説明

紡機における管糸形成方法

【課題】ボビンを回転させるためのモータの小型化に寄与する管糸形成方法を提供する。
【解決手段】図2(a)のグラフにおける曲線Fは、リング181の高さ位置の変化を表す。図2(b)における曲線Dは、巻き取り開始時t1から巻き取り終了時t4に至るボビンB(スピンドル)の回転数の変化を示す。ボビンBは、巻き取り開始時t1から巻き取り途中の時間t5まで一定回転数Nで回転され、時間t5以降ではボビンBの回転数は、徐々に低減されてゆく。図2(c)における曲線Eは、巻き取り開始時t1から巻き取り終了時t4に至るモータで消費される電力の変化を示す。電力は、巻き取り開始時t1から巻き取り途中の時間t5まで徐々に増大してゆき、時間t5以降では減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィリングビルディングを行なう紡機における管糸形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リング精紡機、リング撚糸機等の紡機においては、機台運転中にリングレールの昇降運動を繰り返しながら次第にリングレールを移動させて糸の巻き取りを行なう、所謂フィリングビルディングで糸の巻き取りが行われる。
【0003】
特許文献1に開示の紡機では、フィリングビルディングによって下方から上方へ順にボビンに糸を巻き付けて管糸形成を行なう管糸形成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−303038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボビンに対する糸の巻き始めでは、ボビンの上方にある糸ガイドからボビンの下部の糸巻き付け位置にいたる距離が長いためにボビンの周囲に形成される一次バルーンが大きい。そのため、糸切れを防止するために、低速状態から徐々にボビンの回転数が上げられる。ボビン回転数及び管糸表面積の増加により、モータの消費電力は巻き始め時から徐々に増加する。巻き取りが進んで一次バルーンがある程度小さくなったところでボビンの回転数が最大となり、それ以降はこの最大値でボビンが回転される。
【0006】
糸の巻き終わりでは、ボビンの回転数が最大値に保たれた状態であり、かつ、管糸の表面積(周面積)が最大となるために、回転する管糸の周面の空気抵抗(風損)が最大となる。そのため、巻き終わりのモータの消費電力が巻き取り中において最大となるので、モータの定格容量は、巻き終わりにおいて必要とされる最大電力に合わせる必要がある。
【0007】
これは、モータの大型化の一要因となる。
本発明は、ボビンを回転させるためのモータの小型化に寄与する管糸形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フィリングビルディングによって糸を巻き付けて管糸を形成する紡機における管糸形成方法を対象とし、請求項1の発明では、ボビンの上部から糸を巻き始めて巻き位置を順に下方へ移してゆくようにリングレールを昇降させるとともに、前記糸の巻き始めから巻き終わりにかけて前記ボビンの回転数を小さくする。なお、本発明において、糸の巻き始めから巻き終わりにかけて前記ボビンの回転数を小さくするとは、巻き始めから巻き終わりの全期間にわたって連続的に回転数を小さくするのに加えて、巻き始めから巻き終わりまでの間の一部期間でのみボビンの回転数を小さくし、その他の期間ではボビンの回転数を一定とするものを含む。
【0009】
ボビンの上部に対する糸の巻き始めでは、ボビンの上方にある糸ガイドからボビンの上部の糸巻き付け位置に至る距離が短いためにボビンの周囲に形成される一次バルーンが小さい。そのため、巻き始めからボビンの回転数を増大させた運転を行なうことができる。一方、巻き始めは管糸の表面積が巻き終わりよりも小さいために、管糸周面の空気抵抗も巻き終わりに比べて少ない。従って、巻き始めにおいてボビンの回転数は大きいけれども管糸周面の空気抵抗が小さい分だけ、従来の管糸形成方法における巻き終わりよりも消費電力は小さい。そして、巻き始めから巻き終わりにかけては、管糸の表面積が大きくなる分だけ消費電力は増大傾向となるが、ボビンの回転数は減少するからその減少分だけ消費電力が低減される。従って、巻き始めから巻き終わりまでの消費電力の最大値は、従来の管糸形成方法における巻き終わり時の消費電力を下回る。
【0010】
ボビンを回転させるためのモータの定格容量は、必要とされる最大電力に合わせればよい。本発明の管糸形成方法による消費電力の最大値は、ボビンの下部から糸を巻き始めて巻き位置を順に上方へ移してゆく管糸形成方法に比べて、小さくなる。
【0011】
好適な例では、前記ボビンの回転数は、糸の巻き取り途中から連続して低減されてゆく。
このような回転数制御は、一次バルーンの増大及び風損の増大に応じたボビン回転数の望ましい推移をもたらす上で好適である。
【0012】
好適な例では、前記ボビンの回転数は、一定回転数で推移した後、前記糸の巻き取り途中から低減される。
このような回転数制御は、巻き取り開始から巻き取り終了までに掛かる時間を短くする上で好適である。
【0013】
好適な例では、リングレールには管糸カバーが連結されており、前記管糸カバーは、前記リングレールよりも上側にある。
糸の巻き終わり側では糸の巻き始め側に比べて一次バルーンが大きくなるが、管糸カバーは、糸の巻き終わり側での一次バルーンの大きさを抑制する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の管糸形成方法は、ボビンを回転させるためのモータの小型化に寄与し得るという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態を示すリング精紡機の概略構成図。
【図2】(a)は、リング位置の経時変化と管糸の形成状態とを示す模式図。(b)は、スピンドル(ボビン)回転数の経時変化を示すグラフ。(c)は、電力の経時変化を示すグラフ。
【図3】従来の管糸形成方法を説明するためのものであり、(a)は、リング位置の経時変化と管糸の形成状態とを示す模式図。(b)は、スピンドル(ボビン)回転数の経時変化を示すグラフ。(c)は、電力の経時変化を示すグラフ。
【図4】第2の実施形態を示すリング精紡機の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をリング精紡機に具体化した第1の実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。
図1に示すように、ドラフトパートを構成するフロントローラ11の回転軸111の端部には歯車12が止着されている。回転軸111は、モータMにより回転駆動されるドライビングシャフト13と歯車12との間に配設された歯車列(図示略)を介して回転駆動されるようになっている。スピンドル14は、ドライビングシャフト13に固定されたチンプーリ15との間に巻き掛けられたスピンドルテープ(図示略)を介して回転駆動されるようになっている。フロントローラ11及びスピンドル14は、フロントローラ11からのフリースの送り出し量(紡出量)と、スピンドル14の糸巻き取り量とが常に同量となるように回転される。両者の回転数比は、紡出条件(撚数)に対応して設定されている。モータMにはインバータ16を介して駆動される可変速モータが使用されている。歯車12の近傍にはフロントローラ11の回転に対応してパルス信号を出力するセンサS1が配設されている。
【0017】
リフティング装置は、ラインシャフト17を介してリングレール18及びラペットアングル19を昇降させるようになっている。ラペットアングル19にはスネルワイヤ191が取り付けられており、フロントローラ11から送り出された糸Yがスネルワイヤ191を経てリング181上を摺動するトラベラ20に導かれるようになっている。
【0018】
ラインシャフト17は、精紡機の機台の長手方向に沿って配設されており、ラインシャフト17には所定間隔でねじ歯車21(図1では1個のみ図示)が一体回転可能に止着されている。リングレール18は、複数のポーカピラー22(図1では1本のみ図示)により支持されている。ポーカピラー22は、上下方向に移動可能に機台フレーム(図示略)に支承されており、ポーカピラー22の下部側にはスクリュー部221が形成されている。スクリュー部221は、機台フレームの所定高さ位置に回転可能に支持されたナット体23に螺合している。ナット体23の外周にはねじ歯車21と噛合するねじ歯車(図示略)が一体に形成されている。ラペットアングル19も同様な昇降機構でリングレール18と同期して昇降可能となっている。
【0019】
ラインシャフト17は、サーボモータ24の駆動軸に歯車列(図示略)を介して連結されている。サーボモータ24は、制御手段としての制御装置25によりサーボドライバ26を介して駆動制御される。サーボモータ24にはロータリエンコーダ27が装備されている。ラインシャフト17は、サーボモータ24により駆動され、回転速度及び回転方向が自由に変更可能となっている。ラインシャフト17、ポーカピラー22、ナット体23、サーボモータ24及び歯車列は、リフティング装置を構成する。
【0020】
制御装置25は、CPU(中央処理装置)29、プログラムメモリ(ROM)30、作業用メモリ(RAM)31、入力装置32、入力インタフェース33、出力インタフェース34、主モータ駆動回路35及びサーボモータ駆動回路36を備えている。CPU29は、出力インタフェース34及び主モータ駆動回路35を介してインバータ16に電気的に接続されており、サーボモータ24は、サーボドライバ26、サーボモータ駆動回路36及び出力インタフェース34を介してCPU29に電気的に接続されている。
【0021】
制御装置25にはカウンタ37が設けられている。カウンタ37は、ロータリエンコーダ27及びCPU29と電気的に接続されている。カウンタ37にはアップダウンカウンタが使用されている。カウンタ37は、サーボモータ24の正転時にロータリエンコーダ27からの出力パルスが入力されるとカウント値が増加し、サーボモータ24の逆転時にロータリエンコーダ27からの出力パルスが入力されるとカウント値が減少するように構成されている。
【0022】
CPU29は、プログラムメモリ30に記憶された所定のプログラムデータに基づいて動作する。プログラムメモリ30は、読出し専用メモリ(ROM)よりなり、プログラムメモリ30には前記プログラムデータと、その実行に必要な各種データとが記憶されている。各種データとしては、例えば、紡出糸番手及び紡出運転時のスピンドル回転数等の紡出条件や、満管までのリングレール18のチェース回数の対応データがある。
【0023】
プログラムメモリ30には、紡出条件に対応した、機台の起動時から満管に伴う停止時までのモータMの速度変化基準パターンや、機台の起動時から満管に伴う停止時までのリングレール18の反転位置等のマップあるいは関係式が記憶されている。
【0024】
作業用メモリ31は、読出し及び書替え可能なメモリ(RAM)よりなる。作業用メモリ31は、入力装置32により入力されたデータやCPU29における演算処理結果等を一時記憶する。
【0025】
入力装置32は、紡出糸番手、紡出運転時のスピンドル回転数、紡出長、リフト長、基準チェース長等の紡出条件データの入力に使用される。
CPU29は、入力インタフェース33を介してセンサS1及びロータリエンコーダ27と電気的に接続されている。CPU29は、センサS1からの出力信号に基づいて紡出量を演算する。CPU29は、ロータリエンコーダ27の出力信号に基づいてリングレール18の移動方向、即ち上昇か下降かを認識するとともに、カウンタ37のカウント値に基づいてリングレール18の位置を演算する。
【0026】
次に、前記のように構成された装置の作用を説明する。機台の運転に先立って、まず、紡出糸番手、紡出運転時のスピンドル回転数、紡出長、リフト長、基準チェース長等の紡出条件データが入力装置32により入力される。リフティング装置、ドラフトパート及びスピンドル駆動系は、独立した状態で、しかも同期した状態で駆動される。
【0027】
CPU29は、入力装置32により入力されて作業用メモリ31に記憶された紡出条件に従って、サーボモータ24をモータMと同期して駆動制御する。サーボモータ24が駆動されると、歯車列を介してラインシャフト17が回転されると共に、ねじ歯車21を介してナット体23が回転される。そして、ナット体23に螺合されたポーカピラー22がリングレール18等とともに上昇あるいは下降移動される。サーボモータ24の正転時にはリングレール18等が上昇移動され、逆転時には下降移動される。又、フロントローラ11から送り出された糸Yは、スネルワイヤ191及びトラベラ20を経てボビンBに巻き取られる。これにより管糸38が形成される。
【0028】
CPU29は、リングレール18が下限位置DLに達するまでは、図2に示すように、リングレール18の下降過程から上昇過程に移行する下部反転位置PLの下方への変位量Duを、巻き始めから一定になるようにリングレール18を昇降させる。
【0029】
本実施形態では、1回のチェース長Lcを一定に保持し、かつリングレール18の下部反転位置PLの下方への変位量Duが同じになるように、CPU29は、予め入力された1チェースの上昇量あるいは下降量と対応する距離をリングレール18が移動した時点で、サーボモータ24の回転方向を変更するようにサーボモータ24を駆動制御する。従って、リングレール18の上昇過程から下降過程に移行する上部反転位置PUの下方への変位量Ddも一定となるようにリングレール18が昇降される。
【0030】
巻き取り開始から巻き取り終了(巻き終わり)までにおけるリング181の昇降作動範囲は、図2(a)のグラフに示すようになる。図2(a)のグラフにおける曲線Fは、リング181の高さ位置の変化を表す。横軸は、時間を表し、縦軸は、リング181の高さ位置を表す。B1で示すボビンは、時間t1(巻き取り開始時)における巻き取り量を示し、B2で示すボビンは、時間t2(巻き取り前半の途中)における巻き取り量を示す。B3で示すボビンは、時間t3(巻き取り後半の途中)における巻き取り量を示し、B4で示すボビンは、時間t4(巻き取り終了時)における巻き取り量を示す。
【0031】
図2(b)における曲線Dは、巻き取り開始時t1から巻き取り終了時t4に至るスピンドル14の回転数(ボビンBの回転数)の変化を示す。図2(b)のグラフにおける横軸は、時間を表し、縦軸は、スピンドル回転数を表す。ボビンBは、巻き取り開始時t1から巻き取り途中の時間t5まで一定回転数Nで回転され、時間t5以降ではボビンBの回転数は、徐々に低減されてゆく。横軸、縦軸及び曲線Dで囲まれた領域の面積は、ボビンBに巻き取られた糸Yの巻き取り量を表す。
【0032】
図2(c)における曲線Eは、巻き取り開始時t1から巻き取り終了時t4に至るモータMで消費される電力の変化を示す。図2(c)のグラフにおける横軸は、時間を表し、縦軸は、電力を表す。電力は、巻き取り開始時t1から巻き取り途中の時間t5まで徐々に増大してゆき、時間t5以降では徐々に減少する。
【0033】
図3(a)は、ボビン下部から巻き取り開始して上方へ順に移動してゆく従来の管糸形成方法の場合におけるリング181の昇降作動範囲のグラフを示す。図3(a)のグラフにおける横軸は、時間を表し、縦軸は、リング181の高さ位置を表す。
【0034】
図3(a)のグラフにおける曲線Foは、リング181の高さ位置の変化を表す。B5で示すボビンは、時間t1(巻き取り開始時)における巻き取り量を示し、B6で示すボビンは、時間t2(巻き取り前半の途中)における巻き取り量を示す。B7で示すボビンは、時間t3(巻き取り後半の途中)における巻き取り量を示し、B8で示すボビンは、時間t4(巻き取り終了時)における巻き取り量を示す。
【0035】
図3(b)における曲線Doは、巻き取り開始時t1から巻き取り終了時t4に至るスピンドル14の回転数(ボビンBの回転数)の変化を示す。図3(b)のグラフにおける横軸は、時間を表し、縦軸は、スピンドル回転数を表す。ボビンBは、巻き取り開始時t1から巻き取り途中の時間t5まで一定回転数Nに向けて徐々に増大され、時間t5以降ではボビンBは、一定回転数Nで回転される。横軸、縦軸及び曲線Doで囲まれた領域の面積は、ボビンBに巻き取られた糸Yの巻き取り量を表す。この場合の巻き取り量は、図2(b)の場合と同じとしている。
【0036】
図3(c)における曲線Eoは、巻き取り開始時t1から巻き取り終了時t4に至るモータM〔図1参照〕で消費される電力の変化を示す。図3(c)のグラフにおける横軸は、時間を表し、縦軸は、電力を表す。電力は、巻き取り開始時t1から巻き取り終了時t4まで徐々に増大してゆく。巻き取り開始時t1から時間t5まではスピンドル回転数及び管糸の表面積の両方が増加するのに対して、時間t5から巻き取り終了時t4まではスピンドル回転数は一定で管糸の表面積のみが増加するため、曲線Eoの増加勾配は巻き取り開始時t1から時間t5までの方が時間t5から巻き取り終了時t4までより大きい。従って、図3(c)に曲線Eoで示す従来技術の電力の推移では、巻き取り終了時t4にて電力が最大となる。しかし、図2(c)に曲線Eで示す本実施形態の電力の推移では、電力は巻き取り終了時t4ではなく時間t5(スピンドル回転数の減速開始時)において最大値Wとなる。図3に示す従来技術では、最大値Woとなる巻き取り終了時t4はスピンドル回転数及び管糸の表面積の両方が最大であるのに対して、図2に示す本実施形態では電力が最大値Wとなる時間t5ではスピンドル回転数は最大であるものの、管糸の表面積は巻き取り終了時t4より小さく、その分だけ回転する管糸の周面の空気抵抗(風損)も小さい。従って、図2(c)に示す最大値Wは、図3(c)に曲線Eoで示す電力の最大値Woよりも小さい。
【0037】
即ち、ボビンBの下部から糸を巻き始める従来の場合には、ボビンの下部に対する糸の巻き始めでは、管糸38の表面積が巻き終わりに比べて小さいために、その分だけ回転する管糸38の周面の空気抵抗は少ないが、ボビンBの上方にあるスネルワイヤ191(糸ガイド)からボビンBの下部の糸巻き付け位置にいたる距離が長いためにボビンBの周囲に形成される一次バルーンが巻き終わりよりも大きい。そのため、糸切れを防止するためにボビンの回転数をあまり大きくすることができず、ボビンの下部に対する糸の巻き始めでは、ボビンBの回転数を低速状態から徐々に増大するような運転が行われる〔図3(b)参照〕。
【0038】
又、糸の巻き終わりでは、スネルワイヤ191からボビンBの上部の糸巻き付け位置にいたる距離が短いために一次バルーンは巻き始めに比べて小さい。そのため、糸の巻き終わりでは、生産性を考慮してボビンBの回転数を最大とした運転が行われるが、巻き始めに比べて管糸38の表面積が大きいために、その分だけ回転する管糸38の周面の空気抵抗が大きい。従って、巻き取りが進んで管糸38の表面積が大きくなる分だけ電力も大きくなる。その結果、ボビンBの下部から糸を巻き始める従来の場合には、電力は、図3(c)の曲線Eoで示すように推移する。
【0039】
一方、ボビンBの上部から糸を巻き始める本実施形態の場合には、ボビンBの上部に対する糸の巻き始めでは、ボビンBの上方にあるスネルワイヤ191からボビンBの上部の糸巻き付け位置にいたる距離が短いためにボビンBの周囲に形成される一次バルーンが巻き終わりよりも小さい。そのため、巻き始めからボビンBの回転数を最大値Nとした運転を行なうことができる。しかも、管糸38の表面積は巻き終わりよりも小さいために、回転する管糸38の周面の空気抵抗も巻き終わりに比べて少ない。従って、巻き始めにおいて、ボビンBの回転数は最大であるけれども管糸38の表面積が小さい分だけ、従来技術の巻き終わりよりも電力は小さい。巻き取り開始時t1から時間t5までは、ボビンBの回転数は最大値Nのままであるが巻き取りが進むにつれ管糸38の表面積が増える分だけ、電力も増加する。一方、時間t5からはスピンドル回転数が徐々に減少される。これは、ボビンBの回転数を下げないと糸切れが生じる程度にまで一次バルーンが大きくなるためである。なお、時間t5からのスピンドル回転数の減速勾配は、従来技術の巻き取り開始時t1から時間t5までの増速勾配に対応している。時間t5から巻き取り終了時t4にかけて管糸38の表面積が増えるが、それよりもスピンドル回転数の減速による影響の方が大きくなるため、時間t5から巻き取り終了時t4にかけて電力は徐々に減少する。従って、本実施形態においては、電力は時間t5において最大値Wとなる。なお、時間t5からのスピンドル回転数の減速勾配を従来技術の巻き取り開始時t1から時間t5までの増速勾配よりも小さくした場合には、スピンドル回転数の減速による影響が管糸38の表面積増大の影響を下回り、時間t5における電力Wよりも電力が増大する場合も起こり得る。しかし、この場合であっても、巻き取り終了時t4においてはスピンドル回転数は必ず従来技術に比べて小さくなるから、電力の最大値が従来技術の巻き取り終了時t4の最大値Woを上回ることはない。
【0040】
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
(1)ボビンBを回転させるためのモータMの定格容量は、図2(c)に曲線Eで示す電力の推移から明らかなように、時間t4(スピンドル回転数の減速開始時)において必要とされる最大電力Wに合わせればよい。この場合の最大電力Wは、ボビンBの下部から糸Yを巻き始めて巻き位置を順に上方へ移してゆく従来の管糸形成方法における電力の推移〔図3(c)の曲線Eo参照〕における最大値Woと比べて、小さくなる。従って、本実施形態の管糸形成方法は、ボビンBを回転させるためのモータMの小型化に寄与する。
【0041】
(2)図2(b)に曲線Dで示すように、糸Yの巻き終わりにおけるボビンBの回転数は、糸Yの巻き始めにおけるボビンBの回転数よりも低くしている。このような運転制御は、一次バルーンの大きさに対応した糸切れの防止に有効である。
【0042】
(3)糸Yの巻き取り位置がボビンBの上から下へ移行するにつれて、一次バルーン及び風損が増大してゆく。そのため、ボビンBの回転数(スピンドル14の回転数)は、糸Yの巻き取り途中から下げてゆくのが望ましい。
【0043】
図2(b)に曲線Dで示すような回転数制御は、一次バルーンの増大及び風損の増大に応じた好ましい回転数制御である。
(4)図2(b)に曲線Dで示すように、ボビンBの回転数は、一定回転数Nで推移した後、糸Yの巻き取り途中から低減される。このような回転数制御は、一次バルーンが小さく、且つ風損が小さいときに巻き取り速度を上げて、巻き取り開始から巻き取り終了までに掛かる時間を短くする上で好適である。
【0044】
本発明では以下のような実施形態も可能である。
○図4に示す第2の実施形態のように、リングレール18に支持具39を介して連結された円筒形状の管糸カバー40をリングレール18よりも上側に配置してもよい。管糸カバー40の長さは、管糸38の長さとほぼ等しくされている。巻き取りの間は常に管糸38が管糸カバー40により覆われるため、管糸38の周面の空気抵抗(風損)がさらに小さくなり、さらにモータMの消費電力を低減することができる。なお、管糸38の周面における風損を管糸カバーにより低減することは従来から提案されているが、下方から上方へ順にボビンに糸を巻き付けて管糸形成を行なう従来の管糸形成方法では、巻き取り中の管糸38を覆うためにはリングレール18の下方に管糸カバーを設ける必要があった。しかし、リングレール18の下方には十分な長さの管糸カバーを設けるだけのスペースが無いため、管糸カバーによる消費電力低減を図ることは実質的に困難であった。しかし、本実施形態によれば、十分に取付けスペースを確保することが可能なリングレール18の上方に管糸カバー40を設けることで、巻き取りの間は常に管糸38が管糸カバー40により覆われ、管糸カバー40による消費電力低減を実現することができる。なお、管糸カバー40は円筒状に限らず、隣接する錘間に配置される板状であってもよい。
【0045】
○第1の実施形態において、糸の巻き取り途中からボビン回転数を連続して低減した後、低減後の最低回転数で巻き取り終了まで推移するようにしてもよい。
○第1の実施形態における曲線Dの傾斜部分が曲線となるような回転数低減をおこなうようにしてもよい。
【0046】
○ボビンの回転数が糸の巻き始めから巻き終わりまで連続して低減されてゆくようにしてもよい。
○特許文献1に開示のように、糸の巻き始めに増量巻きを行なってもよい。第1の実施形態においてこのような増量巻きを行なう場合には、この増量巻き後に図2(b)に示す曲線Dで示すような回転数制御が引き続いて遂行される。
【0047】
○特許文献1に開示のように、糸の巻き終わりに増量巻きを行なってもよい。第1の実施形態においてこのような増量巻きを行なう場合には、この増量巻き前に図2(b)に示す曲線Dで示すような回転数制御が予め遂行される。
【符号の説明】
【0048】
18…リングレール。38…管糸。40…管糸カバー。B…ボビン。Y…糸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィリングビルディングによって糸を巻き付けて管糸を形成する紡機における管糸形成方法において、
ボビンの上部から糸を巻き始めて巻き位置を順に下方へ移してゆくようにリングレールを昇降させるとともに、前記糸の巻き始めから巻き終わりにかけて前記ボビンの回転数を小さくする紡機における管糸形成方法。
【請求項2】
前記ボビンの回転数は、糸の巻き取り途中から連続して低減されてゆく請求項1に記載の紡機における管糸形成方法。
【請求項3】
前記ボビンの回転数は、一定回転数で推移した後、前記糸の巻き取り途中から低減される請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載の紡機における管糸形成方法。
【請求項4】
前記リングレールには管糸カバーが連結されており、前記管糸カバーは、前記リングレールよりも上側にある請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の紡機における管糸形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−281020(P2010−281020A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137510(P2009−137510)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】