説明

糖転移酵素遺伝子の導入による生体内糖鎖伸長の技術

【課題】2個以上の糖転移酵素遺伝子を生体内(動物、植物、微生物の細胞を含む)に導入し、脂質やタンパク質の糖鎖修飾を伸長させる方法、具体的には、セラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する組換え植物体、及び、該植物体を用いてセラミドトリヘキソシドを生産する方法を提供する。
【解決手段】ヒト又は動物由来のα1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子(α1,4GT)のORFを有する植物発現ベクターを構築し、該ベクターを植物の遺伝子組換え手法を用いてタバコに導入して作製した形質転換タバコを利用してセラミドトリヘキソシドを合成する。
【効果】本発明により、組換え植物体を用いてセラミドトリヘキソシドを大量に合成することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖転移酵素遺伝子を導入した形質転換植物体及びその用途に関するものであり、更に詳しくは、動物固有の糖鎖修飾を有する脂質やタンパク質を動物由来感染症の危険が無い完全な状態で、植物体等の生体内で合成する技術に関するものである。本発明は、糖転移酵素遺伝子の導入による、動物、植物、微生物の細胞における脂質やタンパク質への生体内糖鎖伸長の技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
動物型のスフィンゴ糖脂質は、医薬品や化粧品原材料の化成品として利用されている。また、その糖鎖がインフルエンザ等の各種ウイルスや細菌毒素のレセプターとなることから(非特許文献1)、これらの感染症に対して抗生物質や合成医薬品原体に頼らない新規治療薬として早期の実用化が期待されているところである(特許文献1及び2)。例えば、セラミドトリヘキソシドは、ベロ毒素(大腸菌O−157が生産する毒素)や志賀毒素(赤痢菌が生産する毒素)が細胞表面に結合するためのレセプターであること(非特許文献2及び3)が知られている。
【0003】
渡来らの研究(非特許文献4)によると、培養細胞中に添加したウシ由来セラミドトリヘキソシドがベロ毒素をトラップして細胞への結合を阻害する結果、ベロ毒素が不活性化することが知らせている。このことは、セラミドトリヘキソシドを医療用に利用できる可能性を示している。セラミドトリヘキソシドは、動物組織(特に脳など)に豊富に存在するが、動物組織から抽出する従来の生産方法では、BSE(狂牛病)等の感染症の問題がある。また、これは、人工合成は可能であるが、困難かつ高コストなため、大量生産に向かないという欠点がある(非特許文献5)。
【0004】
近年、遺伝子組換え植物を用いた有用物質生産の研究例が種々報告されている(非特許文献6〜10)。この種の方法のメリットは、低コストで二酸化炭素を排出せず、しかも動物の感染症に汚染される心配がないことである。
【0005】
セラミドトリヘキソシドは、様々な生理活性をもつスフィンゴ糖脂質の生合成産物の1つである。セラミドトリヘキソシドは、その前駆体であるラクトシルセラミドから、α1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ(α1,4GT)による糖転移反応により合成できることが判明している(特許文献3)。本発明者らは、先にヒトβ1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(β1,4GT5)を導入することにより、ラクトシルセラミドを生産する組換えタバコを作出しているが、植物はα1,4GT遺伝子を欠いているため、セラミドトリヘキソシドを生産することができない。
【0006】
また、タバコの液体培養細胞にβ1,4GTのアイソザイムであるhβ−1,4−GalT 1(アクセッション番号:X55415又はX13223)を1つだけ導入し、タンパク質にガラクトースを転移させる研究例は報告されているが(非特許文献11)、脂質に糖転移された例はない。
【0007】
【特許文献1】特表2003−535965号公報
【特許文献2】特表平10−50347号公報
【特許文献3】特開平10−295371号公報
【非特許文献1】Karlson, K. A. Animalglycosphingolipids as membrane attachment site for bacteria, Ann. Rev. Biochem.,58, 309-350, 1989
【非特許文献2】Cohen A, Hannigan GE, WilliamsBR, Lingwood CA, J . Biol. Chem., 1987 Dec 15;262(35):17088-91. RelatedArticles, Links Roles of globotriosyl- and galabiosylceramide in verotoxinbinding and high affinity interferon receptor.
【非特許文献3】Lindberg AA, Brown JE,Stromberg N, Westling-Ryd M, Schultz JE, Karlsson KA, J. Biol. Chem., 1987 Feb5;262(4):1779-85. Related Articles, Links Identification of thecarbohydrate receptor for Shiga toxin produced by Shigella dysenteriae type 1.
【非特許文献4】Watarai, S. et al. Inhibitionof vero cell cytotoxic activity in Escherichia colli O157:H7 lysates byglobotriaosylceramide, Gb3, from bovine milk. Biosci. Biotechnol. Biochem., 65,414-419 (2001).
【非特許文献5】Hasegawa, A., Morita, M.,Kojima, Y., Ishida, H. & Kiso, M. Synthesis of cerebroside, lactosylceramide,and ganglioside GM3 analogs containing ・-thioglycosidically linked. Carbonhydr.Res., 214, 43-53 (1991).
【非特許文献6】Voelker, T. A. et al.: Fattyacid biosynthesis redirected to medium chains in transgenic oilseed plants,Science, 257, 72-74(1992)
【非特許文献7】Sayanova, O. et al.:Expression of a borage desaturase cDNA containing and N-terminal cytochrome b5domain results in the accumulation of high levels of Δ6- desaturated fattyacids in transgenic tobacco, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 94, 4211-4216(1997)
【非特許文献8】Ye, X. et al.: Engineering theprovitamin A (β-carotene) biosynthetic pathway into (carotenoid-free) riceendosperm, Science, 287, 303-305(2000)
【非特許文献9】Datta, K.: Bioengineered ‘golden’indica rice cultivars with β-carotene methabolismin the endosperm withhygromycin and mannose selection systems, Plant Biotech. J., 1, 81-90(2003)
【非特許文献10】Tozawa, Y. et al.:Characterization of rice anthranilate synthase a-subunit genes OASA1 and OASA2.Tryptopan accumulation in transgenic rice expressing a feedback-insensitivemutant of OASA1, Plant Physiology, 126, 1493-1506(2001)
【非特許文献11】Nirianne Q. Palacpac et al.,Stable expression of human β1,4-galactosyltransferase in plant cells modifiesN-linked glycosylation patterns, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 4692-4697(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、動物固有の糖鎖修飾を付した脂質やタンパク質を動物由来感染症の危険が無い完全な状態で、大量合成する技術を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、2個以上の糖転移酵素遺伝子を導入した形質転換細胞等を利用することで所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、生体内で糖鎖修飾された脂質やタンパク質を生産させる生体内糖鎖伸長の技術を提供することを目的とするものである。また、本発明は、例えば、動物固有の糖脂質であるセラミドトリヘキソシドを、動物由来感染症の危険が無い安全な状態で、大量に合成する方法を提供することを目的とするものである。具体的には、本発明は、セラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する組換え植物体、及び、該植物体を用いてセラミドトリヘキソシドを生産する方法を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、これにより、2個以上の糖転移酵素を細胞に導入させる手法を用いて、本来細胞が持っていない糖鎖修飾を脂質やタンパク質に行う方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)動物、植物又は微生物の細胞で発現可能なプロモーター領域の下流に、下記(a)から(c);
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
のいずれかに記載のヒト又は動物由来のDNAが機能的に結合したベクター。
(2)2個以上の複数の糖転移酵素遺伝子が導入された形質転換植物細胞であって、セラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体を再生しうる形質転換植物細胞。
(3)ヒト又は動物由来のβ1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子及びα1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子が導入された前記(2)に記載の形質転換植物細胞。
(4)前記(2)又は(3)に記載の形質転換植物細胞から再生されたことを特徴とするセラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体。
(5)前記(4)に記載の植物体の子孫又はクローンであることを特徴とするセラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体。
(6)前期(4)又は(5)に記載のセラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体の繁殖材料。
(7)セラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体を製造する方法であって、
1)請求項1に記載のベクターを植物細胞に導入する工程、及び、
2)ベクターが導入された形質転換植物細胞から植物体を再生する工程、
を含むことを特徴とするセラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体の製造方法。
(8)前記(4)又は(5)に記載の植物体を育生してセラミドトリヘキソシドを合成することを特徴とするセラミドトリヘキソシドの製造方法。
(9)細胞に糖転移酵素遺伝子を2個以上導入した形質転換細胞又は該細胞から再生された植物体を利用することで脂質やタンパク質の糖鎖修飾を伸長させる方法。
(10)ヒト又は動物由来のβ1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子及びα1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子を導入した形質転換細胞又は該細胞から再生された植物体を利用する前記(9)に記載の方法。
(11)細胞が、動物、植物、又は微生物の細胞である前記(9)又は(10)に記載の方法。
【0010】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明者らは、ヒト由来α1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ(α1,4GT)のcDNAを、かつて本発明者らが作製したラクトシルセラミド生産タバコに導入し、セラミドトリヘキソシドの生産を試みた。その結果、選別された組換えタバコの葉からはセラミドトリヘキソシドが検出され、その量は、組換えタバコ生葉1gあたり約66μgであった。すなわち、ヒト由来のα1,4GTを導入することによって、組換え植物体においてセラミドトリヘキソシドを大量に合成することが可能となった。
【0011】
本発明は、ヒト又は動物由来α1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子(α1,4GT)のコード領域を含む、動物、植物又は微生物の細胞で発現可能なベクター、具体的には、動物、植物又は微生物の細胞で発現可能なプロモーター領域の下流に、ヒト又は動物由来のα1,4GTをコードするDNAが機能的に結合したベクターを提供する。α1,4GTのcDNA配列(1062塩基)を配列番号:1に、また、該DNAによって合成されるタンパク質(353アミノ酸)を配列番号:2に示す。
【0012】
本発明のベクターに含まれるα1,4GTのコード領域は、好ましくは、α1,4GTのcDNA配列である。cDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。例えば、α1,4GTの公知の塩基配列情報から適当なプライマー対を設計して、ヒト又は動物から調製したmRNAを鋳型にPCRを行い、得られる増幅DNA断片をプローブとして用いてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、α1,4GTのcDNAを調製することができる。更に、市販のDNA合成機を用いれば、目的のDNAを合成により調製することも可能である。
【0013】
本発明のベクターに含まれるDNAとしては、ラクトシルセラミドに作用し、糖転移反応によってセラミドトリヘキソシドを合成する能力を有している限り、例えば、ヒト由来のα1,4GT(配列番号:2)に構造的に類似したタンパク質をコードするDNA(例えば、変異体、誘導体、アレル、バリアント及びホモログ)を用いることもできる。このようなDNAには、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が、置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAが含まれる。
【0014】
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAを調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、site-directed mutagenesis法(Kramer, W.& Fritz,H.-J. (1987) Oligonucleotide-directed construction of mutagenesis via gapped duplex DNA.Methods in Enzymology, 154: 350-367)が挙げられる。また、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界においても生じ得る。このように、天然型のβ1,4GT5をコードするアミノ酸配列(配列番号:2)において、1もしくは複数のアミノ酸が、置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであっても、天然型のタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードする限り、本発明のDNAに含まれる。
【0015】
改変されるアミノ酸の数は、改変後のタンパク質が、ラクトシルセラミドに作用し、糖転移反応によってセラミドトリヘキソシドを合成する能力を有している限り、特に制限はないが、一般的には、50アミノ酸以内、好ましくは30アミノ酸以内、より好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。アミノ酸の改変は、好ましくは保存的置換である。改変前と改変後の各アミノ酸についてのhydropathic index(Kyte and Doolitte,(1982) J. Mol. Biol., 1982 May 5;157(1):105-32)やHydrophilicity value(米国特許第4,554,101号)の数値は、±2以内が好ましく、更に好ましくは±1以内であり、最も好ましくは±0.5以内である。また、たとえ、塩基配列が変異した場合でも、それがタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)もあり、このような縮重変異体も本発明のDNAに含まれる。
【0016】
あるDNAによってコードされるタンパク質が「ラクトシルセラミドに作用し、糖転移反応によってセラミドトリヘキソシドを合成する能力を有している」か否かは、変異タンパク質をコードするDNAを含むベクターを植物細胞に導入することによって、導入された細胞の内在性のラクトシルセラミドからセラミドトリヘキソシドが合成されるかどうかで判断できる。一例としては、後記する実施例6〜10のように、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを導入された細胞から再生された植物体からセラミドトリヘキソシドが検出されるか否かで判断することができる。
【0017】
本発明のベクターは、動物、植物又は微生物の細胞で外来遺伝子の発現を可能にするプロモーター領域を含む。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーターの例は、以下を含む:
カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター(例えば、Odelら, Nature,313:810, 1985;Dekeyserら, Plant Cell, 2:591, 1990;Terada and Shimamoto, Mol. GeN. Genet., 220:389, 1990;及びBenfey and Chua, Science, 250:959-966, 1990を参照)、ノパリン合成酵素プロモーター(Anら, Plant Physiol., 88:547, 1988)、オクトピン合成酵素プロモーター(Frommら, Plant Cell, 1:977,1989)、及び、翻訳エンハンサー配列をもつ2x CaMV/35Sプロモーター(Kayら, Science, 236:1299-1302, 1987)。
【0018】
また、外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターも、例えば、植物細胞における外来遺伝子の発現に使用することができる。このようなプロモーターの例は、以下を含む:
(a)熱により誘導されるプロモーター(Callisら, Plant Physiol., 88:965,1988;Ainleyら, Plant Mol. Biol., 22:13-23, 1993;及びGilmartinら,The Plant Cell, 4:839-949, 1992)、(b)光により誘導されるプロモーター(例えば、エンドウのrbcS−3Aプロモーター;Kuhlemeierら、Plant Cell、1:471, 1989、及びトウモロコシのrbcSプロモーター;Schaffher & SheeN, Plant Cell、3:997、1991)、(c)ホルモンにより誘導されるプロモーター(例えば、アブシジン酸により誘導されるプロモーター;Marcotteら, Plant Cell. 1: 471, 1989)、(d)傷により誘導されるプロモーター(例えば、ジャガイモのPinIIプロモーター;Keilら, Nucl. Acids. Res. 14: 5641-5650, 1986、アグロバクテリウム(Agrobacterium)のmasプロモーター;Langridgeら,Bio/Technology 10:305-308, 1989、及びブドウのvst1プロモーター;Weiseら, Plant Mol. Biol., 26:667-677,1994)、及び(e)ジャスモン酸メチル又はサリチル酸など化学物質により誘導されるプロモーター(Gatzら, Plant Mol. Biol., 48:89-108, 1997)。
【0019】
また、ユビキチンプロモーター、大豆緑斑紋ウィルスプロモーター、レトロトランスポゾンプロモーター、LHCPIIプロモーターなどを利用することもできる。
【0020】
本発明のベクターには、例えば、α1,4GTのコード領域の上流又は下流に位置するイントロンなどのRNAプロセシングシグナルも含めることができる。また、mRNAの安定性を高めるための3’端ターミネーター領域などの植物遺伝子の3’端の非翻訳領域に由来する付加的な調節配列も含めることができる。例として、ジャガイモのPI−IIターミネーター領域、又はオクトピン合成酵素もしくはノパリン合成酵素(NOS)の3’端ターミネーター領域などがある。
【0021】
更に、本発明のベクターには、形質転換体の速やかな選択を可能とするための優性選択マーカー遺伝子を含めることもできる。優性・選択マーカー遺伝子には、抗生物質耐性遺伝子(例えば、ハイグロマイシン、カナマイシン、ブレオマイシン、G418、ストレプトマイシン又はスペクチノマイシンに対する耐性)をコードする遺伝子、及び、除草剤耐性遺伝子(例えば、ホスフィノスリシンアセチル基転移酵素)が含まれる。
【0022】
上記ベクターを導入する細胞の種類としては、好ましくはタバコ、コムギ、イネ、トウモロコシ、アズキ、コンニャク等があげられるが、細胞内でラクトシルセラミドを合成可能であり、形質転換が可能である限り、これらに制限されない。
【0023】
本発明のベクターは、当業者に公知の方法によって、例えば、植物細胞に導入することができる。例えば、タバコに導入する場合は、実施例に記載のアグロバクテリウムを用いた形質転換法や、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、単子葉植物のアグロバクテリウムを用いた形質転換法、ポリカチオン法、植物のプロトプラストの形質転換法(ポリエチレングリコール法)などの方法が挙げられる。
【0024】
アグロバクテリウム法は、イネ(Hiei Y et al. Plant Mol. Biol., Sep; 35(1-2): 205-218)、オオムギ(Higuchi K et al. Plant J Jan;25(2):159-167)、ナタネ(Damgaard O & Rasmussen O et al. Plant Mol. Boil., 1991 Jul;17(1) 1-8)、ジャガイモ(Yu J & Langridge W Transgenic Res., 2003 Apr, 12 (2): 163-169)、アスパラガス(Ignacimuthu S Indian J Exp Biol., 2000 May;38(5):493-498)、ナス(Rotino GL et al. Nat Biotechnol., 1997 Dec;15(13): 1398-1401)、トウガラシ(Shin R. et al. Transgenic Res., 2002 Apr;11 (2): 215-219)、トマト、サツマイモ、メロン(3種ともMihalka V. et al. Plant Cell Rep., 2003 Apr;21(8):778-784)、ダイズ、(Zeng P et al Plant Cell Rep., 2004 Feb;22(7) 478-482)、サトウキビ(Manickavasagam M et al. Plant Cell Rep., 2004 May 5)、ソルガム(Zhao ZY et al. Plant Mol. Biol., 2000 Dec;44(6): 789-798)、ソバ(Kojima M et al. Biosci Biotechnol Biochem. 2000 Apr;64(4):845-847)、ニンジン(Koyama H et al. Plant Cell Physiol 1999 May;40(5):482-484)、リンゴ(Szankowski I et al. Plant Cell Rep. 2003 Sep;22(2):141-149)などへの遺伝子導入にも利用できる。
【0025】
また、エレクトロポレーション又はパーティクルガン法は、イネ(Shimamoto K et al. Nature, 338, 274-276 (1989))、トウモロコシ(Kyozuka J et al. Mol. Gen. Genet., Aug228(1-2): 40-48)などへの遺伝子導入に利用でき、パーティクルガン法は、バナナ(Sagi L et al. Biotechnology (NY). 1995 May;13(5):481-485)、ライ麦(Popelka JC et al. Transgenic Res., 2003 Oct;12(5):587-596)などへの遺伝子導入に利用できる。
【0026】
本発明は、上記ベクターが導入された形質転換植物細胞であって、セラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体を再生しうる形質転換植物細胞を提供する。本発明における形質転換植物細胞は、上記ベクターが導入された植物の細胞又は細胞の集合であって植物体を再生しうるものであれば、その形態を問わない。例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどは本発明における植物細胞に含まれる。
【0027】
本発明は、上記形質転換細胞から再生された、セラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体を提供する。本発明における「セラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体」とは、本来、植物では合成されることのないセラミドトリヘキソシドを、内在性のラクトシルセラミドからの糖転移反応により合成することができるように改変された植物体をいう。
【0028】
また、本発明は、上記ベクターが導入された細胞から再生された植物体のみならず、その子孫あるいはクローンをも提供する。一旦、ゲノム内に上記ベクターが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖又は無性生殖により子孫あるいはクローンを得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。
【0029】
更に、本発明は、セラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体の製造方法を提供する。本方法は、上記ベクターを植物細胞に導入する工程及びベクターを導入された細胞から植物体を再生する工程を含む。
【0030】
形質転換植物細胞から植物体を再生する工程は、植物の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、タバコの場合は、後記する実施例3のように、リーフディスク法によって上記ベクターを感染させた後、感染時に用いた菌体を除去するためタバコの葉を抗生物質であるハイグロマイシンとカルベニシリンを含むMS液体培地で洗い、続いてこれら抗生物質を加えた再分化用MS寒天培地上で培養し、形質転換タバコのシュートを得ることができる。一般に、形質転換用ベクターに組み込まれた優性選択マーカーは、形質転換植物の芽生えに抗生物質耐性をもたらし、芽生えを適切な濃度の抗生物質に曝すことで形質転換体を選抜することができる。形質転換体の選抜に用いられる抗生物質としては、上述のハイグロマイシンのほかにカナマイシンや除草剤なども挙げられる。その他の選抜方法としては、MATベクター法などがある。
【0031】
更に、本発明は、上記植物体を用いることを特徴とする、セラミドトリヘキソシドの製造方法を提供する。該植物体からのセラミドトリヘキソシドの回収は、当業者に公知の方法で行なうことができる。一例として、タバコにおけるセラミドトリヘキソシドの抽出方法を以下に記載する。
【0032】
まず、クロロフォルム/メタノールによって植物体から総脂質を抽出する。具体的には、タバコ葉5〜10gを100mlのクロロフォルム:メタノール(1:2/容積比)に浸し、ポリトロンホモジナイザーで約2分間破砕後、破砕液を4重に重ねたミラクロスでろ過する。分液ロートに移し、クロロフォルム:メタノール:水の容積比が1:1:0.9になるようにクロロフォルムと水を加え、下層を回収し(2層分離)ロータリーエバポレーターで濃縮することで、総脂質を抽出できる。
【0033】
次に、弱アルカリ分解法を用いて、総脂質画分からスフィンゴ脂質を得る。具体的には、上記方法で得た総脂質の一部、約0.5ml(総脂質0.8gを含む)に0.4 M KOHを含有したメタノール30mlを混合し、37℃で2時間反応する。この間にグリセロ脂質のみが分解されスフィンゴ脂質は分解されない。反応液を分液ロートに移し、30mlのクロロフォルム、27mlの水を加え、混和後に下層を回収し(2層分離)ロータリーエバポレーターで濃縮することで、スフィンゴ脂質画分を得ることができる。
【0034】
最後に、シリカゲルカラムを用いてセラミドトリヘキソシドを精製する。具体的には、内径2cmのクロマト用ガラスカラムにシルカゲル(イアトロビーズ、ヤトロン製6RS−8060)を高さ1.5cmの高さまで充填する。0.5mlのクロロフォルム:メタノール(90:10)に溶解したスフィンゴ脂質をカラムに載せ、クロロフォルム:メタノール溶液を(90:10)から(70:30)の割合までグラジエントに変化させながら流す。最初に色素とグルコシルセラミドが溶出し、それに続いて(80:20あたり)ラクトシルセラミドが溶出し、その直後にセラミドトリヘキソシドが溶出する。このような方法により得られたセラミドトリヘキソシドも、また、本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0035】
本発明により、(1)例えば、組換え植物体を用いてセラミドトリヘキソシドを、動物由来感染症の危険が無い安全な状態で、大量に合成することが可能となった、(2)このことは、2個以上の糖転移酵素遺伝子を生体に導入することにより、脂質やタンパク質に複雑な糖鎖修飾が行えることを示している、(3)セラミドトリヘキソシドは、本来植物では生産されない動物固有のスフィンゴ糖脂質であるが、このセラミドトリヘキソシドが植物体で生産可能になったことにより、これまで産業上有用であるにもかかわらずコスト及び安全性の問題により生産が困難であった動物固有のスフィンゴ糖脂質を、大量かつ安価に生産することが可能になった、(4)本発明の方法は、生産の過程で植物を用いるため、安全性の面でも優れている、(5)糖転移酵素遺伝子を利用した、動物、植物、微生物の細胞における脂質やタンパク質への生体内糖鎖伸長の技術を提供することができる、という効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0037】
ヒト由来のα1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子(α1,4GT)の単離方法
ヒト心臓由来のpolyA+ mRNA (STRATAGENE)を鋳型に用いて、オリゴdTプライマーを使い1st-strand cDNAを逆転写合成した。このcDNAを鋳型に用いてPCR法によりα1,4GT(アクセスナンバー AB037883 (NCBI))に該当する遺伝子のORF全長(1,062bp)を増幅した。このPCRにはプライマーとしてa14GT/27F(5‘-ATGTCCAAGCCCCCCGACCTCCTGCTG-3’/配列番号:3)とa14GT/27R(5’-TCACAAGTACATTTTCATGGCCTCGTG-3’/配列番号:4)を用いた。PCR反応にはKOD Plus DNA polymerase (TOYOBO)を用い、PCRサイクルは94℃で2分間処理した後、94℃ 15秒間、68℃ 2分間を35回繰り返した。得られた単一バンドをプラスミドpBluescript II KS+のEcoRVサイトに挿入してpBS/α14GTクローンを得た。このcDNAクローンの配列は、制限酵素サイトの確認とABI PRISM Big Dye Terminator Ver3(Applied Biosystems, California, USA)を用いたシークエンシングにより確認した。ヒトα1,4GTのDNA配列(1062塩基)とアミノ酸配列(353個のアミノ酸)を配列番号:1、配列番号:2にそれぞれ示す。
【実施例2】
【0038】
TiプラスミドpIG121HmのGUSカートリッジ除去と制限酵素サイトの付加
TiプラスミドベクターpIG121Hmを制限酵素XbaIとSacIで消化し、電気泳動により分画してGUSカートリッジを抜き去った断片pIG121HmΔGUSを得た。ここに、制限酵素サイトSpeI、XhoI、NotI、SacIを有するアダプターを挿入した。アダプターを構成する2本鎖DNAは、それぞれ(5’-CATGTACTAGTCTCGAGGCGGCCGCGAGCT-3’/配列番号:5)と(5’-CGCGGCCGCCTCGAGACTAGTA-3’/配列番号:6)である。こうして得られたTiプラスミドpIG121Hm/Adaptorを得た。
【実施例3】
【0039】
ヒト由来α1,4GTの植物発現ベクターの構築
α1,4GTのORFをpIG121Hm/Adaptorに挿入するために、制限酵素サイトSpeIとSacIを付加するためのPCRを行った。プライマーにはSp1/a14(5’-TTGACTAGTATGTCCAAGCCCCCCGACCTC-3’/配列番号:7)とa14/Sc1(5’-AAGGAGCTCTCACAAGTACATTTTCATGGC-3’/配列番号:8)を用い、反応は上記と同条件で行った。得られたPCR産物をSpeIとSacIで消化し、pIG121Hm/AdaptorのSpeI、SacI消化断片と共にライゲーションして植物発現ベクターpIG121Hm/α14GTを構築した。このクローンの配列は、上記と同じ方法でシークエンシングを行いミスが無いことを確認した。挿入されたα1,4GTのcDNAの発現はカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(35S)とノパリンシンターゼのターミネーター(NOS)により制御される構造である。また、形質転換体の選択マーカーとしてハイグロマイシン耐性遺伝子を含んでいる。ヒトα1,4GTの植物発現ベクターを図1に示す。
【実施例4】
【0040】
タバコの形質転換
タバコ(Nicotiana tabacum cv. Blight Yellow)の形質転換は、Agrobacteriumを使い、リーフディスク法を用いて行った。無菌的に育成したタバコの葉から一辺約1cmのリーフディスクを切り出し、pIG121Hm/α14GTを持ったAgrobacterium tumefacience LBA4404株の菌液に浸して2日間MS寒天培地上で共存培養して感染させた。3日目に5mg/lハイグロマイシンと500mg/lカルベニシリンを含むMS液体培地でリーフディスクを洗い、Agrobacterium菌体を除去したうえ、これら抗生物質を加えた再分化用MS寒天培地上で培養し、形質転換タバコのシュートを得た。
【実施例5】
【0041】
α1,4GTを導入した組換えタバコのゲノムDNAの解析
ヒトα1,4GTがタバコの染色体ゲノムに挿入されていることを確認するために、PCRを行った。ハイグロマイシン抵抗性が確認された組み換えタバコの葉約0.1gからDNAを抽出し(DNeasy Plant Mini Kit, QIAGEN)、その一部を鋳型に用いてPCRを行った。プライマーはα1,4GTのORF全長を含むようにa14GT/27Fとa14GT/27Rを用いた。PCR反応にはTAKARA EX Taq Polymeraseを使い、94℃ 30秒間、65℃ 30秒間、72℃ 1.5分間を40回繰り返した。6クローンについて調べたところ、4クローンに型α1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子固有のバンドが現れ、確かに核ゲノムに遺伝子が挿入されていることを確認した。
PCRの結果を図2に示す。
【実施例6】
【0042】
α1,4GT5を導入した組換えタバコのRNAの解析
ヒトα1,4GTがタバコの染色体ゲノムに挿入されていることを確認するためにRT−PCRを行った。ハイグロマイシン抵抗性が確認された組み換えタバコの葉約0.1gからTotal RNAを抽出(RNeasy Plant Mini Kit, QIAGEN)し、その一部を鋳型に用いてPCRを行った。プライマーはa14GTsqp1(5’-GCTGCTTCCCGAATGTCCAG/配列番号:9)とa14GT/27Rを用いた。RT−PCR反応にはReady-To-Go RT-PCR Beads(アマシャム)を使い、42℃、30分間逆転写反応させて95℃で5分間処理し、酵素を失活させた後、95℃、30秒、55℃、30秒、72℃、2分のPCR反応を40サイクル繰り返した。6クローンについて調べたところ、1クローンにα1,4GT固有のバンドが現れ、確かにRNAが転写されていることを確認した。RT−PCRの結果を図3に示す。
【実施例7】
【0043】
組換えタバコの脂質の解析
タバコの葉約10gを約1cm四方の大きさに切った後、100mlのクロロホルム/メタノール(1:2)を加えポリトロンで1分間破砕した。これをブフナロートに敷いた4重ミラクロスで吸引濾過し、Bligh−Dyer法に従ってクロロホルムと水を加えて2層分配しクロロホルム層を回収した。これを減圧下で乾固させた後、1mlのクロロホルム/メタノール(2:1)に溶解し、総脂質画分とした。
【0044】
スフィンゴ脂質を得るために総脂質画分を弱アルカリ分解してグリセロ脂質を分解除去した。上で得られた総脂質に10mlの0.4 M KOHのメタノール溶液を加え37℃で2時間反応させた。これにクロロホルムと水を加え2層分配を行ってアルカリに耐性な脂質を回収し、減圧乾固後に少量のクロロホルム/メタノール(2:1)に溶解して総スフィンゴ脂質に富んだアルカリ耐性脂質とした。
【実施例8】
【0045】
TLC分画されたセラミドトリヘキソシドの同定
脂質を脂質クラスに分離するためにシリカゲルTLCにかけた。総スフィンゴ脂質画分をシリカゲルTLCに載せ展開溶媒としてクロロホルム/メタノール/水(65 : 16 : 1)を用いて展開した。脂質の検出はプリムリン法とオルシノール硫酸法を用いた。その結果、タバコの葉の脂質には、グルコシルセラミドとラクトシルセラミド共に新規合成されセラミドトリヘキソシドのスポットが確認された。総脂質のTLC写真を図4に示す。アルカリ耐性脂質のTLC写真を図5に示す。
【実施例9】
【0046】
セラミドトリヘキソシドの糖鎖の分析
得られたセラミドトリヘキソシドをTLCから分離回収し糖鎖構造の分析を行った。25mM酢酸アンモニウム緩衝液pH5.0、0.4% Triton X−100に溶解し、エンドグリコセラミダーゼ2(rEGCase II、タカラ)を用いて糖鎖を切断してTLCに展開したところ、糖鎖構造がGb3トリオース(Galα1−4Galβ1−4Glc)であることが確認された。TLC写真を図6に示す。
【実施例10】
【0047】
ラクトシルセラミドのTOF−mass分析
得られたラクトシルセラミドを2,5−ジヒドロキソベンゾイック酸(DHB)と混和し乾固させ、MALDI−TOF−mass(AutoFLEX II-SH TOF/TOF, Bulker Daltonics)を用いて分析したところ、セラミドトリヘキソシド分子に相当するピークが検出された。TOFF−MASのクロマトグラムを図7に示し、各ピークに対応するセラミドトリヘキソシド分子種を表3に示す。
【実施例11】
【0048】
ラクトシルセラミド含量の分析
TLCで分離したスフィンゴ脂質をオルシノール硫酸法で発色させ、デンシトメトリーによりセラミドトリヘキソシド含量を定量した。図4のTLCのオルシノールの発色をデンシトメーターで読み込み、各脂質を定量して各脂質の相対量とセラミドトリヘキソシドの絶対量を分析した。糖脂質組成を表1に示し、セラミドトリヘキソシド含量を表2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
その結果、ヒトα1,4GTが導入された組換えタバコには、生葉1gあたり約67μgのラクトシルセラミドが含まれていた。
【0052】
【表3】

【0053】
以前、本発明者らは、糖転移酵素遺伝子であるβ1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ(Accession No. AF097159 (NCBI))をただ1つだけタバコに導入し、ラクトシルセラミドの合成を行い、生葉1gあたり200μg以上のラクトシルセラミドを生産させることに成功した。本発明では、更に、第2の糖転移酵素遺伝子をタバコに導入することでセラミドから数えて3番目の位置に新たな糖を付加させ、セラミドトリヘキソシドを生産することに成功した。このように、2個以上の複数の糖転移酵素遺伝子を細胞に導入する手法を用いれば、様々な糖鎖修飾を有する脂質やタンパク質の生産が可能となり、その手法は非常に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上詳述したように、本発明は、動物、植物、微生物の細胞における脂質やタンパク質への生体内糖鎖伸長の技術に係るものであり、本発明により、2個以上の糖転移酵素遺伝子を生体に導入することにより、脂質やタンパク質に糖修飾を行うことが可能となる。これまで産業上有用であるにもかかわらずコスト及び安全性の問題により生産が困難であった動物固有のスフィンゴ糖脂質を、本発明では、動物由来感染症の危険が無い安全な状態で、大量かつ安価に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】pIG121Hm/α14GTのT−DNA領域を示す図である。Hygはハイグロマイシン抵抗性素遺伝子、Kmはカナマイシン抵抗性遺伝子を示す。P35SはCaMV 35Sプロモーターを示す。Tnosはノパリン合成酵素のポリアデニル化領域を示す。
【図2】形質転換タバコのゲノムDNAを鋳型にしたPCR解析写真である。PはPCRの鋳型にpIG121Hm/α14GTを用いたポジティブコントロール、Mは電気泳動マーカーλ/HindIII消化物とΦX174/HaeIII消化物、WTは野生株、ナンバー1,20,22,2,3,5は、それぞれ遺伝子組換えタバコのクローン番号を示す。
【図3】形質転換タバコのRNAを鋳型にしたRT−PCR解析写真である。Pは、PCRの鋳型にpIG121Hm/α14GTを用いたポジティブコントロール; Mは、電気泳動マーカーλ/HindIII消化物とΦX174/HaeIII消化物; WTは、野生株; ナンバー1,20,22,2,3,5は、それぞれ遺伝子組換えタバコのクローン番号を示す。
【図4】タバコ葉の総脂質のTLC写真である。1は、グルコシルセラミド標準品(ウシ由来); 2は、ステリルグルコシド標準品(大豆由来); 3は、ラクトシルセラミド標準品(ウシ由来);4は、セラミドトリヘキソシド標準品(ウシ由来); 5は、タバコ野生株; 6は、β14GT5遺伝子導入タバコ(ラクトシルセラミド生産タバコ); 7は、α14GT遺伝子導入タバコ、MGDGは、モノガラクトシルジアシルグリセロール;SteGlcは、ステリルグルコシド; GlcCerは、グルコシルセラミド; DGDGは、ジガラクトシルジアシルグリセロール; LacCeは、ラクトシルセラミド; SQDGは、スルフォキノボシルジアシルグリセロール; oligoGDGは、オリゴガラクトシルジアシルグリセロール; CTHは、セラミドトリヘキソシドを示す。
【図5】タバコ葉のアルカリ耐性脂質のTLC写真である。1は、グルコシルセラミド標準品(ウシ由来); 2は、ステリルグルコシド標準品(大豆由来); 3は、ラクトシルセラミド標準品(ウシ由来);4は、セラミドトリヘキソシド標準品(ウシ由来); 5は、タバコ野生株; 6は、 β14GT5遺伝子導入タバコ(ラクトシルセラミド生産タバコ); 7は、α14GT遺伝子導入タバコ、MGDGは、モノガラクトシルジアシルグリセロール;SteGlcは、ステリルグルコシド; GlcCerは、グルコシルセラミド; DGDGは、ジガラクトシルジアシルグリセロール; LacCeはr、ラクトシルセラミド; SQDGは、スルフォキノボシルジアシルグリセロール; oligoGDGは、オリゴガラクトシルジアシルグリセロール; CTHは、セラミドトリヘキソシドを示す。
【図6】形質転換タバコのセラミドトリヘキソシドの糖鎖分析写真である。1は、グルコース標準品;2は、ラクトース標準品;3は、Gb3トリオース標準品;4は、α14GTタバコから精製したCTH由来の糖鎖;5は、セラミドトリヘキソシド標準品由来の糖鎖を示す。
【図7】ヒト由来α1,4GT遺伝子を発現している形質転換タバコのセラミドトリヘキソシドのTOF−massのスペクトログラフである。
【図8】ヒトα1,4GTのDNA配列(1−528)とアミノ酸配列を示す。
【図9】ヒトα1,4GTのDNA配列(529−1056)とアミノ酸配列を示す。
【図10】ヒトα1,4GTのDNA配列(1057−1062)とアミノ酸配列を示す。
【図11】ヒトα1,4GTのアミノ酸配列(1−224)を示す。
【図12】ヒトα1,4GTのアミノ酸配列(225−355)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物、植物又は微生物の細胞で発現可能なプロモーター領域の下流に、下記(a)から(c);
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
のいずれかに記載のヒト又は動物由来のDNAが機能的に結合したベクター。
【請求項2】
2個以上の複数の糖転移酵素遺伝子が導入された形質転換植物細胞であって、セラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体を再生しうる形質転換植物細胞。
【請求項3】
ヒト又は動物由来のβ1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子及びα1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子が導入された請求項2に記載の形質転換植物細胞。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の形質転換植物細胞から再生されたことを特徴とするセラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体。
【請求項5】
請求項4に記載の植物体の子孫又はクローンであることを特徴とするセラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のセラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体の繁殖材料。
【請求項7】
セラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体を製造する方法であって、
(1)請求項1に記載のベクターを植物細胞に導入する工程、及び、
(2)ベクターが導入された形質転換植物細胞から植物体を再生する工程、
を含むことを特徴とするセラミドトリヘキソシドを生産する能力を有する植物体の製造方法。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の植物体を育生してセラミドトリヘキソシドを合成することを特徴とするセラミドトリヘキソシドの製造方法。
【請求項9】
細胞に糖転移酵素遺伝子を2個以上導入した形質転換細胞又は該細胞から再生された植物体を利用することで脂質やタンパク質の糖鎖修飾を伸長させる方法。
【請求項10】
ヒト又は動物由来のβ1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子及びα1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子を導入した形質転換細胞又は該細胞から再生された植物体を利用する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
細胞が、動物、植物、又は微生物の細胞である請求項9又は10に記載の方法。

【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−288210(P2006−288210A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109277(P2005−109277)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度文部科学省、「組み換え植物を用いた動物型糖脂質の生産」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】