説明

糸条巻取装置

【課題】モータなどを大型化することなく、ボビンホルダの回転速度を短時間で停止させる。
【解決手段】ボビンホルダ7A、7Bの制動の開始時から、ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が所定回転速度V1に低下するまでの間は、ボビンホルダ7A、7Bを回転させるために用いたモータ28A、28Bにおいて回転するボビンホルダ7A、7Bの回転エネルギーを電気エネルギーに変換してインバータ27に供給する回生ブレーキによってのみボビンホルダ7A、7Bの制動を行う。ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が所定回転速度V1まで低下した後は、上記回生ブレーキと機械ブレーキ30の両方を用いてボビンホルダ7A、7Bの制動を行う。機械ブレーキ30は、ブレーキシューのテーパ部を、ボビンホルダ7A、7Bに設けられたプーリ20A、20Bの外周面に形成されたV溝に接触させることにより、ボビンホルダ7A、7Bの制動を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条をボビンに巻き取る糸条巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の糸条巻取装置においては、2つのボビンホルダがターレットに支持されており、片方のボビンホルダに装着されたボビンへの糸条の巻取が完了したときに、ターレットを約180°回動させて、2つのボビンホルダの位置を入れ替えることにより、もう片方のボビンホルダに装着されたボビンに糸条を巻き取らせる。そして、このような動作を繰り返すことにより、連続的に送られてくる糸条を複数のボビンホルダに装着されたボビンに順次巻き取っている。また、糸条の巻取が完了したボビン(満ボビン)が装着されたボビンホルダについては、回生制動を掛けることによって(電気ブレーキによって)停止させており、これにより、停止したボビンホルダから満ボビンを取り出すことが可能となる。
【0003】
特許文献2に記載の糸条巻取装置は、特許文献1に記載の糸条巻取装置と同様、2つのボビンホルダがターレットに支持されており、糸条として弾性糸を巻き取る場合、片方のボビンホルダに装着されたボビンへの弾性糸の巻取が完了したときに、ターレットを約180°回動させて、2つのボビンホルダの位置を入れ替えた後、さらにターレットを約90°回動させることによって、糸条が2つのボビンホルダにまたがって掛かるようにし、続いて、ガイド部材(案内手段)により、弾性糸の2つのボビンホルダの間に位置する部分を、次に弾性糸を巻き取るボビン(空ボビン)の表面に沿うように案内することで、弾性糸の空ボビンに接触した部分を空ボビンの表面に密着させる。さらに、この状態で、弾性糸の巻取が完了した満ボビンが装着されたボビンホルダを急激に減速させている。
【0004】
すると、弾性糸の、満ボビンと空ボビンとの間の部分が弛み、弾性糸の弛んだ部分が、空ボビンと一体的に回転する、弾性糸の空ボビンの表面に密着した部分に引っ張られて空ボビンに巻き込まれる。これにより、空ボビンに糸掛けがされ、この後、空ボビンに弾性糸が巻き取られていく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−335822号公報
【特許文献2】特開2002−114443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1では、電気ブレーキにより、ボビンホルダの制動を行っているが、電気ブレーキは、ボビンホルダ(ボビンホルダを回転させるモータ)の回転速度が遅くなるほど制動力が小さくなるため、ボビンホルダが停止するまでにはかなりの時間がかかり、満ボビンは、長い時間回転した状態となる。このため、糸条の巻取が完了したときに、すぐに満ボビンを取り出すことができない。
【0007】
また、図11に示すように、空ボビン102Bに糸掛けがされ、糸条101の満ボビン102Aと空ボビン102Bとの間の部分が切れた後、満ボビンが長時間回転していると、満ボビン102Aに巻き取られた糸条101の糸端が、遠心力によって外側に飛び出して、次に糸条を巻き取る空ボビン102Bの表面に何度も衝突してしまう。その結果、例えば、衝突した糸条101の糸端の一部が切れ、その糸片が、空ボビン102Bに巻き込まれてしまうなどの問題が生じる虞がある。
【0008】
一方、特許文献2においても、特許文献1に記載されているように電気ブレーキによりボビンホルダの制動を行うことが考えられる。しかしながら、この場合には、上述したように、電気ブレーキは、ボビンホルダの回転速度が遅くなるにつれて制動力が小さくなるため、満ボビンが装着されたボビンホルダを急激に減速させることができず、緩やかに減速することとなってしまう。その結果、弾性糸は、満ボビンと空ボビンとの間の部分だけでなく、空ボビンに密着している部分まで弛んでしまう虞がある。そして、弾性糸の空ボビンに密着した部分が弛んでしまうと、弾性糸のこの部分が空ボビンと一体的に回転せず、弾性糸の弛んだ部分が空ボビンに巻き込まれない、すなわち、空ボビンに糸掛けがされない虞がある。
【0009】
あるいは、上述したような問題が生じないよう、電気ブレーキを、ボビンホルダの回転速度が遅くなったときにも十分な制動力が生じるようなものとするために、モータを大型のものにする必要がある。
【0010】
また、上述したような問題が生じないようにするために、特許文献1、2において、電気ブレーキではなく、例えばディスクブレーキのような、機械ブレーキによってボビンホルダを制動することも考えられる。しかしながら、この場合には、機械ブレーキを、回転速度の速いボビンホルダの制動を行うのに耐えられるような大型のものにする必要がある。また、機械ブレーキにより回転速度の速いボビンホルダの制動を行う場合には、ボビンホルダや、機械ブレーキのブレーキシューの磨耗が大きくなってしまう虞がある。
【0011】
本発明の目的は、ブレーキを大型にすることなく、ボビンホルダの回転速度を短時間で低下させることが可能な糸条巻取装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明に係る糸条巻取装置は、装着されたボビンに糸条を巻き取るボビンホルダと、前記ボビンホルダに接続されたモータと、前記モータにおいて前記ボビンホルダの回転エネルギーを電気エネルギーに変換することによって、前記ボビンホルダの制動を行う電気ブレーキと、前記ボビンホルダの制動を行う機械ブレーキとを備え、前記電気ブレーキは、少なくとも、前記ボビンホルダの制動の開始時から、前記ボビンホルダの回転速度が所定回転速度に低下するまでの間、前記ボビンホルダの制動を行い、前記機械ブレーキは、前記ボビンホルダの回転速度が前記所定回転速度まで低下した後に、前記ボビンホルダの制動を行うことを特徴とする。
【0013】
本発明によると、ボビンホルダの回転速度が速い間は、電気ブレーキによってのみボビンホルダの制動を行い、ボビンホルダの回転速度が所定回転速度まで低下してからは機械ブレーキによってボビンホルダの制動を行うので、ボビンホルダの制動を行っている間、常に十分な制動力が生じることとなり、モータを、ボビンホルダの回転速度が遅い状態でも十分な制動力が生じるような大型のものにすることなく、ボビンホルダを短時間で停止させることができる。
【0014】
さらに、ボビンホルダの回転速度が所定回転速度まで低下してから、機械ブレーキによりボビンホルダの制動を行うので、機械ブレーキを、高速で回転するボビンホルダの制動に耐えられるような大型のものとする必要がない。また、ボビンホルダと機械ブレーキとの摩擦力も小さく、機械ブレーキの磨耗もそれほど大きくはならない。
【0015】
第2の発明に係る糸条巻取装置は、第1の発明に係る糸条巻取装置において、前記ボビンホルダを複数備えているとともに、これら複数のボビンホルダを移動させることによって、前記複数のボビンホルダのうち、糸条の巻取を行うための巻取位置に位置させる前記ボビンホルダを切り替える切替手段をさらに備え、ボビンへの糸条の巻取が完了する毎に、前記切替手段により前記巻取位置に位置させる前記ボビンホルダを切り替えることによって、連続的に送られてくる糸条を、前記複数のボビンホルダに装着されたボビンに順次巻き取ることができるようになっており、前記電気ブレーキ及び前記機械ブレーキは、前記切替手段によりボビンホルダの切替が行われることによって前記巻取位置から離れた位置に移動した、糸条の巻取が完了した満ボビンが装着された前記ボビンホルダの制動を行うことを特徴とする。
【0016】
本発明によると、電気ブレーキ及び機械ブレーキにより満ボビンが装着されたボビンホルダを短時間で停止させることができる。したがって、糸条の巻取が完了してから短時間で満ボビンをボビンホルダから取り出すことができる。さらに、ボビンホルダの切替が行われ、満ボビンと次に糸条を巻き取る空ボビンとの間の糸条が切れた後、満ボビンに巻き取られた糸条の糸端が、空ボビンの表面に衝突するのを防止することができる。
【0017】
第3の発明に係る糸条巻取装置は、第2の発明に係る糸条巻取装置において、糸条が弾性糸であり、前記電気ブレーキ及び前記機械ブレーキは、前記切替手段によるボビンホルダの切替途中の、糸条が、前記満ボビンと次に糸条を巻き取る空ボビンとにまたがって掛かっている状態で、前記満ボビンが装着された前記ボビンホルダの制動を行うことを特徴とする。
【0018】
本発明によると、上述したように、弾性糸が、満ボビンと空ボビンとにまたがって掛かっている状態で、満ボビンが装着されたボビンホルダを減速させることによって、弾性糸の満ボビンと空ボビンとの間の部分を弛ませて、空ボビンに巻き込ませる際に、満ボビンが装着されたボビンホルダを急激に減速させることができるので、糸条の上記部分を確実に空ボビンに巻き込ませることができる。
【0019】
第4の発明に係る糸条巻取装置は、第3の発明に係る糸条巻取装置において、前記満ボビンと前記空ボビンとにまたがって掛かっている糸条の、前記満ボビンと前記空ボビンとの間の部分を、前記空ボビンの表面に沿うように案内する糸案内手段をさらに備え、前記電気ブレーキ及び前記機械ブレーキは、前記糸案内手段により糸条が案内された状態で、前記満ボビンが装着された前記ボビンホルダの制動を行うことを特徴とする。
【0020】
本発明によると、弾性糸である糸条が糸案内手段に案内されている状態では、糸条の空ボビンと密着している部分の長さが長くなるので、糸条の空ボビンに密着した部分は、確実に空ボビンと一体的に回転する。したがって、満ボビンが装着されたボビンホルダを減速させたときに、糸条の満ボビンと空ボビンとの間の部分を確実に空ボビンに巻き込ませることができる。
【0021】
第5の発明に係る糸条巻取装置は、第1〜第4のいずれかの発明に係る糸条巻取装置において、前記ボビンホルダには、その外周面に沿ってV溝が形成されたプーリが設けられており、前記機械ブレーキは、前記V溝と嵌合可能なテーパ部を有し、前記プーリに接離可能となったブレーキシューと、前記ブレーキシューを、前記プーリに接離させる方向に移動させる移動手段とを備えていることを特徴とする。
【0022】
本発明によると、ブレーキシューに加えた力が、V溝の2つ表面とそれぞれ直交する2つの方向に分解された上でプーリに伝達され、分解された2つの分力の大きさの和は、ブレーキシューに加えた力の大きさよりも大きくなる。したがって、ブレーキシューをプーリに押し付ける力をそれほど大きくしなくても、大きな制動力を得ることができる。そして、ブレーキシューを押し付ける力をそれほど大きくする必要がないので、移動手段をそれほど剛性の高いものとする必要がない。
【0023】
さらに、上記2つの分力の、プーリの軸方向と直交する方向の成分、つまり、ブレーキシューに加える力が小さく、また、上記2つの分力の、プーリの軸方向の成分は互いに相殺されるため、プーリを支持する軸などを、それほど剛性の高いものとする必要がない。
【0024】
また、ブレーキシューのテーパ部とプーリのV溝とを接触させることでボビンホルダの制動を行うため、ブレーキシューとV溝との接触面積を大きくすることができ、プーリやブレーキシューが磨耗しにくい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、モータを、ボビンホルダの回転速度が遅い状態でも十分な制動力が生じるような大型のものにすることなく、ボビンホルダを短時間で停止させることができる。さらに、機械ブレーキを、高速で回転するボビンホルダの制動に耐えられるような大型のものとする必要がない。また、機械ブレーキの磨耗もそれほど大きくはならない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明における実施の形態に係る糸条巻取装置の正面図である。
【図2】図1の糸条巻取装置を矢印IIの方向から見た側面図である。
【図3】図1の条巻取装置を矢印IIIの方向から見た側面図である。
【図4】機械ブレーキにより制動を行っているときの状態を示す図である。
【図5】(a)が図3を矢印Vaの方向から見た図であり、(b)が図4(a)、(b)を矢印Vbの方向から見た図である。
【図6】図1の制御装置の機能ブロック図である。
【図7】ボビンホルダの切替動作のうち、ボビンが完了した直後の動作を説明する図である。
【図8】ボビンホルダの切替動作のうち、図7の後の動作を説明する図である。
【図9】ボビンホルダの制動の手順を示すフローチャートである。
【図10】ボビンホルダの切替動作のうち、空ボビンへの糸掛け後の動作を説明する図である。
【図11】満ボビンが装着されたボビンホルダが回転し続けた場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0028】
図1に示すように、糸条巻取装置1には、図示しない紡糸機から複数本(本実施形態では6本)の糸条101が連続的に送られてくる。ここで、本実施の形態では、糸条101は弾性糸である。そして、糸条巻取装置1は、紡糸機から供給された複数本の糸条101を、略円筒状巻取管である複数のボビン102にそれぞれ巻き取るように構成されている。
【0029】
図1、図2に示すように、糸条巻取装置1は、本体フレーム10と、この本体フレーム10に上下方向に移動可能に設けられた昇降枠11と、本体フレーム10に回転可能に設けられた円板状のターレット6と、ターレット6を介して本体フレーム10に支持されるとともに、複数のボビン102が装着される2本のボビンホルダ7A、7Bと、ボビン102に巻き取られる糸条101を綾振りするトラバース装置9と、巻取位置P1(図2参照)にあるボビンホルダ7A、7Bに装着されたボビン102に接触するコンタクトローラ8等を備えている。
【0030】
円板状のターレット6(切替手段)は、本体フレーム10の鉛直面に平行な姿勢で、本体フレーム10に回転可能に設けられている。ターレット6の回転中心に対して互いに対称な2つの位置には、ターレット6と直交する水平方向に延びる2本のボビンホルダ7A、7Bがそれぞれ回転可能に突設されている。また、これら2本のボビンホルダ7A、7Bは、ターレット6と一体的に回転するようになっている。図1に示すように、2本のボビンホルダ7A、7Bには、それぞれ複数(本実施形態では6つ)のボビン102が、ボビンホルダ7A、7Bの軸方向に一列に並べて装着される。
【0031】
ターレット6は、モータ29(図6参照)により駆動され、ターレット6が回動することにより、2本のボビンホルダ7A、7Bを、コンタクトローラ8に接触してボビン102に糸条101を巻き取る巻取位置P1、巻取位置P1とターレット6の回転中心に関して点対称な位置である待機位置P2、巻取位置P1及び待機位置P2からそれぞれ図2の反時計回り方向に90°回動した、一点鎖線で示す位置P3、P4などに移動させることができるようになっている。巻取位置P1にあるボビンホルダ7Aに装着されたボビン102への糸条101の巻取が完了すると、後述するように、巻取位置P1に位置するボビンホルダ7Aと待機位置P2に位置するボビンホルダ7Bとが切り替えられる。
【0032】
ターレット6に支持された2本のボビンホルダ7A、7Bは、それぞれ、モータ28A、28Bに接続されている。モータ28A、28Bには共通のインバータ27が接続されている。インバータ27は図示しない外部電源などに接続されており、モータ28A、28Bはインバータ27(電力供給手段)から供給された駆動電力により、ボビンホルダ7A、7Bを個別に回転駆動する。そして、巻取位置P1にあるボビンホルダ7A、7Bが回転することによって、ボビンホルダ7A、7Bに装着された複数のボビン102に複数の糸条101がそれぞれ巻き取られる。
【0033】
また、ボビンホルダ7A、7Bが回転している状態で、インバータ27からモータ28A、28Bへの駆動電力の供給を停止すると、ボビンホルダ7A、7Bの回転によりモータ28A、28Bが回転させられ、モータ28A、28Bにおいて、ボビンホルダ7A、7Bの回転エネルギーが電気エネルギーに変換されてインバータ27に供給される。これにより、ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が低下する(ボビンホルダ7A、7Bの制動が行われる)。すなわち、モータ28A、28Bとインバータ27とにより、それぞれ、ボビンホルダ7A、7Bの制動を行う回生ブレーキ(電気ブレーキ)が構成されている。
【0034】
なお、モータ28A、28Bやインバータ27の構成は、例えば、特許文献1に記載されているものなど、従来と同様のであるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。また、以下では、モータ28A、28Bとインバータ27とが、ボビンホルダ7A、7Bを回転駆動する駆動手段として動作している状態でのインバータ27の動作モードを駆動モードとし、ボビンホルダ7A、7Bの制動を行う回生ブレーキとして動作しているときのインバータ27の動作モードを回生ブレーキモードとして説明を行う。
【0035】
また、モータ28A、28Bには、それぞれ、エンコーダ26A、26Bが設けられており、エンコーダ26A、26Bの検出結果に基づいてモータ28A、28B(ボビンホルダ7A、7B)の回転速度を検出することできるようになっている。
【0036】
また、2本のボビンホルダ7A、7Bには、それぞれ、ボビン102が装着されるのと反対側の端部にプーリ20A、20Bが設けられている。プーリ20A、20Bには、それぞれ、その外周面に沿ってV溝20Aa、20Baが形成されている。
【0037】
また、本体フレーム10には、2つの機械ブレーキ30、40が設けられている。機械ブレーキ30は、上記位置P4にあるボビンホルダ7A、7Bのプーリ20A、20Bの、ターレット6外周側(図3の左側)に配置されており、揺動アーム31、シリンダ32、ブレーキシュー33などを備えている。
【0038】
揺動アーム31は、ボビンホルダ7A、7Bの軸方向に延びた揺動軸31aにおいて、本体フレーム10に揺動自在に支持されている。シリンダ32は、油圧シリンダやエアシリンダなどであって、本体フレーム10に固定されているとともに、揺動アーム31の下端部に接続されており、シリンダ32を駆動することによって、揺動アーム31の下端部を、図3の左右方向に移動させることができるようになっている。そして、シリンダ32により揺動アーム31の下端部を移動させると、揺動アーム31が揺動軸31aを中心に揺動する。なお、本実施の形態では、揺動アーム31とシリンダ32とを合わせたものが、後述するようにブレーキシュー33を移動させる、本発明に係る移動手段に相当する。
【0039】
ブレーキシュー33は、揺動アーム31の上端部に設けられており、位置P4に位置している状態のボビンホルダ7A、7Bに設けられたプーリ20A、20Bと対向している。ブレーキシュー33のプーリ20A、20B側の端部(図3の左端部)には、図5に示すように、先端側ほどその幅が狭くなっており、プーリ20A、20BのV溝20Aa、20Baと嵌合可能なテーパ部33aが形成されている。
【0040】
そして、ブレーキシュー33は、ボビンホルダ7A、7Bの制動を行っていない状態では、図3、図4(a)、図5(a)に示すように、位置P4にあるボビンホルダ7A、7Bのプーリ20A、20Bから離隔しており、この状態から、シリンダ32を駆動して、揺動アーム31を図3の時計回り方向に揺動させると、図4(b)、図5(b)に示すように、ブレーキシュー33がプーリ20A、20Bに近接して、テーパ部33aがV溝20Aa、20Baに嵌合する。そして、このときのV溝20Aa、20Baの表面とテーパ部33aの表面との間の摩擦力により、位置P4にあるボビンホルダ7A、7Bの制動が行われる。
【0041】
このとき、機械ブレーキ30においては、図5(b)に示すように、プーリ20A、20Bの径方向に対するV溝20Aa、20Ba及びテーパ部33aの傾斜角度がθ(0°<θ<90°)であり、揺動アーム31がブレーキシュー33をプーリ20A、20Bに向けて押し付ける力が力Fであるとすると、力FがV溝20Aa、20Baの2つの表面と直交する方向の2つの分力F1、F2に分解されて、プーリ20A、20Bに伝達される。そして、分力F1、F2の大きさは、それぞれ、F/(2sinθ)となり、これら2つの分力F1と分力F2の大きさの和は、F/sinθとなるため、ブレーキシュー33がV溝20Aa、20Baを押し付ける力の大きさは、揺動アーム31によりブレーキシュー33を押し付ける力Fの大きさよりも大きくなる。したがって、揺動アーム31によりブレーキシュー33を押し付ける力Fを小さくすることができ、これにより、揺動アーム31などをそれほど剛性の高いものとする必要がない。
【0042】
また、ブレーキシュー33からプーリ20A、20Bに加えられる力(分力F1と分力F2との合力)のうち、プーリ20A、20Bの軸方向と直交する方向の成分、すなわち、揺動アーム31がブレーキシュー33を押し付ける力Fの大きさが小さい。一方、上記2つの分力F1、F2の、プーリ20A、20Bの軸方向の成分は、互いに相殺されるため、プーリ20A、20Bにその軸方向に加わる力はほぼ0となる。したがって、プーリ20A、20Bを支持する軸などをそれほど剛性の高いものとする必要がない。
【0043】
また、ブレーキシュー33のテーパ部33aとプーリ20A、20BのV溝20Aa、20Baとを接触させることでボビンホルダ7A、7Bの制動を行うため、テーパ部33aとV溝20Aa、20Baとの接触面積を大きくすることができ、プーリ20A、20Bやブレーキシュー33が磨耗しにくい。
【0044】
一方、テーパ部33aがV溝20Aa、20Baに嵌合している状態で、揺動アーム31を図3の反時計回り方向に揺動させると、ブレーキシュー33がプーリ20A、20Bから離隔して、ボビンホルダ7A、7Bの制動が解除される。
【0045】
機械ブレーキ40は、待機位置P2にあるボビンホルダ7A、7Bの下方に配置されており、機械ブレーキ30の揺動アーム31、シリンダ32、ブレーキシュー33と同様の、揺動アーム41、シリンダ42、ブレーキシュー43などを備えている。ただし、機械ブレーキ40は、機械ブレーキ30を図3の反時計回り方向に約90°回転させた向きに配置されている。
【0046】
そして、機械ブレーキ40においても、機械ブレーキ30と同様、図3〜図5に示すように、シリンダ42により、揺動軸41aを中心として揺動可能な揺動アーム41を揺動させることができ、揺動アーム41を図3の時計回り方向に揺動させると、図4(a)、図5(b)に示すように、ブレーキシュー43のテーパ部43aが、待機位置P2にあるボビンホルダ7A,7Bのプーリ20A、20BのV溝20Aa、20Baに嵌合し、V溝20Aa、20Baとブレーキシュー43との間の摩擦力により、待機位置P2にあるボビンホルダ7A、7Bの制動を行うことができる。
【0047】
ただし、本実施の形態では、後述するように、回生ブレーキと機械ブレーキ30とによってボビンホルダ7A、7Bを停止させるため、機械ブレーキ40は、後述するように、待機位置P2にあるボビンホルダ7A、7Bからボビン102を取り出す際などに、ボビンホルダ7A、7Bが回動してしまうのを防止するためにのみ用いられる。なお、本実施の形態では、機械ブレーキ40は設けられていなくてもよい。
【0048】
昇降枠11は、ボビンホルダ7A、7Bの軸方向に延びる長尺なフレームである。この昇降枠11は、ボビンホルダ7A、7Bと平行な姿勢で、その長手方向基端部において上下方向に移動可能に本体フレーム10に支持されている。より詳細には、図2に示すように、昇降枠11の長手方向基端部は、本体フレーム10に固定された2本のガイド軸16によって上下方向に移動可能に支持されている。さらに、昇降枠11は、図示しない昇降機構により昇降可能となっている。
【0049】
図2に示すように、昇降枠11には、巻取位置P1にあるボビンホルダ7A、7Bに装着された複数のボビン102にそれぞれ対応する複数のトラバース装置9が設けられている。トラバース装置9は、ボビン102に巻き取られる糸条101を、トラバース装置9の上方に配置された糸ガイド17を支点として綾振りする。
【0050】
また、昇降枠11には、コンタクトローラ8を支持する支持プレート12が固定されている。支持プレート12の長手方向両端部には2つの枢支部12aがそれぞれ設けられており、枢支部12aにはコンタクトローラ8が回転可能に支持されている。コンタクトローラ8は、図1に示すように、ボビンホルダ7A、7Bとほぼ同じ長さを有する筒状体であり、巻取位置P1にあるボビンホルダ7A、7Bに装着された全てのボビン102の外周面に接触可能となっている。そして、コンタクトローラ8は、ボビン102への糸条101の巻取時には、ボビン102に所定の接圧を付与しながら回転して、ボビン102の形状を整える。
【0051】
糸案内部材5は、後述するように、ターレット6により巻取位置P1に位置させるボビンホルダ7A、7Bを切り替える際に、糸条101をボビン102の表面に案内するためのものである。糸案内部材5は、2つの揺動部21、糸案内部22などを備えている。2つの揺動部21は、糸案内部材5の、ボビンホルダ7A、7Bの軸方向に関する両端部に位置しており、ボビンホルダ7A,7Bの軸方向と平行な揺動軸21aに揺動自在に支持されている。そして、揺動部21は、シリンダ25(図6参照)により、揺動軸21aを中心に揺動させることができるようになっている。
【0052】
糸案内部22は、2つの揺動部21の間に位置する板状の部分であり、ボビンホルダ7A、7Bの軸方向に関する両端部が、それぞれ、揺動部21に固定されている。糸案内部材5は、後述するように糸条101を案内するとき以外は、図2に示すように、糸案内部22が、ターレット6を回転させるときにボビンホルダ7A、7Bと接触しない位置に退避しており、糸条101を案内するときに、図2の反時計回り方向に揺動することによって、糸案内部22をボビンホルダ7A、7Bに近づける(図8(b)参照)。
【0053】
なお、糸案内部材5の構成は、例えば、特許文献2に記載されているものなど、従来と同様であるので、ここでは、これ以上の詳細な構成についての説明は省略する。また、糸案内部材5による糸条101の案内動作については、後ほど詳細に説明する。
【0054】
次に、糸条巻取装置1の各部の動作を制御する制御装置50について説明する。制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などからなり、これらが、図6に示すように、ターレット制御部51、糸案内制御部52、回転速度算出部53、インバータ制御部54、機械ブレーキ制御部55、ブレーキ切替部56などとして動作する。
などとして機能する。
【0055】
ターレット制御部51は、ターレット6の駆動するモータ29を制御することで、ターレット6の回転角度などを制御する。糸案内制御部52は、糸案内部材5の揺動部21を駆動するシリンダ25を制御することで、糸案内部材5の揺動角度などを制御する。
【0056】
回転速度算出部53は、エンコーダ26A、26Bの検出結果から、モータ28A、28B(ボビンホルダ7A、7B)の回転速度を算出する。インバータ制御部54は、インバータ27を制御することによって、モータ28A、28Bの回転速度の制御や、インバータ27の駆動モードと回生ブレーキモードの切替などを行う。ここで、モータ28A、28Bの回転速度の制御は、回転速度算出部53によって算出された回転速度に基づいて行われる。
【0057】
機械ブレーキ制御部55は、シリンダ32、42を制御することで、揺動アーム31、41の揺動角度などを制御する。ブレーキ切替部56は、回転速度算出部53により算出された回転速度に応じて、後述するように、回生ブレーキ、及び、機械ブレーキ30のいずれによってボビンホルダ7A、7Bの制動を行うのかを切り替える。
【0058】
次に、糸条巻取装置1において、ボビン102に糸条101を巻き取る手順について詳細に説明する。糸条巻取装置1においてボビン102に糸条101を巻き取るためには、まず、図示しない糸掛け装置により、巻取位置P1にあるボビンホルダ7Aに装着されたボビン102に糸掛けを行った後、トラバース装置9により糸条101をボビン102の軸方向に綾振りさせつつ、インバータ27を駆動モードにすることでボビンホルダ7A(モータ28A)を回転させてボビン102に糸条101を巻き取っていく。
【0059】
そして、図7(a)に示すように、ボビンホルダ7Aに装着されたボビン102への糸条101の巻取が完了すると、待機位置P2(厳密には、ボビン102の巻き太りに合わせて、ターレット6を回動させているため、待機位置P2から少し反時計回り方向に回動した位置)にあるボビンホルダ7Bの回転駆動を開始させるとともに、図7(b)に示すように、ターレット6を反時計回り方向(X1)に約180°回動させることにより、待機位置P2にあったボビンホルダ7Bを巻取位置P1まで移動させた後、図8(a)に示すように、ターレット6をさらに反時計回り方向に約90°回動させる(X2)。すると、糸条101は、糸条101の巻取が完了したボビン102(満ボビン102A)と、次に糸条101を巻き取るボビン102(空ボビン102B)とにまたがって掛かった状態となる。
【0060】
そして、この状態で、図8(b)に示すように、糸案内部材5を、退避させていた位置から、反時計回り方向(Y1)に揺動させる。すると、糸条101の満ボビン102Aと空ボビン102Bとの間に位置する部分のうち、空ボビン102B近傍の部分が、糸案内部材5により空ボビン102Bの表面に沿うように案内される。
【0061】
ここで、本実施の形態では、糸条101が弾性糸であるので、糸条101の空ボビン102Bに接触した部分は、空ボビン102Bの表面に密着する。さらに、糸条101は、糸案内部材5により空ボビン102Bの表面に沿うように案内されているため、糸条101の空ボビン102Bの表面に密着している部分の長さが長くなる。
【0062】
そして、図8(b)の状態で、回生ブレーキ及び機械ブレーキ30を用いて満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7Aの制動を行うことにより、ボビンホルダ7Aの回転速度を急激に低下させる。
【0063】
ここで、回生ブレーキ及び機械ブレーキ30によりボビンホルダ7Aの制動を行う手順について詳細に説明する。ボビンホルダ7Aの制動を行うためには、まず、図9に示すように、インバータ27を駆動モードから回生ブレーキモードに切り替える(ステップS101、以下、単にS101などとする)ことにより、モータ28A及びインバータ27を回生ブレーキとして動作させ、ボビンホルダ7Aの制動の開始時から、モータ28A(ボビンホルダ7A)の回転速度が所定回転速度V1に低下するまでの間は(S102:NO)、回生ブレーキによってのみボビンホルダ7Aの制動を行う。
【0064】
そして、ボビンホルダ7Aの回転速度が所定回転速度V1まで低下したときに(S102:YES)、シリンダ32により揺動アーム31を揺動させてブレーキシュー33のテーパ部33aをプーリ20AのV溝20Aaに嵌合させる。すなわち、機械ブレーキ30によるボビンホルダ7Aの制動を開始させる(S103)。そして、ボビンホルダ7Aが停止するまで(S104:NO)、回生ブレーキと機械ブレーキ30の両方によりボビンホルダ7Aの制動を行い、ボビンホルダ7Aが停止したときに(S104:YES)、揺動アーム31を揺動させてブレーキシュー33をV溝20Aaから離隔させることにより、機械ブレーキ30による制動を解除して(S105)、動作を終了する。
【0065】
そして、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7Aの回転速度を急激に低下させると、糸条101の、満ボビン102Aと、空ボビン102Bに密着している部分との間の部分が弛み、糸条101の弛んだ部分が、空ボビン102Bとともに回転する、糸条101の空ボビン102Bの表面に密着した部分に引っ張られて、空ボビン102Bに巻き込まれ、これにより、空ボビン102Bに糸掛けがされる。
【0066】
このとき、上述したように、糸条101は、糸案内部材5に案内されていることにより、空ボビン102Bの表面に密着している部分の長さが長くなっているため、糸条101と空ボビン102Bとの密着力が強く、糸条101の空ボビン102Bの表面に密着した部分が確実に、空ボビン102Bと一体的に回転する。したがって、糸条101の弛んだ部分が、確実に空ボビン102Bに巻き込まれる。すなわち、空ボビン102Bに確実に糸掛けがされる。
【0067】
そして、空ボビン102Bに糸掛けがされた後、糸条101の、満ボビン102Aと空ボビン102Bとの間の部分は、満ボビン102A及び空ボビン102Bにより互いに反対方向に引っ張られて切れる。
【0068】
次に、図10(a)に示すように、揺動部21を時計回り方向に揺動させる(Y2)ことによって、糸案内部材5を退避させてから、図10(b)に示すように、ターレット6を時計回り方向に約90°回動させる(Z)ことによって、空ボビン102Bが装着されたボビンホルダ7Bを巻取位置P1に移動させるとともに、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7Aを待機位置P2に移動させる。
【0069】
これにより、巻取位置P1に移動したボビンホルダ7Bに装着された空ボビン102Bへの糸条101の巻取が開始される。一方、待機位置P2に移動した満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7Aは、は、機械ブレーキ40により回動しないように保持される。そして、この状態で、ボビンホルダ7Aから満ボビン102Aを取り出すとともに、ボビンホルダ7Aに、さらにその次に糸条101を巻き取るボビン102を装着する。
【0070】
そして、糸条巻取装置1においては、以上に説明したような動作を繰り返し行うことにより、図示しない紡糸機から連続的に送られていくる糸条101を、2つのボビンホルダ7A、7Bに装着されたボビン102に交互に巻き取っていく。そして、2つのボビンホルダ7A、7Bを入れ替える際に、上述したのと同様にして、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bが、回生ブレーキと機械ブレーキ30とによって制動される。
【0071】
ここで、本実施の形態では、回生ブレーキと機械ブレーキ30とによってボビンホルダ7A、7Bの制動を行っているが、仮に、回生ブレーキによってのみボビンホルダ7A、7Bの制動を行うとすると、回生ブレーキは、ボビンホルダ7A、7Bの回転エネルギーを、モータ28A、28Bにおいて電気エネルギーに変換することで、ボビンホルダ7A、7Bの制動を行っているため、ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が遅くなるにつれて、制動力が小さくなっていく。そのため、ボビンホルダ7A,7Bの回転速度がある程度遅くなった後(例えば、所定回転速度V1よりも遅くなった後など)においては、回生ブレーキの制動力は小さくなり、ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が緩やかに低下することとなるため、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bが停止するまでの時間が長くなってしまう。
【0072】
そして、ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が緩やかに低下した場合には、糸条101は、満ボビン102Aと、空ボビン102Bに密着している部分との間の部分だけでなく、空ボビン102Bに密着している部分までもが弛んでしまう。これにより、糸条101のこの部分の空ボビン102Bへの密着力が弱くなり、空ボビン102Bが回転しても、糸条101が空ボビン102Bに巻き込まれず、空ボビン102Bに糸掛けがされない虞がある。
【0073】
また、空ボビン102Bに正常に糸掛けがされるとしても、上述したように、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bの制動を行うことによって、空ボビン102Bに糸掛けを行う場合には、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bの回転速度が低下して、満ボビン102Aと空ボビン102Bとの回転速度の差がある程度大きくなったときに、糸条101の満ボビン102Aと空ボビン102Bとの間の部分が弛んで、空ボビン102Bへの糸掛けがされる。そのため、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bは、空ボビン102Bへの糸掛けが完了した後、停止するまでしばらく回転することとなる。しかしながら、空ボビン102Bに糸掛けがされ、糸条101が、満ボビン102Aと空ボビン102Bとの間の部分で切れた後、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bが長時間回転したままだと、糸条101の巻取が完了してから満ボビン102Aを取り出すまでの時間が長くなってしまう。
【0074】
さらには、図11に示すように、満ボビン102Aに巻き取られた糸条101の糸端が、遠心力によって径方向の外側に飛び出して、空ボビン102Bの表面に何度も衝突してしまう。そして、糸条101の糸端が、空ボビン102Bに何度も衝突すると、糸条101の糸端が切れて、その糸片が空ボビン102Bに巻き込まれてしまうなどの問題が生じる虞がある。
【0075】
あるいは、上述したような問題が生じないよう、ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が遅くなったときにも十分な制動力が生じるようにするために、回生ブレーキを構成するモータ28A、28Bを、ボビンホルダ7A、7Bを回転させるのに必要な能力よりも高い能力を持つ大型のものにする必要が生じてしまう。
【0076】
一方、仮に、機械ブレーキ30によってのみボビンホルダ7A、7Bの制動を行うとすると、高速で回転するボビンホルダ7A、7Bの制動を行うのに耐えることができるよう、揺動アーム31などを剛性の高い大型のものにする必要がある。また、機械ブレーキ30によって、高速で回転しているボビンホルダ7A、7Bの制動を行うと、プーリ20A、20Bやブレーキシュー33が磨耗しやすい。
【0077】
これに対して、本実施の形態では、上述したように、ボビンホルダ7A、7Bの制動の開始時から、ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が所定回転速度V1に低下するまでの間は、回生ブレーキのみによってボビンホルダ7A、7Bの制動を行い、ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が所定回転速度V1まで低下した後、回生ブレーキと機械ブレーキ30とによってボビンホルダ7A、7Bの制動を行っているため、ボビンホルダ7A、7Bの制動の開始時から、ボビンホルダ7A、7Bが停止するまでの間、常に、ボビンホルダ7A、7Bに対して十分な制動力を生じさせることができ、ボビンホルダ7A、7Bを短時間で減速(停止)させることができる。
【0078】
したがって、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bを減速させることによって糸条101の満ボビン102Aと空ボビン102Bとの間の部分を弛ませたときに、この部分だけが弛み、糸条101のこの部分が確実に空ボビン102Bに巻き込まれる。
【0079】
さらに、糸条101の巻取が完了した満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bを短時間で停止させることができるため、満ボビン102Aを、糸条101の巻取が完了してすぐに取り出すことができる。
【0080】
また、空ボビン102Bに糸掛けがされた後、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bが長時間回転し続けることがないので、満ボビン102Aに巻き取られた糸条101の糸端が、何度も空ボビン102Bの表面に衝突することもない。
【0081】
加えて、ボビンホルダ7A、7Bの回転速度がある程度遅くなってから(ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が所定回転速度V1まで低下した後)、機械ブレーキ30によってボビンホルダ7A、7Bの制動を行っているため、機械ブレーキ30(揺動アーム31など)を、高速で回転するボビンホルダ7A、7Bの制動に耐えることができるような剛性の高い大型のものにする必要がなく、プーリ20A、20Bやブレーキシュー33の磨耗もそれほど大きくはならない。
【0082】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0083】
上述の実施の形態では、糸案内部材5により糸条101の満ボビン102Aと空ボビン102Bとの間の部分を、空ボビン102Bの表面に沿うように案内してから、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bの制動を行ったが、これには限られず、糸案内部材5による糸条101の案内を行わず、つまり、図8(a)の状態で、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bの制動を行ってもよい。
【0084】
図8(a)の状態でも、糸条101の一部は空ボビン102Bに密着しているため、この密着力が十分に大きい場合には、糸案内部材5による糸条101の案内を行わずに、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bの制動を行っても、糸条101の満ボビン102Aと空ボビン102Bとの間の弛んだ部分は、空ボビン102Bに巻き込まれる。
【0085】
また、上述の実施の形態では、ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が、所定回転速度V1まで低下した後、回生ブレーキと機械ブレーキ30の両方により、当該ボビンホルダ7A、7Bの制動を行ったが、これには限られない。例えば、インバータ27とモータ28A、28Bとの間に、両者の接続を遮断するためのスイッチなどが設けられており、ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が所定回転速度V1に達した時点で、インバータ27とモータ28A、28Bとの接続を遮断することで回生ブレーキによる制動を解除するなどして、所定回転速度V1まで低下した後、機械ブレーキ30によってのみ、当該ボビンホルダ7A、7Bの制動を行ってもよい。
【0086】
また、上述の実施の形態では、回生ブレーキと機械ブレーキ30とによって、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bを制動することで、当該ボビンホルダ7A、7Bを完全に停止させていたが、これには限られない。例えば、空ボビン102Bへの糸掛けが完了した後、回生ブレーキと機械ブレーキ30とによって、上記ボビンホルダ7A、7Bが、上記所定回転速度V1よりも遅いある回転速度まで低下した段階で、機械ブレーキ30による制動を解除し、その後、図10(b)に示すように、待機位置P2まで移動してきた上記ボビンホルダ7A、7Bを、機械ブレーキ40によって停止させてもよい。
【0087】
また、上述の実施の形態では、ボビン102に巻き取る糸条101が弾性糸であったが、ボビン102に巻き取る糸条101は弾性糸であることには限られない。
【0088】
糸条101が弾性糸でない場合には、ボビン102への糸条101の巻取完了後、図7(b)に示すように、ターレット6を反時計回り方向に約180°回動させることにより、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7Aを待機位置P2に移動させるとともに、空ボビン102Bが装着されたボビンホルダ7Aを巻取位置P1に移動させる。
【0089】
そして、この状態で、上述したのと同様、回生ブレーキと機械ブレーキ40とにより、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bの制動を行う。すなわち、当該ボビンホルダ7A、7Bの回転速度が所定回転速度V1に低下するまでの間は、回生ブレーキによってのみボビンホルダ7Aの制動を行い、当該ボビンホルダ7Aの回転速度が所定回転速度V1まで低下した後、回生ブレーキと機械ブレーキ40とによってボビンホルダ7Aの制動を行う。
【0090】
なお、糸条101が弾性糸でない場合には、例えば、ボビン102の表面に糸掛けを行うための溝を形成しておき、図7(b)に示す状態で、図示しない糸掛け装置により、巻取位置P1に移動したボビンホルダ7Bに装着された空ボビン102Bの溝に糸条101を案内することで、空ボビン102Bへの糸掛けを行う。
【0091】
また、この場合には、上述の実施の形態とは異なり、位置P4においてボビンホルダ7A、7Bの制動を行わないので、機械ブレーキ30は不要である。
【0092】
そして、この場合でも、上述の実施の形態と同様、満ボビン102Aが装着されたボビンホルダ7A、7Bを短時間で停止させることができるので、満ボビン102Aを、糸条101の巻取の完了後すぐに取り出すことができる。さらに、満ボビン102Aに巻き取られた糸条101の糸端が、空ボビン102Bの表面に何度も衝突することもない。
【0093】
また、上述の実施の形態では、電気ブレーキが、ボビンホルダ7A、7Bの回転エネルギーから変換された電気エネルギーをインバータ27に供給する、いわゆる回生ブレーキであったが、これには限られない。例えば、電気ブレーキが、ボビンホルダ7A、7Bの回転エネルギーから得られた電気エネルギーを、インバータ27とは異なる抵抗などにおいて熱に変換して放出する、いわゆる発電ブレーキであってもよい。
【0094】
また、上述の実施の形態では、ボビンホルダ7A、7BにV溝20Aa、20Baが形成されたプーリ20A、20Bが設けられており、機械ブレーキ30、40が、揺動アーム31、41揺動させて、ブレーキシュー33のテーパ部33aをV溝20Aa、20Baに嵌合させることによって、ボビンホルダ7A、7Bの制動を行うものであったが、機械ブレーキの構成は、これには限られない。機械ブレーキは、例えば、公知のディスクブレーキなど、他の構成を有するものであってもよい。
【0095】
また、上述の実施の形態では、ターレット6に支持された2本のボビンホルダ7A、7Bを備えており、紡糸機から連続的に送られてくる糸条101を、これら2本のボビンホルダ7A、7Bに装着されたボビン102に交互に巻き取っていたが、ボビンホルダ7A、7Bの数は、これには限られない。例えば、ターレット6に3本以上のボビンホルダが支持されており、糸条101を、これら3本以上のボビンホルダに装着されたボビン102に順次巻き取ってもよい。あるいは、1本のボビンホルダに装着されたボビン102にのみ糸条101を巻き取ってもよい。
【0096】
また、上述の実施の形態では、各ボビンホルダ7A、7Bに複数のボビン102が装着されていたが、各ボビンホルダ7A、7Bにボビン102が1つだけ装着されていてもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 糸条巻取装置
6 ターレット
7A、7B ボビンホルダ
20A、20B プーリ
20Aa、20Ba V溝
27 インバータ
28A、28B モータ
30 機械ブレーキ
31、 揺動アーム
32 シリンダ
33 ブレーキシュー
33a テーパ部
40 機械ブレーキ
41 揺動アーム
42 シリンダ
43 ブレーキシュー
43a テーパ部
101 糸条
102 ボビン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着されたボビンに糸条を巻き取るボビンホルダと、
前記ボビンホルダに接続されたモータと、
前記モータにおいて前記ボビンホルダの回転エネルギーを電気エネルギーに変換することによって、前記ボビンホルダの制動を行う電気ブレーキと、
前記ボビンホルダの制動を行う機械ブレーキとを備え、
前記電気ブレーキは、少なくとも、前記ボビンホルダの制動の開始時から、前記ボビンホルダの回転速度が所定回転速度に低下するまでの間、前記ボビンホルダの制動を行い、
前記機械ブレーキは、前記ボビンホルダの回転速度が前記所定回転速度まで低下した後に、前記ボビンホルダの制動を行うことを特徴とする糸条巻取装置。
【請求項2】
前記ボビンホルダを複数備えているとともに、
これら複数のボビンホルダを移動させることによって、前記複数のボビンホルダのうち、糸条の巻取を行うための巻取位置に位置させる前記ボビンホルダを切り替える切替手段をさらに備え、
ボビンへの糸条の巻取が完了する毎に、前記切替手段により前記巻取位置に位置させる前記ボビンホルダを切り替えることによって、連続的に送られてくる糸条を、前記複数のボビンホルダに装着されたボビンに順次巻き取ることができるようになっており、
前記電気ブレーキ及び前記機械ブレーキは、前記切替手段によりボビンホルダの切替が行われることによって前記巻取位置から離れた位置に移動した、糸条の巻取が完了した満ボビンが装着された前記ボビンホルダの制動を行うことを特徴とする請求項1に記載の糸条巻取装置。
【請求項3】
糸条が弾性糸であり、
前記電気ブレーキ及び前記機械ブレーキは、
前記切替手段によるボビンホルダの切替途中の、糸条が、前記満ボビンと次に糸条を巻き取る空ボビンとにまたがって掛かっている状態で、前記満ボビンが装着された前記ボビンホルダの制動を行うことを特徴とする請求項2に記載の糸条巻取装置。
【請求項4】
前記満ボビンと前記空ボビンとにまたがって掛かっている糸条の、前記満ボビンと前記空ボビンとの間の部分を、前記空ボビンの表面に沿うように案内する糸案内手段をさらに備え、
前記電気ブレーキ及び前記機械ブレーキは、
前記糸案内手段により糸条が案内された状態で、前記満ボビンが装着された前記ボビンホルダの制動を行うことを特徴とする請求項3に記載の糸条巻取装置。
【請求項5】
前記ボビンホルダには、その外周面に沿ってV溝が形成されたプーリが設けられており、
前記機械ブレーキは、
前記V溝と嵌合可能なテーパ部を有し、前記プーリに接離可能となったブレーキシューと、
前記ブレーキシューを、前記プーリに接離させる方向に移動させる移動手段とを備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の糸条巻取装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−86965(P2012−86965A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236307(P2010−236307)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】