説明

細胞または組織内のAGE−2を免疫組織化学的に検出する方法およびそのためのキット

【課題】細胞または組織内のAGE−2を検出して、その存在位置を決定および/または定量するのに適した方法およびキットを提供すること。
【解決手段】本発明は、細胞または組織内のグリセルアルデヒド由来終末糖化産物を免疫組織化学的に検出する方法を提供し、この方法は、グリセルアルデヒド由来終末糖化産物に特異的に結合し得るアプタマーを細胞または組織と接触させる工程;および細胞または組織中のグリセルアルデヒド由来終末糖化産物に結合しているアプタマーを検出する工程
を含む。本発明はまた、細胞または組織内のグリセルアルデヒド由来終末糖化産物を免疫組織化学的に検出するためのキットを提供し、このキットは、グリセルアルデヒド由来終末糖化産物に特異的に結合し得るアプタマーを備える。配列表の配列番号1または配列番号9に記載の塩基配列を含む一本鎖DNAであるアプタマーが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞または組織内のグリセルアルデヒド由来終末糖化産物(AGE−2)を免疫組織化学的に検出する方法およびそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
終末糖化産物(AGEs)は、グルコースなどの還元糖とタンパク質との間の非酵素的糖化反応により生成する構造体の総称である。AGEsは、老化や糖尿病に伴って中枢神経などに蓄積し、あるいは神経・感覚器障害や腎症などの糖尿病による合併症の原因と考えられている。最近では、アルツハイマー病などの神経変性疾患、悪性腫瘍の増殖、転移、浸潤などにも関与することが明らかになっている。
【0003】
AGEsは、グルコースだけではなく、グルコースの自動酸化物および分解産物などの種々のアルデヒドまたはカルボニル化合物から生成される。このうち、グリセルアルデヒドに由来する終末糖化産物(グリセルアルデヒド由来終末糖化産物;AGE−2)は、AGEレセプター(RAGE)との結合能力が高く、このRAGEを介して、糖尿病性網膜症や糖尿病性腎症などの糖尿病血管合併症の発症や進展に強く関与していることが知られている(非特許文献1および非特許文献2)。しかし、その診断法や阻害剤は未だほとんど開発されていない。また、組織内のAGE−2を検出して、その存在位置を決定および/または定量することは上記疾患の診断に有用であるが、現状では困難である。
【0004】
AGEsの測定方法については、これまでに種々検討されている。最も簡単には、AGEsが、黄褐色であり蛍光を発するので、その蛍光を測定する方法がある。しかし、AGEsに対する特異性や感度が低いため、特に生体試料に対しては適切ではない。特定の構造のAGEsについては、HPLC法、GC/MS法、LC/MS法などを用いて定量することができるが、時間がかかり、例えば、診断におけるような、多数の試料の分析には適していない。
【0005】
現在のところ、AGEsのうちで構造が明らかであるカルボキシメチルリジン(CML)を認識する抗体(抗CML抗体)を用いる免疫学的測定方法が主として行われている。しかし、感度が低く、しかも抗体自体が高価である。さらに、CMLが生体内では糖化反応ではなく脂質の過酸化によって生じること、およびCMLが酸化ストレスのマーカーと考えられるようになってきたことから、抗CML抗体を抗AGEs抗体として用いることには問題がある。このように、AGEs全体を認識する抗体は、現在のところ得られていない。
【0006】
近年、一本鎖DNAや一本鎖RNAが種々の立体構造をとり、低分子からタンパク質までの種々の化合物を認識して結合して、抗体のような機能を有し得ることが明らかになっている(非特許文献3および非特許文献4)。このような分子をアプタマーと称する。アプタマーは、ランダム配列の中からSELEXという選別方法によって得られ得る(非特許文献4)。
【0007】
アプタマーは、試験管内で大量に合成できること、抗体よりも結合力が強いものが得られる可能性があること、安定化できることなどの利点を有する。そのため、抗体と同様に、研究、検出、医療などに応用され得る。医療などへの応用が検討されている例としては、HIV−1逆転写酵素に対するRNAアプタマー(非特許文献5)、補体C5に対するRNAアプタマー(非特許文献6)、サイトメガロウイルス(CMV)感染を防止するRNAアプタマー(非特許文献7)、老人性黄斑変性症の治療薬として開発中の血管内皮細胞増殖因子に対するRNAアプタマー(非特許文献8)、糸球体間質増殖性糸球体腎炎モデルラットに静脈内注射すると症状が緩和される血小板由来増殖因子に対するアプタマー(非特許文献9)、ショウジョウバエB52タンパク質の過剰発現による異常を正常に戻すRNAアプタマー(非特許文献10)などが報告されている。
【0008】
本発明者らは、上述のような問題を鑑み、AGE−2を認識して結合するアプタマーの探索を試み、取得している(特許文献1)。
【特許文献1】国際特許出願公開第2006/080262号公報
【非特許文献1】Yamagishi S.ら,Biochem. Biophys. Res. Commun.,2002年,290巻,973-978頁
【非特許文献2】Okamoto T.ら,FASEB J.,2002年,16巻,1928-1930頁
【非特許文献3】Ellington A.D.およびSzostak J.W.,Nature,1990年,346巻,818-822頁
【非特許文献4】Tuerk C.およびGold L.,Science,1990年,249巻,505-510頁
【非特許文献5】Kensch O.ら,J. Biol. Chem.,2000年,275巻,18271-18278頁
【非特許文献6】Biesecker G.ら,Immunopharm.,1999年,42巻,219-230頁
【非特許文献7】Wang J.ら,RNA,2000年,6巻,571-583頁
【非特許文献8】Ruckman J.ら,J. Biol. Chem.,1988年,273巻,20556-20567頁
【非特許文献9】Floege J.ら,Am. J. Path.,1999年,154巻,169-179頁
【非特許文献10】Shi H.ら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1999年,96巻,10033-10038頁
【非特許文献11】Tessierら,Biochem. J., 2003年, 369巻, 705-719頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、細胞または組織内のAGE−2を検出して、その存在位置を決定および/または定量するのに適した方法およびキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、細胞または組織内のグリセルアルデヒド由来終末糖化産物(AGE−2)を免疫組織化学的に検出する方法を提供し、この方法は
グリセルアルデヒド由来終末糖化産物に特異的に結合し得るアプタマーを細胞または組織と接触させる工程;および
細胞または組織中のグリセルアルデヒド由来終末糖化産物に結合しているアプタマーを検出する工程
を含む。
【0011】
本発明はさらに、細胞または組織内のグリセルアルデヒド由来終末糖化産物を免疫組織化学的に検出するためのキットを提供し、このキットは、グリセルアルデヒド由来終末糖化産物に特異的に結合し得るアプタマーを備える。
【0012】
上記アプタマーは、グリセルアルデヒド由来終末糖化産物に結合するがヒト血清アルブミンには結合しないアプタマーであって、該アプタマーが、少なくとも35塩基からなり、そして該塩基中のシトシン含有率が少なくとも35%であるか、または該塩基中のグアニン含有率が少なくとも32%である。
【0013】
1つの実施態様では、上記アプタマーは、一本鎖DNAである。
【0014】
さらなる実施態様では、上記一本鎖DNAは、配列表の配列番号1から24のいずれかに記載の塩基配列を含む。
【0015】
さらなる実施態様では、上記一本鎖DNAは、配列表の配列番号25から41のいずれかに記載の塩基配列を含む。
【0016】
さらなる実施態様では、上記一本鎖DNAは、配列表の配列番号1または9のいずれかに記載の塩基配列を含む。
【0017】
別の実施態様では、上記アプタマーは、標識されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、細胞または組織内のAGE−2を免疫組織化学的に検出できる方法およびキットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(AGE−2アプタマー)
アプタマーとは、上述のように、特定の化合物に特異的に結合し得る一本鎖DNAまたは一本鎖RNAである。本発明においては、この特定の化合物がAGE−2である。本発明で使用されるAGE−2アプタマーは、AGE−2に結合するがヒト血清アルブミンには結合しない。一本鎖DNAまたは一本鎖RNAのいずれであってもよい。
【0020】
本発明で使用されるAGE−2アプタマーは、少なくとも35塩基からなり、好ましくは少なくとも50塩基かつ多くとも120塩基からなる。34塩基以下の場合は、AGE−2と結合しない。
【0021】
AGE−2アプタマーは、該アプタマーを構成する塩基中にシトシンまたはグアニンのいずれか一方を多く含むことが好ましい。シトシンが多い場合は、シトシン含有率は少なくとも35%、少なくとも40%あるいは少なくとも50%であってもよい。グアニンが多い場合は、塩基中のグアニン含有率は、少なくとも32%、少なくとも35%あるいは少なくとも40%であってもよい。このような塩基含有率であることにより、アプタマーはAGE−2に結合しやすくなる。
【0022】
具体的な例としては、配列表の配列番号1から24のいずれかに記載の塩基配列を含む一本鎖DNAが挙げられる。「塩基配列を含む」というときは、当該塩基配列からなる場合および当該塩基配列にさらに塩基が付加、欠失、または置換された場合を含む。但し、このような塩基の付加、欠失、または置換は、アプタマーとしての性質、例えば、AGE−2への結合能を損なわない限りである。これらの一本鎖DNAは、54〜58塩基からなりかつ塩基中のシトシン含有率が少なくとも35%である塩基配列を含む。別の具体的な例としては、配列表の配列番号25から41のいずれかに記載の塩基配列を含む一本鎖DNAが挙げられる。これらの一本鎖DNAは、61〜66塩基からなりかつ塩基中のグアニン含有率が少なくとも32%である塩基配列を含む。
【0023】
AGE−2アプタマーは、アプタマーを得るための一般的な方法であるSELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法によって得られ得る。一本鎖DNAをライブラリー源とするSELEX法の概要を以下に説明する。まず、任意の2つのプライマー配列で挟まれた適当な長さのランダム配列を含むテンプレートDNAを合成する。本発明においては、ランダム配列の長さは、35塩基〜120塩基が適切である。このテンプレートDNAをPCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅して、ランダムDNAアプタマープールを得る。次いで、このランダムDNAアプタマープールを標的物質と会合させ、結合しなかったDNAを除去し、そして結合したDNAアプタマーを抽出する。得られたDNAアプタマーを、上記プライマー配列を用いるPCRによって増幅する。このとき、5〜8mMのMg2+存在下でPCRを行って、複製の正確性を低下させて変異を導入しやすくすることにより、標的物質との会合前のDNAアプタマープールに存在しない新たなDNAアプタマーを含むDNAアプタマープールが得られる。新たなDNAアプタマーは、結合力がより強い可能性があり、すなわち、DNAアプタマーが進化する可能性が生じる。この進化したDNAアプタマープールについて、上記の一連の操作を5〜15ラウンド繰り返すことによって、標的物質に特異的に結合するDNAアプタマーが得られる。最終ラウンドの後、得られたDNAアプタマープールは、当業者が通常行う操作によってクローニングされ、次いで配列決定される。このSELEX法における、テンプレートDNAの合成、PCRなどの操作、ならびにクローニングおよび配列決定は、当業者が通常用いる方法によって行われる。本発明のAGE−2アプタマーは、このようにして決定された配列に基づいて、当業者が通常用いる方法によって化学合成することができる。
【0024】
本発明においては、SELEX法における標的物質はAGE−2であり、好ましくはヒト血清アルブミン(HSA)との結合体である。AGE−2は、培養法、化学合成法などの任意の方法によって合成され得る。培養法では、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)を、D−グリセルアルデヒドと数日間インキュベートする。化学合成法は、例えば、Tessierらの方法(非特許文献11)に従って行われる。具体的には、アセチル−リジンとグリセルアルデヒドとをリン酸緩衝液(pH7.4)中で混合し、さらにジエチレントリアミンペンタ酢酸および25%(v/v)メタノールを加えて、37℃で数日間反応させることによって得られる。得られたAGE−2は、SELEX法において用いる場合は、適切な固相(例えば、ビーズなど)に固定化されていることが好ましい。
【0025】
得られたアプタマーのAGE−2との結合親和性は、AGE−2が蛍光を発することを利用して、AGE−2にアプタマーを添加したときのAGE−2の蛍光強度の減弱によって測定できる。このようにして、本発明のアプタマーのうち、親和性の強いアプタマーを選択することができる。
【0026】
AGE−2アプタマーは、より安定化させる目的で、修飾ヌクレオチド/ヌクレオチドを用いて合成されていてもよい。
【0027】
(細胞または組織中のAGE−2の免疫組織化学検出)
本発明によれば、上記AGE−2アプタマーを用いて、細胞または組織内のAGE−2の存在および位置を決定できる。AGE−2アプタマーは、目的の細胞または組織と接触すると、細胞または組織内に存在するAGE−2を認識し結合する。次いで、このAGE−2アプタマーを検出することにより、AGE−2アプタマーが結合しているAGE−2の位置、したがって細胞または組織中に存在するAGE−2の存在および位置を決定できる。さらに、検出されたAGE−2アプタマーの量を算定して、細胞または組織内に存在するAGE−2を定量できる。
【0028】
本発明は、上記AGE−2アプタマーを用いることにより、AGE−2を免疫組織化学的に検出する方法(以下、免疫染色法ともいう)を提供する。本発明の方法では、上記AGE−2アプタマーを組織または細胞と接触させて、組織または細胞中に存在するAGE−2に対してAGE−2アプタマーを反応させ、組織または細胞内の抗原AGE−2に結合しているAGE−2アプタマーを検出する。AGE−2アプタマーを接触させる細胞または組織は、当業者が通常用いる手順に従って固定される。さらに、例えばパラフィンまたはOCTコンパウンドを用いる包埋、凍結、および薄片化を行い、標本が調製され得る。必要に応じて、調製した標本中の抗原の賦活化処理(例えば、タンパク質分解酵素処理または加熱処理(マイクロウェーブ法など))を行い得る。免疫染色法は、用手により、または市販の免疫染色装置を用いて行い得る。例えば、シーケンザ免疫染色センター(シャンドン製)は、カバープレートによるマニュアルドロッピング方式で容易に染色を行うことができ、好適に用いられ得る。
【0029】
AGE−2の免疫組織化学検出に用いられるAGE−2アプタマーとして、具体的な例としては、上述したような、配列表の配列番号1から24のいずれかに記載の塩基配列を含む一本鎖DNAが挙げられる。別の具体的な例として、上述したような、配列表の配列番号25から41のいずれかに記載の塩基配列を含む一本鎖DNAが挙げられる。
【0030】
好ましくは、配列表の配列番号1または配列番号9に記載の塩基配列を含む一本鎖DNAであるアプタマーが用いられる。
【0031】
AGE−2アプタマーの細胞または組織中のAGE−2への結合および当該アプタマーの免疫組織化学検出を妨げない程度に、一本鎖DNAは、上記の塩基配列に数個以内の塩基が付加、欠失、または置換されている配列を有してもよい。
【0032】
AGE−2アプタマーの検出のために、AGE−2アプタマーは、予め標識されていることが好ましい。アプタマーの標識は、任意の核酸標識法を用いることができる。このような標識法には、放射線同位元素標識、ジゴキシゲニン標識、ビオチン標識、色素標識などが挙げられる。放射線同位元素標識は、オートラジオグラフィーにより可視化できる。ジゴキシゲニン標識は、抗ジゴキシゲニン抗体を用いて検出可能であり、免疫組織化学的な可視化の点で好ましい。ビオチン標識は、抗ビオチン抗体によって、またはストレプトアビジンもしくはアビジンによっても検出可能である。これらの標識の検出のために、抗体は、色素をさらに結合し得る。あるいは、抗体は、蛍光または発光ドメインを付加してもよい。
【0033】
AGE−2の免疫組織化学検出に供する試料としては、代表的には、種々の生物に由来する種々の細胞または組織が挙げられる。例えば、腎臓、網膜、神経細胞、血管などが挙げられる。
【0034】
本発明は、細胞または組織内のAGE−2を免疫組織化学的に検出するためのキットも提供する。このキットは、AGE−2検出用の試薬として、AGE−2アプタマーを備える。キットに備えられるAGE−2アプタマーは、免疫組織化学検出方法における説明と同様である。好ましくは、配列表の配列番号1または配列番号9に記載の塩基配列を含む一本鎖DNAであるアプタマーである。AGE−2アプタマーは、上記のように標識され得る。
【0035】
本発明のキットはまた、免疫染色法で通常使用され得る任意の試薬も備え得る。そのような試薬としては、アプタマーの標識に依存する、適切な検出用試薬が挙げられる。AGE−2検出のための指示書をさらに備え得る。
【0036】
本発明の方法およびキットは、AGE−2が関与する疾患、例えば、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害などの糖尿病合併症、アルツハイマー病などの神経変性疾患、悪性腫瘍の増殖、転移、浸潤などを検出または診断するのに利用することができる。
【実施例】
【0037】
(実施例1:AGE−2アプタマーの取得)
(1−1:一本鎖ランダムオリゴDNAの作製)
34、56、または72塩基のランダム領域およびその両側にプライマー部位(配列番号42および43)を含む一本鎖ランダムオリゴDNAの合成を、次のように行った。
【0038】
まず、3’末端のヌクレオチドが3’水酸基を介して結合されたCPG(controlled pore glass)担体をカラムに詰めた。次いで、リボースの5’位の保護基であるジメトキシトリチル基をトリクロロ酢酸によって除去して、脱トリチル化した。リボースの3’位の水酸基がリン酸シアノエチルアミダイト誘導体である2番目のヌクレオチドを、脱トリチル化された1番目のヌクレオチドの5’水酸基に、塩基触媒(テトラゾール)を用いてカップリングさせ、未反応の5’水酸基を無水酢酸によってアセチル化した。2つのヌクレオチド間の結合を、ヨードを用いて酸化して、3価のリンから5価のリン酸エステルへ変換した。上記の脱トリル化からリン酸エステルへの変換までの操作を目的の鎖長になるまで繰り返した。ランダム部分の配列は、カップリング反応の際に、4種のヌクレオチドアミダイト混合物(dNTP)を使用して行った。反応後、カラムからアンモニア処理によってオリゴDNAを切り出し、逆相カートリッジカラムによって精製した。凍結乾燥後、適量の水に溶解し、SELEXライブラリーのテンプレートDNAとした。
【0039】
(1−2:AGE−2の合成)
ヒト血清アルブミン(HSA)(Sigma社製)を無菌状態で、D−グリセルアルデヒドと37℃にて7日間インキュベートした。未反応糖を、まずPD−10ゲル濾過カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を通した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)の透析によって除去した。使用する前に、Endospecy ES−20Sシステム(生化学工業)を用いて、エンドトキシンがないことを確認した。
【0040】
(1−3:AGE−2のビーズへの結合)
上記1−2で得たAGE−2を、PIERCE社のSulfoLink(登録商標)カップリングゲル(カタログ番号20401)を使用して製品の指示書に従って、次のようにビーズに固定化した。
【0041】
まず、カップリングゲルをカラムにとり、カップリング緩衝液(50mM Tris−HCl,5mM EDTA,pH8.5)で平衡化した。AGE−2をカップリング緩衝液に溶解し、カップリングゲルと混合して、室温で1時間インキュベートした。反応終了後、カップリング緩衝液でカラムを数回洗浄した。L−システインをカップリング緩衝液に溶解し、カップリングゲルと混合して、室温で30分間インキュベートした。反応終了後、カップリング緩衝液およびPBSでカラムを数回洗浄した。なお、反応前および反応後の吸光度を測定することによって、AGE−2の固定化量を算出した。固定化後のゲル(ビーズ)を小分けし、使用するまで冷暗所に保存した。
【0042】
(1−4:HSAのビーズへの結合)
HSAを、PIERCE社のSulfoLink(登録商標)カップリングゲル(カタログ番号20401)およびUltraLink(登録商標)EDC/DADPA固定化キット(カタログ番号53154)を使用して、ビーズに固定化した。
【0043】
(1−5:SELEX法)
上記1−1で合成したランダムオリゴDNAを鋳型にして、forwardプライマー(配列番号42)とreverseプライマー(配列番号43)によるPCR(1サイクル:94℃,15秒;55℃,15秒;72℃,15秒×12サイクル)を行った。増幅後、forwardプライマーのみを用いた非対称PCRによりプラス鎖を増幅した(1サイクル:94℃,15秒;55℃,15秒;72℃,15秒×45サイクル)。増幅したプラス鎖をアガロースゲル電気泳動によって精製し、SELEX用DNAライブラリーとした。このSELEX用DNAライブラリーをPBSに溶かし、95℃で5分加熱し、室温に戻した。次いで、SELEX用DNAライブラリーと上記1−3で調製したAGE−2を固定化させたビーズとを混合し、室温で30分間インキュベートした。インキュベート後、PBSでビーズを数回洗浄した。適量の水をビーズに加えて混合し、100℃で5分間加熱し、AGE−2ビーズに結合したDNAを解離させて回収した。回収したDNAと上記1−4で調製したHSAを固定化させたビーズとを混合し、室温で10分間インキュベートした。素通りした(HSAに結合しなかった)DNAを回収して、エタノール沈殿法によって濃縮した。濃縮したDNAを鋳型にして、上記の操作を5〜15ラウンド繰り返した。この時、5〜8mMのMg存在下でPCRを行って、変異を導入させた。
【0044】
(1−6:クローニング)
5〜15ラウンド後に得られたDNAを、forwardプライマー(配列番号42)およびreverseプライマー(配列番号43)を用いるPCRによって増幅し、アガロースゲル電気泳動によって精製し、そしてAGE−2特異的DNAを得た。このDNAをクローニングベクター(Invitrogen社: Zero Blunt(登録商標)TOPO(登録商標)PCR Cloning Kit for Sequencing(カタログ番号K2875J10))へ導入し、次のようにして配列を決定した。
【0045】
まず、AGE−2特異的DNA(PCR産物)とクローニングベクター(TOPOベクター)とを混合し、室温で5分間インキュベートした。反応終了後、反応液の一部をコンピテントセルに加え、氷冷下で30分間インキュベートした。42℃にて30秒間ヒートショックした後、氷上で2分間冷却した。冷却した反応液に、キット中に含まれているSOC培地を加えて37℃にて1時間培養した。適量を寒天プレート(50μg/mLアンピシリンを含むLB培地)に播種し、37℃にて一晩培養した。無作為に数十個のクローンを選び、アルカリ法によってプラスミドDNAを調製した。
【0046】
(1−7:配列決定)
上記1−6で得られたプラスミドDNA中のAGE−2特異的DNAの配列を、Applied Biosystem社のABI377を用いてBigDye Terminator Cycle sequence法によって行った。
【0047】
その結果、34塩基の一本鎖DNAからは、AGE−2に結合するものが得られなかった。56塩基の一本鎖DNAからは、配列番号1〜24に示す54〜58塩基の一本鎖DNA、すなわちAGE−2アプタマーが得られた(表1)。なお、72塩基の一本鎖DNAについてもAGE−2に結合するものが得られたが、配列決定は行っていない。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すように、得られたAGE−2アプタマーはいずれも、該アプタマーを構成する塩基中のシトシン含有率が35%以上であった。
【0050】
さらに、64塩基のランダム領域およびその両側にプライマー部位(配列番号42および43)を含む一本鎖ランダムオリゴDNAを鋳型に用いて、同様にしてAGE−2アプタマーを作製した。
【0051】
その結果、配列番号25〜41に示す61〜66塩基の一本鎖DNA、すなわちAGE−2アプタマーが得られた(表2)。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すように、得られたAGE−2アプタマーはいずれも、該アプタマーを構成する塩基中のグアニン含有率が32%以上であった。
【0054】
(実施例2:AGE−2アプタマーを用いたラット腎組織の染色)
(2−1:糖尿病性腎症を発生したラットからの腎組織凍結切片の作製)
自然発症肥満2型糖尿病ラットであるOtsuka Long-Evans Tokushima Fatty RAT(OLETF)および非糖尿病対照のLong-Evans Tokushima Otsuka RAT(LETO)の4週齢の雄を大塚製薬株式会社より供給をうけ、SPF飼育を開始した。ラットに、ラット飼育用CE−2(日本クレア株式会社)を給餌し、自由摂食・自由飲水で飼育させ、実験に供した。
【0055】
飼育期間中、随時血糖測定を行い、全てのOLETFラットの糖尿病発症を確認した。さらに、飼育期間中は定期的に体重および血糖値を測定し、そして飼育開始時、糖尿病発症確認時、および飼育終了直前に尿を採取し、尿蛋白を測定した。OLETFラットの糖尿病発症を確認した後、約4週間飼育して最終実験に供した。OLETFラットおよびLETOラットを麻酔薬で安楽死させ、各ラットから腎臓を摘出した。
【0056】
摘出した腎臓を当業者が通常用いる方法に従って固定し、次いで固定した腎組織片をOCTコンパウンドに包埋して凍結し、凍結ミクロトーム(クリオスタット)にて薄切した。作製した凍結切片をシラン塗布スライドガラスに貼り付け、凍結切片スライドを得た。
【0057】
(2−2:ジゴキシゲニン標識AGE−2アプタマーの化学合成)
ジゴキシゲニン(DIG)−dUTP(Rosche製)0.01mMをdNTPに混合した合成用基質を用いたこと以外は、上記1−1と同様にホスホアミダイト法により、上記実施例1で得られたAGE−2アプタマーの配列に基づいて、各AGE−2アプタマーを化学合成した。東洋紡社製のキット「Insert Check −Ready−」を使用してジゴキシゲニン標識AGE−2アプタマーの生成を確認した。
【0058】
(2−3:Alexa Fluor(登録商標)488標識抗ジゴキシゲニンマウスモノクローナル抗体の作製)
抗ジゴキシゲニンマウスモノクローナル抗体(Rosche製;抗DIG抗体)を100mMリン酸緩衝液(pH7.5、25℃)に溶解し、得られた4mg/mL(0.0267μmol/mL)濃度の溶液を1mL遮光ビンに入れ、シリコン製のスターラーバーで穏やかに攪拌した。
【0059】
Alexa Fluor(登録商標)488スクシンイミドエステル(モレキュラープローブ社)1mg(1.555μmol)をコニカルチューブに量りとり、116μLのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、13.405μmol/mL−DMSO濃度の溶液を調製した。
【0060】
このAlexa Fluor(登録商標)488スクシンイミドエステル溶液30μLを抗DIG抗体溶液に一気に添加し、よく混合した。穏やかに攪拌しながら、室温下にて2時間、反応を続けた。
【0061】
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で平衡化したHiPrep 26/10脱塩カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)で、Alexa Fluor(登録商標)488標識抗DIG抗体と未反応物とを分画した。
【0062】
得られたAlexa Fluor(登録商標)488標識抗DIG抗体の495nmおよび280nmの吸光度から、抗DIG抗体1分子当たり3.3分子のAlexa Fluor(登録商標)488が結合している標識抗体が得られた。
【0063】
Alexa Fluor(登録商標)488標識抗DIG抗体を含む画分の溶液を限外濾過で濃縮し、0.2μmのメンブレンフィルターで濾過し、ストック溶液とした。使用する際にPBSに最終濃度として1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)および0.05%(w/v)Tween(登録商標)20を加えた溶液で希釈した。
【0064】
(2−4:ラット腎組織凍結切片の組織染色)
上記2−1で作製した凍結切片の賦活化処理を以下のように行った。抗原賦活化液として、0.01Mクエン酸緩衝液(pH6.0)に最終濃度0.1%(w/v)のTween(登録商標)20を含む溶液を耐熱性のドーゼ(染色瓶)に入れる。その中へ凍結切片スライドを静かに浸漬した。染色ドーゼをオートクレーブ中で121℃にて10分間処理し、次いで室温にて40分間冷却した。
【0065】
シーケンザ免疫染色センター(シャンドン社製)を使用して、組織染色を実施した。簡潔には、OLETFラットおよびLETOラット腎臓から作製した凍結切片スライドを各々カバープレートにセットして、シーケンザのカセットに押し込み、カバープレートをスライドに密着させた。
【0066】
1μg/mL濃度のジゴキシゲニン標識AGE−2アプタマー(上記2−2で調製)100μLをシーケンザのカセットに添加し、そのまま2時間インキュベートした。次いで、2mLのPBSで洗浄した。次いで、上記2−3で調製したAlexa Fluor(登録商標)488標識抗DIG抗体溶液を、PBSに最終濃度として1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)および0.05%(w/v)Tween(登録商標)20を含む溶液で1μg/mL濃度に調整し、この溶液100μLをシーケンザのカセットに添加して室温にて2時間インキュベートした。次いで、2mLのPBSで洗浄し、PBS1容に対してグリセリン9容を含む封入剤をシーケンザのカセットに添加し、スライドを封入した。これにより、組織染色されたスライドが得られた。
【0067】
組織染色されたスライドを蛍光実体顕微鏡(ニコン SMZ15FLA)下で観察し、デジタルカメラで撮影した。
【0068】
図1は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を含む56塩基からなる一本鎖DNAであるAGE−2アプタマーを用いて染色した腎臓凍結切片スライドの蛍光顕微鏡写真である(倍率100倍)。図1には、糸球体中のメサンギウム組織に蛍光が観察され、AGE−2の蓄積が明らかに示された。
【0069】
図2は、配列表の配列番号9に記載の塩基配列を含む56塩基からなる一本鎖DNAであるAGE−2アプタマーを用いて染色した腎臓凍結切片スライドの蛍光顕微鏡写真である(倍率200倍)。拡大率が上昇した図2には、メサンギウム組織全体にわたって蛍光が観察された。
【0070】
したがって、AGE−2アプタマーを用いて、メサンギウム組織中のAGE−2の蓄積が明らかに示された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、細胞または組織内のAGE−2を免疫組織化学的に検出できる方法およびキットが提供される。本発明の方法およびキットは、AGE−2が関与する疾患、例えば、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害などの糖尿病合併症、アルツハイマー病などの神経変性疾患、悪性腫瘍の増殖、転移、浸潤などを検出または診断するのに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】配列表の配列番号1に記載の塩基配列を含む56塩基からなる一本鎖DNAであるAGE−2アプタマーを用いて染色した腎臓凍結切片スライドの蛍光顕微鏡写真である。
【図2】配列表の配列番号9に記載の塩基配列を含む56塩基からなる一本鎖DNAであるAGE−2アプタマーを用いて染色した腎臓凍結切片スライドの蛍光顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞または組織内のグリセルアルデヒド由来終末糖化産物を免疫組織化学的に検出する方法であって、
該グリセルアルデヒド由来終末糖化産物に特異的に結合し得るアプタマーを該細胞または組織と接触させる工程;および
該細胞または組織中のグリセルアルデヒド由来終末糖化産物に結合しているアプタマーを検出する工程
を含み、
該アプタマーが、該グリセルアルデヒド由来終末糖化産物に結合するがヒト血清アルブミンには結合しないアプタマーであって、該アプタマーが、少なくとも35塩基からなり、そして該塩基中のシトシン含有率が少なくとも35%であるか、または該塩基中のグアニン含有率が少なくとも32%である、
方法。
【請求項2】
前記アプタマーが、一本鎖DNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一本鎖DNAが、配列表の配列番号1から24のいずれかに記載の塩基配列を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記一本鎖DNAが、配列表の配列番号25から41のいずれかに記載の塩基配列を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記一本鎖DNAが、配列表の配列番号1または9に記載の塩基配列を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記アプタマーが標識されている、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
細胞または組織内のグリセルアルデヒド由来終末糖化産物を免疫組織化学的に検出するためのキットであって、該キットは、該グリセルアルデヒド由来終末糖化産物に特異的に結合し得るアプタマーを備え、該アプタマーが、該グリセルアルデヒド由来終末糖化産物に結合するがヒト血清アルブミンには結合しないアプタマーであって、該アプタマーが、少なくとも35塩基からなり、そして該塩基中のシトシン含有率が少なくとも35%であるか、または該塩基中のグアニン含有率が少なくとも32%である、キット。
【請求項8】
前記アプタマーが、一本鎖DNAである、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記一本鎖DNAが、配列表の配列番号1から24のいずれかに記載の塩基配列を含む、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
前記一本鎖DNAが、配列表の配列番号25から41のいずれかに記載の塩基配列を含む、請求項8に記載のキット。
【請求項11】
前記一本鎖DNAが、配列表の配列番号1または9に記載の塩基配列を含む、請求項8に記載のキット。
【請求項12】
前記アプタマーが標識されている、請求項7から11のいずれかに記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−224453(P2008−224453A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63947(P2007−63947)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】