説明

糖鎖ライブラリー、その作製方法、およびそれを固定した糖鎖アレイ

【課題】 本発明は、簡便に糖鎖ライブラリーを作製し、該糖鎖ライブラリーを用いた糖鎖アレイを、吸着防止剤をコーティングすることなく、固定化できるバイオアッセイ用の高分子化合物及びこれを用いた各種糖鎖アレイ基板を提供することを目的とする。
【解決手段】 糖鎖を精製するための一級アミノ基を有する糖鎖精製用基材の、該一級アミノ基で糖鎖または糖の誘導体を捕捉、回収、精製した糖鎖で糖鎖ライブラリーを構築し、糖該糖鎖ライブラリーの糖鎖を糖類捕捉用高分子化合物を基板表面に塗布したアレイ状に固定化し、糖鎖アレイを作製した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖ライブラリーとその作成方法および糖鎖ライブラリーの糖鎖を固定化した糖鎖アレイに関する。
【背景技術】
【0002】
生化学分野において、近年、核酸、タンパク質に続く第三の鎖として糖鎖分子が注目されている。特に細胞の分化や癌化、免疫反応や受精などのかかわりが研究され、新たな医薬や医療材料を創製しようとする試みが続けられている。
また、糖鎖は多くの毒素、ウィルス及びバクテリアなどの病原性外来因子受容体であり、また、癌のマーカーとしても注目されており、こちらの分野においても、同様に新たな医薬や医療材料を創製しようとする試みが続けられている。
【0003】
しかしながら、糖鎖は、研究の重要性を認識されながら、その複雑な構造や多様性から、第一、第二の鎖である核酸、タンパク質に比較して研究の進行が著しく遅れている。
この研究を推進する目的で、糖鎖を精製する方法が種々開発されている。一方、糖鎖は、それ単独で機能を発揮するというより、細胞レセプターに対するリガンドとして機能する場合も多く確認され、それゆえに糖鎖に対するレセプターの解析に供するために、種々の糖鎖を固定化するための基材が開発されている。
【0004】
前記基材を用いて、各種の糖鎖群をライブラリー化する試みがなされており、一般的に、生体由来の糖、糖鎖、糖ペプチド、糖タンパク、糖脂質などの複合糖類から作製される。
【0005】
また、特許文献1に記載されるように、カーゴレセプターの糖鎖認識部位を改変することにより糖結合タンパク質の糖鎖を改変して合成する方法などが開発され、合成糖鎖も多数作製され、飛躍的に糖鎖配列が増え、糖鎖ライブラリーとしての種類を確保することができた。
【0006】
さらに、特許文献1には、前記の糖鎖ライブラリーを用いて糖鎖アレイを作製するための方法が記載されており、三官能性スペーサーを用いて、第1の官能基を糖鎖、第2の官能基を固相担体、第3の官能基を発色団と結合させ糖鎖アレイを作製する方法が示されている。
しかしながら、この方法により作製された糖鎖ライブラリーは、夾雑物が多く、直ちに糖鎖アレイを作製することは難しい。
【0007】
また、特許文献2には、スペーサーを介して糖鎖を基材に固定化する方法が記載されており、スペーサーに親水性化合物を用いることで、非特異的吸着を抑制することが示されている。特許文献2においては、糖鎖固定後に非特異吸着を防ぐために実施例において3%ウシ血清アルブミンを用いたブロッッキング操作が記載されている。
しかしながらウシ血清アルブミンには既に糖鎖が存在して生理的機能を果たしていることは明白であり、目的とする糖鎖との区別が困難である。
【0008】
また、特許文献3には、スペーサーを介して複数の複合糖質を基材に固定化しライブラリー化する方法が記載されておりスペーサーに親水性化合物を用いることで、非特異的吸着を抑制することが示されている。
しかしながら、該発明においては、固相担体にハロゲン化アセチル基を導入する必要があり、材質がガラスの場合においては、比較的容易であるが、汎用性に乏しい方法である。また、前述のように糖鎖は多くの毒素、ウィルス及びバクテリアなどの受容体の研究にも使用されていることから、廃棄に際しては焼却処理が好ましく、材質がガラスであることは不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2004/016789
【特許文献2】特表2007−527539号公報
【特許文献3】特表2002−537562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、簡便に糖鎖ライブラリーを作製し、該糖鎖ライブラリーを用いた糖鎖アレイを、吸着防止剤をコーティングすることなく、固定化できるバイオアッセイ用の高分子化合物及びこれを用いた各種糖鎖アレイ基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)〜(15)に記載の本発明により達成される。
(1)糖鎖を含有する精製原料を
一級アミノ基を有する糖鎖精製用基材と接触させて糖鎖を捕捉し、
当該基材ごと回収し、
所定の特性を有する糖鎖群ごとに分けることを
特徴とする糖鎖ライブラリー作製方法。
(2)前記基材ごと回収した糖鎖を、当該基材から遊離し、液体クロマトグラフィーにより、分画する(1)記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
(3)前記精製原料が、有機合成物、酵素合成物または生体由来物質である(1)または(2)に記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
(4)前記分離する糖鎖類が、2糖以上の糖鎖、またはそれを含む化合物、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、グリコシルホスファチジルイノシトール、ペプチドグリカン、リポ多糖、およびそれらの誘導体から選ばれる(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
(5)前記一級アミノ基がオキシルアミノ基および/又はヒドラジド基である(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
(6)前記糖鎖精製用基材が、下記一般式〔1〕で表される糖鎖捕捉用高分子化合物を含む(1)〜(5)のいずれか1項に記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
【化1】


(Rは−O−、−S−、−NH−、−CO−、−CONH−が挿入されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
(7)前記糖鎖精製用基材が、ビーズまたはプレート状の形態である(1)ないし(6)のいずれか1項に記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
(8)前記糖鎖精製用基材が、下記一般式〔2〕の構造を有する架橋ポリマー構造を有するポリマーマトリックスで構成される粒子である(1)ないし(7)のいずれか1項に記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
【化2】


(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−が挿入されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m,nはモノマーユニット数を示す。)
(9)(1)ないし(8)のいずれか1項に記載の糖鎖ライブラリー作製方法で作製したことを特徴とする糖鎖ライブラリー。
(10)前記糖鎖ライブラリーの糖鎖を基板の表面に固定化したことを特徴とする糖鎖アレイ。
(11)前記糖鎖アレイが、下記一般式〔3〕で表される糖類固定用高分子化合物を基板表面に塗布し、高分子化合物の固定化層を介して前記糖鎖が、固定化した(10)記載の糖鎖アレイ
【化3】


(式中R1、R2、R3は水素原子またはメチル基を、R4は疎水性基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、pは1〜20の整数を示す。pが2以上20以下の整数である場合、繰り返されるXは、同一であっても、または異なっていてもよい。Yはアルキレングリコール残基を含むスペーサーであり、Zは酸素原子またはNHである。Meはメチル基である。l、m、nは自然数である。)
(12)前記疎水性基R4が環状アルキル基であることを特徴とすることを特徴とする(11)記載の糖類アレイ。
(13)前記環状アルキル基がシクロヘキシル基であることを特徴とする(12)記載の糖類アレイ。
(14)前記基板の材質がプラスチックである(10)ないし(13)のいずれか1項に記載の糖鎖アレイ。
(15)前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィンまたはポリスチレンを含むものである(14)記載の糖鎖アレイ。

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生体由来材料のように夾雑物混在状態から糖鎖を簡便に精製し、精製糖鎖ライブラリーを構築でき、さらに該糖鎖ライブラリーを用いた糖鎖アレイを調製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】IgG遊離糖鎖のHPLCのチャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に述べるところの糖鎖ライブラリーとは、種々の動物細胞、血清糖タンパク質等の精製原料である糖鎖リソースから糖鎖のみを回収・精製・分離したもので構成されている。ライブラリー構築のためには、糖鎖の精製・分離諸条件をもとに量産化する技術が必要となる。
【0015】
(糖鎖ライブラリーの作製方法の説明)
まず、糖鎖ライブラリーを作製する方法は以下のステップにより構成される。
(1)前記精製原料を、一級アミノ基を有する糖鎖精製用基材と接触させることにより、糖鎖の還元末端と一級アミノ基との間で、化学結合が生じ基材に糖鎖のみを捕捉する。
(2)この糖鎖を捕捉した基材は、洗浄により、精製原料中の糖鎖以外の夾雑物を簡単に除去することが可能で、糖鎖のみを基材ごと回収する。
(3)基材ごと回収した糖鎖を、基材から遊離させ、所定の特性を有する糖鎖群ごとに分け、糖鎖ライブラリーを作製する。
【0016】
本発明における糖鎖とは、2糖類以上の狭義の糖鎖、またはそれを含む化合物、例えば、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、グリコシルホスファチジルイノシトール、ペプチドグリカン、リポ多糖、およびそれらの誘導体を示す。
【0017】
(精製原料について)
次にステップごとに詳細に説明する。
まず、前記精製原料は、有機合成物、酵素合成物または生体由来物質であり、糖鎖を含む混合物である場合が多い。有機合成物の場合は、反応触媒や反応中間体を含み、酵素合成物の場合は、合成酵素を含んでいる。また、生体由来物質の場合は、組織由来、動物細胞由来や血液などの体液由来物質であったり、粗精製された血清糖タンパク質であったりと、糖鎖を含む物質以外の夾雑物を多く含む混合物である。
【0018】
前記精製原料から、糖鎖のみを捕捉する方法について述べる。
糖鎖は生体の中で唯一、還元処理により、末端にアルデヒド基を生じる物質である。該糖鎖を、表面に一級アミノ基を有する糖鎖精製用基材と接触させることにより糖鎖精製用基材表面に化学結合により固定化することが出来る。
接触の方法は還元末端糖鎖を含む混合物の溶液中に糖鎖精製用基材を投入する、または糖鎖精製用基材で作製した容器内に混合物溶液を入れて接触させることにより、アルデヒド基と一級アミノ基を反応させ、化学結合を生じせしめ、糖鎖捕捉用基材に共有結合で糖鎖を結合させる。
【0019】
(糖鎖精製用基材について)
当該糖鎖精製基材は、糖鎖を捕捉するための反応性の一級アミノ基をその表面に有する基材であり、該一級アミノとしてオキシルアミノ基またはヒドラジド基を有することが望ましい。これは、酵素やカップリング試薬などの非存在下においても糖鎖還元末端であるアルデヒド基と反応し結合可能であるから好適である。
【0020】
前記糖鎖精製用基材は、下記一般式〔1〕で表される構造が好ましい。

【化1】


式1中のRは−O−,−S−、−NH−、−CO−、−CONH−が挿入されてもよい炭素数1〜20の炭化水素を示す。
前記担体は、下記一般式〔2〕の構造を有する架橋ポリマー構造を有するポリマーマトリックスで構成される粒子であることが好ましい。

【化2】


(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−が挿入されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m,nはモノマーユニット数を示す。)
前記、一般式〔2〕の担体は、式〔1〕のR−NH−NH2の構造を含むため、担体が式〔1〕の構造体そのものとなる。
【0021】
また、前記担体は、水溶液や有機溶媒に不溶性の担体であることがのぞましく、材質は特に限定するものではないが、ガラスや耐有機溶剤性に優れた樹脂、例えばシリコン、ポリスチレン、エチレン−無水マレイン酸共重合物、ポリメタクリル酸メチル等を選ぶことができる。
【0022】
前記糖鎖精製用基材の形態は、特に限定するものではないが、ビーズまたはプレート状の形態であることが好ましい。糖鎖ライブラリーを作製するためには、同時に多数の試料を処理する可能性があり、その際には、カラムにビーズを充填したものを使用する事で連続的な処理が可能である。また、マルチウェルプレートであれば同時に多検体を処理することが可能である。マルチウェルプレートとしては、6、12、24,48、96,384ウェルなどのマルチウェルプレートを適宜使用することが出来る。
【0023】
式〔2〕の担体以外では、ビーズとして無機物質を用いることができる。該担体としては、粒子状のものを用いることができ、例えばシリカ粒子、アルミナ粒子、ガラス粒子、金属粒子などが挙げられる。また、有機高分子物質としては、アガロース、セファロースに代表される多糖類ゲル、ビニル化合物の重合体であるポリマーを粒子状にしたものを使用することが出来る。
【0024】
また、粒子としたときの形状は球であることが好ましく、平均粒径0.1μm以上500μm以下のポリマー粒子である。この場合の平均粒径は光学顕微鏡視野において観察される各粒子の直径を計測することにより求めたものである。このような範囲の粒径を有する担体の粒子は、遠心分離、 フィルタなどによる回収が容易であり、かつ、充分な表面積を有しているために糖鎖との反応効率も高いと考えられる。粒径が上記の範囲よりも大幅に大きい場合、表面積が小さくなるために糖鎖との反応効率が低くなることがある。また、粒径が上記の範囲よりも大幅に小さい場合、特にフィルタによる粒子の回収が難しくなることがある。さらに、粒子をカラムに充填して用いる場合、粒径が過小であると通液の際の圧力損失が大きくなってしまうことがある。
【0025】
(糖鎖捕捉について)
前記糖鎖精製基材で末端還元糖鎖と一級アミノ基の結合反応の条件の一具体例は、pHが4〜7、反応温度が25〜90℃、好ましくは60〜85℃、より好ましくは75〜80℃、反応時間が1〜16時間である。最も好ましい条件はpH4.5〜5.5、反応温度が80℃、反応時間が1時間である。
pHが4未満、または7を越える場合は、捕捉糖鎖の解離反応が同時に生じ、捕捉効率が落ちる。反応温度は、25℃未満の場合、反応効率が著しく悪化する場合があり、糖鎖を十分に捕捉することができない。
また、90℃を超える場合は、化合物自身に悪影響を及ぼすと共に、基材がプラスチックの場合は種類によって変形、溶融を発生することがある。
反応時間が1時間より短い場合は十分な結合反応が得られない場合があり、糖鎖を十分に捕捉することが出来ない。また16時間を超えた反応は、更なる糖鎖の捕捉は見られず時間をかけただけの効果がない。
【0026】
(糖鎖回収について)
ここで、洗浄液に用いられる溶液としては、界面活性剤を含む水溶液、メタノール、エタノールなどのアルコール類;水および水性緩衝液などが使用される。ここで、洗浄に水溶液が用いられる場合、この水溶液のpHは中性付近であることが好ましく、そのpHは4〜10、より好ましくは6〜8である。
前期糖鎖捕捉した基材は、洗浄により、精製原料中の糖鎖以外の夾雑物を簡単に除去することが可能で、糖鎖のみを基材ごと回収することができる。
洗浄方法としては、ビーズの場合は、洗浄液に浸漬し、洗浄液の交換を繰り返すことで洗浄することができる。
また、プレートの場合は、各ウェル内に洗浄液を分注、吸引除去を繰り返すことで簡便に洗浄することができる。
【0027】
前記界面活性剤は特に限定はしないが、リン酸緩衝液、Tris−塩酸緩衝液等のpHが制御できる緩衝液が好ましい。また、各種アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、中性界面活性剤を用いることができ、特に限定しないが、TritonX、各種Tween、ドデシル硫酸ナトリウムを使用することが好ましい。洗浄液のpHは、4〜7が好ましい。これはpH4より低い場合とpH7より高い場合は、pHにより糖鎖の脱離反応が生じることによる。
【0028】
この洗浄処理は、連続式にて糖鎖捕捉反応を行った場合には、カラムに洗浄溶液を通して糖鎖捕捉反応から連続的に処理してもよい。また、マルチプレートを用いた場合には、ろ過操作あるいは遠心操作により糖鎖捕捉物質以外の物質を除去してもよい。
【0029】
なお、前記洗浄工程は、当初の生体試料の状態、例えば糖鎖以外の物質の混在の程度によっては行わなくても構わない。
【0030】
(糖鎖分離、精製について)
次のステップとして、基材ごと回収した糖鎖を基材から遊離させ、所定の特性を有する糖鎖群ごとに分けることについて述べる。
ここでいう所定の特性とは、例えば糖鎖の分子量、糖鎖結合様式、特定糖鎖の有無糖鎖以外の結合分子などが挙げられるがこれらに限定するものではない。
【0031】
前記のように基材ごと回収した糖鎖は、基材から遊離させて、該遊離糖鎖を糖鎖ライブラリーとして使用することができる。この遊離操作について以下で説明する。
【0032】
遊離操作の基本は、基材ごと回収した糖鎖を酸性溶媒中、還元剤の存在下で加熱反応を行うことで糖鎖を基材から切り出すことができる。
具体的な方法を以下に示す。
【0033】
反応を行う溶媒は、酸と有機溶媒の混合溶媒あるいは酸と水と有機溶媒の混合溶媒で遊離反応を行うのが好ましい。酸と水と有機溶媒の混合溶媒の場合、水の含有率は好ましくは0.1%〜90%、より好ましくは0.1%〜80%、さらに好ましくは0.1%〜50%である。水の代わりに水性緩衝液を含有しても良い。混合前の緩衝液の濃度は好ましくは0.1mM〜1M、より好ましくは0.1mM〜500mM、さらに好ましくは1mM〜100mMである。反応溶液のpHは好ましくは2〜9、より好ましくは2〜7であり、さらに好ましくは2〜6である。使用する酸は例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、クエン酸、リン酸、硫酸が好ましく、より好ましくは酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、さらに好ましくは酢酸、トリフルオロ酢酸である。
【0034】
還元剤としては、水酸化ホウ素ナトリウムを好適に用いることができる。
ここで、アミノ基を含む化合物として、アミノオキシ基、またはヒドラジド基を含む化合物を用いれば、還元剤を必ずしも使用する必要はない。
【0035】
反応温度に関しては4〜90℃が好ましく、好ましくは25〜90℃で、さらに好ましくは40〜90℃である。反応時間は、10分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、より好ましくは10分間〜3時間である。反応は、開放系で行って溶媒を完全に蒸発させることが好ましい。
pH2の酸性から中性付近で、糖鎖切り出し反応を行うことができるため、従来の強酸性処理、たとえば10%トリフルオロ酢酸処理による切出しのような強酸の存在下での切出し反応に比べて、シアル酸残基の脱離など糖鎖の加水分解などを引き起こすことを抑制することができるようになる。
【0036】
また、基材ごと回収した糖鎖を遊離させ、さらに、高速液体クロマトグラフィーなどの方法で分子量分画をする場合には、糖鎖を蛍光標識する必要がある。糖鎖の遊離ならびに蛍光標識について以下に記載する。
【0037】
前記の蛍光標識方法としては、アミノ基を含むフルオロフォアまたはクロロフォアを接触させ糖鎖を遊離させると同時にフルオロフォアまたはクロロフォアで糖鎖を標識する方法である。反応の溶媒、還元剤、反応温度、時間の詳細は前記の通りであるが、アミノ基を含む化合物、例えば糖鎖に対して10等量以上の化合物を添加することで達成できる。
【0038】
前記のアミノ基を含むクロロフォアまたはフルオロフォアは、具体的にはクロロフォアまたはフルオロフォアが、下記のヒドラジド基を含む物質またはアミノオキシ基を含む物質からなる群から選ぶことが、還元剤の使用を抑えることが出来るのでより好ましい。
( ヒドラジド基を含む物質)
5-Dimethylaminonaphthalene-1-sulfonyl hydrazine (Dansylhydrazine); 2-hydrazinopyridine;9-fluorenylmethyl carbazate (Fmoc hydrazine);benzylhydrazine; 4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionoc acid, hydrazide; 2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin)acetohydrazide; 7-diethylaminocoumarin-3-carboxylic acid, hydrazide (DCCH); phenylhydrazine; 1-Naphthaleneacethydrazide; 2-hydrazinobenzoic acid; phenylacetic hydrazide;
( アミノオキシ基を含む物質) O-benzylhydroxylamine; O-phenylhydroxylamine; O-(2,3,4,5,6-pentafluorobenzyl)hydroxylamine; O-(4-nitrobenzyl)hydroxylamine;2-aminooxypyridine; 2-aminooxymethylpyridine; 4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid methyl ester; 4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid ethyl ester; 4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid n-butyl ester
【0039】
こちらの方法の場合は、標識を利用して糖鎖を分子量分画した後は、更に標識を外す操作が必要となる。
標識を外す方法は、前記の基材から糖鎖を分離するのと同じ方法で行うことができる。
【0040】
(糖鎖ライブラリー保存方法)
前記のように糖鎖は溶液状態で回収され糖鎖ライブラリーとして作製さる。この溶液状の糖鎖ライブラリーは、目的に応じて、すぐに使用してもよいし、必要時まで保存しておいてよい。保存方法は、そのまま市販の蓋付きチューブなど、密閉容器に移し冷凍保存することが好ましい。さらに好ましくは凍結乾燥させてから冷凍保存する方法である。冷凍保存の温度は、−20℃以下が好ましく、より好ましくは−80℃である。
【0041】
(糖鎖アレイの全体像説明)
次に、本発明の糖鎖ライブラリーを用いて、糖鎖アレイを作製する方法について述べる。
糖鎖アレイは、アレイ基板上に糖鎖を固定化したものの総称であるが、本発明においては、アレイ基板の上に該基板と糖鎖の結合を仲介する高分子化合物をアレイ基板上に塗布して、その後、高分子化合物中に設けた糖鎖結合官能基を用いてアレイ基板上に糖鎖を固定化するものである。
【0042】
(糖鎖ライブラリーアレイ)
前述の高分子化合物は、具体的には、少なくとも親水性を保持するためのユニットA、糖類を捕捉するための疎水性基を有するユニットB、および糖類を捕捉するための一級アミノ基を有するユニットCからなる高分子化合物である。この高分子化合物は、生理活性物質を固定化する性質と、検出対象物のアレイ基板への物理的吸着(非特異敵吸着)を抑制する性質を有する。すなわち、一級アミノ基が糖、糖鎖、糖ペプチド、糖脂質またはこれらを有する生理活性物質を固定する役割を果たし、親水性を保持するためのユニットが検出対象物への基材への物理的吸着(非特異吸着)を抑制する性質を併せ持つ。また、疎水性のユニットBは、該高分子化合物のプラスチックアレイ基板やガラスアレイ基板への吸着に関与している。
【0043】
このような固定化のための高分子化合物としては、下記式で表されるものが好ましく用いられる。高分子化合物に含まれる親水性のユニットAはホスホリルコリン基に代表されるもので、特に構造を限定するものではないが、下記一般式〔3〕において、ユニットAは、左部の構成単位で示されように、(メタ)アクリル残基とホスホリルコリン基が炭素数1〜10のアルキレンオキシ基Xの連鎖を介して結合した構造であることが最も好ましい。中でもXはエチレンオキシ基であることが最も最も好ましい。式中のアルキレンオキシ基の繰り返し数は1〜20の整数であり、繰り返し数2以上20以下の場合は、繰り返されるアルキレンオキシ基の炭素数は同一であっても、異なっていてもよい。lは本来自然数であるが、各構成成分の組成割合として表記される場合がある。
【0044】
【化3】


(式中R1、R2、R3は水素原子またはメチル基を、R4は疎水性基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、pは1〜20の整数を示す。pが2以上20以下の整数である場合、繰り返されるXは、同一であっても、または異なっていてもよい。Yはアルキレングリコール残基を含むスペーサーであり、Zは酸素原子またはNHである。Meはメチル基である。l、m、nは自然数である。)
【0045】
本発明の高分子化合物に含まれるホスホリルコリン基を有するユニットAの組成割合(l,m,nの和に対するlの比率)は、高分子の全ユニットに対して、5〜98mol%が好ましくより好ましくは10〜80mol%、最も好ましくは、10〜80%である。組成比が下限値を下回ると親水性が弱くなり非特異吸着が多くなる。一方、上限値を上回ると水溶性が高まり、アッセイ中に高分子化合物が溶出してしまう可能性がある。
【0046】
本発明の高分子化合物に含まれる疎水性基を有するユニットBの組成割合(l,m,nの和に対するmの比率)は、高分子の全ユニットに対して、10〜90mol%が好ましくより好ましくは10〜80mol%、最も好ましくは、20〜80%である。上限値を上回ると非特異吸着が増加する恐れが出てくる。
【0047】
本発明の高分子化合物に含まれる一級アミノ基を有するユニットCは、特に構造を限定されるものではないが、前記一般式〔3〕においての右部の構成単位で表されるように、(メタ)アクリル残基とオキシルアミノ残基を含むスペーサーYを介した構造であることが好ましい。オキシルアミノ基の場合、Zは酸素原子を、ヒドラジド基の場合、ZはNHを示す。nは本来自然数であるが、各成分の組成割合として標記される場合がある。アルキレングリコール残基を含むスペーサーYの構造は、特に制限されるものではないが、下記一般式〔4〕または〔5〕であることがこのましく、より好ましくは〔2〕である。
【0048】
【化4】


(式中qは1〜20の整数)
【0049】
【化5】


(式中rは1〜20の整数)
【0050】
一級アミノ酸を有するユニットCの成分の組成割合(l,m,nの和に対するnの比率)は、高分子の全ユニットに対して、1〜94mol%が好ましくより好ましくは2〜90mol%、最も好ましくは、20〜40%である。組成値が下限地を下回ると糖、糖鎖、および/またはこれらを有する生理活性物質を十分量固定化できなくなる。また、上限値を上回ると非特異吸着が増加する。
【0051】
本発明の高分子化合物の合成方法は、特に限定されるものではないが、合成の容易さから、少なくともユニットAとしてホスホリルコリン基を有するモノマー、ユニットBとして疎水性基を有するモノマー、ユニットCとして一級アミノ基を予め保護基にて保護したモノマーをラジカル共重合する工程、該工程により得られた高分子化合物から保護基を除去する工程、を含む製造方法が好ましい。あるいは、少なくともホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、および一級アミノ基を導入しうる官能基を有するモノマーをラジカル共重合する工程、該工程により得られた高分子化合物に一級アミノ基を導入する工程、を含む製造方法が好ましい。
【0052】
ユニットAであるホスホリルコリン基を有する単量体としては、特に構造を限定しないが、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10−(メタ)アクリロイルオキシエトキシノニルホスホリルコリン、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン等を挙げられるが、入手性から2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが好ましい。
【0053】
ユニットBである疎水性基を有するモノマーの具体的な例としては、n−ブチル(メタ)アクリレート、i s o−ブチル(メタ)アクリレート、s e c−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ネオペンチル(メタ)アクリレート、i s o−ネオペンチル(メタ)アクリレート、s e c−ネオペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、i s o−ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i s o−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i s o−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、is o−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、i s o−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ) アクリレート、i s o−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ) アクリレート、i s o−テトラデシル(メタ)アクリレート、n−ペンタデシル(メタ)アクリレート、i s o−ペンタデシル(メタ)アクリレート、n−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、i s o−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、i s o−オクタデシル(メタ)アクリレート、イソボニル( メタ) アクリレートなどが挙げられる。これらのなかで最も好ましいのが、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n―ブチルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレートである。
【0054】
一級アミノ基を予め保護基にて保護したモノマーは、特に構造を限定しないが、下記一般式[6](式中、R3は水素原子またはメチル基、Yはアルキレングリコール残基を含むスペーサー、Zは酸素原子またはN、H、Wは保護基を示す。)で表されるように、(メタ) アクリル基と、オキシルアミノ基またはヒドラジド基が、アルキレングリコール残基を含むスペーサーYを介した構造であることが好ましい。
【0055】
【化6】

【0056】
保護基W としてはアミノ基を保護基できるものであれば何ら制限を受けるものではなく、例えば酸無水物から任意に用いることができる。なかでもt―ブトキシカルボニル基(Boc基)やベンジロキシカルボニル基(Z基、Cbz基)、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)などが好適に用いられる。
【0057】
具体的なモノマーの例としては、下記式〔7〕で表されるようなものである。
【0058】
【化7】

【0059】
脱保護化は、トリフルオロ酢酸や塩酸、無水フッ化水素を用いれば、一般的な条件で行うことができる。
【0060】
一方、高分子化合物を重合した後に一級アミノ基を導入する方法としては、何ら制限を受けるものではないが、少なくともホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、およびアルコキシ基を有するモノマーをラジカル共重合した後に、該高分子化合物に導入されたアルコキシ基とヒドラジンを反応させて、ヒドラジド基を生成する方法が簡便で好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t−ブトキシ基等が好適である。
【0061】
具体的なアルコキシ基を有するモノマーの例としては、下記式〔8〕で表されるようなものである。
【0062】
【化8】

【0063】
本発明の高分子化合物の合成溶媒としては、それぞれの単量体が溶解するものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール等アルコール類、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2 種以上の組み合わせで用いられる。
【0064】
重合開始剤としては通常のラジカル開始剤ならいずれでもよく、例えば、2,2 ’−アゾビスイソブチルニトリル(以下「AIBN」という)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の有機過酸化物等を挙げることができる。
【0065】
本発明の高分子化合物の分子量は、高分子化合物と未反応の単量体との分離精製が容易になることから、数平均分子量は5000以上が好ましく、10000以上がより好ましい。前記数平均分子量は高速液体クロマトグラフィーの測定により算出される
【0066】
脱保護は前述のトリフルオロ酢酸や塩酸、無水フッ化水素を用いれば、一般的な条件で行うことができるが、脱保護の時期に関しては、以下の通りである。
通常は重合が完了し、高分子化合物が作製できた段階で行うことが一般的であり、本発明の高分子化合物を得るには、重合終了後に脱保護を行うことで該高分子化合物を得ることができる。
【0067】
基材表面に該高分子化合物を被覆することにより生理活性物質の非特異的吸着を抑制する性質、及び生理活性物質を固定化する性質を容易に付与することが可能である。
この場合、脱保護を行った一級アミノ基を持つ高分子化合物を被覆することも可能であるが、反応性の高い一級アミノ基を持つ高分子材料を溶液にして皮膜することは、場合によっては作業中に一級アミノ基が反応して不活化することも考えられる。
従って、脱保護する直前で高分子化合物を精製し、基材表面を皮膜して後に、脱保護の反応を行い、基材表面上に一級アミノ基が存在する状態を形成することが望ましい。
【0068】
アレイ基板表面への高分子化合物の被覆は、例えば有機溶剤に高分子化合物を0.05〜50重量%濃度になるように溶解した高分子溶液を調製し、浸漬、吹きつけ等の公知の方法で基材表面に塗布した後、室温下ないしは加温下にて乾燥させることにより行われる。
【0069】
有機溶剤としてはエタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、シクロヘキサノール等アルコール類、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノン等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2 種以上の組み合わせで用いられる。中でも、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノールシクロヘキサノール等アルコール類がプラスチック基材を変性させず、乾燥させやすいため好ましい。
【0070】
本発明に用いるアレイ基板としては、スライド形状基板、6、12、24,48、96、384穴プレート、容器、マイクロフルイディスク基板が好ましい。例えばプラスチック製基板、ガラス製基板、金属蒸着膜を有する基板などがあげられるが、スライド形状基板が最もふさわしい。プラスチック製基板の具体例としては、ポリスチレン、環状ポリオレフィンポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートを素材とした基板などがあげられる。
【0071】
特に、蛍光観察に用いる基材としては、環状ポリオレフィンポリマー、シクロオレフィンポリマーが有用である。前記基材を用いる場合においては、前記高分子化合物の疎水基が、シクロヘキシルキ基であると、基材との相互作用が良好で、同じ組成比の高分子材料を他の基材(例えばポリスチレンやガラス基材)に塗布した場合に比べ、吸着量が高くバックグランド値が低い良好な結果となる。
【0072】
また、環状ポリオレフィンポリマーからなるアレイ基板に、前記高分子化合物を塗布する場合、アミノオキシモノマー100mol%の高分子化合物に関しては、塗布することができない。一方、ポリスチレンポリマーには塗布が可能であるが、夾雑物の非特異的吸着は抑制されず汎用性に乏しい。
【0073】
前記高分子化合物を塗布した基材は、糖鎖ライブラリー中の糖鎖群を固定化することができ、バイオアッセイ用途に好適に用いることができる。
糖鎖群としては、2糖以上の糖鎖、またはそれを含む化合物、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、グリコシルホスファチジルイノシトール、ペプチドグリカン、リポ多糖、およびそれらの誘導体などが挙げられる。これらの糖鎖群の基材への固定化方法としては、スポッターを使用して生理活性物質が溶解した溶液を点着する方法、糖鎖群が溶解した溶液を容器などに分注して固定化する方法などがある。
【0074】
糖鎖ライブラリー中の糖鎖群を前記の基板表面に固定化する方法は、前述の糖鎖精製基材で末端還元糖鎖と一級アミノ基との反応と同じ反応で固定化できる。すなわち、糖鎖ライブライリー中の糖鎖の末端還元糖鎖と、アレイ基板上の一級アミノ基とを、pHが4〜7、反応温度が25〜90℃、好ましくは60〜85℃、より好ましくは75〜80℃、反応時間が1〜16時間で反応させる。最も好ましい条件はpH4.5〜5.5、反応温度が80℃、反応時間が1時間である。
【0075】
前記の凍結乾燥保存した糖鎖ライブラリーを用いる場合には、糖鎖ライブラリー中の糖鎖群を溶解する溶液としては各種緩衝材が好適に用いられる。特に限定されないが、たとえば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、トリス塩酸緩衝剤、トリス酢酸緩衝剤、PBS緩衝剤、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、HEPES(N−2−hydroxyetylpiperazine−N’−ethanesulphonic acid)緩衝剤、MOPS(3−(N−morpholino)propanesulphonicacid) 緩衝剤などが用いられる。
【0076】
糖鎖ライブラリー中の糖鎖群を溶解する溶液のpHとしては、糖又は狭義の糖鎖を溶解する場合はpHが2〜8であることが好ましい。糖タンパク質を溶解する場合はpHが4〜9であることが好ましい。糖核酸を溶解する場合はpHが2〜8であることが好ましい。糖脂質を溶解する場合はpH2〜8 であることが好ましい。
【0077】
糖鎖ライブラリー中の糖鎖群を溶液中の濃度としては特に限定されないが、0.0001mg/mlから10mg/mlであることが好ましい。
【0078】
糖鎖ライブラリー中の糖鎖群を固定化する温度としては0℃から100℃が好ましい。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0080】
<糖鎖ライブラリーの作製>
(糖鎖の遊離)
IgG 1mg(Bovine Serum由来)を糖鎖精製キットBlotGlyco(住友ベークライト製BS−45603)に添付のプロトコルに従って、還元アルキル化処理、トリプシン処理、N−グリコシダーゼ(PNGaseF)処理を実施し、IgGより糖鎖を遊離させた。詳細は以下の通り。
【0081】
IgG(1mg)の入ったチューブに下記の溶液を加え、撹拌して完全に溶解させた。
・1M重炭酸アンモニウム水溶液(5μL)
・純水(50μL)
・120mMヂチオトレイトール(DTT、シグマ社、D9779) 水溶液(5μL)
【0082】
前記溶液を60℃ で30分間静置した後、123mMヨードアセトアミド(IAA、和光純薬製、093−02152)水溶液(10μL)を加え、遮光下、室温で 1時間静置。
静置終了後、トリプシン(400unit)を加えた。(トリプシンを40unit/μLで1mM塩酸に溶解し、10μLをサンプル溶液に加えて調製)
37℃のインキュベーターで 1時間以上静置し反応させた。その後、90℃のヒートブロックで5分間加熱し、トリプシンを失活させた。前記溶液を37℃まで冷やした後、N−グリコシダーゼ(PNGase F、Roche社製、11−365−193−001)(5μL=5unit)を加え37℃のインキュベーターで一晩 (12時間以上) 反応させた。反応後、90℃で5分間加熱し、PNGaseFを失活させた。
【0083】
(糖鎖精製)
前記BlotGlycoプロトコルに従って、IgG200μg相当量の糖鎖をビーズに捕捉した
BlotGlycoビーズ分散液50μL をピペットで取り、キット付属の反応用チューブの底部に注入した。反応用チューブを卓上遠心機(チビタン、日本ミリポア社製)で数秒間遠心し,水を除去し、ビーズ上に糖鎖サンプル溶液 (20μL) を添加し、さらに2%酢酸/アセトニトリル(180μL)を添加した。反応チューブを80℃のヒートブロックに挿入し、1時間加熱し、溶媒が完全に蒸発し、ビーズが完全に乾燥していることを確認した。反応終了後、反応用チューブを2mLエッペンドルフチューブに挿入し、反応用チューブに2Mグアニジン溶液(200μL)を加え,卓上遠心機で数秒間遠心した。この作業を3回繰り返したのち、エッペンドルフチューブに溜まった溶液を除去した。反応用チューブを純水(200μL)で3回洗浄、続けて1%トリエチルアミン/メタノール(200μL)で3回洗浄、最後にメタノール(200μL)で3回洗浄した。
反応用チューブのビーズに100μLの10%無水酢酸/メタノール溶液を加え、室温で30分間反応。反応後、反応用チューブを再度2mLエッペンドルフチューブに挿入し、遠心して無水酢酸溶液を除去した。
さらにビーズをメタノール(200μL)で3回洗浄、続けて10mM塩酸(200μL) で3回洗浄、最後に純水(200μL)で3回洗浄した。
【0084】
(糖鎖の標識)
20mMの2−aminobenzhydrazide(2−ABh、和光純薬製、574−92441)溶液20μLと2%酢酸/アセニトリル溶液180μLを加えて、80℃で1時間加熱し、BlotoGlycoからの糖鎖の脱離と標識を行った。
具体的には以下の通り。
【0085】
次に、過剰の未反応2−ABh試薬を除去した。
回収した糖鎖溶液 (約50μL) に、アセトニトリル(950μL)を加え、混合、BlotGlycoキット内のクリーンアップカラムを遠心機にセットし、カラムに純水200μLを加え、数秒の遠心をしてろ過した。
カラムにアセトニトリル200μLを加え、遠心してろ過した.これを3回繰り返しクリーンアップカラムを洗浄した。
廃液を捨てた後、クリーンナップカラムに糖鎖溶液/アセトニトリル溶液を全量加え、そのまま静置して溶液を自然落下で通過させた。
アセトニトリル400μLを加え、遠心して通過させ、これを3回繰り返した。
カラムにアセトニトリル/純水(95:5,v/v)400μLを加え、遠心して通過させ、これを3回繰り返した。
クリーンナップカラムを新しいエッペンチューブに挿し、純水50μLを加えて遠心し、ラベル化糖鎖を溶出させた。
回収した溶液をもちいて、HPLCを用いて分取を行った。
【0086】
(HPLCによる分取)
前記で得られた2ABh標識糖鎖をHPLCで分取した。
分取は2分毎にフラクション1本分取し、計14本得た。

HPLC条件は以下の通りである。
・カラム:TSK−GEL Amide−80(東ソー株式会社製)
・溶媒A:50mM ギ酸水溶液(アンモニア水でpH4.4に調製)
・溶媒B:アクリロニトリル
・勾配:A20%(0min)→A58%(158min)
・流速:0.4mL/min
・カラム温度:30℃
・装置:Waters Delta600(日本ウォーターズ社製)

前記で得られた各フラクションを濃縮、乾燥した
【0087】
(糖鎖からの2ABhの除去)
前記のように得られた糖鎖は2ABh標識されている。このまま保存してもよいが、標識を外して保存することで、ライブライリーをすぐに使用することが可能となるので、以下にその標識を外す方法を記載する。
【0088】
得られた糖鎖を0.5%TFAで37℃、1時間処理して2ABhを遊離させた後、シリカカラムを用いて2ABhを除去した。得られた溶液を濃縮、乾燥した。
前記の回収した糖鎖に、アセトニトリルを加え、混合し1000μLにした。
BlotGlycoキット内のクリーンアップカラムを遠心機にセットし、カラムに純水200μLを加え、数秒の遠心をしてろ過した。
カラムにアセトニトリル200μLを加え、遠心してろ過した。これを3回繰り返しクリーンアップカラムを洗浄した。
廃液を捨てた後、クリーンナップカラムに糖鎖溶液/アセトニトリル溶液を全量加え、そのまま静置して溶液を自然落下で通過させた。
アセトニトリル400μLを加え、遠心して通過させ、これを3回繰り返した。
カラムにアセトニトリル/純水(95:5,v/v)400μLを加え、遠心して通過させ、これを3回繰り返した。
クリーンナップカラムを新しいエッペンチューブに挿し、純水50μLを加えて遠心し、糖鎖を溶出させた。
【0089】
<糖鎖アレイの作製>
以下の方法で、糖鎖の固定化と、レクチンとの結合評価を実施した。
(アレイ基板の作製)
マイクロアレイの作製には住友ベークライト製、環状ポリオレフィン樹脂製のスライドガラス形状のプラスチックス基板を使用した。
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−シクロヘキシルメタクリレート−N−[2−[2−[2−t−ブトキシカルボニルアミノオキシアセチルアミノ]エトキシ]エトキシ]エチル]−メタクリルアミド共重合体の1.0重量%エタノール溶液にスライドを浸漬して高分子化合物を塗布した。
塗布後、2M HClで37℃、2時間処理し、t−ブトキシカルボニル基(Boc基)を脱保護し、基板表面にアミノ基を作製した。
【0090】
(糖鎖の固定化)
HPLCで分取して得られたIgG由来糖鎖に下記溶液を20uL加え溶解し、基板にスポッティングし、80℃、1時間反応させて基板に糖鎖を固定化した。
溶液:100mM NaOAc buffer(pH5.0)+0.01%TritonX−100(和光純薬、A16046)、0.01%PVA(重合度=1500)
【0091】
(固定糖鎖の検出)
IgG由来糖鎖の多くと結合するレクチンであるConAレクチンのビオチン標識体であるBiotin標識ConAレクチン(SIGMA、C2272)を下記溶液で5ug/mLに調製した。
溶液:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、
1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20
【0092】
基板上に溶液を反応させ、室温で2時間反応した。
反応後、前記洗浄剤で洗浄した。
Cy3−Streptavidin(GEヘルスケア、PA43001)を下記溶液で2ug/mLに調製したものを基板状に展開し、室温で1時間反応した。
溶液:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、
1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20
反応後、前記洗浄液で洗浄。測定はX−100マイクロアレイリーダー、ScanArrayLite(PerkinElmer製)を用いてCy3の蛍光強度を測定。(Laser=90、PMT=65)
【0093】
結果を下表に示す。

【表1】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明により、簡単に糖鎖ライブラリーを作製することが可能で、検出対象物質の非特異的な吸着・結合を抑制した糖鎖捕捉基板も用いて、糖、狭義の糖鎖、糖ペプチド、糖タンパク、糖脂質またはこれらを有する糖鎖を固定化できるバイオアッセイ用の各種糖鎖アレイを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖を含有する精製原料を
一級アミノ基を有する糖鎖精製用基材と接触させて糖鎖を捕捉し、
当該基材ごと回収し、
所定の特性を有する糖鎖群ごとに分けることを
特徴とする糖鎖ライブラリー作製方法。
【請求項2】
前記基材ごと回収した糖鎖を、当該基材から遊離し、液体クロマトグラフィーにより、分画する請求項1記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
【請求項3】
前記精製原料が、有機合成物、酵素合成物または生体由来物質である請求項1または2に記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
【請求項4】
前記分離する糖鎖類が、2糖以上の糖鎖、またはそれを含む化合物、糖アミノ酸、糖ペプチド、糖タンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、グリコシルホスファチジルイノシトール、ペプチドグリカン、リポ多糖、およびそれらの誘導体から選ばれる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
【請求項5】
前記一級アミノ基がオキシルアミノ基および/又はヒドラジド基である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
【請求項6】
前記糖鎖精製用基材が、下記一般式〔1〕で表される糖鎖捕捉用高分子化合物を含む請求項1ないし5のいずれか1項に記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
【化1】


(Rは−O−、−S−、−NH−、−CO−、−CONH−が挿入されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖を示す。)
【請求項7】
前記糖鎖精製用基材が、ビーズまたはプレート状の形態である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
【請求項8】
前記糖鎖精製用基材が、下記一般式〔2〕の構造を有する架橋ポリマー構造を有するポリマーマトリックスで構成される粒子である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の糖鎖ライブラリー作製方法。
【化2】


(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−が挿入されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m,nはモノマーユニット数を示す。)
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の糖鎖ライブラリー作製方法で作製したことを特徴とする糖鎖ライブラリー。
【請求項10】
前記糖鎖ライブラリーの糖鎖を基板の表面に固定化したことを特徴とする糖鎖アレイ。
【請求項11】
前記糖鎖アレイが、下記一般式〔3〕で表される糖類固定用高分子化合物を基板表面に塗布し、高分子化合物の固定化層を介して前記糖鎖が、固定化した請求項10記載の糖鎖アレイ
【化3】


(式中R1、R2、R3は水素原子またはメチル基を、R4は疎水性基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、pは1〜20の整数を示す。pが2以上20以下の整数である場合、繰り返されるXは、同一であっても、または異なっていてもよい。Yはアルキレングリコール残基を含むスペーサーであり、Zは酸素原子またはNHである。Meはメチル基である。l、m、nは自然数である。)
【請求項12】
前記疎水性基R4が環状アルキル基であることを特徴とすることを特徴とする請求項11記載の糖類アレイ。
【請求項13】
前記環状アルキル基がシクロヘキシル基であることを特徴とする請求項12記載の糖類アレイ。
【請求項14】
前記基板の材質がプラスチックである請求項10ないし13のいずれか1項に記載の糖鎖アレイ。
【請求項15】
前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィンまたはポリスチレンを含むものである請求項14記載の糖鎖アレイ。



【図1】
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【公開番号】特開2012−201653(P2012−201653A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69578(P2011−69578)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】