説明

糖尿病を治療する方法

少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させるための方法、および糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者において高血糖の悪化の発症を減速または遅延させるための方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者において、HbA1cの血漿濃度を低下させ、糖尿病を治療する方法を提供するものであって、これらの患者へラノラジンを投与することを含む方法である。
【背景技術】
【0002】
背景
糖尿病は、高血糖;脂質、炭水化物およびタンパク質の代謝変化;ならびに血管疾患からの合併症のリスクの増加によって特徴付けられる疾患である。糖尿病は、加齢および肥満症の両方と関連するため、高まりつつある公衆衛生問題である。
【0003】
2つの主要な糖尿病の型がある:1)インスリン依存性糖尿病(IDDM)としても知られるI型、および2)インスリン非依存性または非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)としても知られるII型である。両方の型の糖尿病は、血中インスリンの量が不十分であるため、末梢組織のインスリンへの応答が減少する。
【0004】
I型糖尿病は、体がインスリンを産生することができなくなることに起因するが、インスリンは体の細胞を「開放」し、グルコースが流入し、細胞にエネルギーを与えることを可能にするホルモンである。I型糖尿病の合併症は、心疾患および脳卒中;網膜症(眼疾患);腎疾患(腎障害);神経障害(神経損傷);さらには健康な皮膚、足および口腔衛生の維持を含む。
【0005】
II型糖尿病は、体が十分なインスリンを産生することができない、または細胞が体で自然に産生されるインスリンを用いることができないことに起因する。体が最適にインスリンを使用することができない状態は、インスリン耐性と呼ばれる。II型糖尿病はしばしば高血圧を伴うが、これは心疾患の一因となりうる。II型糖尿病を患う患者において、ストレス、感染、および薬物療法(副腎皮質ステロイドなど)は、非常に高い血糖値ももたらしうる。脱水症を伴うため、II型糖尿病を患う患者における重度の血糖上昇は、血液浸透圧の増加(高浸透圧状態)をもたらしうる。この状態は昏睡をもたらしうる。
【0006】
インスリンは、筋肉組織および脂肪組織によるグルコースの取り込みおよび代謝を促進することによって、血中グルコース濃度を低下させる。インスリンは、肝臓におけるグリコーゲンとしての、および脂肪組織におけるトリグリセリドとしてのグルコースの貯蔵を促進する。インスリンは、筋肉におけるエネルギーのためのグルコースの利用も促進する。従って、不十分な血中インスリン濃度、またはインスリンに対する感受性の減少は、過剰に高い血中グルコース濃度およびトリグリセリド濃度を生じる。
【0007】
未治療の糖尿病の初期症状は、高血糖値および尿中のグルコースの減少と関連する。尿中の多量のグルコースは、尿量の増加の原因となり得、脱水症をもたらしうる。脱水症は、口渇および水消費の増加の原因となる。グルコースエネルギーを利用することができないと、最終的に食欲が増加するにもかかわらず体重減少をもたらす。一部の未治療の糖尿病患者は、疲労、吐き気、および嘔吐の症状も訴える。糖尿病を患う患者は、膀胱、皮膚、および膣部分の感染を起こしやすい。血中グルコース濃度の変動は、視力障害をもたらしうる。極度に上昇したグルコース濃度は、嗜眠および昏睡(糖尿病性昏睡)をもたらしうる。
【0008】
正常と糖尿病の間のグルコース濃度を有する人々は、耐糖能異常(IGT)を患っている。この状態は、前糖尿病またはインスリン抵抗性症候群とも呼ばれる。IGTを患う人々は、糖尿病を患っておらず、正常よりも高い血中グルコース濃度を有するが、まだ糖尿病と診断されるほど十分に高くはない。彼らの体はますますインスリンを産生するが、組織がそれに反応しないため、彼らの体は糖を適切に利用することができない。最近の研究で、IGT自体が心疾患の発生のリスク因子となりうることが示されてきた。前糖尿病を患う人々は、正常血中グルコースを有する人々と比較して1.5倍の心血管疾患のリスクを有すると推定されている。糖尿病を患う人々は、2〜4倍増加した心血管疾患のリスクを有する。
【0009】
グルコースおよびトリグリセリドの高血中濃度は、毛細血管基底膜の肥厚の原因となり、血管内腔の進行性狭窄をもたらす。脈管障害(vasculopathogies)は、失明をもたらしうる糖尿病性網膜症、冠動脈心疾患、毛細血管間糸球体硬化症、神経障害、および潰瘍、ならびに四肢の壊疽などの状態を生じる。
【0010】
グルコースの過剰血漿濃度の毒作用は、細胞および組織のグリコシル化を含む。グリコシル化産物は組織内に蓄積し、最終的に架橋タンパク質を形成しうるが、その架橋タンパク質は高度グリコシル化最終産物と呼ばれる。非酵素的グリコシル化は、直接的に血管マトリックスの拡張および糖尿病の血管合併症の原因となる可能性がある。例えば、コラーゲンのグリコシル化は、過剰な架橋をもたらし、アテローム硬化性血管をもたらす。また、マクロファージによるグリコシル化タンパク質の取り込みは、これらの細胞による炎症誘発性サイトカインの分泌を促進する。サイトカインは、それぞれ間葉細胞および内皮細胞における分解性カスケードおよび増殖性カスケードを活性化または誘発する。
【0011】
ヘモグロビンのグリコシル化は、血糖状態の統合指標を決定するための簡便な方法を提供する。グリコシル化タンパク質の濃度は、ある期間にわたるグルコースの濃度を反映し、ヘモグロビンA1(HbA1c)アッセイと呼ばれるアッセイの基礎である。
【0012】
HbA1cは、前120日間の血中グルコース濃度の加重平均を反映する;前30日間の血漿グルコースは、HbA1cアッセイにおける最終結果に約50%寄与する。A1c(HbA1c、グリコヘモグロビン、またはグリコシル化ヘモグロビンとしても知られる)についての試験は、糖尿病が最近数ヶ月にわたっていかにうまく制御されてきたかを示す。A1cが6%に近づくほど、糖尿病がよりうまく制御されている。A1c血中グルコースの30mg/dl毎の増加につき、A1cが1%増加し、合併症のリスクが増加する。
【0013】
高血糖の毒作用についての別の説明は、ソルビトール形成を含む。細胞内グルコースは、酵素アルドースレダクターゼによってその対応する糖アルコール、ソルビトールへ還元される;ソルビトールの産生の速度は、周囲のグルコース濃度によって決定される。従って、水晶体、網膜、動脈壁および末梢神経のシュワン細胞などの組織は、高濃度のソルビトールを有する。
【0014】
グルコースはミオイノシトールと競合し、細胞濃度の減少をもたらし、結果的に、神経機能の変化および神経障害をもたらすため、高血糖は神経組織の機能も低下させる。
【0015】
トリグリセリド濃度の増加は、インスリン欠乏症の結果でもある。高トリグリセリド濃度は、血管疾患とも関連する。
【0016】
従って、血中グルコース濃度および血中トリグリセリド濃度を制御することは、所望の治療目標である。多数の経口血糖降下剤が知られている。膵臓によるインスリン産生量を増加させる薬物は、スルホニル尿素(クロロプロパミド[オリナーゼ(Orinase(登録商標))]、トルブタミド[トリナーゼ(Tolinase(登録商標))]、グリブリド[ミクロナーゼ(Micronase(登録商標))]、グリピジド[グルコトロール(Glucotrol(登録商標))]、およびグリメピリド[アマリール(Amaryl(登録商標))]を含む)ならびにメグリチナイド(レパグリニド[プランジン(Prandin(登録商標))]およびナテグリニド[スターリックス(Starlix(登録商標))]を含む)を含む。肝臓によって産生されるグルコースの量を減少させる薬物は、ビグアナイド(メトホルミン[グルコファージ(Glucophage(登録商標))]を含む)を含む。細胞のインスリンに対する感受性を増加させる薬物は、チアゾリジンジオン(トログリタゾン[レスリン(Resulin(登録商標))]、ピオグリタゾン[アクトス(Actos(登録商標))]およびロシグリタゾン[アバンディア(Avandia(登録商標))]を含む)を含む。腸からの炭水化物の吸収を減少させる薬物は、αグルコシダーゼ阻害剤(アカルボース[プレコース(Precose(登録商標))]およびミグリトール[グリセット(Glyset(登録商標))]を含む)を含む。アクトス(Actos(登録商標))およびアバンディア(Avandia(登録商標))は、糖尿病患者におけるコレステロールパターンを変化させうる。HDL(または善玉コレステロール)は、これらの薬物で増加する。プレコース(Precose(登録商標))は腸に作用する;その効果は、スルホニル尿素などの他の部位で作用する糖尿病薬に加えられる。ACE阻害剤は、高血圧症または糖尿病を患う人々において、高血圧を制御し、心不全を治療し、腎障害を予防するために用いられうる。ACE阻害剤またはヒドロクロロチアジドなどのACE阻害剤と利尿剤の併用製品が市販されている。しかしながら、これらの治療薬はいずれも理想的ではない。
【0017】
血圧制御は、心血管疾患(例えば、心筋梗塞および脳卒中)をおよそ33%〜50%減少し得、微小血管疾患(眼、腎臓、および神経疾患)をおよそ33%減少しうる。疾病対策センターは、収縮期血圧が10水銀柱ミリメートル(mmHg)減少する毎に、糖尿病と関連するいかなる合併症のリスクも12%減少することを発見してきた。コレステロールおよび脂質(例えばHDL、LDL、およびトリグリセリド)の制御の改善は、心血管合併症を20%〜50%減少しうる。
【0018】
総コレステロールは、200mg/dl未満であるべきである。高密度リポタンパク質(HDLまたは「善玉」コレステロール)についての目標濃度は、男性については45mg/dl以上、女性については55mg/dl以上であり、一方で低密度リポタンパク質(LDLまたは「悪玉」コレステロール)は、100mg/dl以下に維持されるべきである。女性および男性についての目標トリグリセリド濃度は、150mg/dl未満である。
【0019】
糖尿病を患う患者のおよそ50%が、糖尿病の10年後に何らかの糖尿病性網膜症を発症し、糖尿病患者の80%が15年後に網膜症を患う。
【0020】
国立糖尿病・消化器疾患・腎疾患研究所(NIDDK)によって行われた研究(DCCT研究)において、血中グルコース濃度をできる限り正常近くに維持すると、糖尿病に起因する眼疾患、腎疾患、および神経疾患の発症および進行が遅くなることが示された。
【0021】
糖尿病予防プログラム(DPP)臨床試験において、2型糖尿病患者が研究された。DPP研究は、3年にわたる研究で、食事および運動が、IGTを患う人が糖尿病を発症するであろう確率を激しく減少させることを発見した。メトホルミン(グルコファージ(Glucophage(登録商標)))の投与も、それほど劇的にではないがリスクを減少させた。
【0022】
DCCT研究は、HbA1cと平均血中グルコースとの間の相関を示した。DPP研究は、HbA1cが有害事象のリスクと強く相関することを示した。
【0023】
「米国心臓協会の予防会議VI:糖尿病および心血管疾患」からの一連の報告において、糖尿病を患う人々の約3分の2が、最終的に心疾患または血管疾患で死亡すると報告された。研究は、糖尿病と関連する心血管疾患のリスクの増加は、グルコース濃度、肥満症、高コレステロール、および高血圧などの個々のリスク因子を制御することによって減少させられうることも示した。
【0024】
糖尿病を患う人にとって、心血管疾患、網膜症、腎障害、および神経障害などの合併症のリスクを減少させることは重要である。糖尿病患者にとって、心血管合併症を減少させるために、総コレステロールおよびトリグリセリド濃度を減少させることも重要である。これらの可能性がある合併症のリスクの減少も、IGTを患う人(前糖尿病患者)にとって重要である。
【0025】
従って、HbA1cおよび血中グルコース濃度が制御されうるならば、心血管疾患、網膜症、腎障害、および神経障害などの合併症のリスクは減少され得、またはそれらの発症を遅延させうる。総コレステロールおよびトリグリセリド濃度が減少されうるならば、心血管合併症は減少されうる。
【0026】
米国特許第4,567,264号は、該明細書が全体として参照することにより本明細書に援用され、ラノラジン、(±)−N−(2,6−ジメチルフェニル)−4−[2−ヒドロキシ−3−(2−メトキシフェノキシ)−プロピル]−1−ピペラジンアセトアミド、ならびにその医薬的に許容される塩、ならびに不整脈、異型狭心症および労作性狭心症、ならびに心筋梗塞を含む心血管疾患の治療におけるそれらの使用を開示する。その二塩酸塩形態にて、ラノラジンは式:
【化1】

によって表される。
【0027】
この特許は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール400、Tween80および0.9%生理食塩水をさらに含むラノラジン二塩酸塩の静脈内(IV)製剤も開示する。
【0028】
米国特許第5,506,229号は、全体として参照することにより本明細書に援用され、心筋保護、心筋もしくは骨格筋または脳組織への低酸素傷害または再灌流傷害を含む物理的または化学的発作を経験する組織の治療のための、ならびに移植における使用のためのラノラジンならびにその医薬的に許容される塩およびエステルの使用を開示する。制御放出製剤を含む経口および非経口製剤が開示されている。特に、米国特許第5,506,229号の実施例7Dは、ラノラジンのミクロスフェアおよび放出制御ポリマーでコーティングされた微結晶セルロースを含むカプセル形態にある制御放出製剤を記載する。この特許は、約5重量%のデキストロースを含むIV溶液の1ミリリットル当たり5mgのラノラジンを下端に含むIVラノラジン製剤も開示する。上端には、約4重量%のデキストロースを含むIV溶液の1ミリリットル当たり200mgのラノラジンを含むIV溶液が開示されている。
【0029】
現在、ラノラジンならびにその医薬的に許容される塩およびエステルについての好ましい投与経路は、経口である。典型的な経口剤形は、圧縮錠剤、混合粉末もしくは顆粒で充填されたハードゼラチンカプセル、または溶液もしくは懸濁液で充填されたソフトゼラチンカプセル(ソフトカプセル)である。米国特許第5,472,707号は、該明細書が全体として参照することにより本明細書に援用され、ハードゼラチンカプセルまたはソフトカプセル用の充填溶液として過冷却された液体ラノラジンを用いる高用量経口製剤を開示する。
【0030】
米国特許第6,503,911号は、該明細書が全体として参照することにより本明細書に援用され、胃の酸性環境および腸を通じたより塩基性環境の両方を通過する間に十分なラノラジン血漿濃度を提供する問題を克服し、狭心症および他の心血管疾患の治療に必要な血漿濃度の提供において非常に有効であると証明された持続放出製剤を開示する。
【0031】
米国特許第6,852,724号は、該明細書が全体として参照することにより本明細書に援用され、不整脈、異型狭心症および労作性狭心症、ならびに心筋梗塞を含む心血管疾患を治療する方法を開示する。
【0032】
米国特許出願公開第2006/0177502号は、該明細書が全体として参照することにより本明細書に援用され、ラノラジンが35〜50%、好ましくは40〜45%ラノラジンにて存在する経口持続放出剤形を開示する。1つの実施態様では、該発明のラノラジン持続放出製剤は、pH依存性結合剤;pH非依存性結合剤;および1つ以上の医薬的に許容される賦形剤を含む。適切なpH依存性結合剤は、メタクリル酸コポリマー、例えばオイドラギット(Eudragit(登録商標))(オイドラギットL100−55(Eudragit(登録商標)L100-55)、オイドラギットL100−55(Eudragit(登録商標)L100-55)の擬ラテックスなど)を含み、これに限定されないが、これは約1〜20%の範囲、例えば約3〜6%の範囲までメタクリル酸コポリマーを中和するために十分な量にて強塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または水酸化アンモニウムで部分的に中和されている。適切なpH非依存性結合剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、例えばメトセルEl0MプレミアムCR等級HPMC(Methocel(登録商標)El0M Premium CR grade HPMC)またはメトセルE4MプレミアムHPMC(Methocel(登録商標)E4M Premium HPMC)を含み、これらに限定されない。適切な医薬的に許容される賦形剤は、ステアリン酸マグネシウムおよび微結晶セルロース(アビセルpH101(Avicel(登録商標)pH101))を含む。
【0033】
患者が急性心血管疾患症状を経験している、または最近経験したような緊急(acute or emergency)事態においては、初期に、迅速に患者を安定させる必要がある。一度患者が安定すると、長期間にわたって治療を提供することによって患者の安定を維持する必要がある。
【0034】
心血管疾患を患う糖尿病性、前糖尿病性、または非糖尿病性冠動脈患者においては、HbA1c濃度を減少させる一方で心血管疾患を治療する必要がある。
【0035】
ヒトにおいて急性心血管疾患を治療するための治療上有効なラノラジン血漿濃度を提供する一方で、患者のHbA1c濃度を減少させる、静脈内(IV)製剤にてラノラジンを投与することを含む、急性心血管疾患を患う糖尿病性、前糖尿病性、または非糖尿病性冠動脈患者を治療する方法が必要である。
【0036】
ヒトにおいて心血管疾患を治療するための治療上有効なラノラジン血漿濃度を提供する一方で、患者のHbA1c濃度を減少させる、経口製剤にてラノラジンを投与することを含む、心血管疾患を患う糖尿病性、前糖尿病性、または非糖尿病性冠動脈患者を治療する方法も必要である。
【0037】
ラノラジンを用いた狭心症臨床試験の間、驚いたことにラノラジンでの糖尿病性狭心症患者の治療は、狭心症の治療においてのみならず、ヘモグロビンA1(HbA1c)濃度の減少および、長期間にわたるトリグリセリド濃度の減少においても有効であることが発見された。ラノラジンは、非糖尿病患者においてトリグリセリド濃度を減少させることも発見された。ラノラジンは、グルコース血漿濃度、および長期間にわたる総コレステロール濃度を低下させ、さらにはHDLコレステロール濃度を増加させることも発見された。従って、ラノラジンは、血中の潜在的に有毒な代謝物の濃度および/または糖尿病と関連する合併症を減少させることによって、糖尿病、前糖尿病、または非糖尿病状態を治療する方法を提供する。ラノラジンは、心血管障害および糖尿病または前糖尿病の両方を患う患者に必要な薬物の数も減少しうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
発明の概要
少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる一方で、所望でない副作用を最小化する有効な方法を提供することは、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0039】
従って、第1の態様では、本発明は少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる方法であり、式I:
【化2】

【0040】
[式中:
、R、R、RおよびRは各々独立して水素、低級アルキル、低級アルコキシ、シアノ、トリフルオロメチル、ハロ、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、もしくはN任意置換アルキルアミドであるが、ただしRがメチルである場合、Rはメチルではない;
またはRおよびRは一緒になって−OCHO−を形成し;
、R、R、RおよびR10は各々独立して水素、低級アシル、アミノカルボニルメチル、シアノ、低級アルキル、低級アルコキシ、トリフルオロメチル、ハロ、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、もしくはジ低級アルキルアミノであり;または
およびRは一緒になって−CH=CH−CH=CH−を形成し;または
およびRは一緒になって−O−CHO−を形成し;
11およびR12は各々独立して水素または低級アルキルであり;ならびに
Wは酸素または硫黄である;]
の化合物、またはその医薬的に許容される塩もしくはエステル、もしくはその異性体の治療上の有効量の投与を含む方法に関する。
【0041】
式Iの化合物は、米国特許第4,567,264号に、より詳細に開示されているが、その全開示は参照することにより本明細書に援用される。本発明の好ましい化合物はラノラジン、すなわちN−(2,6−ジメチルフェニル)−4−[2−ヒドロキシ−3−(2−メトキシフェノキシ)プロピル]−l−ピペラジンアセトアミドのラセミ混合物、もしくはその異性体、またはその医薬的に許容される塩である。
【0042】
本発明の第2の態様は、心血管疾患が狭心症である場合の、少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる方法である。
【0043】
本発明の第3の態様は、心血管疾患が慢性狭心症である場合の、少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる方法である。
【0044】
本発明の第4の態様は、少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる方法であり、ラノラジンの治療上の有効量を投与することを含む方法である。
【0045】
本発明の第5の態様は、少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる方法であり、式I:
【化3】

【0046】
[式中:
、R、R、RおよびRは各々独立して水素、低級アルキル、低級アルコキシ、シアノ、トリフルオロメチル、ハロ、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、もしくはN任意置換アルキルアミドであるが、ただしRがメチルである場合、Rはメチルではない;
またはRおよびRは一緒になって−OCHO−を形成し;
、R、R、RおよびR10は各々独立して水素、低級アシル、アミノカルボニルメチル、シアノ、低級アルキル、低級アルコキシ、トリフルオロメチル、ハロ、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、もしくはジ低級アルキルアミノであり;または
およびRは一緒になって−CH=CH−CH=CH−を形成し;または
およびRは一緒になって−O−CHO−を形成し;
11およびR12は各々独立して水素または低級アルキルであり;ならびに
Wは酸素または硫黄である;]
の化合物、またはその医薬的に許容される塩もしくはエステル、もしくはその異性体の治療上の有効量を;
それを必要とする哺乳類へ投与することを含む方法であり、式Iの化合物が即時放出製剤として投与される方法である。
【0047】
本発明の第6の態様は、少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる方法であり、式I:
【化4】

【0048】
[式中:
、R、R、RおよびRは各々独立して水素、低級アルキル、低級アルコキシ、シアノ、トリフルオロメチル、ハロ、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、もしくはN任意置換アルキルアミドであるが、ただしRがメチルである場合、Rはメチルではない;
またはRおよびRは一緒になって−OCHO−を形成し;
、R、R、RおよびR10は各々独立して水素、低級アシル、アミノカルボニルメチル、シアノ、低級アルキル、低級アルコキシ、トリフルオロメチル、ハロ、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、もしくはジ低級アルキルアミノであり;または
およびRは一緒になって−CH=CH−CH=CH−を形成し;または
およびRは一緒になって−O−CHO−を形成し;
11およびR12は各々独立して水素または低級アルキルであり;ならびに
Wは酸素または硫黄である;]
の化合物、またはその医薬的に許容される塩もしくはエステル、もしくはその異性体の治療上の有効量を;
それを必要とする哺乳類へ投与することを含む方法であり、式Iの化合物が持続放出製剤として投与される方法である。
【0049】
本発明の第7の態様は、少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる方法であり、式Iの化合物の治療上の有効量を、それを必要とする哺乳類へ投与することを含む方法であり、式Iの化合物が即時放出態様および持続放出態様の両方を有する製剤にて投与される方法である。
【0050】
本発明の第8の態様は、少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる方法であり、式Iの化合物を含む持続放出製剤の治療上の有効量を、それを必要とする哺乳類へ投与することを含む方法であり、持続放出製剤が24時間にわたって550〜7500ng塩基/mlの間のラノラジン血漿濃度を提供する方法である。
【0051】
本発明の第9の態様は、少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる方法であり、用量が約250mg bid(1日2回投与)〜約2000mg bidである式Iの化合物を哺乳類に対して投与することを含む方法である。
【0052】
本発明の第10の態様は、少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる方法であり、約250mg bid〜約2000mg bidのラノラジンを投与することを含む方法である。
【0053】
本発明の第11の態様は、糖尿病の負の結果を減少させる方法であり、ラノラジンの投与を含む方法である。
【0054】
本発明の第12の態様は、糖尿病の発症を遅延または減速させる方法であり、ラノラジンの投与を含む方法である。
【0055】
本発明の第13の態様は、インスリン治療の開始を遅延させる方法であり、ラノラジンの投与を含む方法である。
【0056】
本発明の第14の態様は、低血糖症をもたらすことなく患者のHbA1c濃度を減少させる方法であり、ラノラジンの投与を含む方法である。
【0057】
本発明の第15の態様は、少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者において悪化する高血糖の発症を遅延または減速させる方法であり、ラノラジンの投与を含む方法である。
【0058】
本発明の第16の態様は、少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者において高血糖の発症を減少または減速させる方法であり、ラノラジンの投与を含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】CV死/MI/重度再発性虚血
【0060】
【図2】ラノラジンのHbA1c濃度への影響。
【0061】
【図3】CARISA主要評価項目:トラフでの運動持続時間。この図は、糖尿病患者および非糖尿病患者について、プラセボ、ラノラジン750mg bid、またはラノラジン1000mg bidによるベースラインからの変化(秒にて)を示す。
【0062】
【図4】CARISA:ピークでの運動持続時間。この図は、糖尿病患者および非糖尿病患者について、プラセボ、ラノラジン750mg bid、またはラノラジン1000mg bidによるベースラインからの変化(秒にて)を示す。
【0063】
【図5】CARISA:狭心症の発症までの運動時間。この図は、糖尿病患者および非糖尿病患者について、トラフおよびピークにおける、プラセボ、ラノラジン750mg bid、またはラノラジン1000mg bidによるベースラインからの変化(秒にて)を示す。
【0064】
【図6】CARISA:HbA1cのベースラインからの変化(全糖尿病患者)。この図は、糖尿病患者について、ベースラインおよび最終研究値で、プラセボ、ラノラジン750mg bid、またはラノラジン1000mg bidによるHbA1cのパーセンテージを示す。
【0065】
【図7】CARISA:HbA1cのベースラインからの変化(インスリン依存性糖尿病患者対非インスリン依存性糖尿病患者)。この図は、インスリン依存性糖尿病患者および非インスリン依存性糖尿病患者の両方について、ベースラインおよび最終研究値で、プラセボ、ラノラジン750mg bid、またはラノラジン1000mg bidによるHbA1cのパーセンテージを示す。
【0066】
【図8】HbA1cの変化(%)。図8Aは、この治験のランダム化前またはランダム化開始時で糖尿病であると診断された患者におけるHbA1aのパーセンテージ変化対追跡調査の月(16)を示す。図8Aは、
【表1】

を示す。
【0067】
図8Bは、この治験のランダム化開始時で前糖尿病または非糖尿病のいずれかであった患者(この治験の開始前は糖尿病患者であると診断されていなかった)におけるHbA1cのパーセンテージ変化対追跡調査の月(16)を示す。図8Bは、
【表2】

を示す。
【発明を実施するための形態】
【0068】
発明の詳細な記載
本発明は、少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる方法であって、式Iの化合物の投与を含む方法を提供する。
【0069】
糖尿病は、本明細書で定義されているように、高血糖;脂質、炭水化物およびタンパク質の代謝変化;ならびに血管疾患からの合併症のリスクの増加によって特徴付けられる病状である。
【0070】
前糖尿病は、本明細書で定義されているように、正常と糖尿病の間のグルコース濃度を有し、耐糖能異常(IGT)を患う人々を含む。この状態は、前糖尿病またはインスリン抵抗性症候群とも呼ばれる。IGTを患う人々は、糖尿病を患っておらず、正常よりも高い血中グルコース濃度を有するが、まだ糖尿病と診断されるほど十分に高くはない。彼らの体はますますインスリンを産生するが、組織がそれに反応しないため、彼らの体は糖を適切に利用することができない。
血糖コントロールは、血中グルコース濃度の制御である。
ヘモグロビンはそのアミノ末端のバリン残基上でグリコシル化を起こし、ヘモグロビンのグルコシルバリン付加物(HbA1c)を形成する。高血糖の毒作用は、該非酵素的グリコシル化産物の蓄積の結果でありうる。グルコースとヘモグロビンの共有結合反応は、血糖状態の統合指標を決定するための簡便な方法も提供する。例えば、修飾ヘモグロビンの半減期は、赤血球の半減期(約120日間)と等しい。グリコシル化タンパク質の量は、グルコース濃度およびタンパク質のグルコースへの露出時間に比例するため、循環血液中のHbA1cの濃度は、サンプリングに先立つ長期間(4〜12週間)にわたる血糖状態を反映する。従って、HbA1cの5%から10%への上昇は、平均血中グルコース濃度の長期の倍加を示唆する。
【0071】
式Iの化合物について、下記の単語および語句は一般的に下記の意味を有することを意図しているが、ただし、それらが用いられている文脈にて特に示している場合を除く。
「アミノカルボニルメチル」は、下記の構造を有する基を指す:
【化5】

[式中、Aは付着点を表す]。
「ハロ」または「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードを指す。
「低級アシル」は、下記の構造を有する基を指す:
【化6】

[式中、Rは本明細書で定義したような低級アルキルであり、Aは付着点を表し、アセチル、プロパノイル、n−ブタノイルなどの基を含む]。
「低級アルキル」は、メチル、エチル、n−プロピル、およびn−ブチルなどの1〜4個の炭素を有する非分枝飽和炭化水素鎖を指す。
「低級アルコキシ」は、Rが本明細書で定義したような低級アルキルである−OR基を指す。
「低級アルキルチオ」は、Rが本明細書で定義したような低級アルキルである−SR基を指す。
「低級アルキルスルフィニル」は式:
【化7】

の基を指す[式中、Rは本明細書で定義したような低級アルキルであり、Aは付着点を表す]。
「低級アルキルスルホニル」式:
【化8】

の基を指す[式中、Rは本明細書で定義したような低級アルキルであり、Aは付着点を表す]。
【0072】
「N任意置換アルキルアミド」は、下記の構造を有する基を指す:
【化9】

[式中、Rは独立して水素または低級アルキルであり、R'は本明細書で定義されているような低級アルキルであり、Aは付着点を表す]。
【0073】
「式Iの化合物」という用語は、開示したような本発明の化合物、ならびに該化合物の医薬的に許容される塩、医薬的に許容されるエステル、およびプロドラッグを含むことを意図している。
【0074】
「異性体」は、同一の原子質量および原子番号を有するが、1つ以上の物理的または化学的性質において異なっている化合物を指す。R−およびS−エナンチオマーを含む式Iの化合物の全ての異性体は、本発明の範囲内にある。
【0075】
多くの場合、本発明の化合物は、アミノ基および/もしくはカルボキシル基またはそれらと類似の基の存在によって、酸性塩および/または塩基性塩を形成することができる。「医薬的に許容される塩」という用語は、式Iの化合物の生物学的効果および性質を保持する、生物学的または非生物学的に所望の塩を指す。医薬的に許容される塩基付加塩は、無機塩基および有機塩基から調製されうる。無機塩基に由来する塩は、ほんの一例として、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩を含む。有機塩基に由来する塩は、1級、2級および3級アミンの塩、例えばアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、置換アルキルアミン、ジ(置換アルキル)アミン、トリ(置換アルキル)アミン、アルケニルアミン、ジアルケニルアミン、トリアルケニルアミン、置換アルケニルアミン、ジ(置換アルケニル)アミン、トリ(置換アルケニル)アミン、シクロアルキルアミン、ジ(シクロアルキル)アミン、トリ(シクロアルキル)アミン、置換シクロアルキルアミン、二置換シクロアルキルアミン、三置換シクロアルキルアミン、シクロアルケニルアミン、ジ(シクロアルケニル)アミン、トリ(シクロアルケニル)アミン、置換シクロアルケニルアミン、二置換シクロアルケニルアミン、三置換シクロアルケニルアミン、アリールアミン、ジアリールアミン、トリアリールアミン、ヘテロアリールアミン、ジヘテロアリールアミン、トリヘテロアリールアミン、ヘテロサイクリックアミン、ジヘテロサイクリックアミン、トリヘテロサイクリックアミン、アミン上の置換基の少なくとも2つが異なっており、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロサイクリックなどから成る群から選択される混合ジアミンおよびトリアミンなどを含むが、これらに限定されない。2つまたは3つの置換基が、アミノ窒素と一緒になって、ヘテロサイクリックまたはヘテロアリール基を形成するアミンも含む。
【0076】
適切なアミンの具体例は、ほんの一例として、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリ(イソ−プロピル)アミン、トリ(n−プロピル)アミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、トロメタミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、N−アルキルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、N−エチルピペリジンなどを含む。
【0077】
医薬的に許容される酸付加塩は、無機酸および有機酸から調製されうる。無機酸に由来する塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などを含む。有機酸に由来する塩は、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などを含む。
【0078】
本明細書で用いられる「医薬的に許容される担体」は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤ならびに吸収遅延剤などの全てを含む。医薬活性物質用の該媒体および薬剤の使用は、当該技術分野で周知である。いずれかの従来の媒体または薬剤が活性成分と不適合でない限り、治療組成物におけるその使用が意図される。補助的な活性成分も、組成物に組み込まれうる。
【0079】
「治療上の有効量」という用語は、治療を必要とする哺乳類へ投与される場合に、下記で定義するような該治療を達成するために十分な式Iの化合物の量を指す。治療上の有効量は、治療される患者および疾患状態、患者の体重および年齢、疾患状態の重症度、投与様式などに依存して変化するであろうが、これらは当業者によって容易に決定されうる。
【0080】
「治療」または「治療する」という用語は、哺乳類における疾患のいずれかの治療を意味し、下記を含む:
(i)疾患を予防すること、すなわち、疾患の臨床症状を発症させないこと;
(ii)疾患を抑制すること、すなわち、臨床症状の発症を抑止すること;および/または
(iii)疾患を軽減すること、すなわち、臨床症状の退行をもたらすこと。「患者」は哺乳類、好ましくはヒトである。
【0081】
「生理的に許容されるpH」は、ヒト患者への送達に適合する静脈注射用溶液のpHを指す。好ましくは、生理的に許容されるpHは、約4〜約8.5、好ましくは約4〜7の範囲である。いかなる理論によっても限定されるものではないが、体内の大量の血液が静脈注射用溶液を効果的に緩衝するため、約4〜6のpHを有するこれらの静脈注射用溶液の使用は生理的に許容されると見なされる。
【0082】
「冠動脈疾患」または「心血管疾患」は、例えばうっ血性心不全、急性心不全を含む心不全、虚血、再発性虚血、心筋梗塞、不整脈、狭心症(労作性狭心症、異型狭心症、安定狭心症、不安定狭心症を含む)、急性冠症候群、糖尿病、および間欠性跛行のいずれか1つまたは2つ以上に起因する心臓血管系(cardiovasculature)の疾患を指す。該病状の治療は、米国特許第6,503,911号および第6,528,511号、米国特許出願第2003/0220344号および第2004/0063717号を含む様々な米国特許および特許出願に開示されているが、その全開示は参照することにより本明細書に援用される。
【0083】
「急性冠動脈疾患症状」は、症状が現れ、または患者が典型的には医療行為を求めるが、必ずしも緊急事態にはない程度まで悪化した1つ以上の冠動脈疾患に関連するいずれかの状態を指す。
【0084】
「急性冠症候群」または「ACS」は、広範な急性心筋虚血状態を指す。それは、不安定狭心症および非ST部分上昇型心筋梗塞(UA/NSTEMI)、ならびにST部分上昇型心筋梗塞(STEMI)を含む。STEMIは、血栓による完全閉塞を指す。好ましい実施態様では、ACSは非ST上昇型急性冠症候群(NSTEACS)を患う患者を指す。NSTEACSは、血栓による部分閉塞を指す。NSTEACSは、安静時に10分間以上持続する胸部不快感または狭心症性不快感としてさらに定義され、心筋虚血と一致し、インデックスエピソードを含んでよいアドミタンスの48時間以内に安静時で虚血症状(≧5分間)があり、中程度〜高程度のリスクの下記の指標の少なくとも1つを有する:
・心臓トロポニン上昇(局所MI限界以上)またはCK−MB上昇(>ULN)
・ST低下(水平または右下がり)≧0.1mV
・糖尿病(インスリン依存型または経口療法)
・リスクスコア≧3[下記の変数それぞれについて1ポイントが与えられ、合計スコアは算術的合計として計算される]:
○年齢≧65歳;
○既知のCAD(既往のMI、CABG、PCIまたは血管造影上有意狭窄≧50%);
○3以上の心臓リスク因子(DM、コレステロール上昇、高血圧症、家族歴);
○前24時間における安静時の虚血性不快感の2以上のエピソード;
○症状の発症前7日間の慢性的なアスピリン使用;
○ST部分低下≧0.05mV;および
○心臓トロポニン上昇またはCK−MB上昇。
【0085】
これらのリスク指標は、TIMI(心筋虚血における血栓溶解)リスク因子とも呼ばれ、チェイスら(Chase, et al.)、Annals of Emergency Medicine, 48(3):252-259 (2006);サダナンダンら(Sadanandan, et al.)、J Am Coll Cardiol., 44(4):799-803 (2004);およびコンウェイら(Conway, et al.)、Heart, 92:1333-1334 (2006)においてさらに考察されており、そのそれぞれは全体として参照することにより本明細書に援用される。
【0086】
「不安定狭心症」または「UA」は、安定狭心症と急性心筋梗塞の間の臨床症候群を指す。この定義は様々な病歴を有する多くの患者を含み、異なった時間に作用し、異なった転帰を有する複雑な病態生理学的機構を反映する。3つの主な症状が記載されてきた−安静時狭心症、新たに発症した狭心症、および進行性(increasing)狭心症である。
【0087】
「ECG」は、心電図を指す。
【0088】
「心血管インターベンション」または「冠動脈インターベンション」は、「経皮的冠動脈インターベンション」またはPCIを含み、これに限定されない冠動脈疾患を治療するためのいずれかの侵襲的治療法を指す。PCIは、心臓疾患を患う患者を治療するために用いられる多数の治療法を含むことを意図する。PCIの例は、PTCA(経皮的経管的冠動脈血管形成)、ステント、ペースメーカー、および他の冠動脈装置の埋め込み、CABG(冠動脈バイパス移植術)などを含むが、これらに限定されない。
【0089】
「任意の」および「任意に」は、その後に記載された事象または状況が発生してもしなくてもよいこと、および該記載は事象または状況が発生する事例およびそれが発生しない事例を含むことを意味する。例えば、「任意の医薬賦形剤」は、記載の製剤が特に存在すると述べたもの以外の医薬賦形剤を含んでも含まなくてもよいこと、および記載の製剤が任意の賦形剤が存在する事例およびそれらが存在しない事例を含むことを示す。
【0090】
「緊急」は、患者が初期に医療関係者によって診察される緊急時を指す。緊急事態は、病院または診療所などの医療施設、病院または診療所などの医療施設の緊急治療室、ならびに警察職員および/または消防士、救急隊員、もしくは他の医学的訓練を受けた人などの医療関係者が関係する緊急事態を含みうるが、これらに限定されない。
【0091】
「安定した」または「安定な」は、患者に病的状態の差し迫ったリスクがあると見なされない状態を指す。
【0092】
「即時放出」(「IR」)は、インビトロで迅速に溶解し、胃または上部胃腸管で完全に溶解し、吸収されることを意図された製剤または用量単位を指す。通常、該製剤は少なくとも90%の活性成分を投与の30分以内に放出する。
【0093】
「持続放出」(「SR」)は、胃および胃腸管で約6時間以上にわたってゆっくりと持続的に溶解し、吸収される、本明細書で用いられる製剤または用量単位を指す。好ましい持続放出製剤は、下記のように投与当たり錠剤2つ以下で、わずか1日2回投与に適切なラノラジン血漿濃度を示すものである。
【0094】
「静脈内(IV)注入」または「静脈内投与」は、静脈内経路によって患者へ提供される、本明細書で用いられる溶液または用量単位を指す。該IV注入は、患者の心血管状態を安定させるために、最大約96時間にわたるまで患者へ提供されうる。IV注入の送達についての方法およびタイミングは、主治医または医学的訓練を受けた人の技術の範囲内である。
【0095】
「腎不全」は、患者の腎臓がもはや正常な健康状態を維持するための十分な腎機能を有さない場合を指す。腎不全は、急性腎不全および末期腎不全(ESRD)を含む慢性腎不全の両方を含む。
【0096】
本発明の方法
すでに述べたように、1つの態様では、本発明は急性心血管疾患症状を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者を治療する方法を提供する。本態様のさらなる実施態様では、急性心血管疾患症状を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者は、非ST上昇型急性冠症候群と関連する1つ以上の状態を示す。
【0097】
急性冠動脈疾患症状を呈する患者は、1つ以上の下記の疾患について治療される患者を含み、それらの患者に限定されない:安定狭心症、不安定狭心症(UA)、労作性狭心症、異型狭心症を含む狭心症、不整脈、間欠性跛行、非STE心筋梗塞(NSTEMI)を含む心筋梗塞、うっ血性(もしくは慢性)心不全、急性心不全を含む心不全、または再発性虚血。
【0098】
本発明の本態様の方法は、好ましくは症候性患者へ選択濃度のラノラジンを含むIV溶液を投与することによって達成される。今までに、当該技術分野では低濃度のラノラジンを含む、ラノラジンを含むIV溶液が提供された(例えば、クルゲら(Kluge et al.)、米国特許第4,567,264号を参照のこと。該特許の実施例11は、相当量のプロピレングリコール(20g/100mL)およびポリエチレングリコール(20g/100mL)の両方を含むIV溶液内で1mL当たり1.4mgのラノラジンを用いることを記載する)。プロピレングリコールは、ポリエチレングリコールのように粘性のある液体である(例えば、Merck Index, 12th Ed., 1996を参照のこと)。該IV溶液の使用に起因する粘性の増加は、急性心血管疾患症状を患う患者へのラノラジンの迅速な送達をより困難にし、相当量のプロピレングリコールおよびポリエチレングリコールが同時投与されることを要する。
【0099】
あるいは、当該技術分野では、本明細書で用いられるIV溶液内で使用されている濃度と比較して高濃度または超高濃度のラノラジン(5mg/mLまたは200mg/mL)を含む、ラノラジンを含むIV溶液が提供された。例えば、ダウら(Dow, et al.)、米国特許第5,506,229号を参照のこと。患者が腎不全を患うまたは腎不全を患うリスクがある急性心血管疾患症状において、該濃度のラノラジンの使用はより高いラノラジン血漿濃度をもたらしうる。従って、主治医が治療を開始するのに先立って患者の腎機能を評価するための時間があるとしてもほんのわずかしかないため、該濃度の使用は急性心血管疾患症状を患う該患者の治療には禁忌である。
【0100】
本発明の方法において、IV溶液は、溶液1ミリリットル当たり約1.5〜3mg、好ましくは1ミリリットル当たり約1.8〜2.2mg、さらに好ましくは1ミリリットル当たり約2mgを含む選択量のラノラジンを有する。上記クルゲら(Kluge, et al.)と対照的に、IV溶液はプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールを全く含まない。むしろ本発明の組成物は、ラノラジン、無菌水およびデキストロース一水和物または塩化ナトリウムを含む。それ自体、本発明の組成物はクルゲら(Kluge et al.)によって記載されたものよりも粘性がなく、患者のIV溶液でのより効率的で迅速な用量設定を可能にする。
【0101】
注射製剤は典型的には本発明のIV製剤には不要であり得、禁忌でありうる賦形剤を有するため、本発明のIV溶液は注射製剤と異なっている。例えば、注射製剤はグルコン酸などの鎮痙剤を有しうる。それ自体、本発明のIV溶液は該鎮痙剤、特にグルコン酸を含まない。
【0102】
本発明のIV溶液は、急性心血管疾患症状を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者を安定させるために用いられる。特に、症候性患者は、患者が安定するまでの間、本ラノラジンIV溶液が直ちに投与される。該安定化は、典型的には約12〜約96時間の範囲内に発生する。
【0103】
好ましい実施態様では、急性心血管疾患症状を患う患者は下記によって治療される:
【0104】
IV溶液が1ミリリットル当たり約1.5〜約3mg、好ましくは1ミリリットル当たり約1.8〜約2.2mg、さらに好ましくは1ミリリットル当たり約2mgの選択濃度のラノラジンを含む、該患者への該IV溶液の投与を開始すること;
【0105】
患者へのIVラノラジン溶液のIV投与を用量設定することであり、:i)約1時間にわたって患者へ送達される、約200mgのラノラジンを提供する十分な量のIV溶液;ii)次いで:1時間当たり約80mgのラノラジンを提供する十分な量のIV溶液;または該患者が腎不全を患う場合、1時間当たり約40mgのラノラジンを提供する十分な量のIV溶液のいずれかを含む用量設定;および
【0106】
典型的には約12〜約96時間以内に起こる患者の安定化まで上記の用量設定を維持すること。
【0107】
1つの実施態様では、ラノラジン静脈内製剤の注入が開始され、約2500ng塩基/mL(ng塩基/mLは、ラノラジンの遊離塩基のng/mLを指す)の目標ピークラノラジン血漿濃度が達成される。
【0108】
治療に関連すると考えられる有害事象を経験している患者のためのラノラジン注入の下方修正は、当業者の知識の範囲内であり、IV溶液内のラノラジン濃度に基づいて容易に達成される。上記のものに加えて、有害事象は低カリウム血症;めまい;吐き気/嘔吐;複視;錯感覚;錯乱;および起立性低血圧症などの他の回復可能な因子に起因しない、深刻で持続的な補正QT間隔延長を含むが、これに限定されない。1つの実施態様では、ラノラジン静脈注射用溶液の用量は、約60mg/hr、約40mg/hr、または約30mg/hrなどでこれらに限定されない低用量に調整されてよい。別の実施態様では、ラノラジンの静脈内送達は1〜3時間一時的に中断されてよく、次いで治療に関連すると考えられる有害事象を経験する患者のための同用量または低用量で再開されてよい。
【0109】
好ましい実施態様では、糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者が安定した時点でラノラジン経口持続放出製剤が投与される。特に、本発明はラノラジンで患者を治療することによって、急性冠動脈疾患症状が後に続く高リスクの冠動脈疾患患者を治療するのに特に有用である。高リスクの冠動脈患者は、以前に少なくとも1つの急性冠動脈疾患症状を患った患者である。好ましい実施態様では、高リスクの患者は3以上のTIMIリスクスコアを有する。
【0110】
1つの実施態様では、ラノラジン静脈内注入の終了に先立ってラノラジン経口用量が約1時間投与される。本実施態様の1つの態様では、静脈内用量から経口用量への移行時に、ラノラジンの静脈内用量が約80mg/hrである場合、経口用量は1000mgが1日1回または1日2回(2x500mg)投与される。本実施態様の別の態様では、静脈内用量から経口用量への移行時に、ラノラジンの静脈内用量が約60mg/hrである場合、経口用量は750mgが1日1回または1日2回(2x375mg)投与される。本実施態様のさらに別の態様では、静脈内用量から経口用量への移行時に、ラノラジンの静脈内用量が約40mg/hrである場合、経口用量は500mg(1x500mg)が投与される。本実施態様のさらに別の態様では、静脈内用量から経口用量への移行時に、ラノラジンの静脈内用量が約30mg/hrである場合、経口用量は375mg(1x375mg)が投与される。
【0111】
治療に関連すると考えられる有害事象を経験する患者のための経口用量の下方修正も、当業者の知識の範囲内である。例えば、ラノラジンの経口用量は、新たに重度の腎不全を発症した患者のために調整されうる。他の有害事象は、低カリウム血症;めまい;吐き気/嘔吐;複視;錯感覚;錯乱;および起立性低血圧症などの他の回復可能な因子に起因しない、深刻で持続的な補正QT間隔延長を含むが、これに限定されない。1つの実施態様では、ラノラジンの経口用量は1日1回または1日2回投与される500mgへ下方調整されてよい(いまだ該用量またはこれ以下でない場合には)。1つの実施態様では、ラノラジンの経口用量は次の低用量に調整されてよい−1日1回または1日2回投与される750mg、1日1回または1日2回投与される500mg、または1日1回または1日2回投与される375mgなどでこれらに限定されない。
【0112】
1つの実施態様では、中等度のCYP3A阻害剤、例えばジルチアゼム>180mg/日、フルコナゾールなど、およびP−gp阻害剤、例えばベラパミル、シクロスポリンなどで治療される患者へ375mgの開始経口用量が1日1回または1日2回投与されてよい。1つの実施態様では、ラノラジンの1000mg経口用量が投与され、約2500ng塩基/mL±1000ng塩基/mLの平均ピークラノラジン血漿濃度が達成される。
【0113】
1つの実施態様では、本発明は患者において心血管インターベンションと関連する虚血を減少させるための方法であり、インターベンション前の少なくとも約4時間、好ましくは約6時間ラノラジン静脈内製剤を静脈内投与することを含む方法に関する。本実施態様のさらなる態様では、本発明はインターベンション後の少なくとも約4時間、好ましくは約6時間、ラノラジンの静脈内への投与を継続することをさらに含む。
【0114】
好ましい実施態様では、患者はインターベンション前の少なくとも約4時間または少なくとも約6時間、静脈内ラノラジンを受け取り、次いでインターベンション後の少なくとも約4時間または少なくとも約6時間、静脈内ラノラジンを受け取る。
【0115】
本発明のこれらの実施態様では、静脈内投与されるラノラジンは本明細書で記載されているような静脈内製剤である。
【0116】
本発明の範囲を限定することなく、本発明の製剤は、心血管疾患、例えば動脈硬化症、高血圧症、不整脈(例えば虚血性不整脈、心筋梗塞による不整脈、心筋スタンニング、心筋機能不全、PTCA後または血栓溶解後の不整脈など)、狭心症、心肥大、心筋梗塞、心不全(例えば、うっ血性心不全、急性心不全、心肥大など)、PTCA後の再狭窄、PTCI(経皮的経管的冠動脈インターベンション)、およびショック(例えば、出血性ショック、エンドトキシンショックなど)など;腎疾患、例えば、糖尿病、糖尿病性腎障害、虚血性急性腎不全など;虚血または虚血性再灌流と関連する臓器障害、例えば心筋虚血性再灌流関連障害、急性腎不全、またはCABG(冠動脈バイパス移植術)手術、血管手術、臓器移植、非心臓性手術もしくはPTCAなどの外科治療によって誘発される障害など;脳血管疾患、例えば虚血性脳卒中、出血性脳卒中など;脳虚血性障害、例えば脳梗塞と関連する障害、後遺症などの脳卒中後に引き起こされる障害、または脳浮腫;ならびにドナー組織が、腎臓移植、皮膚移植、心臓移植、肺移植、角膜移植、および肝臓移植を含みこれらに限定されない、移植に用いられるドナー組織内に誘発される虚血などの様々な疾患を治療するために用いられうる。本発明の製剤は、CABG手術、血管手術、PTCA、PTCI、臓器移植、または非心臓性手術の間、心筋保護用の薬剤としても用いられうる。
【0117】
好ましくは、本発明の製剤はCABG手術、血管手術、PTCA、臓器移植、または非心臓性手術の前、間、または後に心筋保護用に用いられうる。好ましくは、本発明の製剤は進行中の心虚血事象(急性冠症候群、例えば心筋梗塞もしくは不安定狭心症)または脳虚血事象(例えば、脳卒中)を患う患者において心筋保護用に用いられうる。好ましくは、本発明の製剤は、冠動脈心疾患(例えば、既往の心筋梗塞もしくは不安定狭心症)と診断された患者、または心筋梗塞のリスクが高い患者(年齢が65歳を越え、冠動脈心疾患についての2つ以上のリスク因子を有する)において慢性心筋保護用に用いられうる。
【0118】
本発明の組成物
静脈内製剤
1つの態様では、本発明は選択濃度のラノラジンを含む静脈内(IV)溶液を提供する。特に、IV溶液は好ましくは医薬的に許容される水溶液1ミリリットル当たり約1.5〜約3.0mg、より好ましくは約1.8〜約2.2mg、さらに好ましくは約2mgのラノラジンを含む。ラノラジンの患者への迅速な静脈内の流れを可能にするために、IV溶液は好ましくは、例えばプロピレングリコールまたはポリエチレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール400)を含む粘性成分を含まない。実質的に粘性を変化させない少量の粘性成分は、本発明の静脈内製剤に含まれてよいことは理解される。特に好ましい実施態様では、IV溶液の粘性は、好ましくは20℃で10cSt(センチストークス)未満、より好ましくは20℃で5cSt未満、さらに好ましくは20℃で2cSt未満である。
【0119】
1つの実施態様では、IV溶液は下記を含む:
IV溶液1mL当たり約1.5〜約3.0mgのラノラジン;および
約4.8〜約5.0重量パーセントのデキストロースまたは約0.8〜約1.0重量パーセントの塩化ナトリウムのいずれか。
【0120】
1つの実施態様では、IV溶液は下記を含む:
IV溶液1mL当たり約1.8〜約2.2mgのラノラジン;および
約4.8〜約5.0重量パーセントのデキストロースまたは約0.8〜約1.0重量パーセントの塩化ナトリウムのいずれか。
【0121】
1つの実施態様では、本発明のIV溶液は下記を含む:
IV溶液1mL当たり約2mgのラノラジン;および
約4.8〜約5.0重量パーセントのデキストロースまたは約0.9重量パーセントの塩化ナトリウムのいずれか。
【0122】
本明細書で記載されているIV溶液は、単一使用送達用の20mL容器を含むストック溶液から調製され得、該容器は約25mg/mLの濃度のラノラジン無菌水溶液;約36mg/mLのデキストロース一水和物または約0.9重量パーセントの塩化ナトリウムのいずれかを含み;約4のpHを有する。驚いたことに、ストック溶液内の該高濃度のラノラジンおよびデキストロース一水和物またはラノラジンおよび塩化ナトリウムを用いると、安定で、適切な有効期間、好ましくは6ヶ月を越える有効期間を有する組成物が提供される。
【0123】
ストック溶液を調製するための例となる方法は、実施例1および2に記載されている。
【0124】
典型的な設定では、本明細書で記載されている2つの20mL容器は、460mLの無菌生理食塩水(0.9重量パーセント(w%)の塩化ナトリウム)またはデキストロース水溶液(5重量パーセントのデキストロース一水和物を含む水)を含むIV容器に注射され、生理的に許容されるpHに維持された約2mg/mLのラノラジンIV溶液を提供する。本明細書で有用な容器は、バイアル、シリンジ、ボトル、IVバッグなどを含むが、これらに限定されない。
【0125】
別の実施態様では、上記の静脈内製剤は、使用に先立って無菌希釈剤で希釈される。1つの実施態様では、無菌希釈剤は5%デキストロースまたは0.9重量パーセントの生理食塩水である。1つの実施態様では、静脈内製剤は無菌希釈剤のバッグへさらに希釈される。
【0126】
経口製剤
1つの実施態様では、ラノラジン製剤は経口製剤である。1つの実施態様では、ラノラジン経口製剤は錠剤である。1つの実施態様では、ラノラジンの錠剤は最大500mgである。別の実施態様では、ラノラジンの錠剤は最大1000mgである。好ましい実施態様では、ラノラジン錠剤は375mg、および/または500mgである。
【0127】
ラノラジン経口製剤は、米国特許第6,303,607号および米国特許出願公開第2003/0220344号にて徹底的に考察されており、その両方は全体として参照することにより本明細書に援用される 。
【0128】
本発明の経口持続放出ラノラジン製剤は、血漿ラノラジン濃度を治療濃度の閾値以上および最大耐性濃度以下、好ましくは患者において約550〜7500ng塩基/mLの血漿濃度に維持するために、24時間内で1回、2回または3回投与される。
【0129】
好ましい実施態様では、ラノラジン血漿濃度は約1500〜3500ng塩基/mLの範囲である。
【0130】
好ましい血漿ラノラジン濃度を達成するために、本明細書で記載されている経口ラノラジン剤形は1日1回または1日2回投与されることが好ましい。剤形が1日2回投与される場合、経口ラノラジン剤形は約12時間間隔で投与されることが好ましい。
【0131】
血漿ラノラジン濃度を制御する様式にて本発明の経口持続放出剤形を製剤化および投与することに加えて、ピーク血漿ラノラジン濃度とトラフ血漿ラノラジン濃度の間の差を最小化することも重要である。ピーク血漿ラノラジン濃度は典型的には、最初に剤形を経口摂取した後、約30分〜8時間以上で達成される一方で、トラフ血漿ラノラジン濃度は次に予定されている剤形の経口摂取の時に達成される。本発明の持続放出剤形はピークラノラジン濃度がトラフラノラジン濃度よりもわずか8倍だけ大きいこと、好ましくはトラフラノラジン濃度よりもわずか4倍だけ大きいこと、好ましくはトラフラノラジン濃度よりもわずか3倍だけ大きいこと、最も好ましくはトラフラノラジン濃度の2倍程度の大きさであることを可能にする様式にて投与されることが好ましい。
【0132】
本発明の持続放出ラノラジン製剤は、ラノラジン血漿濃度の変動を最小化する治療上の利点を提供する一方で、最大でも1日2回の投与を可能にする。治療上有効な血漿ラノラジン濃度の迅速な達成が所望である場合、製剤は単独で、もしくは(少なくとも初期には)即時放出製剤と組み合わせて投与されてよく、または可溶性IV製剤および経口剤形によって投与されてよい。
【0133】
本発明の範囲を限定することなく、本発明の製剤は、心血管疾患、例えば動脈硬化症、高血圧症、不整脈(例えば虚血性不整脈、心筋梗塞による不整脈、心筋スタンニング、心筋機能不全、PTCA後または血栓溶解後不整脈など)、狭心症、心肥大、心筋梗塞、心不全(例えば、うっ血性心不全、急性心不全、心肥大など)、PTCA後の再狭窄、PTCI(経皮的経管的冠動脈インターベンション)、およびショック(例えば、出血性ショック、エンドトキシンショックなど);腎疾患、例えば糖尿病、耐糖能異常または前糖尿病、糖尿病性腎障害、虚血性急性腎不全など;虚血または虚血性再灌流と関連する臓器障害、例えば心筋虚血性再灌流関連障害、急性腎不全、またはCABG(冠動脈バイパス移植術)手術、血管手術、臓器移植、非心臓性手術もしくはPTCAなどの外科治療によって誘発される障害など;脳血管疾患、例えば虚血性脳卒中、出血性脳卒中など;脳虚血性障害、例えば脳梗塞と関連する障害、後遺症などの脳卒中後に引き起こされる障害、または脳浮腫;ならびにドナー組織が、腎臓移植、皮膚移植、心臓移植、肺移植、角膜移植、および肝臓移植を含みこれらに限定されない、移植に用いられるドナー組織内に誘発される虚血などの様々な疾患を治療するために用いられうる。本発明の製剤は、CABG手術、血管手術、PTCA、PTCI、臓器移植、または非心臓性手術の間、心筋保護用の薬剤としても用いられうる。
【0134】
好ましくは、本発明の製剤はCABG手術、血管手術、PTCA、臓器移植、または非心臓性手術の前、間、または後に心筋保護用に用いられうる。好ましくは、本発明の製剤は進行中の心虚血事象(急性冠症候群、例えば心筋梗塞もしくは不安定狭心症)または脳虚血事象(例えば、脳卒中)を患う患者において心筋保護用に用いられうる。好ましくは、本発明の製剤は、冠動脈心疾患(例えば、既往の心筋梗塞もしくは不安定狭心症)と診断された患者、または心筋梗塞のリスクが高い患者(年齢が65歳を越え、冠動脈心疾患についての2つ以上のリスク因子を有する)において慢性心筋保護用に用いられうる。
【0135】
医薬組成物および投与
本発明の化合物は通常、医薬組成物の形態にて投与される。本発明はそれゆえ、活性成分として1つ以上の本発明の化合物、もしくはその異性体、またはその医薬的に許容される塩もしくはエステル、ならびに1つ以上の医薬的に許容される賦形剤、不活性固体希釈剤および充填剤を含む担体、無菌水溶液および様々な有機溶媒を含む希釈剤、透過促進剤、可溶化剤ならびにアジュバントを含む医薬組成物を提供する。本発明の化合物は、単独で、または他の治療薬と組み合わせて投与されてよい。該組成物は、医薬の技術分野で周知の様式にて調製される(例えば、レミントンの薬学(Remington's Pharmaceutical Sciences), Mace Publishing Co., Philadelphia, PA 17th Ed. (1985)および「現代薬剤学(Modern Pharmaceutics)」, Marcel Dekker, Inc. 3rd Ed. (G.S. Banker & C.T. Rhodes、Eds.)を参照のこと)。
【0136】
1つの好ましい投与様式は非経口投与、特に注射による投与である。本発明の新規組成物が含まれる形態は、ゴマ油、コーン油、綿実油、もしくは落花生油を有する水性もしくは油性懸濁液、または乳濁液、さらにエリキシル剤、マンニトール、デキストロース、もしくは無菌水溶液、および類似の医薬ビヒクルを含む注射による投与用に組み込まれてよい。生理食塩水の水溶液も注射用に通常用いられるが、本発明の文脈ではあまり好ましくない。エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど(およびその適切な混合物)、シクロデキストリン誘導体、ならびに植物油も使用されてよい。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合には必要粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって維持されうる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされうる。
【0137】
無菌注射剤は、本発明の化合物の必要量を、必要に応じて上記列挙の様々な他の成分と共に適切な溶媒に組み込み、次いで濾過および無菌化することによって調製される。一般的に、分散液は、様々な無菌活性成分を塩基性分散媒および上記列挙の必要な他の成分を含む無菌ビヒクルへ組み込むことによって調製される。無菌注射剤の調製用の無菌粉末の場合には、好ましい調製方法は真空乾燥および凍結乾燥技術であり、その予め無菌化・濾過した溶液から、活性成分の粉末に加えていずれかの付加的な所望の成分を産生する。
【0138】
経口投与は、式Iの化合物の別の経路投与である。投与は、錠剤、カプセルまたは腸溶性錠剤などによってなされてよい。少なくとも1つのいずれかの式Iの化合物を含む医薬組成物の製造において、活性成分は通常、賦形剤によって希釈され、および/または担体内に封入され、製剤はカプセル、小袋、紙または他の容器の形態になりうる。賦形剤が希釈剤としての機能を果たす場合、それは固体、半固体、または液体材料(上記のように)であり得、ビヒクル、担体または活性成分用の媒体として作用する。従って、組成物は錠剤、丸剤、粉末、トローチ剤、小袋、カシュ剤、エリキシル剤、懸濁液、乳濁液、溶液、シロップ、エアロゾル(固体として、または液体媒体内で)、例えば最大で10重量%の活性化合物を含む軟膏剤、ソフトゼラチンカプセルおよびハードゼラチンカプセル、無菌注射剤、ならびに無菌包装粉末の形態にありうる。
【0139】
適切な賦形剤のいくつかの例は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、無菌水、シロップ、およびメチルセルロースを含む。製剤は:タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱油などの滑沢剤;湿潤剤;乳化剤および懸濁剤;メチルベンゾエートおよびプロピルヒドロキシベンゾエートなどの保存剤;甘味料;ならびに香料をさらに含みうる。
【0140】
本発明の組成物は、当該技術分野で周知の製法を用いることによって、患者への投与後、活性成分の迅速放出、持続放出または遅延放出を提供するように製剤化されうる。経口投与用の制御放出薬物送達システムは、浸透圧ポンプシステムおよびポリマーコーティングリザーバーまたは薬物ポリマーマトリックス製剤を含む溶解システムを含む。制御放出システムの例は、米国特許第3,845,770号;第4,326,525号;第4,902,514号;第5,616,345号;および国際公開0013687号にて与えられる。本発明の方法における使用のための別の製剤は、経皮送達装置(「パッチ」)を利用する。該経皮パッチは、制御量にて本発明の化合物の持続注入または非持続注入を提供するように用いられてよい。医薬品の送達用の経皮パッチの作成および使用は、当該技術分野で周知である。例えば、米国特許第5,023,252号、第4,992,445号および第5,001,139号を参照のこと。該パッチは、医薬品の持続送達用、パルス送達用、またはオンデマンド送達用に作成されてよい。
【0141】
組成物は、好ましくは単位剤形に製剤化される。「単位剤形」という用語は、ヒト患者および他の哺乳類用の単位用量として適切な物理的に分離した単位を指し、各単位は適切な医薬賦形剤(例えば、錠剤、カプセル、アンプル)と共同して所望の治療効果を生じると予想される所定量の活性材料を含む。式Iの化合物は広範囲の用量にわたって有効であり、一般的に医薬的有効量にて投与される。好ましくは、経口投与用に、各用量単位は式Iの化合物を10mg〜2g、より好ましくは10〜1500mg、より好ましくは10〜1000mg、より好ましくは10〜700mg含み、非経口投与用に、式Iの化合物を好ましくは10〜700mg、より好ましくは約50〜200mg含む。しかしながら、実際に投与される式Iの化合物の量は、治療される状態、選択された投与経路、投与される実際の化合物およびその相対活性、個々の患者の年齢、体重、および応答、患者の症状の重症度などを含む関連する状況を考慮して、医師によって決定されるであろうことは理解されるであろう。
【0142】
錠剤などの固体組成物を調製するために、主要な活性成分は医薬賦形剤と混合され、本発明の化合物の均一な混合物を含む固体予備製剤組成物を形成する。これらの予備製剤組成物が均一なものを指す場合、活性成分が組成物の至る所に均等に分散し、組成物が錠剤、丸剤およびカプセル剤などの同様に有効な単位剤形に、容易に分割されうることを意味する。
【0143】
本発明の錠剤または丸剤は、長期作用の利点をもたらす剤形を提供するために、または胃の酸性条件から保護するために、コーティングされ、あるいは組み合わせられてよい。例えば、錠剤または丸剤は内側の用量成分および外側の用量成分を含み得、後者は前者を覆うエンベロープの形態にある。2つの成分は腸溶層によって分離されうるが、腸溶層は胃内の分解に抵抗する役割を果たし、内側の成分が無傷で十二指腸へ移行し、または放出が遅延されることを可能にする。さまざまな材料が該腸溶層またはコーティング用に用いられうるが、該材料は多数のポリマー酸、ならびにポリマー酸とセラック、セチルアルコール、およびセルロースアセテートなどの該材料の混合物を含む。
【0144】
1つの実施態様では、本発明の好ましい組成物は、患者への投与後、活性成分の迅速放出、持続放出または遅延放出、特に持続放出製剤を提供するように製剤化される。本発明の最も好ましい化合物はラノラジン、すなわち(±)−N−(2,6−ジメチルフェニル)−4−[2−ヒドロキシ−3−(2メトキシフェノキシ)プロピル]−1−ピペラジン−アセトアミド、もしくはその異性体、またはその医薬的に有効な塩である。特に述べない限り、本明細書および実施例にて用いられるラノラジン血漿濃度は、ラノラジン遊離塩基を指す。
【0145】
本発明の好ましい持続放出製剤は、好ましくは圧縮錠剤の形態にあり、該圧縮錠剤は、化合物の緊密な混合物および部分的に中和されたpH依存性結合剤を含み、該pH依存性結合剤は胃内(典型的にはおよそpH2)および腸内(典型的にはおよそ約pH5.5)で広範なpHにわたって水媒体への溶解の速度を制御する。持続放出製剤の1例は、米国特許第6,303,607号;第6,479,496号;第6,369,062号;および第6,525,057号に開示されており、その全開示は参照することにより本明細書に援用される。
【0146】
化合物の持続放出を提供するために、1つ以上のpH依存性結合剤が化合物の溶解特性の制御用に選択され、製剤が胃および胃腸管を通過する際に、製剤が薬物をゆっくりと、持続的に放出する。1日2回投与用の十分な化合物を含む持続放出製剤は、非常に迅速に化合物が放出される場合(「用量ダンピング(dose-dumping)」)、有害な副作用の原因となりうるため、pH依存性結合剤の溶解制御能は、持続放出製剤において特に重要である。
【0147】
従って、本発明における使用に適切なpH依存性結合剤は、胃内(pHは約4.5以下である)での滞留の間、錠剤からの薬物の迅速放出を抑制し、下部胃腸管内(pHは一般的に約4.5を越える)で、剤形からの治療量の化合物の放出を促進するpH依存性結合剤である。医薬の技術分野で「腸溶性」結合剤およびコーティング剤として周知の多くの材料は、所望のpH溶解特性を有する。これらは、ビニルポリマーおよびコポリマーのフタル酸誘導体などのフタル酸誘導体、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルセルロース、セルロースアセテート、ヒドロキシアルキルセルロースアセテート、セルロースエーテル、アルキルセルロースアセテート、およびその部分エステル、ならびに低級アルキルアクリル酸および低級アルキルアクリレートのポリマーおよびコポリマー、ならびにその部分エステルを含む。
【0148】
持続放出製剤を作成するために化合物と共に用いられうる好ましいpH依存性結合剤材料は、メタクリル酸コポリマーである。メタクリル酸コポリマーは、メタクリル酸と、エチルアクリレートまたはメチルメタクリレートなどの中性アクリレートまたはメタクリレートエステルのコポリマーである。最も好ましいコポリマーは、メタクリル酸コポリマー、C型、USP(46.0%〜50.6%のメタクリル酸単位を有するメタクリル酸とエチルアクリレートのコポリマー)である。該コポリマーは、ローム・ファーマ(Rohm Pharma)社からオイドラギットL100−55(Eudragit(登録商標)L100-55)(粉末)またはL30D−55(水中の30%分散液)として市販されている。単独でまたは持続放出製剤内で組み合わせて用いられうる他のpH依存性結合剤材料は、ヒドロキシプロピルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、ポリビニルピロリドンフタレートなどを含む。
【0149】
1つ以上のpH非依存性結合剤が経口剤形の持続放出製剤にて用いられてよい。ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、中性ポリアクリレートエステル(または中性ポリメタクリレートエステル)などのpH依存性結合剤および粘性増強剤は、それら自体、特定のpH依存性結合剤によって提供される必要な溶解制御を提供し得ないということも注目すべきである。pH非依存性結合剤は、本発明の製剤内で約1〜約10wt%の範囲の量にて、好ましくは約1〜約3wt%の範囲の量にて、最も好ましくは約2.0wt%の量にて存在してよい。
【0150】
第1表に示したように、本発明の好ましい化合物、ラノラジンは、pH約6.5以上の水溶液に相対的に不溶性である一方で、pH約6以下で溶解度は劇的に増加し始める。
【0151】
第1表
【表3−1】

【0152】
【表3−2】

【0153】
製剤内でのpH依存性結合剤含有量の増加は、胃内で見られる典型的なpHであるpH4.5以下で、製剤からの化合物の持続放出形態の放出速度を減少させる。結合剤によって形成される腸溶性コーティングは溶解度が低く、化合物の溶解度がより低いpH4.5以上で相対的放出速度を増加させる。pH依存性結合剤の適切な選択は、pH4.5以上で製剤からの化合物のより迅速な放出速度を可能にする一方で、低pHで放出速度に非常に影響する。結合剤の部分的中和は、結合剤が個々の顆粒剤の周りに形成されるフィルムなどのラテックスへ変化すること促進する。従って、pH依存性結合剤の型および量、ならびに部分的中和組成物の量は、製剤からの化合物の溶解の速度を厳密に制御するように選択される。
【0154】
本発明の剤形は、製剤からの化合物の放出速度が制御され、低pH(約4.5以下)で溶解の速度が有意に遅くなるような持続放出製剤を産生するのに十分な量のpH依存性結合剤を有するべきである。メタクリル酸コポリマー、C型、USP(オイドラギットL100−55(Eudragit(登録商標)L100-55))の場合、pH依存性結合剤の適切な量は5%〜15%である。pH依存性結合剤は、典型的には約1〜約20%の中和された結合剤メタクリル酸カルボキシル基を有するであろう。しかしながら、中和の程度は約3〜6%の範囲であることが好ましい。持続放出製剤は、化合物およびpH依存性結合剤と緊密に混合された医薬賦形剤も含んでよい。医薬的に許容される賦形剤は、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、中性ポリアクリレートエステル(または中性ポリメタクリレートエステル)(例えばローム・ファーマ(Rohm Pharma)によって商標オイドラギットNE(Eudragit(登録商標)NE)で販売されているメチルメタクリレート/エチルアクリレートコポリマー)、デンプン、ゼラチン、糖、カルボキシメチルセルロースなどのpH非依存性結合剤またはフィルム形成剤を含んでよい。他の有用な医薬賦形剤は、例えばラクトース、マンニトール、乾燥デンプン、微結晶セルロースなどの希釈剤;例えばポリオキシエチレンソルビタンエステル、ソルビタンエステルなどの界面活性剤;ならびに着色剤および香料を含む。滑沢剤(タルクおよびステアリン酸マグネシウムなど)ならびに他の錠剤助剤も任意に存在する。
【0155】
本発明の持続放出製剤は、約50重量%以上〜約95重量%以上、より好ましくは約70重量%〜約90重量%、最も好ましくは約70重量%〜約80重量%の含有量の活性化合物;5%〜40%、好ましくは5%〜25%、より好ましくは5%〜15%の含有量のpH依存性結合剤を有し;剤形の残りはpH非依存性結合剤、充填剤、および他の任意の賦形剤を含む。
本発明の特に好ましい持続放出製剤の1つを下記の第2表に示す。
第2表
【表4】

【0156】
本発明の持続放出製剤は、下記のように調製される:化合物、pH依存性結合剤およびいずれか任意の賦形剤を緊密に混合する(乾燥混合)。次いで、混合粉末に噴霧される強塩基の水溶液の存在下、乾燥混合した混合物を顆粒化する。顆粒を乾燥し、スクリーニングし、任意の滑沢剤(タルクまたはステアリン酸マグネシウムなど)と混合し、錠剤に圧縮する。好ましい強塩基の水溶液は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液(任意に最大で25%の水混和性溶媒、例えば低級アルコールを含む)などのアルカリ金属水酸化物の溶液である。
【0157】
結果得られる錠剤は、同定のために、矯味目的のために、および飲み込みやすさを改善するために、任意のフィルム形成剤でコーティングされてよい。フィルム形成剤は、典型的には錠剤重量の2%〜4%の範囲の量にて存在するであろう。適切なフィルム形成剤は当該技術分野で周知であり、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カチオン性メタクリレートコポリマー(ジメチルアミノエチルメタクリレート/メチルブチルメタクリレートコポリマー−オイドラギットE(Eudragit(登録商標)E)−ローム・ファーマ(Rohm. Pharma))などを含む。これらのフィルム形成剤は、着色剤、可塑剤、および他の補助成分を任意に含んでよい。
【0158】
圧縮錠剤は、好ましくは8Kp圧縮に耐えるのに十分な硬度を有する。錠剤サイズは、錠剤内の化合物の量に一次的に依存するであろう。錠剤は、300〜1100mgの化合物遊離塩基を含むであろう。好ましくは、錠剤は、400〜600mg、650〜850mg、および900〜1100mg範囲の量の化合物遊離塩基を含むであろう。
【0159】
溶解速度に影響を与えるために、化合物含有粉末が湿式混合される時間を制御する。好ましくは全粉末混合時間、すなわち粉末が水酸化ナトリウム溶液にさらされる時間は、1〜10分間、好ましくは2〜5分間の範囲であろう。顆粒化後、粒子を造粒機から除去し、流動層乾燥機に設置し、約60℃で乾燥させる。
【0160】
化合物がより医薬的に一般的な二塩酸塩として、または別の塩もしくはエステルとしてではなく、その遊離塩基として用いられる場合、これらの方法は投与後最大12時間以上にわたって化合物のより低いピーク血漿濃度、さらには化合物の有効な血漿濃度を提供する持続放出製剤を産生することがわかってきた。遊離塩基の使用は、少なくとも1つの利点を提供する:遊離塩基の分子量は二塩酸塩の分子量のわずか85%であるため、錠剤内の化合物の割合が増加しうる。この様式では、化合物の有効量の送達が達成される一方で、用量単位の物理的サイズが制限される。
【0161】
有用性および試験
本方法は糖尿病の治療において有効である。
【0162】
活性試験は、下記の実施例に記載されたように、および当業者に自明の方法によって行う。
【0163】
下記の実施例は、本発明を説明するのに役立つ。実施例は本発明の範囲を限定することは全く意図せず、本発明の化合物の製造方法および使用方法を示すために提供される。実施例において、全ての温度は摂氏温度にて示している。
【0164】
実施例1〜4は、式Iの化合物を含む代表的な医薬製剤の調製を説明する。
【実施例1】
【0165】
実施例1
20mL(1、5、または25mg/mLのラノラジン濃度で)放出用のラノラジン注射剤20mLを1型フリントバイアルに充填したもの。
組成物:
ラノラジン 1.0、5.0、25.0mg/mL
デキストロース一水和物 55.0、52.0、36.0mg/mL
塩酸 適量 pH4.0±0.2
水酸化ナトリウム 適量 pH4.0±0.2
注射用蒸留水 適量
容器/密封システム:
バイアル: 1型フリント、20cc、20mm開口部(finish)
栓: ゴム、20mm、West4432/50、グレイブチル、テフロンコーティング
封: アルミニウム、20mm、押し上げ式オーバーシール
【0166】
製造方法
ラノラジン静脈内製剤は、下記のような無菌充填工程によって製造される。適切な容器内で、最終バッチ重量の約78%で必要量のデキストロース一水和物を注射用蒸留水(WFI)に溶解した。連続的に撹拌しながら、必要量のラノラジンをデキストロース溶液に加えた。ラノラジンの溶解を促進するために、0.1Nまたは1.0N HCl溶液で溶液pHを目標3.88〜3.92に調整した。加えて、溶液を目標pH3.88〜3.92にさらに調整するために、1N NaOHを利用し得た。ラノラジンが溶解した後、WFIでバッチを最終重量に調整した。製造過程の仕様が適合したことを確実にするために、ラノラジン製剤化バルク溶液を2つの0.2μm無菌フィルターを通す無菌濾過によって無菌化した。その後、無菌ラノラジン製剤化バルク溶液を無菌ガラスバイアルに無菌的に充填し、無菌栓で無菌的に栓をした。次いで、栓をしたバイアルを無菌押し上げ式アルミニウムオーバーシールで封をした。次いで、バイアルを最終検査した。
【実施例2】
【0167】
実施例2
20mL(25mg/mL濃度)放出用のラノラジン注射剤20mLを1型フリントバイアルに充填したもの。
組成物:
ラノラジン 25.0mg/mL
デキストロース一水和物 36.0mg/mL
塩酸 pH3.3〜4.7に調整する
注射用蒸留水 適量
容器/密封システム:
バイアル: 1型チューブ、未処理、20mL、20mm開口部(finish)
栓: ゴム、20mm、West4432/50、グレイブチル
封: アルミニウム、20mm、ブルーフリップオフオーバーシール
【0168】
製造方法
注射用蒸留水(WFI)を、最終バッチ重量の約90%で適切な容器に入れる。必要量の5N HClの約90〜95%を配合容器に加える。連続的に撹拌しながら、必要量のラノラジンをゆっくりと加え、次いでデキストロース一水和物をラノラジン溶液に加える。ラノラジンを可溶化するために、溶液pHを5N HCl溶液で目標3.9〜4.1に調整する。その後、バッチをWFIで最終重量に調整する。製造過程の仕様が適合したことを確実にするために、ラノラジン製剤化バルク溶液を2つの重複性0.22μm無菌フィルターを通す濾過によって無菌化する。次いで、無菌ラノラジン製剤化バルク溶液を20mL無菌/脱発熱処理バイアルに無菌的に充填し、無菌/脱発熱処理栓で無菌的に栓をする。栓をしたバイアルを無菌押し上げ式アルミニウムオーバーシールで封をする。封をしたバイアルを最終的に121.1℃で30分間の有効最終無菌化サイクルによって無菌化する。最終無菌工程後、バイアルを検査する。製剤を光から保護するために、バイアルを個々にカートンボックスに入れる。
【実施例3】
【0169】
実施例3
非ST上昇型急性冠症候群(NSTEACS)を伴う糖尿病またはメタボリックシンドロームを患う患者
背景
非ST上昇型急性冠症候群(NSTEACS)を訴える患者の臨床試験から得られたデータを、糖尿病および/またはメタボリックシンドロームも患う該患者の有病率および転帰を決定するために評価した。患者をラノラジンで治療したが、これは血糖パラメータの改善と関連した。米国第2004/0063717号として公開された米国特許出願第10/443,314号を参照のこと。これらは全体として参照することによって本明細書に援用される。
【0170】
方法
MERLIN−TIMI36試験で、ランダム化されたNSTEACSを患う6560人の患者を、プラセボまたは抗虚血剤ラノラジンのいずれかで治療したが、ラノラジンは血糖パラメータの改善とも関連した。臨床追跡調査の中央値は12ヶ月であった。メタボリックシンドロームは、下記のいずれか3つを有するものとして定義された:1)腹囲≧102cm(男性)および≧88cm(女性)、2)トリグリセリド(TG)≧150mg/dLまたはTG上昇用の薬物療法、3)高密度リポタンパク質(HDL)<40mg/dL(男性)および<50mg/dL(女性)、またはHDL減少用の薬物療法、4)収縮期血圧(SBP)≧130mmHgもしくは拡張期血圧(DBP)≧85mmHg、または高血圧症用の薬物療法、ならびに5)空腹時グルコース>100mg/dL。
【0171】
結果
ランダム化で、2191人の患者(全患者の33.4%)が糖尿病(DM)と診断されており、2628人の患者(40.1%)がメタボリックシンドロームを患っていた。DMおよびメタボリックシンドロームを患う患者は、女性で既知の冠動脈疾患を患う場合が多く、診察時により高いTIMIリスクスコアを有したが、NSTEMIの指標診断を有する可能性は低かった(44.8%(DM患者)対51.2%(メタボリックシンドローム患者)対62.8%(罹患診断なしの者)、p<0.001)。血管再生の速度は全群の間で類似していた(40.4%対39.7%対37.4%、p=0.11)。重度の再発性虚血、心筋梗塞、および心血管死のリスクの段階的な増加があり、DMを患う患者において最もリスクが高く、次いでメタボリックシンドロームを患う患者が続き、いずれも患っていない患者が最もリスクが低かった(図1)。
【0172】
結論
メタボリックシンドロームおよび糖尿病はNSTEACSを患う患者によく見られ、心血管のリスクの増加をもたらす。
【実施例4】
【0173】
実施例4
下記の成分を含む持続放出錠剤を調製する:
【表5】

【0174】
化合物、pH依存性結合剤およびいずれか任意の賦形剤を緊密に混合する(乾燥混合)。次いで、混合粉末に噴霧される強塩基の水溶液の存在下、乾燥混合した混合物を顆粒化する。顆粒を乾燥し、スクリーニングし、任意の滑沢剤(タルクまたはステアリン酸マグネシウムなど)と混合し、錠剤に圧縮する。好ましい強塩基の水溶液は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液(任意に最大で25%の水混和性溶媒、例えば低級アルコールを含む)などのアルカリ金属水酸化物の溶液である。
【0175】
結果得られる錠剤は、同定のために、矯味目的のために、および飲み込みやすさを改善するために任意のフィルム形成剤でコーティングされてよい。フィルム形成剤は、典型的には錠剤重量の2%〜4%の範囲の量にて存在するであろう。適切なフィルム形成剤は当該技術分野で周知であり、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カチオン性メタクリレートコポリマー(ジメチルアミノエチルメタクリレート/メチルブチルメタクリレートコポリマー−オイドラギットE(Eudragit(登録商標)E)−ローム・ファーマ(Rohm. Pharma))、などを含む。これらのフィルム形成剤は、着色剤、可塑剤、および他の補助成分を任意に含んでよい。
【0176】
圧縮錠剤は、好ましくは8Kp圧縮に耐えるのに十分な硬度を有する。錠剤サイズは、錠剤内の化合物の量に一次的に依存するであろう。錠剤は、300〜1100mgの化合物遊離塩基を含むであろう。好ましくは、錠剤は、400〜600mg、650〜850mg、および900〜1100mg範囲の量の化合物遊離塩基を含むであろう。
【0177】
溶解速度に影響を与えるために、化合物含有粉末が湿式混合される時間を制御する。好ましくは全粉末混合時間、すなわち粉末が水酸化ナトリウム溶液にさらされる時間は、1〜10分間、好ましくは2〜5分間の範囲であろう。顆粒化後、粒子を造粒機から除去し、流動層乾燥機に設置し、約60℃で乾燥させる。
【実施例5】
【0178】
実施例5
ヘモグロビンA1cアッセイ:
HbA1c濃度を、フィリポフ(Phillipov)の方法(ヘモグロビンA1c定量についての全測定誤差の要素(Components of total measurement error for hemoglobin A1c determination). Phillipov, G., et al. Clin. Chem. (2001), 47(10):1851)の改変に従ってアッセイした(図2参照)。
【実施例6】
【0179】
実施例6
トリグリセリド濃度
DMSOに溶解し、0.5%チロース(tylose)に懸濁した試験化合物を、咽頭チューブによってシリアンゴールデンハムスターへ経口投与する。CETP活性を決定するために、実験の開始に先立って血液サンプル(およそ250.mu.l)を後眼窩穿刺によって採取する。その後、化合物を、咽頭チューブを用いて経口投与する。化合物を含まない同容量の溶媒を、対照動物へ投与する。その後、動物を絶食させる。次いで、化合物の投与後、最大24時間の様々な時間で、血液サンプルを後眼窩静脈叢の穿刺によって採取する。
【0180】
4℃で一晩インキュベーションすることによって、血液サンプルを凝固させる。サンプルを6000Xgで10分間遠心する。結果得られる血清中のコレステロールおよびトリグリセリドの濃度は、市販の酵素試験(コレステロール酵素の14366 Merck、トリグリセリド14364 Merck)の改変を用いて決定される。
【実施例7】
【0181】
実施例7
化合物の抗糖尿病作用を研究するために、STZ(60mg/kg、対照は所定の生理食塩水ビヒクルでありうる)のi.v.注射による膵臓の化学的分解によってインスリン依存性糖尿病が誘発されうる。注射の容量は、0.1ml/体重100gと等しい。若い(190〜220g)オスのスプラーグドーリーラットの予めカニューレ挿入した頸静脈へ注射を送達する(製法については下記を参照のこと)。同時に、浸透圧ミニポンプを皮下に埋め込み(製法については下記を参照のこと)、研究の間、一定の速度で薬物を送達する。研究の長さに依存して、第2のミニポンプを埋め込む必要がありうる。
【0182】
糖尿病状態を確認するために、動物の血液サンプルを尾から採取し(尾の先を切り取る)、それらの血中グルコースを決定する。13mMを超える血中グルコース濃度を有する動物が糖尿病患者と見なされ、4つの群にランダム化する。2つの群は毎日インスリン注射を皮下に受け、部分的グルコース制御を達成する(空腹時グルコース濃度は、非制御糖尿病動物のおよそ50%である)。部分的制御糖尿病患者群の1つを、試験化合物で治療する。さらに、2つの非糖尿病患者群が含まれ、1つは試験化合物を受け、1つは受けない。ラットの非糖尿病患者群は、いずれもインスリンを受けない。
【0183】
週1回の頻度で、イソフルラン(isofluorane)麻酔下動物における500μLの血液サンプルを後眼窩眼出血によって採取し、下記を定量する:血中グルコース、血清非エステル化遊離脂肪酸、血清トリグリセリド、HbA1c、血清インスリン、総コレステロール、HDLコレステロール、および試験化合物の血清濃度。体重も毎週測定する。
【0184】
安定なHbA1cに達した時点で、研究を終了する。これが達成されたとき、無菌技術に従って動物の頸動脈にカニューレ挿入する。血圧を麻酔下で測定し、ラットを目覚めさせる。翌日、経口グルコース耐性試験を行う。経口グルコース耐性試験は、経管栄養による1gグルコース/kgの投与を含む。
【0185】
グルコース負荷前ならびに10、20、30、および60分後、動脈血液サンプル(0.3ml)を以前に血圧測定に用いた頸静脈カテーテルを通じて収集し、血漿をグルコースおよびインスリンアッセイ用に分離する。
【0186】
STZ糖尿病の誘導および浸透圧ミニポンプの埋め込み
イソフルラン(isofluorane)麻酔下、ラットの尾を温水で無菌化し、次いでエタノールで無菌化する。無菌針、シリンジおよびフィルター無菌溶液を用いて、STZまたは生理食塩水のいずれかの尾静脈注射を麻酔下で行う。i.v.注射後、出血を予防するために該部位に圧力を加え、動物を無菌寝具付きの無菌ケージ内に置く。STZまたは生理食塩水注射に加えて、麻酔の初期に、ラットの頸部の皮下にミニポンプを埋め込む。研究が4週間を超えて継続する場合、第2の埋め込みを行う。基本的に、頸部の小部位を切り取り、ヨウ素溶液で広範囲に無菌化し、メスを用いて皮層を1cm小切開し、ポンプを無菌的にポート・ファースト(port−first)でサブキュー(Sub−Q)スペースへ挿入する。次いで、必要に応じて1〜2個の外科用ステープルで切開を閉じる。
【0187】
血圧測定用の頸動脈カテーテルの埋め込み、および経口グルコース耐性試験の実行
無菌技術および器具を用いる状態の後、頭部を外科医の方へ向け、潤滑軟膏剤を両眼に置いた状態で麻酔下ラットを仰向けにする。正中切開を頸部に沿って行い、左総頸動脈を露出する。それが外面化する頸背部の皮下ポケットに、鈍的切開を用いてカテーテル用のトンネルを作る。動脈を単離するために先曲鉗子を用い、単離部位への血流を一時的に妨害するために、動脈の後方部分下を通過するソフトプラスチックチューブを用いる。次いで、外頸動脈の前方部分を一本の4−0絹縫合糸で結紮し、一対の止血鉗子を縫合材料の端に固定することによって軽い張力を動脈上に作る。次いで、外頸動脈を半切断し、0.033または0.040mm O.D.カテーテルを挿入し、大動脈の方へ押す(深さおよそ2〜3cm)。カテーテルを適当な位置に結び、カテーテルの除去を予防するために胸筋に固定し、外頸動脈の前方部分を取り外せないように結紮し、血液の漏出を観察する。外部については、カテーテルを頸部の後ろで結び、皮下からの回収用に、一本の縫合糸を結び目の周囲に両端約2インチ長離して結ぶ。ラットによって引き抜かれることを予防するために、結び目のあるカテーテルを皮下で引っ込める。血圧測定用に、カテーテルを圧力トランスデューサーおよびデータ収集システムに取り付ける。血中グルコース耐性試験用に、カテーテルを血液サンプル収集用の針およびシリンジに取り付ける。
【実施例8】
【0188】
実施例8
化合物の抗糖尿病作用を研究するために、STZ(60mg/kg、対照は所定の生理食塩水ビヒクルである)のi.v.注射による膵臓の化学的分解によってインスリン依存性糖尿病が誘発される。注射の容量は、0.1ml/体重100gと等しい。2つのカテーテルが頸静脈および外頸動脈に外科的に埋め込まれた、予めカニューレ挿入した若い(280〜300g)オスのスプラーグドーリーラットの頸静脈に注射を送達する。糖尿病状態を確認するために、カニューレから動物の血液サンプルを採取し、それらの血中グルコースを決定する。13mMを超える血中グルコース濃度を有する動物が、糖尿病患者と見なされる。開存性を維持するために、予め埋め込んだカテーテルを、ヘパリン処置した生理食塩水で毎日洗い流す。糖尿病誘導の1週間後、ラットを本発明の化合物で薬物動態研究する。動物のカテーテルを皮下から回収し、開存性について検査する。注射プラグを19ゲージIVセットに取り付け、0.1%のヘパリン処置した生理食塩水で充填し、針先をカテーテルへ挿入する。ボーラス注射もしくは定常注入によって、または経口経管栄養によって(それぞれ1ml/kgおよび2ml/kg)、頸静脈カテーテルを通じて試験化合物を投与する。5〜6匹の動物を用いた10時点で、頸動脈のラインから300μlの血液を取り出し、血液量を戻すために300μlの生理食塩水を注入する。300gmの動物からの10時点での300μlの血液は、全血液量の〜10%を表す。24時間サンプルを取り出す場合、カテーテルを皮膚レベルで結び、動物をそれらのケージへ戻す。次いで、最終血液サンプルを収集するために、麻酔下、失血によって24時間でそれらを屠殺する。24時間サンプルがない場合、最終血液収集で麻酔下、失血によって動物を屠殺する。
【実施例9】
【0189】
実施例9
糖尿病を患う狭心症患者における運動パフォーマンスおよびヘモグロビンA1c
CARISA(安定狭心症におけるラノラジンの組み合わせ評価)研究で、ジルチアゼム、アテノロールまたはアムロジピンを服用する823人の症候性慢性狭心症患者をランダム化し、ラノラジン750mg bid、1000mg bidまたはプラセボを並行して服用させ、二重盲検法で、12週間研究した。改変ブルース・トレッドミル(Bruce treadmill)試験をベースラインで行い、治療の2、6、および12週間後、トラフおよびピーク血漿濃度で行った。この研究で用いられるラノラジン製剤は、実施例4に示したものである。
【0190】
ラノラジンは、トラフ(図3)およびピーク(図4)で、糖尿病患者(D)および非糖尿病患者(ND)の両方において運動持続時間(ED)を同様に延長する。750mg用量のラノラジンは、糖尿病を患う狭心症患者においてトラフ薬物濃度で運動持続時間を29秒延長し、非糖尿病性狭心症患者において22秒延長する。1000mg用量のラノラジンは、糖尿病を患う狭心症患者においてトラフ薬物濃度で運動持続時間を34秒延長し、非糖尿病性狭心症患者において21秒延長する。
【0191】
ラノラジンによって、狭心症になるまでの時間が増加し(図5)、狭心症の頻度が減少した。ラノラジンでの改善は、D患者対ND患者において有意な違いはなかった(糖尿病相互作用による治療 p値≧0.26)。有害事象は類似していた:D患者の25%、25%および34%は、それぞれプラセボ、ラノラジン750および1000mgについて少なくとも1つの有害事象を有していたのに対して、ND患者では27%、33%、および32%であった。
【0192】
ラノラジン750および1000mg bidは、12週間で、プラセボと比較してそれぞれ0.48%および0.70%のHbA1cの平均の絶対的減少と関連した(p<0.01)(図6)。インスリンによる治療を受けている患者の減少がより大きかった(それぞれ、0.8および1.1%)(図7)。研究における糖尿病患者についてのグルコースおよびトリグリセリド濃度は、第2表に示す。
【0193】
第2表
グルコースおよびトリグリセリド濃度(全糖尿病患者)
【表6】

【実施例10】
【0194】
実施例10
MARISAおよびCARISAにおける炭水化物および脂質パラメータ
慢性狭心症を患う患者において、ラノラジン(RAN)は単独(MARISA、N=191)およびアテノロール、ジルチアゼム、またはアムロジピンでのバックグラウンドの抗狭心症治療に加えられた場合(CARISA、N=823)の両方で、トレッドミル運動能力を増加した。狭心症の頻度およびニトログリセリン消費は、ラノラジンによって減少した。CARISAおよびMARISA研究に用いられるラノラジン製剤は、実施例4に示した。最も頻繁に報告された有害事象(めまい、便秘および吐き気)は、一般的に軽度のものであり、10%未満の患者に発生した。狭心症患者のおよそ4人に1人が糖尿病を患っているため、糖尿病患者におけるラノラジンの使用可能性は興味深い。
【0195】
ラノラジンの有効性および耐容性は、MARISAおよびCARISAの両方において、糖尿病患者および非糖尿病患者で類似していた。CARISAにおける糖尿病患者(N=131)で、ラノラジン750および1000mg bidは、12週間で、プラセボと比較してそれぞれ0.48%および0.70%のHbA1cの平均の絶対的減少と関連した、(各p<0.01)。プラセボに対する減少は、それぞれ750および1000mg bid(p<0.02およびp<0.01)で、インスリンによる治療を受けている患者において、より大きかった(N=31;0.84および1.05%)。インスリン治療にかかわらず、空腹時グルコースは、CARISAにおける糖尿病患者のラノラジンによって影響されなかった;プラセボについて1件の低糖血エピソードが報告され、ラノラジンについて1件報告された。非盲検治療の12〜24ヶ月後、糖尿病患者においてHbA1cはベースラインから1.1%減少した。CARISAにおける糖尿病患者のラノラジン治療の最初の12週間の間、平均総コレステロールおよびLDLコレステロールは、それぞれ最大で16および11mg/dL増加した;しかしながら、HDLコレステロールの平均増加が最大5mg/dLであるため、HDL/LDL比はほとんど変化しなかった。MARISA/CARISAの総糖尿病人口の3年にわたる非盲検治療において、総コレステロールおよびLDLコレステロールがベースラインから減少した一方で、HDLコレステロールは増加し続けた。
【実施例11】
【0196】
実施例11
MERLIN−TIMI36ランダム化対照試験におけるラノラジンの高血糖への影響
背景
急性冠症候群(ACS)におけるランダム化、二重盲検、プラセボ対照試験の一部としての、ラノラジンの高血糖への影響の予測評価。
【0197】
方法
HbA1c(%)および高血糖の悪化(HbA1cの>1%増加)の発症までの時間を比較するために、MERLIN−TIMI36試験で非ST上昇型ACSを伴う患者をラノラジンまたはプラセボにランダム化した。HbA1cデータは最小二乗平均として報告されている。「糖尿病」と分類される患者は、ランダム化の前またはランダム化の時に糖尿病と診断された。「非糖尿病」と分類される患者は、ランダム化の前またはランダム化の時に糖尿病と診断されなかった。「非糖尿病」と見なされる一部の患者は、試験の間に「糖尿病」と診断されうる;しかしながら、これらの患者は図8Bにおいて、なおも「非糖尿病」カテゴリーに記載されている。
【0198】
結果
連続測定した4306人の患者の間で、ラノラジンはプラセボと比較して、4ヶ月でHbA1cを有意に減少した(5.9%対6.2%、ベースラインからの変化−0.30対−0.04 p=0.001)。ラノラジンで治療されるDMを患う患者において、HbA1cは7.2から6.8へ低下した(Δ−0.64、p<0.001、図8Aを参照のこと)。それ自体、DMを患う患者はラノラジンで治療される場合、4ヶ月でHbA1c<7%を達成する可能性がプラセボに対して有意に高かった(59%対49%、p<0.001)。さらに、1年の追跡調査による高血糖の悪化は、ラノラジンで治療される糖尿病患者では起こりにくかった(14.2%対20.6%;HR0.63;95%CI0.51、0.77、p<0.001)。特に、ランダム化またはベースラインでDMを患っていない患者において(空腹時グルコース<100mg/dLおよびHbA1c<6%)、新たな空腹時グルコース>110mg/dLまたはHbA1c≧6%の発生率もラノラジンによって減少した(31.8%対41.2%;HR0.68;95%CI0.53、0.88;p=0.003;図8Bを参照のこと)。DMを患う患者における報告された低血糖症は、治療群の間で類似していた(3%対3%)。
【0199】
結論
ラノラジンは、DMを患う患者においてHbA1cを有意に改善し、既往の高血糖の兆候がない患者において新たなHbA1c増加の発生率を減少した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者においてHbA1cの血漿濃度を低下させる方法であり、式I:
【化1】

[式中:
、R、R、RおよびRは各々独立して水素、低級アルキル、低級アルコキシ、シアノ、トリフルオロメチル、ハロ、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、もしくはN任意置換アルキルアミドであるが、ただしRがメチルである場合、Rはメチルではない;
またはRおよびRは一緒になって−OCHO−を形成し;
、R、R、RおよびR10は各々独立して水素、低級アシル、アミノカルボニルメチル、シアノ、低級アルキル、低級アルコキシ、トリフルオロメチル、ハロ、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、もしくはジ低級アルキルアミノであり;または
およびRは一緒になって−CH=CH−CH=CH−を形成し;または
およびRは一緒になって−O−CHO−を形成し;
11およびR12は各々独立して水素または低級アルキルであり;ならびに
Wは酸素または硫黄である;]
の化合物、またはその医薬的に許容される塩もしくはエステル、もしくはその異性体の治療上の有効量の投与を含む方法。
【請求項2】
式Iの化合物がラノラジン、すなわちN−(2,6−ジメチルフェニル)−4−[2−ヒドロキシ−3−(2−メトキシフェノキシ)プロピル]−l−ピペラジンアセトアミドのラセミ混合物、もしくはその異性体、またはその医薬的に許容される塩である、請求項1の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者を治療する方法であり、
a) 少なくとも1つの急性または非急性心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者を選択し、
b) 該患者へラノラジンの有効量を投与する
ことを含む方法。
【請求項4】
患者が急性心血管疾患症状を示す、請求項3の方法。
【請求項5】
心血管疾患が狭心症である、請求項3の方法。
【請求項6】
心血管疾患が慢性狭心症である、請求項5の方法。
【請求項7】
ラノラジンが患者へ静脈内投与される、請求項4の方法。
【請求項8】
静脈内投与が最大約96時間にわたる、請求項7の方法。
【請求項9】
ラノラジンが患者へ経口投与される、請求項3の方法。
【請求項10】
ラノラジンが即時放出製剤として投与される、請求項9の方法。
【請求項11】
ラノラジンが持続放出製剤として投与される、請求項9の方法。
【請求項12】
ラノラジンが即時放出態様および持続放出態様の両方を有する製剤にて投与される、請求項9の方法。
【請求項13】
持続放出製剤が24時間にわたって550〜7500ng塩基/mlの間のラノラジン血漿濃度を提供する、請求項11の方法。
【請求項14】
持続放出製剤が少なくとも50重量%のラノラジン、pH依存性結合剤、およびpH非依存性結合剤を含む、請求項11の方法。
【請求項15】
持続放出製剤が少なくとも50重量%のラノラジン、約5〜約12.5重量%のメタクリル酸コポリマー、約1〜約3重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶セルロース、水酸化ナトリウム、およびステアリン酸マグネシウムを含む、請求項14の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの心血管疾患を患う患者におけるHbA1cの血漿濃度を減少させるための方法であり、ラノラジンの有効量を、それを必要とする患者へ投与することを含む方法。
【請求項17】
少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者において高血糖の悪化の発症を遅延または減速させるための方法であり、ラノラジンの有効量を、それを必要とする患者へ投与することを含む方法。
【請求項18】
少なくとも1つの心血管疾患を患う糖尿病患者、前糖尿病患者、または非糖尿病患者において高血糖の発症を遅延または減速させるための方法であり、ラノラジンの有効量を、それを必要とする患者へ投与することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−528112(P2010−528112A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510275(P2010−510275)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際出願番号】PCT/US2007/070140
【国際公開番号】WO2008/147417
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(504003226)ギリアード・パロ・アルト・インコーポレイテッド (62)
【氏名又は名称原語表記】Gilead Palo Alto,Inc.
【Fターム(参考)】