説明

糸条加熱装置

【課題】糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するヒータの消費電力を低減する。
【解決手段】保温箱13には、ヒータ15をそれぞれ備えたゴデットローラ11及びセパレートローラ12が配置された保温空間21の上方に、壁23により保温空間21と仕切られた連通空間22が設けられている。紡糸機から紡出された糸条Yは、保温箱13の上壁13bのスリット25a、連通空間22、及び、壁23のスリット24aを通って保温空間21に入り、ローラ11、12の間を複数回送られた上で、壁23のスリット24b、連通空間22、及び、上壁13bのスリット25bを通って保温空間21から保温箱13の外に出る。このとき、走行する糸条Yの周囲に生じる随伴流によって、スリット24bを通って保温空間21から流れ出した空気の一部は、連通空間22及びスリット24aを通って保温空間21に戻る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条を加熱する糸条加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、紡糸機から紡出された複数の糸条が、2つのローラ部において加熱されつつ延伸された上でワインダ(巻取機)において巻き取られることが記載されている。より詳細に説明すると、紡糸機から紡出された複数の糸条は、各ローラ部において、ゴデットローラ及びセパレートローラの間に複数回巻回されており、これらのローラの間を複数回送られる間に、ゴデットローラによって加熱される。そして、加熱された糸条は、2つのローラ部をそれぞれ構成する2つのゴデットローラの間で延伸される。
【0003】
また、各ローラ部のゴデットローラ及びセパレートローラは、ボックス(保温箱)の内部空間(保温空間)に収容されており、ゴデットローラのヒータにより発生させた熱が、この内部空間から外に逃げ出しにくいようになっている。また、ボックスの外壁には、2つのスリットが形成されており、糸条は、これらのうち一方のスリット(糸条入口)を通って上記内部空間に入り、他方のスリット(糸条出口)を通って上記内部空間からボックスの外部に出る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−262429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、一般に、糸条が走行すると、糸条の周囲に空気の流れ(随伴流)が生じる。そのため、糸条がスリットを通って上記内部空間に入る際には、ボックス外部の冷たい空気がスリットを通って上記内部空間に流れ込む。また、糸条がスリットを通って上記内部空間から出る際には、上記内部空間内の暖かい空気がスリットを通ってボックス外部に流れ出す。そして、上記内部空間へ冷たい空気の流れ込みや、上記内部空間からの暖かい空気の流れ出しが生じると、上記内部空間の温度が低下するため、糸条を適切な温度に加熱するのに必要なヒータの消費電力が増大する。
【0006】
特に、走行する糸条の本数が多い場合や、糸条の走行速度が速い場合などには、随伴流が大きくなり、上記内部空間に流れ込む冷たい空気の量、及び、上記内部空間から流れ出す暖かい空気の量が多くなるため、上述したような問題は顕著なものとなる。
【0007】
本発明の目的は、糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するためのヒータの消費電力を低減することが可能な糸条加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る糸条加熱装置は、糸条を送る糸条送りローラと、前記糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するヒータと、前記糸条送りローラ及び前記ヒータが収容された保温箱とを備え、前記保温箱は、前記糸条送りローラ及び前記ヒータが配置された保温空間と、前記保温空間の壁に形成された、前記保温空間に糸条を入れるための糸条入口と、前記壁に形成された、前記保温空間から糸条を出すための糸条出口と、前記壁を挟んだ前記保温空間と反対側に配置されているとともに、前記壁により前記保温空間と仕切られた、前記糸条入口と前記糸条出口とを連通させる連通空間とを備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明によると、外部から保温箱に流れ込んだ冷たい空気は、連通空間に流れ込んだ後、その一部のみが糸条入口を通って保温空間に流れ込むこととなるため、保温空間には流れ込みにくい。さらに、糸条出口を通って保温空間から流れ出した暖かい空気は、その一部が連通空間及び糸条入口を通って保温空間に戻るため、保温箱の外部に流れ出しにくい。これにより、随伴流による保温空間の温度低下を抑えることができ、ヒータの消費電力を低減することができる。
【0010】
第2の発明に係る糸条加熱装置は、第1の発明に係る糸条加熱装置において、前記連通空間が、前記糸条入口及び前記糸条出口にそれぞれ対応する2つの糸通路が形成された隔壁によって、複数の領域に仕切られていることを特徴とする。
【0011】
本発明によると、連通空間を複数の領域に仕切る隔壁によって、保温箱の外部から連通空間に流れ込んだ冷たい空気の保温空間への流れ込み、及び、保温空間から連通空間に流れ出した暖かい空気の保温箱外部への流れ出しが妨げられる。したがって、随伴流による保温空間の温度低下をさらに効果的に抑えることができる。
【0012】
第3の発明に係る糸条加熱装置は、第1又は第2の発明に係る糸条加熱装置において、前記連通空間に、空気を前記糸条出口側から前記糸条入口側に向けて案内するガイドが設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明によると、糸条出口を通って保温空間から流れ出した空気が、連通空間においてガイドに案内されて糸条入口に向かって流れて保温空間に戻りやすくなる。したがって、随伴流による保温空間の温度低下を大きく抑えることができる。
【0014】
第4の発明に係る糸条加熱装置は、第1〜第3のいずれかの発明に係る糸条加熱装置において、前記連通空間の高さが、前記糸条入口に近づくほど高くなっていることを特徴とする。
【0015】
本発明によると、連通空間の高さが、糸条入口に近づくほど高くなっているため、糸条出口を通って保温空間から流れ出した暖かい空気が、連通空間において高さの高い糸条入口側に流れて保温空間に戻りやすくなる。したがって、随伴流による保温空間の温度低下を大きく抑えることができる。
【0016】
第5の発明に係る糸条加熱装置は、第1〜第4のいずれかの発明に係る糸条加熱装置において、前記連通空間に、前記糸条出口側から前記糸条入口側に向かって風を送る送風装置が設けられていることを特徴とする。
【0017】
本発明によると、糸条出口を通って保温空間から流れ出した暖かい空気が、連通空間において送風装置により糸条入口側に送られて保温空間に戻りやすくなる。したがって、随伴流による保温空間の温度低下を大きく抑えることができる。
【0018】
第6の発明に係る糸条加熱装置は、第1〜第4のいずれかの発明に係る糸条加熱装置において、前記糸条送りローラが、前記ヒータを備えた加熱ローラであることを特徴とする。
【0019】
本発明によると、糸条送りローラがヒータを備えた加熱ローラである場合でも、糸条出口を通って保温装置から流れ出した暖かい空気の一部が、連通空間及び糸条入口を通って保温空間に戻るので、随伴流による保温空間の温度低下を抑えることができる。
【0020】
第7の発明に係る糸条加熱装置は、第1〜第6のいずれかの発明に係る糸加熱装置において、前記糸条送りローラが、糸条を延伸させるためのローラであることを特徴とする。
【0021】
本発明によると、糸条送りローラが糸条を延伸させるためのローラである場合でも、糸条出口を通って保温空間から流れ出した暖かい空気の一部が、連通空間及び糸条入口を通って保温空間に戻るため、随伴流による保温空間の温度低下を抑えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、外部から保温箱に流れ込んだ冷たい空気は、連通空間に流れ込んだ後、その一部のみが糸条入口を通って保温空間に流れ込むこととなるため、保温空間には流れ込みにくい。さらに、糸条出口を通って保温空間から流れ出した暖かい空気は、その一部が連通空間及び糸条入口を通って保温空間に戻るため、保温箱の外部に流れ出しにくい。これにより、随伴流による保温空間の温度低下を抑えることができ、ヒータの消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る糸製造装置の概略構成図である。
【図2】図1のローラユニットの斜視図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】変形例1の図3相当の図である。
【図6】変形例2の図4相当の図である。
【図7】変形例3の図4相当の図である。
【図8】変形例4の図3相当の図である。
【図9】変形例5の図3相当の図である。
【図10】変形例6の図3相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0025】
図1に示すように糸製造装置1は、紡糸機2、2つのローラユニット3、4(糸条加熱装置)、及び、巻取機5を備えている。紡糸機2は、複数(例えば、24〜32本程度)の糸条Yを図1の紙面垂直方向に配列された状態で下方に紡出する。ローラユニット3、4は、紡糸機2から紡出された複数の糸条Yを、加熱しつつ延伸する。巻取機5は、ローラユニット3、4により延伸された複数の糸条Yを、図示しないボビンに巻き取る。
【0026】
なお、糸製造装置1の上記構成のうち、紡糸機2及び巻取機5の構成は従来と同様であるので、その詳細な説明を省略し、以下では、ローラユニット3、4について詳細に説明する。
【0027】
ローラユニット3は、図1に示すように、紡糸機2の下方に配置されており、図1〜図4に示すように、ゴデットローラ11、セパレートローラ12、及び、これらを収容するための保温箱13を有している。
【0028】
保温箱13は、断熱材からなる略直方体形状の箱であり、その内部に、保温空間21及び連通空間22が形成されている。また、保温箱13には、糸条Yの配列方向に関する一端部に扉13aが設けられており、扉13aが閉じると、保温空間21及び連通空間22が塞がれ、扉13aを開くと、保温空間21及び連通空間22が露出する。
【0029】
保温空間21には、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が配置されている。ゴデットローラ11は、保温箱13の扉13aと反対側に配置された、図示しないフレームによって片持ち支持されたローラであり、紡糸機2から紡出された複数の糸条Yは、ゴデットローラ11により引き取られる。
【0030】
セパレートローラ12は、ゴデットローラ11の上方に配置されており、ゴデットローラ11と同様、保温箱13の扉13aと反対側に配置された、図示しないフレームに片持ち支持されている。ゴデットローラ11により引き取られた複数の糸条Yは、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12に複数回巻回されており、これらのローラ11、12の間を複数回送られた上で、ローラユニット4に送られる。なお、本実施の形態では、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が、本発明に係る糸条送りローラに相当する。
【0031】
また、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12は、それぞれ、内部にヒータ15を備えた加熱ローラであり、糸条Yは、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間を送られる間に加熱される。そして、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が保温空間21内に配置されていることにより、ヒータ15により発生された熱が、保温空間21から外部に逃げ出してしまうのが防止される。ここで、本実施の形態では、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12がヒータ15を内蔵した加熱ローラであるので、装置の構成が簡単になる。
【0032】
連通空間22は、保温箱13の保温空間21の上方に形成された空間であり、保温空間21と連通空間22とは壁23によって仕切られている。壁23には、ローラ11、12を挟んだ両側の部分に、糸条Yの配列方向とほぼ平行に延びた2つのスリット24a、24bが形成されている。
【0033】
スリット24aは、前面から糸条Yを挿入するために連通空間22のほぼ全長にわたって延びており(図4参照)、その扉13a側の端が開口しているとともに、この開口と反対側の端部を形成する部分24a1が糸条Yを保温空間21に入れるための本発明に係る糸条入口となっている。スリット24bは、保温空間21から糸条Yを出すための本発明に係る糸条出口となっており、スリット24aと同様、その扉13a側の端が開口しているが、スリット24aよりも長さが短くなっている。
【0034】
また、連通空間22の天井面を形成する保温箱13の上壁13cには、スリット24a、24bと対向する部分の近傍に、それぞれ、スリット24aとほぼ同じ形状を有するスリット25a、及び、スリット24bとほぼ同じ形状を有するスリット25bが形成されている。スリット25a、25bも、スリット24a、24bと同様、扉13a側の端が開口している(図2、図3参照)。
【0035】
また、スリット24a、24b、25a、25bの上記開口は、扉13aを閉じたときに、扉13aにより塞がれるようになっている。
【0036】
ここで、本実施の形態では、扉13aを開けて、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12への糸掛けを行うが、この際、スリット24a、24b、25a、25bに糸条Yを通す必要がある。しかしながら、本実施の形態では、上述したように、上記スリット24a、24b、25a、25bは、それぞれ、その扉13a側の端が開口しているため、上記糸掛け時に上記開口から容易にスリット24a、24b、25a、25bに糸条Yを通すことができる。
【0037】
また、連通空間22の内部には、スリット24bの開口側端部の近傍から、スリット24aの部分24a1(糸条入口)近傍の部分に向かって延びたガイド壁26が設けられている。
【0038】
さらに、連通空間22の扉13aと反対側の側壁面を形成する、保温箱13の側壁13bには、フィルタ27が設けられており、連通空間22は、フィルタ27を介して、保温箱13の外部に設けられたダクト9に接続されている。ダクト9は、図示しないブロアに接続されている。一般的に、糸条Yには水分を含んだ油剤が塗布されており、糸条Yを加熱すると油煙が発生する。そのため、本実施の形態では、ブロアを動作させてダクト9から連通流路22内の空気を吸引し、空気内に含まれる油分をフィルタ27により捕捉している。これにより、作業環境が清浄に保たれる。
【0039】
ローラユニット4は、ローラユニット3と同様の構造を有するものである。なお、以下では、ローラユニット3、4のどちらのことについて説明しているのかをわかりやすくするために、ローラユニット4の構成要素に、例えば、ゴデットローラ11’、セパレートローラ12’など、ローラユニット3の構成要素に付していた符号にダッシュをつけた符号を付して説明を行う。
【0040】
ローラユニット4は、図1に示すように、ローラユニット3とは上下が逆となった姿勢、すなわち、保温空間21’の下方に連通空間22’がくるような姿勢で、ローラユニット3の上方に、自身のスリット25b’が、ローラユニット3のスリット25bと対向するように配置されている。
【0041】
そして、このように配置されたローラユニット4においては、ローラユニット3とは逆に、スリット24b’が本発明に係る糸条入口に相当し、スリット24a’の開口と反対側の端部を形成する部分24a1’が本発明に係る糸条出口に相当する。
【0042】
以上のような構成を有する糸製造装置1においては、紡糸機2から紡出された複数の糸条Yが、まず、ローラユニット3のゴデットローラ11に引き取られる。このとき、糸条Yは、スリット25aの開口と反対側の端部を通って連通空間22に入り、さらに、スリット24aの部分24a1(糸条入口)を通って保温空間21に入る。
【0043】
ゴデットローラ11に引き取られた糸条Yは、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間を複数回送られた後に、ゴデットローラ11からローラユニット4のゴデットローラ11’に送られる。このとき、糸条Yは、スリット24b(糸条出口)を通って連通空間22に入り(保温空間21から出て)、さらに、スリット25bを通って保温箱13の外部に出た後に、スリット25b’を通って連通空間22’に入り、さらに、スリット24b’(糸条入口)を通って保温空間21’に入る。
【0044】
さらに、ゴデットローラ11’に引き取られた糸条Yは、ゴデットローラ11’とセパレートローラ12’との間を複数回送られた後に、ゴデットローラ11’から巻取機5に送られる。このとき、糸条Yは、スリット24a’の部分24a1’(糸条出口)を通って連通空間22’に入り(保温空間21’から出て)、さらに、スリット25a’の開口と反対側の端部を通って保温箱13’の外部に出た後に、巻取機5に送られる。
【0045】
これにより、糸条Yは、紡糸機2から巻取機5に向かって、例えば、4000〜6000m/min程度の速度で走行する。このとき、糸条Yは、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間、及び、ゴデットローラ11’とセパレートローラ12’との間を送られる間に加熱される。さらに、ローラユニット4のゴデットローラ11’は、ローラユニット3のゴデットローラ11よりも回転速度が速くなっており、加熱された糸条Yは、ゴデットローラ11とゴデットローラ11’との間で、両者の回転速度の差に対応した力で延伸される。
【0046】
ここで、一般に、糸条Yが走行すると、糸条Yの周辺に空気の流れ(随伴流)が生じる。そのため、仮に、ローラユニット3において、保温箱13に連通空間22やスリット25a、25bがないとすると、保温箱13の外部の糸条Yがスリット24aを通って直接保温空間21に入ることとなり、このとき、随伴流により、保温箱13の外部の冷たい空気が、スリット24aを通って保温空間21に流れ込んでしまう。
【0047】
さらに、保温空間21内の糸条Yがスリット24bを通って、直接保温空間21から保温箱13の外部に出ることとなり、このとき、随伴流により、保温空間21内の暖かい空気が、スリット24bを通って保温空間21から保温箱13の外部に流れ出してしまう。
【0048】
そして、上述したような保温空間21への冷たい空気の流れ込みや、保温空間21からの暖かい空気の流れ出しにより、保温空間21内の温度が低下しやすくなり、その結果、糸条Yを適正な温度に加熱するのに必要なヒータの消費電力が増大する。
【0049】
さらに、本実施の形態では、糸条Yの本数が多く(例えば、24〜32本程度)、糸条Yの走行速度もある程度速い(例えば、4000〜6000m/min程度)ので、随伴流は大きく、保温箱13の外部から流れ込む冷たい空気の量や、保温空間21から流れ出す暖かい空気の量も多い。そのため、連通空間22及びスリット25a、25bがないとすると、保温空間21内の温度は特に低下はしやすくなり、糸条Yを適正な温度に加熱するのに必要なヒータ15の消費電力が特に大きなものとなってしまう。
【0050】
これに対して、本実施の形態では、保温箱13に連通空間22が形成されているため、スリット25aを通って保温箱13の外部から連通空間22に流れ込んだ冷たい空気は、その一部のみがスリット24aを通って保温空間21に流れ込むこととなるため、保温空間21には流れ込みにくい。さらに、スリット24bを通って保温空間21から流れ出した暖かい空気は、その一部が、スリット25bを通って保温箱13の外部に流れ出さずに、連通空間22及びスリット24aを通って保温空間21に戻るため、保温箱13の外部に流れ出しにくい。したがって、随伴流による保温空間21内部の温度低下を抑えることができ、ヒータ15の消費電力を低減することができる。
【0051】
さらに、本実施の形態では、連通空間22にガイド壁26が設けられているため、スリット24bを通って保温空間21から連通空間22に流れ出した暖かい空気は、ガイド壁26に沿って、スリット24aの部分24a1へは流れやすいが、ガイド壁26が邪魔となって、スリット24aのそれ以外の部分には流れにくい。言い換えれば、スリット24bを通って保温空間21から流れ出した空気は、連通空間22において、ガイド壁26により糸条出口側から糸条入口側に向けて案内される。
【0052】
さらに、糸条入口であるスリット24aの部分24a1近傍には、連通空間22から保温空間21に向かって流れる随伴流が発生しているため、連通空間22においてスリット24aの部分24a1近傍まで流れてきた空気は、随伴流に乗って保温空間21に流れ込む。
【0053】
したがって、スリット24bを通って保温空間21から連通空間22に流れ出した空気は十分に保温空間21に戻り、随伴流による保温空間21内部の温度低下を大きく抑えることができる。
【0054】
また、上述したのと同様に、ローラユニット4において、保温箱13’に連通空間22’やスリット25a’、25b’がないとすると、保温空間21’への冷たい空気の流れ込みや、保温空間21’からの暖かい空気の流れ出しにより、糸条Yを適正な温度に加熱するのに必要なヒータ15’の消費電力が大きくなってしまう。
【0055】
しかしながら、本実施の形態では、上述したのと同様、保温箱13’に連通空間22’が設けられているため、スリット24a’(部分24a1’)を通って保温空間21’から流れ出した暖かい空気の一部が、連通空間22’及びスリット24b’を通って保温空間21’に戻る。したがって、随伴流による保温空間21’内部の温度低下を抑えることができ、ヒータ15’の消費電力を低減することができる。
【0056】
さらに、スリット24a’(部分24a1’)から流れ出した暖かい空気は、ガイド壁26’によりスリット24b’に向けて案内されることにより、スリット24b’を通って保温空間21’に戻りやすいため、随伴流による保温空間21’内部の温度低下を大きく抑えることができる。
【0057】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。なお、以下では、ローラユニット3の構成を変更した例について説明するが、ローラユニット4の構成についても同様の変更が可能である。
【0058】
スリット24a(部分24a1)とスリット24bとを連通させる連通空間の構成は、上述の実施の形態のものには限られない。例えば、一変形例(変形例1)では、図5に示すように、連通空間31は、スリット24a側(図中左側、糸条入口側)の部分ほど、その高さが高くなっており、これに対応して、連通空間31の底面31a及び天井面31bが、スリット24a側の部分ほど高い位置にくるように、水平方向に対して傾斜した傾斜面となっている。
【0059】
この場合には、スリット24bを通って保温空間21から連通空間31に流れ出した暖かい空気が、高さの高くなった連通空間31のスリット24a側(部分24a1側)に流れて保温空間21に戻りやすい。したがって、随伴流による保温空間21内部の温度低下を大きく抑えることができる。
【0060】
また、この場合には、ガイド壁26に加えて、連通空間31の底面31a及び天井面31bも、連通空間31内の空気を、スリット24b側からスリット24aの部分24a1側に向けて案内するガイドとなっている。
【0061】
なお、変形例1では、連通空間31の底面31a及び天井面31bが傾斜面となっていたが、これには限れられず、例えば、連通空間31の底面31aや天井面31bが、段差のある面となっていてもよい。
【0062】
また、別の一変形例(変形例2)では、図6に示すように、上述の実施の形態の構成に加えて、ガイド壁26と対向しているとともに、ガイド壁26とほぼ平行に延びたガイド壁41が設けられており、スリット24aの部分24a1及びスリット24bは、ガイド壁26とガイド壁41との間に位置している。そして、これにより、保温空間21の上方に位置する空間のうち、ガイド壁26とガイド壁41との間の部分のみが連通空間42となっている。また、この場合には、ガイド壁41にフィルタ27が設けられているとともに、ダクト9の一部が保温箱13内部に入り込んでいる。
【0063】
この場合には、スリット24bを通って保温空間21から連通空間22に流れ出した暖かい空気が、ガイド壁26に加えてガイド壁41によってもスリット24aの部分24a1に向けて案内されることため、さらに保温空間21に戻りやすくなる。また、この場合には、連通空間42の容積が、上述の実施の形態における連通空間22の容積に比べて小さくなっているため、スリット24bを通って保温空間21から流れ出した空気の温度が、連通空間42内において低下しにくく、保温空間21から流れ出した空気の温度が保温空間21に戻るまでの間に大きく低下しない。したがって、随伴流による保温空間21内部の温度低下を大きく抑えることができる。
【0064】
さらに、別の一変形例(変形例3)では、図7に示すように、変形例2の構成に加えて、連通空間42内に、スリット24b側からスリット24aの部分24a1側に向けて風を送るファン51(送風装置)が設けられている。この場合には、スリット24bを通って保温空間21から流れ出した暖かい空気が、連通空間22において、ファン51によりスリット24aの部分24a1に向けて送られるため、保温空間21に戻りやすい。したがって、随伴流による保温空間21内部の温度低下をさらに大きく抑えることができる。
【0065】
なお、変形例3では、変形例2の連通空間42にファン51を設けたが、上述の実施の形態の連通空間22にファンを設けてもよい。
【0066】
また、別の一変形例(変形例4)では、図8に示すように、連通空間56が、連通空間22(図3参照)に比べてその高さが高くなっているとともに、隔壁57によって上下2つの領域、つまり、上側領域56aと下側領域56bとに仕切られている。また、隔壁57には、スリット24a、25aと対向する部分の近傍、及び、スリット24b、25bと対向する部分の近傍に、それぞれ、スリット58a、58b(糸通路)が形成されている。
【0067】
この場合には、保温箱13の外部からスリット25aを通って連通空間56(上側領域56a)に流れ込んだ冷たい空気は、その一部のみがスリット58aを通って下側領域56bに流れ込み、さらにその一部のみがスリット24aを通って保温空間21に流れ込む。言い換えれば、連通空間56の上側領域56aと下側領域56bとを仕切る隔壁57によって、保温箱13の外部から連通空間56に流れ込んだ冷たい空気の、保温空間21への流れ込みが妨げられる。したがって、保温箱13外部の冷たい空気は、保温空間21に流れ込みにくい。
【0068】
さらに、スリット24bを通って保温空間21から連通空間56(下側領域56b)に流れ出した暖かい空気は、その一部のみがスリット58bを通って上側領域56aに流れ出し、さらにその一部のみがスリット25bから保温箱13の外部に流れ出す。言い換えれば、連通空間56の上側領域56aと下側領域56bとを仕切る隔壁57によって、スリット24bを通って保温空間21から流れ出した暖かい空気の、保温箱13外部への流れ出しが妨げられる。そして、保温箱13の外部に流れ出さなかった空気は、上側領域56a及び下側領域56を流れて、スリット24aから保温空間21に戻る。したがって、保温空間21内の暖かい空気は、保温箱13の外部には流れ出しにくい。
【0069】
以上のことから、随伴流による保温空間21の温度低下を効率よく抑えることができる。なお、変形例4では、連通空間56が、隔壁57により、上側領域56aと下側領域56bの2つの領域に仕切られていたが、これには限られず、連通空間が糸通路となるスリットが形成された隔壁によって3つ以上の領域に仕切られていてもよい。
【0070】
また、上述の実施の形態では、連通空間22にガイド壁26が設けられていたが、ガイド壁26は設けられていなくてもよい。この場合でも、連通空間22によりスリット24aとスリット24bとが連通しているため、スリット24bを通って保温空間21から流れ出した暖かい空気は、連通空間22及びスリット24aを通って保温空間21に戻る。
【0071】
また、上述の実施の形態では、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が、ともに、ヒータ15を備えた加熱ローラであったが、例えば、ゴデットローラ11のみが加熱ローラであるなど、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12の一方のみが加熱ローラであってもよい。
【0072】
さらには、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12のいずれもが加熱ローラでなく、別途ヒータが設けられていてもよい。例えば、別の一変形例(変形例5)では、図9に示すように、保温空間21内に、ヒータを備えていない3つのローラ61〜63(糸条送りローラ)が配置されており、ローラ61とローラ62との間、及び、ローラ62とローラ63との間には、それぞれ、これらのローラの間を送られる糸条Yと対向するようにヒータ64、65が設けられている。
【0073】
この場合であっても、上述の実施の形態と同様、スリット24bを通って保温空間21から流れ出した暖かい空気が、連通空間22及びスリット24aの部分24a1を通って保温空間21に戻る。したがって、随伴流による保温空間21内の温度低下を抑制し、ヒータ64、65の消費電力を低減することができる。
【0074】
また、以上の例では、連通空間が、保温空間21の上方にのみ配置されていたが、これには限られない。別の一変形例(変形例6)では、図10に示すように、連通空間71が、保温空間21の上方から図中右側方にまたがって連続的に延びている。さらに、スリット24b(図9参照)の代わりに、連通空間72との仕切りとなる保温空間21の側壁73にスリット24c(糸条出口)が形成されており、スリット25b(図9参照)の代わりに、側壁73と対向する保温箱13の側壁13dのスリット24cと対向する部分にスリット25cが形成されている。
【0075】
また、保温空間21内には、変形例5と同様、ローラ61〜63及びヒータ64、65が配置されているが、スリット24aとスリット24cとの位置関係が、スリット24aとスリット24bとの位置関係と異なっているのに合わせて、これらの位置も、変形例5の場合とは異なっている。具体的には、ローラ61〜63及びヒータ64、65の位置は、変形例5の場合に対して、これら全体を図10の時計回り方向にずらした位置に配置されている。
【0076】
この場合でも、上述したのと同様、スリット24cを通って連通空間71に流れ出した暖かい空気がスリット24aから保温空間21に戻るため、保温空間21内の温度低下を抑制し、ヒータ64、65の消費電力を低減することができる。
【0077】
また、この場合には、スリット24cがスリット24aよりも低い位置にあり、スリット24cを通って連通空間71に流れ出した暖かい空気は、スリット24c近傍の部分から、これよりも高い位置にあるスリット24a近傍の部分に向かって流れやすいため、連通空間71に流れ出した空気を効率よく保温空間21に戻すことができる。
【0078】
また、上述の実施の形態では、糸条を加熱しつつ延伸するための、ゴデットローラ及びセパレートローラを備えたローラユニットに本発明を適用した例について説明したが、これには限られず、糸条を送るための糸条送りローラ、糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するヒータ、及び、糸条送りローラ及びヒータが収容された保温箱を備えた他の糸条加熱装置に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0079】
3、4 ローラユニット
11、11’ ゴデットローラ
12、12’ セパレートローラ
13、13’ 保温箱
15、15’ ヒータ
21、21’ 保温空間
22、22’ 連通空間
24a、24a’ スリット
24b、24b’ スリット
24c スリット
26、26’ ガイド壁
31 連通空間
31a 底面
31b 天井面
41 ガイド壁
42 連通空間
51 ファン
56 連通空間
56a 上側領域
56b 下側領域
57 隔壁
58a、58b スリット
61〜63 ローラ
64、65 ヒータ
71 連通空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条を送る糸条送りローラと、
前記糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するヒータと、
前記糸条送りローラ及び前記ヒータが収容された保温箱とを備え、
前記保温箱は、
前記糸条送りローラ及び前記ヒータが配置された保温空間と、
前記保温空間の壁に形成された、前記保温空間に糸条を入れるための糸条入口と、
前記壁に形成された、前記保温空間から糸条を出すための糸条出口と、
前記壁により前記保温空間と仕切られた、前記糸条入口と前記糸条出口とを連通させる連通空間とを備えていることを特徴とする糸条加熱装置。
【請求項2】
前記連通空間が、前記糸条入口及び前記糸条出口にそれぞれ対応する2つの糸通路が形成された隔壁によって、複数の領域に仕切られていることを特徴とする請求項1に記載の糸条加熱装置。
【請求項3】
前記連通空間に、空気を前記糸条出口側から前記糸条入口側に向けて案内するガイドが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の糸条加熱装置。
【請求項4】
前記連通路の高さが、前記糸条入口に近づくほど高くなっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の糸条加熱装置。
【請求項5】
前記連通空間に、前記糸条出口側から前記糸条入口側に向かって風を送る送風装置が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の糸条加熱装置。
【請求項6】
前記糸条送りローラが、前記ヒータを備えた加熱ローラであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の糸条加熱装置。
【請求項7】
前記糸条送りローラが、糸条を延伸させるためのローラであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の糸条加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−36526(P2012−36526A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177046(P2010−177046)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】