紫外光空気処理方法、及び紫外光空気処理装置
本発明は、環境の微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行う方法及び装置に関する。通常、上記方法は、例えば水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成することと、環境中において、より好ましくは表面上及び空気中の両方において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記PHPGが作用するよう、主としてPHPGからなるガスを上記環境中へ放出することである。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
この出願は、2009年2月13日に出願された米国の仮特許出願第61/152,581、及び2009年11月4日に出願された米国の仮特許出願第61/258,005の出願日の利益を主張し、これら両出願は、その全体を参照することにより、本出願に組み込まれている。
【技術分野】
【0002】
本発明は、一般に感染対策及び微生物制御の方法論、及びそれらに関係する装置に関する。
【背景技術】
【0003】
病原菌、カビ、白カビ、胞子、及び有機および無機の汚染物質は、環境中に通常見つけられる。環境空間中の微生物制御及び殺菌は、健康増進のために望ましい。空気を浄化し、表面を殺菌するための試みにおいて、従来から多くの方法が使用されている。例えば、光触媒による酸化処理によって生成された活性酸素種(Reactive oxygen species (ROS))が、有機汚染物質を酸化し、微生物を殺すことができることは、既に知られている。より詳しくは、ヒドロキシルラジカル(hydroxyl radical)、ヒドロペルオキシルラジカル(hydroperoxyl radical)、塩素及びオゾンといった光触媒反応の最終生産物は、有機化合物を酸化させ、微生物を殺すことができるのが知られている。しかし、既知の方法及び装置には、有効性の限界だけでなく、安全性の問題点のために制限がある。
【0004】
ROSは、環境中の湿った空気を紫外光に曝して得られる高度に活性された空気を説明するために使用される用語である。紫外線領域の光は、或る振動数で光子を放出し、この光子は、吸収されると化学結合を切り離すのに十分なエネルギを有している。250〜255nmの波長の紫外光は、殺菌剤として通常使用されている。略181nm以下から182〜187nmまでの波長の紫外光は、オゾンを生成する能力において、コロナ放電に匹敵する。オゾン処理及び紫外光照射は、共に地域の水道システムにおける殺菌に使用されている。オゾンは、産業廃水及び冷却塔を処理するのに現在使用されている。
【0005】
過酸化水素は、抗菌特性を有していることが一般に知られており、殺菌及び微生物制御のために水溶液中で使用されている。しかし、気相で過酸化水素を使用する試みは、精製過酸化水素ガス(Purified Hydrogen Peroxide Gas(PHPG))の生成についての技術的ハードルによって今まで妨げられている。過酸化水素の水溶液を蒸発させると、含水過酸化水素水溶液で構成された微液滴のエアロゾルが生成される。蒸発させた過酸化水素水を「乾燥」させる種々の処理は、せいぜい水和した形の過酸化水素を生成するにすぎない。この水和した過酸化水素は、静電引力及びロンドン分散力によって結合した水分子で囲まれている。従って、過酸化水素が静電的手段によって環境と直接相互作用する能力は、結合した水分子によって著しく弱められ、このことが、封入された過酸化水素分子の基本的な静電構造を事実上変えるのである。さらに、蒸発させた過酸化水素が達成できる最低濃度は、通常、米国労働安全衛生局(OSHA)による職場の安全限度である1.0ppmよりも十分高いため、人がいる区域にこの処理を用いることを不適切にしている。
【0006】
流体中の有機汚染物質の分解に適すると実証された光触媒は、TiO2、ZnO、SnO2、WO3、CdS、ZrO2、SB2O4、Fe2O3を含むが、これらに限定されない。二酸化チタン(TiO2)は、化学的に安定で、紫外光又は可視光による活性化に適したバンドギャップを有し、比較的安価である。従って、二酸化チタンの光触媒化学は、汚染された空気及び水から有機および無機化合物を除去するために過去30年間、広範囲に亘って研究されてきている。
【0007】
光触媒は、十分なエネルギをもつ紫外光で活性化されると、吸着した水からヒドロキシルラジカルを生成することができるので、気体状態で適用されると、環境中に放出するためのPHPGの生成に用いうる見込みがある。しかし、光触媒の既存の適用は、多くの異なる活性化学種を含んだプラズマを作ることに集中している。さらに、光触媒プラズマ中の大部分の化学種は、過酸化水素と反応し、過酸化水素を分解する反応によって過酸化水素ガスの生成を抑制する。また、プラズマ中に導入されるどの有機ガスも、過酸化水素との直接反応及び過酸化水素と反応した結果の酸化生成物の両方によって過酸化水素の生成を抑制する。
【0008】
また、光触媒プラズマ反応装置自体も、環境中に放出するためのPHPGの生成を制限する。過酸化水素(還元電位0.71eV)には、犠牲酸化剤として還元されるべき酸素(還元電位−0.13eV)よりも大きい化学ポテンシャルがあるので、水の酸化で生成されるのと同じくらい急速に、光触媒プラズマ反応装置内を下流へ移動するにつれて優先的に還元される。
酸化
2光子 + 2H2O → 2OH* + 2H+ + 2e-
2OH* → H2O2
還元
H2O2 + 2H+ + 2e- → 2H2O
さらに、いくつかの副反応は、光触媒プラズマの一部になる様々な種を生成し、これが、上述したような環境中に放出するためのPHPGの生成を抑制する。
【0009】
光触媒を活性化するために使用される光の波長は、過酸化水素分子中の過酸化結合を光分解するのに十分なエネルギもあり、また、環境中に放出するためのPHPGの生成における抑制剤でもある。さらに、オゾンを生成する波長の光を使用した実施は、過酸化水素を分解する光触媒プラズマ中にさらに別の種を導入する。
O3 + H2O2 → H2O + 2O2
【0010】
実際には、光触媒の適用は、プラズマを生成することに焦点を合わせていて、有機汚染物質及び微生物を酸化するために使用されるオゾンをしばしば含んでいる。そのようなプラズマは、そもそもプラズマ反応装置自体の範囲内で主として有効であり、プラズマ反応装置の範囲外では化学安定性が本来制限され、プラズマが含みうる限られた量の過酸化水素ガスは活発に分解する。さらに、プラズマがプラズマ反応装置自体の中で主として有効なので、多くの設計は、プラズマ反応装置を通り抜けるときに有機汚染物質及び微生物のより完全な酸化を促進するために滞留時間を最大にしている。過酸化水素は、還元されるポテンシャルが上述したように高いので、最大化された滞留時間は、過酸化水素の生成量を最小化することになる。
【0011】
また、光触媒反応の適用の大部分は、環境上好ましくない化学種を生成する。これら化学種のうちの第1は、多くのシステムの意図的な産物であるオゾン自体である。さらに、プラズマ反応装置を通る有機汚染物質は、1回の暴露で殆ど酸化されないため、二酸化炭素と水に完全に酸化するには複数回の空気交換が必要である。上記プラズマ反応装置で不完全酸化が生じると、アルデヒド,アルコール,カルボキシル酸,ケトン及び他の部分酸化された有機種の混合物が生成される。しばしば、光触媒プラズマ反応装置は、大きな有機分子をホルムアルデヒドのような複数の小さな有機分子に分解することによって、空気中の有機汚染物質の全濃度を実際に増加させうる。
【0012】
要約すれば、環境中に放出するためのPHPGの生成は、従来の技術で達成されていなかった。過酸化水素水を蒸発させる方法は、せいぜい、水和した形の過酸化水素を生成するにすぎない。また、光触媒システムは、過酸化水素を生成することはできても、それらには環境中に放出するためのPHPGの生成を厳しく抑制する複数の制限を有している。
【発明の概要】
【0013】
本発明の1つの局面では、環境の微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行う方法が開示されている。通常、この方法は、(a) 過酸化水素ガスを優先的に生成する光触媒帆、つまり、帆のような空気透過性の形態を提供することと、(b) 例えば水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成することと、(c)環境中において、より好ましくは表面上及び空気中の両方において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記PHPGが作用するよう、主としてPHPGからなるガスを上記環境中へ放出することである。
【0014】
或る実施形態において、上記方法は、(a)例えば水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成するための条件下で、金属又は金属酸化物からなる触媒を湿った清浄環境空気の存在下で紫外光に曝すことと、(b)環境中において、より好ましくは表面上及び空気中の両方において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記過酸化水素ガスが作用するよう、上記PHPGを上記環境中へ放出することである。
【0015】
本発明のもう一つの側面は、例えば水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にないPHPGを生成するためディフューザ装置に関する。上記ディフューザ装置は、(a) 紫外光源と、(b) 金属酸化物からなる触媒基板構造と、(c) 空気分配機構とを一般に備えている。
【0016】
本発明のもう一つの側面は、PHPGの生成を制御するための方法に関する。或る実施形態では、PHPGを全く含まない新鮮な空気と所望のレベルのPHPG含む再循環している空気、及びそれらの組み合わせとの間で給送空気のバランスをとることを通じて、PHPGの収率を改善するために、PHPGの生成は、光触媒装置内の波長選択によって制御されている。
【0017】
本発明のもう一つの側面は、環境に放出されたPHPGによって、環境空気中のVOC(揮発性有機炭化水素)を酸化/除去することに関する。
【0018】
本発明のもう一つの側面は、環境に放出されたPHPGによって、環境空気中からオゾンを除去することに関する。
【0019】
本発明のこれら及び他の局面は、本発明の開示を読めば当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るディフューザ装置の一実施形態についての断面図である。
【図2】本発明に係るディフューザ装置の一実施形態の一部を切り取った図である。
【図3】360°台座取付型のディフューザ装置の一実施形態についての断面図である。
【図4】例えばビルの空気ダクト内での使用が意図されている翼形状型のディフューザ装置の一実施形態についての断面図である。
【図5】例えば天井の蛍光灯器具に組み込まれるディフューザ装置の一実施形態についての断面図である。
【図6】加湿型のディフューザ装置の一実施形態についての断面図である。
【図7】湿度センサを含むディフューザ装置の一実施形態についての断面図である。
【図8】例えば小さい領域での使用のためのディフューザ装置に関する一実施形態についての断面図である。
【図9】例えば航空機、地上の車両、及び大量輸送空気供給システム内での使用のためのディフューザ装置が搭載された一実施形態についての断面図である。
【図10】本発明に係る上記ディフューザ装置の好適な一実施形態の前面を示す図である。
【図11】本発明に係る上記ディフューザ装置の好適な一実施形態の一部を切り取った図である。
【図12】本発明に係る上記ディフューザ装置の好適な一実施形態の側面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、一般に微生物制御、及び/又は殺菌/改善方法、及びそれらに関係する装置に関する。或る実施形態では、上記方法及び装置に光触媒による処理が用いられてもよい。
【0022】
光触媒処理の基本的性質は、化学反応において光の吸収によって活性な中間生成物を生成することである。これは、適切な波長を有する光子が光触媒に当たったときに生じる。光子のエネルギが価電子帯の電子に与えられ、この電子が伝導帯へ励起され、価電子帯に「ホール」を残す。吸着した化学種がない場合は、励起された電子は減衰し、価電子帯のホールと再結合する。価電子帯のホールが酸化されうる種−優先的には光触媒の活性表面サイトに吸着された水分子−から電子を捕捉すると、再結合は妨げられる。同時に、光触媒の表面上に吸着された還元されうる種−優先的には酸素分子−は、伝導帯の電子を捕捉してもよい。
【0023】
光触媒処理の開始点、又は光触媒プラズマ反応装置の入口点では、以下の反応が起こる。
酸化
2光子 + 2H2O → 2OH* + 2H+ + 2e-
2OH* → H2O2
還元
O2 + 2H+ + 2e- → H2O2
しかし、過酸化水素が一旦生成されると、上記光触媒は、酸素分子(還元電位−0.13eV)の代わりに過酸化水素(還元電位0.71eV)を優先的に還元し、反応は、プラズマ反応装置に大部分の体積中で行われる以下の平衡に移る。
酸化
2光子 + 2H2O → 2OH* + 2H+ + 2e-
2OH* → H2O2
還元
H2O2 + 2H+ + 2e- → 2H2O
【0024】
本発明との関連で、精製過酸化水素ガス(PHPG)は、光触媒によるその後の還元を強制的にされる前に、過酸化水素を上記PHPG反応装置から除去できるような目的で設計された形態をもつ光触媒処理を用いて生成されてもよい。吸着した過酸化水素ガスを利用できなくなれば、光触媒は、過酸化水素よりむしろ酸素を優先的に還元せざるをえなくなる。そうすれば、過酸化水素ガスは、一般に、光触媒処理において水の酸化と二酸素の還元の両方によって同時に生成されてもよい。限定する意図はないが、処理動作において、生成される過酸化水素の量は2倍になり、その大部分が還元されうる前にシステムから除去される。その結果、PHPGの生成量は、光触媒プラズマ反応装置内で同じ条件の下、等しい数の活性触媒部位から生成された、精製されていない過酸化水素の偶発的な生成量の何千倍である。また、この目的に適って設計された形態によって、光触媒プラズマ反応装置が効果的に動作できる絶対湿度より十分に低い湿度でPHPGの生成が可能になる。例えば、0.2ppmより多いPHPGの生成量は、1リットル当たり2.5ミリグラムの絶対湿度で達成されている。この目的に適って設計された形態における支配的な反応は、次のようになる。
酸化
2光子 + 2H2O → 2OH* + 2H+ + 2e-
2OH* → H2O2
還元
O2 + 2H+ + 2e- → H2O2
しかし、理論に制限されることなく、本発明の微生物制御、及び/又は殺菌/改善方法及び装置は、光触媒処理の結果としてではなく、環境中に放出されたPHPGの作用によって達成されることに注目すべきである。
【0025】
過酸化水素ガスを還元されうる前に直ちに除去できる形態を用いて、PHPGは、従来技術で知られている適切ないかなる処理によって生成されてもよい。この処理は、限定する意図はないが、水をガス状態に酸化すると同時に酸素ガスを還元する処理を含み、例えば二酸化チタン、ジルコニア、(銅、ロジウム、銀、白金、金等の)触媒でドープされた二酸化チタンなどの金属からなる触媒、又は他の適切な金属酸化物からなる光触媒を用いる気相光触媒法を含む。PHPGは、適切な任意の金属、又は過酸化水素ガスを還元されうる前に直ちに除去できる構造を用いた金属酸化物セラミックからなる陰極および陽極を用いた電気分解によって生成されてもよい。これと択一的に、PHPGは、過酸化水素ガスが還元されうる前に直ちに除去できる構造を用いた適切な支持基板上で気体の水及び酸素分子を高周波数で励起することによって生成されてもよい。
【0026】
本発明の1つの局面では、環境の微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行う方法が開示されている。この方法は、(a) 例えば水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成することと、(b)環境中において、より好ましくは表面上及び空気中の両方において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記PHPGが作用するよう、上記PHPGからなるガスを上記環境中へ放出することである。
【0027】
ここで使用されているように、「精製過酸化水素ガス」又はPHPGという用語は、少なくとも水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)が実質的になく、さらにオゾンが実質的にない過酸化水素のガス形態を通常意味している。
【0028】
或る実施形態で、上記方法は、(a)例えば水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成するための条件下で、金属、又は金属酸化物からなる触媒を湿った清浄環境空気の存在下で紫外光に曝すことと、(b)環境中において、より好ましくは表面上及び空気中の両方において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記PHPGが作用するよう、上記PHPGを上記環境中へ放出して、上記環境空気からオゾン及びVOCを除去することである。
【0029】
一実施形態では、紫外光は、略181nm以上、略185nm以上、略187nm以上、略182nmから略254nmまで、略187nmから略250nmまで、略188nmから略249nmまで、略255nmから略380nmまで等の範囲のうち少なくとも1つの範囲の波長を生成する。或る実施形態では、略255nmから略380nmまでの範囲の波長が、PHPGの収率を改善させるのに好ましい。
【0030】
本発明のもう一つの側面は、例えば、水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は、有機種を実質的に含まない精製過酸化水素ガス(PHPG)から成るガスを生成するためのディフューザ装置に関する。例えば図1及び図2を参照すると、ディフューザ装置は、概ね(a)紫外光源4と、(b)金属又は金属酸化物触媒基板構造3と、(c)空気分配機構5,6及び/又は7とを備えている。
【0031】
或る実施形態では、上記空気分配機構は、ファン5であるか、又は例えば空気などの流体を、ディフューザ装置を通って移動させるのに適切な他の機構であってもよい。本発明の或る局面によると、空気分配機構の選択、設計、サイズ選定、及び運転は、ディフューザ装置を通って流れる、例えば空気などの流体が、概ね実際的に最も早くなるようでなければならない。理論に制限されるつもりはなく、最適なPHPGのレベルは、急速な流体フロー条件下で、ディフューザ装置を抜け出るために生成されていると信じられている。
【0032】
紫外光源4は、通常、湿った環境空気に光触媒反応を起こさせるのに十分な少なくとも1つの波長範囲の光を発するが、オゾンの生成を開始させるために酸素を光分解することはない。一実施形態では、紫外光は、略181nm以上、略185nm以上、略187nm以上、略182nm〜略254nm、略187nm〜略250nm、略188nm〜略249nm、略255nm〜略380nm等の範囲のうち少なくとも1つの範囲の波長を生成する。或る実施形態では、略255nm〜略380nmの範囲の波長が、オゾンが実質的にない非水和過酸化水素を含むPHPGの収率を改善させるのに好ましい。
【0033】
本発明では、「オゾンが実質的にない」という表現は、略0.015ppm以下であって、オゾンのLOD(level of detection,検出レベル)以下のレベルまで下がったオゾン量を一般に意味している。このようなレベルは、人間の健康に対する一般的な許容限以下である。この関連で、米国食品医薬品局(FDA)は、室内の医療機器のオゾン排出量を0.05ppm以下と定めている。米国労働安全衛生局(OSHA)は、労働者は平均濃度0.10ppm以上のオゾンに8時間曝されてはならないと定めている。米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、0.1ppmのオゾン上限は常に超えられてはならないと推奨している。米国環境保護庁(EPA)の環境空気品質基準は、オゾンに対して室外平均濃度0.08ppmで最大8時間と定めている。この明細書に記載されている上記ディフューザ装置は、ドレージャーチューブによって検出可能なレベルのオゾンを生成しないことを常に実証している。
【0034】
しかし、或る実施形態では、以下の反応により、PHPGは、周囲環境からオゾンを除去するために使用されてもよい
O3 + H2O2 → H2O + 2O2
【0035】
或る実施形態では、PHPGによるVOCの直接酸化により、PHPGは、周囲環境からVOCを除去するために使用されてもよい。
【0036】
或る実施形態では、PHPGは、室内空気処理のための殺菌剤、カビ及び/又は真菌の除去装置、バクテリア除去装置、及び/又はウイルス除去装置を含むがこれらに限定されない微生物制御に使用されてもよい。上記PHPG方法は、所望の微生物制御、及び/又は殺菌/改善プロセスを行うのに十分な量の過酸化水素ガスを生成してもよい。十分な量は、当業者に通常知られており、浄化すべき固体、液体、又は気体によって、特定の殺菌/改善の性質に応じて変更できる。
【0037】
或る実施形態では、空気及び関連する環境(その中の表面を含む)の微生物制御及び/又は殺菌/改善に関して、PHPGの量は、殺菌すべき環境において略0.005ppmから略0.10ppmまで、特に略0.02ppmから略0.05ppmまで変化する。このような量は、例えばネコカリシウイルス(EPAは、ノロウイルスの代替と認めている)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌ファカリス(VRE)、クロストリジウム・ディフィシル(C-Diff)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス、クロコウジカビに対して有効なことが実証されている。このような量のPHPGは、(学校、病院、事務所、家庭、他の共用領域を含むがこれらに限られない)人のいる領域で安全に使用でき、表面を汚染する微生物を殺菌し、空中の病原菌を殺菌し、例えばインフルエンザ大流行の拡大を防ぎ、院内感染を制御し、一般の疾病の伝染を減じるなどの微生物制御を提供する。
【0038】
或る実施形態では、空気及び関連する環境(その中の表面を含む)の微生物制御及び/又は殺菌/改善に関して、PHPGの量は、殺菌すべき環境において略0.005ppmから略0.40ppmまで変化する。絶対湿度3.5mg/Lの未処理空気の給送を使用する0.2ppmのPHPGレベルは、常に達成されうる。特に、湿った再循環空気を使用する略0.09ppmから略0.13ppmまでのPHPGレベルは、殺菌されるべき環境中で生成されうる。このような量は、例えばH1N1ウイルスに対して有効であると立証されている。また、このような量のPHPGは、(学校、病院、事務所、家庭、他の共用領域を含むがこれらに限られない)人のいる領域で安全に使用でき、表面を汚染する微生物を殺菌し、空中の病原菌を殺菌し、例えばインフルエンザ大流行の拡大を防ぎ、院内感染を制御し、一般の疾病の伝染を減じるなどの微生物制御をもたらす。
【0039】
本発明の或る態様では、環境空気の湿度は、好ましくは相対湿度(RH)略1%以上、RH略5%以上、RH略10%以上などである。或る実施形態では、環境空気の湿度は、RH略10%からRH略99%までであってもよい。或る実施形態では、本発明の方法は、環境空気の湿度をRH略5%からRH略99%までの範囲内、又はRH略10%からRH略99%までの範囲内に調整することを含んでいる。
【0040】
金属又は金属酸化物からなる触媒は、二酸化チタン、銅、酸化銅、亜鉛、酸化亜鉛、鉄、酸化鉄、又はこれらの混合物から選ばれ、より好ましくは二酸化チタンである。特に、二酸化チタンは、電磁スペクトルの近紫外部分の光を吸収する半導体である。二酸化チタンは、アナターゼとルチルの2つの形に合成され、両者は、実際同じ親結晶構造の異なった面である。成す形は、準備方法及び使用される開始材料に応じて決まる。アナターゼは、380nm以下の波長の光子を吸収するのに対して、ルチルは、405nm以下の波長の光子を吸収する。
【0041】
厚さ約4μmの二酸化チタンの層は、入射する短波長光を100%吸収する。二酸化チタンは、1平方センチメートル当たり約9〜14×1014の活性表面サイトを有することが知られている。活性表面サイトは、表面上の配位的に不飽和なサイトであり、ヒドロキシルイオン又は他の塩基性種に結合することができる。二酸化チタンの光触媒的活性は、その構造(アナターゼ又はルチル)、表面積、寸法、空隙率、表面上のヒドロキシル群の密度によって影響される。アナターゼは、一般にルチルよりも活性な光触媒であると考えられている。アナターゼは、ルチルよりも強く二酸素を吸着することが知られていて、フラッシュ発光後にルチルよりも長く光伝導性を維持する。アナターゼ及びルチルは、それぞれ3.2eV(エレクトロンボルト)及び3.0eVのバンドギャップエネルギを有している。
【0042】
多くの化学物質は、光触媒作用に影響することが確認されている。このような化学物質は、光触媒処理に影響を与えるために反応環境に加えられてもよい。当業者に認められているように、或る化学物質は処理を促進し、他の化学物質は処理を低下させる。また、他の化学物質は、或る反応を促進し他の反応を抑制させるように作用する。
【0043】
酸−塩基化学から、塩基性物質は触媒の活性サイトに結合することが分かっている。理論に制限されることなく、触媒上に二酸素よりも強く吸着する還元性物質は、電子受容体として代替してもよい。小分子の化学物質、金属、及びイオンは、全てこの能力を有している。このような場合、PHPGの生成に及ぼされる影響は、二酸素及び過酸化水素に対する化学物質の電子受容効率によって決定づけられる。
【0044】
或る追加の化学物質は、副反応における、又は所望の反応を行うことができないより不活性なラジカルの生成におけるラジカル種を含んでいる。また、他の化学物質は、光触媒を物理的に変え、その能力を変化させる。本発明によれば、追加の化学物質は、PHPGの生成を最適化する(付加的に、オゾン、プラズマ種、又は有機種の生成を最小化又は除去する)ように選ばれてもよい。
【0045】
一実施態様では、上述したように、追加の化学物質は、共触媒を含んでいてもよい。共触媒は、選択されたPHPG反応の効率を改善するために触媒の表面に堆積される金属又は被膜であってもよい。共触媒は、触媒の物理的特性を2通りに変更してもよい。第1に、共触媒は、伝導帯の電子が占める新たなエネルギ準位を与えてもよい。第2に、共触媒は、共触媒を担持する光触媒とは異なった吸着特性を有していてもよい。これは、共触媒上で起こる反応の順序を、触媒上で起こる反応の順序と異ならせる。共触媒は、一般に5%以下の表面被覆で最も有効である。典型的な共触媒は、白金、銀、ニッケル、パラジウム、及び他の多くの金属化合物から選ばれていてもよい。また、フタロシアニンも、実証された共触媒能力を有している。
【0046】
本発明によるディフューザ装置は、球状、半球状、立方体、直方体などを含む適切な任意の形状及び寸法を有していてもよい。制限しない実施例の代わりに、ディフューザ装置は、帆船形状、360°台取り付け、翼形状(例えば、ビル内の空気ダクト向きのもの)、例えば、天井の蛍光灯器具に組み込まれてもよいデザイン、(例えば、航空機、地上の乗り物、及び大量輸送給気システムに搭載して使用するための)狭い面積での使用のために明確に構成されたデザインとして構成されていてもよい。また、ディフューザ装置は、テディーベア、豚の貯金箱、モックラジオなど任意の空想的な形状にしてもよい。
【0047】
上記ディフューザ装置の芯は、紫外光源から構成されていてもよい。上記ディフューザ装置の中心又は内部に配置されている紫外光源4は、装置の寸法及び意図する適用に応じた種々の強度であってもよい。
【0048】
例えば、図1及び図2に示す或る実施形態では、上記ディフューザ装置は、全体的に細長い楔形であってもよい。例えば管状の紫外光源4が、細長い楔形、又は管状のディフューザシェル2内に収容されていてもよい。或る構造では、反射器1が、装置の特定の形状により要求される装置内の特定の方向に光を収束させる役割を果たしてもよい。
【0049】
ディフューザ装置のシェル2は、セラミック、磁器、ポリマー等を含む適切な任意の基板材料から形成されてもよい。例えば、ポリマーは、波長が380nm〜182nmの紫外光によって劣化しない疎水性の多孔質又は通気性のポリマーである。上記範囲内の全てではなく或る波長の光に耐性のあるポリマーは、耐性のある範囲の波長の光のみを発する紫外光ランプと共に用いられる。ディフューザシェルは、所望の任意の寸法及び形状並びに所望の任意の色にモールド成形されてもよい。或る実施形態では、シェルの材料に紫外光を吸収して可視光を発するリン光性材料を組み込んでもよい。
【0050】
また、一般に、上記ディフューザ装置は、流体分配機構を含んでいる。一般に、流体分配機構は、空気などの流体をディフューザ装置を通って移動させるのに役立つ。特に、空気分配機構は、流体をディフューザ装置内に送り込み、次に、流体は、ディフューザ基板を通り抜けて拡散する。
【0051】
一実施形態では、図2に関し、上記流体分配機構は、通気入口7を通ってディフューザ装置の開口5に嵌め込まれた小さなファン(図示しない)に流体を向かわせる。また、ファンは、有機ガス及び/又は塵芥がディフューザ装置に入るのを防ぐ交換可能な疎水性のガス及び/又は塵芥フィルタ6を上流側に備え、PHPGを実質上有機種のない状態に確実に保っている。或る実施形態では、必要により、流体分配機構は、ディフューザ内で穏やかな過圧をするのに必要な最低の出力であり、他の実施形態では、速いファン速度がより好ましい。
【0052】
図3に示す他の実施形態では、上記ディフューザ装置のうち、360°台座を取り付けた実施形態についての断面図が図示されている。これは、例えば広い領域の中心に配置されうる、図1及び図2のディフューザ装置と同様のディフューザ装置の変形例である。
【0053】
また、図4に示す他の実施形態では、例えばビルの空気ダクト内での使用が意図されている翼形状型ディフューザ装置の一実施形態についての断面図が図示されている。図からわかるように、上記装置は、装置の前縁で直交する通気面に流れてくる空気の流れをもたらすために構成され、上記装置内へ空気を強制的に流すようになっている。発光ダイオードのかたまり及び光触媒の帆は、上記翼形状の後縁に対して平行に配置され、PHPGが生成されたとき上記装置からPHPGを引き込むために翼形状の後縁によって生成された低い空気圧をうまく利用している。或る実施形態では、図4のディフューザ装置は、容易により多くの空気流を生成するための補助内部ファン(図示しない)と、空気ダクトを流れる空気がないときに上記装置をオフにし、空気流が再開したときに上記装置を再開し、又はその両方をするための空気流センサ(図示しない)とを付加的に備えていてもよい。
【0054】
また、図5に示す他の実施形態では、天井の蛍光灯器具に組み込まれうるディフューザ装置の一実施形態についての断面図が図示されている。図からわかるように、元の器具の蛍光灯電球は取り外され、器具に気密シールと、ファンに電源を入れるための配線とが設けられている。その後、PHPGの生成に適した蛍光灯電球がとりつけられ、器具の底部は、吸気ファン及びフィルタ、例えば長方形の光触媒の帆、及び例えば四角形の通気ディフューザを含む組み立て部品が組み込まれている。
【0055】
また、図6に示す他の実施形態では、加湿型のディフューザ装置の一実施形態についての断面図が図示されている。図からわかるように、芯は、その下側部分が水トレイ中に浸されて、フィルタの下流側に配置されている。上記トレイは、手動により、又は水位センサ(図示しない)によって調整される自動給水により給水されうる。
【0056】
また、図7に示す他の実施形態では、湿度センサを含むディフューザ装置の一実施形態についての断面図が図示されている。一実施形態では、上記湿度センサは、例えば予め定めていた動作パラメータ(例えば、95%,98%,99%等)を越える動作湿度が検知されれば、上記装置をオフにするために使用されてもよい。
【0057】
また、図8に示す他の実施形態では、小さい領域のためのディフューザ装置に関する一実施形態についての断面図が図示されている。この小さい装置は、小さな部屋の電源出力に直接プラグを差し込むように設計されている。吸気ファン及び上記装置の端部にあるフィルタは、PHPGを生成するためのずらりと並んだ小さな発光ダイオードによって活性化された小さな光触媒の帆に、空気を供給している。
【0058】
また、図9に示す他の実施形態では、例えば航空機、地上の車両、及び大量輸送空気供給システム内での使用のためのディフューザ装置が搭載された一実施形態についての断面図が図示されている。上記搭載された装置は、供給空気の流れの中に直接配置されてもよいし、空気が上記装置を通過するときに生じる圧力降下を相殺するために内部ファンが設けられていてもよい。或る実施形態において、上記装置は、実施形態の各特定の用途のための空気流ダクトの内部断面と同じ大きさの外部断面を有するように構成されていてもよい。
【0059】
また、図10に示す他の実施形態では、ディフューザ装置の好適な実施形態の正面図が図示されている。この装置は、縦・横・高さの全ての寸法において対称であり、図示するように、直立するための台座形状をした底スリーブ内に設置され、又はブラケットにより壁又は天井から水平に取り付けられうる。
【0060】
また、図11に示す他の実施形態では、ディフューザ装置の好適な実施形態の断面図が図示されている。この装置は、ろ過作用を改善させるため及び吸気口プレナムにろ過された空気を供給するための円弧形状のダスト及びVOCフィルタを採用している。上記円弧状のフィルタは、フィルタの通過による圧力損失を抑えて、より大きい表面積を通して、より均等に空気の流れを分配する。上記吸気口プレナムは、通気出口のすぐ内側に配置された円弧状の光触媒帆に対して直交するように空気を送り出す一列の3つのファンを供給する。この実施形態では、空気は、装置の後部から前部へ直通で流れる。2つの紫外光電球は、光触媒帆に均等に照射するために上記空気流の外へオフセットされている。この実施形態は、より良い性能、つまり、7.66倍のろ過性能、7.5倍の空気流、及び2倍の光子束を与えている。これは、湿った空気を大きく改善された速度で光触媒帆に供給し(PHPGの生成を増加させ)、より多くのPHPGが系から出るために残るのを確実にして、一度生成された光触媒面上のPHPGの滞留時間を大きく削減している。
【0061】
図12に示しているのは、図11のディフューザ装置の実施形態についての側面図である。
【0062】
一実施形態では、ディフューザシェルの内面は、或る実施形態において1以上の金属でドープされた二酸化チタンを含む光触媒で被覆されることにより、一般に基板として使用してもよい。例えば、光触媒は、ディフューザ基板の内面に塗料として塗布されてもよい。この塗布は、ディフューザ基板内の細孔を塞がないように一般に行われる。一実施形態では、空気がディフューザ基板に供給され、光触媒塗布後の基板の細孔を通して無理に送られて、強制された空気によって塗料が乾燥されると共に細孔を貫通状態に保ってもよい。光触媒被覆と、UV光が組み立てられたディフューザ装置から洩れないように十分に不透明であるディフューザ基板との組み合わせが好ましい。
【0063】
他の実施形態では、ディフューザシェル及び触媒基板は、基板層がディフューザシェルの内面のすぐ内側に非常に接近して配置された別々の構成部材である。
【0064】
或る実施形態では、上記ディフューザ装置は、本明細書に記載されているように、PHPGの収率を特に改善するために予め定められた範囲の波長で動作するように設計されていてもよい。さらに、或る実施形態では、上記ディフューザ装置は、加湿されてもよく(図6参照)、特定の動作湿度で動作するように設計されていてもよく、動作パラメータは、それに応じて調整されてもよい。この点、上記ディフューザ装置は、湿度センサを含んでいてもよい(図7参照)。或る実施形態では、上記ディフューザ装置は、動作環境の湿度に基づいてPHPG収率を最適化するため、及び/又は湿度条件が好ましくなければ動作を停止する制御システムを付加的に含んでいてもよい。
【0065】
上記ディフューザの設計は、プラズマ反応装置内の滞留時間を最大にするように設計された体積最適化形態になるようにディフューザを小型化することによって、というよりはむしろ、空気の流れに対して直交する大きな領域上に(例えば、或る実施形態では帆のような領域上に)空気透過性の光触媒PHPG反応装置の表面を薄く広げることによって、PHPGの生成を最適化する。上記PHPG反応形態を、ディフューザの内側シェルのすぐ内側に、薄くて帆のような空気透過性の構造として構成することで、触媒上に生成された過酸化水素分子の出口通路の長さは徐々に短くなり、PHPG反応装置構造内の滞留時間は、ほんの一瞬に減少し、過酸化水素分子の大部分が続いて触媒に吸着して水に還元されることが防止される。また、触媒基板をディフューザシェルの内面のすぐ内側に配置することによって、PHPG反応装置の表面積が最大化されるだけでなく、生成されたPHPGが直ちにディフューザから抜け出し、紫外光源に長く曝されることによるPHPGの光分解が回避される。この形態によって生成されたPHPGの濃度は、0.4ppmという高濃度に達した。
【0066】
好適な実施形態では、PHPGの濃度は、互いに反応すると水及び酸素に分解するPHPG分子間の静電的引力によって自己調整されてもよい。PHPGの自己調整は、PHPGの濃度が、PHPG分子間の距離が互いにPHPG分子の静電的引力の圏内まで近づくような濃度に達すれば常に生じる。この自己制御が生じると、上記濃度が十分に低下して、PHPG分子間の距離が延びてPHPG分子の静電的引力の圏外になるまで、PHPG分子は、互いに引き付け合って分解する。これによって、PHPGの濃度は、OSHAの職場の安全限度である1.0ppmよりも十分低いレベルに維持されている。
【0067】
いくつかの実施形態では、PHPG出力レベルの能動制御が望ましく、PHPGの生成は、PHPG反応装置自体によって調整されうる。PHPG生成レベルは、PHPG反応装置を通って戻るPHPGを含むわずかに調整された処理済みの空気を再循環させることによって、0.01ppmから0.40ppmまでのいずれかのレベルに設定されうる。この設定がなされたとき、PHPG出力レベルは以下の一連の反応によって制御される。
酸化
2光子 + 2H2O → 2OH* + 2H+ + 2e-
2OH* → H2O2
還元
(100%- x%)O2 + 2(100%- x%)H+ + 2(100%- x%)e- → (100%- x%)H2O2
x%H2O2 + 2x%H+ + 2x%e- → 2x%H2O
【0068】
PHPGの過酸化物結合の還元電位(+0.71eV)は、酸素分子中の酸素原子間における二重結合の還元電位(-0.13eV)よりもはるかに高いので、PHPGは酸素を上回って優先的に還元され、正味生成レベルを下げるために少量の再循環したPHPGのみを要する。この調整されたわずかな再循環により、最も高い出力のために別の方法で設計されているPHPG反応装置は、単にそれがPHPG反応装置を通って戻り、既に処理された空気のうち、いくらかの空気の方向を変えることによって、より低いレベルに設定されうる。
【0069】
また、このPHPG最適化形態は、系に入ると共に系を通り抜けるいかなる有機汚染物質の滞留時間も最小化し、有機汚染物質が酸化される可能性を劇的に減少させることに注目すべきである。PHPGの生成に最適化された光触媒系は、設計により、触媒構造を通り抜けるときに有機汚染物質を効果的に酸化されにくくし、有機汚染物質を酸化させるのに最適化された光触媒系は、設計により、過酸化水素ガスの生成を妨げる。
【0070】
本発明の或る態様では、PHPGは、オゾン,プラズマ種,有機種が実質上ない状態において、例えば既述の範囲の紫外光で活性化されたときに光触媒による吸着水分子の酸化によって生成されてもよい。一実施形態では、内側を光触媒で被覆されたディフューザ基板(又は内側を薄い帆状の通気性光触媒構造で覆われたディフューザシェル)が、紫外光ランプの上及び周囲に配置されてもよい。ディフューザ内の開口は、紫外光の電源と構造上の支持部が嵌め込まれる枠の役割を果たしてもよい。組み立てられたとき、上記ディフューザ装置は、次のように動作してもよい。即ち、(a) 流体分配機構は、空気を有機性の蒸気及びダストフィルタを通してディフューザ内に送り込んで過圧を作り、(b) 空気は、基板及び/又はディフューザシェルの細孔又は通気孔を通ってディフューザ外へ流れ、(c) 空気中に含まれる湿気は、光触媒の表面に吸着し、(d)ランプによって生成された紫外光は、光触媒を照射して活性化し、光触媒は、吸着した水を酸化すると共に吸着した酸素を還元してPHPGを生成し、(e) ディフューザ装置内で生成されたPHPGは、ディフューザの細孔又は通気孔を通ってディフューザから出て、周囲環境へ急速に移動する。
【0071】
いくつかの実施形態では、PHPGは、中圧水銀アーク(MPMA)ランプによって生成される。MPMAランプは、紫外光のみならず赤外域の波長をもつ可視光を発する。ランプを選ぶ際、紫外域の出力を詳しく調べることが重要である。紫外域のスペクトル出力は、グラフで表され、重要な紫外域波長で比例した出力を示すことがある。MPMAランプの広いスペクトルは、その機能性の故に選ばれる。
【0072】
他の実施形態では、PHPGは、紫外光発光ダイオード(UV LED)によって発せられる。UV LEDは、より小型で、UV LEDの群が種々の寸法と方法で列に並べられ、より小さく,より頑丈な製品を可能にする。
【0073】
他の実施形態では、PHPGの出力は、装置を単一又はグループで管理する制御システムによって調整されてもよい。このような制御システムは、(a) 装置をオン・オフし、(b) 光の強度やファン速度を調整し、(c) 自動比色分析器,自動ドレガー・インジケータ,水トラップに蓄積したPHPGのフラッシュ蒸発,過酸化水素の蓄積を検知する基板の導電率の変化の測定によって、又はPHPGとPHPGが静電引力で引き付けられる安定な反応体との間の発熱反応で放出される熱を測定する熱的手段によって、環境中のPHPGレベルを直接モニタし、(d) 相対湿度によって環境中のPHPGレベルを間接的にモニタすることによって動作を調整してもよい。
【0074】
実施例
発明を次の実施例に制限する意図はないが、本発明の一実施形態では、(a)装置は、長さ50.8cm,半径21.6cmの1/4円筒状をなし、(b)1/4円筒は、壁と天井の出会いが成す90°の角度に適合するように設計され、1/4円筒の真っ直ぐな両面が天井と壁にぴったりと接し、1/4円筒の湾曲面が外方かつ下方に向かって室に面し、(c)1/4円筒の下から見た右端は、毎分6.79m3の最大出力をもつ可変速度ファンおよび活性炭からなる疎水性の高効率吸気口フィルタを収容し、(d)1/4円筒の左端は、ファン用の電源コネクタおよび1/4円筒の中心に位置し,1/4円筒の長手方向に延びる35.6cmの中圧水銀アーク(MPMA)ランプを収容し、(e)光を1/4円筒の湾曲面の内側に向かって反射する通気口付き金属反射板が、MPMAランプの背後に配置され、(f)1/4円筒の湾曲面は、装置の外へ空気は流すが光は洩らさない構造となっている。
【0075】
湾曲した帆状の光触媒構造は、1/4円筒の湾曲面の直ぐ内側に平行に配置され、(a) 光触媒基板は、長さ45.7cm、高さ27.9cmの枠に入れられ、頂部から底部まで半径21.0cmの円弧を成し、(b) 結晶性二酸化チタン粉で被覆されたガラス繊維からなり、(c) 二酸化チタンは、ガラス繊維の全面を完全に覆うように5層で塗布された後、光触媒の結晶を相互に、かつガラス繊維に結合させるべく、炉内で焼結される。
【0076】
運転中、ファンとMPMAランプは電源がオンされ、(a) 吸入空気は、活性炭からなる疎水性の高効率入口フィルタを経て装置内に吸い込まれ、上記吸気口フィルタは、吸入空気から湿気を除去することなく、揮発性有機炭化水素(VOC)を吸着して除去し、(b) 吸入空気は、装置の背部に送られ、通気口付き金属反射板によって光触媒構造および1/4円筒の湾曲面の内側に向かって均一に方向転換され、(c) 吸入空気中の湿気と酸素は、MPMAランプからの波長255nmから380nmの光で活性化された光触媒上に吸着され、(d) 活性化された光触媒は、水を酸化してヒドロキシルラジカルにし、このヒドロキシルラジカルが結合して過酸化水素となる一方、二酸素が同時に光触媒上で還元されて過酸化水素となり、(e) 生成された精製過酸化水素ガス(PHPG)が、光触媒から離れる空気の流れによってすぐに運び去られ、光は通さない装置の通気面を通って、室内へ放出される。
【0077】
こうして生成されたPHPGは、(a) 水溶液の蒸発によってではなく、触媒手段によって生成されているので、実質上結合水がなく、(b) MPMAランプが二酸素を光分解できる波長の光を用いないので、PHPGは、実質上オゾンがなく、(c) 光触媒の構造が、過酸化水素が続いて光触媒で還元される前に光触媒の表面から迅速に離脱することを可能にするので、PHPGは、実質上プラズマ種がなく、(d) PHPGは、光触媒の表面から離脱すると直ちに1/4円筒の非透光性で通気性の面を通って装置外へ抜け出るので、PHPGは、紫外光分解から保護され、(e) 活性炭からなる疎水性の高効率吸気口フィルタによってVOCが吸着されるので、PHPGは、実質上有機種がなかった。
【0078】
本発明の装置は、認定された2つの研究所によって計画され、実施された次のような試験を受けた。即ち、(a) PHPGの産出量を測定し、(b) 産出物(PHPG)にオゾンが実質上ないことを確認し、(c) 産出物にVOCが実質上ないことを確認し、(d) ネコカリシウイルス(米国環境保護庁がノロウイルスの代替と認定)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌ファカリス(VRE)、クロストリジウム・ディフィシル(C-Diff)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス (微生物に対する改善が成功したか否かを実証するために保険業界が用いる安定なバクテリア)、クロコウジカビに対するPHPGの有効性を測定し、(e) 華氏70〜72度、相対湿度35%〜40%、華氏81〜85度、相対湿度56%〜59%、華氏78度、相対湿度98%の種々の環境で試験を行うことである。
【0079】
オゾン、VOC、温度、湿度の測定は、全て標準的な装置を用いて行われた。0.10ppm以下のレベルの過酸化水素ガスを測定する装置は、未だ容易に利用できないので、3つの新たな手段が考案された。即ち、(a) 水溶液中の近似濃度の測定に通常用いられる過酸化水素試験片は、時間経過後のPHPGの存在を検知することが見出され、(b)通常20秒の暴露後に読むように設計された過酸化水素試験片は、PHPGを蓄積し、1時間以内の暴露時間で標準化した場合、PHPGの近似濃度を0.01ppmの精度で読み取ることができることが分かった。例えば、5分間で0.5ppmのPHPGを蓄積した試験片は、15×20秒の間暴露され、0.5ppm/15即ち0.033ppmの近似濃度を示し、(c) 2000cm3の空気を吸引した後に0.10ppmの低濃度の過酸化水素を検出するように設計されたドレージャーチューブ(インジケータ)は、較正されたポンプによって大量の空気が吸引された場合、0.005ppmの精度で低いPHPG濃度を読み取れることが分かった。例えば、4000cm3の吸引後に0.10ppm濃度を示すドレージャーチューブは、略0.05ppmのPHPG濃度を測定し、6000cm3の吸引後に0.10ppm濃度を示すドレージャーチューブは、略0.033ppmのPHPG濃度を測定し、(d)過酸化水素試験片およびドレージャーチューブを用いた測定は、互いに良好に一致していることが分かった。
【0080】
湿度を変化させて過酸化水素のレベルを測定する試験では、次のようなデータが得られた。
【表1】
【0081】
PHPG測定データは、生成されたPHPGの濃度が、相対湿度に大きく依存することを示している。このことは、PHPGの生成が空気中の利用できる水分子に直接依存することから予測できる。病院の手術室の相対湿度を30%〜60%に維持することを米国保健社会福祉省が要求していることに注目すべきである。
【0082】
また、PHPG測定データは、長時間に亘って一定を保ち、略0.08ppmの平衡上限値を示している。このことも、PHPG分子間の距離が分子間の静電的引力範囲内になった場合は常に働くPHPG分子間の静電的引力から予測できる。この状態下で、過剰なPHPGは、自ら反応して酸素分子と水分子とになる。また、この上限値0.08ppmは、米国労働安全衛生局の職場の安全限度である1.0ppmよりも低くて安全に呼吸できるから、PHPGシステムが、人のいる領域で安全かつ持続的に使えることを示している。
【0083】
また、全ての試験は、装置から放出される気体にはオゾンが全くないことを示している。
【0084】
VOC試験では、70.8m3の室内の2-プロパノールの近似濃度が7ppmに設定された。上記装置は、室内のVOCレベルを急速に減少させることが分かった。
【表2】
【0085】
微生物の質的試験では、ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus Stearothermophilus)を植菌したチップが幾つかの試験の環境に置かれ、全ての場合、数時間以内にバクテリアの著しい減少が認められた。
【0086】
ミネソタ州イーガンにあるATS(American Thoracic Society)研究所における微生物の量的試験で、次のデータが得られた。相対湿度35%〜40%で生成された僅か0.005ppm〜0.01ppmのPHPG濃度によって、目覚ましい殺菌率が達成されたことに注目すべきである。
【表3】
【表4】
【0087】
湿度がより高いと、より高濃度のPHPGが生成され、微生物の減少率は増加する。改善された試作品を使用するこのテストが、この定量試験に使用されるより40倍高い0.40ppmと同じくらい高いPHPG濃度を実現してからデータは集められた。
【0088】
また、比較試験は、PHPG試験装置が、光触媒プラズマ反応装置内で同じ条件のもと、等しい数の活性触媒部位から偶発的に生成された、精製されていない過酸化水素の何千倍もの平衡濃度のPHPGを生成することを示した。
【0089】
本発明は、概ねある程度の特殊性をもって特定の実施形態について記載されているが、この明細書は、単なる例を述べただけで、部材の組み合わせ及び配置を含む構造、製造および使用の詳細には、例示した実施例で示したように本発明の精神と範囲内で多くの変更が可能であると理解されるべきである。
【関連出願】
【0001】
この出願は、2009年2月13日に出願された米国の仮特許出願第61/152,581、及び2009年11月4日に出願された米国の仮特許出願第61/258,005の出願日の利益を主張し、これら両出願は、その全体を参照することにより、本出願に組み込まれている。
【技術分野】
【0002】
本発明は、一般に感染対策及び微生物制御の方法論、及びそれらに関係する装置に関する。
【背景技術】
【0003】
病原菌、カビ、白カビ、胞子、及び有機および無機の汚染物質は、環境中に通常見つけられる。環境空間中の微生物制御及び殺菌は、健康増進のために望ましい。空気を浄化し、表面を殺菌するための試みにおいて、従来から多くの方法が使用されている。例えば、光触媒による酸化処理によって生成された活性酸素種(Reactive oxygen species (ROS))が、有機汚染物質を酸化し、微生物を殺すことができることは、既に知られている。より詳しくは、ヒドロキシルラジカル(hydroxyl radical)、ヒドロペルオキシルラジカル(hydroperoxyl radical)、塩素及びオゾンといった光触媒反応の最終生産物は、有機化合物を酸化させ、微生物を殺すことができるのが知られている。しかし、既知の方法及び装置には、有効性の限界だけでなく、安全性の問題点のために制限がある。
【0004】
ROSは、環境中の湿った空気を紫外光に曝して得られる高度に活性された空気を説明するために使用される用語である。紫外線領域の光は、或る振動数で光子を放出し、この光子は、吸収されると化学結合を切り離すのに十分なエネルギを有している。250〜255nmの波長の紫外光は、殺菌剤として通常使用されている。略181nm以下から182〜187nmまでの波長の紫外光は、オゾンを生成する能力において、コロナ放電に匹敵する。オゾン処理及び紫外光照射は、共に地域の水道システムにおける殺菌に使用されている。オゾンは、産業廃水及び冷却塔を処理するのに現在使用されている。
【0005】
過酸化水素は、抗菌特性を有していることが一般に知られており、殺菌及び微生物制御のために水溶液中で使用されている。しかし、気相で過酸化水素を使用する試みは、精製過酸化水素ガス(Purified Hydrogen Peroxide Gas(PHPG))の生成についての技術的ハードルによって今まで妨げられている。過酸化水素の水溶液を蒸発させると、含水過酸化水素水溶液で構成された微液滴のエアロゾルが生成される。蒸発させた過酸化水素水を「乾燥」させる種々の処理は、せいぜい水和した形の過酸化水素を生成するにすぎない。この水和した過酸化水素は、静電引力及びロンドン分散力によって結合した水分子で囲まれている。従って、過酸化水素が静電的手段によって環境と直接相互作用する能力は、結合した水分子によって著しく弱められ、このことが、封入された過酸化水素分子の基本的な静電構造を事実上変えるのである。さらに、蒸発させた過酸化水素が達成できる最低濃度は、通常、米国労働安全衛生局(OSHA)による職場の安全限度である1.0ppmよりも十分高いため、人がいる区域にこの処理を用いることを不適切にしている。
【0006】
流体中の有機汚染物質の分解に適すると実証された光触媒は、TiO2、ZnO、SnO2、WO3、CdS、ZrO2、SB2O4、Fe2O3を含むが、これらに限定されない。二酸化チタン(TiO2)は、化学的に安定で、紫外光又は可視光による活性化に適したバンドギャップを有し、比較的安価である。従って、二酸化チタンの光触媒化学は、汚染された空気及び水から有機および無機化合物を除去するために過去30年間、広範囲に亘って研究されてきている。
【0007】
光触媒は、十分なエネルギをもつ紫外光で活性化されると、吸着した水からヒドロキシルラジカルを生成することができるので、気体状態で適用されると、環境中に放出するためのPHPGの生成に用いうる見込みがある。しかし、光触媒の既存の適用は、多くの異なる活性化学種を含んだプラズマを作ることに集中している。さらに、光触媒プラズマ中の大部分の化学種は、過酸化水素と反応し、過酸化水素を分解する反応によって過酸化水素ガスの生成を抑制する。また、プラズマ中に導入されるどの有機ガスも、過酸化水素との直接反応及び過酸化水素と反応した結果の酸化生成物の両方によって過酸化水素の生成を抑制する。
【0008】
また、光触媒プラズマ反応装置自体も、環境中に放出するためのPHPGの生成を制限する。過酸化水素(還元電位0.71eV)には、犠牲酸化剤として還元されるべき酸素(還元電位−0.13eV)よりも大きい化学ポテンシャルがあるので、水の酸化で生成されるのと同じくらい急速に、光触媒プラズマ反応装置内を下流へ移動するにつれて優先的に還元される。
酸化
2光子 + 2H2O → 2OH* + 2H+ + 2e-
2OH* → H2O2
還元
H2O2 + 2H+ + 2e- → 2H2O
さらに、いくつかの副反応は、光触媒プラズマの一部になる様々な種を生成し、これが、上述したような環境中に放出するためのPHPGの生成を抑制する。
【0009】
光触媒を活性化するために使用される光の波長は、過酸化水素分子中の過酸化結合を光分解するのに十分なエネルギもあり、また、環境中に放出するためのPHPGの生成における抑制剤でもある。さらに、オゾンを生成する波長の光を使用した実施は、過酸化水素を分解する光触媒プラズマ中にさらに別の種を導入する。
O3 + H2O2 → H2O + 2O2
【0010】
実際には、光触媒の適用は、プラズマを生成することに焦点を合わせていて、有機汚染物質及び微生物を酸化するために使用されるオゾンをしばしば含んでいる。そのようなプラズマは、そもそもプラズマ反応装置自体の範囲内で主として有効であり、プラズマ反応装置の範囲外では化学安定性が本来制限され、プラズマが含みうる限られた量の過酸化水素ガスは活発に分解する。さらに、プラズマがプラズマ反応装置自体の中で主として有効なので、多くの設計は、プラズマ反応装置を通り抜けるときに有機汚染物質及び微生物のより完全な酸化を促進するために滞留時間を最大にしている。過酸化水素は、還元されるポテンシャルが上述したように高いので、最大化された滞留時間は、過酸化水素の生成量を最小化することになる。
【0011】
また、光触媒反応の適用の大部分は、環境上好ましくない化学種を生成する。これら化学種のうちの第1は、多くのシステムの意図的な産物であるオゾン自体である。さらに、プラズマ反応装置を通る有機汚染物質は、1回の暴露で殆ど酸化されないため、二酸化炭素と水に完全に酸化するには複数回の空気交換が必要である。上記プラズマ反応装置で不完全酸化が生じると、アルデヒド,アルコール,カルボキシル酸,ケトン及び他の部分酸化された有機種の混合物が生成される。しばしば、光触媒プラズマ反応装置は、大きな有機分子をホルムアルデヒドのような複数の小さな有機分子に分解することによって、空気中の有機汚染物質の全濃度を実際に増加させうる。
【0012】
要約すれば、環境中に放出するためのPHPGの生成は、従来の技術で達成されていなかった。過酸化水素水を蒸発させる方法は、せいぜい、水和した形の過酸化水素を生成するにすぎない。また、光触媒システムは、過酸化水素を生成することはできても、それらには環境中に放出するためのPHPGの生成を厳しく抑制する複数の制限を有している。
【発明の概要】
【0013】
本発明の1つの局面では、環境の微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行う方法が開示されている。通常、この方法は、(a) 過酸化水素ガスを優先的に生成する光触媒帆、つまり、帆のような空気透過性の形態を提供することと、(b) 例えば水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成することと、(c)環境中において、より好ましくは表面上及び空気中の両方において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記PHPGが作用するよう、主としてPHPGからなるガスを上記環境中へ放出することである。
【0014】
或る実施形態において、上記方法は、(a)例えば水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成するための条件下で、金属又は金属酸化物からなる触媒を湿った清浄環境空気の存在下で紫外光に曝すことと、(b)環境中において、より好ましくは表面上及び空気中の両方において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記過酸化水素ガスが作用するよう、上記PHPGを上記環境中へ放出することである。
【0015】
本発明のもう一つの側面は、例えば水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にないPHPGを生成するためディフューザ装置に関する。上記ディフューザ装置は、(a) 紫外光源と、(b) 金属酸化物からなる触媒基板構造と、(c) 空気分配機構とを一般に備えている。
【0016】
本発明のもう一つの側面は、PHPGの生成を制御するための方法に関する。或る実施形態では、PHPGを全く含まない新鮮な空気と所望のレベルのPHPG含む再循環している空気、及びそれらの組み合わせとの間で給送空気のバランスをとることを通じて、PHPGの収率を改善するために、PHPGの生成は、光触媒装置内の波長選択によって制御されている。
【0017】
本発明のもう一つの側面は、環境に放出されたPHPGによって、環境空気中のVOC(揮発性有機炭化水素)を酸化/除去することに関する。
【0018】
本発明のもう一つの側面は、環境に放出されたPHPGによって、環境空気中からオゾンを除去することに関する。
【0019】
本発明のこれら及び他の局面は、本発明の開示を読めば当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るディフューザ装置の一実施形態についての断面図である。
【図2】本発明に係るディフューザ装置の一実施形態の一部を切り取った図である。
【図3】360°台座取付型のディフューザ装置の一実施形態についての断面図である。
【図4】例えばビルの空気ダクト内での使用が意図されている翼形状型のディフューザ装置の一実施形態についての断面図である。
【図5】例えば天井の蛍光灯器具に組み込まれるディフューザ装置の一実施形態についての断面図である。
【図6】加湿型のディフューザ装置の一実施形態についての断面図である。
【図7】湿度センサを含むディフューザ装置の一実施形態についての断面図である。
【図8】例えば小さい領域での使用のためのディフューザ装置に関する一実施形態についての断面図である。
【図9】例えば航空機、地上の車両、及び大量輸送空気供給システム内での使用のためのディフューザ装置が搭載された一実施形態についての断面図である。
【図10】本発明に係る上記ディフューザ装置の好適な一実施形態の前面を示す図である。
【図11】本発明に係る上記ディフューザ装置の好適な一実施形態の一部を切り取った図である。
【図12】本発明に係る上記ディフューザ装置の好適な一実施形態の側面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、一般に微生物制御、及び/又は殺菌/改善方法、及びそれらに関係する装置に関する。或る実施形態では、上記方法及び装置に光触媒による処理が用いられてもよい。
【0022】
光触媒処理の基本的性質は、化学反応において光の吸収によって活性な中間生成物を生成することである。これは、適切な波長を有する光子が光触媒に当たったときに生じる。光子のエネルギが価電子帯の電子に与えられ、この電子が伝導帯へ励起され、価電子帯に「ホール」を残す。吸着した化学種がない場合は、励起された電子は減衰し、価電子帯のホールと再結合する。価電子帯のホールが酸化されうる種−優先的には光触媒の活性表面サイトに吸着された水分子−から電子を捕捉すると、再結合は妨げられる。同時に、光触媒の表面上に吸着された還元されうる種−優先的には酸素分子−は、伝導帯の電子を捕捉してもよい。
【0023】
光触媒処理の開始点、又は光触媒プラズマ反応装置の入口点では、以下の反応が起こる。
酸化
2光子 + 2H2O → 2OH* + 2H+ + 2e-
2OH* → H2O2
還元
O2 + 2H+ + 2e- → H2O2
しかし、過酸化水素が一旦生成されると、上記光触媒は、酸素分子(還元電位−0.13eV)の代わりに過酸化水素(還元電位0.71eV)を優先的に還元し、反応は、プラズマ反応装置に大部分の体積中で行われる以下の平衡に移る。
酸化
2光子 + 2H2O → 2OH* + 2H+ + 2e-
2OH* → H2O2
還元
H2O2 + 2H+ + 2e- → 2H2O
【0024】
本発明との関連で、精製過酸化水素ガス(PHPG)は、光触媒によるその後の還元を強制的にされる前に、過酸化水素を上記PHPG反応装置から除去できるような目的で設計された形態をもつ光触媒処理を用いて生成されてもよい。吸着した過酸化水素ガスを利用できなくなれば、光触媒は、過酸化水素よりむしろ酸素を優先的に還元せざるをえなくなる。そうすれば、過酸化水素ガスは、一般に、光触媒処理において水の酸化と二酸素の還元の両方によって同時に生成されてもよい。限定する意図はないが、処理動作において、生成される過酸化水素の量は2倍になり、その大部分が還元されうる前にシステムから除去される。その結果、PHPGの生成量は、光触媒プラズマ反応装置内で同じ条件の下、等しい数の活性触媒部位から生成された、精製されていない過酸化水素の偶発的な生成量の何千倍である。また、この目的に適って設計された形態によって、光触媒プラズマ反応装置が効果的に動作できる絶対湿度より十分に低い湿度でPHPGの生成が可能になる。例えば、0.2ppmより多いPHPGの生成量は、1リットル当たり2.5ミリグラムの絶対湿度で達成されている。この目的に適って設計された形態における支配的な反応は、次のようになる。
酸化
2光子 + 2H2O → 2OH* + 2H+ + 2e-
2OH* → H2O2
還元
O2 + 2H+ + 2e- → H2O2
しかし、理論に制限されることなく、本発明の微生物制御、及び/又は殺菌/改善方法及び装置は、光触媒処理の結果としてではなく、環境中に放出されたPHPGの作用によって達成されることに注目すべきである。
【0025】
過酸化水素ガスを還元されうる前に直ちに除去できる形態を用いて、PHPGは、従来技術で知られている適切ないかなる処理によって生成されてもよい。この処理は、限定する意図はないが、水をガス状態に酸化すると同時に酸素ガスを還元する処理を含み、例えば二酸化チタン、ジルコニア、(銅、ロジウム、銀、白金、金等の)触媒でドープされた二酸化チタンなどの金属からなる触媒、又は他の適切な金属酸化物からなる光触媒を用いる気相光触媒法を含む。PHPGは、適切な任意の金属、又は過酸化水素ガスを還元されうる前に直ちに除去できる構造を用いた金属酸化物セラミックからなる陰極および陽極を用いた電気分解によって生成されてもよい。これと択一的に、PHPGは、過酸化水素ガスが還元されうる前に直ちに除去できる構造を用いた適切な支持基板上で気体の水及び酸素分子を高周波数で励起することによって生成されてもよい。
【0026】
本発明の1つの局面では、環境の微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行う方法が開示されている。この方法は、(a) 例えば水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成することと、(b)環境中において、より好ましくは表面上及び空気中の両方において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記PHPGが作用するよう、上記PHPGからなるガスを上記環境中へ放出することである。
【0027】
ここで使用されているように、「精製過酸化水素ガス」又はPHPGという用語は、少なくとも水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)が実質的になく、さらにオゾンが実質的にない過酸化水素のガス形態を通常意味している。
【0028】
或る実施形態で、上記方法は、(a)例えば水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成するための条件下で、金属、又は金属酸化物からなる触媒を湿った清浄環境空気の存在下で紫外光に曝すことと、(b)環境中において、より好ましくは表面上及び空気中の両方において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記PHPGが作用するよう、上記PHPGを上記環境中へ放出して、上記環境空気からオゾン及びVOCを除去することである。
【0029】
一実施形態では、紫外光は、略181nm以上、略185nm以上、略187nm以上、略182nmから略254nmまで、略187nmから略250nmまで、略188nmから略249nmまで、略255nmから略380nmまで等の範囲のうち少なくとも1つの範囲の波長を生成する。或る実施形態では、略255nmから略380nmまでの範囲の波長が、PHPGの収率を改善させるのに好ましい。
【0030】
本発明のもう一つの側面は、例えば、水和(溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形)、オゾン、プラズマ種、及び/又は、有機種を実質的に含まない精製過酸化水素ガス(PHPG)から成るガスを生成するためのディフューザ装置に関する。例えば図1及び図2を参照すると、ディフューザ装置は、概ね(a)紫外光源4と、(b)金属又は金属酸化物触媒基板構造3と、(c)空気分配機構5,6及び/又は7とを備えている。
【0031】
或る実施形態では、上記空気分配機構は、ファン5であるか、又は例えば空気などの流体を、ディフューザ装置を通って移動させるのに適切な他の機構であってもよい。本発明の或る局面によると、空気分配機構の選択、設計、サイズ選定、及び運転は、ディフューザ装置を通って流れる、例えば空気などの流体が、概ね実際的に最も早くなるようでなければならない。理論に制限されるつもりはなく、最適なPHPGのレベルは、急速な流体フロー条件下で、ディフューザ装置を抜け出るために生成されていると信じられている。
【0032】
紫外光源4は、通常、湿った環境空気に光触媒反応を起こさせるのに十分な少なくとも1つの波長範囲の光を発するが、オゾンの生成を開始させるために酸素を光分解することはない。一実施形態では、紫外光は、略181nm以上、略185nm以上、略187nm以上、略182nm〜略254nm、略187nm〜略250nm、略188nm〜略249nm、略255nm〜略380nm等の範囲のうち少なくとも1つの範囲の波長を生成する。或る実施形態では、略255nm〜略380nmの範囲の波長が、オゾンが実質的にない非水和過酸化水素を含むPHPGの収率を改善させるのに好ましい。
【0033】
本発明では、「オゾンが実質的にない」という表現は、略0.015ppm以下であって、オゾンのLOD(level of detection,検出レベル)以下のレベルまで下がったオゾン量を一般に意味している。このようなレベルは、人間の健康に対する一般的な許容限以下である。この関連で、米国食品医薬品局(FDA)は、室内の医療機器のオゾン排出量を0.05ppm以下と定めている。米国労働安全衛生局(OSHA)は、労働者は平均濃度0.10ppm以上のオゾンに8時間曝されてはならないと定めている。米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、0.1ppmのオゾン上限は常に超えられてはならないと推奨している。米国環境保護庁(EPA)の環境空気品質基準は、オゾンに対して室外平均濃度0.08ppmで最大8時間と定めている。この明細書に記載されている上記ディフューザ装置は、ドレージャーチューブによって検出可能なレベルのオゾンを生成しないことを常に実証している。
【0034】
しかし、或る実施形態では、以下の反応により、PHPGは、周囲環境からオゾンを除去するために使用されてもよい
O3 + H2O2 → H2O + 2O2
【0035】
或る実施形態では、PHPGによるVOCの直接酸化により、PHPGは、周囲環境からVOCを除去するために使用されてもよい。
【0036】
或る実施形態では、PHPGは、室内空気処理のための殺菌剤、カビ及び/又は真菌の除去装置、バクテリア除去装置、及び/又はウイルス除去装置を含むがこれらに限定されない微生物制御に使用されてもよい。上記PHPG方法は、所望の微生物制御、及び/又は殺菌/改善プロセスを行うのに十分な量の過酸化水素ガスを生成してもよい。十分な量は、当業者に通常知られており、浄化すべき固体、液体、又は気体によって、特定の殺菌/改善の性質に応じて変更できる。
【0037】
或る実施形態では、空気及び関連する環境(その中の表面を含む)の微生物制御及び/又は殺菌/改善に関して、PHPGの量は、殺菌すべき環境において略0.005ppmから略0.10ppmまで、特に略0.02ppmから略0.05ppmまで変化する。このような量は、例えばネコカリシウイルス(EPAは、ノロウイルスの代替と認めている)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌ファカリス(VRE)、クロストリジウム・ディフィシル(C-Diff)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス、クロコウジカビに対して有効なことが実証されている。このような量のPHPGは、(学校、病院、事務所、家庭、他の共用領域を含むがこれらに限られない)人のいる領域で安全に使用でき、表面を汚染する微生物を殺菌し、空中の病原菌を殺菌し、例えばインフルエンザ大流行の拡大を防ぎ、院内感染を制御し、一般の疾病の伝染を減じるなどの微生物制御を提供する。
【0038】
或る実施形態では、空気及び関連する環境(その中の表面を含む)の微生物制御及び/又は殺菌/改善に関して、PHPGの量は、殺菌すべき環境において略0.005ppmから略0.40ppmまで変化する。絶対湿度3.5mg/Lの未処理空気の給送を使用する0.2ppmのPHPGレベルは、常に達成されうる。特に、湿った再循環空気を使用する略0.09ppmから略0.13ppmまでのPHPGレベルは、殺菌されるべき環境中で生成されうる。このような量は、例えばH1N1ウイルスに対して有効であると立証されている。また、このような量のPHPGは、(学校、病院、事務所、家庭、他の共用領域を含むがこれらに限られない)人のいる領域で安全に使用でき、表面を汚染する微生物を殺菌し、空中の病原菌を殺菌し、例えばインフルエンザ大流行の拡大を防ぎ、院内感染を制御し、一般の疾病の伝染を減じるなどの微生物制御をもたらす。
【0039】
本発明の或る態様では、環境空気の湿度は、好ましくは相対湿度(RH)略1%以上、RH略5%以上、RH略10%以上などである。或る実施形態では、環境空気の湿度は、RH略10%からRH略99%までであってもよい。或る実施形態では、本発明の方法は、環境空気の湿度をRH略5%からRH略99%までの範囲内、又はRH略10%からRH略99%までの範囲内に調整することを含んでいる。
【0040】
金属又は金属酸化物からなる触媒は、二酸化チタン、銅、酸化銅、亜鉛、酸化亜鉛、鉄、酸化鉄、又はこれらの混合物から選ばれ、より好ましくは二酸化チタンである。特に、二酸化チタンは、電磁スペクトルの近紫外部分の光を吸収する半導体である。二酸化チタンは、アナターゼとルチルの2つの形に合成され、両者は、実際同じ親結晶構造の異なった面である。成す形は、準備方法及び使用される開始材料に応じて決まる。アナターゼは、380nm以下の波長の光子を吸収するのに対して、ルチルは、405nm以下の波長の光子を吸収する。
【0041】
厚さ約4μmの二酸化チタンの層は、入射する短波長光を100%吸収する。二酸化チタンは、1平方センチメートル当たり約9〜14×1014の活性表面サイトを有することが知られている。活性表面サイトは、表面上の配位的に不飽和なサイトであり、ヒドロキシルイオン又は他の塩基性種に結合することができる。二酸化チタンの光触媒的活性は、その構造(アナターゼ又はルチル)、表面積、寸法、空隙率、表面上のヒドロキシル群の密度によって影響される。アナターゼは、一般にルチルよりも活性な光触媒であると考えられている。アナターゼは、ルチルよりも強く二酸素を吸着することが知られていて、フラッシュ発光後にルチルよりも長く光伝導性を維持する。アナターゼ及びルチルは、それぞれ3.2eV(エレクトロンボルト)及び3.0eVのバンドギャップエネルギを有している。
【0042】
多くの化学物質は、光触媒作用に影響することが確認されている。このような化学物質は、光触媒処理に影響を与えるために反応環境に加えられてもよい。当業者に認められているように、或る化学物質は処理を促進し、他の化学物質は処理を低下させる。また、他の化学物質は、或る反応を促進し他の反応を抑制させるように作用する。
【0043】
酸−塩基化学から、塩基性物質は触媒の活性サイトに結合することが分かっている。理論に制限されることなく、触媒上に二酸素よりも強く吸着する還元性物質は、電子受容体として代替してもよい。小分子の化学物質、金属、及びイオンは、全てこの能力を有している。このような場合、PHPGの生成に及ぼされる影響は、二酸素及び過酸化水素に対する化学物質の電子受容効率によって決定づけられる。
【0044】
或る追加の化学物質は、副反応における、又は所望の反応を行うことができないより不活性なラジカルの生成におけるラジカル種を含んでいる。また、他の化学物質は、光触媒を物理的に変え、その能力を変化させる。本発明によれば、追加の化学物質は、PHPGの生成を最適化する(付加的に、オゾン、プラズマ種、又は有機種の生成を最小化又は除去する)ように選ばれてもよい。
【0045】
一実施態様では、上述したように、追加の化学物質は、共触媒を含んでいてもよい。共触媒は、選択されたPHPG反応の効率を改善するために触媒の表面に堆積される金属又は被膜であってもよい。共触媒は、触媒の物理的特性を2通りに変更してもよい。第1に、共触媒は、伝導帯の電子が占める新たなエネルギ準位を与えてもよい。第2に、共触媒は、共触媒を担持する光触媒とは異なった吸着特性を有していてもよい。これは、共触媒上で起こる反応の順序を、触媒上で起こる反応の順序と異ならせる。共触媒は、一般に5%以下の表面被覆で最も有効である。典型的な共触媒は、白金、銀、ニッケル、パラジウム、及び他の多くの金属化合物から選ばれていてもよい。また、フタロシアニンも、実証された共触媒能力を有している。
【0046】
本発明によるディフューザ装置は、球状、半球状、立方体、直方体などを含む適切な任意の形状及び寸法を有していてもよい。制限しない実施例の代わりに、ディフューザ装置は、帆船形状、360°台取り付け、翼形状(例えば、ビル内の空気ダクト向きのもの)、例えば、天井の蛍光灯器具に組み込まれてもよいデザイン、(例えば、航空機、地上の乗り物、及び大量輸送給気システムに搭載して使用するための)狭い面積での使用のために明確に構成されたデザインとして構成されていてもよい。また、ディフューザ装置は、テディーベア、豚の貯金箱、モックラジオなど任意の空想的な形状にしてもよい。
【0047】
上記ディフューザ装置の芯は、紫外光源から構成されていてもよい。上記ディフューザ装置の中心又は内部に配置されている紫外光源4は、装置の寸法及び意図する適用に応じた種々の強度であってもよい。
【0048】
例えば、図1及び図2に示す或る実施形態では、上記ディフューザ装置は、全体的に細長い楔形であってもよい。例えば管状の紫外光源4が、細長い楔形、又は管状のディフューザシェル2内に収容されていてもよい。或る構造では、反射器1が、装置の特定の形状により要求される装置内の特定の方向に光を収束させる役割を果たしてもよい。
【0049】
ディフューザ装置のシェル2は、セラミック、磁器、ポリマー等を含む適切な任意の基板材料から形成されてもよい。例えば、ポリマーは、波長が380nm〜182nmの紫外光によって劣化しない疎水性の多孔質又は通気性のポリマーである。上記範囲内の全てではなく或る波長の光に耐性のあるポリマーは、耐性のある範囲の波長の光のみを発する紫外光ランプと共に用いられる。ディフューザシェルは、所望の任意の寸法及び形状並びに所望の任意の色にモールド成形されてもよい。或る実施形態では、シェルの材料に紫外光を吸収して可視光を発するリン光性材料を組み込んでもよい。
【0050】
また、一般に、上記ディフューザ装置は、流体分配機構を含んでいる。一般に、流体分配機構は、空気などの流体をディフューザ装置を通って移動させるのに役立つ。特に、空気分配機構は、流体をディフューザ装置内に送り込み、次に、流体は、ディフューザ基板を通り抜けて拡散する。
【0051】
一実施形態では、図2に関し、上記流体分配機構は、通気入口7を通ってディフューザ装置の開口5に嵌め込まれた小さなファン(図示しない)に流体を向かわせる。また、ファンは、有機ガス及び/又は塵芥がディフューザ装置に入るのを防ぐ交換可能な疎水性のガス及び/又は塵芥フィルタ6を上流側に備え、PHPGを実質上有機種のない状態に確実に保っている。或る実施形態では、必要により、流体分配機構は、ディフューザ内で穏やかな過圧をするのに必要な最低の出力であり、他の実施形態では、速いファン速度がより好ましい。
【0052】
図3に示す他の実施形態では、上記ディフューザ装置のうち、360°台座を取り付けた実施形態についての断面図が図示されている。これは、例えば広い領域の中心に配置されうる、図1及び図2のディフューザ装置と同様のディフューザ装置の変形例である。
【0053】
また、図4に示す他の実施形態では、例えばビルの空気ダクト内での使用が意図されている翼形状型ディフューザ装置の一実施形態についての断面図が図示されている。図からわかるように、上記装置は、装置の前縁で直交する通気面に流れてくる空気の流れをもたらすために構成され、上記装置内へ空気を強制的に流すようになっている。発光ダイオードのかたまり及び光触媒の帆は、上記翼形状の後縁に対して平行に配置され、PHPGが生成されたとき上記装置からPHPGを引き込むために翼形状の後縁によって生成された低い空気圧をうまく利用している。或る実施形態では、図4のディフューザ装置は、容易により多くの空気流を生成するための補助内部ファン(図示しない)と、空気ダクトを流れる空気がないときに上記装置をオフにし、空気流が再開したときに上記装置を再開し、又はその両方をするための空気流センサ(図示しない)とを付加的に備えていてもよい。
【0054】
また、図5に示す他の実施形態では、天井の蛍光灯器具に組み込まれうるディフューザ装置の一実施形態についての断面図が図示されている。図からわかるように、元の器具の蛍光灯電球は取り外され、器具に気密シールと、ファンに電源を入れるための配線とが設けられている。その後、PHPGの生成に適した蛍光灯電球がとりつけられ、器具の底部は、吸気ファン及びフィルタ、例えば長方形の光触媒の帆、及び例えば四角形の通気ディフューザを含む組み立て部品が組み込まれている。
【0055】
また、図6に示す他の実施形態では、加湿型のディフューザ装置の一実施形態についての断面図が図示されている。図からわかるように、芯は、その下側部分が水トレイ中に浸されて、フィルタの下流側に配置されている。上記トレイは、手動により、又は水位センサ(図示しない)によって調整される自動給水により給水されうる。
【0056】
また、図7に示す他の実施形態では、湿度センサを含むディフューザ装置の一実施形態についての断面図が図示されている。一実施形態では、上記湿度センサは、例えば予め定めていた動作パラメータ(例えば、95%,98%,99%等)を越える動作湿度が検知されれば、上記装置をオフにするために使用されてもよい。
【0057】
また、図8に示す他の実施形態では、小さい領域のためのディフューザ装置に関する一実施形態についての断面図が図示されている。この小さい装置は、小さな部屋の電源出力に直接プラグを差し込むように設計されている。吸気ファン及び上記装置の端部にあるフィルタは、PHPGを生成するためのずらりと並んだ小さな発光ダイオードによって活性化された小さな光触媒の帆に、空気を供給している。
【0058】
また、図9に示す他の実施形態では、例えば航空機、地上の車両、及び大量輸送空気供給システム内での使用のためのディフューザ装置が搭載された一実施形態についての断面図が図示されている。上記搭載された装置は、供給空気の流れの中に直接配置されてもよいし、空気が上記装置を通過するときに生じる圧力降下を相殺するために内部ファンが設けられていてもよい。或る実施形態において、上記装置は、実施形態の各特定の用途のための空気流ダクトの内部断面と同じ大きさの外部断面を有するように構成されていてもよい。
【0059】
また、図10に示す他の実施形態では、ディフューザ装置の好適な実施形態の正面図が図示されている。この装置は、縦・横・高さの全ての寸法において対称であり、図示するように、直立するための台座形状をした底スリーブ内に設置され、又はブラケットにより壁又は天井から水平に取り付けられうる。
【0060】
また、図11に示す他の実施形態では、ディフューザ装置の好適な実施形態の断面図が図示されている。この装置は、ろ過作用を改善させるため及び吸気口プレナムにろ過された空気を供給するための円弧形状のダスト及びVOCフィルタを採用している。上記円弧状のフィルタは、フィルタの通過による圧力損失を抑えて、より大きい表面積を通して、より均等に空気の流れを分配する。上記吸気口プレナムは、通気出口のすぐ内側に配置された円弧状の光触媒帆に対して直交するように空気を送り出す一列の3つのファンを供給する。この実施形態では、空気は、装置の後部から前部へ直通で流れる。2つの紫外光電球は、光触媒帆に均等に照射するために上記空気流の外へオフセットされている。この実施形態は、より良い性能、つまり、7.66倍のろ過性能、7.5倍の空気流、及び2倍の光子束を与えている。これは、湿った空気を大きく改善された速度で光触媒帆に供給し(PHPGの生成を増加させ)、より多くのPHPGが系から出るために残るのを確実にして、一度生成された光触媒面上のPHPGの滞留時間を大きく削減している。
【0061】
図12に示しているのは、図11のディフューザ装置の実施形態についての側面図である。
【0062】
一実施形態では、ディフューザシェルの内面は、或る実施形態において1以上の金属でドープされた二酸化チタンを含む光触媒で被覆されることにより、一般に基板として使用してもよい。例えば、光触媒は、ディフューザ基板の内面に塗料として塗布されてもよい。この塗布は、ディフューザ基板内の細孔を塞がないように一般に行われる。一実施形態では、空気がディフューザ基板に供給され、光触媒塗布後の基板の細孔を通して無理に送られて、強制された空気によって塗料が乾燥されると共に細孔を貫通状態に保ってもよい。光触媒被覆と、UV光が組み立てられたディフューザ装置から洩れないように十分に不透明であるディフューザ基板との組み合わせが好ましい。
【0063】
他の実施形態では、ディフューザシェル及び触媒基板は、基板層がディフューザシェルの内面のすぐ内側に非常に接近して配置された別々の構成部材である。
【0064】
或る実施形態では、上記ディフューザ装置は、本明細書に記載されているように、PHPGの収率を特に改善するために予め定められた範囲の波長で動作するように設計されていてもよい。さらに、或る実施形態では、上記ディフューザ装置は、加湿されてもよく(図6参照)、特定の動作湿度で動作するように設計されていてもよく、動作パラメータは、それに応じて調整されてもよい。この点、上記ディフューザ装置は、湿度センサを含んでいてもよい(図7参照)。或る実施形態では、上記ディフューザ装置は、動作環境の湿度に基づいてPHPG収率を最適化するため、及び/又は湿度条件が好ましくなければ動作を停止する制御システムを付加的に含んでいてもよい。
【0065】
上記ディフューザの設計は、プラズマ反応装置内の滞留時間を最大にするように設計された体積最適化形態になるようにディフューザを小型化することによって、というよりはむしろ、空気の流れに対して直交する大きな領域上に(例えば、或る実施形態では帆のような領域上に)空気透過性の光触媒PHPG反応装置の表面を薄く広げることによって、PHPGの生成を最適化する。上記PHPG反応形態を、ディフューザの内側シェルのすぐ内側に、薄くて帆のような空気透過性の構造として構成することで、触媒上に生成された過酸化水素分子の出口通路の長さは徐々に短くなり、PHPG反応装置構造内の滞留時間は、ほんの一瞬に減少し、過酸化水素分子の大部分が続いて触媒に吸着して水に還元されることが防止される。また、触媒基板をディフューザシェルの内面のすぐ内側に配置することによって、PHPG反応装置の表面積が最大化されるだけでなく、生成されたPHPGが直ちにディフューザから抜け出し、紫外光源に長く曝されることによるPHPGの光分解が回避される。この形態によって生成されたPHPGの濃度は、0.4ppmという高濃度に達した。
【0066】
好適な実施形態では、PHPGの濃度は、互いに反応すると水及び酸素に分解するPHPG分子間の静電的引力によって自己調整されてもよい。PHPGの自己調整は、PHPGの濃度が、PHPG分子間の距離が互いにPHPG分子の静電的引力の圏内まで近づくような濃度に達すれば常に生じる。この自己制御が生じると、上記濃度が十分に低下して、PHPG分子間の距離が延びてPHPG分子の静電的引力の圏外になるまで、PHPG分子は、互いに引き付け合って分解する。これによって、PHPGの濃度は、OSHAの職場の安全限度である1.0ppmよりも十分低いレベルに維持されている。
【0067】
いくつかの実施形態では、PHPG出力レベルの能動制御が望ましく、PHPGの生成は、PHPG反応装置自体によって調整されうる。PHPG生成レベルは、PHPG反応装置を通って戻るPHPGを含むわずかに調整された処理済みの空気を再循環させることによって、0.01ppmから0.40ppmまでのいずれかのレベルに設定されうる。この設定がなされたとき、PHPG出力レベルは以下の一連の反応によって制御される。
酸化
2光子 + 2H2O → 2OH* + 2H+ + 2e-
2OH* → H2O2
還元
(100%- x%)O2 + 2(100%- x%)H+ + 2(100%- x%)e- → (100%- x%)H2O2
x%H2O2 + 2x%H+ + 2x%e- → 2x%H2O
【0068】
PHPGの過酸化物結合の還元電位(+0.71eV)は、酸素分子中の酸素原子間における二重結合の還元電位(-0.13eV)よりもはるかに高いので、PHPGは酸素を上回って優先的に還元され、正味生成レベルを下げるために少量の再循環したPHPGのみを要する。この調整されたわずかな再循環により、最も高い出力のために別の方法で設計されているPHPG反応装置は、単にそれがPHPG反応装置を通って戻り、既に処理された空気のうち、いくらかの空気の方向を変えることによって、より低いレベルに設定されうる。
【0069】
また、このPHPG最適化形態は、系に入ると共に系を通り抜けるいかなる有機汚染物質の滞留時間も最小化し、有機汚染物質が酸化される可能性を劇的に減少させることに注目すべきである。PHPGの生成に最適化された光触媒系は、設計により、触媒構造を通り抜けるときに有機汚染物質を効果的に酸化されにくくし、有機汚染物質を酸化させるのに最適化された光触媒系は、設計により、過酸化水素ガスの生成を妨げる。
【0070】
本発明の或る態様では、PHPGは、オゾン,プラズマ種,有機種が実質上ない状態において、例えば既述の範囲の紫外光で活性化されたときに光触媒による吸着水分子の酸化によって生成されてもよい。一実施形態では、内側を光触媒で被覆されたディフューザ基板(又は内側を薄い帆状の通気性光触媒構造で覆われたディフューザシェル)が、紫外光ランプの上及び周囲に配置されてもよい。ディフューザ内の開口は、紫外光の電源と構造上の支持部が嵌め込まれる枠の役割を果たしてもよい。組み立てられたとき、上記ディフューザ装置は、次のように動作してもよい。即ち、(a) 流体分配機構は、空気を有機性の蒸気及びダストフィルタを通してディフューザ内に送り込んで過圧を作り、(b) 空気は、基板及び/又はディフューザシェルの細孔又は通気孔を通ってディフューザ外へ流れ、(c) 空気中に含まれる湿気は、光触媒の表面に吸着し、(d)ランプによって生成された紫外光は、光触媒を照射して活性化し、光触媒は、吸着した水を酸化すると共に吸着した酸素を還元してPHPGを生成し、(e) ディフューザ装置内で生成されたPHPGは、ディフューザの細孔又は通気孔を通ってディフューザから出て、周囲環境へ急速に移動する。
【0071】
いくつかの実施形態では、PHPGは、中圧水銀アーク(MPMA)ランプによって生成される。MPMAランプは、紫外光のみならず赤外域の波長をもつ可視光を発する。ランプを選ぶ際、紫外域の出力を詳しく調べることが重要である。紫外域のスペクトル出力は、グラフで表され、重要な紫外域波長で比例した出力を示すことがある。MPMAランプの広いスペクトルは、その機能性の故に選ばれる。
【0072】
他の実施形態では、PHPGは、紫外光発光ダイオード(UV LED)によって発せられる。UV LEDは、より小型で、UV LEDの群が種々の寸法と方法で列に並べられ、より小さく,より頑丈な製品を可能にする。
【0073】
他の実施形態では、PHPGの出力は、装置を単一又はグループで管理する制御システムによって調整されてもよい。このような制御システムは、(a) 装置をオン・オフし、(b) 光の強度やファン速度を調整し、(c) 自動比色分析器,自動ドレガー・インジケータ,水トラップに蓄積したPHPGのフラッシュ蒸発,過酸化水素の蓄積を検知する基板の導電率の変化の測定によって、又はPHPGとPHPGが静電引力で引き付けられる安定な反応体との間の発熱反応で放出される熱を測定する熱的手段によって、環境中のPHPGレベルを直接モニタし、(d) 相対湿度によって環境中のPHPGレベルを間接的にモニタすることによって動作を調整してもよい。
【0074】
実施例
発明を次の実施例に制限する意図はないが、本発明の一実施形態では、(a)装置は、長さ50.8cm,半径21.6cmの1/4円筒状をなし、(b)1/4円筒は、壁と天井の出会いが成す90°の角度に適合するように設計され、1/4円筒の真っ直ぐな両面が天井と壁にぴったりと接し、1/4円筒の湾曲面が外方かつ下方に向かって室に面し、(c)1/4円筒の下から見た右端は、毎分6.79m3の最大出力をもつ可変速度ファンおよび活性炭からなる疎水性の高効率吸気口フィルタを収容し、(d)1/4円筒の左端は、ファン用の電源コネクタおよび1/4円筒の中心に位置し,1/4円筒の長手方向に延びる35.6cmの中圧水銀アーク(MPMA)ランプを収容し、(e)光を1/4円筒の湾曲面の内側に向かって反射する通気口付き金属反射板が、MPMAランプの背後に配置され、(f)1/4円筒の湾曲面は、装置の外へ空気は流すが光は洩らさない構造となっている。
【0075】
湾曲した帆状の光触媒構造は、1/4円筒の湾曲面の直ぐ内側に平行に配置され、(a) 光触媒基板は、長さ45.7cm、高さ27.9cmの枠に入れられ、頂部から底部まで半径21.0cmの円弧を成し、(b) 結晶性二酸化チタン粉で被覆されたガラス繊維からなり、(c) 二酸化チタンは、ガラス繊維の全面を完全に覆うように5層で塗布された後、光触媒の結晶を相互に、かつガラス繊維に結合させるべく、炉内で焼結される。
【0076】
運転中、ファンとMPMAランプは電源がオンされ、(a) 吸入空気は、活性炭からなる疎水性の高効率入口フィルタを経て装置内に吸い込まれ、上記吸気口フィルタは、吸入空気から湿気を除去することなく、揮発性有機炭化水素(VOC)を吸着して除去し、(b) 吸入空気は、装置の背部に送られ、通気口付き金属反射板によって光触媒構造および1/4円筒の湾曲面の内側に向かって均一に方向転換され、(c) 吸入空気中の湿気と酸素は、MPMAランプからの波長255nmから380nmの光で活性化された光触媒上に吸着され、(d) 活性化された光触媒は、水を酸化してヒドロキシルラジカルにし、このヒドロキシルラジカルが結合して過酸化水素となる一方、二酸素が同時に光触媒上で還元されて過酸化水素となり、(e) 生成された精製過酸化水素ガス(PHPG)が、光触媒から離れる空気の流れによってすぐに運び去られ、光は通さない装置の通気面を通って、室内へ放出される。
【0077】
こうして生成されたPHPGは、(a) 水溶液の蒸発によってではなく、触媒手段によって生成されているので、実質上結合水がなく、(b) MPMAランプが二酸素を光分解できる波長の光を用いないので、PHPGは、実質上オゾンがなく、(c) 光触媒の構造が、過酸化水素が続いて光触媒で還元される前に光触媒の表面から迅速に離脱することを可能にするので、PHPGは、実質上プラズマ種がなく、(d) PHPGは、光触媒の表面から離脱すると直ちに1/4円筒の非透光性で通気性の面を通って装置外へ抜け出るので、PHPGは、紫外光分解から保護され、(e) 活性炭からなる疎水性の高効率吸気口フィルタによってVOCが吸着されるので、PHPGは、実質上有機種がなかった。
【0078】
本発明の装置は、認定された2つの研究所によって計画され、実施された次のような試験を受けた。即ち、(a) PHPGの産出量を測定し、(b) 産出物(PHPG)にオゾンが実質上ないことを確認し、(c) 産出物にVOCが実質上ないことを確認し、(d) ネコカリシウイルス(米国環境保護庁がノロウイルスの代替と認定)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌ファカリス(VRE)、クロストリジウム・ディフィシル(C-Diff)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス (微生物に対する改善が成功したか否かを実証するために保険業界が用いる安定なバクテリア)、クロコウジカビに対するPHPGの有効性を測定し、(e) 華氏70〜72度、相対湿度35%〜40%、華氏81〜85度、相対湿度56%〜59%、華氏78度、相対湿度98%の種々の環境で試験を行うことである。
【0079】
オゾン、VOC、温度、湿度の測定は、全て標準的な装置を用いて行われた。0.10ppm以下のレベルの過酸化水素ガスを測定する装置は、未だ容易に利用できないので、3つの新たな手段が考案された。即ち、(a) 水溶液中の近似濃度の測定に通常用いられる過酸化水素試験片は、時間経過後のPHPGの存在を検知することが見出され、(b)通常20秒の暴露後に読むように設計された過酸化水素試験片は、PHPGを蓄積し、1時間以内の暴露時間で標準化した場合、PHPGの近似濃度を0.01ppmの精度で読み取ることができることが分かった。例えば、5分間で0.5ppmのPHPGを蓄積した試験片は、15×20秒の間暴露され、0.5ppm/15即ち0.033ppmの近似濃度を示し、(c) 2000cm3の空気を吸引した後に0.10ppmの低濃度の過酸化水素を検出するように設計されたドレージャーチューブ(インジケータ)は、較正されたポンプによって大量の空気が吸引された場合、0.005ppmの精度で低いPHPG濃度を読み取れることが分かった。例えば、4000cm3の吸引後に0.10ppm濃度を示すドレージャーチューブは、略0.05ppmのPHPG濃度を測定し、6000cm3の吸引後に0.10ppm濃度を示すドレージャーチューブは、略0.033ppmのPHPG濃度を測定し、(d)過酸化水素試験片およびドレージャーチューブを用いた測定は、互いに良好に一致していることが分かった。
【0080】
湿度を変化させて過酸化水素のレベルを測定する試験では、次のようなデータが得られた。
【表1】
【0081】
PHPG測定データは、生成されたPHPGの濃度が、相対湿度に大きく依存することを示している。このことは、PHPGの生成が空気中の利用できる水分子に直接依存することから予測できる。病院の手術室の相対湿度を30%〜60%に維持することを米国保健社会福祉省が要求していることに注目すべきである。
【0082】
また、PHPG測定データは、長時間に亘って一定を保ち、略0.08ppmの平衡上限値を示している。このことも、PHPG分子間の距離が分子間の静電的引力範囲内になった場合は常に働くPHPG分子間の静電的引力から予測できる。この状態下で、過剰なPHPGは、自ら反応して酸素分子と水分子とになる。また、この上限値0.08ppmは、米国労働安全衛生局の職場の安全限度である1.0ppmよりも低くて安全に呼吸できるから、PHPGシステムが、人のいる領域で安全かつ持続的に使えることを示している。
【0083】
また、全ての試験は、装置から放出される気体にはオゾンが全くないことを示している。
【0084】
VOC試験では、70.8m3の室内の2-プロパノールの近似濃度が7ppmに設定された。上記装置は、室内のVOCレベルを急速に減少させることが分かった。
【表2】
【0085】
微生物の質的試験では、ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus Stearothermophilus)を植菌したチップが幾つかの試験の環境に置かれ、全ての場合、数時間以内にバクテリアの著しい減少が認められた。
【0086】
ミネソタ州イーガンにあるATS(American Thoracic Society)研究所における微生物の量的試験で、次のデータが得られた。相対湿度35%〜40%で生成された僅か0.005ppm〜0.01ppmのPHPG濃度によって、目覚ましい殺菌率が達成されたことに注目すべきである。
【表3】
【表4】
【0087】
湿度がより高いと、より高濃度のPHPGが生成され、微生物の減少率は増加する。改善された試作品を使用するこのテストが、この定量試験に使用されるより40倍高い0.40ppmと同じくらい高いPHPG濃度を実現してからデータは集められた。
【0088】
また、比較試験は、PHPG試験装置が、光触媒プラズマ反応装置内で同じ条件のもと、等しい数の活性触媒部位から偶発的に生成された、精製されていない過酸化水素の何千倍もの平衡濃度のPHPGを生成することを示した。
【0089】
本発明は、概ねある程度の特殊性をもって特定の実施形態について記載されているが、この明細書は、単なる例を述べただけで、部材の組み合わせ及び配置を含む構造、製造および使用の詳細には、例示した実施例で示したように本発明の精神と範囲内で多くの変更が可能であると理解されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形で結合した水、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成することと、
(b)環境中において、表面上及び空気中の両方において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記過酸化水素ガスが作用するよう、上記PHPGを上記環境中へ放出することとを特徴とする環境の微生物制御、及び/又は殺菌/改善をする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
上記生成されたPHPGは、プラス及びマイナスに帯電された構造物及び/又は微生物上の部位へ静電的に引き付けられ、その結果、水和した過酸化水素又はオゾンのいずれかと比較したとき、微生物制御、及び/又は殺菌/改善における上記PHPGの有効性を向上させることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
上記供給されたPHPGは、0.005ppmと0.40ppmとの間の濃度であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
上記供給されたPHPGは、未処理の空気と、既に上記PHPGで処理されたわずかに循環する空気との間で供給空気のバランスをとることによって、所望の濃度に能動的に調整されうることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
環境の上記微生物制御、及び/又は殺菌/改善は、室内空気処理、水清浄器、カビ除去装置、バクテリア除去装置、及びウイルス除去装置を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
上記空気の相対湿度は、5〜99%の範囲内であり、又はその範囲内に調整されていることを特徴とする方法。
【請求項7】
(a)溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形で結合した水、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成するための条件下で、金属又は金属酸化物からなる触媒を湿った清浄環境空気の存在下で紫外光に曝すことと、
(b)環境中において、表面上及び空気中において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記過酸化水素ガスが作用するよう、上記PHPGを上記環境中へ放出することとを特徴とする環境の微生物制御、及び/又は殺菌/改善をする方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、
環境の上記微生物制御、及び/又は殺菌/改善は、室内空気処理、水清浄器、カビ除去装置、バクテリア除去装置、及びウイルス除去装置を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法において、
上記空気の相対湿度は、5〜99%の範囲内であり、又はその範囲内に調整されていることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法において、
上記金属又は金属酸化物からなる触媒は、二酸化チタンであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項7に記載の方法において、
上記PHPG生成物は、オゾン及びVOC種とPHPGとの直接化学反応によって、上記環境空気中からオゾン及びVOCの両方を除去することにもなり、この除去は、(a)酸素及び水を生成するためにオゾンと反応することと、(b)二酸化炭素及び水を生成するためにVOCと反応することとを備えていることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項7に記載の方法において、
上記金属又は金属酸化物からなる触媒は、少なくとも略255nmから略380nmまでの範囲の波長の紫外光に曝されていることを特徴とする方法。
【請求項13】
(a)紫外光源と、(b)金属又は金属酸化物触媒基板構造と、(c)空気分配機構とを備えていることを特徴とするPHPGを生成するためのディフューザ装置。
【請求項14】
請求項13に記載の装置において、
上記触媒基板上の上記触媒の形態は、薄くて帆のような空気透過性の構造であり、上記ディフューザ装置を通る空気の流れに対して直交するように配置され、
上記形態は、水の酸化及び酸素の還元の両方から過酸化水素を生成するように上記触媒の反応平衡を変え、また、上記形態は、上記過酸化水素が還元されうる前に、上記過酸化水素を上記触媒から離すと共に上記触媒から離れて急速に流すことによって、上記触媒上の過酸化水素の還元を実質的に妨げることを特徴とする装置。
【請求項15】
請求項13に記載の装置において、
上記空気分配機構は、ファンであることを特徴とする装置。
【請求項16】
請求項13に記載の装置において、
上記紫外光源は、少なくとも1つの範囲の波長を生成することを特徴とする装置。
【請求項17】
請求項13に記載の装置において、
上記紫外光源は、1よりも多くの範囲の波長を生成することを特徴とする装置。
【請求項1】
(a)溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形で結合した水、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成することと、
(b)環境中において、表面上及び空気中の両方において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記過酸化水素ガスが作用するよう、上記PHPGを上記環境中へ放出することとを特徴とする環境の微生物制御、及び/又は殺菌/改善をする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
上記生成されたPHPGは、プラス及びマイナスに帯電された構造物及び/又は微生物上の部位へ静電的に引き付けられ、その結果、水和した過酸化水素又はオゾンのいずれかと比較したとき、微生物制御、及び/又は殺菌/改善における上記PHPGの有効性を向上させることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
上記供給されたPHPGは、0.005ppmと0.40ppmとの間の濃度であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
上記供給されたPHPGは、未処理の空気と、既に上記PHPGで処理されたわずかに循環する空気との間で供給空気のバランスをとることによって、所望の濃度に能動的に調整されうることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
環境の上記微生物制御、及び/又は殺菌/改善は、室内空気処理、水清浄器、カビ除去装置、バクテリア除去装置、及びウイルス除去装置を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
上記空気の相対湿度は、5〜99%の範囲内であり、又はその範囲内に調整されていることを特徴とする方法。
【請求項7】
(a)溶液中の水、又は共有原子価、ファンデルワールス力、又はロンドン分散力によって結合されている水分子の形で結合した水、オゾン、プラズマ種、及び/又は有機種が実質的にない精製過酸化水素ガス(PHPG)を生成するための条件下で、金属又は金属酸化物からなる触媒を湿った清浄環境空気の存在下で紫外光に曝すことと、
(b)環境中において、表面上及び空気中において微生物制御、及び/又は殺菌/改善を行うように上記過酸化水素ガスが作用するよう、上記PHPGを上記環境中へ放出することとを特徴とする環境の微生物制御、及び/又は殺菌/改善をする方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、
環境の上記微生物制御、及び/又は殺菌/改善は、室内空気処理、水清浄器、カビ除去装置、バクテリア除去装置、及びウイルス除去装置を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法において、
上記空気の相対湿度は、5〜99%の範囲内であり、又はその範囲内に調整されていることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法において、
上記金属又は金属酸化物からなる触媒は、二酸化チタンであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項7に記載の方法において、
上記PHPG生成物は、オゾン及びVOC種とPHPGとの直接化学反応によって、上記環境空気中からオゾン及びVOCの両方を除去することにもなり、この除去は、(a)酸素及び水を生成するためにオゾンと反応することと、(b)二酸化炭素及び水を生成するためにVOCと反応することとを備えていることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項7に記載の方法において、
上記金属又は金属酸化物からなる触媒は、少なくとも略255nmから略380nmまでの範囲の波長の紫外光に曝されていることを特徴とする方法。
【請求項13】
(a)紫外光源と、(b)金属又は金属酸化物触媒基板構造と、(c)空気分配機構とを備えていることを特徴とするPHPGを生成するためのディフューザ装置。
【請求項14】
請求項13に記載の装置において、
上記触媒基板上の上記触媒の形態は、薄くて帆のような空気透過性の構造であり、上記ディフューザ装置を通る空気の流れに対して直交するように配置され、
上記形態は、水の酸化及び酸素の還元の両方から過酸化水素を生成するように上記触媒の反応平衡を変え、また、上記形態は、上記過酸化水素が還元されうる前に、上記過酸化水素を上記触媒から離すと共に上記触媒から離れて急速に流すことによって、上記触媒上の過酸化水素の還元を実質的に妨げることを特徴とする装置。
【請求項15】
請求項13に記載の装置において、
上記空気分配機構は、ファンであることを特徴とする装置。
【請求項16】
請求項13に記載の装置において、
上記紫外光源は、少なくとも1つの範囲の波長を生成することを特徴とする装置。
【請求項17】
請求項13に記載の装置において、
上記紫外光源は、1よりも多くの範囲の波長を生成することを特徴とする装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2012−517862(P2012−517862A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550232(P2011−550232)
【出願日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/023903
【国際公開番号】WO2010/093796
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(510033608)リー・アンティマイクロビアル・ソリューションズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (2)
【氏名又は名称原語表記】LEE ANTIMICROBIAL SOLUTIONS LLC
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/023903
【国際公開番号】WO2010/093796
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(510033608)リー・アンティマイクロビアル・ソリューションズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (2)
【氏名又は名称原語表記】LEE ANTIMICROBIAL SOLUTIONS LLC
【Fターム(参考)】
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