説明

細胞の再プログラム化および遺伝子改変

細胞の再プログラム化および任意選択的な遺伝学的改変のための方法が提供される。多能性ゲノムは、NanogまたはMEK阻害剤の存在下において、多能性細胞を分化細胞と融合させることにより分化したゲノムから得られる。細胞は、染色体を個別に含む第1および第2の細胞を提供し、第1の細胞と第2の細胞を融合させ、次いで、第1の細胞由来の少なくとも1つの染色体および第2の細胞由来の少なくとも1つの染色体を有する二倍体細胞を得るために融合細胞を培養することにより遺伝学的に改変される。細胞融合の方法は、NanogまたはMEK阻害剤の存在下で第1の細胞と第2の細胞を融合させることを含む。それにより得られる細胞およびそれらの使用について記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞、特に再プログラム化されうる細胞の再プログラム化および遺伝子改変に関する。本発明は、特に細胞の多能性状態への再プログラム化、ならびに細胞の遺伝学的な改変、例えばかかる再プログラム化の前に遺伝子欠損を修復することに関する。
【背景技術】
【0002】
胚発生の間、多能性細胞は多くの異なる細胞型に分化する。これらは、活性化または抑制される遺伝子の特異的なサブセット、すなわちエピゲノムにより決定される。有意なことに、分化したエピゲノムは、除核された卵母細胞への核移植およびESまたはEG細胞のいずれかとの細胞融合により多能性が回復されうる。ESおよびEG−T細胞のハイブリッドでは、T細胞の不活性化X、サイレントに刷り込まれた遺伝子およびサイレントなOct4−GFPレポーター導入遺伝子の再活性化が示されている(Tada et al, 1997 and 2001)。さらに、ESおよびEG−T細胞のハイブリッドが3つの全一次胚葉を付与することがインビボで示され、それは多能性の特性を示す(Tada et al, 1997; 2001)。他の研究では、中枢神経系、骨髄および脾細胞の核がES細胞との融合後に多能性の可能性を示すことも示されている(Matveeva et al, 1998; Terada et al, 2002; Ying et al, 2002)。さらに、ES分化細胞のハイブリッドにおける体細胞ゲノムのクロマチン状態の解析では、ES細胞のゲノム特性が獲得されることが示された(Kimura et al, 2004)。これらの結果は、まとめると、ハイブリッドは単に2つのゲノムの集合体を含むだけでなく、体細胞のドナーゲノムが完全な再プログラム化を経ている可能性が高いことを示した。
【0003】
除核された卵母細胞への体細胞核移植(SCNT)により生存できる動物が作成されているが、成功率は極めて低く、ほとんどの胚が発生の初期段階で致死となる(Hochedlinger and Jaenisch, 2003でレビュー)。主な起因因子はドナーゲノムの再プログラム化におけるエラーである可能性が高い(Humpherys et al, 2001, 2002; Kang et al, 2001, 2002; Xue et al, 2002; Santos et al, 2003)。さらに、一定の比率において、初期のクローン胚が多能性に関連する遺伝子Oct4の不完全な再活性化を示し、このことは、ほとんどのクローン胚が正確に多能性の胚集団を確立できないことを示唆している(Bortvin et al, 2003)。この考察を支持するように、B細胞核由来の成体マウスの作成は、クローン胚由来のES細胞の誘導を含むさらなる工程なしでは不可能である(Hochedlinger and Jaenisch, 2002)。したがって、エピジェネティックな再プログラム化の効率を改善することが望まれる。
【0004】
ゲノムの再プログラム化はインビボでも生じる。10.5dpc〜11.5dpcで生殖隆起に入り込む始原生殖細胞(PGC)は、ゲノム全域にわたる脱メチル化、サイレントX染色体の再活性化および刷り込みの抹消を経る(Hajkova et al, 2002; Sato et al, 2003; Tam et al, 1994)。近年、再プログラム化が初期胚の特徴であることが報告された(Mak et al, 2004; Okamoto et al, 2004)。これらの研究では、刷り込まれたX染色体の不活化が後期桑実胚および胚盤胞の全細胞内で生じることが示された。これらの段階では、不活性Xのクロマチンは、他のエピジェネティックな標識とともに、H3−K9のジメチル化およびH3−K27のトリメチル化の増多を示した。これは、不活性Xが細胞分化のマーカーであり、その状態が安定で遺伝的に伝達され、多能性細胞でのみ可逆性であることから、驚くべき結果であった(Wutz and Jaenisch, 2000)。重要なことに、不活性Xはエピジェネティックな標識を抹消し、約4.5dpcの胚盤葉上層において再活性化することが示された(Mak et al, 2004; Okamoto et al, 2004)。予想外なことに、マウス卵母細胞に移植されたXX体細胞核におけるX染色体のエピジェネティックなダイナミクス解析では、正常胚との顕著な差異が示された(Bao et al, 2005)。不活性Xのエピジェネティックな標識であるトリメチルH3−K27は、卵母細胞により抹消されず、Xの再活性化が生じた際に胚盤葉上層が形成するまで存続する。このことは、卵母細胞および胚盤葉上層がゲノムの再プログラム化に関して異なる特性を有することを示唆する。再プログラム化を構成する因子は知られていない。しかしながら、これらは、多能性胚盤葉上層を生じることになる胚盤胞の細胞内、ならびにES−分化細胞ハイブリッドにおけるXの再活性化を担うES細胞内に存在しなければならない。同様に、これらの因子はまた、生殖隆起内に移動するPGC内およびEG細胞内にも存在しなければならない。
【0005】
Nanogは、多能性の哺乳類細胞内に存在し、初期発生に必須である固有のホメオドメインを含有するタンパク質である。胚盤胞内での多能性細胞の形成とともに、雌XX胚内で予め不活性化された親X染色体は再活性化状態になる。再活性化は、Nanogを発現する細胞に限定され、Nanoを含まない胚内で生じることがない。
【0006】
初期胚におけるNanogの発現は、将来の多能性胚盤葉上層細胞を標識し、ES細胞の分化および胚の発生の間に急速に下方調節される(Chambers et al, 2003; Mitsui et al, 2003)。さらに、Nanogは、ES細胞で過剰発現される場合、本来では必須な因子であるLifおよび血清(BMP−4)の非存在下において自己再生を可能にするという独特の特性を示す(Chambers et al, 2003; Ying et al, 2003)。さらに、Nanogは、再プログラム化が生じている多能性のEG細胞およびPGCで発現される(Chambers et al, 2003; Yamaguchi et al, 2005)。NanogヌルES細胞および単離された内部細胞塊(ICM)のインビトロにおける特徴付けでは、これらが未分化状態を保持できずに内胚葉様細胞に分化することが示された(Mitsui et al, 2003)。
【0007】
WTとNanog−/−4.5dpcおよび休止雌胚の比較解析では、X染色体の再活性化のみがWT胚、Nanogを発現する細胞に生じることが示された。
【0008】
WO03/064463には、NanogのLIFとの併用により細胞または核が再プログラム化されることが記載されている。しかしながら、本明細書中に記載の比較例では、Nanogの発現が再プログラム化を誘導するのに不十分であることが見出された。
【0009】
細胞治療を目的として、細胞を遺伝学的に改変し、特に多能性細胞を改変し、それらから子孫を誘導することが望まれる。細胞の遺伝学的な改変は、核の再プログラム化と一緒に、例えばベクターを用いることが知られる。SCNTにより生成される細胞の遺伝子改変は、例えば免疫不全の治療に用いられている(Rideout et al, 2002)。しかし、これらの方法はゲノム内に人工産物を残しうる。細胞治療の産物は二倍体細胞であるべきだが、二倍体細胞の融合は、四倍体細胞または染色体の分離が不均等な細胞を生じ、種々の異なる異数性の細胞型を生じることが知られる(Matveeva et al, 1998)。これは監督機関にとっては受け入れがたいものであると思われる。
【0010】
それゆえ、核の再プログラム化の効率を高めることが望まれるだろう。しかし、上記のように、現在の効率は低い。遺伝学的な改変を再プログラム化された細胞に導入し、それから二倍体の子孫を誘導することもまた望まれるだろう。
【0011】
本発明の目的は、上記の課題に対する代替するものを改善するか、または少なくとも提供することである。本発明の特定の具体例の目的は、改善された再プログラム化の方法およびそれにより得られる細胞を提供することである。本発明の特定の具体例のさらなる目的は、細胞の遺伝学的な改変、必要に応じて、続いて改変された細胞の再プログラム化、次いでその子孫を誘導する方法を提供することである。
【0012】
(発明の要約)
本発明によると、Nanogの発現および/またはMEKの阻害が細胞の再プログラム化のために用いられる。
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明によると、多能性細胞を分化した細胞と融合させ、次いで融合細胞においてNanogを過剰発現させることを含む分化したゲノムから多能性ゲノムを得る方法が提供される。
【0014】
Nanogは、融合工程前に多能性細胞でNanogを過剰発現させ、融合の工程前に分化細胞でNanogを過剰発現させ、あるいは、すなわち融合工程後に融合細胞でNanogの過剰発現させることにより、過剰発現されうる。Nanogは、Nanogを発現する遺伝学的な構築物を細胞に導入することにより適切に過剰発現される。Nanogはまた、細胞でNanogの発現を高める培地成分の存在下で、細胞を導入すること、または細胞を培養することにより過剰発現されうる。
【0015】
本発明の特定の具体例では、本方法は、多能性細胞を分化細胞と融合させて融合細胞が形成され、ここで、多能性細胞、分化細胞および融合細胞のうちの少なくとも1つがMEK阻害剤で処理される。
【0016】
多能性細胞と分化細胞の両方がMEK阻害剤で処理されうる。
【0017】
この方法において、直接の過剰発現または例えばMEK阻害剤を用いる過剰発現を介してのNanogの使用が、多能性特性を示す細胞を得る効率を高めることは、有利に見出されている。MEK阻害剤による処理がNanogの発現の上方調節をもたらされると考えられる。発明者はまた、さらなる培養後、分化細胞由来の遺伝子情報を有する多能性の二倍体細胞の取得が可能であることを有利に見出している。本発明の方法では、融合細胞は、培地中で維持され、その染色体相補対(chromosome complement)が二倍体に減少し、回復するまでは自然に染色体を失う。一般に、分化細胞由来の少なくとも1つまたはそれ以上の染色体が、生じた多能性細胞の二倍体状態に寄与する。それゆえ、多能性細胞は、望ましい遺伝子または望ましい染色体あるいは他の望ましい遺伝物質を含む分化細胞をはじめとする細胞および組織を含むその分化した子孫を誘導するために得られ、用いられ得る。
【0018】
多能性細胞は、適切には、胚性幹(ES)細胞、胚性癌腫(EC)細胞または胚の性腺(embryonic gonadal)(EG)細胞であり、下記により詳細に記載される本発明の特定の具体例では、細胞融合は、ES細胞を分化細胞と融合させることにより多能性ゲノムを生じさせることに成功している。
【0019】
分化細胞は体細胞であり得、一般には、実質的にすべての体細胞が本明細書に記載される本発明の適用時の使用に適すると考えられる。分化細胞はまた、幹細胞でもあり得、さらに本発明の適用はいずれの特定の幹細胞に限定されないが、一般に幹細胞、特に神経幹細胞、造血幹細胞などまで広げると考えられる。本発明の特定の実施例の使用では、再プログラム化は、分化細胞が神経幹細胞である場合に成功している。
【0020】
Nanogは、様々な異なる手段を介して提供されうる。一の具体例では、Nanogは多能性細胞でNanogを過剰発現させることにより提供され、別の具体例では、Nanogは分化細胞でNanogを発現させることにより提供される。
【0021】
Nanogが、多能性細胞および分化細胞の両者またはいずれかにおいて、1つまたはそれ以上の細胞に、適切なプロモーターと一緒にNanogをコードするヌクレオチド型配列を含むベクターをトランスフェクトすることにより利便的に直接発現されることも任意選択である。
【0022】
本発明の方法が多能性細胞で過剰発現されるNanogを生じることが好ましく、実際には、内在性ES細胞レベルの2倍から15倍までの発現レベルが適すると考えられ、好ましくは1つまたはそれ以上の実施例で用いられる正常レベルの約5倍である3〜10倍である。
【0023】
本発明は、一般に、マウス、ヒト、ブタ、ヒツジ、ウシおよびヤギを含む哺乳動物の細胞に適用されると考えられ、あらゆる場合において、多能性細胞および分化細胞が同種のものであることが好ましい。多能性細胞および分化細胞が、両方ともマウス細胞または両方ともヒト細胞であることがさらに好ましい。
【0024】
これまでに、ES細胞の融合後、染色体の不均等な分離が存在することが記載されている(Matveva et al 2005)。しかしながら、本発明によると、再プログラム化の方法は、二倍体細胞を得るために融合細胞を培養することを含む。したがって、有利なことまたは驚くべきことに、本発明の教示に従うと、染色体分離が実際には不均等ではなく、二倍体の染色体相補対を含む細胞を得るために行うことができることが見出されている。これらの細胞の解析は、典型的には、それらが多能性細胞由来の染色体およびさらに分化細胞由来の染色体との混合物、すなわち染色体の混合物を有することを示す。
【0025】
したがって、本発明の特に好ましい具体例では、多能性細胞と分化細胞の融合が四倍体細胞を生じ、本方法は、四倍体細胞の子孫を得て、次いで、例えば自然な染色体の喪失により二倍体であるか、二倍体になった、かかる子孫を同定することを含む。実際に、得られた細胞の有意な割合が二倍体である。いずれの理論にも縛られたくはないが、これらの細胞の大部分が二倍体状態に自然に戻る場合、および細胞の培養中、好ましくはNanogの存在下で継続される細胞の培養中である場合の両者では、実際に二倍体細胞にとって生存に有利な点が存在しているように思われる。それゆえ、二倍体細胞集団が2つの出発原料細胞の各々に由来する染色体とともに得られうる。
【0026】
それゆえ、本発明は、記載されるごとき再プログラム化の工程を行い、その後、融合細胞の子孫として得られた二倍体の多能性細胞を培養し、次いで二倍体の多能性細胞から分化細胞を誘導することにより、分化細胞から体細胞または幹細胞あるいは他の細胞を誘導する機会を提供する。
【0027】
本発明は、
染色体を含む第1の細胞を提供し、
染色体を含む第2の細胞を提供し、
第1の細胞および第2の細胞を融合させて融合細胞が形成され、次いで
第1の細胞由来の少なくとも1つの染色体および第2の細胞由来の少なくとも1つの染色体を含む二倍体細胞を得るために融合細胞を培養すること
を含む、遺伝学的に細胞を改変する方法をさらに提供する。
【0028】
任意選択的に、Nanogは、第1の細胞、第2の細胞および/または融合細胞において過剰発現される。例えば、第1の細胞、第2の細胞および融合細胞のうちの少なくとも1つがMEK阻害剤で処理されうる。第1の細胞および第2の細胞は、好ましくは両方とも二倍体であり、両方ともマウス細胞または両方ともヒト細胞でありうる。
【0029】
このようにして得られた細胞が第1の細胞および第2の細胞の各々に由来する染色体を含むことから、本方法は、2つの異なる供給源由来の遺伝的材料を組み合わせて用いることができる。生じた二倍体細胞の得た後、これを試験することにより、染色体のどの特定の組み合わせが二倍体細胞となったかが同定され、必要に応じ、選択が行われて染色体の特に望ましい組み合わせを有する細胞が同定されうる。
【0030】
本方法の実施では、第1の細胞および第2の細胞の一方が多能性であることが好ましい。第1の細胞および第2の細胞の他方は、必要に応じて多能性であり、体細胞、必要に応じて幹細胞でありうる。下記の実施例では、他方の細胞は神経幹細胞である。
【0031】
染色体の特定の組み合わせを有する細胞の選択は、本発明によって達成されうる。したがって、本発明の具体例は、遺伝子の望ましいコピーおよび改変されるべき同じ遺伝子の望ましくないコピーを有する第1の細胞を同定すること、望ましくない遺伝子の改変形態を有する第2の細胞を同定すること、第1の細胞と第2の細胞を融合させること、融合細胞を培養すること、次いで、遺伝子の望ましいコピーと望ましくない遺伝子の改変形態の両方を含む融合細胞の子孫を同定することを含む。この方法では、第1および第2の細胞に由来する遺伝子の組み合わせは、遺伝的欠損を含まず、望ましくない遺伝子を含まない細胞を生じる。染色体/遺伝子の望ましい組み合わせを含むかまたは含まない細胞の同定および分離を可能にする技術は容易に利用可能であり、それにより欠損を含まない改変された細胞の単離細胞または純粋な集団が得られる。
【0032】
本発明は、第1の細胞における遺伝的欠損を修復するために有効に利用され、ここで、望ましくない遺伝子が欠損を有する遺伝子を構成し、第2の細胞における遺伝子の改変形態が修復される。
【0033】
本発明の別の具体例は、正常な内在性遺伝子の発現を変化させるように改変された第1の細胞と内在性遺伝子の正常なコピーを含む第2の細胞との融合、融合細胞を培養すること、次いで、遺伝子の正常なコピーと遺伝子の改変形態の両方を含む融合細胞の子孫を同定することを含む。本発明は、遺伝子発現において代償の変化を起こさせることによって病気を治療するために有効に利用される。
【0034】
修復または改変された遺伝子が第2の細胞で作り出されることも任意であり、このことは、第1の細胞との融合用の遺伝子の適切な組み合わせを有する利用可能な第2の細胞が存在しない場合に適切でありうる。それゆえ、適切な第2の細胞が作られる場合の本発明の方法は、第2の細胞に望ましくない遺伝子の改変形態を導入するために、第1の細胞との融合前に、第2の細胞を遺伝学的に改変することを含みうる。本発明の他の態様に関して記載されるように、初めにまたは潜在的に異数体、一般には四倍体の生じた細胞は、染色体の分離を経ることにより許容される比率で二倍体細胞となり、例えば、進行中の培養、子孫の誘導および細胞治療に有用な細胞を生じ得ることが見出されている。
【0035】
さらなる態様では、本発明は、MEK阻害剤の存在下で第1の細胞と第2の細胞を融合させることを含む、細胞融合の方法を提供する。
【0036】
第1の細胞は、好ましくは多能性であり、ES、ECまたはEG細胞であってもよい。第2の細胞はまた、多能性でありうるが、好ましくは体細胞であり、より好ましくは幹細胞である。Nanogは、本明細書中の他の箇所で記載されるように、第1の細胞および/または第2の細胞でNanogを発現されることにより提供されうる。第1の細胞、第2の細胞および/または融合細胞は、さらに本明細書中の他の箇所で記載されるのように、MEK阻害剤の存在下で培養されうる。
【0037】
二倍体細胞を得る方法を用いることが望ましく、前記方法の実施の際、両方の細胞由来の染色体の最初の組み合わせを有する初めの細胞が高頻度で二倍体状態に戻ることが見出されている。本発明の方法は、第1および第2の細胞を融合させて異数体細胞を生じさせ、次いで融合細胞を培養してその二倍体の子孫を得ることを含む。
【0038】
細胞もまた、本発明によって提供され、細胞は本発明のいずれの態様における方法に従っても得られる。本発明は、細胞を用いる細胞治療の方法、ならびに、治療、好ましくは細胞治療における使用のための医薬品の製造における本発明による細胞の使用をさらに提供する。本発明の治療方法は、患者に本発明の細胞の有効な量を投与することを含む。
【0039】
治療のさらなる方法は、患者に本発明の遺伝学的に改変された細胞の有効な量を投与することを含む。
【0040】
治療は、適切には、
遺伝学的に改変された細胞を必要とする患者を同定し、
前記患者の治療に必要である遺伝学的な改変を同定し、次いで
本発明のいずれの具体例の方法に従って遺伝学的に改変された細胞を調製すること
を含みうる。
【0041】
さらに、本発明は、多能性細胞および体細胞の融合により得られた細胞の再プログラム化におけるNanogの使用を提供する。多能性細胞は典型的にはES細胞であり、体細胞は、典型的には幹細胞であり、特定の具体例では神経幹細胞である。
【0042】
本発明はまた、多能性細胞および体細胞の融合により得られた細胞の再プログラム化におけるMEK阻害剤の使用を提供する。多能性細胞は、典型的にはES細胞であり、体細胞は、典型的には幹細胞であり、特定の具体例では神経幹細胞である。
【0043】
本発明はまた、多能性細胞を得るための体細胞核移植の改善された方法におけるNanogの使用を提供する。それゆえ、本発明の核移植の方法は、体細胞核をレシピエント細胞に移植して核移植細胞を形成させ、次いで核移植細胞でNanogを過剰発現させることを含む。それにより、ドナーの体細胞核の再プログラム化が改善された効率で成し遂げられる。
【0044】
一の具体例では、本発明はまた、多能性細胞を得るための体細胞核移植の改善された方法におけるMEK阻害剤の使用についても提供する。それゆえ、本発明の核移植の方法は、体細胞核をレシピエント細胞に移植して核移植細胞が形成され、次いで核移植細胞をMEK阻害剤で処理することを含む。ドナーの体細胞核の再プログラム化が改善された効率で成し遂げられる。
【0045】
レシピエント細胞は、一般に卵母細胞であり、好ましくは除核され、さらに好ましくはドナーと同種である。
【0046】
本発明の好ましい具体例では、MEK阻害剤はMEK1阻害剤である。既に当該技術分野で既知の適切なMEK阻害剤の例として、MEK1阻害剤PD184352およびDavies et al(2000)で開示されたものが挙げられる。
【0047】
本発明のこれらと他の態様における最終段階の子孫は、クローン化された非ヒト動物(ヒトクローニングの形態であり、本発明の一部でない)および多能性細胞培養物を含みうる。それ故、本発明のさらなる具体例では、本発明の細胞融合または核移植の方法を含む、生きた非ヒト動物を得る方法、ならびに本発明の細胞融合または核移植の方法を含む、多能性幹細胞の培養物を得る方法が提供される。
【0048】
ドナー体細胞は、より好ましくは幹細胞であり、特に神経幹細胞である。Nanogは、本明細書中に記載されるように、ドナー体細胞で発現させることにより提供される。MEK阻害剤は、本明細書中の他の箇所で記載されるようにも用いられうる。MEK阻害剤は、本明細書中に記載されるようにNanogの発現を上方調節する。Nanogは、ES細胞におけるNanogの発現の正常な内在性レベルを超えたレベル、例えば、ES細胞におけるNanogの内在性発現のレベルの2〜15倍のレベルで発現されることによりドナー体細胞で過剰発現されることが好ましい。
【0049】
本発明の具体例は、核移植のための遺伝子欠損を有するドナー体細胞を用い、次いで病気の治療における使用のための当該技術分野で既知の方法により、得られた多能性細胞における遺伝子欠損を修復することである。この具体例は、一般に、マウス、ヒト、ブタ、ヒツジ、ウシおよびヤギを含む哺乳動物の細胞に適用されると考えられ、あらゆる場合にレシピエント卵母細胞およびドナー体細胞が同種であることが好ましい。
【0050】
本発明の好ましい具体例では、細胞はMEK阻害剤で前処理される。
【0051】
本明細書中でのNanogに対する参照については、WO03/064463で記載されるポリペプチド(記載される好ましいポリペプチドを含む)のファミリーを指し、それゆえ、例えば200〜400個のアミノ酸を有する多能性決定因子であるポリペプチドを示す。詳細には、マウス多能性決定因子は上記文献中の配列番号2により表され、ヒト多能性決定因子は上記文献中の配列番号4により表され、ラット多能性決定因子は上記文献中の配列番号6により表され、ならびにマカク多能性決定因子は上記文献中の配列番号8により表され、WO03/064463の内容は十分に参照され、参照により本明細書中に援用される。
【0052】
Nanogはまた、多能性状態に細胞を維持する因子を指し、細胞内で作用し、ホメオドメイン、特に、上記文献中の配列番号2、4、6または8に由来するホメオドメインと少なくとも50%の配列同一性を有するホメオドメイン、あるいは、所定の種の細胞における因子に関し、同一種の多能性決定因子のホメオドメインと少なくとも50%の配列同一性を有するものを含む。一般に、ホメオドメインは約60個のアミノ酸の長さであり、この因子は、任意の20個のアミノ酸断片が配列番号2、4、6または8のホメオドメインと少なくとも35%の配列同一性を有するホメオドメインを含む。
【0053】
Nanogは、(a)配列番号2、4、6または8で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド分子;(b)(a)の自然発生型変異型;(c)(a)または(b)のオーソログ、ならびに(d)それらの生物学的に活性であり、診断的または治療的に有用である断片、類似体および誘導体を含む単離ポリペプチドをさらに指す。
【0054】
Nanogは、配列番号2、4、6および8のポリペプチド(特に成熟ポリペプチド)、ならびに、配列番号2、4、6または8のポリペプチドに対して少なくとも50%の類似性(好ましくは少なくとも50%の同一性)を有するポリペプチド、より好ましくは配列番号2、4、6または8のポリペプチドに対して少なくとも90%の類似性(より好ましくは少なくとも90%の同一性)、およびさらにより好ましくは配列番号2、4、6または8のポリペプチドに対して少なくとも95%の類似性(さらにより好ましくは少なくとも95%の同一性)をさらに含み、一般に少なくとも30個のアミノ酸およびより好ましくは少なくとも50個のアミノ酸を含有するポリペプチドのかかる部分を有するかかるポリペプチドの一部も含む。2つのポリペプチド間の「類似性」は、第1のポリペプチドのアミノ酸配列およびその保存されたアミノ酸置換基を、第2のポリペプチドの配列と比較することにより調べられる。様々な異なるアプローチが配列の類似性および同一性の計算について知られている。一般に、これらの計算を行うための適する方法は、スミス−ウォーターマン(Smith−Waterman)、BLASTまたはFASTAなどのプログラムを用いてデータベース検索を行い、1つまたは好ましくは2つもしくはさらに3つの類似性の表を用いることである。BlosumおよびPAM(受容点突然変異(Point Accepted Mutation)マトリックスは、データベース検索および配列アラインメントに適するアミノ酸の類似性マトリックスである。スミス−ウォーターマンまたはFASTAが用いられる場合、オープンギャップペナルティが十分に大きいことを保証することが適切であり、初期の実行が全く相同配列を明らかにしない場合、異なるアルゴリズムを試みることが適切でありうる(これはヒューリスティックアルゴリズム、BLASTまたはFASTAの一つから始める場合に特に該当する)。
【0055】
下記により詳細が示される本発明の実施例では、神経幹細胞は、体細胞、すなわち分化したエピゲノムの供給源として用いられる。神経幹(NS)細胞は拡張可能であり、遺伝学的に操作しやすい(Conti et al, 2005)。これらは胎児および成人の脳ならびにES細胞に由来することができる。NS細胞は、再生可能な様式で、放射状グリア細胞の形態および分子的特徴を表す均一な集団を形成する。さらに、移植アッセイでは、これらの細胞はさらなる増殖後であっても形質転換されないことが示された(Conti et al, 2005)。ES細胞におけるNanogの過剰発現は、ES×NS細胞融合後にNS細胞ゲノムの再プログラム化を促進することが示された。さらに、Nanogの発現は、Nanog−/−ES細胞がES−NS細胞のハイブリッドを作成できないことにより示されているように、NS細胞の再プログラム化に必要である。しかしながら、我々の試験では、この特性は、Nanog−/−ES細胞および少し限定されたNS細胞の両方において、Nanogのトランスジェニックな発現の導入により回復された。ES−ESおよびES−NSのFACSにより選別されたハイブリッドにおけるES様コロニーを生成する能力の比較では、ES細胞由来のNanogの過剰発現がNS細胞ゲノムの再プログラム化に必要となる唯一の因子であることが示唆された。本試験では、再プログラム化との関連における結果を分析し、分化したゲノムから多能性ゲノムの構築のためのNanogに基づく系を提供する。
【0056】
下記でより詳細に示されるさらなる実施例では、胚性幹細胞(ES)におけるNanogの過剰発現は、神経幹(NS)細胞との融合後に得られる多能性ハイブリッドの200倍の頻度まで増大する。このことは、細胞生存度またはクローン原性(clonogenicity)に関するNanogの効果によって説明できない。NS細胞におけるNanogの強制発現はそれらをES細胞に変換しないが、再プログラム化にはNanogにさらなる因子が必要であることを示す。しかしながら、Nanogを過剰発現させるES細胞は、ES×ES融合体と同じ効率で、NS細胞と多能性ハイブリッドを形成するが、そこには再プログラム化はなされなかった。このことは、Nanogのレベルが、NS細胞エピゲノムをハイブリッド内で多能性に再プログラム化させる唯一の制限因子であることを意味した。
【0057】
他の点では比較的正常であるが、NanogヌルES細胞は、NS細胞との融合によるいずれの多能性ハイブリッドを生じることができなかった。それらの能力はNanog導入遺伝子の導入により完全に回復された。これらの知見は、Nanogが多能性の維持にとって重要でないが、未使用の初期胚細胞と分化した細胞核の再プログラム化の両者において、多能性エピゲノムの形成を編成するのに極めて重要な役割を果たすことを示した。
【0058】
また、多能性特性を有する細胞を得る効率を高め、細胞におけるNanogの発現を上方調節するためのMEK阻害剤の使用について下記に記載される。細胞がMEK阻害剤で処理される場合、Nanog導入遺伝子を用いる処理と同様の効果を有する細胞融合により再プログラム化が促進されることが示されている。
【0059】
本発明のさらなる具体例では、細胞の再プログラム化におけるMEK阻害剤の使用について提供される。好ましくは、細胞は体細胞である。好ましい具体例では、細胞はインビトロで再プログラム化される。好ましくは、細胞は融合細胞ではない。
【0060】
細胞をMEK阻害剤で処理することを含む体細胞を再プログラム化する方法がさらに提供される。
【0061】
このことに関して、本発明は、体細胞に多能性を戻す再プログラム化を許容し、細胞融合または核移植を伴わない多能性細胞の誘導を可能にする。
【0062】
本明細書中のMEK阻害剤に関する参照については、一般にMEK阻害剤を示す。MEK1阻害剤、例えばP184352についても参照がなされる(Davies et al, 2000)。P184352は、他の既知のMEK阻害剤と比較して高い特異性および効力を有することが見出されている。
【0063】
本発明は、ここでは以下の実施例にて示され、下記の図により添付される特定の具体例において例示される。
【0064】
図1は、Nanogの発現がインビボにおけるXの再活性化に必要であることを示す。
【0065】
図2は、NanogがES細胞におけるES−分化細胞ハイブリッドコロニーを形成するES細胞の能力を高めることを示す。
【0066】
図3は、細胞の生存および分化におけるPEGの効果を示す。
【0067】
図4は、ES−NS細胞ハイブリッドにおけるNSエピゲノムの解析を示す。
【0068】
図5は、融合混合物のFACS解析を示す。
【0069】
図6は、NanogがES様ES−NSハイブリッドコロニーの作成に必要であることを示す。
【0070】
図7(補図1)は、ハイブリッドクローンの染色体の計数値を示す。
【0071】
図8(補図2)は、ES−NSハイブリッドがトランスジェニックNanogの欠失後に多能性を示すことを示す。
【0072】
図9は、多能性ES−NSハイブリッドコロニーの形成におけるPD184352の効果を示す。
【0073】
より詳細には、図1は、Nanogの発現がインビボにおけるXの再活性化に必要であることを示す。(A〜D)Nanogのヘテロ接合型マウス間の交配により得られた、雌(XX)4.5dpcおよび休眠胚におけるEedおよびNanogに対する免疫蛍光。図(A、B)は、解析した胚の完全な共焦点像を示す。矢印はNanog陽性細胞を示す。(C、D)より高い倍率のAおよびBのnanog陽性胚。Nanog陽性細胞由来ではEedの大きな焦点が存在しないことに留意のこと(白色矢じり)。図は、解析した胚の部分的な共焦点像を示す。赤色矢じりは、Eedの大きな焦点(不活性X)を示す細胞核の例を示す。胚の核をDapiで対比染色した。(E、F)4.5(E)および休眠(F)胚のNanog陽性細胞におけるEedの大きな焦点の存在(Xiを伴う)または非存在(Xiを伴わない)のスコアをまとめた表。
【0074】
図2は、NanogがES−分化細胞ハイブリッドコロニーを形成するES細胞の能力を高めることを示す。(A〜F)リーシュマンで染色されたハイブリッドコロニーを含むプレートを示す。ES O4GiP(A)、NS O4GiP(胚)(B)、NS TGFP(D)、NS O4GiP(成体)(E)およびMEF TGFP(F)を有するRHおよびRHN ES細胞に関する融合体のスコア化されたコロニーは、赤色および緑色蛍光を示した(右欄の例を参照)。スコア化されたEF4×NS O4GiPGFPIH(C)コロニーは緑色蛍光のみを示した。全スコア化されたコロニーはESの形態を示し、細胞の培養中にスコア化が行われた。(G)RH、RHN、EF4、EF4cre3、ES O4GiP、NS O4GiP(胚)およびNS TGFP細胞におけるNanog、Oct4およびSox2レベルの解析。α−チューブリンをローディングコントロールとして用いた。ES O4GiP細胞がピューロマイシンの選択下で培養され、それはOct4調節配列により駆動されることから、比較的純粋なES細胞集団を示すことに留意のこと。
【0075】
図3は、細胞の生存および分化におけるPEGの効果を示す。(A)RHおよびRHN細胞のPEG処理24時間後における100mmプレートに接着したES細胞の数を示す棒グラフ。10個の細胞を蒔いた。(B)アルカリホスファターゼ(AP)で染色されたRHおよびRHNコロニーを含む96ウェルプレートを示す。PEGにより処理された細胞および未処理の細胞は、トリプシン化(trypsinized)する前に培養プレート中で4時間静置状態にし、単一の細胞を96ウェルプレートにFACSで選別した。次いで、細胞を12日間培養した。(C)96ウェルプレートのデータをまとめた表。
【0076】
図4は、ES−NS細胞ハイブリッドにおけるNSエピゲノムの解析を示す。(A〜D)XX NS TGFP、XY RH、XY RHN、XXXY RH−NS TGFPおよびXXXY RHN−NS TGFP細胞における、トリメチルH3−K27(meH3−K27)(A)およびユビキチル(Ubiquityl)H2A(ubH2A)(B)に対する免疫蛍光、ならびにXist(C)およびOct4(D)に対するRNA FISH。黄色矢じりは、XX NS TGFP細胞におけるmeH3−K27、ubH2AまたはXist RNA核小体の存在を示す。これらのマーカーを示す細胞の百分率は黄色で示される。白色矢じりは、Oct4またはXist RNAの発生期(nasecent)の転写産物の存在を示す。期待される対立遺伝子の発現を示す細胞の百分率を白色で示す。全ての核をDapiで対比染色した。(E)NS TGFP、NS O4GiP、RH、RHN、RH−NS TGFP(クローン1および2)ならびにRHN−NS TGFP(クローン1および2)におけるBlbp、Olig2およびOct4のRT−PCR解析。Gapdhを遍在的(ubiquitously)に発現される対照として用いた。cl−クローン。
【0077】
図5は融合混合物のFACS分析を示す。(A〜C)RH×NS TGFP、RHN×NS TGFP、RHN×ES O4GiP、RHN×MEF TGFPおよびRHN×T TGFPの赤色および緑色蛍光の両方を検出するFACSプロットを示す。(A)ハイブリッド集団の解析およびFACS選別におけるゲート制御をもたらすモック(mock)融合体;(B)PEG処理24時間後における融合混合物;(C)Bでゲート制御され、FACSにより選別されたハイブリッドの精製度確認;(D)Bで選別されたハイブリッドが蒔かれ、形成されたコロニーは、蒔かれたハイブリッド当たりのコロニーの百分率としてスコア化された。これらのスコアでは、FACSにより選別された細胞の精製度を考慮する。繰り返し実験から得られたスコアを(E)で示す。
【0078】
図6は、NanogがES様ES−NSハイブリッドコロニーの作成に必要であることを示す。(A、B)RC×NS O4GiP、RCA−/−×NS O4GiP、RCA−/−NZ×NS O4GiP、RCA−/−×NS O4GiP NP、RCB−/−×NS O4GiP、RCB−/−NZ×NS O4GiP、RCB−/−×NS O4GiP NP細胞間の融合において、アルカリホスファターゼで染色されたハイブリッドコロニーを含むプレートを示す。スコアを各プレートの下に示す。(D)ES O4GiP、RC、RCA−/−、RCB−/−、RCA−/−NZ、RCB−/−NZ、NS O4GiPおよびNS O4GiP NP細胞におけるNanog、Oct4およびSox2レベルの解析。α−チューブリンをローディングコントロールとして用いた。(E)ES O4GiP、NS O4GiP NPおよびNS O4GiP細胞におけるBlbp、Olig2、GFPおよびOct4のRT−PCR分析。Gapdhを偏在的に発現される対照として用いた。(F)RC、RCB−/−およびRCB−/−NZ細胞の生存におけるPEGの効果。棒グラフは、PEG処理24時間後における100mmのプレートに接着したES細胞の数を示す。2×10個の細胞を蒔いた。
【0079】
図7(補図1)は、ハイブリッドクローンの染色体の計数値を示す。実施例は、RH−NS O4GiP(A)、RHN−NS O4GiP(B)、RH−NS TGFP(C)およびRHN−NS TGFP(C)の分裂中期の拡張を示す。分裂中期染色体を各ハイブリッド細胞株の3クローンにつき8から11個の細胞で計数し、各図の下に示す。cl−クローン。
【0080】
図8(補図2)は、ES−NSハイブリッドがトランスジェニックNanogの欠失後に多能性を示すことを示す。(A)EF4および神経幹(NS)O4GiP RB細胞の模式図。EF4細胞はloxP部位に隣接した構成的に発現するNanog導入遺伝子を含み、それによりcre組換え酵素を用いてNanogの欠失が可能となり、GFPの構成的発現をもたらすことになる。NS O4GiP RBは、Oct4プロモーター配列により促進されるGFP導入遺伝子および構成的に発現するRED蛍光導入遺伝子を含む。灰色の四角はIRES配列を示す。(B)緑色(GFP)および赤色(dsRED)蛍光を示すEF4−NS RB O4GiPハイブリッド。これらのマーカーはドナーNS細胞ゲノムから発現される。(C)NanogのCre欠失後におけるEF4−NS RB O4GiP細胞。GFP発現の増大に留意のこと。(D)図面は、EF4−NS RB O4GiP creハイブリッドの胚様体(EB)の分化を示す。(E)分化(diff.)後3、5、7および8日目(d)のEF4−NS O4GiP RB cre EBにおけるT−brachyury発現のRT−PCR分析。未分化のハイブリッドおよび親/ドナー細胞系についても解析した。Gapdhを偏在的に発現される対照として用いた。(F)蒔かれたEBにおけるα−アクチニン(青色)に対する免疫蛍光。
【0081】
図9は、多能性ES−NSハイブリッドコロニーの形成におけるPD184352の効果の分析を示す。(A〜C)RH×NS TGFP融合体の赤色および緑色蛍光におけるFACS分析。(A)PEG処理24時間後における融合混合物;(B)Aでゲート制御され、FACSにより選別されたハイブリッドの精製度度確認。(C)Aで選別されたハイブリッドが蒔かれ、次いで形成されたコロニーが蒔かれたハイブリッド当たりのコロニーの百分率としてスコア化された。これらのスコアは、FACSにより選別された細胞の精製度を考慮に入れている。(D)データのまとめ。(E)ハイブリッドのコロニー形態の例。
【0082】
実施例1
初期胚におけるNanogの発現は必要であり、進行性のXの再活性化と相関する
X染色体の再活性化は、約4.5dpcの雌胚の胚盤葉上層においてインビボで生じることが知られる(Mak et al, 2004; Okamoto et al, 2004)。インビボにおけるNanogの再プログラム化への推定される関与を調べるため、4.5dpcのNanog−/−雌胚をEedとNanog両方に対する免疫蛍光により試験した。Eedは着床前の胚における不活性なX染色体のマーカーである(Silva et al, 2003; Mak et al, 2004; Okamoto et al, 2004)。Nanog+/−マウス間の交配から得られた25個の胚のうち、6つがNanog染色を欠失し、それらのうちの4つが雌であった。Nanog陰性胚は、胚の全ての核において、アポトーシス性で希少なEedで染色されない細胞を除き、単一の大きいEedの焦点が存在することを示した(図1A)。Nanog陽性胚は、多数のNanog陽性ICM細胞を示した(図1E)。残りの胚とは対照に、これらの細胞の一部は、Xの再活性化に一致するEedの焦点を全く示さなかった(図1C、E)。一般に、Nanog−/−胚はより小さい。これが発生の遅延によるものであるかを調べるため、休眠中の6.5dpc胚を分析した(図1B)。試験した31個の胚のうち、8個がNanog染色を欠失し、それらのうちの3個が雌であった。4.5dpcの胚と同様、これらもまた全細胞でEed焦点の存在を示した。対照的に、雌のNanog陽性胚はNanog陽性のほぼ全ての細胞に対してEedの焦点を示さなかった(図1D〜F)。
【0083】
結論として、このデータがNanog−/−雌胚がサイレントなX染色体を再活性化できないことを示したことから、エピジェネティックな再プログラム化におけるNanogの役割が示唆される。
【0084】
実施例2
Nanogを過剰発現するES細胞は、ES様ES−分化細胞のハイブリッドコロニーを形成する高い能力を有する
Nanogが再プログラム化に関与するか否かを検討するために、ES細胞と他のES、NS、マウス胚性線維芽細胞(MEF)および胸腺細胞(T)との細胞融合を用い、WTおよびNanogにより操作された細胞のES様ES−分化細胞のハイブリッドコロニーを産生する能力を調べた。多能性ハイブリッドは、これまで、3つの異なる細胞融合の方法、すなわち電気融合、ポリエチレングリコール(PEG)介在の細胞融合および共培養による自然な細胞融合を用いて生成されている(Matveeva et al, 1998; Terada et al, 2002; Ying et al, 2002)。ここでは、PEGにより誘導される融合を用いて細胞ハイブリッドを形成させた。初めに、赤色蛍光およびハイグロマイシン耐性遺伝子を構成的に発現するRH ES細胞、ならびにNanogを過剰発現するRH ES細胞誘導体、RHNを用いた。これらを、GFPおよびピューロマイシン耐性(O4GiP)(Ying et al, 2002)を駆動するマウスOct4遺伝子(Yeom et al, 1996)の調節配列を有する導入遺伝子を運ぶESおよびNS細胞の両方と融合させた。この導入遺伝子は多能性細胞で排他的に発現され、それによりNS細胞ゲノムがES−NS細胞融合後に再プログラム化する場合に限り再活性化される。NS細胞を14.5dpcの胎児前脳から得た。異なる融合ペア間で比較できる結果を生じさせるため、融合手順は同じパラメータを用いて同時に行うこととした。ES細胞と他のESまたはNS細胞との融合の結果として、薬剤耐性の赤色および緑色の蛍光コロニーが培養プレート上に見られた。これらは、核の拡大以外にはほとんどESの形態を示した。Nanogの過剰発現とは無関係に、ES細胞間の融合では、多数のハイブリッドコロニーを含むプレートを生じた(図2A)。対照的に、ES×NSの細胞融合は異なる結果を示した。RHN×NS O4GiP融合体は、RH×NSのO4GiP融合体と比べて約200倍異なる、有意により多数のコロニーを示した(図2B)。
【0085】
Nanogを過剰発現するES細胞におけるES−NS細胞のハイブリッドコロニーを形成する能力の向上を確認するために、loxPに隣接された(floxed)Nanog ES細胞(EF4)およびcre欠失の誘導物であるEF4 cre3を用いて実験を行った(Chambers et al, 2003)。これらを、構成性のハイグロマイシン薬剤耐性を与える第2の導入遺伝子CAG−egfp−Ires−Hygro(GFPIH)を運ぶNS O4GiP誘導細胞と融合させた。EF4細胞系統は、以前に、LiFの非存在下で自己再生することが示されたものであり、EF4 cre3細胞系統は胚盤胞注入後にキメラを生成することができる(Chambers et al, 2003)。上記の結果と一致し、EF4×NS細胞融合が多数の薬剤耐性コロニーを生成する一方、EF4 cre3×NS細胞融合は薬剤耐性コロニーを生成しなかった(図2C)。
【0086】
この現象をさらに特徴付けるため、融合タンパク質TAUGFPおよびピューロマイシン耐性遺伝子を構成的に発現する樹立されたNS細胞系統TGFPを用いた(Pratt et al, 2000)。これらの細胞をRHおよびRHN ES細胞の両方に融合させた。さらに再度、RHN×NS TGFP融合が多数のハイブリッドコロニーを生じる一方、RH×NS TGFP融合が1つのハイブリッドのみを生成するという対照的な結果を得た(図2D)。この現象は、ES×NS(ESおよび誘導された成体)融合、および程度がより少ないがES×TおよびES×MEF融合においても観察された(図2E、F)。
【0087】
この相関をより詳細に試験するため、細胞系統間におけるNanog、Oct4およびSox2のレベルを比較した(図2G)。高レベルのNanogがRHNおよびEF4 ES細胞の両方で検出される一方、残りのES細胞系統において類似のより低いレベルのNanogを見出した。EF4およびEF4 cre3細胞系統では、Nanogレベルの差異が5倍であると判定されている(Yates and Chambers, 2005)。多能性マーカーOct4およびSox2のレベルは、用いられた全ES細胞系統中で相違しなかった。予想通り、NS細胞はSox2の発現を示した。
【0088】
同時に、これらの結果は、ES細胞におけるNanogの過剰発現がES−ESハイブリッドコロニーではなくES−NSを形成する能力を有意に高めることを示し、これは再プログラム化におけるNanogの役割を示唆する。
【0089】
実施例3
PEGは、RHnanog ES細胞と比較してRHにおける細胞死または分化の促進を誘導しない
RH対RHN ES細胞におけるPEG処理に対する異なる効果の可能性を評価するため、細胞の生存および分化についての解析を進めた。細胞の生存を、PEG処理24時間後に、100mmプレートに接着したES細胞の数としてスコア化した。翌日、蒔かれた10個のPEG処理済みRHおよびRHN ES細胞から各々、6.6×10個および5.3×10個の細胞をカウントした(図3A)。PEG処理済みのES細胞における分化誘導能の可能性およびES細胞コロニーを増殖させ、形成する能力の変化を検証するため、PEGで処理されたRHとRHN ES細胞および未処理のRHおよびRHN ES細胞の単一細胞のFACS選別を行った。FACS選別から約12日後に、未分化ES細胞状態の同定のため、ウェルをアルカリホスファターゼで染色した。蒔かれた未処理のRHおよびRHN ES細胞の大部分が未分化のコロニーを形成する一方(図3B、C)、PEGで処理された細胞はコロニー総数の減少を示した。RHコロニーはほぼ50%まで減少したが、RHNコロニー形成への影響は非常に少なかった。分化の促進は観察されず、RHコロニーの39個のうちの4個のみおよびRHNコロニーの73個のうちの1個のみがAP陰性であった。
【0090】
このデータ全体から、PEGは、RHおよびRHN ES細胞の両方で細胞死をある程度誘導するが、細胞の分化は誘導しないことが示唆される。RHN細胞は、FACSおよびPEG処理後にさらに2倍のクローン形成能を有するが、このことはハイブリッドで測定された200倍の増加を説明するには十分ではないことが示された。
【0091】
実施例4
ハイブリッド細胞は染色体を分離し、有意な頻度で染色体を二倍体に戻す
ES−NS細胞ハイブリッドを特徴付けるために、染色体含有量およびNS細胞エピゲノムの同一性に着目した。前者を解析するため、RH×NS Oct4GiP、RHnanog×NS Oct4GiP、RH×NS TGFPおよびRHnanog×NS TGFPの間の融合から生じた12個の独立したES−NS細胞ハイブリッドクローンに着目した。5回継代した後、クローンはスコア化された分裂中期の大部分で80個の染色体を示した(補図1)。
【0092】
NS細胞ゲノムに対して排他的に選択された6個のES−NSクローンの解析では、継代数とともに増加する二倍体集団の存在が示された。これはおそらく、四倍体細胞に対する二倍体細胞の増殖の利点によるものである。これらのクローンのうちの2つを継代12回目で解析し、各々30%および50%の二倍体(40個の染色体)含有量を示した。さらに、細胞集団は2つの別々の集団、すなわち、約40個の染色体を有する集団とそれとは別に80個の染色体を有する集団からなり、それらは染色体の分離が単一の事象で生じたことを示唆する。これらの新たに再プログラム化された二倍体ハイブリッドにおけるNS細胞ゲノムの割合を評価するには、さらなる解析が必要とされる。しかしながら、データは、二倍体の未分化ES細胞が、細胞融合により分化細胞から取得できることを意味する。
【0093】
実施例5
NSゲノムはES−NS細胞ハイブリッドにおけるES細胞の同一性を獲得する
ES−NS細胞ハイブリッドにおけるNS細胞エピゲノムの同一性を評価するため、不活性X染色体の状態、ならびにOct4および神経幹細胞遺伝子BlbpとOlig2の対立遺伝子の発現を観察した。XX多能性細胞とは対照的に、XX分化細胞は1つの不活性X染色体を有する。様々な細胞学的なマーカーの中で、不活性X染色体はXist RNAに関連して見出され、トリメチルH3−K27およびユビキチルH2Aを豊富に含む(Brown et al, 1992; Napoles et al, 2004; Silva et al, 2003)。共焦点解析は、NS細胞の分化状態とともに、XistRNA、トリメチルH3−K27およびモノ−ユビキチルH2Aのうちの1つの単一の核小体を明らかにした(図4A〜C)。さらに、不活性Xは、H3−K9に対して低アセチル化され、H3−K4に対して低メチル化され、ヒストン変異体macroH2Aが豊富に含まれることが見出された(データは示さず)。したがって、再プログラム化がXXXY ES−NS細胞ハイブリッドで生じる場合、不活性Xはサイレンシングマーカーを喪失する。このことは、Xist RNAの核小体が喪失し、代わりに、ES細胞の特徴を有し、Xistの初期転写産物に対応する、3つの明確なXistシグナルが検出されたこととともに観察された(図4C)。さらに、ES−NS細胞ハイブリッドのクロマチン状態の免疫蛍光分析は、トリメチルH3−K27およびモノ−ユビキチン化H2A核小体の喪失を示した(図4A、B)。XXXY ES−NSハイブリッドにおけるOct4発現に対するRNA FISH解析は、1つの細胞核当たり3もしくは4つの明確なシグナルの存在を明らかにし、NS細胞由来のOct4対立遺伝子の再活性化を示した(図4D)。XXXY ES−NSハイブリッドのさらなる特徴付けは、NS細胞で発現され、ES細胞でサイレンシングされる遺伝子、Olig2およびBlbpの発現解析を包含した(Conti et al, 2005)。RT−PCR解析によると、上記の結果に一致し、ES−NSハイブリッド細胞でBlbpおよびOlig2の両方のスイッチがオフにされることが示された(図4E)。
【0094】
多能性能を調べるために、Nanogを過剰発現するESおよびNS細胞間の融合によるハイブリッドが胚様体の形成によって分化可能となり、中胚葉マーカーT−brachyuryの発現について分析した(補図2)。Nanogの過剰発現が分化を阻害することを考慮に入れて(Chambers et al, 2003)、EF4−NS O4GiP RBハイブリッドを用いた。上記のように、EF4細胞がcre組換え酵素の作用によりその欠失を可能にするloxPに隣接されたNanogの導入遺伝子を有する一方、NS O4GiP RBは赤色蛍光タンパク質およびブラスチシジン耐性遺伝子を構成的に発現する(補図2A)。それゆえ、EF4−NS O4GiP RBハイブリッドはNS由来の赤色および緑色蛍光を示した(補図2B)。cre組換え酵素による処理後、ハイブリッドが緑色蛍光の増大を示すと同時に、Nanogの過剰発現の喪失が観察された(補図2C)。次いで、これらのEF4−NS O4GiP RB creハイブリッドは、Lifの除去および胚体(EB)の形成により分化が可能となり、T−brachyuryの発現について解析された(補図2D、E)。予想通り、T−brachyuryはドナー細胞または未分化ハイブリッドで検出されなかった。しかし、多能性能を有することから、分化したハイブリッドで発現された。EBの場合にも1ウェル当たり1〜3個蒔き、接着する細胞の存在について解析した。ウェルの約70%(24/35)は拍動する(beating)細胞を示し、それらを骨格および心筋細胞の特異的なマーカーであるα−アクチニンに対して陽性に染色された(補図2F)。
【0095】
まとめると、データは、全ての解析されたマーカーにおいてNSゲノムがES−NS細胞ハイブリッドでES細胞の同一性を獲得することを示す。さらに、ハイブリッドは多能性能を維持した。
【0096】
実施例6
ES細胞におけるNanogの過剰発現は、細胞融合後のNS細胞の再プログラム化に必要とされる唯一の因子である
Nanogを過剰発現するES細胞は、WT ES細胞よりより高い融合性を有しうる可能性がある。この点を対処するため、融合24時間後のRH×NS TGFPおよびRHN×NS TGFPの細胞集団を、一次ハイブリッドである赤色および緑色蛍光両方を示す細胞の存在について、FACSにより解析した。予想通り、二重の陽性細胞の数は比較的少なかった。RH×NS TGFPおよびRHN×NS TGFPでは、二重の陽性細胞が各々、0.17%および0.1%であることが示された(図5B)。加えて、FACSにより選別された一次ハイブリッドのコロニーを形成する能力を試験した。融合24時間後、ハイブリッドを赤色および緑色蛍光の両方について選別した。この段階において、再プログラム化が進行中でありうるが、Oct4調節配列により駆動されるGFP発現が細胞融合約48時間後に最初に検出されることが以前に示されたことから、完全ではない(Tada et al, 2001; Do and Scholer, 2004)。そして、この段階での一次ハイブリッドは、細胞周期の調整などの検討事項に加え、エピゲノムの差異を克服してES様コロニーを生成しなければならない。FACS選別の3日後、蒔かれた一次ハイブリッドをハイグロマイシンおよびピューロマイシンの両方で選別した。2つの独立した実験から得られた結果は、RH×NS TGFP融合体から選別された一次ハイブリッドがハイブリッドコロニーを生成しないことを示した(図5D、E)。対照的に、FACSで選別された2000個および700個の細胞のうちの各々34個および11個のハイブリッドコロニーをRHN×NS TGFP融合から得た(図5D、E)。
【0097】
これらの結果は、再プログラム化におけるNanog過剰発現に関する課題を提起した。これに取り組むため、形成されたRHN−NS TGFPコロニーの数をRHN−ES O4GiPの数と比較し、後者は、蒔かれたハイブリッド当たりのコロニー形成に対する所定の単位であるとした。FACSで選別された真の二重陽性細胞の総数当たりのハイブリッドコロニーの割合を考慮すると、RHN−NS TGFPおよびRHN−ES O4GiPの一次ハイブリッドは、ES様コロニーを生成する同一の能力を有するようである(図5D、E)。
【0098】
要するに、ES−NSハイブリッドのFACS選別および分析は、Nanogの過剰発現が細胞融合を増進させないことを示すが、ES様ES−NSハイブリッドコロニーの作成を促進させることを確認した。そのことはまた、NanogがES−NSハイブリッドコロニーの作成におけるエピジェネティックな差異の克服に必要とされる唯一の制限因子でありうることを示す。
【0099】
実施例7
再プログラム化におけるドナー細胞としての神経細胞
体細胞核移植(SCNT)では、用いられたドナー細胞のタイプがES細胞の胚盤胞からの誘導効率に影響することが示された(Hoechedlinger and Jaenisch 2002; Blelloch et al, 2004; Eggan et al, 2004; Inoue et al, 2005)。これらの研究において、ES細胞が最良の結果をもたらすことが示されており、ドナー細胞の分化状態が重要な因子であることが示唆される。NS細胞は多能性の体性幹細胞であり(Conti et al, 2005)、それゆえに多少可塑性のエピゲノムを含む。本発明者らの実験では、RHN−NSの一次ハイブリッドは、RHN−ESの一次ハイブリッドと同じ効率でES様ハイブリッドコロニーを生成することが示された。これがNSエピゲノムの特性によるものか、またはNanogの過剰発現のみによるものかという点に対処するため、ES様コロニーを生成するMEFおよび胸腺細胞(T)の一次ハイブリッドの能力を解析した。MEFおよびT細胞をRHおよびRHN ES細胞に融合させた。一次ハイブリッドは、RH−NS、RH−MEFおよびRH−Tの場合と同様、ES様コロニーを生成できなかった(データは示さず)。RHN−MEFおよびRHN−Tの一次ハイブリッドは、ES様コロニーを生成できたが、RHN−ESおよびRHN−NSの一次ハイブリッドの場合よりも極めて低い効率(各々、0.08%および0.33%)であった(図5A〜E)。
【0100】
これらのデータは、NS細胞エピゲノムがNanogを過剰発現するES細胞への融合によってその分化した対応物よりも再プログラム化に対してより感受性が高いであろうことを示す。
【0101】
実施例8(比較)
NS細胞におけるNanogの発現は再プログラム化には十分でない
Nanogの発現がNSゲノムをES細胞のゲノムに再プログラム化するのに十分であるか否かを検討するため、NS細胞にNanogをトランスフェクトした(NS O4GiP NP)。これらの細胞はNanogを安定的に発現し、タンパク質レベルはES細胞で見出されるレベルと同様である(図6D)。さらに、細胞は正常に増殖し、NS細胞マーカーBlbpおよびOlig2の発現を示した(図6E)。しかしながら、内在性のOct4またはOct4調節配列から駆動されるGFPの発現は存在しなかった。標準的なGMEMまたはN2B27 ES培地中に蒔かれる場合、先行文献にあるようにアストロサイト型細胞に分化した(Conti et al, 2005)。2つの強力なエピジェネティックな脱安定剤(destabilizer)であるトリコスタチンAおよび5−アザシチジンを用いる追加の実験においても、Nanogを発現するNS細胞を再プログラム化することができなかった(データは示さず)。
【0102】
これらの結果は、まとめると、ES細胞内容物の外側では、Nanog発現は再プログラム化を誘導するのに十分でないことを示唆している。
【0103】
実施例9
NanogはES様ES−NS細胞のハイブリッドコロニーの作成に必要である
Nanogヌルの単離ICMおよびES細胞の両培養物は、未分化状態を維持できなかった(Mitsui et al, 2003)。これらの結果は、多能性状態の維持におけるNanogの役割を示すものとして解釈された。しかし、条件付き欠失方法を用いることにより、多能性マーカーを発現するNanog−/−−ES様細胞(RC−/−)を誘導し、それは連続的に継代され、多能性能を維持することができる。この方法は、loxPに挟まれたNanog導入遺伝子のES細胞への導入と、その後、両Nanog内在性遺伝子を標的とした欠失および最終的なトランスジェニックなNanogのcre除去を含む。RC−/−細胞が真のES細胞であるというさらなる証拠は、標的化(targetting)ベクターにより導入される、G418およびハイグロマイシン耐性遺伝子を駆動する内在性Nanogプロモーターの活性によって選択が行われうるという事実から得られる。このことが純粋なES様集団の選択を可能にし、そこではOct4とSox2両方のレベルが他のNanog発現ES細胞集団と同様であった(図6D)。Nanogが再プログラム化に必要であるか否かを検討するため、RC−/−またはその親細胞系統RCのいずれか一方とNSO4GiP細胞とを同時に融合を行った。また、RC−/−を、トランスジェニックNanogを発現するNS O4GiP、NS O4GiP NPと融合させた。最終的に、Nanogを発現する導入遺伝子(RC−/−NZ)で回復されたRC−/−細胞をNS O4GiPと融合させた。これらの実験は、2つの別々に標的化されたクローン、RC−/−AおよびBを用いて行われた。ハイブリッドコロニー数の有意な値を得るために、2×10個:2×10個の融合混合物を蒔いた。予想通り、親細胞系統RCとNSO4GiPとの融合はハイブリッドコロニーを生じた(図6A、B)。対照的に、RC−/−細胞はこの能力を完全に喪失していた。Nanogで回復されたRC−/−細胞であるRC−/−NZは、ハイブリッドコロニーの生成能力を獲得するだけでなく、RC細胞に関してそれをさらに高めていた。この結果は、RC−/−NZ細胞におけるより高いレベルのNanogの存在と相関する(図6D)。興味深いことに、RC−/−細胞はまた、Nanogを発現するNSO4GiP NPに融合される場合、ハイブリッドコロニーを形成することもできた。
【0104】
これらの結果は、まとめると、Nanogの発現の存在がES×NS細胞融合後のNSゲノムの再プログラム化に必須であることを示唆している。
【0105】
実施例10
Nanogの発現はMEK阻害剤により高められる
MEKの阻害剤PD184352がES細胞におけるNanogのレベルを高めることが示された。
【0106】
再プログラム化におけるPD184352の効果についても、細胞融合との関連において、NS細胞の多能性への転換を調べることにより検討した。
【0107】
dsRed蛍光タンパク質およびハイグロマイシン耐性を構成的に発現するRH ES細胞を、IRESを介してピューロマイシン耐性に連結させた融合タンパク質TauGFPを発現する胎児由来の神経幹細胞(NS TGFP)に融合させた。この融合体のうちの1つにおいて、RH細胞を3μM PD184352との融合の前後3日間に処理した。対照において、PD184352を添加しなかった。処理および未処理の一次ハイブリッドを融合24時間後に選別し、次いで蒔いた(図9A〜C)。3日後、ハイグロマイシンおよびピューロマイシンをES培地に添加して選別した。dsRed2およびGFP蛍光を発現し、かつES細胞の形態を示すコロニーをスコア化した(図9DおよびE)。結果は、PD184352がES−NSハイブリッドのコロニー形成を45倍まで高めることを示した。興味深いことに、PD184352で処理されたRH細胞では、蒔かれたハイブリッド当たりに形成されたハイブリッドコロニーの百分率は、Nanogを過剰発現するES細胞と比べて単に2倍低かった(2.25%対4%)。この結果は、PD184352が細胞融合の過程における再プログラム化を促進することを示す。この効果は、処理されたRH細胞におけるNanogレベルの増加により介在される可能性が高い。したがって、Nanogが内在的に発現される場合、MEK阻害剤を用いることにより、Nanogを上方調節し、再プログラム化の促進などの関連した効果を得ることが可能である。
【0108】
引用文献
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【0109】
したがって、本発明は、細胞の融合および組み合わせを介する細胞の再プログラム化、遺伝的改変の方法、子孫ならびにそれらの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】Nanogの発現がインビボにおけるXの再活性化に必要であることを示す。
【図2】NanogがES細胞におけるES−分化細胞ハイブリッドコロニーを形成するES細胞の能力を高めることを示す。
【図3】細胞の生存および分化におけるPEGの効果を示す。
【図4】ES−NS細胞ハイブリッドにおけるNSエピゲノムの解析を示す。
【図5】融合混合物のFACS解析を示す。
【図6】NanogがES様ES−NSハイブリッドコロニーの作成に必要であることを示す。
【図7】ハイブリッドクローンの染色体数を示す。
【図8】ES−NSハイブリッドがトランスジェニックNanogの欠失後に多能性を示すことを示す。
【図9】多能性ES−NSハイブリッドコロニーの形成におけるPD184352の効果を示す。
【図1−1】

【図1−2】

【図2−1】

【図2−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分化したゲノムから多能性ゲノムを得る方法であって、
多能性細胞を分化細胞と融合させ、次いで
多能性細胞、分化細胞および/または生じた融合細胞でNanogを過剰発現させることを含む方法。
【請求項2】
多能性細胞および/または分化細胞でNanogを過剰発現させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
融合細胞でNanogを発現させることを含む、請求項1〜2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
分化したゲノムから多能性ゲノムを得る方法であって、
多能性細胞を分化細胞と融合させて融合細胞が形成されることを含み、多能性細胞、分化細胞または融合細胞のうちの少なくとも1つがMEK阻害剤で処理されることを含む方法。
【請求項5】
多能性細胞が胚性幹(ES)細胞、胚性癌腫(EC)細胞または胚の性腺(EG)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
分化細胞が体細胞である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
分化細胞が幹細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
分化細胞が神経幹細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
多能性細胞および分化細胞がマウス細胞である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
多能性細胞および分化細胞がヒト細胞である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
二倍体細胞を得るために融合細胞を培養することを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
多能性細胞と分化細胞の融合が四倍体細胞を生じ、ならびに前記方法が四倍体細胞の子孫を得て、次いで二倍体であるかかる子孫を同定することを含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
融合細胞の子孫として得られた二倍体の多能性細胞を培養し、次いで二倍体の多能性細胞から分化細胞を誘導することをさらに含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
細胞を遺伝学的に改変する方法であって、
染色体を含む第1の細胞を提供し、
染色体を含む第2の細胞を提供し、
前記第1の細胞と前記第2の細胞を融合させて融合細胞が形成され、次いで
前記第1の細胞由来の少なくとも1つの染色体および前記第2の細胞由来の少なくとも1つの染色体を含む二倍体細胞を得るために前記融合細胞を培養することを含む方法。
【請求項15】
第1の細胞、第2の細胞および融合細胞のうちの少なくとも1つがMEK阻害剤で処理される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
第1の細胞および第2の細胞の両方が二倍体である、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
第1の細胞および第2の細胞の両方がマウス細胞である、請求項14、15または16に記載の方法。
【請求項18】
第1の細胞および第2の細胞の両方がヒト細胞である、請求項14、15または16に記載の方法。
【請求項19】
第1の細胞および第2の細胞の一方が多能性であり、第1の細胞および第2の細胞の他方が任意で多能性である、請求項14〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
他方の細胞が体細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
他方の細胞が幹細胞である、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
他方の細胞が神経幹細胞である、請求項19〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
請求項14〜22のいずれか1項に記載の方法であって、
(i)望ましい遺伝子および(ii)改変されるべき望ましくない遺伝子を有する第1の細胞を同定し、
望ましくない遺伝子の改変形態を有する第2の細胞を同定し、
第1の細胞および第2の細胞を融合させ、
融合細胞を培養し、次いで
望ましい遺伝子と望ましくない遺伝子の改変形態の両方を含む融合細胞の子孫を同定することを含む方法。
【請求項24】
第1の細胞の遺伝子欠損を修復するためであって、望ましくない遺伝子が欠損を有する遺伝子であり、第2の細胞における前記遺伝子の改変形態が修復される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
第2の細胞に望ましくない遺伝子の改変形態を導入するために、第1の細胞との融合の前に第2の細胞を遺伝学的に改変することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
Nanogの存在下で細胞を培養することを含む、請求項14〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
第1の細胞および/または第2の細胞でNanogを発現させることを含む、請求項14〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
Nanogの存在下で第1の細胞と第2の細胞を融合させることを含む、細胞融合の方法。
【請求項29】
MEK阻害剤の存在下で第1の細胞と第2の細胞を融合させることを含む、細胞融合の方法。
【請求項30】
第1の細胞が多能性である、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
第1の細胞がES、ECまたはEG細胞である、請求項28〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
第2の細胞が体細胞である、請求項28〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
第2の細胞が幹細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
幹細胞が神経幹細胞である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
第1の細胞でNanogを発現させることを含む、請求項28〜34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
第1および第2の細胞の融合が異数性細胞を生じさせる、請求項28〜35のいずれか1項に記載の方法であって、該方法が融合細胞を培養してその二倍体の子孫を得ることを含む方法。
【請求項37】
請求項28〜36のいずれか1項に記載の細胞融合の方法を含む、生きた非ヒト動物を得る方法。
【請求項38】
MEK阻害剤がMEK1阻害剤である、請求項1〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
MEK1阻害剤がPD184352である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記細胞が約0.1μMおよび約25μMのMEK阻害剤で処理される、請求項1〜39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
細胞が約1μMおよび約5μMのMEK阻害剤で処理される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
請求項1〜41のいずれか1項に記載の方法により得られる細胞。
【請求項43】
治療における使用のための医薬品の製造における、請求項42に記載の細胞の使用。
【請求項44】
細胞の治療における請求項43に記載の使用。
【請求項45】
患者に有効な量の請求項42記載の細胞を投与することを含む、治療方法。
【請求項46】
患者に有効な量の請求項14〜27のいずれか1項により得られた遺伝学的に改変された細胞を投与することを含む、治療方法。
【請求項47】
遺伝学的に改変された細胞を必要とする患者を同定し、
前記患者の治療に必要とされる遺伝学的改変を同定し、
請求項14〜27のいずれか1項の方法により遺伝学的に改変された細胞を調製すること
を含む、請求項46記載の治療方法。
【請求項48】
多能性細胞と体細胞の融合によって得られた細胞の再プログラム化におけるNanogの使用。
【請求項49】
多能性細胞がES細胞である、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
体細胞が神経幹細胞である、請求項48または49に記載の使用。
【請求項51】
多能性細胞と体細胞の融合によって得られた細胞の再プログラム化におけるMEK阻害剤の使用。
【請求項52】
多能性細胞がES細胞である、請求項51に記載の使用。
【請求項53】
体細胞が神経幹細胞である、請求項50または51に記載の使用。
【請求項54】
体細胞の核をレシピエント細胞に移植して核移植細胞を形成し、次いで前記核移植細胞においてNanogを過剰発現させることを含む、核移植の方法。
【請求項55】
レシピエント細胞が卵母細胞である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
レシピエント細胞が除核された卵母細胞である、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
ES細胞において、Nanogの内在性発現レベルの2〜15倍のレベルでNanogを発現させることを含む、請求項54〜56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
体細胞の核をレシピエント細胞に移植して核移植細胞を形成させ、次いで前記核移植細胞をMEK阻害剤で処理することを含む、核移植の方法。
【請求項59】
レシピエント細胞が卵母細胞である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
レシピエント細胞が除核された卵母細胞である、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
請求項54〜60のいずれか1項に記載の核移植の方法を含む、生きた非ヒト動物を得る方法。
【請求項62】
請求項54〜60のいずれか1項に記載の核移植の方法を含む、多能性幹細胞の培養物を得る方法。
【請求項63】
Nanogの発現の上方調節におけるMEK阻害剤の使用。
【請求項64】
細胞の再プログラム化におけるMEK阻害剤の使用。
【請求項65】
細胞が体細胞である、請求項64に記載の使用。
【請求項66】
細胞がインビトロで再プログラム化される、請求項64または65に記載の使用。
【請求項67】
細胞が融合細胞でない。請求項64〜66のいずれか1項に記載の使用。
【請求項68】
細胞をMEK阻害剤で処理することを含む、体細胞を再プログラム化する方法。

【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7(A)】
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【図7(B)】
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【図7(C)】
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【図7(D)】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【公表番号】特表2009−515515(P2009−515515A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539502(P2008−539502)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004218
【国際公開番号】WO2007/054720
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(500219618)ザ・ユニバーシティ・コート・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・エディンバラ (21)
【氏名又は名称原語表記】The University Court of the University of Edinburgh
【Fターム(参考)】