細胞ピッキングシステム、スクリーニング方法および哺乳類細胞を取得する方法
【課題】ハイスループット、かつ、目的の細胞を確実に選別することができる技術を提供する。
【解決手段】特定分子を発現する真核細胞を分離する細胞ピッキングシステムであって、前記真核細胞は前記特定分子と結合可能な結合分子により複合体を形成し、この複合体の形成に基づき特定分子を発現する真核細胞が検出装置により検出され、検出された真核細胞が検出装置と連動したマニピュレータにより自動的に回収されることを特徴とする細胞ピッキングシステム。
【解決手段】特定分子を発現する真核細胞を分離する細胞ピッキングシステムであって、前記真核細胞は前記特定分子と結合可能な結合分子により複合体を形成し、この複合体の形成に基づき特定分子を発現する真核細胞が検出装置により検出され、検出された真核細胞が検出装置と連動したマニピュレータにより自動的に回収されることを特徴とする細胞ピッキングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞ピッキングシステム、スクリーニング方法および哺乳類細胞を取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レセプターの多くは細胞膜に存在し、外部の刺激を認識して情報を伝達するための構造を有している。Gタンパク質共役型レセプター(GPCR)については、そのGPCRを組み込んだ酵母を用いるGPCRのアゴニストのハイスループットスクリーニング系が知られている(特許文献1, 2)。また、哺乳類の細胞において、一回膜貫通型レセプターはリガンド(アゴニスト)を受容すると、細胞膜上で多量体化を形成し、自己リン酸化型レセプターである場合、レセプターの自己リン酸化が生じることが知られている(非特許文献1)。あるいは、その多量体化するレセプターに構成的に結合するリン酸化酵素である場合、そのリン酸化酵素の自己リン酸化が生じ、さらにそれに付随してリン酸化酵素が結合するレセプターのリン酸化が生じると報告されている(非特許文献2)。
【0003】
哺乳類由来のEGFRのみを酵母で発現させ、その発現を抗体で確認したこと、酵母細胞で発現させた細胞外ドメインのみを有するEGFRの細胞内ドメイン欠失変異体は、EGFと結合できることを報告している(非特許文献3)。酵母には、自己リン酸化型レセプターおよびそのレセプターのリン酸化部位を認識するアダプタータンパク質は存在しないが、これらを別々に酵母に発現させた時、実際にリン酸化レセプターとアダプタータンパク質が相互作用すると報告されている(非特許文献4)。
【0004】
アゴニスト/アンタゴニスト候補物質として、構造固定型ランダムペプチドライブラリーが示されている(特許文献3, 4, 5, 6)。そのペプチドライブラリーは、ロイシンジッパー構造をとるα-ヘリカルコイルドコイル(HLH)ペプチドであり、レセプターと結合可能な溶媒接触可能表面に配座する2-6アミノ酸がランダマイズされている。そのHLHの前記溶媒接触可能表面に突出するアミノ酸残基の側鎖をアラニンスキャンニング解析することにより、アゴニスト/アンタゴニスト活性に必須であるアミノ酸残基(ファーマコフォア)の特定、およびそのHLHの構造固定性から、そのファーマコフォアの有する官能基の立体配座を抽出することが可能であり、アゴニスト/アンタゴニストの低分子化合物化も容易に達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-176605
【特許文献2】WO/2006/104254
【特許文献3】特開平10-245397
【特許文献4】特開2000-327697
【特許文献5】特開2005-151921
【特許文献6】特開2005-154382
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Clayton AH, Walker F, Orchard SG, Henderson C, Fuchs D, Rothacker J, Nice EC, Burgess AW. J Biol Chem. 2005 Aug26;280(34):30392-9. Epub 2005 Jun 30.
【非特許文献2】Muthukumaran G, Kotenko S, Donnelly R, Ihle JN, Pestka S. J Biol Chem. 1997 Feb 21;272(8):4993-9.
【非特許文献3】Cochran JR, Kim YS, Olsen MJ, Bhandari R, Wittrup KD. J Immunol Methods. 2004 Apr;287(1-2):147-58.
【非特許文献4】Busti S, Sacco E, Martegani E, Vanoni M. Curr Genet. 2008 Mar;53(3):153-62. Epub 2008 Jan 9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のハイスループットスクリーニングは、FACSによりソーティングされていたので、細胞がソーティングの高速かつ高圧力の条件により損傷を受けることや、ソーティングは1つの特性を有する細胞集団を迅速に集めるのには有用であるが、特定の細胞を確実に選別するのには適していない。
【0008】
また近年では、抗体医薬の創出が注目され、必要となる抗体産生細胞(B細胞、Hybridomaなど)の回収技術の向上に力が注がれている。FACSを用いる細胞の選別においては、抗体産生細胞は蛍光標識の対象となる抗体が細胞外に分泌されるため、抗体産生能力(また分泌能力)の高い細胞1個を確実に回収するのには適していない。この問題はチャイニーズハムスター卵巣由来CHO細胞を用いた有用タンパク質あるいはペプチドの分泌生産系においても同様である。
【0009】
そこで、ゴルジプラグ法などを用いて細胞の輸送経路を阻害し、蛍光抗体により標識する方法が挙げられる。しかし、ゴルジプラグは細胞毒性が高く、回収した細胞が増殖能を失ってアポトーシスが高頻度で生じるため、有効な方法ではない。
【0010】
本発明は、ハイスループット、かつ、目的の細胞を確実に選別することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の発明を提供するものである。
項1 特定分子を発現する真核細胞を分離する細胞ピッキングシステムであって、前記真核細胞は前記特定分子と結合可能な結合分子により複合体を形成し、この複合体の形成に基づき特定分子を発現する真核細胞が検出装置により検出され、検出された真核細胞が検出装置と連動したマニピュレータにより自動的に回収されることを特徴とする細胞ピッキングシステム。
項2 前記細胞が酵母または動物細胞である、項1に記載のシステム。
項3 特定分子がレセプター、表面抗原または細胞外に分泌されるタンパク質、もしくはペプチドである、項1または2に記載のシステム。
項4 特定分子が細胞外に分泌されるタンパク質もしくはペプチドであり、前記タンパク質若しくはペプチドと結合分子の複合体が前記結合分子の標識に基づくシグナルの検出により認識され、前記複合体を形成する真核細胞がマニピュレータにより自動的に回収される、項1〜3のいずれかに記載の細胞ピッキングシステム。
項5 分泌されるタンパク質が、抗体である項3または4に記載の細胞ピッキングシステム。
項6 特定分子がレセプターであり、前記レセプターと結合分子の複合体が前記結合分子の標識または前記真核細胞の複合体形成に基づくシグナルの検出により認識され、前記複合体を有する真核細胞がマニピュレータにより自動的に回収される、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞ピッキングシステム。
項7 少なくとも1種の標的レセプターを細胞表面に発現する真核細胞において、前記レセプターに対するリガンド候補物質を前記細胞に作用させ、前記レセプターと特定のリガンドが結合した場合に生じるシグナルを検出し、シグナルを生じたレセプター−リガンド結合細胞をマニピュレータにより自動的に回収し、前記シグナルを発生させるリガンド候補物質を同定することを特徴とする、前記レセプターに対するリガンドのスクリーニング方法。
項8 前記リガンドがレセプターとともに前記真核細胞の表面に発現される、項7に記載の方法。
項9 リガンドライブラリーを細胞表面に発現する真核細胞集団において、レセプターを前記細胞に作用させ、前記レセプターと特定のリガンドが結合した場合に生じる検出可能なシグナルを検出し、シグナルを生じたレセプター−リガンド結合細胞をマニピュレータにより自動的に回収し、前記シグナルを発生させるリガンドを同定することを特徴とする、前記レセプターに対するリガンドのスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0012】
現在、市場に出回る製薬の売り上げランク50位の内、レセプターシグナルのアゴニストおよびアンタゴニストとして作用する化合物製剤が、40%以上を占める。この、レセプターを標的とした化合物のスクリーニングには、
(1) 膨大な種類(104-105種類)のリード化合物候補を合成し、
(2) (1)で合成した化合物の一種類ずつを、哺乳類細胞培養液に添加し、
(3) 各種細胞内シグナル(cAMP、Ca2+、etc.)を解析する必要がある。
などと、非常に多くの時間(最長10年)とコスト(開発費用の25%、最大200億円以上)がかかる上に、最大105種類程度のスクリーニングにしか供せない。
本発明により酵母などの真核細胞にヒト由来一回膜貫通型レセプターと表層提示型リガンドとを機能的に発現させる手法およびそのレセプターに対するリン酸化などの翻訳後修飾を蛍光標識抗体、あるいはGFPなどの蛍光タンパク質レポーターにて検出する手法、これらと、表層提示用構造固定型ランダムペプチドライブラリー、および1細胞ピッキング装置による陽性細胞の自動回収、以上のコンビネーションを用いて、レセプターに対するリガンド(アゴニスト、アンタゴニスト)のスクリーニングをすることにより、GPCRや一回膜貫通型レセプターなどのレセプター種に関わらず、短時間・低コストのレセプターのアゴニスト/アンタゴニストのスクリーニング、すなわちハイスループットスクリーニングが達成される。ランダムペプチドライブラリーに代えて化合物ライブラリーをレセプター発現真核細胞に作用させることにより、レセプターに結合する特定の化合物を容易に同定することができる。化合物ライブラリーの各マイクロチャンバーへの適用は、各化合物をマイクロチャンバーに適用するためのスポッティング装置、あるいはインクジェット印刷などの公知の手法により行うことができる。多種類の物質を所定の間隔で並べる手法は、DNAチップ、RNAチップ、プロテインチップなどの各種チップの製造においても使用され、本発明はこのような公知の手法を使用することができる。多種類のサンプルを微量分注できる装置としては、超音波方式でマルチウェルプレート(96〜1536、3456ウェル)に容量10nl程度で分注する装置が、http://www.labcyte.com/に記載され、ポジティブディスプレイスメント(極小ピペットによる)方式で、多くのウェルに50nl程度の容量で分注する装置は、http://www.bio-lab.jp/screening/nano/index.htmlに記載されている。
【0013】
また、本発明は、1細胞ピッキング装置などに備えられた自動マニピュレータを利用することで、細胞への損傷を抑制することができるため、幹細胞や免疫細胞などの機能を保持し、かつ、目的外の細胞を排除して、集めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、真核細胞表面に(1)レセプター、(2)リガンド、(3)標的とする哺乳類細胞(好ましくはヒト細胞)に特異的な表面抗原の少なくとも1種が発現されている。
レセプターは、使用される真核細胞由来であっても他の真核細胞由来であっても、いずれでもよいが、好ましくは哺乳類由来、特にヒト由来である。レセプターとしては、たとえば(1)三量体Gタンパク質共役型(7回膜貫通型):N末端を細胞外にC末端を細胞内に向けて7個の疎水性部が細胞膜を貫通する構造をとり、アセチルコリン、ノルアドレナリンなどの化学物質、光(ロドプシン)などを認識して、Gタンパク質を活性化し、種々のエフェクター分子にシグナルを伝達する;(2)レセプター型キナーゼ:1回膜を貫通し、細胞質内のC末端側がプロテインキナーゼ活性を有し、アゴニストによって酵素が活性化され、標的タンパク質をリン酸化することによってシグナルを伝達する;(3)サイトカインレセプター型:1回膜を貫通するが、特定の機能を持たず、共役する他のタンパク質を活性化してシグナルを伝達する;(4)イオンチャネル型:透過物質の濃度勾配に応じて、イオン透過を媒介する膜タンパク質であり、その開閉の制御様式によって、大きく2種類に分けられる。
【0015】
(i)電位依存性イオンチャネル:膜電位の変化に応じて開くもの。時定数の異なる複数のゲートを持ち、膜電位変化時に時間に依存した特定の開閉を行うチャネルも多い。例えばCa2+チャネルを構成するα1、α2、β、γ、δサブユニットや、他にNa+チャネルおよびK+チャネルなどが例示される。
【0016】
(ii)リガンド依存性イオンチャネル:特異的に結合する分子により開閉が制御されるもの。この場合イオンチャネル自体が受容体となっている。受容体の側から見れば、イオンチャネル共役型受容体とも呼べる。例えば、AMPA型グルタミン酸受容体型チャネルを構成するGluR1、GluR2、GluR3、GluR4、およびNMDA型グルタミン酸受容体型チャネルを構成するNR1、NR2A、NR2B、NR2C、NR2Dや、他にアセチルコリン受容体型チャネルなどが例示される。
これらの他にもその開閉制御様式により、さらに4種が例示される。他タンパクからのリン酸化シグナルによるリン酸化依存性チャネル、内耳の有毛細胞などに発現が見られるチャネル分子に機械的変形が関わると開く力学的変形依存性チャネル、温度による温度依存性チャネル、通常開いており、少しずつ特定のイオンを漏らすように流す漏洩チャネルなどが例示される。
(5)トランスポーターは、物質の透過を制御する点でチャネルと類似する膜タンパク質であるが、その物質の濃度勾配に逆らった輸送(能動輸送)を行う事と、ATPあるいは能動輸送により生じたイオン勾配などのエネルギーを必要とする点でイオンチャネルとは異なる。トランスポーターはその透過する物質から、大きく4種類に分けられる。
【0017】
(i)イオントランスポーター:Na/K−ATPase、H+/K+−ATPase、Na+/K+/2Cl-共輸送12回膜貫通タンパク質などが例示される。
【0018】
(ii)薬物トランスポーター:P糖タンパク質などのABCトランスポータースーパーファミリー、有機イオントランスポーター、ペプチドトランスポーター、APCトランスポータースーパーファミリー、ヌクレオチドトランスポーターが例示される。
【0019】
(iii)複雑なアミノ酸のトランスポーター:酸性アミノ酸輸送に関わるSLC1ファミリー、ALC7、SLC25、中性アミノ酸輸送に関わるSLC1、塩基性アミノ酸の輸送に関わるSLC7、中性および塩基性アミノ酸の輸送に関わるSLC6、芳香族アミノ酸トランスポーター、メチル化アミノ酸トランスポーターなどが例示される。
【0020】
(iv)糖・尿酸トランスポーター:URAT1などの尿酸トランスポーター、ブドウ糖トランスポーターであるGLUT1、GLUT2、GLUT3、GLUT4、GLUT5などが例示される。
(6)細胞外マトリックス、または細胞表面接着分子に結合する分子は、癌細胞の浸潤や定着を阻害する薬剤になる可能性がある。マイクロチャンバーにスクリーニングの標的となる細胞外マトリックス又は、細胞表面接着分子を固定化し、ランダム配列のペプチドライブラリーを表層に提示する酵母細胞がマイクロチャンバーに接着することを指標としてスクリーニングを実施することにより、細胞外マトリックス、または細 胞表面接着分子に結合するペプチドを得ることができる。細胞接着における分子間相互作用は大きく分けて2種類がある。
【0021】
(i)細胞外マトリックス:コラーゲン、非コラーゲン性糖タンパク質(フィブロネクチン、ラミニン、ニドジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン)、エラスチン、プロテオグリカンなどが例示される。
【0022】
(ii)細胞表面接着分子:カドヘリン・スーパーファミリー、インテグリンスーパーファミリー、免疫グロブリンスーパーファミリー(NCAM、L1、ICAMファミリー、ネクチン)、セレクチン、ニューロリギン、ニューレキシン、細胞表面プロテオグリカンなどが例示される;
などが挙げられる。好ましいレセプターは、レセプター型キナーゼである。自己リン酸化型レセプター(レセプター型キナーゼ)に対するアゴニスト/アンタゴニストのハイスループットスクリーニング系は、本発明により初めて確立された。
【0023】
レセプターは通常真核細胞表面に高発現あるいは誘導発現されるように真核細胞にレセプター遺伝子を導入して発現させるが、真核細胞が本来細胞表面に発現しているものであれば、その天然型レセプターを利用することもできる。あるいは、所望のリガンド結合性を有するレセプターが容易に得られる場合には、多数のリガンドを真核細胞表面に発現させておき、たとえば蛍光、酵素などで標識したレセプターをリガンド発現細胞に適用することでレセプター−リガンド複合体を形成し、この複合体を有する細胞をマニピュレータないし1細胞ピッキング装置で選別/分離しても良い。
【0024】
本明細書において、「結合分子」は、特定分子に結合する分子を意味する。特定分子がレセプターのとき結合分子としてリガンド、特定分子がリガンドのとき結合分子としてレセプター、特定分子が表面抗原のとき結合分子として抗体、特定分子が分泌タンパク質のとき結合分子として分泌タンパク質に対して特異性を有する抗体が挙げられる。特に分泌タンパク質が抗体であるときは、結合分子として抗体に対して特異性を有する抗体(二次抗体)や抗原が挙げられる。
【0025】
リガンドは、たとえば標的となるレセプターが予め決まっている場合には、化合物ライブラリーあるいはペプチドライブラリーなどの任意の構造を有する物質群を使用することができ、異なるレセプターが発現されている一群の真核細胞が使用される場合には、単一あるいは少数の生物活性物質(化合物、ペプチドなど)が使用できる。前者は、疾患などの標的となっているレセプターに結合するアゴニスト、アンタゴニストなどの一次スクリーニングに使用するのに適しており、後者は、疾患の薬物や特定の薬理作用を有することが既知の物質の作用機序の特定などに使用することができる。リガンドがペプチドである場合には、レセプターとリガンドをともに真核細胞表面で発現させ、この複合体の形成を種々の方法で検出し、自動マニピュレータないし1細胞ピッキング装置で選別/分離しても良い。
【0026】
表面抗原は、特に哺乳類細胞を選別するときに複合体形成の標的とすることができる。このような表面抗原としては、胚性幹細胞(ES細胞)、iPS細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞などの多能性細胞あるいはこれらから派生する細胞、腫瘍細胞、免疫細胞(T細胞、B細胞、マクロファージ、樹状細胞など)、特定のホルモンを産生する細胞あるいは産生量が増加/減少した細胞、その他臨床診断に役立つ細胞などが挙げられる。本発明では、自動マニピュレータないし1細胞ピッキングシステムで細胞を選別/分離することで細胞に損傷を与えることなく、特定の細胞を分離することができる。この分離対象の増殖能、分化能などの能力が保持される性質が効果的であるために、本発明は幹細胞などの未分化な細胞や、免疫細胞などの刺激により性質が変化する/あるいは免疫刺激を受けた特定の細胞(たとえば特定の抗体を産生するB細胞)など、特定の機能を利用したい細胞の分離に特に効果的である。
【0027】
本発明は、従来とは異なる細胞の分離システムを使用する点にも特徴を有する。
【0028】
具体的には、本発明において、蛍光などの光学的手段により検出された細胞は、細胞ピッキング装置、特に1細胞ピッキング装置を使用して分離するのが望ましい。以下においては、蛍光(標識)を利用した1細胞ピッキング装置を例示するが、酵素標識、色素標識、放射標識などの蛍光以外の標識を利用しても良い。
【0029】
1細胞ピッキング装置は、数千〜数百万(マイクロチャンバーの集積度に依存)の蛍光タンパク発現または蛍光ラベルなどの標識を施した細胞の蛍光値と座標を解析して必要な細胞を1個単位で生きたままマルチウェルプレートへ回収できる装置である。なお、本明細書において「1細胞ピッキング装置」は、最小で1個の細胞を選別・分離することができる装置であることを意味し、この装置を使用する場合必ず1個の細胞を分離する必要は必ずしもなく、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個などの10個未満の少数の細胞を分離する限り、数個の細胞を一緒に分離しても良い。また、iPS細胞などの1つの細胞塊で存在する細胞の場合には、1つの細胞塊が分離の対象となる。
【0030】
本発明では、検出に関連するレセプターとリガンドのいずれかを発現可能な遺伝子は標的細胞に組み込まれている。そして、細胞を特定することで、そこに組み込まれている遺伝子をPCRなどにより増幅し、複合体を形成可能なリガンド、あるいはレセプターを特定することができる。この際、本発明で分離された細胞は損傷を受けていないかその程度が小さいため、必要に応じて細胞を増殖させてPCRなどの増幅手段に必要なDNA量を確保したり、各種幹細胞や前駆細胞などの増殖能や分化能を保持することができ、B細胞では抗体産生能力を保持して分離することができる。
【0031】
1つの好ましい実施形態において、1細胞ピッキング装置は(i)マイクロチャンバー、(ii)検出部、(iii)解析部、(iv)回収部から構成される(図A)。
【0032】
(i)マイクロチャンバー
スライドグラスサイズ(25mm×75mmまたは1インチ×3インチ)のスライド表面に、細胞のサイズに合わせたサイズで、数千〜数百万のマイクロチャンバーが形成されている。細胞懸濁液をマイクロピペットでアプライすることで、各マイクロチャンバーに細胞が1個(条件によっては、10個未満、例えば2個、あるいは3個ないし数個)入るように設計されている。(細胞種によっては、超音波や遠心法を用いることで、1マイクロチャンバーに正確に1細胞だけ入れることも可能)
【0033】
1つのマイクロチャンバーあたりに導入される細胞の数は、1つの細胞塊の場合には1個であり、バラバラになった細胞の場合には、10個未満、例えば9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下又は1個ないしそれ以下であり、0.5個以上、0.6個以上、0.7個以上、0.8個以上、0.9個以上であってもよく、1個に近いほど好ましい。この個数は、マイクロチャンバー1個あたりの細胞の平均値であり整数でなくてもよく、これが0.9個であるとは、10個のマイクロチャンバーのうち9個に細胞が導入され、1個のマイクロチャンバーには細胞が含まれないことを意味する。
【0034】
(ii)検出部
蛍光顕微鏡をベースとした検出機構が、チップ表面の自動フォーカス後、マイクロチャンバー(マイクロチャンバーに入っている細胞)の蛍光画像を取得(図C)。
【0035】
(iii)解析部
各マイクロチャンバー座標の蛍光値を解析し、解析結果をヒストグラム(縦軸:マイクロチャンバー数、横軸:蛍光値)として表示する(図D)。
【0036】
(iv)回収部
所望の蛍光値を持つ細胞を、解析部のヒストグラムから範囲指定すると、自動的にマニピュレータによって吸引され、マルチウェルプレートへ吐出・回収される。細胞の吸引・吐出にはキャピラリが好ましく使用され、細胞をマニピュレータ内に残さないように吐出できることが実験により確認されている。
【0037】
図Cでは、例えば横軸の蛍光量が90〜225の範囲を指定すると、1個又は2個の酵母細胞数のその蛍光値を持つ細胞がマイクロチャンバーから回収され、その表層提示された特定分子をPCRなどの常法により決定することで、目的の特定分子に対して強く結合する少なくとも1種の結合分子を決定することができる。
【0038】
本発明で使用する1細胞ピッキング装置は、数千〜数百万の真核細胞の位置を正確に検出し、蛍光を発する所望の細胞のみをマイクロチャンバーからピッキングすることができるように、吸引・吐出マニピュレータ(例えばキャピラリ)と各マイクロチャンバーの関係(位置、距離、形状)が、(ハーフ)ミラー、オートフォーカス機能、フィルタユニットなどを用いて光源からの照射光、マイクロチャンバーの透過光、反射光などにより光学的にモニタリングされている。これにより、非常に近い位置関係の微小ウェル(すなわちマイクロチャンバー)の真核細胞を正確に吸引・吐出/回収することができる。
【0039】
マイクロチャンバーへの真核細胞の導入は、界面活性剤を含む緩衝液を好ましく使用できる。界面活性剤としてはポリエチレングリコール、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Dextran T-500、Tween 20、Tween 40、Tween 60、NP-40、SB3-14、SB12、CTAB及びTritonX-100などが挙げられる。界面活性剤は、特定分子と結合分子の複合体あるいは結合分子に結合した標識を分離させることなく、真核細胞の凝集を抑制できるものを、適切な濃度で使用することができる。このような界面活性剤は、細胞に損傷を与えないような種類、濃度を選択して使用することができる。真核細胞が塊状物の場合には、界面活性剤は通常使用しない。
【0040】
真核細胞量は、真核細胞が酵母の場合、ODが0.1〜0.7、好ましくは0.2〜0.6、より好ましくは0.3〜0.5が挙げられる。真核細胞が動物細胞の場合には、酵母の場合に準じて適当な量を用いてマイクロチャンバーに導入する。
【0041】
真核細胞は、各マイクロチャンバーに1個入るのが最も好ましく、そのために、超音波や遠心力と、真核細胞の凝集を抑制する界面活性剤などを併用し、各マイクロチャンバーあたりの真核細胞の数ができるだけ均一になるように最適な条件で真核細胞懸濁液をマイクロチャンバーに適用する。
【0042】
上記システムと、コンビナトリアルケミストリーを活用した細胞サンプルを用いることで、リガンドスクリーニングが高速に簡便に行える。また、安定発現株の取得も簡便に行える。応用法として、不必要な少数ないしごくわずかの細胞が細胞群にある場合、不必要な細胞を回収(廃棄)し、マイクロチャンバーに残った細胞を最終的に得る方法もある。これは、一部に癌化した細胞を含むES細胞などの、幹細胞の分化誘導物から癌細胞を選択的に除去に利用することができる。
【0043】
本発明の1細胞ピッキング装置は、コロニーピッキング装置に比べて、ハイスループットかつ省スペースであり、セルソーターに比べて、細胞に物理的ダメージを与えずに確実に1細胞を回収できる利点がある。
【0044】
従来法と1細胞ピッキング装置を用いる場合の比較を図Eに示す。
【0045】
本発明は、レセプターのアゴニストまたはアンタゴニストのスクリーニングに好ましく適用できる。アゴニストスクリーニングの手順を図Fに示した。
【0046】
本発明の1つの好ましい実施形態では、ヒト由来のGタンパク質共役型レセプター(GPCR)、一回膜貫通型レセプターなどのレセプターを酵母の表層に提示し、かつアゴニスト/アンタゴニスト候補物質のライブラリーを酵母の表層に提示し、該アゴニスト/アンタゴニスト候補物質が結合することにより、該レセプターが多量体化あるいは脱多量体化した時の検出方法;さらに自己リン酸化型レセプターである場合、レセプターの自己リン酸化を、蛍光抗体を用いて標識、あるいは蛍光タンパク質発現を誘導することにより検出する方法;あるいは多量体化するレセプターに構成的に結合するチロシンキナーゼである場合、そのチロシンキナーゼの自己リン酸化を、蛍光抗体を用いて標識、あるいは蛍光タンパク質発現を誘導することにより検出する方法;などが挙げられる。前記の酵母を用いる表層提示工学とコンビナトリアルケミストリーの融合による該アゴニスト/アンタゴニストのスクリーニング手法、および1細胞ピッキング装置を用いることにより、該スクリーニングの高速化、すなわちハイスループットスクリーニングを達成する。
【0047】
本発明の実施例では、EGFR、IL5R、IL6Rのアゴニスト/アンタゴニストに関するスクリーニング法が可能であることが実証されている。他の公的なスクリーニング対象のレセプターとしては、以下が挙げられる。
【0048】
チロシンキナーゼとしては、JAK(JAK1、JAK2、JAK3、特にJAK2)、Lyn、Yes、Fyn、Fes、Hckなどが好ましく例示され、好ましくはJAK2が例示される。自己リン酸化型レセプターには、gp130やβc鎖のようにJAK(JAK1、JAK2、JAK3、特にJAK2)のようなチロシンキナーゼを構成的に結合するものと、EGFレセプター(EGFR)のように、レセプター(EGFR)自体にチロシンキナーゼ活性を有するものが挙げられる。具体例を以下に示す。
1:gp130を共有するレセプター
IL6R、IL-11R、LIFR、CNTFR、OSMR、CT-1Rなど。
2:βcを共有するレセプター
IL-3R、IL5R、GM-CSFRなど。
3:自己リン酸化作用を有するレセプターのリガンド
Alkを含むAlkRファミリー、Axlを含むAxlRファミリー、DDR1を含むDDRファミリー、EGFRを含むEphRファミリー、EphA1を含むEphARファミリー、EphB1を含むEphBRファミリー
、FGFR1を含むFGFRファミリー、IFG-1Rを含むIRファミリー、Metを含むMetRファミリー、MuSKを含むMuSKRファミリー、TrkAを含むニューロトロフィンRファミリー、PDGFR-αを含むPDGFRファミリー、RETを含むRETRファミリー、Ror1を含むRorRファミリー、Rykを含むRykRファミリー、Sevを含むSevRファミリー、Tie1を含むTieRファミリー、VEGFR-1を含むVEGFRファミリーなど。
【0049】
本発明の1つの好ましい実施形態は、JAK-STAT系を利用したアゴニストのスクリーニング系である。
【0050】
哺乳類細胞にはJAK-STATシグナル伝達経路があり、レセプターがリガンドを受容すると、レセプターと構成的に結合するJAKが自己リン酸化すると共に、レセプターのチロシン残基をリン酸化する。STATは、レセプターのリン酸化チロシンに結合することにより、JAKにリン酸化され二量体化し、核内に移行して転写を活性化する。
【0051】
このJAK-STAT系には、サイトカイン特異性があり、例えば、IL5による刺激ではJAK2-STAT5系、IL6による刺激ではJAK1(またはJAK2)-STAT3(またはSTAT1)系、GHによる刺激ではJAK2-STAT5(またはSTAT3)系、IL12による刺激ではTyk2(またはJAK2)-STAT4系、IL10による刺激ではJAK1(またはTyk2)-STAT3系などが挙げられる。このJAK-STAT系を酵母で再構成することによるレポーターアッセイ系について例示する。
【0052】
図1で示したように、IL5系において、STAT5の哺乳類細胞における転写活性化領域を、酵母内でも機能するVP16転写活性化領域に置換したタンパク質(STAT5ΔC85-VP16)(J. Biol. Chem., 12567-12575頁, 1998年)をコードする遺伝子を酵母に導入する。同時に、哺乳類細胞内において二量体形成した活性型STAT5が特異的に結合するDNA配列であるIFP53-GAS領域(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 9600-9605頁, 1996年)の3’側にGAL1pをコードする遺伝子およびGFPに代表されるEGFP、DsRED、CFP、YFPなどの蛍光タンパク質をコードする遺 伝子を連結し、酵母に導入する。酵母において、表層提示したアゴニストによりIL5シグナルを活性化すれば、哺乳類細胞と同様にJAK2によるSTAT5のリン酸化およびホモ二量体形成が生じ、核内に移行してレポーター蛍光タンパク質の発現を誘導する。この蛍光を検出することによる、1細胞ピッキング装置を用いたIL5シグナルのアゴニストのハイスループットスクリーニングが可能となる。
【0053】
また、このレポーターアッセイ系は、IL6系に対してJAK1(またはJAK2)-STAT3(またはSTAT1)系を用いることにより、IL5系と同様の1細胞ピッキング装置を用いるアゴニストのハイスループットスクリーニングに利用できる。
【0054】
アンタゴニストスクリーニングの方法
1:GFP発現誘導を利用したアンタゴニストのスクリーニング
図2に模式図を示した。レセプターが不活性化している時にのみ、酵母内在性遺伝子で活性化している遺伝子、つまりレセプター活性化時には、ダウンレギュレートしている遺伝子を見つけ、プロモータ下流にGFP遺伝子を導入する。アゴニストにより活性化しているレセプターが、アンタゴニストにより不活性化すると、GFPの発現が誘導されるシステムを構築する。レセプターを最初から活性化しておく必要があり、その方法として以下が考えられる。
【0055】
(1)培地にアゴニストを含ませ、レセプターを活性化しておく。
【0056】
(2)アゴニスト発現遺伝子の染色体組み込み株を作成し、レセプターを活性化しておく。
【0057】
(この時、アゴニスト発現は非誘導型で、アンタゴニスト発現は誘導型の方が望ましい。)
(3)常活性型レセプターを用いる。
【0058】
上記の方法を用いることにより、アンタゴニストが作用した時に、GFPの発現が誘導され、1細胞ピッキング装置にてスクリーニングが可能となる。
【0059】
2:カナバニン取り込みによる酵母の致死性を利用したアンタゴニストのスクリーニング
図3に模式図を示した。参考;Bo Li et al. Nat. Methods (2007) 4, 169-を改変。
(a)前提条件・・・使用する酵母はCanavanine耐性(can1-100など)であること。
(b)レセプターを最初から活性化しておき、アンタゴニストの作用によりCAN1遺伝子の発
現が抑えられるようにするため、その方法として以下が考えられる。
【0060】
(1)培地にアゴニストを含ませ、レセプターを活性化しておく。
【0061】
(2)アゴニスト発現遺伝子組み込み株を作成し、レセプターを活性化しておく。
【0062】
(この時、アゴニスト発現は非誘導型で、アンタゴニスト発現は誘導型の方が望ましい。)
(3)常活性型レセプターを用いる。
【0063】
(c)致死性シグナルの発生のさせ方として、
(1)人工的な系としてSplit-Ubシステムを用い、レポーターとして『(lexAop)+最小プロモータ』下流にCAN1遺伝子を導入する。
【0064】
(2)酵母内在性のシグナル伝達を利用する系として、レセプターが活性化している時のみ、アップレギュレートされる遺伝子を見つけ、プロモータ下流にCAN1遺伝子を導入する。
【0065】
系(c)の(1)では、アンタゴニストが作用した時に、(レセプターの二量体化によるSplit-Ubのシグナル)により活性化していたCAN1遺伝子がダウンレギュレートされ、カナバニンを含む培地において、コロニー形成するシステムである。
【0066】
系(c)の(2)では、アンタゴニストが作用した時に、レセプターのキナーゼ活性がなくなり、その事による酵母内在性シグナルの不活性化が生じ、CAN1遺伝子の発現がダウンレギュレートされ、カナバニンを含む培地において、コロニー形成するシステムである。
【0067】
3:熱感受性による致死性を利用したスクリーニング
図4に模式図を示した。熱感受性を利用したアゴニストのスクリーニングを改変。
(a)前提条件・・・使用する酵母はRASの活性化因子であるCDC25が熱感受性であること。
(b)レセプターを最初から活性化しておき、アンタゴニストの作用により熱感受性に戻るようにするため、以下の方法が挙げられる。
【0068】
(1)培地にアゴニストを含ませ、レセプターを活性化しておく。
【0069】
(2)アゴニスト発現遺伝子組み込み株を作成し、レセプターを活性化しておく。
【0070】
(この時、アゴニスト発現は非誘導型で、アンタゴニスト発現は誘導型の方が望ましい。)
(3)常活性型レセプターを用いる。
【0071】
アゴニストが恒常的に作用することにより37℃で増殖可能な酵母に対し、アンタゴニストが作用するとレセプターが不活性化し、Sos融合タンパク質の細胞膜付近への濃縮が起こらなくなり、37℃で生存出来ないという原理を用いる。コロニーハイブリダイゼーション法によりレプリカプレートを作成し、37℃で生えず、かつ25℃で生えるコロニーをピックアップするシステムである。
4:FRETの緩和を利用したアンタゴニストのスクリーニング
図5に模式図を示した。アゴニストが作用した時にのみレセプターが離れ、FRETの緩和が生じる。
【0072】
蛍光バンドパスフィルタを用いれば、アンタゴニスト活性を有するHLHをもつ酵母が、1細胞ピッキング装置を用いてスクリーニング可能となる。
1細胞ピッキング装置の応用例
1:動物細胞表層に提示するペプチド
N末端側に分泌シグナル配列、C末端側に細胞膜相互作用部位を持つポリペプチドが挙げられる。リガンドとレセプターのいずれもがこの条件に当てはまる。
1-1:N末端側分泌シグナル配列
抗体、サイトカイン、増殖因子などの体液性タンパク質の分泌シグナルや1回膜貫通型レセプターの分泌シグナルを用いることができる。分泌シグナル配列としては、細胞膜貫通型や小胞体膜貫通型のものが好適である。
1-2:C末端側細胞膜相互作用領域
細胞膜相互作用部位としては、レセプターの膜貫通領域とグリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)アンカーがあげられる。レセプターの膜貫通領域としては、1回膜貫通型レセプターの細胞膜貫通領域が好適である。また、C末端側にGPI修飾を付加するためには、GPIアンカー型タンパク質のGPIアンカー修飾部位の配列を用いることが好適である。
【0073】
動物細胞表層提示技術に関し、米国特許6017754を参照することができる。
【0074】
2:ペプチドの配列
一部にランダム配列を含むポリペプチドを用いる。ヘリックス‐ループ‐ヘリックスなどの高次構造をもつものが好適に例示できる
ペプチド配列についての特許としては、特開2005−154382、特開2005−151921、特開2000−327697、特開平10−245397などが挙げられる。
【0075】
1細胞ピッキング装置を動物細胞のスクリーニングに用いることの利点
細胞集団から特定の細胞を分取するためには、これまでフローサイトメーターを応用したセルソーター(FACS)が用いられてきた。セルソーターでは、高速性は確保されている半面、その高速性が原因となり目的細胞以外の細胞が混入する可能性があるという問題とソーティングにおいて細胞へダメージを与えるという問題があった。1細胞ピッキング装置は、静置した細胞を分取するという原理のために、目的以外の細胞の混入が無く、細胞へのダメージが少ないという利点がある。具体的には、FACSにおける細胞ダメージは、急激な圧力変化(1→7→1気圧)と高い流速(30m/秒)で分取用のチューブに注ぎ込まれるという条件による。1細胞ピッキング装置は、FACSよりも高確率で標的細胞を分取できるだけでなく、機器の構造上から細胞分取にあたって急激な圧力変化と高い流速をともなわないことから細胞に悪影響を及ぼさない。
【0076】
また、分泌タンパク質や抗体の高発現細胞をスクリーニングする際の利点としては、従来のスクリーニング法である培養上清液を回収した後にELISAなどの方法を用いて定量する方法よりも、簡便な操作でスクリーニングを行うことが出来る。操作が繁雑になると、測定対象となる分泌タンパク質や抗体が分解されたり、測定に用いる器具に吸着されたりするので、正確な数値が期待できない問題がある。
【0077】
ペプチドのスクリーニング
1:動物細胞を用いたアゴニストペプチドのスクリーニング
目的のレセプターを発現する動物細胞にライブラリーペプチド遺伝子を導入して発現させ、ライブラリーペプチドを細胞膜上の細胞外側部分に提示する。提示されたペプチドが目的レセプターと結合したときに、アゴニストとして作用した場合の細胞内シグナル伝達を検出することにより、ペプチドライブラリーからアゴニスト活性をもつペプチドをスクリーニングする。検出する細胞内シグナルは、レセプターやアダプタータンパク質のチロシンリン酸化が好適である。
2:動物細胞を用いたアンタゴニストペプチドのスクリーニング
アンタゴニストペプチドを得たい場合には、あらかじめアゴニストを動物細胞で細胞膜上に安定発現させたり、常活性型レセプターを安定発現させたりしておき、この細胞にペプチドライブラリー遺伝子を導入してライブラリーペプチドを細胞膜上の細胞外部分に提示して、そのペプチドが目的レセプターと結合したときに、標的レセプターのシグナル伝達が抑制されることを指標として、スクリーニングを行うことにより、アンタゴニストペプチドを得ることができる。あるいは、ペプチドライブラリー遺伝子を導入してライブラリーペプチドを細胞膜上の細胞外部分に提示し、培地中にアゴニスト添加した時にシグナル伝達が抑制されていることを指標としてスクリーニングしてもよい。前記のアゴニストを表層提示させておく方法、およびアゴニストを後から培地中に加える方法のいずれにおいても、アゴニスト量がアンタゴニスト量よりも少ない方が、アンタゴニストによるシグナル伝達が抑制効果を大きくするために望ましい。
【0078】
レセプタースクリーニング
サイトカイン、増殖因子タンパク質、合成化合物が既知のもので、レセプターが未知な場合のレセプターのスクリーニング方法を提供する。サイトカイン、増殖因子タンパク質、合成化合物などを、レセプター遺伝子のライブラリーを導入した細胞に作用させ、細胞内シグナル伝達が惹起されるレセプターをスクリーニングする。またサイトカイン、増殖因子タンパク質を用いる時には、これらのタンパク質のC末端側に細胞膜相互作用部位を付加したものを動物細胞で安定発現させ、これにレセプター遺伝子のライブラリーを導入し、細胞内シグナル伝達が惹起されるレセプターをスクリーニングする。
【0079】
上記のペプチドのスクリーニング、レセプタースクリーニングにおける細胞内シグナル伝達の検出方法について
チロシンキナーゼ型のレセプターについては、自己リン酸化を特異的抗体により検出する。チロシンキナーゼ型以外の1回膜貫通型レセプターについては、アダプタータンパク質のチロシンリン酸化を特異的抗体により検出することが好適である。Gタンパク質共役型レセプター(GPCR)は、Gタンパク質とGPCRの相互作用をFRETにより検出する方法、アレスチンとGPCRの相互作用をアレスチン融合プロテアーゼと転写因子融合GPCRを用いて検出する方法があげられる。
【0080】
また、レセプターの種類にかかわらない検出方法として、カルシウムイオン濃度の変化をケージド化合物の蛍光スペクトル変化で検出する方法があげられる。
【0081】
癌細胞のスクリーニング
遺伝子治療では、遺伝子導入に伴い癌化した細胞を細胞集団から確実に除去することが重要である。Ex vivoにおける遺伝子治療において癌化した細胞をFACSにより除去する場合には、癌細胞を完全に除去できないという問題とソーティングにおいて細胞へダメージを与えるという問題があった。また、iPS細胞の作出時、iPS細胞からの分化時において癌化した細胞が現れてしまうという問題点が指摘されている。これらの問題は、癌細胞に特異的に高発現しているタンパク質を免疫染色して、1細胞ピッキング装置により細胞集団から癌細胞を除去することにより解決できる。癌細胞特異的な高発現タンパク質としては、悪性黒色腫におけるMAGE、乳癌などにおけるHER2/neu、大腸癌におけるCEA、各種白血病や各種癌におけるWT1など多数報告されている。
【0082】
分泌タンパク質もしくはペプチド産生細胞のスクリーニング
本発明における分泌タンパク質またはペプチドは、天然の細胞が分泌するものであってもよく、遺伝子工学操作または/および細胞工学操作によって改変された真核細胞によって強制的に発現させられ、分泌するものであってもよいものとする。
【0083】
本発明における分泌タンパク質もしくはペプチドを産生する真核細胞のピッキングシステムは図34(A)で例示するように、
(i) 分泌タンパク質もしくはペプチドを捕捉する結合分子を、真核細胞の表面に提示させることのできる分子と融合させる工程、
(ii) 上記の(i)の工程によって作製した結合分子を、真核細胞と結合させて該細胞の表面に提示する工程、
(iii) 上記の(ii)の工程によって作製した真核細胞を、マイクロチャンバーに播き、マイクロチャンバー内に導入する工程、
(iv) 上記の(iii)の工程によって真核細胞が導入されたマイクロチャンバーに、分泌タンパク質もしくはペプチドを標識する試薬を添加する工程、
(v) 上記の(iv)の工程の後、検出装置によって標識シグナルを検出し、高い分泌産生能力を有する細胞を決定し、検出装置と連動したマニュピュレータによって自動的に回収する工程、
によって実施される。
【0084】
上記工程の(i)〜(v)を採用することによって、分泌タンパク質もしくはペプチドを産生する真核細胞の細胞表面上で該タンパク質もしくはペプチドと複合体を形成させることができることから、該タンパク質もしくはペプチドを局所的に濃縮することが可能となる。従って、より高いシグナルを有する真核細胞を検出することが可能となる。さらに、生存状態の真核細胞が本来もつ脂質の取り込み機構を利用して結合分子を真核細胞と融合させることから、真核細胞に負担が少ない点がある。
【0085】
上記の工程(i)で用いる真核細胞の表面に提示させることのできる分子として、アルキル鎖を有する脂肪酸などの化合物が好ましい。これらの分子と分泌タンパク質もしくはペプチドを捕捉する結合分子を融合させる方法は特に限定されないが、架橋剤を用いて結合させることが好ましい。架橋剤の例として、官能基に対して指向性を有するN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)、マレインイミド、ヒドラジド、カルボジイミドを含むものがあげられる。
【0086】
上記の工程(iv)で用いる標識試薬は特に限定されないが、抗体を用いることが好ましい。より好ましくは蛍光標識化された抗体である。
【0087】
本発明における分泌タンパク質もしくはペプチドを産生する真核細胞のピッキングシステムの別の態様として、図34(B)で例示するように、
(i) 真核細胞を導入するマイクロチャンバーの内壁と、特定分子を補足する結合分子を融合させる工程、
(ii) 上記の(i)工程によって処理されたマイクロチャンバーに真核細胞を導入する工程、
(iii) 上記の(ii)の工程のによって真核細胞が導入されたマイクロチャンバーに、分泌タンパク質もしくはペプチドを標識する試薬を添加する工程、
(iv) 上記の(iii)の工程の後、検出装置によって標識シグナルを検出し、高い分泌産生能力を有する細胞を決定し、検出装置と連動したマニュピュレータによって自動的に回収する工程、
によっても実施される。
【0088】
上記工程の(i)〜(iv)を採用することによって、マイクロチャンバー内壁でタンパク質もしくはペプチドと複合体を形成させることができ、産生する真核細胞自体には何も処理を施さないことから、該真核細胞を回収した後の生存性が高い。
【0089】
上記の工程(i)では、マイクロチャンバーに、あらかじめ結合分子を作用させることで融合させる方法が挙げられる。そこで、融合に適した素材を内壁に有するマイクロチャンバーを選択しても良いものとする。
【0090】
上記の工程(i)で融合に用いる分子として、マイクロチャンバー内壁の材質またはコーティングの種類によって架橋剤を選択してもよいものとする。例としては、前記の材質、コーティングが有する官能基に対して指向性を有するN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)、マレインイミド、ヒドラジド、カルボジイミドを含むものがあげられる。
【0091】
上記の工程(iii)で用いる標識試薬は特に限定されないが、抗体を用いることが好ましい。より好ましくは蛍光標識化された抗体である。
【0092】
一般的に分泌タンパク質もしくはペプチドの大量生産系において、分泌タンパク質もしくはペプチドは産生する細胞の培地中に放出されて必要に応じて回収される。そこで、培地中におけるタンパク質もしくはペプチドは、細胞内とは異なる環境下にあり不安定な状態に曝されることになる。また溶液中に溶解しているときのタンパク質もしくはペプチドはプロテアーゼなどにより分解され易いとされる一方で、何らかの担体などと結合した状態であれば安定であるとされる。さらに、培養の容器などとの疎水性相互作用によって吸着することもある。
【0093】
従来の高発現細胞のスクリーニングでは、培地中に放出された分泌タンパク質もしくはペプチドそのものを培地ごと回収し、ELISA法などの手法に供して定量する方法が採用される。この従来のスクリーニング方法ではまず、細胞を細胞塊(コロニー)になるまで培養し、コロニー単位でELISA等により分泌能を評価してスクリーニングする。次に、そのコロニーを回収して単分散化および限界希釈法により1細胞単位まで純化し、再増殖させて高分泌細胞として用いられる。しかし、コロニー単位で評価した細胞群の分泌能と、同コロニーから前述の方法を用いて純化して再増殖させた細胞群の分泌能は必ずしも一致しない。これは、同一コロニーから単離された1細胞間にHeterogeneity(異種性)が存在する為である。図Eにて示すように、本システムでは、同一コロニーから単離されたクローンを1細胞単位で解析することにより、異種性による低分泌クローンのコンタミネーションを排除し、かつ、高分泌性クローンのみを回収できる。
【0094】
本発明の方法では、分泌されたタンパク質もしくはペプチドが細胞表面上または測定用のマイクロチャンバー上で複合体を形成して、分泌タンパク質もしくはペプチドに結合する結合分子の標識によるシグナルを検出するので、より安定な状態で、さらに培養容器への直接の吸着などの問題がなく定量してスクリーニングすることが可能となる。
【0095】
従って、「蛍光の強い一細胞を見逃すことなく高精度に検出/回収できることから」本発明のシステムが優れていることが説明される。
【0096】
B細胞のスクリーニング
B細胞は、細胞ごとに産生する抗体の種類が決まっており、モノクローナル抗体を作成するときには、目的抗原と結合する抗体を産生するB細胞のスクリーニングが必須のステップである。これまでの方法では、B細胞の産生する抗体の量が少ないという問題があることから、B細胞と株化細胞のハイブリドーマを形成させることにより、スクリーニングに供することのできる抗体量を産生させてから、ハイブリドーマ化したB細胞のスクリーニングを行っていた。1細胞ピッキング装置では、顕微鏡観察が自動化されてハイスループット化されていることから、目的抗原に反応するB細胞、つまり目的抗原と交差反応する抗体を産生しているB細胞をハイブリドーマ形成の過程を経ずに直接スクリーニングすることができる。交差反応のスクリーニング方法は、2種類あげられる。1.抗原タンパク質が存在するとB細胞の細胞内カルシウムイオン濃度が変化する。このカルシウムイオン濃度の変化を、カルシウムイオン特異的なケージド化合物の蛍光スペクトル変化により可視化する方法。2.蛍光標識した抗原物質をB細胞集団に添加して、特異的な抗体を産生するB細胞を間接的に蛍光標識する方法。得られたB細胞からRT-PCRにより抗体遺伝子を回収し、抗体遺伝子発現用ベクターにクローニングする。また、従来のハイブリドーマのスクリーニングにおいても、1細胞ピッキング装置を用いることは、単細胞からスクリーニングできるという点と自動でスクリーニングをできるという2つの利点がある。
【0097】
幹細胞のスクリーニング
再生医療や分化の研究において、細胞集団から特定の幹細胞を分取することは重要なステップである。しかしながら、従来のFACSを用いた分取では、細胞にダメージを与えて、細胞死や細胞分化能の消失を招くことが問題となる。また、分化後の細胞の分取においても、細胞死が問題となる。これらの問題は、1細胞ピッキング装置を用いて穏やかな条件下で分取することにより解決できる。
【0098】
ES細胞を含む幹細胞はしばしばフィーダー細胞上で培養されるため、幹細胞の回収時には、フィーダー細胞をコンタミネーションさせないことが重要である。あらかじめフィーダー細胞についてGFPなど蛍光タンパク質を安定発現させておくことにより、フィーダー細胞の完全な除去を1細胞ピッキング装置により自動化できる。iPSやES細胞の未分化マーカーとしては、Nanog、Fbx15、Sox2、Oct3/4、Klf4が報告されており、これらのタンパク質に対する抗体で細胞を免疫染色することにより、1細胞ピッキング装置で幹細胞を分取することができる。
【0099】
接着細胞のスクリーニングへの対応
上記のように本発明のシステムまたは方法を用いることによって、様々な機能を有する細胞を1細胞単位で検出し、更にピックアップすることが可能となる。しかしながら、細胞をピックアップする段階においては、該細胞が培地や緩衝液などの溶液中に浮遊した状態であることが望ましい。従来、細胞の培養方法においては浮遊培養方法と接着培養方法がある。真核細胞の中でも特に哺乳動物細胞の中には、接着しないとアポトーシスが誘導される細胞種も多く、このような細胞種に対しては接着培養が望ましい。さらに、上記の例で挙げたスクリーニング例では新規医薬ターゲットの探索および創出と言う目的を達成するために、接着培養細胞に適した細胞を用いることがある。そこで、接着培養を浮遊させる方法としては、EDTAなどの緩衝液と共にトリプシンやディスパーゼなどの酵素よりを行うことが採用される。
【0100】
本発明のシステムにおいて、その後検出装置での検出に供する際に真核細胞をマイクロチャンバーへ導入するが、接着細胞の培養においては上記の酵素処理を行って細胞を一度浮遊させる必要がある。特定分子と結合分子の複合体の形成によって細胞内で生じるシグナルを検出する系であれば上記の問題は考慮されることは無く、1細胞をピッキングして回収することが可能であるのに対し、前記の複合体が細胞表面上で形成され、結合分子の標識に基づくシグナルを検出する系であれば、前記の酵素処理によって複合体が分解され、検出が出来ない問題が生じる。
【0101】
そこで、上記問題を解決するための方法として
(i) 回収対象となる接着真核細胞をあらかじめマイクロチャンバー上に導入する工程、
(ii) 上記の(i)の工程によって導入された真核細胞をマイクロチャンバー上で接着培養する工程、
(iii) 上記の(ii)の工程によって培養した真核細胞と標識化された結合分子を作用させ、複合体を形成させる工程、
(iv) 上記の(iii)の工程によって処理された真核細胞のうち、結合分子の標識シグナルを検出することで回収対象細胞を決定する工程、
(v) 上記の(iv)の工程によって決定されたマイクロチャンバー内の回収対象細胞に対して酵素を作用させて細胞を浮遊させる工程、
(vi) 上記の(v)の工程によって培地もしくは緩衝液などの溶液中に浮遊する細胞を、検出装置と連動したマニュピュレータによって自動的に回収する工程、
によって本発明のシステムは実施される。
【0102】
検出装置とマニュピュレータが連動しているので、上記の(iv)の工程における情報を基に、上記の(iv)の工程での回収工程に反映させることが可能となる。
【0103】
接着細胞に対して本発明のシステムを実施する他の態様として
(i) 常法に従い接着真核細胞を培養する工程、
(ii) 上記の(i)の工程によって培養した真核細胞と標識化された結合分子を作用させ、複合体を形成させる工程、
(iii) 上記の(ii)の工程の後、結合分子を細胞内に取り込ませる工程、
(iv) 上記の(iii)の工程によって真核細胞内に取り込まれた結合分子の標識に基づく蛍光シグナルを検出して回収対象細胞を決定し、検出装置と連動したマニュピュレータによって自動的に回収する工程、
があげられる。
【0104】
(ii)の工程において結合分子を標識化する方法は特に限定されることは無い。具体的にはアビジン-ビオチン結合を用いた標識や、架橋剤を用いた標識などを採用することで、当業者が実施することができる。
【0105】
(iii)の工程によって、標識化された結合分子が細胞内に取り込まれることで、接着細胞を浮遊させる工程で用いるトリプシンなどの酵素による特定分子-結合分子複合体の分解を避けることが出来るために、標識に基づく蛍光シグナルの検出が可能となるので、接着細胞に対して本発明のシステムを用いることが可能となる。
【0106】
(iii)の工程において、複合体が細胞内に取り込まれる機序は、真核細胞が自然に有する機能を用いる事ができる。前記の機能の機序としては、例えばリガンド-レセプターの複合体の形成の後に生じる細胞内シグナル伝達経路を調節させるために、クラスリンなどの分子と共にエンドサイトーシスによって細胞内取り込まれる機序があげられる。リガンドとレセプターの結合による細胞内シグナル伝達経路の活性化と細胞膜の活性化が密接に関与しているのは一般的であり、特に、クラスリン媒介型エンドサイトーシスは受容体取り込みに関与する機序として最も報告が多い。
【0107】
(iii)の工程において、複合体が細胞内に取り込まれる時間については特に限定されないが、複合体が取り込まれた後に、細胞内においてプロテアソーム等による分解対象物となって分解される前に、続く(iv)の工程を完了すればよいものとする。具体的な(iii)の工程にかかる時間の例として、好ましくは10分以内、より好ましくは5分以内、更に好ましくは1〜2分である。
【0108】
上記のような時間は、当業者が目的のスクリーニング系に適した予備的な実験を行うことによって決定することが出来る。
【0109】
細胞内に取り込まれてすぐ、具体的には1分以内にプロテアソーム等プロテアーゼにより分解され、蛍光検出が困難な時には、トリプシンを阻害しないプロテアソーム阻害剤等プロテアーゼ阻害剤を同時に添加してもよく、万全を期す方法として更に回収前に固定化等の操作によって細胞活動を停止してからマイクロチャンバーからはがしても良い。標的となる受容体は、外来遺伝子より発現させることから、PCRにより遺伝子配列を特定することによりアミノ酸配列を決定することができる。
【0110】
上記の工程を用いることで、具体的にはレセプター群をコードするcDNAライブラリー遺伝子を接着細胞に導入し、受容体を発現させ、蛍光標識オーファンリガンドを作用させて1細胞を回収するオーファンリガンドのスクリーニングが可能となる。
【0111】
マイクロインジェクションへの応用
マルチウェルプレートを用いたマイクロインジェクション従来技術では、細胞の位置決めが難しかったが、マイクロチャンバーで細胞を補足することにより、マイクロインジェクションが容易になる。同様の機器としては、富士通株式会社製セルインジェクターCI-2000があるが、高密度に培養された接着細胞にCI-2000を用いる場合、細胞の形状認識機能が誤作動し、正確に細胞へキャピラリ針を挿入できない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】JAK-STAT系を利用したアッセイ
【図2】GFP発現誘導によるアンタゴニストのスクリーニング
【図3】カナバニン取り込みによる酵母の致死性を利用したアンタゴニストのスクリーニング
【図4】熱感受性による致死性を利用したアンタゴニストのスクリーニング
【図5】FRETの緩和を利用したアンタゴニストのスクリーニング
【図6】各種形質転換体におけるEGFRの発現
【図7】BJ5464株におけるGAL1p制御下でのEGFRおよびEGF-FLO42の発現
【図8】BJ5464株におけるEGFRおよびEGF-FLO42の局在
【図9】BJ5464株におけるリン酸化EGFRの局在とその蛍光シグナル
【図10】一細胞PCRによるEGF遺伝子断片の増幅
【図11】ライブラリートランスフォーメーションの条件検討
【図12】BJ5464株におけるEGFRの発現およびHLH-FLAG-FLO42の局在
【図13】1細胞ピッキング装置による陽性酵母の回収画像、プライマー配列、および一細胞PCR
【図14】EGFシグナルのアゴニストおよび大腸菌で発現させたアゴニストの精製
【図15】精製HLHペプチドによる哺乳類細胞由来EGFRの自己リン酸化
【図16】cdc25Ha株におけるEGFR、EGF-FLO42、Sos-Grb2の発現
【図17】cdc25Ha株におけるEGFRおよびEGF-FLO42の局在
【図18】EGFR系に関する熱感受性相補実験
【図19】cdc25Ha株におけるリン酸化EGFRの局在
【図20】EGF-FLO42依存的なEGFRの二量体化による増殖促進と青色呈色
【図21】cdc25Ha株におけるIL5Rαおよびβcの発現
【図22】cdc25Ha株におけるIL5Rαおよびβcの局在
【図23】cdc25Ha株におけるJAK2の発現
【図24】cdc25Ha株におけるIL5依存的なJAK2の自己リン酸化
【図25】cdc25Ha株におけるIL5-FLO42の発現および局在
【図26】cdc25Ha株におけるIL5-FLO42依存的なJAK2の自己リン酸化およびリン酸化JAK2の局在
【図27】cdc25Ha株におけるSos-Shc1の発現
【図28】IL5系における熱感受性の相補および熱ショック耐性
【図29】BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42、IL5Rα、βc、JAK2、およびSTAT5aの発現
【図30】BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42の発現および局在
【図31】BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42依存的なSTAT5aのリン酸化の亢進
【図32】BY4741ΔTRP1株におけるIL5依存的なリン酸化STAT5aの核内局在
【図33】cdc25Ha株におけるIL6RαおよびIL6-FLO42の発現
【図34】有用分泌物質を高生産する動物細胞の蛍光による標的化
【図35】CHO細胞の表層への抗体の提示
【図36】Hybridoma 9D9の分泌抗体に由来する蛍光
【図37】マイクロチャンバー内でのHybridoma 9D9の蛍光
【図38】A431細胞による蛍光標識EGFの取り込み
【図39】トリプシン処理前、処理後、回収中、回収後のマイクロチャンバーの撮影像
【図A】1細胞ピッキング装置の概略図
【図B】マイクロチャンバーを示す図
【図C】検出部で得られた蛍光画像
【図D】解析部で各マイクロチャンバー座標の蛍光値を解析し、得られた結果のヒストグラム
【図E】従来法と1細胞ピッキング装置を用いる場合の比較
【図F】アゴニストスクリーニングの手順
【実施例】
【0113】
以下、本発明を実施例に従ってより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0114】
1: 酵母における一回膜貫通型レセプターの介するシグナル伝達再構成用プラスミドの構築
1-1: EGFR、IL5Rα、IL6Rαの発現プラスミドの構築
ヒト由来EGFR、IL5Rα、IL6Rαのそれぞれをコードする遺伝子を用いて、pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rαを構築した。
【0115】
1-1-1: pGMH20-MFα-FLAGの構築
酵母の分泌タンパク質MFα1のPrepro配列(MFα)(J. Bacteriol., 903-906頁, 1983年)をコードする遺伝子を鋳型としたPCRにより、Prepro配列をコードする遺伝子の3’側にFLAGタグ配列をコードし、かつ両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pGMH20(GAL1p、HIS3)に挿入して、pGMH20-MFα-FLAGを得た。
【0116】
1-1-2: pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rαの構築
PCRにより、成熟型EGFR、IL5Rα、IL6Rαをコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片をそれぞれ得た。これらの増幅断片を制限酵素にて消化し、pGMH20-MFα-FLAGに挿入して、pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rαを得た。
【0117】
1-2: 他のEGFR発現プラスミドの構築
種々の酵母株に適したEGFRの酵母発現系を検討するため、pBT3-SUC-EGFR-V5、pPR3-SUC-EGFR、pYES3-SUC-EGFR-V5を構築した。
【0118】
1-2-1: pPR3-SUC-EGFRおよびpBT3-SUC-EGFR-V5の構築
PCRにより、成熟型EGFRをコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pPR3-SUC(ADH1p、TRP1)(MoBiTec社)に挿入して、pPR3-SUC-EGFRを得た。また、同EGFR遺伝子断片のC末端側にV5タグを付加するように設計された遺伝子断片と共に、pBT3-SUC(CYC1p、LEU2) (MoBiTec社)に挿入して、pBT3-SUC-EGFR-V5を得た。
【0119】
1-2-2: pYES3-SUC-EGFR-V5の構築
pBT3-SUC-EGFR-V5を鋳型としたPCRにより、酵母の分泌タンパク質SUC2の分泌シグナル配列(Mol. Cell. Biol., 1812-1819頁, 1986年)をコードする遺伝子の3’側にEGFRおよびV5タグ配列をコードし、かつ両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pYES3(GAL1p、TRP1)(Invitrogen社)に挿入して、pYES3-SUC-EGFR-V5を得た。
【0120】
1-3: βcおよびgp130の発現プラスミドの構築
ヒト由来βcおよびgp130をコードする遺伝子を用いて、pGMT20-MFα-βcおよびpGMT20-MFα-gp130を構築した。
【0121】
1-3-1: pGMT20-MFα-HAの構築
MFα1のPrepro配列をコードする遺伝子を鋳型としたPCRにより、Prepro配列をコードする遺伝子の3’側にHAタグ配列をコードし、かつ両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pGMT20(GAL1p、TRP1)に挿入して、pGMT20-MFα-HAを得た。
【0122】
1-3-2: pGMT20-MFα-HA-βおよびpGMT20-MFα-gp130の構築
PCRにより、成熟型βcおよびgp130をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片をそれぞれ得た。これらの増幅断片を制限酵素にて消化し、pGMT20-MFα-HAに挿入し、pGMT20-MFα-HA-βcおよびpGMt20-MFα-HA-gp130を得た。
【0123】
1-4: JAK2の発現プラスミドの構築
マウス由来JAK2をコードする遺伝子を用いて、pAUR123-V5-JAK2およびpAURGAL1p-V5-JAK2を構築した。
【0124】
1-4-1: pAUR123-V5の構築
pAUR123(ADH1p、AUR1-C)を制限酵素にて消化し、V5タグ配列をコードする遺伝子を挿入して、pAUR123-V5を得た。
【0125】
1-4-2:p AURGAL1p-V5の構築
PCRにより、GAL1pをコードする遺伝子の増幅断片を得て、pAUR123からADH1pを欠失した遺伝子をコードする増幅断片を得た。これらの増幅断片を制限酵素にて消化し、連結することによってpAURGAL1pを得た。さらに、pAURGAL1pを制限酵素にて消化し、V5タグ配列をコードする遺伝子を挿入して、pAURGAL1p-V5を得た。
【0126】
1-4-3:p GEM-JAK2の構築
PCRにより、JAK2をコードする増幅断片を得た。この増幅断片の3’側にアデニンを付加し、pGEM T-Easyベクターに挿入して、pGEM-JAK2を得た。
【0127】
1-4-4: pAUR123-V5-JAK2およびpAURGAL1p-V5-JAK2の構築
pGEM-JAK2を鋳型としたPCRにより、JAK2をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pAUR123-V5およびpAURGAL1p-V5に挿入して、pAUR123-V5-JAK2およびpAURGAL1p-V5-JAK2を得た。
【0128】
1-5: STAT5aの発現プラスミドの構築
ヒト由来STAT5aをコードする遺伝子を用いて、pGML10-myc-STAT5aΔC-VP16を構築した。
【0129】
1-5-1: pGEM-myc-STAT5aΔC-VP16の構築
PCRにより、STAT5aのC末端側85アミノ酸に相当する配列を欠失させたSTAT5a変異体(STAT5aΔC)をコードする遺伝子の5’側にmycタグ配列をコードした遺伝子を付加し、かつ両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片の3’側にアデニンを付加しpGEM T-Easyベクターに挿入して、pGEM-myc-STAT5aΔCを得た。また、PCRにより、VP16をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pGEM-myc-STAT5aΔCに挿入して、pGEM-myc-STAT5aΔC-VP16を得た。
【0130】
1-5-2: pGML10-myc-STAT5aΔC-VP16
pGEM-myc-STAT5aΔC-VP16を鋳型としたPCRにより、myc-STAT5aΔC-VP16をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pGML10ベクター(GAL1p、LEU2; Biotechniques. 1998 Dec;25(6):936-8.)に挿入して、pGML10-myc-STAT5aΔC-VP16を得た。
【0131】
1-6: 表層提示型リガンドの発現プラスミドの構築
ヒト由来EGF、IL5、IL6、Helix-Loop-Helixランダムペプチドライブラリー(HLH)をコードする遺伝子を用いて、pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42、pYES2-MFα-HA-IL5-FLO42、pYES2-MFα-HA-IL6-FLO42、pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を構築した。
【0132】
1-6-1: pYES2-MFα-FLO42の構築
PCRにより、MFα1のPrepro配列をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片および酵母の細胞壁アンカーリングタンパク質 FLO42(Appl. Microbiol. Biotechnol., 469-474頁, 2002年)をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片をそれぞれ得た。これらの増幅断片を制限酵素にて消化し、pYES2(GAL1p、URA3)(Invitrogen社)に挿入して、pYES2-MFα-FLO42を得た。
【0133】
1-6-2: pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42、pYES2-MFα-HA-IL5-FLO42、pYES2-MFα-MFα-IL6-FLO42、pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42の構築
PCRにより、成熟型EGF、IL5、IL6をコードする遺伝子の5’側にHAタグ配列をコードし、かつ両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片をそれぞれ得た。同じく、(特許文献2)に従いPCRにより、HLHをコードする遺伝子の3’側にFLAGタグ配列をコードし、かつ制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。これらの増幅断片を制限酵素にて消化し、pYES2-MFα-FLO42に挿入して、pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42、pYES2-MFα-HA-IL5-FLO42、pYES2-MFα-HA-IL6-FLO42、pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を得た。
【0134】
1-7: Sos融合型Grb2およびShc1の発現プラスミドの構築
ヒト由来Grb2およびShc1をコードする遺伝子を用いて、pSos-Grb2およびpSos-Shc1を構築した。
【0135】
1-7-1: pSos-Grb2およびpSos-Shc1の構築
PCRにより、Grb2およびShc1をコードする遺伝子の両末端側に制限酵素部位を付加した増幅断片をそれぞれ得た。これらの増幅断片を制限酵素にて消化し、pSos(AHD1p、LEU2)に挿入して、pSos-Grb2およびpSos-Shc1を得た。
【0136】
2: EGFシグナルのアゴニストのスクリーニング例
2-1: EGFRの自己リン酸化検出によるスクリーニング例
哺乳類細胞において、EGFRはEGFの結合により自己リン酸化する。実施例2-1では、酵母においてHLHライブラリーを表層提示し、EGFRの自己リン酸化を検出することによって、アゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0137】
2-1-1: 入手した酵母株
一回膜貫通型シグナル伝達再構成に適した酵母を選定するため、酵母Saccharomyces cerevisiae BY4741株、BY4741ΔTRP1株、W303-1A株、W303-1B株、cdc25Ha株、cdc25Hα株、BJ5464株、NMY51株、BY2973株、BY3554株、BY4080株、BY4082株、BY4624株、BY5209株、BY21396株、BY21467株、BY20272株、BY8515株、BY20173株を入手した。各酵母株の遺伝子型を表1に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
2-1-2: EGF系に適した酵母の選定 実施例2-1-1の酵母株のうち、BY4741株、W303-1A株、W303-1B株、BJ5464株、BY2973株、BY3554株、BY4080株、BY4082株、BY4624株、BY5209株、BY21396株、BY21467株、BY20272株に、プラスミドpGMH20、pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、pBT3-SUC、pBT3-SUC-EGFR-V5を酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体BY2973/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BY21396/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BY4624/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BY4082/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BY4080/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BY5209/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、W303-1A/pGMH20、W303-1A/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、W303-1B/pGMH20、W303-1B/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BY4741/pGMH20、BY4741/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BJ5464/pBT3-SUC、BJ5464/pBT3-SUC-EGFR-V5を、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。その他の株、BY3554株、BY21467株、BY20272株については酵母形質転換体が得られなかった。
【0140】
2-1-3: 酵母形質転換体の培養
直径2〜3 mmに生育した酵母形質転換体のコロニーを3 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に植菌して30℃、200 rpmでOD600=1.0〜1.5まで前培養し、10 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地に初期OD600=0.2になるよう植菌して30℃、200 rpmでOD600=0.6〜2.0まで本培養した。本培養後必要に応じて、20 mM HEPES (pH 7.0)を加えた適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地中で、さらに1時間培養した。
【0141】
2-1-4: EGFRの発現
実施例2-1-2で得られた酵母形質転換体を培養後、遠心にて回収し、200μLの溶解液(50 mM Tris-HCl(pH7.3), 150 mM NaCl, 1% Triton X-100, 1 mM EGTA, 2 mM DTT, CompleteTM protease inhibitor cocktail tablet(Roche社)1個/10 mL)に懸濁し、グラスビーズあるいは自動破砕装置(Tokken社)で破砕して酵母粗抽出液を得た。遠心して上清(細胞質)画分および沈殿(細胞壁)画分に分離し(YEAST, 399-409頁, 1993年)、上清画分にSDS(終濃度0.5%)および2-メルカプトエタノール(終濃度1%)を添加した。沈殿画分には上清画分と等量の溶解液に再懸濁し、SDS(終濃度0.5%)および2-メルカプトエタノール(終濃度1%)を添加した。それぞれの画分を98℃で15分間煮沸し、N-Glycosidase(終濃度1 U/μL)およびO-Glycosidase(終濃度0.5 mU/μL)を添加後、37℃、30分間静置して反応をローディングバッファーでストップした。サンプルを抗FLAGマウスモノクローナル抗体および抗V5マウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図6に示す。
【0142】
図6に示したとおり、EGFR全長の発現の検出が容易な酵母株は、BJ5464株であると判明した。脱糖鎖修飾処理により、EGFRの計算分子量付近にEGFR-V5が見られたことから、EGFRは酵母細胞内において、糖鎖修飾されると明らかになった。W303-1A株およびW303-1B株に発現させたEGFRは、EGFR全長と比べて、短い断片として検出された。BY4741株については、まったく発現が見られなかった。他の株についても同様に、EGFRの安定した発現は見られなかった。
【0143】
2-1-5: BJ5464株におけるEGFRの発現の最適化およびEGF-FLO42の発現
EGFRの検出をより容易にするために、ADH1pを有するpBT3-SUC-EGFR-V5の代わりにGAL1pを有するpYES3-SUC-EGFR-V5を用いた。BJ5464株にプラスミドpYES2-MFα-FLO42、pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42、pYES3、pYES3-SUC-EGFR-V5を酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体BJ5464/pYES2-MFα-FLO42/pYES3、BJ5464/pYES2-MFα-FLO42/pYES3-SUC-EGFR-V5、BJ5464/pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42/pYES3-SUC-EGFR-V5を、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。実施例2-1-4で示したようにタンパク質を抽出し、抗V5マウスモノクローナル抗体および抗HAマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図7に示す。
【0144】
発現プロモータをGAL1pにしたことにより、より多くのEGFRの発現に成功した。また、細胞壁画分にEGF-FLO42の発現が確認された。
【0145】
2-1-6: BJ5464株におけるEGFRおよびEGF-FLO42の局在
EGF-FLO42の細胞壁への局在を観察するために、以下に記したとおり酵母形質転換体を標識した。実施例2-1-5で得られた酵母形質転換体を培養後回収して一次抗体として抗HAマウスモノクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに二次抗体としてAlexa488標識した抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体を添加し、30分間反応後に洗浄して酵母蛍光サンプルを得た。
【0146】
また、EGFRの細胞膜への局在を観察するために、以下に記したとおり細胞壁を除去して標識した。実施例2-1-5で得られた酵母形質転換体を4%パラホルムアルデヒドで固定化した後、ソルビトール緩衝液(40 mM リン酸カリウム(pH 6.5), 0.5 mM MgCl2, 1.2 M ソルビトール)で2回洗浄した。固定化した酵母を500μLのソルビトール緩衝液に再懸濁し、0.3 mgのZymolyase 20Tを添加後、37℃、10分間静置してソルビトール緩衝液で2回洗浄した。一次抗体として抗V5マウスモノクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに二次抗体としてAlexa488標識した抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体を添加し、30分間反応後に洗浄して酵母蛍光サンプルを得た。これらの酵母蛍光サンプルについて、共焦点レーザー顕微鏡による観察を行った。結果を図8に示す。
【0147】
EGF-FLO42は細胞壁に局在し、EGFRは細胞膜に局在した。よって、EGFとEGFRの両方の酵母細胞表層への提示に成功したと示された。
【0148】
2-1-7: BJ5464株におけるEGFRの自己リン酸化
実施例2-1-5で得られた酵母形質転換体の細胞壁を除去し、一次抗体としてEGFRのアミノ酸の1068、1148、1173番目のそれぞれのリン酸化チロシンを認識する抗EGFR pY1068マウスモノクローナル抗体、抗EGFR pY1148ラビットポリクローナル抗体、抗EGFR pY1173ゴートポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに二次抗体としてAlexa488標識した抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体、抗ラビットIgGゴートポリクローナル抗体、抗ゴートIgGドンキーポリクローナル抗体をそれぞれの一次抗体に対し適宜添加し、30分間反応後に洗浄してフローサイトメーターおよび共焦点レーザー顕微鏡による解析を行った。結果を図9に示す。
【0149】
フローサイトメーターの結果から分かるとおり、表層提示したEGFに依存したEGFRの自己リン酸化が検出された。さらに、EGFRが自己リン酸化するには、哺乳類に見られるような生理的pHが必要であることも見出した。また、顕微鏡による観察結果から、自己リン酸化したEGFRは哺乳類細胞と同様に細胞膜に局在すると判明した。
【0150】
2-1-8: 1細胞ピッキング装置を用いた陽性酵母の回収および一細胞PCRの検討
陽性酵母を1細胞ピッキング装置を用いて回収し、一細胞PCRによりEGF遺伝子が同定できるかどうか検討した。実施例2-1-7で得られた酵母蛍光サンプルをマイクロチャンバー上に蒔き、1細胞ピッキング装置を用いて6陽性酵母を回収し、80μLのMilliQを入れた96-ウェルPCRプレートの6ウェルに吐出した。このPCRプレートを乾燥機にて80℃で約3時間乾燥させ、Nested & Touch dowon PCRを行った。結果を図10に示す。
【0151】
6陽性酵母を回収したうち、5陽性酵母について一細胞PCRに成功した。このことから、1細胞ピッキング装置による一細胞回収および一細胞PCRからなる一連の操作における、遺伝子同定の成功率は約8割であると示された。
【0152】
以上より、1細胞ピッキング装置による、自己リン酸化したEGFRを有する酵母の取得が可能であることが示された。この事は、EGFRの自己リン酸化を検出することにより、EGFシグナルのアゴニストのハイスループットスクリーニングが可能であることを示す。
【0153】
2-1-9: BJ5464株へのpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42の導入効率の検討
pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を用いたEGRシグナルのアゴニストのスクリーニングをするにあたり、より大きなプラスミドサイズを有するpYES2-MFα-HA-EGF-FLO42を用いて、プラスミドの導入効率の検討を行った。酵母形質転換体BJ5464/pYES3-SUC-EGFR-V5を100 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地にて、30℃、200 rpmで16時間前培養した。300mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に初期OD600=0.15となるように前培養液を加え、30℃、200 rpmでOD600=0.6になるまで本培養した。培地量とプラスミド量の最適化をはかるため、本培養した菌体を回収後、6本の15-mLチューブに分注し、酢酸リチウム法により100 mL培養あたり、0.5、5.0、50μgのpYES2-MFα-HA-EGF-FLO42を導入した。また、プラスミドの取り込みに適した温度および静置時間を検討するため、25℃および42℃のそれぞれの温度において15、30、60、120、180分間静置した。結果を図11に示す。
【0154】
構造固定型ペプチドライブラリーであるHLHは、Cアミノ末端側に位置するヘリックスを構成するアミノ酸残基の内、溶媒接触可能表面の5アミノ酸がランダマイズされており、20アミノ酸の5乗、すなわち3.2x106種類あり、酵母形質転換体において、同数以上のインディペンデントクローンが必要とされる。このインディペンデントクローンを網羅するための温度と時間が、42℃で15分と確定された。さらに、表2に示したように、必要なインディペンデントクローンを得るため要求される培養量とpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42量の関係が明らかとなった。これらのことから、ライブラリースクリーニングを行うにあたり、実施効率のよい形質転換を行うことが可能である。
【0155】
【表2】
【0156】
2-1-10: ライブラリートランスフォーメーション
表2を参考に、500 mL培養および250μgのpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を用いて、ライブラリーの導入を行った。実施例2-1-9に従って、pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体BJ5464/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42/pYES3-SUC-EGFR-V5を適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地に得た。この時のコロニー数は5x106個であり、必要とされるインディペンデントクローン数が網羅された。プレート上の全てのコロニーをかきとって1つにまとめグリセロールストックを作成し、2-mLチューブに、1 mLずつ分注して-80℃に保管した。また、この時の酵母細胞数をカウントしたところ、グリセロールストック1 mLあたり、2.88x109細胞が含まれていた。
【0157】
2-1-11: BJ5464株におけるHLHの局在およびEGFRの発現確認
BJ5464/pYES2-HLH-FLAG-FLO42/pYES3-SUC-EGFR-V5のグリセロールストック100 μL(2.88x108細胞)を100 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に添加して初期OD600=0.16であることを確認した。菌体を30℃、200 rpmで8時間前培養し、100 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地に初期OD600=0.16で植菌して30℃、200 rpmでOD600=2.0まで本培養した。本培養後、20 mM HEPES(pH7.0)を加えた適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地でさらに1時間培養し、実施例2-1-6に示した方法に従い、抗FLAGマウスモノクローナル抗体およびAlexa488標識した抗マウスIgGゴートポリクローなる抗体を用いて標識し、HLHの局在を共焦点レーザー顕微鏡により観察した。また、細胞壁を除去した後、実施例2-1-6のように、抗V5マウスモノクローナル抗体を用いて標識し、フローサイトメーターによりEGFRの発現の確認をした。結果を図12に示す。
【0158】
EGFR発現がフローサイトメーターにより確認された。また顕微鏡観察からHLHは細胞壁に局在すると確認された。
【0159】
2-1-12: 1細胞ピッキング装置を用いたライブラリースクリーニング
実施例2-1-11のように培養した酵母を回収して細胞壁を除去した後、抗EGFR pY1173ゴートポリクローナル抗体を用いて標識し、1細胞ピッキング装置を用いて陽性酵母を80μLのMilliQを添加した96-ウェル PCRプレートに回収した。回収した陽性酵母について、以下に示す要領でNested&Touch dowon PCRを行った。ウェルに1st PCR反応液(10xKOD-Plus- buffer 0.5μL, 2 mM dNTPs 0.5μL, 25 mM MgSO4 0.2μL, 1μM 5’-primer(i) 0.3μL, 1μM 3’-primer(ii) 0.3μL, DMSO 0.25μL, 滅菌水2.85μL, Kod -Plus- 0.1μL)を加え、Touch down cycleについては、Preheat 94℃(5 min)→Denature 94℃(60sec)Annealing 73〜61℃(-1℃/cycle, 20 sec)→Extention 68℃(90 sec)でPCRを行い、引き続きDenature 94℃(60 sec)→Annealing 64℃(30 sec)→Extention 68℃(90 sec)x45 cycles→Final extention 68℃(7 min)でPCRを行った。反応後、1st PCR反応液に、2nd PCR反応液(10xKOD-Plus-buffer 1μL, 2 mM dNTPs 1μL, 25 mM MgSO40.4μL, 10μM 5’-primer(iii) 0.3μL, 10μM 3’-primer(iv) 0.3μL, DMSO 0.5μL, 滅菌水6.3μL, Kod-Plus-0.2μL)を加え、Touch down cycleについては、Preheat 94℃(2 min)→Denature 94℃(60 sec)→Annealing 77〜63℃(-1℃/cycle, 20 sec)→Extention 68℃(15 sec)でPCRを行い、引き続きDenature 94℃(60 sec)→Annealing 66℃(30 sec)→Extention 68℃(15 sec)x45 cycles→Final extention 68℃(7 min)でPCRを行った。1細胞ピッキング装置による陽性酵母の回収像、用いたPrimerの配列、1細胞PCRの結果を図13に示す。
【0160】
図13に示した1マイクロチャンバーあたりの陽性酵母の回収に要する時間は約30秒であると確認された。また、一細胞PCRによって67マイクロチャンバーから回収したうち、57マイクロチャンバーにおいてHLH-FLAGをコードする遺伝子断片の取得に成功した。合計3.6x106個のマイクロチャンバーから488の陽性酵母を検出し、蛍光輝度値のTOP67を回収し、85%の確率で遺伝子断片を取得に成功した。培養からHLH-FLAG遺伝子断片の回収に要した時間は8日間であった。
【0161】
2-1-13: アゴニスト配列の同定および大腸菌を用いた発現精製
実施例2-1-12で得られたHLH-FLAGをコードする遺伝子断片を、pET102-TOPOベクター(Invitrogen社)に挿入し、プラスミドpET102-HLH-FLAGを得て、シーケンスにより配列を決定した。このプラスミドから発現されるタンパク質はNアミノ末端側に発現タンパク質の可溶性度を上昇させ、さらにNiやCoと結合能を有するヒスパッチ-チオレドキシン(TrxHP)およびCアミノ末端側にV5とヘキサヒスチジン(His6)からなるタンデムタグが付加されるため、NiやCo担体を用いたアフィニティー精製が可能である。このプラスミドを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、Ampを含むLB寒天培地上に大腸菌形質転換体を得て、Overnight Express Autoinduction System(メルク社)を用いて培養した。発現したタンパク質(TrxHP-HLH-FLAG-His6)を96-ウェルCo-キレート担体プレート(Takara社)を用いてアフィニティー精製し、SDS-PAGEおよびCBB染色により発現および精製の確認を行った。結果を図14に示す。
【0162】
図14に示したとおり、TrxHP-HLH-FLAG-His6の精製物が得られた。
【0163】
2-1-14: TrxHP-HLH-FLAG-His6を用いた哺乳類細胞のEGFRの活性化検討
実施例2-1-13で得られた精製TrxHP-HLH-FLAG-His6の12種類について、哺乳類細胞のEGFシグナルを作動させるかどうか検討した。EGFRを過剰発現する扁平上皮癌由来A431細胞を血清成分不含の培地中で20時間静置培養し、50 nMの精製アゴニストを添加し、5分後培地を廃棄して、溶解液(50 mM Tris-HCl(pH7.3), 150 mM NaCl, 1% Triton X-100, 1 mM EGTA, 1 mM DTT, 1 mM Na3VO4, Phosphatase inhibitor cocktail(シグマ社)1/100量, CompleteTM protease inhibitor cocktail 1個/50 mL)に懸濁した。これらのサンプルを抗EGFR pY1173抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図15に示す。
【0164】
図15に示したとおり、TrxHP-HLH-FLAG-His6依存的なEGFRの自己リン酸化が、9検体中7検体で見られた。これはTrxHP-HLH-FLAG-His6にEGFシグナルの作動性があることを示す。
【0165】
以上より、ヒト由来一回膜貫通型レセプターに対するアゴニストスクリーニングの短時間・低コストのハイスループット化が、酵母を用いることにより可能であると実証された。1細胞ピッキング装置を用いた操作〜哺乳類細胞におけるEGFRのアッセイまでの、各種スコアを表3に示す。
【0166】
また、図14で示したTrxHP-HLH-FLAG-His6の模式図からわかるとおり、エンテロキナーゼを用いてHLH-FLAG部分を切り出して、抗FLAG抗体カラムなどを用いれば、よりコンパクトなHLH-FLAGコアの単離・精製も可能である。さらに、HLHは構造が固定されているため、溶媒接触可能表面に座するアミノ酸側鎖の電荷量などのコンピューテーショナル解析も可能であり、ファーマコフォアの抽出によるアゴニスト活性を有する化合物への置き換えなどが容易である。
【0167】
【表3】
【0168】
2-2: EGFシグナル伝達を利用したアゴニストのスクリーニング例
自己リン酸化したEGFRは、Grb2およびShc1などのアダプタータンパク質を細胞膜近傍にリクルートする。これらのアダプタータンパク質は、Sos(細胞増殖因子Rasの活性化因子)をさらにリクルートし、細胞増殖を促進する。哺乳類由来のSosは、酵母由来Rasも活性化すると知られており、このことを利用して酵母の増殖シグナルを活性化するスクリーニングシステムを構築し、アゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0169】
2-2-1: 酵母形質転換体の作成
熱感受性酵母cdc25Ha株にプラスミドpYES2-MFα-FLO42、pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42、pGMH20、pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、pSos、pSos-Grb2、pSos-Shc1を酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20/pSos、cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Grb2、cdc25Ha/pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Grb2、cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Shc1、cdc25Ha/pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Shc1を、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。
【0170】
2-2-2: 酵母形質転換体の培養
直径2〜3 mmに生育した酵母形質転換体のコロニーを3 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に植菌して25℃、200 rpmでOD600=1.0〜1.5まで前培養し、10 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地に初期OD600=0.2になるよう植菌して25℃、200 rpmでOD600=0.6〜2.0まで本培養した。
【0171】
2-2-3: cdc25Ha株におけるEGFR、EGF-FLO42、Sos-Grb2の発現
実施例2-2-1で得られた酵母形質転換体を培養後、実施例2-1-4で示したようにタンパク質を抽出し、抗FLAGマウスモノクローナル抗体、抗HAマウスモノクローナル抗体、抗Sosマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図16に示す。
【0172】
可溶性画分において、脱糖鎖修飾処理前に見られなかったヒト由来EGFRのバンドが、処理後に計算分子量付近に確認された。このことから酵母において、EGFRタンパク質の発現および糖鎖修飾を受けることが確認された。また、EGFの発現が細胞壁を含む不溶性画分に見られた。また、pSos-Grb2から発現されるSos融合型Grb2(Sos-Grb2)の発現が可溶性画分において検出された。
【0173】
2-2-4: cdc25Ha株におけるEGFRおよびEGF-FLO42の局在
実施例2-2-1で得られた酵母形質転換体を培養後、実施例2-1-6と同様の方法で、抗FLAGマウスモノクローナル抗体および抗HAマウスモノクローナル抗体を用いて標識し、蛍光顕微鏡による観察を行った。結果を図17に示す。
【0174】
BJ5464の時と同様に、cdc25Ha株においても、EGFRおよびEGF-FLO42の酵母細胞表層への提示に成功した。
【0175】
2-2-5: cdc25Ha株におけるEGFシグナルを利用した熱感受性相補
酵母に発現させたそれぞれのタンパク質EGF-FLO42、EGFR、Sos-Grb2、Sos-Shc1が機能すれば、熱感受性酵母であるcdc25Ha株が37℃において増殖可能になると期待される。実施例2-2-1で得られた酵母形質転換体を培養後、培養液原液、10、100、1000倍希釈、あるいは4、16、64倍希釈して、適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal寒天培地上に10μlずつ滴下し、25℃および37℃で14日間培養した。結果を図18に示す。
【0176】
熱感受性実験の結果、酵母におけるEGFシグナル伝達再構成に必要と考えられるEGF-FLO42、EGFR、Sos-Grb2を全て発現させた酵母形 質転換体においてのみ、37℃における増殖が確認された。また、Sos-Grb2のかわりにSos-Shc1を発現させた時、熱感受性の相補はより改善された。
【0177】
以上より酵母において発現させたEGF-FLO42の刺激をEGFRが受け、Sos-Grb2およびSos-Shc1にシグナルが流れていると考えられた。Grb2やShc1がEGFRに結合するには、EGFRが自己リン酸化されている必要があり、本実験の結果から、実施例2で示されたBJ5464株と同様に、EGFRの自己リン酸化がcdc25Ha株内において哺乳動物と同様に生じていると示唆された。このcdc25Ha株におけるEGFRの自己リン酸化は、BJ5464の時と同様な蛍光抗体を用いた免疫染色により証明した。結果を図19に示す。
【0178】
2-2-6: cdc25Ha株へのpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42の導入効率の検討
実施例2-1-9と同様に、pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42を用いて、プラスミドの導入効率の検討を行った。酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Grb2を100 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地にて、25℃、200 rpmで16時間前培養した。50 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に初期OD600=0.15となるよう前培養液を加え、25℃、200 rpmでOD600=0.6になるまで本培養した。培地量とプラスミド量の最適化をはかるため、本培養した菌体を回収後、3本の15-mLチューブに分注し、酢酸リチウム法により150 mL培養あたり、0.5、5.0、50μgのpYES2-MFα-HA-EGF-FLO42を導入した。また、プラスミドの取り込みに適した静置時間を検討するため、25℃において15、60、180分間静置した。
【0179】
結果として、50 mLの本培養において、50μgのプラスミドを用いて、180分静置した時に得られたコロニー数が、1.65x104個であり、1 Lの本培養において、1 mgのプラスミドを用いれば、6.6x106種類のインディペンデントクローンが得られると確定した。また、メイティング法によるライブラリートランスフォーメーションも考慮にいれ、cdc25Hα株へのpYES2-MFα-HA-EGF-FLO42の導入効率の検討も同様におこなったところ、1 Lの本培養において、1 mgのプラスミドを用いた時、3.2x107種類のインディペンデントクローンが得られた。
【0180】
2-2-7: EGFシグナル伝達を利用したアゴニストのライブラリースクリーニング
実施例2-2-6を参考に、酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Shc1を培養してライブラリートランスフォーメーションを行い、得られた形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Shc1を、熱感受性を利用したスクリーニングに供したところ、新たなEGFシグナルのアゴニストを見出した。
【0181】
2-3: EGFRの二量体化検出によるスクリーニング例
哺乳類細胞においてEGFRは、EGFが結合すると、細胞膜上で二量体化することが知られている。酵母においてpBT3-SUCベクターより発現されるEGFRは、Cアミノ末端側にCub-LexA-VP16タンパク質が融合され発現される。一方、pPR3-SUCベクターより発現されるEGFRは、Cアミノ末端側にNubタンパク質が融合され発現される。EGFRが二量体化すると、CubとNubが酵母細胞質内で近接し、Cub-Nub近接高次構造を認識する酵母内在性のユビキチン加水分解酵素によりCubのCアミノ末端側直後が切断される。このことにより、LexA-VP16が遊離して酵母核内に移行し、レポーター遺伝子を活性化する。実施例2-3では、酵母においてHLHライブラリーを表層提示し、EGFRの二量体化をレポーター検出することによって、アゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0182】
2-3-1: 酵母形質転換体の作成
LacZ、HIS3、ADE2レポーター遺伝子がゲノムに組み込まれた酵母NMY51に、プラスミドpYES2-MFα-FLO42、pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42、pBT3-SUC-EGFR-V5、pPR3-SUC-EGFRを、酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体NMY51/pYES2-MFα-FLO42/pBT3-SUC-EGFR-V5/pPR3-SUC-EGFRおよびNMY51/pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42/pBT3-SUC-EGFR-V5/pPR3-SUC-EGFRを、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。
【0183】
2-3-2: NMY51株におけるEGFRの二量体化
実施例2-3-1で得られた酵母形質転換体を培養後、培養液原液、10、100倍希釈して、X-galおよび適切なアミノ酸を含むSD+GlcおよびSD+Raf/Gal寒天培地に10μlずつ滴下し、30℃において7日間静置培養した。結果を図20に示す。
【0184】
EGF-FLO42の発現はガラクトースにより誘導される。図20に見られるように、グルコースを含む培地ではコントロールと陽性対象の間で、色や増殖に殆ど差は見られなかったのに対し、ガラクトースを含む培地では、陽性対象の方が、早く増殖して、強く青色に呈色した。これは、ガラクトースにより発現誘導されたEGF-FLO42によりEGFRの二量体化が促進され、HIS3、Ade2、LacZレポーター遺伝子が発現誘導されて増殖や呈色に有利に働いたためである。
【0185】
2-3-3: EGFRの二量体化検出によるアゴニストのライブラリースクリーニング
酵母形質転換体NMY51/pBT3-SUC-EGFR-V5/pPR3-SUC-EGFR/pPR3-SUC-EGFRを培養してライブラリートランスフォーメーションを行い、得られた形質転換体NMY51/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42/pBT3-SUC-EGFR-V5/pPR3-SUC-EGFR/pPR3-SUC-EGFRを、EGFRの二量体化検出によるスクリーニングに供したところ、新たなEGFシグナルのアゴニストを見出した。
【0186】
3: IL5シグナルのアゴニストのスクリーニング例
3-1: JAK2の自己リン酸化検出によるIL5シグナルのアゴニストのスクリーニング例
哺乳類細胞においてIL5シグナルは、IL5Rαおよびβc(IL5Rα/βc)からなるレセプター二量体と、細胞内においてβcと結合するJAK2からなるヘテロ三量体により構成される。IL5Rα/βcはIL5の結合により、細胞膜上でさらに多量体化し、この時JAK2の自己リン酸化を促す。実施例3-1では、酵母においてHLHライブラリーを表層提示し、JAK2の自己リン酸化を検出することによって、IL5シグナルのアゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0187】
3-1-1: IL5シグナル伝達再構成に適した酵母の選定
実施例2-1-1の酵母株のうち、cdc25Ha株、W303-1A株、BY4741ΔTRP1株、BY2973株、BY4082株、BY4624株に、プラスミドpGMH20、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMT20、pGMT20-HA-βcを酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20/pGMT20、cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-HA-βc、BY4741ΔTRP1/pGMH20/pGMT20、BY4741ΔTRP1/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-HA-βc、BY2973/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-HA-βc、BY4082/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-HA-βc、BY4624/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-HA-βcを、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。W303-1A株については、形質転換体が得られたものの、安定して増殖しないため使用しなかった。
【0188】
3-1-2: 酵母形質転換体の培養
直径2〜3 mmに生育した酵母形質転換体のコロニーを3 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に植菌して25℃および30℃、200 rpmでOD600=1.0〜1.5まで前培養し、10 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地に初期OD600=0.2になるよう植菌して25℃および30℃、200 rpmでOD600=0.6〜2.0まで本培養した。
【0189】
3-1-3: IL5Rα/βcの発現
実施例3-1-1で得られたそれぞれの酵母形質転換体を培養後、遠心にて回収し、実施例2-1-4に従って、抗FLAGマウスモノクローナル抗体および抗HAマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図21に示す。
【0190】
図21より、IL5Rα/βcの発現の検出が容易な酵母株は、cdc25HaおよびBY4741ΔTRP1であると判明する一方で、BY4082株も有望と思われた。また、脱糖鎖修飾処理により、IL5Rα/βcのバンドシフトが見られたことから、IL5Rα/βcは酵母細胞内において、糖鎖修飾されると明らかになった。
【0191】
3-1-4: cdc25Ha株におけるIL5Rα/βcの局在
IL5Rα/βcの局在を調べるため、実施例3-1-3でIL5Rα/βcの発現を確認した酵母形質転換体のうち、比較的レセプターの発現量の多いcdc25Haを用いて以下の実験を行った。cdc25Ha株に、プラスミドpGMH20、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMT20、pGMT20-MFα-HA-βc、pAUR123、pAUR123-V5-JAK2、pAURGAL1p、pAURGAL1p-V5-JAK2を、酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20/pGMT20/pAUR123-V5、cdc25Ha/pGMH20/pGMT20/pAUR123-V5-JAK2、cdc25Ha/pGMH20-MFα1-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAUR123-V5-JAK2、cdc25Ha/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p-V5、cdc25Ha/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p-V5-JAK2、cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2を、0.5μg/mlのオーレオバシジンA(TaKaRa社)を加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。実施例3-1-2のように培養した酵母形質転換体を、実施例2-1-6と同様の方法で、一次抗体として抗FLAGマウスモノクローナル抗体および抗HAラビットポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに二次抗体としてCy3標識した抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体およびAlexa430標識した抗ラビットIgGゴートポリクローナル抗体を添加し、30分間反応後に洗浄して酵母蛍光サンプルを得て、蛍光顕微鏡による観察を行った。結果を図22に示す。
【0192】
IL5Rαおよびβcの両方とも細胞膜に局在した。このことから、酵母においてIL5を受容する系の構築は可能であると示された。
【0193】
3-1-5: cdc25Ha株におけるJAK2の発現
JAK2の発現を見るため、実施例3-1-4で得られた酵母形質転換体を培養し、実施例2-1-4に従って、抗V5マウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図23に示す。
【0194】
図23に示したとおり、ADH1p発現制御下にあるJAK2の発現は、OD600=2.0でしか検出されず、GAL1p発現制御下にあるJAK2の発現は、OD600=0.6〜OD600=2.0にかけて高発現すると判明した。
【0195】
3-1-6: cdc25Ha株における精製IL5依存的なJAK2の自己リン酸化
JAK2の自己リン酸化が、精製IL5依存的に酵母内で起こるかどうか以下のように実施した。実施例3-1-4で得られた酵母形質転換体を培養し、OD600=2.0の時点で、精製IL5を添加してさらに1時間培養した。実施例2-1-6と同様の方法で、一次抗体として抗リン酸化JAK2ラビットポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに二次抗体としてAlexa488標識した抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体を添加し、30分間反応後に洗浄した。得られた酵母蛍光サンプルを、フローサイトメーターによる解析および蛍光顕微鏡による観察を行った。結果を図24に示す。
【0196】
精製IL5を添加して1時間反応培養後に、IL5依存的なJAK2の自己リン酸化シグナルの亢進が確認された。また、顕微鏡観察から、リン酸化JAK2は細胞膜周辺に局在すると判明した。
【0197】
3-1-7: cdc25Ha株における表層提示型IL5依存的なJAK2の自己リン酸化
実施例3-1-6により、JAK2の自己リン酸化を検出することによるIL5シグナル作動性アゴニストのライブラリースクリーニングが可能と思われた。そこで、表層提示型IL5依存的なJAK2の自己リン酸化の亢進が確認できるかどうかを検討するため、cdc25Ha/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p-V5およびcdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2に、pYES2-MFα-FLO42およびpYES2-MFα-HA-IL5-FLO42を酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p-V5、cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2、cdc25Ha/pYES2-MFα-HA-IL5-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2を、0.5μg/mlのオーレオバシジンA(TaKaRa社)を加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。
【0198】
3-1-8: cdc25HaにおけるIL5-FLO42の発現および局在
実施例3-1-7で得られた酵母形質転換体を培養後、実施例2-1-4で示したようにタンパク質を抽出し、抗HAマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。また、実施例2-1-6のように、抗HAマウスモノクローナル抗体を用いて標識し、蛍光サンプルを蛍光顕微鏡にて観察した。結果を図25に示す。
【0199】
IL5-FLO42の発現が確認された。また、IL5-FLO42の酵母細胞表層への提示も確認された。
【0200】
3-1-9: cdc25HaにおけるIL5-FLO42依存的なJAK2の自己リン酸化
実施例3-1-7で得られた酵母形質転換体を培養後、実施例2-1-4で示したようにタンパク質を抽出し、抗リン酸化JAK2マウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。また、細胞壁を除去した後、実施例3-1-6のように、抗リン酸化JAK2ラビットポリクローナル抗体を用いて標識した。得られた蛍光サンプルについて、フローサイトメーターによる解析および顕微鏡による観察を行った。結果を図26に示す。
【0201】
ウェスタンブロットやフローサイトメーターの解析の結果、IL5-FLO42依存的なJAK2の自己リン酸化の亢進が検出された。また顕微鏡による観察から、リン酸化JAK2の局在は細胞膜において観察された。
【0202】
3-1-10: 1細胞ピッキング装置を用いたライブラリースクリーニング
表層提示型IL5依存的な、JAK2の自己リン酸化の亢進が見られたので、EGFRと同様、自己リン酸化したJAK2を認識する抗体を用いることによるライブラリースクリーニングが可能と思われた。cdc25Hα株に、酢酸リチウム法によりpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を導入し、酵母形質転換体cdc25Hα/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得て、酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2とのメイティング法によりHLHライブラリー遺伝子を導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2を、0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地に得た。得られた形質転換体を培養し、HLH、IL5Rα、βc、JAK2を発現させ、抗リン酸化JAK2ラビットポリクローナル抗体を用いて標識して酵母蛍光サンプルを得た。1細胞ピッキング装置を用いて、スクリーニングに供したところ、IL5シグナルのアゴニストを見出した。
【0203】
3-2: IL5シグナル伝達を利用したアゴニストのスクリーニング例
自己リン酸化したJAK2は活性化し、βcをリン酸化する。リン酸化βcは、Shc1を細胞膜近傍にリクルートする。従って、実施例2-2で示したように、IL5系についても酵母の増殖シグナルを活性化するスクリーニングシステムを構築し、アゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0204】
3-2-1: 酵母形質転換体の作成
実施例3-1-7で得られた酵母形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p-V5、cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2、cdc25Ha/pYES2-MFα-HA-IL5-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2に、pSosおよびpSos-Shc1を酢酸リチウム法を用いて導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p/pSos、cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1、cdc25Ha/pYES2-MFα-HA-IL5-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1を得た。
【0205】
3-2-2: Sos-Shc1の発現
Sos-Shc1の発現を見るため、実施例3-2-1で得られた酵母形質転換体を培養後、遠心にて回収し、実施例2-1-4に従って、抗Sosマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図27示す。
【0206】
図27に示したとおり、Sos-Shc1の発現が確認され、図21、図23、図25と合わせて、酵母においてIL5シグナル伝達再構成系に必要な全てのタンパク質の発現が確認されたこととなる。このことは酵母において世界初の成果である。
【0207】
3-2-3: cdc25Ha株におけるIL5シグナルを利用した熱感受性の相補および熱ショック耐性
実施例2-2-5で示したように、実施例3-2-1で得られた酵母形質転換体を前培養し、ガラクトースを含む培地でタンパク質を誘導した後、0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+GlcおよびSD+Raf/Gal寒天培地に10μLを滴下して、25℃にて15日間静置培養した。また、タンパク質の誘導後、42℃で0、2、4、8時間熱ショックを与え1000細胞を同寒天培地上にスプレッドして25℃で培養し、生存率を検定した。結果を図28に示す。
【0208】
ガラクトースで発現誘導されたIL5-FLO42依存的な熱感受性の相補が見られた。また、IL5-FLO42を誘導発現させることにより、熱に対する耐性が獲得されることが示された。以上より、熱感受性の相補を利用したIL5シグナルのアゴニストのスクリーニングが可能と考えられた。
【0209】
3-2-4: IL5シグナル伝達を利用したアゴニストのライブラリースクリーニング
熱感受性の相補を利用したスクリーニングをするために、cdc25Ha株に、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMT20-MFα-HA-βc、pAURGAL1p-V5-JAK2、pSos-Shc1を、酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1を0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。引き続き実施例2-2-6で示したように、cdc25Hα株に、酢酸リチウム法によりpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を導入し、酵母形質転換体cdc25Hα/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。HLHライブラリー遺伝子の導入をメイティング法により行って熱感受性を利用したスクリーニングを供したところ、IL5シグナルのアゴニストを見出した。
【0210】
3-3: STAT5aの転写活性化を利用したアゴニストのスクリーニング例
自己リン酸化したJAK2は活性化し、βcをリン酸化する。続いてβcのリン酸化チロシン残基は転写因子STAT5aと結合する。このように、IL5の刺激によりSTAT5aはJAK2近傍にリクルーティングされ、JAK2によりリン酸化され二量体を形成し、核内移行する。実施例3-3では、酵母においてHLHライブラリーを表層提示し、転写因子STAT5aのチロシンリン酸化を検出することによって、IL5シグナルのアゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0211】
3-3-1: 酵母形質転換体の作成
実施例3-1で示したように、cdc25Ha株においてアゴニストのスクリーニングが達成された。次に示す系では、培養時間短縮の為、30℃で培養可能な酵母株を用いることが好まれる。そこで、IL5-FLO42、IL5Rα、βc、JAK2、STAT5aの発現を調べるため、実施例3-1-3でIL5Rα/βcの発現を確認した酵母形質転換体のうち、cdc25Haと同じく比較的レセプターの発現量の多いBY4741ΔTRP1を用いて以下の実験を行った。BY4741ΔTRP1株に、プラスミドpGMH20、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMT20、pGMT20-MFα-HA-βc、pAURGAL1p-V5、pAURGAL1p-V5-JAK2、pGML10、pGML10-myc-STATΔC-VP16を、酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体BY4741ΔTRP1/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p-V5/pGML10、BY4741ΔTRP1/pYES2-MFα-IL5-HA-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2を得た。
【0212】
3-3-2: BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42/IL5Rα/βc/JAK2/STAT5aの発現
BY4741ΔTRP1におけるIL5-FLO42、IL5Rα、βc、JAK2、およびSTAT5aの発現を見る為、実施例3-3-1で得られた酵母形質転換体を培養後、遠心にて回収し、実施例2-1-4に従って、抗HAマウスモノクローナル抗体、抗FLAGマウスモノクローナル抗体、抗V5マウスモノクローナル抗体、および抗VP16抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図29に示す。図29に示したとおり、BY4741ΔTRP1株において、IL5-FLO42、IL5Rα、βc、JAK2、およびSTAT5aの全ての発現が確認された。
【0213】
3-3-3: BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42の局在
BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42の局在を調べる為、実施例3-1-6のように抗体HAマウスモノクローナル抗体を用いて標識し、蛍光サンプルを共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。結果を図30に示す。
【0214】
図30に示したとおり、cdc25Ha株の時と同様に、BY4741ΔTRP1株においてもIL5-FLO42は細胞壁に局在すると確認された。
【0215】
3-3-4: BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42依存的なSTAT5aのリン酸化
以上の実施例より、BY4741ΔTRP1株において、IL5依存的なJAK2を介するSTAT5aのチロシンリン酸化が生じると予想された。そこで、STAT5aのリン酸化を調べる為、実施例3-3-1で得られた酵母形質転換体を培養後、実施例2-1-4で示したようにタンパク質を抽出し、抗リン酸化STAT5a抗体を用いたウェスタンブロットに供した。また、細胞壁を除去した後、抗リン酸化STAT5a抗体を用いて蛍光標識した。得られた蛍光サンプルについて、フローサイトメーターによる解析を行った。結果を図31に示す。
【0216】
ウェスタンブロットやフローサイトメーターの解析の結果、IL5-FLO42依存的なSTAT5aのリン酸化の亢進が見られた。
【0217】
3-3-5: BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42依存的なリン酸化STAT5aの核内移行
リン酸化STAT5aは二量体を形成し、核内に移行して転写を活性化する転写因子である。実施例3-3-4で示したように、BY4741ΔTRP1株においてIL5依存的なJAK2の介するSTAT5aのリン酸化が見られたことから、リン酸化STAT5aが核内に局在すると予想された。実施例3-3-4のように調製したリン酸化STAT5aについての蛍光標識サンプルを共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。結果を図32に示す。
【0218】
図32に示したように、IL5依存的なリン酸化STAT5aの核内局在が観察された。
【0219】
3-3-6: 1細胞ピッキング装置を用いたライブラリースクリーニング
表層提示型IL5依存的な、STAT5aのリン酸化の亢進が見られたので、抗リン酸化STAT5a抗体を用いることによるライブラリースクリーニングが可能と思われた。まず、酢酸リチウム法により酵母形質転換体BY4741ΔTRP1/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/βc/pAURGAL1p-V5-JAK2/pGML10-myc-STAT5aΔC-VP16を作製し、引き続き、酢酸リチウム法によりpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を導入し、酵母形質転換体BY4741ΔTRP1/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2を、0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地に得た。得られた形質転換体を培養し、HLH、IL5Rα、βc、JAK2、およびSTAT5aを発現させ、抗リン酸化STAT5a抗体を用いて標識して酵母蛍光サンプルを得た。1細胞ピッキング装置を用いて、スクリーニングに供したところ、IL5シグナルのアゴニストを見出した。
【0220】
4: IL6シグナルのアゴニストのスクリーニング例
4-1: JAK2の自己リン酸化検出によるIL6シグナルのアゴニストのスクリーニング例
哺乳類細胞においてIL6シグナルは、IL6Rαおよびgp130(IL6Rα/gp130)からなるレセプター二量体と、細胞内においてgp130と結合するJAK2からなるヘテロ三量体により構成される。IL6Rα/gp130はIL6の結合により、細胞膜上でさらに多量体化し、この時JAK2の自己リン酸化を促す。実施例4-1では、酵母においてHLHライブラリーを表層提示し、JAK2の自己リン酸化を検出することによって、IL6シグナルのアゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0221】
4-1-1: IL6シグナル伝達再構成に適した酵母の選定
実施例2-1-1で示した酵母株のうちcdc25Ha株に、プラスミドpYES2-MFα-FLO42、pYES2-MFα-HA-IL6-FLO42、pGMH20、pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rα、pGMT20、pGMT20-HA-gp130、pAURGAL1p-V5、pAURGAL1p-V5-JAK2、pSos、pSos-Shc1を酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rα/pGMT20-HA-gp130/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1、cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rα/pGMT20-HA-gp130/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1、cdc25Ha/pYES2-MFα-HA-IL6-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rα/pGMT20-HA-gp130/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1を、0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD寒天培地上に得た。
【0222】
4-1-2: 酵母形質転換体の培養
直径2〜3 mmに生育した酵母形質転換体のコロニーを3 mLの0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に植菌して25℃、200 rpmでOD600=1.0〜1.5まで前培養し、10 mLの0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地に初期OD600=0.2になるよう植菌して25℃、200rpmでOD600=0.6〜2.0まで本培養した。
【0223】
4-1-3: IL6RαおよびIL6-FLO42の発現
実施例4-1-1で得られた酵母形質転換体を培養後、遠心にて回収し、実施例2-1-4に従って、抗FLAGマウスモノクローナル抗体および抗HAマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図33に示す。
【0224】
図33に示したとおり、IL6RαおよびIL6-FLO42の発現が検出された。また脱糖鎖修飾処理の時間依存的に、両タンパク質のバンドがよりよく検出されたことから、酵母内において、IL5RαとIL6-FLO42の両方は顕著に糖鎖修飾を受けると判明した。
【0225】
4-1-4: 1細胞ピッキング装置を用いたライブラリースクリーニング
表層提示型IL6依存的な、JAK2の自己リン酸化の亢進を検出することにより、IL5系と同様、自己リン酸化したJAK2を認識する抗体を用いることによるライブラリースクリーニングが可能と思われた。IL5系と同様に、メイティング法によりHLHライブラリー遺伝子を導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rα/pGMT20-MFα-HA-gp130/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1を、0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地に得た。得られた形質転換体を培養し、HLH、IL6Rα、gp130、JAK2、Shc1を発現させ、抗リン酸化JAK2ラビットポリクローナル抗体を用いて標識して酵母蛍光サンプルを得た。1細胞ピッキング装置を用いて、スクリーニングに供したところ、IL6シグナルのアゴニストを見出した。
【0226】
4-2: IL6シグナル伝達を利用したアゴニストのスクリーニング例
自己リン酸化したJAK2は活性化し、gp130をリン酸化する。リン酸化gp130は、Shc1を細胞膜近傍にリクルートする。従って、実施例3-2で示したように、IL6系についても酵母の増殖シグナルを活性化するスクリーニングシステムを構築し、アゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0227】
4-2-1: IL6シグナル伝達を利用したアゴニストのライブラリースクリーニング
熱感受性の相補を利用したスクリーニングをするために、実施例2-2-6で示したように、cdc25Hα株に、酢酸リチウム法によりpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を導入し、酵母形質転換体cdc25Hα/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。この酵母形質転換体を用いて、実施例4-1-1で示した酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1に、HLHライブラリー遺伝子の導入をメイティング法により行って熱感受性を利用したスクリーニングを供したところ、IL6シグナルのアゴニストを見出した。
【0228】
5.有用分泌物質を高産生する動物細胞のスクリーニング
5-1: 脂質標識抗体の作製とCHO細胞を用いたモデル実験系
抗体を脂質標識するため、NHS標識脂質としてCOATSOME FE-8080SU5(Phosphoethanolamine distearoyl、日本油脂)を得た。トラップ分子としてAlexa488標抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体(Invitrogen社)を用い、細胞表層提示の最適な条件を以下のように決定した。NHS標識脂質1.60μmolを1 mlのDMSOに懸濁し、超音波発生装置を用いて可溶化させた。抗体25 pmolを100μlのリン酸ナトリウム緩衝液(pH 8.0)に懸濁し、脂質/抗体(NHS/Ab)=0、2、4、6、8、10、12、14となるように、NHS標識脂質をそれぞれ50、100、150、200、250、300、350 pmol添加した。遮光して1時間、室温で懸濁し、400μlのCHO細胞懸濁液(4.0x105 cells)に対し、1μl、10μl、および残り全量(約100μl)加えて10分放置した後、フローサイトメーターに供した。図35に抗体の細胞表層提示効率が最も良好な結果の例を示した。
【0229】
図35に示したとおり、NHS/Ab=14(脂質量350 pmol、抗体量25 pmol、100μl反応量)が最適であると判明した。この結果から、CHO細胞などに分泌させた有用物質を抗体などにより細胞表層にトラップすることが可能であると示唆された。CHO細胞の表層にトラップされた有用物質を認識する抗体などを用いて蛍光標識することは当然可能であり、1細胞ピッキング装置を用いて有用分泌物質を高産生する動物細胞のスクリーニングをすることが可能であると示された。
【0230】
5-2: 抗体高産生Hybridomaのスクリーニング
5-2-1: 脂質標識抗体の作製
実施例5-1に習い、NHS標識脂質の0.1μg(160 pmol)に対し、抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体(ピアス社)の1.7μg(11 pmol)を100μlの反応液(10 mM リン酸ナトリウム緩衝液、pH 8.0、250 mM NaCl)中で反応させ、脂質標識抗体を得た。
【0231】
5-2-2: Hybridoma 9D9表層への脂質標識抗体の提示
10% FBSを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で増殖させたHybridoma 9D9(低濃度リポタンパク質受容体LDLRに対する抗体を生産)の1.6x107細胞を回収し、血清を含まないDMEMの500μlに懸濁してマイクロチューブに50μl移し、氷冷水上で5分間静置した。このチューブに実施例5-2-1で調製した脂質標識抗体の5μlを添加して37℃で2分間静置した。遠心分離により細胞を回収し、血清を含む4℃の培地に再懸濁した後、ポリ-L-リジンコートしたグラススライド上に播いた。培地にAlexa488標識抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体を加え、37℃、5% CO2の存在下で30分間静置し、1回洗浄して1細胞ピッキング装置にて蛍光を観察した。
【0232】
図36に示したとおり、コントロール(NHS標識脂質を用いない)に比べ、脂質標識抗体を用いた場合、蛍光を発する細胞が多く観察され、また高い輝度値を有すると見出された。この時の、NHS/抗体比率は15であり、実施例5-1でのCHO細胞におけるNHS/Ab比率=14とほぼ一致することから、この比率は他の細胞にも応用できると期待される。また、このNHS/Ab比率においてCHO細胞を処理した時、蛍光が全く観察されなかったことから、蛍光はHybridoma 9D9細胞の分泌する抗体によるものと確認された。
【0233】
5-2-3: 1細胞ピッキング装置を用いたHybridoma 9D9の回収
実施例5-2-2のように脂質標識抗体をHybridoma 9D9の細胞表層に提示し、マイクロチャンバー上に播き、10 x gで1分間遠心した。Alexa488標識抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体および血清を含む4℃の培地でマイクロチャンバー上の培地を置換した後、37℃、5% CO2の存在下で30分間静置し、1回洗浄して1細胞ピッキング装置にて蛍光を観察した。
【0234】
図37に示した通り、マイクロチャンバー中の細胞が蛍光を発すると確認された。この結果から、蛍光輝度値の高い細胞は、多くの有用物質を産生すると示唆され、有用分泌物質を高産生する動物細胞のスクリーニングができることは明らかである。また今回、Hybridoma 9D9の分泌するマウスモノクローナル抗体を検出するに際して、蛍光標識抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体を用いたが、分泌抗体の抗原などを蛍光標識することにより、抗原認識能が良質で、かつ抗体生産・分泌能の高いHybridomaをスクリーニング出来ることは言うまでもない。
【0235】
6: 接着細胞に対する1細胞ピッキング装置の適用
6-1: A431細胞による蛍光標識EGFの取り込み時間の検討
6-1-1: 蛍光標識EGFの調製
80 nMのCy3標識アビジン(Sigma社)を含む無血清培地を入れたチューブを3本用意し、それぞれに1.6 nM、16 nM、160 nMとなるようにビオチンラベルEGFを加えた。氷上で1時間静置し、各種の濃度のCy3標識EGFを得た。
【0236】
6-1-2: A431による蛍光標識EGFの取り込み
10% FBSを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を含むグラスボトムディッシュでA431細胞を60%の密度まで増殖させ、無血清培地に置換し、20時間培養した。実施例1-1-1で調製したCy3標識EGFを含む無血清培地に置換して0〜20分間静置し、A431細胞における蛍光標識EGFの細胞内局在を共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。
【0237】
図38に示した通り、5分でEGFの細胞内取り込みがほぼ完全に生じていると観察されたことから、EGFなどのリガンド取り込みは5分以内に生じる迅速な生体反応であると示唆された。
【0238】
6-1-3: 1細胞ピッキング装置を用いた蛍光を発するA431の回収
10% FBSを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で増殖させたA431細胞をトリプシン処理して10000細胞/1 mlになるように新しい培地に再懸濁し、マイクロチャンバー上に巻いてCO2インキュベータ内で4時間培養した。マイクロチャンバーに落ち込んでいない(マイクロチャンバー間に存在する過剰な細胞)をシリコン板ではがし取り、培地でよく洗浄して2日間培養した後、無血清培地に置換し、20時間さらに培養した。実施例1-1-2のように、Cy3の代わりにAlexa488標識アビジン(Invitrogen社)を用いて蛍光標識EGFを調製し、最終濃度10 nMになるように蛍光標識EGFを5分間作用させた後、トリプシン処理前、同処理後、回収途中、回収後の写真撮影を行った。
【0239】
図39に示した通り、接着細胞を蛍光標識した後、蛍光物質を細胞に取り込ませ、トリプシン処理に供して回収することが可能であると示された。以上より、1細胞ピッキング装置は接着細胞にも対応できると示された。
【産業上の利用可能性】
【0240】
本発明によれば、1細胞ピッキング装置を用いることで、広範な真核細胞について、単一の標的細胞を分離することができ、医薬のスクリーニング、臨床診断、再生医療などの様々な分野に応用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞ピッキングシステム、スクリーニング方法および哺乳類細胞を取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レセプターの多くは細胞膜に存在し、外部の刺激を認識して情報を伝達するための構造を有している。Gタンパク質共役型レセプター(GPCR)については、そのGPCRを組み込んだ酵母を用いるGPCRのアゴニストのハイスループットスクリーニング系が知られている(特許文献1, 2)。また、哺乳類の細胞において、一回膜貫通型レセプターはリガンド(アゴニスト)を受容すると、細胞膜上で多量体化を形成し、自己リン酸化型レセプターである場合、レセプターの自己リン酸化が生じることが知られている(非特許文献1)。あるいは、その多量体化するレセプターに構成的に結合するリン酸化酵素である場合、そのリン酸化酵素の自己リン酸化が生じ、さらにそれに付随してリン酸化酵素が結合するレセプターのリン酸化が生じると報告されている(非特許文献2)。
【0003】
哺乳類由来のEGFRのみを酵母で発現させ、その発現を抗体で確認したこと、酵母細胞で発現させた細胞外ドメインのみを有するEGFRの細胞内ドメイン欠失変異体は、EGFと結合できることを報告している(非特許文献3)。酵母には、自己リン酸化型レセプターおよびそのレセプターのリン酸化部位を認識するアダプタータンパク質は存在しないが、これらを別々に酵母に発現させた時、実際にリン酸化レセプターとアダプタータンパク質が相互作用すると報告されている(非特許文献4)。
【0004】
アゴニスト/アンタゴニスト候補物質として、構造固定型ランダムペプチドライブラリーが示されている(特許文献3, 4, 5, 6)。そのペプチドライブラリーは、ロイシンジッパー構造をとるα-ヘリカルコイルドコイル(HLH)ペプチドであり、レセプターと結合可能な溶媒接触可能表面に配座する2-6アミノ酸がランダマイズされている。そのHLHの前記溶媒接触可能表面に突出するアミノ酸残基の側鎖をアラニンスキャンニング解析することにより、アゴニスト/アンタゴニスト活性に必須であるアミノ酸残基(ファーマコフォア)の特定、およびそのHLHの構造固定性から、そのファーマコフォアの有する官能基の立体配座を抽出することが可能であり、アゴニスト/アンタゴニストの低分子化合物化も容易に達成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-176605
【特許文献2】WO/2006/104254
【特許文献3】特開平10-245397
【特許文献4】特開2000-327697
【特許文献5】特開2005-151921
【特許文献6】特開2005-154382
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Clayton AH, Walker F, Orchard SG, Henderson C, Fuchs D, Rothacker J, Nice EC, Burgess AW. J Biol Chem. 2005 Aug26;280(34):30392-9. Epub 2005 Jun 30.
【非特許文献2】Muthukumaran G, Kotenko S, Donnelly R, Ihle JN, Pestka S. J Biol Chem. 1997 Feb 21;272(8):4993-9.
【非特許文献3】Cochran JR, Kim YS, Olsen MJ, Bhandari R, Wittrup KD. J Immunol Methods. 2004 Apr;287(1-2):147-58.
【非特許文献4】Busti S, Sacco E, Martegani E, Vanoni M. Curr Genet. 2008 Mar;53(3):153-62. Epub 2008 Jan 9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のハイスループットスクリーニングは、FACSによりソーティングされていたので、細胞がソーティングの高速かつ高圧力の条件により損傷を受けることや、ソーティングは1つの特性を有する細胞集団を迅速に集めるのには有用であるが、特定の細胞を確実に選別するのには適していない。
【0008】
また近年では、抗体医薬の創出が注目され、必要となる抗体産生細胞(B細胞、Hybridomaなど)の回収技術の向上に力が注がれている。FACSを用いる細胞の選別においては、抗体産生細胞は蛍光標識の対象となる抗体が細胞外に分泌されるため、抗体産生能力(また分泌能力)の高い細胞1個を確実に回収するのには適していない。この問題はチャイニーズハムスター卵巣由来CHO細胞を用いた有用タンパク質あるいはペプチドの分泌生産系においても同様である。
【0009】
そこで、ゴルジプラグ法などを用いて細胞の輸送経路を阻害し、蛍光抗体により標識する方法が挙げられる。しかし、ゴルジプラグは細胞毒性が高く、回収した細胞が増殖能を失ってアポトーシスが高頻度で生じるため、有効な方法ではない。
【0010】
本発明は、ハイスループット、かつ、目的の細胞を確実に選別することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の発明を提供するものである。
項1 特定分子を発現する真核細胞を分離する細胞ピッキングシステムであって、前記真核細胞は前記特定分子と結合可能な結合分子により複合体を形成し、この複合体の形成に基づき特定分子を発現する真核細胞が検出装置により検出され、検出された真核細胞が検出装置と連動したマニピュレータにより自動的に回収されることを特徴とする細胞ピッキングシステム。
項2 前記細胞が酵母または動物細胞である、項1に記載のシステム。
項3 特定分子がレセプター、表面抗原または細胞外に分泌されるタンパク質、もしくはペプチドである、項1または2に記載のシステム。
項4 特定分子が細胞外に分泌されるタンパク質もしくはペプチドであり、前記タンパク質若しくはペプチドと結合分子の複合体が前記結合分子の標識に基づくシグナルの検出により認識され、前記複合体を形成する真核細胞がマニピュレータにより自動的に回収される、項1〜3のいずれかに記載の細胞ピッキングシステム。
項5 分泌されるタンパク質が、抗体である項3または4に記載の細胞ピッキングシステム。
項6 特定分子がレセプターであり、前記レセプターと結合分子の複合体が前記結合分子の標識または前記真核細胞の複合体形成に基づくシグナルの検出により認識され、前記複合体を有する真核細胞がマニピュレータにより自動的に回収される、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞ピッキングシステム。
項7 少なくとも1種の標的レセプターを細胞表面に発現する真核細胞において、前記レセプターに対するリガンド候補物質を前記細胞に作用させ、前記レセプターと特定のリガンドが結合した場合に生じるシグナルを検出し、シグナルを生じたレセプター−リガンド結合細胞をマニピュレータにより自動的に回収し、前記シグナルを発生させるリガンド候補物質を同定することを特徴とする、前記レセプターに対するリガンドのスクリーニング方法。
項8 前記リガンドがレセプターとともに前記真核細胞の表面に発現される、項7に記載の方法。
項9 リガンドライブラリーを細胞表面に発現する真核細胞集団において、レセプターを前記細胞に作用させ、前記レセプターと特定のリガンドが結合した場合に生じる検出可能なシグナルを検出し、シグナルを生じたレセプター−リガンド結合細胞をマニピュレータにより自動的に回収し、前記シグナルを発生させるリガンドを同定することを特徴とする、前記レセプターに対するリガンドのスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0012】
現在、市場に出回る製薬の売り上げランク50位の内、レセプターシグナルのアゴニストおよびアンタゴニストとして作用する化合物製剤が、40%以上を占める。この、レセプターを標的とした化合物のスクリーニングには、
(1) 膨大な種類(104-105種類)のリード化合物候補を合成し、
(2) (1)で合成した化合物の一種類ずつを、哺乳類細胞培養液に添加し、
(3) 各種細胞内シグナル(cAMP、Ca2+、etc.)を解析する必要がある。
などと、非常に多くの時間(最長10年)とコスト(開発費用の25%、最大200億円以上)がかかる上に、最大105種類程度のスクリーニングにしか供せない。
本発明により酵母などの真核細胞にヒト由来一回膜貫通型レセプターと表層提示型リガンドとを機能的に発現させる手法およびそのレセプターに対するリン酸化などの翻訳後修飾を蛍光標識抗体、あるいはGFPなどの蛍光タンパク質レポーターにて検出する手法、これらと、表層提示用構造固定型ランダムペプチドライブラリー、および1細胞ピッキング装置による陽性細胞の自動回収、以上のコンビネーションを用いて、レセプターに対するリガンド(アゴニスト、アンタゴニスト)のスクリーニングをすることにより、GPCRや一回膜貫通型レセプターなどのレセプター種に関わらず、短時間・低コストのレセプターのアゴニスト/アンタゴニストのスクリーニング、すなわちハイスループットスクリーニングが達成される。ランダムペプチドライブラリーに代えて化合物ライブラリーをレセプター発現真核細胞に作用させることにより、レセプターに結合する特定の化合物を容易に同定することができる。化合物ライブラリーの各マイクロチャンバーへの適用は、各化合物をマイクロチャンバーに適用するためのスポッティング装置、あるいはインクジェット印刷などの公知の手法により行うことができる。多種類の物質を所定の間隔で並べる手法は、DNAチップ、RNAチップ、プロテインチップなどの各種チップの製造においても使用され、本発明はこのような公知の手法を使用することができる。多種類のサンプルを微量分注できる装置としては、超音波方式でマルチウェルプレート(96〜1536、3456ウェル)に容量10nl程度で分注する装置が、http://www.labcyte.com/に記載され、ポジティブディスプレイスメント(極小ピペットによる)方式で、多くのウェルに50nl程度の容量で分注する装置は、http://www.bio-lab.jp/screening/nano/index.htmlに記載されている。
【0013】
また、本発明は、1細胞ピッキング装置などに備えられた自動マニピュレータを利用することで、細胞への損傷を抑制することができるため、幹細胞や免疫細胞などの機能を保持し、かつ、目的外の細胞を排除して、集めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、真核細胞表面に(1)レセプター、(2)リガンド、(3)標的とする哺乳類細胞(好ましくはヒト細胞)に特異的な表面抗原の少なくとも1種が発現されている。
レセプターは、使用される真核細胞由来であっても他の真核細胞由来であっても、いずれでもよいが、好ましくは哺乳類由来、特にヒト由来である。レセプターとしては、たとえば(1)三量体Gタンパク質共役型(7回膜貫通型):N末端を細胞外にC末端を細胞内に向けて7個の疎水性部が細胞膜を貫通する構造をとり、アセチルコリン、ノルアドレナリンなどの化学物質、光(ロドプシン)などを認識して、Gタンパク質を活性化し、種々のエフェクター分子にシグナルを伝達する;(2)レセプター型キナーゼ:1回膜を貫通し、細胞質内のC末端側がプロテインキナーゼ活性を有し、アゴニストによって酵素が活性化され、標的タンパク質をリン酸化することによってシグナルを伝達する;(3)サイトカインレセプター型:1回膜を貫通するが、特定の機能を持たず、共役する他のタンパク質を活性化してシグナルを伝達する;(4)イオンチャネル型:透過物質の濃度勾配に応じて、イオン透過を媒介する膜タンパク質であり、その開閉の制御様式によって、大きく2種類に分けられる。
【0015】
(i)電位依存性イオンチャネル:膜電位の変化に応じて開くもの。時定数の異なる複数のゲートを持ち、膜電位変化時に時間に依存した特定の開閉を行うチャネルも多い。例えばCa2+チャネルを構成するα1、α2、β、γ、δサブユニットや、他にNa+チャネルおよびK+チャネルなどが例示される。
【0016】
(ii)リガンド依存性イオンチャネル:特異的に結合する分子により開閉が制御されるもの。この場合イオンチャネル自体が受容体となっている。受容体の側から見れば、イオンチャネル共役型受容体とも呼べる。例えば、AMPA型グルタミン酸受容体型チャネルを構成するGluR1、GluR2、GluR3、GluR4、およびNMDA型グルタミン酸受容体型チャネルを構成するNR1、NR2A、NR2B、NR2C、NR2Dや、他にアセチルコリン受容体型チャネルなどが例示される。
これらの他にもその開閉制御様式により、さらに4種が例示される。他タンパクからのリン酸化シグナルによるリン酸化依存性チャネル、内耳の有毛細胞などに発現が見られるチャネル分子に機械的変形が関わると開く力学的変形依存性チャネル、温度による温度依存性チャネル、通常開いており、少しずつ特定のイオンを漏らすように流す漏洩チャネルなどが例示される。
(5)トランスポーターは、物質の透過を制御する点でチャネルと類似する膜タンパク質であるが、その物質の濃度勾配に逆らった輸送(能動輸送)を行う事と、ATPあるいは能動輸送により生じたイオン勾配などのエネルギーを必要とする点でイオンチャネルとは異なる。トランスポーターはその透過する物質から、大きく4種類に分けられる。
【0017】
(i)イオントランスポーター:Na/K−ATPase、H+/K+−ATPase、Na+/K+/2Cl-共輸送12回膜貫通タンパク質などが例示される。
【0018】
(ii)薬物トランスポーター:P糖タンパク質などのABCトランスポータースーパーファミリー、有機イオントランスポーター、ペプチドトランスポーター、APCトランスポータースーパーファミリー、ヌクレオチドトランスポーターが例示される。
【0019】
(iii)複雑なアミノ酸のトランスポーター:酸性アミノ酸輸送に関わるSLC1ファミリー、ALC7、SLC25、中性アミノ酸輸送に関わるSLC1、塩基性アミノ酸の輸送に関わるSLC7、中性および塩基性アミノ酸の輸送に関わるSLC6、芳香族アミノ酸トランスポーター、メチル化アミノ酸トランスポーターなどが例示される。
【0020】
(iv)糖・尿酸トランスポーター:URAT1などの尿酸トランスポーター、ブドウ糖トランスポーターであるGLUT1、GLUT2、GLUT3、GLUT4、GLUT5などが例示される。
(6)細胞外マトリックス、または細胞表面接着分子に結合する分子は、癌細胞の浸潤や定着を阻害する薬剤になる可能性がある。マイクロチャンバーにスクリーニングの標的となる細胞外マトリックス又は、細胞表面接着分子を固定化し、ランダム配列のペプチドライブラリーを表層に提示する酵母細胞がマイクロチャンバーに接着することを指標としてスクリーニングを実施することにより、細胞外マトリックス、または細 胞表面接着分子に結合するペプチドを得ることができる。細胞接着における分子間相互作用は大きく分けて2種類がある。
【0021】
(i)細胞外マトリックス:コラーゲン、非コラーゲン性糖タンパク質(フィブロネクチン、ラミニン、ニドジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン)、エラスチン、プロテオグリカンなどが例示される。
【0022】
(ii)細胞表面接着分子:カドヘリン・スーパーファミリー、インテグリンスーパーファミリー、免疫グロブリンスーパーファミリー(NCAM、L1、ICAMファミリー、ネクチン)、セレクチン、ニューロリギン、ニューレキシン、細胞表面プロテオグリカンなどが例示される;
などが挙げられる。好ましいレセプターは、レセプター型キナーゼである。自己リン酸化型レセプター(レセプター型キナーゼ)に対するアゴニスト/アンタゴニストのハイスループットスクリーニング系は、本発明により初めて確立された。
【0023】
レセプターは通常真核細胞表面に高発現あるいは誘導発現されるように真核細胞にレセプター遺伝子を導入して発現させるが、真核細胞が本来細胞表面に発現しているものであれば、その天然型レセプターを利用することもできる。あるいは、所望のリガンド結合性を有するレセプターが容易に得られる場合には、多数のリガンドを真核細胞表面に発現させておき、たとえば蛍光、酵素などで標識したレセプターをリガンド発現細胞に適用することでレセプター−リガンド複合体を形成し、この複合体を有する細胞をマニピュレータないし1細胞ピッキング装置で選別/分離しても良い。
【0024】
本明細書において、「結合分子」は、特定分子に結合する分子を意味する。特定分子がレセプターのとき結合分子としてリガンド、特定分子がリガンドのとき結合分子としてレセプター、特定分子が表面抗原のとき結合分子として抗体、特定分子が分泌タンパク質のとき結合分子として分泌タンパク質に対して特異性を有する抗体が挙げられる。特に分泌タンパク質が抗体であるときは、結合分子として抗体に対して特異性を有する抗体(二次抗体)や抗原が挙げられる。
【0025】
リガンドは、たとえば標的となるレセプターが予め決まっている場合には、化合物ライブラリーあるいはペプチドライブラリーなどの任意の構造を有する物質群を使用することができ、異なるレセプターが発現されている一群の真核細胞が使用される場合には、単一あるいは少数の生物活性物質(化合物、ペプチドなど)が使用できる。前者は、疾患などの標的となっているレセプターに結合するアゴニスト、アンタゴニストなどの一次スクリーニングに使用するのに適しており、後者は、疾患の薬物や特定の薬理作用を有することが既知の物質の作用機序の特定などに使用することができる。リガンドがペプチドである場合には、レセプターとリガンドをともに真核細胞表面で発現させ、この複合体の形成を種々の方法で検出し、自動マニピュレータないし1細胞ピッキング装置で選別/分離しても良い。
【0026】
表面抗原は、特に哺乳類細胞を選別するときに複合体形成の標的とすることができる。このような表面抗原としては、胚性幹細胞(ES細胞)、iPS細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞などの多能性細胞あるいはこれらから派生する細胞、腫瘍細胞、免疫細胞(T細胞、B細胞、マクロファージ、樹状細胞など)、特定のホルモンを産生する細胞あるいは産生量が増加/減少した細胞、その他臨床診断に役立つ細胞などが挙げられる。本発明では、自動マニピュレータないし1細胞ピッキングシステムで細胞を選別/分離することで細胞に損傷を与えることなく、特定の細胞を分離することができる。この分離対象の増殖能、分化能などの能力が保持される性質が効果的であるために、本発明は幹細胞などの未分化な細胞や、免疫細胞などの刺激により性質が変化する/あるいは免疫刺激を受けた特定の細胞(たとえば特定の抗体を産生するB細胞)など、特定の機能を利用したい細胞の分離に特に効果的である。
【0027】
本発明は、従来とは異なる細胞の分離システムを使用する点にも特徴を有する。
【0028】
具体的には、本発明において、蛍光などの光学的手段により検出された細胞は、細胞ピッキング装置、特に1細胞ピッキング装置を使用して分離するのが望ましい。以下においては、蛍光(標識)を利用した1細胞ピッキング装置を例示するが、酵素標識、色素標識、放射標識などの蛍光以外の標識を利用しても良い。
【0029】
1細胞ピッキング装置は、数千〜数百万(マイクロチャンバーの集積度に依存)の蛍光タンパク発現または蛍光ラベルなどの標識を施した細胞の蛍光値と座標を解析して必要な細胞を1個単位で生きたままマルチウェルプレートへ回収できる装置である。なお、本明細書において「1細胞ピッキング装置」は、最小で1個の細胞を選別・分離することができる装置であることを意味し、この装置を使用する場合必ず1個の細胞を分離する必要は必ずしもなく、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個などの10個未満の少数の細胞を分離する限り、数個の細胞を一緒に分離しても良い。また、iPS細胞などの1つの細胞塊で存在する細胞の場合には、1つの細胞塊が分離の対象となる。
【0030】
本発明では、検出に関連するレセプターとリガンドのいずれかを発現可能な遺伝子は標的細胞に組み込まれている。そして、細胞を特定することで、そこに組み込まれている遺伝子をPCRなどにより増幅し、複合体を形成可能なリガンド、あるいはレセプターを特定することができる。この際、本発明で分離された細胞は損傷を受けていないかその程度が小さいため、必要に応じて細胞を増殖させてPCRなどの増幅手段に必要なDNA量を確保したり、各種幹細胞や前駆細胞などの増殖能や分化能を保持することができ、B細胞では抗体産生能力を保持して分離することができる。
【0031】
1つの好ましい実施形態において、1細胞ピッキング装置は(i)マイクロチャンバー、(ii)検出部、(iii)解析部、(iv)回収部から構成される(図A)。
【0032】
(i)マイクロチャンバー
スライドグラスサイズ(25mm×75mmまたは1インチ×3インチ)のスライド表面に、細胞のサイズに合わせたサイズで、数千〜数百万のマイクロチャンバーが形成されている。細胞懸濁液をマイクロピペットでアプライすることで、各マイクロチャンバーに細胞が1個(条件によっては、10個未満、例えば2個、あるいは3個ないし数個)入るように設計されている。(細胞種によっては、超音波や遠心法を用いることで、1マイクロチャンバーに正確に1細胞だけ入れることも可能)
【0033】
1つのマイクロチャンバーあたりに導入される細胞の数は、1つの細胞塊の場合には1個であり、バラバラになった細胞の場合には、10個未満、例えば9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下又は1個ないしそれ以下であり、0.5個以上、0.6個以上、0.7個以上、0.8個以上、0.9個以上であってもよく、1個に近いほど好ましい。この個数は、マイクロチャンバー1個あたりの細胞の平均値であり整数でなくてもよく、これが0.9個であるとは、10個のマイクロチャンバーのうち9個に細胞が導入され、1個のマイクロチャンバーには細胞が含まれないことを意味する。
【0034】
(ii)検出部
蛍光顕微鏡をベースとした検出機構が、チップ表面の自動フォーカス後、マイクロチャンバー(マイクロチャンバーに入っている細胞)の蛍光画像を取得(図C)。
【0035】
(iii)解析部
各マイクロチャンバー座標の蛍光値を解析し、解析結果をヒストグラム(縦軸:マイクロチャンバー数、横軸:蛍光値)として表示する(図D)。
【0036】
(iv)回収部
所望の蛍光値を持つ細胞を、解析部のヒストグラムから範囲指定すると、自動的にマニピュレータによって吸引され、マルチウェルプレートへ吐出・回収される。細胞の吸引・吐出にはキャピラリが好ましく使用され、細胞をマニピュレータ内に残さないように吐出できることが実験により確認されている。
【0037】
図Cでは、例えば横軸の蛍光量が90〜225の範囲を指定すると、1個又は2個の酵母細胞数のその蛍光値を持つ細胞がマイクロチャンバーから回収され、その表層提示された特定分子をPCRなどの常法により決定することで、目的の特定分子に対して強く結合する少なくとも1種の結合分子を決定することができる。
【0038】
本発明で使用する1細胞ピッキング装置は、数千〜数百万の真核細胞の位置を正確に検出し、蛍光を発する所望の細胞のみをマイクロチャンバーからピッキングすることができるように、吸引・吐出マニピュレータ(例えばキャピラリ)と各マイクロチャンバーの関係(位置、距離、形状)が、(ハーフ)ミラー、オートフォーカス機能、フィルタユニットなどを用いて光源からの照射光、マイクロチャンバーの透過光、反射光などにより光学的にモニタリングされている。これにより、非常に近い位置関係の微小ウェル(すなわちマイクロチャンバー)の真核細胞を正確に吸引・吐出/回収することができる。
【0039】
マイクロチャンバーへの真核細胞の導入は、界面活性剤を含む緩衝液を好ましく使用できる。界面活性剤としてはポリエチレングリコール、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Dextran T-500、Tween 20、Tween 40、Tween 60、NP-40、SB3-14、SB12、CTAB及びTritonX-100などが挙げられる。界面活性剤は、特定分子と結合分子の複合体あるいは結合分子に結合した標識を分離させることなく、真核細胞の凝集を抑制できるものを、適切な濃度で使用することができる。このような界面活性剤は、細胞に損傷を与えないような種類、濃度を選択して使用することができる。真核細胞が塊状物の場合には、界面活性剤は通常使用しない。
【0040】
真核細胞量は、真核細胞が酵母の場合、ODが0.1〜0.7、好ましくは0.2〜0.6、より好ましくは0.3〜0.5が挙げられる。真核細胞が動物細胞の場合には、酵母の場合に準じて適当な量を用いてマイクロチャンバーに導入する。
【0041】
真核細胞は、各マイクロチャンバーに1個入るのが最も好ましく、そのために、超音波や遠心力と、真核細胞の凝集を抑制する界面活性剤などを併用し、各マイクロチャンバーあたりの真核細胞の数ができるだけ均一になるように最適な条件で真核細胞懸濁液をマイクロチャンバーに適用する。
【0042】
上記システムと、コンビナトリアルケミストリーを活用した細胞サンプルを用いることで、リガンドスクリーニングが高速に簡便に行える。また、安定発現株の取得も簡便に行える。応用法として、不必要な少数ないしごくわずかの細胞が細胞群にある場合、不必要な細胞を回収(廃棄)し、マイクロチャンバーに残った細胞を最終的に得る方法もある。これは、一部に癌化した細胞を含むES細胞などの、幹細胞の分化誘導物から癌細胞を選択的に除去に利用することができる。
【0043】
本発明の1細胞ピッキング装置は、コロニーピッキング装置に比べて、ハイスループットかつ省スペースであり、セルソーターに比べて、細胞に物理的ダメージを与えずに確実に1細胞を回収できる利点がある。
【0044】
従来法と1細胞ピッキング装置を用いる場合の比較を図Eに示す。
【0045】
本発明は、レセプターのアゴニストまたはアンタゴニストのスクリーニングに好ましく適用できる。アゴニストスクリーニングの手順を図Fに示した。
【0046】
本発明の1つの好ましい実施形態では、ヒト由来のGタンパク質共役型レセプター(GPCR)、一回膜貫通型レセプターなどのレセプターを酵母の表層に提示し、かつアゴニスト/アンタゴニスト候補物質のライブラリーを酵母の表層に提示し、該アゴニスト/アンタゴニスト候補物質が結合することにより、該レセプターが多量体化あるいは脱多量体化した時の検出方法;さらに自己リン酸化型レセプターである場合、レセプターの自己リン酸化を、蛍光抗体を用いて標識、あるいは蛍光タンパク質発現を誘導することにより検出する方法;あるいは多量体化するレセプターに構成的に結合するチロシンキナーゼである場合、そのチロシンキナーゼの自己リン酸化を、蛍光抗体を用いて標識、あるいは蛍光タンパク質発現を誘導することにより検出する方法;などが挙げられる。前記の酵母を用いる表層提示工学とコンビナトリアルケミストリーの融合による該アゴニスト/アンタゴニストのスクリーニング手法、および1細胞ピッキング装置を用いることにより、該スクリーニングの高速化、すなわちハイスループットスクリーニングを達成する。
【0047】
本発明の実施例では、EGFR、IL5R、IL6Rのアゴニスト/アンタゴニストに関するスクリーニング法が可能であることが実証されている。他の公的なスクリーニング対象のレセプターとしては、以下が挙げられる。
【0048】
チロシンキナーゼとしては、JAK(JAK1、JAK2、JAK3、特にJAK2)、Lyn、Yes、Fyn、Fes、Hckなどが好ましく例示され、好ましくはJAK2が例示される。自己リン酸化型レセプターには、gp130やβc鎖のようにJAK(JAK1、JAK2、JAK3、特にJAK2)のようなチロシンキナーゼを構成的に結合するものと、EGFレセプター(EGFR)のように、レセプター(EGFR)自体にチロシンキナーゼ活性を有するものが挙げられる。具体例を以下に示す。
1:gp130を共有するレセプター
IL6R、IL-11R、LIFR、CNTFR、OSMR、CT-1Rなど。
2:βcを共有するレセプター
IL-3R、IL5R、GM-CSFRなど。
3:自己リン酸化作用を有するレセプターのリガンド
Alkを含むAlkRファミリー、Axlを含むAxlRファミリー、DDR1を含むDDRファミリー、EGFRを含むEphRファミリー、EphA1を含むEphARファミリー、EphB1を含むEphBRファミリー
、FGFR1を含むFGFRファミリー、IFG-1Rを含むIRファミリー、Metを含むMetRファミリー、MuSKを含むMuSKRファミリー、TrkAを含むニューロトロフィンRファミリー、PDGFR-αを含むPDGFRファミリー、RETを含むRETRファミリー、Ror1を含むRorRファミリー、Rykを含むRykRファミリー、Sevを含むSevRファミリー、Tie1を含むTieRファミリー、VEGFR-1を含むVEGFRファミリーなど。
【0049】
本発明の1つの好ましい実施形態は、JAK-STAT系を利用したアゴニストのスクリーニング系である。
【0050】
哺乳類細胞にはJAK-STATシグナル伝達経路があり、レセプターがリガンドを受容すると、レセプターと構成的に結合するJAKが自己リン酸化すると共に、レセプターのチロシン残基をリン酸化する。STATは、レセプターのリン酸化チロシンに結合することにより、JAKにリン酸化され二量体化し、核内に移行して転写を活性化する。
【0051】
このJAK-STAT系には、サイトカイン特異性があり、例えば、IL5による刺激ではJAK2-STAT5系、IL6による刺激ではJAK1(またはJAK2)-STAT3(またはSTAT1)系、GHによる刺激ではJAK2-STAT5(またはSTAT3)系、IL12による刺激ではTyk2(またはJAK2)-STAT4系、IL10による刺激ではJAK1(またはTyk2)-STAT3系などが挙げられる。このJAK-STAT系を酵母で再構成することによるレポーターアッセイ系について例示する。
【0052】
図1で示したように、IL5系において、STAT5の哺乳類細胞における転写活性化領域を、酵母内でも機能するVP16転写活性化領域に置換したタンパク質(STAT5ΔC85-VP16)(J. Biol. Chem., 12567-12575頁, 1998年)をコードする遺伝子を酵母に導入する。同時に、哺乳類細胞内において二量体形成した活性型STAT5が特異的に結合するDNA配列であるIFP53-GAS領域(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 9600-9605頁, 1996年)の3’側にGAL1pをコードする遺伝子およびGFPに代表されるEGFP、DsRED、CFP、YFPなどの蛍光タンパク質をコードする遺 伝子を連結し、酵母に導入する。酵母において、表層提示したアゴニストによりIL5シグナルを活性化すれば、哺乳類細胞と同様にJAK2によるSTAT5のリン酸化およびホモ二量体形成が生じ、核内に移行してレポーター蛍光タンパク質の発現を誘導する。この蛍光を検出することによる、1細胞ピッキング装置を用いたIL5シグナルのアゴニストのハイスループットスクリーニングが可能となる。
【0053】
また、このレポーターアッセイ系は、IL6系に対してJAK1(またはJAK2)-STAT3(またはSTAT1)系を用いることにより、IL5系と同様の1細胞ピッキング装置を用いるアゴニストのハイスループットスクリーニングに利用できる。
【0054】
アンタゴニストスクリーニングの方法
1:GFP発現誘導を利用したアンタゴニストのスクリーニング
図2に模式図を示した。レセプターが不活性化している時にのみ、酵母内在性遺伝子で活性化している遺伝子、つまりレセプター活性化時には、ダウンレギュレートしている遺伝子を見つけ、プロモータ下流にGFP遺伝子を導入する。アゴニストにより活性化しているレセプターが、アンタゴニストにより不活性化すると、GFPの発現が誘導されるシステムを構築する。レセプターを最初から活性化しておく必要があり、その方法として以下が考えられる。
【0055】
(1)培地にアゴニストを含ませ、レセプターを活性化しておく。
【0056】
(2)アゴニスト発現遺伝子の染色体組み込み株を作成し、レセプターを活性化しておく。
【0057】
(この時、アゴニスト発現は非誘導型で、アンタゴニスト発現は誘導型の方が望ましい。)
(3)常活性型レセプターを用いる。
【0058】
上記の方法を用いることにより、アンタゴニストが作用した時に、GFPの発現が誘導され、1細胞ピッキング装置にてスクリーニングが可能となる。
【0059】
2:カナバニン取り込みによる酵母の致死性を利用したアンタゴニストのスクリーニング
図3に模式図を示した。参考;Bo Li et al. Nat. Methods (2007) 4, 169-を改変。
(a)前提条件・・・使用する酵母はCanavanine耐性(can1-100など)であること。
(b)レセプターを最初から活性化しておき、アンタゴニストの作用によりCAN1遺伝子の発
現が抑えられるようにするため、その方法として以下が考えられる。
【0060】
(1)培地にアゴニストを含ませ、レセプターを活性化しておく。
【0061】
(2)アゴニスト発現遺伝子組み込み株を作成し、レセプターを活性化しておく。
【0062】
(この時、アゴニスト発現は非誘導型で、アンタゴニスト発現は誘導型の方が望ましい。)
(3)常活性型レセプターを用いる。
【0063】
(c)致死性シグナルの発生のさせ方として、
(1)人工的な系としてSplit-Ubシステムを用い、レポーターとして『(lexAop)+最小プロモータ』下流にCAN1遺伝子を導入する。
【0064】
(2)酵母内在性のシグナル伝達を利用する系として、レセプターが活性化している時のみ、アップレギュレートされる遺伝子を見つけ、プロモータ下流にCAN1遺伝子を導入する。
【0065】
系(c)の(1)では、アンタゴニストが作用した時に、(レセプターの二量体化によるSplit-Ubのシグナル)により活性化していたCAN1遺伝子がダウンレギュレートされ、カナバニンを含む培地において、コロニー形成するシステムである。
【0066】
系(c)の(2)では、アンタゴニストが作用した時に、レセプターのキナーゼ活性がなくなり、その事による酵母内在性シグナルの不活性化が生じ、CAN1遺伝子の発現がダウンレギュレートされ、カナバニンを含む培地において、コロニー形成するシステムである。
【0067】
3:熱感受性による致死性を利用したスクリーニング
図4に模式図を示した。熱感受性を利用したアゴニストのスクリーニングを改変。
(a)前提条件・・・使用する酵母はRASの活性化因子であるCDC25が熱感受性であること。
(b)レセプターを最初から活性化しておき、アンタゴニストの作用により熱感受性に戻るようにするため、以下の方法が挙げられる。
【0068】
(1)培地にアゴニストを含ませ、レセプターを活性化しておく。
【0069】
(2)アゴニスト発現遺伝子組み込み株を作成し、レセプターを活性化しておく。
【0070】
(この時、アゴニスト発現は非誘導型で、アンタゴニスト発現は誘導型の方が望ましい。)
(3)常活性型レセプターを用いる。
【0071】
アゴニストが恒常的に作用することにより37℃で増殖可能な酵母に対し、アンタゴニストが作用するとレセプターが不活性化し、Sos融合タンパク質の細胞膜付近への濃縮が起こらなくなり、37℃で生存出来ないという原理を用いる。コロニーハイブリダイゼーション法によりレプリカプレートを作成し、37℃で生えず、かつ25℃で生えるコロニーをピックアップするシステムである。
4:FRETの緩和を利用したアンタゴニストのスクリーニング
図5に模式図を示した。アゴニストが作用した時にのみレセプターが離れ、FRETの緩和が生じる。
【0072】
蛍光バンドパスフィルタを用いれば、アンタゴニスト活性を有するHLHをもつ酵母が、1細胞ピッキング装置を用いてスクリーニング可能となる。
1細胞ピッキング装置の応用例
1:動物細胞表層に提示するペプチド
N末端側に分泌シグナル配列、C末端側に細胞膜相互作用部位を持つポリペプチドが挙げられる。リガンドとレセプターのいずれもがこの条件に当てはまる。
1-1:N末端側分泌シグナル配列
抗体、サイトカイン、増殖因子などの体液性タンパク質の分泌シグナルや1回膜貫通型レセプターの分泌シグナルを用いることができる。分泌シグナル配列としては、細胞膜貫通型や小胞体膜貫通型のものが好適である。
1-2:C末端側細胞膜相互作用領域
細胞膜相互作用部位としては、レセプターの膜貫通領域とグリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)アンカーがあげられる。レセプターの膜貫通領域としては、1回膜貫通型レセプターの細胞膜貫通領域が好適である。また、C末端側にGPI修飾を付加するためには、GPIアンカー型タンパク質のGPIアンカー修飾部位の配列を用いることが好適である。
【0073】
動物細胞表層提示技術に関し、米国特許6017754を参照することができる。
【0074】
2:ペプチドの配列
一部にランダム配列を含むポリペプチドを用いる。ヘリックス‐ループ‐ヘリックスなどの高次構造をもつものが好適に例示できる
ペプチド配列についての特許としては、特開2005−154382、特開2005−151921、特開2000−327697、特開平10−245397などが挙げられる。
【0075】
1細胞ピッキング装置を動物細胞のスクリーニングに用いることの利点
細胞集団から特定の細胞を分取するためには、これまでフローサイトメーターを応用したセルソーター(FACS)が用いられてきた。セルソーターでは、高速性は確保されている半面、その高速性が原因となり目的細胞以外の細胞が混入する可能性があるという問題とソーティングにおいて細胞へダメージを与えるという問題があった。1細胞ピッキング装置は、静置した細胞を分取するという原理のために、目的以外の細胞の混入が無く、細胞へのダメージが少ないという利点がある。具体的には、FACSにおける細胞ダメージは、急激な圧力変化(1→7→1気圧)と高い流速(30m/秒)で分取用のチューブに注ぎ込まれるという条件による。1細胞ピッキング装置は、FACSよりも高確率で標的細胞を分取できるだけでなく、機器の構造上から細胞分取にあたって急激な圧力変化と高い流速をともなわないことから細胞に悪影響を及ぼさない。
【0076】
また、分泌タンパク質や抗体の高発現細胞をスクリーニングする際の利点としては、従来のスクリーニング法である培養上清液を回収した後にELISAなどの方法を用いて定量する方法よりも、簡便な操作でスクリーニングを行うことが出来る。操作が繁雑になると、測定対象となる分泌タンパク質や抗体が分解されたり、測定に用いる器具に吸着されたりするので、正確な数値が期待できない問題がある。
【0077】
ペプチドのスクリーニング
1:動物細胞を用いたアゴニストペプチドのスクリーニング
目的のレセプターを発現する動物細胞にライブラリーペプチド遺伝子を導入して発現させ、ライブラリーペプチドを細胞膜上の細胞外側部分に提示する。提示されたペプチドが目的レセプターと結合したときに、アゴニストとして作用した場合の細胞内シグナル伝達を検出することにより、ペプチドライブラリーからアゴニスト活性をもつペプチドをスクリーニングする。検出する細胞内シグナルは、レセプターやアダプタータンパク質のチロシンリン酸化が好適である。
2:動物細胞を用いたアンタゴニストペプチドのスクリーニング
アンタゴニストペプチドを得たい場合には、あらかじめアゴニストを動物細胞で細胞膜上に安定発現させたり、常活性型レセプターを安定発現させたりしておき、この細胞にペプチドライブラリー遺伝子を導入してライブラリーペプチドを細胞膜上の細胞外部分に提示して、そのペプチドが目的レセプターと結合したときに、標的レセプターのシグナル伝達が抑制されることを指標として、スクリーニングを行うことにより、アンタゴニストペプチドを得ることができる。あるいは、ペプチドライブラリー遺伝子を導入してライブラリーペプチドを細胞膜上の細胞外部分に提示し、培地中にアゴニスト添加した時にシグナル伝達が抑制されていることを指標としてスクリーニングしてもよい。前記のアゴニストを表層提示させておく方法、およびアゴニストを後から培地中に加える方法のいずれにおいても、アゴニスト量がアンタゴニスト量よりも少ない方が、アンタゴニストによるシグナル伝達が抑制効果を大きくするために望ましい。
【0078】
レセプタースクリーニング
サイトカイン、増殖因子タンパク質、合成化合物が既知のもので、レセプターが未知な場合のレセプターのスクリーニング方法を提供する。サイトカイン、増殖因子タンパク質、合成化合物などを、レセプター遺伝子のライブラリーを導入した細胞に作用させ、細胞内シグナル伝達が惹起されるレセプターをスクリーニングする。またサイトカイン、増殖因子タンパク質を用いる時には、これらのタンパク質のC末端側に細胞膜相互作用部位を付加したものを動物細胞で安定発現させ、これにレセプター遺伝子のライブラリーを導入し、細胞内シグナル伝達が惹起されるレセプターをスクリーニングする。
【0079】
上記のペプチドのスクリーニング、レセプタースクリーニングにおける細胞内シグナル伝達の検出方法について
チロシンキナーゼ型のレセプターについては、自己リン酸化を特異的抗体により検出する。チロシンキナーゼ型以外の1回膜貫通型レセプターについては、アダプタータンパク質のチロシンリン酸化を特異的抗体により検出することが好適である。Gタンパク質共役型レセプター(GPCR)は、Gタンパク質とGPCRの相互作用をFRETにより検出する方法、アレスチンとGPCRの相互作用をアレスチン融合プロテアーゼと転写因子融合GPCRを用いて検出する方法があげられる。
【0080】
また、レセプターの種類にかかわらない検出方法として、カルシウムイオン濃度の変化をケージド化合物の蛍光スペクトル変化で検出する方法があげられる。
【0081】
癌細胞のスクリーニング
遺伝子治療では、遺伝子導入に伴い癌化した細胞を細胞集団から確実に除去することが重要である。Ex vivoにおける遺伝子治療において癌化した細胞をFACSにより除去する場合には、癌細胞を完全に除去できないという問題とソーティングにおいて細胞へダメージを与えるという問題があった。また、iPS細胞の作出時、iPS細胞からの分化時において癌化した細胞が現れてしまうという問題点が指摘されている。これらの問題は、癌細胞に特異的に高発現しているタンパク質を免疫染色して、1細胞ピッキング装置により細胞集団から癌細胞を除去することにより解決できる。癌細胞特異的な高発現タンパク質としては、悪性黒色腫におけるMAGE、乳癌などにおけるHER2/neu、大腸癌におけるCEA、各種白血病や各種癌におけるWT1など多数報告されている。
【0082】
分泌タンパク質もしくはペプチド産生細胞のスクリーニング
本発明における分泌タンパク質またはペプチドは、天然の細胞が分泌するものであってもよく、遺伝子工学操作または/および細胞工学操作によって改変された真核細胞によって強制的に発現させられ、分泌するものであってもよいものとする。
【0083】
本発明における分泌タンパク質もしくはペプチドを産生する真核細胞のピッキングシステムは図34(A)で例示するように、
(i) 分泌タンパク質もしくはペプチドを捕捉する結合分子を、真核細胞の表面に提示させることのできる分子と融合させる工程、
(ii) 上記の(i)の工程によって作製した結合分子を、真核細胞と結合させて該細胞の表面に提示する工程、
(iii) 上記の(ii)の工程によって作製した真核細胞を、マイクロチャンバーに播き、マイクロチャンバー内に導入する工程、
(iv) 上記の(iii)の工程によって真核細胞が導入されたマイクロチャンバーに、分泌タンパク質もしくはペプチドを標識する試薬を添加する工程、
(v) 上記の(iv)の工程の後、検出装置によって標識シグナルを検出し、高い分泌産生能力を有する細胞を決定し、検出装置と連動したマニュピュレータによって自動的に回収する工程、
によって実施される。
【0084】
上記工程の(i)〜(v)を採用することによって、分泌タンパク質もしくはペプチドを産生する真核細胞の細胞表面上で該タンパク質もしくはペプチドと複合体を形成させることができることから、該タンパク質もしくはペプチドを局所的に濃縮することが可能となる。従って、より高いシグナルを有する真核細胞を検出することが可能となる。さらに、生存状態の真核細胞が本来もつ脂質の取り込み機構を利用して結合分子を真核細胞と融合させることから、真核細胞に負担が少ない点がある。
【0085】
上記の工程(i)で用いる真核細胞の表面に提示させることのできる分子として、アルキル鎖を有する脂肪酸などの化合物が好ましい。これらの分子と分泌タンパク質もしくはペプチドを捕捉する結合分子を融合させる方法は特に限定されないが、架橋剤を用いて結合させることが好ましい。架橋剤の例として、官能基に対して指向性を有するN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)、マレインイミド、ヒドラジド、カルボジイミドを含むものがあげられる。
【0086】
上記の工程(iv)で用いる標識試薬は特に限定されないが、抗体を用いることが好ましい。より好ましくは蛍光標識化された抗体である。
【0087】
本発明における分泌タンパク質もしくはペプチドを産生する真核細胞のピッキングシステムの別の態様として、図34(B)で例示するように、
(i) 真核細胞を導入するマイクロチャンバーの内壁と、特定分子を補足する結合分子を融合させる工程、
(ii) 上記の(i)工程によって処理されたマイクロチャンバーに真核細胞を導入する工程、
(iii) 上記の(ii)の工程のによって真核細胞が導入されたマイクロチャンバーに、分泌タンパク質もしくはペプチドを標識する試薬を添加する工程、
(iv) 上記の(iii)の工程の後、検出装置によって標識シグナルを検出し、高い分泌産生能力を有する細胞を決定し、検出装置と連動したマニュピュレータによって自動的に回収する工程、
によっても実施される。
【0088】
上記工程の(i)〜(iv)を採用することによって、マイクロチャンバー内壁でタンパク質もしくはペプチドと複合体を形成させることができ、産生する真核細胞自体には何も処理を施さないことから、該真核細胞を回収した後の生存性が高い。
【0089】
上記の工程(i)では、マイクロチャンバーに、あらかじめ結合分子を作用させることで融合させる方法が挙げられる。そこで、融合に適した素材を内壁に有するマイクロチャンバーを選択しても良いものとする。
【0090】
上記の工程(i)で融合に用いる分子として、マイクロチャンバー内壁の材質またはコーティングの種類によって架橋剤を選択してもよいものとする。例としては、前記の材質、コーティングが有する官能基に対して指向性を有するN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)、マレインイミド、ヒドラジド、カルボジイミドを含むものがあげられる。
【0091】
上記の工程(iii)で用いる標識試薬は特に限定されないが、抗体を用いることが好ましい。より好ましくは蛍光標識化された抗体である。
【0092】
一般的に分泌タンパク質もしくはペプチドの大量生産系において、分泌タンパク質もしくはペプチドは産生する細胞の培地中に放出されて必要に応じて回収される。そこで、培地中におけるタンパク質もしくはペプチドは、細胞内とは異なる環境下にあり不安定な状態に曝されることになる。また溶液中に溶解しているときのタンパク質もしくはペプチドはプロテアーゼなどにより分解され易いとされる一方で、何らかの担体などと結合した状態であれば安定であるとされる。さらに、培養の容器などとの疎水性相互作用によって吸着することもある。
【0093】
従来の高発現細胞のスクリーニングでは、培地中に放出された分泌タンパク質もしくはペプチドそのものを培地ごと回収し、ELISA法などの手法に供して定量する方法が採用される。この従来のスクリーニング方法ではまず、細胞を細胞塊(コロニー)になるまで培養し、コロニー単位でELISA等により分泌能を評価してスクリーニングする。次に、そのコロニーを回収して単分散化および限界希釈法により1細胞単位まで純化し、再増殖させて高分泌細胞として用いられる。しかし、コロニー単位で評価した細胞群の分泌能と、同コロニーから前述の方法を用いて純化して再増殖させた細胞群の分泌能は必ずしも一致しない。これは、同一コロニーから単離された1細胞間にHeterogeneity(異種性)が存在する為である。図Eにて示すように、本システムでは、同一コロニーから単離されたクローンを1細胞単位で解析することにより、異種性による低分泌クローンのコンタミネーションを排除し、かつ、高分泌性クローンのみを回収できる。
【0094】
本発明の方法では、分泌されたタンパク質もしくはペプチドが細胞表面上または測定用のマイクロチャンバー上で複合体を形成して、分泌タンパク質もしくはペプチドに結合する結合分子の標識によるシグナルを検出するので、より安定な状態で、さらに培養容器への直接の吸着などの問題がなく定量してスクリーニングすることが可能となる。
【0095】
従って、「蛍光の強い一細胞を見逃すことなく高精度に検出/回収できることから」本発明のシステムが優れていることが説明される。
【0096】
B細胞のスクリーニング
B細胞は、細胞ごとに産生する抗体の種類が決まっており、モノクローナル抗体を作成するときには、目的抗原と結合する抗体を産生するB細胞のスクリーニングが必須のステップである。これまでの方法では、B細胞の産生する抗体の量が少ないという問題があることから、B細胞と株化細胞のハイブリドーマを形成させることにより、スクリーニングに供することのできる抗体量を産生させてから、ハイブリドーマ化したB細胞のスクリーニングを行っていた。1細胞ピッキング装置では、顕微鏡観察が自動化されてハイスループット化されていることから、目的抗原に反応するB細胞、つまり目的抗原と交差反応する抗体を産生しているB細胞をハイブリドーマ形成の過程を経ずに直接スクリーニングすることができる。交差反応のスクリーニング方法は、2種類あげられる。1.抗原タンパク質が存在するとB細胞の細胞内カルシウムイオン濃度が変化する。このカルシウムイオン濃度の変化を、カルシウムイオン特異的なケージド化合物の蛍光スペクトル変化により可視化する方法。2.蛍光標識した抗原物質をB細胞集団に添加して、特異的な抗体を産生するB細胞を間接的に蛍光標識する方法。得られたB細胞からRT-PCRにより抗体遺伝子を回収し、抗体遺伝子発現用ベクターにクローニングする。また、従来のハイブリドーマのスクリーニングにおいても、1細胞ピッキング装置を用いることは、単細胞からスクリーニングできるという点と自動でスクリーニングをできるという2つの利点がある。
【0097】
幹細胞のスクリーニング
再生医療や分化の研究において、細胞集団から特定の幹細胞を分取することは重要なステップである。しかしながら、従来のFACSを用いた分取では、細胞にダメージを与えて、細胞死や細胞分化能の消失を招くことが問題となる。また、分化後の細胞の分取においても、細胞死が問題となる。これらの問題は、1細胞ピッキング装置を用いて穏やかな条件下で分取することにより解決できる。
【0098】
ES細胞を含む幹細胞はしばしばフィーダー細胞上で培養されるため、幹細胞の回収時には、フィーダー細胞をコンタミネーションさせないことが重要である。あらかじめフィーダー細胞についてGFPなど蛍光タンパク質を安定発現させておくことにより、フィーダー細胞の完全な除去を1細胞ピッキング装置により自動化できる。iPSやES細胞の未分化マーカーとしては、Nanog、Fbx15、Sox2、Oct3/4、Klf4が報告されており、これらのタンパク質に対する抗体で細胞を免疫染色することにより、1細胞ピッキング装置で幹細胞を分取することができる。
【0099】
接着細胞のスクリーニングへの対応
上記のように本発明のシステムまたは方法を用いることによって、様々な機能を有する細胞を1細胞単位で検出し、更にピックアップすることが可能となる。しかしながら、細胞をピックアップする段階においては、該細胞が培地や緩衝液などの溶液中に浮遊した状態であることが望ましい。従来、細胞の培養方法においては浮遊培養方法と接着培養方法がある。真核細胞の中でも特に哺乳動物細胞の中には、接着しないとアポトーシスが誘導される細胞種も多く、このような細胞種に対しては接着培養が望ましい。さらに、上記の例で挙げたスクリーニング例では新規医薬ターゲットの探索および創出と言う目的を達成するために、接着培養細胞に適した細胞を用いることがある。そこで、接着培養を浮遊させる方法としては、EDTAなどの緩衝液と共にトリプシンやディスパーゼなどの酵素よりを行うことが採用される。
【0100】
本発明のシステムにおいて、その後検出装置での検出に供する際に真核細胞をマイクロチャンバーへ導入するが、接着細胞の培養においては上記の酵素処理を行って細胞を一度浮遊させる必要がある。特定分子と結合分子の複合体の形成によって細胞内で生じるシグナルを検出する系であれば上記の問題は考慮されることは無く、1細胞をピッキングして回収することが可能であるのに対し、前記の複合体が細胞表面上で形成され、結合分子の標識に基づくシグナルを検出する系であれば、前記の酵素処理によって複合体が分解され、検出が出来ない問題が生じる。
【0101】
そこで、上記問題を解決するための方法として
(i) 回収対象となる接着真核細胞をあらかじめマイクロチャンバー上に導入する工程、
(ii) 上記の(i)の工程によって導入された真核細胞をマイクロチャンバー上で接着培養する工程、
(iii) 上記の(ii)の工程によって培養した真核細胞と標識化された結合分子を作用させ、複合体を形成させる工程、
(iv) 上記の(iii)の工程によって処理された真核細胞のうち、結合分子の標識シグナルを検出することで回収対象細胞を決定する工程、
(v) 上記の(iv)の工程によって決定されたマイクロチャンバー内の回収対象細胞に対して酵素を作用させて細胞を浮遊させる工程、
(vi) 上記の(v)の工程によって培地もしくは緩衝液などの溶液中に浮遊する細胞を、検出装置と連動したマニュピュレータによって自動的に回収する工程、
によって本発明のシステムは実施される。
【0102】
検出装置とマニュピュレータが連動しているので、上記の(iv)の工程における情報を基に、上記の(iv)の工程での回収工程に反映させることが可能となる。
【0103】
接着細胞に対して本発明のシステムを実施する他の態様として
(i) 常法に従い接着真核細胞を培養する工程、
(ii) 上記の(i)の工程によって培養した真核細胞と標識化された結合分子を作用させ、複合体を形成させる工程、
(iii) 上記の(ii)の工程の後、結合分子を細胞内に取り込ませる工程、
(iv) 上記の(iii)の工程によって真核細胞内に取り込まれた結合分子の標識に基づく蛍光シグナルを検出して回収対象細胞を決定し、検出装置と連動したマニュピュレータによって自動的に回収する工程、
があげられる。
【0104】
(ii)の工程において結合分子を標識化する方法は特に限定されることは無い。具体的にはアビジン-ビオチン結合を用いた標識や、架橋剤を用いた標識などを採用することで、当業者が実施することができる。
【0105】
(iii)の工程によって、標識化された結合分子が細胞内に取り込まれることで、接着細胞を浮遊させる工程で用いるトリプシンなどの酵素による特定分子-結合分子複合体の分解を避けることが出来るために、標識に基づく蛍光シグナルの検出が可能となるので、接着細胞に対して本発明のシステムを用いることが可能となる。
【0106】
(iii)の工程において、複合体が細胞内に取り込まれる機序は、真核細胞が自然に有する機能を用いる事ができる。前記の機能の機序としては、例えばリガンド-レセプターの複合体の形成の後に生じる細胞内シグナル伝達経路を調節させるために、クラスリンなどの分子と共にエンドサイトーシスによって細胞内取り込まれる機序があげられる。リガンドとレセプターの結合による細胞内シグナル伝達経路の活性化と細胞膜の活性化が密接に関与しているのは一般的であり、特に、クラスリン媒介型エンドサイトーシスは受容体取り込みに関与する機序として最も報告が多い。
【0107】
(iii)の工程において、複合体が細胞内に取り込まれる時間については特に限定されないが、複合体が取り込まれた後に、細胞内においてプロテアソーム等による分解対象物となって分解される前に、続く(iv)の工程を完了すればよいものとする。具体的な(iii)の工程にかかる時間の例として、好ましくは10分以内、より好ましくは5分以内、更に好ましくは1〜2分である。
【0108】
上記のような時間は、当業者が目的のスクリーニング系に適した予備的な実験を行うことによって決定することが出来る。
【0109】
細胞内に取り込まれてすぐ、具体的には1分以内にプロテアソーム等プロテアーゼにより分解され、蛍光検出が困難な時には、トリプシンを阻害しないプロテアソーム阻害剤等プロテアーゼ阻害剤を同時に添加してもよく、万全を期す方法として更に回収前に固定化等の操作によって細胞活動を停止してからマイクロチャンバーからはがしても良い。標的となる受容体は、外来遺伝子より発現させることから、PCRにより遺伝子配列を特定することによりアミノ酸配列を決定することができる。
【0110】
上記の工程を用いることで、具体的にはレセプター群をコードするcDNAライブラリー遺伝子を接着細胞に導入し、受容体を発現させ、蛍光標識オーファンリガンドを作用させて1細胞を回収するオーファンリガンドのスクリーニングが可能となる。
【0111】
マイクロインジェクションへの応用
マルチウェルプレートを用いたマイクロインジェクション従来技術では、細胞の位置決めが難しかったが、マイクロチャンバーで細胞を補足することにより、マイクロインジェクションが容易になる。同様の機器としては、富士通株式会社製セルインジェクターCI-2000があるが、高密度に培養された接着細胞にCI-2000を用いる場合、細胞の形状認識機能が誤作動し、正確に細胞へキャピラリ針を挿入できない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】JAK-STAT系を利用したアッセイ
【図2】GFP発現誘導によるアンタゴニストのスクリーニング
【図3】カナバニン取り込みによる酵母の致死性を利用したアンタゴニストのスクリーニング
【図4】熱感受性による致死性を利用したアンタゴニストのスクリーニング
【図5】FRETの緩和を利用したアンタゴニストのスクリーニング
【図6】各種形質転換体におけるEGFRの発現
【図7】BJ5464株におけるGAL1p制御下でのEGFRおよびEGF-FLO42の発現
【図8】BJ5464株におけるEGFRおよびEGF-FLO42の局在
【図9】BJ5464株におけるリン酸化EGFRの局在とその蛍光シグナル
【図10】一細胞PCRによるEGF遺伝子断片の増幅
【図11】ライブラリートランスフォーメーションの条件検討
【図12】BJ5464株におけるEGFRの発現およびHLH-FLAG-FLO42の局在
【図13】1細胞ピッキング装置による陽性酵母の回収画像、プライマー配列、および一細胞PCR
【図14】EGFシグナルのアゴニストおよび大腸菌で発現させたアゴニストの精製
【図15】精製HLHペプチドによる哺乳類細胞由来EGFRの自己リン酸化
【図16】cdc25Ha株におけるEGFR、EGF-FLO42、Sos-Grb2の発現
【図17】cdc25Ha株におけるEGFRおよびEGF-FLO42の局在
【図18】EGFR系に関する熱感受性相補実験
【図19】cdc25Ha株におけるリン酸化EGFRの局在
【図20】EGF-FLO42依存的なEGFRの二量体化による増殖促進と青色呈色
【図21】cdc25Ha株におけるIL5Rαおよびβcの発現
【図22】cdc25Ha株におけるIL5Rαおよびβcの局在
【図23】cdc25Ha株におけるJAK2の発現
【図24】cdc25Ha株におけるIL5依存的なJAK2の自己リン酸化
【図25】cdc25Ha株におけるIL5-FLO42の発現および局在
【図26】cdc25Ha株におけるIL5-FLO42依存的なJAK2の自己リン酸化およびリン酸化JAK2の局在
【図27】cdc25Ha株におけるSos-Shc1の発現
【図28】IL5系における熱感受性の相補および熱ショック耐性
【図29】BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42、IL5Rα、βc、JAK2、およびSTAT5aの発現
【図30】BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42の発現および局在
【図31】BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42依存的なSTAT5aのリン酸化の亢進
【図32】BY4741ΔTRP1株におけるIL5依存的なリン酸化STAT5aの核内局在
【図33】cdc25Ha株におけるIL6RαおよびIL6-FLO42の発現
【図34】有用分泌物質を高生産する動物細胞の蛍光による標的化
【図35】CHO細胞の表層への抗体の提示
【図36】Hybridoma 9D9の分泌抗体に由来する蛍光
【図37】マイクロチャンバー内でのHybridoma 9D9の蛍光
【図38】A431細胞による蛍光標識EGFの取り込み
【図39】トリプシン処理前、処理後、回収中、回収後のマイクロチャンバーの撮影像
【図A】1細胞ピッキング装置の概略図
【図B】マイクロチャンバーを示す図
【図C】検出部で得られた蛍光画像
【図D】解析部で各マイクロチャンバー座標の蛍光値を解析し、得られた結果のヒストグラム
【図E】従来法と1細胞ピッキング装置を用いる場合の比較
【図F】アゴニストスクリーニングの手順
【実施例】
【0113】
以下、本発明を実施例に従ってより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0114】
1: 酵母における一回膜貫通型レセプターの介するシグナル伝達再構成用プラスミドの構築
1-1: EGFR、IL5Rα、IL6Rαの発現プラスミドの構築
ヒト由来EGFR、IL5Rα、IL6Rαのそれぞれをコードする遺伝子を用いて、pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rαを構築した。
【0115】
1-1-1: pGMH20-MFα-FLAGの構築
酵母の分泌タンパク質MFα1のPrepro配列(MFα)(J. Bacteriol., 903-906頁, 1983年)をコードする遺伝子を鋳型としたPCRにより、Prepro配列をコードする遺伝子の3’側にFLAGタグ配列をコードし、かつ両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pGMH20(GAL1p、HIS3)に挿入して、pGMH20-MFα-FLAGを得た。
【0116】
1-1-2: pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rαの構築
PCRにより、成熟型EGFR、IL5Rα、IL6Rαをコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片をそれぞれ得た。これらの増幅断片を制限酵素にて消化し、pGMH20-MFα-FLAGに挿入して、pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rαを得た。
【0117】
1-2: 他のEGFR発現プラスミドの構築
種々の酵母株に適したEGFRの酵母発現系を検討するため、pBT3-SUC-EGFR-V5、pPR3-SUC-EGFR、pYES3-SUC-EGFR-V5を構築した。
【0118】
1-2-1: pPR3-SUC-EGFRおよびpBT3-SUC-EGFR-V5の構築
PCRにより、成熟型EGFRをコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pPR3-SUC(ADH1p、TRP1)(MoBiTec社)に挿入して、pPR3-SUC-EGFRを得た。また、同EGFR遺伝子断片のC末端側にV5タグを付加するように設計された遺伝子断片と共に、pBT3-SUC(CYC1p、LEU2) (MoBiTec社)に挿入して、pBT3-SUC-EGFR-V5を得た。
【0119】
1-2-2: pYES3-SUC-EGFR-V5の構築
pBT3-SUC-EGFR-V5を鋳型としたPCRにより、酵母の分泌タンパク質SUC2の分泌シグナル配列(Mol. Cell. Biol., 1812-1819頁, 1986年)をコードする遺伝子の3’側にEGFRおよびV5タグ配列をコードし、かつ両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pYES3(GAL1p、TRP1)(Invitrogen社)に挿入して、pYES3-SUC-EGFR-V5を得た。
【0120】
1-3: βcおよびgp130の発現プラスミドの構築
ヒト由来βcおよびgp130をコードする遺伝子を用いて、pGMT20-MFα-βcおよびpGMT20-MFα-gp130を構築した。
【0121】
1-3-1: pGMT20-MFα-HAの構築
MFα1のPrepro配列をコードする遺伝子を鋳型としたPCRにより、Prepro配列をコードする遺伝子の3’側にHAタグ配列をコードし、かつ両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pGMT20(GAL1p、TRP1)に挿入して、pGMT20-MFα-HAを得た。
【0122】
1-3-2: pGMT20-MFα-HA-βおよびpGMT20-MFα-gp130の構築
PCRにより、成熟型βcおよびgp130をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片をそれぞれ得た。これらの増幅断片を制限酵素にて消化し、pGMT20-MFα-HAに挿入し、pGMT20-MFα-HA-βcおよびpGMt20-MFα-HA-gp130を得た。
【0123】
1-4: JAK2の発現プラスミドの構築
マウス由来JAK2をコードする遺伝子を用いて、pAUR123-V5-JAK2およびpAURGAL1p-V5-JAK2を構築した。
【0124】
1-4-1: pAUR123-V5の構築
pAUR123(ADH1p、AUR1-C)を制限酵素にて消化し、V5タグ配列をコードする遺伝子を挿入して、pAUR123-V5を得た。
【0125】
1-4-2:p AURGAL1p-V5の構築
PCRにより、GAL1pをコードする遺伝子の増幅断片を得て、pAUR123からADH1pを欠失した遺伝子をコードする増幅断片を得た。これらの増幅断片を制限酵素にて消化し、連結することによってpAURGAL1pを得た。さらに、pAURGAL1pを制限酵素にて消化し、V5タグ配列をコードする遺伝子を挿入して、pAURGAL1p-V5を得た。
【0126】
1-4-3:p GEM-JAK2の構築
PCRにより、JAK2をコードする増幅断片を得た。この増幅断片の3’側にアデニンを付加し、pGEM T-Easyベクターに挿入して、pGEM-JAK2を得た。
【0127】
1-4-4: pAUR123-V5-JAK2およびpAURGAL1p-V5-JAK2の構築
pGEM-JAK2を鋳型としたPCRにより、JAK2をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pAUR123-V5およびpAURGAL1p-V5に挿入して、pAUR123-V5-JAK2およびpAURGAL1p-V5-JAK2を得た。
【0128】
1-5: STAT5aの発現プラスミドの構築
ヒト由来STAT5aをコードする遺伝子を用いて、pGML10-myc-STAT5aΔC-VP16を構築した。
【0129】
1-5-1: pGEM-myc-STAT5aΔC-VP16の構築
PCRにより、STAT5aのC末端側85アミノ酸に相当する配列を欠失させたSTAT5a変異体(STAT5aΔC)をコードする遺伝子の5’側にmycタグ配列をコードした遺伝子を付加し、かつ両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片の3’側にアデニンを付加しpGEM T-Easyベクターに挿入して、pGEM-myc-STAT5aΔCを得た。また、PCRにより、VP16をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pGEM-myc-STAT5aΔCに挿入して、pGEM-myc-STAT5aΔC-VP16を得た。
【0130】
1-5-2: pGML10-myc-STAT5aΔC-VP16
pGEM-myc-STAT5aΔC-VP16を鋳型としたPCRにより、myc-STAT5aΔC-VP16をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。この増幅断片を制限酵素にて消化し、pGML10ベクター(GAL1p、LEU2; Biotechniques. 1998 Dec;25(6):936-8.)に挿入して、pGML10-myc-STAT5aΔC-VP16を得た。
【0131】
1-6: 表層提示型リガンドの発現プラスミドの構築
ヒト由来EGF、IL5、IL6、Helix-Loop-Helixランダムペプチドライブラリー(HLH)をコードする遺伝子を用いて、pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42、pYES2-MFα-HA-IL5-FLO42、pYES2-MFα-HA-IL6-FLO42、pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を構築した。
【0132】
1-6-1: pYES2-MFα-FLO42の構築
PCRにより、MFα1のPrepro配列をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片および酵母の細胞壁アンカーリングタンパク質 FLO42(Appl. Microbiol. Biotechnol., 469-474頁, 2002年)をコードする遺伝子の両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片をそれぞれ得た。これらの増幅断片を制限酵素にて消化し、pYES2(GAL1p、URA3)(Invitrogen社)に挿入して、pYES2-MFα-FLO42を得た。
【0133】
1-6-2: pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42、pYES2-MFα-HA-IL5-FLO42、pYES2-MFα-MFα-IL6-FLO42、pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42の構築
PCRにより、成熟型EGF、IL5、IL6をコードする遺伝子の5’側にHAタグ配列をコードし、かつ両末端に制限酵素部位を付加した増幅断片をそれぞれ得た。同じく、(特許文献2)に従いPCRにより、HLHをコードする遺伝子の3’側にFLAGタグ配列をコードし、かつ制限酵素部位を付加した増幅断片を得た。これらの増幅断片を制限酵素にて消化し、pYES2-MFα-FLO42に挿入して、pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42、pYES2-MFα-HA-IL5-FLO42、pYES2-MFα-HA-IL6-FLO42、pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を得た。
【0134】
1-7: Sos融合型Grb2およびShc1の発現プラスミドの構築
ヒト由来Grb2およびShc1をコードする遺伝子を用いて、pSos-Grb2およびpSos-Shc1を構築した。
【0135】
1-7-1: pSos-Grb2およびpSos-Shc1の構築
PCRにより、Grb2およびShc1をコードする遺伝子の両末端側に制限酵素部位を付加した増幅断片をそれぞれ得た。これらの増幅断片を制限酵素にて消化し、pSos(AHD1p、LEU2)に挿入して、pSos-Grb2およびpSos-Shc1を得た。
【0136】
2: EGFシグナルのアゴニストのスクリーニング例
2-1: EGFRの自己リン酸化検出によるスクリーニング例
哺乳類細胞において、EGFRはEGFの結合により自己リン酸化する。実施例2-1では、酵母においてHLHライブラリーを表層提示し、EGFRの自己リン酸化を検出することによって、アゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0137】
2-1-1: 入手した酵母株
一回膜貫通型シグナル伝達再構成に適した酵母を選定するため、酵母Saccharomyces cerevisiae BY4741株、BY4741ΔTRP1株、W303-1A株、W303-1B株、cdc25Ha株、cdc25Hα株、BJ5464株、NMY51株、BY2973株、BY3554株、BY4080株、BY4082株、BY4624株、BY5209株、BY21396株、BY21467株、BY20272株、BY8515株、BY20173株を入手した。各酵母株の遺伝子型を表1に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
2-1-2: EGF系に適した酵母の選定 実施例2-1-1の酵母株のうち、BY4741株、W303-1A株、W303-1B株、BJ5464株、BY2973株、BY3554株、BY4080株、BY4082株、BY4624株、BY5209株、BY21396株、BY21467株、BY20272株に、プラスミドpGMH20、pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、pBT3-SUC、pBT3-SUC-EGFR-V5を酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体BY2973/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BY21396/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BY4624/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BY4082/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BY4080/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BY5209/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、W303-1A/pGMH20、W303-1A/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、W303-1B/pGMH20、W303-1B/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BY4741/pGMH20、BY4741/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、BJ5464/pBT3-SUC、BJ5464/pBT3-SUC-EGFR-V5を、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。その他の株、BY3554株、BY21467株、BY20272株については酵母形質転換体が得られなかった。
【0140】
2-1-3: 酵母形質転換体の培養
直径2〜3 mmに生育した酵母形質転換体のコロニーを3 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に植菌して30℃、200 rpmでOD600=1.0〜1.5まで前培養し、10 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地に初期OD600=0.2になるよう植菌して30℃、200 rpmでOD600=0.6〜2.0まで本培養した。本培養後必要に応じて、20 mM HEPES (pH 7.0)を加えた適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地中で、さらに1時間培養した。
【0141】
2-1-4: EGFRの発現
実施例2-1-2で得られた酵母形質転換体を培養後、遠心にて回収し、200μLの溶解液(50 mM Tris-HCl(pH7.3), 150 mM NaCl, 1% Triton X-100, 1 mM EGTA, 2 mM DTT, CompleteTM protease inhibitor cocktail tablet(Roche社)1個/10 mL)に懸濁し、グラスビーズあるいは自動破砕装置(Tokken社)で破砕して酵母粗抽出液を得た。遠心して上清(細胞質)画分および沈殿(細胞壁)画分に分離し(YEAST, 399-409頁, 1993年)、上清画分にSDS(終濃度0.5%)および2-メルカプトエタノール(終濃度1%)を添加した。沈殿画分には上清画分と等量の溶解液に再懸濁し、SDS(終濃度0.5%)および2-メルカプトエタノール(終濃度1%)を添加した。それぞれの画分を98℃で15分間煮沸し、N-Glycosidase(終濃度1 U/μL)およびO-Glycosidase(終濃度0.5 mU/μL)を添加後、37℃、30分間静置して反応をローディングバッファーでストップした。サンプルを抗FLAGマウスモノクローナル抗体および抗V5マウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図6に示す。
【0142】
図6に示したとおり、EGFR全長の発現の検出が容易な酵母株は、BJ5464株であると判明した。脱糖鎖修飾処理により、EGFRの計算分子量付近にEGFR-V5が見られたことから、EGFRは酵母細胞内において、糖鎖修飾されると明らかになった。W303-1A株およびW303-1B株に発現させたEGFRは、EGFR全長と比べて、短い断片として検出された。BY4741株については、まったく発現が見られなかった。他の株についても同様に、EGFRの安定した発現は見られなかった。
【0143】
2-1-5: BJ5464株におけるEGFRの発現の最適化およびEGF-FLO42の発現
EGFRの検出をより容易にするために、ADH1pを有するpBT3-SUC-EGFR-V5の代わりにGAL1pを有するpYES3-SUC-EGFR-V5を用いた。BJ5464株にプラスミドpYES2-MFα-FLO42、pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42、pYES3、pYES3-SUC-EGFR-V5を酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体BJ5464/pYES2-MFα-FLO42/pYES3、BJ5464/pYES2-MFα-FLO42/pYES3-SUC-EGFR-V5、BJ5464/pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42/pYES3-SUC-EGFR-V5を、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。実施例2-1-4で示したようにタンパク質を抽出し、抗V5マウスモノクローナル抗体および抗HAマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図7に示す。
【0144】
発現プロモータをGAL1pにしたことにより、より多くのEGFRの発現に成功した。また、細胞壁画分にEGF-FLO42の発現が確認された。
【0145】
2-1-6: BJ5464株におけるEGFRおよびEGF-FLO42の局在
EGF-FLO42の細胞壁への局在を観察するために、以下に記したとおり酵母形質転換体を標識した。実施例2-1-5で得られた酵母形質転換体を培養後回収して一次抗体として抗HAマウスモノクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに二次抗体としてAlexa488標識した抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体を添加し、30分間反応後に洗浄して酵母蛍光サンプルを得た。
【0146】
また、EGFRの細胞膜への局在を観察するために、以下に記したとおり細胞壁を除去して標識した。実施例2-1-5で得られた酵母形質転換体を4%パラホルムアルデヒドで固定化した後、ソルビトール緩衝液(40 mM リン酸カリウム(pH 6.5), 0.5 mM MgCl2, 1.2 M ソルビトール)で2回洗浄した。固定化した酵母を500μLのソルビトール緩衝液に再懸濁し、0.3 mgのZymolyase 20Tを添加後、37℃、10分間静置してソルビトール緩衝液で2回洗浄した。一次抗体として抗V5マウスモノクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに二次抗体としてAlexa488標識した抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体を添加し、30分間反応後に洗浄して酵母蛍光サンプルを得た。これらの酵母蛍光サンプルについて、共焦点レーザー顕微鏡による観察を行った。結果を図8に示す。
【0147】
EGF-FLO42は細胞壁に局在し、EGFRは細胞膜に局在した。よって、EGFとEGFRの両方の酵母細胞表層への提示に成功したと示された。
【0148】
2-1-7: BJ5464株におけるEGFRの自己リン酸化
実施例2-1-5で得られた酵母形質転換体の細胞壁を除去し、一次抗体としてEGFRのアミノ酸の1068、1148、1173番目のそれぞれのリン酸化チロシンを認識する抗EGFR pY1068マウスモノクローナル抗体、抗EGFR pY1148ラビットポリクローナル抗体、抗EGFR pY1173ゴートポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに二次抗体としてAlexa488標識した抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体、抗ラビットIgGゴートポリクローナル抗体、抗ゴートIgGドンキーポリクローナル抗体をそれぞれの一次抗体に対し適宜添加し、30分間反応後に洗浄してフローサイトメーターおよび共焦点レーザー顕微鏡による解析を行った。結果を図9に示す。
【0149】
フローサイトメーターの結果から分かるとおり、表層提示したEGFに依存したEGFRの自己リン酸化が検出された。さらに、EGFRが自己リン酸化するには、哺乳類に見られるような生理的pHが必要であることも見出した。また、顕微鏡による観察結果から、自己リン酸化したEGFRは哺乳類細胞と同様に細胞膜に局在すると判明した。
【0150】
2-1-8: 1細胞ピッキング装置を用いた陽性酵母の回収および一細胞PCRの検討
陽性酵母を1細胞ピッキング装置を用いて回収し、一細胞PCRによりEGF遺伝子が同定できるかどうか検討した。実施例2-1-7で得られた酵母蛍光サンプルをマイクロチャンバー上に蒔き、1細胞ピッキング装置を用いて6陽性酵母を回収し、80μLのMilliQを入れた96-ウェルPCRプレートの6ウェルに吐出した。このPCRプレートを乾燥機にて80℃で約3時間乾燥させ、Nested & Touch dowon PCRを行った。結果を図10に示す。
【0151】
6陽性酵母を回収したうち、5陽性酵母について一細胞PCRに成功した。このことから、1細胞ピッキング装置による一細胞回収および一細胞PCRからなる一連の操作における、遺伝子同定の成功率は約8割であると示された。
【0152】
以上より、1細胞ピッキング装置による、自己リン酸化したEGFRを有する酵母の取得が可能であることが示された。この事は、EGFRの自己リン酸化を検出することにより、EGFシグナルのアゴニストのハイスループットスクリーニングが可能であることを示す。
【0153】
2-1-9: BJ5464株へのpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42の導入効率の検討
pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を用いたEGRシグナルのアゴニストのスクリーニングをするにあたり、より大きなプラスミドサイズを有するpYES2-MFα-HA-EGF-FLO42を用いて、プラスミドの導入効率の検討を行った。酵母形質転換体BJ5464/pYES3-SUC-EGFR-V5を100 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地にて、30℃、200 rpmで16時間前培養した。300mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に初期OD600=0.15となるように前培養液を加え、30℃、200 rpmでOD600=0.6になるまで本培養した。培地量とプラスミド量の最適化をはかるため、本培養した菌体を回収後、6本の15-mLチューブに分注し、酢酸リチウム法により100 mL培養あたり、0.5、5.0、50μgのpYES2-MFα-HA-EGF-FLO42を導入した。また、プラスミドの取り込みに適した温度および静置時間を検討するため、25℃および42℃のそれぞれの温度において15、30、60、120、180分間静置した。結果を図11に示す。
【0154】
構造固定型ペプチドライブラリーであるHLHは、Cアミノ末端側に位置するヘリックスを構成するアミノ酸残基の内、溶媒接触可能表面の5アミノ酸がランダマイズされており、20アミノ酸の5乗、すなわち3.2x106種類あり、酵母形質転換体において、同数以上のインディペンデントクローンが必要とされる。このインディペンデントクローンを網羅するための温度と時間が、42℃で15分と確定された。さらに、表2に示したように、必要なインディペンデントクローンを得るため要求される培養量とpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42量の関係が明らかとなった。これらのことから、ライブラリースクリーニングを行うにあたり、実施効率のよい形質転換を行うことが可能である。
【0155】
【表2】
【0156】
2-1-10: ライブラリートランスフォーメーション
表2を参考に、500 mL培養および250μgのpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を用いて、ライブラリーの導入を行った。実施例2-1-9に従って、pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体BJ5464/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42/pYES3-SUC-EGFR-V5を適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地に得た。この時のコロニー数は5x106個であり、必要とされるインディペンデントクローン数が網羅された。プレート上の全てのコロニーをかきとって1つにまとめグリセロールストックを作成し、2-mLチューブに、1 mLずつ分注して-80℃に保管した。また、この時の酵母細胞数をカウントしたところ、グリセロールストック1 mLあたり、2.88x109細胞が含まれていた。
【0157】
2-1-11: BJ5464株におけるHLHの局在およびEGFRの発現確認
BJ5464/pYES2-HLH-FLAG-FLO42/pYES3-SUC-EGFR-V5のグリセロールストック100 μL(2.88x108細胞)を100 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に添加して初期OD600=0.16であることを確認した。菌体を30℃、200 rpmで8時間前培養し、100 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地に初期OD600=0.16で植菌して30℃、200 rpmでOD600=2.0まで本培養した。本培養後、20 mM HEPES(pH7.0)を加えた適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地でさらに1時間培養し、実施例2-1-6に示した方法に従い、抗FLAGマウスモノクローナル抗体およびAlexa488標識した抗マウスIgGゴートポリクローなる抗体を用いて標識し、HLHの局在を共焦点レーザー顕微鏡により観察した。また、細胞壁を除去した後、実施例2-1-6のように、抗V5マウスモノクローナル抗体を用いて標識し、フローサイトメーターによりEGFRの発現の確認をした。結果を図12に示す。
【0158】
EGFR発現がフローサイトメーターにより確認された。また顕微鏡観察からHLHは細胞壁に局在すると確認された。
【0159】
2-1-12: 1細胞ピッキング装置を用いたライブラリースクリーニング
実施例2-1-11のように培養した酵母を回収して細胞壁を除去した後、抗EGFR pY1173ゴートポリクローナル抗体を用いて標識し、1細胞ピッキング装置を用いて陽性酵母を80μLのMilliQを添加した96-ウェル PCRプレートに回収した。回収した陽性酵母について、以下に示す要領でNested&Touch dowon PCRを行った。ウェルに1st PCR反応液(10xKOD-Plus- buffer 0.5μL, 2 mM dNTPs 0.5μL, 25 mM MgSO4 0.2μL, 1μM 5’-primer(i) 0.3μL, 1μM 3’-primer(ii) 0.3μL, DMSO 0.25μL, 滅菌水2.85μL, Kod -Plus- 0.1μL)を加え、Touch down cycleについては、Preheat 94℃(5 min)→Denature 94℃(60sec)Annealing 73〜61℃(-1℃/cycle, 20 sec)→Extention 68℃(90 sec)でPCRを行い、引き続きDenature 94℃(60 sec)→Annealing 64℃(30 sec)→Extention 68℃(90 sec)x45 cycles→Final extention 68℃(7 min)でPCRを行った。反応後、1st PCR反応液に、2nd PCR反応液(10xKOD-Plus-buffer 1μL, 2 mM dNTPs 1μL, 25 mM MgSO40.4μL, 10μM 5’-primer(iii) 0.3μL, 10μM 3’-primer(iv) 0.3μL, DMSO 0.5μL, 滅菌水6.3μL, Kod-Plus-0.2μL)を加え、Touch down cycleについては、Preheat 94℃(2 min)→Denature 94℃(60 sec)→Annealing 77〜63℃(-1℃/cycle, 20 sec)→Extention 68℃(15 sec)でPCRを行い、引き続きDenature 94℃(60 sec)→Annealing 66℃(30 sec)→Extention 68℃(15 sec)x45 cycles→Final extention 68℃(7 min)でPCRを行った。1細胞ピッキング装置による陽性酵母の回収像、用いたPrimerの配列、1細胞PCRの結果を図13に示す。
【0160】
図13に示した1マイクロチャンバーあたりの陽性酵母の回収に要する時間は約30秒であると確認された。また、一細胞PCRによって67マイクロチャンバーから回収したうち、57マイクロチャンバーにおいてHLH-FLAGをコードする遺伝子断片の取得に成功した。合計3.6x106個のマイクロチャンバーから488の陽性酵母を検出し、蛍光輝度値のTOP67を回収し、85%の確率で遺伝子断片を取得に成功した。培養からHLH-FLAG遺伝子断片の回収に要した時間は8日間であった。
【0161】
2-1-13: アゴニスト配列の同定および大腸菌を用いた発現精製
実施例2-1-12で得られたHLH-FLAGをコードする遺伝子断片を、pET102-TOPOベクター(Invitrogen社)に挿入し、プラスミドpET102-HLH-FLAGを得て、シーケンスにより配列を決定した。このプラスミドから発現されるタンパク質はNアミノ末端側に発現タンパク質の可溶性度を上昇させ、さらにNiやCoと結合能を有するヒスパッチ-チオレドキシン(TrxHP)およびCアミノ末端側にV5とヘキサヒスチジン(His6)からなるタンデムタグが付加されるため、NiやCo担体を用いたアフィニティー精製が可能である。このプラスミドを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、Ampを含むLB寒天培地上に大腸菌形質転換体を得て、Overnight Express Autoinduction System(メルク社)を用いて培養した。発現したタンパク質(TrxHP-HLH-FLAG-His6)を96-ウェルCo-キレート担体プレート(Takara社)を用いてアフィニティー精製し、SDS-PAGEおよびCBB染色により発現および精製の確認を行った。結果を図14に示す。
【0162】
図14に示したとおり、TrxHP-HLH-FLAG-His6の精製物が得られた。
【0163】
2-1-14: TrxHP-HLH-FLAG-His6を用いた哺乳類細胞のEGFRの活性化検討
実施例2-1-13で得られた精製TrxHP-HLH-FLAG-His6の12種類について、哺乳類細胞のEGFシグナルを作動させるかどうか検討した。EGFRを過剰発現する扁平上皮癌由来A431細胞を血清成分不含の培地中で20時間静置培養し、50 nMの精製アゴニストを添加し、5分後培地を廃棄して、溶解液(50 mM Tris-HCl(pH7.3), 150 mM NaCl, 1% Triton X-100, 1 mM EGTA, 1 mM DTT, 1 mM Na3VO4, Phosphatase inhibitor cocktail(シグマ社)1/100量, CompleteTM protease inhibitor cocktail 1個/50 mL)に懸濁した。これらのサンプルを抗EGFR pY1173抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図15に示す。
【0164】
図15に示したとおり、TrxHP-HLH-FLAG-His6依存的なEGFRの自己リン酸化が、9検体中7検体で見られた。これはTrxHP-HLH-FLAG-His6にEGFシグナルの作動性があることを示す。
【0165】
以上より、ヒト由来一回膜貫通型レセプターに対するアゴニストスクリーニングの短時間・低コストのハイスループット化が、酵母を用いることにより可能であると実証された。1細胞ピッキング装置を用いた操作〜哺乳類細胞におけるEGFRのアッセイまでの、各種スコアを表3に示す。
【0166】
また、図14で示したTrxHP-HLH-FLAG-His6の模式図からわかるとおり、エンテロキナーゼを用いてHLH-FLAG部分を切り出して、抗FLAG抗体カラムなどを用いれば、よりコンパクトなHLH-FLAGコアの単離・精製も可能である。さらに、HLHは構造が固定されているため、溶媒接触可能表面に座するアミノ酸側鎖の電荷量などのコンピューテーショナル解析も可能であり、ファーマコフォアの抽出によるアゴニスト活性を有する化合物への置き換えなどが容易である。
【0167】
【表3】
【0168】
2-2: EGFシグナル伝達を利用したアゴニストのスクリーニング例
自己リン酸化したEGFRは、Grb2およびShc1などのアダプタータンパク質を細胞膜近傍にリクルートする。これらのアダプタータンパク質は、Sos(細胞増殖因子Rasの活性化因子)をさらにリクルートし、細胞増殖を促進する。哺乳類由来のSosは、酵母由来Rasも活性化すると知られており、このことを利用して酵母の増殖シグナルを活性化するスクリーニングシステムを構築し、アゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0169】
2-2-1: 酵母形質転換体の作成
熱感受性酵母cdc25Ha株にプラスミドpYES2-MFα-FLO42、pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42、pGMH20、pGMH20-MFα-FLAG-EGFR、pSos、pSos-Grb2、pSos-Shc1を酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20/pSos、cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Grb2、cdc25Ha/pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Grb2、cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Shc1、cdc25Ha/pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Shc1を、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。
【0170】
2-2-2: 酵母形質転換体の培養
直径2〜3 mmに生育した酵母形質転換体のコロニーを3 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に植菌して25℃、200 rpmでOD600=1.0〜1.5まで前培養し、10 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地に初期OD600=0.2になるよう植菌して25℃、200 rpmでOD600=0.6〜2.0まで本培養した。
【0171】
2-2-3: cdc25Ha株におけるEGFR、EGF-FLO42、Sos-Grb2の発現
実施例2-2-1で得られた酵母形質転換体を培養後、実施例2-1-4で示したようにタンパク質を抽出し、抗FLAGマウスモノクローナル抗体、抗HAマウスモノクローナル抗体、抗Sosマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図16に示す。
【0172】
可溶性画分において、脱糖鎖修飾処理前に見られなかったヒト由来EGFRのバンドが、処理後に計算分子量付近に確認された。このことから酵母において、EGFRタンパク質の発現および糖鎖修飾を受けることが確認された。また、EGFの発現が細胞壁を含む不溶性画分に見られた。また、pSos-Grb2から発現されるSos融合型Grb2(Sos-Grb2)の発現が可溶性画分において検出された。
【0173】
2-2-4: cdc25Ha株におけるEGFRおよびEGF-FLO42の局在
実施例2-2-1で得られた酵母形質転換体を培養後、実施例2-1-6と同様の方法で、抗FLAGマウスモノクローナル抗体および抗HAマウスモノクローナル抗体を用いて標識し、蛍光顕微鏡による観察を行った。結果を図17に示す。
【0174】
BJ5464の時と同様に、cdc25Ha株においても、EGFRおよびEGF-FLO42の酵母細胞表層への提示に成功した。
【0175】
2-2-5: cdc25Ha株におけるEGFシグナルを利用した熱感受性相補
酵母に発現させたそれぞれのタンパク質EGF-FLO42、EGFR、Sos-Grb2、Sos-Shc1が機能すれば、熱感受性酵母であるcdc25Ha株が37℃において増殖可能になると期待される。実施例2-2-1で得られた酵母形質転換体を培養後、培養液原液、10、100、1000倍希釈、あるいは4、16、64倍希釈して、適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal寒天培地上に10μlずつ滴下し、25℃および37℃で14日間培養した。結果を図18に示す。
【0176】
熱感受性実験の結果、酵母におけるEGFシグナル伝達再構成に必要と考えられるEGF-FLO42、EGFR、Sos-Grb2を全て発現させた酵母形 質転換体においてのみ、37℃における増殖が確認された。また、Sos-Grb2のかわりにSos-Shc1を発現させた時、熱感受性の相補はより改善された。
【0177】
以上より酵母において発現させたEGF-FLO42の刺激をEGFRが受け、Sos-Grb2およびSos-Shc1にシグナルが流れていると考えられた。Grb2やShc1がEGFRに結合するには、EGFRが自己リン酸化されている必要があり、本実験の結果から、実施例2で示されたBJ5464株と同様に、EGFRの自己リン酸化がcdc25Ha株内において哺乳動物と同様に生じていると示唆された。このcdc25Ha株におけるEGFRの自己リン酸化は、BJ5464の時と同様な蛍光抗体を用いた免疫染色により証明した。結果を図19に示す。
【0178】
2-2-6: cdc25Ha株へのpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42の導入効率の検討
実施例2-1-9と同様に、pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42を用いて、プラスミドの導入効率の検討を行った。酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Grb2を100 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地にて、25℃、200 rpmで16時間前培養した。50 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に初期OD600=0.15となるよう前培養液を加え、25℃、200 rpmでOD600=0.6になるまで本培養した。培地量とプラスミド量の最適化をはかるため、本培養した菌体を回収後、3本の15-mLチューブに分注し、酢酸リチウム法により150 mL培養あたり、0.5、5.0、50μgのpYES2-MFα-HA-EGF-FLO42を導入した。また、プラスミドの取り込みに適した静置時間を検討するため、25℃において15、60、180分間静置した。
【0179】
結果として、50 mLの本培養において、50μgのプラスミドを用いて、180分静置した時に得られたコロニー数が、1.65x104個であり、1 Lの本培養において、1 mgのプラスミドを用いれば、6.6x106種類のインディペンデントクローンが得られると確定した。また、メイティング法によるライブラリートランスフォーメーションも考慮にいれ、cdc25Hα株へのpYES2-MFα-HA-EGF-FLO42の導入効率の検討も同様におこなったところ、1 Lの本培養において、1 mgのプラスミドを用いた時、3.2x107種類のインディペンデントクローンが得られた。
【0180】
2-2-7: EGFシグナル伝達を利用したアゴニストのライブラリースクリーニング
実施例2-2-6を参考に、酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Shc1を培養してライブラリートランスフォーメーションを行い、得られた形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-EGFR/pSos-Shc1を、熱感受性を利用したスクリーニングに供したところ、新たなEGFシグナルのアゴニストを見出した。
【0181】
2-3: EGFRの二量体化検出によるスクリーニング例
哺乳類細胞においてEGFRは、EGFが結合すると、細胞膜上で二量体化することが知られている。酵母においてpBT3-SUCベクターより発現されるEGFRは、Cアミノ末端側にCub-LexA-VP16タンパク質が融合され発現される。一方、pPR3-SUCベクターより発現されるEGFRは、Cアミノ末端側にNubタンパク質が融合され発現される。EGFRが二量体化すると、CubとNubが酵母細胞質内で近接し、Cub-Nub近接高次構造を認識する酵母内在性のユビキチン加水分解酵素によりCubのCアミノ末端側直後が切断される。このことにより、LexA-VP16が遊離して酵母核内に移行し、レポーター遺伝子を活性化する。実施例2-3では、酵母においてHLHライブラリーを表層提示し、EGFRの二量体化をレポーター検出することによって、アゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0182】
2-3-1: 酵母形質転換体の作成
LacZ、HIS3、ADE2レポーター遺伝子がゲノムに組み込まれた酵母NMY51に、プラスミドpYES2-MFα-FLO42、pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42、pBT3-SUC-EGFR-V5、pPR3-SUC-EGFRを、酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体NMY51/pYES2-MFα-FLO42/pBT3-SUC-EGFR-V5/pPR3-SUC-EGFRおよびNMY51/pYES2-MFα-HA-EGF-FLO42/pBT3-SUC-EGFR-V5/pPR3-SUC-EGFRを、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。
【0183】
2-3-2: NMY51株におけるEGFRの二量体化
実施例2-3-1で得られた酵母形質転換体を培養後、培養液原液、10、100倍希釈して、X-galおよび適切なアミノ酸を含むSD+GlcおよびSD+Raf/Gal寒天培地に10μlずつ滴下し、30℃において7日間静置培養した。結果を図20に示す。
【0184】
EGF-FLO42の発現はガラクトースにより誘導される。図20に見られるように、グルコースを含む培地ではコントロールと陽性対象の間で、色や増殖に殆ど差は見られなかったのに対し、ガラクトースを含む培地では、陽性対象の方が、早く増殖して、強く青色に呈色した。これは、ガラクトースにより発現誘導されたEGF-FLO42によりEGFRの二量体化が促進され、HIS3、Ade2、LacZレポーター遺伝子が発現誘導されて増殖や呈色に有利に働いたためである。
【0185】
2-3-3: EGFRの二量体化検出によるアゴニストのライブラリースクリーニング
酵母形質転換体NMY51/pBT3-SUC-EGFR-V5/pPR3-SUC-EGFR/pPR3-SUC-EGFRを培養してライブラリートランスフォーメーションを行い、得られた形質転換体NMY51/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42/pBT3-SUC-EGFR-V5/pPR3-SUC-EGFR/pPR3-SUC-EGFRを、EGFRの二量体化検出によるスクリーニングに供したところ、新たなEGFシグナルのアゴニストを見出した。
【0186】
3: IL5シグナルのアゴニストのスクリーニング例
3-1: JAK2の自己リン酸化検出によるIL5シグナルのアゴニストのスクリーニング例
哺乳類細胞においてIL5シグナルは、IL5Rαおよびβc(IL5Rα/βc)からなるレセプター二量体と、細胞内においてβcと結合するJAK2からなるヘテロ三量体により構成される。IL5Rα/βcはIL5の結合により、細胞膜上でさらに多量体化し、この時JAK2の自己リン酸化を促す。実施例3-1では、酵母においてHLHライブラリーを表層提示し、JAK2の自己リン酸化を検出することによって、IL5シグナルのアゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0187】
3-1-1: IL5シグナル伝達再構成に適した酵母の選定
実施例2-1-1の酵母株のうち、cdc25Ha株、W303-1A株、BY4741ΔTRP1株、BY2973株、BY4082株、BY4624株に、プラスミドpGMH20、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMT20、pGMT20-HA-βcを酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20/pGMT20、cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-HA-βc、BY4741ΔTRP1/pGMH20/pGMT20、BY4741ΔTRP1/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-HA-βc、BY2973/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-HA-βc、BY4082/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-HA-βc、BY4624/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-HA-βcを、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。W303-1A株については、形質転換体が得られたものの、安定して増殖しないため使用しなかった。
【0188】
3-1-2: 酵母形質転換体の培養
直径2〜3 mmに生育した酵母形質転換体のコロニーを3 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に植菌して25℃および30℃、200 rpmでOD600=1.0〜1.5まで前培養し、10 mLの適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地に初期OD600=0.2になるよう植菌して25℃および30℃、200 rpmでOD600=0.6〜2.0まで本培養した。
【0189】
3-1-3: IL5Rα/βcの発現
実施例3-1-1で得られたそれぞれの酵母形質転換体を培養後、遠心にて回収し、実施例2-1-4に従って、抗FLAGマウスモノクローナル抗体および抗HAマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図21に示す。
【0190】
図21より、IL5Rα/βcの発現の検出が容易な酵母株は、cdc25HaおよびBY4741ΔTRP1であると判明する一方で、BY4082株も有望と思われた。また、脱糖鎖修飾処理により、IL5Rα/βcのバンドシフトが見られたことから、IL5Rα/βcは酵母細胞内において、糖鎖修飾されると明らかになった。
【0191】
3-1-4: cdc25Ha株におけるIL5Rα/βcの局在
IL5Rα/βcの局在を調べるため、実施例3-1-3でIL5Rα/βcの発現を確認した酵母形質転換体のうち、比較的レセプターの発現量の多いcdc25Haを用いて以下の実験を行った。cdc25Ha株に、プラスミドpGMH20、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMT20、pGMT20-MFα-HA-βc、pAUR123、pAUR123-V5-JAK2、pAURGAL1p、pAURGAL1p-V5-JAK2を、酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20/pGMT20/pAUR123-V5、cdc25Ha/pGMH20/pGMT20/pAUR123-V5-JAK2、cdc25Ha/pGMH20-MFα1-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAUR123-V5-JAK2、cdc25Ha/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p-V5、cdc25Ha/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p-V5-JAK2、cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2を、0.5μg/mlのオーレオバシジンA(TaKaRa社)を加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。実施例3-1-2のように培養した酵母形質転換体を、実施例2-1-6と同様の方法で、一次抗体として抗FLAGマウスモノクローナル抗体および抗HAラビットポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに二次抗体としてCy3標識した抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体およびAlexa430標識した抗ラビットIgGゴートポリクローナル抗体を添加し、30分間反応後に洗浄して酵母蛍光サンプルを得て、蛍光顕微鏡による観察を行った。結果を図22に示す。
【0192】
IL5Rαおよびβcの両方とも細胞膜に局在した。このことから、酵母においてIL5を受容する系の構築は可能であると示された。
【0193】
3-1-5: cdc25Ha株におけるJAK2の発現
JAK2の発現を見るため、実施例3-1-4で得られた酵母形質転換体を培養し、実施例2-1-4に従って、抗V5マウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図23に示す。
【0194】
図23に示したとおり、ADH1p発現制御下にあるJAK2の発現は、OD600=2.0でしか検出されず、GAL1p発現制御下にあるJAK2の発現は、OD600=0.6〜OD600=2.0にかけて高発現すると判明した。
【0195】
3-1-6: cdc25Ha株における精製IL5依存的なJAK2の自己リン酸化
JAK2の自己リン酸化が、精製IL5依存的に酵母内で起こるかどうか以下のように実施した。実施例3-1-4で得られた酵母形質転換体を培養し、OD600=2.0の時点で、精製IL5を添加してさらに1時間培養した。実施例2-1-6と同様の方法で、一次抗体として抗リン酸化JAK2ラビットポリクローナル抗体を添加し、1時間反応後に洗浄した。さらに二次抗体としてAlexa488標識した抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体を添加し、30分間反応後に洗浄した。得られた酵母蛍光サンプルを、フローサイトメーターによる解析および蛍光顕微鏡による観察を行った。結果を図24に示す。
【0196】
精製IL5を添加して1時間反応培養後に、IL5依存的なJAK2の自己リン酸化シグナルの亢進が確認された。また、顕微鏡観察から、リン酸化JAK2は細胞膜周辺に局在すると判明した。
【0197】
3-1-7: cdc25Ha株における表層提示型IL5依存的なJAK2の自己リン酸化
実施例3-1-6により、JAK2の自己リン酸化を検出することによるIL5シグナル作動性アゴニストのライブラリースクリーニングが可能と思われた。そこで、表層提示型IL5依存的なJAK2の自己リン酸化の亢進が確認できるかどうかを検討するため、cdc25Ha/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p-V5およびcdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2に、pYES2-MFα-FLO42およびpYES2-MFα-HA-IL5-FLO42を酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p-V5、cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2、cdc25Ha/pYES2-MFα-HA-IL5-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2を、0.5μg/mlのオーレオバシジンA(TaKaRa社)を加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。
【0198】
3-1-8: cdc25HaにおけるIL5-FLO42の発現および局在
実施例3-1-7で得られた酵母形質転換体を培養後、実施例2-1-4で示したようにタンパク質を抽出し、抗HAマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。また、実施例2-1-6のように、抗HAマウスモノクローナル抗体を用いて標識し、蛍光サンプルを蛍光顕微鏡にて観察した。結果を図25に示す。
【0199】
IL5-FLO42の発現が確認された。また、IL5-FLO42の酵母細胞表層への提示も確認された。
【0200】
3-1-9: cdc25HaにおけるIL5-FLO42依存的なJAK2の自己リン酸化
実施例3-1-7で得られた酵母形質転換体を培養後、実施例2-1-4で示したようにタンパク質を抽出し、抗リン酸化JAK2マウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。また、細胞壁を除去した後、実施例3-1-6のように、抗リン酸化JAK2ラビットポリクローナル抗体を用いて標識した。得られた蛍光サンプルについて、フローサイトメーターによる解析および顕微鏡による観察を行った。結果を図26に示す。
【0201】
ウェスタンブロットやフローサイトメーターの解析の結果、IL5-FLO42依存的なJAK2の自己リン酸化の亢進が検出された。また顕微鏡による観察から、リン酸化JAK2の局在は細胞膜において観察された。
【0202】
3-1-10: 1細胞ピッキング装置を用いたライブラリースクリーニング
表層提示型IL5依存的な、JAK2の自己リン酸化の亢進が見られたので、EGFRと同様、自己リン酸化したJAK2を認識する抗体を用いることによるライブラリースクリーニングが可能と思われた。cdc25Hα株に、酢酸リチウム法によりpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を導入し、酵母形質転換体cdc25Hα/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得て、酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2とのメイティング法によりHLHライブラリー遺伝子を導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2を、0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地に得た。得られた形質転換体を培養し、HLH、IL5Rα、βc、JAK2を発現させ、抗リン酸化JAK2ラビットポリクローナル抗体を用いて標識して酵母蛍光サンプルを得た。1細胞ピッキング装置を用いて、スクリーニングに供したところ、IL5シグナルのアゴニストを見出した。
【0203】
3-2: IL5シグナル伝達を利用したアゴニストのスクリーニング例
自己リン酸化したJAK2は活性化し、βcをリン酸化する。リン酸化βcは、Shc1を細胞膜近傍にリクルートする。従って、実施例2-2で示したように、IL5系についても酵母の増殖シグナルを活性化するスクリーニングシステムを構築し、アゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0204】
3-2-1: 酵母形質転換体の作成
実施例3-1-7で得られた酵母形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p-V5、cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2、cdc25Ha/pYES2-MFα-HA-IL5-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2に、pSosおよびpSos-Shc1を酢酸リチウム法を用いて導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p/pSos、cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1、cdc25Ha/pYES2-MFα-HA-IL5-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1を得た。
【0205】
3-2-2: Sos-Shc1の発現
Sos-Shc1の発現を見るため、実施例3-2-1で得られた酵母形質転換体を培養後、遠心にて回収し、実施例2-1-4に従って、抗Sosマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図27示す。
【0206】
図27に示したとおり、Sos-Shc1の発現が確認され、図21、図23、図25と合わせて、酵母においてIL5シグナル伝達再構成系に必要な全てのタンパク質の発現が確認されたこととなる。このことは酵母において世界初の成果である。
【0207】
3-2-3: cdc25Ha株におけるIL5シグナルを利用した熱感受性の相補および熱ショック耐性
実施例2-2-5で示したように、実施例3-2-1で得られた酵母形質転換体を前培養し、ガラクトースを含む培地でタンパク質を誘導した後、0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+GlcおよびSD+Raf/Gal寒天培地に10μLを滴下して、25℃にて15日間静置培養した。また、タンパク質の誘導後、42℃で0、2、4、8時間熱ショックを与え1000細胞を同寒天培地上にスプレッドして25℃で培養し、生存率を検定した。結果を図28に示す。
【0208】
ガラクトースで発現誘導されたIL5-FLO42依存的な熱感受性の相補が見られた。また、IL5-FLO42を誘導発現させることにより、熱に対する耐性が獲得されることが示された。以上より、熱感受性の相補を利用したIL5シグナルのアゴニストのスクリーニングが可能と考えられた。
【0209】
3-2-4: IL5シグナル伝達を利用したアゴニストのライブラリースクリーニング
熱感受性の相補を利用したスクリーニングをするために、cdc25Ha株に、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMT20-MFα-HA-βc、pAURGAL1p-V5-JAK2、pSos-Shc1を、酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1を0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。引き続き実施例2-2-6で示したように、cdc25Hα株に、酢酸リチウム法によりpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を導入し、酵母形質転換体cdc25Hα/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。HLHライブラリー遺伝子の導入をメイティング法により行って熱感受性を利用したスクリーニングを供したところ、IL5シグナルのアゴニストを見出した。
【0210】
3-3: STAT5aの転写活性化を利用したアゴニストのスクリーニング例
自己リン酸化したJAK2は活性化し、βcをリン酸化する。続いてβcのリン酸化チロシン残基は転写因子STAT5aと結合する。このように、IL5の刺激によりSTAT5aはJAK2近傍にリクルーティングされ、JAK2によりリン酸化され二量体を形成し、核内移行する。実施例3-3では、酵母においてHLHライブラリーを表層提示し、転写因子STAT5aのチロシンリン酸化を検出することによって、IL5シグナルのアゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0211】
3-3-1: 酵母形質転換体の作成
実施例3-1で示したように、cdc25Ha株においてアゴニストのスクリーニングが達成された。次に示す系では、培養時間短縮の為、30℃で培養可能な酵母株を用いることが好まれる。そこで、IL5-FLO42、IL5Rα、βc、JAK2、STAT5aの発現を調べるため、実施例3-1-3でIL5Rα/βcの発現を確認した酵母形質転換体のうち、cdc25Haと同じく比較的レセプターの発現量の多いBY4741ΔTRP1を用いて以下の実験を行った。BY4741ΔTRP1株に、プラスミドpGMH20、pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα、pGMT20、pGMT20-MFα-HA-βc、pAURGAL1p-V5、pAURGAL1p-V5-JAK2、pGML10、pGML10-myc-STATΔC-VP16を、酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体BY4741ΔTRP1/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20/pGMT20/pAURGAL1p-V5/pGML10、BY4741ΔTRP1/pYES2-MFα-IL5-HA-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2を得た。
【0212】
3-3-2: BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42/IL5Rα/βc/JAK2/STAT5aの発現
BY4741ΔTRP1におけるIL5-FLO42、IL5Rα、βc、JAK2、およびSTAT5aの発現を見る為、実施例3-3-1で得られた酵母形質転換体を培養後、遠心にて回収し、実施例2-1-4に従って、抗HAマウスモノクローナル抗体、抗FLAGマウスモノクローナル抗体、抗V5マウスモノクローナル抗体、および抗VP16抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図29に示す。図29に示したとおり、BY4741ΔTRP1株において、IL5-FLO42、IL5Rα、βc、JAK2、およびSTAT5aの全ての発現が確認された。
【0213】
3-3-3: BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42の局在
BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42の局在を調べる為、実施例3-1-6のように抗体HAマウスモノクローナル抗体を用いて標識し、蛍光サンプルを共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。結果を図30に示す。
【0214】
図30に示したとおり、cdc25Ha株の時と同様に、BY4741ΔTRP1株においてもIL5-FLO42は細胞壁に局在すると確認された。
【0215】
3-3-4: BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42依存的なSTAT5aのリン酸化
以上の実施例より、BY4741ΔTRP1株において、IL5依存的なJAK2を介するSTAT5aのチロシンリン酸化が生じると予想された。そこで、STAT5aのリン酸化を調べる為、実施例3-3-1で得られた酵母形質転換体を培養後、実施例2-1-4で示したようにタンパク質を抽出し、抗リン酸化STAT5a抗体を用いたウェスタンブロットに供した。また、細胞壁を除去した後、抗リン酸化STAT5a抗体を用いて蛍光標識した。得られた蛍光サンプルについて、フローサイトメーターによる解析を行った。結果を図31に示す。
【0216】
ウェスタンブロットやフローサイトメーターの解析の結果、IL5-FLO42依存的なSTAT5aのリン酸化の亢進が見られた。
【0217】
3-3-5: BY4741ΔTRP1株におけるIL5-FLO42依存的なリン酸化STAT5aの核内移行
リン酸化STAT5aは二量体を形成し、核内に移行して転写を活性化する転写因子である。実施例3-3-4で示したように、BY4741ΔTRP1株においてIL5依存的なJAK2の介するSTAT5aのリン酸化が見られたことから、リン酸化STAT5aが核内に局在すると予想された。実施例3-3-4のように調製したリン酸化STAT5aについての蛍光標識サンプルを共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。結果を図32に示す。
【0218】
図32に示したように、IL5依存的なリン酸化STAT5aの核内局在が観察された。
【0219】
3-3-6: 1細胞ピッキング装置を用いたライブラリースクリーニング
表層提示型IL5依存的な、STAT5aのリン酸化の亢進が見られたので、抗リン酸化STAT5a抗体を用いることによるライブラリースクリーニングが可能と思われた。まず、酢酸リチウム法により酵母形質転換体BY4741ΔTRP1/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/βc/pAURGAL1p-V5-JAK2/pGML10-myc-STAT5aΔC-VP16を作製し、引き続き、酢酸リチウム法によりpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を導入し、酵母形質転換体BY4741ΔTRP1/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2を、0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地に得た。得られた形質転換体を培養し、HLH、IL5Rα、βc、JAK2、およびSTAT5aを発現させ、抗リン酸化STAT5a抗体を用いて標識して酵母蛍光サンプルを得た。1細胞ピッキング装置を用いて、スクリーニングに供したところ、IL5シグナルのアゴニストを見出した。
【0220】
4: IL6シグナルのアゴニストのスクリーニング例
4-1: JAK2の自己リン酸化検出によるIL6シグナルのアゴニストのスクリーニング例
哺乳類細胞においてIL6シグナルは、IL6Rαおよびgp130(IL6Rα/gp130)からなるレセプター二量体と、細胞内においてgp130と結合するJAK2からなるヘテロ三量体により構成される。IL6Rα/gp130はIL6の結合により、細胞膜上でさらに多量体化し、この時JAK2の自己リン酸化を促す。実施例4-1では、酵母においてHLHライブラリーを表層提示し、JAK2の自己リン酸化を検出することによって、IL6シグナルのアゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0221】
4-1-1: IL6シグナル伝達再構成に適した酵母の選定
実施例2-1-1で示した酵母株のうちcdc25Ha株に、プラスミドpYES2-MFα-FLO42、pYES2-MFα-HA-IL6-FLO42、pGMH20、pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rα、pGMT20、pGMT20-HA-gp130、pAURGAL1p-V5、pAURGAL1p-V5-JAK2、pSos、pSos-Shc1を酢酸リチウム法により導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rα/pGMT20-HA-gp130/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1、cdc25Ha/pYES2-MFα-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rα/pGMT20-HA-gp130/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1、cdc25Ha/pYES2-MFα-HA-IL6-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rα/pGMT20-HA-gp130/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1を、0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD寒天培地上に得た。
【0222】
4-1-2: 酵母形質転換体の培養
直径2〜3 mmに生育した酵母形質転換体のコロニーを3 mLの0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc液体培地に植菌して25℃、200 rpmでOD600=1.0〜1.5まで前培養し、10 mLの0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+Raf/Gal液体培地に初期OD600=0.2になるよう植菌して25℃、200rpmでOD600=0.6〜2.0まで本培養した。
【0223】
4-1-3: IL6RαおよびIL6-FLO42の発現
実施例4-1-1で得られた酵母形質転換体を培養後、遠心にて回収し、実施例2-1-4に従って、抗FLAGマウスモノクローナル抗体および抗HAマウスモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットに供した。結果を図33に示す。
【0224】
図33に示したとおり、IL6RαおよびIL6-FLO42の発現が検出された。また脱糖鎖修飾処理の時間依存的に、両タンパク質のバンドがよりよく検出されたことから、酵母内において、IL5RαとIL6-FLO42の両方は顕著に糖鎖修飾を受けると判明した。
【0225】
4-1-4: 1細胞ピッキング装置を用いたライブラリースクリーニング
表層提示型IL6依存的な、JAK2の自己リン酸化の亢進を検出することにより、IL5系と同様、自己リン酸化したJAK2を認識する抗体を用いることによるライブラリースクリーニングが可能と思われた。IL5系と同様に、メイティング法によりHLHライブラリー遺伝子を導入し、酵母形質転換体cdc25Ha/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42/pGMH20-MFα-FLAG-IL6Rα/pGMT20-MFα-HA-gp130/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1を、0.5μg/mLのオーレオバシジンAを加えた適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地に得た。得られた形質転換体を培養し、HLH、IL6Rα、gp130、JAK2、Shc1を発現させ、抗リン酸化JAK2ラビットポリクローナル抗体を用いて標識して酵母蛍光サンプルを得た。1細胞ピッキング装置を用いて、スクリーニングに供したところ、IL6シグナルのアゴニストを見出した。
【0226】
4-2: IL6シグナル伝達を利用したアゴニストのスクリーニング例
自己リン酸化したJAK2は活性化し、gp130をリン酸化する。リン酸化gp130は、Shc1を細胞膜近傍にリクルートする。従って、実施例3-2で示したように、IL6系についても酵母の増殖シグナルを活性化するスクリーニングシステムを構築し、アゴニスト活性を有するHLHのスクリーニングを行った。
【0227】
4-2-1: IL6シグナル伝達を利用したアゴニストのライブラリースクリーニング
熱感受性の相補を利用したスクリーニングをするために、実施例2-2-6で示したように、cdc25Hα株に、酢酸リチウム法によりpYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を導入し、酵母形質転換体cdc25Hα/pYES2-MFα-HLH-FLAG-FLO42を、適切なアミノ酸を含むSD+Glc寒天培地上に得た。この酵母形質転換体を用いて、実施例4-1-1で示した酵母形質転換体cdc25Ha/pGMH20-MFα-FLAG-IL5Rα/pGMT20-MFα-HA-βc/pAURGAL1p-V5-JAK2/pSos-Shc1に、HLHライブラリー遺伝子の導入をメイティング法により行って熱感受性を利用したスクリーニングを供したところ、IL6シグナルのアゴニストを見出した。
【0228】
5.有用分泌物質を高産生する動物細胞のスクリーニング
5-1: 脂質標識抗体の作製とCHO細胞を用いたモデル実験系
抗体を脂質標識するため、NHS標識脂質としてCOATSOME FE-8080SU5(Phosphoethanolamine distearoyl、日本油脂)を得た。トラップ分子としてAlexa488標抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体(Invitrogen社)を用い、細胞表層提示の最適な条件を以下のように決定した。NHS標識脂質1.60μmolを1 mlのDMSOに懸濁し、超音波発生装置を用いて可溶化させた。抗体25 pmolを100μlのリン酸ナトリウム緩衝液(pH 8.0)に懸濁し、脂質/抗体(NHS/Ab)=0、2、4、6、8、10、12、14となるように、NHS標識脂質をそれぞれ50、100、150、200、250、300、350 pmol添加した。遮光して1時間、室温で懸濁し、400μlのCHO細胞懸濁液(4.0x105 cells)に対し、1μl、10μl、および残り全量(約100μl)加えて10分放置した後、フローサイトメーターに供した。図35に抗体の細胞表層提示効率が最も良好な結果の例を示した。
【0229】
図35に示したとおり、NHS/Ab=14(脂質量350 pmol、抗体量25 pmol、100μl反応量)が最適であると判明した。この結果から、CHO細胞などに分泌させた有用物質を抗体などにより細胞表層にトラップすることが可能であると示唆された。CHO細胞の表層にトラップされた有用物質を認識する抗体などを用いて蛍光標識することは当然可能であり、1細胞ピッキング装置を用いて有用分泌物質を高産生する動物細胞のスクリーニングをすることが可能であると示された。
【0230】
5-2: 抗体高産生Hybridomaのスクリーニング
5-2-1: 脂質標識抗体の作製
実施例5-1に習い、NHS標識脂質の0.1μg(160 pmol)に対し、抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体(ピアス社)の1.7μg(11 pmol)を100μlの反応液(10 mM リン酸ナトリウム緩衝液、pH 8.0、250 mM NaCl)中で反応させ、脂質標識抗体を得た。
【0231】
5-2-2: Hybridoma 9D9表層への脂質標識抗体の提示
10% FBSを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で増殖させたHybridoma 9D9(低濃度リポタンパク質受容体LDLRに対する抗体を生産)の1.6x107細胞を回収し、血清を含まないDMEMの500μlに懸濁してマイクロチューブに50μl移し、氷冷水上で5分間静置した。このチューブに実施例5-2-1で調製した脂質標識抗体の5μlを添加して37℃で2分間静置した。遠心分離により細胞を回収し、血清を含む4℃の培地に再懸濁した後、ポリ-L-リジンコートしたグラススライド上に播いた。培地にAlexa488標識抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体を加え、37℃、5% CO2の存在下で30分間静置し、1回洗浄して1細胞ピッキング装置にて蛍光を観察した。
【0232】
図36に示したとおり、コントロール(NHS標識脂質を用いない)に比べ、脂質標識抗体を用いた場合、蛍光を発する細胞が多く観察され、また高い輝度値を有すると見出された。この時の、NHS/抗体比率は15であり、実施例5-1でのCHO細胞におけるNHS/Ab比率=14とほぼ一致することから、この比率は他の細胞にも応用できると期待される。また、このNHS/Ab比率においてCHO細胞を処理した時、蛍光が全く観察されなかったことから、蛍光はHybridoma 9D9細胞の分泌する抗体によるものと確認された。
【0233】
5-2-3: 1細胞ピッキング装置を用いたHybridoma 9D9の回収
実施例5-2-2のように脂質標識抗体をHybridoma 9D9の細胞表層に提示し、マイクロチャンバー上に播き、10 x gで1分間遠心した。Alexa488標識抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体および血清を含む4℃の培地でマイクロチャンバー上の培地を置換した後、37℃、5% CO2の存在下で30分間静置し、1回洗浄して1細胞ピッキング装置にて蛍光を観察した。
【0234】
図37に示した通り、マイクロチャンバー中の細胞が蛍光を発すると確認された。この結果から、蛍光輝度値の高い細胞は、多くの有用物質を産生すると示唆され、有用分泌物質を高産生する動物細胞のスクリーニングができることは明らかである。また今回、Hybridoma 9D9の分泌するマウスモノクローナル抗体を検出するに際して、蛍光標識抗マウスIgGゴートポリクローナル抗体を用いたが、分泌抗体の抗原などを蛍光標識することにより、抗原認識能が良質で、かつ抗体生産・分泌能の高いHybridomaをスクリーニング出来ることは言うまでもない。
【0235】
6: 接着細胞に対する1細胞ピッキング装置の適用
6-1: A431細胞による蛍光標識EGFの取り込み時間の検討
6-1-1: 蛍光標識EGFの調製
80 nMのCy3標識アビジン(Sigma社)を含む無血清培地を入れたチューブを3本用意し、それぞれに1.6 nM、16 nM、160 nMとなるようにビオチンラベルEGFを加えた。氷上で1時間静置し、各種の濃度のCy3標識EGFを得た。
【0236】
6-1-2: A431による蛍光標識EGFの取り込み
10% FBSを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を含むグラスボトムディッシュでA431細胞を60%の密度まで増殖させ、無血清培地に置換し、20時間培養した。実施例1-1-1で調製したCy3標識EGFを含む無血清培地に置換して0〜20分間静置し、A431細胞における蛍光標識EGFの細胞内局在を共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。
【0237】
図38に示した通り、5分でEGFの細胞内取り込みがほぼ完全に生じていると観察されたことから、EGFなどのリガンド取り込みは5分以内に生じる迅速な生体反応であると示唆された。
【0238】
6-1-3: 1細胞ピッキング装置を用いた蛍光を発するA431の回収
10% FBSを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で増殖させたA431細胞をトリプシン処理して10000細胞/1 mlになるように新しい培地に再懸濁し、マイクロチャンバー上に巻いてCO2インキュベータ内で4時間培養した。マイクロチャンバーに落ち込んでいない(マイクロチャンバー間に存在する過剰な細胞)をシリコン板ではがし取り、培地でよく洗浄して2日間培養した後、無血清培地に置換し、20時間さらに培養した。実施例1-1-2のように、Cy3の代わりにAlexa488標識アビジン(Invitrogen社)を用いて蛍光標識EGFを調製し、最終濃度10 nMになるように蛍光標識EGFを5分間作用させた後、トリプシン処理前、同処理後、回収途中、回収後の写真撮影を行った。
【0239】
図39に示した通り、接着細胞を蛍光標識した後、蛍光物質を細胞に取り込ませ、トリプシン処理に供して回収することが可能であると示された。以上より、1細胞ピッキング装置は接着細胞にも対応できると示された。
【産業上の利用可能性】
【0240】
本発明によれば、1細胞ピッキング装置を用いることで、広範な真核細胞について、単一の標的細胞を分離することができ、医薬のスクリーニング、臨床診断、再生医療などの様々な分野に応用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定分子を発現する真核細胞を分離する細胞ピッキングシステムであって、前記真核細胞は前記特定分子と結合可能な結合分子により複合体を形成し、この複合体の形成に基づき特定分子を発現する真核細胞が検出装置により検出され、検出された真核細胞が検出装置と連動したマニピュレータにより自動的に回収されることを特徴とする細胞ピッキングシステム。
【請求項2】
前記細胞が酵母または動物細胞である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
特定分子がレセプター、表面抗原または細胞外に分泌されるタンパク質、もしくはペプチドである、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
特定分子が細胞外に分泌されるタンパク質もしくはペプチドであり、前記タンパク質若しくはペプチドと結合分子の複合体が前記結合分子の標識に基づくシグナルの検出により認識され、前記複合体を形成する真核細胞がマニピュレータにより自動的に回収される、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞ピッキングシステム。
【請求項5】
分泌されるタンパク質が、抗体である請求項3または4に記載の細胞ピッキングシステム。
【請求項6】
特定分子がレセプターであり、前記レセプターと結合分子の複合体が前記結合分子の標識または前記真核細胞の複合体形成に基づくシグナルの検出により認識され、前記複合体を有する真核細胞がマニピュレータにより自動的に回収される、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞ピッキングシステム。
【請求項7】
少なくとも1種の標的レセプターを細胞表面に発現する真核細胞において、前記レセプターに対するリガンド候補物質を前記細胞に作用させ、前記レセプターと特定のリガンドが結合した場合に生じるシグナルを検出し、シグナルを生じたレセプター−リガンド結合細胞をマニピュレータにより自動的に回収し、前記シグナルを発生させるリガンド候補物質を同定することを特徴とする、前記レセプターに対するリガンドのスクリーニング方法。
【請求項8】
前記リガンドがレセプターとともに前記真核細胞の表面に発現される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
リガンドライブラリーを細胞表面に発現する真核細胞集団において、レセプターを前記細胞に作用させ、前記レセプターと特定のリガンドが結合した場合に生じる検出可能なシグナルを検出し、シグナルを生じたレセプター−リガンド結合細胞をマニピュレータにより自動的に回収し、前記シグナルを発生させるリガンドを同定することを特徴とする、前記レセプターに対するリガンドのスクリーニング方法。
【請求項1】
特定分子を発現する真核細胞を分離する細胞ピッキングシステムであって、前記真核細胞は前記特定分子と結合可能な結合分子により複合体を形成し、この複合体の形成に基づき特定分子を発現する真核細胞が検出装置により検出され、検出された真核細胞が検出装置と連動したマニピュレータにより自動的に回収されることを特徴とする細胞ピッキングシステム。
【請求項2】
前記細胞が酵母または動物細胞である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
特定分子がレセプター、表面抗原または細胞外に分泌されるタンパク質、もしくはペプチドである、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
特定分子が細胞外に分泌されるタンパク質もしくはペプチドであり、前記タンパク質若しくはペプチドと結合分子の複合体が前記結合分子の標識に基づくシグナルの検出により認識され、前記複合体を形成する真核細胞がマニピュレータにより自動的に回収される、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞ピッキングシステム。
【請求項5】
分泌されるタンパク質が、抗体である請求項3または4に記載の細胞ピッキングシステム。
【請求項6】
特定分子がレセプターであり、前記レセプターと結合分子の複合体が前記結合分子の標識または前記真核細胞の複合体形成に基づくシグナルの検出により認識され、前記複合体を有する真核細胞がマニピュレータにより自動的に回収される、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞ピッキングシステム。
【請求項7】
少なくとも1種の標的レセプターを細胞表面に発現する真核細胞において、前記レセプターに対するリガンド候補物質を前記細胞に作用させ、前記レセプターと特定のリガンドが結合した場合に生じるシグナルを検出し、シグナルを生じたレセプター−リガンド結合細胞をマニピュレータにより自動的に回収し、前記シグナルを発生させるリガンド候補物質を同定することを特徴とする、前記レセプターに対するリガンドのスクリーニング方法。
【請求項8】
前記リガンドがレセプターとともに前記真核細胞の表面に発現される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
リガンドライブラリーを細胞表面に発現する真核細胞集団において、レセプターを前記細胞に作用させ、前記レセプターと特定のリガンドが結合した場合に生じる検出可能なシグナルを検出し、シグナルを生じたレセプター−リガンド結合細胞をマニピュレータにより自動的に回収し、前記シグナルを発生させるリガンドを同定することを特徴とする、前記レセプターに対するリガンドのスクリーニング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
【図15】
【図29】
【図30】
【図31】
【図33】
【図34】
【図36】
【図A】
【図D】
【図E】
【図F】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図32】
【図35】
【図37】
【図38】
【図39】
【図B】
【図C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
【図15】
【図29】
【図30】
【図31】
【図33】
【図34】
【図36】
【図A】
【図D】
【図E】
【図F】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図32】
【図35】
【図37】
【図38】
【図39】
【図B】
【図C】
【公開番号】特開2010−29178(P2010−29178A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133412(P2009−133412)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(397069868)アズワン株式会社 (23)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(397069868)アズワン株式会社 (23)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
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