説明

紡績機

【課題】ドラフトローラ対による繊維束の把持位置を変更させてドラフトローラ対の長寿命化を図るとともに、整備を行なう際には紡績部をドラフトローラ対から離間できて整備が容易となる紡績機を提供する。
【解決手段】繊維束Fを牽伸するドラフトローラ対21・22・23・24と、ドラフトローラ対21・22・23・24によって牽伸された繊維束Fを撚って紡績糸Yを紡出する紡績部3と、紡績部3を保持する保持部26と、保持部26が取り付けられる可動ベース部25と、可動ベース部25をドラフトローラ対21・22・23・24の回転軸方向に対して平行に移動させる駆動部27と、可動ベース部25を移動自在に支持し、紡績部3がドラフトローラ対21・22・23・24に対して近接又は離間自在となるように保持部26を支持する支持軸251・252と、を備えるとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績機の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維束を牽伸するとともに、牽伸された繊維束を撚ることで紡績糸を製造する紡績機が知られている(例えば特許文献1参照)。このような紡績機には、繊維束を牽伸する複数のドラフトローラ対と、牽伸された繊維束を撚る紡績部と、が設けられている。
【0003】
ドラフトローラ対は、動力機構を介して回転されるボトムローラと該ボトムローラに接触した状態で従動回転するトップローラで構成される。トップローラは、ゴム等で形成された弾性体ローラであることから、該トップローラの表面が摩耗するという問題を有していた。特に、ドラフトローラ対による繊維束の把持位置が一定である場合においては、繊維束と接触している部分の摩耗が早く進行するという問題があった。このため、ドラフトローラ対による繊維束の把持位置を変更させて、該ドラフトローラ対の長寿命化を図る構造が求められていた。
【0004】
上記のような紡績機において、紡績部は、ドラフトローラ対の下流側の近傍に配置されている。これは、ドラフトローラ対によって送り出された繊維束が乱れる前に紡績部が繊維束を撚る必要があるためである。従って、ドラフトローラ対と紡績部の隙間は狭くならざるを得ず、整備性が悪いという問題を有していた。このため、整備を行なう際には紡績部をドラフトローラ対から離間できて、整備が容易となる構造が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−99192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ドラフトローラ対による繊維束の把持位置を変更させてドラフトローラ対の長寿命化を図るとともに、整備を行なう際には紡績部をドラフトローラ対から離間できて整備が容易となる紡績機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
次に、この課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
第1の発明は、繊維束を牽伸するとともに、牽伸された繊維束を撚ることで紡績糸を製造する紡績機に関する。本発明の実施形態に係る紡績機は、繊維束を牽伸するドラフトローラ対と、ドラフトローラ対によって牽伸された繊維束を撚って紡績糸を紡出する紡績部と、紡績部を保持する保持部と、保持部が取り付けられる可動ベース部と、可動ベース部をドラフトローラ対の回転軸方向に対して平行に移動させる駆動部と、可動ベース部を移動自在に支持し、紡績部がドラフトローラ対に対して近接又は離間自在となるように保持部を支持する支持軸と、を備える。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に係る紡績機に関する。支持軸は、軸状に形成され、保持部は、支持軸を中心として回動自在に支持される。
【0010】
第3の発明は、第2の発明に係る紡績機に関する。保持部は、ドラフトローラ対に近接する方向への回動角度を制限する第一当接部とドラフトローラ対から離間する方向への回動角度を制限する第二当接部を備える。
【0011】
第4の発明は、第2又は第3の発明に係る紡績機に関する。保持部は、第一付勢部材によって回動方向の一方に付勢される。
【0012】
第5の発明は、第1から第4の発明に係る紡績機に関する。可動ベース部は、第二付勢部材によって移動方向の一方に付勢される。
【0013】
第6の発明は、第1から第5の発明に係る紡績機に関する。紡績機は、二本の支持軸を具備する。駆動部は、二本の支持軸の間で可動ベース部を移動させる作用点を構成する。
【0014】
第7の発明は、第1から第6の発明に係る紡績機に関する。紡績機は、ドラフトローラ対を回転自在に支持する一対のフレームを具備する。支持軸は、一対のフレームを連結する梁部材を構成する。
【0015】
第8の発明は、第1から第7の発明に係る紡績機に関する。紡績部は、旋回空気流によって繊維束を撚って紡績糸を紡出する。
【0016】
第9の発明は、第1から第8の発明に係る紡績機に関する。紡績機は、繊維束の送り方向に沿って少なくとも三つのドラフトローラ対を具備する。
【0017】
第10の発明は、第1から第9の発明に係る紡績機に関する。紡績機は、紡績糸を巻き取る巻取部を具備する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0019】
第1の発明によれば、紡績部を保持する保持部が取り付けられた可動ベース部がドラフトローラ対の回転軸方向に対して平行に移動されるため、該ドラフトローラ対による繊維束の把持位置を変更できる。これにより、ドラフトローラ対(詳細にはドラフトローラ対を構成するトップローラ又は/及びボトムローラ)の長寿命化を図ることが可能となる。また、保持部がドラフトローラ対に対して近接又は離間自在であるため、整備を行なう際には保持部に保持された紡績部をドラフトローラ対から離間させることができる。これにより、紡績機の整備性を向上させることが可能となる。更に、支持軸は、可動ベース部の移動ガイドと紡績部の支持ガイドの機能を有するため、紡績機全体の構成を簡素化できる。
【0020】
第2の発明によれば、保持部が支持軸を中心として回動自在であるため、整備を行なう際には保持部に保持された紡績部をドラフトローラ対から簡単に離間させることができる。これにより、紡績機の整備性を向上させることが可能となる。更に、保持部の回動動作を該保持部の移動に用いる支持軸によって実現するため、紡績機全体の構成を簡素化できる。
【0021】
第3の発明によれば、第一当接部と第二当接部が保持部の回動角度を制限するため、該保持部に保持された紡績部が他の部材に干渉することを防止できる。これにより、紡績機の整備性を更に向上させることが可能となる。
【0022】
第4の発明によれば、第一付勢部材が保持部を回動方向の一方に付勢するため、前記ドラフトローラ対と前記紡績部との相対的な位置関係を決定することができる。これにより、保持部により保持された紡績部の紡績性能を安定させることができる。
【0023】
第5の発明によれば、第二付勢部材が可動ベース部を移動方向の一方に付勢するため、該可動ベース部のガタツキを防止できる。このため、可動ベース部とともに移動する保持部のガタツキも防止できる。これにより、保持部に保持された紡績部の紡績性能を安定させることができ、紡績糸の品質低下を防ぐことが可能となる。
【0024】
第6の発明によれば、駆動部が二本の支持軸の間で可動ベース部を移動させる作用点を構成するため、該可動ベース部の移動が滑らかになる。このため、可動ベース部とともに移動する保持部の移動も滑らかになる。これにより、保持部に保持された紡績部の紡績性能を安定させることができ、紡績糸の品質低下を防ぐことが可能となる。
【0025】
第7の発明によれば、支持軸がフレームを連結する梁部材を構成するため、軽量かつ低コストで高い剛性を確保できる。このため、フレームによって支持されているドラフトローラ対のガタツキを防止できる。これにより、ドラフトローラ対による牽伸能力を安定させることができ、紡績糸の品質低下を防ぐことが可能となる。
【0026】
第8の発明によれば、紡績部が旋回空気流によって繊維束を撚るため、高い紡績速度を実現できる。紡績速度が高速化すると、ドラフトローラ対による牽伸も高速化する。これに伴い、ドラフトローラ対の単位時間当たりの摩耗の進行も早くなる。従って、ドラフトローラ対による繊維束の把持位置を変更させると、ドラフトローラ対(詳細にはドラフトローラ対を構成するトップローラ又は/及びボトムローラ)の長寿命化にとって特にメリットがある。また、旋回空気流により繊維束を撚るため、ドラフトローラ対と紡績部との間に抜け落ちた繊維が堆積することがあるが、紡績部は、ドラフトローラ対に対して近接又は離間自在となるように保持部により保持されているため、紡績機の整備性も良い。従って、紡績機の可動効率を向上することができる。
【0027】
第9の発明によれば、少なくとも三つのドラフトローラ対を具備する移動空間に限度があるような場合にも整備性を向上させることが可能となる。
【0028】
第10の発明によれば、紡績機によるパッケージの生産能力を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】紡績機100の全体構成を示す図。
【図2】ドラフトユニット2の構成を示す図。
【図3】ドラフトユニット2を矢印X方向から見た図。
【図4】ドラフトユニット2を矢印Y方向から見た図。
【図5】ドラフトユニット2を矢印Z方向から見た図。
【図6】可動ベース部25及び保持部26の移動を示す図。
【図7】保持部26の回動を示す図。
【図8】ドラフトユニット2の他の構成を示す図。
【図9】空気紡績装置3の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
まず、紡績機100の全体構成について簡単に説明する。図1は、紡績機100の全体構成を示す図である。
【0031】
紡績機100は、繊維束Fから紡績糸Yを製造してパッケージPを作成する紡績機械である。紡績機100は、繊維束Fならびに紡績糸Yの送り方向に沿って以下の順に配置された、スライバ供給部1と、ドラフトユニット2と、紡績部3と、欠点検出部4と、張力安定部5と、巻取部6と、を備えている。また、紡績機100は、各部に制御信号を送信可能とする制御部7と接続されている(図2参照)。
【0032】
スライバ供給部1は、紡績糸Yの原料となる繊維束F(スライバ)をドラフトユニット2へ供給する。スライバ供給部1は、スライバケース11と、スライバガイド(図示せず)と、を備えている。スライバケース11に貯溜された繊維束Fは、スライバガイドによって案内されてドラフトユニット2へ導かれる。
【0033】
ドラフトユニット2は、繊維束Fを牽伸して該繊維束Fの太さを均一化する。ドラフトユニット2は、繊維束Fの送り方向に沿って以下の順に配置された、バックローラ対21と、サードローラ対22と、ミドルローラ対23と、フロントローラ対24と、の四組のドラフトローラ対21・22・23・24を備えている。ドラフトローラ対21・22・23・24は、把持した繊維束Fを回転によって送り出すため、隣接するドラフトローラ対21・22・23・24との送り出し速度の差異によって繊維束Fを牽伸できる。
【0034】
紡績部3は、牽伸された繊維束Fを撚ることで紡績糸Yを製造する。紡績部3は、ドラフトユニット2を構成するフロントローラ対24の下流側に配置されている。このため、紡績部3は、適度に牽伸された繊維束Fから紡績糸Yを製造することができる。なお、紡績部3は、分割可能に構成された保持部26によって脱着自在に保持されている(図2中矢印R参照)。紡績部3の詳細な構成については後述する。
【0035】
欠点検出部4は、製造された紡績糸Yの欠点部を検出する。具体的に説明すると、欠点検出部4は、発光ダイオードを光源として紡績糸Yを照射し、該紡績糸Yからの反射光量を検出する。欠点検出部4は、アナライザを介して制御部7に接続されている。このため、制御部7は、欠点検出部4からの検出信号に基づいて欠点部の有無を判断することができる。なお、欠点検出部4が検出できる欠点部には、紡績糸Yの太さの異常のほか、紡績糸Yにポリプロピレン等の異物が介在する場合も含まれる。欠点検出部4は、本実施形態に係る光学式センサ以外にも、静電容量式のセンサを採用することも可能である。
【0036】
張力安定部5は、紡績糸Yに掛かる張力を適度に保ち安定させる。張力安定部5は、解舒部材51と、ローラ52と、を備えている。解舒部材51は、紡績糸Yに掛かる張力が低い場合にローラ52とともに回転し、該ローラ52に紡績糸Yを巻き付ける。また、解舒部材51は、紡績糸Yに掛かる張力が高い場合にローラ52から独立して回転し、該ローラ52に巻き付けられた紡績糸Yを解舒する。このため、張力安定部5は、紡績糸Yに掛かる張力を適度に保ち安定させることができる。
【0037】
巻取部6は、紡績糸Yを巻き取ってパッケージPを作成する。巻取部6は、駆動ローラ61と、クレードル(図示せず)と、を備えている。駆動ローラ61は、クレードルに把持されたボビンBを回転させる。このため、巻取部6は、紡績糸Yを巻き取ってパッケージPを作成することができる。なお、巻取部6は、図示しない綾振装置によって紡績糸Yを綾振するため、パッケージPにおける紡績糸Yの偏りを防いでいる。
【0038】
以上が本発明の実施形態に係る紡績機100の全体構成である。但し、本紡績機100の特徴部分であるドラフトユニット2と紡績部3を備えていれば詳細な構成については問わない。つまり、本紡績機100の特徴部分であるドラフトユニット2と紡績部3を備えていればスライバ供給部1、欠点検出部4、張力安定部5、巻取部6、その他の構成や配置関係について限定しない。
【0039】
次に、ドラフトユニット2の構成について詳細に説明する。図2は、ドラフトユニット2の構成を示す図である。本図は、ドラフトローラ対21・22・23・24を支持するフレーム20を図示していない。図3は、ドラフトユニット2を矢印X方向から見た図である。図4は、ドラフトユニット2を矢印Y方向から見た図である。図5は、ドラフトユニット2を矢印Z方向から見た図である。
【0040】
ドラフトローラ対21・22・23・24は、それぞれボトムローラ21A・22A・23A・24Aと、トップローラ21B・22B・23B・24Bと、で構成される。また、ミドルローラ対23を構成するボトムローラ23A及びトップローラ23Bには、合成ゴム製のエプロンバンド23C・23Cが巻回されている。
【0041】
ボトムローラ21A・22A・23A・24Aは、図示しない動力機構によって繊維束Fの走行方向に向けて回転される。トップローラ21B・22B・23B・24Bは、ボトムローラ21A・22A・23A・24Aに接触した状態で従動回転される。各ドラフトローラ対21・22・23・24は、繊維束Fの送り方向に沿って、順次、回転速度が速くなるように設定されている。
【0042】
このような構成により、ドラフトローラ対21・22・23・24に把持された繊維束Fは、各ドラフトローラ対21・22・23・24を通過する度に送り速度が増していき、隣接するドラフトローラ対21・22・23・24との間で牽伸されることとなる。このようにして、ドラフトユニット2は、繊維束Fの幅(太さ)を徐々に細くし、均一化することができる。
【0043】
ドラフトユニット2には、ドラフトローラ対21・22・23・24の回転軸に対して平行に二本の支持軸251・252が設けられている。可動ベース部25は、該可動ベース部25の両端部に設けられた摺動孔に支持軸251・252が挿通された状態で支持されている。保持部26は、可動ベース部25の凹部25Cに組み込まれた状態で支持軸251によって支持されている。
【0044】
詳細に説明すると、可動ベース部25のドラフト方向下流側の端部には、矩形状の凹部25Cが設けられている(図3、図4参照)。保持部26は、凹部25Cの内方において、該保持部26に設けられた摺動孔に支持軸251が挿通された状態で支持されている。つまり、保持部26は、可動ベース部25を支持する一の支持軸251によって支持されている。従って、支持軸251・252は、可動ベース部25の移動ガイドと保持部26の支持ガイドの機能を有するため、ドラフトユニット2の構成を簡素化できる。
【0045】
可動ベース部25の下方(ドラフトローラ対21・22・23・24が配置されている側とは反対側)には、駆動部27が配置されている。本実施形態に係る駆動部27は、ステッピングモータ271と、カム272と、カムフォロア273と、で構成される。ステッピングモータ271は、カム272を回転させることによって可動ベース部25に取り付けられたカムフォロア273を従動させる。可動ベース部25は、支持軸251・252に環装されたスプリング253によって付勢されているため、カム272の形状に追従することができる。
【0046】
従って、可動ベース部25は、ドラフトローラ対21・22・23・24の回転軸方向に対して平行に移動することができる(図3、図4矢印T参照)。このため、可動ベース部25の凹部25Cに組み込まれた保持部26も可動ベース部25とともに移動できる。即ち、保持部26に保持されている紡績部3は、可動ベース部25とともに移動自在に構成されている。
【0047】
このように、本実施形態に係る駆動部27は、カム機構によって回転運動を直線運動に変換する構成を採用している。但し、駆動部27は、スパイラル軸とナットによって回転運動を直線運動に変換することも可能である。また、駆動部27は、ラックギヤとピニオンギヤによって回転運動を直線運動に変換することも可能である。なお、本実施形態において駆動部27は、ステッピングモータを備えているが、本発明は当該実施形態に限定されず、例えば駆動部27は、サーボモータを備えるようにしても良い。
【0048】
本ドラフトユニット2は、バックローラ対21の上流側に第一案内部28を備えている。第一案内部28は、スライバ供給ユニット1から供給された繊維束Fをバックローラ対21へ案内する。第一案内部28は、該第一案内部28を支持するブラケットを介して可動ベース部25に取り付けられている。
【0049】
また、本ドラフトユニット2は、サードローラ対22とミドルローラ対23の間に第二案内部29を備えている。第二案内部29は、サードローラ対22から送り出された繊維束Fをミドルローラ対23へ案内する。第二案内部29は、該第二案内部29を支持するブラケットを介して可動ベース部25に取り付けられている。
【0050】
従って、可動ベース部25に取り付けられた第一案内部28と第二案内部29は、可動ベース部25と一体となってドラフトローラ対21・22・23・24の回転軸方向に対して平行に移動できる(図3、図4矢印T参照)。つまり、第一案内部28と第二案内部29は、紡績部3に対する位置を一定に保った状態でドラフトローラ対21・22・23・24の回転軸方向に対して平行に移動できる。
【0051】
このような構成により、本ドラフトユニット2は、紡績部3と第一案内部28と第二案内部29がドラフトローラ対21・22・23・24の回転軸方向に対して平行に移動できることを特徴としている。このため、本ドラフトユニット2は、ドラフトローラ対21・22・23・24による繊維束Fの把持位置を変更できる。これにより、トップローラ21B・22B・23B・24Bの長寿命化を図ることが可能となる。なお、本実施形態においては、ミドルローラ対23にエプロンバンド23C・23Cが巻回されているため、ミドルローラ対23について言及すると、正確にはエプロンバンド23Cの長寿命化を図ることが可能となる。
【0052】
なお、本実施形態に係る第一案内部28は、可動ベース部25に取り付けられることによって該可動ベース部25と一体となって移動する。但し、第一案内部28は、後述するフレーム20等に取り付けられて移動しない構成とすることも可能である。
【0053】
第一案内部28が移動しない構成とする場合として、繊維束Fが太い場合が挙げられる。つまり、バックローラ対21に把持された際の繊維束Fの幅(太さ)がバックローラ対21の幅寸法に対して余裕がない場合である。このような状態で第一案内部28を移動させると、繊維束Fを構成する繊維がバックローラ対21から脱落してしまう。従って、繊維束Fが太い場合は、第一案内部28を移動しないように設けるのが望ましい。
【0054】
本ドラフトユニット2には、可動ベース部25の近傍に検出部30が取り付けられている。検出部30は、可動ベース部25に取り付けられた磁石Mの磁力を検出できる磁力センサ(ホールIC)である。具体的に説明すると、検出部30は、磁束密度の変化に応じて出力電圧を変換し、出力電圧の値から磁石Mの位置を検出できる。検出部30は、アナライザを介して制御部7に接続されている。このため、制御部7は、検出部30からの検出信号に基づいて磁石Mの位置、即ち、可動ベース部25の位置を把握することができる。なお、磁石Mの取り付け位置等について限定するものではない。
【0055】
図6は、可動ベース部25及び保持部26の移動を示す図である。本図の縦軸は、経過時間tを示している。本図の横軸は、可動ベース部25及び保持部26の変位Lを示している。なお、可動ベース部25及び保持部26の変位Lとは、該可動ベース部25及び保持部26の原点位置Oからの移動距離である。
【0056】
図6に示すように、本実施形態においては、制御部7が駆動部27を制御することによって可動ベース部25を連続的に往復させる。このため、可動ベース部25の凹部25Cに組み込まれた保持部26も連続的に往復する。なお、本発明は、ドラフトローラ対21・22・23・24による繊維束Fの把持位置を変更させて、トップローラ21B・22B・24Bの長寿命化を図ることが重要であり、駆動部27の制御態様について限定するものではない。
【0057】
本実施形態において原点位置Oは、ドラフトローラ対21・22・23・24の回転軸方向中央部とされている。しかし、原点位置Oは、ドラフトローラ対21・22・23・24の回転軸方向中央部でなくとも良く、例えば回転軸方向端部に設けられていても良い。つまり、原点位置Oは、特定の位置に限定されない。
【0058】
保持部26は、支持軸251を中心として回動することができる(図2矢印S参照)。このため、保持部26は、フロントローラ対24に対して近接又は離間することができる。即ち、保持部26に保持されている紡績部3は、フロントローラ対24に対して近接又は離間自在に構成されている。
【0059】
このような構成により、本ドラフトユニット2は、保持部26が支持軸251を中心として回動できることを特徴としている。このため、本ドラフトユニット2は、整備を行なう際には保持部26に保持された紡績部3をフロントローラ対24から離間させることができる。これにより、紡績機100の整備性を向上させることが可能となる。更に、保持部26の回動動作を該保持部26の移動に用いる支持軸251によって実現するため、ドラフトユニット2の構成を簡素化できる。
【0060】
図7は、保持部26の回動を示す図である。本図は、ドラフトローラ対21・22・23・24を支持するフレーム20を図示していない。図7Aは、紡績時における保持部26の位置を示している。図7Bは、整備時における保持部26の位置を示している。
【0061】
図7Aに示すように、紡績時における紡績部3とフロントローラ対24の隙間D−closeは、狭くする必要がある。これは、フロントローラ対24によって送り出された繊維束Fが乱れる前に紡績部3が繊維束Fを撚る必要があるためである。しかし、図7Bに示すように、整備時における紡績部3とフロントローラ対24の隙間D−openは、保持部26を回動することによって広く確保することができる。なお、本実施形態においては、保持部26を回動すると吸引ダクトの開口部266が現れるように構成されている。このため、糸屑等を吸引ダクトを介して廃棄することができる。
【0062】
また、図8に示すように、エアシリンダ265を用いることによって保持部26をフロントローラ対24に対して近接又は離間させる構成としても良い。図8Aは、紡績時における保持部26の位置を示している。図8Bは、整備時における保持部26の位置を示している。本実施形態においては、オペレータが保持部26を手動で回動させる構成としている。但し、整備を行なう際にエアシリンダ265によって保持部26を自動的に回動する構成とすることも可能である。
【0063】
次に、保持部26の回動角度を制限する構成について説明する。
【0064】
図7A及び図7Bに示すように、本実施形態における保持部26は、該保持部26の回動角度を制限する第一当接部261と第二当接部262を備えている。第一当接部261は、保持部26がフロントローラ対24に近接する方向へ回動した際に位置決めピン263に当接する(図7A参照)。一方、第二当接部262は、保持部26がフロントローラ対24から離間する方向へ回動した際に位置決めピン263に当接する(図7B参照)。
【0065】
従って、第一当接部261は、保持部26に保持された紡績部3と該保持部26の上流側に配置された部材(フロントローラ対24)が近接し過ぎないように保持部26の回動角度を制限することができる。第二当接部262は、保持部26に保持された紡績部3と該保持部26の下流側に配置された部材(例えばデリベリローラ)が近接し過ぎないように保持部26の回動角度を制限することができる。
【0066】
このような構成により、本ドラフトユニット2は、第一当接部261と第二当接部262が保持部26の回動角度を制限するため、該保持部26に保持された紡績部3が他の部材に干渉することを防止できる。これにより、紡績機100の整備性を更に向上させることが可能となる。なお、第一当接部261は、フロントローラ対24の把持点(ニップ点)Nと紡績部3の距離を決定することができる。把持点(ニップ点)Nと紡績部3の距離は、紡績糸Yの品質を安定させるために特に重要な寸法である。
【0067】
次に、紡績糸Yの品質低下を防ぐことができる構成について説明する。
【0068】
図7A及び図7Bに示すように、本実施形態における保持部26は、第一付勢部材であるスプリング264によって回動方向の一方に付勢されている。スプリング264は、引張スプリングであって、保持部26をフロントローラ対24に対して近接する方向へ付勢している。なお、本発明は、保持部26を回動方向の一方に付勢することによって該保持部26のガタツキを防止することが重要であり、付勢方向等について限定するものではない。
【0069】
このような構成により、本ドラフトユニット2は、スプリング264が保持部26を回動方向の一方に付勢するため、フロントローラ対24と紡績部3との相対的な位置関係を決定することができる。これにより、保持部26により保持された紡績部3の紡績性能を安定させることができる。
【0070】
また、図3から図5に示すように、可動ベース部25は、第二付勢部材であるスプリング253によって移動方向の一方に付勢されている。スプリング253は、圧縮スプリングであって、可動ベース部25に取り付けられたカムフォロア273をカム272に対して押し付ける方向へ付勢している。なお、本発明は、可動ベース部25を移動方向の一方に付勢することによって該可動ベース部25のガタツキを防止することが重要であり、付勢方向等について限定するものではない。
【0071】
このような構成により、本ドラフトユニット2は、スプリング253が可動ベース部25を移動方向の一方に付勢するため、該可動ベース部25のガタツキを防止できる。このため、可動ベース部25とともに移動する保持部26のガタツキも防止できる。これにより、保持部26に保持された紡績部3の紡績性能を安定させることができ、紡績糸Yの品質低下を防ぐことが可能となる。
【0072】
更に、図2及び図4に示すように、駆動部27は、二本の支持軸251・252の間で可動ベース部25を移動させる作用点を構成している。本実施形態において、可動ベース部25を移動させる作用点は、二本の支持軸251・252の中間地点となるように構成されている。なお、本発明は、可動ベース部25を移動させる作用点を二本の支持軸251・252の間に構成することによって該可動ベース部25に作用する回転モーメントを低減することが重要であり、厳格な位置を限定するものではない。
【0073】
このような構成により、本ドラフトユニット2は、駆動部27が二本の支持軸251・252の間で可動ベース部25を移動させる作用点を構成するため、該可動ベース部25の移動が滑らかになる。このため、可動ベース部25とともに移動する保持部26の移動も滑らかになる。これにより、保持部26に保持された紡績部3の紡績性能を安定させることができ、紡績糸Yの品質低下を防ぐことが可能となる。
【0074】
また、図3から図5に示すように、ドラフトローラ対21・22・23・24は、一対のフレーム20によって回転自在に支持されている。一対のフレーム20は、支持軸251・252によって連結されている。つまり、支持軸251・252は、一対のフレーム20を連結する梁部材を構成している。
【0075】
このような構成により、本ドラフトユニット2は、支持軸251・252がフレーム20を連結する梁部材を構成するため、高い剛性を確保できる。このため、フレーム20によって支持されているドラフトローラ対21・22・23・24のガタツキを防止できる。これにより、ドラフトローラ対21・22・23・24による牽伸能力を安定させることができ、紡績糸Yの品質低下を防ぐことが可能となる。
【0076】
次に、本実施形態に係る紡績機100の他の特徴点について説明する。
【0077】
本紡績機100を構成する紡績部3は、旋回空気流によって繊維束Fを撚る、いわゆる空気紡績装置3である。図9は、空気紡績装置3の構成を示す図である。
【0078】
空気紡績装置3は、紡績室SC内に旋回空気流を形成し、該旋回空気流によって繊維束Fを撚る。紡績室SCは、ファイバーガイド31とスピンドル32の間に構成される空間SC1と、スピンドル32とノズルブロック33の間に構成される空間SC2と、に分けられる。
【0079】
空間SC1において、繊維束Fを構成する繊維の後端部が旋回空気流によって反転される(図中二点鎖線参照)。空間SC2において、反転された各繊維の後端部が旋回空気流によって回転される(図中二点鎖線参照)。回転される繊維の後端部は、次々と中心部の繊維に巻き付いていく。このようにして、空気紡績装置3は、繊維束Fから紡績糸Yを紡出することができる。
【0080】
なお、図9に示すように、本実施形態に係る空気紡績装置3では、ファイバーガイド31にニードルが設けられている。ニードルは、繊維束Fをスピンドル32に導くとともに、繊維の撚りが上流側に伝わらないようにするために設けられる。しかし、ファイバーガイド31にニードルを設けない構成であったとしても、本発明の目的及び効果に差異はない。
【0081】
このような構成により、本紡績機100は、紡績部3が旋回空気流によって繊維束Fを撚るため、高い紡績速度を実現できる。紡績速度が高速化すると、ドラフトローラ対21・22・23・24による牽伸も高速化する。これに伴い、ドラフトローラ対21・22・23・24の単位時間当たりの摩耗の進行も早くなる。従って、ドラフトローラ対21・22・23・24による繊維束Fの把持位置を変更させると、該ドラフトローラ対21・22・23・24の長寿命化にとって特にメリットがある。また、旋回空気流により繊維束Fを撚るため、ドラフトローラ対21・22・23・24と紡績部3との間に抜け落ちた繊維が堆積することがあるが、紡績部3は、ドラフトローラ対21・22・23・24に対して近接又は離間自在となるように保持部により保持されているため、紡績部3の整備性も良い。従って、紡績部3の可動効率を向上することができる。
【0082】
なお、旋回空気流によって繊維束Fを撚る構成であれば、詳細な構成について限定しない。例えば互いに異なる方向に流れる旋回空気流を二つ形成し、これらの旋回空気流によって繊維束Fを撚る構成であっても良い(例えば特開平5−86510、特開2006−161171等)。
【0083】
更に、上述したように、本紡績機100は、紡績糸Yを巻き取ってパッケージPを作成する巻取部6を具備している(図1参照)。本紡績機100は、トップローラ21B・22B・24Bの寿命を延ばすことができるため、長期にわたって連続してパッケージPを製造できる。また、フロントローラ対24と紡績部3との間の空間での整備を行ない易い。即ち、本紡績機100によるパッケージPの生産能力を向上させることが可能となる。
【0084】
上述したように、本実施形態における紡績機100は、ゴム等で形成されたトップローラ21B・22B・24Bの寿命を延ばすことが可能である。しかし、ボトムローラ21A・22A・24Aがゴム等で形成されている場合は、該ボトムローラ21A・22A・24Aの寿命を延ばすことができる。また、トップローラ21B・22B・24Bとボトムローラ21A・22A・24Aが共に摩耗する材料で形成されている場合においても寿命を延ばすことができる。従って、本発明の技術的特長は、所定のローラ(本実施形態では、トップローラ21B・22B・24B)の寿命を延ばす目的に限定するものではない。
【0085】
本実施形態では、紡績機100が一台設けられている。しかし、複数の紡績機100を並べて配置して、繊維機械を構成しても良い。この場合、隣り合う紡績機100で可動ベース部25を同じ方向に移動させても良いし、異なる方向に移動させても良い。異なる方向に移動させる場合、可動ベース部25が同じ方向に移動することによる振動を抑制することができる。
【符号の説明】
【0086】
100 紡績機
1 スライバ供給部
2 ドラフトユニット
20 フレーム
21 バックローラ対(ドラフトローラ対)
21A ボトムローラ
21B トップローラ
22 サードローラ対(ドラフトローラ対)
22A ボトムローラ
22B トップローラ
23 ミドルローラ対(ドラフトローラ対)
23A ボトムローラ
23B トップローラ
24 フロントローラ対(ドラフトローラ対)
24A ボトムローラ
24B トップローラ
25 可動ベース部
251 支持軸
252 支持軸
253 スプリング(第二付勢部材)
26 保持部
261 第一当接部
262 第二当接部
263 位置決めピン
264 スプリング(第一付勢部材)
27 駆動部
28 第一案内部
29 第二案内部
3 紡績部
4 欠点検出部
5 張力安定部
6 巻取部
7 制御部
F 繊維束(スライバ)
Y 紡績糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束を牽伸するドラフトローラ対と、
前記ドラフトローラ対によって牽伸された繊維束を撚って紡績糸を紡出する紡績部と、
前記紡績部を保持する保持部と、
前記保持部が取り付けられる可動ベース部と、
前記可動ベース部を前記ドラフトローラ対の回転軸方向に対して平行に移動させる駆動部と、
前記可動ベース部を移動自在に支持し、前記紡績部が前記ドラフトローラ対に対して近接又は離間自在となるように前記保持部を支持する支持軸と、を備えることを特徴とする紡績機。
【請求項2】
前記支持軸は、軸状に形成され、
前記保持部は、前記支持軸を中心として回動自在に支持される、ことを特徴とする請求項1に記載の紡績機。
【請求項3】
前記保持部は、前記ドラフトローラ対に近接する方向への回動角度を制限する第一当接部と前記ドラフトローラ対から離間する方向への回動角度を制限する第二当接部を備える、ことを特徴とする請求項2に記載の紡績機。
【請求項4】
前記保持部を回動方向の一方に付勢する第一付勢部材を更に備える、ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の紡績機。
【請求項5】
前記可動ベース部を移動方向の一方に付勢する第二付勢部材を更に備える、ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の紡績機。
【請求項6】
二本の前記支持軸を具備し、
前記駆動部は、二本の前記支持軸の間で前記可動ベース部を移動させる作用点を構成する、ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の紡績機。
【請求項7】
前記ドラフトローラ対を回転自在に支持する一対のフレームを具備し、
前記支持軸は、一対の前記フレームを連結する梁部材を構成する、ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の紡績機。
【請求項8】
前記紡績部は、旋回空気流によって繊維束を撚って紡績糸を紡出する、ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の紡績機。
【請求項9】
繊維束の送り方向に沿って少なくとも三つの前記ドラフトローラ対を具備する、ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の紡績機。
【請求項10】
紡績糸をパッケージへと巻き取る巻取部を具備する、ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の紡績機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−49938(P2013−49938A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189727(P2011−189727)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】