説明

糸品質診断方法および繊維機械

【課題】糸欠点検出装置を備える繊維機械において、糸欠点検出装置のコストを増大させることなく、番手変動異常を検出することができなかった。
【解決手段】糸の太さ変動の異常を診断する糸品質診断方法であって、糸欠点検出装置26で、その起動時点を基点とする一定時間内に検出される糸の太さ変動を平均して、第一種平均糸太さを算出する第一種平均糸太さ算出工程101と、平均糸太さ算出工程を所定回数実行して得られた5回の第一種平均糸太さを平均し、第二種平均糸太さを算出する第二種平均糸太さ算出工程102と、第一種平均糸太さ算出工程を再実行して、最新の第一種平均糸太さを算出する最新平均糸太さ算出工程103と、第二種平均糸太さと最新の第一種平均糸太さとの変動幅を比較し、その変動幅が所定の錘内許容幅以上となると、糸太さの変動異常が発生したと判定する錘内糸太さ変動異常判定工程104と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
糸の加工を行う繊維機械、および、この繊維機械で糸の太さ変動の異常を診断する糸品質診断方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一条の糸を紡績する紡績ユニットが多数並設された紡績機のように、複数条の糸の加工を同時に行う繊維機械が知られている。このような繊維機械には、各条の糸道上に、糸欠点の検出を行うための糸欠点検出装置が配置されており、この糸欠点検出装置により、糸欠点と呼ばれる糸太さの異常が検出される。そして、糸欠点が検出されると、糸切断装置により糸を一旦切除し、糸欠点部位を切除した状態で、糸継ぎを行い、糸の紡績等の加工を再開する。
【0003】
糸欠点は、「基準の糸太さ」に対して、例えば±30%以上の太さ変動があった部位、を指すものである。「基準の糸太さ」とは、基本的には紡績において目標値とする番手のことである。実際には、各紡績ユニットにおいて糸太さにバラツキがあるため、同じ糸において、過去に糸欠点検出装置を通過した領域にわたって糸太さを平均した値を、「基準の糸太さ」としている。
ここで、糸太さの異常は、糸上の局部領域(数センチ以内)に発生する、糸欠点と呼ばれるような例えば±30%以上の太さ変動の発生だけでない。「基準の糸太さ」に対して±30%未満の変動に収まっているが、比較的長い領域(数メートルから数百メートル以上)に及ぶような、糸太さ変動の異常もある。このような異常を、通常の糸欠点と区別する意味で、番手変動異常と呼ぶことにする。番手変動異常は、「基準の糸太さ」に対して±5%以上の変動であったとしても十分問題である。この番手変動異常は、例えば、材料(ケンス)に異なる原料が混入した場合などに発生する。
【0004】
従来より、このような番手変動異常が発生しているか否かの診断も、行われている。
この診断は、同一の紡績機に備える他の紡績ユニットで紡績される紡績糸の糸太さとの比較で行われる。
【0005】
図7に示すように、まず、各紡績ユニットで紡績された紡績糸7a・7b・・・の糸太さを、同一の時間幅Wlにわたって平均して、各紡績糸7a・7b・・・の平均値(錘内平均値)VAa・VAb・・・を算出する。次いで、すべての錘内平均値VAa・VAb・・・を平均して、全錘(すべての紡績糸)における平均値(錘間平均値)V−Aを算出する。そして、各錘内平均値VAa・VAb・・・をそれぞれ錘間平均値VA−Aと比較して、錘間平均値より所定の上下許容幅Do−u・Do−dを超えて乖離している錘内平均値があれば、その錘内平均値に対応する紡績糸に番手変動異常が発生した、と判定する。図7においては、紡績糸7dに番手変動異常が発生したと、判定される。
つまり、紡績機において同時に紡績される複数の紡績糸のうち、他の紡績糸と比べて糸太さが大きく乖離している紡績糸があれば、その紡績糸に番手変動異常が発生していると、診断するのである。
なお、図6は糸欠点検出装置の出力信号(電圧値)を縦軸にとっており、この電圧値の大きさは、糸太さの大きさに比例するものである。
【0006】
また、他の紡績ユニットとの比較で、各紡績ユニットの異常を診断する発明としては、特許文献1に開示されるような発明がある。
【0007】
【特許文献1】特開平6−313227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
番手変動異常の中には、実際には品質上無視できない程度の番手変動が起こっているにも関わらず、錘間平均値との比較では正常と診断される場合がある。これは、例えば、同一の紡績糸において、ある領域では相対的に太く、別の領域では相対的に細いなど、部分部分に番手変動異常があっても、錘内平均値を算出した場合には、部分部分の番手変動異常が打ち消されて隠れてしまう場合があることによる。
したがって、錘内平均値と錘間平均値との比較だけでなく、同一の紡績糸において、異なる領域同士で糸太さの比較を行うことが、より正確な番手変動異常の診断には、必要である。
【0009】
ところが、同一の紡績糸において、異なる領域での糸太さの比較検討は、次の理由により困難である。
糸欠点検出装置は、光学式の電子装置であり、発光ダイオードとフォトトランジスタとを備えており、糸欠点検出装置を通過する糸の太さに対応して、フォトトランジスタの出力信号の大きさが変化する構成である。このフォトトランジスタは、温度による特性変化が大きい。このため、糸欠点検出装置を長時間使用すると、糸欠点検出装置自体の発する熱の影響により、糸太さに変動がなくても、フォトトランジスタから出力される電気信号の大きさが変動してしまう。つまり、長時間使用時における糸欠点検出装置の出力は、誤差を含んだものとなる。
そこで、従来では、糸太さの平均値が緩やかに変動した場合は、長時間使用における誤差とみなして、糸太さの平均値が継続使用と関わりなく常に一定となるように、フォトトランジスタの出力信号を補正していた。具体的には、糸切断後の再起動時直後など、糸欠点検出装置に温度上昇の影響がない時点で得られた糸太さの平均値を、補正用の基準値とし、この基準値に現在の検出値(糸太さの平均値)が一致するように、フォトトランジスタの出力信号を補正していた。
このため従来では、糸切断後の再起動時直後は適正な糸太さであった場合、その後に番手変動異常が発生したとしても、その番手変動異常は糸欠点検出装置の長時間使用における誤差として扱われて補正され、番手変動異常の発生を検出することができなかった。
【0010】
また、フォトトランジスタの温度による特性変化の影響を除く方法として、温度の大きさに応じて出力信号に補正をかける方法もある。この場合、再起動時直後の検出値(糸太さの検出値)と関わりなく、補正を行うことができるので、番手変動異常の検出も可能となるが、特別な補正回路を必要とし、装置のコストアップにつながってしまう。
【0011】
つまり、解決しようとする問題点は、糸欠点検出装置を備える繊維機械において、糸欠点検出装置のコストを増大させることなく、番手変動異常を検出することができなかった点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0013】
請求項1に係る糸品質診断方法は、
糸走行の停止時には作動を停止させる糸欠点検出装置が、一条の糸道上に少なくとも一つ配置される構成の繊維機械で、糸の太さ変動の異常を診断する糸品質診断方法であって、
前記糸欠点検出装置で、該糸欠点検出装置の起動時点を基点とする一定時間内に検出される糸の太さ変動を平均して、第一種平均糸太さを算出する第一種平均糸太さ算出工程と、
前記平均糸太さ算出工程を所定回数実行して得られた前記所定回数の前記第一種平均糸太さを平均し、第二種平均糸太さを算出する第二種平均糸太さ算出工程と、
前記第一種平均糸太さ算出工程を再実行して、最新の第一種平均糸太さを算出する最新平均糸太さ算出工程と、
前記第二種平均糸太さと前記最新の第一種平均糸太さとの変動幅を比較し、その変動幅が所定の錘内許容幅以上となると、糸太さの変動異常が発生したと判定する錘内糸太さ変動異常判定工程と、
を備える、ものである。
【0014】
以上構成により、次の作用がある。
糸欠点検出装置が糸の走行開始に伴って起動された際にのみ、第一種平均糸太さ算出工程が実行される。
同一の糸上の異なる複数領域における平均の糸太さが比較されて、その糸太さの変動が錘内許容幅より大きい場合は、糸太さの変動異常が発生したと判定される。
【0015】
請求項2に係る糸品質診断方法は、請求項1において、次の構成としたものである。
前記第一種平均糸太さ算出工程は、糸切れが発生して糸継ぎが行われ、糸の製造が再開される度に行われる、ものである。
【0016】
請求項3に係る糸品質診断方法は、請求項1または請求項2において、次の構成としたものである。
前記繊維機械が複数条の糸を同時に加工すると共に、各条の糸に対応する前記糸欠点検出装置を備える構成において、
各条に対応する前記糸欠点検出装置で、一定時間内に検出される糸の太さ変動を平均して、各錘内平均糸太さを算出する錘内平均糸太さ算出工程と、
前記錘内平均糸太さ算出工程で得られた前記各条の錘内平均糸太さを平均して、錘間平均糸太さを算出する錘間平均糸太さ算出工程と、
前記各錘内平均糸太さと前記錘間平均糸太さとの変動幅を比較し、その変動幅が所定の錘間許容幅以上となった錘内平均糸太さが存在すると、その錘内平均糸太さの糸に、糸太さの変動異常が発生したと判定する錘間糸太さ変動異常判定工程と、
を備える、ものである。
【0017】
以上構成により、次の作用がある。
異なる糸上の平均の糸太さが比較されて、その糸太さの変動が錘間許容幅より大きい場合は、糸太さの変動異常が発生したと判定される。
【0018】
請求項4に係る繊維機械は、
糸走行の停止時には作動を停止させる糸欠点検出装置が、一条の糸道上に少なくとも一つ配置される構成の繊維機械であって、
糸切れが発生して糸継ぎが行われ、糸の製造が再開される度に、前記糸欠点検出装置で、該糸欠点検出装置の起動時点を基点とする一定時間内に検出される糸の太さ変動を平均して、第一種平均糸太さを算出する第一種平均糸太さ算出手段と、
前記平均糸太さ算出工程を所定回数実行して得られた前記所定回数の前記第一種平均糸太さを平均し、第二種平均糸太さを算出する第二種平均糸太さ算出手段と、
前記第一種平均糸太さ算出工程を再実行して、最新の第一種平均糸太さを算出する最新平均糸太さ算出手段と、
前記第二種平均糸太さと前記最新の第一種平均糸太さとの変動幅を比較し、その変動幅が所定の錘内許容幅以上となると、糸太さの変動異常が発生したと判定する錘内糸太さ変動異常判定手段と、
を備える、ものである。
【0019】
以上構成により、次の作用がある。
糸欠点検出装置が糸の走行開始に伴って起動された際にのみ、第一種平均糸太さ算出工程が実行される。
同一の糸上の異なる複数領域における平均の糸太さが比較されて、その糸太さの変動が錘内許容幅より大きい場合は、糸太さの変動異常が発生したと判定される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0021】
請求項1においては、
同一の糸上の異なる領域での糸太さ変動異常の発生を、検出することができる。特に、この糸太さ変動異常の有無の判定に用いられる糸太さ情報が、糸欠点検出装置に長時間連続使用による熱影響のない状態で獲得され、精度の高い情報を元に判定が行われる。つまり、糸太さ変動異常の検出精度が向上する。
【0022】
請求項2においては、請求項1の効果に加えて、
一条の糸道上に糸欠点検出装置を一つ配置される構成とするだけで、糸欠点の検出だけでなく、糸太さ変動異常の有無の判定も可能となり、コストアップを招くことがない。
【0023】
請求項3においては、請求項1または請求項2の効果に加えて、
異なる糸上での糸太さ変動異常の発生を、検出することができる。
【0024】
請求項4においては、
同一の糸上の異なる領域での糸太さ変動異常の発生を、検出することができる。特に、この糸太さ変動異常の有無の判定に用いられる糸太さ情報が、糸欠点検出装置に長時間連続使用による熱影響のない状態で獲得され、精度の高い情報を元に判定が行われる。つまり、糸太さ変動異常の検出精度が向上する。
また、一条の糸道上に糸欠点検出装置を一つ配置される構成とするだけで、糸欠点の検出だけでなく、糸太さ変動異常の有無の判定も可能となり、コストアップを招くことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
これより、本発明の一実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0026】
図1、図2を用いて、空気紡績機1の構成を説明する。
空気紡績機1は、一錘の紡績を担当する紡績ユニット2を複数備えると共に、各紡績ユニット2間で共用の作業台車3や、各紡績ユニット2を駆動する駆動装置4、各紡績ユニット2や作業台車3の駆動を制御する制御装置5、を備えている。
ここで、空気紡績機1の機台の一端部に駆動装置4および制御装置5が配置され、駆動装置4より延出するラインシャフト(駆動軸)に沿って、紡績ユニット2群が並設されている。また、作業台車3は、紡績ユニット2群の並設方向に沿って移動可能に構成されている。
【0027】
紡績ユニット2の構成を説明する。
紡績ユニット2は、ケンス(図示せず)より供給されるスライバ11より紡績糸7を製造して、その紡績糸7の巻糸パッケージ8を製造する装置である。各紡績ユニット2には、紡績糸7の製造される経路に沿って、ドラフト装置21、空気式精紡装置22、糸送り装置23、糸切断装置24、糸欠点検出装置26、巻取り装置27、が備えられている。
【0028】
前記ドラフト装置21は、4線式のドラフト装置であり、スライバ11をニップしてドラフト(延伸)するドラフトローラ対を四組備えている。前記空気式精紡装置22は、旋回空気流を利用して、スライバ11を構成する繊維より紡績糸7を生成する装置である。糸送り装置23は、空気式精紡装置22で製造された紡績糸7を巻取り装置27へ送り出す装置であり、紡績糸7をニップして送り出す一対のローラを備えている。前記糸欠点検出装置26は、糸の太さ異常(糸欠点)を検出する装置である。前記糸切断装置24は、糸欠点検出装置26で糸欠点が検出された場合や、巻糸パッケージ8の満巻き時に、糸を切断する装置である。前記巻取り装置27は、空気式精紡装置22で製造された紡績糸7を、トラバースしながらボビン上に巻き取って、巻糸パッケージ8を形成する装置である。
【0029】
作業台車3の構成を説明する。
作業台車3は、糸継ぎおよび満巻きパッケージの払い出しを行う機能を備えた自走車両であり、糸継ぎ時や満巻きパッケージの払い出し時に、当該の紡績ユニット2の正面に移動するように制御される。
作業台車3には、糸継ぎに係る糸継装置31と、パッケージの払い出しやボビンの供給に係る玉揚装置32と、が備えられている。
【0030】
前記糸継装置31は、空気式精紡装置22側の上糸を捕捉する上糸捕捉装置31aと、巻糸パッケージ8側の下糸を捕捉する下糸捕捉装置31bと、空気流により繊維同士を絡ませて糸継ぎする糸継ノズル31cと、を備えている。これらの捕捉装置31a・31bは、空気吸引により糸を捕捉する。また、この糸継装置31は、上糸および下糸の糸端を糸継ノズル31cに、供給することが可能である。そして、この糸継ノズル31cにおいて、上糸および下糸の糸継ぎが行われる。
【0031】
前記玉揚装置32は、巻取り装置27と協動する次の装置、巻糸パッケージ8の払い出し操作装置32aと、ボビン交換装置32bと、ボビンへの糸掛け装置32cと、を備えている。払い出し操作装置32aは、巻取り装置27を操作して、この巻取り装置27より、満巻きとなった巻糸パッケージ8を払い出させる。ボビン交換装置32bは、満巻の巻糸パッケージ8の代わりに空ボビンを巻取り装置27に供給する。糸掛け装置32cは、上糸捕捉装置31aが吸引捕捉する上糸を、空のボビン32cに糸掛けする。
【0032】
次に、図3を用いて、各紡績ユニット2における糸太さ異常診断を行う糸品質診断機構の構成を説明する。
空気紡績機1には、制御装置5を中心とする制御機構が備えられており、この制御機構を利用して、糸品質診断機構が構成されている。空気紡績機1の制御機構には、制御装置5に備えるコントロールマスター(中央演算装置)50、紡績ユニット2の駆動を制御するユニットコントローラ20、糸欠点検出装置26および糸切断装置24を制御するクリアラーコントローラ28と、が備えられている。ここで、ユニットコントローラ20は、紡績ユニット2において、糸欠点検出装置26および糸切断装置24を除く、他の駆動部(ドラフト装置21等)の駆動を制御する。なお、本実施の形態では、ユニットコントローラ20およびクリアラーコントローラ28は、四つの紡績ユニット2毎に、設けられている。
また、制御装置5には、コントロールマスター50の他に、コントロールマスター50の入出力装置51や、インバータも備えられている。そして、このインバータにより、全錘共通駆動用の駆動装置4に備えるモータの出力や、各紡績ユニット2に備える各錘単独のモータの出力が、制御される。
【0033】
各紡績ユニット2においては、一条の糸の紡績が行われると共に、この一条の糸道上に、一つの糸欠点検出装置26が配置されている。各紡績ユニット2の糸欠点検出装置26は、それぞれ、クリアラーコントローラ28を介して、制御装置5に備えるコントロールマスター50に接続されており、各紡績ユニット2で紡績された糸の糸太さに関する情報が、すべて、コントロールマスター50に送信される。そして、コントロールマスター50において、各紡績ユニット2で紡績される糸の糸太さ異常診断が行われる。すなわち、糸欠点検出装置26の全体およびコントロールマスター50により、糸品質診断機構が構成される。
【0034】
糸太さに係る情報を検出する糸欠点検出装置26は、光学式の電子装置であり、発光手段としての発光ダイオードと、受光手段としてのフォトトランジスタと、を備えている。発光ダイオードからの照射光は、糸道に沿って走行する糸によって部分的に遮断されてフォトトランジスタに受光される。このフォトトランジスタより出力される電気信号は、発光ダイオードからの照射光の遮断量に比例するものであり、糸の太さに対応した信号となっている。スラブが糸欠点検出装置26を通過した場合、相対的に大きな電気信号(電圧)がフォトトランジスタ(糸欠点検出装置26)より出力され、コントロールマスター50へと送信される。
【0035】
糸品質診断機構は、糸欠点検出装置26からの出力信号に基づき、各紡績ユニット2で紡績される紡績糸7について、糸欠点の有無の判断と、番手変動異常の有無の判断と、を行う。
糸欠点とは、糸上における数センチ以内程度の局部領域で、「基準の糸太さ」に対して、例えば±30%以上の太さが変動があった部位、を指すものである。「基準の糸太さ」とは、基本的には紡績において目標値とする番手のことであるが、各紡績ユニット2において糸太さにバラツキがあるため、実際には、同じ紡績糸7において、過去に糸欠点検出装置26を通過した領域にわたって糸太さを平均した値を、「基準の糸太さ」としている。
また、番手変動異常とは、糸上における比較的長い領域(数メートルから数百メートル以上)で、「基準の糸太さ」に対して、例えば±5%以上に太さが変動すること、を指している。このような糸太さ変動は、例えば、材料(ケンス)に異なる原料が混入した場合などに発生する。
【0036】
糸欠点の有無判断は、従来と同様であり、次のようにして行う。
概略的には、糸欠点検出装置26の出力信号に基づいて「現在の糸太さ」を算出し、その糸太さが「基準の糸太さ」に対して所定の許容幅以上に変動している場合に、糸欠点が発生していると、コントロールマスター50が判断するものである。
「現在の糸太さ」とは、紡績ユニット2内を走行する糸のうち、現在糸欠点検出装置26を通過している部分の糸太さ、のことを意味する。「基準の糸太さ」は、前述したように、走行する糸のうち、糸欠点検出装置26を過去に通過した領域において検出された糸太さを平均して、算出されるものである。
また、算出される「現在の糸太さ」は、糸上の一点において検出された糸太さではなく、正確には、数センチ程度の所定幅の領域にわたって検出された糸太さを平均して算出された値としている。このように平均化することで、糸欠点検出装置26の検出誤差を除くものとしている。
【0037】
図4に示すように、糸欠点検出装置26からの出力信号は電圧であり、この電圧値が大きいほど、糸欠点検出装置26で現在検出される糸太さが大きいことを意味する。つまり、糸欠点検出装置26の出力信号の大きさは、「糸太さ」の大きさに対応する量である。
この電圧値が、図4に示すように部分的に極めて大きくなると、紡績糸7が局部で太くなった(スラブが発生した)ことを意味する。また、この電圧値が、局部で極めて小さくなると、紡績糸7が部分的に細くなったことを意味する。このように、糸太さに部分的に大きな変動があった場合は、糸欠点が発生した場合である。
【0038】
前述したように、糸欠点の有無判断において比較の対象とする「現在の糸太さ」は、数センチ程度の所定幅領域にわたって検出された「糸太さ」の平均値である。そこで、コントロールマスター50において、所定の短検出時間幅Wsにわたって得られた糸欠点検出装置26の出力信号を平均することで、「現在の糸太さ」に対応する量を算出する。
図4において、検出時点Tを基点とする短検出時間幅Wsの間で、出力信号の最大値は電圧値VS−hであり、最小値は電圧値VS−lである。そして、検出時点Tを基点とする短検出時間幅Wsの間において、出力信号の平均値は、電圧値VSである。
また、短検出時間幅Wsは、紡績ユニット2内を走行する紡績糸7が、前記の数センチ程度の所定幅を通過するのに要する時間である。
【0039】
図5にも、糸欠点検出装置26からの出力信号の変化を示している。
糸欠点の有無判断において比較の対象とする「基準の糸太さ」に対応する量(電圧値)は、現在の検出時点Tよりも以前の時点(起動時点Tr:後述)より所定の基準検出時間幅Wbにわたる出力信号(電圧値)を平均して、算出される。図5において、この出力信号の平均値が電圧値VBである。また、この算出処理も、コントロールマスター50において行われる。
ここで、この「基準の糸太さ」は、紡績糸7の局部的な変動を反映するものではなく、紡績糸7全体の糸太さの平均値の代用として用いるものである。そこで、「基準の糸太さ」に関わる基準検出時間幅Wbは、短検出時間幅Wsより十分長い時間幅に設定されている。
なお、本実施の形態では、この基準検出時間は、後述の長検出時間幅Wl(図7、図9)と一致させている。また、起動時点Trは、詳しくは後述するが、糸欠点検出装置26の起動時点のことである。
【0040】
以上のようにして、「現在の糸太さ」および「基準の糸太さ」に対応する量(電圧値)がそれぞれ、算出される。なお、「基準の糸太さ」に対応する電圧値を、前述したように糸欠点検出装置26の出力信号を元に算出するのではなく、糸種や番手によって予め定められた所定の電圧値として設定しておいてもよい。
そして、コントロールマスター50は、「現在の糸太さ」に対応する電圧値VSと「基準の糸太さ」に対応する電圧値VBとを比較し、電圧値VSが電圧値VBに対して所定の許容幅以上に変動している場合は、糸欠点が発生していると判断する。
【0041】
コントロールマスター50は、糸欠点の発生を認識した場合、当該紡績ユニット2の糸切断装置24に、紡績糸7の切断を行わせるように指令する。その後、コントロールマスター50は、当該紡績ユニット2の正面に作業台車3を移動させて、糸継装置31により、糸欠点の除かれた状態で紡績糸7を糸継ぎさせる。
【0042】
以上においては、「現在の糸太さ」に対応する電圧値VSが、糸欠点検出装置26の出力信号を直接利用して算出可能であるように述べたが、実際には、次のような補正を施す必要がある。
紡績ユニット2の駆動が糸切断などによって妨げられず長時間継続し、糸欠点検出装置26が長時間連続使用されるような場合は、フォトトランジスタが温度による特性変化を受けるため、糸欠点検出装置26の出力に誤差が発生する。
【0043】
図6に示すように、糸欠点検出装置26の出力信号は、長時間経過すると、番手変動異常がなくても、出力信号の大きさが変動する。この出力信号の大きさは、糸欠点除去後の起動時点Trからしばらくの間は、電圧値VASであり、長時間経過時点Tlでは電圧値VALである。番手変動異常がないとすると、電圧値VASは、当該紡績糸7の平均糸太さに対応する電圧値である。この電圧値VASと、長時間経過時点Tlの電圧値VALの差が、偏差量Cである。この偏差量Cが、長時間連続使用による糸欠点検出装置26の出力における誤差である。なお、図6において、糸欠点部位は省略している。
したがって、糸欠点除去後等の出力信号に誤差が含まれず適正であるのは、起動時点Trの後で、長時間連続使用にあたるまでのしばらくの間、ということになる。
【0044】
ここで、糸欠点除去時には、つまり糸切断の実行時より糸継ぎの完了を経て紡績糸7の走行が再開されるまでは、糸欠点検出装置26は、その作動が停止されて休止状態に移行する。このため、糸欠点除去後の起動時点Trでは、糸欠点検出装置26は長時間使用により過熱された状態にあっても、自然に適正な状態まで冷却されることになる。また、糸欠点検出装置26の作動が停止された後再起動される場合としては、糸欠点除去時だけでなく、満巻きになった巻糸パッケージ8の交換時や原料(ケンス)の交換時、あるいは紡績ユニット2や空気紡績機1の起動時、などがある。
【0045】
この誤差を除くべく、長時間経過後の糸欠点検出装置26の出力信号には、偏差量Cを加味し、起動時点(起動時)Trの直後の出力信号と、長時間経過後の出力信号とが一致するように補正する。この偏差量Cは、起動時点(起動時)Tr付近で一定時間(例えば前記基準時間幅Wb)に渡って得られた出力信号の平均値と、長時間経過時点Tl付近で一定時間(例えば前記基準時間幅Wb)に渡って得られた出力信号の平均値と、の差として求めることができる。
このようにすることで、糸欠点検出装置26が長時間連続使用される場合でも、コントロールマスター50における糸欠点の有無判断が、適切に行われるようにしている。
【0046】
次に、番手変動異常の有無判断について説明する。
番手変動異常は、局部的な糸太さの大変動である糸欠点とは異なり、比較的長い領域(数メートルから数百メートル以上)におよぶ糸太さの異常を指している。このため、この番手変動異常の有無判定に用いられる糸太さの情報としては、前述した「基準の糸太さ」の算出における条件と同様の条件が課せられるものであり、紡績糸7の局部的な変動を反映するものではなく、「糸太さ」の平均値の代用として用いることが可能な程度の糸太さ情報が必要となる。
この番手変動異常の有無判断の判定は、二通り行われるものであり、(1)錘間異常判定と、(2)錘内異常判定と、である。本実施の形態では、錘間異常判定で番手変動異常が認められなくても、さらに錘内異常判定を行い、両方の判定により、番手変動異常の有無を、コントロールマスター50により検出するようにしている。
【0047】
(1)錘間異常判定について説明する。
錘間異常判定では、同一の時間帯において得られたデータにより、全錘(すべての紡績糸7)の「平均糸太さ」の「平均」と、各錘(各紡績糸7)の「平均糸太さ」と、を比較する。
この「平均糸太さ」は、長検出時間幅Wl(図7)にわたって糸欠点検出装置26を通過する紡績糸7の「糸太さ」を平均したものであり、長検出時間幅Wlの間に紡績糸7が走行する領域の「糸太さ」の平均値を意味する。この長検出時間幅Wl(図7)は、糸欠点検出装置26を通過する紡績糸7が、数十メートルから数百メートル程度走行するのに要する時間としており、本実施の形態では、前記基準検出時間幅Wbと同一の時間である。
以下、全錘の「平均糸太さ」の「平均」を「錘間平均糸太さ」とし、「錘間平均糸太さ」と区別する意味で、各錘の「平均糸太さ」を各錘の「錘内平均糸太さ」とする。
【0048】
錘間異常判定においては、概略的には、糸欠点の有無判断の場合と同様に、糸欠点検出装置26の出力信号に基づいて「錘内平均糸太さ」を各錘それぞれで算出し、各「錘内平均糸太さ」が「錘間平均糸太さ」に対して所定の許容幅以上に変動している場合に、番手変動異常が発生していると、コントロールマスター50が判断するものである。
「錘内平均糸太さ」に対応する量(電圧値)は、各錘それぞれで、同じ時間帯に算出されるものであり、錘間異常判定は、同じ時間帯に得られたデータを元に、各「錘内平均糸太さ」における番手変動異常の有無を判定するものである。
【0049】
図7(a)には、各紡績ユニット2の糸欠点検出装置26からの出力信号の時間変化を、同時に図示している。図7(a)には、図示の便宜上、四条の異なる紡績糸7a・7b・7c・7dのみを示している。
各紡績糸7の「錘内平均糸太さ」に対応する量は、図7(a)の縦軸の電圧値であり、この電圧値は、基準検出時点Tbより長検出時間幅Wlにわたる糸欠点検出装置26からの出力信号を平均して、算出される。
また、図7(a)に示す各電圧値は、図6に示す偏差量Cの補正が行われた後の電圧値である。
【0050】
図7(b)には、複数の紡績糸7a〜7gの「錘内平均糸太さ」にそれぞれ対応する電圧値を図示している。紡績糸7aが電圧値VAa、紡績糸7bが電圧値VAb、紡績糸7cが電圧値VAc、紡績糸7dが電圧値VAd、紡績糸7eが電圧値VAe、紡績糸7fが電圧値VAf、紡績糸7gが電圧値VAg、である。なお、空気紡績機1には、10以上の多数の紡績ユニット2が通常備えられているが、図示の便宜上、紡績糸7a〜7gのみとしている。
なお、図7(b)の縦軸も電圧値であり、ここで示される各電圧値も、図6に示す偏差量Cの補正が行われた後の電圧値である。
【0051】
また、「錘間平均糸太さ」に対応する量も、図7(a)・(b)の縦軸の電圧値であり、この電圧値は、各紡績糸7の「錘内平均糸太さ」に対応する電圧値を全錘で平均して、算出される。図7に示す電圧値VA−Aが、「錘間平均糸太さ」に対応する電圧値である。
【0052】
そして、コントロールマスター50は、各紡績糸7について、「錘内平均糸太さ」に対応する電圧値VA(電圧値VAa等)と、「錘間平均糸太さ」に対応する電圧値VA−Aとを比較する。各電圧値VAのうち、電圧値VA−Aに対して所定の錘間許容幅Do−u・Do−d以上に変動している電圧値VAがあれば、その電圧値VAに対応する紡績糸7に番手変動異常が発生している、とコントロールマスター50は判断する。
【0053】
ここで、上方の錘間許容幅Do−uは電圧値の増大側の許容幅であり、糸太さとの対応では、「錘間平均糸太さ」を100%の太さとするときに、例えば+10%の太さに対応する大きさに設定されている。同様に、下方の錘間許容幅Do−uは電圧値の減少側の許容幅であり、糸太さとの対応では、「錘間平均糸太さ」を100%の太さとするときに、例えば−10%の太さに対応する大きさに設定されている。
つまり、「錘内平均糸太さ」が、「錘間平均糸太さ」よりも±10%以上変動した場合に、番手変動異常が発生したと、コントロールマスター50は判断する。
図7において、紡績糸7dの「錘内平均糸太さ」に対応する電圧値VAdは、「錘間平均糸太さ」に対応する電圧値VA−Aよりも、下方の錘間許容幅Doよりも下回っている。このため、コントロールマスター50は、紡績糸7dに番手変動異常が発生したと判断する。
【0054】
図8を用いて、錘間異常判定のフローを説明する。
この錘間異常判定は、複数条の紡績糸7が同時に紡績される空気紡績機1において、この空気紡績機1に備えるコントロールマスター50で行われる。この空気紡績機1は、紡績糸7の走行の停止時には作動を停止させる糸欠点検出装置26が、一条の糸道上に少なくとも一つ配置される構成である。
この錘間異常判定では、錘内平均糸太さ算出工程(ステップ101)と、錘間平均糸太さ算出工程(ステップ102)と、錘間糸太さ変動異常判定工程(ステップ103)と、が順に実行される。これらの各工程を実行処理する手段は、コントロールマスター50に備える演算装置や記憶装置、この記憶装置に記憶されるプログラム等、により構成される。
【0055】
まず、ステップ101の錘内平均糸太さ算出工程では、コントロールマスター50は、各紡績糸7に対応する糸欠点検出装置26で、一定時間(長検出時間幅Wl)内に検出される糸の太さ変動を平均して、各「錘内平均糸太さ」を算出する。この錘内平均糸太さ算出工程において、すべての紡績糸の「錘内平均糸太さ」が算出される。
【0056】
ステップ102の錘間平均糸太さ算出工程では、コントロールマスター50は、錘内平均糸太さ算出工程(ステップ101)で得られた各紡績糸7の「錘内平均糸太さ」を平均して、「錘間平均糸太さ」を算出する。
【0057】
ステップ103の錘間糸太さ変動異常判定工程では、コントロールマスター50は、各「錘内平均糸太さ」と「錘間平均糸太さ」との変動幅を比較し、その変動幅が所定の錘間許容幅以上となった「錘内平均糸太さ」が存在すると、その「錘内平均糸太さ」の紡績糸7に、番手変動異常が発生したと判定する。
この所定の錘間許容幅は、本実施の形態では、「錘間平均糸太さ」を100%の太さとして、+10%(上方の錘間許容幅)から−10%(下方の錘間許容幅)とするものである。
【0058】
以上における処理の説明において、「現在の糸太さ」等の糸太さを、コントロールマスター50が直接判断材料するように述べたが、実際には、糸太さに対応する量(電圧値)を判断材料として、処理が行われるものである。
【0059】
そして、コントロールマスター50は、紡績糸7群の中に、番手変動異常が発生した紡績糸7があれば、その問題の紡績糸7を紡績している紡績ユニット2の作動を停止させる。
【0060】
前述の錘間異常判定は、他の錘の紡績糸7との比較において、各紡績糸7の番手変動異常の有無を判定するものである。錘間異常判定においては、錘間許容幅の範囲内で、「錘内平均糸太さ」は、基準とする「錘間平均糸太さ」に対して変動が許容されている。ここで、各紡績ユニット2には、異なるケースから材料(ケンス)が供給されるため、ケース単位で材料にバラツキが発生する恐れがあり、各紡績糸7の「錘内平均糸太さ」の大きさには、紡績糸7自体に特別な異常がなくてもバラツキが予測される。そこで、この錘間許容幅は比較的緩めに設定されている。
このため、紡績糸7において、ある領域では相対的に太く、別の領域では相対的に細いなど、部分部分に番手変動異常があるにも関わらず、錘間異常判定では正常と判断されるような場合がある。
そこで、同一の紡績糸7において、ある領域と、別の領域とで、番手変動異常の発生の有無を判断するために、錘内異常判定を行うものとしている。
【0061】
(2)錘内異常判定について説明する。
錘内異常判定では、同一錘(同一の紡績糸7)において、過去における一又は複数の検出領域で得られた「平均糸太さ」の「平均」と、最新の検出領域で得られた「平均糸太さ」と、を比較する。
この「平均糸太さ」も、長検出時間幅Wl(図9)にわたって糸欠点検出装置26を通過する紡績糸7の「糸太さ」を平均したものであり、長検出時間幅Wlの間に紡績糸7が走行する領域の「糸太さ」の平均値を意味する。
以下、最新の検出領域で得られた「平均糸太さ」を「第一種平均糸太さ」とし、過去の検出領域で得られた「平均糸太さ」の「平均」を「第二種平均糸太さ」とする。
【0062】
錘内異常判定においては、概略的には、コントロールマスター50が、糸欠点検出装置26の出力信号に基づいて、同一の紡績糸7の異なる領域で「第一種平均糸太さ」を算出し、最新の検出領域で得られた「第一種平均糸太さ」が、過去の検出領域で得られた「第一種平均糸太さ」と比べて、所定の許容幅以上に変動している場合に、番手変動異常が発生していると、コントロールマスター50が判断するものである。
ここで、検出領域とは、走行する紡績糸7において、所定時間(長検出時間幅Wl)の間に、糸欠点検出装置26を通過した領域(長さ)を意味している。このような長検出時間幅Wlにわたる検出を、同一の紡績糸7に対して複数回実行する上で、過去に実行された検出における検出領域を「過去の検出領域」とし、最新に実行された検出における検出領域を「最新の検出領域」としている。
【0063】
錘内異常判定において、より正確には、コントロールマスター50は、最新の「第一種平均糸太さ」と、過去の複数の「第一種平均糸太さ」の平均である「第二種平均糸太さ」と、を比較する。
【0064】
図9(a)には、ある特定の紡績ユニット2の糸欠点検出装置26からの出力信号の時間変化を、図示している。この特定の紡績ユニット2で紡績される紡績糸7を、紡績糸7cとする。
また、図9(a)には、複数の起動時点Tr1・Tr2・Tr3・Tr4を図示している。これは、一錘の紡績糸7の紡績中には、糸欠点除去等の原因により、糸欠点検出装置26を一旦停止状態に移行させ、その後に再起動させることが、多々あることによる。満巻きとする巻糸パッケージ8の糸量や原料の組成等にもよるが、一つの満巻きパッケージが製造されるまでに、数十回以上の糸継ぎが行われるものである。
そして、錘内異常判定において判断材料とする「第一種平均糸太さ」に対応する量(電圧値)は、この起動時点Trより前記の長検出時間Wlにわたる糸欠点検出装置26の出力信号を元にして、算出するものとしている。
これは、前述したように、起動時点Trでは糸欠点検出装置26が自然冷却された状態にあって、長時間使用による熱影響が除かれており、前述した補正をすることなく、適正に作動する状態にあるためである。
【0065】
図9(b)には、紡績糸7の各領域E1〜E8での「第一種平均糸太さ」に対応する電圧値を、図示している。領域E1は、起動時点Tr1から長検出時間Wlが経過するまでに、糸欠点検出装置26を通過した紡績糸7の領域を意味する。領域E2等もそれぞれ、起動時点Tr2等を基点として長検出時間Wlが経過するまでに、糸欠点検出装置26を通過した紡績糸7の領域を意味する。
そして、コントロールマスター50は、各領域E(E1等を総称してEとしている)において、糸欠点検出装置26の出力信号を長検出時間Wlにわたって平均して、各領域Eでの「第一種平均糸太さ」に対応する電圧値を算出する。
この電圧値は、領域E1が電圧値VA1、領域E2が電圧値VA2、領域E3が電圧値VA3、領域E4が電圧値VA4、領域E5が電圧値VA5、領域E6が電圧値VA6、領域E7が電圧値VA7、領域E8が電圧値VA8、である。
【0066】
ここで、起動時点Tr1〜Tr8は時系列で配列されており、起動時点Tr1は、起動時点Tr2に対して過去に位置するものである。したがって、領域E2の「第一種平均糸太さ」に対して、領域E1の「第一種平均糸太さ」は過去の「第一種平均糸太さ」となる。また、時系列上、算出時点が最も新しい「第一種平均糸太さ」は最新の「第一種平均糸太さ」となる。
【0067】
次いで、コントロールマスター50は、「第二種平均糸太さ」に対応する量(電圧値)を算出する。この「第二種平均糸太さ」は、過去の複数の「第一種平均糸太さ」の平均値である。
本実施の形態では、最新の「第一種平均糸太さ」との比較対象物としての「第二種平均糸太さ」は、過去の五つの「第一種平均糸太さ」の平均値としている。例えば、図9(b)に示すように、領域E6の「第一種平均糸太さ」が最新の「第一種平均糸太さ」である場合、領域E6の直前の過去に位置する五つの領域E1〜E5の「第一種平均糸太さ」を平均して、「第二種平均糸太さ」を算出する。
具体的には、コントロールマスター50が、領域E1〜E5に対応する電圧値VA1〜VA5を算出し、これらを平均して、「第二種平均糸太さ」に対応する電圧値VA−aを算出する。
【0068】
そして、コントロールマスター50は、糸欠点除去時等で糸欠点検出装置26が起動される度に、最新の「第一種平均糸太さ」に対応する電圧値と、「第二種平均糸太さ」に対応する電圧値とを比較する。起動時点Tr6の場合であれば、最新の「第一種平均糸太さ」に対応する電圧値VA6と、「第二種平均糸太さ」に対応する電圧値VA−aとを比較し、電圧値VA6が電圧値VA−aに対して所定の錘内許容幅DV−u・DV−d以上に変動していれば、当該の紡績糸7に番手変動異常が発生している、と判断する。
【0069】
また、さらに時間が経過して、領域E7の「第一種平均糸太さ」が最新の「第一種平均糸太さ」となった場合は、領域E7の直前の過去に位置する五つの領域E2〜E6の「第一種平均糸太さ」を平均して「第二種平均糸太さ」を算出し、最新の「第一種平均糸太さ」と「第二種平均糸太さ」との比較を行う。
【0070】
ここで、上方の錘内許容幅DV−uは電圧値の増大側の許容幅であり、糸太さとの対応では、最新の「第一種平均糸太さ」を100%の太さとするときに、例えば+5%の太さに対応する大きさに設定されている。同様に、下方の錘内許容幅DV−dは電圧値の減少側の許容幅であり、糸太さとの対応では、最新の「第一種平均糸太さ」を100%の太さとするときに、例えば−5%の太さに対応する大きさに設定されている。
つまり、最新の「第一種平均糸太さ」が、「第二種平均糸太さ」よりも±5%以上変動した場合に、当該の紡績糸7に番手変動異常が発生したと、コントロールマスター50は判断する。
【0071】
錘内異常判定で用いる錘内許容幅は、錘間異常判定で用いる錘間許容幅よりも、狭い範囲に設定されている。これは、次の理由による。
紡績ユニット2毎に、機械部品等によるバラツキがあるため、各錘の紡績糸7の糸太さには、必然的に、ある程度のバラツキが発生する。つまり、錘間での紡績糸7のバラツキは、ある程度は予期されるものである。しかし、同一の紡績ユニット2で紡績される紡績糸7には、機械部品等のバラツキの影響は均等に作用するので、このバラツキのために、その紡績糸7の各部で(錘内で)糸太さのバラツキが発生することはない。つまり、錘内でバラツキが発生する場合は、材料(ケンス)の組成が変化したなど、明らかな異常が発生した場合と予測されるものである。
したがって、錘内異常判定では、錘間異常判定よりも、より判定条件を厳しくしながら、番手変動異常の特定が可能である。そして、錘内異常判定では、精度の高い番手変動異常の検出を可能としている。
【0072】
図10を用いて、錘内異常判定のフローを説明する。
この錘内異常判定は、紡績糸7の走行の停止時には作動を停止させる糸欠点検出装置26が、一条の糸道上に少なくとも一つ配置される構成の空気紡績機1において、この空気紡績機1に備えるコントロールマスター50で行われる。
この錘内異常判定では、第一種平均糸太さ算出工程(ステップ201)と、第二種平均糸太さ算出工程(ステップ202)と、最新平均糸太さ算出工程(ステップ203)と、錘内糸太さ変動異常判定工程(ステップ204)と、が順に実行される。これらの各工程を実行処理する手段は、コントロールマスター50に備える演算装置や記憶装置、この記憶装置に記憶されるプログラム等、により構成される。
【0073】
まず、ステップ201の第一種平均糸太さ算出工程で、コントロールマスター50は、糸欠点検出装置の起動後の一定時間(長検出時間幅Wl)内に検出される糸の太さ変動を平均して、「第一種平均糸太さ」を算出する。糸欠点検出装置の起動は、例えば、糸切れが発生して糸継ぎが行われる糸欠点除去時において、糸の製造が再開される度に行われる。
【0074】
ステップ202の第二種平均糸太さ算出工程で、コントロールマスター50は、前記平均糸太さ算出工程を、所定回数(本実施の形態で5回)実行して得られた前記所定回数の前記「第一種平均糸太さ」を平均し、「第二種平均糸太さ」を算出する。
なお、「第二種平均糸太さ」は、複数回数の「第一種平均糸太さ」の平均である必要は必ずしもなく、前回1回のみの「第一種平均糸太さ」の平均、つまり前回の「第一種平均糸太さ」自体を、「第二種平均糸太さ」としてもよい。
【0075】
ステップ203の最新平均糸太さ算出工程で、コントロールマスター50は、第一種平均糸太さ算出工程を再実行して、最新の「第一種平均糸太さ」を算出する。
【0076】
ステップ204の錘内糸太さ変動異常判定工程で、コントロールマスター50は、前記「第二種平均糸太さ」と前記最新の「第一種平均糸太さ」との変動幅を比較し、その変動幅が所定の錘内許容幅以上となると、糸太さの変動異常が発生したと判定する。
この所定の錘内許容幅は、本実施の形態では、「第二種平均糸太さ」を100%の太さとして、+10%(上方の錘内許容幅)から−10%(下方の錘内許容幅)とするものである。
【0077】
以上における処理の説明においても、「第一種平均糸太さ」等の糸太さを、コントロールマスター50が直接判断材料するように述べたが、実際には、糸太さに対応する量(電圧値)を判断材料として、処理が行われるものである。
【0078】
そして、コントロールマスター50は、紡績糸7群の中に、番手変動異常が発生した紡績糸7があれば、その問題の紡績糸7を紡績している紡績ユニット2の作動を停止させる。
【0079】
本実施の形態では、各紡績ユニット2において、一条の糸道上に、一つの糸欠点検出装置26のみが配置される構成である。
この構成に代えて、例えば、一条の糸道上に、二つの糸欠点検出装置26を配置するものとし、一つの糸欠点検出装置26は通常通り糸欠点の監視用として機能させ、もう一つの糸欠点検出装置26は番手変動異常の監視用として機能させるものとする。ここで、番手変動異常の監視用とする糸欠点検出装置26は、定期的に設定される監視タイミングのみ起動させて、他の時間は作動を停止させるようにして過熱を防止し、長時間使用における熱影響を防止するものとする。
あるいは、一条の糸道上に、複数の糸欠点検出装置26を配置する構成において、常に一つの糸欠点検出装置26が起動するように交互に起動させ、起動中の糸欠点検出装置26の過熱を防止するようにしてもよい。
【0080】
以上のように、一条の糸道上に、複数の糸欠点検出装置26を配置する構成とした場合は、糸欠点検出装置26の起動時を、糸切れが発生して糸継ぎが行われる糸欠点除去時に限定する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】空気紡績機の正面図である。
【図2】空気紡績機の構成を示すブロック図である。
【図3】糸品質診断機構の構成を示すブロック図である。
【図4】糸欠点部位の検出時における糸欠点検出装置の出力信号の時間変化を示す図である。
【図5】「基準の糸太さ」の算出に関わる糸欠点検出装置の出力信号の時間変化を示す図である。
【図6】糸欠点検出装置の出力信号の偏差量を示す図である。
【図7】各錘の糸欠点検出装置の出力信号の時間変化(a)および各錘の糸欠点検出装置の出力信号の平均値(b)を示す図である。
【図8】錘間異常判定のフロー図である。
【図9】同一錘各部の糸欠点検出装置の出力信号の時間変化(a)および同一錘各部の糸欠点検出装置の出力信号の平均値(b)を示す図である。
【図10】錘内異常判定のフロー図である。
【符号の説明】
【0082】
1 空気紡績機
2 紡績ユニット
26 糸欠点検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸走行の停止時には作動を停止させる糸欠点検出装置が、一条の糸道上に少なくとも一つ配置される構成の繊維機械で、糸の太さ変動の異常を診断する糸品質診断方法であって、
前記糸欠点検出装置で、該糸欠点検出装置の起動時点を基点とする一定時間内に検出される糸の太さ変動を平均して、第一種平均糸太さを算出する第一種平均糸太さ算出工程と、
前記平均糸太さ算出工程を所定回数実行して得られた前記所定回数の前記第一種平均糸太さを平均し、第二種平均糸太さを算出する第二種平均糸太さ算出工程と、
前記第一種平均糸太さ算出工程を再実行して、最新の第一種平均糸太さを算出する最新平均糸太さ算出工程と、
前記第二種平均糸太さと前記最新の第一種平均糸太さとの変動幅を比較し、その変動幅が所定の錘内許容幅以上となると、糸太さの変動異常が発生したと判定する錘内糸太さ変動異常判定工程と、
を備える、
ことを特徴とする、糸品質診断方法。
【請求項2】
前記第一種平均糸太さ算出工程は、糸切れが発生して糸継ぎが行われ、糸の製造が再開される度に行われる、
ことを特徴とする、請求項1に記載の糸品質診断方法。
【請求項3】
前記繊維機械が複数条の糸を同時に加工すると共に、各条の糸に対応する前記糸欠点検出装置を備える構成において、
各条に対応する前記糸欠点検出装置で、一定時間内に検出される糸の太さ変動を平均して、各錘内平均糸太さを算出する錘内平均糸太さ算出工程と、
前記錘内平均糸太さ算出工程で得られた前記各条の錘内平均糸太さを平均して、錘間平均糸太さを算出する錘間平均糸太さ算出工程と、
前記各錘内平均糸太さと前記錘間平均糸太さとの変動幅を比較し、その変動幅が所定の錘間許容幅以上となった錘内平均糸太さが存在すると、その錘内平均糸太さの糸に、糸太さの変動異常が発生したと判定する錘間糸太さ変動異常判定工程と、
を備える、
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の糸品質診断方法。
【請求項4】
糸走行の停止時には作動を停止させる糸欠点検出装置が、一条の糸道上に少なくとも一つ配置される構成の繊維機械であって、
糸切れが発生して糸継ぎが行われ、糸の製造が再開される度に、前記糸欠点検出装置で、該糸欠点検出装置の起動時点を基点とする一定時間内に検出される糸の太さ変動を平均して、第一種平均糸太さを算出する第一種平均糸太さ算出手段と、
前記平均糸太さ算出工程を所定回数実行して得られた前記所定回数の前記第一種平均糸太さを平均し、第二種平均糸太さを算出する第二種平均糸太さ算出手段と、
前記第一種平均糸太さ算出工程を再実行して、最新の第一種平均糸太さを算出する最新平均糸太さ算出手段と、
前記第二種平均糸太さと前記最新の第一種平均糸太さとの変動幅を比較し、その変動幅が所定の錘内許容幅以上となると、糸太さの変動異常が発生したと判定する錘内糸太さ変動異常判定手段と、
を備える、
ことを特徴とする、繊維機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−131974(P2007−131974A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325883(P2005−325883)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】