糖類のアシル化合物の製造法とその装置
【課題】無触媒条件下、カルボン酸無水物と糖類から糖アシル化合物を短時間、連続的に高収率・高選択率で合成する方法及びその反応組成物、高付加価値糖への変換を伴った同時アシル化技術を提供する。
【解決手段】温度100〜400℃、圧力0.1〜40MPaの亜臨界流体、超臨界流体を反応溶媒として使用し、無触媒条件で、流通式高温高圧装置に、基質及び反応溶媒を導入し、温度、カルボン酸無水物量の諸条件を変化させることにより、カルボン酸無水物及び糖類から糖類のアシル化合物を高収率、高選択、高速・連続的に合成する糖類のアシル化合物の製造方法、その反応組成物、及びその装置。
【効果】高付加価値糖への変換を伴った同時アシル化による高付加価値アシル化糖の製造方法、その反応組成物、及びその装置を提供できる。
【解決手段】温度100〜400℃、圧力0.1〜40MPaの亜臨界流体、超臨界流体を反応溶媒として使用し、無触媒条件で、流通式高温高圧装置に、基質及び反応溶媒を導入し、温度、カルボン酸無水物量の諸条件を変化させることにより、カルボン酸無水物及び糖類から糖類のアシル化合物を高収率、高選択、高速・連続的に合成する糖類のアシル化合物の製造方法、その反応組成物、及びその装置。
【効果】高付加価値糖への変換を伴った同時アシル化による高付加価値アシル化糖の製造方法、その反応組成物、及びその装置を提供できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖類のアシル化合物、その製造方法と装置に関するものであり、更に詳しくは、高温高圧状態の水あるいは酢酸それらの混合溶媒を反応溶媒とし、無触媒かつ一段階で糖類のアシル化合物を製造する方法に関するものである。本発明は、温度100〜400℃、圧力0.1〜40MPaの水あるいは酢酸、それらの混合溶媒を反応溶媒として、触媒無添加で無水カルボン酸と糖類から糖類のアシル化合物を一段階かつ短時間、連続的に合成する方法及びその反応組成物を提供するものである。ここで、糖類としては、単糖類、二糖類、多糖類が挙げられ、具体的には、単糖類としてグルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等が挙げられ、二糖類としてサッカロース等が挙げられ、多糖類としてセルロース等が挙げられる。
【0002】
糖類のアシル化合物は、原料もしくは基質の機能性を改質向上し、更に付加価値を付与するため、香料、医薬品、食品分野等において有用である。通常、糖類のアシル化合物を合成する場合、従来法では、非プロトン性有機溶媒に加えて、酸・塩基触媒が必要であり、食品、医薬品に利用される場合、残存する有機溶媒、触媒の除去は大きな労力を必要とし、環境に影響を与えるのみならず生体に有害である等の問題点を有していた。本発明は、無水カルボン酸と糖類から、無触媒で、水を用いるプロセスのみで糖類のアシル化合物を合成する方法とその反応組成物を提供するものであり、香料、医薬品や食品のみならず、化成品合成にも応用可能であり、糖類のアシル化合物を効率良く、短時間で、連続的に生産し、提供することを可能にするものである。
【背景技術】
【0003】
従来、無水カルボン酸と糖類から糖アシル化合物を合成する方法が種々報告されている(例えば、非特許文献1参照)。ここで、糖類と無水カルボン酸から糖アシル化合物を合成する技術を完成すれば、通常は、アミノ糖類からのアシル化合物が合成を可能となるため、特にグルコースを用いて糖アシル化合物を合成する技術が報告されている。先行技術文献によれば、無溶媒あるいは非プロトン性有機溶媒中、10等量の無水酢酸とCoCl3触媒により、グルコースペンタアセテートが90%の収率で得られている(非特許文献2)。また、安定なN−アシル中間体形成を経由することでアシル基を活性化するDMAPの発見は、革新的な技術とされ、いくつかの糖類のアシル化が報告されている(非特許文献3)。
【0004】
ところが、DMAPは、1等量以上のアミンを利用することから、ルイス酸である金属トリフラートが提案され、Me3SiOTf(非特許文献4)では、ジアセトン−D−グルコースから対応するアシル化物は得られていないが、Bi(OTf)3の場合、ジアセトン−D−グルコースからモノベンゾエートを91%の収率で、ウリジンから99%でトリベンゾエートを得ている(非特許文献5)。更に、V(OTf)3が触媒活性を示さないが、そのオキソ化合物であるV(O)(OTf)2が触媒活性があることが見出され、V=Oの触媒活性化が注目された(特許文献3、非特許文献6)。ジアセトン−D−グルコースからモノアセテートを75%の収率で、3等量の無水酢酸をアシル化剤としてD−マルトースからD−マルトースオクタアセテートを85%の収率で、β―シクロデキストリンから90%の収率で対応するアシル化合物を得ている(図1)。
【0005】
ここで、上記の先行技術文献では、有機塩基、ルイス酸、固体酸のような触媒に加えて有機溶媒が糖類のアシル化にとって必要不可欠である。また、高温条件では不純物が生成し、選択率を低下させるという理由から、糖類のアシル化は常温で行うのが最適であり、高温条件は不適であるとされている(特許文献1、2)。一方、糖類のアシル化における溶媒としての水の可能性に関しては、通常、粗生成物に糖類のアシル化剤を添加し無水条件で糖類のアシル化する方法が一般的であって、水は糖類のアシル化を阻害するとされ(特許文献4)、ある文献では、溶媒として水を列挙しているが、実際には使用されていない(特許文献1、2参照)。
【0006】
ところが、アルドール反応に対する触媒活性と水中でのルイス酸の安定性との相関を元素ごと系統的に比較検討し、他の反応への適用可能性を示唆した例も存在する(非特許文献7)。更に、Bi(OTf)3が触媒の場合には、脱水処理をしていない水を含有する、湿った有機溶媒が反応を促進し、収率向上が観察された文献も存在する(非特許文献5)。したがって、糖類のアシル化に対する溶媒としての水の有効性はこれまで明確ではなく、実施もされなかった。他方、Bi(OTf)3を触媒とする場合の無溶媒条件では、収率が低下し、有機溶媒が必要であると報告されている(非特許文献5)。
【0007】
反応後における後処理は、通常の触媒・有機溶媒中糖類のアシル化では、反応混合物に中和剤を添加して中和後、抽出溶媒と水あるいは飽和食塩水を加え分液し、溶媒層はその後、乾燥、溶媒除去、蒸留あるいは精留のプロセスを得て目的物を得るが、水層には水の他に、触媒、有機溶媒、酢酸、基質、生成物、副生成物、無機物の複雑な混合物が含有される。ここで、水層からの触媒の分離が容易である場合には、回収再生され、再使用されるが、分離が困難である場合には、そのまま廃棄・処分される(図2)。無触媒・高温高圧水中の糖類のアシル化の場合のように、水層に触媒、有機溶媒が含有されず、水、酢酸、生成物のみが含有されるならば、生成物をデカンテーションにより分離後、水層に対して共沸混合物を形成する物質を添加した共沸蒸留を行うことで、水と氷酢酸とに分離することが可能である(特許文献5)。このことは、水の再生を可能にし、通常法に比べて、環境低減型のプロセスであることを意味する(図3)。ところが、D−グルコースからD−マンノースのような高付加価値の糖に変換すると同時に化学的に安定なアシル化糖を得る方法(高付加価値糖への変換を伴った同時アシル化)は、これまで報告されていない。
【0008】
ところで、グルコースのような安価な糖から、マンノースのような高機能性で高付加価値糖への変換に関しては、酵素法による場合が多く報告されている。特にマンノースイソメラーゼによるD−フルクトースから、D−マンノースへの変換への報告は非常に多い。通常、この場合のイソメラーゼは、グルコースを基質としないことから(例えば、特許文献6、7、8)、安価なD−グルコースからD−マンノースを合成する場合には、フルクトースイソメラーゼによってD−グルコースからD−フルクトースへの変換が必要とされ、多くのフルクトースイソメラーゼが発見されている(例えば、特許文献9、10、11)。一方、流通型装置でグルコース水溶液にモリブデン酸触媒水溶液を混合後、130℃で反応させると、D−グルコースからD−マンノースが32%の収率で得られることが知られている(特許文献12)。
【0009】
このように、従来法では、糖類のアシル化及び高付加価値糖への変換を伴った同時アシル化の場合、触媒及び有機溶媒が必要であるため、製品の品質上、反応後の分離操作において、触媒、有機溶媒やカルボン酸の除去が必要であり、分離操作後の水層は廃棄物となりやすく、廃液の問題を生じる。更に、環境に対する影響や生体への有害性への配慮から、またヒトが経口する食品・医薬品の安全性から、触媒・有機溶媒のより高度な分離が要求されており、長時間と多段階行程を要する酵素法から脱却することは困難な状況にある。ここで、高度分離に必要なコストは合成操作と同程度であり、望ましくは触媒と有機溶媒を使用しない方が良い。以上のことから、当該技術分野においては、簡単、低コスト、環境低減型の合成プロセスで、分離操作が容易かつ高度分離が可能で、触媒や有機溶媒の残存しない糖類のアシル化合物の連続的合成を可能とする合成手法が強く要請されていた。
【0010】
【特許文献1】特開平9−169690号公報
【特許文献2】特開平9−176081号公報
【特許文献3】米国特許第6,541,659号明細書
【特許文献4】米国特許第6,005,122号明細書
【特許文献5】米国特許第5,980,696号明細書
【特許文献6】特開2001−245691号公報
【特許文献7】特開平06−292578号公報
【特許文献8】特開平11−075836号公報
【特許文献9】特開平09−191894号公報
【特許文献10】特開平08−187080号公報
【特許文献11】特開平06−046853号公報
【特許文献12】特開昭56−068696号公報
【非特許文献1】W.Green,P.G.Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis,3rd ed.,Wiley,New York,1999,p150
【非特許文献2】S.Ahmad,J.Iqbal,Chem.Commun.,1987,114
【非特許文献3】G.Hofle,W.Steglich,H.Vorbruggen.,Angrew.Chem.Int.Ed.,1978,17,569.b)A.Hassner,L.R.Krepski,V.Alexanian,Tetrahedron,1978,34,2069
【非特許文献4】P.A.Procopiu,S.P.D.Baugh,S.S.Flack,G.G.A.Inglis,J.Org.,Chem.,1998,63,2342
【非特許文献5】J.Otera,A.Orita,C.Tanahashi,A.Kakuta,Angrew.Chem.Int.Ed.,2000,39,2877
【非特許文献6】C−T.Chen,J−H.Kuo,C−H.Li,N.B.Barhate,S−W.Hon,T−W.Li,S−D.Chao,C−C.Liu,Y−C.Li,I−H.Chang,J−S.Lin,C−J.Liu and Y−C.Chou,Org.Lett.,2001,3,3729
【非特許文献7】S.Kobayashi,S.Nagayama,T.Busujima,J.Am.Chem.Soc.,1998,120,8287
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況のなかで、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、低コストで、環境に優しい簡単な高速合成プロセスで、上記糖類のアシル化合物を連続的に合成することができる新しい合成方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、高温高圧水、又は亜臨界水又は超臨界水を反応溶媒とすることで、無触媒で無水カルボン酸と糖類から糖類のアシル化合物を合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、無水カルボン酸と糖類から糖類のアシル化合物を無触媒で、短時間の反応条件下で連続的に合成する方法及びその反応組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)無水カルボン酸と糖類との反応組成物であって、触媒及び有機溶媒の残存がないことを特徴とする糖類のアシル化合物組成物。
(2)無水カルボン酸と糖類から糖類のアシル化合物を合成する方法であって、高温高圧状態の亜臨界流体ないし超臨界流体を反応溶媒として使用し、触媒を用いることなく、無水カルボン酸と糖類から1段階の合成反応で糖類のアシル化合物を合成することを特徴とする糖類のアシル化合物の製造方法。
(3)高温高圧状態の亜臨界ないし超臨界水を反応溶媒として使用する、前記(2)記載の方法。
(4)糖類として、単糖類もしくは二糖類もしくは多糖類を用いる、前記(2)記載の方法。
(5)温度100〜400℃、圧力0.1〜40MPaの亜臨界流体ないし超臨界流体を反応溶媒として使用する、前記(2)記載の方法。
(6)亜臨界流体ないし超臨界流体として、水、酢酸、それ以外の無機溶媒、もしくは有機溶媒もしくは無機溶媒と有機溶媒の混合溶媒を用いる、前記(2)記載の方法。
(7)糖類を溶解ないしは分散させ、無水カルボン酸と常温で混合後、反応を実施する、前記(2)の方法。
(8)安価な糖から高機能性・高付加価値糖類に変換しつつ同時アシル化し、高付加価値アシル化糖を製造する、前記(2)記載の方法。
(9)糖類に無機塩を添加することにより選択性を変化させる、前記(2)記載の方法。
(10)流通式高温高圧装置に、基質及び反応溶媒を導入し、反応時間を3〜60秒の範囲で変化させることで合成反応を実施する、前記(2)記載の方法。
(11)水を送液する水送液ポンプ、水加熱用コイル、高温高圧フローセル、基質を送液する反応物送液ポンプ、炉体、反応物を炉体に導入する反応物導入管、反応溶液を排出する排出液ライン、冷却フランジ及び圧力を設定する背圧弁を具備していることを特徴とする糖類のアシル化合物合成装置。
(12)前記(2)記載の方法において、アシル化後、回収水溶液に水を注入してデカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、糖類のアシル化合物を含む油層を分液回収する一方、水層からは酢酸と水を共沸蒸留によって分離し回収する簡易な連続分離法。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、化1のカルボン酸無水物と化2の糖類から、化3に示すように糖類のアシル化合物を、一段階の反応プロセスで、触媒無添加、短時間の反応条件下で、連続的に合成することを特徴とするものである。本発明では、上記反応溶媒として、温度100〜400℃、圧力0.1〜40MPaの亜臨界流体、超臨界流体が用いられ、好適には亜臨界水が用いられる。また、反応条件として、好適には、温度200〜250℃、圧力5MPa、反応時間が3〜60秒の範囲、より好適には10秒程度に調整される。化1の式中、Rはアルキル基又はアルキル基以外のヘテロ原子を含む置換基であり、化2の式中、Rはアルキル基又はアルキル基以外のヘテロ原子を含む置換基であり、Qは炭素又は炭素以外のヘテロ原子、置換ヘテロ原子であり、具体的には、酸素(O)、窒化水素(NH)、アルキル置換窒素(NR’)、である。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
【化3】
【0017】
本発明においては、上記基質及び反応溶媒を反応容器に導入して所定の反応時間で合成反応を実施するものである。したがって、上記反応器としては、例えば、バッチ式の高温高圧反応容器、及び連続型の流通式高温高圧反応装置を使用することができるが、本発明は、これら反応装置型式に特に制限されるものでない。
【0018】
本発明の方法では、反応溶媒として、上記高温高圧状態にある亜臨界流体、超臨界流体が用いられるが、具体的には、亜臨界二酸化炭素(常温以上、0.1MPa以上)、亜臨界水(100℃以上、0.1MPa以上)、亜臨界メタノール(100℃以上、0.1MPa以上)、亜臨界エタノール(100℃以上、0.1MPa以上)、超臨界二酸化炭素(34℃以上、7.38MPa以上)、超臨界水(375℃以上、22MPa以上)、超臨界メタノール(239℃以上、8.1MPa以上)、超臨界エタノール(241℃以上、6.1MPa以上)、同じ状態の混合溶媒が例示され、好適には、亜臨界水(200−250℃、5MPa以上)が用いられる。反応溶媒としては、上記以外の有機溶媒や無機溶媒を任意の割合で含むことができ、具体的には、有機溶媒として、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等、無機溶媒として酢酸、アンモニア等を含む反応溶液に代替することも可能である。
【0019】
本発明では、上記亜臨界流体、超臨界流体の反応溶媒の組成、温度及び圧力条件、基質の種類及びその使用量、反応時間を調整することにより、短時間で、効率良く、反応生成物を合成することができる。また、本発明では、例えば、基質及び反応溶媒を流通式高温高圧装置に導入し、それらの反応時間を3〜60秒の範囲で変えることにより、所定の反応生成物を合成することができる。上記反応条件は、使用する出発原料、目的とする反応生成物の種類等により適宜設定することができる。
【0020】
本発明の方法では、従来、触媒存在下で行われていた、カルボン酸無水物と糖類からの糖類のアシル化合物の合成を、高速で連続的に、しかも、無触媒で実施できるため、長時間を要するプロセスを効率化することができる。また、本発明の方法では、従来用いられた触媒を全く使用しないので、反応後の溶液の中和処理、無害化処理等の後処理・処分の必要がなく、環境負荷低減を達成可能である。更に、反応後は、デカンテーションのような静置分離操作のみであるため、触媒や有機溶媒の分離回収の必要性はなく、生成物分離が容易になる。本発明によれば、触媒無添加で、10秒程度の短時間で、転化率99%で総選択率97%で糖類のアシル化合物を合成することができる。本発明の合成方法は、香料、医薬品、食品に利用可能な、糖類のアシル化合物を効率良く、大量に高速で連続的に生産することを可能にするものとして有用である。
【0021】
従来、二酸化炭素等の亜臨界流体、超臨界流体を利用して、リパーゼや触媒を用いた糖類のアシル化を実施した例が報告されている。しかし、カルボン酸無水物と糖類から、無触媒条件の亜臨界水プロセスで糖類のアシル化合物を高収率で合成できることを実証した例はなく、本発明の対象とする糖類のアシル化合物の合成反応法は、本発明者らによって初めてその有効性が実証されたものである。しかも、従来法でカルボン酸無水物と糖類から合成される糖類のアシル化合物は、触媒及び有機溶媒の残存が問題とされていたが、本発明でカルボン酸無水物と糖類から合成される反応組成物は、触媒及び有機溶媒の残存がなく、本発明の糖類のアシル化合物組成物は、従来製品にない利点を有している。
【0022】
本発明では、無触媒条件で無水カルボン酸と糖類の合成反応を実現するために、例えば、基質をあらかじめ溶媒に溶解した溶液を送液し、亜臨界流体、超臨界流体中の反応経過を高温高圧赤外フロ−セル(図4)により赤外分光分析によって観察する流通型高温高圧赤外分光その場測定装置(図5)を用いることも可能である。しかしながら、高温高圧赤外フローセルを窓なし高温高圧フローセル(図6)に交換し、超臨界流体の流れに対して直接反応物の流れを接触反応するように配管配置した方が、高温高圧赤外フロ−セルにおけるセル窓付近におけるリーク等の問題が発生せず、より高流量で短時間に合成を実施することが可能である。これらのことから、この窓なし高温高圧フローセルを装着した装置を後述する実施例で用いた。
【0023】
ここで、窓なし高温高圧フローセル本体(図6)については、例えば、市販のSUS316製のクロス1にネジを切り、次に説明する温度センサ−シ−ス(図7の12)に固定できるようにする。炉体雰囲気の温度を測定せずに、セル温度を示すように温度センサ−を調節し、シ−ス固定ネジとオネジ3でネジ止めする。SUS316の配管4はクロス1にワンリングフェラル付きのテ−パ−ネジ2でクロス1に接続される。もちろん、クロス1は、エンドネジで一つの流路を塞ぐことによってティーとしても使用可能である。
【0024】
図7は、窓なし高温高圧フロ−セルを装着した流通式高温高圧反応装置の炉体部分であり、反応装置本体である。これを、図5の流通型高温高圧流体その場赤外分光測定装置の斜線位置に設置すれば、赤外分光は測定できないものの、温度、圧力、流量が可変な亜臨界・超臨界流体接触合成反応装置として利用可能となる。なお、この場合における反応観察は、排出後の水溶液を採取し、GC−FIDにより、生成物の純品を用いた検量線から定量を実施し、GC/MSにより定性分析を実施した。
【0025】
以下、図7について説明すると、水送液ポンプ5から水が送液され、冷却フランジ8を通過後、炉体13へ送液される。管コイル9を通過後、高温高圧状態で温度センサー11が挿入された温度センサ−シ−ス12に支持固定された高温高圧フロ−セル14に導入される。一方、反応物が反応物送液ポンプ6及び7から送液され、ティー18で混合された後、冷却フランジ8を通過後、炉体13へ送液される。コイル状反応物導入管10を通過後、温度センサ−シ−ス12に固定された高温高圧フロ−セル14に導入される。高温高圧フロ−セルを通過した溶液は、配管17を通過後、冷却フランジ8を通過して、炉体外を空冷されながら通過する。その後、圧力を設定している背圧弁19からの排出液を採取し、サンプルとする。ここで、反応物や生成物を含む排出液の加熱による影響を排除する場合には、急速昇温を実施し、反応物導入ライン10と排出液ライン17の配管をできるだけ短く、水加熱用コイル9をできるだけ長くすることが望ましい。本発明は、これらに限らず、これらと同効の反応装置であれば同様に使用することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)カルボン酸無水物と糖類から高速で連続的に糖類のアシル化合物を合成することができる。
(2)触媒及び有機溶媒を用いない合成プロセスを実現できる。
(3)高付加価値の糖類へ変換も可能となる。
(4)そのため、触媒及び有機溶媒の残存がなく、生体に対して有害性のない安全性の高い糖類のアシル化合物組成物を提供できる。
(5)生成物が水に溶解しない場合には、排出された油水分散水溶液に対して更に水を注入することで、洗浄しつつ油水二層に分液し、高純度の生成物を容易に回収できる。
(6)香料、医薬品、食品として有用な糖類のアシル化合物の新しい大量生産プロセスとして、既存の生産プロセスに代替し得る新しい生産技術を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0028】
(実施例1−6)
本実施例では、合成条件を、無触媒、圧力5MPa、滞留時間9.9秒一定として温度の効果を検討とした。図7の流通式高温高圧反応装置の本体(主要部分)を図5の流通型高温高圧流体その場赤外分光測定装置に設置した装置に、まず、純水を流量5.0ml/minで送液し、所定温度、圧力5MPaに設定し、亜超臨界水とした。その後、トルエンを内標準として添加した(基質の5mol%)無水酢酸をポンプ6から、33wt%のグルコース飽和水溶液をポンプ7から、混合溶液が0.5ml/minとなるように送液した(混合後のグルコース濃度:0.18mol/kg、グルコース/無水酢酸=1/35モル等量)。
【0029】
基質送液後、30分後の背圧弁からの排出水溶液を1ml採取した。加熱炉から背圧弁出口までの配管内容積を反応体積とした場合、反応時間は9.9秒であった。回収された1mlの水溶液に1mlのアセトンを加え、振とうし、組成分析をGC/MS分析計(Hewlett Packard社製HP6890、カラム HP−5、注入口温度150℃、初期カラム温度60℃(保持時間2分)、昇温速度10℃/分、最終カラム温度250℃(保持時間2分))で実施し、得られたマススペクトルは、Willey デ−タベ−スで一致度90%以上で確認した。また、定量分析及び市販試薬がある場合の定性分析は、トルエンを内標準としてGC−FID(Agilent社製GC6890、カラム DB−WAX、注入口温度230℃、スプリット比5.61、初期カラム温度50℃(保持時間0.5分)、昇温速度20℃/分、最終カラム温度230℃(保持時間20分))で実施した。
【0030】
温度150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、200℃の5点の温度を検討した結果、温度180℃において、ペンタアセテートの総収率が82%と極大となり(図8)、このとき、転化率が99.7%、選択率はα−グルコースペンタアセテート(α−GAc5)16%、β−グルコースペンタアセテート(β−GAc5)15%、α−マンノースペンタアセテート(α−MAc5)19%、β−マンノースペンタアセテート(β−MAc5)10%、α−フルクトースペンタアセテート(α−FAc5)6%、β−フルクトースペンタアセテート(β−FAc5)15%となった(図9)。
【0031】
(実施例7−9)
本実施例では、合成条件を、無触媒、温度200℃、滞留時間9.0秒一定として圧力の効果を検討とした。図7の流通式高温高圧反応装置の本体(主要部分)を図5の流通型高温高圧流体その場赤外分光測定装置に設置した装置に、まず、純水を流量5.0ml/minで送液し、温度200℃、所定圧力2MPa又は5MPa又は15MPaに設定し、亜超臨界水とした。その後、トルエンを内標準として添加した(基質の5mol%)無水酢酸をポンプ6から、33wt%のグルコース飽和水溶液をポンプ7から、混合溶液が1.0ml/minとなるように送液した(混合後のグルコース濃度:0.36mol/kg、グルコース/無水酢酸=1/30モル等量)。
【0032】
基質送液後、30分後の背圧弁からの排出水溶液を1ml採取した。加熱炉から背圧弁出口までの配管内容積を反応体積とした場合、反応時間は9.9秒であった。回収された1mlの水溶液に1mlのアセトンを加え振とうし、組成分析をGC/MS分析計(Hewlett Packard社製HP6890、カラム HP−5、注入口温度150℃、初期カラム温度60℃(保持時間2分)、昇温速度10℃/分、最終カラム温度250℃(保持時間2分))で実施し、得られたマススペクトルは、Willey デ−タベ−スで一致度90%以上で確認した。また、定量分析及び市販試薬がある場合の定性分析は、トルエンを内標準としてGC−FID(Agilent社製GC6890、カラム DB−WAX、注入口温度230℃、スプリット比5.61、初期カラム温度50℃(保持時間0.5分)、昇温速度20℃/分、最終カラム温度230℃(保持時間20分))で実施した。
【0033】
その結果、転化率はすべて99%であり、総収率56%、62%、62%とほぼ同一であった。生成物は、温度依存性の検討の場合と同じα−グルコースペンタアセテート(α−GAc5)、β−グルコースペンタアセテート(β−GAc5)、α−マンノースペンタアセテート(α−MAc5)、β−マンノースペンタアセテート(β−MAc5)、α−フルクトースペンタアセテート(α−FAc5)、β−フルクトースペンタアセテート(β−FAc5)が生成し、圧力による効果はほとんど観察されなかった(図10)。
【0034】
(実施例10−19)
本実施例では、合成条件を、無触媒、温度200℃、圧力5MPa、滞留時間9.0秒一定として無水酢酸量の効果を検討とした。図7の流通式高温高圧反応装置の本体(主要部分)を図5の流通型高温高圧流体その場赤外分光測定装置に設置した装置に、まず、純水を流量5.0ml/minで送液し、所定温度、圧力5MPaに設定し、亜超臨界水とした。その後、トルエンを内標準として添加した(基質の5mol%)無水酢酸をポンプ6から、33wt%のグルコース飽和水溶液をポンプ7から、混合溶液が1.0ml/minとなるように送液した(混合後のグルコース濃度:0.01〜0.54mol/kg)。
【0035】
基質送液後、30分後の背圧弁からの排出水溶液を1ml採取した。加熱炉から背圧弁出口までの配管内容積を反応体積とした場合、反応時間は9.9秒であった。回収された1mlの水溶液に1mlのアセトンを加え、振とうし、組成分析をGC/MS分析計(Hewlett Packard社製HP6890、カラム HP−5、注入口温度150℃、初期カラム温度60℃(保持時間2分)、昇温速度10℃/分、最終カラム温度250℃(保持時間2分))で実施し、得られたマススペクトルは、Willey デ−タベ−スで一致度90%以上で確認した。また、定量分析及び市販試薬がある場合の定性分析は、トルエンを内標準としてGC−FID(Agilent社製GC6890、カラム DB−WAX、注入口温度230℃、スプリット比5.61、初期カラム温度50℃(保持時間0.5分)、昇温速度20℃/分、最終カラム温度230℃(保持時間20分))で実施した。
【0036】
5.5、10、15、20、25、30、35、40、45、50モル等量を実施した結果、15モル等量で転化率が99%程度となり、総収率は20モル等量付近で36%
それ以降の25等量で54%とやや向上し、50モル等量で83%となった(図11)。α−グルコースペンタアセテート(α−GAc5)、β−グルコースペンタアセテート(β−GAc5)、α−マンノースペンタアセテート(α−MAc5)、β−マンノースペンタアセテート(β−MAc5)、α−フルクトースペンタアセテート(α−FAc5)、β−フルクトースペンタアセテート(β−FAc5)が生成した。選択率は20モル等量付近まで、α−GAc5、β−GAc5、α−MAc5、α−FAc5は無水酢酸の量の増加とともに減少するが、20モル等量以上ですべてのペンタアセテートが増大した(図12)
【0037】
(実施例20−22)
本実施例では、合成条件を、無触媒、温度200℃、圧力5MPa、滞留時間9.0秒一定として無機塩の効果を検討とした。図7の流通式高温高圧反応装置の本体(主要部分)を図5の流通型高温高圧流体その場赤外分光測定装置に設置した装置に、まず、純水を流量5.0ml/minで送液し、所定温度、所定圧力に設定し、亜超臨界水とした。その後、トルエンを内標準として添加した(基質の5mol%)無水酢酸をポンプ6から、無機塩を溶解させた33wt%のグルコース飽和水溶液(グルコース/無機塩=1/1モル等量)をポンプ7から、混合溶液が1.0ml/minとなるように送液した(混合後のグルコース濃度:0.36mol/kg、グルコース/無水酢酸=1/35モル等量)。
【0038】
基質送液後、30分後の背圧弁からの排出水溶液を1ml採取した。加熱炉から背圧弁出口までの配管内容積を反応体積とした場合、反応時間は9.9秒であった。回収された1mlの水溶液に1mlのアセトンを加え、振とうし、組成分析をGC/MS分析計(Hewlett Packard社製HP6890、カラム HP−5、注入口温度150℃、初期カラム温度60℃(保持時間2分)、昇温速度10℃/分、最終カラム温度250℃(保持時間2分))で実施し、得られたマススペクトルは、Willey デ−タベ−スで一致度90%以上で確認した。また、定量分析及び市販試薬がある場合の定性分析は、トルエンを内標準としてGC−FID(Agilent社製GC6890、カラム DB−WAX、注入口温度230℃、スプリット比5.61、初期カラム温度50℃(保持時間0.5分)、昇温速度20℃/分、最終カラム温度230℃(保持時間20分))で実施した。
【0039】
無機塩として、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムを実施したところ、転化率がそれぞれ90%、99%、98%となり、総収率がそれぞれ69%、92%、77%とかなりの向上が観察された。総収率の向上に加えて、驚くべきことには、選択率が顕著に変化した。選択率はα−グルコースペンタアセテート(α−GAc5)26%、24%、21%、β−グルコースペンタアセテート(β−GAc5)28%、38%、30%、α−マンノースペンタアセテート(α−MAc5)13%、16%、14%、β−マンノースペンタアセテート(β−MAc5)8%、9%、8%、α−フルクトースペンタアセテート(α−FAc5)0%、1%、2%、β−フルクトースペンタアセテート(β−FAc5)0%、5%、4%となった(図13)。
【0040】
比較のために、無機塩を転化しない場合の最高値(温度200℃、圧力5MPa、滞留時間9秒、グルコース/無水酢酸=1/50モル等量)の場合の選択率α−GAc5 20%、β−GAc5 19%、α−MAc5 19%、β−MAc5 11%、α−FAc5 5%、β−FAc5 9%と比較して、α−MAc5、β−MAc5、α−FAc5、β−FAc5の選択率は低下し、α−GAc5、β−GAc5の選択率が向上した。α体よりもβ体の生成が向上する傾向にあった。
【0041】
以上の結果から推定した反応機構を図14に示す。一般的に、グルコース、マンノースのような糖は、エピ化によりα体とβ体がアルドースを経由して相互変換する。しかし、アルドースからアルドース−ケトース転位で、ケトースが生成し、フルクトースと関係している。この反応機構から考えると、マンノース生成は、同じアルドース中間体を経由するという特異的な結果であり、プロセスとして安価な糖から高付加価値に変換する可能性を示している。一方、無機塩の効果は、β−グルコース>α−グルコースの順に選択率が大きく、亜臨界水中で無機塩が溶解しているために、糖が溶解しにくい状態でアシル化されるため、水の特異性がない通常のアシル化に近い反応と考えられる。
【0042】
以上の実施例から、高温高圧水を反応溶媒として、無触媒で糖類のアシル化合物が高収率で合成可能であることが明らかとなった。また、糖類のアシル化後、回収水溶液に水を注入してデカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、糖類のアシル化合物を含む油層を分液回収する一方、水層からは酢酸と水を共沸蒸留によって分離し回収する簡易な連続分離法も構築可能明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上詳述したように、本発明は、高温高圧流体を反応溶媒として、カルボン酸無水物及び糖類から有機溶媒を用いることなく、無触媒で糖類のアシル化合物を合成する方法及びその反応組成物に係るものであり、従来法では、糖類とカルボン酸無水物から糖類のアシル化合物の合成は有機溶媒に触媒を添加し数時間の反応を実施する必要があったが、本発明で示した亜臨界流体・超臨界流体を用いることにより、触媒無添加で、有機溶媒を使用することなく高速で連続的に糖類のアシル化合物を合成することが可能となった。このことは、香料、医薬品、食品として有用な糖類のアシル化合物を短時間で、大量に連続的に生産できるというメリットをもたらす。
【0044】
また、糖類のアシル化後、回収水溶液に水を注入してデカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、糖類のアシル化合物を含む油層を分液回収する一方、水層からは酢酸と水を共沸蒸留によって分離し、回収する簡易な連続分離法により、氷酢酸と水を分離し、水をリサイクルすることが可能である。これらのことから、合成・分離プロセスを単純化させることで、プロセスの初期コスト及びランニングコストを圧縮することが可能である。更に、中和処理の後処理も不必要であり、環境調和型生産が可能となる。本発明は、香料、医薬品、食品として有用な糖類のアシル化合物の新しい大量生産プロセスとして、既存の生産プロセスに代替し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】触媒・有機溶媒用いる糖類の糖類のアシル化を示す。
【図2】触媒・有機溶媒を用いる糖類のアシル化の後処理フローチャートを示す。
【図3】無触媒・水溶媒を用いる糖類のアシル化の後処理フローチャートを示す。
【図4】高温高圧赤外フロ−セルを示す。
【図5】実施例で用いた流通型高温高圧流体その場赤外分光測定装置を示す。
【図6】窓なし高温高圧フローセルを示す。
【図7】実施例で用いた流通式高温高圧反応装置の主要部分を示す。
【図8】実施例における糖類のアシル化における温度依存性を示す。
【図9】実施例における糖類のアシル化における温度による生成物分布を示す。
【図10】実施例における糖類のアシル化における圧力依存性を示す。
【図11】実施例における糖類のアシル化における無水酢酸量の効果を示す。
【図12】実施例における糖類のアシル化における無水酢酸量に対する生成物分布を示す。
【図13】実施例における糖類のアシル化における塩依存性を示す。
【図14】実施例の場合の糖類のアシル化における推定反応機構を示す。
【符号の説明】
【0046】
1 ティ−又はクロス(片側口φ4mmネジ切り)
2 φ4mm×5.0mmL六角ネジ
3 ワンリングフェラル付オネジ
4 SUS316チュ−ブ
5 水送液ポンプ
6 反応物送液ポンプ
7 反応物送液ポンプ
8 冷却フランジ(冷却水が循環する)
9 水加熱コイル
10 反応物導入管
11 温度センサ
12 温度センサ−シ−ス
13 炉体
14 高温高圧フロ−セル(通常昇温ではティ−型、急速昇温ではクロス型)
15 ZnSe窓
16 配管
17 排出配管
18 ティー
19 背圧弁
21 水溶液
22 洗浄水
23 水溶液ポンプ
24 洗浄用純水送液ポンプ
25 炉体加熱システム
26 炉体
27 高温高圧赤外フロ−セル
28 冷却水(入口)
29 冷却水(出口)
30 背圧弁
31 排出水溶液受器
32 可動鏡
33 可動鏡
34 干渉計
35 光源
36 赤外レ−ザ−
37 MCT受光器
38 TGS受光器
39 解析モニタ−
40 SUS316チューブ
41 キャップ
42 温度センサ
43 ユニオン
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖類のアシル化合物、その製造方法と装置に関するものであり、更に詳しくは、高温高圧状態の水あるいは酢酸それらの混合溶媒を反応溶媒とし、無触媒かつ一段階で糖類のアシル化合物を製造する方法に関するものである。本発明は、温度100〜400℃、圧力0.1〜40MPaの水あるいは酢酸、それらの混合溶媒を反応溶媒として、触媒無添加で無水カルボン酸と糖類から糖類のアシル化合物を一段階かつ短時間、連続的に合成する方法及びその反応組成物を提供するものである。ここで、糖類としては、単糖類、二糖類、多糖類が挙げられ、具体的には、単糖類としてグルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等が挙げられ、二糖類としてサッカロース等が挙げられ、多糖類としてセルロース等が挙げられる。
【0002】
糖類のアシル化合物は、原料もしくは基質の機能性を改質向上し、更に付加価値を付与するため、香料、医薬品、食品分野等において有用である。通常、糖類のアシル化合物を合成する場合、従来法では、非プロトン性有機溶媒に加えて、酸・塩基触媒が必要であり、食品、医薬品に利用される場合、残存する有機溶媒、触媒の除去は大きな労力を必要とし、環境に影響を与えるのみならず生体に有害である等の問題点を有していた。本発明は、無水カルボン酸と糖類から、無触媒で、水を用いるプロセスのみで糖類のアシル化合物を合成する方法とその反応組成物を提供するものであり、香料、医薬品や食品のみならず、化成品合成にも応用可能であり、糖類のアシル化合物を効率良く、短時間で、連続的に生産し、提供することを可能にするものである。
【背景技術】
【0003】
従来、無水カルボン酸と糖類から糖アシル化合物を合成する方法が種々報告されている(例えば、非特許文献1参照)。ここで、糖類と無水カルボン酸から糖アシル化合物を合成する技術を完成すれば、通常は、アミノ糖類からのアシル化合物が合成を可能となるため、特にグルコースを用いて糖アシル化合物を合成する技術が報告されている。先行技術文献によれば、無溶媒あるいは非プロトン性有機溶媒中、10等量の無水酢酸とCoCl3触媒により、グルコースペンタアセテートが90%の収率で得られている(非特許文献2)。また、安定なN−アシル中間体形成を経由することでアシル基を活性化するDMAPの発見は、革新的な技術とされ、いくつかの糖類のアシル化が報告されている(非特許文献3)。
【0004】
ところが、DMAPは、1等量以上のアミンを利用することから、ルイス酸である金属トリフラートが提案され、Me3SiOTf(非特許文献4)では、ジアセトン−D−グルコースから対応するアシル化物は得られていないが、Bi(OTf)3の場合、ジアセトン−D−グルコースからモノベンゾエートを91%の収率で、ウリジンから99%でトリベンゾエートを得ている(非特許文献5)。更に、V(OTf)3が触媒活性を示さないが、そのオキソ化合物であるV(O)(OTf)2が触媒活性があることが見出され、V=Oの触媒活性化が注目された(特許文献3、非特許文献6)。ジアセトン−D−グルコースからモノアセテートを75%の収率で、3等量の無水酢酸をアシル化剤としてD−マルトースからD−マルトースオクタアセテートを85%の収率で、β―シクロデキストリンから90%の収率で対応するアシル化合物を得ている(図1)。
【0005】
ここで、上記の先行技術文献では、有機塩基、ルイス酸、固体酸のような触媒に加えて有機溶媒が糖類のアシル化にとって必要不可欠である。また、高温条件では不純物が生成し、選択率を低下させるという理由から、糖類のアシル化は常温で行うのが最適であり、高温条件は不適であるとされている(特許文献1、2)。一方、糖類のアシル化における溶媒としての水の可能性に関しては、通常、粗生成物に糖類のアシル化剤を添加し無水条件で糖類のアシル化する方法が一般的であって、水は糖類のアシル化を阻害するとされ(特許文献4)、ある文献では、溶媒として水を列挙しているが、実際には使用されていない(特許文献1、2参照)。
【0006】
ところが、アルドール反応に対する触媒活性と水中でのルイス酸の安定性との相関を元素ごと系統的に比較検討し、他の反応への適用可能性を示唆した例も存在する(非特許文献7)。更に、Bi(OTf)3が触媒の場合には、脱水処理をしていない水を含有する、湿った有機溶媒が反応を促進し、収率向上が観察された文献も存在する(非特許文献5)。したがって、糖類のアシル化に対する溶媒としての水の有効性はこれまで明確ではなく、実施もされなかった。他方、Bi(OTf)3を触媒とする場合の無溶媒条件では、収率が低下し、有機溶媒が必要であると報告されている(非特許文献5)。
【0007】
反応後における後処理は、通常の触媒・有機溶媒中糖類のアシル化では、反応混合物に中和剤を添加して中和後、抽出溶媒と水あるいは飽和食塩水を加え分液し、溶媒層はその後、乾燥、溶媒除去、蒸留あるいは精留のプロセスを得て目的物を得るが、水層には水の他に、触媒、有機溶媒、酢酸、基質、生成物、副生成物、無機物の複雑な混合物が含有される。ここで、水層からの触媒の分離が容易である場合には、回収再生され、再使用されるが、分離が困難である場合には、そのまま廃棄・処分される(図2)。無触媒・高温高圧水中の糖類のアシル化の場合のように、水層に触媒、有機溶媒が含有されず、水、酢酸、生成物のみが含有されるならば、生成物をデカンテーションにより分離後、水層に対して共沸混合物を形成する物質を添加した共沸蒸留を行うことで、水と氷酢酸とに分離することが可能である(特許文献5)。このことは、水の再生を可能にし、通常法に比べて、環境低減型のプロセスであることを意味する(図3)。ところが、D−グルコースからD−マンノースのような高付加価値の糖に変換すると同時に化学的に安定なアシル化糖を得る方法(高付加価値糖への変換を伴った同時アシル化)は、これまで報告されていない。
【0008】
ところで、グルコースのような安価な糖から、マンノースのような高機能性で高付加価値糖への変換に関しては、酵素法による場合が多く報告されている。特にマンノースイソメラーゼによるD−フルクトースから、D−マンノースへの変換への報告は非常に多い。通常、この場合のイソメラーゼは、グルコースを基質としないことから(例えば、特許文献6、7、8)、安価なD−グルコースからD−マンノースを合成する場合には、フルクトースイソメラーゼによってD−グルコースからD−フルクトースへの変換が必要とされ、多くのフルクトースイソメラーゼが発見されている(例えば、特許文献9、10、11)。一方、流通型装置でグルコース水溶液にモリブデン酸触媒水溶液を混合後、130℃で反応させると、D−グルコースからD−マンノースが32%の収率で得られることが知られている(特許文献12)。
【0009】
このように、従来法では、糖類のアシル化及び高付加価値糖への変換を伴った同時アシル化の場合、触媒及び有機溶媒が必要であるため、製品の品質上、反応後の分離操作において、触媒、有機溶媒やカルボン酸の除去が必要であり、分離操作後の水層は廃棄物となりやすく、廃液の問題を生じる。更に、環境に対する影響や生体への有害性への配慮から、またヒトが経口する食品・医薬品の安全性から、触媒・有機溶媒のより高度な分離が要求されており、長時間と多段階行程を要する酵素法から脱却することは困難な状況にある。ここで、高度分離に必要なコストは合成操作と同程度であり、望ましくは触媒と有機溶媒を使用しない方が良い。以上のことから、当該技術分野においては、簡単、低コスト、環境低減型の合成プロセスで、分離操作が容易かつ高度分離が可能で、触媒や有機溶媒の残存しない糖類のアシル化合物の連続的合成を可能とする合成手法が強く要請されていた。
【0010】
【特許文献1】特開平9−169690号公報
【特許文献2】特開平9−176081号公報
【特許文献3】米国特許第6,541,659号明細書
【特許文献4】米国特許第6,005,122号明細書
【特許文献5】米国特許第5,980,696号明細書
【特許文献6】特開2001−245691号公報
【特許文献7】特開平06−292578号公報
【特許文献8】特開平11−075836号公報
【特許文献9】特開平09−191894号公報
【特許文献10】特開平08−187080号公報
【特許文献11】特開平06−046853号公報
【特許文献12】特開昭56−068696号公報
【非特許文献1】W.Green,P.G.Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis,3rd ed.,Wiley,New York,1999,p150
【非特許文献2】S.Ahmad,J.Iqbal,Chem.Commun.,1987,114
【非特許文献3】G.Hofle,W.Steglich,H.Vorbruggen.,Angrew.Chem.Int.Ed.,1978,17,569.b)A.Hassner,L.R.Krepski,V.Alexanian,Tetrahedron,1978,34,2069
【非特許文献4】P.A.Procopiu,S.P.D.Baugh,S.S.Flack,G.G.A.Inglis,J.Org.,Chem.,1998,63,2342
【非特許文献5】J.Otera,A.Orita,C.Tanahashi,A.Kakuta,Angrew.Chem.Int.Ed.,2000,39,2877
【非特許文献6】C−T.Chen,J−H.Kuo,C−H.Li,N.B.Barhate,S−W.Hon,T−W.Li,S−D.Chao,C−C.Liu,Y−C.Li,I−H.Chang,J−S.Lin,C−J.Liu and Y−C.Chou,Org.Lett.,2001,3,3729
【非特許文献7】S.Kobayashi,S.Nagayama,T.Busujima,J.Am.Chem.Soc.,1998,120,8287
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況のなかで、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、低コストで、環境に優しい簡単な高速合成プロセスで、上記糖類のアシル化合物を連続的に合成することができる新しい合成方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、高温高圧水、又は亜臨界水又は超臨界水を反応溶媒とすることで、無触媒で無水カルボン酸と糖類から糖類のアシル化合物を合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、無水カルボン酸と糖類から糖類のアシル化合物を無触媒で、短時間の反応条件下で連続的に合成する方法及びその反応組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)無水カルボン酸と糖類との反応組成物であって、触媒及び有機溶媒の残存がないことを特徴とする糖類のアシル化合物組成物。
(2)無水カルボン酸と糖類から糖類のアシル化合物を合成する方法であって、高温高圧状態の亜臨界流体ないし超臨界流体を反応溶媒として使用し、触媒を用いることなく、無水カルボン酸と糖類から1段階の合成反応で糖類のアシル化合物を合成することを特徴とする糖類のアシル化合物の製造方法。
(3)高温高圧状態の亜臨界ないし超臨界水を反応溶媒として使用する、前記(2)記載の方法。
(4)糖類として、単糖類もしくは二糖類もしくは多糖類を用いる、前記(2)記載の方法。
(5)温度100〜400℃、圧力0.1〜40MPaの亜臨界流体ないし超臨界流体を反応溶媒として使用する、前記(2)記載の方法。
(6)亜臨界流体ないし超臨界流体として、水、酢酸、それ以外の無機溶媒、もしくは有機溶媒もしくは無機溶媒と有機溶媒の混合溶媒を用いる、前記(2)記載の方法。
(7)糖類を溶解ないしは分散させ、無水カルボン酸と常温で混合後、反応を実施する、前記(2)の方法。
(8)安価な糖から高機能性・高付加価値糖類に変換しつつ同時アシル化し、高付加価値アシル化糖を製造する、前記(2)記載の方法。
(9)糖類に無機塩を添加することにより選択性を変化させる、前記(2)記載の方法。
(10)流通式高温高圧装置に、基質及び反応溶媒を導入し、反応時間を3〜60秒の範囲で変化させることで合成反応を実施する、前記(2)記載の方法。
(11)水を送液する水送液ポンプ、水加熱用コイル、高温高圧フローセル、基質を送液する反応物送液ポンプ、炉体、反応物を炉体に導入する反応物導入管、反応溶液を排出する排出液ライン、冷却フランジ及び圧力を設定する背圧弁を具備していることを特徴とする糖類のアシル化合物合成装置。
(12)前記(2)記載の方法において、アシル化後、回収水溶液に水を注入してデカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、糖類のアシル化合物を含む油層を分液回収する一方、水層からは酢酸と水を共沸蒸留によって分離し回収する簡易な連続分離法。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、化1のカルボン酸無水物と化2の糖類から、化3に示すように糖類のアシル化合物を、一段階の反応プロセスで、触媒無添加、短時間の反応条件下で、連続的に合成することを特徴とするものである。本発明では、上記反応溶媒として、温度100〜400℃、圧力0.1〜40MPaの亜臨界流体、超臨界流体が用いられ、好適には亜臨界水が用いられる。また、反応条件として、好適には、温度200〜250℃、圧力5MPa、反応時間が3〜60秒の範囲、より好適には10秒程度に調整される。化1の式中、Rはアルキル基又はアルキル基以外のヘテロ原子を含む置換基であり、化2の式中、Rはアルキル基又はアルキル基以外のヘテロ原子を含む置換基であり、Qは炭素又は炭素以外のヘテロ原子、置換ヘテロ原子であり、具体的には、酸素(O)、窒化水素(NH)、アルキル置換窒素(NR’)、である。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
【化3】
【0017】
本発明においては、上記基質及び反応溶媒を反応容器に導入して所定の反応時間で合成反応を実施するものである。したがって、上記反応器としては、例えば、バッチ式の高温高圧反応容器、及び連続型の流通式高温高圧反応装置を使用することができるが、本発明は、これら反応装置型式に特に制限されるものでない。
【0018】
本発明の方法では、反応溶媒として、上記高温高圧状態にある亜臨界流体、超臨界流体が用いられるが、具体的には、亜臨界二酸化炭素(常温以上、0.1MPa以上)、亜臨界水(100℃以上、0.1MPa以上)、亜臨界メタノール(100℃以上、0.1MPa以上)、亜臨界エタノール(100℃以上、0.1MPa以上)、超臨界二酸化炭素(34℃以上、7.38MPa以上)、超臨界水(375℃以上、22MPa以上)、超臨界メタノール(239℃以上、8.1MPa以上)、超臨界エタノール(241℃以上、6.1MPa以上)、同じ状態の混合溶媒が例示され、好適には、亜臨界水(200−250℃、5MPa以上)が用いられる。反応溶媒としては、上記以外の有機溶媒や無機溶媒を任意の割合で含むことができ、具体的には、有機溶媒として、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等、無機溶媒として酢酸、アンモニア等を含む反応溶液に代替することも可能である。
【0019】
本発明では、上記亜臨界流体、超臨界流体の反応溶媒の組成、温度及び圧力条件、基質の種類及びその使用量、反応時間を調整することにより、短時間で、効率良く、反応生成物を合成することができる。また、本発明では、例えば、基質及び反応溶媒を流通式高温高圧装置に導入し、それらの反応時間を3〜60秒の範囲で変えることにより、所定の反応生成物を合成することができる。上記反応条件は、使用する出発原料、目的とする反応生成物の種類等により適宜設定することができる。
【0020】
本発明の方法では、従来、触媒存在下で行われていた、カルボン酸無水物と糖類からの糖類のアシル化合物の合成を、高速で連続的に、しかも、無触媒で実施できるため、長時間を要するプロセスを効率化することができる。また、本発明の方法では、従来用いられた触媒を全く使用しないので、反応後の溶液の中和処理、無害化処理等の後処理・処分の必要がなく、環境負荷低減を達成可能である。更に、反応後は、デカンテーションのような静置分離操作のみであるため、触媒や有機溶媒の分離回収の必要性はなく、生成物分離が容易になる。本発明によれば、触媒無添加で、10秒程度の短時間で、転化率99%で総選択率97%で糖類のアシル化合物を合成することができる。本発明の合成方法は、香料、医薬品、食品に利用可能な、糖類のアシル化合物を効率良く、大量に高速で連続的に生産することを可能にするものとして有用である。
【0021】
従来、二酸化炭素等の亜臨界流体、超臨界流体を利用して、リパーゼや触媒を用いた糖類のアシル化を実施した例が報告されている。しかし、カルボン酸無水物と糖類から、無触媒条件の亜臨界水プロセスで糖類のアシル化合物を高収率で合成できることを実証した例はなく、本発明の対象とする糖類のアシル化合物の合成反応法は、本発明者らによって初めてその有効性が実証されたものである。しかも、従来法でカルボン酸無水物と糖類から合成される糖類のアシル化合物は、触媒及び有機溶媒の残存が問題とされていたが、本発明でカルボン酸無水物と糖類から合成される反応組成物は、触媒及び有機溶媒の残存がなく、本発明の糖類のアシル化合物組成物は、従来製品にない利点を有している。
【0022】
本発明では、無触媒条件で無水カルボン酸と糖類の合成反応を実現するために、例えば、基質をあらかじめ溶媒に溶解した溶液を送液し、亜臨界流体、超臨界流体中の反応経過を高温高圧赤外フロ−セル(図4)により赤外分光分析によって観察する流通型高温高圧赤外分光その場測定装置(図5)を用いることも可能である。しかしながら、高温高圧赤外フローセルを窓なし高温高圧フローセル(図6)に交換し、超臨界流体の流れに対して直接反応物の流れを接触反応するように配管配置した方が、高温高圧赤外フロ−セルにおけるセル窓付近におけるリーク等の問題が発生せず、より高流量で短時間に合成を実施することが可能である。これらのことから、この窓なし高温高圧フローセルを装着した装置を後述する実施例で用いた。
【0023】
ここで、窓なし高温高圧フローセル本体(図6)については、例えば、市販のSUS316製のクロス1にネジを切り、次に説明する温度センサ−シ−ス(図7の12)に固定できるようにする。炉体雰囲気の温度を測定せずに、セル温度を示すように温度センサ−を調節し、シ−ス固定ネジとオネジ3でネジ止めする。SUS316の配管4はクロス1にワンリングフェラル付きのテ−パ−ネジ2でクロス1に接続される。もちろん、クロス1は、エンドネジで一つの流路を塞ぐことによってティーとしても使用可能である。
【0024】
図7は、窓なし高温高圧フロ−セルを装着した流通式高温高圧反応装置の炉体部分であり、反応装置本体である。これを、図5の流通型高温高圧流体その場赤外分光測定装置の斜線位置に設置すれば、赤外分光は測定できないものの、温度、圧力、流量が可変な亜臨界・超臨界流体接触合成反応装置として利用可能となる。なお、この場合における反応観察は、排出後の水溶液を採取し、GC−FIDにより、生成物の純品を用いた検量線から定量を実施し、GC/MSにより定性分析を実施した。
【0025】
以下、図7について説明すると、水送液ポンプ5から水が送液され、冷却フランジ8を通過後、炉体13へ送液される。管コイル9を通過後、高温高圧状態で温度センサー11が挿入された温度センサ−シ−ス12に支持固定された高温高圧フロ−セル14に導入される。一方、反応物が反応物送液ポンプ6及び7から送液され、ティー18で混合された後、冷却フランジ8を通過後、炉体13へ送液される。コイル状反応物導入管10を通過後、温度センサ−シ−ス12に固定された高温高圧フロ−セル14に導入される。高温高圧フロ−セルを通過した溶液は、配管17を通過後、冷却フランジ8を通過して、炉体外を空冷されながら通過する。その後、圧力を設定している背圧弁19からの排出液を採取し、サンプルとする。ここで、反応物や生成物を含む排出液の加熱による影響を排除する場合には、急速昇温を実施し、反応物導入ライン10と排出液ライン17の配管をできるだけ短く、水加熱用コイル9をできるだけ長くすることが望ましい。本発明は、これらに限らず、これらと同効の反応装置であれば同様に使用することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)カルボン酸無水物と糖類から高速で連続的に糖類のアシル化合物を合成することができる。
(2)触媒及び有機溶媒を用いない合成プロセスを実現できる。
(3)高付加価値の糖類へ変換も可能となる。
(4)そのため、触媒及び有機溶媒の残存がなく、生体に対して有害性のない安全性の高い糖類のアシル化合物組成物を提供できる。
(5)生成物が水に溶解しない場合には、排出された油水分散水溶液に対して更に水を注入することで、洗浄しつつ油水二層に分液し、高純度の生成物を容易に回収できる。
(6)香料、医薬品、食品として有用な糖類のアシル化合物の新しい大量生産プロセスとして、既存の生産プロセスに代替し得る新しい生産技術を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0028】
(実施例1−6)
本実施例では、合成条件を、無触媒、圧力5MPa、滞留時間9.9秒一定として温度の効果を検討とした。図7の流通式高温高圧反応装置の本体(主要部分)を図5の流通型高温高圧流体その場赤外分光測定装置に設置した装置に、まず、純水を流量5.0ml/minで送液し、所定温度、圧力5MPaに設定し、亜超臨界水とした。その後、トルエンを内標準として添加した(基質の5mol%)無水酢酸をポンプ6から、33wt%のグルコース飽和水溶液をポンプ7から、混合溶液が0.5ml/minとなるように送液した(混合後のグルコース濃度:0.18mol/kg、グルコース/無水酢酸=1/35モル等量)。
【0029】
基質送液後、30分後の背圧弁からの排出水溶液を1ml採取した。加熱炉から背圧弁出口までの配管内容積を反応体積とした場合、反応時間は9.9秒であった。回収された1mlの水溶液に1mlのアセトンを加え、振とうし、組成分析をGC/MS分析計(Hewlett Packard社製HP6890、カラム HP−5、注入口温度150℃、初期カラム温度60℃(保持時間2分)、昇温速度10℃/分、最終カラム温度250℃(保持時間2分))で実施し、得られたマススペクトルは、Willey デ−タベ−スで一致度90%以上で確認した。また、定量分析及び市販試薬がある場合の定性分析は、トルエンを内標準としてGC−FID(Agilent社製GC6890、カラム DB−WAX、注入口温度230℃、スプリット比5.61、初期カラム温度50℃(保持時間0.5分)、昇温速度20℃/分、最終カラム温度230℃(保持時間20分))で実施した。
【0030】
温度150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、200℃の5点の温度を検討した結果、温度180℃において、ペンタアセテートの総収率が82%と極大となり(図8)、このとき、転化率が99.7%、選択率はα−グルコースペンタアセテート(α−GAc5)16%、β−グルコースペンタアセテート(β−GAc5)15%、α−マンノースペンタアセテート(α−MAc5)19%、β−マンノースペンタアセテート(β−MAc5)10%、α−フルクトースペンタアセテート(α−FAc5)6%、β−フルクトースペンタアセテート(β−FAc5)15%となった(図9)。
【0031】
(実施例7−9)
本実施例では、合成条件を、無触媒、温度200℃、滞留時間9.0秒一定として圧力の効果を検討とした。図7の流通式高温高圧反応装置の本体(主要部分)を図5の流通型高温高圧流体その場赤外分光測定装置に設置した装置に、まず、純水を流量5.0ml/minで送液し、温度200℃、所定圧力2MPa又は5MPa又は15MPaに設定し、亜超臨界水とした。その後、トルエンを内標準として添加した(基質の5mol%)無水酢酸をポンプ6から、33wt%のグルコース飽和水溶液をポンプ7から、混合溶液が1.0ml/minとなるように送液した(混合後のグルコース濃度:0.36mol/kg、グルコース/無水酢酸=1/30モル等量)。
【0032】
基質送液後、30分後の背圧弁からの排出水溶液を1ml採取した。加熱炉から背圧弁出口までの配管内容積を反応体積とした場合、反応時間は9.9秒であった。回収された1mlの水溶液に1mlのアセトンを加え振とうし、組成分析をGC/MS分析計(Hewlett Packard社製HP6890、カラム HP−5、注入口温度150℃、初期カラム温度60℃(保持時間2分)、昇温速度10℃/分、最終カラム温度250℃(保持時間2分))で実施し、得られたマススペクトルは、Willey デ−タベ−スで一致度90%以上で確認した。また、定量分析及び市販試薬がある場合の定性分析は、トルエンを内標準としてGC−FID(Agilent社製GC6890、カラム DB−WAX、注入口温度230℃、スプリット比5.61、初期カラム温度50℃(保持時間0.5分)、昇温速度20℃/分、最終カラム温度230℃(保持時間20分))で実施した。
【0033】
その結果、転化率はすべて99%であり、総収率56%、62%、62%とほぼ同一であった。生成物は、温度依存性の検討の場合と同じα−グルコースペンタアセテート(α−GAc5)、β−グルコースペンタアセテート(β−GAc5)、α−マンノースペンタアセテート(α−MAc5)、β−マンノースペンタアセテート(β−MAc5)、α−フルクトースペンタアセテート(α−FAc5)、β−フルクトースペンタアセテート(β−FAc5)が生成し、圧力による効果はほとんど観察されなかった(図10)。
【0034】
(実施例10−19)
本実施例では、合成条件を、無触媒、温度200℃、圧力5MPa、滞留時間9.0秒一定として無水酢酸量の効果を検討とした。図7の流通式高温高圧反応装置の本体(主要部分)を図5の流通型高温高圧流体その場赤外分光測定装置に設置した装置に、まず、純水を流量5.0ml/minで送液し、所定温度、圧力5MPaに設定し、亜超臨界水とした。その後、トルエンを内標準として添加した(基質の5mol%)無水酢酸をポンプ6から、33wt%のグルコース飽和水溶液をポンプ7から、混合溶液が1.0ml/minとなるように送液した(混合後のグルコース濃度:0.01〜0.54mol/kg)。
【0035】
基質送液後、30分後の背圧弁からの排出水溶液を1ml採取した。加熱炉から背圧弁出口までの配管内容積を反応体積とした場合、反応時間は9.9秒であった。回収された1mlの水溶液に1mlのアセトンを加え、振とうし、組成分析をGC/MS分析計(Hewlett Packard社製HP6890、カラム HP−5、注入口温度150℃、初期カラム温度60℃(保持時間2分)、昇温速度10℃/分、最終カラム温度250℃(保持時間2分))で実施し、得られたマススペクトルは、Willey デ−タベ−スで一致度90%以上で確認した。また、定量分析及び市販試薬がある場合の定性分析は、トルエンを内標準としてGC−FID(Agilent社製GC6890、カラム DB−WAX、注入口温度230℃、スプリット比5.61、初期カラム温度50℃(保持時間0.5分)、昇温速度20℃/分、最終カラム温度230℃(保持時間20分))で実施した。
【0036】
5.5、10、15、20、25、30、35、40、45、50モル等量を実施した結果、15モル等量で転化率が99%程度となり、総収率は20モル等量付近で36%
それ以降の25等量で54%とやや向上し、50モル等量で83%となった(図11)。α−グルコースペンタアセテート(α−GAc5)、β−グルコースペンタアセテート(β−GAc5)、α−マンノースペンタアセテート(α−MAc5)、β−マンノースペンタアセテート(β−MAc5)、α−フルクトースペンタアセテート(α−FAc5)、β−フルクトースペンタアセテート(β−FAc5)が生成した。選択率は20モル等量付近まで、α−GAc5、β−GAc5、α−MAc5、α−FAc5は無水酢酸の量の増加とともに減少するが、20モル等量以上ですべてのペンタアセテートが増大した(図12)
【0037】
(実施例20−22)
本実施例では、合成条件を、無触媒、温度200℃、圧力5MPa、滞留時間9.0秒一定として無機塩の効果を検討とした。図7の流通式高温高圧反応装置の本体(主要部分)を図5の流通型高温高圧流体その場赤外分光測定装置に設置した装置に、まず、純水を流量5.0ml/minで送液し、所定温度、所定圧力に設定し、亜超臨界水とした。その後、トルエンを内標準として添加した(基質の5mol%)無水酢酸をポンプ6から、無機塩を溶解させた33wt%のグルコース飽和水溶液(グルコース/無機塩=1/1モル等量)をポンプ7から、混合溶液が1.0ml/minとなるように送液した(混合後のグルコース濃度:0.36mol/kg、グルコース/無水酢酸=1/35モル等量)。
【0038】
基質送液後、30分後の背圧弁からの排出水溶液を1ml採取した。加熱炉から背圧弁出口までの配管内容積を反応体積とした場合、反応時間は9.9秒であった。回収された1mlの水溶液に1mlのアセトンを加え、振とうし、組成分析をGC/MS分析計(Hewlett Packard社製HP6890、カラム HP−5、注入口温度150℃、初期カラム温度60℃(保持時間2分)、昇温速度10℃/分、最終カラム温度250℃(保持時間2分))で実施し、得られたマススペクトルは、Willey デ−タベ−スで一致度90%以上で確認した。また、定量分析及び市販試薬がある場合の定性分析は、トルエンを内標準としてGC−FID(Agilent社製GC6890、カラム DB−WAX、注入口温度230℃、スプリット比5.61、初期カラム温度50℃(保持時間0.5分)、昇温速度20℃/分、最終カラム温度230℃(保持時間20分))で実施した。
【0039】
無機塩として、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムを実施したところ、転化率がそれぞれ90%、99%、98%となり、総収率がそれぞれ69%、92%、77%とかなりの向上が観察された。総収率の向上に加えて、驚くべきことには、選択率が顕著に変化した。選択率はα−グルコースペンタアセテート(α−GAc5)26%、24%、21%、β−グルコースペンタアセテート(β−GAc5)28%、38%、30%、α−マンノースペンタアセテート(α−MAc5)13%、16%、14%、β−マンノースペンタアセテート(β−MAc5)8%、9%、8%、α−フルクトースペンタアセテート(α−FAc5)0%、1%、2%、β−フルクトースペンタアセテート(β−FAc5)0%、5%、4%となった(図13)。
【0040】
比較のために、無機塩を転化しない場合の最高値(温度200℃、圧力5MPa、滞留時間9秒、グルコース/無水酢酸=1/50モル等量)の場合の選択率α−GAc5 20%、β−GAc5 19%、α−MAc5 19%、β−MAc5 11%、α−FAc5 5%、β−FAc5 9%と比較して、α−MAc5、β−MAc5、α−FAc5、β−FAc5の選択率は低下し、α−GAc5、β−GAc5の選択率が向上した。α体よりもβ体の生成が向上する傾向にあった。
【0041】
以上の結果から推定した反応機構を図14に示す。一般的に、グルコース、マンノースのような糖は、エピ化によりα体とβ体がアルドースを経由して相互変換する。しかし、アルドースからアルドース−ケトース転位で、ケトースが生成し、フルクトースと関係している。この反応機構から考えると、マンノース生成は、同じアルドース中間体を経由するという特異的な結果であり、プロセスとして安価な糖から高付加価値に変換する可能性を示している。一方、無機塩の効果は、β−グルコース>α−グルコースの順に選択率が大きく、亜臨界水中で無機塩が溶解しているために、糖が溶解しにくい状態でアシル化されるため、水の特異性がない通常のアシル化に近い反応と考えられる。
【0042】
以上の実施例から、高温高圧水を反応溶媒として、無触媒で糖類のアシル化合物が高収率で合成可能であることが明らかとなった。また、糖類のアシル化後、回収水溶液に水を注入してデカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、糖類のアシル化合物を含む油層を分液回収する一方、水層からは酢酸と水を共沸蒸留によって分離し回収する簡易な連続分離法も構築可能明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上詳述したように、本発明は、高温高圧流体を反応溶媒として、カルボン酸無水物及び糖類から有機溶媒を用いることなく、無触媒で糖類のアシル化合物を合成する方法及びその反応組成物に係るものであり、従来法では、糖類とカルボン酸無水物から糖類のアシル化合物の合成は有機溶媒に触媒を添加し数時間の反応を実施する必要があったが、本発明で示した亜臨界流体・超臨界流体を用いることにより、触媒無添加で、有機溶媒を使用することなく高速で連続的に糖類のアシル化合物を合成することが可能となった。このことは、香料、医薬品、食品として有用な糖類のアシル化合物を短時間で、大量に連続的に生産できるというメリットをもたらす。
【0044】
また、糖類のアシル化後、回収水溶液に水を注入してデカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、糖類のアシル化合物を含む油層を分液回収する一方、水層からは酢酸と水を共沸蒸留によって分離し、回収する簡易な連続分離法により、氷酢酸と水を分離し、水をリサイクルすることが可能である。これらのことから、合成・分離プロセスを単純化させることで、プロセスの初期コスト及びランニングコストを圧縮することが可能である。更に、中和処理の後処理も不必要であり、環境調和型生産が可能となる。本発明は、香料、医薬品、食品として有用な糖類のアシル化合物の新しい大量生産プロセスとして、既存の生産プロセスに代替し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】触媒・有機溶媒用いる糖類の糖類のアシル化を示す。
【図2】触媒・有機溶媒を用いる糖類のアシル化の後処理フローチャートを示す。
【図3】無触媒・水溶媒を用いる糖類のアシル化の後処理フローチャートを示す。
【図4】高温高圧赤外フロ−セルを示す。
【図5】実施例で用いた流通型高温高圧流体その場赤外分光測定装置を示す。
【図6】窓なし高温高圧フローセルを示す。
【図7】実施例で用いた流通式高温高圧反応装置の主要部分を示す。
【図8】実施例における糖類のアシル化における温度依存性を示す。
【図9】実施例における糖類のアシル化における温度による生成物分布を示す。
【図10】実施例における糖類のアシル化における圧力依存性を示す。
【図11】実施例における糖類のアシル化における無水酢酸量の効果を示す。
【図12】実施例における糖類のアシル化における無水酢酸量に対する生成物分布を示す。
【図13】実施例における糖類のアシル化における塩依存性を示す。
【図14】実施例の場合の糖類のアシル化における推定反応機構を示す。
【符号の説明】
【0046】
1 ティ−又はクロス(片側口φ4mmネジ切り)
2 φ4mm×5.0mmL六角ネジ
3 ワンリングフェラル付オネジ
4 SUS316チュ−ブ
5 水送液ポンプ
6 反応物送液ポンプ
7 反応物送液ポンプ
8 冷却フランジ(冷却水が循環する)
9 水加熱コイル
10 反応物導入管
11 温度センサ
12 温度センサ−シ−ス
13 炉体
14 高温高圧フロ−セル(通常昇温ではティ−型、急速昇温ではクロス型)
15 ZnSe窓
16 配管
17 排出配管
18 ティー
19 背圧弁
21 水溶液
22 洗浄水
23 水溶液ポンプ
24 洗浄用純水送液ポンプ
25 炉体加熱システム
26 炉体
27 高温高圧赤外フロ−セル
28 冷却水(入口)
29 冷却水(出口)
30 背圧弁
31 排出水溶液受器
32 可動鏡
33 可動鏡
34 干渉計
35 光源
36 赤外レ−ザ−
37 MCT受光器
38 TGS受光器
39 解析モニタ−
40 SUS316チューブ
41 キャップ
42 温度センサ
43 ユニオン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水カルボン酸と糖類との反応組成物であって、触媒及び有機溶媒の残存がないことを特徴とする糖類のアシル化合物組成物。
【請求項2】
無水カルボン酸と糖類から糖類のアシル化合物を合成する方法であって、高温高圧状態の亜臨界流体ないし超臨界流体を反応溶媒として使用し、触媒を用いることなく、無水カルボン酸と糖類から1段階の合成反応で糖類のアシル化合物を合成することを特徴とする糖類のアシル化合物の製造方法。
【請求項3】
高温高圧状態の亜臨界ないし超臨界水を反応溶媒として使用する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
糖類として、単糖類もしくは二糖類もしくは多糖類を用いる、請求項2記載の方法。
【請求項5】
温度100〜400℃、圧力0.1〜40MPaの亜臨界流体ないし超臨界流体を反応溶媒として使用する、請求項2記載の方法。
【請求項6】
亜臨界流体ないし超臨界流体として、水、酢酸、それ以外の無機溶媒、もしくは有機溶媒もしくは無機溶媒と有機溶媒の混合溶媒を用いる、請求項2記載の方法。
【請求項7】
糖類を溶解ないしは分散させ、無水カルボン酸と常温で混合後、反応を実施する、請求項2の方法。
【請求項8】
安価な糖から高機能性・高付加価値糖類に変換しつつ同時アシル化し、高付加価値アシル化糖を製造する、請求項2記載の方法。
【請求項9】
糖類に無機塩を添加することにより選択性を変化させる、請求項2記載の方法。
【請求項10】
流通式高温高圧装置に、基質及び反応溶媒を導入し、反応時間を3〜60秒の範囲で変化させることで合成反応を実施する、請求項2記載の方法。
【請求項11】
水を送液する水送液ポンプ、水加熱用コイル、高温高圧フローセル、基質を送液する反応物送液ポンプ、炉体、反応物を炉体に導入する反応物導入管、反応溶液を排出する排出液ライン、冷却フランジ及び圧力を設定する背圧弁を具備していることを特徴とする糖類のアシル化合物合成装置。
【請求項12】
請求項2記載の方法において、アシル化後、回収水溶液に水を注入してデカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、糖類のアシル化合物を含む油層を分液回収する一方、水層からは酢酸と水を共沸蒸留によって分離し回収する簡易な連続分離法。
【請求項1】
無水カルボン酸と糖類との反応組成物であって、触媒及び有機溶媒の残存がないことを特徴とする糖類のアシル化合物組成物。
【請求項2】
無水カルボン酸と糖類から糖類のアシル化合物を合成する方法であって、高温高圧状態の亜臨界流体ないし超臨界流体を反応溶媒として使用し、触媒を用いることなく、無水カルボン酸と糖類から1段階の合成反応で糖類のアシル化合物を合成することを特徴とする糖類のアシル化合物の製造方法。
【請求項3】
高温高圧状態の亜臨界ないし超臨界水を反応溶媒として使用する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
糖類として、単糖類もしくは二糖類もしくは多糖類を用いる、請求項2記載の方法。
【請求項5】
温度100〜400℃、圧力0.1〜40MPaの亜臨界流体ないし超臨界流体を反応溶媒として使用する、請求項2記載の方法。
【請求項6】
亜臨界流体ないし超臨界流体として、水、酢酸、それ以外の無機溶媒、もしくは有機溶媒もしくは無機溶媒と有機溶媒の混合溶媒を用いる、請求項2記載の方法。
【請求項7】
糖類を溶解ないしは分散させ、無水カルボン酸と常温で混合後、反応を実施する、請求項2の方法。
【請求項8】
安価な糖から高機能性・高付加価値糖類に変換しつつ同時アシル化し、高付加価値アシル化糖を製造する、請求項2記載の方法。
【請求項9】
糖類に無機塩を添加することにより選択性を変化させる、請求項2記載の方法。
【請求項10】
流通式高温高圧装置に、基質及び反応溶媒を導入し、反応時間を3〜60秒の範囲で変化させることで合成反応を実施する、請求項2記載の方法。
【請求項11】
水を送液する水送液ポンプ、水加熱用コイル、高温高圧フローセル、基質を送液する反応物送液ポンプ、炉体、反応物を炉体に導入する反応物導入管、反応溶液を排出する排出液ライン、冷却フランジ及び圧力を設定する背圧弁を具備していることを特徴とする糖類のアシル化合物合成装置。
【請求項12】
請求項2記載の方法において、アシル化後、回収水溶液に水を注入してデカンテーションし、油/水二層溶液に分離後、糖類のアシル化合物を含む油層を分液回収する一方、水層からは酢酸と水を共沸蒸留によって分離し回収する簡易な連続分離法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−269765(P2007−269765A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101070(P2006−101070)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【Fターム(参考)】
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