糸巻取機
【課題】トラバース装置の駆動源で発生する振動による悪影響を低減した糸巻取機を提供する。
【解決手段】精紡機は、トラバース機構と、トラバース駆動部32と、振動逃がし部105と、フレーム79と、を備えている。トラバース機構は、複数の紡績ユニットにわたって設けられ、それぞれの前記紡績ユニットが巻き取る紡績糸の綾振りを共通して行う。トラバース駆動部32は、トラバース機構を往復駆動する。振動逃がし部105は、トラバース駆動部32がトラバース機構を駆動することにより発生する振動を逃がす。フレーム79は、トラバース駆動部32を収容する。トラバース駆動部32及び振動逃がし部105は、フレーム79とは独立して設けられている。
【解決手段】精紡機は、トラバース機構と、トラバース駆動部32と、振動逃がし部105と、フレーム79と、を備えている。トラバース機構は、複数の紡績ユニットにわたって設けられ、それぞれの前記紡績ユニットが巻き取る紡績糸の綾振りを共通して行う。トラバース駆動部32は、トラバース機構を往復駆動する。振動逃がし部105は、トラバース駆動部32がトラバース機構を駆動することにより発生する振動を逃がす。フレーム79は、トラバース駆動部32を収容する。トラバース駆動部32及び振動逃がし部105は、フレーム79とは独立して設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、糸巻取機が備えるトラバース装置を駆動する駆動源の配置構成に関する。
【背景技術】
【0002】
糸を巻き取ってパッケージを形成する糸巻取機が知られている。この種の糸巻取機としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載された紡績機がある。特許文献1及び特許文献2が開示しているように、この種の紡績機は、糸を巻き取るための多数の紡績ユニットを機台本体に並べて備えている。
【0003】
糸巻取機は、糸をパッケージに巻き取る際に、当該糸の綾振りを行うトラバース装置を備える。特許文献1に記載の紡績機は、長尺のトラバースロッドを往復動させることにより、全部の紡績ユニットにおいて糸ガイドを一斉に往復動させる構成のトラバース装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−250122号公報
【特許文献2】特開平8−246275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、トラバースロッドの駆動源であるカムボックスを開示している。このカムボックスはトラバースロッドを高速で往復動させるものであるから、当該トラバースロッドの往復動の反転時に衝撃が発生する。従って、トラバース装置の駆動中には、カムボックスにおいて大きな振動が発生することになる。特に、特許文献1のようにトラバースロッドを複数の紡績ユニットにわたって設け、全部の紡績ユニットでの糸の綾振りを共通して行う構成の場合、トラバースロッド自体が重くなるため上記振動が非常に大きくなる。
【0006】
上記のようにカムボックスで振動が発生するため、そのままではカムボックスが移動してしまうという問題がある。そこで、当該カムボックスはどこかに固定しておく必要がある。従来の紡績機では、カムボックスは、紡績機の一端に配置されるドライブエンドのフレームに固定されていた。これにより、カムボックスが振動によって移動することを防止できる。しかも、この構成によれば、カムボックスをドライブエンドと一体的に運搬できるので、紡績機の据え付け作業などを簡易化できるという利点がある。
【0007】
しかしながら、カムボックスをフレームに固定した上記の構成では、カムボックスの振動がフレームを介して周辺機器に伝わってしまう。特に、近年は紡績速度が向上し、トラバース速度も速くなっているので、カムボックスで発生する振動が大きくなってきている。このため、カムボックスの振動によって、前記周辺機器の破損が発生するおそれがある。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、トラバース装置の駆動源で発生する振動による悪影響を低減した糸巻取機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の観点によれば、糸を巻き取ってパッケージを形成する複数の糸巻取ユニットを機台の長手方向に沿って並設した糸巻取機における以下の構成が提供される。即ち、この糸巻取機は、トラバース機構と、駆動部と、振動逃がし部と、収容フレームと、を備える。前記トラバース機構は、前記複数の糸巻取ユニットにわたって設けられ、それぞれの前記糸巻取ユニットが巻き取る糸の綾振りを共通して行う。前記駆動部は、前記トラバース機構を往復駆動する。前記振動逃がし部は、前記駆動部が前記トラバース機構を駆動することにより発生する振動を逃がす。前記収容フレームは、前記駆動部を収容する。前記駆動部及び前記振動逃がし部は、前記収容フレームとは独立して設けられる。
【0011】
このように、駆動部を収容フレームとは独立して設け、更に、駆動部の振動を収容フレーム以外に逃がす振動逃がし部を設けたことにより、駆動部の振動が収容フレームに伝わることを防止できる。これにより、駆動部の振動によって収容フレームが破損することを防止できる結果、糸巻取機の耐久性が向上する。
【0012】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この糸巻取機は、前記複数の糸巻取ユニットに共通の操作部と、前記複数の糸巻取ユニットに対してエアを供給するエア供給部と、を更に備える。前記収容フレームには、前記操作部と前記エア供給部の少なくとも何れか一方が取り付けられている。
【0013】
即ち、駆動部を収容フレームとは独立して設けたことにより、当該駆動部の振動が収容フレームに伝わることを防止できるので、当該収容フレームに取り付けられる操作部やエア供給部に対して前記振動が伝わることもない。従って、操作部やエア供給部が、駆動部の振動によって破損してしまうことを防止できる。
【0014】
上記の糸巻取機において、前記振動逃がし部は、糸巻取機の設置面に対して固定されることが好ましい。
【0015】
このように振動逃がし部を設置面に固定することで、駆動部の振動を設置面に逃がすことができる。しかも、振動逃がし部が設置面に固定される結果、駆動部を設置面に対して確実に固定できる。これにより、トラバース機構による糸の綾振りが安定し、高品質なパッケージを形成することができる。
【0016】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記収容フレームは、当該収容フレームの下部の少なくとも一部を構成する下部フレーム部材を備える。前記下部フレーム部材は、前記収容フレームの本体に対して着脱可能である。
【0017】
このように下部フレーム部材を着脱可能に設けたことにより、振動逃がし部を設置面に固定する際には下部フレーム部材を取り外して作業を行えるので、当該固定作業を行い易くなる。また、振動逃がし部の固定後は下部フレーム部材を収容フレーム本体に取り付けることにより、収容フレームの剛性を高めることができる。
【0018】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記糸巻取ユニットは、前記糸を供給する給糸部と、前記トラバース機構によって綾振りされる前記糸を、前記パッケージへと巻き取る巻取部と、を備える。前記給糸部は前記機台の上部に配置され、前記トラバース機構及び前記巻取部は前記機台の下部に配置される。
【0019】
このようにトラバース機構が機台下部に配置されるレイアウトの場合、当該トラバース機構の駆動部を低い位置に配置することができる。従って、当該駆動部を設置面に対してしっかりと固定することができる。
【0020】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記トラバース機構は、前記各糸巻取ユニットが巻き取る前記糸に係合する複数のトラバースガイドと、前記複数のトラバースガイドが取り付けられるトラバースロッドと、を備える。前記駆動部は、カムドラムと、前記カムドラムを回転駆動するモータと、前記カムドラムの回転運動を往復運動に変換して出力軸から出力するカム機構と、を備える。前記出力軸と前記トラバースロッドは、接続されている。
【0021】
本願発明の構成によれば、上記のようなトラバース方式の糸巻取機において、糸巻取機全体に振動が伝わることを防止し、安定してパッケージを形成することができる。
【0022】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記駆動部は、オイル貯留部と、オイル回収部と、戻し孔と、カバー部材と、を備える。前記オイル貯留部は、前記カム機構に供給されるオイルを貯留する。前記オイル回収部は、前記出力軸に付着したオイルを回収する。前記戻し孔は、前記オイル回収部が回収したオイルを前記オイル貯留部に戻す。前記カバー部材は、前記戻し孔をカバーし、前記カム機構によって飛散するオイルが前記戻し孔に振りかかることを防止する。
【0023】
このように、オイル回収部を設けることにより、駆動部の出力軸からのオイル漏れを削減することができる。しかも、カバー部材を設けたことにより、戻し孔にオイルが振りかかることを防止できるので、当該戻し孔からのオイルをスムーズにオイル貯留部へと戻すことができる。
【0024】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記駆動部は、ベース体と、前記カムドラム及び前記カム機構を少なくとも収容したカム機構収容部と、前記カム機構収容部を前記ベース体から吊り下げ支持する2つの吊り下げ支持部材と、を備える。前記2つの吊り下げ支持部材は、前記カム機構収容部の重心に対して対称となるように前記ベース体に取り付けられている。
【0025】
このようにカム機構収容部を支持することで、ベース体は、カム機構収容部部からの振動を均一に受けることができる。
【0026】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記糸巻取ユニットのそれぞれは、給糸部を備える。前記給糸部は、繊維束をドラフトするドラフト装置と、前記ドラフト装置でドラフトされた前記繊維束を空気流で撚って紡績糸を生成する空気紡績装置と、を有する。前記給糸部から供給される紡績糸が、前記トラバース機構で綾振りされながら前記糸巻取ユニットのそれぞれによってパッケージに巻き取られる。
【0027】
即ち、空気紡績装置は高速で紡績を行うことが可能であるため、トラバース機構のトラバース速度も高速化になり、駆動部で振動が発生し易い状態となる。従って、このような空気紡績装置を備えた糸巻取機において、本願発明の構成を採用することにより、駆動部の振動が周囲の機器に伝わることを防止するという振動逃がし部の効果を特に好適に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る精紡機の全体的な構成を示す正面図。
【図2】精紡機の平面図。
【図3】精紡機の側面断面図。
【図4】ドライブエンドボックスの外観斜視図。
【図5】ドライブエンドボックスの内部の様子を示す斜視図。
【図6】空気紡績装置の断面図。
【図7】トラバース駆動部の斜視図。
【図8】カムボックス内の様子を示す正面断面図。
【図9】トラバース駆動部の側面図。
【図10】従来のカムボックスの側面図。
【図11】位置決め治具の使用方法を説明する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の一実施形態に係る糸巻取機としての精紡機(紡績機)について、図面を参照して説明する。図1及び図2に示すように、精紡機1は、機台本体2と、ドライブエンドボックス3と、ボビンストッカ4と、ブロアボックス5と、を備えている。
【0030】
機台本体2には、その長手方向に沿って、複数の紡績ユニット(糸巻取ユニット)6が並設して設けられている。図3に示すように、各紡績ユニット6は、上流から下流へ向かって順に配置された、給糸部9と、糸貯留装置12と、巻取部13と、を主要な構成として備えている。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での繊維束14及び紡績糸15の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。各紡績ユニット6は、給糸部9が供給する紡績糸15を、巻取部13で巻取ボビン16に巻き取るように構成されている。なお、このように紡績糸15が巻き取られた巻取ボビン16を、パッケージ17と称する。
【0031】
なお、以下の説明で、紡績ユニット6が並設されている方向(図1及び図2に「右」と「左」の矢印で示す方向)を、単に「左右方向」と呼ぶことがある。また、左右方向及び上下方向(鉛直方向)に直交する方向(図1及び図3に「前」と「後」の矢印で示す方向)を、単に「前後方向」と呼ぶことがある。図3に示すように、左右方向で見たときに、紡績ユニット6で生成される紡績糸15は、機台本体2の前後方向の一側を走行する。そこで、前後方向で、機台本体2から見たときに紡績糸15が走行する側(図3の右側)を正面側、反対側を背面側と呼ぶことがある。
【0032】
ドライブエンドボックス3は、機台本体2の左右方向の一側の端部に配置されている。ドライブエンドボックス3内には、図5に示すように、複数の紡績ユニット6の共通の駆動源であるドラフト駆動部31及びトラバース駆動部(駆動部)32が配置されている。
【0033】
ドライブエンドボックス3には、図略の圧空源から圧縮空気供給パイプ33を介して圧縮空気が供給されている。ドライブエンドボックス3内には、図5に示すように、前記圧縮空気(エア)を適切に調整して精紡機1の各部へと供給するエア供給部34が配置されている。このエア供給部34は、圧縮空気の圧力を調整するためのレギュレータ35等を有している。エア供給部34によって適切な空気圧に調整された圧縮空気は、図略のダクト又はチューブなどを介して、精紡機1の各部に供給される。
【0034】
図1及び図4に示すように、ドライブエンドボックス3の正面側には、操作部18が設けられている。操作部18は、各紡績ユニット6に関する情報を表示可能な表示画面、各種設定を行う設定操作具(操作ボタン、操作ダイヤルなど)などを備えている。操作部18は、各紡績ユニット6と通信可能に構成されており、精紡機1が備える複数の紡績ユニット6に関する情報を集中的に管理している。操作部18は、精紡機1が備える複数の紡績ユニット6に対して一括して、或いは個別に制御信号を送信することができる。従って、精紡機1のオペレータは、複数の紡績ユニット6を、操作部18によって集中的に操作することができる。
【0035】
機台本体2の左右方向で、ドライブエンドボックス3とは反対側の端部には、ボビンストッカ4が配置されている。このボビンストッカ4は、空の巻取ボビン16を複数保持可能に構成されている。
【0036】
図2に示すように、ボビンストッカ4の背面側には、ブロアボックス5が配置されている。ブロアボックス5内には、図略の負圧源が配置されている。図3に示すように、機台本体2には、左右方向に沿って負圧ダクト19,20,21が配設されている。この負圧ダクト19,20,21は前記負圧源に接続されており、当該負圧ダクト19,20,21の内部は、前記負圧源によって負圧に保たれている。この負圧ダクト19,20,21を介して、精紡機1の各部に負圧を供給することができる。
【0037】
各紡績ユニット6の給糸部9は、機台本体の上部に配置されている。給糸部9は、ドラフト装置10と、紡績部11と、を有している。ドラフト装置10は、機台本体2の上端近傍に設けられている。ドラフト装置10は、図略のスライバケースからスライバガイドを介して供給されるスライバ(繊維束の原料)22を、所定の幅になるまでドラフト(繊維を引き伸ばすこと)する。
【0038】
ドラフト装置10は、複数のドラフトローラを備えている。各ドラフトローラは、2つ1組でドラフトローラ対を構成している。ドラフト装置10は、上流側から順に、バックローラ対23,27、サードローラ対24,28、ミドルローラ対25,29、及びフロントローラ対26,30の4つのドラフトローラ対を有する4線式のドラフト装置として構成されている。各ドラフトローラ対において、前後方向で正面側に位置するドラフトローラをトップローラ、背面側に位置するドラフトローラをボトムローラと称する。トップローラは、図3に示すように上流側から順に、バックトップローラ23、サードトップローラ24、ゴム製のエプロンベルトを装架したミドルトップローラ25、及びフロントトップローラ26となっている。一方、ボトムローラは、上流側から順に、バックボトムローラ27、サードボトムローラ28、ゴム製のエプロンベルトを装架したミドルボトムローラ29、及びフロントボトムローラ30となっている。
【0039】
各紡績ユニット6は、バックボトムローラ27及びサードボトムローラ28を回転駆動するための図略の電動モータを備えている。これにより、バックボトムローラ27及びサードボトムローラ28を紡績ユニット6ごとに回転駆動することができる。また、ミドルボトムローラ29及びフロントボトムローラ30は、前述のドライブエンドボックス3内に配置されたドラフト駆動部31によって駆動される。
【0040】
このドラフト駆動部31は、精紡機1が備える複数の紡績ユニット6のミドルボトムローラ29とフロントボトムローラ30を共通して駆動するように構成されている。具体的には、精紡機1は、図1及び図2に示すように、左右方向に沿って配設された第1ラインシャフト36及び第2ラインシャフト37を備えている。第1ラインシャフト36には、各紡績ユニット6のフロントボトムローラ30が同軸で固定されている。第2ラインシャフト37には、各紡績ユニット6のミドルボトムローラ29が同軸で固定されている。この第1ラインシャフト36及び第2ラインシャフト37の端部は、ドライブエンドボックス3内のドラフト駆動部31に接続されている。ドラフト駆動部31は、第1ラインシャフト36及び第2ラインシャフト37を所定の回転速度で回転駆動するように構成されている。以上の構成で、全紡績ユニット6でフロントボトムローラ30及びミドルボトムローラ29が一斉に駆動される。
【0041】
一方、各トップローラ23,24,25,26は、図略の軸受等を介して、その軸線を中心に回転自在に支持されている。また、各トップローラ23,24,25,26は、図略の付勢部材によって、これに対向するボトムローラ27,28,29,30に向けてそれぞれ付勢されている。
【0042】
以上の構成で、ドラフト装置10は、回転するトップローラ23,24,25,26とボトムローラ27,28,29,30の間でスライバ22を挟み込み、当該スライバ22を下流側に向けて搬送することができる。ドラフト装置10は、下流側のドラフトローラ対ほど回転速度が速くなるように構成されている。従って、繊維束14(又はスライバ22)は、ドラフトローラ対とドラフトローラ対との間で搬送される間に引き伸ばされ(ドラフトされ)ていく。各ボトムローラ27,28,29,30の回転速度を適宜設定することにより、繊維束14がドラフトされる程度を変更できるので、ドラフト装置10は、所望の繊維幅となるように繊維束14をドラフトすることができる。なお、各ローラの回転速度は、繊維の種類や、紡績する紡績糸15の太さなどの紡績条件(巻取条件)応じて適宜変更される。
【0043】
フロントローラ対26,30のすぐ下流側には、紡績部11が配置されている。ドラフト装置10でドラフトされた繊維束14は、紡績部11に供給される。この紡績部11は、旋回気流を利用して繊維束14に撚りを与える空気紡績装置41を備えている。空気紡績装置41は、ドラフト装置10から供給された繊維束14に撚りを加えて、紡績糸15を生成する。
【0044】
空気紡績装置41は、図6に示すように、ノズルブロック43と、中空ガイド軸体44と、繊維案内部45と、を主に備えている。
【0045】
ノズルブロック43と中空ガイド軸体44の間には、紡績室46が形成されている。ノズルブロック43には、紡績室46内に空気を噴出する空気噴出ノズル47が形成されている。繊維案内部45には、紡績室46内に繊維束14を導入する導入口48が形成されている。空気噴出ノズル47は、紡績室46内に空気を噴出して旋回気流を発生させることができるように構成されている。この構成で、ドラフト装置10から供給された繊維束14は、導入口48を有する繊維案内部45によって紡績室46内に案内される。紡績室46内において、繊維束14は、旋回気流によって中空ガイド軸体44の周囲を振り回されることにより、撚りが加えられて紡績糸15となる。撚りが加えられた紡績糸15は、中空ガイド軸体44の軸中心に形成された糸通路49を通って、下流側の糸出口(図略)から空気紡績装置41の外部に送出される。
【0046】
なお、前記導入口48には、その先端を紡績室46内向けて配置された針状のガイドニードル50が配置されている。導入口48から導入される繊維束14は、このガイドニードル50に巻きかかるようにして紡績室46内に案内される。これにより、紡績室46内に導入される繊維束14の状態を安定させることができる。また、このようにガイドニードル50に巻きかかるように繊維束14が案内されるので、紡績室46内で繊維に撚りが加えられても、繊維案内部45よりも上流側に撚りが伝播することが防止される。これにより、紡績部11による加撚がドラフト装置10に影響を与えることを防止できる。ただし、ガイドニードル50を省略して、繊維案内部45の下流側端部により、ガイドニードル50の機能を果たしても良い。
【0047】
なお、上記の空気紡績装置41で旋回気流を発生させるための圧縮空気(エア)は、ドライブエンドボックス3内に配置された前述のエア供給部34から供給されている。前述のように、エア供給部34は、圧縮空気の空気圧を調整するレギュレータ35を備えている。レギュレータ35を予め適切に調整しておくことにより、空気紡績装置41に対して適切に圧縮空気を供給することができるので、当該空気紡績装置41において前記旋回気流を適切に発生させることができる。これにより、紡績部11による紡績を適切に行うことができる。
【0048】
紡績部11の下流側であって機台本体2の下部には、巻取部13が配置されている。巻取部13は、クレードルアーム58と、巻取ドラム59と、を備えている。クレードルアーム58は、支軸57まわりに揺動可能に構成されている。このクレードルアーム58は、紡績糸15を巻回するための巻取ボビン16を回転可能に支持することができる。巻取ドラム59は、前記巻取ボビン16やそれに紡績糸15を巻回して形成されるパッケージ17の外周面に接触して駆動できるように構成されている。巻取ドラム59を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム59に接触する巻取ボビン16(又はパッケージ17)を回転させ、紡績糸15を巻取ボビン16に巻き取ることができる。
【0049】
図1に示すように、精紡機1は、各紡績ユニット6の巻取部13によって巻き取られる紡績糸15の綾振り(トラバース)を行うためのトラバース機構60を、機台本体2の下部に備えている。このトラバース機構60は、複数のトラバースガイド61と、トラバースロッド62と、を有している。
【0050】
各トラバースガイド61は、各紡績ユニット6の巻取部13の近傍にそれぞれ配置されるとともに、当該巻取部13で巻き取られる紡績糸15に係合するように構成されている。前記トラバースロッド62は、長手方向が左右方向に沿うように配設され、精紡機1が備える全紡績ユニット6にわたって配置されている。各トラバースガイド61は、トラバースロッド62に固定されている。トラバースロッド62の一側の端部は、ドライブエンドボックス3内の前記トラバース駆動部32に接続されている。トラバース駆動部32は、トラバースロッド62を左右に往復駆動するように構成されている。これにより、全紡績ユニット6で一斉にトラバースガイド61を往復駆動させることができる。紡績糸15を係合させた状態のトラバースガイド61を往復動させつつ、巻取部13によって巻取ボビン16を回転させることで、紡績糸15を綾振りしつつ巻き取り、適切な形状のパッケージ17を形成することができる。
【0051】
紡績部11と巻取部13との間には、糸貯留装置12が設けられている。糸貯留装置12は、図3に示すように、糸貯留ローラ63と、当該糸貯留ローラ63を回転駆動する電動モータ64と、を備えている。
【0052】
糸貯留ローラ63は、その外周面に一定量の紡績糸15を巻き付けて一時的に貯留することができるように構成されている。糸貯留ローラ63の外周面に紡績糸15を巻き付けた状態で当該糸貯留ローラ63を所定の回転速度で回転させることにより、紡績部11の空気紡績装置41から紡績糸15を所定の速度で引き出して下流側に搬送することができる。また、糸貯留ローラ63の外周に紡績糸15を一時的に貯留するように構成されているので、糸貯留装置12を一種のバッファとして機能させることができる。これにより、紡績部11における紡績速度と、巻取部13における巻取速度と、が何らかの理由により一致しない場合の不具合(例えば紡績糸15の弛みなど)を解消することができる。
【0053】
紡績部11と糸貯留装置12との間の位置には、糸品質測定器65が設けられている。紡績部11で紡出された紡績糸15は、糸貯留装置12で巻き取られる前に前記糸品質測定器65を通過する。糸品質測定器65は、走行する紡績糸15の太さを、図略の静電容量式センサによって監視するように構成されている。糸品質測定器65は、紡績糸15の糸欠点(紡績糸15の太さなどに異常がある箇所)を検出した場合に、糸欠点検出信号を図示しないユニットコントローラへ送信するように構成されている。なお、糸品質測定器65は静電容量式のセンサに限らず、例えば光透過式のセンサで紡績糸15の太さを監視する構成であっても良い。なお、糸品質測定器65は、紡績糸15に含まれる異物を糸欠点として検出するように構成されていても良い。
【0054】
糸品質測定器65の近傍には、紡績糸15の糸欠点が検出された際に直ちに紡績糸15を切断するためのカッタ(図略)が配置されている。なお、紡績ユニット6は、このカッタの代わりに、紡績部11への空気の供給を停止して、紡績糸15の生成を中断することにより当該紡績糸15を切断しても良い。
【0055】
また図1等に示すように、精紡機1は、糸継台車66と玉揚台車(作業台車)67を備えている。
【0056】
機台本体2には、左右方向に沿って糸継台車走行レール68が敷設されている。この糸継台車走行レール68は、紡績糸15の糸道よりも背面側に位置している。前記糸継台車66は、糸継台車走行レール68に沿って走行することができるように構成されている。
【0057】
糸継台車66は、図1及び図3に示すように、糸継装置69と、サクションパイプ70と、サクションマウス71と、を備えている。ある紡績ユニット6において糸切れや糸切断などにより紡績部11と巻取部13の間の紡績糸15が分断状態になると、糸継台車66は、前記糸継台車走行レール68上を前記紡績ユニット6まで走行し、停止する。前記サクションパイプ70は、軸を中心に上下方向に回動しながら、紡績部11から送出される糸端を吸い込みつつ捕捉して糸継装置69へ案内する。サクションマウス71は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取部13に支持されたパッケージ17から糸端を吸引しつつ捕捉して糸継装置69へ案内する。なお、サクションパイプ70及びサクションマウス71が吸引流を発生させるための負圧は、ブロアボックス5内の前記負圧源によって供給される。糸継装置69は、案内された糸端同士を、圧縮空気によって発生させた旋回気流によって撚り合わせることにより糸継ぎを行う。これにより、紡績部11と巻取部13との間の紡績糸15を連続状態とし、パッケージ17への紡績糸15の巻き取りを再開することができる。なお、この糸継装置69が旋回気流を発生させるための圧縮空気は、前記エア供給部34から供給されている。
【0058】
前述のように、糸継台車走行レール68は糸道よりも背面側に敷設されているので、糸継台車66は糸道よりも背面側を走行し、当該背面側の位置から糸継作業を行う。このように、糸継台車66は、糸道よりも背面側(即ち、機台本体2の奥まった位置)にあるので、メンテナンスを行いにくい。そこで本実施形態の精紡機1においては、糸継台車66を、機台本体2の背面から抜き出すことができるように構成されている。より具体的には、図3に示すように、負圧を供給するための負圧ダクト19,20,21を、糸継台車66よりも高い位置、又は低い位置に配設することにより、糸継台車66の背面側に負圧ダクトが配置されてない構成としている。そして、機台本体2の背面側の一部には、糸継台車66が糸継作業を行う空間と連通する開放部110が形成されている。これにより、糸継台車66を、開放部110を介して機台本体2に着脱することができる。従って、糸継台車66を機台本体2の背面側から抜き出してメンテナンスを行うことができる。
【0059】
なお、糸継台車66にメンテナンスを行う場合、当該糸継台車66の背面側にアクセスすることができれば、十分なメンテナンスを行うことができる場合がある。このような場合は、糸継台車66を機台本体2に取り付けたままで、開放部110を介してメンテナンス作業を行うことができる。従って、開放部110の開口面積は、糸継台車66を抜き出すことができる程度に大きく形成されていなくても良く、作業者がメンテナンスを行うのに十分な程度の開口面積が確保されていれば良い。
【0060】
また機台本体2の正面側には、左右方向に沿って玉揚台車走行レール39が敷設されている。前記玉揚台車67は、玉揚台車走行レール39に沿って走行することができるように構成されている。
【0061】
玉揚台車67は、満巻になったパッケージ17の玉揚作業を行うように構成されている。図1及び図3に示すように、玉揚台車67は、空ボビン収容部38と、クレードル操作アーム72と、糸引き出しアーム73と、空ボビン供給アーム74と、を備えている。空ボビン収容部38は、複数の空の巻取ボビン16を収容することができるように構成されている。糸引き出しアーム73は、図略のエアシリンダ機構により伸縮可能に構成されている。当該糸引き出しアーム73の先端には、吸引空気流によって紡績糸15を吸引捕捉する図略の捕捉部が設けられている。
【0062】
ある紡績ユニット6で巻き取っているパッケージ17が満巻(規定量の紡績糸15を巻き取った状態)になると、玉揚台車67は、玉揚台車走行レール39上を前記紡績ユニット6まで走行して停止する。次に、クレードル操作アーム72は、紡績ユニット6のクレードルアーム58を操作することにより、前記満巻のパッケージ17をクレードルアーム58から取り外す。取り外された満巻パッケージ17は、紡績ユニット6と、玉揚台車走行レール39と、の間に敷設されパッケージコンベア75の上に落下して受け止められる。なお、玉揚台車67に搬送機構を設け、当該搬送機構によって満巻パッケージ17を巻取部13からパッケージコンベア75へと搬送ように構成しても良い。図2に示すように、パッケージコンベア75は左右方向に沿って配設されている。このパッケージコンベア75は、満巻のパッケージ17を前記左右方向に沿って搬送するように構成されている。パッケージコンベア75による満巻パッケージ17の搬送方向の端部には、図略のパッケージ回収部が配置されている。以上の構成により、満巻のパッケージ17を自動的に回収することができる。
【0063】
続いて玉揚台車67は、空ボビン収容部38にストックされている空の巻取ボビン16を空ボビン供給アーム74によって把持するとともに、当該空ボビン供給アーム74を回動させて、前記巻取ボビン16を紡績ユニット6のクレードルアーム58に装着する。これと前後して、玉揚台車67の糸引き出しアーム73は、紡績部11で紡出された紡績糸15を吸引捕捉するとともに、当該捕捉した紡績糸15を、クレードルアーム58に装着された前記空の巻取ボビン16の近傍まで案内する。この状態で、公知のバンチ巻きなどの方法により、紡績部11から引き出された紡績糸15を巻取ボビン16に固定する。この状態で、巻取部13による巻取ボビン16の回転を開始することにより、新しい巻取ボビン16に対する紡績糸15の巻き取りを開始することができる。
【0064】
なお、玉揚台車67の空ボビン収容部38にストックできる空の巻取ボビン16の数は限られているので、適宜のタイミングで巻取ボビン16を補充する必要がある。そこで玉揚台車67は、適宜のタイミングで、前記ボビンストッカ4から巻取ボビン16の供給を受けるように構成されている。即ち、図2に示すように、前記玉揚台車走行レール39は、ボビン供給位置77(図1及び図2に二点鎖線で示す位置)まで伸びて敷設されている。図1及び図2に示すように、ボビン供給位置77は、機台本体2の正面側に位置しており、ボビンストッカ4に隣接して配置されている。玉揚台車67は、必要に応じて、ボビン供給位置77まで走行して停止する。ボビン供給位置77に停止した玉揚台車67に対して、ボビンストッカ4から巻取ボビン16が供給される。
【0065】
続いて、ドライブエンドボックス3の構成についてより詳しく説明する。
【0066】
図4に示すように、ドライブエンドボックス3は、正面側、側面側、(及び図示は省略しているが背面側も)がパネル78で覆われた構成となっている。このパネル78は、ドライブエンドボックス3のフレーム79(図5参照)に対して着脱可能に取り付けられている。
【0067】
図5に示すように、ドライブエンドボックス3の前記フレーム(収容フレーム)79は、細長いフレーム材料を組み合わせて構成されている。フレーム材料は特に限定されないが、例えば溝型鋼などの形鋼や鋼管などを利用することができる他、必要な強度を有するものであれば板金などであっても良い。前記ドラフト駆動部31、前記トラバース駆動部32、前記エア供給部34は、このフレーム79の内側に配置されている。また、フレーム79は、上下方向の中間部分に、略水平に配置された補強フレーム部材80,81,82を備えている。
【0068】
トラバース駆動部32は、補強フレーム部材80,81,82よりも下方に配置されている。トラバース駆動部32は、図7に示すように、前記トラバースロッド62を左右方向で往復動させるためのカム機構が内蔵されたカムボックス90と、当該カムボックス90の駆動源であるトラバース駆動モータ91とを備えている。この構成で、トラバース駆動モータ91を所定の回転速度で回転させることにより、トラバースロッド62を所定の速度で左右往復駆動させることができる。
【0069】
エア供給部34は、補強フレーム部材80,81,82よりも下方に配置されており、フレーム79に取り付けられている。エア供給部34は、精紡機1の各部に圧縮空気を適切に供給するためのエアー機器を備えている。具体的には、エア供給部34は、圧縮空気供給パイプ33を介して供給される圧縮空気の水分を除去するためのフィルタ83を備えている。また前述のように、エア供給部34は、圧縮空気の空気圧を適切に調整するためのレギュレータ35を備えている。
【0070】
ドラフト駆動部31は、補強フレーム部材80,81,82よりも上方に配置されており、フレーム79に取り付けられている。図5に示すように、ドラフト駆動部31は、前記第1ラインシャフト36を駆動するための第1モータ84と、前記第2ラインシャフト37を駆動するための第2モータ85と、を備えている。また、ドラフト駆動部31の正面側において、前記操作部18がフレーム79に取り付けられている。
【0071】
なお、ドライブエンドボックス3のフレーム79は、機台本体2とは別体として構成されている。これにより、精紡機1の据付の際には、機台本体2とドライブエンドボックス3を別々に搬入することができる。
【0072】
次に、トラバース駆動部32の構成について説明する。
【0073】
前述のように、トラバース駆動部32は、カムボックス(カム機構収容部)90と、トラバース駆動モータ91を備えている。また、トラバース駆動部32は、カムボックス90及びトラバース駆動モータ91を支持するベース体92を備えている。
【0074】
カムボックス90の内部には、カムドラム94と、当該カムドラム94の回転運動を往復運動に変換するカム機構とが収容されている。図8に示すように、カムドラム94の回転軸95は、カムボックス90によって回転自在に支持されている。図8に示すように、回転軸95の一端はカムボックス90から突出して設けられており、当該突出した回転軸95の端部にはプーリ96が固定されている。このプーリ96には、前記トラバース駆動モータ91による回転駆動力が、図略の伝動ベルト等を介して入力される。この構成により、カムドラム94をトラバース駆動モータ91によって回転駆動することができる。
【0075】
図8に示すように、カムボックス90からは出力軸93が突出するように設けられている。この出力軸93は、その軸線が左右方向に沿って配置されている。また、この出力軸93には、前記トラバースロッド62が連結される。カムボックス90内には、カムドラム94の回転を往復運動に変換し、出力軸93を、その軸線に沿って往復運動させるカム機構が設けられている。この構成により、出力軸93に連結されたトラバースロッド62を左右往復駆動することができるので、トラバース機構60を左右往復駆動し、各紡績ユニット6で紡績糸15の綾振りを行うことができる。
【0076】
続いて、カム機構について詳しく説明する。このカム機構は、カムドラム94の外周に形成された往復螺旋溝97と、往復螺旋溝97に係合するシュー98とから構成されている。このシュー98は、前記出力軸93の端部に固定されている。また、出力軸93は、カムボックス90に対して、その軸線に沿った方向に摺動可能に支持されている。
【0077】
この構成で、カムドラム94を回転駆動することにより、往復螺旋溝97に係合したシュー98は、当該往復螺旋溝97によって案内されるようにして移動する。これにより、シュー98が、出力軸93をその軸線に沿って往復させる。以上のカム機構により、カムドラム94の回転を往復運動に変換して出力軸93を往復運動させることができる。
【0078】
また、カムボックス90の底部は、カム機構に供給するためのオイル99を貯留するオイル溜めとなっている。従って、カムボックス90はオイル貯留部を兼ねていると言うことができる。前記カムドラム94は、その外周の一部がオイル溜めのオイル99に浸かるように配置されている。この構成で、カムドラム94が回転することにより、当該カムドラム94の外周及び往復螺旋溝97にオイルが満遍なく塗布され、カム機構を潤滑に駆動することができる。
【0079】
なお、カムドラム94はトラバース駆動モータ91によって高速で回転駆動されるため、当該カムドラム94の回転の勢いによって出力軸93にオイルが降りかかることになる。出力軸93の一端はカムボックス90の外側に突出しているので、オイルが付いたままの出力軸93が往復駆動されると、当該出力軸93に付着したオイルがカムボックス90の外部に漏れてしまう。
【0080】
そこで本実施形態の精紡機1では、出力軸93に付着したオイルを回収するオイル回収部100が設けられている。このオイル回収部100は、カムボックス90の外側に設けられているとともに、その内部にスクレーパ101を有している。このスクレーパ101は、出力軸93と同軸に配置されたゴム製のリング部材であり、出力軸93の外周に付着したオイルを拭い取るように配置されている。また、カムボックス90の側壁には、当該カムボックス90の内部とオイル回収部100とを連通するオイル戻し孔102が形成されている。スクレーパ101によって出力軸93が拭い取られ回収されたオイルは、オイル戻し孔102を介して、オイル回収部100からカムボックス90内へと戻される。
【0081】
なお、カム機構が備えるシュー98や出力軸93は高速で往復駆動されるため、当該シュー98や出力軸93に付着したオイルはカムボックス90の側壁面に向けて飛び散り易い。このように飛び散ったオイルがオイル戻し孔102に降りかかってしまうと、オイル回収部100のオイルをオイル戻し孔102からスムーズに戻すことができなくなるという問題が発生し得る。
【0082】
そこで本実施形態の精紡機1では、カム機構によって飛び散るオイルがオイル戻し孔102に降りかからないようにするため、当該オイル戻し孔102をカムボックス90の内側から覆うカバー部材103を配置している。本実施形態では、カバー部材103は板状部材であり、少なくとも、オイル戻し孔102の開口部分に対面するように配置されている。ただし、カバー部材103によってオイル戻し孔102を完全に塞いでしまうと、オイル回収部100内のオイルをカムボックス90内に戻すことができないので、カバー部材103とオイル戻し孔102の開口縁部との間には隙間が設けられている。また、オイル戻し孔102からのオイルを、当該オイル戻し孔102の下方にあるオイル溜めに落とすことができるように、カバー部材103の下端部は開放されている。
【0083】
以上の構成で、カム機構によって飛び散るオイルがオイル戻し孔102に降りかかることを防止できるので、オイル回収部100が回収したオイルを、オイル戻し孔102を介してカムボックス90内へとスムーズに戻すことができる。この結果、往復運動する出力軸93からのオイル漏れを確実に防止することができる。
【0084】
また前述のように、上記カムボックス90は、ベース体92に支持されている。トラバース駆動部32は、カムボックス90をベース体92に支持させるための吊り下げ支持部材104を備えている。
【0085】
吊り下げ支持部材104は、出力軸93と平行に配置された棒状部材であり、前記カムボックス90を貫通して設けられている。カムボックス90を貫通した吊り下げ支持部材104の両端は、ベース体92に固定される。また、吊り下げ支持部材104は、カムボックス90の重心よりも上方の位置で、当該カムボックス90を貫通するように構成されている。以上のように、トラバース駆動部32は、カムボックス90を、吊り下げ支持部材104によって吊り下げ支持するように構成されている。
【0086】
図9に示すように、本実施形態では、吊り下げ支持部材104は2本配置されており、当該2本の吊り下げ支持部材104でカムボックス90を支持するように構成されている。これにより、トラバース駆動部32は、カムボックス90を安定して支持することができる。また本実施形態では、吊り下げ支持部材104の長手方向でみたとき(図9)に、カムボックス90の重心90aを通る鉛直線に対して2本の吊り下げ支持部材104が対称になるように配置されている。なお、ここでいうカムボックス90の重心90aとは、カムボックス90そのものに加えて、当該カムボックス90に収容されている構成(カムドラム94、シュー98、出力軸93など)を含んだ重心を言う。このように、カムボックス90の重心90aに対して対称に配置された2本の吊り下げ支持部材104によって前記カムボックス90を吊り下げ支持することにより、当該カムボックス90の振動をベース体92が均一に受けることができる。
【0087】
なお、例えば特許文献2に記載されているように、従来の精紡機では、糸継台車(作業台車)のメンテナンスを行うために、当該作業台車を機台本体の側方から抜き出すように構成されていた。従って、本実施形態のように機台の側方端部にドライブエンドボックス3を設ける構成を特許文献2の従来の精紡機に適用した場合、糸継台車66は、ドライブエンドボックス3内を通過させるようにして抜き出す必要がある。従って、当該ドライブエンドボックス3内に配置されるトラバース駆動部32は、糸継台車66を避けるように形成されなければならない。このため従来の精紡機において、カムボックス90は、例えば図10に示すように、糸継台車66との干渉を避けた形状に形成されていた。このため、図10に示すように、カムボックス90の重心90aに対して2本の吊り下げ支持部材104を対称に配置することが困難であった。
【0088】
この点、本実施形態の精紡機1では前述のように、糸継台車66は、機台本体2の背面側から抜き出してメンテナンスを行えるように構成している。従って、本実施形態の構成によれば、糸継台車66を機台本体2の側方から抜き出す必要がない。即ち、本実施形態の精紡機1は、糸継台車66を避けてカムボックス90を形成しなければならないという制限が無い。このため、本実施形態の精紡機1では、上記のように、カムボックス90の重心90aに対して2本の吊り下げ支持部材104を対称に配置することが可能である。
【0089】
前記ベース体92の下部には、振動逃がし部105が設けられている。この振動逃がし部105は、具体的には図9に示すように、ベース体92の下部に固定された固定用プレート106と、当該固定用プレート106に形成された挿通孔(図略)を介して地面109(精紡機1の設置面)に打ち込まれるアンカーボルト107とから構成されている。アンカーボルト107を地面109に打ち込むことにより、ベース体92を地面109に固定することができる。これにより、トラバース駆動部32がトラバース機構60を往復駆動する際の振動によって当該トラバース駆動部32が移動しないように地面109に対して固定しておくことができる。
【0090】
また図9に示すように、振動逃がし部105は、トラバース駆動部32の正面側と背面側に配置されている。このように、トラバース駆動部32の前後方向の両側を地面109に固定することで、トラバース駆動部32を地面109に対して確実に固定することができる。
【0091】
本実施形態の精紡機1では、給糸部9は機台本体2の上部に配置されており、給糸部9から供給される紡績糸15を巻き取るための巻取部13及びトラバース機構60は、機台本体2の下部に配置されている。このため、トラバース機構60の駆動源であるトラバース駆動部32も、ドライブエンドボックス3内の下部に配置されている。即ち、本実施形態では、トラバース駆動部32が地面(設置面)109に近い位置に配置されているので、当該トラバース駆動部32を、アンカーボルト107によって地面109に対してしっかりと固定することができる。
【0092】
本実施形態において、トラバース駆動部32は、ドライブエンドボックス3のフレーム79内に配置されていながら、当該フレーム79には連結されていない。即ち、トラバース駆動部32は、フレーム79とは独立して設けられている。また、上記の振動逃がし部105もフレーム79とは独立して設けられている。
【0093】
以上の構成により、トラバース駆動部32で発生した振動は、ドライブエンドボックス3のフレーム79に伝わることなく、振動逃がし部105を介して地面109へと逃がされる。このように、トラバース駆動部32で発生した振動を地面109に逃がすことにより、フレーム79に取り付けられている他の構成(例えば操作部18)や、機台本体2の紡績ユニット6などに前記振動が伝わることを防止できる。これにより、精紡機1全体の耐久性を向上させることができる。
【0094】
ところで図2に示すように、本実施形態の精紡機1において、前記パッケージコンベア75は少なくともドライブエンドボックス3の正面側まで伸びて形成されている。このため、ドライブエンドボックス3は、パッケージコンベア75に干渉することを避けるため、当該パッケージコンベア75よりは背面側に配置する必要がある。一方で、トラバース駆動部32にはトラバース機構60を駆動するためのトラバースロッド62が連結されなければならないので、当該トラバース駆動部32は、トラバース機構60の側方に配置せざるを得ない。
【0095】
このように、ドライブエンドボックス3の前後方向での配置に制限がある一方で、トラバース駆動部32の配置にも制限がある。このため、本実施形態の精紡機1においては、ドライブエンドボックス3のフレーム79の内部において、トラバース駆動部32を正面側のぎりぎりの位置に寄せて配置しなければならないという事情がある。しかし、図5に示すように、フレーム79の正面側の下部には、下部フレーム部材86が、左右方向に沿って配設されている。従って、トラバース駆動部32をフレーム79内の正面側ぎりぎりの位置に寄せようとすると、この下部フレーム部材86が邪魔になってしまう。一方で、下部フレーム部材86はフレーム79の剛性を確保するために必要であるから、これを省略することはできない。
【0096】
そこで本実施形態の精紡機1においては、図7及び図9に示すように、トラバース駆動部32のベース体92の正面側の下部に、背面側に向けて凹むような切り欠き部108を形成している。この切り欠き部108は、下部フレーム部材86を避けることができるように形成されている。これにより、トラバース駆動部32を、下部フレーム部材86を避けつつ、フレーム79内の正面側ぎりぎりの位置まで寄せて配置することができる。
【0097】
次に、本実施形態の精紡機1の設置方法(据え付け方法)について説明する。
【0098】
前述のように、本実施形態の精紡機1において、ドライブエンドボックス3と機台本体2は別体として構成されている。従って、精紡機1を据え付ける際には、ドライブエンドボックス3と機台本体2とは別々に搬入することができる。
【0099】
精紡機1を据え付ける際には、まず機台本体2を搬入し、当該機台本体2を適宜の位置に据え付ける。
【0100】
続いて、機台本体2の側方の所定の位置において、トラバース駆動部32のアンカーボルト107を打ち込むための穴を、地面109に形成する。このように予め地面109に穴を形成しておくことにより、トラバース駆動部32をアンカーボルト107で地面109に固定する作業を、スムーズに行うことができる。
【0101】
なお、トラバース駆動部32の出力軸93にはトラバースロッド62を連結する必要がある。このため、トラバース駆動部32を地面109に固定する際には、前記出力軸93の軸線とトラバースロッド62の軸線が一致していなければならない。従って、アンカーボルト107を地面109に打ち込むための穴は、正確に位置決めされた位置に形成する必要がある。
【0102】
そこで、本実施形態の精紡機1の据え付け時には、図11に示すような位置決め治具111を利用して、アンカーボルト107を打ち込むための穴を地面109に形成する。この位置決め治具111は、機台本体2の側部に係合する係合部112と、テンプレート部113とを有している。テンプレート部113には、アンカーボルト107の穴を形成すべき位置に、予めテンプレート孔114が形成されている。この位置決め治具111の使用方法は、図11に示すように、既に設置されている機台本体2の側部に係合部112を係合させた状態で、テンプレート孔114の位置において地面109にアンカーボルト107用の穴を形成するというものである。このように位置決め治具111を利用することで、機台本体2に対して適切な位置に、アンカーボルト107用の穴を地面109に形成することができる。
【0103】
アンカーボルト107用の穴を地面109に形成すると、続いて、機台本体2の側方にドライブエンドボックス3を設置する。なお前述のように、本実施形態の精紡機1において、トラバース駆動部32は、ドライブエンドボックス3のフレーム79とは独立している。しかし、トラバース駆動部32とドライブエンドボックス3を別々に搬入しなければならないようでは二度手間である。そこで、ドライブエンドボックス3を搬入する際には、当該ドライブエンドボックス3のフレーム79に対して、トラバース駆動部32を、図5に二点鎖線で示すような搬入用ブラケット115で固定しておくと好適である。これによれば、トラバース駆動部32をドライブエンドボックス3と一体的に搬入することができるので、搬入時の手間を省くことができる。
【0104】
ドライブエンドボックス3を機台本体2の側方に設置する作業が終了すると、前記搬入用ブラケット115を取り外し、ドライブエンドボックス3のフレーム79とトラバース駆動部32との連結を解除する。これにより、トラバース駆動部32はフレーム79から独立した状態となる。続いて、トラバース駆動部32の固定用プレート106の前記挿通孔(図略)を介して、アンカーボルト107を地面109に打ち込む。これにより、振動逃がし部105が形成され、トラバース駆動部32が地面109に固定される。アンカーボルト107を地面109に打ち込むための穴は地面109に予め形成されているので、トラバース駆動部32を地面109に固定する作業をスムーズに行うことができる。
【0105】
なお前述のように、トラバース駆動部32は、ドライブエンドボックス3のフレーム79内において、正面側のぎりぎりの位置に寄せて配置されている。このため、トラバース駆動部32の正面側の振動逃がし部105を形成する際、下部フレーム部材86が邪魔になってアンカーボルト107を地面109に打ち込みにくい。
【0106】
そこで本実施形態の精紡機1では、ドライブエンドボックス3のフレーム79本体に対して、下部フレーム部材86を着脱可能に構成している。即ち、トラバース駆動部32を据え付ける際には、下部フレーム部材86を取り外しておくことにより、正面側の振動逃がし部105を形成する際(アンカーボルト107を地面109に打ち込む際)に下部フレーム部材86が邪魔になることがない。従って、トラバース駆動部32を据え付ける作業をスムーズに行うことができる。上記アンカーボルト107を地面109に打ち込む作業が終了した後は、下部フレーム部材86を、フレーム79本体に取り付ける。これにより、ドライブエンドボックス3のフレーム79の剛性を確保することができる。
【0107】
以上で説明したように、本実施形態の精紡機1は、トラバース機構60と、トラバース駆動部32と、振動逃がし部105と、フレーム79と、を備えている。トラバース機構60は、複数の紡績ユニット6にわたって設けられ、それぞれの紡績ユニット6が巻き取る紡績糸15の綾振りを共通して行う。トラバース駆動部32は、トラバース機構60を往復駆動する。振動逃がし部105は、トラバース駆動部32がトラバース機構60を駆動することにより発生する振動を逃がす。フレーム79は、トラバース駆動部32を収容する。トラバース駆動部32及び振動逃がし部105は、フレーム79とは独立して設けられている。
【0108】
このように、トラバース駆動部32をフレーム79とは独立して設け、更に、トラバース駆動部32の振動をフレーム79以外に逃がす振動逃がし部105を設けたことにより、トラバース駆動部32の振動がフレーム79に伝わることを防止できる。これにより、トラバース駆動部32の振動によってフレーム79が破損することを防止できる結果、精紡機1の耐久性が向上する。
【0109】
本実施形態の精紡機1は、複数の紡績ユニット6に共通の操作部18と、複数の紡績ユニット6に対してエアを供給するエア供給部34を備えている。フレーム79には、操作部18とエア供給部34が取り付けられていてる。
【0110】
即ち、トラバース駆動部32をフレーム79とは独立して設けたことにより、当該トラバース駆動部32の振動がフレーム79に伝わることを防止できるので、当該フレーム79に取り付けられる操作部18やエア供給部34に対して前記振動が伝わることもない。従って、操作部18やエア供給部34が、トラバース駆動部32の振動によって破損してしまうことを防止できる。
【0111】
本実施形態の精紡機1において、振動逃がし部105は、精紡機1の設置面に対して固定される。
【0112】
このように振動逃がし部105を設置面に固定することで、トラバース駆動部32の振動を設置面に逃がすことができる。しかも、振動逃がし部105が設置面に固定される結果、トラバース駆動部32を設置面に対して確実に固定できる。これにより、トラバース機構60による糸の綾振りが安定し、高品質なパッケージ17を形成することができる。
【0113】
本実施形態の精紡機1において、フレーム79は、当該フレーム79の下部の一部を構成する下部フレーム部材86を備える。前記下部フレーム部材86は、フレーム79の本体に対して着脱可能である。
【0114】
このように下部フレーム部材86を着脱可能に設けたことにより、振動逃がし部105を設置面に固定する際には下部フレーム部材86を取り外して作業を行えるので、当該固定作業を行い易くなる。また、振動逃がし部105の固定後は下部フレーム部材86をフレーム79本体に取り付けることにより、フレーム79の剛性を高めることができる。
【0115】
本実施形態の精紡機1は以下のように構成されている。即ち、紡績ユニット6は、紡績糸15を供給する給糸部9と、トラバース機構60によって綾振りされる紡績糸15を、パッケージ17へと巻き取る巻取部13と、を備える。給糸部9は機台本体2の上部に配置され、トラバース機構60及び巻取部13は機台本体の下部に配置される。
【0116】
このようにトラバース機構60が機台本体2の下部に配置されるレイアウトの場合、当該トラバース機構60の駆動源であるトラバース駆動部32を低い位置に配置することができる。従って、当該トラバース駆動部32を設置面に対してしっかりと固定することができる。
【0117】
本実施形態の精紡機1は、以下のように構成されている。即ち、トラバース機構60は、各紡績ユニット6が巻き取る紡績糸15に係合する複数のトラバースガイド61と、前記複数のトラバースガイド61が取り付けられるトラバースロッド62と、を備える。トラバース駆動部32は、カムドラム94と、カムドラム94を回転駆動するモータ91と、カムドラム94の回転運動を往復運動に変換して出力軸93から出力するカム機構と、を備える。出力軸93とトラバースロッド62は、接続されている。
【0118】
上記実施形態の構成によれば、このようなトラバース方式の精紡機1において、精紡機1全体に振動が伝わることを防止し、安定してパッケージ17を形成することができる。
【0119】
本実施形態の精紡機1は、以下のように構成されている。即ち、トラバース駆動部32は、オイル貯留部として機能するカムボックス90と、オイル回収部100と、オイル戻し孔102と、カバー部材103と、を備える。カムボックス90は、前記カム機構に供給されるオイルを貯留する。オイル回収部100は、出力軸93に付着したオイルを回収する。オイル戻し孔102は、オイル回収部100が回収したオイルをカムボックス90に戻す。カバー部材103は、オイル戻し孔102をカバーし、前記カム機構によって飛散するオイルがオイル戻し孔102に振りかかることを防止する。
【0120】
このように、オイル回収部100を設けることにより、トラバース駆動部32の出力軸93からのオイル漏れを削減することができる。しかも、カバー部材を設けたことにより、オイル戻し孔102にオイルが振りかかることを防止できるので、当該オイル戻し孔102からのオイルをスムーズにカムボックス90へと戻すことができる。
【0121】
本実施形態の精紡機1は以下のように構成されている。即ち、トラバース駆動部32は、ベース体92と、カムドラム94及びカム機構を収容したカムボックス90と、カムボックス90をベース体92から吊り下げ支持する2つの吊り下げ支持部材104とを備える。2つの吊り下げ支持部材104は、カムボックス90の重心90aに対して対称となるように前記ベース体92に取り付けられている。
【0122】
このようにカムボックス90を支持することで、ベース体92は、カムボックス90からの振動を均一に受けることができる。
【0123】
上記の精紡機1は、以下のように構成されている。即ち、前記給糸部9は、繊維束14をドラフトするドラフト装置10と、ドラフト装置10でドラフトされた繊維束14を空気流で撚って紡績糸15を生成する空気紡績装置41と、を有する。給糸部9から供給される紡績糸15が、トラバース機構60で綾振りされながら紡績ユニット6によってパッケージ17に巻き取られる。
【0124】
即ち、空気紡績装置41は高速で紡績を行うことが可能であるため、トラバース機構60のトラバース速度も高速化になり、トラバース駆動部32で振動が発生し易い状態となる。従って、このような空気紡績装置41を備えた精紡機1において、本願発明の構成を採用することにより、トラバース駆動部32の振動が周囲の機器に伝わることを防止するという振動逃がし部105の効果を特に好適に発揮することができる。
【0125】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0126】
上記実施形態では、糸貯留装置12の糸貯留ローラ63を回転させることにより、紡績部11から紡績糸15を引き出す構成とした。これに代えて、例えば特開2005−220484号公報に記載されているように、デリベリローラとニップローラとによって紡績糸を挟み込んで回転することにより、紡績装置から紡績糸を引き出す糸送り装置を設けても良い。
【0127】
上記実施形態では、紡績ユニット6と玉揚台車走行レール39との間にパッケージコンベア75を設けた構成としたが、紡績ユニット6、玉揚台車走行レール39、パッケージコンベア75の順で配置されていても良い。もっとも、パッケージコンベア75によって満巻パッケージ17を自動的に回収する構成は省略しても良い。この場合、上記実施形態でパッケージコンベア75が配置されている位置には、満巻パッケージ17を一時的に保管しておくためのパッケージ載置部が形成される。この場合、作業者は、パッケージ載置部に載置されている満巻パッケージ17を手作業で回収する。
【0128】
精紡機1全体の構成をコンパクトに形成するという観点からは、ドライブエンドボックス3の正面側ぎりぎりの位置に寄せてトラバース駆動部32を配置するという上記実施形態のレイアウトが望ましいが、ドライブエンドボックス3内の他の構成のレイアウトに応じて、トラバース駆動部32の位置を適宜変更しても良い。トラバース駆動部32の振動がフレーム79に伝わらないように、トラバース駆動部32を振動逃がし部105によって地面109に固定できれば良い。
【0129】
もっとも、振動逃がし部105によってトラバース駆動部32の振動を逃がす対象は、地面109(設置面)に限らない。例えば、精紡機1が設置された繊維工場の壁面に、トラバース駆動部32の振動を逃がすように構成しても良い。要は、トラバース駆動部32の振動を、フレーム79及び機台本体2に伝わらないように逃がすことができれば良いのである。
【0130】
図1では、巻取部13がコーン形状(テーパ形状)のパッケージ17を形成するように図示しているが、チーズ形状(円筒形状)のパッケージを形成するようにしても良い。
【0131】
紡績部11が備える空気紡績装置41の構成は、上記実施形態のものに限らず、例えば、互いに反対方向に撚りを掛ける一対のエアジェットノズルを備えた方式の空気紡績装置であっても良い。また、紡績部11は、空気紡績装置で紡績を行う構成に限らず、他の形式の紡績装置で紡績を行う構成であっても良い。もっとも、本発明の構成は紡績機に限らず、自動ワインダなどの他の種類の糸巻取機にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 精紡機(糸巻取機)
2 機台本体
3 ドライブエンドボックス
6 紡績ユニット(糸巻取ユニット)
15 紡績糸(糸)
32 トラバース駆動部(駆動部)
60 トラバース機構
61 トラバースガイド
62 トラバースロッド
79 フレーム(収容フレーム)
105 振動逃がし部
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、糸巻取機が備えるトラバース装置を駆動する駆動源の配置構成に関する。
【背景技術】
【0002】
糸を巻き取ってパッケージを形成する糸巻取機が知られている。この種の糸巻取機としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載された紡績機がある。特許文献1及び特許文献2が開示しているように、この種の紡績機は、糸を巻き取るための多数の紡績ユニットを機台本体に並べて備えている。
【0003】
糸巻取機は、糸をパッケージに巻き取る際に、当該糸の綾振りを行うトラバース装置を備える。特許文献1に記載の紡績機は、長尺のトラバースロッドを往復動させることにより、全部の紡績ユニットにおいて糸ガイドを一斉に往復動させる構成のトラバース装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−250122号公報
【特許文献2】特開平8−246275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、トラバースロッドの駆動源であるカムボックスを開示している。このカムボックスはトラバースロッドを高速で往復動させるものであるから、当該トラバースロッドの往復動の反転時に衝撃が発生する。従って、トラバース装置の駆動中には、カムボックスにおいて大きな振動が発生することになる。特に、特許文献1のようにトラバースロッドを複数の紡績ユニットにわたって設け、全部の紡績ユニットでの糸の綾振りを共通して行う構成の場合、トラバースロッド自体が重くなるため上記振動が非常に大きくなる。
【0006】
上記のようにカムボックスで振動が発生するため、そのままではカムボックスが移動してしまうという問題がある。そこで、当該カムボックスはどこかに固定しておく必要がある。従来の紡績機では、カムボックスは、紡績機の一端に配置されるドライブエンドのフレームに固定されていた。これにより、カムボックスが振動によって移動することを防止できる。しかも、この構成によれば、カムボックスをドライブエンドと一体的に運搬できるので、紡績機の据え付け作業などを簡易化できるという利点がある。
【0007】
しかしながら、カムボックスをフレームに固定した上記の構成では、カムボックスの振動がフレームを介して周辺機器に伝わってしまう。特に、近年は紡績速度が向上し、トラバース速度も速くなっているので、カムボックスで発生する振動が大きくなってきている。このため、カムボックスの振動によって、前記周辺機器の破損が発生するおそれがある。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、トラバース装置の駆動源で発生する振動による悪影響を低減した糸巻取機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の観点によれば、糸を巻き取ってパッケージを形成する複数の糸巻取ユニットを機台の長手方向に沿って並設した糸巻取機における以下の構成が提供される。即ち、この糸巻取機は、トラバース機構と、駆動部と、振動逃がし部と、収容フレームと、を備える。前記トラバース機構は、前記複数の糸巻取ユニットにわたって設けられ、それぞれの前記糸巻取ユニットが巻き取る糸の綾振りを共通して行う。前記駆動部は、前記トラバース機構を往復駆動する。前記振動逃がし部は、前記駆動部が前記トラバース機構を駆動することにより発生する振動を逃がす。前記収容フレームは、前記駆動部を収容する。前記駆動部及び前記振動逃がし部は、前記収容フレームとは独立して設けられる。
【0011】
このように、駆動部を収容フレームとは独立して設け、更に、駆動部の振動を収容フレーム以外に逃がす振動逃がし部を設けたことにより、駆動部の振動が収容フレームに伝わることを防止できる。これにより、駆動部の振動によって収容フレームが破損することを防止できる結果、糸巻取機の耐久性が向上する。
【0012】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この糸巻取機は、前記複数の糸巻取ユニットに共通の操作部と、前記複数の糸巻取ユニットに対してエアを供給するエア供給部と、を更に備える。前記収容フレームには、前記操作部と前記エア供給部の少なくとも何れか一方が取り付けられている。
【0013】
即ち、駆動部を収容フレームとは独立して設けたことにより、当該駆動部の振動が収容フレームに伝わることを防止できるので、当該収容フレームに取り付けられる操作部やエア供給部に対して前記振動が伝わることもない。従って、操作部やエア供給部が、駆動部の振動によって破損してしまうことを防止できる。
【0014】
上記の糸巻取機において、前記振動逃がし部は、糸巻取機の設置面に対して固定されることが好ましい。
【0015】
このように振動逃がし部を設置面に固定することで、駆動部の振動を設置面に逃がすことができる。しかも、振動逃がし部が設置面に固定される結果、駆動部を設置面に対して確実に固定できる。これにより、トラバース機構による糸の綾振りが安定し、高品質なパッケージを形成することができる。
【0016】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記収容フレームは、当該収容フレームの下部の少なくとも一部を構成する下部フレーム部材を備える。前記下部フレーム部材は、前記収容フレームの本体に対して着脱可能である。
【0017】
このように下部フレーム部材を着脱可能に設けたことにより、振動逃がし部を設置面に固定する際には下部フレーム部材を取り外して作業を行えるので、当該固定作業を行い易くなる。また、振動逃がし部の固定後は下部フレーム部材を収容フレーム本体に取り付けることにより、収容フレームの剛性を高めることができる。
【0018】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記糸巻取ユニットは、前記糸を供給する給糸部と、前記トラバース機構によって綾振りされる前記糸を、前記パッケージへと巻き取る巻取部と、を備える。前記給糸部は前記機台の上部に配置され、前記トラバース機構及び前記巻取部は前記機台の下部に配置される。
【0019】
このようにトラバース機構が機台下部に配置されるレイアウトの場合、当該トラバース機構の駆動部を低い位置に配置することができる。従って、当該駆動部を設置面に対してしっかりと固定することができる。
【0020】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記トラバース機構は、前記各糸巻取ユニットが巻き取る前記糸に係合する複数のトラバースガイドと、前記複数のトラバースガイドが取り付けられるトラバースロッドと、を備える。前記駆動部は、カムドラムと、前記カムドラムを回転駆動するモータと、前記カムドラムの回転運動を往復運動に変換して出力軸から出力するカム機構と、を備える。前記出力軸と前記トラバースロッドは、接続されている。
【0021】
本願発明の構成によれば、上記のようなトラバース方式の糸巻取機において、糸巻取機全体に振動が伝わることを防止し、安定してパッケージを形成することができる。
【0022】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記駆動部は、オイル貯留部と、オイル回収部と、戻し孔と、カバー部材と、を備える。前記オイル貯留部は、前記カム機構に供給されるオイルを貯留する。前記オイル回収部は、前記出力軸に付着したオイルを回収する。前記戻し孔は、前記オイル回収部が回収したオイルを前記オイル貯留部に戻す。前記カバー部材は、前記戻し孔をカバーし、前記カム機構によって飛散するオイルが前記戻し孔に振りかかることを防止する。
【0023】
このように、オイル回収部を設けることにより、駆動部の出力軸からのオイル漏れを削減することができる。しかも、カバー部材を設けたことにより、戻し孔にオイルが振りかかることを防止できるので、当該戻し孔からのオイルをスムーズにオイル貯留部へと戻すことができる。
【0024】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記駆動部は、ベース体と、前記カムドラム及び前記カム機構を少なくとも収容したカム機構収容部と、前記カム機構収容部を前記ベース体から吊り下げ支持する2つの吊り下げ支持部材と、を備える。前記2つの吊り下げ支持部材は、前記カム機構収容部の重心に対して対称となるように前記ベース体に取り付けられている。
【0025】
このようにカム機構収容部を支持することで、ベース体は、カム機構収容部部からの振動を均一に受けることができる。
【0026】
上記の糸巻取機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記糸巻取ユニットのそれぞれは、給糸部を備える。前記給糸部は、繊維束をドラフトするドラフト装置と、前記ドラフト装置でドラフトされた前記繊維束を空気流で撚って紡績糸を生成する空気紡績装置と、を有する。前記給糸部から供給される紡績糸が、前記トラバース機構で綾振りされながら前記糸巻取ユニットのそれぞれによってパッケージに巻き取られる。
【0027】
即ち、空気紡績装置は高速で紡績を行うことが可能であるため、トラバース機構のトラバース速度も高速化になり、駆動部で振動が発生し易い状態となる。従って、このような空気紡績装置を備えた糸巻取機において、本願発明の構成を採用することにより、駆動部の振動が周囲の機器に伝わることを防止するという振動逃がし部の効果を特に好適に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る精紡機の全体的な構成を示す正面図。
【図2】精紡機の平面図。
【図3】精紡機の側面断面図。
【図4】ドライブエンドボックスの外観斜視図。
【図5】ドライブエンドボックスの内部の様子を示す斜視図。
【図6】空気紡績装置の断面図。
【図7】トラバース駆動部の斜視図。
【図8】カムボックス内の様子を示す正面断面図。
【図9】トラバース駆動部の側面図。
【図10】従来のカムボックスの側面図。
【図11】位置決め治具の使用方法を説明する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の一実施形態に係る糸巻取機としての精紡機(紡績機)について、図面を参照して説明する。図1及び図2に示すように、精紡機1は、機台本体2と、ドライブエンドボックス3と、ボビンストッカ4と、ブロアボックス5と、を備えている。
【0030】
機台本体2には、その長手方向に沿って、複数の紡績ユニット(糸巻取ユニット)6が並設して設けられている。図3に示すように、各紡績ユニット6は、上流から下流へ向かって順に配置された、給糸部9と、糸貯留装置12と、巻取部13と、を主要な構成として備えている。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での繊維束14及び紡績糸15の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。各紡績ユニット6は、給糸部9が供給する紡績糸15を、巻取部13で巻取ボビン16に巻き取るように構成されている。なお、このように紡績糸15が巻き取られた巻取ボビン16を、パッケージ17と称する。
【0031】
なお、以下の説明で、紡績ユニット6が並設されている方向(図1及び図2に「右」と「左」の矢印で示す方向)を、単に「左右方向」と呼ぶことがある。また、左右方向及び上下方向(鉛直方向)に直交する方向(図1及び図3に「前」と「後」の矢印で示す方向)を、単に「前後方向」と呼ぶことがある。図3に示すように、左右方向で見たときに、紡績ユニット6で生成される紡績糸15は、機台本体2の前後方向の一側を走行する。そこで、前後方向で、機台本体2から見たときに紡績糸15が走行する側(図3の右側)を正面側、反対側を背面側と呼ぶことがある。
【0032】
ドライブエンドボックス3は、機台本体2の左右方向の一側の端部に配置されている。ドライブエンドボックス3内には、図5に示すように、複数の紡績ユニット6の共通の駆動源であるドラフト駆動部31及びトラバース駆動部(駆動部)32が配置されている。
【0033】
ドライブエンドボックス3には、図略の圧空源から圧縮空気供給パイプ33を介して圧縮空気が供給されている。ドライブエンドボックス3内には、図5に示すように、前記圧縮空気(エア)を適切に調整して精紡機1の各部へと供給するエア供給部34が配置されている。このエア供給部34は、圧縮空気の圧力を調整するためのレギュレータ35等を有している。エア供給部34によって適切な空気圧に調整された圧縮空気は、図略のダクト又はチューブなどを介して、精紡機1の各部に供給される。
【0034】
図1及び図4に示すように、ドライブエンドボックス3の正面側には、操作部18が設けられている。操作部18は、各紡績ユニット6に関する情報を表示可能な表示画面、各種設定を行う設定操作具(操作ボタン、操作ダイヤルなど)などを備えている。操作部18は、各紡績ユニット6と通信可能に構成されており、精紡機1が備える複数の紡績ユニット6に関する情報を集中的に管理している。操作部18は、精紡機1が備える複数の紡績ユニット6に対して一括して、或いは個別に制御信号を送信することができる。従って、精紡機1のオペレータは、複数の紡績ユニット6を、操作部18によって集中的に操作することができる。
【0035】
機台本体2の左右方向で、ドライブエンドボックス3とは反対側の端部には、ボビンストッカ4が配置されている。このボビンストッカ4は、空の巻取ボビン16を複数保持可能に構成されている。
【0036】
図2に示すように、ボビンストッカ4の背面側には、ブロアボックス5が配置されている。ブロアボックス5内には、図略の負圧源が配置されている。図3に示すように、機台本体2には、左右方向に沿って負圧ダクト19,20,21が配設されている。この負圧ダクト19,20,21は前記負圧源に接続されており、当該負圧ダクト19,20,21の内部は、前記負圧源によって負圧に保たれている。この負圧ダクト19,20,21を介して、精紡機1の各部に負圧を供給することができる。
【0037】
各紡績ユニット6の給糸部9は、機台本体の上部に配置されている。給糸部9は、ドラフト装置10と、紡績部11と、を有している。ドラフト装置10は、機台本体2の上端近傍に設けられている。ドラフト装置10は、図略のスライバケースからスライバガイドを介して供給されるスライバ(繊維束の原料)22を、所定の幅になるまでドラフト(繊維を引き伸ばすこと)する。
【0038】
ドラフト装置10は、複数のドラフトローラを備えている。各ドラフトローラは、2つ1組でドラフトローラ対を構成している。ドラフト装置10は、上流側から順に、バックローラ対23,27、サードローラ対24,28、ミドルローラ対25,29、及びフロントローラ対26,30の4つのドラフトローラ対を有する4線式のドラフト装置として構成されている。各ドラフトローラ対において、前後方向で正面側に位置するドラフトローラをトップローラ、背面側に位置するドラフトローラをボトムローラと称する。トップローラは、図3に示すように上流側から順に、バックトップローラ23、サードトップローラ24、ゴム製のエプロンベルトを装架したミドルトップローラ25、及びフロントトップローラ26となっている。一方、ボトムローラは、上流側から順に、バックボトムローラ27、サードボトムローラ28、ゴム製のエプロンベルトを装架したミドルボトムローラ29、及びフロントボトムローラ30となっている。
【0039】
各紡績ユニット6は、バックボトムローラ27及びサードボトムローラ28を回転駆動するための図略の電動モータを備えている。これにより、バックボトムローラ27及びサードボトムローラ28を紡績ユニット6ごとに回転駆動することができる。また、ミドルボトムローラ29及びフロントボトムローラ30は、前述のドライブエンドボックス3内に配置されたドラフト駆動部31によって駆動される。
【0040】
このドラフト駆動部31は、精紡機1が備える複数の紡績ユニット6のミドルボトムローラ29とフロントボトムローラ30を共通して駆動するように構成されている。具体的には、精紡機1は、図1及び図2に示すように、左右方向に沿って配設された第1ラインシャフト36及び第2ラインシャフト37を備えている。第1ラインシャフト36には、各紡績ユニット6のフロントボトムローラ30が同軸で固定されている。第2ラインシャフト37には、各紡績ユニット6のミドルボトムローラ29が同軸で固定されている。この第1ラインシャフト36及び第2ラインシャフト37の端部は、ドライブエンドボックス3内のドラフト駆動部31に接続されている。ドラフト駆動部31は、第1ラインシャフト36及び第2ラインシャフト37を所定の回転速度で回転駆動するように構成されている。以上の構成で、全紡績ユニット6でフロントボトムローラ30及びミドルボトムローラ29が一斉に駆動される。
【0041】
一方、各トップローラ23,24,25,26は、図略の軸受等を介して、その軸線を中心に回転自在に支持されている。また、各トップローラ23,24,25,26は、図略の付勢部材によって、これに対向するボトムローラ27,28,29,30に向けてそれぞれ付勢されている。
【0042】
以上の構成で、ドラフト装置10は、回転するトップローラ23,24,25,26とボトムローラ27,28,29,30の間でスライバ22を挟み込み、当該スライバ22を下流側に向けて搬送することができる。ドラフト装置10は、下流側のドラフトローラ対ほど回転速度が速くなるように構成されている。従って、繊維束14(又はスライバ22)は、ドラフトローラ対とドラフトローラ対との間で搬送される間に引き伸ばされ(ドラフトされ)ていく。各ボトムローラ27,28,29,30の回転速度を適宜設定することにより、繊維束14がドラフトされる程度を変更できるので、ドラフト装置10は、所望の繊維幅となるように繊維束14をドラフトすることができる。なお、各ローラの回転速度は、繊維の種類や、紡績する紡績糸15の太さなどの紡績条件(巻取条件)応じて適宜変更される。
【0043】
フロントローラ対26,30のすぐ下流側には、紡績部11が配置されている。ドラフト装置10でドラフトされた繊維束14は、紡績部11に供給される。この紡績部11は、旋回気流を利用して繊維束14に撚りを与える空気紡績装置41を備えている。空気紡績装置41は、ドラフト装置10から供給された繊維束14に撚りを加えて、紡績糸15を生成する。
【0044】
空気紡績装置41は、図6に示すように、ノズルブロック43と、中空ガイド軸体44と、繊維案内部45と、を主に備えている。
【0045】
ノズルブロック43と中空ガイド軸体44の間には、紡績室46が形成されている。ノズルブロック43には、紡績室46内に空気を噴出する空気噴出ノズル47が形成されている。繊維案内部45には、紡績室46内に繊維束14を導入する導入口48が形成されている。空気噴出ノズル47は、紡績室46内に空気を噴出して旋回気流を発生させることができるように構成されている。この構成で、ドラフト装置10から供給された繊維束14は、導入口48を有する繊維案内部45によって紡績室46内に案内される。紡績室46内において、繊維束14は、旋回気流によって中空ガイド軸体44の周囲を振り回されることにより、撚りが加えられて紡績糸15となる。撚りが加えられた紡績糸15は、中空ガイド軸体44の軸中心に形成された糸通路49を通って、下流側の糸出口(図略)から空気紡績装置41の外部に送出される。
【0046】
なお、前記導入口48には、その先端を紡績室46内向けて配置された針状のガイドニードル50が配置されている。導入口48から導入される繊維束14は、このガイドニードル50に巻きかかるようにして紡績室46内に案内される。これにより、紡績室46内に導入される繊維束14の状態を安定させることができる。また、このようにガイドニードル50に巻きかかるように繊維束14が案内されるので、紡績室46内で繊維に撚りが加えられても、繊維案内部45よりも上流側に撚りが伝播することが防止される。これにより、紡績部11による加撚がドラフト装置10に影響を与えることを防止できる。ただし、ガイドニードル50を省略して、繊維案内部45の下流側端部により、ガイドニードル50の機能を果たしても良い。
【0047】
なお、上記の空気紡績装置41で旋回気流を発生させるための圧縮空気(エア)は、ドライブエンドボックス3内に配置された前述のエア供給部34から供給されている。前述のように、エア供給部34は、圧縮空気の空気圧を調整するレギュレータ35を備えている。レギュレータ35を予め適切に調整しておくことにより、空気紡績装置41に対して適切に圧縮空気を供給することができるので、当該空気紡績装置41において前記旋回気流を適切に発生させることができる。これにより、紡績部11による紡績を適切に行うことができる。
【0048】
紡績部11の下流側であって機台本体2の下部には、巻取部13が配置されている。巻取部13は、クレードルアーム58と、巻取ドラム59と、を備えている。クレードルアーム58は、支軸57まわりに揺動可能に構成されている。このクレードルアーム58は、紡績糸15を巻回するための巻取ボビン16を回転可能に支持することができる。巻取ドラム59は、前記巻取ボビン16やそれに紡績糸15を巻回して形成されるパッケージ17の外周面に接触して駆動できるように構成されている。巻取ドラム59を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム59に接触する巻取ボビン16(又はパッケージ17)を回転させ、紡績糸15を巻取ボビン16に巻き取ることができる。
【0049】
図1に示すように、精紡機1は、各紡績ユニット6の巻取部13によって巻き取られる紡績糸15の綾振り(トラバース)を行うためのトラバース機構60を、機台本体2の下部に備えている。このトラバース機構60は、複数のトラバースガイド61と、トラバースロッド62と、を有している。
【0050】
各トラバースガイド61は、各紡績ユニット6の巻取部13の近傍にそれぞれ配置されるとともに、当該巻取部13で巻き取られる紡績糸15に係合するように構成されている。前記トラバースロッド62は、長手方向が左右方向に沿うように配設され、精紡機1が備える全紡績ユニット6にわたって配置されている。各トラバースガイド61は、トラバースロッド62に固定されている。トラバースロッド62の一側の端部は、ドライブエンドボックス3内の前記トラバース駆動部32に接続されている。トラバース駆動部32は、トラバースロッド62を左右に往復駆動するように構成されている。これにより、全紡績ユニット6で一斉にトラバースガイド61を往復駆動させることができる。紡績糸15を係合させた状態のトラバースガイド61を往復動させつつ、巻取部13によって巻取ボビン16を回転させることで、紡績糸15を綾振りしつつ巻き取り、適切な形状のパッケージ17を形成することができる。
【0051】
紡績部11と巻取部13との間には、糸貯留装置12が設けられている。糸貯留装置12は、図3に示すように、糸貯留ローラ63と、当該糸貯留ローラ63を回転駆動する電動モータ64と、を備えている。
【0052】
糸貯留ローラ63は、その外周面に一定量の紡績糸15を巻き付けて一時的に貯留することができるように構成されている。糸貯留ローラ63の外周面に紡績糸15を巻き付けた状態で当該糸貯留ローラ63を所定の回転速度で回転させることにより、紡績部11の空気紡績装置41から紡績糸15を所定の速度で引き出して下流側に搬送することができる。また、糸貯留ローラ63の外周に紡績糸15を一時的に貯留するように構成されているので、糸貯留装置12を一種のバッファとして機能させることができる。これにより、紡績部11における紡績速度と、巻取部13における巻取速度と、が何らかの理由により一致しない場合の不具合(例えば紡績糸15の弛みなど)を解消することができる。
【0053】
紡績部11と糸貯留装置12との間の位置には、糸品質測定器65が設けられている。紡績部11で紡出された紡績糸15は、糸貯留装置12で巻き取られる前に前記糸品質測定器65を通過する。糸品質測定器65は、走行する紡績糸15の太さを、図略の静電容量式センサによって監視するように構成されている。糸品質測定器65は、紡績糸15の糸欠点(紡績糸15の太さなどに異常がある箇所)を検出した場合に、糸欠点検出信号を図示しないユニットコントローラへ送信するように構成されている。なお、糸品質測定器65は静電容量式のセンサに限らず、例えば光透過式のセンサで紡績糸15の太さを監視する構成であっても良い。なお、糸品質測定器65は、紡績糸15に含まれる異物を糸欠点として検出するように構成されていても良い。
【0054】
糸品質測定器65の近傍には、紡績糸15の糸欠点が検出された際に直ちに紡績糸15を切断するためのカッタ(図略)が配置されている。なお、紡績ユニット6は、このカッタの代わりに、紡績部11への空気の供給を停止して、紡績糸15の生成を中断することにより当該紡績糸15を切断しても良い。
【0055】
また図1等に示すように、精紡機1は、糸継台車66と玉揚台車(作業台車)67を備えている。
【0056】
機台本体2には、左右方向に沿って糸継台車走行レール68が敷設されている。この糸継台車走行レール68は、紡績糸15の糸道よりも背面側に位置している。前記糸継台車66は、糸継台車走行レール68に沿って走行することができるように構成されている。
【0057】
糸継台車66は、図1及び図3に示すように、糸継装置69と、サクションパイプ70と、サクションマウス71と、を備えている。ある紡績ユニット6において糸切れや糸切断などにより紡績部11と巻取部13の間の紡績糸15が分断状態になると、糸継台車66は、前記糸継台車走行レール68上を前記紡績ユニット6まで走行し、停止する。前記サクションパイプ70は、軸を中心に上下方向に回動しながら、紡績部11から送出される糸端を吸い込みつつ捕捉して糸継装置69へ案内する。サクションマウス71は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取部13に支持されたパッケージ17から糸端を吸引しつつ捕捉して糸継装置69へ案内する。なお、サクションパイプ70及びサクションマウス71が吸引流を発生させるための負圧は、ブロアボックス5内の前記負圧源によって供給される。糸継装置69は、案内された糸端同士を、圧縮空気によって発生させた旋回気流によって撚り合わせることにより糸継ぎを行う。これにより、紡績部11と巻取部13との間の紡績糸15を連続状態とし、パッケージ17への紡績糸15の巻き取りを再開することができる。なお、この糸継装置69が旋回気流を発生させるための圧縮空気は、前記エア供給部34から供給されている。
【0058】
前述のように、糸継台車走行レール68は糸道よりも背面側に敷設されているので、糸継台車66は糸道よりも背面側を走行し、当該背面側の位置から糸継作業を行う。このように、糸継台車66は、糸道よりも背面側(即ち、機台本体2の奥まった位置)にあるので、メンテナンスを行いにくい。そこで本実施形態の精紡機1においては、糸継台車66を、機台本体2の背面から抜き出すことができるように構成されている。より具体的には、図3に示すように、負圧を供給するための負圧ダクト19,20,21を、糸継台車66よりも高い位置、又は低い位置に配設することにより、糸継台車66の背面側に負圧ダクトが配置されてない構成としている。そして、機台本体2の背面側の一部には、糸継台車66が糸継作業を行う空間と連通する開放部110が形成されている。これにより、糸継台車66を、開放部110を介して機台本体2に着脱することができる。従って、糸継台車66を機台本体2の背面側から抜き出してメンテナンスを行うことができる。
【0059】
なお、糸継台車66にメンテナンスを行う場合、当該糸継台車66の背面側にアクセスすることができれば、十分なメンテナンスを行うことができる場合がある。このような場合は、糸継台車66を機台本体2に取り付けたままで、開放部110を介してメンテナンス作業を行うことができる。従って、開放部110の開口面積は、糸継台車66を抜き出すことができる程度に大きく形成されていなくても良く、作業者がメンテナンスを行うのに十分な程度の開口面積が確保されていれば良い。
【0060】
また機台本体2の正面側には、左右方向に沿って玉揚台車走行レール39が敷設されている。前記玉揚台車67は、玉揚台車走行レール39に沿って走行することができるように構成されている。
【0061】
玉揚台車67は、満巻になったパッケージ17の玉揚作業を行うように構成されている。図1及び図3に示すように、玉揚台車67は、空ボビン収容部38と、クレードル操作アーム72と、糸引き出しアーム73と、空ボビン供給アーム74と、を備えている。空ボビン収容部38は、複数の空の巻取ボビン16を収容することができるように構成されている。糸引き出しアーム73は、図略のエアシリンダ機構により伸縮可能に構成されている。当該糸引き出しアーム73の先端には、吸引空気流によって紡績糸15を吸引捕捉する図略の捕捉部が設けられている。
【0062】
ある紡績ユニット6で巻き取っているパッケージ17が満巻(規定量の紡績糸15を巻き取った状態)になると、玉揚台車67は、玉揚台車走行レール39上を前記紡績ユニット6まで走行して停止する。次に、クレードル操作アーム72は、紡績ユニット6のクレードルアーム58を操作することにより、前記満巻のパッケージ17をクレードルアーム58から取り外す。取り外された満巻パッケージ17は、紡績ユニット6と、玉揚台車走行レール39と、の間に敷設されパッケージコンベア75の上に落下して受け止められる。なお、玉揚台車67に搬送機構を設け、当該搬送機構によって満巻パッケージ17を巻取部13からパッケージコンベア75へと搬送ように構成しても良い。図2に示すように、パッケージコンベア75は左右方向に沿って配設されている。このパッケージコンベア75は、満巻のパッケージ17を前記左右方向に沿って搬送するように構成されている。パッケージコンベア75による満巻パッケージ17の搬送方向の端部には、図略のパッケージ回収部が配置されている。以上の構成により、満巻のパッケージ17を自動的に回収することができる。
【0063】
続いて玉揚台車67は、空ボビン収容部38にストックされている空の巻取ボビン16を空ボビン供給アーム74によって把持するとともに、当該空ボビン供給アーム74を回動させて、前記巻取ボビン16を紡績ユニット6のクレードルアーム58に装着する。これと前後して、玉揚台車67の糸引き出しアーム73は、紡績部11で紡出された紡績糸15を吸引捕捉するとともに、当該捕捉した紡績糸15を、クレードルアーム58に装着された前記空の巻取ボビン16の近傍まで案内する。この状態で、公知のバンチ巻きなどの方法により、紡績部11から引き出された紡績糸15を巻取ボビン16に固定する。この状態で、巻取部13による巻取ボビン16の回転を開始することにより、新しい巻取ボビン16に対する紡績糸15の巻き取りを開始することができる。
【0064】
なお、玉揚台車67の空ボビン収容部38にストックできる空の巻取ボビン16の数は限られているので、適宜のタイミングで巻取ボビン16を補充する必要がある。そこで玉揚台車67は、適宜のタイミングで、前記ボビンストッカ4から巻取ボビン16の供給を受けるように構成されている。即ち、図2に示すように、前記玉揚台車走行レール39は、ボビン供給位置77(図1及び図2に二点鎖線で示す位置)まで伸びて敷設されている。図1及び図2に示すように、ボビン供給位置77は、機台本体2の正面側に位置しており、ボビンストッカ4に隣接して配置されている。玉揚台車67は、必要に応じて、ボビン供給位置77まで走行して停止する。ボビン供給位置77に停止した玉揚台車67に対して、ボビンストッカ4から巻取ボビン16が供給される。
【0065】
続いて、ドライブエンドボックス3の構成についてより詳しく説明する。
【0066】
図4に示すように、ドライブエンドボックス3は、正面側、側面側、(及び図示は省略しているが背面側も)がパネル78で覆われた構成となっている。このパネル78は、ドライブエンドボックス3のフレーム79(図5参照)に対して着脱可能に取り付けられている。
【0067】
図5に示すように、ドライブエンドボックス3の前記フレーム(収容フレーム)79は、細長いフレーム材料を組み合わせて構成されている。フレーム材料は特に限定されないが、例えば溝型鋼などの形鋼や鋼管などを利用することができる他、必要な強度を有するものであれば板金などであっても良い。前記ドラフト駆動部31、前記トラバース駆動部32、前記エア供給部34は、このフレーム79の内側に配置されている。また、フレーム79は、上下方向の中間部分に、略水平に配置された補強フレーム部材80,81,82を備えている。
【0068】
トラバース駆動部32は、補強フレーム部材80,81,82よりも下方に配置されている。トラバース駆動部32は、図7に示すように、前記トラバースロッド62を左右方向で往復動させるためのカム機構が内蔵されたカムボックス90と、当該カムボックス90の駆動源であるトラバース駆動モータ91とを備えている。この構成で、トラバース駆動モータ91を所定の回転速度で回転させることにより、トラバースロッド62を所定の速度で左右往復駆動させることができる。
【0069】
エア供給部34は、補強フレーム部材80,81,82よりも下方に配置されており、フレーム79に取り付けられている。エア供給部34は、精紡機1の各部に圧縮空気を適切に供給するためのエアー機器を備えている。具体的には、エア供給部34は、圧縮空気供給パイプ33を介して供給される圧縮空気の水分を除去するためのフィルタ83を備えている。また前述のように、エア供給部34は、圧縮空気の空気圧を適切に調整するためのレギュレータ35を備えている。
【0070】
ドラフト駆動部31は、補強フレーム部材80,81,82よりも上方に配置されており、フレーム79に取り付けられている。図5に示すように、ドラフト駆動部31は、前記第1ラインシャフト36を駆動するための第1モータ84と、前記第2ラインシャフト37を駆動するための第2モータ85と、を備えている。また、ドラフト駆動部31の正面側において、前記操作部18がフレーム79に取り付けられている。
【0071】
なお、ドライブエンドボックス3のフレーム79は、機台本体2とは別体として構成されている。これにより、精紡機1の据付の際には、機台本体2とドライブエンドボックス3を別々に搬入することができる。
【0072】
次に、トラバース駆動部32の構成について説明する。
【0073】
前述のように、トラバース駆動部32は、カムボックス(カム機構収容部)90と、トラバース駆動モータ91を備えている。また、トラバース駆動部32は、カムボックス90及びトラバース駆動モータ91を支持するベース体92を備えている。
【0074】
カムボックス90の内部には、カムドラム94と、当該カムドラム94の回転運動を往復運動に変換するカム機構とが収容されている。図8に示すように、カムドラム94の回転軸95は、カムボックス90によって回転自在に支持されている。図8に示すように、回転軸95の一端はカムボックス90から突出して設けられており、当該突出した回転軸95の端部にはプーリ96が固定されている。このプーリ96には、前記トラバース駆動モータ91による回転駆動力が、図略の伝動ベルト等を介して入力される。この構成により、カムドラム94をトラバース駆動モータ91によって回転駆動することができる。
【0075】
図8に示すように、カムボックス90からは出力軸93が突出するように設けられている。この出力軸93は、その軸線が左右方向に沿って配置されている。また、この出力軸93には、前記トラバースロッド62が連結される。カムボックス90内には、カムドラム94の回転を往復運動に変換し、出力軸93を、その軸線に沿って往復運動させるカム機構が設けられている。この構成により、出力軸93に連結されたトラバースロッド62を左右往復駆動することができるので、トラバース機構60を左右往復駆動し、各紡績ユニット6で紡績糸15の綾振りを行うことができる。
【0076】
続いて、カム機構について詳しく説明する。このカム機構は、カムドラム94の外周に形成された往復螺旋溝97と、往復螺旋溝97に係合するシュー98とから構成されている。このシュー98は、前記出力軸93の端部に固定されている。また、出力軸93は、カムボックス90に対して、その軸線に沿った方向に摺動可能に支持されている。
【0077】
この構成で、カムドラム94を回転駆動することにより、往復螺旋溝97に係合したシュー98は、当該往復螺旋溝97によって案内されるようにして移動する。これにより、シュー98が、出力軸93をその軸線に沿って往復させる。以上のカム機構により、カムドラム94の回転を往復運動に変換して出力軸93を往復運動させることができる。
【0078】
また、カムボックス90の底部は、カム機構に供給するためのオイル99を貯留するオイル溜めとなっている。従って、カムボックス90はオイル貯留部を兼ねていると言うことができる。前記カムドラム94は、その外周の一部がオイル溜めのオイル99に浸かるように配置されている。この構成で、カムドラム94が回転することにより、当該カムドラム94の外周及び往復螺旋溝97にオイルが満遍なく塗布され、カム機構を潤滑に駆動することができる。
【0079】
なお、カムドラム94はトラバース駆動モータ91によって高速で回転駆動されるため、当該カムドラム94の回転の勢いによって出力軸93にオイルが降りかかることになる。出力軸93の一端はカムボックス90の外側に突出しているので、オイルが付いたままの出力軸93が往復駆動されると、当該出力軸93に付着したオイルがカムボックス90の外部に漏れてしまう。
【0080】
そこで本実施形態の精紡機1では、出力軸93に付着したオイルを回収するオイル回収部100が設けられている。このオイル回収部100は、カムボックス90の外側に設けられているとともに、その内部にスクレーパ101を有している。このスクレーパ101は、出力軸93と同軸に配置されたゴム製のリング部材であり、出力軸93の外周に付着したオイルを拭い取るように配置されている。また、カムボックス90の側壁には、当該カムボックス90の内部とオイル回収部100とを連通するオイル戻し孔102が形成されている。スクレーパ101によって出力軸93が拭い取られ回収されたオイルは、オイル戻し孔102を介して、オイル回収部100からカムボックス90内へと戻される。
【0081】
なお、カム機構が備えるシュー98や出力軸93は高速で往復駆動されるため、当該シュー98や出力軸93に付着したオイルはカムボックス90の側壁面に向けて飛び散り易い。このように飛び散ったオイルがオイル戻し孔102に降りかかってしまうと、オイル回収部100のオイルをオイル戻し孔102からスムーズに戻すことができなくなるという問題が発生し得る。
【0082】
そこで本実施形態の精紡機1では、カム機構によって飛び散るオイルがオイル戻し孔102に降りかからないようにするため、当該オイル戻し孔102をカムボックス90の内側から覆うカバー部材103を配置している。本実施形態では、カバー部材103は板状部材であり、少なくとも、オイル戻し孔102の開口部分に対面するように配置されている。ただし、カバー部材103によってオイル戻し孔102を完全に塞いでしまうと、オイル回収部100内のオイルをカムボックス90内に戻すことができないので、カバー部材103とオイル戻し孔102の開口縁部との間には隙間が設けられている。また、オイル戻し孔102からのオイルを、当該オイル戻し孔102の下方にあるオイル溜めに落とすことができるように、カバー部材103の下端部は開放されている。
【0083】
以上の構成で、カム機構によって飛び散るオイルがオイル戻し孔102に降りかかることを防止できるので、オイル回収部100が回収したオイルを、オイル戻し孔102を介してカムボックス90内へとスムーズに戻すことができる。この結果、往復運動する出力軸93からのオイル漏れを確実に防止することができる。
【0084】
また前述のように、上記カムボックス90は、ベース体92に支持されている。トラバース駆動部32は、カムボックス90をベース体92に支持させるための吊り下げ支持部材104を備えている。
【0085】
吊り下げ支持部材104は、出力軸93と平行に配置された棒状部材であり、前記カムボックス90を貫通して設けられている。カムボックス90を貫通した吊り下げ支持部材104の両端は、ベース体92に固定される。また、吊り下げ支持部材104は、カムボックス90の重心よりも上方の位置で、当該カムボックス90を貫通するように構成されている。以上のように、トラバース駆動部32は、カムボックス90を、吊り下げ支持部材104によって吊り下げ支持するように構成されている。
【0086】
図9に示すように、本実施形態では、吊り下げ支持部材104は2本配置されており、当該2本の吊り下げ支持部材104でカムボックス90を支持するように構成されている。これにより、トラバース駆動部32は、カムボックス90を安定して支持することができる。また本実施形態では、吊り下げ支持部材104の長手方向でみたとき(図9)に、カムボックス90の重心90aを通る鉛直線に対して2本の吊り下げ支持部材104が対称になるように配置されている。なお、ここでいうカムボックス90の重心90aとは、カムボックス90そのものに加えて、当該カムボックス90に収容されている構成(カムドラム94、シュー98、出力軸93など)を含んだ重心を言う。このように、カムボックス90の重心90aに対して対称に配置された2本の吊り下げ支持部材104によって前記カムボックス90を吊り下げ支持することにより、当該カムボックス90の振動をベース体92が均一に受けることができる。
【0087】
なお、例えば特許文献2に記載されているように、従来の精紡機では、糸継台車(作業台車)のメンテナンスを行うために、当該作業台車を機台本体の側方から抜き出すように構成されていた。従って、本実施形態のように機台の側方端部にドライブエンドボックス3を設ける構成を特許文献2の従来の精紡機に適用した場合、糸継台車66は、ドライブエンドボックス3内を通過させるようにして抜き出す必要がある。従って、当該ドライブエンドボックス3内に配置されるトラバース駆動部32は、糸継台車66を避けるように形成されなければならない。このため従来の精紡機において、カムボックス90は、例えば図10に示すように、糸継台車66との干渉を避けた形状に形成されていた。このため、図10に示すように、カムボックス90の重心90aに対して2本の吊り下げ支持部材104を対称に配置することが困難であった。
【0088】
この点、本実施形態の精紡機1では前述のように、糸継台車66は、機台本体2の背面側から抜き出してメンテナンスを行えるように構成している。従って、本実施形態の構成によれば、糸継台車66を機台本体2の側方から抜き出す必要がない。即ち、本実施形態の精紡機1は、糸継台車66を避けてカムボックス90を形成しなければならないという制限が無い。このため、本実施形態の精紡機1では、上記のように、カムボックス90の重心90aに対して2本の吊り下げ支持部材104を対称に配置することが可能である。
【0089】
前記ベース体92の下部には、振動逃がし部105が設けられている。この振動逃がし部105は、具体的には図9に示すように、ベース体92の下部に固定された固定用プレート106と、当該固定用プレート106に形成された挿通孔(図略)を介して地面109(精紡機1の設置面)に打ち込まれるアンカーボルト107とから構成されている。アンカーボルト107を地面109に打ち込むことにより、ベース体92を地面109に固定することができる。これにより、トラバース駆動部32がトラバース機構60を往復駆動する際の振動によって当該トラバース駆動部32が移動しないように地面109に対して固定しておくことができる。
【0090】
また図9に示すように、振動逃がし部105は、トラバース駆動部32の正面側と背面側に配置されている。このように、トラバース駆動部32の前後方向の両側を地面109に固定することで、トラバース駆動部32を地面109に対して確実に固定することができる。
【0091】
本実施形態の精紡機1では、給糸部9は機台本体2の上部に配置されており、給糸部9から供給される紡績糸15を巻き取るための巻取部13及びトラバース機構60は、機台本体2の下部に配置されている。このため、トラバース機構60の駆動源であるトラバース駆動部32も、ドライブエンドボックス3内の下部に配置されている。即ち、本実施形態では、トラバース駆動部32が地面(設置面)109に近い位置に配置されているので、当該トラバース駆動部32を、アンカーボルト107によって地面109に対してしっかりと固定することができる。
【0092】
本実施形態において、トラバース駆動部32は、ドライブエンドボックス3のフレーム79内に配置されていながら、当該フレーム79には連結されていない。即ち、トラバース駆動部32は、フレーム79とは独立して設けられている。また、上記の振動逃がし部105もフレーム79とは独立して設けられている。
【0093】
以上の構成により、トラバース駆動部32で発生した振動は、ドライブエンドボックス3のフレーム79に伝わることなく、振動逃がし部105を介して地面109へと逃がされる。このように、トラバース駆動部32で発生した振動を地面109に逃がすことにより、フレーム79に取り付けられている他の構成(例えば操作部18)や、機台本体2の紡績ユニット6などに前記振動が伝わることを防止できる。これにより、精紡機1全体の耐久性を向上させることができる。
【0094】
ところで図2に示すように、本実施形態の精紡機1において、前記パッケージコンベア75は少なくともドライブエンドボックス3の正面側まで伸びて形成されている。このため、ドライブエンドボックス3は、パッケージコンベア75に干渉することを避けるため、当該パッケージコンベア75よりは背面側に配置する必要がある。一方で、トラバース駆動部32にはトラバース機構60を駆動するためのトラバースロッド62が連結されなければならないので、当該トラバース駆動部32は、トラバース機構60の側方に配置せざるを得ない。
【0095】
このように、ドライブエンドボックス3の前後方向での配置に制限がある一方で、トラバース駆動部32の配置にも制限がある。このため、本実施形態の精紡機1においては、ドライブエンドボックス3のフレーム79の内部において、トラバース駆動部32を正面側のぎりぎりの位置に寄せて配置しなければならないという事情がある。しかし、図5に示すように、フレーム79の正面側の下部には、下部フレーム部材86が、左右方向に沿って配設されている。従って、トラバース駆動部32をフレーム79内の正面側ぎりぎりの位置に寄せようとすると、この下部フレーム部材86が邪魔になってしまう。一方で、下部フレーム部材86はフレーム79の剛性を確保するために必要であるから、これを省略することはできない。
【0096】
そこで本実施形態の精紡機1においては、図7及び図9に示すように、トラバース駆動部32のベース体92の正面側の下部に、背面側に向けて凹むような切り欠き部108を形成している。この切り欠き部108は、下部フレーム部材86を避けることができるように形成されている。これにより、トラバース駆動部32を、下部フレーム部材86を避けつつ、フレーム79内の正面側ぎりぎりの位置まで寄せて配置することができる。
【0097】
次に、本実施形態の精紡機1の設置方法(据え付け方法)について説明する。
【0098】
前述のように、本実施形態の精紡機1において、ドライブエンドボックス3と機台本体2は別体として構成されている。従って、精紡機1を据え付ける際には、ドライブエンドボックス3と機台本体2とは別々に搬入することができる。
【0099】
精紡機1を据え付ける際には、まず機台本体2を搬入し、当該機台本体2を適宜の位置に据え付ける。
【0100】
続いて、機台本体2の側方の所定の位置において、トラバース駆動部32のアンカーボルト107を打ち込むための穴を、地面109に形成する。このように予め地面109に穴を形成しておくことにより、トラバース駆動部32をアンカーボルト107で地面109に固定する作業を、スムーズに行うことができる。
【0101】
なお、トラバース駆動部32の出力軸93にはトラバースロッド62を連結する必要がある。このため、トラバース駆動部32を地面109に固定する際には、前記出力軸93の軸線とトラバースロッド62の軸線が一致していなければならない。従って、アンカーボルト107を地面109に打ち込むための穴は、正確に位置決めされた位置に形成する必要がある。
【0102】
そこで、本実施形態の精紡機1の据え付け時には、図11に示すような位置決め治具111を利用して、アンカーボルト107を打ち込むための穴を地面109に形成する。この位置決め治具111は、機台本体2の側部に係合する係合部112と、テンプレート部113とを有している。テンプレート部113には、アンカーボルト107の穴を形成すべき位置に、予めテンプレート孔114が形成されている。この位置決め治具111の使用方法は、図11に示すように、既に設置されている機台本体2の側部に係合部112を係合させた状態で、テンプレート孔114の位置において地面109にアンカーボルト107用の穴を形成するというものである。このように位置決め治具111を利用することで、機台本体2に対して適切な位置に、アンカーボルト107用の穴を地面109に形成することができる。
【0103】
アンカーボルト107用の穴を地面109に形成すると、続いて、機台本体2の側方にドライブエンドボックス3を設置する。なお前述のように、本実施形態の精紡機1において、トラバース駆動部32は、ドライブエンドボックス3のフレーム79とは独立している。しかし、トラバース駆動部32とドライブエンドボックス3を別々に搬入しなければならないようでは二度手間である。そこで、ドライブエンドボックス3を搬入する際には、当該ドライブエンドボックス3のフレーム79に対して、トラバース駆動部32を、図5に二点鎖線で示すような搬入用ブラケット115で固定しておくと好適である。これによれば、トラバース駆動部32をドライブエンドボックス3と一体的に搬入することができるので、搬入時の手間を省くことができる。
【0104】
ドライブエンドボックス3を機台本体2の側方に設置する作業が終了すると、前記搬入用ブラケット115を取り外し、ドライブエンドボックス3のフレーム79とトラバース駆動部32との連結を解除する。これにより、トラバース駆動部32はフレーム79から独立した状態となる。続いて、トラバース駆動部32の固定用プレート106の前記挿通孔(図略)を介して、アンカーボルト107を地面109に打ち込む。これにより、振動逃がし部105が形成され、トラバース駆動部32が地面109に固定される。アンカーボルト107を地面109に打ち込むための穴は地面109に予め形成されているので、トラバース駆動部32を地面109に固定する作業をスムーズに行うことができる。
【0105】
なお前述のように、トラバース駆動部32は、ドライブエンドボックス3のフレーム79内において、正面側のぎりぎりの位置に寄せて配置されている。このため、トラバース駆動部32の正面側の振動逃がし部105を形成する際、下部フレーム部材86が邪魔になってアンカーボルト107を地面109に打ち込みにくい。
【0106】
そこで本実施形態の精紡機1では、ドライブエンドボックス3のフレーム79本体に対して、下部フレーム部材86を着脱可能に構成している。即ち、トラバース駆動部32を据え付ける際には、下部フレーム部材86を取り外しておくことにより、正面側の振動逃がし部105を形成する際(アンカーボルト107を地面109に打ち込む際)に下部フレーム部材86が邪魔になることがない。従って、トラバース駆動部32を据え付ける作業をスムーズに行うことができる。上記アンカーボルト107を地面109に打ち込む作業が終了した後は、下部フレーム部材86を、フレーム79本体に取り付ける。これにより、ドライブエンドボックス3のフレーム79の剛性を確保することができる。
【0107】
以上で説明したように、本実施形態の精紡機1は、トラバース機構60と、トラバース駆動部32と、振動逃がし部105と、フレーム79と、を備えている。トラバース機構60は、複数の紡績ユニット6にわたって設けられ、それぞれの紡績ユニット6が巻き取る紡績糸15の綾振りを共通して行う。トラバース駆動部32は、トラバース機構60を往復駆動する。振動逃がし部105は、トラバース駆動部32がトラバース機構60を駆動することにより発生する振動を逃がす。フレーム79は、トラバース駆動部32を収容する。トラバース駆動部32及び振動逃がし部105は、フレーム79とは独立して設けられている。
【0108】
このように、トラバース駆動部32をフレーム79とは独立して設け、更に、トラバース駆動部32の振動をフレーム79以外に逃がす振動逃がし部105を設けたことにより、トラバース駆動部32の振動がフレーム79に伝わることを防止できる。これにより、トラバース駆動部32の振動によってフレーム79が破損することを防止できる結果、精紡機1の耐久性が向上する。
【0109】
本実施形態の精紡機1は、複数の紡績ユニット6に共通の操作部18と、複数の紡績ユニット6に対してエアを供給するエア供給部34を備えている。フレーム79には、操作部18とエア供給部34が取り付けられていてる。
【0110】
即ち、トラバース駆動部32をフレーム79とは独立して設けたことにより、当該トラバース駆動部32の振動がフレーム79に伝わることを防止できるので、当該フレーム79に取り付けられる操作部18やエア供給部34に対して前記振動が伝わることもない。従って、操作部18やエア供給部34が、トラバース駆動部32の振動によって破損してしまうことを防止できる。
【0111】
本実施形態の精紡機1において、振動逃がし部105は、精紡機1の設置面に対して固定される。
【0112】
このように振動逃がし部105を設置面に固定することで、トラバース駆動部32の振動を設置面に逃がすことができる。しかも、振動逃がし部105が設置面に固定される結果、トラバース駆動部32を設置面に対して確実に固定できる。これにより、トラバース機構60による糸の綾振りが安定し、高品質なパッケージ17を形成することができる。
【0113】
本実施形態の精紡機1において、フレーム79は、当該フレーム79の下部の一部を構成する下部フレーム部材86を備える。前記下部フレーム部材86は、フレーム79の本体に対して着脱可能である。
【0114】
このように下部フレーム部材86を着脱可能に設けたことにより、振動逃がし部105を設置面に固定する際には下部フレーム部材86を取り外して作業を行えるので、当該固定作業を行い易くなる。また、振動逃がし部105の固定後は下部フレーム部材86をフレーム79本体に取り付けることにより、フレーム79の剛性を高めることができる。
【0115】
本実施形態の精紡機1は以下のように構成されている。即ち、紡績ユニット6は、紡績糸15を供給する給糸部9と、トラバース機構60によって綾振りされる紡績糸15を、パッケージ17へと巻き取る巻取部13と、を備える。給糸部9は機台本体2の上部に配置され、トラバース機構60及び巻取部13は機台本体の下部に配置される。
【0116】
このようにトラバース機構60が機台本体2の下部に配置されるレイアウトの場合、当該トラバース機構60の駆動源であるトラバース駆動部32を低い位置に配置することができる。従って、当該トラバース駆動部32を設置面に対してしっかりと固定することができる。
【0117】
本実施形態の精紡機1は、以下のように構成されている。即ち、トラバース機構60は、各紡績ユニット6が巻き取る紡績糸15に係合する複数のトラバースガイド61と、前記複数のトラバースガイド61が取り付けられるトラバースロッド62と、を備える。トラバース駆動部32は、カムドラム94と、カムドラム94を回転駆動するモータ91と、カムドラム94の回転運動を往復運動に変換して出力軸93から出力するカム機構と、を備える。出力軸93とトラバースロッド62は、接続されている。
【0118】
上記実施形態の構成によれば、このようなトラバース方式の精紡機1において、精紡機1全体に振動が伝わることを防止し、安定してパッケージ17を形成することができる。
【0119】
本実施形態の精紡機1は、以下のように構成されている。即ち、トラバース駆動部32は、オイル貯留部として機能するカムボックス90と、オイル回収部100と、オイル戻し孔102と、カバー部材103と、を備える。カムボックス90は、前記カム機構に供給されるオイルを貯留する。オイル回収部100は、出力軸93に付着したオイルを回収する。オイル戻し孔102は、オイル回収部100が回収したオイルをカムボックス90に戻す。カバー部材103は、オイル戻し孔102をカバーし、前記カム機構によって飛散するオイルがオイル戻し孔102に振りかかることを防止する。
【0120】
このように、オイル回収部100を設けることにより、トラバース駆動部32の出力軸93からのオイル漏れを削減することができる。しかも、カバー部材を設けたことにより、オイル戻し孔102にオイルが振りかかることを防止できるので、当該オイル戻し孔102からのオイルをスムーズにカムボックス90へと戻すことができる。
【0121】
本実施形態の精紡機1は以下のように構成されている。即ち、トラバース駆動部32は、ベース体92と、カムドラム94及びカム機構を収容したカムボックス90と、カムボックス90をベース体92から吊り下げ支持する2つの吊り下げ支持部材104とを備える。2つの吊り下げ支持部材104は、カムボックス90の重心90aに対して対称となるように前記ベース体92に取り付けられている。
【0122】
このようにカムボックス90を支持することで、ベース体92は、カムボックス90からの振動を均一に受けることができる。
【0123】
上記の精紡機1は、以下のように構成されている。即ち、前記給糸部9は、繊維束14をドラフトするドラフト装置10と、ドラフト装置10でドラフトされた繊維束14を空気流で撚って紡績糸15を生成する空気紡績装置41と、を有する。給糸部9から供給される紡績糸15が、トラバース機構60で綾振りされながら紡績ユニット6によってパッケージ17に巻き取られる。
【0124】
即ち、空気紡績装置41は高速で紡績を行うことが可能であるため、トラバース機構60のトラバース速度も高速化になり、トラバース駆動部32で振動が発生し易い状態となる。従って、このような空気紡績装置41を備えた精紡機1において、本願発明の構成を採用することにより、トラバース駆動部32の振動が周囲の機器に伝わることを防止するという振動逃がし部105の効果を特に好適に発揮することができる。
【0125】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0126】
上記実施形態では、糸貯留装置12の糸貯留ローラ63を回転させることにより、紡績部11から紡績糸15を引き出す構成とした。これに代えて、例えば特開2005−220484号公報に記載されているように、デリベリローラとニップローラとによって紡績糸を挟み込んで回転することにより、紡績装置から紡績糸を引き出す糸送り装置を設けても良い。
【0127】
上記実施形態では、紡績ユニット6と玉揚台車走行レール39との間にパッケージコンベア75を設けた構成としたが、紡績ユニット6、玉揚台車走行レール39、パッケージコンベア75の順で配置されていても良い。もっとも、パッケージコンベア75によって満巻パッケージ17を自動的に回収する構成は省略しても良い。この場合、上記実施形態でパッケージコンベア75が配置されている位置には、満巻パッケージ17を一時的に保管しておくためのパッケージ載置部が形成される。この場合、作業者は、パッケージ載置部に載置されている満巻パッケージ17を手作業で回収する。
【0128】
精紡機1全体の構成をコンパクトに形成するという観点からは、ドライブエンドボックス3の正面側ぎりぎりの位置に寄せてトラバース駆動部32を配置するという上記実施形態のレイアウトが望ましいが、ドライブエンドボックス3内の他の構成のレイアウトに応じて、トラバース駆動部32の位置を適宜変更しても良い。トラバース駆動部32の振動がフレーム79に伝わらないように、トラバース駆動部32を振動逃がし部105によって地面109に固定できれば良い。
【0129】
もっとも、振動逃がし部105によってトラバース駆動部32の振動を逃がす対象は、地面109(設置面)に限らない。例えば、精紡機1が設置された繊維工場の壁面に、トラバース駆動部32の振動を逃がすように構成しても良い。要は、トラバース駆動部32の振動を、フレーム79及び機台本体2に伝わらないように逃がすことができれば良いのである。
【0130】
図1では、巻取部13がコーン形状(テーパ形状)のパッケージ17を形成するように図示しているが、チーズ形状(円筒形状)のパッケージを形成するようにしても良い。
【0131】
紡績部11が備える空気紡績装置41の構成は、上記実施形態のものに限らず、例えば、互いに反対方向に撚りを掛ける一対のエアジェットノズルを備えた方式の空気紡績装置であっても良い。また、紡績部11は、空気紡績装置で紡績を行う構成に限らず、他の形式の紡績装置で紡績を行う構成であっても良い。もっとも、本発明の構成は紡績機に限らず、自動ワインダなどの他の種類の糸巻取機にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 精紡機(糸巻取機)
2 機台本体
3 ドライブエンドボックス
6 紡績ユニット(糸巻取ユニット)
15 紡績糸(糸)
32 トラバース駆動部(駆動部)
60 トラバース機構
61 トラバースガイド
62 トラバースロッド
79 フレーム(収容フレーム)
105 振動逃がし部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を巻き取ってパッケージを形成する複数の糸巻取ユニットを機台の長手方向に沿って並設した糸巻取機であって、
前記複数の糸巻取ユニットにわたって設けられ、それぞれの前記糸巻取ユニットが巻き取る糸の綾振りを共通して行うトラバース機構と、
前記トラバース機構を往復駆動する駆動部と、
前記駆動部が前記トラバース機構を駆動することにより発生する振動を逃がす振動逃がし部と、
前記駆動部を収容する収容フレームと、
を備え、
前記駆動部及び前記振動逃がし部は、前記収容フレームとは独立して設けられることを特徴とする糸巻取機。
【請求項2】
請求項1に記載の糸巻取機であって、
前記複数の糸巻取ユニットに共通の操作部と、
前記複数の糸巻取ユニットに対してエアを供給するエア供給部と、
を更に備え、
前記収容フレームには、前記操作部と前記エア供給部の少なくとも何れか一方が取り付けられていることを特徴とする糸巻取機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の糸巻取機であって、
前記振動逃がし部は、糸巻取機の設置面に対して固定されることを特徴とする糸巻取機。
【請求項4】
請求項3に記載の糸巻取機であって、
前記収容フレームは、当該収容フレームの下部の少なくとも一部を構成する下部フレーム部材を備え、
前記下部フレーム部材は、前記収容フレームの本体に対して着脱可能であることを特徴とする糸巻取機。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の糸巻取機であって、
前記糸巻取ユニットは、
前記糸を供給する給糸部と、
前記トラバース機構によって綾振りされる前記糸を、前記パッケージへと巻き取る巻取部と、
を備え、
前記給糸部は前記機台の上部に配置され、前記トラバース機構及び前記巻取部は前記機台の下部に配置されることを特徴とする糸巻取機。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の糸巻取機であって、
前記トラバース機構は、前記各糸巻取ユニットが巻き取る前記糸に係合する複数のトラバースガイドと、前記複数のトラバースガイドが取り付けられるトラバースロッドと、を備え、
前記駆動部は、
カムドラムと、
前記カムドラムを回転駆動するモータと、
前記カムドラムの回転運動を往復運動に変換して出力軸から出力するカム機構と、
を備え、前記出力軸と前記トラバースロッドが接続されていることを特徴とする糸巻取機。
【請求項7】
請求項6に記載の糸巻取機であって、
前記駆動部は、
前記カム機構に供給されるオイルを貯留するオイル貯留部と、
前記出力軸に付着したオイルを回収するオイル回収部と、
前記オイル回収部が回収したオイルを前記オイル貯留部に戻す戻し孔と、
前記戻し孔をカバーし、前記カム機構によって飛散するオイルが前記戻し孔に振りかかることを防止するカバー部材と、
を更に備えたことを特徴とする糸巻取機。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の糸巻取機であって、
前記駆動部は、
ベース体と
前記カムドラム及び前記カム機構を少なくとも収容したカム機構収容部と、
前記カム機構収容部を前記ベース体から吊り下げ支持する2つの吊り下げ支持部材と、
を備え、
前記2つの吊り下げ支持部材は、前記カム機構収容部の重心に対して対称となるように前記ベース体に取り付けられていることを特徴とする糸巻取機。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載の糸巻取機であって、
前記糸巻取ユニットのそれぞれは、
繊維束をドラフトするドラフト装置と、
前記ドラフト装置でドラフトされた前記繊維束を空気流で撚って紡績糸を生成する空気紡績装置と、
を有する給糸部を備え、
前記給糸部から供給される紡績糸が、前記トラバース機構で綾振りされながら前記糸巻取ユニットのそれぞれによってパッケージに巻き取られることを特徴とする糸巻取機。
【請求項1】
糸を巻き取ってパッケージを形成する複数の糸巻取ユニットを機台の長手方向に沿って並設した糸巻取機であって、
前記複数の糸巻取ユニットにわたって設けられ、それぞれの前記糸巻取ユニットが巻き取る糸の綾振りを共通して行うトラバース機構と、
前記トラバース機構を往復駆動する駆動部と、
前記駆動部が前記トラバース機構を駆動することにより発生する振動を逃がす振動逃がし部と、
前記駆動部を収容する収容フレームと、
を備え、
前記駆動部及び前記振動逃がし部は、前記収容フレームとは独立して設けられることを特徴とする糸巻取機。
【請求項2】
請求項1に記載の糸巻取機であって、
前記複数の糸巻取ユニットに共通の操作部と、
前記複数の糸巻取ユニットに対してエアを供給するエア供給部と、
を更に備え、
前記収容フレームには、前記操作部と前記エア供給部の少なくとも何れか一方が取り付けられていることを特徴とする糸巻取機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の糸巻取機であって、
前記振動逃がし部は、糸巻取機の設置面に対して固定されることを特徴とする糸巻取機。
【請求項4】
請求項3に記載の糸巻取機であって、
前記収容フレームは、当該収容フレームの下部の少なくとも一部を構成する下部フレーム部材を備え、
前記下部フレーム部材は、前記収容フレームの本体に対して着脱可能であることを特徴とする糸巻取機。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の糸巻取機であって、
前記糸巻取ユニットは、
前記糸を供給する給糸部と、
前記トラバース機構によって綾振りされる前記糸を、前記パッケージへと巻き取る巻取部と、
を備え、
前記給糸部は前記機台の上部に配置され、前記トラバース機構及び前記巻取部は前記機台の下部に配置されることを特徴とする糸巻取機。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の糸巻取機であって、
前記トラバース機構は、前記各糸巻取ユニットが巻き取る前記糸に係合する複数のトラバースガイドと、前記複数のトラバースガイドが取り付けられるトラバースロッドと、を備え、
前記駆動部は、
カムドラムと、
前記カムドラムを回転駆動するモータと、
前記カムドラムの回転運動を往復運動に変換して出力軸から出力するカム機構と、
を備え、前記出力軸と前記トラバースロッドが接続されていることを特徴とする糸巻取機。
【請求項7】
請求項6に記載の糸巻取機であって、
前記駆動部は、
前記カム機構に供給されるオイルを貯留するオイル貯留部と、
前記出力軸に付着したオイルを回収するオイル回収部と、
前記オイル回収部が回収したオイルを前記オイル貯留部に戻す戻し孔と、
前記戻し孔をカバーし、前記カム機構によって飛散するオイルが前記戻し孔に振りかかることを防止するカバー部材と、
を更に備えたことを特徴とする糸巻取機。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の糸巻取機であって、
前記駆動部は、
ベース体と
前記カムドラム及び前記カム機構を少なくとも収容したカム機構収容部と、
前記カム機構収容部を前記ベース体から吊り下げ支持する2つの吊り下げ支持部材と、
を備え、
前記2つの吊り下げ支持部材は、前記カム機構収容部の重心に対して対称となるように前記ベース体に取り付けられていることを特徴とする糸巻取機。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載の糸巻取機であって、
前記糸巻取ユニットのそれぞれは、
繊維束をドラフトするドラフト装置と、
前記ドラフト装置でドラフトされた前記繊維束を空気流で撚って紡績糸を生成する空気紡績装置と、
を有する給糸部を備え、
前記給糸部から供給される紡績糸が、前記トラバース機構で綾振りされながら前記糸巻取ユニットのそれぞれによってパッケージに巻き取られることを特徴とする糸巻取機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−67463(P2013−67463A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206224(P2011−206224)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】
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