説明

紫外光源と紫外光活性光触媒による殺菌・消臭システム

【課題】
紫外光源と紫外光活性光触媒による殺菌・消臭システムを提供する。
【解決手段】
二酸化チタン等を主成分とする光触媒物質に無機酸化物等を添加することにより複合化した光触媒粒子を媒質中に分散させることにより、紫外線波長254nm(光子エネルギー4.9eV)の励起光によって光触媒の活性化を効率よく達成することを可能とする複合光触媒を用いて、紫外線の殺菌効果と光触媒物質の持つ消臭効果を同時に組み合わせたことを特徴とする殺菌・消臭装置

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外光による殺菌装置および紫外光活性光触媒による消臭装置に関するものであり、更に詳しくは、波長254nmの殺菌灯および二酸化チタン等を主成分とする紫外光下で高い光触媒活性を有する光触媒物質を用いた殺菌・消臭方法およびその装置に関するものである。本発明は例えば医療器具、衣類、食品、食器などの物品に付着した菌や、大気中および水中に浮遊する菌およびカビ、汚染菌の殺菌・消臭に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、殺菌灯を用いての種々の菌についての殺菌効果については学問的に公知であり、殺菌の原理は細菌細胞内にエネルギーの大きい紫外線が吸収されて、核蛋白構造が変化し、細菌寿命の維持や新陳代謝に障害をきたし、死滅すると考えられている。そのため細菌、ウイルス、カビ類など全てに効果が認められている。また、紫外線は波長の長さにより、可視光に近い方からUV-A, UV-B, UV-Cと分類されるが、その紫外線エネルギーは異なり、その結果、紫外線の物理作用に大きな違いが出現する。紫外線エネルギーの違いは例えば、UV-C帯の波長254nmの紫外線エネルギーは約4.9eVであるのに対し、UV-A帯の波長365nmの紫外線エネルギーは約3.4eVであり、254nmの紫外線の方が365nmの紫外線エネルギーより約1.44倍強い。実験によって紫外線による殺菌効果が一番強いのは、UV-C帯の波長254nmの紫外線であることが証明されており、殺菌線と言われる所以である。
【0003】
一方、光触媒物質は二酸化チタンを主成分とし、物質表面に紫外線ならびに可視光線を照射することにより光触媒活性を示す物質である。酸化チタンは紫外線の中のUV-A帯の紫外線エネルギー3.4eVの紫外線により価電子帯の電子が伝導体に励起され、電子と正孔のキャリアが生まれる。正孔は空気中の水分子から電子を奪い安定になり、電子を奪われた水分子はヒドロキシラジカルとなる。一方、電子は空気中の酸素と還元反応を起こしスーパーオキサイドアニオンを生成する。一般にヒドロキシラジカルとスーパーオキサイドアニオンは活性酸素と呼ばれ非常に強力な酸化分解力を持つ。この分解力で有害物質を分解する。従って、この光触媒反応により、有害ガスの分解、除菌作用、防汚作用等有用な性質が得られることは良く知られた公知の事実である。
【0004】
上記殺菌効果を得るためには波長254nmの殺菌灯が必要であり、一方光触媒物質の活性化のためには波長365nmのブラックライトが必要ということで、両方の効果を同時に達成するためには波長の異なる2個の紫外線照射光源が必要となり、コンパクトな装置を作るのが困難であった。この問題を解決する方法として、光触媒物質を複合化することによって光触媒を活性化する光源として波長254nmの殺菌灯で対応できるようにした点が本発明の特徴である。その結果、波長254nmの殺菌灯のみで殺菌と光触媒の活性化を達成することが可能となり、従来にないコンパクトな殺菌・消臭システムを達成することが可能となった。
【非特許文献1】UV-C帯、波長254nmの紫外線は太陽光に含まれるUV-A帯、波長350nmの紫外線に較べ殺菌力が約1600倍も強いことから、殺菌線と呼ばれている。殺菌線によって細菌が死滅するメカニズムは、殺菌線が細菌に含まれる細胞内の核酸に吸収されると、核酸が化学変化を起こし、新陳代謝が障害され、増殖能力を失う。更に照射量が多くなると、原形質が破壊されて、死滅すると考えられている。このような殺菌線の照射による細菌の変質破壊は全ての菌種に対し有効であり、かつ対象となる菌に対し耐性を与えることもないことが確認されている。[文献(1) 日本大百科全書、小学館、 文献(2) J.E Kaufman 北米IES Lighting Hand Book, Application volume 19-16(1981)]
【特許文献1】登録実用新案第3000986号医療器具の紫外線殺菌器は従来から使用されてきているが、本考案は、歯科医院で使用されるハンドピース、シリジンなどの治療器具を効率良く殺菌するための紫外線殺菌器に関するものである。本考案の歯科治療器具等の紫外線殺菌器は紫外線管が内蔵される殺菌器本体と、前記殺菌器本体に対して着脱可能な石英ガラス管等から構成したもので、歯科の治療器具用に特化されている。
【特許文献2】特許公開2003−321313 二酸化チタンに代表される光触媒と固体状の過酸化物を含むことを特徴とする紫外・可視光下で光触媒活性を有する抗菌・抗カビ剤、前記の抗菌・抗カビ剤を用いて、水系又は大気系に存在する細菌・カビ類を除去することを特徴とする除菌方法、及び前記の抗菌・抗カビ剤を光照射装置と組み合わせたことを特徴とする除菌装置に関するものであり、光触媒を活性化するための照射用光源としては、好ましくは太陽光、蛍光灯、ブラックライト、UV、キセノン、メタルハライド、ハロゲン等の500nm以下の光を含むものを例示している。更に好適に使用しえる光照射の光源として、太陽光、蛍光灯、発光ダイオード、UVライト、ブラックライト、半導体レーザ、白熱灯、石英ランプ、水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、白熱灯、ハロゲンランプ、冷陰極ランプ等を例示している。照射用ランプ等を有する滅菌システムにおける試験例では照射光源としてブラックライトを使用していることから、使用する紫外線はUV-A帯の波長365nmの紫外線であり、殺菌灯の照射光であるUV-C帯の波長254nmの紫外線とは異なっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況の中で、本発明者は上記従来技術にかんがみて、上記従来技術における問題点を解決することを目標として研究を重ねた結果、光触媒活性化の光源としてUV-C帯の253nmのエネルギーの強い紫外線を用いることにより、紫外線それ自体の殺菌効果に加えて、光触媒の活性化による消臭効果を合わせ持つ殺菌・消臭システムを達成した。すなわち、本発明は上記システムの組み合わせにより殺菌・消臭を行う方法およびその装置を提供することを目的とするものである。例えば、医療用具、衣類、食品、食器などに付着した菌やウイルス、カビ菌の殺菌と汚染菌による悪臭成分を分解消臭するシステムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術手段から構成される。
二酸化チタン等を主成分とする光触媒物質に無機酸化物等を添加することにより複合化した光触媒粒子を媒質中に分散させることにより、紫外線波長254nm(光子エネルギー4.9eV)の励起光によって光触媒の活性化を効率よく達成することを可能とする複合光触媒物質
二酸化チタンを主成分とする紫外光活性光触媒を活性化する光源として、UV-C帯である波長254nmの紫外線光源を使用
UV-C帯の紫外線を効率良く反射させるための反射鏡物質ならびに反射鏡システム
UV-C帯の紫外線は人体の目、皮膚に対して重大な障害を与えることは良く知られており、その使用に当たっては十分な防護対策が必要である。そのための安全対策として、密閉容器中での紫外線照射に限定するための、安全装置
前記(1)を塗布した容器内壁を有し、前記(2)から(4)に記載のシステムの組み合わせで構成されることを特徴とする殺菌・消臭装置
【発明の効果】
【0007】
以上のように請求項1,2、3記載の発明によれば、紫外光活性を有する光触媒物質の活性化の紫外光源として、本来殺菌効果を有する波長254nmの紫外線光源を使用することが可能となり、同一容器内で紫外線殺菌と光触媒物質による消臭を同時に行うことが可能となる。その結果紫外線照射システムと光触媒物質を組み合わせることが出来、コンパクトな容器の中で例えば医療器具、衣類、食品、食器などの物品に付着した菌や、大気中および水中に浮遊する菌およびカビ、汚染菌の殺菌・消臭を確実に行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明について更に詳細に説明する。本発明は、上記二酸化チタンを主成分とする複合光触媒物質を用いることにより、紫外線励起光源として殺菌作用のある波長254nmの紫外光源を使用することを特徴として、効果的、かつ安全に、殺菌・消臭するシステムに係るものである。複合光触媒物質として好適には、二酸化チタン光触媒と金属酸化物、珪酸化物を混合した複合光触媒物質であり、より好ましくはその混合比率において1:2から1:5である。上記二酸化チタンの結晶系としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型、非晶質タイプの何れでも良いが、好ましくはアナターゼ型及びアナターゼとルチルの混合型である。上記光触媒の形状は粉末であり、水溶性あるいは溶媒型の母体溶液中に分散体として調整された後、スプレー法、刷毛等による塗装方法により薄膜状の形態にして用いられる。
【0009】
上記複合光触媒物質を活性化する照射光源として、波長200nmから280nmのUV-C帯の紫外線を発する殺菌灯、ブラックライト、UV−LED、半導体レーザ、水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、ハロゲンランプ、冷陰極放電管等が例示される。
好適に使用し得る光源としては、波長254nmの水銀の発光線を発する殺菌灯、冷陰極放電管、水銀放電管である。
【0010】
次に、上記照射システムについて説明すると、光源からの紫外線照射光を効率的に光触媒物質全体に照射するためには、照射光は光源からの距離の逆2乗則で減衰することから、出来るだけ光源と光触媒壁面間の距離を短くすることと、照射光を被殺菌物質の表面に照射すると同時に、反射鏡等を用いて物質の裏面にも集光照射させる必要がある。その反射鏡の具体的な形状は多面体や球面体が望ましく、特に好ましくは反射光を集光させる球面、楕円面、凹面鏡が好ましく、その表面材質は種々の金属表面で形成される。その材質上特に好ましくはUV-C紫外線領域での反射率の高いステンレス、クロムメッキ、銀、ニッケル、銅、アルミニウム等であり、特に好ましくはアルミニウム、アルマイトである。
【0011】
照射用紫外線光源と複合光触媒を塗布した壁面を有する殺菌・消臭システムについて説明すると、本発明装置における人体に対する注意点は、殺菌と光触媒活性用に使用するUV-C帯の紫外線は人体の目、皮膚に対して重大な障害を与えることである。この危険性は良く知られており、その使用に当たっては十分な防護対策が必要である。本発明ではそのための安全対策として、被消毒物質を格納する容器の蓋部分に複数個のセンサーを設置することにより、電気回路的に照射光電源のon,offを自動的に行う安全装置を導入し、安全を確保している。
【実施例1】
【0012】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
水溶液中の入れ歯に付着した一般細菌の殺菌試験例
容器の底部に金属製反射鏡を設置した試験容器に、使用済み入れ歯とリン酸緩衝生理食塩水を250ml入れ、軽く撹拌した。一定時間室温で放置後、これを、各々、紫外線波長254nm,4Wの殺菌灯(GL-4 NEC製)の照射下におき、0分、30分、1時間、2時間後にサンプリングし、標準寒天培地で37℃,24時間培養し一般細菌数を測定した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0013】
その結果、表1に示されるように、試料No.1〜4までの全てのサンプルにおいて、殺菌灯照射開始30分後で一般細菌の生菌数が測定限界以下になった。これらの試験においては試験容器の底部に金属製の反射鏡を設置しており、サンプル入れ歯の表面への殺菌灯照射効果のみならず、底部に設置した反射鏡による紫外線の反射光によって、入れ歯の裏側も殺菌されたことを示している。表1の試験例は水中における殺菌例であるが、水中ではなく空気中であれば紫外線強度の水による減衰が無いため、殺菌に必要な紫外線の照射時間は10分の1以下になる。
【実施例2】
【0014】
本発明の紫外光源と紫外光活性光触媒による殺菌・消臭装置の構成の一例を図1に示す。図1において、1は光触媒が塗布してある装置容器の側面、2は容器固定台、3は電子回路収納部、4は殺菌灯管、5は電源スイッチ、6はマスク、入れ歯等の殺菌対象となる医療用具等、7は安全センサー(1)、8は安全センサー(2)、9は部分的に光触媒物質を塗布した円筒型反射鏡面、10は容器開閉扉、11はUVカット機能付きのぞき窓を示す。図2は装置容器中心部のA-A'断面配置図である。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、二酸化チタン等を主成分とする光触媒物質に無機酸化物等を添加することにより複合化した光触媒粒子を媒質中に分散させることにより、紫外線波長254nm(光子エネルギー4.9eV)の励起光によって光触媒の活性化を効率よく達成することを可能とする複合光触媒と、その光触媒活性化の照射光源として波長254nmの紫外線を出す殺菌灯を用いるシステムであり、波長254nmの紫外線の殺菌効果と光触媒物質の持つ消臭効果を同時に組み合わせることにより殺菌・消臭を行う方法およびその装置を提供することを目的とするものである。本発明により、短時間で医療用具、衣類、食品、食器などに付着した菌やウイルス、カビ菌の殺菌と汚染菌による悪臭成分を分解消臭することが可能である。本システムによる殺菌・消臭は水中でも大気中でも行うことができるので多くの対象物に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係わる紫外光源と紫外光活性光触媒による殺菌・消臭装置の斜視配置図である。
【図2】装置容器中心部のA-A'断面配置図である。
【符号の説明】
【0017】
1・・・光触媒が塗布してある装置容器の側面
2・・・容器固定台
3・・・電子回路収納部
4・・・殺菌灯管
5・・・電源スイッチ
6・・・マスク、入れ歯等の殺菌対象となる医療用具等
7・・・安全センサー(1)
8・・・安全センサー(2)
9・・・部分的に光触媒物質を塗布した円筒型反射鏡面
10・・・容器開閉扉
11・・・UVカット機能付きのぞき窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタン等を主成分とする光触媒物質に無機酸化物等を添加することにより複合化した光触媒粒子を媒質中に分散させることにより、紫外線波長254nm(光子エネルギー4.9eV)の励起光によって光触媒の活性化を効率よく達成することを可能とする複合光触媒物質
【請求項2】
UV-C帯の紫外線を効率良く反射させるための反射鏡物質ならびに反射鏡システム
【請求項3】
UV-C帯の紫外線は人体の目、皮膚に対して重大な障害を与えることは良く知られており、その使用に当たっては十分な防護対策が必要である。そのための安全対策として、密閉容器中での紫外線照射に限定するための、安全装置

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−45810(P2011−45810A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194990(P2009−194990)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(309031086)有限会社マロニエ技術研究所 (1)
【Fターム(参考)】