説明

細胞培養基質および細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品

本発明は、培養皿等の細胞培養基質に効率よく吸着し、細胞接着の再現性に優れた、細胞培養基質表面に疎水結合性吸着ポリマーでコーティングされている細胞培養基質、および、該細胞培養基質に効率よく結合し、細胞接着の再現性に優れた細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品、更には、該細胞接着ペプチドの固相化標品上に細胞を播種し、培養することにより調製される人工組織を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、細胞培養基質表面が疎水結合性吸着ポリマーでコーティングされている細胞培養基質および該細胞培養基質に結合した細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品、更には、該固相化標品上に細胞を播種し、培養することにより調製される人工組織に関する。
【背景技術】
動物の体の内外の表面を覆っている細胞層である表皮、角膜上皮、肺胞上皮、消化器系の粘膜上皮、腎臓子球体上皮、肝実質細胞等の上皮組織は、外界からの異物(微生物、アレルゲン、化学物質等)が侵入するのを防いでいる。かかる上皮組織を構成する上皮細胞の外界面は上端面(apical surface)、内側下面は基底面(basal surface)と呼ばれ、かかる基底面直下には、蛋白質やプロテオグリカン等の細胞外基質(ECM)から成る細胞を含まない基底膜と呼ばれる50〜100nmの薄膜の構造体が存在する。基底膜は、未成熟な上皮細胞が増殖し、成熟した細胞に分化して、本来の形態や、機能を発現するのに必須の構造体と考えられている。即ち、基底膜なしでは上皮組織は自分自身の維持や本来のパフォーマンスが達成できない。多層または単層の上皮細胞層はバリアーとして外界からの異物の侵入を防いでいるが、基底膜自体も物理的なバリアーとして作用する。このように、上皮組織を構成する上皮細胞と基底膜が協働して、強固なバリアーを形成し、体内の生命活動を保護している。
上皮細胞の他、内皮細胞、筋細胞、脂肪細胞、シュワン細胞などの実質細胞と結合組織との界面に形成される細胞外基質の特異な膜状構造物である基底膜は、生体の各組織・臓器に普遍的に見出される一方で、腎糸球体毛細血管ループや神経シナプス膜など高度に特化したものもある。したがって、基底膜には細胞を間質に接着させるだけでなく、選択的な物質・細胞透過や細胞分化の誘導等の機能があることが明らかにされている。腎糸球体では、基底膜の陰性荷電が腎のろ過機能を担っているとみなされ、その陰性荷電は現在パールカンとよばれるヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)によることが古典的に知られている。HSPGは腎糸球体基底膜だけでなく、種々の基底膜に、IV型コラーゲン、ラミニン、エンタクチン(ニドジェン)等と同様に、その基本的構成分子として広く分布している。
細胞外マトリックス、特に基底膜は、上記のように個体の発生や分化等の生理現象だけでなく、癌の増殖転移や炎症などの病態形成にも深く関与していることが明らかとなりつつあり、その構成タンパク質の機能の解明が重要な課題となってきている。例えば、基底膜の主要糖タンパク質であるラミニンは、α、β、γの3種類のサブユニットからなる複合体で、15種類のアイソフォームが知られており、これらが組織特異的あるいは発生時の各段階で特異的に発現している。ラミニンは様々な生物活性を有している分子量約90万の複雑な巨大分子である。ラミニンのリセプターとしては、α6β1等のインテグリン分子、α−ジストグリカン(α−DG)、シンデカン−1〜4のヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)が報告されている。
細胞が接着可能な薄い細胞外マトリックス層である基底膜の構成成分と上皮細胞との相互作用が、移動、増殖および分化等の細胞機能に影響を及ぼしている(Crouch et al.,Basement membrane.In The Lung(ed.R.G.Crystal and J.B.West),pp53.1−53.23.Philadephia:Lippincott−Raven.1996)。基底膜の主要成分としては、前記のように、ラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)およびエンタクチン(ニドジェン)が知られており(Curr.Opin.Cell Biol.,6,674−681,1994)、ラミニン及びIV型コラーゲンのアイソフォームを含む基底膜成分の合成には、間充織細胞が重要な役割を担っていると考えられている(Matrix Biol.,14,209−211,1994;J.Biol.Chem.,268,26033−26036,1993)が、上皮細胞の役割もまた、重要なものである。HSPGは、上皮細胞由来と考えられているが、ラミニン、IV型コラーゲンおよびエンタクチン(ニドジェン)は、上皮細胞および間充織細胞の双方によって、インビボで合成される(Development,120,2003−2014,1994;Gastroenterology,102,1835−1845,1992)。連続した緻密層(lamina densa)を示すインビトロでの上皮組織モデルを作製する試みが、今まで数多く行われてきた。腸(J.Cell Biol.,133,417−430,1996)および皮膚(J.Invest.Dermatol.,105,597−601,1995;J.Invest.Dermatol.,109,527−533,1997;Dev.Dynam.,197,255−267,1993)等の組織モデルが研究されており、いくつかの間充織細胞由来基底膜成分が、基底膜形成に重要な役割を果たしていることも見い出されている。
従来から、上皮細胞を培養することにより基底膜を構築し、基底面直下に基底膜構造体が存する上皮組織を構築する幾つかの方法が報告されている。例えば、本発明者は、肺胞上皮細胞と肺線維芽細胞との共培養によりインビトロで基底膜が形成されることを報告した(Cell Struc.Func.,22:603−614,1997)。すなわち、肺線維芽細胞をI型コラーゲンゲルに包埋した状態で培養すると、肺線維芽細胞によってコラーゲンゲルは収縮し、堅さを増す。また、肺線維芽細胞から分泌された細胞外基質は、細胞周囲のコラーゲン線維にまとわりついて沈着する。その形成物はインビボにおける間質と類似することから、擬似間質と呼ぶことができる。肺線維芽細胞からは、ラミニン、IV型コラーゲン、パールカン、エンタクチン(ニドジェン)等の基底膜構成成分も、培地中に分泌される。この擬似間質化したI型コラーゲン線維上で、肺胞2型上皮細胞株(SV40−T2)を14日間程度培養する(T2−Fgel)と、肺線維芽細胞から分泌された基底膜構成成分が、上記肺胞2型上皮細胞株の基底面にまで拡散・到達し、基底膜構築の材料として使われる結果、基底膜構造体が形成されることを報告した。
また、希薄な中性コラーゲン溶液を、5%CO中37℃でインキュベートし、コラーゲン線維を形成させた後、無菌状態の中で風を当てて乾燥させた風乾コラーゲン線維基質(fib)を、上記擬似間質の代替物として用い、上記肺胞上皮細胞と肺線維芽細胞との共培養の場合と同様にして、基底膜を形成することも報告されている(Eur.J.Cell Biol.,78:867−875,1999;J.Cell Sci.,113:859−868,2000)。この方法の場合、コラーゲン溶液の濃度が高いと、形成されたコラーゲン線維に隙間が少なく、あるいは無くなって、基底膜形成のため上皮細胞を長期間培養(10日〜2週間)すると、細胞が剥がれて浮き上がることから(例:Becton Dickinson,Fibrillar collagen coat culture insert)、コラーゲン溶液濃度は、0.3〜0.5mg/mlが最適であるとされている(Eur.J.Cell Biol.,78:867−875,1999;J.Cell Sci.,113:859−868,2000)。
線維芽細胞を包埋したコラーゲンマトリックスを使用する代わりに、マトリゲル(Matrigel;Becton Dickinson社の登録商標)を共存させ、コラーゲン線維基質上で肺胞2型上皮細胞株(SV40−T2)を培養した。このときマトリゲルは、基底膜成分の外来性(exogenous)供給源として機能した。マトリゲルは、Engelbreth−Holm−Swarm腫瘍マトリックスから抽出された基底膜調製物であり(J.Exp.Med.,145,204−220,1977)、ECM合成に影響を及ぼす可能性のある種々のサイトカインの他に、ラミニン−1、エンタクチン(ニドジェン)、IV型コラーゲン、パールカンを含んでいる(Exp.Cell Res.,202,1−8,1992)。基底膜に取り込まれたマトリゲル由来の成分を追跡するために、マトリゲルをビオチンで標識した。標識された基底膜成分の中でも、主としてラミニン−1とエンタクチン(ニドジェン)が培地中に拡散し、肺胞上皮細胞が形成する基底膜中に取り込まれた。また、基底膜成分を免疫蛍光染色し(蛍光)顕微鏡で観察すると、マトリゲル量に依存して基底膜形成が促進すること、および点状に分泌・沈着された基底膜マトリックス成分がシート状に拡大し、やがて基底膜へと発達して行く過程が観察された。これらの結果から、肺胞上皮細胞の基底面下方から供給された外来性ラミニン−1およびエンタクチン(ニドジェン)が、インビトロでの上記上皮細胞による完全な基底膜の形成に大きく関与していることが明らかになっている(J.Cell Sci.,113:859−868,2000)。
また、細胞をインビトロで付着させ、培養する方法として、疎水性組織培養表面に生体分子をジスルフィド結合で結合させた末端基活性化ポリマー(EGAP)に吸着させ、細胞を生体分子が結合したEGAPコート表面上に播種し、増殖させる方法が開示されている(特表2001−512565;WO98/31734)。
培養細胞が基質に接着する際には、細胞表面に存在するインテグリン等のリセプター分子を使って接着するのが一般的である。このため、細胞が特異的なリセプターを使って基質に接着することを誘導するには、細胞接着活性を有する細胞外基質等がリンカーとして利用される。細胞外基質には、代表的なものとしてフィブロネクチン(FN)、コラーゲン(Col)、ラミニン(LN)およびビトロネクチン(VN)等の細胞接着蛋白質が知られている。これら細胞接着蛋白質は、プラスチック培養皿との疎水結合を利用して、直接非共有結合で吸着させ、これらの上に上皮細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞等を播種させ、細胞培養を行うための基質として利用されている。しかし、これら細胞接着蛋白質は高価な上、蛋白質の一般的性質である変成や分解をうけ易く、価格、安定性や保存性等に問題を有している。
また、細胞接着蛋白質のアミノ酸配列の中で、細胞接着に関わる領域のペプチドを上記と同様の方法を用いてプラスチック培養皿に直接吸着させ、細胞培養の基質として用いることが出来る。これら細胞接着蛋白質に比して、容易に化学合成できるペプチドを細胞接着ペプチドとして用いる方法は、大量生産が容易である点や、構造が比較的安定なことから、細胞接着基質に用いる利点がある。しかし、低分子故にその吸着効率は蛋白質に比して著しく低く、数パーセント程度しか吸着しない。また、ペプチドにとっても、プラスチックに吸着されて運動の自由度を奪われている状態では、細胞側の受容体と結合するのが難しい。また、一旦吸着したペプチドも、その後、徐々に遊離する。従って、ペプチドを用いた細胞接着の再現性は芳しくなく、工業製品としての価値は低い。
本発明者らは、培養細胞が基質に接着することを誘導するために、細胞培養に用いる親水性処理をしたプラスチック製培養皿に代わって、細胞接着のリガンド(リセプターの結合相手となる細胞外基質分子)で培養皿の疎水性表面をコーティングする方法を見いだし、本発明を完成するに至った。この方法は、細胞接着の受け手であるリガンドとそのリガンドを固相化するための相手となる培養皿が、非共有結合(疎水結合)で結合することを利用する方法である。
即ち、本発明は、培養皿等の細胞培養基質に効率よく吸着し、細胞接着の再現性に優れた、細胞培養基質表面に疎水結合性吸着ポリマーでコーティングされている細胞培養基質、および、該細胞培養基質に効率よく結合し、細胞接着の再現性に優れた細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品、更には、該細胞接着ペプチドの固相化標品上に細胞を播種し、培養することにより調製される人工組織を提供することにある。
【発明の開示】
すなわち本発明は、分子内に疎水性を有する直鎖状骨格と蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基とを有している疎水結合性吸着ポリマーでコーティングされていることを特徴とする細胞培養基質(請求の範囲1)や、細胞培養基質の基材が、生物性ポリマー、プラスチック、天然または合成ゴム、無機物または金属からなる請求の範囲1記載の細胞培養基質(請求の範囲2)や、生物性ポリマーが、コラーゲン、ゼラチン、セルロース、アガロース、アルギン酸、キチン、キトサン、または、生分解性ポリマーのポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトンである請求の範囲2記載の細胞培養基質(請求の範囲3)や、プラスチックが、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂である請求の範囲2記載の細胞培養基質(請求の範囲4)や、熱可塑性樹脂が、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂またはフッ素樹脂である請求の範囲4記載の細胞培養基質(請求の範囲5)や、熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂またはシリコン樹脂である請求の範囲4記載の細胞培養基質(請求の範囲6)や、合成ゴムが、ブタジエンスチレンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、ブチルゴム、多硫化系合成ゴム、フッ素ゴムまたはシリコンゴムである請求の範囲2記載の細胞培養基質(請求の範囲7)や、無機物が、ガラス、ヒドロキシアパタイト、IC基材またはカーボンナノチューブである請求の範囲2記載の細胞培養基質(請求の範囲8)や、金属が、不活性(inert)な金、白金、チタン、インジウム、または、これらの酸化物である酸化チタン、酸化インジウム、ITO(酸化インジウム・スズ)である請求の範囲2記載の細胞培養基質(請求の範囲9)や、請求の範囲2〜9記載の基材からなる細胞培養基質が、培養皿(ウェル)、プリント配線板または人工臓器である請求の範囲1記載の細胞培養基質(請求の範囲10)や、人工臓器が、人工血管、人工心肺または人工腎臓である請求の範囲10記載の細胞培養基質(請求の範囲11)や、細胞培養基質が、シリコンゴムを基材とした培養皿(ウェル)である請求の範囲1または10記載の細胞培養基質(請求の範囲12)や、疎水結合性吸着ポリマーが、以下の式[I]で表される請求の範囲1〜12のいずれか記載の細胞培養基質

(式中、Xは、CHまたはNHCHCOを示し、Yは、CHまたはNHCRCOを示し、Rは、H、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリールもしくはアラアルキル基または炭素数6〜10のアリールオキシもしくはアラアルキルオキシ基を示し、Rは、Hまたは炭素数1〜10のアルキル基を示し、Zは、官能基(反応基)を示し、Xと互に結合してもよく、spacerは、(−CH−)pまたは(−NHCHRCO−)qを示し、Rは、Hまたは炭素数1〜10のアルキル基を示し、mは、1以上の整数を、nは、100〜20000の整数を、pおよびqは、独立して0または1〜8の整数を、rは、1以上の整数を示す)(請求の範囲13)、式[I]で表される疎水結合性吸着ポリマーが、ビニル系化合物と無水マレイン酸との共重合体である請求項13記載の細胞培養基質(請求の範囲14)や、ビニル系化合物が、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルビニルエーテルまたはスチレンである請求の範囲14記載の細胞培養基質(請求の範囲15)に関する。
また、本発明は、細胞接着蛋白質またはペプチドが、請求の範囲1〜15のいずれか記載の細胞培養基質に結合していることを特徴とする細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品(請求の範囲16)や、結合が、疎水結合性吸着ポリマー分子内の蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基と細胞接着蛋白質またはペプチドの反応性基とが反応し形成される共有結合である請求の範囲16記載の固相化標品(請求の範囲17)や、共有結合が、アミド結合である請求の範囲17記載の固相化標品(請求の範囲18)や、細胞接着蛋白質が、フィブロネクチン(FN)、コラーゲン(Col)、ラミニン(LN)またはビトロネクチン(VN)である請求の範囲16〜18のいずれか記載の固相化標品(請求の範囲19)や、細胞接着ペプチドが、請求の範囲19記載の細胞接着蛋白質のアミノ酸配列の中で、細胞接着に関わる領域のペプチドである請求の範囲16〜18記載の固相化標品(請求の範囲20)や、フィブロネクチン(FN)蛋白質の細胞接着に関わる領域のペプチドが、細胞側のインテグリン受容体と結合する特異的なArg−Gly−Asp(RGD)アミノ酸配列を有するペプチドである請求の範囲20記載の固相化標品(請求の範囲21)や、RGDアミノ酸配列を有するペプチドが、Tyr−Ala−Val−Thr−Gly−Arg−Gly−Asp−Ser−Pro−Ala−Ser(FIB−1)である請求の範囲21記載の固相化標品(請求の範囲22)や、ラミニン(LN)蛋白質の細胞接着に関わる領域のペプチドが、α鎖のG領域(G−domain)ペプチドである請求の範囲20記載の固相化標品(請求の範囲23)や、G領域ペプチドが、Arg−Lys−Arg−Leu−Gln−Val−Gln−Leu−Ser−Ile−Arg−Thr(AG73)、Leu−Gln−Gln−Arg−Arg−Ser−Val−Leu−Arg−Thr−Lys−Ile(AG73T)、Thr−Leu−Gln−Leu−Gln−Glu−Gly−Arg−Leu−His−Phe−Met(AG76.8)、Thr−Leu−Gln−Leu−Gln−Glu−Gly−Arg−Leu−His−Phe−Nle(AG76.8X)、Val−Lys−Thr−Glu−Tyr−Ile−Lys−Arg−Lys−Ala−Phe−Met(AG81.2)、Val−Lys−Thr−Glu−Tyr−Ile−Lys−Arg−Lys−Ala−Phe−Nle(AG81.2X)、Lys−Asn−Arg−Leu−Thr−Ile−Glu−Leu−Glu−Val−Arg−Thr(A2G73)、Lys−Pro−Arg−Leu−Gln−Phe−Ser−Leu−Asp−Ile−Gln−Thr(A3G72)、Lys−Phe−Leu−Glu−Gln−Lys−Ala−Pro−Arg−Asp−Ser−His(A4G73)、Gly−Glu−Lys−Ser−Gln−Phe−Ser−Ile−Arg−Leu−Lys−Thr(A4G78)、Thr−Leu−Phe−Leu−Ala−His−Gly−Arg−Leu−Val−Phe−Met(A4G82)、Thr−Leu−Phe−Leu−Ala−His−Gly−Arg−Leu−Val−Phe−Nle(A4G82X)、Gly−Pro−Leu−Pro−Ser−Tyr−Leu−Gln−Phe−Val−Gly−Ile(A5G71)、Arg−Asn−Arg−Leu−His−Leu−Ser−Met−Leu−Val−Arg−Pro(A5G73)、Arg−Asn−Arg−Leu−His−Leu−Ser−Nle−Leu−Val−Arg−Pro(A5G73X)、Leu−Val−Leu−Phe−Leu−Asn−His−Gly−His−Phe−Val−Ala(A5G77)、Leu−Val−Leu−Phe−Leu−Asn−His−Gly−His(A5G77f)、Lys−Asn−Ser−Phe−Met−Ala−Leu−Tyr−Leu−Ser−Lys−Gly(hA3G75)またはGly−Asn−Ser−Thr−Ile−Ser−Ile−Arg−Ala−Pro−Val−Tyr(hA3G83)である請求の範囲23記載の固相化標品(請求の範囲24)や、細胞接着ペプチドが、3〜20個のアミノ酸残基からなるペプチドである請求の範囲20記載の固相化標品(請求の範囲25)や、細胞培養基質にコーティングした疎水結合性吸着ポリマーの蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基と細胞接着蛋白質またはペプチドとを反応させることを特徴とする固相化標品の製造方法(請求の範囲26)や、疎水結合性吸着ポリマーの蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基と細胞接着蛋白質またはペプチドとを反応させ、該反応物を細胞培養基質にコーティングすることを特徴とする固相化標品の製造方法(請求の範囲27)や、疎水結合性吸着ポリマーの蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基と細胞接着蛋白質またはペプチドとを反応させて得られる反応物(請求の範囲28)に関する。
さらに、本発明は、請求の範囲16〜27のいずれか記載の細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品上に目的とする細胞を播種し、培養することにより調製されることを特徴とする人工組織(請求の範囲29)や、目的とする細胞が、上皮細胞、内皮細胞または間充織細胞である請求の範囲29記載の人工組織(請求の範囲30)や、上皮細胞が、表皮細胞、角膜上皮細胞、肺胞上皮細胞、消化器系の粘膜上皮細胞、腎臓子球体上皮細胞または肝実質細胞である請求の範囲30記載の人工組織(請求の範囲31)や、内皮細胞が、腎臓子球体毛細胞、血管内皮細胞、肺動脈血管内皮細胞、胎盤静脈血管内皮細胞または大動脈血管内皮細胞である請求の範囲30記載の人工組織(請求の範囲32)や、間充織細胞が、筋細胞、脂肪細胞、グリア細胞、シュワン細胞または神経細胞(ニューロン)である請求の範囲30記載の人工組織(請求の範囲33)や、人工組織が、人工表皮組織、人工角膜上皮組織、人工肺胞上皮組織、人工気道上皮組織、人工腎糸球体組織、人工肝実質組織もしくは人工血管内皮組織、または人工血管、人工肺、人工肝、人工腎臓、人工皮膚もしくは人工角膜である請求の範囲29〜33のいずれか記載の人工組織(請求の範囲34)に関する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、疎水結合性吸着ポリマーのMMACを用いて細胞外マトリックス蛋白質および細胞接着ペプチドを固相化したシリコンウェル上で、肺胞2型上皮細胞(T2細胞)を静置培養した結果形成された肺胞上皮組織の位相差顕微鏡写真を示した写真である。
第2図は、MMACを用いて細胞外マトリックス蛋白質および細胞接着ペプチドを固相化したシリコンウェル上で、T2細胞を伸展培養した結果形成された肺胞上皮組織の位相差顕微鏡写真を示した写真である。
第3図は、培養皿に塗布・固相化した細胞外マトリックス蛋白質に対するT2細胞の接着が、遊離の当該細胞接着ペプチドにより阻害されることを示した図である。
第4図は、MMACを用いて固相化した細胞接着ペプチド基質に対するT2細胞の接着、およびその接着が遊離の当該細胞接着ペプチドにより競争阻害を受けることを示した図である。
第5図は、疎水結合性吸着ポリマーのMASTを用いて固相化した細胞接着ペプチド基質に対するT2細胞の接着、およびその接着が遊離の当該細胞接着ペプチドにより競争阻害を受けることを示した図である。
第6図は、MMACを用いて固相化した細胞接着ペプチド上におけるT2細胞の細胞接着、伸展の様子を微分干渉顕微鏡で撮影した写真である。
第7図は、MMACを用いて固相化した細胞接着ペプチド基質に対するT2細胞の接着が、ヘパリンによって阻害を受けることを示した図である。
第8図は、固相化細胞接着ペプチド基質に対するT2細胞の接着は、お互いに遊離ペプチドで競争阻害を受ける場合と一方的に競争阻害を受ける場合があることを示した図である。
第9図は、固相化したFIB−1ペプチドに対するT2細胞の接着結合力(親和性、affinity)を基準にした場合、固相化したLNの細胞接着ペプチドの親和性は、FIB−1と同程度のものから100倍高いものまで広範囲に亘ることを示した図である。
第10図は、無血清培地で1−10μg/mlの濃度に希釈し、培養皿に吸着・固相化させた偽似マトリックスMBAC−peptideに対するT2細胞の接着、およびその接着が遊離の当該細胞接着ペプチドにより競争阻害を受けることを示した図である。
第11図は、無血清培地で1−10μg/mlの濃度に希釈し、培養皿に吸着・固相化させた偽似マトリックスMAST−peptideに対するT2細胞の接着、およびその接着が遊離の当該細胞接着ペプチドにより競争阻害を受けることを示した図である。
第12図は、無血清培地で1−10μg/mlの濃度に希釈し、培養皿に吸着・固相化させた偽似マトリックスMBAC−peptideを当該ペプチドに対するポリクローナル抗体で処理すると、T2細胞の接着が特異的に阻害されることを示した図である。
第13図は、無血清培地で1−10μg/mlの濃度に希釈し、培養皿に吸着・固相化させた偽似マトリックスMBAC−peptideをヘパリンで処理すると、T2細胞の接着が特異的に阻害されることを示した図である。
第14図は、無血清培地で1−10μg/mlの濃度に希釈し、培養皿に吸着・固相化させた偽似マトリックスMBAC−peptideをヘパリンで処理すると、T2細胞の接着が特異的に阻害されることを示した図である。
第15図は、50%エタノールで2−20μg/mlの濃度に希釈して培養皿に50μl注ぎ、風乾・固相化させた偽似マトリックスMAST−GRGDSPおよびMMAC−GRGDSPの塗布量(0.1−1.0μg/well)に依存して、無血清培地に懸濁したT2細胞の接着量が変化することを、FNを塗布した場合を基準として示した図である。
第16図は、50%エタノールで希釈して培養皿に注ぎ、風乾・固相化させた偽似マトリックスMAST−GRGDSP(0.1−1.0μg/well)に対するT2細胞の接着が、遊離のGRGDSPペプチドにより競争阻害を受けることを示した図である。
第17図は、50%エタノールで希釈して培養皿に注ぎ、風乾・固相化させた偽似マトリックスMMAC−GRGDSP(0.1−1.0μg/well)に対するT2細胞の接着が、遊離のGRGDSPペプチドにより競争阻害を受けることを示した図である。
第18図は、50%エタノールで希釈して培養皿に注ぎ、風乾・固相化させた偽似マトリックスMBAC−peptideおよびMAST−peptide(0.1−1.0μg/well)に対するT2細胞の接着が、遊離の当該ペプチドにより競争阻害をうけることを示した図である。
第19図は、50%エタノールで希釈して培養皿に注ぎ、風乾・固相化させた偽似マトリックスMBAC−FIB−1およびMAST−FIB−1(0.1−1.0μg/well)を、FIB−1ペプチドに対するポリクローナル抗体で処理すると、T2細胞の接着が特異的に阻害されることを示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の細胞培養基質は、基材として、例えば、生物製ポリマー、プラスチック、天然または合成ゴム、無機物または金属等を使用した細胞培養基質が挙げられる。
生物製ポリマーとしては、コラーゲン、ゼラチン、セルロース、アガロース、アルギン酸、キチン、キトサン等、または、生分解性ポリマーのポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等が例示される。
プラスチックとしては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂何れの樹脂も使用することができ、熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂またはフッ素樹脂等が、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂またはシリコン樹脂等が例示される。
合成ゴムとしては、例えば、ブタジエンスチレンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、ブチルゴム、多硫化系合成ゴム、フッ素ゴムまたはシリコンゴム等が例示されるが、特に、シリコンゴムが好ましい。
無機物としては、ガラス、ヒドロキシアパタイト、シリコン等のIC基材またはカーボンナノチューブ等が例示される。
金属としては、不活性(inert)な金、白金、チタン、インジウム、または、これらの酸化物、例えば、酸化チタン、酸化インジウム、ITO(酸化インジウム・スズ)等が例示される。
特にガラスについて、今日の様にプラスチックが汎用される以前は、培養基質としてガラスが使われていた。しかし、接着効率の不安定さや繰り返し使用することによる表面の凹凸等により、現在はプラスチックに取って代わられている。しかし、その光学透明性は、優れた特性であり、本発明は、平坦な表面のガラスまたは表面加工を施したガラスに対しても、適用することができる。
細胞培養基質は、培養皿(ウェル)、プリント配線板または人工臓器等に用いられ、人工臓器としては、人工血管、人工心肺または人工腎臓等が例示される。また、シリコンゴムを基材として作製された培養皿(ウェル)が、好ましく用いられる。
疎水結合性吸着ポリマーとしては、分子内に疎水性を有する直鎖状骨格と蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基とを有する疎水結合性吸着ポリマーであって、以下の式[I]

(式中、Xは、CHまたはNHCHCOを示し、Yは、CHまたはNHCRCOを示し、Rは、H、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリールもしくはアラアルキル基または炭素数6〜10のアリールオキシもしくはアラアルキルオキシ基を示し、Rは、Hまたは炭素数1〜10のアルキル基を示し、Zは、官能基(反応基)を示し、Xと互に結合してもよく、spacerは、(−CH−)pまたは(−NHCHRCO−)qを示し、Rは、Hまたは炭素数1〜10のアルキル基を示し、mは、1以上の整数を、nは、100〜20000の整数を、pおよびqは、独立して0または1〜8の整数を、rは、1以上の整数を示す)で表される。
式[I]中、炭素数1〜10のアルキル基としては、直鎖または分枝状のメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等の各基を、炭素数1〜10のアルコキシ基としては、直鎖または分枝状のメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ等の各基を、炭素数6〜10のアリールまたはアラアルキル基としては、フェニル、ナフチル、ベンジル、フェネチル等の各基を、炭素数6〜10のアリールオキシまたはアラアルキルオキシ基としては、フェノキシ、ナフトキシ、ベンジルオキシ、フェネチルオキシ等の各基を挙げることができる。
官能基(反応基)としては、蛋白質あるいはペプチドの反応性基と反応して、結合しうるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、水酸基およびこれらの反応性誘導体等を例示することができる。また、カルボキシル基の反応性誘導体としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、酸イミド、活性エステル等の反応性誘導体が、アミノ基の反応性誘導体としてイソシアナート基等を例示することができる。また、酸無水物、酸イミド等は、Xと結合して環を形成していても良い。
かかる疎水結合性吸着ポリマーとしては、細胞培養基質表面に吸着することができる疎水結合性吸着ポリマーであって、分子内にポリアルキレン鎖あるいは直鎖状アミノ酸ポリマー(ポリグリシン、ポリアラニン、ポリバリン、ポリロイシン、ポリフェニルアラニン等)やその誘導体などの疎水性の直鎖状骨格をもつ疎水結合性吸着ポリマーで、該疎水性の直鎖状骨格に直接、あるいは、スペーサーを介して蛋白質あるいはペプチドと反応できる反応性の官能基とを有する疎水結合性吸着ポリマーを好適に用いることができる。かかる式[I]におけるnの範囲としては100〜20000であり、式[I]で表される疎水結合性吸着ポリマーの分子量は15,000〜3,200,000程度のものが好ましい。
また、かかる官能基を有する疎水結合性吸着ポリマーとしては、エチレン、プロピレン等のアルキレンもしくはメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、エチル−1−プロペニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル等の不飽和エーテル類またはスチレン等のビニル系化合物や、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン等のαアミノ酸等などから選択できる1種または2種以上と、無水マレイン酸、マレインイミド等の無水カルボン酸、酸イミドや、アクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリル等のオレフィン類や、システイン等のメルカプト基を有するアミノ酸や、セリン、スレオニン等の水酸基を有するアミノ酸や、アスパラギン酸、グルタミン酸等のモノアミノジカルボン酸や、リシン等のジアミノモノカルボン酸など反応基を有するモノマーから選択できる1種または2種以上との共重合体を挙げることができる。これらの共重合体はそれぞれ二量体、三量体等が相互に重合した共重合体であってもよいが、交互共重合体であることが好ましい。また、反応基を有するモノマーの場合は、これら自身の単縮重合体は、縮合により形成される疎水性の直鎖状骨格にスペーサーを介せず官能基を有する構造となるため、本発明の官能基を有する疎水結合性吸着ポリマーとして適用することができる。
これらのうちで、本発明の官能基を有する疎水結合性吸着ポリマーとして、無水マレイン酸と、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、エチル−1−プロペニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、スチレン等のビニル系化合物との共重合体が代表例として例示され、特に、無水マレイン酸とメチルビニルエーテルとの共重合体であるMMAC(methyl vinyl ether/maleic anhydride copolymer)、無水マレイン酸とブチルビニルエーテルとの共重合体であるMBAC(butyl vinyl ether/maleic anhydride copolymer)、無水マレイン酸とヘキシルビニルエーテルとの共重合体であるMHAC(hexyl vinyl ether/maleic anhydride copolymer)および無水マレイン酸とスチレンとの共重合体であるMAST(styrene/maleic anhydride copolymer)を具体例として挙げることがでる。かかるポリマーは、通常のオレフィン類の共重合法に準じ合成可能であり、あるいは、市販品としても入手可能である。
MMAC、MBAC、MHAC等の場合、メチレン基を骨格とする直鎖ポリマーが、細胞培養基質表面に疎水性結合で吸着することを可能にしているが、ポリアルキレン骨格だけだとあまりにも疎水性で、水との親和性が低くなり、微視的には水をはじいて、反応性に支障がでる可能性がある。そこで、メチレン基の水素原子の一部を上述のように、例えば、メトキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ等のアルコキシ基置換したものは、酸素原子の存在により反応効率が高まると考えられる。なお、アルコキシ基に代えて水酸基で置換すると、分子間で無水カルボン酸とエステル結合を作ることから好ましくない。そして、MMAC、MBAC、MHAC等における反応基である無水マレイン酸は、蛋白質あるいはペプチドのアミノ基または水酸基等と反応し、結合することになるが、この無水マレイン酸がたとえ水と反応してカルボン酸になったとしても、蛋白質あるいはペプチドの陽電荷とイオン結合することができる。
なお、疎水結合性吸着ポリマーは、使用する細胞培養基質の材質あるいは使用目的により適宜選択される。例えば、前記のMMAC、MBAC、MHAC等は、メチレン骨格を持つポリマーであるが、懸かるポリエチレン、ポリプロピレン等のポリアルキレンを主鎖とするポリマーは柔軟性を有しており、例えば、伸展運動を繰り返すシリコンゴム製培養皿をコーティングする目的には適した素材である。他方、スチレン骨格を持つMASTは、フェニル基を側鎖に有しているため、電気的性質が優れており、骨格構造は剛直である。この為、例えば、ポリスチレンの様に疎水性が高く堅い基材や、電子特性の優れたカーボンナノチューブ、あるいは電気伝導性の優れた金や白金等の金属や金属酸化物(例えば、ITO)を細胞培養基質として使用する際のコーティングに適している。
そして、上記疎水結合性吸着ポリマーは、疎水性の直鎖状骨格により、化学結合でなく疎水性結合で細胞培養基質表面に吸着されることから、細胞培養基質の種類や材質に関係なく吸着することができる。その理由は、長い主鎖の局所では接着面から乖離することがたとえあるとしても、他の殆どの部分では結合している故に、乖離した部分もそれほど接着面から離れることはできない。その結果、両者は程なく疎水結合で再度結合し、乖離は一時的なものになると考えられる。細胞接着蛋白質あるいはペプチドが強く疎水結合できない物質であっても、この疎水結合性吸着ポリマーは、その長い疎水性主鎖によって強固に細胞培養基質に結合することができる。
細胞培養基質に疎水結合性吸着ポリマーをコーティングする方法としては、予め溶媒に溶解し調製した疎水結合性吸着ポリマー溶液を、細胞培養基質に塗布し、乾燥させれば良い。疎水結合性吸着ポリマー溶液を細胞培養基質に塗布する場合には、細胞培養基質表面を侵さない溶媒を用いる必要がある。例えば、細胞培養基質としてプラスチックを用い、MMAC、MBAC、MHAC、MASTを塗布する場合、MMAC、MBACはアセトンに易溶であるが、アセトンはプラスチック表面を侵す。しかし、プラスチックを侵さないn−ヘキサンに対しては、MMAC、MBAC、MHAC、MASTは難溶性である。このため、極性溶媒でプラスチック表面も侵さないエタノールを用いるのがよい。この様に、MMAC、MBACは、エタノールに可溶のため、アセトン等を必要とするポリマーよりも使い易い上に、塗布後に簡単に風乾できる。また、エタノール溶液等として細胞培養基質表面のコーティング処理に用いる場合のMMAC、MBAC、MHAC、MAST等の濃度としては、2μg/ml〜1mg/ml、特に10〜100μg/mlが好適であり、かかるコーティング処理を所望する接着の程度に応じて1〜3回繰り返すこともできる。
次に、本発明の細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品は、疎水結合性吸着ポリマーでコーティングした細胞培養基質に細胞接着蛋白質またはペプチドを結合して固定化したものであり、結合は、疎水結合性吸着ポリマーの蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基と細胞接着蛋白質またはペプチドの反応性基とが反応して形成される共有結合をいう。共有結合としては、下記に説明する、アミド結合、チオアミド結合、エステル結合およびチオエステル結合等が例示され、特に、アミド結合が好ましい。
ここで、細胞接着蛋白質あるいはペプチドの反応性基としては、蛋白質あるいはペプチドの末端あるいは側鎖由来のカルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、水酸基等を例示することができる。
疎水結合性吸着ポリマーの蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基と細胞接着蛋白質あるいはペプチドの反応性基と反応し結合させる方法は、通常のペプチド合成に用いられている方法が利用できる。例えば、一方のカルボキシル基は、縮合剤の存在下に、あるいは酸ハロゲン化物、酸無水物、活性エステル等の反応性誘導体として、他方のアミノ基、メルカプト基あるいは水酸基と反応させことが出来、アミド結合、チオアミド結合、エステル結合等の共有結合を形成する。アミノ基は、縮合剤の存在下に、あるいはイソシアナート等の反応性誘導体として、カルボキシル基と反応させ、アミド結合を形成させることが出来る。メルカプト基および水酸基は、主としてカルボキシル基と上記と同様に、縮合剤あるいはカルボキシル基の反応性誘導体と反応させ、チオエステル結合またはエステル結合を形成させることができる。そして、かかる官能基あるいは反応基に、前記の自己重縮合あるいは疎水性の直鎖状骨格とコポリマーを形成することができる範囲内で、簡単に外れる可逆的な保護基をつけることもできる。
細胞接着蛋白質としては、フィブロネクチン(FN)、コラーゲン(Col)、ラミニン(LN)およびビトロネクチン(VN)等が挙げられる。
細胞接着ペプチドとしては、上記した細胞接着蛋白質のアミノ酸配列の中で、細胞接着に関わる領域のペプチドであればいずれでも用いることができる。これらペプチドの長さとしては、3〜20個、好ましくは6〜15個、より好ましくは6〜12個のアミノ酸残基である。
FN蛋白質の細胞接着に関わる領域のペプチドとしては、細胞側のインテグリン受容体と結合する特異的なRGDアミノ酸配列を有するペプチドが好ましく、例えば、具体的配列として、Tyr−Ala−Val−Thr−Gly−Arg−Gly−Asp−Ser−Pro−Ala−Ser(FIB−1)が例示される。
また、上皮細胞、血管内皮細胞、筋肉細胞、神経細胞(ニューロン)等の機能発現に特に重要と考えられているLN蛋白質の細胞接着に関わる領域のペプチドとしては、α鎖のG領域(G−domain)ペプチドが好ましく、例えば、マウスのLN由来である、Arg−Lys−Arg−Leu−Gln−Val−Gln−Leu−Ser−Ile−Arg−Thr(AG73)、Leu−Gln−Gln−Arg−Arg−Ser−Val−Leu−Arg−Thr−Lys−Ile(AG73T)、Thr−Leu−Gln−Leu−Gln−Glu−Gly−Arg−Leu−His−Phe−Met(AG76.8)、Thr−Leu−Gln−Leu−Gln−Glu−Gly−Arg−Leu−His−Phe−Nle(AG76.8X)、Val−Lys−Thr−Glu−Tyr−Ile−Lys−Arg−Lys−Ala−Phe−Met(AG81.2)、Val−Lys−Thr−Glu−Tyr−Ile−Lys−Arg−Lys−Ala−Phe−Nle(AG81.2X)、Lys−Asn−Arg−Leu−Thr−Ile−Glu−Leu−Glu−Val−Arg−Thr(A2G73)、Lys−Pro−Arg−Leu−Gln−Phe−Ser−Leu−Asp−Ile−Gln−Thr(A3G72)、Lys−Phe−Leu−Glu−Gln−Lys−Ala−Pro−Arg−Asp−Ser−His(A4G73)、Gly−Glu−Lys−Ser−Gln−Phe−Ser−Ile−Arg−Leu−Lys−Thr(A4G78)、Thr−Leu−Phe−Leu−Ala−His−Gly−Arg−Leu−Val−Phe−Met(A4G82)、Thr−Leu−Phe−Leu−Ala−His−Gly−Arg−Leu−Val−Phe−Nle(A4G82X)、Gly−Pro−Leu−Pro−Ser−Tyr−Leu−Gln−Phe−Val−Gly−Ile(A5G71)、Arg−Asn−Arg−Leu−His−Leu−Ser−Met−Leu−Val−Arg−Pro(A5G73)、Arg−Asn−Arg−Leu−His−Leu−Ser−Nle−Leu−Val−Arg−Pro(A5G73X)、Leu−Val−Leu−Phe−Leu−Asn−His−Gly−His−Phe−Val−Ala(A5G77)またはLeu−Val−Leu−Phe−Leu−Asn−His−Gly−His(A5G77f)等が、また、ヒトLN由来の、Lys−Asn−Ser−Phe−Met−Ala−Leu−Tyr−Leu−Ser−Lys−Gly(hA3G75)またはGly−Asn−Ser−Thr−Ile−Ser−Ile−Arg−Ala−Pro−Val−Tyr(hA3G83)等が例示される。かかる細胞接着ペプチドは、通常のペプチド合成法により入手可能である。
細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品は、細胞培養基質に上記方法により疎水結合性吸着ポリマーをあらかじめ塗布し、コーティングした後、該ポリマーの蛋白質またはペプチドの反応しうる官能基と細胞接着蛋白質またはペプチドの反応性基とを反応させることにより調製することが出来る。
反応は、通常のペプチド結合の方法に準じて行えばよいが、例えば、細胞培養基質に予めコーティングしたMMAC、MAST等と細胞接着ペプチドとの反応は、室温〜50℃、好ましくは37℃で、pH7〜11の中性ないしアルカリ性で10分〜48時間反応させることにより共有結合を形成し、固相化させることが出来る。
また、疎水結合性吸着ポリマーの蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基と細胞接着蛋白質またはペプチドの反応性基とを予め反応させ、該反応物を細胞培養基質に塗布することにより細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品を調製することも出来る。疎水結合性吸着ポリマーと細胞接着蛋白質またはペプチドとを予め反応させた反応物(以下、「偽似マトリックス」という)を使えば、細胞培養基質への疎水結合性吸着ポリマーのコーティングと蛋白質またはペプチドの固相化反応の二段階処理で細胞接着基質を固相化していたのが、偽似マトリックスをコーティングする一段階で調製することができる。偽似マトリックスを使用すると、例えば、
a)培養皿に塗布する工程が簡素化され、工業生産上は有利となる。
b)培養皿以外の基質にもプリント技術を使えば、吹き付けることにより容易に塗布出来るので、種々の基材が培養基質になる。
c)細胞接着させる部分をプリントし、どの様に種々の細胞と共培養するかデザイン(配置)出来るようになり、丁度、IC回路を設計する感覚で人工組織を構築することができる。
d)偽似マトリックスは、必ずしも培養液で希釈して培養皿表面に吸着・固相化するだけが唯一の方法では無く、例えば50%エタノールに希釈して塗布することも出来る。この場合は、風乾しても塩は析出せず、高温での保存性が格段に優れている。
等の利点を有している。
疎水結合性吸着ポリマーと細胞接着蛋白質またはペプチドとの反応、および生成した偽似マトリックスの細胞接着基質への塗布する方法は、上記の方法に準じて調製することができる。
疎水結合性吸着ポリマーの蛋白質またはペプチドの反応しうる官能基と細胞接着蛋白質またはペプチドの反応性基との反応は、全ての官能基に対し細胞接着蛋白質またはペプチドの反応性基を反応させる(細胞接着蛋白質またはペプチドの占有率100%)させることも可能であるが、占有率が、1〜50%であるのが好ましく、更に、5〜15%であるのがより好ましい。占有率を高めると、蛋白質またはペプチドの水溶性のため偽似マトリックスの培養基質への吸着率が下がり、また、エタノール等有機溶媒への溶解度も下がり、析出し易くなってしまう。更に、蛋白質またはペプチドの密度を上げても、細胞の受容体密度が上がらなければ無駄となり、経済的にも好ましくない。
特に、本発明で得られる固相化ペプチドを中性pH、37℃で4日間放置しても細胞接着活性に変化は無く、極めて安定である。このことから、細胞接着ペプチドの固相化標品は、種々の培養基質として用いることができ、その性能は、代表的接着蛋白質であるFNを直接細胞培養基質に固相化した場合と比較しても、これに十分匹敵する活性を有している。また、本発明の調製方法によれば、従来、細胞培養基質に直接ペプチドを固相化するには、細胞接着ペプチドの濃度を2.5mg/ml以上にする必要があるが、本発明では0.25mg/ml以下で十分であり、ペプチドの使用量が、従来法の1/10〜1/100以下の量でも、効率良く、しかも再現性良く固相化できる。
また、細胞接着蛋白質を細胞培養基質に直接固相化させる場合には、通常5〜10μg/mlの濃度で塗布し、通常の静置培養でこれが問題になることはないが、シリコンゴム上で伸展培養する場合には、蛋白質とシリコンゴムとの疎水結合による吸着が弱いために、細胞は大変剥がれ易くなる。これを防ぐには、本発明のMMAC等を介してシリコンゴムに吸着させる方法が有効な手段となる。
次いで、細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品上に目的とする細胞を播種し、培養することにより人工組織を調製することが出来る。かかる人工組織の製造方法としては、細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品上に目的とする細胞を播種し、培養する方法であれば特に制限されることはなく、固相化標品上に目的の細胞を播種するだけで、播種された細胞は接着し、その後速やかに伸展する。培養液に特に血清は必要ないが、1%程度の低濃度(通常の細胞培養では10%程度使用される)を添加すれば、接着、伸展は更に促進される。
目的とする細胞としては、例えば、上皮細胞、内皮細胞または間充織細胞等を挙げることができ、上皮細胞としては、例えば、表皮細胞、角膜上皮細胞、肺胞上皮細胞、消化器系の粘膜上皮細胞、腎臓子球体上皮細胞または肝実質細胞等を、内皮細胞としては、例えば、腎臓子球体毛細胞、血管内皮細胞、肺動脈血管内皮細胞、胎盤静脈血管内皮細胞、大動脈血管内皮細胞等を、間充織細胞としては、例えば、筋細胞、脂肪細胞、グリア細胞、シュワン細胞または神経細胞(ニューロン)等をより具体的に例示することができる。
また、細胞接着蛋白質またはペプチド上に形成されるヒト等の人工組織(人工臓器も含む)としては、細胞層とその直下の基底膜を含む組織であればどのようなものでもよいが、例えば、人工表皮組織、人工角膜上皮組織、人工肺胞上皮組織、人工気道上皮組織、人工腎糸球体組織、人工肝実質組織、人工血管内皮組織等の人工組織や、人工血管、人工肺、人工肝、人工腎臓、人工皮膚、人工角膜等の人工臓器を具体的に挙げることができる。
そして、細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品上に目的とする細胞を播種し、培養することにより形成された人工組織は、上記疎水結合性吸着ポリマーが化学結合でなく疎水性結合で細胞培養基質表面に吸着されていることから、細胞培養基質の種類や材質に関係なく吸着することができ、また、所望時には、細胞培養基質表面から物理的に剥離させることがでる。剥離された人工組織は、基底膜の構造を保持したままで移植が可能なことから、その汎用性が一層高く、その適用例として、内径3mm以下の微細人工血管や、体内埋込み型のヒト人工組織等を例示することができ、特に、人工子球体、人工肝臓、人工肺胞など上皮組織と内皮組織が近接する組織や臓器を好適に例示することができる。
インビトロにおける組織や臓器形成あるいは組織再生を行う際に、力学的支持体である細胞培養基質表面に直接細胞を播種する方法は、細胞培養基質表面を親水加工しても、長期間細胞剥離を起こさないようにするのは難しく、よい結果は期待できない。これに対し、本発明で得られる疎水結合性吸着ポリマーでコーティングされた細胞培養基質は、その表面にリンカーを介して細胞を播種する方法で、細胞を効率よく、しかも再現性よく固相化でき成績を著しく向上させることができる。この場合、LNやFNを直接塗布する方法もあるが、次第に細胞培養基質表面から剥がれるので、本発明が有効である。例えば、市販の「培養細胞伸展装置」は、周期的に一軸方向に伸展刺激を与え、生体内に近い状態での強制的伸展刺激による細胞の形態変化を観察することができる。本装置に使用されるシリコンウェル(シリコンゴム製の培養皿)として、本発明のポリマーでコーティングされたシリコンウェルを使用した場合、伸展刺激の際に培養基質から細胞が剥離することなく、細胞観察を行うことができる。
また、本発明は、屈曲・変形する材質に、細胞接着活性を有する物質を固相化することができる。例えば、現在では、折り曲げられるプラスチックにプリント配線やIC回路が作製されている。この様な材質に、プリント技術でMMAC、MBAC、MAST等をコーティングし、リンカーとして細胞接着蛋白質またはペプチドを固相化するか、あるいは予め反応性ポリマーと結合させた蛋白質またはペプチドをプラスチックに直接固相化し、細胞を回路図のように配置する際に有用である。
さらに、本発明は、細胞が接着し難い材質(強度の疎水性や滑らかな表面を有するポリマー、無機材、金属等)に、細胞接着活性を有する物質を固相化することができる。例えば、合成ポリマーで作製した人工血管や人工心肺のホロファイバーは、血小板が吸着して血栓を形成しないように、極力疎水性で凹凸が少なく滑らかな素材で作製されている。この様な素材でも血栓はでき、それが脳や肺の微小血管に詰まる医療問題となっている。ヘパリンをコートして血栓形成を少しでも防止する試みがなされているが、それでも血栓の形成はなかなか止まない。この対策には、合成ポリマーをMMAC、MBAC、MAST等の反応性ポリマーでコーティングし、ヘパリンを固相化する方法や、血管内皮細胞でプラスチック表面を覆う方法が有効であると考えられている。因みに血管内皮細胞には、血栓形成を防止する働きが有る。その際に、ヘパリンの固相化や、細胞接着活性を有するリンカーを固相化し、血管内皮細胞を播種し、プラスチック表面を覆う目的に活用できる。
コラーゲン線維は、細胞接着基質として有用であるが、その接着にはインテグリン受容体が関与する。しかし、細胞層直下に基底膜が存在する上皮細胞、内皮細胞等の接着に際してインテグリンが働くのは、正常時の組織構築モデルでなく、むしろ病態時を想定したモデルなので好ましく無く、インビボで通常働いているシンデカンが働く状態での組織構築が望ましい。この為、コラーゲン線維を基底膜の重要主成分ラミニンでコラーゲン線維表面をコーティングしようとしても、実際はコーティングされ難い。この代わりとして、本発明で示した方法でコラーゲン線維をLNα鎖G領域の接着ペプチドでコーティングすると、インテグリンに代わってシンデカンが働いている組織構築が可能である。
セルロースは、安価で十分な強度と半透膜性を持ち、色々な形に整形可能で、かつ生体に馴染み易い工業資材である。しかし、細胞接着に必要な官能基を有していないので、人工臓器や細胞培養の基材に用いるには、細胞接着分子をコーティングする必要がある。しかし、その効率とコーティングした物質の残存性は良くない。この為、非接着細胞の懸濁培養基材に使われるが、接着性細胞の培養基質には不向きだった。今回例示したMMAC、MBAC、MHAC(この順に疎水性が増大する)は、メチレン基が屈曲性に富むのでこの様な素材にも適用でき、かつ側鎖をメトキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基と変えて疎水性を増大させることにより、例えばホロファイバー状に形成したチューブの内腔面や外表面に本発明のコーティングを最適化することができ、その結果細胞接着の基材として使用することが可能になる。
本発明は、細胞培養に通常使用されるポリスチレン以外にも適用可能である。例えば、医療に使われる人工血管、人工水晶体等、埋め込み型プラスチックの表面に細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化処理を施すことにより、患者の細胞が容易に接着できる環境が醸成され、患者の負担軽減が期待できる。
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、この発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1(シリコンウェルのコーティング)
20mm×20mm×10mmの溝を有するシリコンウェルに、50μg/mlのMMAC(ISP,International Specialty Products,USA)のエタノール溶液0.5mlを注ぎ、余分な溶液は吸い取り、その後風乾することにより、MMACでコーティングされたシリコンウェルを得た。
なお、シリコンウェルがMMACでコーティングされているか否かは、例えば、以下の実施例に示すように、シリコンウェルをMMACでコーティングした後、細胞接着蛋白質またはペプチドを固相化し、次いで細胞を播種、培養することにより確認することが出来る。
実施例2 (T2細胞の静置培養)
実施例1の方法で得たコーティングしたシリコンウェルに、0.1Mトリエタノールアミン緩衝液、pH8.8に溶かした10μg/mlのフィブロネクチン(FN)、ラミニン−1(LN)の細胞接着蛋白質溶液、あるいは0.25mg/mlのFIB−1、AG73の細胞接着ペプチド溶液を各々注ぎ、37℃で数時間以上反応させ、これらの細胞接着活性を有する蛋白質あるいはペプチド類を結合し、固相化した(固相化の詳細は後述する実施例6参照)。その後、単位面積当たり5x10/cmの肺胞2型上皮細胞(T2細胞)懸濁液を注いで、CO培養装置内で培養を開始した。
いずれの細胞接着蛋白質またはペプチドを固相化した場合も、T2細胞は良好に増殖し、細胞密度が増大した(図1)。このことは、何れのMMACコーティングによる細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化反応も、細胞毒性を有しないと理解される。
なお、図中の1d、2dおよび3dは、それぞれ培養日数を意味する。
実施例3 (T2細胞の伸展培養1)
実施例2の方法とほぼ同様にして調製した、細胞接着蛋白質またはペプチドを固相化したシリコンウェルに単位面積当たり2x10/cmのT2細胞を播種し、1日間静置培養した。播種した細胞が培養面全体をconfluentに伸展していることを確認した後、培養細胞伸展装置((株)スカラテック社製)を用い、25%伸展率、毎分15回の頻度で水平方向に強制的に細胞伸展を開始し、更に1日間培養を継続した。培養終了後、細胞接着の状態を位相差顕微鏡で撮影した(図2の上段4列)。
固相化FNやLNの場合(FN,1dC−1dSおよびLN,1dC−1dS)は、それほど顕著ではないが、固相化したFIB−1やAG−73細胞接着ペプチド上で、強制伸展させながら細胞培養した場合(FIB−1,1dC−1dS)およびAG73,1dC−1dS)は、T2細胞が強制伸展方向と垂直方向(図2の写真の縦方向)に自律的に細長く伸展して、強制伸展の影響を極力減衰させようと配向し直したことが明瞭に観察される。これに比べて、固相化FNやLNの場合はそれほど明瞭ではないのは、固相化した細胞接着蛋白質と細胞との接着が強制伸展力に対抗できる程度には十分強いため、配向し直す必要がなかったためと推測される。
実施例4 (T2細胞の伸展培養2)
実施例2の方法とほぼ同様にして調製した、細胞接着蛋白質またはペプチドを固相化したシリコンウェルに単位面積当たり5x10/cmのT2細胞を播種し、3日間静置培養した。T2細胞は、図1の3dと同様に生育した(結果は、重複するので示さず)。次に、図1と同じ強制伸展刺激を与え、更に1日間培養を継続した。培養終了後、細胞接着の状態を位相差顕微鏡で撮影した(図2の中段4列)(FN,3dC−1dS、LN,3dC−1dS、FIB−1,3dC−1dS、およびAG73,3dC−1dS)。
3日間の静置培養中にT2細胞は、固相化した細胞接着蛋白質またはペプチドに強固に接着でき、伸展・増殖したと考えられる。そのため、強制的に細胞伸展負荷を1日間課した後でも、T2細胞は図2上段ほど明瞭に配向し直すことはなかった。
実施例5 (T2細胞の伸展培養3)
実施例4の伸展培養とほぼ同様にして、強制的な伸展培養を3日間行った。培養終了後、細胞接着の状態を位相差顕微鏡で撮影した(図2の下段4列)(FN,3dC−3dS、LN,3dC−3dS、FIB−1,3dC−3dS、およびAG73,3dC−3dS)。
3日間の強制伸展刺激によって、T2細胞の形質は、固相化した細胞接着蛋白質またはペプチドに依存して変化している。特に、生体内ではT2細胞の直下に存在する基底膜構造体の必須成分であるLN、およびその接着ペプチドであるAG73上に細胞を播種した場合には、立方体的な2型上皮細胞から扁平な1型上皮細胞様に変化している。生体内では、呼吸運動に伴い肺胞内で最も強制的な細胞伸展を繰り返し受けているのは、厚みのある2型上皮細胞ではなく、扁平な1型上皮細胞である。3日間の強制的細胞伸展は、生体内と同様に2型上皮細胞を1型上皮細胞に分化させたことを示唆している。FNは、本来細胞に増殖や移動の刺激を与える細胞外基質である。固相化したFNやその細胞接着ペプチドであるFIB−1上では、LNやAG73程1型上皮細胞様にならなかったのは、FNの持つこの性質のためかもしれない。
なお、実施例3〜5で行った強制的な細胞伸展培養(伸展率25%)は、前記した培養細胞伸展装置で通常行われている伸展率10%に比べ、かなりの負荷を細胞に与えている。この為、本装置に通常この様な負荷を掛けると細胞は剥離する。本発明のコーティングしたシリコンウェルを使用することにより、剥離することなく、良好に増殖した。
実施例6(細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品の調製)
全ての操作は無菌操作を前提とする。始めに、細胞接着蛋白質の場合はエタノールに10μg/mlのMMACやMAST等の疎水結合性吸着ポリマーを、ペプチドの場合は50μg/mlのMMACやMASTを溶かし、フィルターを通した後に細胞培養用に表面処理をしていない96穴培養皿に50μlずつ注ぎ、暫く静置後MMAC等を吸い取って風乾する。次に、0.1Mトリエタノールアミン緩衝液、pH8.8溶液に10〜20μg/mlの細胞接着蛋白質または0.25mg/mlのペプチドを溶かし、先程MMAC等をコートした96穴培養皿に50μlずつ注ぐ。37℃に加温されたインキュベーター内で加湿しながら、一晩反応させる。反応終了後、反応液を吸い取り、残余の反応液を培地でリンスして、細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品を調製する。該標品は、固相化細胞接着蛋白質またはペプチド基質として、以下の実施例に示すように、細胞培養に供することができる。
なお、細胞接着蛋白質およびペプチドの濃度を、1/5量のそれぞれ2〜4μg/mlおよび0.05mg/mlにしても、通常の細胞培養に支障は無い。
また、MMAC等コートだけのときは、96穴培養皿の底面は、無水マレイン酸が加水分解して出来たカルボキシル基の陰電荷のため、細胞はほとんど接着できない。
実施例7(細胞接着蛋白質に対するT2細胞の接着、および遊離の細胞接着ペプチドによる細胞接着の阻害)
細胞培養の際に、細胞接着蛋白質として通常使用されている市販品のFN、LNおよびVNを各々5μg/ml、10μg/mlおよび10μg/mlの濃度で培養皿に塗布した。ColI(I型コラーゲン)の場合は、1mMHClに溶かした100μg/mlの濃度のColIを培養皿に注ぎ、暫く静置した後、溶液を除いて風乾し、使用前に培地で洗って使用した。次に、上記の細胞外基質を塗布した96穴培養皿上に、無血清のDMEM培地に懸濁した6x10個/mlの肺胞2型上皮細胞(T2細胞)を100μlづつ播種し、COインキュベーター内で、37℃、1日間培養した。培養終了後、メタノール100μlで細胞を5分間固定し、0.4%クリスタルバイオレット50μlで30分間細胞を染色した。過剰な染色は水洗し、細胞質の吸光度(A595)から、培養皿に塗布されたFN、ColI、LNおよびVNに接着した細胞数を計測した。
他方、種々のLN分子のアミノ酸配列の中には、細胞接着を誘引する配列の存在が知られている。合成した何種類かの細胞接着ペプチドを、上記と同様にして調製した細胞培養液に、0.25mg/mlの濃度で添加した。以下、上記の方法に準じて細胞数を計測した。その結果を図3に示す。
細胞接着ペプチドの内、特に、AG73、A3G72、hA3G75、hA3G83、A4G82、A5G71およびA5G77ペプチドが、T2細胞の接着を阻害した。これは、これらのペプチドが、細胞に強い親和性を有し、T2細胞が、FN、ColI、LNおよびVNに接着することを阻害したためと理解される。
なお、FIB−1ペプチドは、FNへの接着を阻害する(通常は、1mg/ml以上必要)ペプチドとして知られているが、FIB−1ペプチドが阻害作用を発揮しない0.25mg/mlという低濃度でも、上記ペプチドは阻害活性を示している。AG73の様に、LNペプチドの種類によっては、0.12mg/mlの濃度でも同じく阻害活性を示した。
実施例8(固相化した細胞接着ペプチド基質に対するT2細胞の接着、および遊離の当該ペプチドによる細胞接着の阻害)
実施例6の方法に準じて調製した細胞接着ペプチドが固相化された培養皿に、無血清のDMEM培地に6×10個/100μlの濃度に懸濁したT2細胞を播き、COインキュベーター内で37℃、24時間培養した。以下、実施例7の方法に準じて、メタノールで固定、染色後、吸光度を測定した。別途、細胞を播種する直前に、固相化に使用されている細胞接着ペプチドと同一の遊離ペプチドを細胞懸濁液に添加し、以下、上記と同様に培養後、吸光度を測定した。標準物質としてFNを塗布した場合についても、併せて測定した。結果を図4および図5に示す。
図4は、疎水結合性吸着ポリマーとしてMMACを、図5ではMASTを、細胞接着ペプチドとして、ラミニンα鎖GペプチドおよびFIB−1ペプチドを使用し調製した培養皿を用いた結果を示している。図4および図5中、Controlは、固相化細胞接着ペプチドが存在するのみであり、free peptideは、固相化細胞接着ペプチドと同一の遊離ペプチドが、0.25mg/mlで共存している系を示す。
細胞接着ペプチドの固相化に用いる疎水結合性吸着ポリマーの種類によって、一部の細胞接着ペプチドで細胞接着量に変化は有る。しかし、遊離の細胞接着ペプチドによって、MMAC、MAST何れの場合も細胞接着が競争阻害されたことに変わりは無い。即ち、細胞は固相化された細胞接着ペプチドを介して接着している。それ故、その細胞接着遊離ペプチドが共存すると固相化した細胞接着ペプチドと遊離の細胞接着ペプチドが、細胞表面に存在する同一の接着受容体を巡って競合し、その結果として細胞接着が阻害された。このことは、疎水結合性吸着ポリマーを利用して細胞接着ペプチドを固相化させ、それを細胞接着の足場とする方法に、高い普遍性と信頼性があることを示唆している。
AG73T、AG76.8、AG81.2、A2G73、A4G78、A5G73の場合は、一見細胞接着遊離ペプチドによる競争阻害が掛からなく、非特異的接着のように見える。しかし、これは、細胞の接着受容体と細胞接着遊離ペプチドとの結合が、接着受容体と細胞接着固相化ペプチドとの結合に比して弱いために、阻害が掛からなかった為である。因みに、この場合でも、ヘパリン処理による接着阻害が掛かる(実施例10および図7参照)ことから、細胞接着ペプチドと細胞表面の接着受容体であるヘパラン硫酸プロテオグリカンに属するシンデカンを介した特異的接着であると考えられる。
実施例9(固相化した細胞接着ペプチド基質に対するT2細胞の細胞接着・伸展の時間経過/人工組織の調製)
培養皿に固相化された細胞接着ペプチドおよびT2細胞を用い、実施例8の方法に準じて、1〜24時間培養した。培養後の細胞接着と伸展の様子を微分干渉(光学)顕微鏡で観察した。培養1、6および24時間後の結果を図6に示す。
図6では、T2細胞を播種した細胞培養基質上で、1時間(A〜C)、6時間(D〜L)、および24時間(M〜O)培養後の微分干渉顕微鏡写真を示している。
細胞接着ペプチドとして、B、EおよびMはAG73を、C、LおよびOはFIB−1を、FはA3G72を、GおよびNはA4G82を、HはA5G71を、IはA5G77を、JはhA3G75を、KはhA3G83を、また、AおよびDは標準物質としてFNを使用した。
FNより若干劣るが、細胞接着ペプチド上でも1時間で細胞は接着し、一部の細胞では伸展を開始している。6時間の培養では、FNと比べて遜色なく、AG73、A3G72およびA4G82ペプチド上で伸展している。hA3G75およびhA3G83ペプチド上では、伸展は遅れているが十分接着している。24時間では、AG73、A4G82およびFIB−1共に、FN上に播種した場合と同様(図には示していない)に、殆どの細胞が伸展を完了している。
実施例10(固相化した細胞接着ペプチド基質に対するヘパリン処理によるT2細胞の接着阻害)
実施例6の方法に準じて調製した細胞接着ペプチドが固相化した培養皿に100μg/mlのヘパリン溶液を注ぎ、2時間インキュベートした。ヘパリンが固相化した細胞接着ペプチドに結合した後ヘパリン溶液を除き、T2細胞懸濁液を培養皿に播種した。24時間培養した後の接着細胞数についての結果を図7に示す。
原理的には、細胞接着ペプチドが先にヘパリンと結合して覆われると、細胞表面に存在するヘパリン様糖鎖(ヘパラン硫酸)を有する細胞接着受容体、即ちヘパラン硫酸プロテオグリカンに属する蛋白質であるシンデカンが、そのヘパラン硫酸糖鎖部分を使って細胞接着ペプチドと結合出来なくなるために、細胞接着が阻害されることを示している。
固相化したLNα鎖G領域由来細胞接着ペプチドの場合は、ほとんどの細胞接着が阻害された。このことは、固相化ペプチドとヘパリンとが親和性を以って結合したため、細胞表面に局在するヘパリンと類似の糖鎖構造を有するシンデカンと細胞接着ペプチドとの本来の結合が競合阻害されたと理解される。
このことから、AG73、AG73T、AG76.8、AG81.2、A2G73、A3G72、A4G78、A4G82、A5G73、A5G77、hA3G75、hA3G83の結合相手は、細胞表面のシンデカンであると考えられる。また、FIB−1ペプチドの場合は阻害が掛からない。FNとの結合に関与する細胞接着受容体はインテグリンα5β1であり、その結合部位がRGDアミノ酸配列であることは確立された事実である。この配列を含むFIB−1ペプチドに対してもインテグリンが関与するので、ヘパリンによる阻害が掛からないのは当然の結果である。このこともまた、本実施例の信頼性を示唆している。
実施例11(固相化した細胞接着ペプチド基質とは異なる遊離の細胞接着ペプチドによるT2細胞の接着阻害)
実施例7の方法に準じて、固相化した細胞接着ペプチド上でT2細胞を培養する際に、固相化ペプチドとは異なる遊離ペプチドを添加した結果を図8に示す。
固相化したペプチドを同じペプチドを培養液に遊離の状態で添加すると、両者はT2細胞のシンデカンを巡って競争し、その結果細胞接着が阻害される(実施例7参照)。現在、シンデカンには遺伝的に4種類の存在が知られている。ここでは、それぞれのペプチドに対するシンデカンが、互いに共有(融通)し合っている(common)のか、有る程度の範囲で重複しているだけか、それとも互いに排他的なのかを検討した。
例えば、AG73を固相化した場合、遊離状態のAG73以外にも、A3G72、A4G82、A5G71、A5G77、hA3G75、hA3G83が細胞接着を阻害していることから、互いにリセプターを共有し合っていることを示唆している。しかし、AG81.2、AG73Tは阻害できない。
また、AG81.2やAG73Tを固相化した場合は、遊離のAG81.2やAG73Tは自分自身の固相化ペプチドと競争阻害できないか、できても極わずかである。しかし、上記のLNペプチドによって、細胞接着が阻害されている。
この結果は、お互いのペプチドはリセプターを共有(融通)し合っていることを示している。しかし、その共有(融通)は対等ではなく、ペプチド間で受容体との親和性に順位が存在することを伺わせる。即ち、AG73、A3G72、A4G82、A5G71、A5G77、hA3G75、hA3G83>AG81.2、AG73T。なお、AG73Tは、AG73のアミノ酸配列を入れ替えて作った人工の配列で、天然には存在しない。
FIB−1のリセプターは、シンデカンではなく、インテグリンと呼ばれる細胞接着分子である。そのインテグリンとFIB−1との結合が、AG73等のLNペプチドで阻害されるが、その逆は無い。即ち、FIB−1を固相化した場合は、遊離のLNペプチドで阻害が掛かるが、AG73等を固相化した場合は、遊離のFIB−1で阻害が全く掛からない。このことは、細胞接着においてインテグリンを介する細胞接着よりもシンデカンを介した細胞接着が優先されることを示している。この点でも、LNα鎖G領域の細胞接着ペプチドを固相化して細胞接着基質とすることの利点が明瞭である。
実施例12(固相化したFIB−1ペプチドに対するT2細胞の接着結合力(親和性、affinity)を基準にした固相化したLNの細胞接着ペプチドの結合力)
図8において、遊離のFIB−1ペプチドは、T2細胞が固相化FIB−1ペプチドに細胞接着するのを競争阻害しただけでなく、AG73TおよびAG81.2ペプチドに接着するのも阻害した。反対に、遊離のAG73TおよびAG81.2ペプチドは、固相化FIB−1に対する細胞接着を阻害できなかったので、T2細胞に対するAG73TおよびAG81.2ペプチドの結合力(affinity)は、FIB−1の結合力より低い(実施例12および表1参照、クラスCに分類)。
他方、固相化FIB−1ペプチドに対する細胞接着を、遊離のAG73およびA4G82ペプチドは阻害できたが、逆の固相化AG73およびA4G82ペプチドに対する細胞接着を、遊離のFIB−1ペプチドは阻害できなかった。従って、T2細胞に対するAG73およびA4G82ペプチドの結合力(affinity)は、FIB−1の結合力より高い(表1参照、クラスAAおよびAに分類)ことは明白であるが、どの程度高いのか不明である。
図8は、固相化した細胞接着ペプチドが、FIB−1およびAG73の2種類混在する場合、T2細胞がFIB−1ペプチドを介して接着しているならば遊離のFIB−1ペプチドで接着阻害できるが、AG73ペプチドを介して接着しているならば遊離のFIB−1ペプチドでは接着阻害できないことを示唆している。そこで、FIB−1ペプチド量を0.25mg/mlに定め、AG73ペプチド量をFIB−1の1/1,250量=0.20μg/mlから1/2量=0.125mg/mlまで両者の濃度比を変えて混合し、疎水性吸着ポリマーMMACを塗布した培養皿に固相化させた。この固相化ペプチド上でT2細胞を、無血清で1日間培養した場合の細胞接着量を、固相化FIB−1上で培養した場合を100%として図9に示す。
FIB−1:AG73=1:0.004の場合は、依然固相化FIB−1ペプチドを介してT2細胞は接着するので、遊離のFIB−1ペプチドはFIB−1のみが固相化された場合と同程度にT2細胞の接着を阻害した。しかし、FIB−1:AG73=1:0.02に増加させた場合、既にT2細胞は固相化AG73ペプチドを介して細胞接着するように遷移(transition)するので、遊離のFIB−1ペプチドでは最早細胞接着を阻害できなかった。遷移中間点の混合比=0.01であるので、その逆数100は、AG73対FIB−1のT2細胞に対する結合力の比を示している。同様に、A3G72およびA4G82ペプチドでは、遷移中間点の混合比=0.1であるので、T2細胞に対する結合力はFIB−1の10倍に相当する。この結果を踏まえ、AG73、A3G72、A4G82ペプチドのT2細胞に対する結合力をそれぞれクラスAA、Aに分類した(表1参照)。
図8において、遊離のA5G71、A5G77、hA3G75、hA3G82ペプチドは、固相化FIB−1ペプチドへの細胞接着を阻害できるが、図9において遷移中間点の混合比は約1であるので、T2細胞に対する結合力をBに分類した(表1参照)。
図8および9で行った方法は、細胞接着ペプチドの結合力(親和性、affinity)に相対的な序列を与え、細胞接着の強さを定量的に考察できる簡便な方法として大変有効である。
表1には、FN分子の中でインテグリンと結合する部位RGDアミノ酸配列を含むFIB−1ペプチドとT2細胞の親和性(結合・接着力)を基準に、ラミニンα鎖G領域ペプチドを、非常に強く結合・接着するAAクラス、強く接着するAクラス、FIB−1と同程度に接着するBクラス、およびそれ以下の弱く結合するCクラスに分類した結果を示す。

実施例13(偽似マトリックスの調製)
疎水結合性吸着ポリマー、MBAC、MASTまたはMMACの各々200mgを水に分散させ、1N NaOH溶液を少量ずつ添加し、完全に溶解させた。これに、WSC(1−Ethyl−3−(3−dimethylamino propyl)carbodiimide,hydrochloride)50mgを加えて2時間反応させた後、ペプチド20mgを加えて、室温で2時間攪拌反応させた。反応終了後、水に透析してアルカリと低分子を除き、反応生成物を凍結乾燥して目的の偽似マトリックスを調製した。
実施例14(固相化した偽似マトリックスに対するT2細胞の接着、および遊離の当該ペプチドによる細胞接着の競争阻害−1)
実施例13で調製した各々の細胞接着ペプチド類を結合させた偽似マトリックス(MBAC−peptide)を、DMEM培地で1〜10μg/mlの濃度に希釈し、96穴培養皿に各100μl注ぎ、COインキュベーター内で一晩静置して、培養皿に吸着・固相化させた。未吸着のMBAC−peptideは、DMEM培地で十分洗って除いた。次に、無血清のDMEMに、6x10個/mlの濃度で懸濁したT2細胞を、各100μl播種した。無血清で1日培養した後、メタノール100μlで5分間固定し、0.4%クリスタルバイオレット50μlで30分間T2細胞を染色した。過剰な染色は水洗し、細胞質の吸光度(A595)から、接着した細胞数を計測した。その結果を図10に示す。
1μg/mlのMBAC−AG73を除き、測定した全ての範囲内で、MBAC−AG73、−A3G72、−A4G82X、一FIB−1は、FN(フィブロネクチン)を直接塗布した場合と同等の細胞接着能を発揮した。また、遊離の当該細胞接着ペプチドで細胞接着が競争阻害されることから、T2細胞の接着は、MBACに結合した細胞接着ペプチドを介した特異的結合によると考えられる。なお、MBAC−A4G82Xに対するT2細胞の接着が遊離のA4G82ペプチドで阻害されたことは、C末端のMet残基をNle残基に代えても、細胞接着に関しては同等に機能することを示唆している。
実施例15(固相化した偽似マトリックスに対するT2細胞の接着、および遊離の当該ペプチドによる細胞接着の競争阻害−2)
実施例13で調製した各々の細胞接着ペプチド類を結合させた偽似マトリックス(MAST−peptide)を、実施例14と同様に96穴培養皿に吸着・固相化させ、T2細胞を播種・培養した。その結果を図11に示す。
1〜10μg/mlの測定した範囲全てにおいて、MAST−AG73、−A3G72、−A4G82X、−FIB−1は、FNを直接塗布した場合と同等の細胞接着能を発揮した。また、遊離の当該細胞接着ペプチドで細胞接着が競争阻害されるが、その程度はMBAC−peptideの場合より低かった。これは、T2細胞とMAST−peptideの特異的結合が、T2細胞とMBAC−peptideとの結合より、一層強いことによると考えられる。なお、MAST−A4G82Xに対するT2細胞の接着が遊離のA4G82ペプチドで阻害されたことは、C末端のMet残基をNle残基に代えても、細胞接着に関しては同等に機能することを示唆している。
また、培養皿に吸着・固相化したpolymer−peptide(偽似マトリックス)を、DMEMで2〜4日間洗っても細胞接着量はほとんど影響を受けない。このことは、培養皿と偽似マトリックスとの結合は、十分強く安定していることを示している。
実施例16(固相化した偽似マトリックスに対する当該ペプチドのポリクローナル抗体処理によるT2細胞の接着阻害)
実施例13で調製した各々の細胞接着ペプチド類を結合させた偽似マトリックス(MBAC−peptide)を、DMEM培地で1〜10μg/mlの濃度に希釈し、96穴培養皿に各100μl注ぎ、COインキュベーター内で一晩静置して、培養皿に吸着・固相化させた。未吸着のMBAC−peptideは、DMEM培地で十分洗って除いた。次に、無血清のDMEMで4〜10μg/mlに希釈した抗体100μlを培養皿に注ぎ、2〜4時間インキュベートして、ペプチドに抗体を結合させた。対照群には、正常のIgGを用いた。処理後抗体を除き、6x10個/mlの濃度で懸濁したT2細胞を、各100μl播種した。無血清で1日培養した後、メタノール100μlで5分間固定し、0.4%クリスタルバイオレット50μlで30分間T2細胞を染色した。過剰な染色は水洗し、細胞質の吸光度(A595)から、接着した細胞数を計測した。結果を図12に示す。
測定した全ての範囲内で、MBAC−AG73T、−AG81.2X、−FIB−1は、FNを塗布した場合とほぼ同程度の細胞接着能を発揮した。また、ペプチドに対する抗体処理で、細胞接着が特異的に阻害されたことから、T2細胞はペプチドを介して接着していると考えられる。
なお、MBACの代わりにMASTを用いて作製したMAST−peptideについても、同様の結果を得た。その一例としてMAST−FIB−1の結果も図12に示す。2.5−10μg/mlでMAST−FIB−1を固相化した場合、抗体の阻害程度が低いのは、実施例15の場合と同様に、細胞に対する親和性がMBAC−FIB−1より遙かに強いためであるが、1μg/mlにすると固相化MBAC−FIB−1とMAST−FIB−1は、抗FIB−1抗体処理によって同程度に阻害された。
実施例17(固相化した偽似マトリックスに対するヘパリン処理によるT2細胞の接着阻害)
実施例13で調製した各々の細胞接着ペプチド類を結合させた偽似マトリックス(MBAC−peptide)を、DMEM培地で1〜10μg/mlの濃度に希釈し、96穴培養皿に各100μl注ぎ、COインキュベーター内で一晩静置して、培養皿に吸着・固相化させた。未吸着のMBAC−peptideは、DMEM培地で十分洗って除いた。次に、1mg/mlのヘパリンを溶かしたDMEM100μlを培養皿に注ぎ、2時間インキュベートして、ペプチドにヘパリンを結合させた。対照群は、DMEMのみで処理した。処理後ヘパリンを除き、6x10個/mlの濃度で懸濁したT2細胞を、各100μl播種した。無血清で1日培養した後、メタノール100μlで5分間固定し、0.4%クリスタルバイオレット50μlで30分間T2細胞を染色した。過剰な染色は水洗し、細胞質の吸光度(A595)から、接着した細胞数を計測した。結果を図13および図14に示す。
細胞接着ペプチドに対するヘパリン処理で、細胞接着が対照群より図13では25〜40%、図14では35〜55%特異的に阻害されたことから、T2細胞は細胞表面に存在するヘパリン類似の糖鎖を有する接着受容体、シンデカンを介して固相化したペプチド、図13のAG73、A3G72、A4G82X、および図14のAG73T、AG76.8X、AG81.2X、A4G78、A5G73Xに接着していると考えられる。なお、ヘパリンによる接着阻害の程度が図14と比して図13で低いのは、細胞と固相化した細胞接着ペプチドとの親和性が、AG73、A3G72、A4G82Xの場合に一層高いためである(実施例12、図9および表1参照)。また、図14の一部のMBAC−peptideでは、1〜2.5μg/mlで塗布すると、細胞接着量が低下し、ヘパリンによる阻害の程度も低下している。これは、MBAC−peptideの固相化量が低下し、そのため細胞接着に占める非特異的接着が増加した為と推測される。
偽似マトリックスPolymer−A4G82X(図13)、−AG76.8X、−AG81.2X、−A5G73X(図14)の作製には、Metの代わりに実際の蛋白質には存在しないNleを用いているが、それぞれA4G82、AG76.8、AG81.2、A5G83を固相化した場合(実施例8、図4および5参照)と同等の細胞接着能を発揮している。しかも、ヘパリンで同様に接着阻害される(実施例10および図7参照)ことから、T2細胞はMetとNleを区別しないで認識したと考えられる。Metは側鎖のS原子が酸化されてスルフォキシドやスルフォンになると生物活性を失うことがよくある。本偽似マトリックスの場合も同様に失活が危惧されたが、MetをNleで置き換えたペプチドが本来のペプチドと同等の性能を発揮したことは、偽似マトリックスの一層の安定性を確保し、その用途を広げる上で有効である。
実施例18(エタノールを含む水溶液に溶解した偽似マトリックスの塗布、および塗布した偽似マトリックスに対するT2細胞の接着)
50%エタノールに溶解した2−20μg/mlのMAST−GRGDSP(Gly−Arg−Gly−Asp−Ser−Pro)およびMMAC−GRGDSPを培養皿に50μl注ぎ、風乾・固相化させた。次に、MAST−GRGDSPおよびMMAC−GRGDSP(0.1−1.0μg/well)を塗布した培養皿を無血清のDMEM培地でリンスし、同培地に6×10個/100μlの濃度に懸濁したT2細胞を播き、COインキュベーター内で37℃、24時間培養した。以下、実施例7の方法に準じて、メタノールで固定、染色後、吸光度を測定した。結果を図15に示す。標準物質としてFNを塗布した培養も同時に行い、FNへの細胞接着を基準(100%)として示した。
通常の蛋白質ならば、50%エタノールという条件において変性、失活する。しかし、MAST/MMAC−GRGDSPのみならず、実施例21および22に示したように、偽似マトリックスは50%エタノールに溶かしても安定した細胞接着能を発揮した(実施例21,22および図18、19参照)。この性能は、塗布した培養皿を室温で長期間放置した後も失われなかった。
両偽似マトリックスへのT2細胞の接着は、標準の細胞接着蛋白質FNより若干低い。GRGDSPペプチドの場合、疎水性吸着ポリマーとの距離を確保し立体障害を解消するスペーサーの役割を果たすアミノ酸残基は、−CO・NH−Gly−のみの1残基であるが、GRGDSP配列を含みスペーサーとなるアミノ酸残基が−CO・NH−Tyr−Ala−Val−Thr−Gly−の5残基であるFIB−1ペプチドの場合は、FNと同等の細胞接着能を発揮した(実施例21、22および図18、19参照)。従って、MAST/MMAC−GRGDSPの場合にT2細胞接着量が若干低いのは、GRGDSPペプチドに対する疎水性吸着ポリマーによる立体障害が原因の少なくとも一つと考えられる。なお、MAST疎水性吸着ポリマーに結合したGRGDSPペプチドが、MMACポリマーに結合した同ペプチドに比して細胞接着量が大きいのは、MAST−GRGDSPの方がポリスチレン製培養皿への吸着が高いためである。
実施例19(エタノールを含む水溶液に溶解したMAST−GRGDSP偽似マトリックスを風乾・固相化した培養皿へのT2細胞の接着、および遊離のGRGDSPペプチドによる競争阻害の濃度依存性)
実施例18と同様に、50%エタノールにMAST−GRGDSPを溶解し、培養皿に風乾・固相化後、T2細胞を播種・培養した。別途、細胞を播種する直前に、遊離のGRGDSPペプチド0.25〜4.0mg/mlを細胞懸濁液に添加し、以下、上記と同様に培養後、吸光度を測定した。その結果を、図16に示す。遊離のGRGDSP濃度の増加と共に、細胞接着は次第に阻害され、4.0mg/mlではほぼ完全に阻害された。このことは、T2細胞は固相化されたGRGDSPを介して特異的に結合・接着していることを示唆する。また、MAST−GRGDSPの塗布量を低減すると、固相化されるGRGDSP量が低下し、遊離GRGDSPペプチドによる競争阻害は一層有効に働いた。
実施例20(エタノールを含む水溶液に溶解したMMAC−GRGDSP偽似マトリックスを風乾・固相化した培養皿へのT2細胞の接着、および遊離のGRGDSPペプチドによる競争阻害の濃度依存性)
実施例18と同様に、50%エタノールにMMAC−GRGDSPを溶解し、培養皿に風乾・固相化後、T2細胞を播種・培養した。別途、細胞を播種する直前に、遊離のGRGDSPペプチド0.25〜4.0mg/mlを細胞懸濁液に添加し、以下、上記と同様に培養後、吸光度を測定した。その結果を、図17に示す。実施例19と同様に、遊離のGRGDSP濃度の増加と共に、細胞接着は次第に阻害され、1.0〜4.0mg/mlではほぼ完全に阻害された。このことは、実施例19と同様に、T2細胞は固相化されたGRGDSPを介して特異的に結合・接着していることを示唆する。
実施例21(エタノールを含む水溶液に溶解した偽似マトリックスを風乾・固相化した培養皿へのT2細胞の接着、および遊離の当該ペプチドによる競争阻害)
実施例18と同様に、50%エタノールにMBAC/MAST−AG73および−FIB−1を溶解し、培養皿に風乾・固相化後、T2細胞を播種・培養した。別途、細胞を播種する直前に、遊離のAG73またはFIB−1ペプチド0.25mg/mlを細胞懸濁液に添加し、以下、上記と同様に培養後、吸光度を測定した。その結果を、図18に示す。固相化したAG73およびFIB−1ペプチドに対して、T2細胞はFNを塗布した場合とほぼ同程度に接着した。また、遊離のAG73ペプチドによって、細胞接着はほぼ完全に阻害された。固相化FIB−1ペプチドの場合、特にMAST−FIB−1の場合は、固相化したFIB−1量の低減と共に遊離のFIB−1ペプチドによる競争阻害がより有効に働いた。
実施例22(エタノールを含む水溶液に溶解したMBAC/MAST−FIB−1を風乾・固相化した後、抗FIB−1ペプチド抗体処理によるT2細胞の接着阻害)
実施例21と同様に、MBAC/MAST−FIB−1を50%エタノールで希釈して培養皿に注ぎ、風乾・固相化させた。T2細胞を播種する前に、4μg/mlの抗FIB−1ポリクローナル抗体100μlを培養皿に注ぎ、4時間インキュベートして固相化FIB−1ペプチドに抗体を結合させた。対照には正常IgGで処理した後、実施例21と同様に培養、固定、染色した。その結果を、図19に示す。固相化FIB−1が0.1−0.25μg/wellで、抗体による細胞接着が特異的に阻害された。
【産業上の利用可能性】
本発明によると、疎水結合性吸着ポリマーでコーティングしたシリコンウェルを使用することにより、細胞培養において、例えば、培養細胞伸展装置で通常行われている以上の過度の負荷を細胞に与えても、細胞は剥離することなく、良好に増殖することができる。
さらに、本発明によると、本発明の細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品は、細胞接着蛋白質を直接固相化した標品に比して構造的に安定で、細胞接着ペプチドは安価であることより、細胞接着蛋白質の代替標品として極めて有用である。また、細胞接着ペプチドの性能は代表的接着蛋白であるFNと比較して、十分な活性を有する。また、構造的に安定でしかも安価な固相化LNα鎖G領域ペプチドは、LN代替物質として極めて有効である。さらに、偽似マトリックスは完全化学合成することができる。生物由来の培養基質を使う場合には、プリオン、ウィルス、細菌等が製造過程で混入するリスクを排除するのは困難である。しかし、完全合成品を使う場合には、この様なリスクを排除して人工組織や人工臓器を作製することができるので、製造上大変有利である。
【配列表】






【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に疎水性を有する直鎖状骨格と蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基とを有している疎水結合性吸着ポリマーでコーティングされていることを特徴とする細胞培養基質。
【請求項2】
細胞培養基質の基材が、生物性ポリマー、プラスチック、天然または合成ゴム、無機物または金属からなる請求の範囲1記載の細胞培養基質。
【請求項3】
生物性ポリマーが、コラーゲン、ゼラチン、セルロース、アガロース、アルギン酸、キチン、キトサン、または、生分解性ポリマーのポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトンである請求の範囲2記載の細胞培養基質。
【請求項4】
プラスチックが、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂である請求の範囲2記載の細胞培養基質。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂またはフッ素樹脂である請求の範囲4記載の細胞培養基質。
【請求項6】
熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂またはシリコン樹脂である請求の範囲4記載の細胞培養基質。
【請求項7】
合成ゴムが、ブタジエンスチレンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、ブチルゴム、多硫化系合成ゴム、フッ素ゴムまたはシリコンゴムである請求の範囲2記載の細胞培養基質。
【請求項8】
無機物が、ガラス、ヒドロキシアパタイト、IC基材またはカーボンナノチューブである請求の範囲2記載の細胞培養基質。
【請求項9】
金属が、不活性(inert)な金、白金、チタン、インジウム、または、これらの酸化物である酸化チタン、酸化インジウム、ITO(酸化インジウム・スズ)である請求の範囲2記載の細胞培養基質。
【請求項10】
請求の範囲2〜9記載の基材からなる細胞培養基質が、培養皿(ウェル)、プリント配線板または人工臓器である請求の範囲1記載の細胞培養基質。
【請求項11】
人工臓器が、人工血管、人工心肺または人工腎臓である請求の範囲10記載の細胞培養基質。
【請求項12】
細胞培養基質が、シリコンゴムを基材とした培養皿(ウェル)である請求の範囲1または10記載の細胞培養基質。
【請求項13】
疎水結合性吸着ポリマーが、以下の式[I]で表される請求の範囲1〜12のいずれか記載の細胞培養基質。

(式中、Xは、CHまたはNHCHCOを示し、Yは、CHまたはNHCRCOを示し、Rは、H、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリールもしくはアラアルキル基または炭素数6〜10のアリールオキシもしくはアラアルキルオキシ基を示し、Rは、Hまたは炭素数1〜10のアルキル基を示し、Zは、官能基(反応基)を示し、Xと互に結合してもよく、spacerは、(−CH−)pまたは(−NHCHRCO−)qを示し、Rは、Hまたは炭素数1〜10のアルキル基を示し、mは、1以上の整数を、nは、100〜20000の整数を、pおよびqは、独立して0または1〜8の整数を、rは、1以上の整数を示す)
【請求項14】
式[I]で表される疎水結合性吸着ポリマーが、ビニル系化合物と無水マレイン酸との共重合体である請求項13記載の細胞培養基質。
【請求項15】
ビニル系化合物が、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルビニルエーテルまたはスチレンである請求の範囲14記載の細胞培養基質。
【請求項16】
細胞接着蛋白質またはペプチドが、請求の範囲1〜15のいずれか記載の細胞培養基質に結合していることを特徴とする細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品。
【請求項17】
結合が、疎水結合性吸着ポリマー分子内の蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基と細胞接着蛋白質またはペプチドの反応性基とが反応し形成される共有結合である請求の範囲16記載の固相化標品。
【請求項18】
共有結合が、アミド結合である請求の範囲17記載の固相化標品。
【請求項19】
細胞接着蛋白質が、フィブロネクチン(FN)、コラーゲン(Col)、ラミニン(LN)またはビトロネクチン(VN)である請求の範囲16〜18のいずれか記載の固相化標品。
【請求項20】
細胞接着ペプチドが、請求の範囲19記載の細胞接着蛋白質のアミノ酸配列の中で、細胞接着に関わる領域のペプチドである請求の範囲16〜18記載の固相化標品。
【請求項21】
フィブロネクチン(FN)蛋白質の細胞接着に関わる領域のペプチドが、細胞側のインテグリン受容体と結合する特異的なArg−Gly−Asp(RGD)アミノ酸配列を有するペプチドである請求の範囲20記載の固相化標品。
【請求項22】
RGDアミノ酸配列を有するペプチドが、Tyr−Ala−Val−Thr−Gly−Arg−Gly−Asp−Ser−Pro−Ala−Ser(FIB−1)である請求の範囲21記載の固相化標品。
【請求項23】
ラミニン(LN)蛋白質の細胞接着に関わる領域のペプチドが、α鎖のG領域(G−domain)ペプチドである請求の範囲20記載の固相化標品。
【請求項24】
G領域ペプチドが、Arg−Lys−Arg−Leu−Gln−Val−Gln−Leu−Ser−Ile−Arg−Thr(AG73)、Leu−Gln−Gln−Arg−Arg−Ser−Val−Leu−Arg−Thr−Lys−Ile(AG73T)、Thr−Leu−Gln−Leu−Gln−Glu−Gly−Arg−Leu−His−Phe−Met(AG76.8)、Thr−Leu−Gln−Leu−Gln−Glu−Gly−Arg−Leu−His−Phe−Nle(AG76.8X)、Val−Lys−Thr−Glu−Tyr−Ile−Lys−Arg−Lys−Ala−Phe−Met(AG81.2)、Val−Lys−Thr−Glu−Tyr−Ile−Lys−Arg−Lys−Ala−Phe−Nle(AG81.2X)、Lys−Asn−Arg−Leu−Thr−Ile−Glu−Leu−Glu−Val−Arg−Thr(A2G73)、Lys−Pro−Arg−Leu−Gln−Phe−Ser−Leu−Asp−Ile−Gln−Thr(A3G72)、Lys−Phe−Leu−Glu−Gln−Lys−Ala−Pro−Arg−Asp−Ser−His(A4G73)、Gly−Glu−Lys−Ser−Gln−Phe−Ser−Ile−Arg−Leu−Lys−Thr(A4G78)、Thr−Leu−Phe−Leu−Ala−His−Gly−Arg−Leu−Val−Phe−Met(A4G82)、Thr−Leu−Phe−Leu−Ala−His−Gly−Arg−Leu−Val−Phe−Nle(A4G82X)、Gly−Pro−Leu−Pro−Ser−Tyr−Leu−Gln−Phe−Val−Gly−Ile(A5G71)、Arg−Asn−Arg−Leu−His−Leu−Ser−Met−Leu−Val−Arg−Pro(A5G73)、Arg−Asn−Arg−Leu−His−Leu−Ser−Nle−Leu−Val−Arg−Pro(A5G73X)、Leu−Val−Leu−Phe−Leu−Asn−His−Gly−His−Phe−Val−Ala(A5G77)、Leu−Val−Leu−Phe−Leu−Asn−His−Gly−His(A5G77f)、Lys−Asn−Ser−Phe−Met−Ala−Leu−Tyr−Leu−Ser−Lys−Gly(hA3G75)またはGly−Asn−Ser−Thr−Ile−Ser−Ile−Arg−Ala−Pro−Val−Tyr(hA3G83)である請求の範囲23記載の固相化標品。
【請求項25】
細胞接着ペプチドが、3〜20個のアミノ酸残基からなるペプチドである請求の範囲20記載の固相化標品。
【請求項26】
細胞培養基質にコーティングした疎水結合性吸着ポリマーの蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基と細胞接着蛋白質またはペプチドとを反応させることを特徴とする固相化標品の製造方法。
【請求項27】
疎水結合性吸着ポリマーの蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基と細胞接着蛋白質またはペプチドとを反応させ、該反応物を細胞培養基質にコーティングすることを特徴とする固相化標品の製造方法。
【請求項28】
疎水結合性吸着ポリマーの蛋白質またはペプチドと反応しうる官能基と細胞接着蛋白質またはペプチドとを反応させて得られる反応物。
【請求項29】
請求の範囲16〜27のいずれか記載の細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品上に目的とする細胞を播種し、培養することにより調製されることを特徴とする人工組織。
【請求項30】
目的とする細胞が、上皮細胞、内皮細胞または間充織細胞である請求の範囲29記載の人工組織。
【請求項31】
上皮細胞が、表皮細胞、角膜上皮細胞、肺胞上皮細胞、消化器系の粘膜上皮細胞、腎臓子球体上皮細胞または肝実質細胞である請求の範囲30記載の人工組織。
【請求項32】
内皮細胞が、腎臓子球体毛細胞、血管内皮細胞、肺動脈血管内皮細胞、胎盤静脈血管内皮細胞または大動脈血管内皮細胞である請求の範囲30記載の人工組織。
【請求項33】
間充織細胞が、筋細胞、脂肪細胞、グリア細胞、シュワン細胞または神経細胞(ニューロン)である請求の範囲30記載の人工組織。
【請求項34】
人工組織が、人工表皮組織、人工角膜上皮組織、人工肺胞上皮組織、人工気道上皮組織、人工腎糸球体組織、人工肝実質組織もしくは人工血管内皮組織、または人工血管、人工肺、人工肝、人工腎臓、人工皮膚もしくは人工角膜である請求の範囲29〜33のいずれか記載の人工組織。

【国際公開番号】WO2004/085606
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504080(P2005−504080)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004077
【国際出願日】平成16年3月24日(2004.3.24)
【出願人】(501273886)独立行政法人国立環境研究所 (30)
【出願人】(503108883)
【Fターム(参考)】