説明

細胞増殖性障害の処置のための方法

【課題】癌、特に乳癌の殆どのタイプを処置するための改善された方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、構成的なras−MAPシグナル伝達を測定することによりレオウィルス感染に対する細胞の感受性を同定する方法に関する。本発明はまた、細胞増殖性障害、詳細には、哺乳動物における細胞増殖性障害(ここで、増殖細胞は構成的なMAPKリン酸化を示す)の処置のためにレオウィルスを使用する方法に関する。特に、本方法は、乳癌(ras遺伝子の変異が重要な役割を果たすと考えられていない、腫瘍のサブセットである)を含む増殖性障害を処置するための、哺乳動物のレオウィルス処置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、構成的なras−MAPシグナル伝達を測定することにより、レオウィルス感染に対する細胞の感受性を同定する方法に関する。本発明はまた、細胞増殖性障害、詳細には、哺乳動物における細胞増殖性障害(ここで、増殖細胞は構成的なMAPKリン酸化を示す)の処置のためにレオウィルスを使用する方法に関する。特に、本方法は、乳癌(ras遺伝子の変異が重要な役割を果たすと考えられていない、腫瘍のサブセット)を含む増殖性障害を処置するための哺乳動物のレオウィルス処置を提供する。
(参考文献)
以下の刊行物、特許出願、および特許は、本出願において援用される。
米国特許第5,023,252号。
WO99/08692、1999年2月25日公開。
【0002】
【表1】




上記の全ての刊行物、特許出願、および特許は、それぞれの刊行物、特許出願、または特許が、詳細にかつ個々に、その全体において参考として援用されていることを示しているのと同じ様に、本明細書中でその全体が参考として援用されています。
【背景技術】
【0003】
(最新技術)
正常な細胞増殖は、増殖促進性癌原遺伝子と増殖抑制腫瘍サプレッサー遺伝子との間のバランスにより調節されている。腫瘍形成は、ゲノムへの遺伝的変化により引き起こされ得る。細胞性エレメントの変異を生じる、癌原遺伝子活性の増強作用または腫瘍抑制の不活性化のような、細胞シグナルの解釈を支配する、ゲノムに対する遺伝的変化により、腫瘍形成は生じ得る。これらのシグナルの解釈は、細胞の増殖および分化に最終的に影響し、そしてこれらのシグナルの解釈の誤りは新生物の増殖(新形成)を生じ得ると考えられている。
【0004】
癌原遺伝子Rasの遺伝的変化が、ヒト腫瘍全体の約30%を占めていると考えられている(Wiessmuller,L.およびWittinghofer,F(1994),Cellular Signaling 6(3):247−267;Barbacid,M.(1987)A Rev.Biochem.56,779−827)。Rasがヒト腫瘍の病因において果たす役割は、腫瘍のタイプに特異的である。Ras自身における変異を活性化することは、ヒト悪性疾患の殆どのタイプにおいて思い出され、膵臓癌(80%)、散在性の結腸直腸の癌(40−50%)、ヒト肺腺癌(15−24%)、甲状腺腫瘍(50%)、骨髄性白血病(30%)において高度に表されている(Millis,NEら(1995)Cancer Res.55:1444;Chaubert,P.ら(1994),Am.J.Path.144:767;Bos,J.(1989)Cancer Res.49:4682)。Ras活性化はまた上流のマイトジェン性のシグナル伝達エレメントによって、特にチロシンレセプターキナーゼ(TRK)によって実証されている。これらの上流のエレメントは、増幅されるかまたは過剰発現される場合、最終的にRasのシグナル導入活性により、高いRas活性を生じる。この例としては、グリア芽細胞腫の特定の形状におけるPDGFR、および乳癌におけるc−erbB−2/neuの過剰発現が挙げられる(Levitzki,A.(1994)Eur.J.Biochem.226:1;Janes,P.W.,ら(1994)Oncogene 9:3601;Bos,J.(1989)Cancer Res.49:4682)。
【0005】
新形成のための処置の現在の方法としては、手術、化学療法、および照射が挙げられる。手術は、代表的には、癌の初期の一次処置として使用される;しかしながら、多くの腫瘍は、外科的手段により完全に取り出され得ない。さらに新生物の転移性増殖は、手術による癌の完全な治癒を妨げ得る。化学療法は、アルキル化剤、代謝拮抗物質、および抗腫瘍抗体のような抗腫瘍活性を有する化合物の投与を含む。化学療法の効力は、悪心および嘔吐、骨髄低下、腎障害、および中枢神経系の抑制を含む深刻な副作用により、しばしば制限される。放射線治療は、照射による処置の後に新生物細胞とは対照的に、正常細胞が細胞自身で修復する高い能力に依存する。しかしながら、腫瘍を囲んでいる組織の感受性に起因して、放射線治療は、多くの新生物を処置することができない。さらに、特定の腫瘍が
照射線治療に対し耐性を示しており、そしてそのような耐性は細胞の癌原遺伝子状態または抗癌原遺伝子状態に依存し得る(Lee.J.M.ら(1993)PNAS90:5742−5746;Lowe.S.W.ら(1994)Science,266:807−810;Raybaud−Diogene.H.ら(1997)J.Clin.Oncology,15(3):1030−1038)。
【0006】
乳癌は、女性に最も一般的で、かつ恐れられている癌の一つである(アメリカ人女性の8人中1人が生涯において乳癌を発症するという推測がある)(NCI−CEER,1998)。乳癌処置において、増加する罹患率に対して一定した死亡率にするという多大な業績が成されてきたが、これらの進展のほとんどが、早期発見方法の改善に寄与するものであり、新しい処置ストラテジーではない。この病気の実際の処置においてほとんど進歩がなかったという事実は、従来にはない処置ストラテジーの開発を探求することを要求している。
【0007】
癌生物学の歴史において、乳癌の処置に関する治療の開発において、有用なものはない。これらの治療の多くは、特定のレセプター(この癌のサブセットにおいて過剰発現され、現在いくつかの臨床上の使用を見いだしている)を標的としている。おそらく、これらの新しい治療の最も有用なものの一つは、HERレセプター(乳癌で頻繁に過剰発現される)を標的とした抗体の使用である。この増殖因子レセプターの細胞外部分に対するこれらのモノクローナル抗体の使用の結果は有用であり、そして実際にいくつかの臨床的成功を経験している(Baselga,1996;総説については、Nass,1998;Hung,1995を参照のこと)。しかしながら、注意しなければならない多数の技術的障害がある。第一に、HER2に対するこれらのモノクローナル抗体は、それら自身が細胞を殺すのではなく、むしろ細胞増殖抑制性である(Pietras,1994;Harwerth,1992;Hudziak,1989;Carter,1992)。重要なことは、SCIDモデルあるいはヌードマウスモデルにおいて、抗HER2抗体が腫瘍増殖を抑制する際にのみ有効であり、実際には腫瘍後退を引き起こさない。さらに、一旦、抗体投与が中止されると、この腫瘍増殖の抑制は急速に減じられる。より実際的な記述は、免疫能を有する動物における抗HER2抗体を用いる腫瘍の処置は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)により媒介される細胞破壊効果を実際に生じ得る(Carter,1992)。第二に、全ての乳癌がこれらのレセプターを高レベルで発現しないので、標的とされる増殖因子レセプター(EGFR)は、価値が限られ得る。さらに、本ストラテジーは、レセプターチロシンキナーゼのみを標的にしており、Src(既に、いくつかの乳癌の増殖に関与付けられているような非レセプターチロシンキナーゼを過剰発現する乳癌に対してわずかな治療上の利点しか有しない(Clark,1996)。最後に、腫瘍血管の生物学もまた、これらの大きな高分子をそれらの標的細胞へと送達する能力を考慮に入れられねばならない。腫瘍の脈管構造は不均一であり、そして抗体のような大きな高分子を漏出する脈管の能力とは、腫瘍塊への空間的な方向付けの機能である(Dvorak,1998;NagyおよびDvorak,1989)。これらの分子に対して最大の浸透性を有する脈管は、腫瘍−宿主の界面に本来備わり、そして最小の浸透性の脈管は、腫瘍塊を実際に貫通している脈管であるということが示された(Dvorak,1988)。この差次的浸透性の結果は、これらの腫瘍特異的抗体および細胞破壊エフェクウター細胞が、腫瘍塊に浸透に失敗し、そして塊の末梢にのみ効果的であるということである。
【0008】
rasにおいて変異を活性化することは、乳癌ではまれであるという事実にもかかわらず、Ras/MAPK経路の活性化は、この疾患の発症および進行に重要であるという増大する一連の証拠が存在する。Ras経路の上流エレメント、特に、レセプターチロシンキナーゼ(PTK)は、乳癌においてしばしば過剰発現される。HER−2/neu(erbB−2)は、全ての乳癌の約30%において過剰発現され(Spandidos 1987;Zhou,1989;Archer,1995)、そして予後のよくない患者と関係がある(Slamon,1989)。NIH−3T3細胞において過剰発現される場合、HER−2は、形質転換を媒介する、しかしながら、ここでの用量は、この形質転換を起こすために必要とされる過剰発現の閾値レベルであると考えられる(Jardines,1993;Clark1995)。HER−2を過剰発現している細胞株は、MAPキナーゼ活性において劇的な増加(これがRas活性を反映する)を示すので、このHER−2の形質転換能力はRas活性に依存する(Janes,1974)。増殖因子レセプターEGFR(HER−2と密接に関係しているが、HER−2と区別される)はまた、乳癌において過剰発現されると観察されており、そしてまた予後の良くない患者と強く相関している(Shackney,1998:Koenders,1991)。
【0009】
Rasの上流のさらなるエレメントもまた、乳癌の病因に関係がある。非レセプターチロシンキナーゼc−Srcは、乳癌の進行を促進させる際の重要な候補である限り、関係がある。多数の研究が、正常な乳房組織と比較した場合、初期乳癌におけるc−Src活性の4倍〜30倍の増加を示す(Verbeeks,1996;JacobsおよびRubsamen,1983)。c−Srcは、エストロゲンレセプターおよびプロゲスチンレセプターの両方に由来するシグナルの、Ras/MAPK経路を介する伝達において重要な役割もまた果たすことが示唆されている。多数の群が、エストラジオールを用いてMCF−7細胞から誘導された乳癌の処置は、c−Srcキナーゼ活性の活性化を生じ、その結果としてMAPKの活性化を生じることが観察されている。(Di Domenico,1996;Migliaccio,1996)。より最近、Migliaccio(1998)は、プロゲスチンで刺激された細胞増殖が、Src/Ras/MAPKシグナル伝達に依存することがT47D乳癌細胞において実証している。これらのステロイドレセプターは、それらのシグナル伝達のためにRasを利用し得るという事実は、Rasが、ERおよびPR陽性乳癌における増殖の促進の際に、より中心的な役割を果たし得ることを示唆する。
【0010】
Ras自体はまた、初期に考えられていた、乳癌の発症においても、より中心的な役割を果たし得る。Rasにおいて変異を活性化することは乳癌発症において稀であるが、正常なH−Rasの過剰発現は乳癌において観察されている(Shackney,1998;Spandidos,1987)。Rasのこの過剰発現は、正常なシグナル伝達を切り離すさらなる機構を供給し、そして腫瘍形成の状態を促進し得る。まとめると、これらの観察は新規の乳癌治療の開発における、活性化されたRas経路を標的とすることの可能性を示唆する。
【0011】
以前に本発明者らは、Ras自身の直接的変異を通してか、あるいはRasの活性化を生ずる上流エレメントを介する、活性化されたRasシグナル伝達経路を含む細胞においてのみレオウィルスが複製可能であることを実証している(Strong,1993;Strong,1998)。さらに本発明者らは、腫瘍に対し作用し得るレオウィルスがインビボでのRas活性化を含むことを実証し得た(Coffey,1998)。ヒト神経膠芽細胞腫株U87を使用し、本発明者らは腫瘍異種移植SCIDマウスモデルを樹立した。U87細胞はRTK PDGFを過剰発現して、Ras活性化を生じ、そしてインビトロでのレオウィルス感染に対する急性の感受性を実証する、適切なモデルとして選択された。SCIDマウスは、U87腫瘍異種移植片を移植され、そして触診可能な腫瘍を樹立の後、その腫瘍は、レオウィルスの単一腫瘍内注射により処置された。この単一処置は劇的な腫瘍後退を生じた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
新生物の増殖を処置するための現在の手段に関する欠点を考慮すると、癌、特に乳癌の殆どのタイプを処置するための改善された方法の必要性がなおも存在する。レオウィルス処置の有効性を予測するためにレオウィルス感受性を決定するのに利用可能な手段を有することが有用である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、例えば以下の項目を提供する。
(項目1) 細胞における構成的ras−MAPシグナル伝達を測定することによりレオウィルス感染に対するその細胞の感受性を決定する方法であって、ここでその構成的シグナル伝達の存在は、レオウィルスによる感染に対する感受性を示す、方法。
(項目2) 上記ras−MAPシグナル伝達が、MAPキナーゼのリン酸化の状態を決定することにより測定される、項目1に記載の方法。
(項目3) 上記MAPキナーゼのリン酸化の状態が、リン酸化されたMAPキナーゼに特異的な抗体を用いて決定される、項目2に記載の方法。
(項目4) 上記細胞が、増殖性障害を有すると考えられる哺乳動物から収集された生物学的サンプルに含まれる、項目1に記載の方法。
(項目5) 上記増殖性障害が神経線維腫症である、項目4に記載の方法。
(項目6) 上記増殖性障害が固形新生物である、項目4に記載の方法。
(項目7) 上記増殖性障害が、肺癌、前立腺癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、腎癌、副腎癌、肝癌、膵臓癌、乳癌、および、中枢神経系の癌ならびに末梢神経系の癌からなる群から選択される、項目4に記載の方法。
(項目8) 上記増殖性障害が乳癌である、項目4に記載の方法。
(項目9) 上記哺乳動物が、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、非ヒト霊長類、およびヒトからなる群から選択される、項目4に記載の方法。
(項目10) 上記哺乳動物がヒトである、項目4に記載の方法。
(項目11) 哺乳動物における増殖性障害を処置する方法であって、その障害は、構成的MAPKリン酸化を示す増殖細胞により特徴づけられ、その増殖細胞の十分な溶解を生ずる条件下で、1以上のレオウィルスの有効量をその哺乳動物中のその増殖細胞に投与する工程を包含する方法。
(項目12) 以下:免疫抑制性薬剤の有効量を、上記哺乳動物中の上記増殖細胞へ投与する工程;その哺乳動物からB細胞またはT細胞を取り出す工程;その哺乳動物から抗レオウィルス抗体を取り出す工程;その哺乳動物から抗体を取り出す工程;その哺乳動物へ抗−抗レオウィルス抗体を投与する工程;およびその哺乳動物の免疫系を抑制する工程、
からなる群から選択される工程をさらに包含する、項目11に記載の方法。
(項目13) 上記レオウィルスが、哺乳動物のレオウィルスおよび鳥類のレオウィルスからなる群から選択される、項目11に記載の方法。
(項目14) 上記レオウィルスが哺乳動物のレオウィルスである、項目13に記載の方法。
(項目15) 上記レオウィルスがヒトレオウィルスである、項目14に記載の方法。
(項目16) 上記レオウィルスが、血清型1レオウィルス、血清型2レオウィルス、および血清型3レオウィルスからなる群から選択される、項目15に記載の方法。
(項目17) 上記レオウィルスが血清型3レオウィルスである、項目16に記載の方法。
(項目18) 上記レオウィルスが鳥類のレオウィルスである、項目13に記載の方法。
(項目19) 1を超える型のレオウィルスが投与される、項目11に記載の方法。
(項目20) 1を超える株のレオウィルスが投与される、項目11に記載の方法。
(項目21) 上記レオウィルスが野外での単離体である、項目11に記載の方法。
(項目22) 上記増殖性障害が新生物である、項目11に記載の方法。
(項目23) 上記増殖性障害が神経線維腫症である、項目11に記載の方法。
(項目24) 上記新生物が固形新生物である、項目22に記載の方法。
(項目25) 上記新生物が、肺癌、前立腺癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、腎癌、副腎癌、肝癌、膵臓癌、乳癌、および中枢神経系の癌ならびに末梢神経系の癌からなる群から選択される、項目22に記載の方法。
(項目26) 上記新生物が中枢神経系の癌である、項目22に記載の方法。
(項目27) 上記新生物が乳癌である、項目22に記載の方法。
(項目28) 上記新生物が造血系の新生物である、項目22に記載の方法。
(項目29) 上記レオウィルスが、注射により上記固形新生物の内部または近くに投与される、項目24に記載の方法。
(項目30) 上記レオウィルスが哺乳動物へと静脈内投与される、項目11に記載の方法。
(項目31) 上記レオウィルスが哺乳動物へと腹腔内投与される、項目11に記載の方法。
(項目32) 上記哺乳動物が免疫応答性である、項目11に記載の方法。
(項目33) 上記レオウィルスが免疫保護される、項目11に記載の方法。
(項目34) 上記レオウィルスがミセル中にカプセル化される、項目11に記載の方法。
(項目35) 上記哺乳動物がヒトである、項目11に記載の方法。
(項目36) 約1〜1015個のプラーク形成単位のレオウィルス/kg体重が投与される、項目11に記載の方法。
(項目37) 上記レオウィルスが単一用量で投与される、項目11に記載の方法。
(項目38) 上記レオウィルスが1を超える用量で投与される、項目11に記載の方法。
(項目39) 上記新生物が転移性である、項目22に記載の方法。
(項目40) さらに、有効量の化学療法薬剤の投与を包含する、項目11に記載の方法。
(項目41) 上記レオウィルスが投与前にプロテアーゼを用いて処理される、項目11に記載の方法。
(項目42) 上記新生物が膵臓癌である、項目22に記載の方法。
(項目43) さらに、実質的に全ての上記新生物の摘出術、および、残存する新生物細胞の実質的な腫瘍崩壊を生じるのに十分な量で、外科手術部位へのレオウィルスの投与、を包含する、項目22に記載の方法。
(項目44) ヒトにおける新生物を処置する方法であって、その新生物は、構成的MAPKリン酸化を示す増殖細胞により特徴づけられ、その新生物細胞の実質的な腫瘍崩壊を生じるのに十分な量で、レオウィルスをその新生物に投与する工程を包含する、方法。
(項目45) 上記レオウィルスが、注射により固形新生物の内部または近くに投与される、項目44に記載の方法。
(項目46) さらに、以下:免疫抑制性薬剤の有効量を、哺乳動物中の上記増殖細胞へ投与する工程;その哺乳動物からB細胞またはT細胞を取り出す工程;その哺乳動物から抗レオウィルス抗体を取り出す工程;その哺乳動物から抗体を取り出す工程;その哺乳動物へ抗−抗レオウィルス抗体を投与する工程;およびその哺乳動物の免疫系を抑制する工程、
からなる群から選択される工程を包含する、項目44に記載の方法。
(項目47) 哺乳動物中の新生物の転移を阻害する方法であって、その新生物は構成的MAPKリン酸化を示す増殖細胞により特徴づけられ、その新生物細胞の実質的な腫瘍崩壊を生じるのに十分な量で、レオウィルスを哺乳動物に投与する工程を包含する、方法。
(項目48) さらに、以下:免疫抑制性薬剤の有効量を上記哺乳動物中の上記増殖細胞へ投与する工程;その哺乳動物からB細胞またはT細胞を取り出す工程;その哺乳動物から抗レオウィルス抗体を取り出す工程;その哺乳動物から抗体を取り出す工程;その哺乳動物へ抗−抗レオウィルス抗体を投与する工程;およびその哺乳動物の免疫系を抑制する工程、
からなる群から選択される工程を包含する、項目47に記載の方法。
(項目49) 哺乳動物において疑わしい新生物を処置する方法であって、その新生物は、構成的MAPKリン酸化を示す増殖細胞により特徴づけられ、実質的に全てのその新生物の摘出術、およびその手術部位またはその近くへの、レオウィルスの有効量の投与を包含し、その結果残存する新生物細胞の腫瘍崩壊を生じる、方法。
(項目50) さらに、以下:免疫抑制性薬剤の有効量を上記哺乳動物中の増殖細胞へ投与する工程;その哺乳動物からB細胞またはT細胞を取り出す工程;その哺乳動物から抗レオウィルス抗体を取り出す工程;その哺乳動物から抗体を取り出す工程;その哺乳動物へ抗−抗レオウィルス抗体を投与する工程;およびその哺乳動物の免疫系を抑制する工程、
からなる群から選択される工程を包含する、項目49に記載の方法。
【0014】
(発明の要旨)
本発明は、構成的なras−MAPシグナル伝達を測定することにより、レオウィルス感染に対する細胞の感受性を同定する方法に関する。本発明はまた、細胞増殖性障害、特に哺乳動物における細胞増殖性障害(ここで、増殖細胞が構成的なMAPKリン酸化を示す)の処置のためにレオウィルスを用いる方法を提供する。特に、この方法は、乳癌(ras遺伝子の変異が重要な役割を果たしていないと考えられる腫瘍のサブセット)を含む増殖性障害を処置するための、哺乳動物のレオウィルス処置のために提供される。
【0015】
本発明はまた、細胞増殖性障害、特に哺乳動物における細胞増殖性障害(これは構成的MAPKリン酸化を示す)の処置において、レオウィルス認識を防止する方法に関する。哺乳動物は、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、ヒト、および非ヒトの霊長類から選択され得る。この方法は、増殖細胞の実質的な溶解を生ずる条件の下で、1以上のレオウィルスの有効量を増殖細胞に投与することを包含する。
【0016】
レオウィルスは、哺乳動物のレオウィルスまたは鳥類のレオウィルスであり得る。レオウィルスは、外側のカプシドが除去されるか、ビリオンがリポソームまたはミセルにパッケージングされるか、あるいは外側のカプシドのタンパク質が変異されているように改変され得る。レオウィルス薬剤は、単一投与または複数投与において投与され得る。増殖性障害は新生物であり得る。固形および造血性新生物の両方が標的化され得る。免疫抑制の前、と同時、または後の使用は、より効果的なレオウィルス処置を生じ得る。
【0017】
従って、ある局面において、本発明は、構成的なras−MAPシグナル伝達(ここで、このシグナル伝達の存在は、レオウィルスによる感染に対する感受性を示す)を測定することにより、レオウィルス感染に対する細胞の感受性を決定する方法を提供する。構成的なras−MAPシグナル伝達は、マイトジェンがあろうとなかろうと、MAPキナーゼの活性化を生じ、そして、MAPキナーゼの活性化は、MAPキナーゼのリン酸化を導く。従って、MAPキナーゼリン酸化の状態は、構成的なras−MAPシグナル伝達の測定として決定され得る。このMAPキナーゼリン酸化の状態は、当該分野で確立された任意の方法(特に、リン酸化されたMAPキナーゼに特異的な抗体の使用による方法)により決定され得る。
【0018】
従って、本発明を使用して、レオウィルスを用いて処置され得る増殖性障害を診断し得る。このように、生物学的サンプルは、増殖性障害を有する疑いのある哺乳動物から収集され得、そしてこのサンプル中の細胞は、本発明に従って、構成的なras−MAPシグナル伝達について試験される。増殖性障害は、神経線維腫症のような、異常な活性細胞増殖と関連する任意の条件であり得る。より好ましくは、この増殖性障害は、肺癌、前立腺癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、腎癌、副腎癌、肝癌、膵癌、乳癌、および、中枢神経系の癌ならびに末梢神経系の癌からなる群から選択される。特に好ましい増殖性障害は、乳癌である。
【0019】
本発明は、増殖性障害を有する任意の動物に適用し得る。好ましくは、この動物は哺乳動物である。より好ましくは、この動物はイヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、非ヒトの霊長類、およびヒトからなる群より選択される。最も好ましくは、この動物はヒトである。
【0020】
さらなる局面において、本発明は、哺乳動物において増殖性障害を処置する方法であって、この障害は、構成的なMAPKリン酸化を示す増殖細胞により特徴付けられ、増殖細胞の実質的な溶解を生ずる条件下で、1以上のレオウィルスの有効量をこの哺乳動物中の増殖細胞に投与する工程を包含する、方法を提供する。以下;免疫抑制薬の有効量を、前記哺乳動物中の増殖細胞へ投与する工程;該哺乳動物からB細胞またはT細胞を取り出す工程;該哺乳動物から抗レオウィルス抗体を取り出す工程;該哺乳動物から抗体を取り出す工程;該哺乳動物へ抗−抗レオウィルス抗体を投与する工程;および該哺乳動物の免疫系を抑制する工程、からなる群から選択される工程をさらに包含する方法がまた、化学療法剤の投与をさらに含む方法と同様に、提供される。
【0021】
ヒトにおいて新生物を処理する方法であって、この新生物は、構成的なMAPKリン酸化を示す増殖細胞により特徴付けられ、新生物細胞の実質的な腫瘍崩壊を生ずるのに十分な量のレオウィルスを新生物に投与する工程を包含する、方法もまた提供される。好ましくは、レオウィルスは、全身的に、または固形新生物の内部あるいは近くへの注射により投与される。以前に、同時に、または後で、哺乳動物の免疫系を抑制、または他に免疫系を弱める工程を更に包含する方法もまた含まれる。
【0022】
哺乳動物において新生物の転移を阻害する方法であって、この新生物は、構成的なMAPKリン酸化を示す増殖細胞により特徴付けられ、新生物細胞の実質的な溶解を生ずるのに十分な量のレオウィルスを哺乳動物に投与する工程を包含する、方法もまた提供される。以前に、同時に、または後で、哺乳動物の免疫系を抑制、または別な方法で免疫系を弱める工程を更に包含する方法もまた含まれる。
【0023】
哺乳動物において、疑わしい新生物を処置する方法であって、この新生物は、構成的なMAPKリン酸化を示す増殖細胞により特徴付けられ、実質的に全ての新生物を外科的に摘出する工程、および、手術部位またはその近くでレオウィルスの有効量を投与する工程を包含、残存する新生物細胞の腫瘍崩壊を生じる、方法もまた提供される。レオウィルスはまた全身的に投与され得る。以前に、同時に、または後で、哺乳動物の免疫系を抑制、または別な方法で免疫系を弱める工程を更に包含する方法がまた含まれる。
【0024】
レオウィルスの有効量および薬学的に受容可能な賦形剤を包含する薬学的組成物もまた提供される。免疫抑制薬または免疫阻害因子、レオウィルスおよび薬学的に受容可能な賦形剤を含む薬学的組成物もまた提供される。レオウィルスおよび、必要に応じて免疫抑制薬または免疫阻害因子を含むキットもまた提供される。
【0025】
本発明の方法および薬学的組成物は、癌治療の他の形式に付随した副作用なしに、新生物を処置するための有効な手段を提供する。使用する場合、免疫系の阻害または抑制が、構成的なMAPKリン酸化を示す増殖細胞に感染し、そして溶解するレオウィルスの有効性を増加する。なぜなら、抗レオウィルス抗体が形成されないからである。レオウィルスは疾患に付随しているとは知られていないので、ウィルスの入念な投与に付随したいかなる安全性懸案事項も最小限となる。
【0026】
本発明の前述のおよび他の目的、特徴および利点は、添付の図面に図示されるように、本発明の好ましい実施形態の、以下のより詳細な説明から明白である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(発明の詳細な説明)
既に本発明者らは、SCIDマウスモデルにおけるヒト神経膠芽細胞腫異種移植に対する有効な腫瘍崩壊剤として、ヒトレオウィルスが使用され得たことを示している(WO99/08692)。本明細書では、本発明者らは、細胞の構成的なras−MAPシグナル伝達の存在が、レオウィルスによる感染に対する感受性を示すので、そのようなシグナル伝達を測定することにより、レオウィルス感染に対する細胞性感受性が決定され得ることを見出した。本発明者らはまた、レオウィルスが、乳癌に対して腫瘍崩壊剤として有用であるという証拠を提示する。ras変異は、乳癌の病因においてまれであるが、上流シグナルエレメント(例えば、レセプターチロシンキナーゼおよび非レセプターチロシンキナーゼ(例えば、c−Src))を介する異常なRas/MAPKシグナル伝達は、共通している。
【0028】
モノクローナル抗体による乳癌の処置が十分に機能を果たし得ない(上記の議論参照のこと)のと同じ理由のために、レオウィルスは魅力的な癌治療であり得る。第一に、レオウィルスそのものは細胞殺傷剤であり、腫瘍後退を引き起こすために免疫効果細胞(immune effector cell)に頼らない。実際に、感染した細胞を死滅させる自然機構は、ウィルス複製による直接溶解を介する(TylerおよびFields,1996)。第二に、レオウィルスは、Rasの活性化の存在するそれらの乳癌を標的にする。この活性化は、Rasの変異を活性化すること(実のところ、乳癌のまれなサブセット)に制限されず、Ras自身の上流にあるエレメントにより引き起こされるRasの活性化も含む。これらのエレメントは、レセプターチロシンキナーゼ(例えば、EGFRおよびHER2)を含むだけでなく、非レセプターチロシンキナーゼ(例えば、Srcファミリーメンバー)も含む。まとめると、このタイプの治療は、乳癌と同様に異質な腫瘍タイプに対して大きな効果をもって使用でき、そして、レセプターのみを標的にする方法と同様の限られたストラテジーではない。最後に、抗体が固形腫瘍塊内に浸透できないことは、レオウィルスが腫瘍内部に送達された場合、注意されずに複製していることを示唆する。従って、増殖性障害の細胞がレオウィルスによる感染に対して感受性であるかどうかを知ることは、そのような処置の効力を予測するために有用である。
【0029】
Srcファミリーキナーゼがレオウィルス感染を仲介し得るかどうかを評価するため、非感染性NIH−3T3細胞をv−srcにより形質転換し、次いでレオウィルスでチャレンジした。本発明者らは、v−srcシグナル伝達がレオウィルス感染に対する感染性を与えることを決定した。
【0030】
本発明者らは、次に、インビトロでのレオウィルス複製のために、5つの乳癌細胞株;MDA−MB−468、MCF7、MDA−MB−435、T47D、およびSK−BR−3ならびに、正常乳房組織に由来する細胞株HBL−100を試験した。5つの腫瘍由来の細胞株全てがレオウィルスによって感染され得、一方HBL−100はウィルスを有効に複製し得なかった。
【0031】
これらの細胞株においてRas経路が実際に活性化されるかどうかを決定するため、MAPKリン酸化のレベルを血清の存在下及び非存在下で評価した。感染可能なそれらの細胞株は、マイトジェン非存在下でさえも、構成的なMAPKリン酸化を示した。一方、レオウィルス感染に感受性でない細胞株は、血清の存在下でのみMAPKリン酸化を示した。従って、構成的なMAPKリン酸化は、レオウィルス感染に対する感受性の指標である。
【0032】
レオウィルスが乳癌に対しインビボで腫瘍崩壊剤として使用可能かを決定するため、SCIDマウス中にMDA−MB−468ヒト腫瘍異種移植片を移植した。触診可能な腫瘍の樹立後、マウスをレオウィルスの単一注射により処置し、腫瘍の大きさを4週間の間監視した。この単一注射は、腫瘍サイズの劇的な退縮を示した。最後に、初期乳癌腫瘍に対して作用するレオウィルスの能力を決定した。その結果は、種々の患者から収集した生検サンプルにおいてレオウィルスが複製し得たことを示す。従って、多数の乳癌は、レオウィルス感染に感受性を有する。
【0033】
名称レオウィルス(espiratory and nteric rphan virus)は、これらのウィルスが、ヒトにおける公知の疾患状態に付随していないけれども、これらのウィルスは呼吸管のおよび腸管から単離され得ることを示唆する記述頭文字である(Sabin,A.B.(1959)、Science 130:966)。用語「レオウィルス」は、レオウィルス属に分類される全てのレオウィルスを言う。
【0034】
レオウィルスは、二本鎖で断片化されたRNAゲノムを有するウィルスである。ビリオンは、直径60〜80nmの大きさであり、それぞれが正二十面体である2つの同心性のカプシド殻を有する。ゲノムは、全ゲノムサイズ16〜27kbpの、10〜12の別個の断片の二本鎖RNAからなる。個々のRNA断片は種々の大きさである。3つの別個の、しかし関連した型のレオウィルスが、多数の種から回収されている。3つの型全てが、共通の補体結合性抗原を共有する。
【0035】
ヒトレオウィルスは3つの血清型からなる:1型(Lang株またはT1L)、2型(Jones株、T2J)、および3型(Dearing株またはAbney株、T3D)。これら3つの血清型は、中和および血球凝集素阻害アッセイに基づいて容易に同定可能である(Sabin,A.B.(1959)、Science 130:966;Fields,B.N.ら(1996)、Fundamental Virology,第3版, Lippincott−Raven;Rosen,L.(1960)Am.J.Hyg.71:242;Stanley,N.F.(1967)Br.Med.Bull.23:150)。
【0036】
レオウィルスはいかなる特殊な疾患にも付随するとは知られていないが、多数のヒトが成人期に至るまでにレオウィルスにさらされている(すなわち、5歳未満の子供において25%未満、20〜30歳において50%を超える(Jackson G.G.およびMuldoon R.L.(1973)J.Infect.Dis.128:811;Stanley N.F.(1974)In:Comparative Diagnosis of Viral Diseases,E.KurstakおよびK.Kurstakらにより編集、385−421,Academic Press,New York)。
【0037】
哺乳動物のレオウィルスに関して、細胞表面認識シグナルはシアル酸である(Armstrong,G.D.ら(1984)、Virology 138:37;Gentsch,J.R.K.およびPacitti,A.F.(1985)、J.Virol.56:356;Paul R.W.ら(1989)Virology 172:382−385)。シアル酸の遍在性の性質に起因して、レオウィルスは多数の細胞株に効率的に結合し、それ自体多くの異なる組織を潜在的に標的にし得る;しかしながら、細胞株の間でレオウィルス感染に対する感受性において重要な違いがある。
【0038】
本明細書中に記載されるように、本出願人は、構成的MAPKリン酸化を示す細胞がレオウィルス感染に対して感受性であることを発見した。レオウィルス感染に対して細胞が「耐性である」とは、ウィルスによる細胞の感染が、有意なウィルス産生または産出を生じなかったことを示す。「感受性である」細胞は、細胞変性効果、ウィルスタンパク質合成、および/またはウィルス産生の誘導を示す細胞である。レオウィルス感染に対する耐性は、初期転写よりもむしろ遺伝子翻訳のレベルにおいて見出された:ウィルス転写物が産生されたが、ウィルスタンパク質は発現されなかった。
【0039】
SCIDマウスへのヒト腫瘍細胞の移植は、ヒトにおける様々な抗腫瘍剤の有効性を試験するための周知のモデルシステムとして認識される。以前に、SCIDマウスに移植されたヒト腫瘍に対して有効な薬剤は、ヒトにおいて同腫瘍に対して有効であることが推定されることが示されている。
【0040】
これらの発見に基づき、本出願人は、構成的なras−MAPシグナル伝達を測定することによりレオウィルス感染に対する感受性を決定するための方法、および哺乳動物において増殖性障害(ここで、増殖細胞は構成的MAPKリン酸化を示す)を処置するための方法、を開発した。代表的な哺乳動物はイヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、非ヒト霊長類、およびヒトを含む。好ましい実施形態において、哺乳動物はヒトである。
【0041】
本発明の診断方法において、増殖細胞のMAPKリン酸化のレベルが、マイトジェンの存在または非存在下において決定される。細胞におけるそのような構成的ras−MAPシグナル伝達の存在は、レオウィルス感染に対する感受性を示している。
【0042】
本発明の処置方法において、レオウィルスが,構成的MAPKリン酸化を示す個体哺乳動物中の増殖細胞に投与される。本発明の一つの実施形態では、一連のレオウィルス治療が1回以上投与される。
【0043】
本発明の方法において、レオウィルスが、構成的MAPKリン酸化を示す個体哺乳動物中の増殖細胞に投与される。使用され得るヒトレオウィルスの代表的な型は、1型(例えばLang株またはT1L);2型(例えばJones株またはT2J);および3型(例えばDearing株またはAbney株、T3DまたはT3A)を含み;レオウィルスの他の株もまた使用され得る。好ましい実施形態において、レオウィルスはヒトレオウィルス血清型3であり、より好ましくは、レオウィルスはヒトレオウィルス血清型3、Dearing株である。あるいは、レオウィルスは、非ヒト哺乳動物のレオウィルス(例えば、非ヒト霊長類レオウィルス(例えば、ヒヒレオウィルス、ウマのレオウィルス、またはイヌのレオウィルス))、または非哺乳動物のレオウィルス(例えば、鳥類のレオウィルス)であり得る。異なる動物種由来のレオウィルスのような、レオウィルスの異なる血清型および/または異なる株の組み合わせは使用され得る。
【0044】
レオウィルスは、天然に生じるものであっても、改変されていてもよい。レオウィルスは、:それが自然源から単離され得、そして実験室においてヒトにより意図的に改変されていない場合、「天然に生じる」ものである。例えば、レオウィルスは「現場供給源(field source)」由来(例えば患者由来)であり得る。
【0045】
レオウィルスは改変され得るが、なおも構成的MAPKリン酸化を示す哺乳動物細胞に溶解的に感染し得る。レオウィルスは、増殖細胞に投与される前に化学的あるいは生物化学的に前処理され得る(例えば、プロテアーゼ(例えば、キモトリプシンまたはトリプシン)による処理)。プロテアーゼによる前処理は、ウィルスの外殻又はキャプシドを取り除き、ウィルスの感染性を増加し得る。レオウィルスは、リポソームまたはミセルでコートされて(ChandronおよびNibert,「Protease cleavage of reovirus capsid protein mu1 and mu1C is blocked by alkyl sulfate detergents, yielding a new type of infectious subvirion particle」、J.of Virology 72(1):467−75(1998))レオウィルスに対する免疫を生じた哺乳動物からの免疫応答を減少あるいは予防し得る。例えば、ビリオンは、新規の、感染性の不完全ウィルス性粒子(ISVP)を生成するため、アルキル硫酸塩界面活性剤のミセル形成濃度の存在下においてキモトリプシンにより処理され得る。ISVPは、単独で、または十分に認識されていない、あるいは患者の免疫系により以前に防止されていない薬剤を供給する全ウィルスとの組み合わせにおいてのいずれかにより使用され得る。
【0046】
レオウィルスは、異なる病原性のフェノタイプである2つ以上の型のレオウィルスに由来する組み換え型レオウィルスであり得る。その結果、異なる抗原性決定因子を含み、それにより、既にレオウィルスサブタイプにさらされた哺乳動物による免疫応答を減少または防止し得る。このような組み換え型ビリオン(再組み合わせ物(reassortant)としても知られる)は、レオウィルスの異なるサブタイプによる哺乳動物細胞の同時感染により生成され得る。その結果異なるサブタイプの被膜タンパク質の再分類および得られるビリオンキャプシドへのそれらの取り込みを生じる。
【0047】
レオウィルスは、ビリオン外部キャプシドへの、変異した被膜タンパク質(例えばσ1のような)の取り込みにより改変され得る。タンパク質は、置換、挿入あるいは欠失により変異され得る。置換(replacement)は、本来のアミノ酸の代わりに異なるアミノ酸を挿入することである。挿入(insertion)は、1つ以上の位置でタンパク質にさらなるアミノ酸残基を挿入することを含む。欠失(deletion)は、タンパク質における1以上のアミノ酸残基の欠失を含む。そのような変異は、当該分野において公知の方法により生成され得る。例えば、被膜タンパク質の1つをコードする遺伝子のオリゴヌクレオチド部位特異的変異誘発は、所望の変異体被膜タンパク質の生成を生じ得る。COS1細胞のような、インビトロでのレオウィルスに感染された哺乳動物細胞における変異型タンパク質の発現は、レオウィルスビリオン粒子への変異型タンパク質の取り込みを生じる(TurnerおよびDuncan、「Site directed mutagenesis of the C−terminal
portion of reovirus protein sigma1:evidence for a conformation−dependent receptor binding domain」Virology 186(1):219−27(1992);Duncanら、「Conformational and functional analysis of the C−terminal globular head of the reovirus cell attachment protein」Virology 182(2):810−9(1991);Mahら、「The N−terminal quarter of reovirus cell attachment protein sigma 1 possesses intrinsic virion−anchoring function」Virology 179(1):95−103(1990))。
【0048】
レオウィルスは、好ましくは、レオウィルスに対する免疫応答を減少または排除するために改変されたレオウィルスである。そのような改変型レオウィルスは「免疫防御型レオウィルス」と称される。そのような改変は、哺乳動物の免疫系からレオウィルスを遮蔽するため、リポソーム、ミセル、または他のビヒクル中へのレオウィルスのパッケージングを含み得た。あるいは、レオウィルスビリオン粒子の外部キャプシドは、その外部キャプシドに存在するタンパク質が宿主の体液性応答および細胞性応答の主要な決定因子であるため、除去され得る。
【0049】
「増殖性障害」は、正常な組織増殖よりも急速に細胞が増殖する任意の細胞性障害である。このように、「増殖細胞」は、正常な細胞よりも急速に増殖している細胞である。増殖性障害としては新生物が挙げられるが、これに限定されない。新生物は異常な組織増殖であり、概して、識別可能な塊(正常な組織増殖よりも急速に細胞増殖により増殖する)を形成する。新生物は、構造組織化および正常組織との機能的協調の部分的または全体的な欠乏を示す。これらは、広範には、3つの主要な型に分類され得る。上皮構造物から生じる悪性新生物は癌腫と呼ばれ、筋肉、軟骨、脂肪または骨のような結合組織から起こる悪性新生物は肉腫と呼ばれ、免疫系の構成要素を含む造血性構造物(血液細胞の形成に関連する構造物)に影響する悪性腫瘍は白血病およびリンパ腫と呼ばれる。腫瘍は疾患の癌の新生物増殖である。本明細書中で使用する場合、「腫瘍」とも言われる「新生物」は、造血系の新生物および固形新生物を含むことが意図される。他の増殖性障害としては神経線維腫症が挙げられるが、これに限定されない。
【0050】
本発明の方法を用いて処置される増殖性障害の細胞の少なくともいくつかは、構成的MAPKリン酸化を示す。同様に、本発明の方法を用いてレオウィルス感染に対して感受性であると決定される細胞の少なくともいくつかは、構成的MAPKリン酸化を示す。
【0051】
「B細胞」とはBリンパ球を言う。Bリンパ球の2つの主要な部分母集団、B−1細胞およびB−2細胞が存在する。B−1細胞は自己再生し、頻繁には、相対的に低親和性で一定範囲の抗原に結合する(多特異性)抗体を分泌する。B細胞の大多数(B−2細胞)は、骨髄において前駆物質から直接生成され、非常に特異的な抗体を分泌する。
【0052】
「T細胞」とはTリンパ球を言う。T細胞は胸腺内で分化し、細胞内生物を有する細胞に対して作動するよう特殊化される。抗原が体細胞の表面に存在する場合、T細胞は抗原だけを認識する。
【0053】
「抗レオウィルス抗体」はレオウィルスに結合する抗体のことを言う。「IgG抗体」は免疫グロブリンG抗体のことを言う。抗体の最も豊富なタイプであるIgGは、細菌毒素の中和、およびそれらの貪食作用を増進する微生物への結合の主要な義務を有する。「ヒト化抗体」は、より厳密にヒト抗体に似るように非抗原結合領域内のアミノ酸配列が変えられており、かつその本来の結合能力をなおも保持している抗体分子を言う。
【0054】
「増殖細胞または新生物への投与」は、レオウィルスが、増殖細胞または新生物の細胞(cells of the neoplasm)(ここで「新生物形成細胞(neoplastic cells)」とも言う)と接触するような様式で投与されることを示す。レオウィルスが投与される経路、および処方、キャリアまたはビヒクルは、新生物の位置および新生物のタイプに依存する。広く多様な投与経路が使用され得る。例えば、到達可能な固形新生物に関しては、レオウィルスは新生物に直接注射により投与され得る。例えば、造血系の新生物に関しては、レオウィルスは静脈内投与、または血管内投与され得る。体内での容易に到達し得ない新生物(転移癌または脳腫瘍のような)に関しては、レオウィルスは、哺乳動物の体中を全身に輸送され得、それにより新生物に到達し得る様式で(例えば、鞘内に、静脈内に、または筋肉内に)投与される。あるいは、レオウィルスは、次いで体中を転移癌にまで全身に運ばれる場合、直接単一の固形新生物に投与され得る。レオウィルスはまた、皮下投与、腹腔内投与、局所的投与(例えば黒色腫のために)、経口投与(例えば、口または食道の新生物のために)、直腸投与(例えば結腸直腸の新生物のために)、膣投与(例えば子宮頸部の、または膣の新生物のために)、鼻投与または吸入スプレー(例えば肺新生物のために)により投与され得る。
【0055】
レオウィルスは、免疫無防備状態であるか、またはレオウィルスエピトープに対する免疫を生じていない哺乳動物に全身投与され得る。そのような場合において、全身投与(すなわち静脈内注射により)されたレオウィルスは増殖細胞に接触し、細胞の溶解を生ずる。処置される哺乳動物がより高い力価の抗レオウィルス抗体を有する場合、有効であるために、より多くのレオウィルスが投与されねばならない。
【0056】
以前にレオウィルスサブタイプに晒された免疫応答性哺乳動物は、そのレオウィルスサブタイプへの体液性免疫および/または細胞性免疫を生じさせてい得る。それにもかかわらず、免疫応答性哺乳動物中の固形腫瘍へのレオウィルスの直接注射は新生物細胞の溶解を生ずることが見いだされた。一方、レオウィルスが免疫応答性哺乳動物に全身投与される場合、その哺乳動物はレオウィルスに対する免疫応答を産生し得る。レオウィルスが、哺乳動物が免疫を生じていないサブタイプのレオウィルスである場合、または、本明細書中で前に述べたように、例えば外側キャプシドのプロテアーゼ消化またはミセルでのパッケージングにより、免疫防御されるように改変されたレオウィルスである場合、そのような免疫応答は回避され得る。
【0057】
あるいは、レオウィルスに対する哺乳動物の免疫応答性は、概して免疫系を抑制することが当該分野で公知の薬剤の事前投与または同時投与のいずれかにより(Cuffら、「Enteric reovirus infection as a probe to study immunotoxicity of
the gastrointestinal tract」Toxicological Sciences 42(2):99−108(1998))、または、もう一つの方法として、抗−抗レオウィルス抗体のような免疫阻害因子(immunoinhibitor)の投与により、抑制され得ることが企図される。レオウィルスに対する哺乳動物の体液性免疫はまた、抗レオウィルス抗体を取り出すため、哺乳動物の血液のプラスマフェレーシス(plasmaphoresis)により一時的に減少または抑制され得る。さらに、レオウィルスに対する哺乳動物の体液性免疫はまた、哺乳動物への非特異的免疫グロブリンの静脈内投与により、一時的に減少または抑制され得る。
【0058】
レオウィルスは、免疫抑制薬(immunosuppresstant)および/または免疫阻害因子の投与との組み合わせで、レオウィルスに対して免疫された免疫応答性の哺乳動物に投与され得ることが企図される。このような免疫抑制薬および免疫阻害因子は当業者に公知であり、シクロスポリン、ラパマイシン、タクロリムス(tacrolimus)、マイコフェノール酸(mycophenolic acid)、アザチオプリン(azathioprine)、およびそれらのアナログなどのような薬剤を含む。同様に免疫抑制の性質を有する、他の薬剤も公知である(例えば、GoodmanおよびGilman,第7版、1242頁、(その開示内容は、参考として本明細書中で援用される)を参照のこと)。そのような免疫阻害因子はまた「抗−抗レオウィルス抗体」(抗レオウィルス抗体に対して向けられた抗体)も含む。そのような抗体は、当該分野で公知の方法により作製され得る。例えば、「Antibodies:A laboratory manual」E.HarlowおよびD.Lane,Cold Spring Harbor Laboratory(1998)参照のこと。そのような抗−抗レオウィルス抗体は、レオウィルス投与の前に、同時に、またはすぐ後に投与され得る。好ましくは、有効量の抗−抗レオウィルス抗体は、投与されたレオウィルスに対する哺乳動物による免疫応答を減少または排除するのに十分な時間で投与される。用語「免疫抑制薬」または「免疫抑制性薬剤」は、従来の免疫抑制薬、免疫阻害因子、抗体、および免疫系の無防備状態を生じさせる条件(例えば、放射線治療またはHIV感染)を含む。
【0059】
用語「実質的な溶解」は、少なくとも10%の増殖細胞が溶解されることを意味し、より好ましくは少なくとも50%の細胞、最も好ましくは少なくとも75%の細胞が溶解されることである。溶解の割合は、哺乳動物中の腫瘍のサイズの減少またはインビトロでの腫瘍細胞の溶解、を測定することにより、腫瘍細胞に関して決定し得る。
【0060】
「増殖性障害を有している疑いのある哺乳動物」は、哺乳動物が、増殖性障害または腫瘍を有し得るか、または増殖性障害または腫瘍と診断されたか、または以前に増殖性障害または腫瘍と診断され、その腫瘍またはその腫瘍の実質的に全てが外科的に摘出され、そしてその哺乳動物がいくらかの残存の腫瘍細胞を含んでいる疑いのある、ことを意味する。
【0061】
本発明はまた、「薬学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤」と共に、活性成分として、一つ以上の免疫抑制薬または免疫阻害因子、および一つ以上のレオウィルスを含有する、薬学的組成物も含む。本発明の組成物を作製する際に、活性成分/免疫抑制薬または免疫阻害因子およびレオウィルスは、通常、賦形剤と混合される、賦形剤により希釈される、またはそのようなキャリア(カプセル、小袋、紙、または他のコンテナーの形態で存在し得る)内に封入される。薬学的に受容可能な賦形剤が希釈剤として役立つ場合、その賦形剤は固形の、半固形の、または液状の物質であり得、それらは、活性成分のために、ビヒクル、キャリア、または媒体として働く。従って、組成物は、錠剤、丸剤、散剤、菓子錠剤、小袋、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁液、乳剤、溶液、シロップ剤、エーロゾル剤(固形として、または液性媒体において)、軟膏剤(例えば、活性化合物を10重量%までで含有する)、軟質のおよび硬質のゼラチンカプセル剤、坐剤、無菌の注射可能の液剤、および無菌のパッケージ化された散剤の形態で存在し得る。
【0062】
適切な賦形剤のいくつかの例は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップ、メチルセルロースを含む。処方物はさらに:タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱油のような潤滑剤;湿潤剤;乳化および懸濁剤;メチル−およびプロピルヒドロキシ−ベンゾエートのような保存薬;甘味剤;および矯味矯臭薬を含み得る。本発明の組成物は、当該分野で公知の手順を用いることによる患者への投与後の活性成分の迅速な放出、持続性の放出、または遅延性の放出を提供するように処方され得る。
【0063】
錠剤のような固形組成物の調製のために、主要な活性成分/(免疫抑制薬または免疫阻害因子、およびレオウィルス)が薬剤賦形剤と混合されて、本発明の化合物の均質的混合物を含有する固形予備処方組成物を形成する。これらの予備処方組成物を均質であるという場合、活性成分は、組成物全体にわたり均等に分散されることを意味される。その結果、組成物は、錠剤、丸剤、およびカプセル剤のような、均等に有効な単位投薬形態に容易に細分され得る。
【0064】
本発明の錠剤または丸剤は、コーティングされるか、または、別に調合されて、長期作用の利点を生じる投薬形態を提供し得る。例えば、錠剤または丸剤は、内部投薬成分および外部投薬成分を含有し得、後者は前者一面を覆う形態をとる。この2つの成分は腸溶性の層で分けられ得、この腸溶性の層は、胃での崩壊に耐え、そして内部成分をインタクトに十二指腸の中に入れること、または内部成分の放出を遅らせることを可能にするように役立つ。様々な物質が、このような腸溶性の層またはコーティングのために使用され得る、そのような物質としては多数の重合体の酸、および、シェラック、セチルアルコール、および酢酸セルロースのような物質と重合体の酸との混合物を含む。
【0065】
本発明の新規組成物が経口的な投与のためにまたは注射による投与のために取り込まれ得る液体形態は、水溶液、適当に味の付いたシロップ、水性のまたは油性の懸濁液、および食用油(例えば、トウモロコシ油、綿実油、ゴマ油、ココナッツ油、または落花生油を有する味の付いた乳剤、ならびにエリキシル剤、および類似の薬剤ビヒクル)を含む。
【0066】
吸入法またはガス注入法のための組成物は、薬学的に受容可能な水性または有機溶媒、あるいはその混合物中の溶液及び懸濁液、ならびに粉末を含む。液体または固形の組成物は、本明細書中に記載されているような、適切な薬学的に受容可能な賦形剤を含有し得る。好ましくは、組成物は、局所または全身性効果のために、口または鼻の呼吸性経路で投与される。好ましくは、薬学的に受容可能な溶媒中の組成物は、不活性ガスの使用により霧状にされ得る。霧状にされた溶液は、噴霧デバイスから直接吸入され得るか、または噴霧デバイスが顔マスクテントまたは間欠的陽圧呼吸機械に取り付けられ得る。溶液、懸濁液、または粉剤組成物は、適切な様式で処方物を送達するデバイスから、好ましくは経口的にまたは鼻に投与され得る。
【0067】
本発明の方法において使用される他の好ましい処方は、経皮性送達デバイス(「パッチ」)を使用する。そのような経皮性パッチは、規制された量での、本発明のレオウィルスの連続的または非連続的な注入を提供するために使用され得る。製薬薬剤の送達のための経皮性パッチの構成および使用は、当該分野で周知である。例として、米国特許第5,023,252号(参考として本明細書中で援用されている)参照のこと。そのようなパッチは、連続的な、拍動性の、または要求に応じた製薬薬剤の送達のために構成され得る。
【0068】
本発明での使用に関して別の適切な処方物は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(その開示内容は参考として本明細書中で援用されている)において見い出され得る。
【0069】
免疫抑制薬または免疫阻害因子、およびレオウィルス、または薬学的組成物(免疫抑制薬または免疫阻害因子、およびレオウィルスを含有する)は、適切な容器にパッケージして必要物質を供給する便利なキットにパッケージされ得る。そのキットは化学療法剤も含み得ることが企図される。
【0070】
免疫抑制薬または免疫阻害因子は、哺乳動物の免疫系の免疫抑制または免疫阻害を生じるのに十分な適当量において、そして適当な投与スケジュールを用いて投与される。そのような量やスケジュールは、当業者に周知である。
【0071】
レオウィルスは、増殖性障害を処置するために十分な量(例えば、「有効量」)で投与される。増殖細胞へのレオウィルスの投与が増殖細胞の溶解を引き起こす場合、増殖性障害は「処置」される。これは、新生物のサイズの減少、または新生物の完全な排除を結果として生じ得る。概して、新生物のサイズの減少、または新生物の排除は、レオウィルスによる新生物細胞の溶解(「腫瘍崩壊」)により引き起こされる。好ましくは、有効量は、腫瘍細胞増殖を阻害し得る量である。好ましくは、有効量は約1.0pfu/kg体重〜約1015pfu/kg体重であり、より好ましくは約10pfu/kg体重〜約1013pfu/kg体重である。例えばヒトの処置に関して、約10〜1017個のプラーク形成単位(PFU)のレオウィルスが使用され得、存在する腫瘍の型、サイズ、および数によって決められる。有効量は個体基準で決定され、少なくとも部分的には、以下;レオウィルスの型;選択された投与経路;個体の大きさ、年齢、性;患者の症状の重症度;新生物の大きさと他の性質;などの考慮事項に基づき得る。治療過程は、数日から数ヶ月まで、または疾患の縮小が達成されるまで続け得る。
【0072】
免疫抑制薬または免疫阻害因子、およびレオウィルスは、単一用量または複数用量(すなわち、1より多い用量)で投与され得る。複数用量は、同時または連続的に(例えば、日または週期間にわたって)投与され得る。レオウィルスはまた、同個体において1つより多くの新生物に対して投与され得る。
【0073】
好ましくは、組成物は、単位投薬形態で処方され、それぞれの投薬は、適当量の免疫抑制薬または免疫阻害因子、および約10pfu〜約1013pfuのレオウィルスを含有する。
【0074】
用語「単位投薬形態」は、ヒト被験体および他の哺乳動物について単一の投薬として適切な、物理的に別個の単位のことを言い、それぞれの単位は、適切な薬学的賦形剤と共に、期待される治療効果を生じると見積もられる規定のレオウィルス量を含有する。
【0075】
以上のように、レオウィルスは、免疫応答性哺乳動物における固形新生物の処置に有効であることが見出された。非改変型レオウィルスの新生物への直接投与は、新生物細胞の腫瘍崩壊、および免疫応答性動物における腫瘍サイズの減少を生じる。動物が何らかの方法で免疫抑制または免疫不全にされる場合、レオウィルスの全身投与は、腫瘍崩壊を生じるのに、より効果的である。
【0076】
レオウィルスは新生物の手術または摘出と共に投与され得ることが企図される。従って、新生物の外科的摘出および新生物の部位またはその近くへのレオウィルスの投与を含む、固形新生物の処置のための方法が、ここで提供される。
【0077】
レオウィルスは、哺乳動物を免疫抑制にする放射線治療と共に、または放射線治療に加えて投与され得ることが企図される。
【0078】
更に、本発明のレオウィルスは、公知の抗癌性化合物または化学療法剤と共に、またはそれらに加えて投与され得ることが企図される。化学療法剤は、腫瘍増殖を阻害し得る化合物である。そのような薬剤としては、5−フルオロウラシル、マイトマイシンC、メトトレキサート、ヒドロキシ尿素、シクロホスファミド、ダカルバジン、ミトザントロン、アントラサイクリン(エピルビシンおよびドキソルビシン(Doxurubicin))、レセプターに対する抗体(例えば、ハーセプチン(herceptin))、エトポシド(etopside),プレグナソーム(pregnasome)、白金化合物(例えば、カルボプラチンおよびシスプラチン)、タキサン(例えば、タキソールおよびタキソテール)、ホルモン療法(例えばタモキシフェンおよび抗エストロゲン)、インターフェロン、アロマターゼ阻害薬、プロゲステロン類似の性質をもつ薬剤、および黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH)アナログが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
本発明のレオウィルスおよび免疫抑制薬は、転移性である腫瘍の増殖を減少させることが見出された。本発明の実施形態において、免疫抑制された哺乳動物へのレオウィルスの有効量の投与を包含する方法が、哺乳動物中の転移性腫瘍の増殖を減少させるために提供される。
(有用性)
本発明の診断方法は、構成的ras−MAPシグナル伝達を測定することによりレオウィルス感染に対する細胞の感受性を識別するために使用され得る。これは、どの症例において、細胞増殖性障害のレオウィルス処置が効果的である可能性があるかを決定するために有用である。
【0080】
本発明のレオウィルスおよび免疫抑制薬は種々の目的のために使用され得る。それらは、哺乳動物において構成的MAPKリン酸化を示す増殖性障害を処置するための方法に使用され得る。それらは、新生物を減少させるか、または排除するために使用され得る。それらは、転移を処置するための方法に使用され得る。それらは、手術、化学療法、および照射を含む、癌の公知の処置と共に使用され得る。
【0081】
本発明およびその利点をさらに説明するために、下記の特定の実施例が示されるが、これは、いずれにせよ請求項の範囲を限定することを意味しない。
(実施例)
以下の実施例において、全ての温度は摂氏温度であり(別に指示されない場合)、全てのパーセントは重量パーセントである(これもまた別に指示されない場合)。
【0082】
以下の実施例において、次の略語は後の意味を有する。略語が定義されていない場合、それは一般に認められた意味を有する。
μM=マイクロモル濃度
mM=ミリモル濃度
M=モル濃度
ml=ミリリットル
μl=マイクロリットル
mg=ミリグラム
μg=マイクログラム
PAGE=ポリアクリルアミドゲル電気泳動
rpm=回転/分
FBS=胎児ウシ血清
DTT=ジチオスレイトール
SDS=ドデシル硫酸ナトリウム
PBS=リン酸緩衝化生理食塩水
DMEM=ダルベッコ改変イーグル培地
α−MEM=α−改変イーグル培地
β−ME=β−メルカプトエタノール
MOI=感染効率
PFU=プラーク形成単位
MAPK=MAPキナーゼ
phospho−MAPK=リン酸化MAPキナーゼ
HRP=西洋わさびペルオキシダーゼ
PKR=二本鎖RNA活性化プロテインキナーゼ
RT−PCR=逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
GAPDH=グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ
EGFR=上皮増殖因子レセプター
MEKキナーゼ=マイトジェン活性化細胞外シグナル調節キナーゼ
DMSO=ジメチルスルホキシド
SCID=重症複合免疫不全
(一般法)
(細胞およびウィルス)
親NIH−3T3細胞は、v−Srcにより形質転換されたNIH−3T3細胞とともに、Dr.Jove(University of Florida)から惜しみなく贈与された。乳癌細胞株MDA−MB−468、MCF7、MDA−MB−435、T−47D、SK−BR−3、およびコントロールHBL−100細胞は、Dr.Karl Riabowol(University of Calgary)から惜しみなく贈与された。全ての細胞株を、10%の胎児ウシ血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で増殖させた。
【0083】
これらの研究において使用したレオウィルス血清型3のDearing株を、L細胞の浮遊培養中で増殖させ、そしてβ−メルカプトエタノール(β−ME)を抽出緩衝液から省いたことを除き、Smithら(1969)に従って精製した。
【0084】
(細胞の感染およびウィルスの定量)
コンフルエントな単一層細胞を24ウェルプレート中で増殖させ、これら細胞に80PFU/細胞の推定感染効率でレオウィルスを感染させた。37℃で1時間インキュベートした後、温めたDMEM−10%FBSで単一層を洗浄し、次いで同培地中でインキュベートした。感染後様々な時間に、NP−40およびデオキシコール酸ナトリウムの混合物を最終濃度1%NP−40および0.5%デオキシコール酸ナトリウムとなるように、感染した単一層細胞上の培地に直接加えた。次いで溶解物を回収し、L−929細胞でのプラーク滴定法によりウィルスの収量を決定した。
【0085】
(レオウィルス感染細胞の放射性同位元素標識および溶解物の調製)
準コンフルエント(80%コンフルエント)な単一層細胞にレオウィルス(MOI約10PFU/細胞)を感染させた。感染後46時間で、培地を、無メチオニンDMEM(10%のFBSおよび0.1mCi/ml[35S]−メチオニンを含む)に取り換えた。更に37℃で2時間のインキュベーション後、細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、1%TritonX−100および0.5%デオキシコール酸ナトリウムを含む同緩衝液に溶解した。次いで溶解物を煮沸し、使用まで−70℃で保存した。
【0086】
(免疫沈降およびSDS−PAGE解析)
35S−標識したレオウィルス感染細胞溶解物の、抗レオウィルス血清型3血清による免疫沈降を、以前に記載(Lee,P.W.K.ら(1981)Virology,108:134−146)のように実行した。
【0087】
(Phospho−MAPKおよび全MAPKの検出)
細胞溶解物におけるMAPキナーゼの検出のために、「PhosphoPlus」p44/42MAPキナーゼ(Thr202/Tyr204)抗体キット(New England Biolabs)を、製造業者の説明書に従って使用した。簡潔には、準コンフルエントな単一層培養物を、推奨されたSDS含有サンプル緩衝液で溶解し、SDS−PAGEにかけ、続けてニトロセルロース紙上への電気ブロッティングを行った。次いで、製造業者説明書に記載されているように、メンブレンを一次抗体(抗全MAPKまたは抗phospho−MAPK)、続いて西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)結合型の二次抗体を用いて探索した。
【0088】
(重症複合免疫不全(SCID)マウス)
5〜8週齢雄SCIDマウスをCharles River Canadaから購入し、University of Calgary Animal Care Committeeにより認可されたプロトコールに従って処置した。
【0089】
(同種移植片および異種移植片の移植)
活発に増殖しているMDA−MB−468ヒト乳癌細胞を回収し、洗浄し、滅菌PBS中に2×10細胞/mlの濃度に再懸濁した。2.0×10細胞(100il中)を後部側腹部上の部位に皮下注射した。移植した腫瘍を、0.5×0.5cmの触診可能な腫瘍を得るまで、2〜3週間増殖させた。
【0090】
(レオウィルスの腫瘍内注射)
一旦樹立した腫瘍が処置可能な大きさを得ると、生きた、またはUV不活性化されたかのいずれかのレオウィルス(血清型3、Dearing株)1.0×10PFUを20ilの滅菌PBSに入れて単一の腫瘍内注射した。腫瘍サイズを毎週2回、2〜4週間測定した。動物が、過度の全身腫瘍組織量または観察可能なレベルの苦痛により重篤な病的状態を示した場合、その動物を屠殺した。
【0091】
(レオウィルス感染の組織免疫解析)
カバーガラス上に乗せた、ホルマリン固定しパラフィン包埋した腫瘍切片を用いて、免疫蛍光検査解析を行った。キシレンによりパラフィンを除去した後、切片を脱水し、室温で2時間、一次抗体(PBS中で1/100に希釈した、ウサギ多クローン性抗レオウィルス型3血清)にさらした。PBSでの3回洗浄後、この切片を、二次抗体[10%ヤギ血清および0.005%のエヴァンズブルー対比染色を含むPBS中で1/100に希釈した、ヤギの抗ウサギIgG(全分子)−フルオレセインイソチオシアネート結合体(FITC)または、実験に応じて、同濃度のCy3]に、室温で1時間さらした。また、さらなる対比染色として、核染色DAPIも使用した。最後に、固定し処理した切片をPBSでさらに3回洗浄し、次いで二重蒸留水で1回洗浄した。次いでスライドを乾燥し、0.1%フェニレンジアミンを含む90%グリセロール中でスライドに載せた。そして、カールツァイスカメラ(Carl Zeiss camera)が備え付けられたZeiss Axiophot顕微鏡(Zeiss Axiophot
microscope)で注視した(全写真の倍率は200×だった)。
【0092】
(初期乳癌サンプルのレオウィルス感染)
生検乳癌サンプルを95%エタノール中への浸漬により滅菌し、続いて、滅菌したPBSで数回洗浄した。次いでサンプルを小切片にスライスし、10%FCSを有するDMEMを含む24ウェルプレート中に置いた。レオウィルス(1×10PFUs)を加えた。感染後種々の時間に、滅菌したPBS中でサンプルを洗浄し、次いでホルマリン中に固定した。次いで、サンプルを、全レオウィルスタンパク質に対して指向された抗体を用いて免疫組織化学解析に使用するために、パラフィン中に包埋し、切断した。
【0093】
(実施例1.v−src非レセプターチロシンキナーゼファミリーメンバーによる形質転換は、レオウィルス感染に対する感受性を与える)
本発明者らは以前、非感染性のNR6細胞およびNIH−3T3細胞のレセプターチロシンキナーゼによるトランスフェクションが、レオウィルス複製を可能にするために十分である(Strong,1993)ことを示したが、非レセプターチロシンキナーゼのトランスフェクションがレオウィルスへの感受性を生じ得るかどうかは知られていなかった。Srcファミリーキナーゼの活性化(多数の乳癌の制御されていない増殖に頻繁に貢献する)が、レオウィルス複製を可能にするために十分なRas活性を生じるか否かを決定するために、非感染性のNIH−3T3細胞をv−srcで形質転換し、レオウィルスに対する感受性を評価した。v−srcにより形質転換されたNIH−3T3、またはそれらの親細胞のコンフルエントな単一層を、レオウィルス約50のプラーク形成単位(PFU)の感染効率(MOI)で、レオウィルスにさらした。細胞および培地を、感染後様々な時間に回収し、得られたサンプルをプラーク滴定解析に使用し、レオウィルス複製を測定した。本発明者らの結果は、感染後48時間までのv−src形質転換細胞における劇的な細胞変性効果(データ示さず)およびウィルスの排出量の増強(プラーク滴定アッセイにより測定された)を示した。これらの結果(図1)は、非レセプターチロシンキナーゼですら強力にレオウィルス感染を仲介し得、そして乳癌の別のサブセットを標的とし得ることを示す。
【0094】
(実施例2.レオウィルスは、構成的Ras/MAPKシグナル伝達を評価し得るヒト乳癌由来細胞株のパネルに感染し得る)
乳房由来腫瘍に対して、レオウィルスを使用する可能性を評価するため、以下:MDA−MB−468、MCF7、MDA−MB−435、T47D、およびSK−BR−3を含む乳癌細胞のパネルを選択し、インビトロでのレオウィルス感染に対する感受性を決定した。コントロールとして、正常乳房組織に由来するHBL−100細胞を使用した。これら6つの細胞株を80%コンフルエンシーまで増殖させ、次いでレオウィルスでMOI10でチャレンジした。感染48時間後に、2時間の間、細胞を[35S]メチオニンで標識した。次いで細胞をリン酸緩衝化生理食塩水により洗浄し、溶解した。次いで、全レオウィルスタンパク質に対して指向された抗体を用いて、調製した溶解物を免疫沈降に使用した。免疫沈降したタンパク質をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により解析した。結果(図2A)は、乳癌に由来した細胞株内で有効なレオウィルス複製を明確に示すが、しかし、レオウィルス複製はHBL−100細胞株に限定された。このことは、これらの乳癌細胞が、Rasの活性化(直接の変異生成によるか、または上流のシグナル伝達エレメントを介してのいずれかで)の結果として感染可能であることを示唆する。このことは、この特異的活性化はこの癌タイプには稀であるが、Rasを標的とする治療により、高い割合の乳癌がおそらく処置可能であることを示唆する点で、重要である。
【0095】
MAPKリン酸化はRasを介したシグナル伝達の当然の結果なので、そのタンパク質のリン酸化状態は、分裂促進的刺激が存在する場合、正常なRasシグナル伝達を有する細胞株においてのみ観察されるべきである。正常なRasシグナル伝達を有する細胞株において、これらの分裂促進的刺激の除去はこの経路を介したシグナルの停止を生じ得、MAPKの脱リン酸を生ずる。異常なRas活性(直接Rasの変異的活性化を介するか、またはその代わりに上流エレメントを介してのいずれか)を有する細胞において、MAPKのリン酸化形態は、血清の存在または非存在下のいずれかにおいて持続し得る。乳癌細胞株において観察された感染能力がRas/MAPKシグナル伝達経路の活性化の結果であることを確立するために、phospho−MAPKに対して指向される抗体を使用してこれらの細胞株のウェスタンブロット解析を行った。MDA−MB−468、MCF7、MDA−MB−435、T−47D、SK−BR−3およびHBL−100細胞を、6ウェルプレート中にプレートした。次いで細胞を10%胎児ウシ血清(FCS)において増殖させたか、または、48時間血清欠乏(0.5%
FCS)させた。次いで細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、タンパク質サンプル緩衝液中に回収した。細胞溶解物をSDS−PAGEにかけ、続いてニトロセルロース紙上にブロットし、製造業者により推奨されるように抗phospho−MAPK抗体を用いて探索した。その結果(図2B)は、非感染性の細胞株(HBL−100)のみが血清の存在下および非存在下においてphospho−MAPKを保持していることを明確に示し、このことは、この経路におけるRasシグナル伝達が異常でないことを示している。残存する感染した細胞株は、それらがこの経路の構成的活性化を有する場合に、期待されるように、分裂促進的シグナルの存在に無関係にphospho−MAPKを有する。タンパク質濃度は、全MAPKに対して指向される抗体を使用して標準化した(図2C)。
【0096】
(実施例3.レオウィルスは、インビボで、乳癌に対して抗腫瘍薬剤として作用し得る)
ヒト乳癌細胞株(MDA−MB−468)を、腫瘍異種移植片としてSCIDマウスの後側腹部上の部位に皮下導入した。触診可能な腫瘍樹立の後、MDA−MB−468腫瘍に、PBS中に入れたレオウィルス血清型3(Dearing株)1.0×10個のプラーク形成単位(PFU)の単一腫瘍内注射を投与した。コントロール動物には、UV不活性化レオウィルスの腫瘍内注射を投与した。腫瘍増殖を4週間追跡した。示される(図3)ように、レオウィルス処置は腫瘍サイズの劇的な後退を生ずる。従来どおり、残存する塊のヘマトキシリン/エオシン(HE)染色は、コントロール腫瘍と比較して、単一レオウィルス注射が腫瘍細胞の完全な破壊を生ずることを示した(データ示さず)。腫瘍細胞の観察された溶解がウィルス複製によるのかどうかを決定するため、および、腫瘍塊を超えてレオウィルスタンパク質が拡散したかどうかを決定するために、免疫蛍光顕微鏡検査を実施した。全レオウィルスタンパク質に対して指向された抗体および残存する腫瘍塊のパラフィン包埋した薄い切片を用いて、レオウィルス複製がMDA−MB−468腫瘍細胞に限定され、周囲の骨格筋に達していないことを確定した。
【0097】
(実施例4:レオウィルスは初期乳房試料において複製し得る)
レオウィルスの腫瘍崩壊効果が継代された細胞株の先天性の性質に起因しないことを確実にするため、ヒト乳癌の初期サンプルを得、レオウィルス感染能について評価した。生検乳癌サンプルを95%エタノールでの液浸により滅菌し、続いて滅菌したPBSで数回洗浄した。次いでそのサンプルを小切片にスライスし、10%FCSを有するDMEMを含む24ウェルプレート中に置いた。レオウィルス(1×10PFU)を加えた。感染後種々の時間に、サンプルを滅菌のPBSで洗浄し、それからホルマリン中に固定した。次いで、サンプルを、全レオウィルスタンパク質に対して指向された抗体を用いて免疫組織化学解析に使用するために、パラフィンで包埋し、切断した。その結果は(示さず)、チャレンジされたそれらの腫瘍におけるレオウィルス染色を明確に示し、これは、これらの初期サンプルにおけるウィルスの複製を証明する。
【0098】
本発明を、その好ましい実施形態に関して詳しく示し説明してきたが、添付の請求項により定義されるような、発明の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書中において、形態および詳細における様々な変化がなされ得ることは、当業者により理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、レオウィルス感染に対する宿主細胞感受性についてのv−src形質転換の効果を示す。非感染性のNIH−3T3親細胞およびv−src形質転換NIH−3T3細胞を24ウェルプレート内で80%コンフルエンシーに増殖させ、その後、細胞当たり80PFUの推定MOIでレオウィルスにさらした。細胞と培地とを感染後の指示された時間に収集し、結果として生じる溶解物をプラーク滴定アッセイに使用した。V−src形質転換NIH−3T3細胞(黒丸)、NIH−3T3親細胞(白丸)。(平均値±標準偏差)。
【図2】図2A〜2Cは、ヒト乳癌細胞株におけるインビトロでのレオウィルス複製を示す。(A)模擬感染およびレオウィルス感染性乳癌細胞株におけるレオウィルスタンパク質合成。感染46〜48時間後に細胞を[35S]−メチオニンで標識した。溶解物を調整し、続いてポリクローン性抗レオウィルス型3血清で免疫沈降し、その後SDS−PAGEにより解析した。レオウィルスタンパク質は右側に示される。(B)レオウィルス感染性は構成的なMAPKリン酸化との相関を示す。乳房組織細胞株HBL−100および乳癌細胞株MDA−MB−468、MCF7、MDA−MB−435、T47DおよびSK−BR−3を6ウェルプレート中にプレートした。細胞を、10%FCS存在下で増殖させたか、または48時間、血清欠乏させた(0.5%FCS)。単層をPBSで洗浄し、細胞溶解物を調製し、SDS−PAGEにかけた。ニトロセルロース紙へのブロッティング後、サンプルを、phospho−MAPKに対して指向された抗体により探索した。phospho−MAPKレベルを全MAPKレベルにより全て標準化した。(C)ヒト乳房組織および乳癌細胞株における全MAPKレベル。
【図3】図3は、ヒト乳癌異種移植片に対するレオウィルス仲介性のインビボ腫瘍崩壊を示す。SCIDマウスに、MDA−MB−468ヒト乳癌異種移植片を皮下に、片側に移植された。触診可能な腫瘍塊の樹立に続いて、生きたレオウィルス(白丸)またはUV不活性化ウィルス(黒丸)のいずれかの単一腫瘍内注射を投与し、腫瘍増殖を4週間の間追跡した。(平均値±標準偏差)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−268200(P2008−268200A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94289(P2008−94289)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【分割の表示】特願2002−541391(P2002−541391)の分割
【原出願日】平成13年10月26日(2001.10.26)
【出願人】(501332264)オンコリティクス バイオテク,インコーポレーテッド (16)
【Fターム(参考)】