説明

糖質コルチコイドレセプター特異的アンタゴニストを使用するストレス障害を処置するための方法

【課題】ストレス障害と診断された患者を処置するために糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストを投与する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、正常コルチゾールレベルまたは低下したコルチゾールレベルを有する患者におけるストレス障害の症状を改善する方法を提供する。本方法は、心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、または顕著なストレッサーを伴う短期精神病性障害と診断され得る、患者に対する、治療有効な量の糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストの投与を包含する。本発明の1つの実施形態において、ストレス障害を処置する方法は、ステロイド骨格の11β位において少なくとも1つのフェニルを含む部分を有するステロイド骨格を含む糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、米国特許出願番号60/278,523(2001年3月23日出願)(これは、全ての目的に対してその全体が参考として本明細書中で明示的に援用される)に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般に、精神医学の分野に関する。特に、本発明は、糖質コルチコイドレセプターへのコルチゾールの結合を阻害する薬剤がストレス関連障害を処置する方法において使用され得るという発見に関する。
【背景技術】
【0003】
(序論)
ストレス障害は、環境的に誘導された精神医学的状態である。1以上の外傷性ストレス事象に対する曝露によって、その犠牲者が解離性の症状を経験し、そしてその外傷性事象を再度経験する急性または長期間が生じ得る。いくつかの個体において、外傷性のストレス因子(ストレッサー)に対する曝露によって、精神病的であると分類されるほど重篤である精神的な機能障害および解体の短期のエピソードをさえも誘導され得る。抗うつ剤(例えば、選択的なセロトニン再取込み阻害剤、三環系剤、およびモノアミンオキシダーゼインヒビター)は、心的外傷後ストレス障害(Post−Traumatic Stress Disorder)に対する試みにおいて見込みがあったが、一般的な患者集団または混合患者集団におけるストレス障害に対して汎用的に有効である現在利用可能な薬物療法は存在しない。非特許文献1を参照のこと。
【0004】
コルチゾールは、ACTH(コルチコトロピン(副腎皮質刺激ホルモン))に応答して分泌され、このコルチゾールは、概日性リズム変動を示し、そして、さらに多くの身体的および生理学的なストレスに対する応答において重要な要素であり得る。加齢に伴って、コルチゾール調節系は、いくつかの個体において機能亢進となり、過剰コルチコイド血症(hypercortisolemia)を生じることが提案されてきた。高レベルのコルチゾールは、特に海馬、すなわち複雑な情報および記憶の処理および短期記憶の中心であると考えられてきた脳構造において、神経毒性であることがさらに想定されてきた(例えば、非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;Maedaら,前出)。
【0005】
持続的に高レベルの循環しているコルチゾールは、海馬の体積損失に関連している。非特許文献5を参照のこと。さらに、過剰なコルチゾール分泌を低減するための副腎の外科的処置によって、高コルチゾールレベルによって生じた海馬萎縮が逆転され得る。非特許文献6を参照のこと。海馬萎縮はまた、心的外傷後ストレス障害の特徴であり、そして、ストレス障害に関連する上昇したレベルの糖質コルチコイドは、海馬体積の損失に寄与することを示唆する証拠が存在する。非特許文献7を参照のこと。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】MarshallおよびPierce,Harvard Rev Psychiatry 7:247−55(2000)
【非特許文献2】Sapolskyら,Ann.NY Acad Sci 746:294−304,1994
【非特許文献3】Silva,Annu.Rev.Genet.31:527−546,1997
【非特許文献4】de Leonら,J Clin Endocrinol & Metab.82:3251,1997
【非特許文献5】Starkmanら,Biol Psychiatry 32:756−764,1992
【非特許文献6】Starkmanら,Biol Psychiatry 46:1595−602,1999
【非特許文献7】Sapolsky,Arch Gen Psychiatry 57: 925−935(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ストレスとコルチゾール分泌との間の関連にも関わらず、持続性のストレス障害に罹患している多くの患者がコルチゾールレベルを増大したのではなく、むしろ減少したという証拠が蓄積されてきた。Heimら、Psychoneuroendocrinology 25:1〜25(2000)を参照のこと。持続的なストレス障害がコルチゾールの過敏性の状態を表すことを想定することにより、ストレス障害患者における副腎皮質機能低下(Hypocortisolism)が、急性ストレスによって引き起こされる上昇したコルチゾールレベルとともに調和され得る。すなわち、急性ストレッサーに対する曝露によって、減少したコルチゾール分泌を最終的に導くネガティブフィードバック機構を誘発し得る。持続的な低レベルのコルチゾールは、下部視床−下垂−副腎軸(hypothalamic−pituitary−adrenal axis)を、循環糖質コルチコイドレベルの僅かな上昇にさえにも応答するように「プライム」された状態のままにし得る。その結果、軽度のストレッサー(これは、糖質コルチコイドにおける僅かな上昇を生じる)は、持続的なストレス障害に罹患する患者における外傷性応答を引起し得る。Yehuda, J Clin Psychiatry 61 Suppl 7 (5):14−21(2000)を参照のこと。
【0008】
しかし、糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストがストレス障害(特に正常範囲にあるコロチゾールレベルを有する患者おいて)に有効な処置であり得るということの本発明に先行する証拠は存在しない。コルチゾールの作用の多くは、I型(鉱質コルチコイド)レセプターに対する結合(これは、生理コルチゾールレベルで、II型(糖質コルチコイド)レセプターと比較して優勢的に占められている)によって媒介される。コルチゾールが増大するにつれて、より多くの糖質コルチコイドレセプターが占有するようになり、かつ活性化される。しかし、コルチコイドが代謝において必須の役割を担うので、全てのコルチゾール媒介性活性の阻害は、致命的である。従って、糖質コルチコイドレセプター機能を特異的に妨げるが、鉱質コルチコイドレセプターの機能を拮抗しないアンタゴニストが、本発明において特に有用である。ミフェプリストンおよび類似のアンタゴニストは、このカテゴリーのレセプターアンタゴニストの例である。
【0009】
ミフェプリストンは、ラットの海馬においていくつかの加齢関連の電気生理学的変化を排除するのに有効であり(Talmiら、Neurobiol.of Aging 17:9〜14、1996)、そして、マウスの海馬において酸化的ストレス誘導性神経細胞死に対する保護を提供すること(Behlら、European J.of Neurosci 9:912〜920、1997)と知られている。しかし、ミフェプリストンが、ストレス障害に関連する海馬萎縮症という消失を妨げるか、または逆行させ得ることを示した研究はこれまでなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、糖質コルチコイドレセプターアンタゴニスト(例えば、ミフェプリストン)が,正常または減少したコルチゾールレベル有する患者におけるストレス障害の特異的な処置のために有効な薬剤であることを決定した。従って、本発明は、ストレス障害と診断された患者を処置するために糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストを投与する方法を提供することによってストレス障害について有効な処置の必要性を満足する。
【0011】
(発明の要旨)
本発明は、正常コルチゾールレベルまたは低下したコルチゾールレベルを有する患者におけるストレス障害の症状を改善する方法を提供する。本方法は、心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、または顕著なストレッサーを伴う短期精神病性障害と診断され得る、患者に対する、治療有効な量の糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストの投与を包含する。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、ストレス障害を処置する方法は、ステロイド骨格の11β位において少なくとも1つのフェニルを含む部分を有するステロイド骨格を含む糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストを使用する。このステロイド骨格の11β位にあるフェニル含有部分は、ジメチルアミノフェニル部分であり得る。代替的な実施形態において、この糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストは、ミフェプリストンを含むか、あるいは、この糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストは、RU009およびRU044からなる群より選択される。
【0013】
他の実施形態において、この糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストは、約0.5mg/体重Kg/日〜約20mg/体重Kg/日の間の日用量で投与されるか;約1mg/体重Kg/日〜約10mg/体重Kg/日で投与されるか;あるいは、約1mg/体重Kg/日;約1〜約4mg/体重Kg/日で投与される。この投与は、1日につき1度であり得る。代替的な実施形態において、糖質コルチコイドレセプターアンタゴニスト投与の様式は、経口様式であるか、または、経皮適用によってか、噴霧懸濁物によってか、もしくはエアロゾル噴霧によってである。
【0014】
本発明はまた、外傷性ストレッサーに曝されたが、ストレス障害の特徴的な症状をまだ発症していない患者における、ストレス障害の症状の急な出現を予防、遅延、または軽減する方法を提供する。本方法は、外傷性ストレッサーに対する曝露の30日間に以内に、有効量の糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストを被験体患者に投与する工程を包含する。
【0015】
本発明はまた、ヒトにおけるストレス障害を処置するためのキットを提供し、このキットは、糖質コルチコイドレセプターアンタゴニスト;ならびに糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストの投与の適用、用量およびスケジュールを教示する指示資料を備える。代替的実施形態において、この指示資料は、この糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストが、約0.5mg/体重Kg/日〜約20mg/体重Kg/日、約1mg/体重Kg/日〜約10mg/体重Kg/日、または約1mg/体重Kg/日〜約4mg/体重Kg/日の1日用量で投与され得る。この指示資料は、コルチゾールが、ストレス障害を有する患者のストレス誘導性の症状に寄与すること、そして、この糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストがストレス障害を処置するために使用され得ることを示し得る。1つの実施形態において、キット中の糖質コルチコイドレセプターアンタゴニストは、ミフェプリストンである。このミフェプリストンは、錠剤形態であり得る。
【0016】
本発明の性質および利点をさらに理解することは、本明細書の残りの部分および特許請求の範囲を参照することによって実現される。
【0017】
本明細書中で引用された全ての刊行物、特許および特許出願は、全ての目的の為の参考として、明示的に援用される。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
ストレス障害の症状の改善を必要とする患者において、ストレス性障害の症状を改善するために有効な量のグルココルチコイドレセプターアンタゴニストを投与することによって、該ストレス障害の症状を改善する方法であって、ここで、該ストレス障害が、心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、および顕著なストレス因子を伴う短期精神病性障害からなる群から選択され、ただし、該患者は、他の場合には、グルココルチコイドレセプターアゴニストでの処置を必要としない、方法。
(項目2)
項目1に記載の方法であって、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、ステロイド骨格の11β位に少なくとも1つのフェニル含有部分を有するステロイド骨格を含む、方法。
(項目3)
項目2に記載の方法であって、前記ステロイド骨格の11β位における前記フェニル含有部分が、ジメチルアミノフェニル部分である、方法。
(項目4)
前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、ミフェプリストンを含む、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、RU009およびRU044からなる群から選択される、項目4に記載の方法。
(項目6)
項目1に記載の方法であって、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、約0.5mg/kg体重/日〜約20mg/kg体重/日の間の一日量で投与される、方法。
(項目7)
項目6に記載の方法であって、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、約1mg/kg体重/日〜約10mg/kg体重/日の間の一日量で投与される、方法。
(項目8)
項目7に記載の方法であって、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、約1mg/kg体重/日〜約4mg/kg体重/日の間の一日量で投与される、方法。
(項目9)
前記投与が、一日あたり一回である、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記投与の様式が、経口的である、項目1に記載の方法。
(項目11)
項目1に記載の方法であって、前記投与の様式が、経皮的適用によって、噴霧懸濁液によって、またはエアロゾルスプレーによってである、方法。
(項目12)
外傷性ストレス因子に曝された患者におけるストレス障害の症状の出現を予防または改善する方法であって、該方法は、該外傷性ストレスに曝された30日以内に、有効量のグルココルチコイドレセプターアンタゴニストを該患者に投与する工程を包含する、方法。
(項目13)
ヒトにおけるストレス障害を処置するためのキットであって、該キットは、以下:
特定のグルココルチコイドレセプターアンタゴニスト;および
心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、および顕著なストレス因子を伴う短期精神病性障害からなる群から選択されるストレス障害を有する患者への、該グルココルチコイドレセプターアンタゴニストの投与の指示、投薬量およびスケジュールを教示する指示書、を含む、キット。
(項目14)
項目13に記載のキットであって、前記指示書が、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、約0.5mg/kg体重/日〜約20mg/kg体重/日の一日量で投与され得ることを示す、キット。
(項目15)
項目13に記載のキットであって、前記指示書が、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、約1mg/kg体重/日〜約10mg/kg体重/日の一日量で投与され得ることを示す、キット。
(項目16)
項目13に記載のキットであって、前記指示書が、前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、約1mg/kg体重/日〜約4mg/kg体重/日の一日量で投与され得ることを示す、キット。
(項目17)
前記グルココルチコイドレセプターアンタゴニストが、ミフェプリストンである、項目13に記載のキット。
(項目18)
前記ミフェプリストンが、錠剤形態である、項目13に記載のキット。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(定義)
用語「処置(する)」とは、損傷、病理または状態の処置または改善の成功の任意の徴候をいい、この徴候は、任意の主観的または客観的なパラメータ(例えば、減退;症状の消失もしくはその損傷、病理または状態を患者によってより許容できるものにすること;変性または衰退の速度を遅くすること;変性の最終的な点でより衰弱させないこと;患者の身体的または精神的な健康状態(well−being)の改善)を含む。症状の処置または回復は、身体検査、神経精神医学的検査、および/または精神医学的評価の結果を含む客観的および主観的パラメーターに基づき得る。例えば、本発明の方法は、解離症状の発症率、外傷性事象の再経験、または精神病的な挙動を首尾よく減少することによって患者のストレス障害を処置する。
【0019】
用語「ストレス障害」とは、外傷性事象またはストレス性事象に曝露することによって誘発される精神医学的状態をいう。ストレス障害としては、急性ストレス障害、後外傷性ストレス障害、および顕著なストレッサーを伴う短期精神病性障害が挙げられる。
【0020】
用語「急性ストレス障害」とは、アメリカ精神医学会の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental
Disorders,Fourth Edition,Text Revision,
Washingthon,D.C.,2000)(「DSM−IV−TR」)に規定されるようなその広義における精神医学的状態をいう。このDSM−IV−TRは、不安症、解離症(dissociative)、および極度の外傷性ストレッサーに対する曝露後の1月以内に生じる他の症状によって特徴付けられると「急性ストレス障害」を定義している。このDSM−IV−TRは、急性ストレス障害を診断し、そして、分類するために一般的受け入れられた基準を示している。
【0021】
用語「後外傷性ストレス障害」は、DSM−IV−TRにおいて定義つけられるような、その広義における精神医学的状態をいう。DSM−IV−TRは、「後外傷性ストレス障害」を、極度の外傷性事象の持続的な再経験によって特徴付けている。このDSM−IV−TRは、後外傷性ストレス障害を診断し、そして分類するために一般的受け入れられた基準を示している。
【0022】
「顕著なストレッサーを伴う短期精神病性障害」とは、DSM−IV−TRに定義づけらるような、その広義の精神医学的状態をいう。DSM−IV−TRは、「顕著なストレッサーを伴う短期精神病性障害」を、1つ以上のストレス性事象の直後で、かつその事象に明確に応答して発症する精神病的症状の突発的であるが短期の症状として定義付けている。DSM−IV−IRは、顕著なストレッサーを伴う短期精神病性障害を診断し、そして分類するために一般的受け入れられた基準を示している。
【0023】
用語「コルチゾール」とは、ヒドロコルチゾンとまた呼ばれる組成物のファミリー、およびそれらの任意の合成もしくは天然のアナログいう。
【0024】
用語「糖質コルチコイドレセプター(GR)」とは、コルチゾールレセプターとも呼ばれる細胞内レセプターのファミリーをいい、これは、コルチゾールおよび/またはコルチゾールアナログに特異的に結合する。この用語は、GRのアイソフォーム、組換えGRおよび変異GRを含む。
【0025】
用語「ミフェプリストン」は、RU486もしくはRU38.486とも称される化合物,または17−β−ヒドロキシ−ll−β−(4−ジメチル−アミノフェニル)−17−α−(l−プロピニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン)もしくは11−β−(4ジメチルアミノフェニル)−17−β−ヒドロキシ−17−α−(1−プロピニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン)あるいはこれらのアナログのファミリーをいい、これらは、代表的には高い親和性でGRに結合し、そしてGRレセプターに対する任意のコルチゾールまたはコルチゾールアナログの結合によって開始/媒介される生物学的効果を阻害する。RU−486についての化学名は変化し、例えば、RU486はまた、以下のように称される:11B−[p−(ジメチルアミノ)フェニル]−17B−ヒドロキシ−17−(1−プロピニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン;11B−(4−ジメチル−アミノフェニル)−17B−ヒドロキシ−17A−(プロプ−l−イニル)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン;17B−ヒドロキシ−11B−(4−ジメチルアミノフェニル−l)−17A−(プロピニル−l)−エストラ−4,9−ジエン−3−オン;17B−ヒドロキシ−11B−(4−ジメチルアミノフェニル−1)−17A−(プロピニル−l)−E;(11B,17B)−11−[4−ジメチルアミノ)フェニル]−17−ヒドロキシ−17−(l−プロピニル)エストラ−4,9−ジエン−3−オン;および11B−[4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル]−17A−(プロプ−1−イニル)−D−4,9−エストラジエン−17B−オール−3−オン。
【0026】
用語「特異的グルココルチコイドレセプターアンタゴニスト」は、グルココルチコイドレセプター(GR)に対するGRアゴニスト(例えば、合成または天然の、コルチゾールまたはコルチゾールアナログ)の結合を、部分的または完全に阻害(拮抗)する、任意の組成物または化合物をいう。「特異的グルココルチコイドレセプターアンタゴニスト」はまた、アゴニストに対するGRの結合に関連する任意の生物学的応答を阻害する、任意の組成物または化合物をいう。「特異的」によって、本発明者らは、鉱質コルチコイドレセプター(MR)よりも少なくとも100倍、そしてしばしば1000倍の速度でGRに優先的に結合する薬物を意図する。
【0027】
「その他の点ではグルココルチコイドレセプターアンタゴニストでの処置を必要としない」患者は、グルココルチコイドレセプターアンタゴニストで有効に処置可能であることが当該分野で公知の状態に罹患していない患者をいう。グルココルチコイドレセプターアンタゴニストで有効に処置可能であることが当該分野で公知であるかまたは報告されている状態としては、クッシング病、精神分裂病および躁病、うつ病、せん妄および精神病性大うつ病が挙げられる。
【0028】
(発明の詳細な説明)
本発明は、グルココルチコイドレセプター媒介性の生物学的応答を阻害し得る薬剤が、ストレス障害を処置するために有効であるという、驚くべき発見に関する。ストレス障害の処置において、本発明の方法は、ストレス障害の症状を優先的に緩和し得るか、または根本的な障害自体の完全な解決を導き得る。1つの実施形態において、本発明の方法は、グルココルチコイドレセプター(GR)とのコルチゾールの相互作用をブロックする、GRアンタゴニストとして作用する薬剤を使用して、ストレス障害またはストレス障害に関連する症状を処置または緩和する。本発明の方法は、天然かまたは合成の、コルチゾールまたは他のグルココルチコイドの、減少、正常または増加したレベルのいずれかに罹患したストレス障害患者の症状を緩和する際に有効である。
【0029】
コルチゾールは、細胞内グルココルチコイドレセプター(GR)に結合することによって作用する。ヒトにおいて、グルココルチコイドレセプターは、2つの形態で存在する:777アミノ酸のリガンド結合GR−α;および最後の15アミノ酸のみが異なるGR−β異性体。これら2つの型のGRは、それらの特異的リガンドに対して高い親和性を有し、そして同じ伝達経路を介して機能すると考えられる。
【0030】
副腎皮質機能亢進(hypercortisolemia)によって引き起こされる病理または機能不全を含む、コルチゾールの生物学的効果は、レセプターアンタゴニストを使用して、GRレベルにおいて調節および制御され得る。いくつかの異なるクラスの薬剤が、GRアンタゴニストとして作用し得る。すなわち、GRアゴニスト結合(天然のアゴニストは、コルチゾールである)の生理学的効果をブロックする。これらのアンタゴニストは、GRに結合することによってアゴニストが効果的にGRに結合および/またはGRを活性化する能力をブロックする組成物を含む。既知のGRアンタゴニストの1つのファミリーである、ミフェプリストンおよび関連化合物は、ヒトにおける効果的かつ強力な抗グルココルチコイド薬剤である(Bertagna、J.Clin.Endocrinol.Metab.59:25、1984)。ミフェプリストンは、高い親和性で(10−9M未満の解離Kで)、GRに結合する(Cadepond、Annu.Rev.Med.48:129、1997)。従って、本発明の1つの実施形態において、ミフェプリストンおよび関連化合物は、ストレス障害を処置するために使用される。
【0031】
ストレス障害は、代表的に、種々の症状(純粋に心理学的な症状(例えば、心的外傷事象の再経験)、生理学的症状(例えば、持続的覚醒)および精神医学的症状(例えば、精神病的妄想)を含む)を伴って現れる。従って、ストレス障害を診断し、そして処置の成功(すなわち、ストレス障害の症状が本発明の方法によって低減される、成功および程度)を評価する種々の手段が使用され得、そしていくつかの例示的手段が本明細書中に示される。これらの手段としては、以下に記載されるような、古典的な主観的心理学的評価および神経精神病学的試験が挙げられ得る。
【0032】
本発明の方法は、アゴニスト結合GRの生物学的効果を阻害する任意の手段の使用を含むので、ストレス障害を処置するために使用され得る例示的化合物および組成物もまた示される。本発明の方法の実施における使用のための、GR−アゴニスト相互作用によって引き起こされる生物学的応答をブロックする、さらなる化合物および組成物を同定するために使用され得る慣用的な手段もまた記載される。本発明は、医薬としてこれらの化合物および組成物を投与することを提供するので、本発明の方法を実行するためのGRアンタゴニストの薬物レジメンおよび処方を決定するための慣用的な手段が、以下に示される。
【0033】
(1.急性ストレス障害の診断)
急性ストレス障害(ASD)は、少なくとも2日間続き、そして過剰な心的外傷ストレスへの曝露の1ヶ月以内に出現および解決する、症状の布置によって特徴付けられる。症状が、心的外傷ストレスへの曝露後1ヶ月を超えて出現または持続する場合、この患者は、ASDではなく、心的外傷後ストレス障害に罹患しているとみなされ得る。ASDは、心的外傷後ストレス障害への一般的な前兆であり、そして最初にASDに罹患した外傷生存者の80%までが、6ヶ月後に心的外傷後ストレス障害の診断基準を満たす(Brewinら、Am J Psychiatry 156:360−6、1999を参照のこと)。
【0034】
患者は、過剰な心的外傷ストレッサーへの曝露後にASDを発症する(DSM−IV−TR基準A)。強い恐怖(fear)、無力感または恐怖(horror)を伴うストレッサーに必ず応答する人物は、ASDと診断される。ASDは、外傷事象(暴力犯罪、身体的外傷、戦闘、生命を脅かす病気との診断、および自然災害または人為的災害を含む)の直接的経験から直接発症し得る。患者はまた、他者、特に家族の一員または親しい友人に起こる外傷性事象を目撃することまたはそれについて知ることから、ASDを発症し得る。死、死体または身体部分への予期しない曝露もまた、ASDを誘導し得る。
【0035】
ASDの診断は、その人物がいくつかの他の症候基準を満たすことを必要とする。この人物は、心的外傷ストレッサーと組み合わせて、3つ以上の解離性症状を必ず経験する(基準B)。解離性症状としては、無感覚または解離の主観的感覚、周囲への関心の低下、現実感消失、離人症および解離性健忘症が挙げられる。さらに、ASDは、犠牲者が、反復的なイメージ、思考、夢、幻覚、事象を追体験する感覚、または事象を思い出させるものに曝された際の苦痛によって、持続的に外傷性事象を再経験することを必要とする(基準C)。この人物は、外傷の記憶を呼び覚ます刺激の顕著な回避(基準D)および不安感もしくは増大した興奮の顕著な症状(基準E)を必ず提示する。最後に、上記の時間的要件に加えて、ASDの診断は、障害が、有意な苦痛または生活障害を引きこし、そして別の精神医学的状態にも生理学的状態にも起因しないことを必要とする(基準F〜H)。
【0036】
ASDは、当該分野で公知の、いくつかの客観的な標準化された試験手段のいすれか1つを用いて診断および評価され得るが、熟練の臨床医は、体系化されていない臨床的やりとりを介して容易にASDを診断し得る。標準化された試験手段は、経験を積んだ臨床研究者によって、DSM診断基準に基づいて構築され、そして種々の患者集団の統計的研究および比較によって代表的には検証される。一般に、標準化された手段は、顕著な心理学的症状または生理学的症状と内的思考プロセスの両方を評価する。標準化された試験手段は、ヘルスケアの開業医によって施される体系化された臨床的問診を含み得るか、または推定患者によって完全に記入される自己報告質問表を含み得る。臨床的に施される試験手段または自己報告試験手段のいずれかを使用して、抗グルココルチコイド治療から利益を得るASD患者を同定し得る。
【0037】
ストレス障害を診断するために使用される試験手段のためのガイダンス、手順および推奨は、Standards of Traumatology Practice、2000年4月改定(Academy of Traumatology、Tallahassee、FL)において見出され得る。ASDについての抗グルココルチコイド治療を必要とする患者を同定するために適切な臨床的に施される試験手段としては、Acute Stress Disorder Interview(ASDI;Bryantら、Psychological Assessment 10:215−20(1998))が挙げられる。自己報告手段としては、改良したStanford Acute Stress Reaction Questionnaire(SASRQ;Cardenaら、J Traumatic Stress 13:719−734(2000))およびAcute Stress Disorder Scale(ASDS;Bryantら、Psychological Assessment 12:61−68(2000))が挙げられる。最も統計的に妥当な、ASD集団および非ASD集団への患者の分割を生じるカットオフスコアは確立されており、そして各試験について報告されており(例えば、解離性クラスターについては9以上のスコア、そしてASDSについての再経験、回避および覚醒クラスターについては28以上のスコア)、そして抗グルココルチコイド治療について患者を選択するために使用され得る。
【0038】
(2.心的外傷後ストレス障害の診断)
急性ストレス障害のように、心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、過剰な心的外傷ストレッサーへの曝露後に出現し、そして外傷性事象の持続的な再経験、心的外傷に伴う刺激の回避および不安感または増大した興奮によって特徴付けられる。PTSDおよびPTSD症状の出現を生じる心的外傷ストレッサーの型は、ASDについての上記の型と同一であるが、3つの差異が存在する。第一に、ASDの診断のために必要な解離性症状は、PTSDの診断のためには必要でないが、解離性症状は、PTSD患者において一般的に見られ得る。第二に、PTSDは、心的外傷ストレッサーへの曝露の1ヶ月以内に生じる必要はなく、そして外傷性事象の数ヵ月後または数年後に生じ得る。第三に、ASDの診断のために、最大で1ヶ月の症状の持続期間が必要とされるのと対照的に、症状は、PTSDの診断がなされるために、少なくとも1ヶ月間にわたって持続しなければならない。
【0039】
熟練した臨床医は、体系化されていない臨床的やりとりに基づいて、PTSDを有する患者を慣用的に診断する。それにもかかわらず、いくつかの自己報告および臨床医に施される評定尺度はPTSDを診断するために使用され得、そして抗グルココルチコイド治療を必要とする患者を選択するために適切である。臨床医に施される評定尺度としては、以下が挙げられる:Structured Interview for PTSD(SI−PTSD;Davidsonら、J Nervous Mental Disease
177:336−41 (1989))、Clinician Administered PTSD Scale(CAPS;Blakeら、Behavior Therapist 13:187−8(1990))およびShort Screening Scale for DSM−IV PTSD(Breslauら、Am J Psychiatry 156:908−11(1999))。適切な自己報告評定尺度としては、以下が挙げられる:完全または短縮形態のMississippi Scale for
Combat−Related PTSD(Keaneら、J Consult Clin Psychol 56:85−90(1988);FontanaおよびRosenbeck、J Traumatic Stress 7:407−14(1994))、Revised Civilian Mississippi Scale for PTSD(NorrisおよびPerilla、J Traumatic Stress
9:285−98(1996))およびDavidson Trauma Scale(Davidsonら、Psychological Med 27:153−60(1997))。ASDへの評定基準と同様に、PTSD診断についてのカットオフスコアは、最適な感受性、選択性、ポジティブ予測値およびネガティブ予測値を生じるスコアを選択することによって決定される(例えば、DSM−IV PTSDについてのShort
Screening Scaleに対して4以上のスコア;Breslauら、前出)。
【0040】
(3.顕著なストレッサーによる短期精神病性障害(Brief Psychotic
Disorder with Marked Stressor)の診断)
短期精神病性障害は、短期間(1日と1ヶ月との間)の障害であり、少なくとも1つの精神病性症状(例えば、妄想、幻覚、でたらめな会話またはひどく無秩序な挙動もしくは緊張した挙動)の突然の発症を含む。短期精神病性障害は、一般的な医学的状態によって誘導される障害を除く。精神病的症状が、1以上のひどくストレス性の事象に応答して、その直後に明らかに発症する場合、その障害は、顕著なストレッサーによる短期精神病性障害(以前に、DSM−III−Rにおいて「短期反応性精神病」と名付けた)として診断される。顕著なストレッサーによる短期精神病性障害は、本発明のグルココルチコイドレセプターアンタゴニストによって処置可能である。
【0041】
顕著なストレッサーによる短期精神病性障害は、一般に、体系化されていない臨床的やりとりにおいて診断され、ここで、熟練の臨床医は、患者の症状が、その障害についてのDSM−IV−TR基準内に入るか否かを評価する。顕著なストレッサーによる短期精神病性障害はまた、体系化された臨床的問診において、標準化された試験手段によって診断され得る。適切な標準化された手段は、Firstら、Structured Clinical Interview for DSM−IV Axis I Disorders、Research Version、Patient Edition With
Psychotic Screen(SCID−I/P W/PSY SCREEN)、New York:Biometrics Research、New York State Psychiatric Institute(1997)である。
【0042】
(4.一般的実験室手順)
本発明の方法を実施する場合、多数の一般的実験室試験を用いて、ストレス障害を有する患者の診断、進行および予後(血液コルチゾール、薬物代謝、脳の構造および機能などのようなパラメーターのモニタリングを含む)を補助し得る。これらの手順は、有用であり得る。なぜなら、全ての患者は、薬物を代謝してその薬物に対して独特に反応するからである。さらに、このようなモニタリングは、重要であり得る。なぜなら、各GRアンタゴニストは、異なる薬物動態を有するからである。異なる患者および疾患状態は、異なる投薬レジメンおよび処方を必要とし得る。投薬レジメンおよび処方を決定するためのこのような手順および手段は、科学文献および特許文献に充分に記載されている。いくつかの例示的な例を以下に示す。
【0043】
(a.血液コルチゾールレベルの決定)
種々のレベルの血液コルチゾール(特に、高レベルのコルチゾール)は、ストレス障害と関連しているが、本発明はまた、明らかに正常レベルの血液コルチゾールを有する患者に対して実施され得る。Mazureら,Biol Psychiatry 41:865−70(1997)を参照のこと。従って、血液コルチゾールのモニタリングおよびベースラインコルチゾールレベルの決定は、ストレス障害患者の診断、処置および予後を補助するに有用な実験室試験である。個体が正常であるか、低コルチゾール血症(hypocortisolemic)であるか、または高コルチゾール血症(hypercortisolemic)であるかを決定するために用いられ得る、広範な種々の実験室試験が存在する。ストレス障害患者は代表的に、しばしば、午後には25μg/dl未満であり、そして午後には頻繁に約15μg/dl未満である正常レベルのコルチゾールを有するが、この値はしばしば、午後には一般に5〜15μg/dlと考えられる、正常範囲のハイエンドで低下する。
【0044】
免疫アッセイ(例えば、放射免疫アッセイ)が通常用いられる。なぜなら、これは、正確で、実施が容易で、かつ比較的安価であるからである。循環コルチゾールのレベルは、副腎皮質機能の指標であるので、種々の刺激試験および抑制試験(例えば、ACTH刺激、ACTH予備、デキサメタゾン抑制試験(例えば、Greenwald,Am.J.Psychiatry 143:442−446,1986を参照のこと)はまた、本発明の方法に補助的に用いられるべき診断情報、予後情報または他の情報を提供し得る。
【0045】
キットの形態で入手可能な1つのこのようなアッセイは、「Double Antibody Cortisol Kit」(Diagnostic Products Corporation,Los Angeles,CA),Acta Psychiatr.Scand.70:239−247,1984)として入手可能な放射免疫アッセイである。この試験は、125I標識コルチゾールが、臨床サンプル由来のコルチゾールと抗体部位に関して競合する競合的放射免疫アッセイである。この試験では、抗体の特異性および何の顕著なタンパク質効果もないことに起因して、血清サンプルおよび血漿サンプルは、予備抽出も予備希釈も必要としない。このアッセイは、以下の実施例2にさらに詳細に記載される。
【0046】
(b.血液/尿ミフェプリストンレベルの決定)
患者の代謝、クリアランス速度、毒性レベルなどは、根底の一次疾患状態または二次疾患状態、薬物歴、年齢、全身的医学状態などにバリエーションがあって異なるので、GRアンタゴニストの血液レベルおよび尿レベルを測定することが必要であり得る。このようなモニタリングのための手段は、科学文献および特許文献に充分に記載されている。ストレス障害を処置するためにミフェプリストンを投与する本発明の1つの実施形態においてと同様に、血液および尿のミフェプリストンレベルを決定する例示的な例を、以下の実施例に示す。
【0047】
(c.他の実験室手順)
ストレス障害は不均質であり得るので、多数のさらなる実験室試験が、診断、処置効力、予後、毒性などを補助するために本発明の方法において補助的に用いられ得る。例えば、増大した高コルチゾール血症はまた、ストレス障害と関連しているので、診断および処置評価は、グルココルチコイド感受性変数(空腹時血糖、経口グルコース投与後の血糖、血漿濃度(甲状腺刺激ホルモン(TSH)、コルチコステロイド結合グロブリン、黄体形成ホルモン(LH)、テストステロン−エストラジオール結合グロブリン、ならびに/または総テストステロンおよび遊離テストステロン)を含むがこれらに限定されない)のモニタリングおよび測定によって増強され得る。
【0048】
GRアンタゴニストの代謝産物生成、血漿濃度およびクリアランス速度(アンタゴニストおよび代謝産物の尿濃度を含む)をモニタリングおよび測定する実験室試験もまた、本発明の実施において有用であり得る。例えば、ミフェプリストンは、2つの親水性N−モノメチル化代謝産物および親水性N−ジメチル化代謝産物を有する。(ミフェプリストンに加えて)これらの代謝産物の血漿濃度および尿濃度は、例えば、Kawai、Pharmacol.and Experimental Therapeutics 241:401−406,1987に記載されるとおりの薄層クロマトグラフィーを用いて決定され得る。
【0049】
(5.ストレス障害を処置するためのグルココルチコイドレセプターアンタゴニスト)
本発明は、GRへのコルチゾールまたはコルチゾールアナログの結合に関連した生物学的応答をブロックし得る任意の組成物または化合物を利用してストレス障害を処置するための方法を提供する。本発明の方法において利用されるGR活性のアンタゴニストは、科学文献および特許文献に充分に記載される。いくつかの例示的な例を以下に示す。
【0050】
(a.GRアンタゴニストとしてのステロイド性アンチグルココルチコイド)
ステロイド性グルココルチコイドアンタゴニストは、本発明の種々の実施形態においてストレス障害の処置のために投与される。ステロイド性アンチグルココルチコイドは、グルココルチコイドアゴニストの基本構造の改変(すなわち、種々の形態のステロイド骨格)によって入手され得る。コルチゾールの構造は、種々の方法で改変され得る。グルココルチコイドアンタゴニストを作製する、コルチゾールステロイド骨格の最も普通に公知のクラスの2つの構造的改変としては、11−βヒドロキシ基の改変および17−β側鎖の改変(例えば、Lefebvre,J.Steroid Biochem.33:557−563,1989を参照のこと)が挙げられる。
【0051】
(i.)11−βヒドロキシ基の除去または置換)
11−βヒドロキシ基の除去または置換を含む、改変されたステロイド骨格を有するグルココルチコイドアゴニストは、本発明の1つの実施形態において投与される。このクラスは、天然のアンチグルココルチコイド(コルテキソロン、プロゲステロンおよびテストステロンの誘導体を含む)、および合成組成物(例えば、ミフェプリストン(Lefebvreら、前出))を含む。本発明の好ましい実施形態としては、全ての11−β−アリールステロイド骨格誘導体が挙げられる。なぜなら、これらの化合物は、プロゲステロンレセプター(PR)結合活性(Agarwal,FEBS 217:221−226,1987)がないからである。別の好ましい実施形態としては、有効なアンチグルココルチコイド剤および抗プロゲステロン剤の両方である、11−βフェニル−アミノジメチルステロイド骨格融合体(すなわち、ミフェプリストン)が挙げられる。これらの組成物は、可逆的に結合するステロイドレセプターアンタゴニストとして作用する。例えば、11−βフェニル−アミノジメチルステロイドに結合した場合、このステロイドレセプターは、その天然のリガンド(例えば、GRの場合、コルチゾール)に結合できないコンフォメーションで維持される(Cadepond,1997,前出)。
【0052】
合成11−βフェニル−アミノジメチルステロイドとしては、ミフェプリストン(RU486としても知られる)または17−β−ヒドロキシ−11−β−(4−ジメチル−アミノフェニル)17−α−(1−プロピニル)エストラ−4,9−ジエン−3−オン(17−beta−hydrox−11−beta−(4−dimethyl−aminophenyl)17−alpha−(1−propynyl)estra−4,9−dien−3−one)が挙げられる。ミフェプリストンは、プロゲステロンレセプターおよびグルココルチコイド(GR)レセプターの両方の強力なアンタゴニストであることが示されている。GRアンタゴニスト効果を有することが示された別の11−βフェニルアミノジメチルステロイドとしては、RU009(RU39.009)、11−β−(4−ジメチル−アミノエトキシフェニル)−17−α−(プロピニル−17β−ヒドロキシ−4,9−エストラジエン−3−オン)(Bocquel,J.Steroid Biochem.Molec.Biol.45:205−215,1993を参照のこと)が挙げられる。RU486に関連する別のGRアンタゴニストは、RU044(RU43.044)17−β−ヒドロキシ−17−α−19−(4−メチル−フェニル)−アンドロスタ−4,9(11)−ジエン−3−オン)(Bocquel,1993,前出)である。Teutsch,Steroids 38:651−665,1981;米国特許第4,386,085号および同第4,912,097号もまたを参照のこと。
【0053】
1つの実施形態としては、不可逆的アンチグルココルチコイドである基本的グルココルチコイドステロイド構造を含む組成物が挙げられる。このような化合物としては、
コルチゾールのα−ケト−メタンスルホネート誘導体(コルチゾール−21−メシレート(4−プレグネン−11−β,17−α,21−トリオール−3,20−ジオン−21−メタン−スルホネートおよびデキサメタゾン−21−メシレート(16−メチル−9α−フルオロ−1,4−プレグナジエン−11β,17−α,21−トリオール−3,20−ジオン−21−メタン−スルホネート)が挙げられる。Simons,J.Steroid Biochem.24:25−32 1986;Mercier,J.Steroid Biochem.25:11−20,1986;米国特許第4,296,206号を参照のこと。
【0054】
(ii).17−β側鎖基の改変)
17−β側鎖の種々の構造改変によって獲得され得るステロイドアンチグルココルチコイドもまた、本発明の方法において用いられる。このクラスとしては、合成アンチグルココルチコイド(例えば、デキサメタゾン−オキセタノン(oxetanone)、デキサメタゾンの種々の17,21−アセトニド(acetonide)誘導体および17−β−カルボキサミド誘導体(Lefebvre,1989,前出;Rousseau,Nature 279:158−160,1979)が挙げられる。
【0055】
(iii).他のステロイド骨格改変)
本発明の種々の実施形態において用いられるGRアンタゴニストとしては、GR−アゴニスト相互作用から生じる生物学的応答に影響を与える任意のステロイド骨格改変が挙げられる。ステロイド骨格アンタゴニストは、コルチゾールの任意の天然または合成のバリエーション(例えば、C−19メチル基のない副腎ステロイド(例えば、19−ノルデオキシコルチコステロンおよび19−ノルプロゲステロン(Wynne,Endocrinology 107:1278−1280,1980))であり得る。
【0056】
一般に、11−β側鎖置換基および特に、その置換基の大きさは、ステロイドのアンチグルココルチコイド活性の程度を決定する際に重要な役割を果たし得る。ステロイド骨格のA環における置換基もまた、重要であり得る。17−ヒドロキシプロペニル側鎖は一般に、アンチグルココルチコイド活性を、17−プロピニル側鎖含有化合物と比較して低下させる。
【0057】
当該分野で公知であって本発明の実施のために適切なさらなるグルココルチコイドレセプターアンタゴニストとしては、21−ヒドロキシ−6,19−オキシドプロゲステロン(Vicent,Mol.Pharm.52:749−753(1997)を参照のこと)、Org31710(Mizutani,J Steroid Biochem Mol Biol 42(7):695−704(1992)を参照のこと)、Org34517、RU43044、RU40555(Kim,J Steroid Biochem
Mol Biol.67(3):213−22(1998)を参照のこと)、RU28362およびZK98299が挙げられる。
【0058】
(b.アンタゴニストとしての非ステロイド性アンチグルココルチコイド)
非ステロイド性グルココルチコイドアンタゴニストもまた、ストレス障害を処置するために本発明の方法において用いられる。これらとしては、合成模倣物およびタンパク質アナログ(部分的にペプチド性の分子実体、偽ペプチド性分子実体および非ペプチド性分子実体を含む)が挙げられる。例えば、本発明において有用なオリゴマーペプチド模倣物としては、(α−β不飽和)ペプチドスルホンアミド、N−置換グリシン誘導体、オリゴカルバメート、オリゴウレアペプチド模倣物、ヒドラジノペプチド、オリゴスルホンなどが挙げられる(例えば、Amour,Int.J.Pept.Protein Res.43:297−304,1994;de Bont,Bioorganic & Medicinal Chem.4:667−672,1996を参照のこと)。合成分子の大きなライブラリーの作製および同時スクリーニングは、コンビナトリアル化学における周知技術(例えば、van Breemen,Anal Chem 69:2159−2164,1997;およびLam,Anticancer Drug Des 12:145−167,1997を参照のこと)を用いて実施され得る。GRに特異的なペプチド模倣物の設計は、コンビナトリアル化学(コンビナトリアルライブラリー)スクリーニングアプローチと関連してコンピュータプログラム(Murray,J.of Computer−Aided Molec.Design 9:381−395,1995;Bohm,J.of Computer−Aided Molec.Design 10:265−272,1996)を用いて設計され得る。このような「合理的薬物設計」は、ペプチド異性体およびペプチド配座異性体(環状異性体(cycloisomer)、逆−逆異性体(retro−inverso isomer)、逆異性体(retro isomer)などを含む)の開発を補助し得る(Chorev,TibTech 13:438−445,1995において考察される通り)。
【0059】
(c.特異的グルココルチコイドレセプターアンタゴニストの同定)
任意の特異的GRアンタゴニストが、本発明の方法においてストレス障害の処置のために用いられ得るので、上記の化合物および組成物に加えて、さらなる有用なGRアンタゴニストは、当業者によって決定され得る。種々のこのような慣用的な周知の方法が用いられ得、そして科学文献および特許文献に記載される。これらとしては、さらなるGRアンタゴニストの同定のための、インビトロアッセイおよびインビボアッセイが挙げられる。いくつかの例示的な例を以下に記載する。
【0060】
本発明のGRアンタゴニストを同定するために用いられ得る1つのアッセイは、チロシンアミノトランスフェラーゼ活性に対する推定GRアンタゴニストの効果を、Granner,Meth.Enzymol.15:633,1970の方法に従って測定する。この分析は、ラット肝癌細胞(RHC)の培養物中での、肝臓の酵素であるチロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)の活性の測定に基づく。TATは、チロシンの代謝における第一工程を触媒し、そして肝臓細胞および肝癌細胞の両方においてグルココルチコイド(コルチゾール)によって誘導される。この活性は、細胞抽出物中で容易に測定される。TATは、チロシンのアミノ基を2−オキソグルタル酸へと変換する。P−ヒドロキシフェニルピルベートもまた形成される。これは、アルカリ溶液中で、より安定なp−ヒドロキシベンゾアルデヒドへと変換され得、そして331nmでの吸光度によって定量され得る。推定GRアンタゴニストは、インビボもしくはエキソビボで肝臓全体へ、または肝癌細胞もしくは細胞抽出物へとコルチゾールと同時投与される。化合物の投与によって、誘導されたTAT活性の量が、コントロール(すなわち、コルチゾールまたはGRアゴニストのみを添加)と比較して低下する場合、その化合物は、GRアンタゴニストと同定される(Shirwany,Biochem.Biophys.Acta 886:162−168,1986もまた参照のこと)。
【0061】
TATアッセイに加えて、本発明の方法に利用される組成物を同定するために使用され得るさらなる多くのアッセイの例は、インビボにおけるグルココルチコイド活性に基づくアッセイである。例えば、グルココルチコイドによって刺激される細胞中でDNAへのH−チミジンの取り込みを阻害する推定GRアンタゴニストの能力を評価するアッセイが、使用され得る。あるいは、推定GRアンタゴニストは、肝癌組織培養GRに対する結合に対してH−デキサメタゾンと競合し(complete)得る(例えば、Choiら、Steroids 57:313−318,1992を参照のこと)。別の例として、H−デキサメタゾン−GR複合体の核結合をブロックする推定GRアンタゴニストの能力が、使用され得る(Alexandrovaら、J.Steroid Biochem.Mol.Biol.41:723−725,1992)。推定GRアンタゴニストをさらに同定するために、レセプター結合反応速度論により、グルココルチコイドアゴニストとグルココルチコイドアンタゴニストとを識別し得る反応速度論的アッセイもまた、使用され得る(Jones,Biochem J.204:721−729,1982に記載されるように)。
【0062】
別の代表例において、Daune, Molec.Pharm.13:948−955,1977;および米国特許第4,386,085号によって記載されるアッセイを使用して、抗グルココルチコイド活性を同定し得る。簡単に述べると、副腎摘出したラットの胸腺細胞を、種々の濃度の試験化合物(推定GRアンタゴニスト)と共にデキサメタゾンを含む栄養培地中でインキュベートする。H−ウリジンを、細胞培養物に添加して、これをさらにインキュベートし、そしてポリヌクレオチド中への放射性標識の取り込みの程度を測定する。グルココルチコイドアゴニストは、取り込まれるH−ウリジンの量を低下させる。従って、GRアンタゴニストは、この効果に対抗する。
【0063】
本発明の方法において利用され得るさらなる化合物ならびにそのような化合物を同定および作製する方法については、米国特許第4,296,206号(上記を参照のこと);同第4,386,085号(上記を参照のこと);同第4,447,424号;同第4,477,445号;同第4,519,946号;同第4,540,686号;同第4,547,493号;同第4,634,695号;同第4,634,696号;同第4,753,932号;同第4,774,236号;同第4,808,710号;同第4,814,327号;同第4,829,060号;同第4,861,763号;同第4,912,097号;同第4,921,638号;同第4,943,566号;同第4,954,490号;同第4,978,657号;同第5,006,518号;同第5,043,332号;同第5,064,822号;同第5,073,548号;同第5,089,488号;同第5,089,635号;同第5,093,507号;同第5,095,010号;同第5,095,129号;同第5,132,299号;同第5,166,146号;同第5,166,199号;同第5,173,405号;同第5,276,023号;同第5,380,839号;同第5,348,729号;同第5,426,102号;同第5,439,913号;および同第5,616,458号;ならびにWO96/19458を参照のこと。これらは、ステロイドレセプターに対して高い親和性で高い選択性の調節因子(アンタゴニスト)である非ステロイド化合物(例えば、6−置換−1,2−ジヒドロN−1保護キノリン)を記載する。
【0064】
MRと比較してGRに対するアンタゴニストの特異性は、当業者に公知の種々のアッセイを使用して測定され得る。例えば、特定のアンタゴニストが、MRと比較して、GRに結合するアンタゴニストの能力を測定することによって同定され得る(例えば、米国特許第5,606,021号;同第5,696,127号;同第5,215,916号;同第5,071,773号を参照のこと)。このような分析は、直接的な結合アッセイまたは既知のアンタゴニストの存在下での精製GRもしくはMRに対する競合的な結合を評価することのいずれかを用いて実行され得る。例示的なアッセイにおいて、グルココルチコイドレセプターまたはミネラロコルチコイド(mineralocorticooid)レセプターを高いレベルで安定に発現する細胞(例えば、米国特許第5,606,021号を参照のこと)が、精製レセプターの供給源として使用される。次いで、レセプターに対するアンタゴニストの親和性が、直接測定される。次いで、MRと比較して、GRに対して少なくとも100倍高い親和性、しばしば1000倍高い親和性を示すアンタゴニストが、本発明の方法における使用のために選択される。
【0065】
GR特異的アンタゴニストはまた、MR媒介活性ではなくGR媒介活性を阻害する能力を有する化合物として規定され得る。このようなGR特異的アンタゴニストを同定する1つの方法は、トランスフェクションアッセイを用いて、レポーター構築物の活性化を妨げるアンタゴニストの能力を測定することである(例えば、Bocquelら、J.Steroid Biochem Molec.Biol.45:205−215,1993、米国特許第5,606,021号、同第5,929,058号を参照のこと)。例示的なトランスフェクションアッセイにおいて、レセプターをコードする発現プラスミドおよびレセプター特異的調節エレメントに連結されたレポーター遺伝子を含むレポータープラスミドが、適切なレセプターを含まない(receptor−negative)宿主細胞に同時トランスフェクトされる。次いで、トランスフェクトされた宿主細胞は、ホルモン(例えば、コルチゾールまたはそのアナログ)の存在下および非存在下で培養され、このホルモンは、レポータープラスミドのホルモン応答性プロモーターエレメント/ホルモン応答性エンハンサーエレメントを活性化し得る。次に、トランスフェクトされ、培養された宿主細胞は、レポーター遺伝子配列の産物の誘導(すなわち、存在)についてモニターされる。最後に、ホルモンレセプタータンパク質(これは、発現プラスミド上のレセプターDNA配列によってコードされ、そしてトランスフェクトされ培養された宿主細胞中で産生される)の発現および/またはステロイド結合能力は、アンタゴニストの存在および非存在下でレポーター遺伝子の活性を決定することによって測定される。化合物のアンタゴニスト活性は、GRレセプターおよびMRレセプターの既知のアンタゴニストと比較して決定され得る(例えば、米国特許第5,696,127号を参照のこと)。次いで、効力が、参照アンタゴニスト化合物と比較して各化合物について観察された最大応答のパーセントとして報告される。GR特異的アンタゴニストは、MRと比較して、GRに対して少なくとも100倍、しばしば1000倍以上を示すを考えられる。
【0066】
(6.グルココルチコイドレセプターアンタゴニストを用いたストレス障害の処置)
抗グルココルチコイド(例えば、ミフェプリストン)は、ストレス障害を処置するための本発明の方法において使用される医薬として処方される。GRへのコルチゾールまたはコルチゾールアナログの結合と関連する生物学的応答をブロックし得る任意の組成物または化合物は、本発明における医薬として使用され得る。本発明の方法を実施するために、GRアンタゴニスト薬物レジメンおよび処方を決定するための慣用的な手段は、特許および科学文献に十分に記載され、そしていくつかの代表例は、上記に示される。
【0067】
(a.薬学的組成物としてのグルココルチコイドレセプターアンタゴニスト)
本発明の方法において使用されるGRアンタゴニストは、当該分野で公知の任意の手段によって(例えば、非経口投与、局所投与、経口投与、または局部投与(例えば、エアロゾルによってかまたは経皮的に))、投与され得る。本発明の方法は、予防処置および/または治療処置を提供する。薬学的処方物としてのGRアンタゴニストは、状態または疾患および痴呆の程度、各患者の一般的な医学状態、結果として好ましい投与方法などに依存して、種々の単位投薬形態で投与され得る。処方および投与のための技術に関する詳細は、科学文献および特許文献において十分に記載され、例えば、Remington’s
Pharmaceutical Sciences,Maack Publishing Co,Easton PA(「Remington’s」)の最新版を参照のこと。
【0068】
GRアンタゴニスト薬学的処方物は、医薬の製造について当該分野で公知の任意の方法に従って調製され得る。このような薬物は、甘味剤、矯味矯臭薬m着色剤、および保存剤を含み得る。任意のGRアンタゴニスト処方物が、製造に適した非毒性の薬学的に受容可能な賦形剤と混合され得る。
【0069】
経口投与のための薬学的処方物は、当該分野で周知の薬学的に受容可能なキャリアを用いて、適当かつ適切な投薬量で処方され得る。このようなキャリアは、薬学的処方物が患者による摂取に適した単位投薬形態(例えば、錠剤、丸剤、散剤、糖剤、カプセル、液体、舐剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液など)で処方されることを可能にする。経口のための薬学的調製物は、GRアンタゴニスト化合物と固体賦形剤との配合により得られ得、必要に応じて、得られる混合物をすり砕き、そして所望される場合、適切なさらなる化合物を添加した後に、その顆粒の混合物を加工して、錠剤または糖衣錠のコアを得る。適切な固形賦形剤は、炭水化物またはタンパク質の充填剤であり、これには、糖(ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む);トウモロコシ、ムギ、イネ、ポテト、もしくは他の植物由来の澱粉;セルロース(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム);およびガム(アラビアゴムおよびトラガカントゴムを含む);ならびにタンパク質(例えば、ゼラチンおよびコラーゲン)が挙げられるが、これらに限定されない。所望される場合、崩壊剤または可溶化剤(例えば、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、またはこれらの塩(例えば、アルギン酸ナトリウム))が添加され得る。
【0070】
適切なコーティング(例えば、濃縮された糖溶液)を有する糖衣錠のコアが提供され、これはまた、アラビアゴム、滑石、ポリビニルピロリドン、カルボポール(carbopol)ゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒もしくは有機溶媒混合物を含む。色素または顔料が、製品の識別のためか、または活性な化合物の量(すなわち、投薬量)を特徴付けるために、錠剤または糖衣コーティングに添加され得る。本発明の薬学的調製物はまた、例えば、ゼラチンから作製された押し出し成形(push−fit)カプセル、ならびにゼラチンから作製された密封したソフトカプセル、およびコーティング(例えば、グリセロールまたはソルビトール)を用いて、経口的に使用され得る。押し出し成形カプセルは、充填剤または結合剤(例えば、ラクトースまたは澱粉)、滑剤(例えば、滑石またはステアリン酸マグネシウム)、および必要に応じて安定化剤と共に混合された、GRアンタゴニストを含み得る。ソフトカプセルにおいて、GRアンタゴニスト化合物は、安定化剤を伴なってかまたは安定化剤を伴なわずに、適切な液体(例えば、脂肪油、液体パラフィン、または液体ポリエチレングリコール)中に溶解または懸濁され得る。
【0071】
本発明の水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合して、GRアンタゴニストを含む。このような賦形剤としては、懸濁剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、およびアラビアゴム)、ならびに分散剤および湿潤剤(例えば、天然に存在するホスファチド(例えば、レシチン))、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合産物(例えば、ポリオキシエチレンステアレート)、エチレンオキシドと長鎖脂肪アルコールとの縮合産物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール(heptadecaethylene oxycetanol))、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール由来の部分エステルとの縮合産物(例えば、ポリエチレンソルビトールモノオレアート)、エチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトール由来の部分エステルとの縮合産物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)が挙げられる。水性懸濁液はまた、1つ以上の保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸エチルまたはp−ヒドロキシ安息香酸n−プロピル)、1つ以上の着色剤、1つ以上の矯味矯臭薬、および1つ以上の甘味剤(例えば、スクロース、アスパルテームまたはサッカリン)を含み得る。処方物は、容量オスモル濃度について調整され得る。
【0072】
油状懸濁液は、植物油(例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、またはココナッツ油)、または鉱油(例えば、液体パラフィン);またはこれらの混合物中で、GRアンタゴニストを懸濁することによって処方され得る。油懸濁液は、濃厚化(例えば、蜜蝋、ハードパラフィン、またはセチルアルコール)を含み得る。甘味剤(例えば、グリセロール、ソルビトール、またはスクロース)が添加されて、味のよい経口調製物を提供し得る。これらの処方物は、アスコルビン酸のような抗酸化剤の添加によって保存され得る。注射可能な油ビヒクルの例としては、Minto,J.Pharmacol.Exp.Ther.281:93−102,1997を参照のこと。本発明の薬学的処方物はまた、水中油エマルジョンの形態であり得る。油相は、植物油もしくは鉱油(上記)またはこれらの混合物であり得る。適切な乳化剤としては、天然に存在するガム(例えば、アカシアゴム、トラガカントゴム)、天然に存在するホスファチド(例えば、ダイズレシチン)、脂肪酸および無水ヘキシトール由来のエステルまたは部分エステル(例えば、ソルビタンモノオレアート)、ならびにこれらの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合産物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)が挙げられる。これらのエマルジョンはまた、シロップおよびエリキシルの処方物の場合、甘味剤および矯味矯臭薬を含み得る。このような処方物はまた、保護剤、保存剤または着色剤を含み得る。
【0073】
水の添加による水性懸濁液の調製に適した本発明の分散可能な散剤および顆粒は、分散剤、懸濁剤および/または湿潤剤、ならびに1つ以上の保存剤と混合して、GRアンタゴニストから処方され得る。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤は、上記に開示されるようなものによって例証される。さらなる賦形剤(例えば、甘味剤、矯味矯臭薬および着色剤)もまた、存在し得る。
【0074】
本発明のGRアンタゴニストはまた、薬物の直腸投与のための坐剤の形態で投与され得る。これらの処方物は、常温では固形であるが直腸温度で液体の適切な無刺激賦形剤と薬物とを混合することによって調製され得、従って、直腸において融解して、薬物を放出する。このような材料は、カカオバターおよびポリエチレングリコールである。
【0075】
本発明のGRアンタゴニストはまた、鼻腔内経路、眼内経路、膣内経路および直腸内経路(坐剤、吸入剤、散剤およびエアロゾル処方物を含む)によって投与され得る(例えば、ステロイド吸入薬、Rohatagi,J.Clin.Pharmacol.35:1187−1193,1995;Tjwa,Ann.Allergy Asthma Immunol.75:107−111,1995を参照のこと)。
【0076】
本発明のGRアンタゴニストは、塗布器スティック、溶液、懸濁液、乳濁液、ゲル、クリーム、軟膏、ペースト、ゼリー、塗布剤、散剤、およびエアロゾルとして処方されて、局所経路によって経皮的に送達され得る。
【0077】
本発明のGRアンタゴニストはまた、身体での遅延した放出のためにミクロスフェアとして送達され得る。例えば、ミクロスフェアは、薬物(例えば、ミフェプリストン)含有ミクロスフェアの皮内注射を介して(これは、皮下でゆっくりと放出する(Rao,J.Biomater Sci.Polym.Ed.7:623−645,1995を参照のこと));生分解性かつ注射可能なゲル処方物として(例えば、Gao Pharm.Res.12:857−863,1995を参照のこと);または、経口投与のためのミクロスフェアとして(例えば、Eyles,J.Pharm.Pharmacol.49:
669−674,1997を参照のこと)投与され得る。経皮経路および皮内経路の両方が、数週間または数ヶ月の間、一定の送達を提供する。
【0078】
本発明のGRアンタゴニスト薬学的処方物は、塩として提供され得、そして多くの酸(塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸などが挙げられるが、これらに限定されない)と共に形成され得る。塩は、対応する遊離塩形態である水性溶媒または他のプロトン性溶媒中でより可溶性の傾向にある。別の場合において、好ましい調製物は、1mM〜50mM ヒスチジン、0.1%〜2% スクロース、2%〜7% マンニトール(pH4.5〜pH5.5の範囲)中で凍結乾燥された粉末であり得、これは、使用する前に緩衝液と混合される。
【0079】
別の実施形態において、本発明のGRアンタゴニスト処方物は、非経口投与(例えば、静脈内(IV)投与または体腔もしくは器官の管腔中への投与)のために有用である。投与のための処方物は、一般的に、薬学的に受容可能なキャリア中に溶解されたGRアンタゴニスト(例えば、ミフェプリストン)の溶液を含む。使用され得る受容可能なヒビクルおよび溶媒には、水およびリンガー溶液、等張性の塩化ナトリウムがある。さらに、滅菌不揮発性油が、溶媒または懸濁媒体として慣用的に利用され得る。この目的のために、任意の刺激の少ない不揮発性油が利用され得る(これには、合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリドが挙げられる)。さらに、オレイン酸のような脂肪酸が、注射可能物質の調製において同様に使用され得る。これらの溶液は、滅菌であり、一般的に、所望されないものを含まない。これらの処方物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌され得る。これらの処方物は、生理学的状態に近づけるために必要とされる場合、薬学的に受容可能な補助物質(例えば、pH調整剤および緩衝剤、張度(toxicity)調整剤(例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなど))を含み得る。これらの処方物中のGRアンタゴニストの濃度は、広く変化し得、そして、選択された特定の投与様式および患者の必要に従って、液体の容量、粘性、体重などに主に基づいて選択される。IV投与のために、処方物は、滅菌の注射可能な調製物(例えば、滅菌の注射可能な水性懸濁液または油性懸濁液)であり得る。この懸濁液は、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて、公知技術に従って処方され得る。滅菌の注射可能な調製物はまた、無毒性の非経口的に受容可能な希釈剤または溶媒中の、滅菌の注射可能な溶液(例えば、1,3−ブタンジオールの溶液)または懸濁液であり得る。
【0080】
別の実施形態において、本発明のGRアンタゴニスト処方物は、細胞膜と融合するかまたはエンドサイトーシスされるリポソームを使用することによって、すなわち、リポソームに結合されているか、またはエンドサイトーシスを生じる細胞の表面膜タンパク質レセプターに結合するオリゴヌクレオチドに直接結合されているリガンドを用いることによって、送達され得る。特に、リポソーム表面が標的細胞に特異的なリガンドを保持しているか、そうでなければ特定の器官に優先的に指向されるリポソームを使用することによって、GRアンタゴニストの送達はインビボで標的細胞に集中し得る(例えば、A1−Muhammed,J.Microencapsul.13.293−306,1996;Chonn,Curr.Opin.Biotechnol.6:698−708,1995;Ostro,Am.J.Hosp.Pharm.46:1576−1587,1989を参照のこと)。
【0081】
(b.グルココルチコイドレセプターアンタゴニストの投薬レジメンの決定)
本発明の方法は、ストレス障害を処置、すなわち、解離性症状および再体験症状(re−experiencing symptom)の発生および重篤度を軽減する。これを達成するために適切なGRアンタゴニストの量は、「治療的有効用量」として定義される。この使用に有効な投薬スケジュールおよび量、すなわち「投薬レジメン」は、その疾患または状態の段階、その疾患または状態の重篤度、一般的な患者の健康状態、患者の身体的状態、年齢などを含む種々の因子に依存する。患者の投薬レジメンを見積もる際に、投与様式もまた、考慮される。
【0082】
投薬レジメンはまた、当該分野で周知の薬物動態パラメーター(すなわち、GRアンタゴニストの吸収速度、バイオアベイラビリティ、代謝、クリアランスなど)を考慮する(例えば、Hidalgo−Aragones(1996)J.Steroid Biochem.Mol.Biol.58:611−617;Groning(1996)Pharmazie 51:337−341;Fotherby(1996)Contraception 54:59−69;Johnson(1995)J.Pharm.Sci.84:1144−1146;Rohatagi(1995)Pharmazie 50:610−613;Brophy(1983)Eur.J.Clin.Pharmacol.24:103−108;最新のRemington’s(前出)を参照のこと)。例えば、ある研究において、ミフェプリストンの一日用量の0.5%未満が、尿中に排泄され;この薬物は、循環しているアルブミンに広範に結合した(Kawai(1989)前出を参照のこと)。当該分野の状況により、医師は、個々の患者の各々についての投薬レジメン、GRアンタゴニストおよび処置される疾患または状態を決定し得る。例示的な例として、ミフェプリストンについて以下に提供されるガイドラインは、本発明の方法を実行する場合、投与される任意のGRアンタゴニストの投薬レジメン(すなわち、用量スケジュールおよび投薬レベル)を決定するためのガイダンスとして使用され得る。
【0083】
GRアンタゴニスト処方物の単回の投与または複数の投与が、患者による要求に応じて、かつ患者に許容されるような投薬量および頻度に依存して、投与され得る。この処方物は、痴呆を効果的に処置するのに十分な量の活性剤(すなわち、ミフェプリストン)を提供しなければならない。従って、ミフェプリストンの経口投与のための1つの代表的な薬学的処方物は、約0.5mg/kg体重/日〜約20mg/kg体重/日の間の一日量である。代替の実施形態において、約1mg/kg体重/日〜約4mg/kg体重/日の投薬量が、使用される。経口投与、血流への投与、体腔への投与または器官の管腔への投与とは対照的に、特に、薬物が解剖学的に隔離された部位(例えば、大脳髄液(CSF)空間)に投与される場合、より低い投薬量が使用され得る。実質的により高い投薬量が、局所投与において使用され得る。非経口投与可能なGRアンタゴニスト処方物を調製するための実際の方法は、当業者に公知であるかまたは当業者に明らかであり、そしてRemington’s(前出)のような刊行物においてより詳細に記載されている。Nieman,「Receptor Mediated Antisteroid Action」、Agarwalら(編)、De Gruyter,New York(1987)もまた参照のこと。
【0084】
本発明のGRアンタゴニストを含む医薬が受容可能なキャリア中に処方された後、これは、適切な容器に入れられ得、そして示された状態の処置についてのラベルを付けられ得る。GRアンタゴニストの投与に付いて、このようなラベルは、例えば、投与量、投与頻度および投与方法についての指示を含む。一実施形態において、本発明は、ヒトにおける痴呆の処置のためのキットを提供し、このキットは、GRアンタゴニスト、ならびにGRアンタゴニストの効能、投薬量および投与スケジュールを教示する指示書を含む。
【0085】
本明細書中に記載される実施例および実施形態は、例示目的のみのためであり、その観点で、種々の改変または変更が当業者に示唆され、そして本願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれることが、理解される。
【実施例】
【0086】
以下の実施例は、本発明を制限するのではなく、例示するために提供される。
【0087】
(実施例1:ミフェプリストンを用いるストレス障害の処置)
以下の実施例は、本発明の方法をどのように実施するのかを示す。
【0088】
(患者の選択)
個体を、上記のように、DSM−IV−TRにより記載されるような基準を含む主観的基準および客観的基準を使用して、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、または顕著なストレス因子を伴う短期精神病性障害と診断する。このストレス障害の患者は、代表的に、この患者の年齢に対して正常であるか、増加しているかまたは減少したレベルのコルチソルを有するが、急性ストレス因子に最近曝された患者は、特に増加したコルチソルレベルを有し得る。
【0089】
(ミフェプリストンの投薬レジメンおよび投与)
グルココルチコイドレセプター(GR)アンタゴニストであるミフェプリストンを、この研究で使用する。これを、一日あたり200mgの投薬量で投与する。個体に、一日あたり200mgのミフェプリストンを6ヶ月間投与し、そして以下に記載されるように評価する。必要ならば、投薬量を調整し、そして処置の間中、さらなる評価を定期的に実施する。
【0090】
ミフェプリストン錠剤は、Shanghai HuaLian Pharmaceuticals Co.,Ltd.,Shanghai,Chinaから入手可能である。
【0091】
(ストレス障害の処置の評価)
ストレス障害の症状の改善におけるミフェプリストンの有効性を示しそして評価するために、形式的精神医学的評価、ならびに一連の神経心理学的試験および神経心理学的評価を、全ての患者に対して行う。研究中のストレス障害に適切な標準化された試験機器に対する患者の動作を決定する。これらの試験および診断的評価を、ベースライン(処置への患者の参加)において、および処置の間中、定期的に行う。
【0092】
(実施例2:コルチソルレベルの測定)
実施例1の患者のコルチソルレベルを測定するために、午後のコルチソル試験測定値をとり、そしてベースラインのコルチソル測定値として使用する。0日目、投薬を受けた2週間後(14日目)、および6ヶ月までは各往診時に、そしてその後は定期的に、コルチソルレベルをとる。
【0093】
「Double Antibody Cortisol Kit」(Diagnostic Products Corporation,Los Angeles,CA)を使用して、血液コルチソルレベルを測定する。この試験は、125I標識コルチソルが抗体部位について臨床的サンプル由来のコルチソルと競合する競合的放射免疫アッセイであり、この試験を、製造業者により供給される試薬を使用し、本質的に製造業者の指示に従って実施する。簡潔には、血液を、静脈穿刺によって収集し、そして血清を細胞から分離する。このサンプルを、7日までの間2〜8℃で、または2ヶ月までの間−20℃で保存する。このアッセイの前に、穏やかな撹拌または転置によって、サンプルを室温(15〜28℃)に戻す。25μl/チューブの血清で、16個のチューブを二連で調製する。コルチソル濃度を、この調製した較正管から算出する。正味のカウントは、(平均CPV−平均非特異的CPM)に等しい。未知のものについてのコルチソル濃度を、較正曲線からの補間によって推定する(Dudleyら、(1985)Clin.Chem.31:1264−1271)。
【0094】
本明細書中に記載される実施例および実施形態は、例示目的のみのためであり、その観点で、種々の改変または変更が当業者に示唆され、そして本願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれることが、理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレス障害の症状の改善を必要とする患者において、ストレス性障害の症状を改善するために有効な量のグルココルチコイドレセプターアンタゴニストを投与することによって、該ストレス障害の症状を改善する方法

【公開番号】特開2009−102412(P2009−102412A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23152(P2009−23152)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【分割の表示】特願2002−574906(P2002−574906)の分割
【原出願日】平成14年3月19日(2002.3.19)
【出願人】(503345477)コーセプト セラピューティクス, インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】