説明

細胞株

【課題】神経学的障害を処置するための移植において有用な、起源が明らかで、拡大性を有する細胞を提供する。
【解決手段】ECACC受託番号04091601、04110301、および04092302を有する細胞株のいずれかから得られる単離細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、治療、特に、卒中、ハンチントン病、アルツハイマー病、クロイツフェルト・ヤコブ病、および外傷性脳損傷を含む神経学的障害を処置するための移植において有用な細胞株の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
卒中とは、脳領域に供給する動脈の閉塞または出血により最も共通して引き起こされる、突発性の神経学的欠損に与えられた名前である。脳のいずれかの領域が影響され得る。
【0003】
主たるヨーロッパ、アメリカ、および日本のマーケットに推定1200万人の卒中の生存者がおり、これらのマーケットにおける件数は新たに毎年7%で増大している。卒中患者の約30%が看護を受けることを必要とし、アメリカ合衆国単独でも毎年250億ドルから300億ドル要すると推定される。
【0004】
卒中後に中度または重度の障害を有する生存者のうちの20%が、神経幹細胞移植治療の可能性のある候補者である。これらの患者に施す既存の薬物処置には限界があり、状態の原因よりむしろ結果に注意が向けられる傾向にある。
【0005】
ハンチントン病は、希な、遺伝性、進行性、かつ致命的な神経変性障害である。アメリカ合衆国において、約35,000人の患者が該疾患の明らかな徴候を示し、さらに75,000人が異常遺伝子を保因する。該疾患の現行の処置は存在しない。
【0006】
痴呆は、最も破壊的かつ年齢と密接に関連する障害である。最も頻繁に遭遇するタイプは、アルツハイマー型老年痴呆(AD)であるが、アルツハイマー病のある種(しかし、全てではない)の処置は、最終的に他の痴呆へ適用できると判明し得る。現在、もはや自分自身で身の回りのことを安全にできないアルツハイマー病患者の看護コストは、アメリカ合衆国において1兆ドルに近づくと推定される。年齢はそれ自体、アルツハイマー病のリスク因子であり、集団に占めるアルツハイマー病罹患率は、65歳から75歳で2倍となり、そして75歳から85歳で再び2倍となり、この時点で35%がADの徴候を示す。集団のエイジングと共に、次の20年間にわたり、アメリカ合衆国単独でのアルツハイマー病患者数が、4〜500万から1000万件に増大するだろう。社会的および財務上の負担が、比例して拡大するだろう。痴呆はまた、脳への血液供給の喪失、例えば、心停止またはある種の心臓バイパス手術、あるいは呼吸困難または脳の多発性梗塞の後、観察される。
【0007】
クロイツフェルト・ヤコブ病は、希な障害であり、物理化学的に異常なプリオンタンパク質の蓄積に起因して生じる進行性炎症性神経変性を含む、多くの感染性海綿状脳症の1つである。ウシの疾患である「狂牛」病または牛海綿状脳症(BSE)を映す、急激に進行する致命的なプリオン疾患である変異型CJDの場合において、異型が観察される。英国(おそらくほかの場所でも)におけるこの障害の流行の論理上のリスクは残ったままであり、これは1980年代から1990年代初頭にかけてBSE感染牛由来の肉製品の広範囲におよぶ消費に起因する。
【0008】
外傷性脳損傷は、深刻なことに、アメリカ合衆国単独でも1年で500,000人を超える個人に影響し、これは軽い脳震盪から昏睡そして死までの種々の影響を含む。1年で80,000〜85,000人の患者が、非常に深刻な神経学的欠損または障害となる頭部損傷を受ける。総経済コストの見積り額は、アメリカ合衆国単独でもTBIのプライスタグをほぼ500億ドルとしている。
【0009】
幹細胞置換治療は、深刻な細胞喪失および損傷が原因または結果であるものについて上述されたものを含み(しかしこれらに限らない)、多くの疾患の実用可能な処置オプションとみられている。幹細胞は、初期胚から成体までの発生のいずれかのステージでヒト組織からもたらされ得る。初期胚性幹細胞は、いずれの組織からでも細胞を形成できるが;しかしながら、該細胞は、移植された場合に腫瘍を形成するようである。組織が胎児ステージから成体ステージを通じて発生するにつれて、内在する幹細胞集団は、発生の可能性を低減させ、そして生来の腫瘍形成能を失って、組織または系列を制限された幹細胞としても知られている、体性幹細胞となる。体性幹細胞は複数の可能性があり、つまり、それらは起源であるそれらの器官からいずれかの分化した細胞タイプとなることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
胚性幹細胞は、胎児または成体組織由来の体性幹細胞に表現型の上では類似し、そしてそれゆえ腫瘍形成能を失っている、体性幹細胞株の集団を形成させるために「分化させられる」か、あるいは選択されることができる(例えば、特許文献1)。体性幹細胞(成体または胎児組織由来、または胚性幹細胞から分化したもの)のみが、現状の知識で細胞治療に安全な幹細胞を表している。本発明に記載の細胞株は、体性神経幹細胞の例である。
【0011】
脳由来の体性幹細胞は、パーキンソン病、卒中、ハンチントン病、および脊髄損傷を含む難治性神経学的障害のための処置として提案されてきた。逸話的(anecdotal)臨床報告での初期の成功例にも関わらず、パーキンソン病における原始的なヒト胎児脳組織を用いた管理された移植研究は、一貫した利点を少しももたらさなかった[非特許文献1および2]が、かかる移植の広範囲に及ぶ臨床的応用は、いずれにせよ実際の問題および論理上の問題にとらわれている。
【0012】
細胞純度および質の両方の点から原始的ヒト胎児組織および細胞の不均一性は、かかる臨床試験の解釈を困難にしている。代わりの生成物は、幹細胞の可能性についての新たな知識に基づき、移植のための拡張可能な精製細胞および組織の供給源として構築され得る。例えば、神経上皮幹細胞、有意には、神経上皮幹細胞集団からもたらされたクローン細胞株が、神経系疾患の動物モデルにおいて機能的欠損を回復できるという証明[特許文献2、および非特許文献3および4]に続き、多くのグループが、胎児のヒト神経細胞が、数ヶ月間、さらに成長因子を含む所定の培地中で(異なる不死化遺伝子の形質導入により)遺伝的に不死化された、あるいは拡大された幹細胞として特殊な培養方法(時に「エピジェネティック」な方法として呼ばれる)を用いて拡大され得ることを示した[非特許文献5および6]。先行技術に記載された神経幹細胞は、実験動物に移植され、生存の証拠を示した。しかしながら、これらの細胞および細胞株は、それらの管理されていない起源および製造に起因してヒト患者における使用に適しておらず、かつヒト神経系疾患の有効な動物モデルでの機能的効果の証拠はまだ示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ヒト幹細胞移植における実際の臨床上および産業上の進歩は、迅速に拡大でき、維持可能な供給源として役立ちうるもので、しかも広範な患者集団の要求に応じて利用可能な、管理された供給源および製造による細胞株の利用可能性に依存する。細胞株は、個々の障害に特異的であるか、あるいは障害の種類を超えて一般的なものであり得る。この目的を達成するために、細胞株は、適当な生物学的特徴(組織または細胞特異的表現型)を伴い生成されなければならず、そしてマスター(master)を創るための拡大可能な製造工程、および細胞の凍結バイアルからなる稼働中の細胞バンク(これから、再生産可能、GMP規格、臨床的に多く、かつ商業上生存可能な製品バッチがもたらされ得る)となるのに十分強固でなければならない。この課題の1つのアプローチは、細胞株の再生可能性を保護し、かつそれを早期老化に入ることから守るために不死化遺伝子を使用することである。神経幹細胞株を生成するために用いられてきた不死化遺伝子の例は、(1)テロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)[非特許文献7]、(2)SV40 T抗原[Sinden等の前記の特許文献2]、(3)SV40 TとhTERTの組合せ(特許文献3)、およびmycタンパク質[Flax等の前記の特許文献4]を含むものである。細胞発生中に正常に発現する、天然に存在するプロトオンコジーンであるc−mycの遺伝子過剰発現は、本発明において、細胞増殖を安定に増強し、細胞核型の変化を防ぎ、それにより細胞表現型の形質転換を回避する手段として示される。
【0014】
次に、幹細胞株を治療剤として開発する際の相当な実験から、本出願人は、以下の事柄が、臨床での応用のためのヒト幹細胞株の鍵となる特徴を表すと確信している:
・移植の標的である組織に特有の特定の細胞へ発生できる多能性細胞、
・1つの創始細胞からもたらされる細胞(クローン細胞)、
・正常な染色体を有する遺伝子上安定な細胞、
・インビトロおよびインビボで適当な細胞タイプへの分化能を有する細胞、
・多数に成長し、貯蔵できる細胞、
・安全、特に腫瘍形成能を示さない細胞、
・移植されると、遊走が組織損傷範囲に制限される細胞、
・認定された動物モデルにおいて効果を生じる細胞、
・起源が完全に証明されている細胞。
【0015】
表面培養または懸濁培養での幹細胞の拡大は、遺伝子不死化なしで可能である(「エピジェネティック培養)一方、ヒト神経幹細胞の拡大は遅く、生じた培養物は分化した子孫を多く含有する。なぜなら、それらは継代培養を生き延びないであろうからである[Vescovi等の特許文献5]。さらに、「エピジェネティック」幹細胞の長期培養は、細胞株の臨床的応用を妨げ得る染色体の変化を誘発し得る。ヒトのエピジェネティック体性細胞株の遺伝子安定性の報告はないが、最近の報告によると、継代回数が増すにつれて胚性幹細胞株の染色体異常が示された[非特許文献8および9]。
【0016】
それゆえ、エピジェネティックに拡大した細胞株の拡大性は産業上の観点から制限され、生成物は細胞継代から細胞継代で変動し得る。形質転換された細胞の表現型を生じないか、あるいはそうでなければ幹細胞の生物学的有効性または安全性に影響しないが、細胞の産業上の拡大性を増強し、かつ核型を安定させる不死化遺伝子の使用が、非常に望まれている。
【0017】
過去10年間にわたり、正常、および細胞増殖、分化、およびアポトーシスでのmycオンコジーンの役割についての情報が新たに増えてきた。細胞増殖を維持するために、Mycタンパク質とMaxタンパク質はダイマーを形成し、細胞核に移動し、ここで転写因子として作用する。Recently Coller等[非特許文献10]は、誘導される27遺伝子、および初代ヒト胚胎胞においてc−myc(細胞myc)の活性化により抑制される9遺伝子を同定した。誘導される標的としては、分裂を維持するために必要とされる細胞周期遺伝子(例えば、G1サイクリンD2)、および細胞死に関与する前アポトーシス遺伝子(例えば、TRAP1)を含み、一方抑制される標的としては細胞外基質および細胞骨格タンパク質をコードする遺伝子を含み、これは細胞接着および構造におけるmycの役割を示している。最近の報告により、v−myc(ウイルスmyc)不死化マウス神経幹細胞株が、パーキンソン病の動物モデルにおいて損傷された神経細胞の再生を促進し、かつ機能的回復を促進できることが示された[非特許文献11]。
【0018】
細胞増殖を維持するc−mycの能力は、細胞分裂がインビボで制御され得るという条件で、それを幹細胞不死化の第1の候補とする。myc不死化細胞の治療上の使用のため、好ましい実施態様は、不死化タンパク質が細胞を移植した後に機能しないように、Mycタンパク質の機能の制御を可能にするだろう。このことは、移植された細胞による過剰成長または腫瘍形成のリスクを低減するだろう。Mycの好ましい条件形態は、Mycと修飾エストロゲン受容体のホルモン結合ドメインとの融合体である[非特許文献12]。
【特許文献1】国際公開第03/00868号
【特許文献2】国際公開第97/10329号
【特許文献3】国際公開第01/21790号
【特許文献4】アメリカ特許第5,580,777号
【特許文献5】国際公開第99/11758号
【非特許文献1】Freed CR, et al., NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE 344 (10): 710-719 MAR 8 2001
【非特許文献2】Olanow et al., ANNALS OF NEUROLOGY 54 (3): 403-414 SEP 2003
【非特許文献3】Sinden et al., NEUROSCIENCE 81 (3): 599-608 DEC 1997
【非特許文献4】Gray et al., PHILOSOPHICAL TRANSACTIONS OF THE ROYAL SOCIETY OF LONDON SERIES B-BIOLOGICAL SCIENCES 354 (1388): 1407-1421 AUG 29 1999
【非特許文献5】Flax et al., NATURE BIOTECHNOLOGY 16 (11): 1033-1039 NOV 1998
【非特許文献6】Vescovi et al., EXPERIMENTAL NEUROLOGY 156 (1): 71-83 MAR 1999
【非特許文献7】Telomerase immortalization of neuronally restricted progenitor cells derived from the human fetal spinal cord Roy NS, Nakano T, Keyoung HM, Windrem M, Rashbaum WK, Alonso ML, Kang J, Peng WG, Carpenter MK, Lin J, Nedergaard M, Goldman SA NATURE BIOTECHNOLOGY 22 (3): 297-305 MAR 2004
【非特許文献8】Draper et al., NATURE BIOTECHNOLOGY 22 (1): 53-54 JAN 2004
【非特許文献9】Inzunza et al., MOLECULAR HUMAN REPRODUCTION 10 (6): 461-466 JUN 1 2004
【非特許文献10】PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES, 2000; 97:3260-3265
【非特許文献11】Ourednik et al., NATURE BIOTECHNOLOGY 20 (11): 1103-1110 NOV 2002
【非特許文献12】Littlewood, et al., NUCLEIC ACIDS RESEARCH, 1995; 23, 1686-1690
【発明の効果】
【0019】
発明の要約
本発明は、移植治療において有用となる好ましい特徴を有する細胞株の開発に基づくものである。
【0020】
本発明の第1の態様により、単離された細胞は、ECACC受託番号04091601、04092302、および04110301を有する細胞株のいずれかから得られ得る。
本発明の第2の態様により、上で同定された細胞が治療において用いられる。
本発明の第3の態様により、上で同定された細胞が、脳細胞の喪失または損傷と関連する障害の処置のための医薬の製造において用いられる。
【0021】
本出願人は、神経幹細胞株を、制御可能なmyc不死化遺伝子を用いて生成させ、修飾して、Mycと修飾エストロゲン受容体のホルモン結合ドメインとの融合タンパク質を得た。該融合タンパク質は、人工ホルモン4−ヒドロキシタモキシフェン(4−OHT)により選択的に活性化される。制御可能な不死化遺伝子を用いることで、培養における無制限な細胞成長および拡大の条件を極大とすることが可能となる一方で、細胞を、移植されたときの4−OHTの不存下で終末まで分化させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、移植治療に適し、かつ移植の時まで不死である細胞の製造を開示する。
【0023】
細胞は、エストロゲン受容体により制御される条件形態のMYCオンコジーンの取込みにより修飾される。
【0024】
本発明の組換え細胞は、治療において用いられる。特に、本発明の細胞は、脳損傷の処置において用いられ得る。脳損傷は、変性疾患により、あるいは外傷または低酸素により引き起こされ得る。好ましい実施態様において、細胞はハンチントン病またはアルツハイマー病の処置において用いられる。
【0025】
本発明の細胞は、細胞分化において使用の可能性があるか、あるいは神経細胞発生において役割を果たす生物剤または化学剤を同定するためのスクリーニングアッセイにおいて用いられ得る。スクリーニングアッセイを行い、神経系疾患または障害の処置において可能性のある有益な作用を有する剤も同定され得る。アッセイは、剤を、本発明の1種以上の細胞の培養物と接触させ、次に、該剤が細胞に作用するか否かを決定する、により行われる。アッセイは、懸濁培養にて、あるいは基材表面に接着した接着細胞を用いて行われ得る。作用とは、細胞の分化または細胞の成長特徴に影響する剤の能力であり得る。あるいは、剤は可能性のある薬物であってもよく、スクリーニングアッセイを行い、剤の細胞に対する毒性が研究される。
【0026】
患者へのデリバリーのための剤形の製剤方法は、当業者に明らであろう。適当な賦形剤、希釈剤などもまた、細胞ベース治療の調製における現行の実践に基づき明らかであろう。デリバリーに必要とされる細胞量は、処置形態、疾患/損傷の重症度、および処置期間にわたり複数用量適用することの必要性に依存して変動するだろう。しかしながら、当業者は、既存の細胞治療に基づき適当な処置を容易に決定できる。
【0027】
細胞株についてここでさらに詳細に記載する。細胞株を、ECACC(European Collection of Animal Cultures, Vaccine Research and Production Laboratories, Public Health Laboratory Services, Porton Down, Salisbury, Wiltshire, SP4 0JG, UK)に寄託した。受託番号は次の通りである:
【表1】

【実施例1】
【0028】
(1)細胞株CTXOE03の由来および起源
細胞株の概略
c−MycERTAMを導入したヒト神経幹細胞は、12週齢の胎児皮質からもたらされたものである。該株を、ラミニンコート培養フラスコにて、所定の無血清「Reduced Modified Media」(組成については後述)を用いて、bFGF、EGF、4−ヒドロキシタモキシフェンの存在下で維持した。日常的培養において、該細胞株は倍加時間およそ2〜3日である。
【0029】
成長培地において、細胞はネスチン陽性、β−IIIチューブリン陰性であり、GFAP陽性細胞を低い割合で含んでいる。7日間分化させた後、β−IIIチューブリン発現がアップレギュレーションされ、神経形態が獲得された。GFAP発現のバックグラウンドは、分化後、低レベルで維持される。
分化後、MHCクラスIまたはクラスII抗原は発現されない。
【0030】
RT−PCRによる分子表現型の決定により、細胞がmycER陽性かつネスチン陽性であることを確認した。さらに、一定範囲の神経発生遺伝子が発現していることを同定した。
【0031】
この細胞株は、31継代(100より多くの集団に倍加している)において、遺伝子上正常であり、雄性XY核型である。該細胞株はサザンブロットによるとクローンであり、ゲノム統合部位は13番染色体内にあると同定した。既知の遺伝子のうち、この挿入により破壊されるものはない。
【0032】
妊婦の血清学により、ドナーが偶発的な感染のないことを示したが、サイトメガロウイルス感染の既往歴を見出した(CMV抗体 IgG陽性、IgM陰性)。
【0033】
pLNC−myc−ERTAM
強力なプロモーターによりもたらされるmyc−ERを生成するために、mycERTAM導入遺伝子を、サイトメガロウイルスプロモーター(CMV)およびネオマイシン耐性遺伝子を含有する、レトロウイルスベクターpLNCX−2(clontech)にさらにクローン化した。プラスミドDNAのpBabe−puro−myc−ERTAMを上述の通り増幅した。pBabe−puro−myc−ERTAM中のMyc−ERTAM配列を制限酵素EcoR Iにより切断した。myc−ERTAMの2.3kbフラグメントを単離し、pLNCX−2レトロウイルスベクターのStu I部位に平滑末端ライゲーションによりライゲーションし、pLNC−myc−ERTAMを生成した。pLNC−myc−ERTAM中のmyc−ERTAM遺伝子の向きを、BamH I、Xho I、およびBgl IIを用いた制限酵素切断により決定する。ストックプラスミドDNAのpLNC−myc−ERTAMを「マキシ・プレップ」により精製した。
【0034】
TEFLY−A産生株の生成
TEFLY−AおよびTEFLY−RDウイルスパッケージング細胞株(CRC UKからライセンス許諾のもと得た;米国特許第6,165,715号;フランス、エヴリー、ジェネトンに保管されたGMP細胞バンクストック)を用いて、MMLVベースのレトロウイルスを産生した。細胞株は、gag、pol、およびenv遺伝子を保持している一方で、ウイルスゲノムを、操作する導入遺伝子の選択によりレトロウイルスプラスミドにおいて置き換えている。TEFLY−RDを用いて、TEFLY−A株を含む制限した感染性を有するウイルスをパッケージングさせる。TEFLY−Aを用いて、哺乳類細胞に対して広範囲の感染性を有する両種性ウイルスをパッケージング/生成した。
【0035】
pLNC−mycERTAMウイルス
TEFLY−RD産生細胞を凍結ストックから起こし(revived)、新しい種ストックを確立した。拡大させたストックから、細胞150万個を10cmディッシュに播種し、pLNC−mycERTAMプラスミド12μgで、Fugene−6を用いて標準的方法によりトランスフェクションした。新たなTE培地をトランスフェクションした細胞に一晩加え、パッケージされたウイルスを細胞から翌朝回収した。この一過性のウイルス生成物を用いて、TEFLY−A産生株を感染させた。
【0036】
新たに取得したTEFLY−A産生細胞(TEFLY−A ロット97−8−02A)を凍結ストックから起こし、種ストックを確立した。種ストックから、細胞を起こし、播種し、次にpLNC−mycERTAMパッケージウイルス含有TEFLY−RD由来上清を用いて、8μg/ml ポリブレン存在下で感染させた。感染TEFLY−A産生細胞を、2〜3週間、ネオマイシン(G418/ジェネテシン)存在下で拡大培養し、mycERTAMウイルス産生細胞の(抗生物質耐性により)選択したバルク集団を生成した。このバルク集団を低密度で播種し、個々のクローンを単離した。64個のクローンをリング(ring)クローニングにより単離し、24ウェルプレートに継代した(1クローン/ウェル)。個々のTEFLY−AクローンをT25培養フラスコまで拡大させた時点で、細胞を、ウイルス回収のため、8時間より長い間新たなTE培地中で調製した。Te671細胞に対するウイルスタイターを、回収培地の連続希釈により、ポリブレン8mg存在下にて決定した。明らかにタイター>10cfu/mlであるクローンを拡大させ、等分量(1ml)5×10細胞 40本からなるワーキングストックを作成した。「Reduced Modified Media」および「Human Media」に回収したウイルスストックを、初代細胞培養のレトロウイルス形質導入のために得た。
【0037】
Reduced Modified Media
DMEM:F12に以下の成分を添加した。
【表2】

細胞拡大のため、塩基性線維芽細胞成長因子(10ng/ml)および上皮成長因子(20ng/ml)をプラス。
【0038】
細胞株由来
CTXOE03を、臨床上使用するために、指定株を前進させるのに適した品質保証条件下で得た。供給材料として、ヒト神経幹細胞を、解剖後に12週齢の胎児皮質(GS031)から、機械的粉砕と組み合わせたトリプシンでの酵素消化により単離した。培養して確立した後、胎児神経細胞に、c−MycERTAMオンコジーンをコードする両種性レトロウイルスを感染させ、一定範囲のクローン集団および混合集団細胞株を単離した。
【0039】
この一連の株全てを、ラミニンコート培養製品にて、上記の指定添加剤および成長因子(上記のbFGFおよびEGF)をプラスした、DMEM:F12基礎培地を含む無血清Reduced Modified Media(RMM)を用いて得た。
【0040】
成長特徴決定
日常的培養条件下で細胞を凍結ストックから、通常T180培養フラスコ中2〜400万細胞数まで拡大させる。数回培地交換した後、該細胞をサブコンフレントまで継代する。過程の記録から、CTXOE03についての集団の倍加時間は3〜4日であると見積もった。この倍加時間は対数期成長のものより長く、継代培養過程中の細胞の喪失も含んでいる。
【0041】
CTXOE03についての対数期成長のより代表的な評価として、細胞増殖アッセイを、Cyquant蛍光ダイ(Molecular Probes, Invitrogen Inc.)を用いてセットアップした。細胞数を、Tecan Magellan蛍光プレートレーダー;ex 480nm;em 520nmを用いて測定する。
【0042】
CTXOE03細胞を継代し、成長因子をプラスしたRMMに再懸濁し、ラミニンコート96ウェルのストリップウエルプレートに4000細胞/ウェルにて播種した。経時的研究を、ストリップをプレートから取り出し、培地を除去し、次に細胞を−70℃にて凍結する、により行った。培地(RMM/HM+GF+4−OHT)を残りのストリップに入れた。それぞれ翌日、培地をプレートの次の2つのストリップから除去し、−70℃にて凍結した。時間経過の最後に、全凍結ストリップを一緒にプレートに戻し、Cyquantアッセイを用いて分析した。一時的に細胞を溶解バッファー中で溶解させ、次にCyquant試薬を加え、暗所で5分間置いた。次に、各ウェルの試料150μlを、Tecan Magellanプレートリーダー上で読み取るため、黒色Optiluxプレートに移した。データを数値平均化するため、スプレッドシートに転送し、分析のためGraphPad Prismにさらに転送した。結果を図1に示す。
【0043】
c−myc成長促進タンパク質の条件制限
数回の研究を行い、c−mycERの4−ヒドロキシタモキシフェン条件制限を一貫して示した。成長因子の存在下または不存下での細胞成長は、培地中への4−ヒドロキシ−タモキシフェンの適用により増強された。この作用は、β−エストラジオールにより模倣されなかった。このことは、エストロゲン受容体上の選択的変異が機能的に維持されていることを示している。結果を図2に示す。
【0044】
表現型
CTXOE03の表現型を免疫細胞化学を用いてプロファイルし、神経幹細胞マーカーであるネスチンについて染色し、次に分化の成熟マーカーであるβ−IIIチューブリン(神経)およびGFAP(星状細胞)について染色した。
【0045】
アッセイを確立し、成長因子かつ4−OHT存在下および不存下にてCTXOE3表現型をプロファイルした。細胞を日常的培養物から継代し、96ウェル組織培養プレートに4000細胞/ウェルにて播種した。2つのプレートをセットアップした。3日後、4−OHTをプラスした成長培地中の1つのプレートの細胞を4% パラホルムアルデヒド中で固定し、一方で成長因子および4−OHTを他のプレートから取り除いた。成長因子なしでさらに5日間培養した後、第2の「分化」プレートの細胞を同様の方法で固定した。このアッセイを数回繰り返した。
【0046】
分化ICC画像
細胞を4% パラホルムアルデヒド中で15分間、室温にて固定し、PBSを用いて洗浄し、次に0.1% Triton X/PBSを用いて15分間透過処理した。次に、非特異的結合を、PBS中の10% 正常ヤギ血清(NGS)で1時間、室温にてブロッキングした。次に、細胞に、ネスチンに対する抗体(1:200;Chemicon;MAB 5326)、β−IIIチューブリンに対する抗体(1:500;Sigma)、およびGFAPに対する抗体(1:5000;DAKO)を用いて、室温にて一晩プローブ結合させた。PBSで洗浄後、次に、それらを、1% NGS/PBSに溶解した、フィルター処理したアレクサヤギαマウス488(1:200;Molecular Probes)およびアレクサヤギαウサギ568(1:2500;Molecular Probes)を用いて、1時間、室温にて処理した。次に、それらをPBSを用いて洗浄し、蛍光顕微鏡での分析前に1μg/ml ヘキスト(Hoechst)33342(Sigma)を用いて、2分間対比染色した。
【0047】
結果は、ネスチンがダウンレギュレーションされること、および神経マーカーであるβ−IIIチューブリンがアップレギュレーションされること示した。このことは、成長因子および4−OHT不存下での5日間で、細胞はより成熟した神経表現型に分化したことを示している。GFAP(星状細胞)のバックグラウンドが存在し、これは多かれ少なかれ一様に染色されるものであった。
【0048】
MHCクラスIおよびII
細胞株上でのMHC抗原の発現は、細胞のホストによる拒絶に対する感受性に関与し得る。本発明者らは、対照CTXOE03細胞および分化した(成長因子を使用せずに14日間)CTXOE03細胞上のMHCクラスIおよびIIの発現をプロファイルした。細胞を、4% パラホルムアルデヒド中で室温にて固定し、次に、メタノール中で−20℃にて20分間固定した。正常ヤギ血清を用いてブロッキングした後、1次抗体を1:100希釈;[クラスI,HLA−ABC番号7855(AbCam)またはクラスII,HLA−DR番号7856(AbCam)]にて加えた。CTXOE03は、対照細胞株OE33と対照的にクラスIIを発現しない。同様に、CTXOE03は、未分化細胞および分化細胞共に、クラスII発現陰性であった。
【0049】
遺伝子安定性
G結合核型分析
核型決定を以下の通り行った:
T25フラスコ培養物から、70〜80% コンフルエントな細胞を洗浄し、ブロモデオキシウリジンで染色し、コルチミド(Colcimid)で処理し、次に低張溶解の対象とした。次に、試料をメタノール:氷酢酸[3:1]中で固定し、−20℃にて保存した。次に、試料を分析し、正常な核型を有することを示した。G結合分析を5継代から40継代でおよそ10継代毎に行い、異常が検出されない、正常な二倍体染色体を得た。
【0050】
CTXOE−03についてのクローン性/サザンブロット
サザンのトランスファーおよびハイブリダイゼーションを用いて、細胞株のゲノム内のレトロウイルスで形質導入した遺伝子構造物のクローン性および組込を、該構造物に特異的なプローブを用いたマッピングにより、研究することができる。ゲノムDNA(GDNA)をまず制限酵素を用いて切断し、生じたフラグメントをサイズによってアガロースゲル電気泳動により分離する。次に、DNAをインサイツで変性させ、ゲルから固体支持体(ニトロセルロースメンブレン)に移した。該メンブレンに接着したDNAを、構造物の特定の部分に対する32P標識DNAプローブにハイブリダイズさせ、該プローブに相補的なバンドをオートラジオグラフィーにより位置決定する。細胞株がクローンで、1箇所のみの組込部位を有すると、特定のサイズの1本のバンドのみが存在するだろうし、クローンでないと、異なる組込部位に対応する2本以上のバンドが存在するであろう。
【0051】
結果
CTXOE−03についてのサザンブロットは、この細胞株が6kbに存在する1本のバンドを有するクローンであることを示している。
【0052】
ゲノム組込部位
標的細胞ゲノムへのレトロウイルスDNAの組込は、主として無作為な現象である。インバースPCRを幅広く用いて、多くの細胞株でのレトロウイルス導入遺伝子の組込部位が検出されてきた(Schmidt et al., ANNALS OF THE NEW YORK ACADEMY OF SCIENCES. 2001. 938:146-155)。それはクローン性を同定するための強力なツールでもある。本明細書において、インバースPCRを用いて、CTXOE03株におけるpLNC−myc−ERTAM組込部位を同定した。
【0053】
ゲノムDNAをCTXOE03(5×10細胞)から単離し、一晩Hind IIIで切断した。切断したDNAを、T4 DNAリガーゼを用いてライゲーションし、環状DNAを形成させた。mycER遺伝子の特定の領域を標的とする2組のプライマーを用いて、環状DNA全体をPCR増幅した。この方法を用いて、c−MycER挿入物のフランキング配列を回収する。ゲノム統合部位に対応するフランキング領域を含有する、〜6kbのフラグメントを1.2% アガロースゲルにおいて検出した。
【0054】
安全性
妊婦の血清学により、ドナーが以下の感染を有していないことが示される;
【表3】

【0055】
以下の陽性血清を見出した。
【表4】

【実施例2】
【0056】
(II)c−MycERTAM不死化細胞株STROC05の由来および起源
概略
c−MycERTAMを形質導入した神経幹細胞株を、12週齢の胎児線条体から得た。該株を、ラミニンコート培養フラスコにて、所定の無血清「Human Media」を用いて、bFGF、EGF、および4−ヒドロキシタモキシフェン存在下で維持する。日常的な培養において、細胞株は倍加時間3〜4日であるが、短期間の培養においては倍加時間20〜30時間が観察された。
【0057】
成長培地において、細胞は、ネスチン陽性、β−IIIチューブリンン陰性であり、GFAP陽性細胞を低い割合で含んでいる。7日間分化させた後、β−IIIチューブリンの低レベルの発現およびGFAPの強い発現を伴い、ネスチンがダウンレギュレーションされる。このことは、該細胞株が主に星状細胞となることを示唆している。
【0058】
この細胞株は、50回の集団倍加にわたり遺伝学的に正常であり、雄性XYであり、かつ安定である。
【0059】
導入
本明細書に記載の株を、臨床上の使用のために、指定された株を前進させるのに安定な品質保証条件下で得た。供給材料として、ヒト神経幹細胞を、解剖後に妊娠12週齢の胎児(GS006)の線条体から、機械的粉砕と組み合わせたトリプシンでの酵素消化により単離した。培養して確立した後、これらの初代神経細胞を、c−MycERTAMオンコジーン(上でCTXOE03細胞株について上述)を用いたレトロウイルスの形質導入により形質転換し、一定範囲のクローン集団および混合集団細胞株を単離した。この一連の株全てを、ラミニンコート培養製品にて、Human Media(HM);下記の指定添加剤をプラスしたDMEM:F12を用いて得た。
【0060】
Human Media(HM)
下記の成分を添加したDMEM:F12
【表5】

細胞拡大のため、塩基性線維芽細胞成長因子(10ng/ml)および上皮成長因子(20ng/ml)をプラスした。
【0061】
成長特徴決定
日常的な培養条件下で、細胞を凍結ストックから、通常T180培養フラスコ中2〜400万細胞数に拡大させる。数回培地交換した後、細胞をコンフルエントまで継代する。過程の記録から、STROC05についての集団倍加時間は、3〜4日間であると見積もった(添付のグラフに示す)。この倍加時間は、対数期成長のものより長く、また継代中の細胞の喪失を含むものである。
【0062】
STROC05についての対数期成長のより代表的な評価として、細胞増殖アッセイを、Cyquant蛍光ダイ(Molecular Probes)を用いてセットアップした。細胞数を、Tecan Magellan蛍光プレートリーダー;ex 480nm;em 520nmを用いて測定する。
【0063】
STROC05細胞を継代し、成長因子をプラスしたHMに懸濁し、次にラミニンコート96ウェルストリッププレートに5000細胞/ウェルにて播種した。経時的研究を、ストリップを日常ベースのプレートから取り出し(1時間点当たりn=16ウェル)、培地を除去し、次に細胞を−70℃にて凍結させる、により行った。
【0064】
時間経過の最後に、全凍結ストリップを一緒にプレートに戻し、Cyquantアッセイを用いて分析した。一時的に細胞を溶解バッファー中で溶解させ、次にCyquant試薬を加え、暗所に5分間置いた。次に、各ウェルの試料150μlを、Tecan Magellanプレートリーダー上での読み取りのため、黒色Optiluxプレートに移した。データを数値平均化のためスプレッドシートに転送し、次に分析のためGraphPad Prismにさらに転送した。
【0065】
結果は、細胞が確立した倍加時間20〜30時間で7日間にわたり着実に成長したことを示した。
【0066】
表現型
STR0C05の表現型を免疫組織化学を用いてプロファイルし、神経幹細胞マーカーであるネスチンについて染色し、次に、分化の成熟マーカーであるβ−IIIチューブリン(神経)およびGFAP(星状細胞)について染色した。
【0067】
STROC05表現型を、成長因子プラス4−OHTの存在下および不存下で決定した。細胞は、本来STROC05ワーキングストックから供給されたものである。細胞を継代し、96ウェルプレートに播種した。
【0068】
細胞を、4% パラホルムアルデヒド中で15分間、室温にて固定し、PBSを用いて洗浄し、次に、0.1% Triton X100/PBSを用いて15分間透過した。次に、非特異的結合を、PBS中の10% 正常ヤギ血清(NGS)を用いて、1時間、室温にてブロッキングした。次に、細胞に、ネスチンに対する抗体(1:200;Chemicon)、β−IIIチューブリンに対する抗体(1:500;Sigma)、およびGFAPに対する抗体(1:5000;DAKO)を用いて、室温にて一晩プローブ結合させた。PBSを用いて洗浄後、次に、それらを、1% NGS/PBSに溶解した、フィルター処理したアレクサヤギαマウス488(1:200;Molecular Probes)およびアレクサヤギαウサギ568(1:2500;Molecular Probes)を用いて、1時間、室温にて処理した。次に、それらをPBSを用いて洗浄し、蛍光顕微鏡での分析前に、ヘキスト33342(Sigma)を用いて、2分間対比染色した。
【0069】
成長因子および4−OHTを培地から取り除くことにより、ネスチンのダウンレギュレーションに付随する、細胞の形態的変化および表現型の変化が誘導される。特に、小集団の細胞が、神経マーカーであるβ−IIIチューブリン陽性となり、樹状/軸索伸長物へと伸びる円形の細胞体を有する神経形態を獲得する。しかしながら、より主要な表現型の変化はGFAPのアップレギュレーションであり、これは星状細胞系統優位を示唆している。
【0070】
クローン性
STROC05についてのサザンブロット
2度の別々の実験でのデータによると、他の細胞株を用いて観察される明らかなバンドとは対照的に、プローブハイブリダイゼーションの証拠はない。
【実施例3】
【0071】
(III)c−mycERTAM不死化細胞株HPCOA07の由来および起源
概略
不死化神経幹細胞株を、12週齢の胎児海馬からもたらした。該株をラミニンコート培養フラスコにて、所定の無血清「Reduced Modified Media」を用いて、bFGF、EGF、および4−ヒドロキシタモキシフェンの存在下で維持する。日常的な培養において、該細胞株は倍加時間約2日であり;短期間の培養においては倍加時間20〜30時間が観察される。
【0072】
成長培地において、細胞は、ネスチン陽性、β−IIIチューブリン陰性であり、GFAP陽性細胞を低い割合で含んでいる。7日間の分化後、β−IIIリューブリン発現がアップレギュレーションされ、神経形態が獲得される。GFAP発現のバックグラウンドは分化後、低レベルで維持される。
【0073】
分化後、MHCクラスII抗原がアップレギュレーションされるが、クラスIはされない。
【0074】
RT−PCRによる分子表現型決定により、細胞がmycER陽性かつネスチン陰性であることを確認した。さらに、一定範囲の神経発生遺伝子が存在することを同定した。
【0075】
この細胞株は、8継代(20回より多くの集団倍加)にて核型上正常であり、雌性XXである。その後の継代データは現在処理中である。
妊婦の血清学により、ドナーが主な感染症を有していないことが示される。
【0076】
導入
供給材料として、ヒト神経幹細胞を、解剖後、妊娠12週齢の胎児海馬から、機械的粉砕と組み合わせたトリプシンでの酵素切断により単離した。培養して確立した後、胎児神経細胞を、mycERTAMオンコジーンでのレトロウイルスの形質導入により形質転換し、一定範囲のクローン集団および混合集団産生細胞株を単離した。
【0077】
この一連の株全てを、ラミニンコート培養製品にて、Reduced Modified Media(RMM)(上記参照)として、指定添加剤をプラスしたDMEM:F12基礎培地を含む組成について知られている無血清培地を用いて得た。
【0078】
成長特徴決定
日常的な培養条件下で、細胞を凍結ストックから、通常T180培養フラスコ中2〜400万細胞数まで拡大させる。数回培地を交換した後、細胞をコンフルエントまで継代する。過程の記録から、HPCOA07についての集団倍加時間は3〜4日であると見積もった。この倍加時間は、対数期成長のものより長く、そして継代中の細胞の喪失を含むものである。
【0079】
細胞増殖アッセイ
HPCOA07についての対数期成長のより代表的な評価として、細胞増殖アッセイをCyquant蛍光ダイ(Molecular Probes)を用いてセットアップした。細胞数を、Tecan Magellan蛍光プレートリーダー;ex 480nm;em 520nmを用いて測定する。
【0080】
HPCOA07細胞を継代し、成長因子をプラスしたRMMに再懸濁し、ラミニンコート96ウェルストリッププレートに4000細胞/ウェルにて播種した。経時研究を、ストリップをプレートから取り出し、培地を取り除き、次に細胞を−70℃にて凍結する、により行った。培地(RMM/HM+GF+4−OHT)を残りのストリップに再び入れた。それぞれ翌日に培地をプレート上の次の2つのストリップから取り出し、−70℃で凍結した。
【0081】
時間経過の最後に、全凍結ストリップを一緒にプレートに戻し、Cyquantアッセイを用いて分析した。一時的に細胞を溶解バッファー中で溶解し、次に、Cyquant試薬を加え、暗所に5分間置く。各ウェルの試料150μlを、Tecan Magellanプレートリーダー上での読み取りのため、黒色Optiluxプレートに移した。
細胞を、4〜5日間にわたり、倍加時間1〜2日で拡大させた(図3に示す)。
【0082】
表現型
HPCOA07の表現型を免疫細胞化学を用いてプロファイルし、神経幹細胞マーカーであるネスチンについて染色し、次に、分化の成熟マーカーであるβ−IIIチューブリン(神経)およびGFAP(星状細胞)について染色した。
【0083】
実験を行い、成長因子プラス4−OHT存在下および不存下でHPCOA07表現型をプロファイルした。対照(未分化)細胞、および成長因子および4−OHTの不存下で7日間成長させた細胞を、4% パラホルムアルデヒド中で固定し、上述の免疫細胞化学の対象とした。
【0084】
細胞を、4% パラホルムアルデヒド中で15分間、室温にて固定し、PBSを用いて洗浄し、次に、0.1% Triton X100/PBSを用いて15分間透過した。次に、非特異的結合をPBS中の10% 正常ヤギ血清(NGS)を用いて、1時間、室温にてブロッキングした。次に、細胞を、β−IIIチューブリンに対する抗体(1:500;Sigma)、およびGFAPに対する抗体(1:5000;DAKO)を用いて、室温にて一晩プローブ結合させた。PBSを用いて洗浄した後、次に、それらを、1% NGS/PBSに溶解した、フィルター処理したアレクサヤギαマウス488(1:200;Molecular Probes)およびアレクサヤギαウサギ568(1:2500;Molecular Probes)を用いて、1時間、室温にて処理した。次に、それらをPBSを用いて洗浄し、蛍光顕微鏡で分析する前に、ヘキスト33342(Sigma)を用いて、2分間対比染色した。
【0085】
画像は、神経細胞と一致する形態変化に付随した、神経マーカーであるβ−IIIチューブリンのアップレギュレーションを示している。GFAP染色により示されるように、対照細胞および分化細胞共に星状細胞は低レベルで存在する。
【0086】
MHCクラスIおよびII
細胞をラミニンコート96ウェルプレートにセットアップし、成長因子プラス4−OHTをプラスしたRMMにて拡大させた。細胞を、成長因子および4−OHTを培地から取り除くことにより、7日間または14日日間分化させた。
【0087】
MHCクラスIは、7日または14日後、対照細胞または分化細胞において発現しない。対照的にMHC IIは、分化細胞において、特に14日で強く発現する。未分化細胞はMHC II発現を示さない。
【0088】
遺伝子安定性
核型決定分析
細胞は、正常雌性核型を有すると示された。
【0089】
クローン性
HPCOA07についてのサザンブロットは5kbの1本のバンドを示し、これは、この細胞株がクローンであることを示唆している。
【0090】
安全性
GS011の由来である妊婦の血清学により、ドナーが以下の感染症を有さないことが示される;
【表6】

【実施例4】
【0091】
細胞の治療上の使用
CTXOE03幹細胞株は、ラットにおいてMCAo卒中後の欠損を低減する。
【0092】
この研究の目的は、本発明により開発されたヒト神経幹細胞株の、ヒト閉塞性卒中の確立モデルであるラットにおける中大脳動脈閉塞後の機能的回復を促進する際の有効性を試験することであった。
【0093】
2種類のヒト細胞株、CTXOE03(n=10)、および線条体から得られた同様の表現型を有する細胞株STROB05(n=9)を、70分間の腔内右中大脳動脈閉塞により誘発された卒中後、3から4週間で皮質および線条体(両側)に移植した。2種類のビークル移植対照群は:卒中(n=7)および偽手術(n=11)であった。移植の6から12週後、全4群を、損傷体積、細胞分布および分化の組織学的検証前に、両側性非対称の、触毛誘発性前肢置き直し(placing)、旋回の偏向性、および空間学習課題について試験した。
【0094】
細胞株移植物を有するラットは、卒中対照動物と比較して、低減した両側非対称性およびアンフェタミン誘発性旋回を示した。STROB05群もまた、卒中対照と比較して、前肢の置き直し試験において低減した機能不全を示した。これらの改善は偽対照レベルには至らなかった。細胞株移植群のいずれも、卒中のみの群と比較して、空間学習課題において低減した機能不全、または損傷体積の差を示さなかった。STROB05移植物は良好な生存を示したが、移植細胞は、CTXOE03群の同数のラットにおいて観察された。細胞株のいずれも、移植後14週目において、神経系の分化を示さなかった。結論として、移植した細胞株の両方が、行動回復を研究過程にわたって促進した。
【0095】
中大脳動脈閉塞(MCAo)は、神経学的な、感覚運動試験および空間記憶試験を用いて明らかとされる、行動上の欠損を生じる。閉塞後30日目までに、動物の多くの欠損が自発的に緩和され、並行して、回復が卒中後何ヶ月にもわたり患者において観察される。本発明者らは、試験を、長期間の欠損を同定し、改善が実際の回復(低減した卒中の損傷または加速したリハビリテーションではなく)に影響することを確認する際の強固なこの研究において用いた。
【0096】
材料と方法
MCAo
オスSD(Sprague-Dawley)ラット(Charles Rivers)を、閉塞に先立ち、7日間、無制限の食事を与えて収容し(12:12時間 明・暗)、群化した。手順は、UK動物(科学的)手順法(1986)およびReNeuron Ltdの倫理的再検討プロセスに従った。
【0097】
動物(320〜370g)に手術の準備をし、シリコンでコートした3〜0プロレンフィラメント(Halford's UK)を用いた、70分間の中大脳動脈閉塞の対象とした。ハロタン(70% NO/30% O中)麻酔をフィラメントの挿入および除去のため、直腸プローブおよび加温パッドにより37±1℃に保った温度で用いた。フィラメントを挿入(〜20mm)し、動物を麻酔から回復させた。閉塞中60分の時点で、動物の行動の機能不全(前肢の屈曲および対称性旋回行動)について評価した。機能不全を示さなかった動物を、研究から除外した。閉塞期間の最後に、動物を再び麻酔し、フィラメントを一部回収し、MCAの基礎を明らかにした。傷を閉じ、生理食塩水を投与し、次に、動物を加温チャンバーに2時間置いた。動物を術後ケアした。偽MCAo動物を麻酔し、5〜6mmのフィラメントを配置した。
【0098】
MCAo後2日間、水分補給治療(生理食塩水中のDuphalyte[Fort Dodge]5ml 50:50混合物)を受けた動物全てを、神経学的機能不全について記録し、計量した(さらに、水分補給治療を、続けて記録し、計量する必要に応じて施した)。閉塞前の体重に達したら、動物をテープ取り除き(tape removal)課題およびローターメーター(rotameter)課題(以下参照)で試験し、試験バッテリーについての基礎となるスコアを用意し、実験群のバランスをとることを可能とした。ラットを、いずれかの偽、N−アセチル−L−システイン(NAC)のビークル注入、STROB05移植またはCTXOE03移植のいずれかに割り当てた。
【0099】
STROB05およびCTXOE03細胞株を回収し、NAC(Sigma)中〜50,000細胞/μlの密度で懸濁した。細胞を移植期間中2回調製した。細胞生存率を、移植手術開始時および移植後の両方でトリパンブルー排除(Sigma)により記録した。細胞生存率は、移植前および後で高かった(85%を超えた)。対照MCAoおよび偽動物の両方に、移植ビークルであるハンクス干渉塩溶液(Sigma)中のNAC(Sigma)を挿入した。
【0100】
閉塞後3〜4週間にて、動物に、クレマホールel(Cremaphore el)(Sigma)中のシクロスポリンA(CSA)(Sandimmun,10mg/kg 皮下:Sandoz)を注射し、次に24時間後に移植した。動物を、塩酸メデトミジン(ドミター(Domitor),0.5mg/kg,腹腔内 Pfizer)で前麻酔し、次に、塩酸ケタミン(ベタラール(Vetalar) 80mg/kg,腹腔内 Pharmacia Upjohn)で麻酔した。準備後、動物を定位の枠内に入れ、頭皮を切開し、頭蓋骨を露出させ、次に、プレグマを配置した。移植物を、平ら状の10μl ハミルトンシリンジを用いて4部位に、プレグマに対して次の座標で閉塞された大脳に対して同側性かつ対称性に沈着させた:(+0.7mm AP、±3.0mm Lat、−5.5、−2.0mm Vert;−0.3mm AP、±0.35mm Lat、−5.5、−2.0mm Vert)。細胞を1μl/分の速度で注入し、シリンジを流れを低減させるためにさらに1分間同じ場所に入れたままにした。全細胞(400,000個/動物)を注入したら、傷を縫合し、動物に生理食塩水の水分補給を施し、次に抗炎症処置;(メチルプレドニゾロン;メドロン 20mg/kg 皮下 Pharmacia Upjohn)およびCSAを施した。塩酸アチパメゾール(アンチセダン,0.1mg/kg,Pfizer)を用いて麻酔をさまし、塩酸ブプレノルフィン(vetergesic,0.1mg/kg,Alstoe Animal Health)を含む鎮痛剤を与えた。動物が麻酔から完全に回復したら、それらに、水分補給治療を含む術後ケアを術後2日間施した。動物は、20日間毎日、メドロンで、そして研究過程にわたり毎週3回CSAで術後免疫抑制処置を受けた。
【0101】
移植後6週間にて、動物に感覚運動試験バッテリーを開始した。動物は、1セッションあたり3トライアルの前肢の置き直し試験を1週間当たり1回、1セッション当たり2トライアルの粘着性テープ試験を2回、そして生理食塩水とアンフェタミンとを交互に1週間当たり0.5時間のローターメーター試験を1回受けた。移植後12週間で、感覚運動試験を終了し、動物を、10日の実施日についてのモリス水迷路での習得について試験した。
【0102】
触毛誘発性前肢の置き直し試験
動物を、1本の前肢を自由にしたままで、テーブルトップまで移動させた。触毛がテーブルをなでると、同側の肢をテーブル上に置く。片側当たり3回なでた後の適当な肢の置き直し回数を記録した。
【0103】
両側非対称性
感覚運動機能不全の両側非対称性試験により、影響された前肢および影響されていない前肢の周りを覆った粘着性テープストリップ(〜1×6cm)と接触させ、取り除くのにかかる時間の格差を300秒間測定した。
【0104】
ローターメーター
ローターメーター(TSE GmbH)により、アンフェタミン(2.5mg/kg 皮下,Sigma)または生理食塩水投与に応答したモーター旋回非対称性を測定した。旋回の偏向性を、両方向の合計回転数で割った反右回り回転数として、計算した。
【0105】
組織学的評価
動物にペントバルビタール(Animalcare)を過剰投与し、ヘパリン添加生理食塩水を用いて心臓経由で流し、次に、0.2mol/L PBS中の4% パラホルムアルデヒドを用いて潅流した。脳を、30% スクロースにより凍結保護し、凍結ミクロトーム(Frigomobile:Leica)をスライドさせて、50μmの切片に切り出した。損傷体積を、シンプソンのルールにより20個の切片毎に、Image Pro Plus(Media Cybernetics)により分析したデジタル顕微鏡画像を使用して計算した。移植した細胞を、ヒトの核タンパク質に対して生じた抗体(HuNuc Chemicon Inc)を使用して同定した。移植した細胞の分化を、表現型マーカーである、神経線維およびKI−67をヒトタンパク質を用いた共局在決定により、決定した。1次抗体と一晩インキュベーションし、蛍光抗マウスまたは抗ウサギ2次抗体を1時間適用した。
【0106】
統計的分析
両側非対称性試験の結果を、対象因子間としての群、および対象因子内としてのトライアル/日数を用いた両方向ANOVA(Prism)により分析した。t検定を用いて、ローターメーター試験における損傷前の能力対損傷後の能力を分析した。ローターメーター、ヒゲ、および損傷体積における群差について、1方向ANOVAを用いた。hoc検定後にボンフェロニーを用いて、群を比較した。
【0107】
結果
閉塞された動物は、著しい神経学的機能不全を閉塞後最初の7から14日間示した。この機能不全は中程度の体重減少(<30%)を伴って生じた。機能不全および体重減少は、通常、閉塞後14日以内に解消された。hoc後分析により、閉塞後7日目における体重減少は、本研究において全ての動物を分析したときの最終損傷体積に対応した(r=−0.705,p<0.0,001)。
【0108】
触毛誘発性前肢の置き直し試験
全3つの閉塞群において、影響された肢と影響されていない肢との間で肢の置き直し回数に有意な差があった(p<0.0001)。偽群内において、肢の置き直しに差はなかった。偽群と閉塞された群との間で影響された肢の置き直しに有意な差があった(p<0.001 全ての群)。また、STROB05移植対照と卒中対照(p<0.01)、およびCTXOE03(p<0.001)移植群との間で影響された肢の置き直しに有意な差があった。STROB05群は、影響された肢についての偽群で観察された置き直しレベルに至らなかった。
【0109】
両側非対称性試験
対照;影響を受けた(左)肢上のテープを、卒中対照処置動物(これは偽STROB05より長くかっかた)およびCTXOE03移植群と接触させる時間に有意な差があった(p<0.01 全ての群,ANOVA)。また、偽動物(卒中対照より長くかかった)を含む群とCTXOE03群との間で、影響を受けていない肢上のテープを接触させる際に有意な差があった(p<0.05, ANOVA)。
【0110】
取り除き;NAC処置動物を含む群(偽STROB05より長くかかった)とCTXOE03移植群との間で、テープを影響を受けた(左)肢から取り除く際に有意な差があった(p<0.001 全ての群 ANOVA)。偽動物を含む群(NAC、STROB05より長くかかった)とCTXOE03移植群との間で有意な差があった(p<0.0001 全ての群,2方向性ANOVA)。
【0111】
ローターメーター
生理食塩水:生理食塩水投与後の自発的旋回の非対称性は、移植後NAC処置群と比較して、CTXOE03および偽群で有意に低かった(p<0.05)。STROB05(p<0.01)およびCTXOE03(p<0.05)群での移植前の能力と比較して、移植後の自発的旋回の偏向性は有意に低減した。
【0112】
アンフェタミン:損傷に対して同側のアンフェタミン誘発性旋回の非対称性は、移植後の閉塞NAC処置動物と比較して、細胞株移植動物および偽動物で低減された(p<0.001)。偽群と細胞株移植群との間で有意な差は依然として存在し(p<0.01)、かつ移植群はカウンター右回り旋回をより高い割合で有していた。STROB05(p<0.05)群およびCTXOE03(p<0.01)群の移植前の能力と比較して、移植後のアンフェタミン誘発性非対称性は有意に低減された。
【0113】
損傷体積;偽群(24.0 <≡〜5.1mm)とNAC群(220.6 <≡〜32.5mm)、STROB05群(250.0 <≡〜37.0mm)とCTXOEO3(214.2 <≡〜36.5mm)群の間で、損傷組織体積に有意な差があり(p<0.001 全ての群,ANOVA)、NAC群と移植群との間では差がなかった。損傷は、典型的には、感覚皮質および運動皮質、および線条体中で生じていた。視床の萎縮は続発性の変性を示したが、海馬に対する著しい損傷は明らかではなかった。
【0114】
免疫組織化学
ヒト細胞をSTROB05移植群とCTXOE03移植群の両方で同定した。たいていのSTROB05移植動物(7/9)で良好に生存していたが、CTXOE03動物では、9匹中たった2匹の動物で良好に生存していた。いずれの細胞株も、長期生存した動物のいずれにおいても神経細胞への分化を示さなかった。STROB05細胞は、実質外の腔領域におけるヒトの核タンパク質およびKI−67タンパク質発現(細胞分裂のマーカー)のある種の共局在性を有しており、このことは、局在の合図が細胞分裂を促進したことを示唆している。CTXOE03移植動物の1匹において、切片中への細胞の遊走を含む良好な遊走が生じた。
【実施例5】
【0115】
STROC05およびCTXOE03幹細胞株は、ラットの線条体のキノリン酸損傷(ハンチントン病モデリング)後の欠損を低減した
本研究は、ハンチントン病(HD)の部分モデルとしての片側(左側)キノリン酸線条体損傷により誘発された欠損を有するラットにおける、ヒトMycERTAM細胞株STROC05およびCTXOE03の作用を評価することを目的とする。
【0116】
キノリン酸は、線条体においてDARPP32陽性神経細胞への選択的損傷を生じ、これは、一様であり、かつ他の細胞タイプ群にわたる。これらの別個の損傷は、空間学習におけるアンフェタミン誘発性旋回偏向性または欠損を生じなかった。しかしながら、欠損は、特に右肢の感覚運動試験(粘着性テープ取り除き時間)および運動機能(階段上での球粒の回収)試験において観察された。誘発性潅流応答性において顕著な損傷作用があり、これは体旋回試験およびヒゲ試験で示された。STROCO5移植群は、階段上での球粒の回収試験、体旋回偏向性、およびヒゲ刺激後の肢の置き直しにおいて、損傷のみの動物と比較して優位な改善を示した。CTXOE03移植群は、体旋回偏向性およびヒゲ刺激後の肢の置き直しにおける能力で同様の改善を示した。移植物を、移植ラットの約50%において長期間視覚化できた。これらの結果は、神経細胞へアウトプットする中位突起線条体のHD様喪失のあるラットにおける一定範囲の運動応答性の回復の可能性を示す。
【0117】
材料と方法
オスSD(Sprague-Dawley)ラット(Charles Rivers)を、手術に先立ち7日間、無制限の食事を与えて収容し(12:12 明・暗)、群化した。手順は、UK動物(科学的)手順法(1986)およびReNeuron Ltdの倫理的再検討プロセスに従った。
【0118】
動物(平均体重 379g)に手術の準備をした。損傷のため、ラットをケタミン(ケタラール,80mg/kg,PharmaciaおよびUpjohn Ltd. UK)およびメデトミジン(ドミター 0.5mg/kg,Pfizer, UK)を用いて麻酔し、アティパメゾル(アンチセダン;Pfizer, UK)を用いてさまし、定位の枠(Kopf,Tujunga CA)に入れた。恒温毛布を用いて、体温を保った。頭蓋骨に穴をドリルであけ、ポンプにより動かされる10μl ハミルトンシリンジ(ハーバードの器具)に注入することにより、接着したカニューレの挿入を可能とした。次の座標を、平らな位置(とりわけ、耳のラインより下3.5mm)にある頭蓋骨の左側の損傷について用いた。
(1)AP=0.0;L=+3.5;V=−4.5、および(2)AP=+1.2;L=+2.8;V=−4.5
【0119】
0.08M キノリニン酸(Sigma, UK)を、キノリン酸(2,3−ピリジンジカルボン酸,Sigma UK)13.368mg量り取り、PBS 0.5mlおよび1M 水酸化ナトリウム溶液 10〜20μlを加え、次に溶解するまで超音波処理して、調製した。pHをチェックし、必要に応じて調節し、次に該溶液をPBSを用いて1mlにした。キノリン酸1.0μlを2分かけて注入した。カニューレをさらに2分間同じ場所に置いたままにし、毒素を拡散させた。手術は2週間かけて行った。
【0120】
手術−移植:ラットを麻酔し、枠内に入れ、次に損傷のため頭蓋骨部位を用意した。次の座標の損傷部位にある10μl 平ら状ハミルトンシリンジが細胞懸濁液を供給した:
1)AP=0.0;L=+3.6;V=−5.5,−4.5、および(2)AP=+1.2;L=+2.8;V=−5.5,−4.5。
【0121】
50,000細胞/μlの密度の2つの沈着物3μlを、各部位に3分かけて供給した(すなわち、6μl=300,000細胞/ラット)。シリンジを最初に最も深いポイントまで下げ、細胞1.5μlを分注し、次に、針を上部へ持ち上げ、残りの懸濁液1.5μlを供給した。分注後2分間まち、シリンジをゆっくり回収した。各部位の懸濁液を新たに採取した。細胞を新たに調製し、1日に2回(am、pm)に供給し、ベンチ(bench)上での劣化を低減させた。
【0122】
全ラットは、1:4の比のクレマホールEL(CSA/CEL)中のシクロスポリンA(10mg/kg 皮下)からなる免疫抑制処置を受け、これは手術前日に開始し、潅流まで3日/週間で続けた。さらに、ラットに、n−メチルプレドニサロン(Solumedron)を毎日2週間注射(20mg 皮下)し、これは手術前日に開始した。
【0123】
最終的な群の大きさは:損傷および偽移植:N=7、対照:N=9、STROC05:N=9、CTXOE03:N=12であった。
移植後6週間にて、ラットに行動試験を開始した。
【0124】
反射運動応答試験:
体旋回試験(BST) ラットを実験装置前のオープンケージに入れ、尾の付け根を床面より上に10秒間持ち上げた。後肢が中線を動物の左または右にまたぐ、明瞭なキックとして定義される旋回を記録した。好ましくは、2回の実験、保持するために1回、そして記録するために1回を用いた。これにより内部実験信頼性が与えられた。ラットがまず損傷側(この場合、左)に旋回したら、旋回の強度についてスコア1〜3を記録した。対称性の旋回をスコア0と記録した。スコアの評定内信頼性は比較的低く、そのためこの質的測定値を、偏向性を測定するための結果の最終分析には用いず、% 左旋回を用いた。
【0125】
各セッション(ブロック)は、3回の10秒間のリフトからなった。1セッションを、損傷手術後の週において行い、該損傷を評価し、次に、6ブロックを、移植後6〜12週にわたり1週間の間隔で行い、移植の効果を評価した。
【0126】
触毛刺激に応答した肢の置き直し
ラットは一方の前肢を自由に、そして他方を固定し、自由な肢に隣接したヒゲがテーブルの側面を優しくなでた。ラットは即時にテーブルに触れることができた。しかしながら、片側性損傷のあるラットは、しばしば、損傷と対称性の肢をテーブルトップに置くことができなかった。各セッションは、片側について3回のトライアル(交互)からなった。ラットに、達したらスコア1を、そして5秒内に応答できなかったらスコア0を記録した。4回のセッションを移植後9〜10週間目の行動試験の最後に行った。
【0127】
感覚運動機能不全試験:
階段試験:
装置は、各段に球粒のためのへこみのある、2つの7段の階段に隣接したプラットホームにアクセスできるエントリーチャンバーからなる。ラットは、プラットホームを登ると、各段上の球粒(2 Coco Pops;Kellogs Ltd.)に至る。プラットホームの端にある狭い縁がラットが球粒を粉々にするのを防ぎ、十分な回復のためには、各側について右前肢および左前肢を用いて、球粒をつかみ、次に口まで持ち上げなければならない。ラットに、1セッション当たり5分間のトライアルを2回行った。ラットを損傷前にトレーニング(2セッション)し、損傷後(2セッション)および移植後(4セッション)に、BAT試験と同じ期間にわたり試験した。
【0128】
組織学
潅流および切片法:
ラットを一時的に、0.1M リン酸ナトリウムバッファー(PBS,pH7.4)中の4% パラホルムアルデヒドで潅流し、脳を取り出し、固定剤中4℃で一晩保存し、次に、PBS中の30% スクロースに移した。連続切片50μmを凍結ミクロトーム上で切り出し、24ウェル培養プレート中のスクロース中に回収し、処理まで−20℃にて保存した。
【0129】
損傷被害:
損傷を、左線条体中のDARPP 32陽性細胞の喪失の程度として定量し:免疫反応の範囲および染色強度を、線条体のAP軸中を走るc.8切片を用いて測定した。
【0130】
移植細胞の生存:
移植細胞を、Human Nuclear(HuNuc−Chemicon Inc)染色により同定し、次に、移植された線条体中の損傷評価のために用いたものと隣接する連続切片においてカウントした。注入部位に近い切片を主要な精査の焦点とした。
【0131】
結果
階段試験
全ての群にわたり、右肢より左肢で、より多くの球粒を回収した(p<0.05)。損傷されたラットは、STROC05移植群および対照群(p<0.01)よりすくない球粒を回収したので、群の間で実質的な差があった(p<.001)。
【0132】
体旋回試験
損傷されたラットは、6ブロックの移植後試験を通じて左に旋回する実質的な偏向性を示し、ゆえに群は左旋回の割合が異なる(p<0.001:図参照)。ゆえに、群の間で実質的な差があった:CTXOE03移植群とSTROC05移植群の両方、並びに対照群は、低減した偏向性(すなわち、c.50%が左および右へ旋回する)、および損傷されたラットとの実質的な差(p<0.01)を示した。左および右への実際の旋回数の点で、群とサイドとの間の相互作用(p<0.001)は、偏向性を損傷群において強調するが、対象群または移植群においてはしなかった。
【0133】
同側性触毛刺激に応答した肢の置き直し
損傷されたラットは、右側のヒゲ刺激に一貫して応答できなかったが、左肢でテーブルトップに達するのが、左側の刺激後、速くかつ正確であった。対照群および移植群は、両側の刺激に応答した。それゆえ、片側で有意に差があり(p<0.001)、群と片側との間の強力な対象(p<0.001)、並びに群の間で実質的な差があった(p<0.001)。対照群、およびSTROC05移植群およびCTXOEO3移植群は、損傷されたラットと差があった(p<0.001)。しかしながら、移植群の両方が、対照ラットより応答性がより低く(p<0.02)、それらはなおある種の怠慢を示した。
【0134】
組織学的知見
損傷の大きさおよび特異性
損傷は線条体を上手く標的とし、DARPP 32陽性細胞の欠如は別として組織の喪失はほとんどなく、いくぶんかの腔の拡大があった。細胞の喪失範囲は、損傷のみの群および移植群の両方で平均10mであった。また、生存細胞を有する移植ラットと有しない移植ラットにおいて、損傷体積/強度に差は無かった。
【0135】
移植物の生存:
生存HuNuc陽性細胞は、4/9のSTROC05移植ラットおよび5/12のCTXOE03移植ラットで観察された。良好な遊走が、移植物を有する動物の75%で観察された。長期間生存した移植細胞の神経細胞への明らかな分化は無かった。
【実施例6】
【0136】
HPCOA07細胞株およびCTXOE03細胞株は、全体的虚血(4血管閉塞法)後の認識能力を回復させる
本実施例は、2種類の制御されたヒトc−MycERTAM幹細胞株からなる移植物が、4血管閉塞法により誘発された虚血性海馬損傷後に欠損を示したラットにおいて、空間学習および記憶を改善できるか否かをみることを目的とするものである。虚血後、ラットに海馬(HPCOA07)および皮質(CTXOE03)株由来の細胞を移植した。6週間後、それらを、直径2mの円形プール中の水没したプラットホームを見つけることを、2トライアル/日で合計6日間訓練し、次に、その場所を思い起こすことを試験するために、プラットホームを取り除いて探知トライアルを行った。偽移植虚血ラットは、無虚血対照より、プラットホームを見つけるのに長くかかり、それを探知するのにより長く泳ぎ、プラットホームが位置するプールエリアではほとんど時を過ごさなかった。移植ラットの能力は、虚血対照と無虚血対照のものとの中間であり、一般にどちらとも有意な差は無かった。しかしながら、虚血ラットのレベルを上回る改善は、待ち時間および経路の長さのような鍵となる測定値における有意性と非常に密接に関連し、このことは、信頼性のある機能回復の可能性を示している。
【0137】
実験手順
手術−4血管閉塞法:ラットを電気焼灼機(Surgitron coagulator)による4 VOの対象とし、脊椎動脈にハロセイン麻酔(Merial Animal Health)し、頸動脈周辺を結んだ。翌日、軽いハロセインでの麻酔下で、頸動脈を持ち上げ、止血小鉗子動脈瘤クルップを用いて20分間固定した。麻酔を止めた後に立ち直り反射がないよう維持した、大脳の血流の低減を90%+示した。対照は、脊椎動脈を焼灼し、次に結ぶことで偽手術したが、頸動脈の血流の制限は行わなかった。体と頭の温度を直腸プローブおよび頭部プローブによりモニターし、1分毎に記録し、恒温毛布(Harvard Apparatus)および頭上のランプにより37±2℃に維持した。
【0138】
手術−移植:ラットをケタミン(ケタラール,80mg/kg,Pharmacia and Upjohn Ltd. UK)およびメデトミジン(ドミター 0.5mg/kg,Pfizer, UK)を用いて麻酔し、術後アティパメゾル(アンチセダン,20mg/kg,Pfizer, UK)でさまし、次に定位の枠(Kopf,Tujunga CA)内に入れた。恒温毛布(Harvard Apparatus)を用いて、体温を維持した。穴を頭蓋骨にドリルであけ、10μlの平ら状のハミルトンシリンジの挿入を可能にした。密度50,000細胞/μlの2つの沈着物2μl(すなわち、8μl=400,000細胞/ラット)を各部位へ2分かけて、次の座標:
AP:−3.3 L:1.3 V:−2.8 2μl/部位
AP:−4.2 L:3.4 V:−3.1
へデリバーした。
【0139】
シリンジを分散のため2分間待った後にゆっくりと回収した。懸濁液を新たに各部位で採取した。細胞を新たに調製し、1日に2回デリバーし、ベンチ上での劣化を低減させた。
【0140】
全てのラットは、1:4の割合のクレマホールEL(CSA/CEL)中のシクロスポリンA(10mg/kg 皮下)からなる免疫処置を受け、これは手術の前日に開始し、潅流まで3日/週間続けた。さらに、ラットにプレドニゾロンを毎日(20mg 皮下)、2週間注射し、これは手術日から開始した。
【0141】
空間記憶機能不全についての行動試験:
モリス水迷路 動物を、水面下2cmに水没したプラットホーム(直径9cmの円)を有し、24±2℃に保たれた温度の円形プール(2m)に入れた。動物を4箇所のスタート地点の1つに置き、最大1分間泳がせた。動物がプラットホームに登ってきたら、それらを10秒間そのままにし、取り出した。1分以内にプラットホームを見つけられなかった動物をプラットホーム上に置いた。動物をプラットホーム上に20秒間そのままにし、次に取り出した。泳いだ経路を画像分析システム(HVS Image, UK)により記録した。毎日の1セッション当たりトライアルを2回、8〜10分間の間隔で行った。訓練を、4日および3日をひとまとめにして、9日間行った。しかしながら、4日目に装置の破損により、信頼性のないデータ収集となったので、結果を破棄した。それゆえ、3日目で隔て、1〜3および4〜6をひとまとめにして、分析するデータを6日にわたり収集した。探知トライアルを、最後の習得トライアルの24時間後に行い、次に、翌日可視化したプラットホーム課題を行った。水面より上10cmに上げた円筒型の手がかりによりマークしたプラットホーム位置を用いたトライアルを3回行った。
【0142】
組織学
潅流および切片法:
ラットを、一時的に0.1M ナトリウム緩衝溶液(PBS,pH7.4)中の4% パラホルムアルデヒドで潅流し、脳を取り出し、4℃で一晩固定し、次にPBS中の30% スクロースに移した。連続切片50μmを凍結ミクロトーム上で切り出し、24ウェル培養プレート中のスクロース中に回収し、処理まで−20℃で保存した。
【0143】
神経細胞の喪失:
細胞の喪失を、移植物/ビークル注入管の2箇所のレベルで、両側性に、CA1野の中央−側面の広がりを横切るNeuN標識皮質切片において定量した。これは、細胞体および樹状領域を示した。NeuN免疫反応範囲および染色強度の両方を測定した。
【0144】
移植細胞の生存:
移植細胞をHuman Nuclear(HuNuc)染色により同定し、連続切片に隣接し、細胞の喪失を見積もるために用いた対象(RPI)と同じ領域由来の連続切片においてカウントした。
【0145】
結果
実験には、33匹のラット、CTXOE03移植物を有する10匹、HPCOA07移植物を有する9匹、4 VOかつ偽移植物を有する8匹、偽閉塞かつ偽移植物対照6匹を用いた。
【0146】
水迷路における習得
移植後5から6週間、ラットを、水迷路中の水没したプラットホームを見つけることを、8〜10分間の間隔で2回のトライアル/日で訓練した。
【0147】
潜在性:全ての群が、ブロックを超えてプラットホームを見出すのにかかる時間において実質的に直線的な増加(F lin[1,29]=46.76,p<0.001)を示し、そしてこれはいくつかの群が漸近的行動に達すると横ばい状態となった(F quad[1,29]=5.26,p<0.025)。損傷されたラットと比較して、対照での浸かっている時間の増大は、群と直線的傾向のブロックとの間での対象(F[3,29]=4.07,p<0.02)、および群の間での全体的な差の傾向(F[3,29]=2.47,p=0.08)となった。平均値の比較により、インタクト(intact)な対照が損傷対照と異なり(p<0.015)、一方移植群は対照レベルの能力があったことを示した。移植群は、病変のみのラットと比較して改善傾向(p=0.08,p=0.09)を示したが、これらの差は有意ではなかった。それゆえ、移植動物はインタクトな対照と損傷対照との中間であった。
【0148】
組織学的知見
虚血性損傷:CA1細胞の喪失の程度を、注射管によりマークした、樹状野および体性野を含む、2つのレベルで同定した。NeuN染色を、エリアにより、および免疫蛍光強度によりマッピングした。両方の測定値は、虚血群が対照で観察される細胞の20〜25%のみを保持していることを示した。損傷は一様であり、CA1野に局在し、同様に全ての群に及んだ。
【0149】
移植細胞の生存:HuNuc標識移植細胞は、CTXOE03移植物を有する2/10匹のラット、およびHPCOA07群の6/9匹のラットで観察され;HPC移植物を有する3匹のラットも良好な遊走を示した。移植細胞の神経細胞への分化の証拠は無かった。
【0150】
ホストの脳の変化:CA1野におけるNF染色により測定した朋芽(Sprouting)は、虚血対照群において有意に増大し、偽手術動物および移植動物両方のレベルより上であった。それゆえ、移植物は、対照レベルに対して朋芽活性を低減した。対照的に、変性脳回におけるホストの神経発生は、HPC移植物を有するラットにおいて有意に増大し、虚血対照において観察されるレベルより上であった。しかしながら、Ki67−IRは、損傷対照およびCTX移植物を有するラットで等しく、これらの細胞の潅流時における神経発生に対する作用の証拠は無かった。
【0151】
組織学的測定値と行動測定値との間の相関
障害物1〜3、4〜6を超えて、全6個のトレーニング用ブロックを越えてプラットホームを見つける平均時間は、4つの実験群のそれぞれにおいて、NeuN−IRの範囲および強度の両方でCA1細胞喪失の程度と相関した。各群内で、NeuN染色のいずれかの測定値による、CA1細胞の喪失の程度と、プラットホームを見つけ出すのにかかる時間の増大との間に関連は無かった。
【0152】
同様に、変性脳回における神経線維染色の範囲および強度により測定した朋芽と、プラットホームを見つけるまでの時間との間の関連を調べた。有意な関連を見出さなかった。
【0153】
結論
本明細書に記載の3種類の異なる神経幹細胞株は、安定かつ拡大可能な、神経系疾患の患者への移植のための細胞供給源となることが示された。可能性のある治療範囲は、機能的回復を、一定範囲の脳疾患および変性の動物モデルにおいて示すことで、例証した。1種類より多くの疾患モデルにおける機能回復の際のこれらの細胞株の典型的な成功は、これらの細胞株の1種類以上が、種々の神経系疾患において機能を回復させ得ることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明により、移植治療において有用となる好ましい特徴を有する細胞株が提供されるので、医薬品等の分野、例えば、脳細胞の喪失または損傷と関連する障害の予防薬または治療薬等の開発、製造分野等において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】図1は、CTXOE03と命名された細胞株の成長特徴を示すグラフである。
【図2】図2は、成長因子を添加した細胞株CTXOE03の細胞増殖を示すグラフである。
【図3】図3は、HPC−OA07と命名された細胞株の成長特徴を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ECACC受託番号04091601、04110301、および04092302を有する細胞株のいずれかから得られる単離細胞。
【請求項2】
治療に使用するための請求項1記載の細胞。
【請求項3】
治療上有効な量の請求項1記載の細胞のいずれか、および医薬上許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項4】
脳細胞の喪失または損傷と関連する障害を処置するための医薬の製造における、請求項1記載の細胞の使用。
【請求項5】
虚血または卒中を処置するための請求項4記載の使用。
【請求項6】
アルツハイマー病を処置するための請求項4記載の使用。
【請求項7】
外傷性脳損傷を処置するための請求項4記載の使用。
【請求項8】
クロイツフェルト・ヤコブ病を処置するための請求項4記載の使用。
【請求項9】
細胞の喪失または細胞の損傷と関連する障害の処置方法であって、請求項1記載の細胞を患者に移植することを含む、方法。
【請求項10】
障害が請求項4から8のいずれかに記載されたもののいずれかである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種類の生物剤または化学剤の神経系疾患または障害に対する作用を決定する方法であって、請求項1から3のいずれかに記載の細胞の培養物を、該剤と接触させ、次に、該剤の該細胞に対する作用を決定する、を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−122045(P2006−122045A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−282179(P2005−282179)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(504164608)リニューロン・リミテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】ReNeuron Limited
【Fターム(参考)】