説明

紡績糸製造においてドラフト領域及びガイド領域において設けられる弾性材料被覆ローラをシフト構造及びプリテンション装置を備えたエプロンで覆う装置及び方法

【課題】本発明の目的は、紡績糸製造技術でドラフト及び案内のために使用される弾性材料被覆ローラに対する繊維又は紡績糸による摩耗の影響を減少させ、操業状態と紡績糸品質パラメータを一定に維持することである。
【解決手段】紡績糸製造技術、特に機械式リングコンパクト紡績糸製造技術において、弾性材料で被覆したトップローラ(9)に対する繊維による摩耗の影響を減少させるための本発明は、トップローラ(9)及び、圧力アーム(3)上に配置されたベアリングユニット(15)のベアリング本体(15.1)に接続された支持案内アーム(15.2)を、これらの部品(9,15.2)を一緒に覆うようにエプロン(17)で覆う方法である。この方法は、テンション部品(22)を介して張力を加えることによってエプロン(17)を張った状態にする動作ステップと、繊維ドラフト動作が継続している状態で、エプロン(17)を支持するベアリングユニット(15)を所定の間隔で水平面内でシフトする動作ステップとを含む。これにより、トップローラ(9)のみが使用されるシステムに比べて使用及び動作期間を長くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績糸製造技術で使用される、ドラフト領域及びガイド領域に設けられる弾性材料被覆ローラを、シフト構造及びプリテンション装置を備えたエプロンで覆うことによって改善することに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ほとんど全ての紡績糸製造技術では、ドラフトのために、又は次工程に紡績糸を導くために、弾性材料被覆ローラが使用される。紡績糸は、装置中の場所により繊維形態で使用されるか、または、最終的な紡績糸の形態で使用されるが、所定の張力でこれらのローラと接触し、これらのローラを介してドラフト工程や案内工程に付される。
【0003】
弾性材料被覆ローラの材料硬度は、製造される紡績糸の品質及びその機能に直接関係し、ドラフト領域におけるトップローラの弾性材料の硬度は、紡績糸の品質に対し、特に重要である。
【0004】
繊維又は紡績糸と弾性材料被覆ローラとの接触により摩耗が生じることが知られている。装置製造業者は、弾性材料の摩耗を遅らせると共にその運転期間を長くするために、適用個所が許容すれば、繊維又は紡績糸が案内される、若しくは、ドラフトをかけられるローラ上で繊維又は紡績糸を移動させる。
【0005】
コンパクトリング紡績技術は、弾性材料被覆ローラの摩耗が激しい重要な例である。コンパクト紡績技術においては、主ドラフト領域の直後の圧縮(compacting)領域を用いることにより、複数の紡績糸が互いに接近して配置され、紡績トライアングル(spinning triangle)は、ほとんど除去される。このようにして、紡績糸の特性の改善、例えば、強度の増加や毛羽立ちの減少が図られる。
【0006】
コンパクトリング紡績糸製造技術の一つは、機械式コンパクタ装置である。図1及び図2に、従来の機械式コンパクタ装置の図が示されており、この装置の動作原理を、これらの図中の参照番号を参照して以下に説明する。
【0007】
図1は、コンパクト紡績糸の製造に従来用いられてきた機械式コンパクタ装置の概略側面図である。図2は、機械式コンパクタとローラとの相互の位置関係を示す詳細図である。これらの図から分かるように、ギヤボックスによって駆動されるデリベリドラフトローラ(1)は、圧縮領域に属するフロントローラ(10)とトップローラ(9)とを支持する。圧縮領域の接触点は、図2に示されるA点とB点との間に存在する。高精度な装置である機械式コンパクタ(12)は、隙間のない状態でデリベリドラフトローラ(1)に圧接されている。機械式コンパクタ(12)は、デリベリドラフトローラ(1)と共に完全に閉じた圧縮空間を形成し、デリベリドラフトローラ(1)の表面は、繊維をコンパクタ(12)に正確に案内するために繊維と共に同調して回転する。A点とB点との間の圧縮部の詳細図に示されるように、機械式コンパクタ(12)の内部には、下流に向かって狭くなる漏斗形状の圧縮チャンネル(12.1)が設けられている。デリベリドラフトローラ(1)とトップローラ(9)の間を通じて進入する繊維は、機械式コンパクタ(12)の内部に設けられた圧縮チャンネル(12.1)を通って下流に移動する間に圧縮される。チャンネル(12.1)から出る圧縮された繊維は、フロントローラ(10)とデリベリドラフトローラ(1)の間を通過することにより、巻き操作(winding operation)に付され、高い耐久性を有する紡績糸になる。
【0008】
図1に示されるように、従来技術による機械式コンパクト紡績糸製造装置は、金属系素材製で、ギヤボックスと中間ドラフトローラ(2)によって駆動されて回転運動するデリベリドラフトローラ(1)と、多数の繊維を装置内へ供給するガイドとして作動するロービングガイド(11)と、中間ドラフトローラ(2)とボトムエプロンガイドバー(6)とを覆うように設けられたボトムエプロン(8)と、トップエプロンローラ(5)とエプロン架台(4)を覆うように設けられたトップエプロン(7)とを含んでいる。ロービングガイド(11)から進入する繊維は、トップエプロン(7)及びボトムエプロン(8)の間を通過して圧縮される。トップエプロン(7)及びボトムエプロン(8)の間を通過した繊維は、デリベリドラフトローラ(1)とトップローラ(9)との間に到達する。装置の圧力アーム(3)を介して、ゴム材料製のトップローラ(9)が、所定の力でデリベリドラフトローラ(1)に押し当てられている。デリベリドラフトローラ(1)とトップローラ(9)の間を通過して、ドラフトがかけられ、伸長された繊維は、機械式コンパクタ(12)に案内される。繊維は、ほとんど同じ個所を通過するため、ゴム製のトップローラ(9)の表面が摩耗し、この表面の変形は、操業時間が長くなるほど大きくなる。このゴム表面の変形により、トップローラ(9)を、頻繁に研磨又は再生するための労力、製造量の減少、スピンドル間の品質ばらつき等の問題が生じる。表面変形が進むにつれ、平均で1000スピンドル当たりの紡績糸の端部破損数(end brakes)が増加し、次の操作である巻取(winding)でクリーニングを伴う多大な品質エラーが生じる問題が発生する。従って、保守費用が増大する。
【0009】
更に、従来の装置において、紡績の際に、コンパクタ(12)に進入することができなかった繊維(20)(図6A)が、毛羽を発生し、この毛羽は、環境汚染や機械汚染を引き起こし、及び/又は、紡績領域において毛羽が、紡績糸構造に付着し、この付着を制御することはできない。このような状況は、紡績糸の品質や操業条件に悪影響を及ぼす。図6Aに示されるクリアラーローラ(18)の位置は、コンパクタに進入することができない繊維(20)から離れており、クリアラーローラ(18)上への繊維の集積を効果的に行えない。
【0010】
機械式コンパクト紡績糸製造装置に関しては、特許文献1が本発明の装置に最も近い文献である。しかし、この特許文献を調べたところ、この文献には前述した欠点や問題を解決するための適切な解決策が示唆されていないことが分かった。
【0011】
結果として、従来の解決策の不適切さにより、関連分野での改良が必要になる。この改良により、紡績糸製造技術においてドラフト及び案内のために設けられた弾性材料被覆ローラの摩耗が低減され、特に操業の基礎となる機械式リングコンパクト紡績における前記欠点と不利な点が除去され、紡績糸パラメータが改善され、より効率的な操業条件が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2006/005207号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
公知技術では、弾性材料被覆ローラと繊維又は紡績糸とが所定期間接触した結果、弾性材料及び被覆表面は、必ず摩耗する。繊維又は紡績糸を、連続的に動かしながら弾性材料被覆ローラに案内すること、異なる製法で開発された弾性材料を使用すること、並びにローラの寸法を、適用個所に応じて使用可能な最小の直径と幅に選択することにより、摩耗の影響を遅らせることが可能となる。これら全ての手段にもかかわらず、紡績技術においては、繊維又は紡績糸を左右に動かさないか、又は非常に小さい距離だけ動かしながら繊維又は紡績糸を弾性材料被覆ローラに案内しているので、以下の問題がある。
1.極めて短期間で摩耗するため保守に労力がかかる。
2.急速な摩耗のため品質上の問題が発生する。
3.生産ユニット間での品質のばらつきが大きい。
4.破断や重なり(lap)等、摩耗に起因する影響により効果の上がらない操業条件が認められる。
【0014】
従来の機械式コンパクトリング紡績装置において、繊維は、ほとんど同じ場所を、通過するため、トップローラ(9)上の繊維通過個所が、急速に摩耗する。この結果、紡績糸の品質パラメータと操業条件が悪化する。そのような望ましくない状態を防ぐために、トップローラ(9)を、非常に短期間で研磨及び再生する必要がある。研磨を行う毎にトップローラ(9)の直径が減少し、ゴム量の減少によりトップローラ(9)の硬度が増大する。この状況により、トップローラ(9)とデリベリドラフトローラ(1)との間における繊維伸長特性が損なわれる。
【0015】
コンパクタ領域で生じる毛羽の非効果的な除去:
図6aは、現在の装置における紡績操業中のコンパクタ(12)を通過できない繊維(20)を示す。図6bの斜視図は、従来技術においてトップローラ(9)とコンパクタ(12)の間から出てくる繊維(20)とクリアラーローラ(18)の間の距離を示す。この距離では、クリアラーローラ(18)上にコンパクタを通過できない繊維(20)を十分に集めることができない。
【0016】
コンパクタに進入できない繊維(20)は、毛羽を発生し、この毛羽は、環境汚染や機械汚染を引き起こし、及び/又は紡績領域において毛羽が紡績糸構造に付着し、この付着を制御することはできない。このような状況により、糸の品質及び操業条件に悪影響が与えられる。
【0017】
本発明の主な目的は、現在の機械式コンパクト紡績糸装置の欠点をなくし、紡績糸パラメータを改善し、より効率的な操業条件を提供する機械式コンパクトリング紡績糸製造装置を開発することである。
【0018】
本発明の目的は、弾性材料で被覆された材料で製作されたローラに対する繊維又は紡績糸に起因する短期間での摩耗の影響を低減するためにローラにエプロンと称される帯状部材を使用することであり、摩耗期間を延長する技術を含む。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の機械式コンパクト紡績糸製造装置では、ローラ上でエプロンを作動させる技術が使用される。
【0020】
紡績糸製造装置で使用される種々のエプロンの適用例を開示する特許出願が認められる。欧州特許第0635590号、国際公開第2005/038104号及び国際公開第2007/101742号に係る特許出願がそのような出願の例である。しかしながら、本発明は、以下のような改良が提供される。すなわち、
1.ローラに適用されるエプロンの周囲長さを、他の装置が許容する範囲でローラの周囲長よりも長くして、摩耗期間を延長できるようにした。
2.ローラ幅よりも狭い大きさで用いられるエプロンを選択することによりエプロンをローラ上で移動させて異なる繊維又は紡績糸の経路を得ることにより、摩耗期間を長くできるようにした。
3.ローラーベアリング部品に取り付けられたストレッチ装置を介して、ローラ上で使用されるエプロンが、均一な輪を形成するようにした。これらにより、ローラ上の従来のエプロン被覆特許では得られない利点が得られる。
【0021】
また、本発明は、以下の特徴を有する。
1.ストレッチ装置を介してエプロンを伸展させることにより、弾性材料被覆ローラを覆ってエプロンの輪が形成されている。
2.適用個所の空間及び装置が許容する範囲で、大きな周囲長を有するエプロンが形成されている(広い操作表面、摩耗遅延)。
3.弾性材料被覆ローラ上でエプロンを左方又は右方に動かせるように、弾性材料被覆ローラよりも幅が狭くなるようにエプロンが設けられている。
4.弾性材料被覆ローラ上でエプロンを左方又は右方に動かすことによって、新たな紡績糸又は繊維の接触経路が得られる(使用期間延長)。
5.製造中を通じて、弾性材料被覆ローラ上でエプロンを左方又は右方に移動させる操作が、手動で、又は、適用場所に応じて開発される装置を通じて自動で、なされる。
6.エプロンを適用場所に取り付けるために、本装置によるベアリングユニットが設けられている。
7.弾性材料被覆ローラ上にエプロンを維持するためにエプロンを案内するガイドアームが、このベアリングユニット上に設けられている。
8.弾性材料被覆ローラを所定の張力でエプロンで被覆するために、ベアリングユニットと本装置との間に張力装置が設けられている(渦巻きばね、板ばね、ゴムチョック(rubber chock)等)。
【0022】
幅狭のトップローラエプロン(17)及びその下の柔らかいトップローラ(9)を使用することにより、繊維に加わる圧力が増大し、より効果的に繊維を制御することが可能となる。その適用において使用されるエプロン(17)が、本トップローラ(9)に比べて摩耗に対する耐久性に優れた材料で作られており、また、その構造上摩耗が少ないため、摩耗期間が延長され得る。また、エプロン(17)の周囲長が本トップローラ(9)の周囲長よりも長いことは、紡績糸の破断を減少させる上で最も重要な要因である。幅狭のトップローラエプロン(17)の適用とクリアラーローラ(18)の効果的な位置は、次工程の操作を改善する。
【0023】
幅狭のトップローラエプロン(17)の上記利点により、巻取において決定される欠陥領域が減少した(特に、クラシマット(Classimat)における領域A1)。更に、ビジネスとしては非常に重要な保守コストを低減できる、単位時間当たりのラップ(lap)及び紡績糸の端部破損数を減少でき、これにより作業負荷を低減できる等の利点がある。
【0024】
上記目的を達成するため、本発明は、テンション部品(22)を介して張力を利用してエプロン(17)を伸長させる段階と、コンパクト紡績糸を製造するための巻取動作の直前に、エプロン(17)上を移動する繊維によって引き起こされるエプロン(17)の摩耗の影響を減少させるために、繊維ドラフト操作が継続されている間に、エプロン(17)を支えるベアリングユニット(15)を予め決められた間隔で移動させる段階とを含む方法を提供するものである。エプロン(17)は、圧力アーム(3)上に設置されたベアリングユニット(15)上のベアリング本体(15.1)に接続されたベアリング案内アーム(15.2)及びトップローラ(9)上に、それら部品(9,15.2)を一緒に覆うように設けられており、トップローラ(9)表面及びエプロン(17)表面の摩耗が、より長期間で進行するため、使用期間と操業期間が延長される。
【0025】
また、本発明は、繊維ドラフト装置である。この装置では、コンパクト紡績糸の製造のための巻取操作の直前に、エプロン(17)が、圧力アーム(3)上に配置されたベアリングユニット(15)上のベアリング本体(15.1)と接続されたベアリングガイドアーム(15.2)及びトップローラ(9)を覆う。そして、エプロン(17)は、必要に応じて水平面内で移動させられ、張力の利用により引き伸ばされた状態とされている。
【0026】
本発明の構造的、特性的特徴及び利点の全ては、図を用いて述べる以下の詳細な説明及び図面を参照することにより、より深く理解されるであろう。従って、前記の図面及び詳細な説明を考慮して評価すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】コンパクト紡績糸を製造するために従来技術で使用される機械式コンパクタ装置の概略側面図である。
【図2】機械式コンパクタとローラとの間の相互位置関係を示す詳細図である。
【図3a】本発明の機械式コンパクタ装置の変更例に関する概略側面図である。
【図3b】本発明の変更例に関する実施形態の斜視図である。
【図4a】本発明の変更例に関する実施形態の機械式コンパクト装置におけるトップローラのクラッシュを示す詳細図である。
【図4b】従来技術の機械式コンパクト装置におけるトップローラのクラッシュを示す詳細図である。
【図5a】変更例に関する実施形態によるベアリング本体の正面図である。
【図5b】変更例に関する実施形態によるベアリング本体の上面図である。
【図5c】変更例に関する実施形態によるベアリング本体の側面図である。
【図6a】従来技術におけるコンパクタに進入しない繊維とクリアラーローラの位置を示す代表図である。
【図6b】従来技術におけるクリアラーローラの位置を示す斜視図である。
【図6c】本発明におけるクリアラーローラの配置と、コンパクタに進入しない繊維のクリアラーローラによる効果的な除去を示す代表図である。
【図7】本発明における機械式コンパクト装置に設けられたベアリングユニットの取り付け状態での側面図である。
【図8a】本発明におけるシフト機械式コンパクト装置のベアリングユニットの取り付け状態での斜視図である。
【図8b】本発明における機械式コンパクト装置のベアリングユニットの取り外した状態での斜視図である。
【図8c】本発明における機械式コンパクト装置のベアリングユニットの変更例に関する実施形態の図である。
【図8d】本発明をリング紡績装置の圧力アームとフロントローラグループに適用した例を示す概略正面図である。
【図8e】本発明の変更例に関する実施形態の正面図である。
【図9a】従来技術におけるトップローラとデリベリドラフトローラとの間の接触を示す斜視図である。
【図9b】従来技術におけるトップローラとデリベリドラフトローラとの間の繊維挟持距離と接触幅を示す概略図である。
【図10a】本発明におけるトップローラエプロンとデリベリドラフトローラとの間の接触を示す斜視図である。
【図10b】本発明におけるトップローラとデリベリドラフトローラとの間の繊維挟持距離と接触幅を示す概略図である。
【図11a】従来技術による紡績糸品質エラー対時間のグラフである。
【図11b】本発明を適用した後における紡績糸品質エラー対時間のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、コンパクト紡績糸の製造に用いる機械式コンパクタ繊維紡績糸製造装置に関する。
紡績糸製造技術においては、繊維又は紡績糸がドラフトされる箇所、もしくは、それらが次の段階に案内される部分に、弾性材料被覆ローラが一般的に使用される。紡績装置の例としては、リング紡績装置、ロータ紡績装置、エアジェット紡績装置等が挙げられる。これらの紡績技術の全てにおいて、弾性材料被覆ローラがドラフト又は案内の目的で使用されている。
【0029】
機械式コンパクトリング紡績糸の製造において、装置の動作と従来技術の欠点に関する説明を行う必要がある。そのような紡績装置において、従来技術の欠点を除去できることを示すために、機械式コンパクトリング紡績装置における弾性材料で被覆したトップローラ(9)について研究を行った。この研究の詳細を以下に述べる。
【0030】
トップローラ(9)を覆うようなエプロン(17)を適用することによって得られる改善:
前述の従来技術におけるトップローラ(9)の急速摩耗による紡績糸品質パラメータ及び操業条件の悪化は、上記技術部分に開示されている。本発明でなされた改良により、トップローラ(9)上にエプロン(17)が設けられる。このエプロン(17)は、トップローラ(9)よりも狭いが、より高い耐摩耗性を有する材料で製造され、トップローラ(9)よりも周囲長が長い。このエプロン(17)は、圧力アーム(3)に取り付けられたベアリングユニット(15)及びこのユニット(15)に接続されたベアリング本体(15.1)を介して伸長されている。エプロン(17)は、デリベリドラフトローラ(1)上でトップローラ(9)と共に回転する。
【0031】
トップローラ(9)を、可能な限り柔軟なものとすると共に、エプロン(17)を、トップローラ(9)よりも可能な限り幅の狭いものとすることにより、現在の圧力による力でより高い圧力を繊維に加えることができる。この場合、繊維の制御を、より良く行え、これにより紡績糸品質パラメータが改善される。エプロン(17)の材料は耐摩耗性であり、その周囲長さは、トップローラ(9)の周囲長さよりも長いため、一定値(constant values)で長期に亘って使用される。エプロン(17)の周囲長さが、トップローラ(9)の周囲長さよりも長いことは、エプロン(17)の予想寿命を延ばす要因となる。
【0032】
図3aは、本発明の機械式コンパクタ装置の概略側面図である。図3bは本発明の機械式コンパクタ装置の斜視図である。機械式コンパクタ紡績糸製造装置は、金属系素材で作られると共にギヤボックスと中間ドラフトローラ(2)によって駆動されて回転運動するデリベリドラフトローラ(1)と、多数の繊維を当該機構へ進入させるガイドとして作動するロービングガイド(11)と、中間ドラフトローラ(2)とボトムエプロンガイドバー(6)を覆うように設けられたボトムエプロン(8)と、トップエプロンローラ(5)とエプロン架台(4)を覆うように設けられたトップエプロン(7)とを含んでいる。ロービングガイド(11)から進入する繊維は、トップエプロン(7)及びボトムエプロン(8)の間を通過することによって圧縮される。トップエプロン(7)及びボトムエプロン(8)の間を通過する繊維は、デリベリドラフトローラ(1)とトップローラ(9)との間を通過することにより、また機械式コンパクタ(12)の内部にある圧縮チャンネル(12.1)(図2のA点〜B点の詳細図参照)を通過することにより圧縮され、最後にフロントローラ(10)とデリベリドラフトローラ(1)の出口側で行われる巻取操作を経て紡績糸となり、スピンドル上に設けられたボビンに巻かれる。
【0033】
機械式コンパクタ装置の圧力アーム(3)を介して、ゴム素材製のトップローラ(9)が、所定の力でデリベリドラフトローラ(1)に押し当てられている。デリベリドラフトローラ(1)とトップローラ(9)の間を通過する繊維は伸長され、機械式コンパクタ(12)に案内される。
【0034】
図2に示されるように、機械式コンパクト紡績糸製造装置に付属するギヤボックスによって駆動されるデリベリドラフトローラ(1)は、圧縮領域に属するトップローラ(9)とフロントローラ(10)を支持する。圧縮領域の接触点は、A点からB点までの間に存在する。高精度な装置である機械式コンパクタ(12)は、隙間のない状態でデリベリドラフトローラ(1)に圧接している。機械式コンパクタ(12)は、デリベリドラフトローラ(1)と共に完全に閉じた圧縮空間を形成し、デリベリドラフトローラ(1)の表面は、繊維をコンパクタ(12)に正確に案内するために繊維と共に繊維と同調して移動する。A点とB点との間の圧縮部の詳細図から分かるように、機械式コンパクタ(12)の内部には、下流に向かって狭くなる漏斗形状の圧縮チャンネル(12.1)が設けられている。デリベリドラフトローラ(1)とトップローラ(9)の間を通過して進入する繊維は、機械式コンパクタ(12)の内部に設けられた圧縮チャンネル(12.1)を通過して下流に移動する間に圧縮される。圧縮された繊維が、チャンネル(12.1)から出る際、繊維が、フロントローラ(10)とデリベリドラフトローラ(1)の間を通過することにより、巻取操作に付され、耐久性の高い紡績糸になる。
【0035】
しかしながら、繊維は、デリベリドラフトローラ(1)とトップローラ(9)の間のほとんど同じ場所を通過するため、ゴム製のトップローラ(9)の表面が、短期間のうちに摩耗する。短期間の使用後に研磨されたトップローラ(9)は、取り外されて研磨されるか、若しくは新しいトップローラ(9)と交換される。何れの場合も、労働力の大きな損失となるだけでなく、追加処理(研磨等)や材料コストが発生する。
【0036】
上述したように、ゴム素材製のトップローラ(9)の摩耗を防止するために、従来技術の機械式コンパクト紡績糸装置とは異なり、トップローラ(9)にエプロン(17)が使用されている。トップローラエプロン(17)は、摩耗が生じるトップローラ(9)上で機能すると共に、繊維を機械式コンパクタ(12)に案内する。更に、使用するエプロン(17)の幅はトップローラ(9)の幅よりも狭いので、圧力アーム(3)によって繊維に加えられる力の影響が増大し、したがって、より良い繊維制御を得ることができる。幅の狭いトップローラエプロン(17)と、その下の柔らかいトップローラ(9)を設けることにより、繊維に加わる圧力が増大し、より効果的に繊維を制御することが可能となる。トップローラ(9)に関して使用されるエプロン(17)は、摩耗に対して高い耐久性を有する材料で作られているだけでなく、構造上摩耗が少ないため摩耗期間が延び、またエプロン(17)の周囲長が、トップローラ(9)の周囲長よりも長いため、摩耗期間が長くなる。この状況は、紡績糸の破断を減少させる上で、最も重要な要素の一つである。
【0037】
図2及び図3aは、リング紡績装置内の出口ドラフト領域を示す側面図である。後方部分から案内されてきた繊維は、圧力アーム(3)に固定された弾性材料被覆トップローラ(9)とその下に設けられたデリベリドラフトローラ(1)との間を通過することによってドラフトがかけられ、ローラ(1,9)の出口側にある紡績装置に案内される。
【0038】
繊維を案内している間に、弾性材料被覆トップローラ(9)は、経時的に摩耗する。摩耗が生じる弾性材料被覆トップローラ(9)は、必要に応じて、左方又は右方にシフトされる。弾性材料被覆トップローラ(9)よりも幅狭で直径が大きい張力の加えられたエプロン(17)で覆うことが必須である。エプロン(17)を支持するために、ベアリングユニット(15)が、圧力アーム(3)に取付けられている。弾性材料被覆トップローラ(9)上においてデリベリドラフトローラ(1)の駆動により回転可能なエプロン(17)を支持するためにベアリングユニット(15)に取り付けられたガイドアーム(15.2)が使用される。
【0039】
図5a、図5b及び図5cは、前記の変更例に関する実施形態のベアリング本体(15.1)を示す。図5に示されるように、圧力アーム(3)に取り付けられたベアリングユニット(15)は、圧力アーム(3)が取り付けられるように圧力アーム(3)の形状に適したくぼみを備えたベアリング本体(15.1)と、ベアリング本体(15.1)の側部に一体的に設けられた、好ましくは2個のガイドアーム(15.2)と、エプロン(17)が完全に嵌るようにガイドアーム(15.2)に設けられたローラベアリング(15.2.1)とを有する。ローラベアリング(15.2.1)により、エプロン(17)は、左方又は右方へシフトすることなく、ガイドアーム(15.2)上でトップローラ(9)と共に回転する。固定構造のガイドアーム(15.2)の変更例として、エプロン(17)の回転を許容する回転構造を有するプーリーや継手もベアリング部品として使用できる。
【0040】
図3bは本発明の変更例に関する実施形態の斜視図である。この図によれば、トップローラエプロン(17)は、一方ではトップローラ(9)の表面と接触し、他方では圧力アーム(3)に取り付けられたベアリング本体(15.1)に付属するガイドアーム(15.2)に形成されたローラベアリング(15.2.1)の表面と接触するように回転する。図5a、図5b及び図5cに明瞭に示されているように、ベアリング本体(15.1)の上面にハウジングが形成されている。ベアリング本体(15.1)は、ハウジング(15.3)を貫通する固定部品(19)を介して圧力アーム(3)に取り付けられている。ベアリングユニット(15)とベアリング本体(15.1)とを、ハウジング(15.3)を介して圧力アーム(3)に取り付けることにより、ガイドアーム(15.2)とトップローラ(9)との間の距離を調整できる。従って、エプロン(17)の張力を調整できる。
【0041】
エプロン(17)を支持するためにベアリングユニット(15)が、圧力アーム(3)に取付けられている。ベアリングユニット(15)に取り付けられたガイドアーム(15.2)が、デリベリドラフトローラ(1)の駆動により弾性材料被覆トップローラ(9)上で回転するエプロン(17)を支持するために使用される。圧力アーム(3)とベアリングユニット(15)との間のテンション部品(22)は、弾性材料被覆トップローラ(9)の回りに巻かれるエプロン(17)に所定の張力を付与する。テンション部品(22)は、板ばね、渦巻ばね、曲げチョック(bending chock)等の様々な形態で設けられる。
【0042】
再び図3a,図3b(変更例)及び図8aを参照すると、テンション部品(22)を介して上方に押されるベアリングユニット(15)とベアリング本体(15.1)の張力調整は、好ましくは、ねじである固定部品(19)の助けをかりて行われる。更に、前記ベアリングユニット(15)、ベアリング本体(15.1)及び圧力アーム(3)との間の距離を調整するために、調整部品(19.1)がベアリング本体(15.1)上に設置されている。上記の設置作業において、調整部品(19.1)が、ベアリング本体(15.1)に設けられた穴/開けられたハウジングから垂直状態で下方にある圧力アーム(3)上に固定される。調整部品(19.1)は、好ましくは、ねじ形状であり、もし調整が行われなければ、ベアリングユニット(15)及びベアリング本体(15.1)と圧力アーム(3)を所定の距離に保つ。これと同時にテンション部品も制限する。この部品(19.1)を、左右に回転させることにより、ベアリングユニット(15)、ベアリング本体(15.1)及び圧力アーム(3)との間の距離を増加又は減少させて調整する。
【0043】
テンション部品(22)を介して、張力によりトップローラエプロン(17)が回転させられる。すなわち、トップローラエプロン(17)の自由回転が阻止される。ベアリングユニット(15)とベアリング本体(15.1)に上方から小さな圧力が加えられると、図3a,図3b(変更例)及び図8に示すようにガイドアーム(15.2)に一体的に取付けられたベアリングユニット(15)とローラベアリング(15.2.1)が下方に移動し、トップローラエプロン(17)は、より自由な形状を有することができる。
【0044】
更に、張力限界点を決定するために、圧力アーム(3)とベアリングユニット(15)との間に調整部品(19.1)が使用されている。テンション部品(22)を、ベアリングユニット(15)に取付けるために固定部品(19)が使用されている。この場合も、ベアリングユニット(15)を、移動可能に圧力アーム(3)に取り付けるためにピン(19.2)が使用されている。ピン(19.2)は、ベアリングユニット(15)の上方及び下方への動きを妨げないように、保持リングを介して圧力アーム(3)とベアリングユニット(15)とを接続している。この様にして、ピン(19.2)を介して圧力アーム(3)に取り付けられたベアリングユニット(15)は、その内部に取り付けられたテンション部品(22)を介して、弾性材料被覆トップローラ(9)とガイドアーム(15.2)との間で回転するエプロン(17)に対して、調整部品(19.1)が許容する範囲で張力を付与する。
【0045】
トップローラ(9)の圧力分布を調整するためにピン(19.2)が圧力アーム(3)に設けられている。ピン(19.2)の構造的機能は同じであるが、保持リング(19.3)の追加によってピン(19.2)が、ベアリング本体(15.1)に支持されている。テンション部品(22)のベアリング本体(15.1)への取付けは、固定部品(19)とベアリング本体(15.1)上に形成されたハウジング(15.3)の投影である穴を介して行われる。テンション部品(22)は、固定部品(19)によって調整できるようにベアリングユニット(15)とベアリング本体(15.1)に取り付けられており、また、湾曲して圧力アーム(3)に圧力を加えるために圧力アーム(3)と接触している。このようにして、圧力アーム(3)、ベアリングユニット(15)及びベアリング本体(15.1)との間の湾曲が提供される。従って、圧力アーム(3)によって提供されたこの湾曲によって、図3a,図3b(変更例)及び図8aに示されるベアリング本体(15.1)に接続されたガイドアーム(15.2)と、そしてローラベアリング(15.2.1)上の支持位置にあるエプロン(17)に張力負荷が加えられる。
【0046】
本発明においては、ガイドアーム(15.2)を、左又は右にシフトできるように、グレードキャビティ(15.2.3,15.2.4)を介してベアリングユニット(15)上のガイドアーム(バー)ハウジング(15.4)にガイドアーム(15.2)が取り付けられ得る。この実施形態の変更例として、ガイドアーム(15.2)を、ねじとして圧力アーム(3)に取り付けることができる。ガイドアーム(15.2)は、そのねじり運動によって圧力アーム(3)上で左右方向に移動させられ得る。
【0047】
両実施形態又は変更例となり得る全ての変更技術の目的は、ガイドアーム(15.2)を、ベアリングユニット(15)上で右方又は左方に位置を変更できるようにすることにある。このために、弾性材料被覆トップローラ(9)よりも幅の狭いエプロン(17)を弾性材料被覆トップローラ(9)上で、位置を変えることができる。その目的は、システムの後方から来る繊維又は紡績糸によって摩耗していないエプロン(17)の新しい作用表面を得ることである。この操作により、エプロン(17)の予測寿命が2倍以上に増加する。
【0048】
図7は、本発明に係る機械式コンパクタ装置を取り付けた状態での側面図である。この図によれば、ベアリングユニット(15)とベアリング本体(15.1)が、テンション部品(22)と調整部品(19.1)を介して圧力アーム(3)と互いに接触した状態で圧力アーム(3)上に置かれている。ベアリングユニット(15)の前方部分にはガイドアーム(15.2)が配置されている。ガイドアーム(15.2)は、組み立てユニット構造で、エプロン(17)を支持している。図に示されるエプロン(17)は、ベアリングユニット(15)に追加されるガイドアーム(15.2)を通過して、より長い周囲長を有することができる。エプロン(17)の周囲長さは、適用される全ての場所において最長のものとすることができる。この目的は、弾性材料被覆トップローラ(9)の周囲長に従って使用できる最大のエプロン(17)周囲長を得ることにより、前記した従来における摩耗期間を延長するためである。
【0049】
図9aは、従来技術におけるトップローラ(9)とデリベリドラフトローラ(1)との間の接触を示す斜視図である。図10aは、本発明に係るトップローラエプロン(17)とデリベリドラフトローラ(1)との間の接触を示す斜視図である。使用するトップローラエプロン(17)の幅を、トップローラ(9)の幅の半分とするのが好ましい。
【0050】
図9bは、従来技術におけるトップローラ(9)とデリベリドラフトローラ(1)との間の繊維挟持距離(A1)と接触幅(B1)を示す。
【0051】
図10bは、本発明に係るトップローラエプロン(17)とデリベリドラフトローラ(1)との間の繊維挟持距離(A2)と接触幅(B2)を示す。挟持距離A1及びA2は図4a及図4bの側面図に示されている。
【0052】
図7を再び参照すると、エプロン(17)は、トップローラ(9)とガイドアーム(15.2)との間のみに巻くこともできるが、ベアリングユニット(15)及び/又はベアリング本体(15.1)に設けられた追加のローラベアリング(15.5)に巻くこともできる。
【0053】
図8aは、本発明に係る機械式コンパクト装置におけるベアリングユニット(15)を取り付けた状態を示す斜視図である。図に示されるように、ガイドアーム(15.2)は、ベアリング本体(15.1)の下側部分に設けられている。図8bの分解斜視図に示すように、ベアリングユニット(15)の下側部分に、ガイドアーム(15.2)を設置するためにアーム(バー)ハウジング(15.4)が形成されている。同様に図8bに示されるように、グレードキャビティ(15.2.3,15.2.4)が、バー(23)の下部に形成されている。これらのグレードキャビティ(15.2.3,15.2.4)を介してガイドアーム(15.2)をアーム(バー)ハウジング(15.4)に嵌めることにより、ガイドアーム(15.2)がアーム(バー)ハウジング(15.4)に固定され得る。取り付け動作においては、第1グレードキャビティ(15.2.3)又は第2グレードキャビティ(15.2.4)の任意のものが、アーム(バー)ハウジング(15.4)内のハウジングベース(15.6)に嵌められる。
【0054】
例えば、最初の使用において第1のグレードキャビティ(15.2.3)にガイドアーム(15.2)が取り付けられている状態では、支持された形態でリングを形成するエプロン(17)上で紡績糸が摩耗領域を形成する。所定時間経過後、摩耗が進むと、ガイドアーム(15.2)は、エプロンリミッタ(15.2.2)を介して保持されて上方に持ち上げられ、ベアリング本体(15.1)から取り外される。その後、ガイドアーム(15.2)は、「−x軸」方向に移動され、このガイドアーム(15.2)は、ガイドアーム(15.2)の第2グレードキャビティ(15.2.4)が、ハウジングベース(15.6)に嵌るようにベアリング本体(15.1)に再び固定される。この操作後は、紡績糸は、エプロン(17)の摩耗していない他の領域を通過する。この操作は、使用によってエプロン(17)のある表面領域が摩耗した場合には、別の摩耗していない表面領域を使用する方法である。このようにして、エプロン(17)の表面が有効に使用される。ここで述べた調整操作は機械を停止させずに行われる。これは非常に重要な特徴である。何故なら、調整操作毎に、機械を停止させると、深刻な製造損失が生じる。従来の全ての調整は、機械を止めて行われていた。製造停止のない有利な方法でエプロン(17)を使用することにより、従来技術を越えることができ、従来技術で使用されているトップローラ(9)の研磨又は再生を越えることができる。
【0055】
図に示されるように、本発明のトップローラエプロン(17)を使用することにより、従来技術に比べて、接触幅(B2)が減少し、繊維挟持距離(A2)が増大する。繊維挟持距離(A2)の増大により、繊維はより良好に挟持され、それらの圧縮がより高い圧力下で行われる。このようにして、繊維の制御をより簡単に行うことができ、紡績糸の品質が向上する。
【0056】
図9b及び図10bの数学的説明のために、下記条件が満たされる必要がある。
a)F1=F2
b)図9aのトップローラ(9)の材料と、図10aのトップローラ(9)の材料が弾性を有し、それらの硬度が等しい。
c)トップローラエプロン(17)の幅(B2)が従来技術のトップローラ(9)の幅(B1)よりも狭い。
【0057】
この場合、
A2>A1
となる。図に示される力F1及びF2が球状面に作用するため、
B1/B2>A2/A1
となる。この場合、次の不等式が得られる。
A1×B1>A2×B2
【0058】
これらのデータによれば、図9aの従来技術において繊維に作用する圧力P1は
P1=(F1/2)/(A1×B1)
となり、本発明の装置において繊維に作用する圧力P2は
P2=(F2/2)/(A2×B2)
となる。
上記情報によれば、F1=F2であり、A1×B1>A2×B2であるため、P2>P1となる。言い換えると、力Fが一定の場合、本発明の装置に使用されているトップローラエプロン(17)により、繊維に加わる単位面積当たりの圧力が増加する。このようにして、繊維がより良好に挟持され、その制御がより良好に行われ、紡績糸の品質が向上する。
【0059】
クリアラーローラ(18)の新しい位置によって得られる効果的なクリーニング:
新しい位置に設けられたクリアラーローラ(18)は、機械式コンパクタ(12)に進入することができなかった繊維(20)を効果的に捕捉し、クリアラーローラ自身の上に繊維(20)を集積させるため、繊維の紡績糸構造への進入が防止され、作業環境が清潔に保たれる。
【0060】
図6a及び図6bに示されるように、従来技術では、円筒構造のクリアラーローラ(18)が、機械式コンパクタ(12)に進入することができなかった繊維(20)が毛羽を発生する領域から離れているため、そのクリーニング効果は極めて低い。図5及び図6cに示されるように、本発明によれば、クリアラーローラ(18)は、クリアラーローラ支持部品(16)を介して、毛羽を発生する繊維により近い領域に設置されている。このようにして、トップローラエプロン(17)と機械式コンパクタ(12)との間に発生する毛羽を効果的にクリアラーローラ(18)上に回収することができる。クリアラーローラ(18)は、トップローラエプロン(17)と接触し、エプロン(17)の運動によって回転して、繊維毛羽をクリアラーローラ自身の上に集め、飛散した毛羽が紡績糸構造に付着することを防止して紡績糸の品質を向上させる。
【0061】
図8aで使用されているエプロン(17)は、図3bで使用されているエプロン(17)よりも長い。このようにして、エプロン(17)の予測寿命が長くなる。この構造で見られる前記ガイドアーム(15.2)は、「x」平面上で左右に徐々に移動され得る。このようにして、2本の異なる紡績糸経路をエプロン(17)上で得ることができ、エプロン(17)の予測寿命を2倍に増加することができる。
【0062】
図7では、前記ベアリング本体(15.1)に追加のローラベアリング(15.5)を設けることによりエプロン(17)の長さが、より長くされている(図7において点線で示されたエプロン(17))。このようにして、エプロン(17)の予測寿命をより長くできる。それは、エプロン(17)長さが長くされると共に、ガイドアーム(15.2)を「x」平面上で徐々に移動させることができるからである。
【0063】
図8cは、機械式コンパクト装置におけるベアリングユニットの別の変更例に関する実施形態の図である。前記エプロン(17)をより効率的に使用するために、エプロン(17)が移動される他の変更例に関する実施形態も可能である。別の変更例に関する実施形態においては、前記ガイドアーム(15.2)が、ベアリング本体(15.1)に設けられているが、左方又は右方への移動を徐々に行わず、ねじ等のシフト部品(23)によって連続的に(in infinite)行われる。図8d及び図8eに変更例に関する実施形態が示されている。これらの図では、ガイドアーム(15.2)が、ベアリング本体(15.1)から分離された変更例に関する実施形態が示されている。この構造では、ガイドアーム(15.2)が、ベアリング本体(15.1)に接続される個所にねじ経路/ギヤが設けられる。このようにして、ギヤ係合部を介して前後に動かされることによってガイドアーム(15.2)が、ベアリングユニット(15)上で移動させられ、それらの再配置とエプロン(17)の効率的な使用がガイドアーム(15.2)とエプロン(17)を左右に動かすことによって行われる。これに関連し、エプロン(17)を支持するガイドアーム(15.2)によってエプロン(17)をシフトするようにした全ての構造は、本発明の範囲に入る。
【0064】
これらの改良全てにより、従来技術で行うことが予想されるトップローラ(9)の研磨と再生が不要となり、従来の技術水準を超えることができる。このように、本発明は発明性の基準を超えるものである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上記の改良は、リング紡績装置において使用されるだけでなく、他の全ての紡績糸製造技術において使用できる。従って、本発明は、前述の代表的な用途に限定されるものではない。特許請求の範囲で述べられた基本要素と方法に鑑み、当業者が開発する、いかなる変更例に関する実施形態も本発明を侵害する。
【符号の説明】
【0066】
1 デリベリドラフトローラ
2 中間ドラフトローラ
3 圧力アーム
4 エプロン架台
5 トップエプロンローラ
6 ボトムエプロンガイドバー
7 トップエプロン
8 ボトムエプロン
9 トップローラ
10 フロントローラ
11 ロービングガイド
12 機械式コンパクタ
12.1 圧縮チャンネル
13 フロントローラケージ
14 コンパクタセントラライザ
15 ベアリングユニット
15.1 ベアリング本体
15.2 ガイドアーム
15.2.1 ローラベアリング
15.2.2 リミッタ
15.2.3 第1グレードキャビティ
15.2.4 第2グレードキャビティ
15.3 ハウジング
15.4 バーハウジング
15.5 追加のローラベアリング
15.6 ハウジングベース
16 クリアラーローラ支持部品
17 トップローラエプロン
18 クリアラーローラ
19 固定部品
19.1 調整部品
19.2 圧力調整ピン
19.3 保持リング
20 コンパクタに入れない繊維
21 フロントローラ圧力ばね
22 テンション部品
23 シフト部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維ドラフト装置であって、
コンパクト紡績糸の製造のための撚り操作の直前において、
トップローラ(9)を介して、
繊維が、エプロン(17)上を移動させられ、
エプロン(17)は、圧力アーム(3)上に配置されると共に、必要に応じて水平方向に移動でき、ベアリングユニット(15)に設けられたベアリング本体(15.1)に接続されたガイドアーム(15.2)を覆うように配置され、
エプロン(17)は、これらの部品(9,15.2)を一緒に覆うように設けられており、張力の利用により伸長された状態とされている繊維ドラフト装置。
【請求項2】
エプロン(17)とガイドアーム(15.2)を支持するベアリング本体(15.1)を水平面上で移動できるシフト部品(23)を前記圧力アーム(3)に設けたことを特徴とする、請求項1記載のベアリングユニット(15)。
【請求項3】
必要に応じてベアリング本体(15.1)上で独立した移動及び配置を行うために、前記ガイドアーム(15.2)は、グレードキャビティ(15.2.3, 15.2.4)を備え、配置ハウジング(15.4)とハウジングベース(15.6)がキャビティと対応するようにベアリング本体(15)に設けられたことを特徴とする、請求項1記載のベアリングユニット(15)。
【請求項4】
トップローラエプロン(17)を支持するために、前記ガイドアーム(15.2)は、少なくとも1個のローラベアリング(15.2.1)を有することを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のベアリングユニット(15)。
【請求項5】
エプロン(17)が支持中に移動するのを防止するために、ガイドアーム(15.2)が、リミッタ(15.2.2)を有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のベアリングユニット(15)。
【請求項6】
ベアリング本体(15.1)と圧力アーム(3)との間の距離を調整するために、調整部品(19.1)を有し、この調整部品(19.1)は、ベアリング本体(15.1)に設けられた穴/ハウジング(15.3)から、垂直の状態で下方にある圧力アーム(3)上に固定され、左方向又は右方向に回転されることによってベアリング本体(15.1)と圧力アーム(3)との間の距離を増加又は減少させて調整し、ベアリング本体(15.1)と圧力アーム(3)との間を所定距離に維持することを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載のベアリングユニット(15)。
【請求項7】
前記トップローラ(9)の圧力分布を調整するために、少なくとも1本のピン(19.2)が圧力アーム(3)に設けられ、このピン(19.2)をベアリング本体(15.1)上に支持するための少なくとも1個の保持リング(19.3)が設けられていることを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載のベアリングユニット(15)。
【請求項8】
前記張力をエプロン(17)に連続的に提供すると共に、繊維ドラフト操作が継続している間に、エプロン(17)を支持するガイドアーム(15.2)を水平面内で移動させるために、圧力アーム(3)の上面とベアリング本体(15.1)とに設置又は固定されたテンション部品(22)を有することを特徴とする、請求項1記載の繊維ドラフト装置。
【請求項9】
圧力アーム(3)が繊維に加える力を増加するために、前記エプロン(17)の幅はトップローラ(9)の幅よりも狭くなっていることを特徴とする、請求項1記載の繊維ドラフト装置。
【請求項10】
前記エプロン(17)は、ゴム及びその誘導体によって作られていることを特徴とする、請求項1記載の繊維ドラフト装置。
【請求項11】
操作に参入できない繊維(20)を集めるために各圧力アーム(3)の下側に配置された円筒構造のクリアラーローラ(18)と、クリアラーローラ(18)を支持する機能を有するクリアラーローラ支持部品(16)とを有することを特徴とする、請求項1記載の繊維ドラフト装置。
【請求項12】
コンパクト紡績糸の製造のための撚り操作の直前において、
トップローラ(9)を介して、
繊維をエプロン(17)上で移動させ、
エプロン(17)は、圧力アーム(3)上に配置されたベアリングユニット(15)に設けられたベアリング本体(15.1)に接続されたガイドアーム(15.2)を覆うように配置されており、
エプロン(17)は、これらの部品(9,15.2)を一緒に覆うように通過させられ、前記エプロン(17)に対する前記繊維による摩耗の影響を減少させるために、
テンション部品(22)を介して張力を利用することによってエプロン(17)を伸長させる段階と、
繊維ドラフト操作の継続中に、エプロン(17)を支持するベアリングユニット(15)を、所定の間隔で、水平面内で移動する段階とを含み、トップローラ(9)とエプロン(17)の表面が、より長期間で摩耗するため、それらの使用及び操作期間が延長される方法。
【請求項13】
繊維ドラフト動作の継続中に、エプロン(17)を支持するベアリングユニット(15)が、所定の間隔でシフト部品(23)を介して移動させられることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ベアリングユニット(15)に設けられたベアリング本体(15.1)が、圧力アーム(3)上に固定され、これにより、必要なときにガイドアーム(15.2)が、ベアリング本体(15.1)上で移動され得ることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ガイドアーム(15.2)は、グレードキャビティ(23.3,23.4)、配置ハウジング(15.4)及びハウジングベース(15.6)を備え、配置ハウジング(15.4)とハウジングベース(15.6)がキャビティと対応するようにベアリング本体(15)上に設けられ、必要に応じてガイドアーム(15.2)が、ベアリング本体(15.1)上で独立して移動せしめられ、再配置され得ることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記エプロン(17)の幅が、トップローラ(9)の幅よりも狭いことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
圧力アーム(3)上に配置されたベアリングユニット(15)のベアリング本体(15.1)に設けられた追加の支持ガイドアーム(15.2)を介してエプロン(17)の長さが増大され、摩耗の影響がより減少されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記ガイドアーム(15.2)は、そのギヤ形成部を介してベアリングユニット(15)上で前後に移動させられて再配置される(図8e)ことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
紡績糸製造機械において、繊維又は紡績糸のドラフト操作又は案内操作がなされている間に、機械の作動中に繊維又は紡績糸に対して前後(トロリー)運動を与えないか、与えることが望ましくない場合において、水平面上で固定された弾性材料被覆ローラ(9)の摩耗を遅らせるために、弾性材料被覆ローラ(9)を覆っている弾性材料製のエプロン(17)を必要に応じて左方又は右方へ移動させ、水平方向に移動可能な構造内にエプロン支持機構を作ることによってエプロン(17)とローラ(9)の予想寿命を延ばすことができる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図8d】
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【図8e】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11a】
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【図11b】
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【公表番号】特表2012−522146(P2012−522146A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503378(P2012−503378)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国際出願番号】PCT/TR2010/000062
【国際公開番号】WO2010/114503
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(511231724)
【氏名又は名称原語表記】OZDILEK EV TEKSTIL SANAYI VE TICARET ANONIM SIRKETI
【Fターム(参考)】