説明

紅茶葉の製造方法

【課題】 適切な熱処理をするものの、発酵を妨げることなく、さらには紅茶の風味を損なわない紅茶葉の製造方法を提供する。
【解決手段】 摘み取った茶葉を蒸して、揉みやすいように柔らかくする。蒸した茶葉を、煎茶よりも低い圧力で揉み機にかける。揉み機にかけられた茶葉を容器に入れて発酵させる。発酵を促進させた後、乾燥機により乾燥させる。乾燥して得られた紅茶葉に、ph9.0〜9.5程度のアルカリイオン水を噴霧する。アルカリイオン水を噴霧した紅茶葉を陶器などの容器に入れ、木綿の布か和紙で表面を覆い、オーブンによって120℃〜150℃の温度で加熱乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紅茶葉の製造方法であって、特に茶葉そのものを食することを目的とした紅茶葉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紅茶そのものは、遠い昔から世界中で人々に愛飲されてきた。一般的な紅茶は、茶葉を煎じて抽出される。また、一般的な紅茶葉の製造方法は、摘み取られた生の茶葉を、まず棚の上などに置いて乾燥させ、葉の中に含まれている酵素の働きによって発酵を開始させ、次に、機械を使って強くもんで酵素の働きを更に活発にさせる。その後、酵素にとって良い環境である温度(約25度程度)及び高湿度(湿度95%程度)の環境下に置いて葉の色を更に赤くする。その後、保存のために乾燥させる。
【0003】
これに対して、日本古来の緑茶は、一般的には、摘み取った茶葉をすぐに釜煎りなどして高温処理し、その後にもんで水分を飛ばして乾燥させて製造される。つまり、緑茶は摘んだあとすぐに高温の熱を加えることで酵素の働きを止めるため、葉の色は変わらない。
【0004】
このように紅茶は発酵によって、緑茶とはその色だけではなく風味もまったく異なるわけであるが、茶葉に含まれる栄養素は、いずれも非常に豊富で、その味わいを楽しむだけでなく、飲むことによって得られる効能は高い。
【0005】
緑茶の栄養素としては、渋み成分であり、発がん抑制・血中コレステロール低下・血圧または血糖値上昇の抑制・抗菌・虫歯予防などの作用がある近年話題のカテキンをはじめとし、口臭予防・血管強化に働くフラボノイド、疲労回復・眠気ざまし作用があるカフェイン、また緑茶のうまみ成分であり、血圧降下・脳や神経機能を健やかに保つテアニン、風邪の予防・ストレス解消・シミやソバカスを抑制する美容効果も持つビタミンCなどのビタミン類、がん予防に必要なミネラル類、さらに血圧降下・脳卒中や動脈硬化の予防作用があるガンマ・アミノ酪酸(ギャバ)などが挙げられる。
【0006】
紅茶の成分は、かなりの点で、緑茶と同じであるが、渋味成分のカテキンが発酵させる過程で紅茶ポリフェノールという赤い色素に変わるため、カテキンそのものの効能は得られないが、この紅茶ポリフェノールは非常に強い抗菌作用があり、発ガン抑制作用・殺菌作用・虫歯予防・口臭予防などの効果がある。
【0007】
更に、これらの栄養素以外に、食物繊維、β(ベータ)カロチン等も多量に含まれており、お茶は生活習慣病(成人病)対策に、また日々の健康を保つ効用がある食品として大変優れているが、これらの殆どは、抽出後の茶葉に残ってしまう。上記したそれぞれの成分もまた、抽出後の茶殻には70%程度残ると言われている。この茶葉に残ってしまう栄養素を無駄なく摂取するためには、茶葉そのものを食べるしかない。
【0008】
緑茶では、茶葉そのものをたとえば抹茶のようにして食する習慣が古来からあり、また、健康に関して有効な成分を多く含有する茶葉をおいしく食べるため、例えば茶葉とわかめをブレンドしてふりかけにするようにした技術(例えば、特許文献1参照。)や、茶葉を200メッシュ以下の微粉末にしてタブレット状に加工したタブレット茶(例えば、特許文献2参照。)などが知られている。さらに近年になって、緑茶に含まれる栄養素が見直されて、煎じて入れられた緑茶からは得られない緑茶のもつ栄養素を丸ごと取るためにさまざまな工夫がなされてきている。
【特許文献1】特開平6−225732号公報
【特許文献2】特開2001−128619号公報
【0009】
これに対して、人体には非常に有用であるにもかかわらず、紅茶は熱湯を使って抽出されるのみで、パンやクッキーなどに混ぜて焼き上げて風味を出すなどに使われる以外に、茶葉そのものを食する習慣はない。これは、単に習慣が無いと言うだけではなく、冒頭で説明した一般的な製造方法からわかるように高温の熱処理がなされないことにある。
【0010】
製造工程で高温の熱処理が必ず有る緑茶と違い、紅茶は製造工程で発酵を妨げないために高温の熱処理はされず、そのため、紅茶は熱湯で抽出する際に滅菌される。すなわち、高温処理をしない紅茶の葉を、そのまま食した場合、場合によっては、内在する雑菌などによって、人体に悪影響を与えることがあるためと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、紅茶の茶葉を食するためには、熱処理をするものの、それによって発酵を妨げないという、相反する処理が必要になってしまう。また、発酵後に高温の熱処理をすると、せっかく発酵によって得られた風味を飛ばしてしまうことになる。
【0012】
そこで、本発明は、適切な熱処理をするものの、発酵を妨げることなく、さらには紅茶の風味を損なわない紅茶葉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため本発明は、紅茶葉の製造方法であって、摘み取った茶葉を蒸して柔らかくし、蒸した茶葉を揉み機にかけ、揉み機にかけられた茶葉を発酵させ、発酵をさせた茶葉を乾燥させて必要に応じて保存した後、乾燥させた茶葉にアルカリイオン水を噴霧し、アルカリイオン水を噴霧した茶葉を120℃〜150℃で熱処理して再度乾燥させる。
【0014】
ここで、摘み取った茶葉を蒸して柔らかくするのは、食べ易くするためであり、食べる習慣のない従来の紅茶葉の製造工程にはない工程である。
また、発酵させた茶葉を乾燥させた後、必要に応じて保存する工程は、発酵させて乾燥させた茶葉の製造量と、その後のアルカリイオン水による処理が可能な茶葉の処理量とに差があるときのためであり、発酵させた茶葉の量が少ない場合は、保存する必要はない。
また、アルカリイオン水を噴霧する理由は、その後の滅菌のための熱処理によって色や成分や香り等が喪失しないようにするためであり、これが通常の水であれば、色や成分や香りが失われやすくなり、熱処理した後の風味が低下して成分が抽出しにくくなる。
そして、最終的な120〜150℃の加熱による乾燥によって、緑茶の釜煎りなどの高温処理による滅菌作用と同様の滅菌効果を得る。この際、例えばこの最終的な乾燥の目安としては、挽き割り機によって粉末にすることができる程度まで乾燥させるようにする。
【発明の効果】
【0015】
紅茶葉の製造方法であって、摘み取った茶葉を蒸して柔らかくし、蒸した茶葉を揉み機にかけ、揉み機にかけられた茶葉を発酵させ、発酵をさせた茶葉を乾燥させ、乾燥させた茶葉にアルカリイオン水を噴霧し、アルカリイオン水を噴霧した茶葉を120℃〜150℃で熱処理して再度乾燥させることにより、粉末などにして茶葉を直接食することができるとともに、滅菌のための高温の熱処理において色や香りや成分を飛ばしてしまうことを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る紅茶葉の製造方法としては、発酵前処理と、発酵段階と、発酵後の熱処理の3段階に大別される。そして、例えば発酵前処理としては、食べるときに食べ易くなるよう、茶葉を蒸して柔らかくし、煎茶よりも低い圧力揉み機にかける。また、発酵後の熱処理としては、抽出度を良好にし且つ香りや成分や色が失われないようアルカリイオン水(約ph9.5)を噴霧し、オーブンによって120℃〜150℃で、再度乾燥させる。
【0017】
次に、それぞれの処理について、少し詳しく説明する。
まず、摘み取った茶葉を蒸して、食べ易くなるように柔らかくする。紅茶を作る場合、通常はこの蒸す処理は行わないのが普通であるが、この製造方法の場合、100℃程度の蒸気としては比較的低い温度で、1分〜3分程度の時間蒸す。これによって、食べるときに喉に引っ掛かるような不具合がなくなり、また、茶葉を低い圧力でも揉み安くなる。
【0018】
蒸して柔らかくなった茶葉を揉み機にかけるが、煎茶よりも低い圧力で粉々にならないように揉み機にかける。
【0019】
揉み機にかけられた茶葉を容器に入れて発酵させる。この発酵は従来の紅茶の発酵と同じで、約25℃程度の温度、約95%程度の湿度といった発酵に望ましい状態で、発酵を促進させた後、乾燥機により乾燥させる。これによって得られた紅茶葉は、通常の紅茶葉として紅茶を抽出することが出来るものであり、ここまでの製造量が多く、その後の処理量が追い付かないときは、必要に応じて保存しておく。
【0020】
乾燥して得られた紅茶葉に、アルカリイオン水を噴霧する。このアルカリイオン水の噴霧の目的は、その後の熱処理において、香りや色や成分が飛ばないようにするとともに抽出度を良好にするためである。ここでアルカリイオン水の代わりに普通の水を噴霧して処理すると、色や香りが薄められ、また、熱処理した後の紅茶葉の風味が低下し、成分を抽出しにくくなる。
【0021】
また、アルカリイオン水は、一般的にはph値が7.5〜10.3の範囲のものを言うが、本案で使用するのは、ph9.0〜9.5程度のものを使用する。飲用に良いとされる弱アルカリの7.35〜7.45程度のもの、またはそれ以上のものでも構わないが、紅茶葉に含まれるミネラルなどへの吸水を高めるためには、上記したph9.0〜9.5程度が望ましい。
【0022】
最後に、アルカリイオン水を噴霧した紅茶葉を陶器などの容器に入れ、木綿の布か和紙で表面を覆い、オーブンによって120℃〜150℃の温度で高温加熱して乾燥させる。この加熱処理によって、従来の熱湯による抽出時の滅菌と同じ効果を得られる。布か和紙で茶葉の表面を覆う目的は、高温での処理をする際に、表面だけが一気に乾いてしまわないようにするためで、全体が均等に加熱され、徐々に全体が乾燥させ、その間に茶葉成分を活性化させるように働く。また、乾燥させる目安としては、挽き割り機によって粉末にすることができる程度までであって、例えば、100gの茶葉については約1分程度を目安としている。
【0023】
このようにして得られた紅茶葉は、例えば、引き割り機にかけて、粉茶とする。粉茶とされた紅茶葉は、通常の抽出を行って紅茶を飲んでも良いが、さまざまな料理に添加して、風味付けと使用することによって、手軽に紅茶葉を食することができる。前記したように、紅茶葉そのものを食することによって、特に植物繊維やベータカロチンのみならず、抽出では茶殻に残ってしまう栄養素を丸ごと摂取出来る点が大きな利点である。
【0024】
また、従来の紅茶葉と同様に抽出するに当っては、熱湯に限らず、どのような温度の水も使用することができる。すなわち、低温水抽出することによって、アイスティにする際に、冷やす必要がないだけでなく、苦味が低く、甘みの強い、アイスティを楽しむことができる。
【0025】
尚、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。たとえば、上記した製造方法では、オーブンによって加熱乾燥していたが、これを電子レンジによる加熱処理にすることもできる。その場合、アルカリイオン水を噴霧して、木綿生地や和紙によって覆ってから加熱するまでは同じであるが、加熱後に、覆いを取り去り、水分を飛ばすために、乾燥した状態となるまで放置する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の製造方法によって得られた紅茶葉は、従来の紅茶葉とは異なり、手軽に茶葉そのものを食することが出来るため、さまざまな料理などに活用することが出来る。したがって、従来は飲用としてのみ利用されていた紅茶ではなく、食用として利用範囲が考えられるため、本発明の製造方法は、冒頭で説明したような紅茶葉に含まれる成分を丸ごと摂取できる食品としての製品化に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紅茶葉の製造方法であって、摘み取った茶葉を蒸して柔らかくし、蒸した茶葉を揉み機にかけ、揉み機にかけられた茶葉を発酵させ、発酵をさせた茶葉を乾燥させて必要に応じて保存した後、乾燥させた茶葉にアルカリイオン水を噴霧し、アルカリイオン水を噴霧した茶葉を120℃〜150℃で熱処理して再度乾燥させることを特徴とする紅茶葉の製造方法。

【公開番号】特開2007−236319(P2007−236319A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65123(P2006−65123)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(594078870)
【Fターム(参考)】