説明

糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物およびこれを含有する飲料

【課題】通常の食生活習慣の大幅な変更を伴うことなく、しかも糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有した安全かつ経済的で簡便な飲料を提供すること。
【解決手段】2以上10分子以下のマンノースが結合したオリゴ糖類を飲用濃度0.15〜10重量%含有してなる、糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善用飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンノースを構成糖とするオリゴ糖類からなる糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物、およびその組成物を用いた飲料に関するものである。また、本発明は未利用資源の有効利用にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
コーヒーの抽出残渣は従来、そのほとんどが焼却あるいは産業廃棄物として処理されてきた。近年になり、コーヒー抽出残渣が堆肥原料あるいは活性炭原料として利用されるようになってきたが、それらは未利用資源の高度利用という観点からは十分とはいえず、更なるコーヒー抽出残渣の高度利用の方法を確立することは重要課題となっている。
【0003】
近年、急激に増加しつつある糖尿、高血圧、高脂血症などの生活習慣病は食生活と密接な関わりがあるとされ、食生活改善による予防が重要視されている。とりわけ糖尿病の発症実態は深刻であり、国内の発症者およびその予備軍は、成人の6人に1人がそれに該当すると見積られている。糖尿病の90%以上を占める2型糖尿病は、膵臓β細胞からのインシュリンの分泌低下とその標的臓器でのインシュリン感受性の低下が合わさって、インシュリン作用の低下が起こり、高血糖を呈することで生じる。さらに一度高血糖となると、糖毒性によるインシュリン抵抗性がさらに生じて悪循環をきたす。また、糖尿病は初期段階では自覚症状がほとんどないため、その進行によって併発する網膜症、腎症、神経障害症など重篤な合併症まで至ることも多い。この治療薬としてチアゾリジン誘導体などのインスリン抵抗性改善薬が用いられているが、長期服用による副作用も報告されている。したがって、日常の食事の中で発症予防だけでなく、発症後も軽度なうちからその進行を抑制、改善すること、すなわち予防医学が大切だと考えられる。これは、糖尿病の発症原因となるインシュリン抵抗性や発症初期に見られる高血糖を抑制・防止することが非常に重要であることを示している。そのため、糖尿病治療・予防効果をもつ物質の探索やその作用機序についての研究が行われており、食物由来成分としては、大豆イソフラボンによる糖尿病治療・予防効果が報告されている。しかしながら、その薬効は低く、また過剰摂取によるホルモンバランスへの影響が懸念されている。本出願人は、今までにマンナンを多く含む食品素材、主に、コーヒー抽出粕加水分解物から、糖鎖中にマンノース残基以外の糖残基の含有量が少ない重合度1以上10以下のマンノオリゴ糖類に優れたビフィズス菌増殖作用を伴う整腸機能、血清脂質改善機能等があることを見出しているが、マンノオリゴ糖類の糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用の有無については全く未知であった。
【特許文献1】特開2003−211号
【特許文献2】特開2003−196号
【特許文献3】特開2003−286166号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、通常の食生活習慣の大幅な変更を伴うことなく、しかも糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有した安全かつ経済的で簡便な飲料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これらのような課題を解決するために鋭意検討の結果、マンナンを多く含む食品素材、主に、コーヒー抽出粕加水分解物から、糖鎖中にマンノース残基以外の糖
残基の含有量が少ない重合度2以上10以下のマンノオリゴ糖類、すなわちマンノース2以上10分子以下結合した、マンノオリゴ糖類に糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。さらに、無着色、無酸の糖鎖中にマンノース残基以外の糖残基の含有量がない重合度2以上10以下のマンノオリゴ糖類を得ることで、食品への適用範囲を飛躍的に広げることができることを見いだした。
【0006】
したがって、本発明の態様は、以下の通りである。
1.2以上10分子以下のマンノースが結合したオリゴ糖類を飲用濃度0.15〜10重量%含有してなる、糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善用飲料。
2.2以上10分子以下のマンノースが結合したオリゴ糖類を飲用濃度0.15〜10重量%含有してなる、糖負荷時の血糖値上昇を抑制する飲料。
3.2以上10分子以下のマンノースが結合したオリゴ糖類を飲用濃度0.15〜10重量%含有してなる、血糖値を低下する飲料。
4.2以上10分子以下のマンノースが結合したオリゴ糖類を飲用濃度0.15〜10重量%含有してなる、インスリン抵抗性を改善する飲料。
5.前記オリゴ糖類が、分子中のマンノース単位の数が2〜6のオリゴ糖類であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の飲料。
6.前記オリゴ糖類が、マンナンを加水分解処理することによって得られるものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の飲料。
7.前項のマンナンが、コーヒー豆および/またはコーヒー抽出残渣から得られるものである、請求項6に記載の飲料。
8.前記オリゴ糖類が、β−1,4−マンノオリゴ糖であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の飲料。
9. 前記飲料が、液体コーヒー飲料、液体茶飲料、液体果汁飲料、インスタントコーヒー、粉末コーヒーミックス飲料、粉末茶飲料、または粉末果汁飲料である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の飲料。
【発明の効果】
【0007】
糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有するマンノオリゴ糖類を飲食物に添加することにより、これを日常の食生活で手軽にそして経済的に摂取可能となり、糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善効果を期待することができる。糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有するマンノオリゴ糖類は、コーヒー抽出残渣のような、廃棄物からも入手できるため、従来利用されていない資源を有効利用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に本発明の内容を詳細に説明する。
本発明において「マンノオリゴ糖類」とは、単糖であるマンノースを構成要素とするオリゴ糖類を意味する。ここで「オリゴ糖類」なる語は、一般に単糖類と多糖類との間に位し、一定の小数量の単糖類分子のグリコシル結合からなる物質を指す。すなわち、結合している単糖の数が比較的少ないポリマーのことである。オリゴ糖「類」という場合、構成単糖の数が種々のオリゴ糖が複数含まれる組成物であることを意味する。そしてマンノオリゴ糖「類」という場合は、構成単糖の数が種々のオリゴ糖が複数含まれる組成物を指す。
【0009】
本明細書において、オリゴ糖類の重合度を表すために「DP」と記載することがある。DPとは、オリゴ糖類を構成している単糖の数を意味する。すなわち単糖であるマンノースは「DP1」と表され、4つのマンノースから構成されたマンノオリゴ糖は重合度4、
すなわち「DP4」と表される。すなわち、「2以上10分子以下の、マンノースが結合した、マンノオリゴ糖類」という場合には、重合度2〜10のオリゴ糖類の組成物であると理解されたい。
【0010】
本発明において用いられるマンノオリゴ糖類は、2以上10分子以下の、マンノースが結合した複数種類のオリゴ糖の組成物であることが好ましい。特に好ましいオリゴ糖類は、マンノースが2以上6分子以下結合したオリゴ糖類の組成物である。
【0011】
本発明の一の態様は、上述のマンノオリゴ糖類を含む、糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物を飲用濃度0.15〜10重量%含有してなる飲料である。ここで「糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物」という語は、広く一般に糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善効果を有する組成物を意味する。したがって、かかるオリゴ糖類を用いて糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物を製造することができる。
【0012】
本発明の他の態様は、糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物を含有し、人の糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有するものであることを特徴とした飲料である。マンノオリゴ糖類を「飲用濃度0.15〜10重量%含有してなる」とは、飲料が例えば液体コーヒー飲料、液体茶飲料または液体果汁飲料など、すぐに飲むことのできる飲料である場合は、その飲料におけるマンノオリゴ糖類の濃度が0.15〜10重量%であることを意味する。また飲料がインスタントコーヒー、粉末コーヒーミックス飲料、粉末茶飲料または粉末果汁飲料など、飲用に際して水や湯等に溶解して飲むものである場合は、溶解により得た飲料におけるマンノオリゴ糖類の濃度が0.15〜10重量%であることを意味する。
【0013】
さて、本発明に用いられるマンノオリゴ糖類は、マンナンを加水分解し可溶生固形分を抽出することにより製造することができる。ここで原料のマンナンは、たとえばココナッツ椰子から得られるコプラミール、フレーク、南アフリカ産椰子科植物HuacraPalm、ツクネイモマンナン、ヤマイモマンナンより抽出することにより得ることができる。このように得たマンナンを、酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選ばれる1種または2種以上の方法で処理し、好ましくは活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で精製して、糖混合物を得ることができる。かかる当混合物中には、上述した糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善効果を有するマンノオリゴ糖類が含まれている。したがって、このようにして得た組成物は、本発明の糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物となる。さらに、本発明の糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物は、コンニャクイモ、ユリ、スイセン、ヒガンバナ等に含まれるグルコマンナン、ローカストビーンガム、グアーガム等に含まれるガラクトマンナンを酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選ばれる1種または2種以上の方法で処理し、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で分離精製し構成糖としてマンノースの比率を高めることにより製造したものであってもよい。
【0014】
したがって、本明細書において単に「マンナン」という場合は、D−マンノースのみを構成単位とする多糖であるマンナンの他、マンノースとガラクトースまたはグルコースと構成単位とした多糖であるガラクトマンナン、グルコマンナンも広義に含めるものとする。なお、D−マンノースはアルドヘキソースであり、D−グルコース中のカルボキシル基に隣接する炭素に結合している水酸基の立体配置が逆になっているものである。
【0015】
さらに本発明の糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物は、コーヒー生豆または焙煎したコーヒー豆を酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選ばれる1種または2種以上の方法で処理し、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で精製することによって得ることができる。
【0016】
あるいは、使用済みコーヒー残渣を酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選ばれる1種または2種以上の方法で処理し、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で精製することによって得ることも可能である。一般に、焙煎粉砕コーヒーを商業用の抽出器にて抽出すると、その際に焙煎コーヒーに含まれるガラクトマンナンの側鎖であるガラクトースが可溶化したり、アラビノガラクタンが加水分解によって可溶化する。従って、コーヒー残渣中にはマンナンが豊富であり、しかも直鎖構造をとっているものと推定される。一方、セルロースは分解されにくく残渣として残っているが、セルロースを分解せずにマンナンを特異的に加水分解する条件を適宜選択し抽出することにより、マンノオリゴ糖を得ることができる。
【0017】
特にコーヒー抽出残渣を分解する方法としては、酸および/または高温により加水分解する方法、酵素により分解する方法、微生物発酵により分解する方法が挙げられるが、これに限定されない。酸および/または高温により加水分解する方法としては特開昭61−96947号、特開平2−200147号等に開示されている。商業用のコーヒー多段式抽出系において出てくる使用済みコーヒー残渣を反応容器中において酸触媒を添加して加水分解することもできるし、酸触媒を添加せずに高温で短時間処理して加水分解することによっても得ることができる。管形栓流反応器を使用するのが便利であるが比較的高温で短時間の反応を行わせるのに向いているものならば、いかなる反応器を使用しても良好な結果が得られる。反応時間と反応温度を調節し、可溶化して加水分解させることによってDP10〜40のマンナンをDP2〜10のマンノオリゴ糖に分解し、その後コーヒー残渣と分離してマンノオリゴ糖類を抽出することができる。なお、ここでコーヒー抽出残査とは、大気中あるいは加圧条件下で焙煎粉砕コーヒーを水などの溶媒で抽出した後の、いわゆるコーヒー抽出粕を意味する。
【0018】
本発明の糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物は、コーヒー豆(焙煎コーヒー豆、及び焙煎粉砕コーヒー豆を含む)および/またはコーヒー抽出残渣の加水分解処理により得る場合、使用するコーヒー豆の種類や産地に特に制限はなく、アラビカ種、ロバスタ種、リベリカ種等いずれのコーヒー豆でもよく、さらにブラジル、コロンビア産等いずれの産地のコーヒー豆も使用することができ、一種類の豆のみを単独で使用しても、ブレンドした2種以上の豆を使用しても良い。通常、商品価値がないとして廃棄処分されるような品質の悪いコーヒー豆または小粒のコーヒー豆であっても使用することができる。上記コーヒー豆を一般的に用いられている焙煎機(直火、熱風、遠赤、炭火式など)による極浅炒り、浅炒り、中炒り、深炒りに焙煎したコーヒー豆、及びこの焙煎コーヒー豆を、一般的な粉砕機、ロールミルなどを用いて粉砕することにより得た、焙煎粉砕コーヒー(粗挽き、中粗挽き、中挽き、中細挽き、細挽きなどの種々の形状のものを含む)を用いることができる。
【0019】
また、コーヒー抽出残渣は、通常の液体コーヒーあるいはインスタントコーヒー製造工程において、焙煎粉砕コーヒーを抽出処理した後のものであれば、常圧下、加圧下抽出であろうと、またいかなる起源、製法のコーヒー抽出残渣であっても使用することができる。
【0020】
ここで、上記加水分解処理について、いくつか詳細に説明する。酵素により分解する方法としては、たとえばコーヒー抽出残渣を水性媒体に懸濁させ、ここへたとえば市販のセ
ルラーゼおよびヘミセルラーゼ等を加えて撹拌しながら懸濁させればよい。酵素の量、作用させる温度およびその他の条件としては、通常の酵素反応に用いられる量、温度、条件であればとくに問題はなく、使用する酵素の最適作用量、温度、条件およびその他の要因によって適宜選択すればよい。
【0021】
微生物発酵により分解する方法としては、たとえば水性媒体に懸濁させたコーヒー抽出残渣にセルラーゼ、ヘミセルラーゼなどを産出する微生物を植菌して培養させればよい。使用する微生物は、細菌類や担子菌類などコーヒー抽出残渣中のマンナンを分解する酵素を産出するものであれば良く、使用する微生物によって培養条件などは適宜選択すればよい。
【0022】
上記の方法によって得られたマンノオリゴ糖類を含む糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物を含む反応液は、必要に応じて精製することができる。精製法としては、骨炭、活性炭、炭酸飽充法、吸着樹脂、マグネシア法、溶剤抽出法等で脱色・脱臭を行い、イオン交換樹脂、イオン交換膜、電気透析等で脱塩、脱酸を行うことが挙げられる。精製法の組み合わせおよび精製条件としては、マンノオリゴ糖類を含む反応液中の色素、塩、および酸等の量およびその他の要因に応じて適宜選択すればよい。
【0023】
また、本発明は、上記に説明した本発明に係る糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物を含有する経口摂取可能な組成物、特に飲料に関する。さらに、本発明の糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物は、上記飲料のみならず、食品、化粧品、医薬品、飼料等幅広い分野で使用することも可能である。本願発明で採用する糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物は、医薬品もしくは医薬部外品としての糖尿病または糖尿病性合併症の治療および予防製剤として投与しても良い。好ましくは、周知の方法によって製造可能な医薬組成物として投与することもできる。医薬用組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤及びシロップ剤等を上げることができる。本発明の糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物は、特に飲食物としてヒトが口から摂取することにより糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を発揮する。本願発明の有効性を発揮する為の摂取量ないしは投与量は特に限定されず、摂取者ないしは患者の体重・年齢、疾患の種類や症状によって適宜増減することができる。一般的には、成人一日当たり0.1g〜40g、好ましくは0.5g〜20gの範囲で用いることができる。
【0024】
したがって、マンノオリゴ糖類を飲料から摂取する場合、例えば一日あたり300ミリリットルの飲料を摂取すると仮定すると、本発明の飲料は、マンノオリゴ糖組成物を飲用濃度で約0.03〜13重量%、好ましくは0.15〜10重量%含有してなるべきである。糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を呈するためには、1人
あたり一日0.5〜20g程度のマンノオリゴ糖類を摂取する必要がある。本発明の飲料を一日3回100gづつ摂取すると想定して、飲料1杯あたり約0.17〜6.67gのマンノオリゴ糖類を含んでいることが好ましい。例えば従来のインスタントコーヒー一食あたりに含有されるマンノオリゴ糖類は約0.02〜0.1gであって本発明に係る飲料よりも非常に少なく、糖尿病または糖尿病合併症の治療、予防、または改善作用をもたらさない。したがって先に述べた方法により得たマンノオリゴ糖類を飲料に添加して、マンノオリゴ糖類を強化した飲料を製造することができる。
【0025】
このような飲料を摂取するにあたり、水などに溶解させてその場で直ちに飲料を作ることができれば非常に好ましい。したがって本件発明は、2以上10分子以下のマンノースが結合したオリゴ糖類からなる組成物0.15〜20gと、粉末コーヒー、茶葉、粉末茶
、及び粉末果汁からなる群から選択される飲料原料0.1〜10gと含む、粉末飲料ミックスにも係る。糖尿病または糖尿病合併症の治療、予防、または改善効果をもたらすマンノオリゴ糖類を含む粉末飲料ミックスは、製品保存の点からも好ましい。このような粉末飲料ミックスとして、例えばインスタントコーヒー等に代表されるインスタントコーヒー、紅茶葉、緑茶葉、ウーロン茶葉などに代表される茶葉、茶飲料を乾燥させて得た粉末茶、ならびに粉末果汁などが挙げられる。マンノオリゴ糖類とインスタントコーヒーを混合する場合、例えばインスタントコーヒー1.5g〜2.0gに対しマンノオリゴ糖類0.15〜20gを混合することが好ましい。同様に粉末茶0.1g〜1.0gに対しマンノオリゴ糖類0.15〜20g、粉末果汁4.0〜10gに対しマンノオリゴ糖類0.15g〜20g混合することが好ましい。インスタントコーヒー、粉末茶ならびに粉末果汁は従来技術により適宜製造することができる。また本発明の粉末飲料ミックスは、甘味料、香料、着色料、増粘剤、発泡剤、乳化剤、pH調整剤、植物性油脂又は乳脂肪分等の油脂類又は乳成分等の添加剤を適宜含むことができる。
【0026】
本発明では、コーヒー抽出残渣を酸および/または熱により加水分解しオリゴ糖類を高純度に含むように調製した糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物を液体コーヒー、インスタントコーヒー等にそのまま添加して使用することもできるが、必要に応じて活性炭、イオン交換樹脂、溶剤等で脱色、脱臭、脱酸等の精製処理をした組成物を添加した方が、コーヒー本来の味、香りのより豊かなコーヒーを提供することができる。
【0027】
ここで、飲料としては、缶あるいはいわゆるペットボトル容器に入れられて市販されている液体飲料と呼ばれるものが挙げられる。また上述の粉末飲料ミックスとしては、インスタントコーヒーミックス、インスタント茶ミックス、インスタント果汁飲料ミックスなどが挙げられる。インスタントコーヒーとしては、焙煎粉砕コーヒーを熱湯で抽出した抽出液を噴霧あるいは凍結乾燥方法により水分を除去した可溶性粉末コーヒーと呼ばれるものが挙げられ、コーヒーミックス飲料としては、可溶性粉末コーヒーに砂糖、クリーミングパウダーなどを添加して混合した飲料などが挙げられる。
【0028】
本発明者らは、先の課題を解決するために、上記の方法により得られた2以上10分子以下のマンノースが結合したオリゴ糖類を含むことを特徴とする、糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する飲料を使用して、耐糖能および高血糖改善効果について研究した。さらにヒトにおける血糖値への影響も調べた。その結果、動物での耐糖能および高血糖改善効果、ヒト血糖値低下作用を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【実施例】
【0029】
本発明の糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物を用い、動物における耐糖能および高血糖改善効果、ヒト血糖値への影響を調べた。本実施例は本発明の実施態様を具体的に説明したものであって、本発明の範囲を限定することを意図しない。
実施例1
マンノオリゴ糖の調製
常法により得た焙煎粉砕コーヒーを、商業上使用されるパーコレション系にて抽出し、後に残ったコーヒー抽出残渣を使用した。
【0030】
コーヒー抽出残渣は反応器に送りやすくするために、まず粉砕して粒径を約1mmにした。次いで、水とこの粉砕物からなる総固形分濃度が約14重量%のスラリーを調製し、4mの熱栓流反応器内において熱処理した。滞留時間8分に対応する速度で高圧蒸気とともに栓流反応器にポンプ輸送し、6.35mmφオリフィスを用いて約210℃に維持し
た。その後、大気圧下に噴出することによって、反応を急止した。できたスラリーを濾過して、不溶性固形分から可溶性固形分を含む液を分離した。この可溶性固形分含有液を活性炭、吸着樹脂で脱色し、さらにイオン交換樹脂で脱塩した後、濃縮、乾燥してマンノースを主体とする単糖類が1乃至10分子結合したオリゴ糖類を含有する組成物を収率14%で得た。
【0031】
このようにして得られた糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善作用を有する組成物中に含まれるオリゴ糖のDP分布は、DP1;2.4%、DP2;26.6%、DP3;20.2%、DP4;17.8%、DP5;10.9%、DP6;8.9%、DP7;6.0%、DP8;3.6%、DP9;1.9%、DP10;1.7%で、糖鎖中のマンノース残基の含有量は90%であるが、DP分布および糖鎖中のマンノース残基の含有量は加水分解条件により種々の値をとりうる。オリゴ糖のDP1としてはマンノース等、DP2としてはマンノビオース等、DP3としてはマンノトリオース等、DP4としてはマンノテトラオース等、DP5としてはマンノペンタオース等、DP6としてはマンノヘキサオース等、DP7としてはマンノヘプタオース等、DP8としてはマンノオクタオース等、DP9としてはマンノノナオース等、DP10としてはマンノデカオース等で、結合様式はβ−1,4結合であった。このようにして得られたマンノオリゴ糖類を用いて以下の実験を行った。
【0032】
<実施例1>
マンノオリゴ糖投与による耐糖能への影響検証実験
ICR系雌マウスを実験に用いた。検疫および馴化期間をかねて1週間予備飼育を行い、
体重の推移および一般状態に異常が認められない個体を実験に供与した。飼育は、温度、湿度をコントロールし、明暗各12時間のサイクルで行った。飼料は、検疫・馴化期間中は粉末飼料CE−2(日本クレア(株))を自由摂取させ、飲料水は水道水を自由摂水させた。予備飼育後、1群を6匹として、平均体重がほぼ等しくなるように群分けした。群
構成は4群とし、正常群、高脂肪食群、マンノオリゴ糖3%含有高脂肪食群、マンノオリゴ糖9%含有高脂肪食群とした。飼料は、正常群には予備飼育と同様飼料を、高脂肪食群には以下組成の高脂肪食を与えた。(高脂肪食組成;牛脂40重量%、コーンスターチ10重量%、糖9重量%、AIN76TM混合ビタミン1重量%、AIN76TM混合ミネラル4
重量%、カゼイン36重量%)マンノオリゴ糖含有高脂肪食群は前述飼料にマンノオリゴ糖を3重量%または9重量%添加した。増加分はカゼインで調整した。飼育12週目にグルコース投与による耐糖能試験を実施した。即ち、マウスを16時間絶食させた後、グルコース(0.8g/個体)を経口投与した。投与前を0分として、投与後60分、120分、180分に尾より採血し、血中グルコース濃度を測定した。
【0033】
耐糖能試験の結果を図1に示した。正常群と比較して高脂肪食群では、60分で有意に高い値を示し、また全体を通じて高値を維持した。本実験は16時間絶食後の投与であるため食餌中の糖の影響は受けないと考えられ、よって高脂肪食群では糖代謝障害が生じていることが示唆された。肥満は、糖代謝に関わるホルモンであるインシュリンの機能低下(インシュリン抵抗性)を誘導することが分かっている。従って、高脂肪食群では肥満によるインシュリン作用の低下のため、高い血中グルコース濃度を示したと考えられた。
一方、マンノオリゴ糖3%含有高脂肪食群およびマンノオリゴ糖9%含有高脂肪食群の血中グルコース濃度は、正常群と同程度で推移した。また、高脂肪食群と比較して有意に低値であった(p<0.05またはp<0.01)。これらは、高脂肪食を摂取していたにも関わらず正常な糖代謝を示し、マンノオリゴ糖投与によって耐糖能が改善していることが明らかとなった(図1)。
<実施例2>
マンノオリゴ糖投与による糖尿病ラットの血糖値への影響検証実験
ウィスター系雄性ラット(日本チャールスリバー株式会社)を購入して、温度23℃、
湿度60%にコントロールしている飼育室にて一週間予備飼育したのち、健康なラットを
実験に供した。ラット腹内にストレプトゾトシン(65mg/kg)を投与し、糖尿病モデル
ラットを作成した。血糖値が300mg/dl以上の個体を糖尿病ラットとし、血糖値を指標
に1群5匹として群分けを行った。群構成は3群とし、対照群、3%マンノオリゴ糖投与
群、15%マンノオリゴ糖投与群とした。飼育期間中は、飼料CE−2(日本クレア(株))および水道水を自由摂取させた。試料の投与は強制経口投与とし、試験群には3%または15%マンノオリゴ糖溶液を1日3回(6ml/日)投与した。対照群には等量の蒸留水を経口投与した。飼育期間は28日とし、飼育14日目に非絶食条件下で、また飼育28日目に絶食下で採血し、血糖値を測定した。さらに、飼育期間中に実施例1の要領で耐糖能試験を実施した。
【0034】
血糖値の結果を表1に、耐糖能試験の結果を図2に示した。投与14日目の非絶食時血糖値において、対照群と比較して15%マンノオリゴ糖投与群で有意に低い血糖値を示し
た(p<0.01)。さらに、投与28日目の絶食時血糖値において、対照群と比較して3%お
よび15%マンノオリゴ糖投与群で、有意に低い血糖値を示した(p<0.001)。また耐
糖能試験では、対照群と比較して15%マンノオリゴ糖投与群では、血糖値が低く推移す
る傾向が示された。これらの結果は、マンノオリゴ糖投与によって糖尿病による高血糖の改善および耐糖能の改善を期待できることを示唆している。
【0035】
【表1】

【0036】
<実施例3>
マンノオリゴ糖投与によるヒト血糖値への影響検証実験
ヒトにおけるマンノオリゴ糖入り飲料の飲用が血糖値へ与える影響を調べた。
【0037】
被験者は正常範囲内で血糖値が高めの人を対象とした(n=5)。試験飲料は液体コーヒ
ーとし、濃縮コーヒー抽出液、マンノオリゴ糖(3g/300ml)、人工甘味料に水を加えて希釈し、UHT殺菌したものを900ml容ペットボトルに充填して調製した。摂取量および期間は1日900ml、4週間の摂取とし、摂取前(0日目)と4週間目に採
血して血糖値を測定した。
【0038】
結果を表2に示した。摂取前の空腹時血糖値(96.0±3.6mg/dL)に対し、4週
間目の空腹時血糖値(90.0±3.0mg/dL)は有意に低値を示した(p<0.05)

【0039】
これらの結果は、マンノオリゴ糖の投与によって血糖値の低下が期待できることを示唆している。
【0040】
【表2】

【0041】
なお、対照として従来品である液体コーヒー(商品名:ブレンディボトルコーヒー、味の素ゼネラルフーヅ)を12週に渡って飲用した場合においては、このような血糖値の低下は確認されなかった。
【0042】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善に用いられる飲料は、これらの作用を有するマンノオリゴ糖類を含み、具体的にはマンナンを加水分解することにより製造することができる。本発明の糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善に用いられる飲料を日常的に摂取することによって、糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善効果を期待できる。本発明の糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善に用いられる組成物の原料として、例えばコーヒー豆やコーヒー抽出残渣を利用することができる。すなわち、従来は廃棄物として処理されていたコーヒー抽出残渣から糖尿病または糖尿病性合併症の治療、予防、または改善効果のある組成物を調製し、それを飲食物などと共に摂取することが可能となるため、健康改善効果に加えて廃棄資源の再利用という観点からも非常に有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1における耐糖能試験の結果を示した図である。
【図2】実施例2における耐糖能試験の結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー豆および/またはコーヒー抽出残渣の高温加熱加水分解で得られる、2以上10分子以下のマンノースが結合したオリゴ糖類を含有してなる、糖尿病または糖尿病性合併症の治療または改善用医薬品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−140516(P2011−140516A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85375(P2011−85375)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【分割の表示】特願2006−199060(P2006−199060)の分割
【原出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000243766)味の素ゼネラルフーヅ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】