説明

細胞取込を最適化するための抗分泌性因子(AF)の使用

本発明は、医薬物質および/または製剤の送達および細胞取込、または遺伝子送達を最適化するための、抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体および/または断片および/またはそれらの医薬的活性塩の使用に関する。典型的には、該医薬物質および/または製剤は、抗がん剤、放射線治療、抗生物質、坑ウイルス物質または外傷後脳損傷、神経変性、寄生体、または炎症状態を標的とする薬物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬物質および/または製剤の送達および細胞取込、または遺伝子送達を最適化するための、抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体および/または断片および/またはその医薬的活性塩の使用に関する。典型的には、該医薬物質および/または製剤は、抗がん剤、放射線治療、抗生物質、抗ウイルス物質、または外傷後脳損傷、神経変性、寄生体、または炎症状態を標的とする薬物を含む。
【0002】
一般的には、本発明は、抗分泌性因子(AF)が多くの機能性タンパク質のリン酸化状態と脱リン酸化状態との間の平衡に活発に影響すること、ならびに抗分泌性因子(AF)がCAP/ポンシン(c−Cbl associated protein:c−Cbl関連タンパク質)およびFAK(focal adhesion kinase:接着斑キナーゼ)との相互作用によって膜貫通タンパク質(Na+−K+−2Cl- 共輸送体(NKCC1)など)の生物学的活性化に特に介入し得るという驚くべき知見に関する。従ってAFは、混乱した(perturbed)細胞および/または病理細胞中のイオンチャネルの異常な活性を効果的に調節および/または正常化することができ、それにより病理細胞中の細胞内圧を効果的に正常化し、例えば、がん、炎症、もしくは外傷の治療に用いられる薬物のような医薬物質または遺伝子送達に用いられる核酸配列の改善した細胞取込の可能性を秘めている。
【0003】
本発明はもちろん、薬物デザインの向上、潜在的なAF阻害性および/または亢進性物質のスクリーニングおよび/または評価、ならびに新規または既知の抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するそれらの誘導体、相同体、および/または断片、および/またはそれらの医薬的活性塩の、効果の評価および/または機能活性の実証のための幅広い種類の方法において、AFの重要なコンセンサス配列を含む抗分泌性因子(AF)タンパク質ならびにそれに由来するペプチドが、CAP/ポンシンおよびFAKを介して膜貫通タンパク質、特にNKCC1のような共輸送体の生物学的活性化に介入し得るという上記の驚くべき知見の使用にも関する。
【0004】
別の局面において、AFの生物学的な細胞機能の新しく見出された知見は、例えばがんに罹患している被験者におけるがんおよび/または異常組織の成長または活性の治療コントロールのモニタリング、実証および/または増強のための、新規かつ信頼できる診断および/または予後判定ツールのデザインをさらに可能にする。
【背景技術】
【0005】
細胞分泌の不完全な制御は、嚢胞性線維症から分泌性の下痢および脳浮腫までに及ぶ多くの重要なヒト疾患の臨床症状の基礎となっている。
【0006】
後生細胞の大きさおよび内部環境の調節は、それらの正常な機能、増殖および生存のために非常に高い優先事項である。かなり静的な微小管および中間径フィラメント、ならびに動的なアクチンフィラメントネットワークで形成された細胞骨格は、細胞の形状、大きさ、3次元形状および、および機械負荷のセンサーとして作用する。例えばその細胞が低浸透圧の細胞外環境に曝露されると起こるような水およびイオンの過剰な流入は、細胞の大きさを増大させる。対照的に高浸透圧の細胞外環境は、その細胞を収縮させる。細胞の正常な状態からの逸脱は全て、その生存および最適機能のために迅速かつ強烈に打ち消され、細胞は「正常な」状態を維持することにその最も高い優先度を与える。それにより、アクチンフィラメントおよび結合するミオシン1は、正常な状態からの全ての逸脱に対して警告する検出システムを形成する。このアクチンフィラメントは、脂質ラフトおよびカベオラに結合し、同じく結合複合体およびデスモソーム/ヘミデスモソームならびに細胞骨格、微小管および中間径フィラメントの他の構成要素にも結合し、それにより細胞中に広がる状態を読み取ることができる。このアクチンフィラメント系は、脂質ラフトおよびカベオラの細胞表面でタンパク質複合体に結合し、その配置によりアクチンフィラメントが細胞のエフェクター部分をモニターすることを可能にする。それによりそのアクチンフィラメントにより発せられるシグナルが反作用を引き起こし、細胞がその正常な状態を維持することができる。これらのアクチン結合タンパク質は例えばガレクチン、フィラミンおよびフロチリンであり、それらはしばしばオリゴマーを形成する。このフロチリン−1およびフロチリン−2は、オリゴマー(たいていテトラマー)を形成し、脂質ラフトをアクチンフィラメントネットワークに固着させる。フロチリン−1はAFタンパク質、同様にAF由来のペプチドであるAF−16に非常に高い親和性で結合し、一方フロチリン−2は、アクチンフィラメントをしっかりと連結する。フロチリン−1のレベルは、遊離フロチリン−1の分解により迅速に調節され、その系に原動力を与える。フロチリンが特定のキナーゼおよびホスファターゼをモニターし、膜貫通タンパク質(例えばイオンポンプおよびNKCCのようなGタンパク質結合系)の活性を順番に調節することは公知であり、その活動はさらにCAP/ポンシンおよびFAKのレベルおよび活動と結び付けられる。
【0007】
薬物および遺伝子送達の最適化は、最も注目される話題である。この最適化は、部位特異的かつ標的化された送達、制御された薬物放出を介し、そしてより高い濃度の薬物を種々のバリアにもかかわらず目的の組織中に送達するための道を見つけることによって達成することができる。標的化された送達は、必要な薬物用量を低下させ、毒性の副作用を最小にするのに役立ち、このことは例えば免疫療法、化学療法および/または放射線治療によるがん治療の成功のために重要である。薬物の制御された放出は、外傷関連状態、神経変性疾患、糖尿病および高血圧のような慢性疾患の管理に有利となり得る。
【0008】
化学療法および免疫療法は、局所化した腫瘍および転移した腫瘍両方の治療にとって主要で重要な治療アプローチである。抗がん剤はがん細胞に対して特異的でも標的化してもないため、ヒトの腫瘍組織への抗がん剤の向上された送達は、理にかない、有益で達成可能な挑戦である。科学者らは、1)持続性作用のために製剤の放出を遅らせること;2)効果の延長または毒性の低減のためにリポソーム包括薬物を用いること;3)腫瘍部位における特異的な活性化のために不活性で非毒性のプロドラッグを投与すること;4)抗体媒介性薬物を送達すること;または5)薬物を腫瘍標的に方向づけるために部位特異的キャリアを結合することによって、腫瘍取込の薬物のアベイラビリティーを増加することに努めている。後者になるほど薬物動態学的な調査に密に依存する。いくつかは、薬物の効果の増強および毒性の低減に成功している。
【0009】
その上、種々の抗がん剤に対する腫瘍の応答は、多くの局面において腫瘍の大きさに依存することが当該分野において一般的に知られている。一般的に問題は、ひとつには腫瘍細胞集団全体が特定の処置に対して等しく応答しないという事実に由来している。がんの生態学における最近の進歩の結果として、腫瘍の細胞異質性が化学療法による原発腫瘍および転移性腫瘍の治療の困難さの根底にあることが明らかとなってきた。さらに、腫瘍が成長すると、さらに組織レベルで著しい多様性が発生する。増殖画分がより低く、薬物送達がより乏しい領域の増加を伴う一様でない分布は、より大きい腫瘍中においてより明確である。不均質な分布および腫瘍の血流が低いことは、腫瘍組織の不均質な性質が原因となり関連していると考えられる。腫瘍内にリンパ系の出現がないことを考慮すると、間質液圧の増加は、腫瘍中の血流をさらに妨げるということは、自然な結果である。
【0010】
モノクローナル抗体、サイトカインおよびエフェクター細胞のような新規の治療剤のがん治療における効果は、適切な量でインビボのそれらの標的に到達できないことにより制限されている。腫瘍細胞単独の分子および細胞生物学では、これらの薬剤の不均一な取込を説明することができなかった。このことは、インビボの固形腫瘍ががん細胞の採取そのものではないことから、驚くべきことではない。実際に、腫瘍は、2つの細胞外コンパートメント:脈管および間質からなる。血液由来の分子または細胞はこれらのコンパートメントを介して通過せずにがん分子に到達することはできないため、腫瘍の脈管および間質の生理学は、近年非常に注目されている。腫瘍中の高分子の局在化が乏しいことの原因である3つの生理学的要因は;(i)不均質な血液供給、(ii)間質の圧力の上昇、および(iii)長い輸送距離であることが明らかとなっている。この最初の要因は、血液由来の薬剤を、腫瘍の灌流領域に送達することを制限し;2番目の要因は、高い間質圧の領域中で流体、栄養分、酸素および高分子の管外遊出を低減し、腫瘍周囲で内に向かう拡散に反する、実験的に証明可能な放射状に外に向かう対流をも引き起こす。3番目の要因は、ゆっくりと移動する高分子、栄養素または酸素が腫瘍の離れた領域に到達ために必要な時間を増加させる。任意の分子の、抗原などへの結合はさらに、移動性分子の濃度の低下により、有効拡散速度を低下させる。エフェクター細胞は、活発に遊走する能力があるが、腫瘍の脈管および間質は固形腫瘍中のリンフォカイン活性化キラー細胞および腫瘍浸潤免疫活性細胞の送達が乏しいことの原因でもあり得る。腫瘍における微視的および巨視的な不均質に起因して、これら各々の生理学的なバリアの相対規模が、同じ腫瘍においてある位置から別の位置へ、およびある日から次の日へ、ならびにある腫瘍から別の腫瘍へと変化する。遺伝子操作された高分子およびエフェクター細胞、ならびに低分子量の細胞毒性剤がそれらの臨床的な約束(clinical promise)を満たす場合、ストラテジーは、これらのバリアを克服または巧みに利用するように開発されねばならない。
【0011】
固形腫瘍は、カプセルによって囲まれ、時に隔膜によって分割されており、流体の漏出の増加ならびに血液循環およびリンパの排出障害、ならびに細胞外マトリクスの構造および弾性の変化の結果、しばしば高い間質液圧へと発展する。このことは、多くの場合、細動脈の血圧が、高レベルのIFPを引き起こすことを意味している。腫瘍細胞の膨潤もまた、IFPの上昇に寄与する。上昇した間質液圧は薬物送達に対するバリアを形成し、それゆえに治療に対する抵抗となる。
【0012】
細胞は、悪性へのその転換の間に遺伝的および後成的な変化を受ける。
【0013】
悪性転換はまた、組織構造中の組織の恒常性および摂動の、進行性の損失に伴い、離れた組織および器官の部位に分散している実質組織および転移性組織の腫瘍細胞浸潤において最終的に頂点に達する。がん生物学者は、ますます、この形質転換の工程の重要な部分は、細胞およびそれを取り囲む局所環境の機械的な表現型における著しい変化に明らかに関与していることを認識し始めている。これらは、細胞および組織構造における変異、環境の変化に誘導される適応性の力、細胞外マトリクス(ECM)中でコードされるミクロ機械的なキューの処理の変更、および細胞外基質の細胞指向性再構築を含む。固形腫瘍は、通常正常な組織よりも固く、腫瘍は変更されたインテグリンを有している。
【0014】
募る証拠により、細胞癒着、遊走、および細胞サイクルの進行のようながん進行における重要な工程は、その局所環境の組成および組織化によって一部調節されていることが示されている。がん細胞の局所環境の構成要素への癒着およびその力は、アクチンネットワークを介して細胞に伝達し、接着斑、脂質ラフトおよびカベオラにて組織化されているシグナル伝達複合体は、がん細胞が細胞外マトリクスの局所トポグラフィーを検出し、成長および遊走を促進するキューに効果的に応答することを可能にする。
【0015】
アクチンネットワークを含む細胞骨格は、正常細胞、炎症細胞および腫瘍細胞の構造および機能に非常に重要であることが知られている。例えば脳損傷において、細胞骨格はその位置で、かかった力に応じて変化する大きさまで広範囲に乱される。このアクチンフィラメントは、脳炎(非特許文献1)およびコレラ毒素誘発性の下痢(非特許文献2)において同様に崩壊している。従って、細胞の正常な大きさを維持するためおよび機能障害の発生のための、細胞骨格の重要な役割が確立される。
【0016】
多くの注目が、正常細胞の機能維持における膜塩化物(Cl-)チャンネルの役割に焦点をおいており、新たな証拠は、細胞分泌の全体的な速度を測定し得る独立した調節部位としてのNa+−K+−2Cl-共輸送体(NKCC)の重要性を強調している。この共輸送体NKCC1は実質的に全ての哺乳動物細胞において発現し、そこで細胞容量の恒常性、細胞のイオン粗製、およびおそらく細胞増殖の制御に法則化された役割を果たしている。新たな分子の証拠は、NKCC1機能が、タンパク質のリン酸化、膜標的化、および遺伝子発現のレベルにおいて短期および長期にわたり調節されることを示している(非特許文献3)。従って、細胞骨格、フロチリンオリゴマー、脂質ラフトおよびNKCC1のようなエフェクター間の相互作用の理解の向上は、本発明者らのがんおよび神経変性に対する新しい治療アプローチだけでなく、細胞の大きさおよびイオン組成が乱された臨床状態の処置にもつながる。
【0017】
このNa−K−Cl 共輸送体は、Na+、K+および、Cl-イオンを広範囲の上皮細胞中および非上皮細胞中に、ならびにこれらの細胞から輸送させる膜タンパク質のクラスである。Na−K−Cl 共輸送体によって媒介されるこの輸送工程は、電気的な中性状態(ほぼ常に1−Na:1−K:2−Clの化学量論を満たしている)、ならびにブメタニド、ベンズメタニド、およびフロセミドのような「ループ」利尿薬による阻害によって特徴づけられる。現在2つの別々のNa−K−Cl 共輸送体アイソフォームがcDNAクローニングおよび発現によって同定されており;これら2つのアイソフォームをコードする遺伝子は異なる染色体上に位置し、これらの遺伝子産物は約60%のアミノ酸配列同一性を共有している。
【0018】
このNKCC1(CCC1、BSC2)アイソフォームは広範な種々の組織に存在している。NKCC1を含むほとんどの正常な上皮細胞は基底側膜に位置しているNa−K−Cl 共輸送体を有する分泌性の上皮である。対照的にNKCC2(CCC2、BSC1)は、腎臓にのみ見出され、ヘンレループ(Henle’s loop)および緻密斑の太い上行脚の上皮細胞の頂端膜に局在している。NKCC2遺伝子における突然変異は、低カリウム代謝性アルカローシス、カルシウム過剰尿症、塩消費、および容量の減少によって特徴づけられる、遺伝病であるバーター症候群を引き起こす。これら2つのNa−K−Cl 共輸送体アイソフォームはまた、カチオン―塩化物 共輸送体のスーパーファミリーの一部でもあり、電気的に中性なK−ClおよびNa−Cl 共輸送体を含む。がん細胞はほとんどが無極性であり、高レベルのNKCCを発現して実際に腫瘍細胞の膨潤、すなわち大きさの増加をもたらす。腫瘍細胞はイオンポンプおよび水チャンネル系はあまり正確に調節しないが、それらの内部恒常性を維持する強い傾向を示す。このことは、カプセルによって囲まれている腫瘍細胞の大きさの増大が、固形腫瘍中に共通のIFPの上昇に寄与することを意味している。
【0019】
Na−K−Cl 共輸送体の活動は、種々のホルモン刺激だけでなく細胞容量の変化によっても影響される。多くの組織において、この(特にNKCC1アイソフォームの)調節は、特定のプロテインキナーゼまたはホスファターゼを介して脂質ラフト中に広がっているイオンポンプを制御する調節系のリン酸化と脱リン酸化との間のバランスによって調節される。(非特許文献4)。
【0020】
NKCCの細胞収縮に誘発された活動は、細胞骨格とPKCおよびミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)を介したタンパク質のリン酸化事象との間の相互作用に関与する。上皮を横切るCl−分布の浸透圧制御は、以下を含む:(i)PKC、MLCK、p38、OSR1およびSPAKを介したNKCC1の高浸透圧性収縮活動;(ii)低張性細胞の膨潤およびプロテインホスファターゼによるNKCCの不活化、ならびに(iii)NKCC活動のレベルを設定するために接着斑キナーゼ(FAK)に対して作用するプロテインチロシンキナーゼ。このCAP成分は、干渉される上に、NKCCのリン酸化の程度の段階的な調整に参加し、脂質ラフト内のその機能を決定する。(非特許文献5)
【0021】
電子顕微鏡レベルで、チロシン407(pY407)におけるFAKのリン酸化形態であるインテグリンβ1と、Na(+),K(+),2Cl(−) 共輸送体(NKCC1)との独特の組み合わせは、正常細胞中の側底膜上のみに全て共存していた。これらの3つのタンパク質はまた等張条件で互いに共同免疫沈降され、これら3つのタンパク質を含む複合体を示している。FAK pY407のみが低張性ショックに対して高感度であり、低張性ショックによって脱リン酸化したが、頂端膜中のFAK pY576および細胞−細胞接着中のpY861は、低張性に対して非感受性であった。塩化物細胞は、側底膜中のNKCC1非活性化およびこれらの上皮細胞によるNaCl分泌の阻害をもたらすFAK pY407の脱リン酸化につながる浸透圧受容器としてインテグリンβ1を用いて低張性ショックに応答することが報告されている(非特許文献6)。また一方、腫瘍細胞は通常無極性であり、従って脂質ラフト中のイオンポンプは全て、先端領域および側底領域には広がらず、細胞表面に沿って局在している。従って、同じ種類のイオンポンプはがん細胞のように正常細胞中に広がっており、それらの位置が異なるにもかかわらず、どちらの場合においても同様にモニターされる。
【0022】
インテグリンは、細胞表面受容体であり、部分的に細胞の細胞外マトリクスへの接着を媒介する。組織の組織化および生存にとって重要な分子の「接着剤」を提供することに加え、インテグリンは動的なシグナル伝達分子として働く。インテグリンは、正常な非形質転換細胞が、細胞外マトリクスに接着することを検出するのを可能にし、それにより細胞生存シグナルを提供している。このシグナルは、増殖因子の存在下で細胞が増殖することを可能にし、いくつかの例において、アポトーシスを防止する。インテグリンはまた、脈管形成、創傷治癒、損傷の修復、免疫系機能のモニター、および発生のような、正常なプロセスにおいて生じるような細胞遊走をも媒介する。インテグリンの発現および機能における異常は、がんを含む多くの疾患および障害に寄与する。
【0023】
接着斑キナーゼ(FAK)は、非受容体チロシンキナーゼであり、種々のがんにおいて過剰発現され、細胞の接着、遊走、および定着−依存性の増殖に重要な役割を果たしている(非特許文献7)。
【0024】
実質的に全ての正常細胞に広がっている接着斑キナーゼ(FAK)は、侵襲性および転移性の大腸がん、乳がん、甲状腺がん、および前立腺がんにおいて過剰発現される。増強されたFAK免疫染色は、侵襲前(インサイチュがん腫)口腔がんの小さな集団、および侵襲性口腔がん中の細胞の大きい集団において検出される。FAKは、おそらく発がん遺伝子には分類されないが、がんの進行から侵襲および転移に関与し得ると仮定されている。腫瘍細胞の亜集団中のFAKの過剰発現は、侵襲および転移への高い傾向を有する細胞の集団を導くということがさらに仮定される(非特許文献8)。
【0025】
接着斑キナーゼ(FAK)は、細胞の接着斑または細胞外マトリクス内に接触する細胞に局在する。FAKは、種々の細胞表面受容体によって活性化され、ある範囲の標的に対してシグナルを発する。FAKは、増殖因子受容体媒介性シグナル伝達経路に関与し、細胞の生存、増殖、遊走、および侵襲に重要な役割を果たしている。
【0026】
FAKの過剰発現は多くの腫瘍タイプで広く観察され、侵襲および転移のマーカーとして用いられる。FAKは、siRNAを用いてその転写因子を調節することによるFAK遺伝子転写のレベルにて、FAK siRNAを用いてFAK mRNAレベルにて、またはタンパク質レベルにてなど、種々のレベルで治療により標的とすることができる。タンパク質レベルにおいて、接着斑中の脂質ラフトへのFAKの局在化は、ドミナントネガティブなFAK関連非キナーゼまたはその接着斑標的化ドメインの発現によって混乱させられ、そのキナーゼ活性は、FAKキナーゼドメイン相互作用タンパク質であるFIP200およびキナーゼ活性阻害剤によって阻害され得る。近年、潜在的な腫瘍治療のためのさらなるアプローチを提供するために、FAKの転写および活性化に対する小分子阻害剤の開発に焦点が置かれている(非特許文献9)。
【0027】
イオンポンプの活性レベルを検出するシグナルの変換および制御を調節する、細胞内物質のリン酸化に関与する別の物質がCAPであり、これはCbIプロトがん遺伝子生成物に適合するタンパク質である。CAPは、フロチリンとFAKの間の脂質ラフトの細胞質側の単分子層(cytoplasmic leaflet)においてシグナル伝達経路にリンクして作用している。CAPはまた、ポンシンという名でも知られている。この名前は、この因子が元々過剰発現している腫瘍中で単離され同定されたことによりプロトがん遺伝子生成物と名付けられたことを反映しているが、その後、正常細胞中でも同様に広がっていることが開示されている。
【0028】
抗分泌性因子は、41kDaタンパク質であり、元々下痢性疾患及び腸管炎症に対する保護を提供すると云われていた(概説については、非特許文献10参照)。抗分泌性因子(AF)タンパク質は、配列決定されており、そのcDNAはクローン化されている。抗分泌性活性は、抗分泌性因子(AF)タンパク質配列のアミノ酸位35と50との間に位置するペプチドによって主としてもたらされており、コンセンサス配列の少なくとも4〜16個(例えば4、6、8または16個)のアミノ酸を含んでいるようである。免疫化学的及び免疫組織化学的研究によって、抗分泌性因子(AF)タンパク質が身体中のほとんどの組織及び器官に存在し、またそれらによって合成され得ることが明らかとなった。抗下痢性配列を含む合成ペプチドが、特性化されている(特許文献1;特許文献2)。抗分泌性因子(AF)およびペプチドが、コレラ毒素によるチャレンジ(challenge)後の腸管及び中枢神経系の脈絡叢におけるような、病原性流体輸送及び/又は炎症反応を正常化することが既に記載されている(特許文献1)。従って、特許文献1において、AFの内因性合成または加えたAFの取込のいずれかを誘発する能力を有する食物および食餌が、浮腫、下痢、脱水症状及び炎症の治療に有用であることが示唆された。特許文献3には、抗分泌性因子(AF)タンパク質の形成を誘導する食物の生産のための、酵素活性を有する産物の使用が記載されている。特許文献4にはさらに、抗分泌性因子(AF)タンパク質それ自体の豊富な食品が記載されている。
【0029】
抗分泌性因子(AF)タンパク質及びその断片が、細胞の損失及び/又は獲得と関連した状態の治療において、神経組織の修復、並びに幹細胞及び前駆細胞及びそれらに由来する細胞の増殖、アポトーシス、分化及び/又は遊走を改善し(特許文献5)、高眼圧症の治療および/または予防(特許文献6)、コンパーメント症候群の治療および/または予防(特許文献7)においても等しく効果的であることが開示されている。
【0030】
さらに、本発明者らは抗分泌性因子が膜中の脂質ラフト、受容体および/またはカベオラの構造、分布および多機能をモニターし、および/または有益な影響を及ぼし得、それにより細胞膜中の脂質ラフトおよび/またはカベオラの構造的な組織崩壊および機能不全の治療および/または予防に用いることができることを示した。(特許文献8)。
【0031】
驚くべきことに、本発明者らは、ここで、同じ抗分泌性因子が膜貫通タンパク質の上記の生物学的活性化に干渉し(例えば、FAKおよびCAPを介してNKCC1)、それにより病理細胞および/または混乱細胞中のイオンチャンネルの病理活性を直接的に調節し、該細胞中の細胞内圧および膜貫通タンパク質機能を効果的に正常化させ、例えばがん治療において用いる薬物の取込を向上させることができることを証明することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】WO 97/08202
【特許文献2】WO 05/030246
【特許文献3】WO 98/21978
【特許文献4】WO 00/038535
【特許文献5】WO 05/030246
【特許文献6】WO 07/126364
【特許文献7】WO 07/126363
【特許文献8】WO 07/126365
【非特許文献】
【0033】
【非特許文献1】Jennische et al.、2008
【非特許文献2】Hansson et al.、1984
【非特許文献3】Mathews、2002
【非特許文献4】Haas、1998
【非特許文献5】Hoffmann 2007
【非特許文献6】Marshall、2008
【非特許文献7】Tilgham、2007
【非特許文献8】Kornberg、1998
【非特許文献9】Lis. 2008
【非特許文献10】Lange and Lonnroth,2001
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明は、医薬組成物の製造のため、第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤の送達および/または細胞取込を最適化するための、抗分泌機能および/または等価な機能活性および/または類似活性を有し、好ましくは以下の式:
X1−V−C−X2−X3−K−X4−R−X5
[式中、X1は、I、配列番号6のアミノ酸1〜35、又は欠失しており、X2は、H、R又はKであり、X3は、S又はLであり、X4は、T又はAであり、X5は、配列番号6のアミノ酸43〜46、43〜51、43〜80又は43〜163であるか、又は欠失しているか又は該ポリペプチドの機能を変化させないその修飾である]
に従う配列からなる抗分泌性因子(AF)タンパク質から選択される、抗分泌性(AF)タンパク質、それらの相同体、誘導体、ペプチドおよび/または断片、あるいはその医薬的活性塩を含む医薬組成物の使用に関する。
【0035】
代表的には、前記第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤は、外傷後損傷、神経変性、寄生体、または炎症状態を標的とする抗がん剤、放射線治療、抗生物質、抗ウイルス物質および/または薬物を含む。
【0036】
別の等しく好ましい局面において本発明はまた、送達および遺伝子送達の細胞取込を最適化するための、抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するそれらの誘導体、相同体、および/または断片、および/またはそれらの医薬的活性塩の使用に関する。
【0037】
一般的に、本発明は抗分泌性因子(AF)が特にCAP/ポンシン(c−Cbl associated protein:c−Cbl関連タンパク質)および/またはFAK(focal adhesion kinase:接着斑キナーゼ)との相互作用によってNKCC1のような膜貫通タンパク質の生物活性に特に介入し得るという驚くべき知見に関する。
【0038】
AFは、細胞膜の脂質ラフトに固定されているタンパク質であるフロチリン1および2と共に局在化することが知られており、アクチンおよびCAPに結合し、次にSHP−2/PTPD1ドメインおよびその非リン酸化形態でFAKのSH3に結合する。本発明は、AFが、NKCC1によってCAPおよびFAKの相互作用を活動的に調節し得、結合されていないリン酸化FAKの発生を引き起こすることを初めて示している。NKCC1複合体由来の未結合FAKによって、イオンチャンネルは効果的にシャットダウンされる。本発明者らは、初めてAFが、CAPのフロチリン1および2へ、ならびにFAKのSHP−2/PTPD1ドメインへの結合を調節し、フロチリン1および2のオリゴマー形成、細胞膜の脂質ラフトへのその結合に潜在的に干渉し得る有力な証拠を示している。本発明者らにより、AFがさらに、プロテインホスファターゼに活動的に干渉することが初めて示されている。
【0039】
上記の生物学的作用により、AFは細胞膜中のNKCC1イオンチャンネルのような膜貫通タンパク質の異常な機能を効果的にモニターおよび/または正常化することができる。
【0040】
健康な細胞においては、NKCC1/FAK/CAP複合体は、リン酸化状態と非リン酸化状態との間に自然な平衡を示しており、それにより受容体および浸透圧などのいくつかの細胞内エフェクターおよび細胞外エフェクターが働き、イオンチャンネルの状態の緻密に調整された制御に寄与することができる。
【0041】
病理細胞および/または混乱細胞においては、イオンチャンネルであるNKCC1/FAK/CAP複合体のその緻密に調節された制御が乱され、そのイオンチャンネルが絶えず活性化される。従って、例えば形質転換細胞の細胞内圧が健康な細胞の細胞内圧よりもしばしば高くなる。病理細胞においては、FAKが絶えず脱リン酸化され、NKCC1複合体に結合される。NKCC1複合体においてFAKをモニターし、それによりFAKがリン酸化するというその独特な能力により、AFは病理細胞中の細胞内圧を効果的に正常化し、例えばがん治療に用いられる薬物のような医薬物質の改善した細胞取込の可能性を秘めている。結果的に、病理細胞中の細胞内圧の正常化は、病理組織の間質圧の正常化にもまた寄与し得る。イオンの異常な細胞内レベルが、例えばアクアポリン(水チャンネル)を介して水の移動をもたらすことが強調されるべきである。
【0042】
幅広い種類の疾患の薬理学的治療における周知の欠点は、病理細胞によってその効果的な取込が不足することにより、患者に投与された医薬物質の最適量を超えて用量を増やす必要があるということである。本発明は、証明されている非毒性で、生分解性があり、内因性の小さな物質を利用して病理細胞中の細胞内圧を正常化し、従って任意の医薬物質の改善した細胞取込の可能性があり、前述の過剰な用量のさらなる活性成分の投与に起因する重篤な副作用のリスクを最小化する。
【0043】
さらに、この抗分泌性因子(AF)は、健康な正常細胞に対しては有害な効果はなく、病理細胞に対してその正常化効果を発揮するのみであることが証明されている。逆に、それよりも抗分泌性因子(AF)タンパク質、抗分泌性機能および/または等価な機能および/または類似の活性を有するその相同体、誘導体、および/または断片、またはこれらの医薬的活性塩の投与は、病理細胞および/または混乱細胞の付近にある健康な細胞が、NKCC1/FAK/CAP複合体のリン酸化状態と非リン酸化状態との間の最適な平衡を得る助けにもなり得る。
【0044】
その上、長年、特定量の麦芽穀物を含む特定の食物が、患者の血液中の抗分泌性因子の身体自体の内生産出および/または活性化を誘発することが知られている。従って、特定の物質で処理されるかまたは特定の処理に供されている食物を、治療前、治療中および/または治療後に、例えばWO 1998/21978またはWO 05/030246に記載されているような食料などと共に単に患者に食べさせることで、病理細胞中の細胞内圧および/または病理組織中の間質圧力の同様な正常化を誘発し得る可能性がある。これにより、効果的にかつ安価に、抗がん剤、放射線治療、抗生物質、坑ウイルス物質または外傷後損傷、神経変性、寄生体、または炎症状態を標的化した薬物のような医薬物質の細胞取込が向上する。
【0045】
本発明は、もちろんさらに抗分泌性因子(AF)が、薬物デザインを向上させるため、潜在的なAF阻害性および/または亢進性物質のスクリーニングおよび/または評価のため、ならびに新規または公知の抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片、および/またはその医薬的活性塩の効果を評価および/または機能活性を実証するための広範囲にわたる種々の方法において、イオンチャンネル、特にFAKを介した特定のNKCC1のような膜貫通タンパク質の生物学的活性化に介入し得るという上記の驚くべき知見の使用にも関する。
【0046】
例えば、リン酸化FAKは、特定のおよび市販の抗体によって非リン酸化FAKと簡単に区別することができる。本発明者らによって手際よく実証されているように、培地中の未処理のMATB細胞(AtCC N.:CRL−1666、名称13762 MATB111)は、リン酸化FAKに対して明らかな標識を示す。これらが高張液に曝されると、細胞のNKCC1チャンネルを活性化し、リン酸化FAKのレベルを明らかに減少させる、すなわちNKCC1が活性化され、その細胞が膨張する。これに関してデンプンにおいては対照的に、AFによる処理は回復させるのみならず、培養された細胞中で非常に高いレベルのリン酸化FAKを明らかに誘発した、すなわちNKCC1が遮断され、細胞サイズが正常化された。
【0047】
薬物デザインを向上させるため、潜在的なAF阻害性および/または亢進性物質のスクリーニングおよび/または評価のため、ならびに新規または公知の抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片、および/またはその医薬的活性塩の効果を評価および/または機能活性を実証するための標準的な方法は当該分野で周知であり、そのうちのいくつかは本出願の明細書にさらに記載される。
【0048】
別の局面において、本発明はまた、がん、腫瘍または腫瘍関連状態、感染、炎症、外傷後脳損傷、神経変性、および寄生に関連する医学的状態からなる群より選択される種々の医学的状態の治療および/または予防のための医薬組成物の製造のための、抗分泌性因子(AF)タンパク質、等価な機能活性を有するその相同体、誘導体、および/または断片、またはその医薬的活性塩を含む医薬組成物の使用にも関する。
【0049】
なお別の局面において、本発明はがんのような腫瘍疾患に罹患している患者の悪性腫瘍の治療制御をモニタリングおよび/または実証および/または高めるための、新規かつ信頼できる診断および/または予後ツールのデザインのための、AFの生物学的細胞機能の、新しく見出された知見の使用に関する。
【0050】
好ましい実施態様において、本発明に従って用いられる抗分泌性因子(AF)タンパク質は、以下の式に従う配列からなり:
X1−V−C−X2−X3−K−X4−R−X5、
式中、X1は、I、配列番号6のアミノ酸1〜35、又は欠失しており、X2は、H、R又はKであり、X3は、S又はLであり、X4は、T又はAであり、X5は、配列番号6のアミノ酸43〜46、43〜51、43〜80又は43〜163であるか、又は欠失しているか、又は該ポリペプチドもしくはペプチドの機能を変化させないその修飾である。
【0051】
本発明はまた、企図された治療の目的、ならびに患者の年齢、性別、状態などに適切な種々の投与用量および経路にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】ストレスおよびAD処置に付された浮遊性MATBIII腫瘍のサイトメトリーアッセイの結果を示すグラフである。このFACS分析は、10,000個の細胞を分析し、バイアル番号1(コントロール)で620、バイアル番号2(高張性NaCl、5分)で450、バイアル番号3(高張性NaCl+AF−16、60分)で514、およびバイアル番号4(高張性NaCl+PBS、60分)で576のFSC−height中央値を示した。
【図2】FAKに対するリン酸化抗体に対して、抗体法によって行なわれた免疫組織化学の結果を示す図であり、これはコントロール細胞(バイアル番号1)において高強度赤色染色を示したが、一方バイアル番号4の細胞(PBS処理したもの)は、明らかに低い強度であった。コントロール細胞と類似の染色強度は、AF−16で処理した細胞(バイアル3)が示した。A.処理前 B.高張性NaClの後PBSによる処理 C.高張性NaClの後AF−16による処理 これらの細胞は処理されて、リン酸化FAK(pFAK)、赤色蛍光を示す。 核は青色(DAPI)に染色される。 強度の染色=高レベルのpFAK、すなわちNKCC1チャンネルがクローズである。 弱い染色=低レベルのpFAK、すなわちNKCC1チャンネルがオープンである。
【図3】ファロイジン−FITCを用いて、アクチンフィラメントの存在および分布を免疫組織化学的に解明することを目的とした一連の実験において、固体表面上でGMKを培養した結果を示す図である。 A=未処理、正常なGMK細胞を表面に付着させて培養(コントロール)し、ファロイジン−FITC接合体でアクチンフィラメントを実証するために処理した。核は青色に染色される。 B=サイトカラシンBによる処理がアクチンネットワークを崩壊させ、細胞質中にはいくつかのクラスターが残っているだけである。 C=サイトカラシンBとAF−16の併用処理により、アクチンネットワークの部分的な回復が得られている。従ってAF−16は、部分的にその細胞のアクチン細胞骨格を正常化する。
【図4】A=バイアル1:コントロール B=バイアル4:高張性NaCl+ビヒクル、60分 C=バイアル3:高張性NaCl+AF−16、60分
【図5】ドキソルビシンの静脈内注射の前にビヒクル(上の行、A−B)またはAF−16(下の行、C−D)のいずれかで60分間前処理したラット由来のMATIII腫瘍細胞のクリオスタット切片。このラットは、ドキソルビシンの注射後15分で殺した。DNAへのドキソルビシンの結合により、薬物に曝露された細胞の核中で赤色蛍光が得られている。
【0053】
ビヒクルで前処理したラット由来の腫瘍中では散乱した核のみが染色されている(AおよびB)。AF−16で前処理したラット由来の腫瘍細胞中では、ほとんどの核が染色されている。このことは、AF−16による前処理が、腫瘍細胞の核中への細胞静止剤の浸透を効果的に増加させたことを示している。
図中の線 = 100μm
【0054】
定義および略語
略語
IFP: 間質液圧;
PBS: リン酸緩衝化生理食塩水;
AF: 抗分泌性因子、
AF−16: アミノ酸VCHSKTRSNPENNVGLから構成されるペプチド; オクタペプチドIVCHSKTR;セプタペプチドVHCHSKTR;ヘキサペプチドCHSKTR;ペンタペプチドHSKTR
FSC:前方散乱光
SCS:側方錯乱光
SPC:特別に加工処理された穀物
【0055】
定義
タンパク質とは、ペプチド結合によって互いに連結されるアミノ酸残基によって構成される生物学的高分子である。アミノ酸の線状ポリマーとしてのタンパク質は、ポリペプチドとも呼ばれる。典型的に、タンパク質は、50〜800個のアミノ酸残基を有し、それゆえ、約6,000〜約数十万Da又はそれ以上の範囲にある分子量を有する。小タンパク質は、ペプチド、ポリペプチド又はオリゴペプチドと呼ばれる。「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」及び「ペプチド」という用語は、本文脈において交換可能に使用され得る。
【0056】
本文脈における「医薬組成物」とは、場合により担体若しくはビヒクル等の医薬的に活性のある添加剤との組み合わせで、抗分泌性因子(AF)タンパク質の治療活性量を含む組成物を指す。該医薬組成物は、適切な投与経路のために製剤化され、これは、患者の状態、及び年齢又は好ましい選択等の他の要因に応じて変動し得る。抗分泌性因子(AF)タンパク質を含む医薬組成物は、薬物送達システムとして機能する。投与した医薬組成物は、ヒト又は動物の身体に活性物質を与える。該医薬組成物は、例えば錠剤、丸剤、ロゼンジ剤、カプセル剤、便通ピル(stool pill)、ゲル剤、液剤等の形態にあり得るが、これらに限定されるわけではない。
【0057】
「医薬的活性塩」という用語は、いわゆるHofmeiserシリーズをベースにした、抗分泌性因子(AF)タンパク質に由来する何れかの塩であり得る抗分泌性因子(AF)タンパク質の塩を指す。医薬的活性塩に関する他の例は、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩及び塩化リジンを含むが、本発明は、これらに限定されるわけではない。
【0058】
「抗分泌性」という用語は、本文脈において、分泌、特に腸内分泌を抑制又は低下させることを指す。従って、「抗分泌性因子(AF)タンパク質」という用語は、身体において分泌を抑制又は低下できるタンパク質を指す。
【0059】
本文脈において、「等価な機能および/または類似の活性」とは、抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、もしくはポリペプチド、またはその相同体、誘導体もしくは断片の生物学的効果、すなわちその医薬物質および/または製剤の送達および細胞取込を最適化するための能力に関する。このような能力を試験および/または測定するための標準化された例は、当該分野で周知である。これらの例は、本出願の実験の章、例えば実施例1〜6に与えられている。
【0060】
本文脈において、「抗分泌性因子(AF)タンパク質」又はその相同体、誘導体及び/又は断片は、WO97/08202において規定される「抗分泌性因子」又は「抗分泌性因子タンパク質」という用語と交換可能に使用され得、抗分泌性因子(AF)タンパク質若しくはペプチド又は抗分泌性機能および/または等価な機能および/または類似活性有するその相同体、誘導体及び/又は断片、あるいはそのポリペプチドの機能を変更しないこれらの変異を指す。従って当然ながら、本文脈における「抗分泌性因子」、「抗分泌性因子タンパク質」、「抗分泌性ペプチド」、「抗分泌性断片」又は「抗分泌性因子(AF)タンパク質」は、それらの誘導体、相同体及び/又は断片を指すことも可能である。これらの用語は全て、本発明の脈絡において交換可能に使用され得る。さらに、本文脈において、「抗分泌性因子」という用語は、「AF」と略記され得る。本文脈における抗分泌性因子(AF)タンパク質は、WO97/08202及びWO00/38535において既に規定された抗分泌性特性を有するタンパク質も指す。抗分泌性因子は、例えばWO05/030246においても記載されている。また、抗分泌性因子という用語によって企図されるものは、以下にさらに開示するSE900028−2及びWO00/38535に記載されるような抗分泌性因子で富化された卵黄である。
【0061】
本文脈において、「医療用食品」とは、抗分泌性因子(AF)タンパク質を有する組成物と共に調製されているかまたは内因性AFの合成または活性化を誘発し得る能力を有する食品を指す。該食品は、液体又は粉末のような流体又は固形の形態にある何れかの適切な食品、又は何れかの他の適切な食材であり得る。このような物の例は、WO00/38535またはWO 91/09536において見出され得る。この成分は、同様に抗分泌性因子(AF)タンパク質の取込、形成および放出を誘発し得る。
【0062】
本文脈において「噴霧器」とは、霧状の形態で投薬を気道に送達する医療用装置を指す。「噴霧器」圧縮装置は、液体薬物で満たされた医療カップ内にチューブを通し空気を送り込む。空気力により、液体は、気道内に深く吸入することが可能になうるごく小さな霧様粒子にされる。
【0063】
本文脈において「エアゾール」という用語は、細かな固体又は液体の粒子のガス状懸濁物を指す。
【0064】
本文脈において、用語「細胞増殖抑制剤」は、「細胞増殖抑制薬物」、「細胞増殖抑制薬剤」または「細胞増殖抑制化合物」と同様に用いられ、これらの用語は、交換可能であり、がん治療に用いられ、典型的には化学治療を受けている患者に投与される薬物に関する。細胞増殖抑制薬剤は、病理細胞のみならず正常細胞の増殖も確認する。従って、このような物質は腫瘍の化学療法的治療に用いられるだけでなく、腫瘍の除去後の術後処置にも用いられる。細胞増殖抑制剤は、液体、粉末または顆粒形態、場合により冷凍形態で手に入る。当業者は、市販の多くの細胞増殖抑制剤から、細胞増殖抑制剤の選択および適量を調節する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
発明の詳細な説明
本発明は、細胞の大きさおよびその内部環境を制御する細胞中のシステムに関する細胞機能をモニターする新規のアプローチに関する。抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するそれらの誘導体、相同体、および/または断片、またはそのポリペプチドの機能を変化させないその修飾、および/またはその医薬的活性塩は、本明細書中において医薬物質および/または製剤の送達および細胞取込を最適化するために用いられる。該医薬物質および/または製剤は本文脈において、抗がん剤、抗腫瘍薬物、放射線治療、抗生物質および抗ウイルス物質、外傷後損傷を標的とする薬物、神経変性を標的とする薬物、寄生を標的とする薬物、および炎症状態に対する薬物からなる群より選択される。
【0066】
一般的に、本発明は、AFが、正常に機能しない大きさおよび細胞内部環境を有する細胞の構造および機能を補正するために用いられるという驚くべき知見に関する。例えば、抗分泌性因子(AF)は、細胞骨格、ならびにその脂質ラフトおよびカベオラ、フィラミン、ガラクチンおよびフロチリン複合体への会合により介入し得ることが以前から示されており、今回さらにCAP/ポンシン(c−Cbl関連タンパク質)およびFAK(接着斑キナーゼ)の相互作用によって、NKCC1のようなイオンポンプの活性のモニタリングにも有効であることが記載されている。単一の科学的仮説に限定されることを望まず、AFが、cAMPの細胞レベルに対する前出の影響を通して、NKCC1に対するその制御効果の少なくとも一部を発揮し、CAP/ポンシン(c−Cbl関連タンパク質)およびFAK(接着斑キナーゼ)のような多くの機能性タンパク質のリン酸化状態と脱リン酸化状態との間の平衡に次々に影響を及ぼしていることが本明細書中で想定されている。これらのタンパク質の機能性は、結果的にAFのレベルによって影響され、例えばFAKのリン酸化状態と脱リン酸化状態との間の平衡に対するAFの効果は、本発明者らによって実証されており、それは実施例の章に記載されている。さらに、本発明者らは、AFのホスファターゼへの会合もさらに実証することができた。
【0067】
実施例の章に示されるように、AF−16が正常化に高い優先度を与える、細胞の正常な状態からの逸脱を妨げることを実証することができた。。従って本発明者らは、細胞のシステム、組織および器官の範囲を明らかにして、混乱細胞を正常化させるAF−16の能力の重要性を思いがけず実証した。
【0068】
AFは、混乱細胞および病理細胞中の前記イオンチャンネルの異常な活性を効果的に調節および/または正常化し、それによりその細胞中の大きさおよび細胞内圧を効果的に正常化し、また混乱組織中の間質圧力の正常化をももたらし得ることで、従って、例えばがん、炎症および外傷の治療において用いられる薬物のような医薬物質の改善した細胞取込の可能性がある。
【0069】
本発明はもちろんさらに、抗分泌性因子(AF)が、薬物デザインの向上のため、潜在的なAF阻害性および/または亢進性物質のスクリーニングおよび/または評価のため、ならびに新規または高知の抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片、および/またはその医薬的活性塩の効果の評価および/または機能活性の実証のための広範な種々の方法において、CAP/ポンシン(c−Cbl関連タンパク質)およびFAK(接着斑キナーゼ)との相互作用によってNKCC1の調節を通して、混乱細胞の大きさおよび内部の細胞環境を調節する細胞システムの生物学的活性化に介入し得るという上記の驚くべき知見の使用にも関する。
【0070】
本発明は、第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤の送達および/または細胞取込を最適化するための医薬組成物の製造のための、抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するそれらの誘導体、相同体、および/または断片、またはそのポリペプチドの機能を変化させないその修飾、および/またはその医薬的活性塩を含む医薬組成物の使用に関する。典型的には、前記第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤は、抗がん剤、放射線治療、抗菌物質、抗生物質、抗ウイルス物質および/または外傷後損傷、神経変性、寄生体、および/または炎症状態を標的とする薬物を含む。
【0071】
さらに別の局面において、本発明は抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するそれらの誘導体、相同体、および/または断片、またはそのポリペプチドの機能を変化させないその修飾および/またはその医薬的活性塩を、第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤と組み合わせて含む、医薬組成物(ここで該第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤は、抗がん剤、放射線治療、抗菌物質、抗生物質、抗ウイルス物質および/または外傷後損傷、神経変性、寄生体、および/または炎症状態を標的とする薬物からなる群より選択される)、ならびに医薬におけるその使用、特に本出願に記載される種々の医学的兆候の処置におけるその使用に関する。
【0072】
さらに、前記医薬組成物はもちろん、2種またはそれ以上の抗分泌性因子(AF)タンパク質、断片もしくは誘導体、またはその組み合わせを含むことができ、同様にさらに医薬的に許容される添加剤も含むことができる。
【0073】
好ましい実施態様において、抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するそれらの誘導体、相同体、および/または断片、および/またはその医薬的活性塩は、悪性および/または病理細胞中の細胞バリアをくぐりぬけることができ、従って必要とされる薬物用量を低下させるため、または該医薬物質および/または製剤の用量効果を最大にするために用いることができる。結果的に上記のAFは、毒性を最小にするためかまたは該医薬物質および/または製剤の望まれない副作用を最小化するために用いることができる。
【0074】
本発明は、第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤の送達および/または細胞取込を最適化するための医薬組成物の製造のための、抗分泌性因子(AF)タンパク質、抗分泌機能および/または等価な機能および/または類似活性を有する、その相同体、誘導体および/または断片、またはその医薬的活性塩を含む医薬組成物の使用に関する。AFおよび第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤は、一緒に投与されるかまたは連続して投与され得る。これらは、共処方されるかまたは別々の製剤で投与される。
【0075】
実施例1に示したように、AF−16は、腫瘍細胞中で数時間にわたりIFPを過渡的に低下させ、その後IFPは24時間で元々の高いレベルに戻る。試験的に、この時間制限のあるIFPの抑制効果は、腫瘍の血液循環および代謝の向上と関係があるようであり、放射線療法の効果を増強し得る。従って、放射線療法の間の血流の増加は、より多い遊離ラジカルを発生させ、これらは悪性細胞の排除に最も効果的である。
【0076】
従って、本発明の好ましい実施態様は、放射線療法を最適化するための医薬組成物の製造のための、本発明に従う抗分泌性因子(AF)タンパク質、その相同体、誘導体、ペプチドおよび/または断片を含む医薬組成物の使用である。
【0077】
さらに、細胞IFPの低下の過渡的かつ可逆的な性質に基づいて、臨床医は投与作業を容易に想定することができ、その投与作業において、AFは標的細胞中のIFPが、第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤の投与のためのちょうどよいときに低下されるように調節された、最適に定められた時間間隔で投与される。
【0078】
従って、別の、等しく好ましい実施態様は、第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤の送達および/または細胞取込を最適化するための方法または投与計画に関し、ここで該第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤は抗がん剤、放射線治療、抗生物質、抗ウイルス物質、および/または外傷後損傷、神経変性、寄生体、または炎症状態を標的とする薬物を含む。
【0079】
AFおよび第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤は、一緒にまたは連続して投与され得る。これらは共処方されるかまたは別々の製剤で投与され得る。
【0080】
別の局面において、本発明は、がん、腫瘍または腫瘍関連状態、放射線治療、感染、外傷後損傷、神経変性、寄生虫感染症、および炎症状態からなる群より選択される種々の医学的状態の治療および/または予防のための、第2のまたはさらなる医薬物質および/または製剤の送達および/または細胞取込を最適化する医薬組成物の製造のための、抗分泌性因子(AF)タンパク質、等価な機能活性を有するその相同体、誘導体、および/または断片、またはその医薬的活性塩を含む医薬組成物の使用に関する。
【0081】
本発明はまた、治療に加え、患者の年齢、性別、状態などの企図された目的に適切な種々の投与用量および経路にも関する。
【0082】
本明細書中において、医薬組成物は、眼内、鼻腔内、経口、局所、皮下および/または全身投与用に製剤化され、例えば、スプレー剤、エアゾール剤として、または吸入剤もしくは噴霧器によって投与するために製剤化され得る。全身投与のために製剤化される場合、該組成物は血液に対して好ましくは、1回の適用及び体重kg及び1日あたり、0.1μg〜1mgなど、1回の適用及び体重kg及び1日あたり、0.1μg〜10mgの用量で、好ましくは1回の適用及び体重kg及び1日あたり1〜50μg、または1〜100μg/体重kgなど、1回の適用及び体重kg及び1日あたり1〜500μg/体重kgの用量で製剤化される。このような投与は、単回用量としてまたは複数の毎日の適用としてのいずれかで実施可能である。
【0083】
この非常に広範囲な、利用される有効投与計画は、副作用のリスクおよび望まれない合併症が最小であることを示している。従って、本発明は細胞および組織に対して過剰負荷の治療を可能にするだけでなく、個々の反応ならびに病気の重篤度および/または不快感に合わせた広範囲な用量で患者を治療することを可能にする。
【0084】
本発明に従う医薬組成物は、ある文脈において、血管を介してかまたは気道を介して、局所的に、本来の位置で局所的に、経口で、鼻腔内に、皮下におよび/または全身的に投与される。
【0085】
本発明はもちろんさらに、抗分泌性因子(AF)が、薬物デザインの向上のため、潜在的なAF阻害性および/または亢進性物質のスクリーニングおよび/または評価のため、ならびに新規または公知の抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片、および/またはその医薬的活性塩の効果の評価および/または実証のための広範な種々の方法において、FAKを介してNKCC1および他の膜貫通タンパク質の生物学的活性化に介入し得るという上記の驚くべき知見の使用にも関する。
【0086】
例えば、リン酸化FAKは、特定の市販の抗体によって非リン酸化FAKと簡単に区別できる。本発明者らによって簡潔に実証されているように、培地中の未処理のMATB細胞(樹立乳がん細胞株)は、リン酸化FAKについて明らかな標識を示す。それらが高張液に暴露されると、細胞のNKCC1チャンネルを活性化し、リン酸化FAKのレベルは明らかに減少した、すなわちNKCC1が活性化され細胞が膨潤した。デンプンにおいては、この場合対照的にAFによる処理は回復させるだけでなく明らかに培養細胞中のリン酸化FAKの顕著に高いレベルを誘発させる、すなわちNKCC1は遮断され、細胞の大きさが正常化する。
【0087】
従って本発明は現在好ましい実施態様において、例えばリン酸化FAKの量を測定することによって、本出願において言及されている物質もしくは医薬品製剤の処置に供されている細胞または組織の応答を試験して、該物質または製剤の細胞取込におけるAF、抗分泌性因子(AF)タンパク質、その断片もしくは誘導体、または組み合わせの影響を推定することにより特徴づけられる、薬物デザインを向上させる方法に関する。
【0088】
別の、等しく好ましい実施態様において、本発明は潜在的なAF阻害性および/または亢進性物質のスクリーニングおよび/または評価のための方法に関し、該方法は化学物質または生体物質を選択し、抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体および/または断片、および/またはその医薬的活性塩を該選択した物質に暴露し、その後NKCC1複合体におけるFAKの脱リン酸化をブロックする該暴露されたAFの潜在能力をリン酸化FAKの量的発生を測定することにより試験することにより特徴づけられる。特に好ましい実施態様において、該試験方法は高スループットのスクリーニングとして実施される。
【0089】
本明細書中のさらなる方法はまた、新規または既知の抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片、および/またはその医薬的活性塩の効果を評価、および/または機能活性を実証することに関し、該新規または高知のAFがNKCC1におけるFAKの脱リン酸化をブロックする潜在能力をリン酸化FAKの発生を測定および数量化することにより試験することにより特徴づけられる。
【0090】
上記の方法は全て、一般的に代わりに細胞系または試験生物において実施され得る。この方法はまた、インビボ、インサイチュ、およびインシリコ(コンピュータでの)系においても等しく適用可能である。
【0091】
以下のための標準的な方法は当業者に周知である:
−薬物デザインの向上のため、
−潜在的なAF阻害性および/または亢進性物質のスクリーニングおよび/または評価のため、
−新規または既知の抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片、および/またはその医薬的活性塩の効果の評価および/または機能活性の実証のため。
【0092】
なお別の局面において、本発明は、がんに罹患している被験者の悪性腫瘍の治療コントロールをモニタリングおよび/または実証および/または増強するための、新規かつ信頼できる診断および/または予後ツールのデザインのための、AFの生物学的細胞機能の新しく見出された知見の使用に関する。本発明の1つの実施態様において、抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片は、種々の腫瘍タイプおよび/またはがん形態の浸潤および/または転移のマーカーとして用いられる。
【0093】
FAKのリン酸化状態における抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片、および/またはその医薬的活性塩の直接的な調節効果は特に、AFそれ自体をがんおよび/または腫瘍治療のための潜在的な薬物候補とさせる。
【0094】
抗分泌性因子とは、身体内で自然に存在するあるクラスのタンパク質である。ヒト抗分泌性因子タンパク質は41kDaタンパク質であり、脳下垂体から単離される場合、382〜288個のアミノ酸を含んでいる。本発明に従うNKCC1の正常化に対する有益な効果に関する活性部位は、このタンパク質のN末端近くの領域にあるタンパク質に位置し、特に配列番号6のアミノ酸1〜163に、より具体的にはこの抗分泌性因子(AF)タンパク質配列上のアミノ酸位35〜50に位置しているようである。その生物学的効果は、該コンセンサス配列の少なくとも4〜6個のアミノ酸を含む任意のペプチドもしくはポリペプチド、またはそのポリペプチドおよび/もしくはペプチドの機能を変化させないその修飾によって及ぼされている。
【0095】
本発明者らは、この抗分泌性因子が、全ての細胞において存在する成分、26Sプロテアソームのサブユニット、より具体的には19S/PA700キャップを構成する、Rpn10とも呼ばれるタンパク質S5aとある程度相同であることを示した。本発明において、抗分泌性因子(AF)タンパク質とは、同一の機能特性を有する相同的タンパク質の1クラスとして定義される。プロテアソームは、過剰なタンパク質の分解、並びに短命の、望ましくない、変性した、ミスフォールディングの及びさもなくば異常なタンパク質の分解と関連した多数の機能を有する。さらに、抗分泌性因子/S5a/Rpn10は、細胞成分、最も明らかにはタンパク質、の分布及び輸送に関与する。抗分泌性因子はまた、アンギオシジン(angiocidin)、トロンボスポンジン−1に結合し、がんの進行と関連することが知られている別のタンパク質アイソフォームと非常に類似している。
【0096】
本発明に従う抗分泌性因子(AF)タンパク質および/またはペプチドの相同体、誘導体および断片は全て、さらなる医薬物質および/または製剤の送達および/または細胞取込を最適化する食物用の医薬の製造のため、ならびに腫瘍および腫瘍関連状態、感染、炎症およびまたは寄生により引き起こされる状態のような状態を治療するための方法に用いることのできる相同な生物学的活性を有している。本文脈において、相同体、誘導体および断片は、天然に存在する抗分泌性因子(AF)タンパク質の少なくとも4つのアミノ酸を含み、本発明に関連するさらなる医薬物質および/または製剤の送達および/または細胞取込を最適化するための坑分泌性因子の生物活性を最適化するために、1つまたはそれ以上のアミノ酸を変化させることによって、そのポリペプチドおよび/またはペプチドの重要な機能を変更することなくさらに改変され得る。
【0097】
抗分泌性因子(AF)タンパク質の断片は一般的に、標本中にペプチド/アミノ酸配列またはその断片を含み、その中で標本中のタンパク質の90%より多く、例えば95%、96%、97%、98%または99%が、本発明のタンパク質、ペプチドおよび/またはその断片である。
【0098】
さらに、本発明の抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、相同体、誘導体及び/又は断片のアミノ酸配列と、少なくとも72%、75%、77%、80%、82%、85%、87%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるなど、少なくとも70%同一である何れかのアミノ酸配列も、本発明の範囲内にであるとされる。本文脈において、相同性及び同一性という用語は、交換可能に使用され、すなわち別のアミノ酸配列と特定の度合の同一性を有するアミノ酸配列は、特定のアミノ酸配列との特定の度合の相同性を有する。
【0099】
本文脈において、誘導体によって企図するところは、本明細書で定義される抗分泌性活性を有し、直接的に又は修飾若しくは部分的置換によって別の物質から誘導されるタンパク質であり、1つ又はそれ以上のアミノ酸が、修飾された又は非天然アミノ酸であり得る別のアミノ酸によって置換されている。例えば、本発明の抗分泌性因子誘導体は、N末端及び/又はC末端保護基を含み得る。N末端保護基の一例には、アセチルが含まれる。C末端保護基の一例には、アミドが含まれる。
【0100】
参照アミノ酸配列と例えば少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、その相同体、ペプチド及び/又は断片によって企図することろは、例えばペプチドが、参照配列と同一であるが、例外は、前記アミノ酸配列が、参照アミノ酸配列の各100個のアミノ酸あたり5個までの点変異を含み得るということである。言い換えれば、参照アミノ酸配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るために、参照配列のアミノ酸の5%までを欠失させるか又は別のアミノ酸と置換でき、又は参照配列中のアミノ酸全体の5%までの数のアミノ酸を、参照配列中に挿入し得る。参照配列のこれらの変異は、参照アミノ酸配列のアミノ末端若しくはカルボキシ末端の位置で、又は参照配列列中のアミノ酸の中で個々に、若しくは参照配列内の1つ若しくはそれ以上の連続した基中散在するそれら末端の位置の間のどこかに存在していてもよい。
【0101】
本発明において、局所アルゴリズムプログラムは、同一性を決定するのに最も良く適している。局所アルゴリズムプログラム(Smith−Waterman等)は、1つの配列中のサブ配列を、第二の配列中のサブ配列と比較し、サブ配列の組み合わせ及びそれらのサブ配列のアラインメントを発見し、これにより最高の全体的類似スコアが得られる。許容される場合、内部ギャップは、ペナルティ化される。局所アルゴリズムは、単一ドメイン又は共通して1つだけの結合部位を有する2つのマルチドメインタンパク質を比較するのに十分機能する。
【0102】
同一性及び類似性を決定する方法は、公的に利用可能なプログラムにおいてコード化される。2つの配列間の同一性及び類似性を決定する好ましいコンピュータプログラム方法には、GCGプログラムパッケージ(Devereux,J et al(1994))BLASTP、BLASTN及びFASTA(Altschul,S.F.et al(1990))が含まれるが、それらに限定されるわけではない。BLASTXプログラムは、NCBI及び他の源(BLAST Manual,Altschul,S.F.et al,Altschul,S.F.et al(1990))から公的に利用可能である。各配列分析プログラムは、デフォルトスコア化マトリックス及びデフォルトギャップペナルティを有する。一般的に、分子生物学者により、使用されるソフトウェアプログラムによって確立されたデフォルト設定が使用されると予想される。
【0103】
抗分泌性因子(AF)タンパク質若しくはペプチド又は本明細書に規定される抗分泌性活性を有するそれらの相同体、誘導体若しくは断片は、例えば5〜16個のアミノ酸、例えば5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19若しくは20個又はそれ以上のアミノ酸など、4個又はそれ以上のアミノ酸を含み得る。他の好ましい実施態様において、抗分泌性因子は、42、43、45、46、51、80、128、129又は163個のアミノ酸からなる。好ましい実施態様において、抗分泌性因子(AF)は、5、6、7、8又は16個のアミノ酸からなる。
【0104】
別の好ましい実施態様において、本発明の抗分泌性因子(AF)タンパク質又はペプチド又は抗分泌性活性を有するそれらの相同体、誘導体若しくは断片は、次式
X1−V−C−X2−X3−K−X4−R−X5
に従った配列からなり、式中、X1は、Iであり、配列番号6のアミノ酸1〜35であり、又は欠失しており、X2は、H、R又はKであり、X3は、S又はLであり、X4は、T又はAであり、X5は、配列番号6のアミノ酸43〜46、43〜51、43〜80又は43〜163であり、又は欠失している。
【0105】
本発明の抗分泌性因子は、インビボ又はインビトロで、例えば組換え生産し、合成的に及び/又は化学的に合成し、及び/又はブタ脳下垂体若しくはトリの卵由来のような抗分泌性因子の天然源から単離することが可能である。生産後、抗分泌性因子は、化学的又は酵素的切断によって、より小さな抗分泌性活性断片に、又はアミノ酸の修飾によって、さらに処理することができる。精製によって純粋な形態で抗分泌性因子(AF)タンパク質を得ることは今のところ可能ではない。しかしながら、WO97/08202及びWO05/030246において既に記載されているように、生物活性のある抗分泌性因子タンパク質を組換えで生産又は合成で生成することは可能である。WO97/08202には、7〜80個のアミノ酸のこのタンパク質の生物活性のある断片の生産も記載されている。
【0106】
本発明の抗分泌性因子は、N末端及び/又はC末端保護基をさらに含み得る。N末端保護基の一例には、アセチルが含まれる。C末端保護基の一例には、アミドが含まれる。
【0107】
本発明の好ましい実施態様において、抗分泌性因子は、配列番号1〜6から選択されたものであり、すなわちアミノ酸の一般的な1文字略記を使用して、VCHSKTRSNPENNVGL(配列番号1、本文脈ではAF−16とも呼ばれる)、IVCHSKTR(配列番号2)、VCHSKTR(配列番号3)、CHSKTR(配列番号4)、HSKTR(配列番号5)、又は配列番号6に従った抗分泌性因子(AF)タンパク質のアミノ酸配列である。配列番号1、2及び3は、例えばWO05/030246において既に記載されている。付随する配列の列挙において特定されるように、上述の特定された配列中のアミノ酸の幾つかは、他のアミノ酸によって置換され得る。本段落の以下において、特定のアミノ酸配列中の特定のアミノ酸の位置は、左から計算され、最もN末端のアミノ酸を、その特定の配列中の位置1にあるものとして示す。以下に特定したように、何れかのアミノ酸置換は、その配列中の何れかの他のアミノ酸置換とは独立して実施され得る。配列番号1において、位置2におけるCは、Sによって置換され得、位置3におけるHは、R又はKによって置換され得、位置4におけるSは、Kと置換され得、及び/又は位置6におけるTは、Aと置換され得る。配列番号2において、位置3におけるCは、Sによって置換され得、位置4におけるHは、R又はKによって置換され得、位置5におけるSは、Lによって置換され得、及び/又は位置7におけるTは、Aによって置換され得る。配列番号3において、位置2におけるCは、Sによって置換され得、位置3におけるHは、R又はKによって置換され得、位置4におけるSは、Lによって置換され得、及び/又は位置6におけるTは、Aによって置換され得る。配列番号4において、位置1におけるCは、Sによって置換され得、位置2におけるHは、R又はKによって置換され得、位置3におけるSは、Lによって置換され得、及び/又は位置5におけるTは、Aによって置換され得る。配列番号5において、位置1におけるHは、R又はKによって置換され得、位置2におけるSは、Lによって置換され得、及び/又は位置4におけるTは、Aによって置換され得る。
【0108】
また、本発明によって企図されるのは、配列番号1〜6の断片の何れかのうちの2つ又はそれ以上の組み合わせである。
【0109】
本発明の一実施態様において、本発明の医薬組成物は、医薬的に許容される添加剤をさらに含む。医薬的に許容される添加剤及び本発明に従った使用のための該添加剤の最適濃度に関する選択は、実験によって当業者によって容易に決定され得る。本発明の使用のための医薬的に許容される添加剤には、溶剤、緩衝剤、保存料、キレート化剤、抗酸化剤、安定剤、乳化剤、懸濁化剤及び/又は賦形剤が含まれる。本発明の医薬組成物は、例えば、「Remington:The science and practice of pharmacy」,第21版、ISBN 0−7817−4673−6又は「Encyclopedia of pharmaceutical technology」,第2版、Swarbrick J.編、ISBN:0−8247−2152−7に記載の従来の製薬プラクティスに従って製剤化され得る。医薬的に許容される添加剤とは、組成物を投与することになる個体に対して実質的に無害である物質である。このような添加剤は通常、健康に関する国家当局によって定められた必要条件を満たす。例えば英国薬局方、米国薬局方及び欧州薬局方等の公的薬局方は、医薬的に許容される添加剤に関する基準を設定している。
【0110】
以下は、本発明の医薬組成物における最適な使用のための関連する医薬組成物の概説である。概説は、特定の投与経路に基づいている。しかしながら、医薬的に許容される添加剤が異なる剤形又は組成物において採用され得る場合において、当然ながら特定の医薬的に許容される添加剤の適用が、特定の剤形又は添加剤の特定の機能に限定されるわけではない。本発明が、以下に記載される組成物の使用に限定されるわけではないことは強調されるべきである。
【0111】
非経口的組成物:
全身適用のため、本発明組成物は、マイクロスフェア及びリポソームを含む従来の非毒性の医薬的に許容される担体及び添加剤を含有し得る。
【0112】
本発明の使用のための組成物には、固体、半固体及び液体の組成物の全種類が含まれ得る。
【0113】
医薬的に許容される添加剤には、溶剤、緩衝化剤、保存料、キレート化剤、抗酸化剤、安定剤、乳化剤、懸濁化剤及び/又は賦形剤が含まれ得る。種々の作用剤の例は、以下に付与される。
【0114】
多様な作用剤の例:
溶剤の例には、水、アルコール、血液、血漿、髄液、腹水及びリンパ液が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0115】
緩衝剤の例には、クエン酸、酢酸、酒石酸、乳酸、リン酸水素(hydrogen phosphoric acid)、炭酸水素塩、リン酸塩、ジエチルアミン等が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0116】
キレート化剤の例には、EDTAナトリウム及びクエン酸が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0117】
抗酸化剤の例には、ブチル化ヒドロキシルアニソール(BHA)、アスコルビン酸及びその誘導体、トコフェロール及びその誘導体、システイン、並びにそれらの混合物が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0118】
賦形剤及び崩壊剤の例には、乳糖、ショ糖、エムデックス(emdex)、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、デンプン及び微結晶セルロースが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0119】
結合剤の例には、ショ糖、多糖、ソルビトール、アカシアゴム、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、セルロース、キトサン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン及びポリエチレングリコールが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0120】
一脈絡において、本発明の医薬組成物は、患者への末梢静脈内注入を介して又は筋肉内注射若しくは皮下注射を介して、又は口腔(buccal)、肺、鼻、皮膚又は経口の経路を介して局所的に投与することが可能である。さらに、外科的に挿入されたシャントを通して患者の脳室中に医薬組成物を投与することも可能である。
【0121】
一実施態様において、本発明に従って使用される医薬組成物は、眼内、局所的、鼻腔内、経口、皮下及び/又は全身投与用に製剤化される。好ましい実施態様において、本発明の組成物は、スプレー剤、エアゾール剤で、吸入剤若しくは噴霧器で経鼻的な及び/又は気道に吸入するための、懸濁液として、又はさらにより好ましくは、粉末として適用することによって投与される。
【0122】
抗分泌性因子を含む粉末の投与は、安定性及び投与量の点においてさらなる利点を有する。本発明に従った医薬組成物は、また、眼内で、鼻腔内で、経口で、皮下的に局所的に適用され及び/又は血管を介して全身的に適用可能である。好ましい実施態様において、医薬組成物は、静脈内、筋肉内、局所的、経口又は鼻腔内投与用に製剤化される。典型的には、眼に対して局所的適用のために使用される場合、本発明の組成物中の適用される濃度は、1回の適用あたり1μg〜1mg、好ましくは50〜250μgであり、1日あたり単回の用量として、又は1日あたり反復された数回として(複数の投与)の何れかであるが、それらに限定されるわけではない。
【0123】
血液に全身的に投与される場合、用量は、1回の適用及び体重kgあたり、0.1μg〜10mgの範囲(例えば1回の適用および体重kgあたり0.1μg〜1mg)であり、好ましくは1〜500μg/体重kg、または好ましくは1〜100μg/体重kgであり、1日あたりの単回用量として又は1日あたりに反復される数回としての何れかである。抗分泌性因子で富化された卵黄が、本発明に従って使用される場合、この製剤は、好ましくは経口的に投与される。
【0124】
従って、本発明は、さらなる医薬物質および/または製剤の送達および細胞取込を最適化するための、抗分泌性因子(AF)タンパク質、又は等価な機能活性を有するその誘導体、相同体及び/又は断片、及び/又は医薬的に活性のあるそれらの塩の使用に関する。一実施態様において、該抗分泌性因子(AF)タンパク質は、次式
X1−V−C−X2−X3−K−X4−R−X5
に従った配列からなり、式中、X1は、Iであり、配列番号6のアミノ酸1〜35であり、又は欠失しており、X2は、H、R又はKであり、X3は、S又はLであり、X4は、T又はAであり、X5は、配列番号6のアミノ酸43〜46、43〜51、43〜80又は43〜163であり、又は欠失している。別の実施態様において、本発明は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む抗分泌性因子(AF)タンパク質の使用に関する。別の実施態様において、本発明は、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む抗分泌性因子(AF)タンパク質の使用に関する。さらに別の実施態様において、本発明は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む抗分泌性因子(AF)タンパク質の使用に関する。さらに別の実施態様において、本発明は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む抗分泌性因子(AF)タンパク質の使用に関する。なおもさらなる実施態様において、本発明は、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む抗分泌性因子(AF)タンパク質の使用に関する。
【0125】
さらに、なおも別の実施態様において、本発明は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質である抗分泌性因子(AF)タンパク質又は配列番号6のアミノ酸38〜42を含むその相同体、誘導体及び/又は断片の使用に関する。
【0126】
さらに別の実施態様において、本発明は、配列番号1〜6及び配列番号6に開示されるタンパク質又は配列番号6のアミノ酸38〜42を含むその相同体、誘導体及び/又は断片、又は本明細書に記載される一般式によって開示される配列から選択される2つ又はそれ以上の抗分泌性因子(AF)タンパク質を含む本明細書に開示される医薬組成物の使用に関する。該配列は全て、本発明において使用するのに同等に好ましい。
【0127】
本発明の一実施態様において、前記医薬組成物は、医薬的に許容される添加剤をさらに含む。このような添加剤は、特定の目的に適しているよう選択される任意の好ましい添加剤であり得る。添加剤の例は、本明細書で開示される。
【0128】
本発明の別の実施態様において、該医薬組成物は、眼内、鼻腔内、経口、局所、皮下及び/又は全身投与用に製剤化される。選択される投与経路は、治療しようとする患者の状態並びに患者の年齢及び性別等に応じて変動することになる。
【0129】
別の実施態様において、医薬組成物は、スプレー剤、エアゾール剤として、又は噴霧器若しくは吸入剤で投与するために製剤化される。さらに別の実施態様において、本発明は、1回の適用及び体重kgあたり、1回の適用及び体重kg及び1日あたり0.1μg〜10mgの用量(例えば0.1μg〜1mg)で、好ましくは1回の適用及び体重kg及び1日あたり1〜500μg、また好ましくは1回の適用及び体重kg及び1日あたり1〜50μgで血液に対して全身投与するために製剤化される医薬組成物及び/又は医療用食品に関するものである。別の実施態様において、該用量は、1回の適用及び体重kg及び1日あたり1〜1000μg(例えば1回の適用及び体重kg及び1日あたり1〜100μg)である。医薬組成物を必要とする患者に分配される前記医薬組成物の量は、治療しようとする患者に応じてもちろん変動することになり、各場合に関して、医療診療者など当業者によって決定されることになる。投与は、単回用量として又は複数の毎日の適用としての何れかで実施可能である。
【実施例】
【0130】
(実施例1)
腸管上皮細胞中のアクチンフィラメントの崩壊
本実験の目的は、腸管上皮細胞(腸細胞)中のアクチンフィラメントの崩壊が、生体ラット中の小腸中の液分泌に影響を及ぼすかどうかを解明することであった。
【0131】
材料と方法
コレラ毒素(Sigma)、3μgを、空腸から形成した15cm長の結紮ループに注入した。このような処理により、5時間で流体が蓄積し、340mg/cm−小腸長の量であると測定された。通常、上皮細胞中で明確かつ厳密に組織化されているアクチンネットワークが、徹底的に組織崩壊していた。腸管上皮細胞の管腔表面上の微絨毛はその輪郭において短く、塊状で、不規則である上に、組織崩壊した微絨毛の核はほとんど完全に欠如していた。
【0132】
結果
腸管ループをコレラ毒素にチャレンジし、その後AF−16 100μgを10分以内に全身的に注入した場合、予測された過分泌はなくなった。このループの質量は、緩衝平衡塩類溶液でのチャレンジ(challenge)後の組織の質量とおよそ等しく、流体蓄積または炎症反応は認められなかった。つまり、AF−16は予測された流体過分泌を完全に阻害した。
【0133】
一方同量のAF−16を、コレラ毒素負荷後30分間送達した場合、ループ中の流体蓄積は320〜350mg/cm−ループ長のオーダーであった。腸細胞中のみならず微絨毛中のアクチンネットワークが広範囲に組織崩壊していた。我々は、コレラ毒素チャレンジ後のAF−16の過分泌防止効果に関連するタイムウインドウ(time window)が存在すると結論付けた。これらの結果は、AF−16がその投与後、最初の10分間、長くとも15分間、腸液過分泌のみを防止することを明確に示した。腸液過分泌は、組織崩壊したアクチンネットワークと腸細胞のいくらかの膨潤の出現率と結び付けられる。
【0134】
ラット中の結紮小腸ループのコレラ毒素およびメチル−β−シクロデキストリン(MΒ3CD)の併用チャレンジにより、ループ長1cmあたり480〜500mgの流体蓄積、および組織の顕著な炎症が生じた。アクチンフィラメントは徹底的に組織崩壊していた。MΒ3CDは、コレステロールの脂質ラフトを使い果たし、脂質ラフト構成要素の消失および凝集だけでなく、これらの構造中に広がるイオンポンプおよび他のシグナル伝達レセプターの異常機能をもたらすことが知られている。このアクチン細胞骨格は組織崩壊していた。
【0135】
ラット中の結紮小腸ループのコレラ毒素およびメチル−β−シクロデキストリン(MΒ3CD)の併用チャレンジの後、10分以内に100μgのAF−16の投与を行った結果、ループ長1cmあたり100mg未満の流体蓄積が生じ、組織の炎症は見られなかった。アクチンフィラメントは腸細胞の先端部分とほとんどが正常に現れている微絨毛の両方で明らかに組織化されていた。我々は、アクチンネットワークおよび脂質ラフトの組織崩壊が流体過分泌をもたらしており、10〜15分以内に投与された場合、十分な単回用量のAF−16の投与によって完全に防止できる可能性があると結論付ける。
【0136】
(実施例2)
ドキソルビシンの腫瘍細胞分布におけるAF−16の効果
腫瘍中の、細胞毒性の低分子量薬物の血管および細胞供給に対するAF−16の効果を、明確な赤色蛍光を発し、DNAに結合するドキソルビシンを用いることによって調べた。赤色で標識した細胞核の頻度を、個々の腫瘍細胞への、および腫瘍細胞中へのドキソルビシンのアクセスの測定に用いた。Mat B III腫瘍のある動物を100μgのAF−16(n=3)の鼻腔内投与またはビヒクル PBS(n=3)で60分のいずれかで前処理した後、ドキソルビシン(9mg/kg b.w)を単回静脈内注射した。この動物を15分後に犠牲にし、腫瘍を解剖して取り出し、液体窒素中で素早く凍結させた。クリオスタットミクロトーム切片を調製し、ガラススライドに付着させ、4%の緩衝化ホルムアルデヒドで固定した。Hoechst 33342(Sigma)で核を染色した後、その切片をVectashield(商標)(Vector Laboratories Inc、USA)で取り付け、Zeiss Axio10蛍光顕微鏡で調べた。
【0137】
材料および方法
動物および腫瘍
Fisher 344およびSprague−Dawley系統の雌性ラットをB&K、ストックホルム、スウェーデンより購入した。この動物を12時間の光サイクル、標準的な湿度および温度で飼育し、固形飼料および水を自由に摂らせた。
【0138】
MATB III (ATCC;CRL−1666;#13762)シンジェニック腫瘍
これらの腫瘍は、0.2mlの培養培地中に溶解した106個のMATB IIIの、肩甲骨管の単回皮下注射後にメスのFisherラット(160グラム b.w.)中で樹立された。1つまたはそれ以上の固形腫瘍が10〜12日で発生し、2〜5日で圧力記録可能な10×8×5mmのサイズに達した。
【0139】
倫理学
実験の実施に対する許可は、地域の動物実験倫理審査委員会によって認められ、地域および連邦ガイドライン(EU 86/609/EEC)に従った。
【0140】
化学薬品
ペプチドAF−16は、Ross Pedersen A/S、コペンハーゲン、デンマークによって合成され、キャラクタライズされた。DMBA(9,10ジメチル−1,2−ベンズアントラセン、Hoechst 33342)およびドキソルビシンは、Sigmaより購入した。L−グルタミンを補充した細胞培養培地RPMI 1640は、Flow Labより購入した。
【0141】
組織病理学および免疫組織化学
この実験の終わりに腫瘍を解剖し、単離して取り除き、液体窒素中で急速凍結させるかまたは4%の緩衝化ホルムアルデヒドで固定した。この固定腫瘍はパラフィン中に包埋し、切断してヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0142】
統計学
結果を平均±SEとして示す。ペアードデザイン試験を用いて、p<0.05を有意であると考察した。
【0143】
結果
ドキソルビシンの分布におけるAF−16の効果
DNAに結合したドキソルビシンは、細胞核の明るい赤色蛍光によって認識することができる。AF−16で前処理したラット由来の3つのMAT B III腫瘍のうちの2つにおいて、陽性の赤色核の頻度は、ビヒクルで前処理したラット由来の腫瘍よりも高かった(図5)。青色色素であるHoechst 33342は、全ての細胞核を染色し、腫瘍の顕微鏡検査で細胞の等密度領域を選択することを可能にする。図5A/BおよびC/Dはそれぞれ同じ密度の腫瘍細胞を有しているが、AF−16で前処理された動物由来の切片は、赤色の核の発生が強く増加していることが示されている。従って、この実験により、AF−16がドキソルビシンを十分な濃度で全ての細胞の近くに到達することができることが明らかとなった。
【0144】
我々はさらに、これらの結果が追加のAF−16が低分子量の薬物の腫瘍組織の個々の細胞中への最適化された送達および/または細胞取込を容易にすることをしめしていると結論付けた。
【0145】
(実施例3)
これらの実験の目的は、MATB細胞が懸濁している流体媒体の張性に関連するような細胞表面領域の変化、すなわち細胞容量の変化を解明することであった。腫瘍細胞は、正常細胞と同じように正確に調節されたそれらの細胞容量を維持することに高い優先度を付与する。利用したMATB細胞株は、大きさおよび内部環境をモニタリングするために流体およびイオン輸送ポンプNKCC−1の使用に大きく依存していることが知られている。
【0146】
材料および方法
周知かつ一般的に用いられる細胞株である、腫瘍細胞株MATB細胞 (ATCC Nr: CRL−1666、名称13762 MATB 111)を、懸濁液中で培養し、FACS装置を用いて細胞の流動実験に用いた。その結果、ほぼ球状の腫瘍細胞は、細胞外液を介したチャレンジ(challenge)に対する応答として急速にその表面領域および細胞容量を変化させた。
【0147】
FACS装置での測定によりMATB細胞表面は、等張媒体中に620ユニットであり、干渉し得る任意の血漿または他の外部タンパク質およびペプチド成分を含まなかった。懸濁培地への10%の塩化ナトリウム(NaCl)の添加により、5分間でMATB細胞表面が収縮し、500ユニットまで低下した。細胞同様に活性化されたNKCC−1イオンポンプシステムは、それの大きさの減少を検出した。このFAKおよびCAP系は、MATB細胞中のアクチンフィラメントに連結するフロチリンに接続される。この系の活性化によりNKCC−1/FAK/CAP複合体のリン酸化がもたらされ、MATB細胞は水およびイオンを取り込んで膨潤する。これらの細胞は激しく競争し、正常な細胞容量を回復するためのあらゆる機会をとる。それにより、最も明らかにNa+および水は、細胞が、その細胞表面を576ユニット、すなわちこの実験の開始時に測定された値に近い値、に増加させることを可能にする。しかしながら、100μg/mlのAF−16を30分後に加えた場合は、脂質ラフト中のNKCC−1ポンプの活性は、MATB細胞の細胞表面に反映されるように、NKCC−1が脱リン酸化されそれにより不活化したように急速に減少し、514ユニットに近づく。これらの変化は、サイクルあたり1000個より多い細胞を基準にした場合顕著である。
【0148】
結果
MATB細胞の免疫組織化学処理は、遠心分離してガラススライド上に沈着させ、CAP−FAK−NKCC−1系間の相互作用の動力学を確認した。このGMK細胞は、等張溶液中に広くいきわたったリン酸化FAKを有しており、生理食塩水の添加によるチャレンジによって懸濁培地を高張性とした。過剰なリン酸化FAKは高張液での処理後完全に消滅し、AF−16によってNKCC−1イオンポンプがリン酸化FAKの高い発現を回復したことを反映し、NKCC−1ポンプシステムがシャットダウンしたことを開示している。
【0149】
我々は、高張液へのMATB細胞懸濁液の暴露がCAP−FAK系を活性化し、NKCC−1イオンポンプシステムの活性をモニターすると結論付けた。それにより、我々はAF−16がNKCC−1イオンポンプの活性をコントロールし、CAP/ポンシンおよびFAKシステムをモニタリングすることによってこのシステムに干渉することを実証した。
【0150】
(実施例5)
ファロイジン―FITCを用いて免疫組織化学的にアクチンフィラメントの存在および分布を解明することを目的とした一連の実験において、腫瘍細胞株GMKを固体表面上で培養した。
【0151】
材料および方法
GMK細胞を、サブコンフルエンスに培養した後に収集した。次いでこの細胞培養物を以下の表1の仕様に従って3通りに処理した。処理後30分後にその細胞培養物を緩衝ホルマリン中で固定化し、その後標識されたファロイジンで可視化されるように、アクチンパターンの免疫組織化学の実証を実行した。後者はアクチンフィラメントに高親和性であるが、解重合したものやG−アクチンには高親和性ではない。得られた結果を評価し、蛍光顕微鏡によって撮影した(図3)。
【0152】
(結果)
我々は、サイトカラシンBが培養された接着GMK細胞中の正常なアクチンフィラメントパターンを組織崩壊させ、大きな領域に対するAF−16による処理が正常なパターンを回復させたと結論付けた。従って、AF−16は、混乱したアクチン細胞骨格を正常化させた。
【0153】
【表1】

【0154】
(実施例6)
インビトロでのMATB1細胞の細胞容量調節におけるAF−16の効果
材料および方法
細胞調製
MATB細胞を標準的な手順に従って培養し、グルタミンで置換したRPMI中に1×106/mlに希釈した。この細胞を4つのバイアルに分け、1、2、3および4と番号を付けた。バイアル1はコントロールとする。バイアル2、3および4に高張性NaCl(グルタミンを含むRPMI中、10mg/ml)を加え、その後50mgのAF−16(バイアル3)またはPBS(バイアル4)を30分後に加えた。バイアル2を、高張性NaCl溶液の添加の5分後にFACS分析にかけ、一方バイアル1、3および4中の細胞は60分後にFACS分析にかけた。サイトスピン標本をすべてのバイアルより作製し、免疫組織化学に用いた。
【0155】
結果
10.000細胞のFACS分析は、バイアル番号1(コントロール)で620、バイアル番号2(高張性NaCl、5分)で450、バイアル番号3(高張性NaCl+AF−16、60分)で514、およびバイアル番号4(高張性NaCl+PBS、60分)で576のFSC−height中央値を示した(図1)。リン酸化FAKに対して抗体法によって実施した免疫組織化学は、コントロール細胞(バイアル番号1)において高強度に赤色染色を示したが、一方バイアル番号4(PBS処理したもの)の細胞は、明らかに低い強度であった。コントロール細胞と類似の染色強度は、AF−16で処理した細胞(バイアル3)が示した。
【0156】
結果の解釈
固形腫瘍中の類似状況を模倣する目的で、サイトメトリーアッセイ二用いた浮遊性のMATBIII腫瘍細胞を高張性ストレスに暴露した。この実験のセットアップは、細胞の膨潤(すなわち流体の細胞内蓄積)が高いIFPに寄与しているかどうかを解明するためにデザインされた。従って、封入された腫瘍中の細胞は膨潤して、pHおよび浸透力の影響に対抗するために流体およびイオンをポンピングすることによって高い優先度で形状および大きさのこの状態を維持していると考えられる。
【0157】
従って、懸濁したMATBIII細胞を高張性の環境に暴露し、栄養培地に塩化ナトリウムを加えることによって誘導した。フローサイトメトリーは、平均細胞容量の急速な減少を示した(図1)。10分以内に、そのMATBIII細胞の容量調節システムが細胞容量を回復させ始め、60分後に元の細胞容量に近づく。しかしながら、MATBIII細胞に対するAF−16の高張性チャレンジの開始後30分での添加は、細胞容量の反応の増加をブロックした。細胞培地へのAF−16の添加は、高張性ストレスの導入前に加えられた場合、浮遊性MATBIII細胞の容量に影響を及ぼさなかった(図なし)。AFが反応の回復が開始される前に加えられた場合、効果のなさは、容量の回復が開始するまでAF−16の影響を受ける流体輸送系が一時的に不活化されることを示した。この実験の設定を類似の結果で3度繰り返した。ひとまとめにして考えると、これらの結果は、AF−16が腫瘍細胞の大きさおよび容量をモニタリングする細胞系に影響を及ぼしていることを示していた。細胞容量に対するAF−16の影響のないものは、異なる正常な成体細胞に対して試験された場合、インビトロで実証されている。
【0158】
細胞の大きさおよび形状の維持は、正常な細胞にとってのみならず悪性の細胞にとっても重要な鍵である。細胞は環境が変化すると迅速に応答する。従って、本実験の懸濁MATBIII細胞は、収縮によって高張性環境に応答した。しかしながら、細胞の大きさを回復させるために、流体の取込を増加させることによる対抗する反応が迅速に開始した。しかし、AF−16の添加が高張性環境におけるこの活性な細胞容量拡張をブロックした。AF−16処理後、記録されたIFP圧の減少は腫瘍細胞、血管または両方の組み合わせに対する効果に起因すると思われた。このフローサイトメトリーの結果は、1つの効果は腫瘍細胞に対してその容量を減少させ、それにより腫瘍細胞を介した灌流を容易にする直接的な効果であり得ることを示している。このような効果は、腫瘍の大きさの減少を引き起こす、薬理学的に誘導されたアポトーシスの頻度の上昇により腫瘍中で証明され、実際に血液灌流の向上をもたらした(Jain 2008)。固形腫瘍中の高いIFPは、しばしば細胞毒性薬物の妨げられた灌流および不均一な分布と関係がある。薬物分布におけるこれらの制限は、しばしばその細胞毒性薬物の抗腫瘍効果を低減させる。
【0159】
数時間の間にAF−16がIFPを過渡的に低下させ、その後24時間で元の高レベルに戻ることはチャレンジのかかることであるはずである。仮に、抑制されたIPFのこの時間制限のある効果は、腫瘍の血液循環および代謝の向上と関連しているようであり、放射線療法の効果を増強し得る。従って、放射線療法の間の血流の増加は、より多くの遊離ラジカルを発生させ、これらは悪性細胞の排除に最も効果的である。
【0160】
このフローサイトメトリーは、AF−16が直接的または間接的に腫瘍細胞および/または基質中の重要なイオンおよび水の輸送系に影響を及ぼしていることを示した。候補になりそうなものは細胞の容量に影響を及ぼすことが知られている共輸送体NKCC−1である。
【0161】
高張性NaClの添加は、細胞外培地中の浸透圧の変化に起因してMATB細胞の急速な収縮を誘導し、Na+および水の細胞中への濃度を増加させ、細胞の収縮に対抗するNKCC1ポンプの活性化をもたらした。この活性化は、NKCC1および他の膜貫通タンパク質のリン酸化と同時におこるFAKの脱リン酸化に先行する。このようなFAKの脱リン酸化はAF−16の添加により阻害される。CAP=ポンシンと呼ばれる別の酵素系は、FAKと相互作用すると同時にフロチリン複合体とも相互作用する。従って、AF−16はFAKのリン酸化と脱リン酸化とのバランスの調節に介入し、それによりNKCC1および他の膜貫通タンパク質の活性を変化させることにより作用する。AF−16は、これらの悪性細胞の攻撃に対抗し、細胞容量を回復させると同時にそれらの細胞内圧および大きさも回復させる。
【0162】
参考文献
1. Marks、F.、Klingmueller、U.、& Mueller−Decker、K. Cellular signal processing. Garland、2008.
2. Alberts、B. et al.、Molecular biology of the cell. 5th edition、Garland、2008
3. Krauss、G. Biochemistry of signal transduction and regulation. 4th edition. Wiley 2008
4. Cooper、G. M、& Hausman、R. E. The cell;
a molecular approach. 4th edition. Sinauer 2007

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物および/または医療用食品の製造のため、さらなる医薬物質および/または製剤の送達および/または細胞取込を最適化するための、抗分泌性因子(AF)タンパク質、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体および/または断片、および/またはその医薬的活性塩の使用。
【請求項2】
前記第2の、またはさらなる、医薬物質および/または製剤が、抗がん剤、細胞増殖抑制剤、放射線治療、抗菌物質、抗生物質、抗ウイルス物質および外傷後損傷、神経変性、寄生体、または炎症状態を標的とする薬物からなる群より選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
腫瘍およびその合併症の治療および/または予防のための、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記抗分泌性因子(AF)タンパク質、等価な活性を有するそれらの誘導体、相同体および/または断片が、以下の式:
X1−V−C−X2−X3−K−X4−R−X5
(式中、X1は、I、配列番号6のアミノ酸1〜35または欠失しており、X2は、H、RまたはKであり、X3は、SまたはLであり、X4は、TまたはAであり、X5は、配列番号6のアミノ酸43〜46、43〜51、43〜80または43〜163であるか、または欠失しているか、または該ポリペプチドの機能を変化させないその修飾である)
に従った配列からなる、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記医薬組成物が、2つまたはそれ以上の抗分泌性因子(AF)タンパク質を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記医薬組成物が、医薬的に許容される添加剤をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記医薬組成物が眼内で、鼻腔内で、経口で、局所で、皮下でおよび/または全身での投与のために製剤化される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記医薬組成物が、スプレー剤、エアゾール剤、吸入剤として、および/または噴霧器により投与するために製剤化される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
医薬組成物および/または医療用食品が、適用、kg体重及び1日あたり、0.1μg〜10mg、好ましくは適用、kg体重及び1日あたり、1〜1000μgの用量で、血液に全身投与するように製剤化される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記投与が、単回投与としてまたは1日複数回の適用としてのいずれかで行われる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
抗分泌性因子(AF)タンパク質、等価な活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片が、抗分泌性因子で富化された卵黄で提供される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
抗分泌性因子(AF)タンパク質、等価な活性を有するその誘導体、相同体および/または断片が、抗分泌性因子(AF)タンパク質の取込、形成および/または放出を誘導する、食品および/または特別用途食品の摂取後に、患者によって内因的に生産される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
SPCまたは抗分泌性因子で富化された卵黄を与えること、およびそれによりさらなる医薬物質の最適化された薬物取込および送達を促進するためにAFの内因性生産を誘導させることを含む、治療の必要な哺乳動物を治療する方法。
【請求項14】
最適化された薬物の取込およびさらなる医薬物質の送達を促進するための、抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片、または該ポリペプチドの機能を変化させないその修飾、および/またはその医薬的活性塩を投与することを含む、治療の必要な哺乳動物を治療する方法。
【請求項15】
第2の、またはさらなる、医薬物質および/または製剤と組み合わせた、抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片、または該ポリペプチドの機能を変化させないその修飾、および/またはその医薬的活性塩を含む医薬組成物であって、該第2の、またはさらなる、医薬物質および/または製剤が、抗がん剤、放射線治療、抗生物質、抗ウイルス物質および外傷後損傷、神経変性、寄生体、または炎症状態を標的とする薬物からなる群より選択される、上記医薬組成物。
【請求項16】
医薬に使用するための、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
さらなる医薬物質および/または製剤の送達および細胞取込を最適化するのに使用するための、抗分泌性因子(AF)タンパク質、等価な活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片、または該ポリペプチドの機能を変化させないその修飾、および/またはその医薬的活性塩。
【請求項18】
がんに罹患している対象の悪性腫瘍の治療コントロールをモニターし、および/または検証し、および/または強化するための、診断および/または予後のツールをデザインする方法であって、
a.腫瘍組織の単離サンプルまたはがん患者から単離した細胞中のリン酸化FAKの量的発生を測定する
ことを特徴とする、方法。
【請求項19】
改善した薬物デザインの方法であって、
a.物質または医薬品の処置を受けた細胞または組織の応答を試験し、リン酸化FAKの量的発生を測定することによって該薬物応答に対するAFの影響を推定する
ことを特徴とする、上記方法。
【請求項20】
潜在的な抗分泌性因子(AF)タンパク質阻害性および/または亢進性物質のスクリーニングおよび/または評価をするための方法であって、
a.抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、等価な機能活性を有するその誘導体、相同体、および/または断片、および/またはその医薬的活性塩を、選択された物質に曝露すること
b.該曝露されたAFの、NKCC1複合体でFAKを調節する可能性を、リン酸化FAKの量的発生を測定することによって試験すること、
を特徴とする、方法。
【請求項21】
ハイスループットスクリーニングを促進する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
新規または公知の、抗分泌性因子(AF)タンパク質、ペプチド、その誘導体、相同体、および/または断片、および/またはその医薬的活性塩の有効性を評価する、および/または機能活性を検証するための方法であって、
a.該新規または公知のAFの、NKCC1複合体でFAKを調節する可能性を、リン酸化FAKの量的発生を測定することによって試験すること
を特徴とする、上記方法。
【請求項23】
潜在的な新規AFをスクリーニングまたは評価するための方法であって、
a.該潜在的な新規AFの、NKCC1複合体でFAKを調節する可能性をリン酸化FAKの量的発生を測定することによって試験すること
を特徴とする、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−517467(P2012−517467A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550094(P2011−550094)
【出願日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【国際出願番号】PCT/SE2010/050165
【国際公開番号】WO2010/093324
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(508318845)ラントメネン・アーエス−ファクトール・アーベー (6)
【Fターム(参考)】