説明

純水製造方法

【発明の課題】水質の良い超純水を供給するとともに、逆浸透装置における水回収率の向上を図るとともに、安定した純水装置の運転を維持できることが可能な純水製造の方法及び装置を提供する。
【解決手段】カチオン交換樹脂装置1と、脱気装置2と、第1の逆浸透装置3と、第2の逆浸透装置4とを有し、さらに、第1の逆浸透装置3の透過水を製造された純水として収容する透過水ピット5と、前処理装置で処理された被処理水及び第2の逆浸透装置4から返送された透過水を収容する被処理水ピット11と、被処理水をそれぞれ後段の装置へ送液するポンプ12,32と、第1の逆浸透装置3の濃縮水を収容する濃縮水ピット41と、濃縮水ピット41に収容された濃縮水を第2の逆浸透装置4へ送液するポンプ42と、第2の逆浸透装置4の透過水を被処理水ピット11へ返送する配管と、から構成される純水製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透装置を用いた純水製造方法に係り、特に、少なくとも2つの逆浸透装置を用い、最初の逆浸透装置の濃縮水を他の逆浸透装置で処理して、その透過水を被処理水として再利用する純水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶の製造において使われる超純水は、従来から、市水、井水又は洗浄廃水などから製造され、そのシステムは、前処理工程、一次純水製造工程、二次純水製造工程(サブシステムとも呼ばれる)と3つの工程で構成されている。
【0003】
前処理工程では、凝集沈殿処理、ろ過処理など、一次純水製造工程では、ろ過処理、逆浸透膜処理、限外濾過処理、イオン交換処理などを組み合わせた処理が行われている。
【0004】
そのなかで、逆浸透膜処理は、イオン性物質、微粒子、有機物、一部の溶存気体等ほぼ全てに関して、除去する効果があることや、詰まりやトラブルが発生しない限り、再生等の不連続の工程を実施しなくても良い等の点から広く使われている。しかし、被処理水の一部を濃縮水として排出するため、水の利用率が下がること、ガスはもちろん、ホウ素等の一部のイオンの除去率が低いこと、シリカや硬度等による詰まりが発生しやすいという欠点も存在する。
【0005】
これらの欠点を克服する方法として、逆浸透膜処理を強アルカリ条件で行う方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法は、逆浸透膜の詰まりの原因の1つであるシリカの水中での挙動を考慮し、シリカの少なくとも大部分がイオン状で存在するpH(pH≧10)において運転することによって、シリカによる逆浸透膜の詰まりを抑制したものである。そのため、シリカの詰まりを考慮する必要がなくなり、水回収率を90%以上に上げることが可能となった。また、このようなpH条件においては、ホウ素もイオンとして存在するため、ホウ素に関しても十分な除去率を得ることができる。
【0006】
しかし、水回収率をさらに上げていくと、システムとしての除去率は悪化する。これは、水回収率を上げるということは、濃縮された水を逆浸透処理することになることから、必然的に透過水の水質が悪化するためであり、上記システムでの水回収率は、90%〜95%程度が限界とされている。
【0007】
そこで、アルカリ条件で運転した逆浸透膜の濃縮水を、さらに別の逆浸透膜で処理した後、前段に戻す技術も、すでに開示されている(例えば、特許文献2及び3参照。)。これらの方法により、純水製造装置の後段の水質が悪化することなく、回収率を向上させることが可能となった。
【特許文献1】特許3321179号公報
【特許文献2】特開2000−271570号公報
【特許文献3】特開2002−192152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような逆浸透処理において、硬度スケールに対する対策のため、事前の処理が必須であり、例えば、特許文献2においては図に示されているカチオン交換樹脂装置1及び脱気装置2がそれに該当する。しかし、これらの装置を設けても完全に硬度成分を除去することは不可能である。
【0009】
また、スケールは、高濃縮された条件においてより激しく発生するため、特許文献2や3の純水製造装置では、第2の逆浸透装置において、硬度スケールが懸念される。したがって、第2の逆浸透装置の運転条件は、硬度スケール発生の可能性を考慮したうえで設定しなければならない。
【0010】
通常、逆浸透装置の膜の詰まりの有無を判断する手段にランゲラーインデックスが有る。これは、硬度による逆浸透膜の詰まりを予測する尺度であり、逆浸透装置の設計では一般的に使われている方法である。しかし、これは、被処理水の液性が中性付近における硬度による膜の詰まりの有無を判断する方法であり、このように高アルカリ条件における詰まりを判断することはできない。
【0011】
そこで、炭酸カルシウムの溶解度積から、詰まりの有無を推定する方法を適用すると、仮に、第1の逆浸透装置の入口炭酸濃度が10mg/L as CO、第1の逆浸透装置の入口硬度が5μg/L as CaCO、CaCOの溶解度積は2.90×10−9、第1の逆浸透装置の水回収率90%とした場合、第2の逆浸透装置の水回収率は、37%が最大と算出できる。
【0012】
ただし、この方法では、第1の逆浸透装置の入口の水質を正確に把握することが必要であるが、これは、前処理装置の運転状況によって変動しやすい。また、第2の逆浸透装置内の複雑な反応を、単純化して、溶解度積のみから推定することは正確性に欠け、大幅なずれが生じるおそれもある。したがって、この方法のみから、最適な運転条件を正確に決定することは困難である。
【0013】
また、一般的に、逆浸透装置の膜の詰まりの速度は、濃縮倍率すなわち、被処理水流量/濃縮水流量の値にほぼ比例すると言われている。したがって、第2の逆浸透装置の場合、第1の逆浸透装置よりも膜の詰まりが激しくなる。たとえば、第1の逆浸透装置の膜寿命は1年〜2年程度が最低限必要だが、仮に第1の逆浸透装置の寿命が1年〜2年と仮定すると、第2の逆浸透装置の寿命は、上記の関係から、次のように試算される。
【0014】
【表1】

【0015】
なお、濃縮倍率と水回収率の関係は、次のとおりである。なお、この式において水回収率は、百分率ではなく回収割合(0〜1の範囲)で表した数値により算出する。
濃縮倍率=1/(1−水回収率)
すなわち、濃縮倍率ないし、水回収率を上げると、第2の逆浸透装置の膜寿命は急激に短くなるので、頻繁に膜を交換するか、洗浄する必要が生じ、安定した運転が不可能となってしまう。
【0016】
上記2つの知見から、第2の逆浸透装置は、水回収率が50〜66%程度で運転されるのが通常であり、75〜80%程度が技術的限界と考えられていた。
【0017】
ところが、上記のように、溶解度、及び濃縮倍率から推定される膜の寿命を考慮して装置を設計しているにもかかわらず、第2の逆浸透装置の膜の詰まりが起きる問題が発生していた。
【0018】
そこで、本発明の目的は、上記のような逆浸透装置を2つ用いる純水製造装置において、逆浸透装置の水回収率の向上を図るとともに、硬度スケールによる詰まりを抑制して純水製造装置の運転を安定に維持することが可能な純水製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の純水製造方法は、原水をH型のカチオン交換樹脂塔に通水した後、脱ガス装置にて脱ガス処理し、次いでpH10以上のアルカリ性条件として第1の逆浸透装置に通水して純水を製造するに当たり、第1の逆浸透装置から排出されるアルカリ性の濃縮水を、別途設けられた第2の逆浸透装置に通水して、その透過水を第1の逆浸透装置の前段に返送する純水製造方法であって、第1の逆浸透装置における水回収率を90〜95%とし、第2の逆浸透装置における水回収率を97%以下で、かつ、次式(1)
Y≧100−50.5/(100−X) …(1)
(ただし、Yは第2の逆浸透装置の水回収率(%)、Xは第1の逆浸透装置の水回収率(%)を表す。)の関係を満たす範囲とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の純水製造方法は、pH≧10にて運転される第1の逆浸透装置の濃縮水をさらに第2の逆浸透装置にて処理し、その透過水を、前段に返送する装置において、第2の逆浸透装置における詰まりが、硬度によるスケールが発生すると考えられていた条件で運転しても詰まりが問題にならないことを見出し、第2の逆浸透装置の水回収率を大きく上げるとともに、純水製造装置全体の水回収率を上げることを可能としたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本願発明について説明する。
【0022】
図1は、本発明の純水製造方法を実施するための一実施形態である純水製造装置の構成を示した図であり、従来の技術で言及した文献にも同様の装置構成は記載されている。なお、これは本発明の一例であり、本願発明はこの形態に限られるものではない。
【0023】
この純水製造装置は、カチオン交換樹脂装置1と、脱気装置2と、第1の逆浸透装置3と、第2の逆浸透装置4とを有し、さらに、第1の逆浸透装置3の透過水を製造された純水として収容する透過水ピット5と、前処理装置で処理された被処理水及び第2の逆浸透装置4から返送された透過水を収容する被処理水ピット11と、被処理水をそれぞれ後段の装置へ送液するポンプ12,32と、第1の逆浸透装置3の濃縮水を収容する濃縮水ピット41と、濃縮水ピット41に収容された濃縮水を第2の逆浸透装置4へ送液するポンプ42と、第2の逆浸透装置4の透過水を被処理水ピット11へ返送する返送配管43と、から構成されるものである。
【0024】
ここで用いられるカチオン交換樹脂装置1は、純水製造に用いられるH型のカチオン交換樹脂装置として既存のものが使用可能である。ここでカチオン交換樹脂装置1に使用する充填材としては、強酸性イオン交換樹脂、弱酸性イオン交換樹脂、キレート性カチオン交換樹脂又はカチオン交換繊維が使用可能である。たとえば、Amberlite IIR120B(ローム・アンド・ハース社製)、デュオライト C20(ローム・アンド・ハース社製)、DOWE MAC−3(ダウ社製)、またはLewatit CNP−80(ランクセス社製)、Amberlite IRC−86(ローム・アンド・ハース社製)、デュオライト C433LF(ローム・アンド・ハース社製)が例示される。これらの充填材は、単独又は複数種を使用することができる。
【0025】
また、カチオン交換樹脂装置1としては、単床又は複層床のいずれの形態で構成してもよく、1塔式又は2塔式等のような装置構成としてもよく、適宜使用形態を組み合わせて使用することができる。
【0026】
ここで用いられる脱気装置2は、純水製造に用いられる脱気装置として既存のものが使用可能であり、例えば、充填式脱炭酸塔、ばっ気装置、膜脱気装置、真空脱気装置等が挙げられる。いずれも、効率向上のため、塩酸、硫酸等の酸を添加、カチオン交換樹脂への通水等の方法で、pHを7以下、より好ましくは、6以下、さらに好ましくは5.5以下に下げて処理を行うことが望ましい。なお、気液接触式の場合、G/L比(N−m /m)は5〜20の範囲が好ましい。
【0027】
また、ここで用いられる逆浸透装置は、第1の逆浸透装置3及び第2の逆浸透装置4があるが、いずれの逆浸透装置も純水製造に用いられる装置であれば特に限定されずに既存のものが使用可能である。
【0028】
本願においては、この逆浸透装置での被処理水の処理前に、脱気装置の処理水に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを添加してpH10以上のアルカリ条件とすることが必須の要件であり、このときpHを10.5以上とすることが好ましく、11より高いことがより好ましく、12より高いことが特に好ましい。図2に示したように、シリカの溶解度は高pH領域において高くなるため、このような高pHにすることによって、逆浸透膜のシリカスケールの抑制をすることができるのである。
【0029】
第1の逆浸透装置3及び第2の逆浸透装置4に使われる逆浸透モジュールは、耐アルカリ性のモジュールを使うことが可能であり、例えば、FT30、BW30(フィルムテック社製、商品名)、ES10、ES20、LF10(以上、日東電工株式会社製、商品名)、SU710、SU720(以上、東レ株式会社製、商品名)等が例示される。なお、両者を同じ種類のモジュールとすることもできるが、その必然性は無いため、第1の逆浸透装置3と第2の逆浸透装置4とで異なる種類のモジュールを使うことも可能である。
【0030】
第1の逆浸透装置3の水回収率は、任意に設定することが可能であるが、本発明においては、90〜95%に維持することが、同装置における硬度スケール等の発生を防ぐことができ、安定運転をするには好適である。
【0031】
また、第2の逆浸透装置4の水回収率は、97%以下で、かつ、次式(1)
Y≧100−50.5/(100−X) …(1)
(ただし、Yは第2の逆浸透装置の水回収率(%)、Xは第1の逆浸透装置の水回収率(%)を表す。)の関係を満たす範囲であることが好適である。
【0032】
上記のように、逆浸透装置の詰まりは、高濃縮側において先に進むので、大抵の場合、第2の逆浸透装置4で先に問題が発生する。
【0033】
その際、第2の逆浸透装置4は、第1の逆浸透装置3とは独立しているため、万が一第2の逆浸透装置4に詰まり等の不具合が発生した場合においても、第1の逆浸透装置3の運転は継続可能であり、純水の製造を停止するには至らず、純水製造装置の安定運転が可能である。しかし、第2の逆浸透装置4が無い場合、問題が発生するのは、第1の逆浸透装置3においてであり、この場合には、純水の製造を停止しなければならなくなってしまう。
【0034】
また、第2の逆浸透装置4において問題が発生しても、第2の逆浸透装置4は第1の逆浸透装置3に比べ、規模は1/50〜1/6程度しかないので、モジュール等の交換を行う必要が生じても、そのコストは、1/50〜1/6に抑制することが可能である。
【0035】
第2の逆浸透装置4の透過水水質は、第1の逆浸透装置3の透過水水質と比較して、特にナトリウムイオンが高い場合が多く、これは、pH調整のために添加された苛性ソーダが、濃縮されることが原因である。また、一般的に、他の元素と比較して除去率の低いホウ素も、第2の逆浸透装置4の透過水には多く含まれる。この透過水は、第1の逆浸透装置3の透過水と混合して、純水装置の後段に送ることも可能である。しかし、後段の装置の負担、さらには最終的に製造される超純水の水質の向上を図るためには、別に処理することがふさわしい。例えば、図1に示したように前段に戻して再度処理を行うことや、比較的純度の低い水で構わない工程への純水の供給へ回すことが可能である。
【0036】
第2の逆浸透装置4の濃縮水はそのまま排水処理にまわすことも可能であるが、前段の樹脂装置や脱気装置において発生した酸排水と混合して中和処理することも可能である。
【0037】
イオン交換樹脂装置、脱気装置、及び第1の逆浸透装置3、第2の逆浸透装置4は、この順に設置する必要があるが、これらの装置の間、及び前後に、任意の装置が組み込まれても構わない。装置として組み込まれるものの例としては、活性炭吸着装置、紫外線照射装置、膜処理装置、凝集沈殿処理装置等が挙げられる。
【0038】
第2の逆浸透装置4におけるスケールの防止を目的として、同装置の前で、スケール防止剤、殺菌剤、pH調整剤等の添加をしても構わない。スケール防止剤、殺菌剤、pH調整剤としては、特に制限は無く、既存のものが使用可能である。
【0039】
スケール防止剤としては、例えば、TriPol 8010 、TriPol 9010、TriPol 9510、TriPol 8510(以上、Trisep社製)、Hypersperse AF150UL、Hypersperse AF200UL、Hypersperse SI300(以上、GE社製)、Flocon 100、Flocon 135、Flocon 260(以上、BioLab社製)、ARRO−TREAT 1200、ARRO−TREAT 1300(以上、Arrowhead社製)、アクアフィード AF600(Noveon社製)、殺菌剤としては、既存のイソチアゾリン系殺菌剤等が挙げられる。
【0040】
この実施形態では、第1の逆浸透装置3における水回収率を上げることは行わず、別途設けた第2の逆浸透装置4で装置全体の水回収率を上げるようにしている。
【0041】
図1では、第1の逆浸透装置3の透過水を処理水ピット5に収容して、これをユースポイントへ供給する純水とし、濃縮水は、濃縮水ピット41に一旦収容し、これをポンプ42により第2の逆浸透装置4に供給するようにしている。
【0042】
ここで、濃縮水ピット41、ポンプ42を設けた目的は、第1の逆浸透装置の詰まりが発生したり、第1の逆浸透装置の運転条件が変わったりした場合、第1の逆浸透装置の濃縮水の圧力が変動しても、第2の逆浸透装置の運転条件がその変動に影響されないようにするためである。また、仮に、第2の逆浸透装置の詰まりが発生した場合に、第2の逆浸透装置のみを停止し、第2の逆浸透装置の洗浄、又はROモジュールの交換が可能である点で有利である。
【0043】
その一方、濃縮水ピット41を省略し、第1の逆浸透装置の濃縮水の残圧で第2の逆浸透装置を直接運転することも可能であり、この場合にはポンプ42を廃止することができ、装置構成が簡便に、処理コストを低減させることができる。
【実施例】
【0044】
以下、参考例、実施例及び比較例により本願発明を詳細に説明する。
【0045】
(比較例1)
まず、既存の第2の逆浸透装置において、通常使用される条件(通常50〜66%程度、もしくは技術的限界とされるにも80%程度以下)でも詰まる場合と詰まらない場合がある。そこで、その原因を確かめるため、種々の現場のデータを調査した。調査は、実機においては、様々な水質の被処理水を、第1の逆浸透装置の水回収率を90%、第2の逆浸透装置の水回収率を50%又は75%にて処理した。
実機において、その装置構成は図1に示した装置構成を有するものを使用し、第1の逆浸透装置および第2の逆浸透装置としては、比較例1A、1B、1Cは、東レ株式会社製、商品名:SU720、比較例1D,1E、1Fはフィルムテック社製、商品名:BW30−365が使用されていた。また、この実機における第1の逆浸透装置への供給水は、比較例1A、1D、1E、1Fは市水、比較例1B、1Cは井水をカチオン交換樹脂(ローム・アンド・ハース社製、商品名:デュオライト C20)および脱気装置(野村マイクロ・サイエンス株式会社製、商品名:N−Voicer)により処理して得られた水を用いた。また、このときの第1の逆浸透装置への供給水には水酸化ナトリウムを添加しpHを10.5に調整した。
【0046】
その結果を表2及び表3に示した。なお、表2及び表3において、約150日後の通水差圧(入口側−濃縮側の圧力差)が、通水開始初期より0.3kgf/cm以上上昇した場合を、詰まりありとした。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表2及び表3より、被処理水(第1の逆浸透装置の供給水)の水質のうち、シリカ濃度が低い場合に詰まりが生じる傾向があることが判明した。また、これらの試験後に膜の付着物を分析した結果も併せて示したが、硬度スケールによる詰まりがほとんどであった。
【0050】
この結果から、シリカと硬度成分が何らかの作用をして、硬度成分の析出を抑制する働きをしていると考えられる。また、特開平07−163979において、硬度成分とシリカが共存する条件において、シリカの溶解度を超える条件においてもシリカスケールが起きにくいという現象も開示されている。この文献には、シリカと硬度成分の相互作用に関しては記載されていないが、これら2つの成分が何らかの形で関与している可能性があると考えられる。
【0051】
(参考例1)
以上の比較例1の結果を元にした推定を確認するため、比較例1Dにおいて、第2の逆浸透装置の供給水にシリカを注入し、比較例1Dと同様に処理を行った参考例1について、その通水日数と第2の逆浸透装置入口側−濃縮側の通水差圧との関係を図3に示した。
【0052】
ちなみに、この参考例1としては、比較例1Dと同じ条件(第1の逆浸透装置の水回収率=90%、第2の逆浸透装置の水回収率=75%、濃縮倍率40倍とし、通水量は300L/分、運転圧力は約13kgf/cm)で操作を行いながら、第2の逆浸透装置の供給水にシリカ(水ガラス)を薬注ポンプにて添加して処理を行った(シリカ添加量:30ppm as SiO)。
【0053】
図3の結果から、シリカを供給した方が膜の詰まりが抑制される傾向があり、上記の仮説を支持する結果が得られた。
【0054】
(実施例1、比較例2〜3)
第2の逆浸透装置は、通常50〜66%程度で運転され、技術的にも80%程度が限界とされていた。しかし、上記の知見はこの限界を超えられる可能性を示唆している。すなわち、高濃縮側では、当然シリカの濃度も上がるので、上記のようなシリカと高度成分の共存による何らかの相互作用により、詰まりが抑制される可能性があるからである。
そこで、比較例1Dにおいて、第2の逆浸透装置の水回収率を次のように変動させながら比較例1Dと同様の処理を行って、第2の逆浸透装置の水回収率と詰まり(通水差圧)の関係を調査した。
【0055】
[比較例2]:比較例1Dとは、第2の逆浸透装置の水回収率を50%に変更した以外は同一の処理を行った。
[比較例3]:比較例1Dとは、第2の逆浸透装置の水回収率を90%に変更した以外は同一の処理を行った。
[実施例1]:比較例1Dとは、第2の逆浸透装置の水回収率を95%に変更した以外は同一の処理を行った。
【0056】
この結果を図4に示した。図4に示したように、第2の逆浸透装置の水回収率を上げていくと、次第に通水差圧が上昇する傾向はあるが、詰まりの速度の上昇は水回収率の上昇に見合ったものではなく、特に、水回収率を90%程度まで上げても詰まりの程度は激しくないことが確認された。したがって、このような条件での運転においても、図1の純水製造装置は十分に実用可能であることが確認された。
【0057】
このとき、第2の逆浸透装置の詰まりが激しい場合には、第2の逆浸透装置、又は第1の逆浸透装置の供給水にシリカ(水ガラス)を添加して、膜の詰まりを抑制するという運転も可能である。
【0058】
また、図4より、濃縮倍率と差圧上昇速度との関係を算出しまとめなおすと図5のように表すことができる。従来、概ね原点を通る直線(図5における点線)に近い傾向となることが予測され、実施不能と思われていたが、水回収率を上げても膜の詰まりがそれに比して大きくならない傾向が確認できた。なお、参考までに実施例1、比較例1D、比較例4で得られた透過水の水質について表4に示した。なお、比較例4は、比較例1Dと同様の装置で、第2の逆浸透装置の水回収率を98%まで向上させた場合の水質である。
【0059】
【表4】

【0060】
比較例1Dの場合、図1のシステム全体での水回収率は、97.5%である。同様に、実施例1の場合には、99.5%である。したがって、排水率は、比較例2の場合、2.5%、実施例1の場合には、0.5%であり、排水の量が1/5程度に低減されるという効果があることが確認された。
【0061】
また、比較例1Dと実施例1では、同じポンプを使用して、水回収率のみを変えている。したがって、本発明を使用すると、水回収率を向上させる際、動力費を上げずに、水回収率を上げることが可能という効果が得られることが確認された。
【0062】
(数値範囲の検討)
実施例1、比較例1D、比較例4を比較すると、第2の逆浸透膜の水回収率は、95%の場合に、第2の逆浸透装置の透過水43のホウ素濃度が被処理水のホウ素濃度と同じになり、第1の逆浸透装置の透過水33の水質(ホウ素濃度)は、比較例1Dと同等であった。しかし比較例4の場合には、第2の逆浸透装置の透過水43のホウ素濃度が被処理水の濃度より高くなり、その結果、第1の逆浸透装置の透過水水質も悪化した。したがって、これらの条件のうち、第1の逆浸透装置で製造する純水の水質を維持し、第2の逆浸透装置の透過水を循環再利用して水回収率を向上させるには、第2の逆浸透装置の水回収率が95%の場合が最善であることが確認できた。
【0063】
なお、ホウ素の除去率に注目する理由は、純水装置の後段における除去が最も困難な物質であることが理由である。また、実施例1、比較例1D、比較例4においては、第1の逆浸透装置の水回収率は90%であるが、第1の逆浸透装置の水回収率を変えた場合には、第2の逆浸透装置の水回収率の最善の値も変動すると考えられる。
【0064】
そこで、同様にして、第1の逆浸透装置の水回収率を50%(図示せず)、85%、93%、95%、98%とした場合の第2の逆浸透装置の透過水43と被処理水のホウ素濃度が同じになる条件として、第2の逆浸透装置の水回収率を参照しながら確認した。その結果を図6に示した。
【0065】
図6より、第2の逆浸透装置の透過水の水質と被処理水の水質が同等となる点からは、
Y=100−50.5/(100−X)
(ただし、X:逆浸透装置1の水回収率(%)、Y:逆浸透装置2の水回収率(%)を表す。)にて運転することが最善であることがわかった。
【0066】
次に、図6の各点における第1の逆浸透装置の透過水水質(ホウ素濃度)と第1の逆浸透装置の水回収率との関係をまとめると図7のようになる。
【0067】
図7から、第1の逆浸透装置の水回収率が95%を超えると、第1の逆浸透装置の透過水のホウ素濃度が急激に増加することから、第1の逆浸透装置の透過水のホウ素濃度の観点からは、第1の逆浸透装置の水回収率は95%以下であることが良いことがわかる。また、本発明の目的は、水回収率の向上なので、第1の逆浸透装置の水回収率は90%以下にすることは好ましくない。
【0068】
次に、図6に示した最善の水回収率の条件から、第2の逆浸透装置の水回収率のみを上げた場合に関して検討した。このとき、第1の逆浸透装置の水回収率を90%、95%とした場合の第2の逆浸透膜装置の水回収率と第1の逆浸透膜装置の透過水のホウ素濃度との関係を図8に示した。
【0069】
図8より、図6にて示した最善の水回収率よりも第2の逆浸透装置の水回収率を向上させることが可能であることがわかるが、水回収率が97%を超えると第1の逆浸透装置の透過水のホウ素濃度が急激に増加して水質を悪化させるので、第2の逆浸透装置の水回収率は97%が限界であることがわかった。
【0070】
以上の検討結果から、第1の逆浸透装置及び第2の逆浸透装置の水回収率は図9で示した斜線の範囲の条件に設定することが最善であることがわかった。
【0071】
(実施例2)
実施例1の装置において、第2の逆浸透装置を、日東電工社製、商品名:NTR−759HRに変更した以外は、同一の処理を行った。この場合の水質は表5に示した通りであり、表4の場合とほぼ同様であった。
【0072】
【表5】

【0073】
(実施例3)
実施例1の装置において、第2の逆浸透装置を、日東電工社製、商品名:ES−20に変更した以外は同一の処理を行った。この場合の水質は表6に示した通りであり、表4の場合とほぼ同様であった。
【0074】
【表6】

【0075】
以上より、第1の逆浸透装置及び第2の逆浸透装置の水回収率を、これまで水質が極めて悪化したり、逆浸透装置の膜が詰まったりと考えられていた条件であっても、それぞれ所定の範囲とすることにより、製造する純水の水質を極端に低下させることなく、純水製造装置全体の水回収率を極めて効率的に行いながら、純水を製造することができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の純水製造装置の一実施形態を示した図である。
【図2】シリカのイオン化とpH条件の変化の関係を示した図である。
【図3】参考例1における、通水日数と第2の逆浸透装置の通水差圧との関係を示した図である。
【図4】第2の逆浸透装置の水回収率を変化させたときの通水差圧との関係を示した図である。
【図5】第2の逆浸透装置における濃縮倍率と差圧上昇速度との関係を示した図である。
【図6】第2の逆浸透装置の透過水が被処理水と同程度のホウ素濃度となる際の、第1及び第2の逆浸透装置の水回収率の関係を示した図である。
【図7】第1の逆浸透装置の透過水のホウ素濃度と第1の逆浸透装置の水回収率との関係を示した図である。
【図8】第2の逆浸透膜装置の水回収率と第1の逆浸透膜装置の透過水のホウ素濃度との関係を示した図である。
【図9】透過水質を考慮したときの、第1の逆浸透装置及び第2の逆浸透装置の水回収率の最適と考えられる範囲を示した図である。
【符号の説明】
【0077】
1…カチオン交換樹脂装置、2…脱気装置、3…第1の逆浸透装置、4…第2の逆浸透装置、5…透過水ピット、11…被処理水ピット、12,32,42…ポンプ、41…濃縮水ピット、43…返送配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水をH型のカチオン交換樹脂塔に通水した後、脱ガス装置にて脱ガス処理し、次いでpH10以上のアルカリ性条件として第1の逆浸透装置に通水して純水を製造するに当たり、前記第1の逆浸透装置から排出されるアルカリ性の濃縮水を、別途設けられた第2の逆浸透装置に通水して、その透過水を前記第1の逆浸透装置の前段に返送する純水製造方法であって、
前記第1の逆浸透装置における水回収率を90〜95%とし、前記第2の逆浸透装置における水回収率を97%以下で、かつ、次式(1)
Y≧100−50.5/(100−X) …(1)
(ただし、Yは第2の逆浸透装置の水回収率(%)、Xは第1の逆浸透装置の水回収率(%)を表す。)の関係を満たす範囲とすることを特徴とする純水製造方法。
【請求項2】
前記第2の逆浸透装置から排出されるアルカリ性の濃縮水を、前記H型のカチオン交換樹脂塔の酸再生排液又は前記脱ガス装置の排ガスで中和処理することを特徴とする請求項1記載の純水製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−23006(P2010−23006A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191171(P2008−191171)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】