン化物錯体を形成する。他の錯体形成リガンドには、塩化物、臭化物、ヨウ化物、チオシアネート、そしてその他多くが含まれる。
【0036】
錯体形成反応へ選択性を与えることは可能である。ある種のキレーターは、ある金属に対してきわめて選択的である。例えば、ジメチルグリオキシムは、Ni2+と平面構造を形成して、その金属を選択的に抽出する。選択性は、pHを調整することによって緩和することができる。酸性基が存在する場合、キレーターは、pHを上げることによってより一般的になり、pHを下げることによってより選択的になる。増加する酸性条件の下では、最も強いキレーターと形成する金属だけが金属キレートを形成する。
【0037】
キレート形成又はリガンドの錯体形成剤は、他の金属キレーターとともに使用して、選択性を付与してよい。ある種の金属の錯体形成を妨げて、他の金属が錯体形成することができるように、マスキング剤を補助的な錯体形成剤として使用する。マスキング剤の例には、Al3+をマスクするスルホサリチル酸塩、Co2+、Ni2+、Cu2+、Cd2+、及びZn2+をマスクするシアン化物、Cu2+をマスクするチオ尿素、Al3+、Sn4+、及びZr4+をマスクするクエン酸塩、及びHg2+をマスクするヨウ化物が含まれる。
【0038】
以下の表は、一般的な金属錯体形成剤のいくつかと、それらが錯体を形成するカチオンのいくつかを示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
この表におけるカチオンの列挙は、排他的なものとみてはならない。これら薬剤の多くは、どの金属カチオンともある程度は錯体を形成するものである。
本発明の実施に有用であり得るキレート形成剤の中には、EDTA、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、アミノトリメチレンホスホン酸(ATPA)、クエン酸のようなモノマーのポリ酸、これらの眼科学的に許容される塩、及び上記のいずれもの組合せが含まれる。他の例示のキレート形成剤には、リン酸塩(phosphates)、例えば、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、及びヘキサメタリン酸塩;クロロキン及びテトラサイクリンのようなキレート形成抗生物質;2以上のキレート形成窒素原子をイミノ基の内部又は芳香族環中に含有する窒素含有キレート形成剤(例、ジイミン、2,2’−ビピリジン、等);及び、シクラム(1,4,7,11−テトラアザシクロテトラデカン)、N−(C1−C30アルキル)置換シクラム(例、ヘキサデシクラム、テトラメチルヘキサデシルシクラム)、ジエチレントリアミン(DETA)、スペルミン、ジエチルノルスペルミン(DENSPM)、ジエチルホモ−スペルミン(DEHOP)、及びデフェロキサミン(N’−[5−[[4−[[5−(アセチルヒドロキシアミノ)ペンチル]アミノ]−1,4−ジオキソブチル]ヒドロキシアミノ]−ペンチル]−N’−(5−アミノペンチル)−N−ヒドロキシブタンジアミド;デスフェリオキサミンB及びDFOとしても知られる)のようなポリアミンが含まれる。
【0044】
EDTAと眼科学的に許容されるEDTA塩が特に好ましく、ここで代表的な眼科学的に許容されるEDTA塩は、典型的には、EDTA二アンモニウム、EDTA二ナトリウム、EDTA二カリウム、EDTA三アンモニウム、EDTA三ナトリウム、EDTA三カリウム、及びEDTA二ナトリウムカルシウムより選択される。
【0045】
理論により束縛されることを望まずに言えば、本製剤における生体適合性金属錯体形成剤が担う重要な役割は、眼中のメタロプロテイナーゼの活性部位を、その酵素の金属中心の封鎖により除去することにあるらしい。メタロプロテイナーゼをこのように不活性化することによって、金属錯体形成剤は、タンパク複合体の眼の内部での変性を遅らせるか又は停止させることによって、眼の組織が自ら再構築される機会を提供する可能性がある。さらに、フリーラジカルの眼中での形成及び増殖に不可欠である銅、鉄、及びカルシウムのような金属イオンと錯体形成することによって、金属錯体形成剤は錯体を形成して、それは血流へ流出して腎臓へ排出される。このようにして、酸素フリーラジカル、反応性酸素種(ROS)、及び反応分子断片の産生が抑制されることで、細胞膜、DNA、酵素、及びリポタンパク質の病理学的な脂質過酸化が抑えられる。
【0046】
酸化ストレス(糖尿病において生じるような)の下では、フリーラジカルが膜脂質、例えばアラキドン酸(PUFA)の過酸化を始動させる。このプロセスは、きわめて反応性で有毒な脂質無水物(LDA)を生じる。主要産物は、マイクロモル濃度できわめて反応性で細胞傷害性である4−ヒドロキシノネナール(HNE)である。HNEは、膜タンパク質に対して特に有害である。それは、水晶体の混濁化やヒト水晶体上皮細胞におけるアポトーシスと関連付けられてきた。タンパク質−HNEの付加物が生成され、これは膜流動性の増加とCa2+流入をもたらす可能性がある。カスパーゼが活性化されて、引き続き、アポトーシスをもたらす。
【0047】
従って、金属錯体形成剤は、その薬剤が望まれないプロテイナーゼ(例、コラゲナーゼ)活性を減少させる、脂質沈着の生成を妨げる、及び/又はすでに生成した脂質沈着を抑制することに役立つ限りにおいて、本発明の文脈において多機能性であると考えられる。
【0048】
本製剤には、細胞膜、組織、及び角膜が含まれる細胞外マトリックスを介した製剤成分の透過を促進する、有効量の輸送エンハンサーも含まれる。好適な輸送エンハンサーには、例えば、式:
【0049】
【化1】

【0050】
[式中、RとRは、独立して、C−Cアルキル(好ましくは、C−Cアルキル)、C−Cへテロアルキル(好ましくは、C−Cヘテロアルキル)、C−C14アラルキル(好ましくは、C−Cアラルキル)、及びC−C12へテロアラルキル(好ましくは、C−C10へテロアラルキル)より選択されて、Qは、S又はPである]を有する物質が含まれる。この群内では、QがSであり、RとRがC−Cアルキルである化合物が特に好ましい。
【0051】
好適な輸送エンハンサーには、メチルスルホニルメタン(MSM;メチルスルホンとも呼ばれる)、MSMのジメチルスルホキシド(DMSO)との組合せ、又はMSMと、より好ましくはない態様において、DMSOとの組合せが含まれ、MSMが特に好ましい。
【0052】
MSMは、無臭の、よく水に溶ける(79°Fで34(w/v)%)白い結晶性の化合物であり、108〜110℃の融点と94.1g/モルの分子量を有する。MSMは、本剤が細胞膜透過性を高めるだけでなく、1以上の製剤成分の眼の前房と後房の両方への輸送を促進する場合がある限りにおいて、本発明において多機能剤として役立つと考えられている。さらに、MSMは、それ自体が治療効果を提供して、抗炎症剤、並びに鎮痛薬として役立つ可能性がある。MSMはまた、生物学的組織における酸化代謝を改善するように作用して、瘢痕形成の抑制に役立つ有機イオウの供給源になる。MSMは、追加的に、それが上記に述べたように、水に溶けるが、極性S=O基と非極性メチル基の存在のために親水性と疎水性の両方の特性を明示する点において、有益な可溶化特性を保有する。MSMの分子構造はまた、他の分子との(即ち、各S=O基の酸素原子と他の分子の水素原子の間の)水素結合と、ファン・デル・ワールス会合(即ち、そのメチル基と他の分子の非極性(例、ヒドロカービル)部分の間の)の形成を可能にする。
【0053】
再び理論により束縛されることを望まないが、本発明の製剤中の輸送エンハンサーは、生体膜の通過だけでなく、それが作用する部位までの輸送のプロセスに役立つ可能性があると考えられている。輸送エンハンサーと金属錯体形成剤が安定した部分を形成し得ることは可能であり、それはタンパク質又は脂質の集合体をより容易に貫通することができて、これらの集合体へ安定性を提供する金属イオンを除去する。本発明の製剤の輸送エンハンサーは、1より多い輸送亢進物質を含有してよい。例えば、本発明の製剤は、追加のDMSOを含有してよい。MSMはDMSOの代謝産物である(即ち、DMSOは酵素によりMSMへ変換される)ので、本発明のMSM含有製剤へDMSOを取り込むことで、製剤中のMSMの分画は、徐々に増加するようになる。DMSOはまた、フリーラジカル捕集剤としても作用し得ることにより、酸化的傷害の潜在可能性を抑制する。
【0054】
本発明の製剤の性能に関連しているように思われる要因は、輸送エンハンサーの金属錯体形成剤に対するモル比である。少なくとも約2、好ましくは少なくとも約4、より好ましくは約8のモル比が望まれる。これは、輸送エンハンサーと金属錯体形成剤の間のさらなる複合体(これは、金属カチオンの位置への後者の移動を促進する)の形成のためであり得る。
【0055】
輸送エンハンサーと金属錯体形成剤の製剤中の濃度も、重要である。一般に、水性担体においては、数重量パーセントのオーダーの濃度、例えば、約1%〜約8%、より好ましくは約2%〜約6%が好ましい。例えば、輸送エンハンサーがMSMであり、金属錯体形成剤がEDTAである場合、約2.5重量% EDTAと約5重量% MSMが好ましい。
【0056】
本発明の製剤の医薬的に許容される担体は、製剤の目的に有用であり、本発明の新規で有用な特性に実質的に影響を及ぼさない、多種多様な非活性成分を含んでよい。上記に引用した「レミントン」文献の関連する諸章が参考になる。少なくとも一部水性である担体において、濃化剤、等張剤、緩衝剤、及び保存剤を利用してよいが、但し、そのようなどの賦形剤も、製剤の他の成分のいずれとも有害なやり方で相互作用をしないことが条件である。また注目すべきは、例えば、眼科製剤において保存剤として広く使用されてきたEDTAのように、金属錯体形成剤それ自体が保存剤として役立つという事実に照らせば、保存剤が必ずしも必要とされないことである。
【0057】
好適な濃化剤は、眼科製剤の技術分野の当業者に知られるものであり、例を挙げれば、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピル−メチルセルロース(HPMC)、及びナトリウムカルボキシメチルセルロース(NaCMC)のようなセルロースポリマーと、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒアルロン酸、又はその塩(例、ヒアルロン酸ナトリウム)のような他の膨潤可能な親水性ポリマー、及び一般的には「カルボマー」と呼ばれる(そしてB.F.GoodrichよりCarbopol(登録商標)ポリマーとして市販されている)架橋連結アクリル酸ポリマーが含まれる。あらゆる濃化剤の好ましい量は、約15cps〜25cpsの範囲の粘度が提供されるようなものである(上記範囲の粘度を有する溶液は、一般に、眼製剤の快適さと保持の両方に最適とみなされているので)。眼科製剤に一般的に使用されるどの好適な等張剤及び緩衝剤も使用してよいが、但し、溶液の浸透圧が涙液のそれより2〜3%より多く逸脱しないこと、そして製剤のpHが約6.5〜約8.0の範囲に、好ましくは約6.8〜約7.8の範囲に、そして最適には約7.4のpHに維持されることが条件である。好ましい緩衝剤には、重炭酸ナトリウム及びカリウムのような炭酸塩が含まれる。
【0058】
本発明の製剤とともに使用される医薬的に許容される眼科用の担体は、当業者に知られた広範囲の種類のものであってよい。例えば、本発明の製剤は、眼科用の溶液剤又は懸濁液剤として提供され得るが、この場合、担体は、少なくとも部分的に水性である。理想的には、点眼剤として投与され得る眼科溶液剤は、水溶液である。本製剤は、軟膏剤でもよく、この場合、製剤的に許容される担体は、軟膏基剤からなる。ここで好ましい軟膏基剤は、体温に近い融点又は軟化点を有して、眼科調製物に一般に使用されるどの軟膏基剤も有利に利用してよい。一般的な軟膏基剤には、ワセリンとワセリン及び鉱油の混合物が含まれる。
【0059】
本発明の製剤は、ヒドロゲル剤、分散液剤、又はコロイド状懸濁液剤として調製してよい。ヒドロゲル剤は、好適な濃化剤として上記に示したような膨潤可能なゲル形成ポリマー(即ち、MC、HEC、HPC、HPMC、NaCMC、PVA、又はヒアルロン酸又はその塩、例えば、ヒアルロン酸ナトリウム)の取込みにより生成するが、但し、当該技術分野で「ヒドロゲル剤」と呼ばれる製剤は、典型的には、「濃化」溶液剤又は懸濁液剤と呼ばれる製剤より高い粘度を有する。そのような予め生成するヒドロゲル剤とは対照的に、眼への適用に続いてその場でヒドロゲルを生成するように製剤を調製してもよい。そのようなゲル剤は、室温では液体であるが、体液との接触状態に置かれるときのように、より高い温度ではゲル化する(それにより、「熱可逆性」ヒドロゲルと呼ばれる)。この特性を付与する生体適合性ポリマーには、アクリル酸ポリマー及び共重合体、N−イソプロピルアクリルアミド誘導体、並びに、酸化エチレン及び酸化プロピレンのABAブロック共重合体(慣用的には「ポロキサマー」と呼ばれて、BASF−WyandotteよりPluronic(登録商標)として市販されている)が含まれる。本製剤は、分散液剤又はコロイド状懸濁液剤の形態で調製してもよい。好ましい分散液剤は、リポソーム分散液剤であり、この場合、製剤は、「リポソーム」、つまり交互の水性コンパートメントと脂質の二重層からなる微視的な小胞の内部に包まれる。コロイド状分散液剤は、一般に、微粒子より、即ち、ミクロスフェア、ナノスフェア、マイクロカプセル、又はナノカプセルより生成され、ここでミクロスフェアとナノスフェアは、一般に、製剤が捕捉、吸着、又は他のやり方で含まれるポリマーマトリックスのモノリシック粒子であるのに対し、マイクロカプセルとナノカプセルでは、製剤が実際に被包化される。これら微粒子の大きさの上限は、約5μm〜約10μmである。
【0060】
本製剤はまた、結膜、強膜、又は眼の毛様体扁平部へ、又は眼の前房若しくは後房への挿入物の移植に続いて、一般的には約12時間〜60日間、そして可能には12ヶ月以上もの範囲の延長された時間期間にわたる製剤の制御放出をもたらす、無菌の眼挿入物へ取り込んでもよい。眼挿入物の1つの種類は、拡散及び/又はマトリックス分解により製剤を眼へ漸次放出する、モノリシックポリマーマトリックスの形態のインプラントである。そのようなインプラントでは、挿入物の除去が不要であるように、ポリマーが完全に溶解するか又は生物分解可能である(即ち、眼において物理的に又は酵素的に侵食される)ことが好ましい。これらの種類の挿入物は当該技術分野でよく知られていて、典型的には、コラーゲン、ポリビニルアルコール、又はセルロースポリマーのような、水膨潤可能でゲル形成性のポリマーからなる。本製剤を送達するために使用し得る別の種類の挿入物は、製剤のインプラントから外への漸次拡散を可能にする、浸透可能ポリマー膜内で囲まれた中央リザバーに製剤が含まれる拡散性インプラントである。浸透挿入物、即ち、眼への適用とその後の涙液の吸収に続くインプラント内部での浸透圧の増加の結果として製剤が放出されるインプラントも使用してよい。
【0061】
本発明はまた、金属錯体形成剤及び輸送エンハンサーの組合せの制御放出用の眼挿入物に関する。これらの眼挿入物は、強膜と前房及び後房が含まれる、眼のどの領域へ移植してもよい。1つのそのような挿入物は、本質的に、生体適合性金属錯体形成剤、好ましくはEDTA又はその眼科学的に許容される塩、輸送エンハンサー、及び医薬的に許容される担体からなる製剤を含有する制御放出インプラントより構成される。この挿入物は、膨潤可能なヒドロゲル形成ポリマーを本明細書の他所に記載の水性液体製剤へ取り込むことによって作製し得るような、徐々にではあるが完全に溶けるインプラントであってよい。挿入物は、不溶性であってもよく、この場合、薬剤は、本明細書の他所にも記載のように、拡散又は浸透により内部リザバーから外膜へ放出される。
【0062】
本発明をその好ましい具体的な態様に関連して記載してきたが、上記の記載と以下に続く実施例は、本発明の範囲を例示するものであり、それを制限するものではないと理解されたい。本発明の範囲内の他の側面、利点、及び修飾は、本発明が関連する技術分野の当業者には明らかであろう。
【0063】
本明細書において言及するすべての特許、特許出願、及び刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。しかしながら、特殊な定義を含有する特許、特許出願、又は刊行物が参照により組み込まれる場合、それらの特殊な定義は、それらが見出される、組み込まれる特許、特許出願、又は刊行物へ適用されるのであって、本出願の本文の残り部分、特に本出願の特許請求項へは適用されないと理解されたい。
【0064】
実施例1
糖尿病ラットにおける白内障発生の予防
体重75〜100gの雄性スプリーグ・ドーリーラットをテキサス大学医学部の Central Animal Care Service より入手した。動物の福祉については、NIHガイドラインと「眼科及び視覚研究における動物の使用」に関するARVO規則に厳格に従った。24匹のラットを、各群が4匹のラットを有する6つの群へ無作為に割り当てた。6群のうち5群における糖尿病誘発のためにストレプトゾトシン(STZ)の腹腔内注射を使用した。70mg/kg体重の投与量で、STZをPBS緩衝液担体(pH7.0)に希釈した。1群の対照動物は、PBS緩衝液だけの注射を受けた。動物をそのままその糖尿病状態に4日間適応させた。
【0065】
STZ投与の4日後、血糖値を糖度計で評価した。遠位の尾の切れ目より、分析に必要な5μl量の血液を得た。尾に生じたかさぶたを除去することによって、週に一度、9時に血糖値を定量した。
【0066】
(点眼剤投与)新鮮な点眼剤を毎週作製して、4℃に保った。点眼剤の適用は、糖尿病の発症から15日後(水晶体中の糖尿病誘発性の初期変化が明白になるとき)に開始した。各点眼剤の8μlをラット眼の角膜上に毎日適用した。実験は、70日間実施した。
【0067】
異なる群の動物へ適用した治療は、以下の通りであった:
【0068】
【表5】

【0069】
(水晶体の採取及び検査)100%二酸化炭素を低い流速(1分につきケージの25〜30%容量)でケージあたり2匹のラットに使用して、動物を犠牲にした。ラットが約2分間で呼吸を停止した後で、ラットの眼球を取り出して、水晶体を切除した。上皮を嚢とともに外科顕微鏡下に取り出して、スライドガラス上に(細胞を上に向けて)載せた。このスライドを4%パラホルムアルデヒドにおいて15分間固定し、75%アルコールへ移して、使用まで4℃で保存した。
【0070】
ラット各群からの水晶体について検査して、倒立顕微鏡を使用して、代表的な画像を獲得した(図1)。0.54% MSMと0.25% EDTAの組合せが、白内障発生を予防するのに特に有効であるように見えた。
【0071】
実施例2
ラット水晶体器官培養(RLCE)におけるグルコース誘発毒性の評価
(動物)体重200〜250gの雄性スプリーグ・ドーリーラットをテキサス大学医学部の Central Animal Care Service より入手した。動物の福祉については、NIHガイドラインと「眼科及び視覚研究における動物の使用」に関するARVO規則に厳格に従った。
【0072】
100%二酸化炭素を低い流速(1分につきケージの25〜30%容量)でケージあたり2匹のラットに使用して、動物を犠牲にした。ラットが約2分間で呼吸を停止した後で、ラットの眼球を取り出した。
【0073】
【表6】

【0074】
(実験手順)
1.4匹のラットを犠牲にし、可及的速やかに眼球を取り出して、0.1%ゲンタマイシン入りPBSを含有する試験管へそれを入れた。
2.即座に水晶体を解剖して、無菌PBS中1%ペニシリン/ストレプトマイシンで洗浄した。
3.各水晶体を12ウェルプレートのウェルへ移した(各水晶体につきウェルあたり2mlの培地)。各処置を2つのウェルで実施した。0.1%ゲンタマイシンを含有する培地199において、5% CO加湿雰囲気中37℃で水晶体を培養した。
【0075】
2つのウェルの3群へ上記の試薬を加えて、以下の3つの治療薬を与えた:
【0076】
【表7】

【0077】
2つのウェルの1群は、対照として未処置のままとした。培地と試薬は、毎日交換した。7日後、水晶体をNikon Eclipse 200で可視化した。多次元造影システム(Multidimensional Imaging System)を使用して写真を撮り、水晶体を介する光通過のレベルを定量した。
【0078】
(結果)水晶体培養の写真は、グルコースで有意なラット水晶体混濁が誘発されることを示した(図2)。MSMは、グルコースによる水晶体混濁化も緩和したが、MSM+EDTAは、最も有効な保護をもたらした。
【0079】
水晶体を介する光通過のレベルを使用して、各処置の水晶体混濁を定量化した。写真の結果と一致して、MSMは、光通過のレベルを改善したが、MSM+EDTAは、さらに大きな改善を示した(図3)。グルコースで処置した水晶体を介する光通過は、未処置対照を介する光通過の45%にすぎなかった。グルコース及びMSM(G+M)とグルコース及びMSM/EDTA(G+ME)で処置した水晶体を介する光通過は、それぞれ68%と92%であった。
【0080】
実施例3
グルコース誘発毒性へ処したヒト水晶体上皮細胞(HLEC)の生存度に対するMSMとMSM/EDTAの効果
(材料)EDTA(四ナトリウム塩)、硫酸アンモニウム第一鉄、塩化鉄、アデノシン5’−二リン酸(ADP)、アスコルビン酸、及びHは、シグマより購入した。細胞培養基の成分は、すべてInvitrogenからのものであった。
【0081】
細胞培養と処置。寿命が延長したヒト水晶体上皮細胞(HLEC)を、0.1%ゲンタマイシンを含有して20%胎仔ウシ血清を補充したDMEM培地中に、5% CO加湿雰囲気において37℃で培養した。1.0x10個のHLEC/ml(継代5)を12ウェルプレートに播いて一晩後に、グルコース、MSM、又はMSM/EDTAを添加した。ウェルを2ウェルの6群へ分けた。
【0082】
(細胞生存度)細胞の生存は、トリパンブルー染色により決定して、血球計で計数した。死んだ細胞が青く染まるのに対して、生きている細胞はトリパンブルーを排除する。細胞生存度は、生存細胞数/全細胞数に対応する百分率として表す。
【0083】
【表8】

【0084】
(実験手順)
1. 0.5x10個/mlのHLEC(継代5)を3つの12ウェルプレートへ播いてから、37℃で一晩インキュベートした。
2. 培地を2% FBS DMEM培地へ交換した。
3. 適切なウェルへグルコース、MSM、又はMSM/EDTAを加えて、最終濃度を以下のように達成した:
【0085】
【表9】

【0086】
グルコース、MSM、及びEDTAを加えた後で、細胞を5% CO及び95%空気とともに37℃で16時間インキュベートした。それらを0.25% トリプシン−EDTAとともに採取して、トリパンブルーを用いて細胞生存度を決定した。
【0087】
(結果)図4は、各条件下での細胞生存度のパーセントを示す。グルコースは、細胞生存度を30%減少させた。4mM MSMの添加は、細胞生存度パーセントを高めたが、4mM MSM+0.5mM EDTAの添加は、生存可能細胞の百分率をさらに増加させた。χ2乗検定は、MSM/EDTAの保護効果が統計学的に有意である(0.05未満のP値)ことを実証した。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は、そのいくつかを本発明の方法で処置した、実施例1において試験したラットからの水晶体を図示する。
【図2】図2は、そのいくつかを本発明の製剤へ処した、実施例2において試験したラットからの水晶体を図示する。
【図3】図3は、異なる処置に対する実施例2の水晶体を通過する光の透過度(%)を図示する。
【図4】図4は、実施例3において考察した、グルコース誘発毒性へ処したヒト水晶体上皮細胞に対するMSMとMSM/EDTAの効果を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病、インスリン抵抗性、又は糖尿病への危険因子のある患者へ、輸送エンハンサーと生体適合性金属錯体形成剤(complexer)を医薬的に許容される担体に含んでなる医薬製剤の有効量を投与する工程を含んでなる、糖尿病の眼科合併症を治療する方法。
【請求項2】
担体が少なくとも一部水性である、請求項1の方法。
【請求項3】
輸送エンハンサーが200ダルトン未満の分子量を有する、請求項1の方法。
【請求項4】
輸送エンハンサーが体内の酸化代謝を改善することにも役立つ、請求項1の方法。
【請求項5】
輸送エンハンサーがフリーラジカルを捕集することができる、請求項1の方法。
【請求項6】
輸送エンハンサーが、式:
【化1】

[式中、RとRは、独立して、C−Cアルキル、C−Cへテロアルキル、C−C14アラルキル、及びC−C12へテロアラルキルより選択されて、Qは、S又はPである]
の化合物を含む、請求項1の方法。
【請求項7】
QがSである、請求項6の方法。
【請求項8】
とRがC−Cアルキルである、請求項6の方法。
【請求項9】
輸送エンハンサーが、DMSO又はMSM又は両方の組合せを含む、請求項1の方法。
【請求項10】
輸送エンハンサーがMSMを含む、請求項1の方法。
【請求項11】
金属錯体形成剤がキレート形成剤である、請求項1の方法。
【請求項12】
金属錯体形成剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、アミノトリメチレンホスホン酸(ATPA)、クエン酸、これらの眼科学的に許容される塩、及び上記のいずれもの組合せより選択される、請求項11の方法。
【請求項13】
金属錯体形成剤が、EDTAとその眼科学的に許容される塩より選択される、請求項12の方法。
【請求項14】
輸送エンハンサーの金属錯体形成剤に対するモル比が少なくとも約2である、請求項1の方法。
【請求項15】
輸送エンハンサーの金属錯体形成剤に対するモル比が少なくとも約4である、請求項8の方法。
【請求項16】
輸送エンハンサーの金属錯体形成剤に対するモル比が少なくとも約8である、請求項8の方法。
【請求項17】
投与する工程を点眼剤の手段により実施する、請求項1の方法。
【請求項18】
投与する工程を眼挿入物の手段により実施する、請求項1の方法。
【請求項19】
輸送エンハンサーが、投与される医薬製剤の少なくとも約0.5重量%を構成する、請求項1の方法。
【請求項20】
金属錯体形成剤が、投与される医薬製剤の少なくとも約0.25重量%を構成する、請求項1の方法。
【請求項21】
(a)生体適合性金属錯体形成剤、
(b)輸送エンハンサー、
(c)任意選択の追加輸送エンハンサー、
(d)医薬的に許容される担体、及び
(e)他の任意選択の賦形剤
から本質的になる、無菌の眼科製剤。
【請求項22】
輸送エンハンサーが、構造:
【化2】

[式中、RとRは、独立して、C−Cアルキル、C−Cへテロアルキル、C−C14アラルキル、及びC−C12へテロアラルキルより選択され、Qは、S又はPである]
の化合物である、請求項21の製剤。
【請求項23】
QがSである、請求項22の製剤。
【請求項24】
とRがC−Cアルキルである、請求項23の製剤。
【請求項25】
金属錯体形成剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、アミノトリメチレンホスホン酸(ATPA)、クエン酸、これらの眼科学的に許容される塩、及び上記のいずれもの組合せより選択される、請求項21の製剤。
【請求項26】
金属錯体形成剤が、EDTAとその眼科学的に許容される塩より選択される、請求項25の製剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2009−501725(P2009−501725A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521692(P2008−521692)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/027614
【国際公開番号】WO2007/011843
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(505233332)チャクシュ・リサーチ・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】