説明

糸切断吸引装置及び紡糸巻取装置

【課題】オペレータの熟練を要する非常に難しい作業である移し取り作業を、熟練を要することなく誰でも簡単に行なえるようにする糸切断吸引装置を提供する。
【解決手段】一方向に並んで走行する複数本の糸Yを切断して、吸引する糸切断吸引装置10であって、複数本の糸Yを切断する第1カッター61と、第1カッター61で切断された複数本の糸Yを吸引する吸引部44と、吸引部44の上流側に配置されて吸引部44に吸引された複数本の糸Yを切断する第2カッター71と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸切断吸引装置及び紡糸巻取装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡糸装置から紡出された繊維を束ねて複数本の糸を構成し、この糸に対して延伸等の処理を行なった後に巻き取ることで複数のパッケージを形成する紡糸巻取装置が知られている。また、紡糸装置の下流側に配置される糸切断吸引装置も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
糸切断吸引装置は、紡糸巻取装置にトラブルが発生したり、断糸等の異常が発生した場合に、全ての糸を切断するとともに、紡糸装置から紡出され続けている糸を吸引して保持する。これにより、紡出され続けている糸が下流側の回転体に巻き付いたり、パッケージの形状が崩れたりすることを防止している。
【0004】
ところで、紡糸巻取装置のトラブル等がオペレータによって解消され、糸の製造及び巻き取りを再開する場合には、オペレータは糸掛け作業を行なう必要がある。糸掛け作業は、紡糸装置から紡出され続けている複数本の糸をサクションガンで吸引して保持し、サクションガンを操作して各糸をローラやガイドに掛けていく作業である。この糸掛け作業に先立ち、オペレータは、糸切断吸引装置によって保持されている複数本の糸をサクションガンに移し取る、移し取り作業を行う必要がある。
【0005】
この移し取り作業を詳しく説明すると、まず、オペレータは片方の手でサクションガンを持ち、もう片方の手でカッターを持つ。サクションガンは吸引口を糸切断吸引装置に近づけた状態で保持する。オペレータは糸切断吸引装置に吸引されている複数本の糸をカッターで切断していき、切断した糸をサクションガンで吸引、保持していく。糸切断吸引装置で保持されていた複数本の糸全てを切断し、これをサクションガンで吸引、保持する状態にすれば、移し取り作業は完了する。
【0006】
しかしながら、この移し取り作業を行う場合、オペレータは両手を別々に動かしながらサクションガンとカッターを操作しなければならない。また、糸切断吸引装置に吸引されている複数本の糸は停止状態ではなく、紡糸装置から紡出され続けているため高速で走行しており、カッターで切断しにくい。もし糸の切断に失敗したり、糸の切断は出来てもサクションガンでの吸引に失敗すれば、糸が下流側の回転体に巻き付いたりするトラブルが再度発生することになる。このように、移し取り作業では、高速で走行する複数本の糸をカッターを用いて切断していき、切断した糸をサクションガンで吸引、保持していくという動作を確実に行う必要があり、移し取り作業は、オペレータの熟練を要する非常に難しい作業となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平7―26247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、オペレータの熟練を要する非常に難しい作業である移し取り作業を、熟練を要することなく誰でも簡単に行なえるようにする糸切断吸引装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、第1の発明は、一方向に並んで走行する複数本の糸を切断して、吸引する糸切断吸引装置であって、
前記複数本の糸を切断する第1カッターと、
前記第1カッターで切断された複数本の糸を吸引する吸引部と、
前記吸引部の上流側に配置されて前記吸引部に吸引された複数本の糸を切断する第2カッターと、
を備えた糸切断吸引装置。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記第2カッターで複数本の糸を切断すると複数本の糸がサクションガンに吸引される位置に、サクションガンの吸引口を位置決めする位置決め部を更に備える。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、前記位置決め部に前記サクションガンを位置決めしたことをトリガーとして、前記第2カッターによる複数本の糸の切断が行われる。
【0013】
第4の発明は、紡糸装置から溶融紡出された複数本の糸を、ゴデットローラを介して送出し、巻取装置で巻き取る紡糸巻取装置であって、
前記紡糸装置と前記ゴデットローラの間に、第1の発明から第3の発明のいずれかの糸切断吸引装置を設ける。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
第1の発明によれば、吸引部の上流側に配置されて吸引部に吸引された複数本の糸を切断する第2カッターを備えている。サクションガンの吸引口を糸切断吸引装置に近づけた状態で、第2カッターで複数本の糸を切断すれば、複数本の糸はサクションガンで吸引、保持される状態となる。このため、オペレータは、糸切断吸引装置からサクションガンへ複数本の糸を移し取る移し取り作業の際に、手で持ったカッターで複数本の糸を切断していく動作を行わなくてよい。よって、糸切断吸引装置からサクションガンへの複数本の糸の移し取り作業を、熟練を要することなく誰でも簡単に行なうことができる。
【0016】
第2の発明によれば、第2カッターで複数本の糸を切断すると複数本の糸がサクションガンに吸引される位置に、サクションガンの吸引口を位置決めする位置決め部を備える。サクションガンの吸引口を位置決め部で位置決めし、第2カッターで複数本の糸を切断すれば、複数本の糸は確実にサクションガンで吸引、保持される状態となる。このため、オペレータは、サクションガンの吸引口の位置決めと、サクションガンの保持とが容易になる。よって、糸切断吸引装置からサクションガンへの複数本の糸の移し取り作業を、より簡単に行なうことができる。
【0017】
第3の発明によれば、位置決め部にサクションガンを位置決めしたことをトリガーとして、第2カッターによる複数本の糸の切断が行われる。オペレータがサクションガンを位置決めすることに連動して、第2カッターによる複数本の糸の切断が行われるため、オペレータが第2カッターの作動を指示する必要がなく、オペレータの負担が減少する。また、糸切断吸引装置からサクションガンへの複数本の糸の移し取り作業が迅速に行われるため、オペレータは速やかに糸掛け作業に移行することができ、紡糸巻取装置の生産性を向上させることができる。
【0018】
第4の発明によれば、紡糸装置とゴデットローラの間に、糸切断吸引装置を設けている。このため、紡糸装置から紡出された複数本の糸をゴデットローラよりも糸の走行方向上流側で切断して吸引することとなり、その後のゴデットローラや巻取装置への糸掛作業を行いやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1に係る紡糸巻取装置10の構成を示す簡略図。
【図2】実施例1における糸道規制ガイド21及び糸切断吸引装置31の斜視図。
【図3】糸切断吸引装置31及び糸道規制ガイド21の断面図。
【図4】糸切断吸引装置31のブロック図。
【図5】糸切断吸引装置31による糸Yの切断及び吸引動作を示す図。
【図6】糸切断吸引装置31による糸Yの切断及び吸引動作を示す図。
【図7】実施例2における糸道規制ガイド21及び糸切断吸引装置31の斜視図。
【図8】糸切断吸引装置31及び糸道規制ガイド21の断面図。
【図9】糸切断吸引装置31のブロック図。
【図10】糸切断吸引装置31による糸Yの切断及び吸引動作を示す図。
【図11】糸切断吸引装置31による糸Yの切断及び吸引動作を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、発明の実施の形態について図を用いて説明する。
【実施例1】
【0021】
本発明の実施例1に係る紡糸巻取装置10について、図1から図6を用いて説明する。図1に示すように、紡糸巻取装置10は、主として紡糸装置11、給油ノズル13、糸道規制ガイド21、糸切断吸引装置31、ゴデットローラ14A、14B、糸巻取装置16、制御部18を備えている。紡糸装置11で紡出された繊維は糸巻取装置16に向けて走行し、途中で種々の処理を受けることで糸Yが形成され、パッケージとして巻き取られる。以下の説明では、繊維と糸を区別せず、単に糸Yとして説明する。また、繊維(糸Y)が紡糸装置11から糸巻取装置16に向けて走行する方向に対する上流側、下流側をそれぞれ、糸Yの走行方向の上流側、下流側として説明する。
【0022】
紡糸装置11は、複数本の糸Yを紡出するものであり、紡糸巻取装置10の上部に配置されている。紡糸装置11は複数の紡糸口金12を備えており、各紡糸口金12から複数本の繊維が紡出される。各紡糸口金12から紡出された複数本の繊維から一本の糸Yが形成されるため、紡糸装置11全体では複数本の糸Yが形成される。複数本の糸Yは、図1の紙面に直交する方向(以下、配列方向とする)に並んで走行している。
【0023】
給油ノズル13は、紡糸装置11の下方に配置される。給油ノズル13は、紡糸装置11から紡出された複数本の糸Yに油剤を噴射して付着させる。
【0024】
図1、図2に示すように、糸道規制ガイド21は、走行する複数本の糸Yを案内するものである。糸道規制ガイド21は、糸Yが走行する糸道上の、給油ノズル13とゴデットローラ14Aの間に配置されている。糸道規制ガイド21は、複数本の糸Yに対応して配列方向に並んだ複数の溝22からなる櫛歯状をしている。この溝22により、ゴデットローラ14A、14Bに巻き掛けられる複数本の糸Yの間隔が決められるとともに、配列方向に並ぶ複数本の糸Yの配列方向への移動を規制している。
【0025】
糸切断吸引装置31は、紡糸巻取装置10にトラブルが発生したり、断糸等の異常が発生した場合に、複数本の糸Yの全てを切断するとともに、紡糸装置11から紡出され続けている複数本の糸Yを吸引して保持するものである。糸切断吸引装置31は、糸道規制ガイド21の配列方向の一方側(図1、図2の左方)に設けられ、糸道規制ガイド21の直上で糸Yを切断して吸引する。糸切断吸引装置31については後に詳細に説明する。
【0026】
ゴデットローラ14A、14Bは、紡糸装置11から紡出された複数本の糸Yを延伸するものである。ゴデットローラ14Aは、その上方に配置されたセパレートローラ15Aと対になっている。ゴデットローラ14Bは、その下方に配置されたセパレートローラ15Bと対になっている。ゴデットローラ14A、14Bは、それぞれ駆動モータ(図示せず)によって駆動される駆動ローラである。セパレートローラ15A、15Bは、それぞれ糸Yの走行にともなって回転する従動ローラである。
【0027】
紡糸装置11から給油ノズル13を介して送られた糸Yは、上流側のゴデットローラ14A及びセパレートローラ15Aに複数回巻き掛けられた後、下流側のゴデットローラ14B及びセパレートローラ15Bに複数回巻き掛けられてから糸巻取装置16に搬送される。
【0028】
下流側のゴデットローラ14Bは、上流側のゴデットローラ14Aよりも高速で回転している。ゴデットローラ14Aは糸Yが延伸可能な温度(例えば、90度)に加熱され、ゴデットローラ14Bはゴデットローラ14Aよりも高い温度(例えば、120度)に加熱されている。紡糸装置11から送られた糸Yは、ゴデットローラ14Aで延伸可能な温度まで加熱された後、ゴデットローラ14Bにより延伸されつつ糸巻取装置16に搬送される。
【0029】
糸巻取装置16は、ゴデットローラ14A、14Bで延伸させた複数本の糸Yを巻き取って複数のパッケージを形成するものである。糸巻取装置16は、紡糸巻取装置10の下部に配置されている。
【0030】
制御部18は、公知のマイクロコンピュータとして構成されており、演算装置としてのCPUや、ROM、RAM、外部記憶装置等の記憶手段を備えている。制御部18は、各種センサが発生する信号に基いて、各種駆動装置の駆動を制御する。
【0031】
次に糸切断吸引装置31について詳細に説明する。図2、図3、図4に示すように、糸切断吸引装置31は、主として、ホルダ32、吸引装置41、第1カッター61、第2カッター71、位置決め部81を備えている。ホルダ32は、糸切断吸引装置31の基体となるものであり、紡糸巻取装置10の図示しないフレームに設けられている。
【0032】
吸引装置41は、第1カッター61で切断された複数本の糸Yを吸引するものである。吸引装置41は、保持筒42、吸引筒43、シリンダ46を備えている。
【0033】
保持筒42と吸引筒43は、筒状の部材である。吸引筒43は保持筒42に進退自在に保持されており、保持筒42の内側と吸引筒43の内側は連通している。吸引筒43の外側と保持筒42の内側の間は空気が漏れないように気密性が保たれている。吸引筒43の先端には、切断された複数本の糸Yを吸引する吸引口である吸引部44が形成されている。保持筒42は、吸引筒43の進退の方向が複数本の糸Yの配列方向と平行になるようにホルダ32に固定される。吸引筒43はホルダ32内を貫通しており、先端の吸引部44はホルダ32の開口部33から突出している。
【0034】
図4に示すように、吸引装置41には、吸引源51が接続される。吸引源51は、吸引する空気流を発生させるものである。吸引源51により、吸引部44には切断された複数本の糸Yを吸引する吸引力が発生する。吸引源51と吸引装置41は電磁バルブ52を介して空気管で接続されている。電磁バルブ52は制御部18に電気的に接続され、制御部18により開閉駆動される。
【0035】
シリンダ46は、ホルダ32に固定されている。シリンダ46のシリンダロッド47の先端は、吸引筒43に固定された連結部材48に接続されている。図4に示すように、シリンダ46を駆動装置49で駆動して、シリンダロッド47を進退させることで、吸引筒43の先端の吸引部44は、ホルダ32に対して糸Yの配列方向と平行に進退する。駆動装置49は、制御部18に電気的に接続されている。
【0036】
図2、図3、図5に示すように、第1カッター61は、吸引装置41の吸引部44とともに進退し、吸引部44が糸道規制ガイド21側に移動する際に糸道規制ガイド21の上流側で複数本の糸Yを切断するものである。第1カッター61は、刃部62、案内部材63、刃部保持部材64を備えている。
【0037】
刃部62は複数本の糸Yに接触することで複数本の糸Yを切断するものである。案内部材63は刃部62に重ねられ、糸Yを刃部62に案内するものである。案内部材63は、複数本の糸Yを刃部62に案内するよう略V字形状に形成されている。案内部材63で糸Yを刃部62に案内することで刃部62で糸Yを切断しやすくしている。
【0038】
刃部保持部材64は、刃部62と案内部材63を吸引筒43に固定する部材である。刃部62と案内部材63は、吸引部44の近傍において案内部材63が糸道規制ガイド21側に向けられ、かつ刃部62と案内部材63の先端が糸Yの走行方向の上流側に傾斜するように固定されている。刃部62の位置は、刃部62で複数本の糸Yを切断すると、複数本の糸Yが吸引部44に吸引される位置とする。
【0039】
第2カッター71は、吸引部44の上流側において、吸引部44がホルダ32側に移動する際に吸引部44に吸引された複数本の糸Yを切断するものである。第2カッター71は、刃部72、案内部材73、刃部保持部材74を備えている。刃部72、案内部材73については、第1カッター61の刃部62、案内部材63と略同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0040】
刃部保持部材74は、刃部72と案内部材73をホルダ32に固定する部材である。刃部72と案内部材73は、吸引部44の上流側において案内部材73が糸道規制ガイド21側に向けられ、かつ刃部72と案内部材73の先端が糸Yの走行方向の上流側に傾斜するように固定されている。刃部72の位置は、吸引部44がホルダ32側に移動する際に、吸引部44の上流側で吸引部44に吸引された複数本の糸Yを切断する位置とする。
【0041】
位置決め部81は、第2カッター71で複数本の糸Yを切断すると複数本の糸YがサクションガンSに吸引される位置に、サクションガンSの吸引口SAを位置決めするものである。具体的には、位置決め部81は、第2カッター71の近傍で、かつ第2カッター71よりもホルダ32側に配置されている。位置決め部81の形状は、例えば、断面が円筒形状のサクションガンSの吸引口SAを載置しやすく、位置がずれにくい半円形の凹形状とする。
【0042】
図3に示すように、位置決め部81には、サクションガンSを位置決めしたことをトリガーとして、第2カッター71による複数本の糸Yの切断が行われるようにするため、サクションガンSを位置決めしたことを検知する検知部82を位置決め部81に設ける。図4に示すように、検知部82は制御部18に電気的に接続されている。サクションガンSが位置決め部81に位置決めされたことを検知部82が検知した場合、制御部18は位置決めの直後あるいは所定時間経過後(例えば1〜3秒後など)に駆動装置49が作動させてシリンダ46のシリンダロッド47を駆動させ、吸引部44をホルダ32側に移動させる。
【0043】
続いて糸切断吸引装置31による糸Yの切断及び吸引動作について図4、図5、図6を用いて説明する。糸巻取装置16による糸Yの巻き取り中は、吸引装置41は、吸引源51との接続が電磁バルブ52により遮断されて駆動していない。糸切断吸引装置31のシリンダロッド47はホルダ32側に後退した位置である。吸引筒43の吸引部44と第1カッター61も、複数本の糸Yよりもホルダ32側に退避している。
【0044】
図5Aに示すように、巻き取り中の糸Yが切断したことが検知されると、糸切断吸引装置31が作動する。具体的には、電磁バルブ52が開放されて吸引装置41が吸引源51に接続され、吸引部44からの吸引を開始する。また、シリンダ46を駆動する駆動装置49も駆動し、シリンダロッド47が糸道規制ガイド21側に伸びるとともに、吸引部44及び第1カッター61が糸道規制ガイド21側に移動する。これにより、吸引筒43の吸引部44と第1カッター61の刃部62が、配列方向に沿って複数本の糸Yに近づくように移動する。
【0045】
図5Bに示すように、吸引筒43の吸引部44と第1カッター61を、複数本の糸Yを横切って配列方向に沿って移動させると、複数本の糸Yは1本ずつ順に第1カッター61によって切断されて、吸引部44から吸引される。1本でも吸引部44から糸Yが吸引されれば、糸Yの走行方向上流側から吸引部44の内部に向かうA方向の随伴流が生じる。その後に第1カッター61により切断された糸Yは、すでに吸引部44に吸引されている糸Yの走行によって生じる随伴流で吸引されやすくなる。
【0046】
図5Cに示すように、吸引筒43の吸引部44と第1カッター61を、複数本の糸Yよりも配列方向の他方側まで移動させると、複数本の糸Yは全て切断され、吸引部44に吸引された状態となる。この状態でシリンダ46の駆動は停止し、吸引筒43の移動を停止させる
【0047】
この状態でオペレータは、紡糸巻取装置10のトラブル等を解消させる。トラブル等が解消すると、糸Yの製造及び巻き取りを再開するため、オペレータは糸掛け作業に先立ち、糸切断吸引装置31によって保持されている複数本の糸YをサクションガンSに移し取る、移し取り作業を行う。
【0048】
図6Aに示すように、移し取り作業では、まずオペレータがサクションガンSの吸引口SAを位置決め部81に載置して位置決めする。すると、位置決め部81に設けられた検知部82(図3参照。)は、サクションガンSが位置決め部81に位置決めされたことを検知し、検知信号が制御部18に送信される。制御部18は、検知部82の検知信号に基づいて、位置決めの直後あるいは所定時間経過後(例えば1〜3秒後など)に駆動装置49を作動させてシリンダ46のシリンダロッド47を駆動させ、吸引部44をホルダ32側に移動させる。
【0049】
図6Bに示すように、吸引部44がホルダ32側に移動する際には、吸引部44に吸引された糸Yもホルダ32側に移動する。このとき第2カッター71は、吸引部44の上流側において、吸引部44に吸引された複数本の糸Yを切断する。第2カッター71で切断された糸Yは、位置決め部81に載置されたサクションガンSに吸引される。
【0050】
図6Cに示すように、第2カッター71で複数本の糸Yの全てが切断されると、複数本の糸Yは、位置決め部81に載置されたサクションガンSに全て吸引され、移し取り作業が完了する。この後オペレータは、サクションガンSを操作して各糸Yをローラやガイドに掛けていく糸掛け作業を行い、糸Yの製造及び巻き取りを再開する。
【実施例2】
【0051】
続いて本発明の実施例2に係る紡糸巻取装置10について、図7から図11を用いて説明する。実施例2では、糸切断吸引装置31の吸引部44及び第1カッター61が固定されている点、糸寄せガイド60で複数本の糸Yを第1カッター61側に移動させる点などが実施例1の糸切断吸引装置31とは大きく異なっている。糸切断吸引装置31以外の構成については実施例1と同一であるため、主として糸切断吸引装置31について説明する。
【0052】
図7、図8、図9に示すように、糸切断吸引装置31は、主として、吸引装置41、糸寄せガイド91、第1カッター61、第2カッター71、位置決め部81を備えている。
【0053】
吸引装置41は、第1カッター61で切断された複数本の糸Yを吸引するものである。吸引装置41の吸引筒43はホルダ32内を貫通しており、先端の吸引部44がホルダ32から突出するように固定されている。吸引装置41には吸引源51が電磁バルブ52を介して接続されている。
【0054】
糸寄せガイド91は、糸道規制ガイド21に案内されている複数本の糸Yをホルダ32側に引き寄せるものである。糸寄せガイド91は、シリンダ93、フック部92を備えている。シリンダ93のシリンダロッド94はホルダ32の開口部33から突出している。シリンダ93のシリンダロッド94の先端には、フック部92が設けられている。フック部92は、糸道規制ガイド21に掛けられた複数本の糸Yを引っ掛けるものである。フック部92が糸Yの配列方向に沿って往復駆動することにより、複数本の糸Yがフック部92に引っ掛けられて引き寄せられる。糸寄せガイド91は、糸道規制ガイド21の上流側、かつ吸引部44の下流側に設けられている。
【0055】
図7、図8に示すように、第1カッター61は、ホルダ32に固定されており、糸寄せガイド91で引き寄せられた複数本の糸Yを切断するものである。第1カッター61は、刃部62、案内部材63を備えている。第1カッター61は、糸寄せガイド91の上流側かつ、吸引部44の下流側に配置されており、糸寄せガイド91で引き寄せられた複数本の糸Yを切断すると、複数本の糸Yが吸引部44に吸引される位置に配置される。
【0056】
第2カッター71は、吸引部44の上流側において、吸引部44に吸引された複数本の糸Yを切断するものである。第2カッター71は、刃部72、案内部材73を備えている。第2カッター71は、糸Yが刃部72まで案内されただけでは切断されず、図示しない駆動装置で刃部72を往復駆動させることで糸Yを切断するように構成されている。尚、第2カッター71の刃部72は往復駆動で糸Yを切断する構成に限られず、2枚の刃部72を用いて剪断力により糸Yを切断する構成等であってもよい。
【0057】
位置決め部81は、第2カッター71で複数本の糸Yを切断すると複数本の糸YがサクションガンSに吸引される位置に、サクションガンSの吸引口SAを位置決めするものである。
【0058】
図8に示すように、位置決め部81には、サクションガンSを位置決めしたことをトリガーとして、第2カッター71による複数本の糸Yの切断が行われるようにするため、サクションガンSを位置決めしたことを検知する検知部82を位置決め部81に設ける。図9に示すように、検知部82は制御部18に電気的に接続されている。サクションガンSが位置決め部81に位置決めされたことを検知部82が検知した場合、制御部18は位置決めの直後あるいは所定時間経過後(例えば1〜3秒後など)に第2カッター71を駆動させ、第2カッター71に案内されている複数本の糸Yを切断させる。
【0059】
続いて糸切断吸引装置31による糸Yの切断及び吸引動作について図9、図10、図11を用いて説明する。糸巻取装置16による糸Yの巻き取り中は、吸引装置41は、吸引源51との接続が電磁バルブ52により遮断されて駆動していない。糸寄せガイド91のフック部92はホルダ32側に後退した位置である。
【0060】
図10Aに示すように、巻き取り中の糸Yが切断したことが検知されると、糸切断吸引装置31が作動し、吸引部44からの吸引を開始する。また、糸寄せガイド91のシリンダ93を駆動する駆動装置95も駆動し、シリンダロッド94が糸道規制ガイド21側に伸びるとともに、フック部92が糸道規制ガイド21側に移動する。このとき、フック部92は、糸道規制ガイド21に案内された複数本の糸Yを押しのけながら前進する。
【0061】
続いて、図10Bに示すように、駆動装置95はシリンダ93のシリンダロッド94をホルダ32側に縮ませ、フック部92をホルダ32側に移動させる。このとき、フック部92は、糸道規制ガイド21に案内された複数本の糸Yを引っ掛けながら後退する。
【0062】
図10Cに示すように、糸寄せガイド91のフック部92が複数本の糸Yを第1カッター61まで寄せてくると、複数本の糸Yは第1カッター61の刃部62によって切断されて、切断された糸Yは吸引部44から吸引される。
【0063】
図11Aに示すように、糸寄せガイド91のフック部92がホルダ32側まで移動すると、複数本の糸Yは全て切断され、吸引部44に吸引された状態となる。
【0064】
この状態でオペレータは、紡糸巻取装置10のトラブル等を解消させる。トラブル等が解消すると、糸Yの製造及び巻き取りを再開するため、オペレータは糸掛け作業に先立ち、糸切断吸引装置31によって保持されている複数本の糸YをサクションガンSに移し取る、移し取り作業を行う。
【0065】
図11Bに示すように、移し取り作業では、まずオペレータがサクションガンSの吸引口SAを位置決め部81に載置して位置決めする。すると、位置決め部81に設けられた検知部82は、サクションガンSが位置決め部81に位置決めされたことを検知し、検知信号が制御部18に送信される。制御部18は、検知部82の検知信号に基づいて、位置決めの直後あるいは所定時間経過後(例えば1〜3秒後など)に第2カッター71を駆動させ、第2カッター71に案内されている複数本の糸Yを切断させる。第2カッター71は、吸引部44の上流側において、吸引部44に吸引された複数本の糸Yを切断する。
【0066】
図11Cに示すように、第2カッター71で複数本の糸Yの全てが切断されると、複数本の糸Yは、位置決め部81に載置されたサクションガンSの吸引口SAに全て吸引され、移し取り作業が完了する。この後オペレータは、サクションガンSを操作して各糸Yをローラやガイドに掛けていく糸掛け作業を行い、糸Yの製造及び巻き取りを再開する。
【0067】
以上説明した本実施の形態に係る紡糸巻取装置10によれば、次のような効果を有する。
【0068】
吸引部44に吸引された複数本の糸Yを切断する第2カッター71を吸引部44の上流側に配置している。サクションガンSの吸引口SAを糸切断吸引装置31に近づけた状態で、第2カッター71で複数本の糸Yを切断すれば、複数本の糸YはサクションガンSで吸引、保持される状態となる。このため、オペレータは、糸切断吸引装置31からサクションガンSへ複数本の糸Yを移し取る移し取り作業の際に、手で持ったカッターで複数本の糸Yを切断していく動作を行わなくてよい。よって、糸切断吸引装置31からサクションガンSへの複数本の糸Yの移し取り作業を、熟練を要することなく誰でも簡単に行なうことができる。
【0069】
第2カッター71で複数本の糸Yを切断すると複数本の糸YがサクションガンSに吸引される位置に、サクションガンSの吸引口SAを位置決めする位置決め部81を備える。サクションガンSの吸引口SAを位置決め部81で位置決めし、第2カッター71で複数本の糸Yを切断すれば、複数本の糸Yは確実にサクションガンSで吸引、保持される状態となる。このため、オペレータは、サクションガンSの吸引口SAの位置決めと、サクションガンSの保持とが容易になる。よって、糸切断吸引装置31からサクションガンSへの複数本の糸Yの移し取り作業を、より簡単に行なうことができる。
【0070】
位置決め部81にサクションガンSを位置決めしたことをトリガーとして、第2カッター71による複数本の糸Yの切断が行われる。オペレータがサクションガンSを位置決めすることに連動して、第2カッター71による複数本の糸Yの切断が行われるため、オペレータが第2カッター71の作動を指示する必要がなく、オペレータの負担が減少する。また、糸切断吸引装置31からサクションガンSへの複数本の糸Yの移し取り作業が迅速に行われるため、オペレータは速やかに糸掛け作業に移行することができ、紡糸巻取装置40の生産性を向上させることができる。
【0071】
紡糸装置11とゴデットローラ14A、14Bの間に、糸切断吸引装置31を設けている。このため、紡糸装置11から紡出された複数本の糸Yをゴデットローラ14A、14Bよりも糸Yの走行方向上流側で切断して吸引することとなり、その後のゴデットローラ14A、14Bや巻取装置5への糸掛作業を行いやすくなる。
【0072】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。例えば、位置決め部81にサクションガンSを位置決めしたことをトリガーとして、第2カッター71による複数本の糸Yの切断が行われることとしたが、第2カッター71による複数本の糸Yの切断を起動させるスイッチを紡糸巻取装置10に別途設けてもよい。この場合、オペレータは、移し取り作業においてサクションガンSの吸引口SAを位置決め部81に載置してから、起動スイッチを操作する。起動スイッチを操作すると、第2カッター71による複数本の糸Yの切断が行われ、複数本の糸Yは、位置決め部81に載置されたサクションガンSの吸引口SAに吸引される。
【符号の説明】
【0073】
10 紡糸巻取装置
11 紡糸装置
12 紡糸口金
13 給油ノズル
14A、14B ゴデットローラ
15A、15B セパレートローラ
16 糸巻取装置
18 制御部
21 糸道規制ガイド
22 溝
31 糸切断吸引装置
32 ホルダ
33 開口部
41 吸引装置
42 保持筒
43 吸引筒
44 吸引部
46 シリンダ
47 シリンダロッド
48 連結部材
49 駆動装置
51 吸引源
52 電磁バルブ
61 第1カッター
62 刃部
63 案内部材
64 刃部保持部材
71 第2カッター
72 刃部
73 案内部材
74 刃部保持部材
81 位置決め部
82 検知部
91 糸寄せガイド
92 フック部
S サクションガン
SA 吸引口
Y 糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に並んで走行する複数本の糸を切断して、吸引する糸切断吸引装置であって、
前記複数本の糸を切断する第1カッターと、
前記第1カッターで切断された複数本の糸を吸引する吸引部と、
前記吸引部の上流側に配置されて前記吸引部に吸引された複数本の糸を切断する第2カッターと、
を備えた糸切断吸引装置。
【請求項2】
前記第2カッターで複数本の糸を切断すると複数本の糸がサクションガンに吸引される位置に、サクションガンの吸引口を位置決めする位置決め部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の糸切断吸引装置。
【請求項3】
前記位置決め部に前記サクションガンを位置決めしたことをトリガーとして、前記第2カッターによる複数本の糸の切断が行われることを特徴とする請求項2に記載の糸切断吸引装置。
【請求項4】
紡糸装置から溶融紡出された複数本の糸を、ゴデットローラを介して送出し、巻取装置で巻き取る紡糸巻取装置であって、
前記紡糸装置と前記ゴデットローラの間に、請求項1から3のいずれか1項に記載の糸切断吸引装置を設けたことを特徴とする紡糸巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−57148(P2013−57148A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197199(P2011−197199)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】