説明

紡糸装置、不織布製造装置、不織布の製造方法及び不織布

【課題】繊維径の小さい繊維を安定して生産性良く紡糸できる紡糸装置、この紡糸装置を備えた不織布製造装置、前記不織布製造装置を用いる不織布の製造方法、及び前記製造方法により製造した不織布を提供する。
【解決手段】本発明の紡糸装置は、紡糸液を吐出できる液吐出部を1箇所以上と、前記いずれの液吐出部よりも上流側に位置し、線状に伸びる、ガスを吐出できるガス吐出部1箇所以上とを有する、吐出した紡糸液に対して、ガスおよび随伴気流による剪断力を1本の直線状に作用させることのできる紡糸装置である。本発明の不織布製造装置は、前記紡糸装置に加えて、繊維の捕集体を備えている。本発明の不織布の製造方法は、前記不織布製造装置を用いる方法である。更に、本発明の不織布は前記製造方法により製造した不織布である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紡糸装置、この紡糸装置を備えた不織布製造装置、前記不織布製造装置を用いる不織布の製造方法、及び前記製造方法により製造した不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布を構成する繊維の繊維径が小さいと、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れているため、不織布を構成する繊維の繊維径は小さいのが好ましい。このような繊維径の小さい繊維からなる不織布の製造方法として、紡糸液をノズルから吐出するとともに、吐出した紡糸液に電界を作用させて紡糸液を延伸し、細径化した後に捕集体上に直接捕集して不織布とする、いわゆる静電紡糸法が知られている。この静電紡糸法によれば、平均繊維径1μm以下の繊維からなる不織布を製造することができる。しかしながら、静電紡糸法は紡糸液の吐出量に限界があるため生産性の悪い方法であった。
【0003】
この生産性の改善を期待できる紡糸装置として、図2に示すような「圧縮ガス流を用いることによってナノファイバーの不織マットを形成する装置は、平行な間隔を設けた第1(12)、第2(22)及び第3(32)部材を含み、各々は、供給端部(14,24,34)及び対向出口端部(16,26,36)を有する。第2部材(22)は第1部材(12)に隣接する。第2部材(22)の出口端部(26)は、第1部材(12)の出口端部(16)を越えて延びる。第1(12)及び第2(22)部材は、第1供給スリット(18)を画成する。第3部材(32)は、第1部材(12)の第2部材(22)から反対側で第1部材(12)に隣接して位置する。第1(12)及び第3(32)部材は第1ガススリット(38)を画成し、第1(12)、第2(22)及び第3(32)部材の出口端部(16,26,36)はガスジェット空間(20)を画成する。圧縮ガス流を用いることによってナノファイバーの不織マットを形成する方法も含まれる」が提案されている(特許文献1)。この装置は高電圧を印加する必要がないため、生産性を改善できることが期待できる。しかしながら、この装置においては平板状の第1、第2及び第3部材を平行に設けていることから、シート状の紡糸液に対してシート状の圧縮ガスを作用させることになり、繊維形状になりにくく、液滴を多く含むものとなり、繊維形状にできたとしても太い繊維しか形成できないものであると考えられた。
【0004】
同様の紡糸装置として、「センターチューブ、センターチューブに同心状かつ離間して位置する第1供給チューブ、第1供給チューブに同心状かつ離間して位置する中間ガスチューブ、中間ガスチューブに同心状かつ離間して位置する第2供給チューブを備え、センターチューブと第1供給チューブは第1環状コラムを形成し、中間ガスチューブと第1供給チューブは第2環状コラムを形成し、中間ガスチューブと第2供給チューブは第3環状コラムを形成し、第1ガスジェット空間がセンターチューブと第1供給チューブの下流側端部に形成され、第2ガスジェット空間が中間ガスチューブと第2供給チューブの下流側端部に形成されるように位置している、圧縮ガスを用いるナノファイバー製造装置」が提案されている(特許文献2)。この製造装置も高電圧を印加する必要がないため、生産性を改善できることが期待できる。しかしながら、この装置においても、環状に吐出された紡糸液に対して柱状又は環状のガスジェットを作用させるため、紡糸が不安定で繊維形状になりにくく、液滴を多く含むものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−515316号公報(要約、表1など)
【特許文献2】米国特許第6520425号公報(要約、図2など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、繊維径の小さい繊維を安定して生産性良く紡糸できる紡糸装置、この紡糸装置を備えた不織布製造装置、前記不織布製造装置を用いる不織布の製造方法、及び前記製造方法により製造した不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
[1]紡糸液を吐出できる液吐出部を1箇所以上と、前記いずれの液吐出部よりも上流側に位置し、線状に伸びる、ガスを吐出できるガス吐出部1箇所以上とを有する、次の条件を満足する紡糸装置:
(1)液吐出部を端部とする液用柱状中空部(Hl)を有する、
(2)ガス吐出部を端部とするガス用柱状中空部(Hg)を有する、
(3)液用柱状中空部(Hl)を延長した液仮想柱状部(Hvl)とガス用柱状中空部(Hg)を延長したガス仮想柱状部(Hvg)とは近接している、
(4)液用柱状中空部(Hl)の吐出方向中心軸とガス用柱状中空部(Hg)の吐出方向中心軸とが平行である、
(5)ガス用柱状中空部(Hg)の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部(Hg)の切断面の外周と液用柱状中空部(Hl)の切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる、
[2]前記[1]の紡糸装置に加えて、繊維の捕集体を備えている不織布製造装置、
[3]前記[2]の不織布製造装置を用いる不織布の製造方法、
[4]前記[3]の製造方法により製造した不織布
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の前記[1]の紡糸装置は、液吐出部から吐出された紡糸液とガス吐出部から吐出されたガスとは近接しており、平行であり、しかも紡糸液にはガスおよび随伴気流による剪断力が1本の直線状に作用するため、細径化した繊維を安定して紡糸できる。また、ガスの作用によって繊維を紡糸しているため、紡糸液の吐出量を増やすことができ、生産性良く紡糸することができる。
【0009】
本発明の[2]の不織布製造装置は、前記紡糸装置に加えて、繊維の捕集体を備えているため、紡糸された繊維を捕集することにより、繊維径の小さい繊維を含む不織布を安定して、生産性良く製造することができる。
【0010】
本発明の[3]の製造方法は、前記不織布製造装置を用いているため、繊維径の小さい繊維を含む不織布を安定して、生産性良く製造することができる。
【0011】
本発明の[4]の不織布は、前記製造方法により製造した不織布であるため、繊維径の小さい繊維を含む不織布である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)本発明の紡糸装置の模式的部分斜視図である。(b)前記(a)における平面Cでの部分切断図である。
【図2】従来の紡糸装置の断面図である。
【図3】従来のノズルの配置を表す横断面平面図である。
【図4】本発明の別の紡糸装置の部分切断図である。
【図5】本発明の更に別の紡糸装置の部分切断図である。
【図6】本発明の更に別の紡糸装置の部分切断図である。
【図7】本発明の不織布製造装置の模式的断面説明図である。
【図8】比較例2で使用したメルトブロー装置用ダイの模式的部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の紡糸装置について、紡糸装置の模式的斜視図である図1(a)、及び図1(a)におけるC平面での切断図である図1(b)をもとに説明する。
【0014】
図1に示す紡糸装置は、紡糸液を吐出できる液吐出部を一方の端部に有する液吐出ノズルを複数個、一直線状に配列した液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・が、ガスを吐出でき、一直線状に伸びるガス吐出部Egを一方の端部に有するガス吐出プレートPgの一方の外壁面に当接し、ガス吐出プレートPgのガス吐出部Egが液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・のいずれの液吐出部El、El、El・・よりも上流側となる位置にある。なお、各液吐出ノズルはいずれも液吐出部El、El、El・・を端部とする液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・を有し、ガス吐出プレートPgはガス吐出部Egを端部とするガス用柱状中空部Hgを有している。また、液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・を延長したいずれの液仮想柱状部Hvl、Hvl、Hvl・・も、ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgとは、各液吐出ノズルの壁厚とガス吐出プレートPgの壁厚の和に相当する距離だけ離れて近接した状態にある。しかも液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・のいずれの吐出方向中心軸Al、Al、Al・・もガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agと平行である関係にある。更には、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面Cで切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外形が長方形であり、各液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・の切断面の外形はいずれも円形であり、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と各液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・の切断面の外周との距離が最も短い直線L、L、L・・を、いずれの組み合わせにおいても、1本だけ引くことができる状態にある(図1(b)参照)。
【0015】
そのため、図1のような紡糸装置の液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・の各液吐出ノズルに紡糸液を供給し、ガス吐出プレートPgにガスを供給すると、紡糸液はそれぞれ液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・を通り、各液吐出部El、El、El・・から各液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・の軸方向Al、Al、Al・・にそれぞれ吐出されると同時に、ガスはガス用柱状中空部Hgを通りガス吐出部Egからガス用柱状中空部Hgの軸方向Agに吐出される。この吐出されたガスと吐出された各紡糸液とはいずれも近接した状態にあり、各液吐出部El、El、El・・の直近においては、吐出ガスの中心軸Agと各吐出紡糸液の中心軸Al、Al、Al・・とがいずれも平行関係にあり、しかもC平面上、吐出されたガスと吐出された紡糸液とは、いずれの組み合わせにおいても最も近い点が1箇所であることから、つまり、いずれの紡糸液も1本の直線状にガスおよび随伴気流による剪断作用を受け、細径化しながら液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・の軸方向Al、Al、Al・・へそれぞれ飛翔し、繊維化する。
【0016】
液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・の各液吐出ノズルは紡糸液を吐出できるものであれば良く、その外形は特に限定するものではなく、例えば、円形、長円形、楕円形、多角形(例えば、三角形、四角形、六角形)であることができるが、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくいように、円形であるのが好ましい。つまり、外形が円形であると、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面Cで切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と各液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・の切断面の外周との距離が最も短い直線L、L、L・・を、いずれの組み合わせにおいても1本だけ引くことができる状態となりやすいため、吐出されたいずれの紡糸液もガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくなる。なお、液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・における各液吐出部El、El、El・・の外形は同じ外形であっても良いし、異なる外形であっても良いが、いずれも円形であるのが好ましい。
【0017】
液吐出部として、外形が多角形の液吐出ノズルを含んでいる場合には、多角形の1つの角をガス吐出プレート側となるように配置して、ガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、液滴を生じにくくするのが好ましい。つまり、ガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面Cで切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と各液用柱状中空部Hl11、Hl12、Hl13・・、Hl21、Hl22、Hl23・・の切断面の外周との距離が最も短い直線L11、L12、L13・・、L21、L22、L23・・(図6参照)を、1本だけ引くことができるように各液吐出ノズルを配置すると、各紡糸液はガス及び随伴気流の剪断作用を1本の直線状に受け、安定して紡糸でき、液滴を生じにくくなる。
【0018】
また、液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・の各液吐出ノズルの各液吐出部El、El、El・・の大きさも特に限定するものではないが、いずれも0.01〜20mmであるのが好ましく、0.01〜2mmであるのがより好ましい。0.01mmよりも小さいと、粘度の高い紡糸液を吐出するのが困難になる傾向があり、20mmを超えると、ガス及び随伴気流の作用を1本の直線状にするのが難しくなり、安定して紡糸できなくなる傾向があるためである。なお、全部の液吐出部El、El、El・・の大きさが同じであっても良いし、異なる大きさの液吐出部El、El、El・・が混在していても良いが、同じ大きさであれば、繊維径の揃った繊維を紡糸しやすい。
【0019】
液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・の各液吐出ノズルの材質は金属製であっても樹脂製であってもよく、その素材は特に限定するものではない。また、金属製又は樹脂製のチューブを用いることもできる。金属製であれば、一部又は全部の液吐出ノズルに対して電圧を印加することによって、紡糸液に対して電界を作用させることができる。更に、図1においては、円柱状の液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・を図示しているが、先端が傾斜を持って切断された鋭角ノズルを使用することもできる。この鋭角ノズルの場合、紡糸液の粘度が高い場合に有効である。このような鋭角ノズルを使用する場合、尖った側をガス吐出プレート側とすると、ガス及び随伴気流の剪断作用を受けやすく、安定して紡糸できる。
【0020】
なお、図1においては、液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・をガス吐出プレートPgの一方の外壁面のみに当接させて配置しているが、片面だけではなく、対向する外壁面に対しても液吐出ノズル群を当接させ、配置することができる(図5参照)。このように配置することによって、紡糸液の吐出量を更に多くすることができるため、更に生産性良く紡糸することができる。
【0021】
図1におけるガス吐出プレートPgは1つのガス吐出部Egが一直線状に伸びているが、一直線状である必要はない。例えば、曲線、波線、円状、X字状、コの字状、渦巻状、三角形状、四角形状、或いはこれらを組み合わせて線状に伸びていても同様の効果を奏する。また、図1においては、ガス吐出部Egを1つだけ有するガス吐出プレートPgを図示しているが、線状に伸びている限り、2つ以上のガス吐出部に区分けされたガス吐出プレートPgであっても、ガス吐出プレートPg2組以上であっても使用することができる。また、ガス吐出プレートPgは図1のようにガス用柱状中空部Hgを囲む部材とすることもできるが、2枚の板状部材と、前記板状部材間にスリット(ガス用柱状中空部Hg)を形成できるスペーサーを組み合わせてガス吐出プレートPgとすることもできる。この場合、スペーサーの大きさを選定することでスリット幅(線状に伸びる方向に対して直角方向の長さ)を自由に変えられ、汎用性に優れるという利点がある。
【0022】
また、スリット(ガス吐出部Eg)の線状に伸びる方向の長さは特に限定するものではないが、生産性の点から3cm以上であることが好ましく、長さ方向におけるガス吐出量が均一であるように、4m以内であることが好ましい。また、スリット幅は特に限定するものではないが、少ないガス量で紡糸を行うことができるように、10mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下であることが更に好ましい。また、ガス吐出プレートPgにおけるガス用柱状中空部Hgのガス吐出方向における長さ(図1(a)の紙面における上下方向における長さ)は、特に限定するものではないが、安定してガスを吐出できるように、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることが更に好ましい。なお、ガス用柱状中空部Hgよりも上流側はどのような構造を有していても良い。また、図1ではガス吐出プレートPgのガス吐出側端部はガス吐出中心軸Agに対して垂直な平面を形成しているが、傾斜をつけることも可能である。
【0023】
なお、ガス吐出プレートPgは金属製であっても樹脂製であっても良く、その素材は特に限定しない。
【0024】
ガス吐出プレートPgはガス吐出部Egが、液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・のいずれの液吐出部El、El、El・・よりも上流側(紡糸液の供給側)となる位置に配置されているため、各液吐出ノズルの周辺へ紡糸液が巻き上がるのを防止できる。そのため、各液吐出部El、El、El・・を汚すことなく、長時間の紡糸が可能である。なお、ガス吐出部Egと各液吐出ノズルの液吐出部El、El、El・・との距離は特に限定するものではないが、いずれも10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。10mmを超えると吐出された紡糸液に対するガス及び随伴気流の剪断力が不十分となり、繊維化しにくくなる傾向があるためである。ガス吐出部Egと各液吐出部El、El、El・・との距離の下限は特に限定するものではなく、ガス吐出部Egと液吐出部El、El、El・・とがいずれも一致していなければ良い。
【0025】
なお、ガス吐出部Egと各液吐出部El、El、El・・との距離は同じであっても異なっていても良いが、同じであると、各紡糸液に対して同程度の剪断力を作用させることができ、安定して紡糸できるため好適である。
【0026】
各液吐出ノズルの液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・は各紡糸液の通過経路であり、各紡糸液の吐出時における形状を形作り、ガス用柱状中空部Hgはガスの通過経路であり、ガスの吐出時における形状を形作る。
【0027】
なお、各液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・を延長した各液仮想柱状部Hvl、Hvl、Hvl・・は、各液吐出部El、El、El・・から吐出された各紡糸液の吐出直後の飛翔経路であり、ガス用柱状中空部Hgを延長したガス仮想柱状部Hvgはガス吐出部Egから吐出されたガスの吐出直後の噴出経路である。この各液仮想柱状部Hvl、Hvl、Hvl・・とガス仮想柱状部Hvgとの距離は各液吐出ノズルの壁厚とガス吐出プレートPgの壁厚の和に相当しているが、いずれの距離も2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。2mmを超えるとガス及び随伴気流の剪断力が作用しにくく、繊維化しにくくなる傾向があるためである。
【0028】
更に、各液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・の各吐出方向中心軸Al、Al、Al・・とガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとがそれぞれ平行であるため、吐出された各紡糸液に対してガス及び随伴気流が1本の直線状に作用し、安定して繊維を紡糸することができる。例えば、円柱状の液用中空部を中空円柱状のガス中空部で覆った状態、又は円柱状のガス中空部を中空円柱状の液用中空部で覆った状態であるように、これら中心軸が一致すると、ガス及び随伴気流の剪断力を1本の直線状に作用させることができず、繊維化が不安定となり、液滴が多くなる。また、これら中心軸が交差又はねじれの位置にあると、ガス及び随伴気流による剪断力が作用しないか、作用したとしても不均一であることから、安定して繊維を形成することができない。この「平行」であるとは、液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・の吐出方向中心軸Al、Al、Al・・とガス用柱状中空部Hgの吐出方向中心軸Agとが同一平面上に位置することができ、しかも平行であることを意味する。また、「吐出方向中心軸」とは仮想柱状部の外壁面に対して直角に切断した横断面における重心に対する垂線を意味する。
【0029】
本発明の紡糸装置はガス用柱状中空部Hgの中心軸Agに対して垂直な平面Cで切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と各液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・の各切断面の外周との距離が最も短い直線L、L、L・・を、いずれの組み合わせにおいても1本だけ引くことができる。このようなガス用柱状中空部Hgから吐出されたガス及び随伴気流は、各液用柱状中空部Hl、Hl、Hl・・から吐出された各紡糸液に対して1本の直線状に作用し、剪断作用を発揮することができるため、液滴を生じることなく、安定して紡糸することができる。例えば、前記直線を2本引くことができる場合には、一方の点で作用する場合と他方の点で作用する場合とが交互になるなど、安定して剪断作用を発揮することができない結果、液滴を発生し、安定して紡糸することができない。
【0030】
なお、図1には図示していないが、紡糸液がポリマーを溶媒に溶解させたものである場合には、液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・は紡糸液貯蔵装置(例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製などの樹脂製バッグなど)に接続されており、ガス吐出プレートPgはガス供給装置(例えば、圧縮機、ガスボンベ、ブロアなど)に接続されている。また、紡糸液がポリマーを加熱溶融させたものである場合には、液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・は押出し機、ヒーターにより加熱された金属製シリンジなどの供給装置に接続され、ガス吐出プレートPgはヒーターに接続した圧縮機、ガスボンベ、ブロアなどの供給装置に接続されている。
【0031】
図1においては、1組の紡糸装置しか描いていないが、2組以上の紡糸装置を直列的に又は並列的に配置することができる。2組以上の紡糸装置を配置することによって、生産性を更に高めることができる。なお、図1においては、液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・を使用しているが、液吐出ノズルは2本以上である必要はなく、1本であっても良い。しかしながら、生産性を考慮すると8本以上であるのが好ましい。また、隣接する液吐出ノズル間の間隔(隣接する液吐出ノズルの吐出方向中心軸間の距離)は使用する液吐出ノズルの外形にもよるため、特に限定するものではないが、生産性を考慮すると30mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、2.5mm以下であることが更に好ましい。他方で、隣接する液吐出ノズル同士が近接し過ぎると、吐出された紡糸液が接合してしまい、十分な紡糸性が得られなくなる可能性があるため、隣接する液吐出ノズルの外壁間距離は0.1mm以上であることが好ましい。なお、隣接する液吐出ノズル間の間隔は規則正しくても、不規則であっても良いが、規則正しいと繊維が均一に分散した状態で紡糸することができ、結果として地合いの優れる不織布を製造できるため好適である。
【0032】
また、図1においては、液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・をガス吐出プレートPgに固定した状態にあるが、前述のような関係を満たす限り、液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・の位置を自由に調整できる機構を備えていることもできる。また、図4にガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面で切断した切断図を示すように、図1のような液吐出ノズル群Nl、Nl、Nl・・に替えて、プレートに対して液吐出孔Hl、Hl、Hl・・を穿孔した液吐出プレートを使用することもできる。
【0033】
なお、図5にガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面で切断した切断図を示すように、ガス吐出プレートPgの両外壁面に対して、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・と第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・を当接することもできる。また、図6にガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面で切断した切断図を示すように、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・の各第1液吐出部El11、El12、El13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・の各第2液吐出部El21、El22、El23・・は円形である必要はなく、三角形、四角形などの多角形であることもできる。このように、各液吐出部El11、El12、El13・・、El21、El22、El23・・は同じ形状である必要はなく、異なる形状の液吐出部を有する吐出ノズルが規則的に又は不規則に混在していても良い。更に、図5、図6の紡糸装置においては、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・の各液吐出ノズルと、第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・の各液吐出ノズルとが対向して配置しているが、対向している必要はなく、千鳥状のように規則正しく、又は不規則にずれて配置していることができる。このようにずれて配置していると、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・から紡糸された繊維と、第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・から紡糸された繊維とが完全に重複しないため、より繊維が分散した状態で紡糸しやすく、結果として、地合いのより優れる不織布を製造しやすいという特長がある。
【0034】
本発明の不織布製造装置は前述のような紡糸装置に加えて、繊維の捕集体を備えているため、繊維を捕集して不織布を製造することができる。本発明の不織布製造装置について、不織布製造装置の模式的断面説明図である図7を参照しながら説明する。
【0035】
図7の不織布製造装置は前述のような図5に示すような、ガス吐出プレートPgの両外壁面に第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・と第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・を配置した紡糸装置1に加えて、紡糸された繊維を捕集できる捕集体3、捕集体3の下流側に位置し、紡糸された繊維を吸引できるサクション装置4を備えている。なお、紡糸装置1には第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・へ紡糸液を供給できる第1紡糸液供給装置、及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・へ同じ又は異なる紡糸液を供給できる第2紡糸液供給装置が接続されているとともに、ガスをガス吐出プレートPgへ供給できるガス供給装置が接続されている。
【0036】
このような不織布製造装置の場合、紡糸液は第1紡糸溶液供給装置及び第2紡糸溶液供給装置によって、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・へそれぞれ供給されると同時に、ガス供給装置によってガスがガス吐出プレートPgへ供給される。そのため、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・から吐出された各紡糸液は、それぞれガス吐出プレートPgから吐出されたガスの剪断作用によって延伸され、繊維化するとともに、これら繊維は均一に混合しながら、捕集体3へ向かって飛翔し、この飛翔した繊維は直接、捕集体3上に集積し、不織布を形成する。
【0037】
図7の不織布製造装置においては、1つのガス吐出プレートPgに対して多くの液吐出ノズルを配置しているため、吐出ガス量を少なくすることができ、集積した繊維の飛散を抑制して地合いの均一な不織布を生産性良く製造できる。また、ガス量を減らすことができ、サクション装置4を大型化する必要がないためエネルギー的に有利である。
【0038】
なお、繊維を集積する際に、捕集体3の下流側にはサクション装置4が配置されているため、ガス吐出プレートPgから吐出されたガスは速やかに排出され、ガスの作用によって不織布が乱れるということがない。
【0039】
図7においては、コンベアからなる捕集体3であるが、捕集体3は繊維を直接集積できるものであれば良く、例えば、不織布、織物、編物、ネット、ドラム、ベルト或いは平板を捕集体として使用できる。本発明においては、ガスを吐出しているため、ガスを吸引して捕集体上に繊維を集積しやすく、また集積した繊維が乱れないように、通気性の捕集体3を使用し、捕集体3の紡糸装置側とは反対面側にサクション装置4を設置するのが好ましい。なお、サクション装置4を使用しない場合には、捕集体は通気性である必要はない。
【0040】
図7においては、紡糸装置1の第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・からの吐出方向下側(重力の作用方向)に捕集体3を配置し、各紡糸液の吐出方向と捕集体3の捕集面とが直交する位置関係にあるが、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・からの吐出方向と捕集体3の捕集面とが平行である位置関係にあっても、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・からの吐出方向と捕集体3の捕集面とが交差する位置関係にあっても良い。なお、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・からの吐出方向は重力の作用方向と同じであっても、重力の作用方向と反対方向であっても、重力の作用方向と直交する方向であっても、重力の作用方向と交差する方向であっても良く、特に限定するものではない。
【0041】
なお、捕集体3の捕集面を紡糸装置1のガス吐出部Egと対向して配置、特に直角に配置する場合、捕集体3の捕集面と紡糸装置1の第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・の各液吐出部El11、El12、El13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・の各液吐出部El21、El22、El23・・との距離は、紡糸液の吐出量やガス流速によって変化するため特に限定するものではないが、ポリマーを溶媒に溶解させた紡糸液を用いた場合では、いずれも50〜1000mmであるのが好ましく、紡糸液がポリマーを加熱溶融させたものである場合には、いずれも10〜1000mmであるのが好ましい。ポリマーを溶媒に溶解させた紡糸液を用いた場合に、50mm未満であると、紡糸液の溶媒が十分に蒸発しない状態で集積され、集積された後に繊維形状を保つことができず、不織布が得られない場合があるためであり、紡糸液がポリマーを加熱溶融させたものである場合には、10mm未満であると、加熱ガスなどの影響を受けて、捕集体上に集積した繊維が溶けてしまったり、或いは、繊維同士が溶着する傾向があるためである。他方、紡糸液がいずれの場合であっても、1000mmを超えると、ガスの流れが乱れ、繊維が切れて飛散しやすくなる傾向があるためである。
【0042】
サクション装置4は特に限定するものではないが、ガス供給装置からのガス供給量、製造する不織布の厚さによって風速条件を調整できるものが好ましい。
【0043】
なお、第1紡糸液供給装置又は第2紡糸液供給装置としては、紡糸液がポリマーを溶媒に溶解させたものである場合には、例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製などの樹脂製バッグなどを挙げることができ、紡糸液がポリマーを加熱溶融させたものである場合には、例えば、押出し機、ヒーターにより加熱された金属製シリンジなどを挙げることができる。また、ガス供給装置としては、紡糸液がポリマーを溶媒に溶解させたものである場合には、例えば、圧縮機、ガスボンベ、ブロアなどを挙げることができ、紡糸液がポリマーを加熱溶融させたものである場合には、例えば、ヒーターに接続した圧縮機、ガスボンベ、ブロアなどを挙げることができる。
【0044】
図7の不織布製造装置においては、紡糸装置1を1台だけ配置しているが、1台である必要はなく、2台以上配置することができる。2台以上配置することによって不織布の生産性を更に高めることができる。また、図7の不織布製造装置においては、ガス吐出プレートPgの両外壁面に第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・を配置した紡糸装置1を使用しているが、ガス吐出プレートPgの片方の外壁面にのみ液吐出ノズル群を配置した紡糸装置を使用することもできる。
【0045】
また、図7の不織布製造装置においては、不織布を結合させるための装置を配置していないが、不織布を結合するための装置を配置することができる。例えば、バインダーを付与し、乾燥する装置、繊維同士を融着させることのできる熱処理装置、繊維同士を絡合させることのできる絡合装置、などを配置することができる。
【0046】
更に、図7の不織布製造装置においては、ガス吐出プレートPgから吐出されたガスの作用のみによって繊維化しているが、ガスの作用に加えて、電界を作用させることによって、繊維化を促進することができる。例えば、紡糸装置1の第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・に電圧を印加するとともに、捕集体3をアースすることによって、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・と捕集体3との間に電界を形成すると、ガスの剪断作用によって延伸されず液滴となりやすい紡糸液を、電界の作用によって引き伸ばして繊維化することができる。また、電界の作用によって、繊維が帯電し、互いに反発することによって、繊維同士が結着した繊維束を形成せず、個々の繊維が分散した状態で捕集できるため、繊維径の揃った不織布を製造しやすい。このように第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・に電圧を印加する場合には、従来の静電紡糸法による電圧よりも低い電圧で良いため、静電紡糸法により形成した不織布よりも嵩高な不織布とすることができる。
【0047】
なお、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・に電圧を印加できる電源としては、例えば、直流高電圧発生装置やヴァン・デ・グラフ起電機を挙げることができる。また、印加極性は正であっても負であっても良い。なお、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・ではなく、各液吐出ノズル内に挿入したワイヤー等に印加しても良い。更には、捕集体3に対して印加し、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・をアースしても良い。或いは、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・と捕集体3との間に電界が形成されるように、双方に電圧を印加しても良い。また、コンベアのガス吐出部Egとの対向部よりも下流側に対向電極を配置し、対向電極をアース又は印加し、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・との間に電界を形成することもできる。
【0048】
この第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・と捕集体3との間に生じる電位差は、紡糸液の種類、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・と捕集体3との距離などの紡糸条件によって変化するため、特に限定するものではないが、0.05〜1.5kV/cmであるのが好ましい。電位差が1.5kV/cmを超えると、ガスの剪断作用による紡糸よりも静電紡糸法と同様の電界による紡糸が支配的となるが、ガスの作用も受けて不織布の地合いが悪くなる傾向があるためである。他方、0.05kV/cm未満であると、繊維の帯電が不十分あるいは弱いため、糸玉、繊維束、ショット、粒等、繊維以外のものも多く含む不織布となる傾向があるためである。
【0049】
なお、図7の不織布製造装置は開放系のものであるが、紡糸装置1、捕集体3、サクション装置4を紡糸容器内に収納し、閉鎖系とすることもできる。紡糸液が溶媒に溶解させたものである場合、紡糸時に溶媒が揮発するが、閉鎖系であれば、この溶媒の拡散を防止し、場合によっては再利用することができる。
【0050】
このように紡糸容器に収納する場合、紡糸容器内のガスを排気できる排気装置を接続するのが好ましい。紡糸液が溶媒に溶解させたものである場合、紡糸を行っていると、紡糸容器内における溶媒蒸気濃度が次第に高くなり、溶媒の蒸発が抑制される結果、繊維径のバラツキが発生しやすく、また繊維化されにくくなる傾向があるためである。この排気装置は特に限定するものではないが、例えば、排気口に設置したファンであることができる。また、容器用ガス供給装置によって紡糸容器へ気体を供給する場合には、単に排気口を設けるだけで供給量と同量のガスを排出することができるため、排気装置は必ずしも必要ではない。なお、排気装置によって排気する場合、排気量はガス供給装置及び容器用ガス供給装置からのガス供給量の総量と同じ量だけ排気するのが好ましい。供給総量と排気量とが異なると、紡糸容器内における圧力が変わることによって、溶媒の蒸発速度が変わり、繊維径のバラツキが生じやすいためである。また、サクション装置4に排気装置を兼用させることもできる。
【0051】
また、紡糸容器に温湿度を調整したガスを供給できる容器用ガス供給装置を接続すると、紡糸容器内における溶媒蒸気濃度を安定させ、繊維径のバラツキの小さい繊維を紡糸できる。この容器用ガス供給装置としては、例えば、プロペラファン、シロッコファン、エアコンプレッサー、或いは送風機などを挙げることができる。
【0052】
本発明の不織布の製造方法は前記不織布製造装置を用いる方法である。特には、紡糸装置1のガス吐出部Egから流速100m/sec.以上のガスを吐出するのが好ましい。ガス吐出部Egから流速100m/sec.以上のガスを吐出することによって、液滴の発生を抑え、繊維径の揃った細径化した繊維を含む不織布を効率的に製造することができるためである。より好ましくは流速150m/sec.以上のガスを吐出し、更に好ましくは流速200m/sec.以上のガスを吐出する。なお、ガス流速の上限は安定して紡糸できる流速であれば良く、特に限定するものではない。
【0053】
このような流速のガスを吐出するには、例えば、圧縮機からガス用柱状中空部Hgにガスを供給すれば良い。なお、ガスの種類は特に限定するものではないが、空気、窒素ガス、アルゴンガスなどを使用することができ、これらの中でも空気であると経済的である。また、ガスの温度は紡糸液によって異なり、特に限定するものではないが、ポリマーを溶媒に溶解させた紡糸液である場合には、常温であるのが経済的に好ましく、ポリマーを加熱溶融させた紡糸液である場合には、紡糸液とガスとが接触する部分で、加熱溶融したポリマーの温度よりも100℃低い温度から、加熱溶融したポリマーの温度よりも100℃高い温度までの範囲の温度のガスであるのが好ましい。加熱溶融したポリマーの温度よりも低い温度のガスの場合、冷却作用により繊維の固化を促進することができ、また、加熱溶融したポリマーの温度よりも高い温度のガスの場合、ポリマーの固化を抑制し、飛翔空間2において、長い距離で紡糸液にガスの剪断力を作用させることができる。
【0054】
なお、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・と捕集体3との間の繊維の飛翔空間2に対して、冷却ガスなどを供給して繊維を冷却することにより、繊維の固化を促進することもできる。また、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・と捕集体3との間の繊維の飛翔空間2に対して、加熱ガスを供給して繊維を加熱、保温することにより、繊維の固化を抑制することもできる。
【0055】
本発明の製造方法に使用できる紡糸液は所望ポリマーを溶媒に溶解させたもの、或いは所望ポリマーを加熱溶融させたものであれば良く、特に限定するものではない。
【0056】
例えば、前者のポリマーを溶媒に溶解させた紡糸液として、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、共重合ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、共重合ポリフッ化ビニリデンなど)、ポリウレタン、パラ又はメタ系アラミド、セルロース系など1種又は2種以上のポリマーを、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなど1種又は2種以上の溶媒に溶解させたものを使用することができる。
【0057】
このポリマーを溶媒に溶解させた紡糸液の紡糸時の粘度は10〜10000mPa・sの範囲であるのが好ましく、20〜8000mPa・sの範囲であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く繊維になりにくい傾向があり、粘度が10000mPa・sを超えると、紡糸液が延伸されにくく、繊維となりにくい傾向がある。したがって、常温で粘度が10000mPa・sを超える場合であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部Hl11、Hl12、Hl13・・、Hl21、Hl22、Hl23・・を加熱することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。逆に、常温で粘度が10mPa・s未満であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部Hl11、Hl12、Hl13・・、Hl21、Hl22、Hl23・・を冷却することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。本発明における「粘度」は、粘度測定装置を用い、紡糸時と同じ温度で測定した、シェアレート100s−1の時の値をいう。
【0058】
他方、ポリマーを加熱溶融させた紡糸液を構成できるポリマーとして、例えば、ポリオレフィン系(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンーポリエチレン共重合体、ポリメチルペンテンなど)、ポリエステル系(脂肪族ポリエステル系、芳香族ポリエステル系)、アクリル系(ポリアクリロニトリル、共重合ポリアクリロニトリル)、セルロース系、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ乳酸、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン610)、ポリアセタール、アラミド系、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、或はフッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、共重合ポリフッ化ビニリデンなど)、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどを1種類または2種類以上を混合して使用することができる。
【0059】
このポリマーを加熱溶融させた紡糸液の紡糸時の温度範囲は、ポリマーの融点から融点より200℃高い温度までの範囲であるのが好ましく、融点より20℃高い温度から融点より100℃高い温度までの範囲であるのがより好ましい。温度依存性を示すポリマーの場合、融点より200℃高い温度よりも高い温度では、ポリマーの熱分解が発生して紡糸が困難となるためである。また、紡糸時のポリマーにかかる剪断速度は、1〜10000s−1であるのが好ましく、剪断速度50〜5000s−1であるのがより好ましい。圧力依存性を示すポリマーの場合、剪断速度が1s−1未満であると、吐出が安定せず、10000s−1を超えると、高い吐出圧力が必要となり吐出が困難となる傾向があるためである。なお、上記の温度範囲および剪断速度範囲において、ポリマーの紡糸時の粘度が10〜10000mPa・sの範囲であるのが好ましく、20〜8000mPa・sの範囲であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く、繊維になりにくい傾向があり、粘度が10000mPa・sを超えると、紡糸液が延伸されにくく、繊維となりにくい傾向があるためである。したがって、溶融時に粘度が10000mPa・sを超える場合であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部Hl11、Hl12、Hl13・・、Hl21、Hl22、Hl23・・を加熱することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。逆に、溶融時に粘度が10mPa・s未満であっても、紡糸液自体又は液用柱状中空部Hl11、Hl12、Hl13・・、Hl21、Hl22、Hl23・・を冷却することにより前記粘度範囲内に収まるのであれば、使用することができる。
【0060】
なお、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・の各液吐出部El11、El12、El13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・の各液吐出部El21、El22、El23・・からの紡糸液の吐出量は、紡糸液の粘度やガス流速によって変化するため特に限定するものではないが、いずれも0.1〜100cm/時間であるのが好ましい。なお、液吐出ノズル毎に吐出量は同じであっても異なっていても良い。同じであれば、繊維径のより揃った繊維を紡糸することができる。
【0061】
また、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・の各液吐出部El11、El12、El13・・及び第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・の各液吐出部El21、El22、El23・・から2種以上の吐出条件で紡糸液を吐出して繊維化し、異なる種類の繊維が混在する不織布を製造することもできる。例えば、図7のような紡糸装置1における、第1液吐出ノズル群Nl11、Nl12、Nl13・・と第2液吐出ノズル群Nl21、Nl22、Nl23・・とからの吐出条件を異なるようにすると、吐出された紡糸液に作用するガスは同じであるため、異なった種類の繊維を紡糸することができ、結果として異なった種類の繊維が混在する不織布を製造することができる。
【0062】
この「2種以上の吐出条件」とは全く同一ではないことを意味し、例えば、液吐出部の形が異なる、液吐出部の大きさが異なる、液吐出部のガス吐出部からの距離が異なる、紡糸液の吐出量が異なる、紡糸液の濃度が異なる、紡糸液構成ポリマーが異なる、紡糸液の粘度が異なる、紡糸液の溶媒が異なる、紡糸液構成ポリマーが2種類以上である場合にはその配合比率が異なる、紡糸液構成溶媒が2種類以上である場合にはその配合比率が異なる、紡糸液の温度が異なる、紡糸液の調製方法が異なる(例えば、溶媒に溶解させた紡糸液と加熱溶融させた紡糸液)、紡糸液に添加されている添加剤の種類及び/又は量が異なる、などのこれら1つ、又は2つ以上が異なる。
【0063】
本発明においては、前述のような紡糸装置1を用いて繊維を紡糸し、集積して不織布を製造する以外に、紡糸され、飛翔する繊維に対して、粉体、繊維、及び/又は繊維集合体を供給し、これらを混合することによって、不織布に機能を付与することもできる。
【0064】
例えば、粉体として、活性炭(例えば、水蒸気賦活炭、アルカリ処理活性炭、酸処理活性炭など)、無機粒子(例えば、二酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化亜鉛、チタン含有酸化物、ゼオライト、触媒担持セラミックス、シリカなど)、イオン交換樹脂、植物の種子などを挙げることができる。
【0065】
繊維として、レーヨン、ポリノジック、キュプラなどの再生繊維、アセテート繊維などの半合成繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維、綿、麻などの植物繊維、羊毛、絹などの動物繊維などを挙げることができる。
【0066】
繊維集合体として、前記同種又は異種繊維の集合体を挙げることができる。なお、繊維集合体の集合状態は特に限定するものではなく、例えば、繊維同士が絡んだ状態、繊維同士が接着した状態、繊維同士が融着した状態、繊維同士を撚って糸となった状態、などを挙げることができる。
【0067】
本発明の不織布は上述の方法により製造された不織布である。したがって、繊維径が小さく、安定して生産性良く製造できるものである。なお、不織布を構成する平均繊維径は特に限定するものではないが、50〜5000nmであることができる。平均繊維径は200本の繊維径の算術平均値であり、この繊維径は、走査電子顕微鏡(SEM)により得た不織布表面の写真画像をもとに、そのスケールから算出して得られる値をいう。
【0068】
本発明の不織布の目付は0.1〜100g/mであることができ、厚さは1〜1000μmであることができる。目付は10cm角の不織布試料の重量から1mの重量に換算した値であり、厚さは圧縮弾性式厚み計により計測した値であり、具体的には5cmの荷重領域に3mm/sの速度で100gfの荷重をかけたときの値をいう。
【実施例】
【0069】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
《実施例1》
(紡糸液の調製)
ポリアクリロニトリル(アルドリッチ製)を、N,N−ジメチルホルムアミドに濃度10mass%となるように溶解させた紡糸液(粘度(温度25℃):970mPa・s)を用意した。
【0071】
(不織布製造装置の準備)
図1のような次の構成からなる製造装置を用意した。
(1) 紡糸液供給装置:シリンジ
(2) ガス供給装置:圧縮機
(3) 液吐出ノズル群Nl〜Nl19:金属製
(3)−1 液吐出部El〜El19:0.3mm径(断面積:0.07mm)の円形
(3)−2 液用柱状中空部Hl〜Hl19:0.3mm径の円柱状
(3)−3 ノズル外径:いずれも0.55mm
(3)−4 ノズル本数:19本
(4) ガス吐出プレートPg:金属製
(4)−1 ガス吐出部Eg:幅0.5mm、長さ50mmの長方形状
(4)−2 ガス用柱状中空部Hg:たて0.5mm、よこ50mm、高さ20mmの直方体状
(4)−3 ガス吐出プレートPgを構成するプレート部材の厚さ:1mm
(4)−4 ガス吐出プレートPgの数:1組
(4)−5 位置:全ての液吐出部El〜El19がガス吐出部Egよりも2.5mm下流側に位置し、ガス吐出プレートPgの片側の外壁面と液吐出ノズルの外壁面がいずれも当接し、隣接する液吐出ノズルの間隔(吐出方向中心軸間距離)が2.5mmになるように等ピッチで配置
(5) 液仮想柱状部Hvl〜Hvl19とガス仮想柱状部Hvgの距離:いずれも1.125mm
(6) 液吐出方向中心軸Al〜Al19とガス吐出方向中心軸Ag:いずれも平行
(7) ガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部Hgの切断面の外周と液用柱状中空部Hl〜Hl19の切断面の外周との距離が最も短い直線の本数:各々1本
(8) 捕集体:ネット(30メッシュ)、ガスの吐出方向中心軸Agと捕集面とが直角であるように配置
(8)−1 液吐出部El〜El19と捕集面との距離:300mm
(9) サクション装置:サクションボックス(サクション口:80mm×350mm)
(10) 紡糸容器:容積1mのアクリル容器
(10)−1 気体供給装置:精密空気発生装置((株)アピステ製、1400−HDR)
【0072】
(不織布の製造)
次の条件で繊維を捕集体(ネット)上に集積させ、目付5g/m、厚さ50μmの不織布を製造した。この不織布構成繊維の平均繊維径は300nmであり、このような細い繊維からなる不織布を、液滴を生じることなく、安定して生産性良く製造することができた。
(イ)液吐出ノズルNl〜Nl19からの各吐出量:3cm/時間/1本
(ロ)空気吐出流速:250m/sec.
(ハ)ネットの移動速度:10mm/sec.
(ニ)繊維吸引条件:30cm/sec.
(ホ)気体供給条件:25℃、27%RH、1m/min.
【0073】
《比較例1》
(紡糸液の調製)
実施例1と同じ紡糸液を用意した。
【0074】
(不織布製造装置の準備)
図3のような液吐出ノズルNlとガス吐出ノズルNgの配置を有する、次の構成からなる紡糸装置を1台用意した。
(1) 紡糸液供給装置:シリンジ
(2) ガス供給装置:圧縮機
(3) 液吐出ノズルNl:金属製
(3)−1 液吐出部El:0.3mm径(断面積:0.07mm)の円形
(3)−2 液用柱状中空部:0.3mm径の円柱状
(3)−3 ノズル外径:0.55mm
(3)−4 ノズル本数:1本
(4) ガス吐出ノズルNg:金属製
(4)−1 ガス吐出部Eg:0.8mm径(断面積:0.27mm)の円形
(4)−2 ガス用柱状中空部:0.8mm径の円柱状
(4)−3 ノズル外径:1.0mm
(4)−4 ノズル本数:1本
(4)−5 位置:ガス吐出部が液吐出部よりも5mm上流側の位置で、液吐出ノズルと同心円状に配置、結果として、ガス吐出部は内径0.55mm、外径0.8mmの中空円形状となる(図3参照)
(5)液仮想柱状部とガス仮想柱状部の距離:0.125mm
(6)液吐出方向中心軸とガス吐出方向中心軸:一致
(7)ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部の切断面の内周と液用柱状中空部の切断面の外周との距離が最も短い直線の本数:無数
(8)捕集体:ネット(30メッシュ)、ガスの吐出方向中心軸と捕集面とが直角であるように配置
(8)−1 液吐出部Elとの距離:300mm
(9) サクション装置:サクションボックス(サクション口:80mm×350mm)
(10) 紡糸容器:容積1mのアクリル容器
(10)−1 気体供給装置:精密空気発生装置((株)アピステ製、1400−HDR)
【0075】
(不織布の製造)
次の条件で紡糸し、不織布を製造しようとしたが、ほとんど繊維形状とならず、不織布を製造することができなかった。
(イ)液吐出ノズルNlからの吐出量:3g/時間
(ロ)空気吐出流速:250m/sec.
(ハ)ネットの移動速度:0.65mm/sec.
(ニ)繊維吸引条件:30cm/sec.
(ホ)気体供給条件:25℃、27%RH、1m/min.
【0076】
《実施例2》
樹脂として、ポリプロピレン樹脂[(MI=1500)、温度200℃における剪断速度3145s−1、粘度5000mPa・s]を用意した。
【0077】
また、ガス用柱状中空部(Hg)の中心軸に対して垂直な平面で切断した切断図が、図4に示すような、ガス用柱状中空部(Hg)を有するガス吐出プレート(Pg)と液用柱状中空部(Hl〜Hl67)を穿孔した液吐出プレートからなる紡糸装置を用意した。具体的には次の通り。
(1)樹脂供給装置:押し出し機
(2)加熱ガス供給装置:圧縮機(圧縮エアをヒーターで加熱)
(3)液吐出プレート:金属製、壁厚1mm、1組
(4)樹脂液吐出部(El〜El67):直径0.15mmの円形の吐出部(El
El67)が(吐出方向中心軸間距離)5mm間隔で67箇所、直線状に一列に配列
(5)液用柱状中空部Hl〜Hl67:それぞれ0.15mm径の円柱状
(6)ガス吐出プレート:金属製、壁厚10mm
(7)ガス吐出部(Eg):幅0.6mm、長さ420mmの長方形状
(8)ガス用柱状中空部Hg:たて0.6mm、よこ420mm、高さ5mmの直方体状
(9)位置:ガス吐出部(Eg)が全ての液吐出部(El〜El67)よりも5mm上流となるように、液吐出プレートとガス吐出プレートとを当接させて配置
(10)液仮想柱状部Hvl〜Hvl67とガス仮想柱状部Hvgとの距離:
いずれも0.3mm
(11)液吐出方向中心軸Al〜Al67とガス吐出方向中心軸Ag:いずれも平行
(12)ガス用柱状中空部Hgの中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部の切断面の外周と液用柱状中空部Hl〜Hl67の切断面の外周との距離が最も短い直線の本数:いずれも1本
(13)捕集体:サクションシリンダ(パンチメタル板)、液吐出方向中心軸と捕集面とが直角であるように配置、樹脂液吐出部(El〜El67)と捕集面との距離は200mm
(14)繊維吸引装置:サクションシリンダ
【0078】
次いで、ポリプロピレン樹脂を温度200℃で溶融させた後、次の条件で樹脂液吐出部(El〜El67)から重力の作用方向へ吐出するとともに、ガス吐出部(Eg)から加熱空気を吐出し、繊維化するとともに、サクションシリンダで吸引し、繊維を捕集体方向へ飛翔させ、捕集体上に集積させて、目付4g/m、厚さ100μmの不織布(平均繊維径:600nm、CV値:0.6)を製造した。この不織布構成繊維は細く、繊維径のバラツキが小さいものであった。
(イ)樹脂吐出量:2g/時間/1穴(ホール)
(ロ)ガス吐出プレート及び液吐出プレートの温度:200℃
(ハ)吐出エア:温度260℃、流量6Nm/min.、流速397m/sec.
(ニ)サクションシリンダ:回転速度4m/min.、吸引量130m/min.、風速28m/sec.
【0079】
《実施例3》
樹脂吐出量を10g/時間/1穴としたこと以外は実施例2と同じ条件で不織布を製造した。製造した不織布は、目付け5g/m、厚さ150μm、平均繊維径1100nm、CV値0.3であった。この不織布は繊維が太いものの、繊維径のバラツキが非常に小さいものであった。
【0080】
《比較例2》
樹脂として、ポリプロピレン樹脂[(MI=1500)、温度200℃における剪断速度3145s−1、粘度5000mPa・s]を用意した。
【0081】
また、樹脂液吐出部の列に対して直交する方向における模式的断面が、図8に示すような、メルトブロー装置用ダイを用意した。具体的には次の通り。
(1)樹脂供給装置:押し出し機
(2)加熱ガス供給装置:圧縮機(圧縮エアをヒーターで加熱)
(3)メルトブロー装置用ダイ:金属製
(4)樹脂液吐出部(El〜El31):直径0.2mmの円形の吐出部(El〜El31)が直線状に一列に配列
(5)ガス吐出部(Eg):幅0.5mm、長さ300mm
(6)捕集体:サクションシリンダ(パンチメタル板)、樹脂液の吐出方向中心軸と捕集面とが直角であるように配置、樹脂液吐出部と捕集面との距離は300mm
(7)繊維吸引装置:サクションシリンダ
【0082】
次いで、ポリプロピレン樹脂を温度200℃で溶融させた後、次の条件で樹脂液吐出部(El〜El31)から重力の作用方向へ吐出するとともに、ガス吐出部(Eg)から加熱空気を吐出し、吐出した樹脂液に噴き付けて繊維化するとともに、サクションシリンダで吸引し、繊維を捕集体方向へ飛翔させ、捕集体上に集積させて、目付10g/m、厚さ100μmの不織布(平均繊維径:2000nm、CV値:0.9)を製造した。この不織布構成繊維は太く、繊維径のバラツキが大きく、しかもショットやビーズが多いものであった。
(イ)樹脂吐出量:0.5g/時間/1穴
(ロ)ダイの温度:200℃
(ハ)吐出エア:温度280℃、流量2.5Nm/min.、流速278m/sec.
(ニ)サクションシリンダ:回転速度4m/min.、吸引量50m/min.、風速20m/sec.
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の不織布はエアフィルタ、液体フィルタ、血液フィルタなどのフィルタ用濾過材、バッテリーセパレータ、キャパシタ用セパレータなどの電気化学素子用セパレータ、電極材料、膜支持体、半導体基板、フレキシブルディスプレイ用基板、断熱材、防音材、細胞培養担体、創傷材料、ドラッグデリバリーシステム材料、センサーチップ、スマートファブリックなどの用途に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0084】
Nl 液吐出ノズル
Nl、Nl、Nl 液吐出ノズル群
Pg ガス吐出プレート
El、El、El、El 液吐出部
Eg ガス吐出部
Hl、Hl、Hl 液用柱状中空部
Hg ガス用柱状中空部
Hvl、Hvl、Hvl 液仮想柱状部
Hvg ガス仮想柱状部
Al、Al、Al 吐出方向中心軸(液)
Ag 吐出方向中心軸(ガス)
C ガス用柱状中空部の中心軸に対して垂直な平面
、L、L 外周間の距離が最も短い直線
12 第1部材
22 第2部材
32 第3部材
14、24、34 供給端部
16、26、36 対向出口端部
18 第1供給スリット
38 第1ガススリット
20 ガスジェット空間
1 紡糸装置
2 飛翔空間
3 捕集体
4 サクション装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸液を吐出できる液吐出部を1箇所以上と、前記いずれの液吐出部よりも上流側に位置し、線状に伸びる、ガスを吐出できるガス吐出部1箇所以上とを有する、次の条件を満足する紡糸装置:
(1)液吐出部を端部とする液用柱状中空部(Hl)を有する、
(2)ガス吐出部を端部とするガス用柱状中空部(Hg)を有する、
(3)液用柱状中空部(Hl)を延長した液仮想柱状部(Hvl)とガス用柱状中空部(Hg)を延長したガス仮想柱状部(Hvg)とは近接している、
(4)液用柱状中空部(Hl)の吐出方向中心軸とガス用柱状中空部(Hg)の吐出方向中心軸とが平行である、
(5)ガス用柱状中空部(Hg)の中心軸に対して垂直な平面で切断した時に、ガス用柱状中空部(Hg)の切断面の外周と液用柱状中空部(Hl)の切断面の外周との距離が最も短い直線を、1本だけ引くことができる。
【請求項2】
請求項1に記載の紡糸装置に加えて、繊維の捕集体を備えている不織布製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載の不織布製造装置を用いる不織布の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法により製造した不織布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−132654(P2011−132654A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264109(P2010−264109)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】